IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ベストの特許一覧

<>
  • 特許-スライド錠 図1
  • 特許-スライド錠 図2
  • 特許-スライド錠 図3
  • 特許-スライド錠 図4
  • 特許-スライド錠 図5
  • 特許-スライド錠 図6
  • 特許-スライド錠 図7
  • 特許-スライド錠 図8
  • 特許-スライド錠 図9
  • 特許-スライド錠 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】スライド錠
(51)【国際特許分類】
   E05B 65/06 20060101AFI20230111BHJP
   E05C 1/04 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
E05B65/06 C
E05C1/04 B
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019053942
(22)【出願日】2019-03-21
(65)【公開番号】P2020153167
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】592114703
【氏名又は名称】株式会社ベスト
(74)【代理人】
【識別番号】100160299
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 卓
(72)【発明者】
【氏名】山本 淳一郎
【審査官】野尻 悠平
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-324455(JP,A)
【文献】実開昭54-023097(JP,U)
【文献】特開2010-189978(JP,A)
【文献】特開平10-306527(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05B 65/06
41/00
E05C 1/00-1/16
19/02
21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
扉体に取り付けられる錠本体と、
前記錠本体に摺動可能に案内されて、前記扉体の縁から隣接する支持体方向に出没するスライド体と、を備え、
前記スライド体の先端が、前記隣接する支持体に係止されることにより施錠されるスライド錠において、
前記スライド体は、予め定められている施解錠位置間でのスライド移動を行わせるためのスライド範囲規制手段を有し、
前記錠本体及び前記スライド体の少なくとも一方は、前記錠本体と前記スライド範囲規制手段との当接時に発生する衝撃を減衰させる衝撃減衰手段を備えており、
前記衝撃減衰手段は、前記スライド体の端部に取り付けられている衝撃減衰体を備え、
前記当接時において、前記錠本体及び前記衝撃減衰体が、少なくとも一点での点接触又は少なくとも一条での線接触をすることが可能となるように構成されているものであり、
前記錠本体は、前記衝撃減衰体と接触する側における少なくとも一方の端部に突出部を有するとともに、
前記衝撃減衰体は、前記錠本体側に前記突出部の受入空間部を有しており、
前記突出部が、前記受入空間部に挿抜自在に構成されていることを特徴とするスライド錠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開き扉等の施錠に用いられるスライド錠(スライドラッチ錠)に関する。
【背景技術】
【0002】
病院、学校、駅等の各種公共施設において、開き扉が使用されている。この開き扉は、立設する支持体に側面部が枢設され、出入口である開口部を開閉可能となっており、施錠装置にはスライド錠が使用されることが一般的である。
【0003】
