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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】多関節スパナ
(51)【国際特許分類】
   B25B 13/02 20060101AFI20230111BHJP
   B25B 23/16 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
B25B13/02 M
B25B23/16 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020069070
(22)【出願日】2020-04-07
(65)【公開番号】P2021164973
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2020-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】517266366
【氏名又は名称】建洲テクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡 健一郎
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3084647(JP,U)
【文献】特開2006-192538(JP,A)
【文献】登録実用新案第3092461(JP,U)
【文献】中国実用新案第209812163(CN,U)
【文献】米国特許出願公開第2011/0232424(US,A1)
【文献】米国特許第05305668(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 13/02
B25B 23/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個のパーツを順次回動支点となるヒンジピン(4)で繋いで複数個所で屈曲可能となした柄(5)を有し、その柄(5)の両端にボルト、ナットを受け入れてそのボルト、ナットに回転操作力を伝達するボルト・ナット操作部(6、7)を設けた多関節スパナであって、
前記パーツが平行配置の左右のリンクプレート(2a、2a)と、その左右のリンクプレート(2a、2a)の長手中央部に組み込まれて前記左右のリンクプレート(2a、2a)の各々に固定される上下面が平行かつ平坦な平面視長方形のブリッジピース(2b)を備えた第1リンク(2)と、
隣り合う前記第1リンク(2、2)間に継ぎ足される上下面が平行かつ平坦な扁平塊の第2リンク(3)の2者からなり、
前記第2リンク(3)は、その一端及び他端がそれぞれ当該第2リンク(3)を間に導入する隣り合う第1リンク(2)の左右のリンクプレート(2a、2a)の長手方向端部の内側に、前記ブリッジピース(2b)と隙間をおいて配置されており、
前記第1リンク(2)の左右のリンクプレート(2a、2a)の一端と第2リンク(3)の他端及び第2リンク(3)の一端と第1リンク(2)の左右のリンクプレート(2a、2a)の他端が、前記第1リンク(2)の左右のリンクプレート(2a、2a)に支持された前記ヒンジピン(4)を介してそれぞれ連結されて両端に第1リンク(2)を備えた前記柄(5)が構成され、
その柄(5)の両端の前記左右のリンクプレート(2a、2a)間に、サイズの異なるボルト・ナット操作部(6、7)の基端側がそれぞれ挿入されてそれぞれのボルト・ナット操作部(6、7)が、当該ボルト・ナット操作部(6、7)の基端部と前記第1リンクの左右のリンクプレート(2a、2a)に支持された前記ヒンジピン(4)を介して前記第1リンク(2)に連結され、
さらに、前記第2リンク(3)に、前記柄(5)の両端の前記ボルト・ナット操作部(6、7)とはサイズの異なるボルト・ナット係合用の操作穴(9)が形成された多関節スパナ。
【請求項2】
前記第2リンク(3)が2個以上存在し、その第2リンク(3)の各々が前記操作穴(9)を有し、前記柄(5)の両端のボルト・ナット操作部(6、7)と前記第2リンク(3)の前記操作穴の全てが異なるサイズのボルト・ナットに対応している請求項1に記載の多関節スパナ。
【請求項3】
前記ボルト・ナット操作部(6、7)が、前記柄(5)の両端の前記ボルト・ナット操作部(6、7)及び前記第2リンク(3)に設けられた前記操作穴(9)とはサイズの異なるボルト・ナット係合用の操作穴(10)が形成された請求項1又は2に記載の多関節スパナ。
【請求項4】
