(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】海底パイプラインで使用するパイプ継手の設計方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/12 20060101AFI20230111BHJP
F16L 1/12 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
G01N3/12
F16L1/12 Z
(21)【出願番号】P 2020520835
(86)(22)【出願日】2018-06-19
(86)【国際出願番号】 GB2018051695
(87)【国際公開番号】W WO2018234779
(87)【国際公開日】2018-12-27
【審査請求日】2021-06-16
(32)【優先日】2017-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】519455508
【氏名又は名称】ヴァーダーグ パイプ テクノロジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】ロバーツ、ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ウォーカー、アラステア
(72)【発明者】
【氏名】ヘファーナン、ジャネット
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-530957(JP,A)
【文献】実開昭60-079140(JP,U)
【文献】特許第6192432(JP,B2)
【文献】Eduardo Oazen,SAFETY FACTORS CALIBRATION FOR WALL THICKNESS DESING OF ULTRA DEEPWATER PIPELINES,PROCEEDINGS OF THE ASME 2013 32ND INTERNATIONAL CONFERENCE ON OCEAN, OFFSHORE AND ARCTIC ENGINEERING,VOLUME 4A,2013年,V04AT04A020-1~V04AT04A020-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00-3/62
F16L 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底パイプラインで使用するパイプ継手の壁厚の決定方法であって、
i)前記パイプ継手の内径を決定する工程と、
ii)前記パイプ継手を使用する深さの最小許容静水圧を決定する工程と、
iii)前記パイプ継手の目標壁厚を決定する工程であって、前記目標壁厚が前記内径および前記最小許容静水圧に対応する工程と、
iv)前記内径および前記目標壁厚を有する複数の予備パイプ継手を製造する工程と、
v)前記複数の予備パイプ継手が崩壊する静水圧崩壊圧力を表すデータをもたらす外圧崩壊試験を実施する工程と、
vi)極値理論から導出された
一般化パレート分布に基づいて、前記データに対応する確率分布を決定する工程と、
vii)前記確率分布から、10
-5以下の確率で発生する静水圧崩壊圧力を決定する工程と、
viii)前記内径および前記静水圧崩壊圧力に対応する前記パイプ継手の壁厚を決定する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
工程v)が、
前記複数の予備パイプ継手の1つ以上からリングを切断する工程と、
前記リングの両端に平らで実質的に平行な面を形成する工程と、
前記リングの歪みおよび変形を測定する手段を提供する工程と、
前記リングの両端が圧力室の対向する壁とシールを形成し、前記リングの内側を外側から隔離するように、前記リングを前記圧力室に取り付ける工程と、
前記リングの外側の圧力を増加させ、圧力の増加に伴う前記リングの歪みおよび変形を測定する工程と、
前記リングの外側に加えられる圧力と測定される最大歪みとの比較を決定して、圧力の増加に伴うリング直径の非線形減少の加速の開始を検出する工程と
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リングの歪みおよび変形を測定する手段を提供する前記工程が、前記リングにセンサを適用することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記リングの内面に前記センサを配置することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記圧力室に前記リングを取り付ける前記工程が、前記リングの両端と前記圧力室の前記壁との間にシールを設けることを含む、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記リングの外側の圧力を増加させる前記工程が、前記リングの外側の周りの前記圧力室に加圧流体を圧送することを含む、請求項2~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