出願人が開発した従来のスライド錠S’(ドアロッ ク具)は、トイレ用のドアを間に挟んで、ドアの内側に取り付けるロック手段と、外側に取り付ける表示装置(図示せず)とから構成されている(図10)。ロック手段は、ドアの内側面に固着する取付部11’と、当該取付部11’に被せて長さ方向に摺動自在に係合するロックバー20’を備えており、取付部11’は、幅方向の両側面に、長さ方向に沿って細長い平行な係合溝11a’を凹設して断面略H状に成形されている。上記ロックバー20’は、長さ方向両端にキャップ25’を嵌め付けた略みぞ形状をなしている。また、長さ方向両端には、ロックバー20’の施錠位置と解錠位置間での摺動ストロークを規制する突当て段部21d’が設けられている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-144450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のスライド錠S’によれば、ロックバー20’が施錠位置と解錠位置間での摺動移動することになる。しかし、施錠位置において、ストロークを規制する突当て段部21d’が取付部11’に衝突する際に、衝突音が生じることや、過大な応力が作用することで損傷しやすくなる等の問題点を有していた。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、操作時において衝突音の発生を抑制可能であり、構成部材の破損等を防止可能であるスライド錠を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のスライド錠(以下、「本スライド錠」という場合がある。)は、扉体に取り付けられる錠本体と、上記錠本体に摺動可能に案内されて、上記扉体の縁から隣接する支持体方向に出没するスライド体と、を備え、上記スライド体の先端が、上記隣接する支持体に係止されることにより施錠されるスライド錠において、上記スライド体は、予め定められている施解錠位置間でのスライド移動を行わせるためのスライド範囲規制手段を有し、上記錠本体及び上記スライド体の少なくとも一方は、上記錠本体と上記スライド範囲規制手段との当接時に発生する衝撃を減衰させる衝撃減衰手段を備えていることを特徴としている。
【0008】
ここで、衝撃減衰手段は、スライド体と錠本体の少なくとも端部のいずれか一方をゴム等の高分子材料の弾性体で形成すること、間隙部と変形機構を組み合わせること等により、変形容易である構造とすること、又はスライド体と錠本体の当接面に付勢部材(板バネ、コイルスプリング等)を設けること等により実現することができる。
【0009】
また、上記本スライド錠において、上記衝撃減衰手段は、上記スライド体の端部に取り付けられている衝撃減衰体を備え、上記当接時において、上記錠本体及び上記衝撃減衰体が、少なくとも一点での点接触又は少なくとも一条での線接触をすることが可能となるように構成されていることとすれば、特に好適である。
【0010】
上記衝撃減衰体は、スライド体の端部において設けられるものであれば、スライド体と一体として形成しても、別体として形成されるものであってもよい。
また、点接触とは、錠本体と衝撃減衰体(以下、本段落では「両要素」という。)とが、微小領域で当接することを意味し、少なくとも一方の要素に突出部を設けること、又は両要素の少なくとも一方に曲面(例えば、凸状曲面)を設けること等により実現することができる。
この場合において、両要素が広範な当接領域で当接するいわゆる面接触をしなければよく、複数個所での点接触がなされること、及び複数条(複数本)での線接触がなされるものであってもよい。
【0011】
また、スライド範囲規制手段は、スライド体が錠本体に沿ってスライド移動する場合において、予め定められている施解錠位置間(施錠位置と解錠位置の間)でのスライド移動を行わせる(スライドストロークを確定させる)ために、スライド体と錠本体を、少なくとも一部分において当接させることにより、その移動範囲を規制する手段であり、上記衝撃減衰手段と兼用させることもできる。
【0012】
また、本スライド錠は、スライド体の先端が、隣接する支持体に係止されることにより施錠されることになるが、錠本体が取り付けられる扉体の態様により、スライド体の端部を係止するために、支持体に係止枠部等の係合部を設ける必要がある場合と必要ない場合がある。
例えば、扉体が室外側(個室空間の室外側[外側])のみに開扉されるタイプの扉体の場合には、係合部は不要である。他方、室内側(個室空間の室内側[内側])に開扉されるタイプの扉体の場合には係合部が必要となる。
【0013】
また、錠本体は、スライド体の少なくとも外縁の一部に沿って摺動可能に案内されていることが必要となるが、錠本体とスライド体の形態に応じて、種々の態様で構成することができる。
【0014】