前記ボルト・ナット操作部(6、7)の少なくとも片方を、ラチェットレンチのヘッド部で構成した請求項1~3の何れか1項に記載の多関節スパナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数個のパーツを順次回動支点となるピンで繋いで複数個所で屈曲可能となした柄を有し、その柄の両端にボルトやナットを受け入れてそのボルトやナットに回転操作力を伝達するボルト・ナット操作部を設けたスパナに関する。なお、この発明で言うスパナは、レンチも含めたボルト・ナットの締め付け具である。この発明では、柄を複数個所で屈曲可能となしたその締め付け具を多関節スパナと称する。
【背景技術】
【0002】
首記の多関節スパナは、車のボディの下部、狭所部、或いは、入り組んだ場所に代表されるような作業し難い場所に設置されているボルトやナットを締め外しする目的で開発されたものである。
【0003】
その多関節スパナの従来技術として、下記特許文献1、2に示されたものなどがある。特許文献1に記載されたスパナ(多節式スパナ)は、同一形状の連結塊を縦列に並べて隣り合う連結塊の凸形の先端と凹形の後部を嵌合させ、その嵌合部をヒンジピンで結合させて柄を構成し、その柄の端部に挟持体(本願においてボルト・ナット操作部と称するスパナのヘッド部)を設けている。
【0004】
また、特許文献2に記載されたスパナ(両ヘッド駆動工具)は、単一の細長い柄(駆動工具本体)の両端にスパナのヘッド部(ワーク旋回用素子)をヒンジ結合させて取り付けている。
【0005】
柄に対するヘッド部のヒンジ結合は、柄とヘッド部の互いに接続する領域の相反する側の側部を所定長さ範囲切り欠き、柄の両端の切り残し部(第1枢着部と第2枢着部)をヘッド部の切り欠き部に、ヘッド部の接続領域の切り残し部を柄の端部の切欠き部にそれぞれ入り込ませ、平行に並んだ柄の端部の切り残し部と、ヘッド部の接続領域の切り残し部をその両者に貫通させたヒンジピンで連結する方法で行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実用新案登録第3084647号公報
【文献】特開2006-192538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のスパナは、以下の問題を有している。即ち、同文献には、フラットな柄の両端にサイズ違いの2種類の挟持体を設けた多節式スパナと、複数のサイズ違いのスパナエレメントをヒンジピンで連結して一体化した多節式スパナの2種類が示されているが、前者の多節式スパナは、2サイズのボルトやナットにしか対応できない。
【0008】
また、後者の多節式スパナは、スパナエレメントを折り畳んだ状態のときに、スパナエレメントが並列に2列に並ぶ構造になっているため、全体が嵩高いものになって扱い難くなることが明白である。
【0009】
加えて、何れかひとつのスパナエレメントを屈曲させて使用するときに、他のスパナエレメントのどれかが使用するスパナエレメントの向きとは異なる方向に突出して周囲の物体と干渉することが考えられ、狭所や入り組んだ場所などにあるボルト・ナットを操作するときに使用規制を受け易くなる。
【0010】
さらに、特許文献2のスパナは、柄の両端のヘッド部のみがボルト・ナットに対する回転操作力の伝達部となっているので、2種類のサイズのボルトやナットの締め外しにしか対応できない弱点がある。
【0011】
このほか、柄とヘッド部が片持ち支持の状態になることから、ヘッド部をボルトやナットに係合させた状態で柄を操作してヘッド部に回転操作力を伝達するときに、ヒンジピンに大きな負荷がかかってスパナが壊れる(ヘッド部が外れる)ことも懸念される。
【0012】
この発明は、上記の不具合を無くした多関節スパナを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、この発明においては、複数個のパーツを順次回動支点となるヒンジピンで繋いで複数個所で屈曲可能となした柄を有し、その柄の両端にボルト、ナットを受け入れてそのボルト、ナットに回転操作力を伝達するボルト・ナット操作部を設けた多関節スパナであって、
前記パーツが平行配置の左右のリンクプレートと、その左右のリンクプレートの長手中央部に組み込まれて前記左右のリンクプレートの各々に固定される上下面が平行かつ平坦な平面視長方形のブリッジピースを備えた第1リンクと、
り合う前記第1リンク間に継ぎ足される上下面が平行かつ平坦な扁平塊の第2リンクの2者からなり、
前記第2リンクは、その一端及び他端がそれぞれ当該第2リンクを間に導入する隣り合う第1リンクの左右のリンクプレートの長手方向端部の内側に配置されており、