パイプが前記パイプラインで使用するための公差内に留まるように、前記パイプ継手から切断するリングの長さを選択することを含む、請求項2~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記パイプ継手から切断するリングの長さを前記パイプ継手の前記壁厚の約2倍に選択することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記予備パイプ継手から切断するリングの長さを実質的に50mmに選択することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
工程ii)が、前記パイプ継手が使用される深さに安全率を適用する工程をさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記安全率が、前記パイプ継手が使用される深さに追加される、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記安全率が係数である、請求項
10に記載の方法。
【請求項13】
前記安全率が1.1である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
工程vii)が、前記確率分布から10
-6または10
-7の確率で発生する静水圧崩壊圧力を決定することを含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記一般化パレート分布のスケールおよび形状パラメータ値が、ベイジアンMCMC法を使用して導出される、請求項
1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記一般化パレート分布
の形状パラメータ値が-0.5以下である、請求項
1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記内径および前記壁厚を有する複数のパイプ継手を製造する工程をさらに含む、請求項1~
16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記複数のパイプ継手が崩壊する前記静水圧崩壊圧力を表すデータをもたらす外圧崩壊試験を実施する工程をさらに含む、請求項
17に記載の方法。
【請求項19】
前記外圧崩壊試験が、
前記複数のパイプ継手の1つ以上からリングを切断する工程と、
前記リングの両端に平らで実質的に平行な面を形成する工程と、
前記リングの歪みおよび変形を測定する手段を提供する工程と、
前記リングの両端が圧力室の対向する壁とシールを形成し、前記リングの内側を外側から隔離するように、前記リングを前記圧力室に取り付ける工程と、
前記リングの外側の圧力を増加させ、圧力の増加に伴う前記リングの歪みおよび変形を測定する工程と、
前記リングの外側に加えられる圧力と測定される最大歪みとの比較を決定して、圧力の増加に伴うリング直径の非線形減少の加速の開始を検出する工程と
を含む、請求項
18に記載の方法。
【請求項20】
請求項1~
19のいずれか一項に記載の方法に従って決定された壁厚を有する、海底パイプラインで使用するパイプ継手。
【請求項21】
請求項1~
19のいずれか一項に記載の方法に従って決定された壁厚を有する1つ以上のパイプ継手を備える海底パイプライン。
【請求項22】
海底パイプラインで使用するパイプ継手の静水圧崩壊圧力の決定方法であって、
i)前記パイプ継手の内径を決定する工程と、
ii)前記パイプ継手を使用する深さの最小許容静水圧を決定する工程と、
iii)前記パイプ継手の目標壁厚を決定する工程であって、前記目標壁厚が前記内径および前記最小許容静水圧に対応する工程と、
iv)前記内径および前記目標壁厚を有する複数の予備パイプ継手を製造する工程と、
v)前記複数の予備パイプ継手が崩壊する前記静水圧崩壊圧力を表すデータをもたらす外圧崩壊試験を実施する工程と、
vi)極値理論から導出された
一般化パレート分布に基づいて、前記データに対応する確率分布を決定する工程と、
vii)前記確率分布から、10
-5以下の確率で発生する静水圧崩壊圧力を決定する工程と
を含む、方法。
【請求項23】