本スライド錠によれば、スライド体及び錠本体の少なくとも一方は、当該スライド範囲規制手段と錠本体との当接時に発生する衝撃を減衰させる衝撃減衰手段を備えている。したがって、両要素に作用する当接力(押圧力)を軽減可能となるため、衝突音の発生を抑制すること及び構成部材の破損等を防止することができる。
【0015】
また、本スライド錠において、上記錠本体は、上記衝撃減衰体と接触する側における少なくとも一方(両側でもよい)の端部に突出部を有するとともに、上記衝撃減衰体は、上記錠本体側に上記突出部の受入空間部を有しており、上記突出部が、上記受入空間部に挿抜自在に構成されていることとするものであってもよい。
【0016】
ここで、スライド範囲規制手段の受入空間部及び錠本体の突出部の形状は、錠本体がスライド範囲規制手段に当接する際において当該突出部が受入空間部に挿入され、施錠位置から移動する場合において、抜出することができるように形成されているものであれば、その形状及び数に制限はない。例えば、凹部及び凸部(突部)、溝体及び凸条等の組み合わせとして構成することができる。
【0017】
また、凹部と凸部から形成する場合には、凹部において、開口部側に幅広となるテーパ(又は傾斜部)を形成するとともに、凸部において、先端部側に幅狭となるテーパ(又は傾斜部)を形成することとすれば、挿抜を容易に行うことができるため好適である。
【0018】
本スライド錠によれば、錠本体の支持体側の端部に突出部を有するとともに、スライド範囲規制手段が当該突出部の受入空間部を有しており、突出部が受入空間部に挿抜自在に構成されているため、施錠時にスライド体がスライド範囲規制手段に当接する際において、突出部が受入空間部に嵌入し、摩擦力及び押圧力等が生じた状態となる。そのため、両部材に強い当接力が作用した場合であっても、その押圧力によりスライド範囲規制手段が抜出することを防止することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、操作時において衝突音の発生を抑制可能であり、構成部材の破損等を防止可能であるスライド錠を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明のスライド錠を使用した開き扉の斜視図(解錠状態)である。
図2】本発明のスライド錠の分解斜視図である。
図3】本発明のスライド錠の他の方向から見た分解斜視図である。
図4】(a)は、本発明のスライド錠に使用される端部キャップの斜視図であり、(b)同端部キャップの他の方向から見た斜視図である。
図5】(a)は、本発明のスライド錠(解錠時)の左側面図であり、(b)は、同図(a)に対応する正面図であり、(c)は、同図(a)のA-A断面図であり、(d)は、同図(a)のB-B断面図である。
図6】(a)は、本発明のスライド錠(施錠終了直前時)の左側面図であり、(b)は、同図(a)に対応する正面図であり、(c)は、同図(a)のA-A断面図であり、(d)は、同図(a)のB-B断面図である。
図7】(a)は、本発明のスライド錠(施錠終了直前時)の室内側から見た正面図であり、(b)は、同図(a)のC-C断面図であり、(c)は、同図(b)のD部の拡大図である。
図8】(a)は、本発明のスライド錠(施錠時)の左側面図であり、(b)は、同図(a)に対応する正面図であり、(c)は、同図(a)のA-A断面図であり、(d)は、同図(a)のB-B断面図である。
図9】(a)は、本発明のスライド錠(施錠時)の室内側から見た正面図であり、(b)は、同図(a)のC-C断面図であり、(c)は、同図(b)のD部の拡大図である。
図10】従来のスライド錠の一部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本スライド錠Sの一実施形態について、トイレブース等の個室空間における扉体に設けられる場合を例として、詳細に説明する。なお、図面の説明においては、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0022】
(1)本スライド錠の構成
[個室空間]
図1に示すように、本実施形態における本スライド錠Sが取り付けられる個室空間は、壁から垂直方向に設置されている2枚の横仕切りパネル(図示せず)と、入口部を形成するために所定の開口を設けた状態で、当該横仕切りパネルと直交する向きに設置されている左右の前面パネル2(右パネルは図示せず)(支持体)により、平面視で長方形形状の一区画のスペースに区切られている。そして、入口部には、開き扉であるドアパネル1(扉体)が、戸尻側の端部において軸釣装置等を用いて支持されることにより、室外側にのみ開扉されるように回動自在に取り付けられている。