前記第1リンクの左右のリンクプレートの一端と第2リンクの他端及び第2リンクの一端と第1リンクの左右のリンクプレートの他端が、前記第1リンクの左右のリンクプレートに支持されたヒンジピンを介してそれぞれ連結されて両端に前記第1リンクを備えた柄が構成され、
その柄の両端の前記左右のリンクプレート間に、サイズの異なるボルト・ナット操作部の基端側がそれぞれ挿入されてそれぞれのボルト・ナット操作部が、当該ボルト・ナット操作部の基端部と前記第1リンクの左右のリンクプレートに支持された前記ヒンジピンを介して前記第1リンクに連結され、
さらに、前記第2リンクに、前記柄の両端のボルト・ナット操作部とはサイズの異なるボルト・ナット係合用の操作穴が形成された多関節スパナを提供する。
【0014】
前記ボルト・ナット操作部は、角ボルトの頭部や角ナットに相対回転不可に係合して角ボルトや角ナットに柄から回転操作力を伝達する部位であり、締め外し対象のボルトの頭部やナットを受け入れる口が設けられているスパナのヘッド部や、前記口に代る第2リンクの操作穴と同様の操作穴を備えたレンチのヘッド部がそのボルト・ナット操作部である。
【0015】
この多関節スパナは、前記第2リンクが2個以上存在し、その第2リンクの各々が前記操作穴を有し、前記柄の両端のボルト・ナット操作部と前記第2リンクの前記操作穴の全てが異なるサイズのボルト・ナットに対応しているものが好ましい形態として挙げられる。
【0016】
前記ボルト・ナット操作部の基端側にも第2リンクの操作穴と同様の操作穴を備えさせたものや、第1リンクと第2リンクの連結部と、第1リンクとボルト・ナット操作部の連結部に、連結された2者の接続角を段階的に変化させて変化後の接続角の保持力を高める調整機構を設けたもの、或いは、柄の両端の前記ボルト・ナット操作部の少なくとも片方を、ラチェットレンチのヘッド部で構成したものも好ましい。
【0017】
前記ラチェットレンチのヘッド部は、操作穴を有するソケットと、そのソケットと一体のラチェットギヤの歯に係止する逆止爪と、前記歯との係合が解除される位置に退避可能な前記逆止爪を前記歯と係合する方向に付勢するばねを組み合わせたものであって、前記ソケットの回転が一方向にのみ許容される。その構造は、広く知られたものである。
【発明の効果】
【0018】
この発明の多関節スパナは、柄の両端のボルト・ナット操作部のほかに、第2リンクに形成した操作穴もボルト・ナットに対する回転操作力の伝達部として機能する。このため、第2リンクの設置数をnとすると、(2+n)の式で求まる数のサイズの異なったボルト、ナットの締め外しを1本の多関節スパナで行うことができる。
【0019】
また、第1リンクと第2リンクをヒンジピンで連結して構成された柄の両端にボルト・ナット操作部をヒンジピンで連結した構造であるので、全体サイズがコンパクトで作業の邪魔になる部分が無く、使用規制を受け難い。
【0020】
さらに、全てのヒンジピンが第1リンクの左右のリンクプレートによって支持されているため、第1リンクと第2リンクとの間での回転操作力の伝達と、第1リンクからボルト・ナット操作部への回転操作力の伝達が、前記第1リンクの左右のリンクプレートに前記第2リンクが接触した箇所と、前記ボルト・ナット操作部が接触した箇所においてもなされる。
【0021】
これにより、ヒンジピンに加わる負荷が軽減され、スパナの耐破壊力が高まってリンク相互の連結と前記第1リンクと前記ボルト・ナット操作部の連結が解けずに維持される。
【0022】
なお、前記ボルト・ナット操作部の基端側にも操作穴を設けたものは、1本の多関節スパナでより多サイズのボルト・ナットの締め外しを行うことができる。
【0023】
また、第1リンクと第2リンクの連結部と、第1リンクとボルト・ナット操作部の連結部に接続角の調整機構を設けたものは、調整済み接続角の保持安定性が高まり、意図せぬ接続角の変動によるボルト・ナットに係合したスパナの外れが起こり難い。
【0024】
このほか、柄の両端の前記ボルト・ナット操作部の少なくとも片方を、ラチェットレンチのヘッド部で構成したものは、逆回転時に空回りするラチェットレンチの特徴が活かされてボルト・ナットの締め外しを迅速化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】この発明の多関節スパナの一例を示す平面図である。
図2図1の多関節スパナの側面図である。
図3図1の多関節スパナに含まれる第1リンクの分解斜視図である。
図4図1の多関節スパナに含まれる第2リンクの一例の斜視図である。
図5図1の多関節スパナに含まれる第2リンクの他の例の斜視図である。