前記内径および前記静水圧崩壊圧力に対応する前記パイプ継手の前記壁厚を決定する工程をさらに含む、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底パイプラインで使用するパイプ継手を設計する方法に関する。特に、本発明は、パイプ継手の最小壁厚を決定する方法に関する。
【発明の概要】
【0002】
オイルおよびガス産業において、オイルおよび/またはガスの深海貯留層にアクセスするための、通常2,000mよりも深い超深海での設置および運用に適した海底パイプラインの製造は、過去20年にわたり、着実に発展してきた。現在、直径約16インチ(約41cm)の小径パイプが、最大約3,000mの深さに設置されている。直径が最大32インチ(81cm)の大径パイプが、最大2500mの水深に設置されている。将来のプロジェクトでは、最大3,500mおよびそれ以上の深さにパイプを設置および運用する必要が生じる可能性がある。
【0003】
このようなパイプラインは、通常、大気圧の空気を充填した状態で設置され、その後、設置が完了すると圧力下でオイルまたはガスが充填される。このタイプのパイプラインの設置中の主なリスクは、水によって加えられる静水圧に起因し、これにより、パイプラインが最初の略丸い形状から略平らな形状に変形する可能性がある。これは、外圧崩壊と呼ばれ、制御されない場合、パイプライン全体の損傷につながる可能性がある。外圧崩壊の可能性を判断する場合、パイプラインの主な寸法は内径および壁厚である。これらの寸法は、パイプラインが経済的に実現可能かどうかを判断する際の主な要因でもある。内径は、パイプラインを通じてオイルまたはガスを輸送することができる速度を左右し、パイプラインの耐用年数にわたる運用コストにも影響を与える。また、壁厚は、パイプラインの製造および設置のコストに直接比例する。つまり、パイプラインの製造および設置のコストは、壁厚が増すにつれて増加する。
【0004】
特定の深さで運用するために必要なパイプラインの寸法を計算するための標準工業設計指針が何十年も使用されてきた。しかしながら、このような指針は、可能な限り外圧崩壊の回避を保証するために、パイプラインの最小壁厚を過度に厚く評価する。しかし、このような保守的な手法は、パイプラインの製造および設置のコストを大幅に増加させる。
【0005】
したがって、外圧崩壊の可能性を最小限に抑えながら、パイプラインの壁厚をより正確に決定することができる方法が必要である。
【0006】
本発明の第1の態様によれば、海底パイプラインで使用するパイプ継手の壁厚の決定方法であって、i)パイプ継手の内径を決定する工程と、ii)パイプ継手を使用する深さの最小許容静水圧を決定する工程と、iii)パイプ継手の目標壁厚を決定する工程であって、目標壁厚が上記内径および上記最小許容静水圧に対応する工程と、iv)上記内径および上記目標壁厚を有する複数の予備パイプ継手を製造する工程と、v)複数の予備パイプ継手が崩壊する静水圧崩壊圧力を表すデータをもたらす外圧崩壊試験を実施する工程と、vi)極値理論から導出された統計的テールモデルに基づいて、上記データに対応する確率分布を決定する工程と、vii)上記確率分布から、10-5以下の確率に対応する静水圧崩壊圧力を決定する工程と、viii)上記内径および上記静水圧崩壊圧力に対応するパイプ継手の壁厚を決定する工程とを含む方法が提供される。本方法は、従来のパイプ継手設計方法によって提供される壁厚と比較して、壁厚が薄いパイプ継手を設計するために使用される。したがって、本方法は、数十年前に確立され、今日も使用され続けている従来の方法から大きく逸脱し、海底パイプラインの可用性、ならびにパイプラインで使用するパイプ継手の製造および設置においてかなりの商業的利点を提供する。
【0007】
好ましくは、工程v)は、複数の予備パイプ継手の1つ以上からリングを切断する工程と、リングの両端に平らで実質的に平行な面を形成する工程と、リングの歪みおよび変形を測定する手段を提供する工程と、リングの両端が圧力室の対向する壁とシールを形成し、リングの内側を外側から隔離するように、リングを圧力室に取り付ける工程と、リングの外側の圧力を増加させ、圧力の増加に伴うリングの歪みおよび変形を測定する工程と、リングの外側に加えられる圧力と測定される最大歪みとの比較を決定して、圧力の増加に伴うリング直径の非線形減少の加速の開始を検出する工程と、をさらに含む。これにより、実規模のパイプ試験と比較して、外圧試験を実施するための信頼性の高い、費用対効果の高い方法が提供される。
【0008】
好ましくは、リングの歪みおよび変形を測定する手段を提供する工程は、リングにセンサを適用することを含む。リングの内面にセンサを配置することが特に好ましい。
【0009】