【0023】
[スライド錠]
図2及び図3に示すように、本スライド錠Sは、錠本体10と、スライド体20を主要部としており、錠本体10は、ドアパネル1の室内側の面に設けられている。
【0024】
(錠本体)
錠本体10は、取付部11と位置規制補助部15から構成されている。
取付部11は、側面視で略H字状に形成されているとともに、凹陥部12bを有し、上面視で凹状である樹脂成型体であり、幅方向の上下の両側面に、長さ方向に沿って、平行である細長の係合溝11aが設けられている。取付部11の凹陥部12bの両側には、取付孔12cが形成されており、当該取付孔12cにネジ19を用いて、ドアパネル1に取付部11が取り付けられている。
【0025】
取付部11の係合溝11aを挟んだドアパネル1と反対側である室内側の部分(以下、「室内側部11b」という。)が後記スライド体20の内部空間に収納され、リップ部20aが係合溝11aに摺動可能となるように緩装されている。そして、スライド体20の上下のリップ部20a、上下のフランジ部20b及びウェブ部20cは、取付部11の室内側部11bに摺動しながら、スライド可能となっている。
【0026】
取付部11における室内側部11bの中央に形成されている凹陥部12bには、位置規制補助部15が設けられている。この位置規制補助部15は、板状体16と、当該板状体16の長手方向の側面部に設けられている付勢体17とを備えており、端部キャップ25と共に、スライド体20の移動範囲(施錠位置から解錠位置)を制限する役割を果たしている。
【0027】
板状体16には、2カ所の側面部に係合体16aが、底面部には、係合突起16bがそれぞれ設けられている。この係合体16aと係合突起16bは、凹陥部12bに形成された係合凹部12d,12eと係着することにより、取り付けられている。
【0028】
また、一方の係合体16a(図3の左側)の上部には、山形状であるストッパ16cが設けられている。このストッパ16cは、取付部11の係合溝11aから突出するように位置することになり、後記スライド体20の凹部21cの両縁部における突当て段部21dと当接することで、スライド体20の移動を規制できるようになっている。
【0029】
付勢体17は、ヘ字形状である板バネ状の部材であり、中間部の摺接面において、スライド体20のウェブ部20cと摺接する際に、室内側部11b側(スライド体30のウェブ部20c側)に付勢力が付与可能である構造となっている。
【0030】
また、室内側部11bの両側面部における、端部キャップ25と対向する端面の上下端部には、案内突起13(突出部)が設けられている。この案内突起13は、等脚台形形状(側面視)であり、後記する端部キャップ25の中空部25dに挿入し易くなるように、先端部側に高さが減少するようにテーパが形成されている。
【0031】
(スライド体)
スライド体20は、ステンレス製であるリップ溝形の細長形状であり、両端部に、スライド範囲規制手段と衝撃減衰手段を兼用している端部キャップ25が嵌装されている。
後記端部キャップ25は、スライド体20の端部を閉塞するとともに、取付部11の端部と当接することにより、その移動を規制し、当該スライド体20の施錠位置と解錠位置間での摺動ストロークを制限する役割を果たしている。すなわち、両側の端部キャップ25は、スライド体20の施錠位置と解錠位置に対応するように設けられている。
【0032】
リップ部20a(縁部)は、両端部において、後記端部キャップ25の後記爪条部26dを係止するための溝部(以下、「端溝部21b」という。)が形成されるとともに、上側の一部に凹部21cが形成されている(図3)。
【0033】
端部キャップ25は、全体が柔軟に撓み得るとともに所定の剛性を有するように、合成樹脂で一体成型されている部材であり、衝撃減衰手段の衝撃減衰体を兼用している。
この端部キャップ25は、中空部25d(受入空間部)を有する直方体形状であり(この部分を「本体部25a」という。)、一方の端面は、断面形状より若干大きい矩形形状である端板25bで閉塞されている。また、端板25bと本体部25aの接合部には顎部25cが形成されている(図4)。
【0034】