図6図1の多関節スパナに含まれる柄の端部のボルト・ナット操作部の斜視図である。
図7】ボルト・ナット操作部の変形例を示す平面図である。
図8】ボルト・ナット操作部の他の変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、この発明の多関節スパナの実施の形態を添付図面に基づいて説明する。図1及び図2に示した多関節スパナ1は、複数個の第1リンク2と、同じく複数個の第2リンク3と、複数本のヒンジピン4とから成る柄5と、その柄5の両端にそれぞれ接続されたボルト・ナット操作部6、7と、第1リンク2と第2リンク3の連結部及び第1リンク2とボルト・ナット操作部6、7の連結部にそれぞれ設けられた接続角調整機構8とで構成されている。
【0027】
第1リンク2は、平行配置の左右のリンクプレート2a、2a(図3を同時参照)と、その左右のリンクプレート2a、2aの長手中央部に組み込まれて左右のリンクプレート2a、2aの各々に固定されるブリッジピース2b(これも図3を同時参照)を組み合わせたものになっている。
【0028】
ブリッジピース2bは、上下面が平行かつ平坦な平面視長方形の部材であって、左右のリンクプレート2a、2a間に挟み込まれてリンクプレート2a、2aに固定されている。
【0029】
左右のリンクプレート2a、2aに対するブリッジピース2bの固定は、例示の多関節スパナにおいては、左右のリンクプレート2a、2aに片側で2本の止めねじ2cを貫通させ、その止めねじ2cをブリッジピース2bの幅方向の両端部に設けたねじ孔にねじ込む構造を採用して行っているが、溶接等の他の方法による固定であっても差し支えない。
【0030】
第2リンク3(図4図5を同時参照)は、上下面が平行かつ平坦な扁平塊の部材であって、この第2リンク3の一端が、当該第2リンク3を間に導入する2個の隣り合う第1リンク2のうち、片方の第1リンク2の他端に、第2リンク3の他端が、もう片方の第1リンク2の一端にそれぞれヒンジピン4を用いて連結されている。
【0031】
第2リンク3の一端と他端は、当該第2リンク3を間に導入する隣り合う第1リンク2の左右のリンクプレート2a、2a間に挟み込まれる。
【0032】
ヒンジピン4は、左右の2個を対にしたピンであって例示のそれは、第2リンク3の前部と後部の両側面に突出して設けられている。そのヒンジピン4が第1リンク2の左右のリンクプレート2a、2aの両端近くに貫通して設けられたピン孔に通され、ピン孔を通り抜けた突端部がカシメ加工されて左右のリンクプレート2a、2aに抜けないように固定されている。
【0033】
そのヒンジピン4による第1リンク2と第2リンク3の連結は、両リンクの全数についてなされており、その連結により両端に第1リンク2を備えた、複数個所で屈曲可能な柄5が構成されている。
【0034】
そして、その柄5の両端の第1リンク2に、ボルト・ナット操作部6、7が連結されている。片方のボルト・ナット操作部6の外観を図に示す。
【0035】
そのボルト・ナット操作部6と7は、第1リンク2の左右のリンクプレート2a、2a間に基端側を入り込ませ、その基端側の両側面に突出して設けて左右のリンクプレート2a、2aに貫通させたヒンジピン4の突端部をカシメ加工することで、柄5に対するボルト・ナット操作部6、7の連結がなされている。
【0036】
例示の多関節スパナ1におけるヒンジピン4は、第2リンク3及びボルト・ナット操作部6、7の基部と一体のピンになっているが、片端に鍔を有するピンを第2リンク3及びボルト・ナット操作部6、7の基部と前記左右のリンクプレート2a,2aに貫通して設けた孔に挿通して鍔の無い側の端部を片方のリンクプレート2aに抜け止め状態に固定するものであってもよい。
【0037】
ボルト・ナット操作部6、7は、締め外し対象のボルト・ナットを受け入れ、そのボルト・ナットに相対回転不可に係合して回転操作力を伝達するものであって、例示の多関節スパナ1のボルト・ナット操作部6、7は、どちらもスパナのヘッド部になっている。スパナのヘッド部は、U字状に開放した口にボルト・ナットを咥え込むものである。
【0038】
ただし、ボルト・ナット操作部6、7の少なくとも片方は、図7に示すような、ボルトの頭部やナットを受け入れる操作穴が設けられたレンチのヘッド部であってもよいし、図8に示すような、ラチェットレンチのヘッド部であってもよい。
【0039】
ラチェットレンチのヘッド部は、既知であって、図示のそれは、操作穴を有するソケット6a(7a)と、そのソケット6a(7a)と一体のラチェットギヤと、そのラチェットギヤの外周の歯に係止する逆止爪と、前記歯との係合が解除される位置に退避可能な逆止爪を前記歯と係合する方向に付勢するばねを組み合わせたものである。前記ラチェットギヤ、逆止爪、ばねはヘッド部のケースに内蔵されて図には表れていないのでソケットのみに符号を付した。