好ましくは、圧力室にリングを取り付ける工程は、リングの両端と室の壁との間にシールを設けることを含み、リングの外側の圧力を増加させる工程は、リングの外側の周りの室に加圧流体を圧送することを含む。
【0010】
パイプ継手から切断するリングの長さは、パイプ継手がなおパイプラインで使用するための許容範囲内に留まるように選択されることが好ましい。通常、リングの長さは、パイプ継手の壁厚の約2倍になるように選択される。あるいは、長さは、実質的に50mmである。
【0011】
好ましくは、工程ii)は、最小許容静水圧、したがってパイプ継手の目標壁厚を増加させるために、パイプ継手が使用される深さに安全率を適用する工程をさらに含む。好ましくは、安全率は係数である。安全率が1.1であることが特に好ましい。あるいは、安全率は、パイプ継手が使用される深さに追加される。
【0012】
好ましくは、工程vii)は、確率分布から10-6または10-7の確率で発生する静水圧崩壊圧力を決定することを含む。この確率レベルは、非常に高い安全クラスイベントの名目上の確率レベル10-6に対応するように選択される。
【0013】
好ましくは、統計的テールモデルは、一般化パレート分布(GPD)である。GPDは、極値理論から導出された統計的テールモデルである。GPDは、適切に選択された閾値を超える物理過程の超過の分布を表す。統計的極値理論によると、GPDには非縮退のすべてのクラスのテール挙動が含まれている。
【0014】
好ましくは、GPDのスケールおよび形状パラメータ値は、基礎となる分布の裾または極値が極端に短いアプリケーションで不規則な挙動を起こしやすい標準的な最尤法ではなく、ベイジアンMCMC法を使用して導出される。GPDの形状パラメータ値は、-0.5未満、つまり-0.5以下であることが特に好ましい。
【0015】
好ましくは、本方法は、上記内径および上記壁厚を有する複数のパイプ継手を製造する工程をさらに含む。外圧崩壊試験を実施して、複数のパイプ継手が崩壊する静水圧崩壊圧力を表すデータを得ることが特に好ましい。
【0016】
好ましくは、外圧崩壊試験は、複数のパイプ継手の1つ以上からリングを切断する工程と、リングの両端に平らで実質的に平行な面を形成する工程と、リングの歪みおよび変形を測定する手段を提供する工程と、リングの両端が圧力室の対向する壁とシールを形成し、リングの内側を外側から隔離するように、リングを圧力室に取り付ける工程と、リングの外側の圧力を増加させ、圧力の増加に伴うリングの歪みおよび変形を測定する工程と、リングの外側に加えられる圧力と測定される最大歪みとの比較を決定して、圧力の増加に伴うリング直径の非線形減少の加速の開始を検出する工程と、を含む。
【0017】
本発明の第2の態様によれば、海底パイプラインの製造に使用するパイプ継手であって、本発明の第1の態様の方法を使用して決定された最小壁厚を有するパイプ継手が提供される。
【0018】
本発明の第3の態様によれば、本発明の第1の態様の方法を使用して決定された最小壁厚を有する1つ以上のパイプ継手を備える海底パイプラインが提供される。
【0019】
本発明の第4の態様によれば、海底パイプラインで使用するパイプ継手の静水圧崩壊圧力の決定方法であって、i)パイプ継手の内径を決定する工程と、ii)パイプ継手を使用する深さの最小許容静水圧を決定する工程と、iii)パイプ継手の目標壁厚を決定する工程であって、目標壁厚が上記内径および上記最小許容静水圧に対応する工程と、iv)上記内径および上記目標壁厚を有する複数の予備パイプ継手を製造する工程と、v)複数の予備パイプ継手が崩壊する静水圧崩壊圧力を表すデータをもたらす外圧崩壊試験を実施する工程と、vi)極値理論から導出された統計的テールモデルに基づいて、上記データに対応する確率分布を決定する工程と、vii)上記確率分布から、10-5以下の確率で発生する静水圧崩壊圧力を決定する工程とを含む方法が提供される。
【0020】
好ましくは、本方法は、上記内径および上記静水圧崩壊圧力に対応するパイプ継手の壁厚を決定する工程をさらに含む。
【0021】
ここで、本発明の上記および他の態様を、添付の図面を参照して単なる例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】
図1のパイプ継手から切断された試験リングの断面を示す。
【
図7】静水圧に対してプロットされた確率密度関数のグラフであり、フィッティングされた正規モデルとフィッティングされたGPDモデルとの差を示す。
【
図8】確率範囲0~0.6にわたる
図7の2つのモデルの分布関数を示すグラフである。
【
図9】確率範囲10
-1から10
-9にわたる