本体部25aの幅広である一方の側面には、弾性変形がしやすくなるように長手方向に2本の長溝26bが形成されており、当該2本の長溝26bの間には、補助突出部26cが突設されている(但し、長溝26bの形状、本数には制限はない)。また、本体部25aの端板25bと反対側の側縁部において、その中央に、突出部26aが形成されている。このように、本実施形態では、合成樹脂製である端部キャップ25の本体部25aにおける突出部26aと長溝26bが、衝撃減衰手段の主要部を構成している。
【0035】
なお、補助突出部26cは、本体部25aが弾性変形した場合に、当該部位においてスライド体20のウェブ部20cと当接させることで、当接力を集中的に負担させ、その反作用により、端部キャップ25を他方の側面部に押圧させるために設けるものである。
【0036】
上記本体部25aにおける長溝26bが形成されていない面と対向する他方の側面には、端板25bと反対側の側縁部の近傍において、長手方向の全体に爪条部26dが設けられている。この爪条部26dは、端部キャップ25が弾性変形した場合に、所定の強度を保持させるための補強部としての役割を奏させるために設けられる部材である。また、この爪条部26dは、スライド体20の端溝部21bに係止するために、端板25b側に向かって高さ寸法が増加するように勾配が形成されている。
【0037】
さらに、上記本体部25aの幅広に形成された両側面部において、中空部25dに接続する錠本体10側の端縁部の長手方向は、端板25b側に向かって、開口部の寸法が減少するように“ハ”を90度又は270度回転させた形状(側面視)に勾配が形成されており、錠本体10の案内突起13(突出部)が、本体部25aにおける中空部25dに挿入されやすいようになっている。
【0038】
各端部キャップ25は、顎部25cがスライド体20の端面に当接するとともに、爪条部26dが端溝部21bに係止された状態で嵌装されている。
【0039】
上記構成により、スライド体20は、錠本体10に摺動可能に案内されながら、施錠位置及び解錠位置に対応して、当該スライド体20に形成された空間部21a(図3)を水平方向にスライド自在となっている。
【0040】
(2)本スライド錠の動作
続いて、本スライド錠Sの動作について説明する。なお、以下の説明において、本スライド錠Sは、動作可能な状態で、ドアパネル1に取り付けられていることを前提とする。
【0041】
本スライド錠Sの解錠状態(図5)から施錠する場合には、ドアパネル1を閉め、室内側からスライド体20を施錠位置(図6(b)の左側)にまでスライド移動させて、前面パネル2と係止させる。この動作において、スライド体20に設けられている右側(前面パネル2と反対側)(図6(d))の端部キャップ25が錠本体10の取付部11の側面部に当接することになる。
【0042】
その際、まず、錠本体10の端面と図中の右側の端部キャップ25の突出部26aとが一点で当接(点接触)し、当該当接力により、当該端部キャップ25が端板25b側に押圧される。このとき、長溝26bの存在により、弾性変形しやすくなっているため、端部キャップ25の突出部26aが端板25b側に“>”字形状に弾性変形した状態で、端面が当接する(図8)。本動作により、端部キャップ25と錠本体10との当接時に発生する当接力を最初に減衰させた後に、当該端部キャップ25の端面と錠本体10の端面が全面で当接することになる。
【0043】
また、錠本体10の案内突起13が、端部キャップ25の中空部25dに挿入される(図7)。この状態において、案内突起13が、端部キャップ25の中空部25dの内壁を外側に押圧することから、端部キャップ25の爪条部26dには、外側に押圧力が作用する。そのため、爪条部26dは端溝部21bから突出して係止されることになる。加えて、補助突出部26cが、当該部位において、スライド体20のウェブ部20cと当接することで、当接力が集中し、その反作用により、端部キャップ25を他方の側面部に押圧させることになる。そのため、スライド体20の端溝部21bから突出した状態を保持することになる(図9)。
【0044】
また、位置規制補助部15の付勢体17は、この状態において、常時、室内側部11b(スライド体20のウェブ部20c側)に付勢力を付与している。また、ストッパ16cが、スライド体20の凹部21cにおける突当て段部21dと当接して移動が制限されている。そのため、種々の要因で、万一、端部キャップ25がスライド体20から外れてしまった場合であっても、錠本体10がスライド体20から抜け出すことを防止することになる。
【0045】