【0040】
一般的なラチェットレンチは、切り替えレバーを操作してソケットの回転方向を切り替えられるようにしているが、図示のヘッド部には切り替えレバーが存在しない。その構造でも、スパナをひっくり返して使用することで、ボルト・ナットの締め付けと締め外しの切り替えを行うことができる。
【0041】
接続角調整機構8は、第1リンク2の左右のリンクプレート2a、2aの内面に設けた球面の凹部8a(図3参照)と第2リンク3の第1リンク2との連結部の側面及びボルト・ナット操作部6、7の第1リンク2との連結部の側面に設けた突出量の小さな球面の凸部8b(図4図6参照)とで構成されている。
【0042】
凹部8aは、連結部の各側面にある。その凹部8aは、回動支点になるヒンジピン4を中心にした仮想半円状に所定の間隔をあけて複数個設けられている。例示の凹部8aは、ひとつの仮想半円上に30°ピッチで計7個設けられている。
【0043】
凸部8bは、第1リンク2と第2リンク3の接続角が0°のときに周方向中間点の凹部8aに係合する位置に1個設けられている。第2リンク3は、接続角0°の位置からそれぞれ上向きに90°、下向きに90°の範囲で接続角を変更することができ、接続角が変化前の角度に対して30°変化した位置で凸部8bが凹部8aに入り込んでそこからの回動に加わる抵抗が増大する。
【0044】
これにより、第1リンク2と第2リンク3の調整後の接続角の意図せぬ変動が抑制され、スパナの使い勝手の悪化が起こらない。
【0045】
第2リンク3の各々は、締め外し対象のボルト・ナットを係合させる操作穴9を備えている。
【0046】
第2リンク3を上下に貫通したその操作穴9は、ボルト・ナット操作部6、7を使って締め外しするボルト・ナットとは異なるサイズのボルト・ナットに対応させた穴になっている。複数ある第2リンク3の各々に設けられている操作穴9のサイズも全て異なっている。
【0047】
例示の多関節スパナは、長手中間部に配置される第2リンク3の長手中央部を側方に膨出させ、その膨出部の幅を両端の連結部の幅よりも大きくしている。このようにすることで、長手中間部の第2リンク3に対して、その第2リンク3の両端の連結部の幅よりも大きな操作穴9を設けることを可能にしている。
【0048】
このように、例示の多関節スパナ1は、第2リンク3にもボルト・ナットを締め外しする操作穴9を設けている。さらに、ボルト・ナット操作部6、7の基端側にも他の操作穴とはサイズの異なる操作穴10を設けており、このため、第2リンクの設置数nが3の例示の多関節スパナ1の場合、7種類のサイズの違いのボルト・ナットの締め外し行うことが可能になっている。
【0049】
以上のほかに、例示の多関節スパナ1は、ボルト・ナット操作部6、7の厚み、ブリッジピース2bの厚み、及び第2リンク3の厚みをリンクプレート2aの高さと同一にしている。
【0050】
これにより、スパナの全体の厚みが一定して嵩張らず、また、長手途中の任意箇所で柄5を1乃至数箇所屈曲させても柄5の外側に突出してスパナ操作の妨げとなる部位が存在しないことから、狭所や入り組んだ場所に片方のボルト・ナット操作部を挿入して行うボルト・ナットの締め外し操作でも、周囲の部材との干渉が防止されて使用規制を受けることがなくなる。
【0051】
上述したように、例示の多関節スパナは、3サイズ以上のボルト・ナットの締め外しに利用することができる。
【0052】
また、第2リンク3の両端とボルト・ナット操作部6、7の基端側が第1リンク2の左右のリンクプレート2a、2aに挟まれ、両端が左右のリンクプレート2a、2aに支持されるヒンジピン4によって第1リンク2に連結されているため、柄を操作したときにヒンジピン4に加わる負荷が軽減され、スパナの耐破壊力が高まる。
【0053】
さらに、全体が嵩張らず、周囲の物体との干渉による使用規制も受け難いため、作業し難い場所、例えば、自動車の車体の下側などにあるボルト・ナットの締め外しを行う工具として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 多関節スパナ
2 第1リンク
2a リンクプレート
2b ブリッジピース
2c 止めねじ
3 第2リンク
4 ヒンジピン
5 柄
6、7 ボルト・ナット操作部
6a,7a ソケット
8 接続角調整機構
8a 凹部
8b 凸部
9、10 操作穴
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8