図7の2つのモデルの分布関数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図面において、同様の部分は同様の参照番号で示す。
【0024】
海底パイプラインシステムを選択する場合、もちろん、パイプラインの製造に使用するパイプ継手の内径および壁厚など、その設計に関連するすべての側面を考慮する必要がある。パイプ継手の内径は、パイプラインを通る流体の流れがパイプラインの運用寿命中に経済的な成功を保証するのに十分であることを確認するために計算される。内径が計算されたら、当該内径とパイプラインが使用される深さの静水圧とに従って、パイプライン設置中の外圧崩壊をできる限り回避するように、パイプ継手の目標壁厚を計算する。目標壁厚は、標準工業設計指針を使用して計算することができる。このような計算に一般的に使用される指針の例は、DNV-OS-F101であり、当該指針では、パイプライン設置中の圧力崩壊損傷に起因する安全性は、圧力崩壊過程の近似理論モデルを、パイプ材料特性に関連する理論的に導出されたいくつかの要因および一般的に理論的に導出された安全率とともに用いて決定される。指針の例では、パイプ継手の目標壁厚は、パイプラインが使用される深さに1.32の安全率を適用することによって得られる。これにより、パイプ継手がさらされる仮想の静水圧が増加するため、目標の壁厚の増大につながる。しかしながら、本開示では、1.1の安全率を使用することができる。1.32の安全率は、荷重抵抗係数設計(LRFD)法を使用して、指針が作成された時点で利用可能な崩壊圧力試験結果と比較して較正されている。超深海への設置中に非常に長いパイプラインが損傷することによる経済的影響が大きいため、特定のプロジェクトでは、さらに特定のパイプ継手崩壊試験に基づいてパイプラインの設計を行うことが慣例となっている。しかしながら、実規模のパイプ継手の圧力試験は、適切な圧力室を必要とするため高価である。超深海に相当する圧力を加えることができる圧力室は世界でも数が少なく、パイプミルから適切な試験施設へのパイプ継手の輸送は、不便で高価である場合が多い。少なくともこれらの理由から、通常、超深海パイプラインを含む特定のプロジェクトでは、少数の実規模のパイプ圧力試験が実施されるのみである。
【0025】
個々のパイプ継手の長区間の試験では、外圧崩壊につながる変形がパイプ長さに沿って実質的に均一であることが示されている。この観察結果は、実地試験、理論的研究および数値モデリングによって支持されている。外圧崩壊が発生する静水圧は、リングがパイプ継手と同じ荷重を受ける場合、パイプ継手から切断されたリングとパイプ継手全体とで同じになることが示唆される。出願人は、パイプ継手からリングを切断し、リングを均一な長さに機械加工することに基づく試験方法を使用して、実規模のパイプ試験に代わる代替外圧崩壊試験を開発した。この手法は、国際公開第2008/114049号に示されている。海底パイプラインの製造に使用するパイプ継手の試験方法および装置が記載されており、当該試験には、製造されたパイプ継手から切断および機械加工されたリング試験片(以下「試験リング」)の試験が含まれる。
【0026】
試験リングは、試験リングの機械加工面をシールできる剛性フレームに配置されており、試験リングの外側の円形面にのみ圧力を加えることができる。試験リングの内側の円形面は周囲圧力に維持されているため、試験リングの外側円形面の圧力によって引き起こされる歪みおよび変形を測定するための装置を取り付けるのに適している。
【0027】
試験リングの機械加工された平らな両表面のシールは、圧力崩壊試験中に試験リングの円形面の変形を妨げるようになっている。リングの平らな両表面のシールは、試験中に、圧力を試験リングの外側の円形面のみに、かつ平らな機械加工された両表面の小さな領域のみに制限するようになっている。シールは、試験リングが機械加工された両表面に平行な力を実質的に受けないようにして、試験リングの円形面の変形を妨げるようになっている。
【0028】
外部ポンプによって圧力を加え、特定量の流体を試験リングの外側円形面を囲む空間に追加する、またはその空間から減じることによって圧力が増加または減少するようにする。この構成によって、外側円筒面への圧力によって引き起こされる試験リングの半径方向の変形を、制御された様式で、大きくまたは小さくすることができる。
【0029】
試験リングの機械加工された両平面上のシールの動作は、シールに変形がないことを保証するように形作られた剛性ブロックに試験リングを入れることで実現することができる。別の構成は、試験リングの外側円筒面に加えられるのと同じ(または異なる)圧力を受けるピストンの動作によって、シールが調整および制御される空間を確保することである。
【0030】