なお、ドアパネル1は、室外側にのみ開扉でき、室内側には開かないため、この状態で施錠されることになる。
【0046】
また、ドアパネル1を開放する場合には、スライド体20を右側の開錠位置にまでスライド移動させ、前面パネル2との係止状態を解除することにより行うことができる(図5(b))。
このとき、錠本体10の前面パネル2側の端面が、スライド体20に設けられている他方の端部キャップ25に当接することになるが、両要素は上記と同様の動作を奏することになる。
【0047】
(3)本スライド錠の作用効果
本スライド錠Sによれば、端部キャップ25が突出部26aと長溝26bから構成される衝撃減衰手段を備えており、弾性変形が可能となるように形成されているため、錠本体10の取付部11が端部キャップ25に当接した場合において、効果的に当接力を低減させることができる。したがって、衝突音の発生の抑制及び構成部材の破損等を防止することができる。
【0048】
また、本スライド錠Sにおいて、端部キャップ25がスライド範囲規制手段と、衝撃減衰手段の衝撃減衰体とを兼用しているため、部品点数を減少させることができる。
【0049】
さらに、本スライド錠Sによれば、錠本体10における取付部11には、テーパが形成されている案内突起13が設けられている。そして、端部キャップ25の本体部25aには、上記案内突起13の傾斜角度に対応する勾配を入口部に有する中空部25dが設けられており、取付部11の案内突起13が、本体部25aにおける中空部25dに挿入しやすくなっている。
【0050】
そのため、施解錠時において、取付部11と端部キャップ25が当接する際に、案内突起13が中空部25dに嵌挿されることになる。そして、端部キャップ25の爪条部26dにおいて外側に押圧力が作用し、当該爪条部26dは端溝部21bから突出することになるとともに、案内突起13が「ほぞ」に類似する作用を奏することになる。さらに、補助突出部26cの存在により、取付部11の移動が制限されるため、端部キャップ25に当接する際に、強い押圧力が作用した場合であっても、当該押圧力により端面から抜出することを防止することができる。
【0051】
以上、本発明について、好適な実施形態についての一例を説明したが、本発明は当該実施形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜設計変更が可能である。
【0052】
例えば、本スライド錠を適用する扉体、支持体には制限はなく、錠本体、スライド体、スライド範囲規制手段の各仕様、取付位置等は、扉体等の状況に応じて、適宜定めることができる。また、本発明を構成する各要素の仕様、材質、寸法、形状、取付位置等に関しても、基本的な構成を備えていれば、種々の構造を用いることができる。
【0053】
また、スライド範囲規制手段は、別体として形成したキャップ部材として説明したが、スライド体の端部に一体として形成されるものであってもよい。さらに、スライド範囲規制手段として、スライド体に、幅広部と幅狭部の空間部を設け、その境界における段部の部分により、当該スライド体の移動を規制する等の手段を併用することもできる。
【0054】
また、本スライド錠は、実施形態での説明と異なり、扉体の開施錠の状態を室外側から表示可能である、ラックアンドピニオン機構を使用した表示装置を備える構成とするものであってもよい。
【0055】
また、衝撃減衰手段は、スライド範囲規制手段及び錠本体の少なくとも一方に凸状曲面部を設けることや、複数の突出部を設けること、衝撃吸収材料を使用すること等、種々の方法を用いることができる。
【0056】
さらに、扉体の構造(室内側に開扉されるタイプ)によっては、扉体と隣接する支持体に取り付けられ、スライド体の先端を挿入して係止する、係止部を有する構造とするものであってもよい。
【符号の説明】
【0057】
S スライド錠
1 ドアパネル(扉体)
2 前面パネル
10 錠本体
11 取付部
11a 係合溝
11b 室内側部
13 案内突起(突出部)
15 位置規制補助部
16 板状体
16c ストッパ
17 付勢体
20 スライド体
21a 空間部
21b 端溝部
21d 突当て段部
25 端部キャップ(衝撃減衰体、スライド範囲規制手段)
25a 本体部
25b 端板
25c 顎部
25d 中空部(受入空間部)
26a 突出部
26b 長溝
26c 補助突出部
26d 爪条部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10