一般的な試験には、i)パイプから試験リングを切断し、規定の公差内に両端を平らで平行に機械加工する工程と、ii)アタッチメントを取り付けて、試験リングの歪みおよび変形を測定する工程と、iii)所定の位置にシールを有するフレームに試験リングを取り付ける工程と、vi)圧力を加えて、シールが有効かつ効果的であることを確認する工程と、v)圧力を増加させて、歪みおよび変形の測定値を記録する工程と、vi)最大値に達するまで、つまり外圧崩壊が発生するまで圧力を増加させ続ける工程とが含まれる。
【0031】
また、測定された最大歪みに対する加えられた圧力の曲線をプロットして、シールを通過する作動流体の漏れに依存しない圧力の増加に伴うリング直径の非線形減少の加速の開始を検出することも有用であり得る。
【0032】
図1は、海底パイプラインで使用されるパイプ継手10を示す。通常の例では、長さが約12.2m、外径が508mm、壁厚が35mmである。試験リング12(
図2にも示す)は、パイプの一端から切断され、壁厚の約2倍の長さ70mmを有する。この長さの試験リング12が切断された後でも、パイプ継手10は、なおパイプラインの建設に使用することができる。試験リング12の両端面14は、実質的に平行で平らになるように機械加工されている。実質的に平行で平らとは、試験リング12の全長の公差が±0.01mmであることを意味する。粗度係数は、ISOグレードN6を超えないことが望ましい。
【0033】
図3および
図4は、試験のために所定の位置に試験リング12がセットアップされた、本試験方法で使用する試験装置の一実施形態を示す。試験リング12は、上部部分16と下部部分18との間に取り付けられ、この両部分は共に圧力試験室を画定する。圧力試験室の2つの部分16、18には、位置決め栓19が設けられており、これは、対応する位置決め穴に関連シール21とともに配置されていて、2つの半部分の位置決めを可能にする。Oリングまたは圧力を加えられた圧力保持シール20が、上部および底部部分に設けられている。これらのシールは、試験リング12と係合して、適切な入口24を介した加圧液圧試験流体の供給によりアクセス可能な環を形成する。試験リング12の内側の中央空隙26は、試験リング12の内側円筒面の歪みゲージ(図示せず)への計装配線へのアクセスも提供するのに十分な大径のブリード穴28を介して大気に通気される。
【0034】
2つの半部分16、18は、機械的密封ねじ30によって一緒に保持されている。ねじ30は、上部部分16の穴32を通って延び、空隙26を通過して、底部部分18のねじ穴34に係合する。2本のねじ30が示されているが、適切な締め付け固定を確保するために任意の適切な数を使用することができる。
【0035】
2つの部分16、18を一緒に保持する力は、環22を圧力保持シール20、21に対して内側および外側に圧密にするのに十分である。試験リング12をパイプから切断する際の許容範囲は、液圧荷重下で試験リング12の外径から半径方向内側への移動の際の過度の拘束摩擦を回避しながら、環22から空隙26への漏れが発生しない範囲である。
【0036】
図5は、試験装置の第2の実施形態を示しており、この実施形態では、
図3および
図4に示した締め付けねじは液圧ピストン装置に置き換えられている。シリンダ36は、ピストン38が摺動可能に配置された下部部分18に形成される。シリンダの外端は、プレート40で閉鎖されている。摺動シールを備えた穴42が、シリンダ36の内端から空隙26まで延びている。連接棒44が、ピストン38から穴42を通って上部部分16の位置決め穴46に延び、そこでピストンリング締め付け具48に固定されている。入口50が、シリンダ36の下端に設けられて、加圧流体の流入を可能にし、シリンダ36に沿ってピストン38を駆動して上部部分16を下部部分18に締め付け固定する。
【0037】
図6は、試験のために所定の位置に試験リング12がセットアップされた、本試験方法で使用する試験装置のさらなる実施形態を示す。試験リングは、上部円筒形部分16と底部円筒形部分18との間に取り付けられ、両円筒形部分の間にスペーサリング部分52が配置され、これらは一緒に圧力試験室を画定する。装置には、圧力室に加圧流体を供給するための入口24が設けられている。
【0038】
上部および底部部分はリング状で、中央開口部26を有する。中央開口部は、圧力崩壊試験を実施するためのセンサおよび他の装置を取り付けるために、試験装置の中心と試験リングの内面とへのアクセスを提供する。上部部分と底部部分の対向する面は、段差を有し、それぞれ、上部部分16の底部および底部部分18の上部の縁周りに円周方向に延びる肩部54を形成している。これにより、肩部と各部分の開口部との間に突出した環状段付き部分56が設けられる。各部分の肩部54は、支持面を備え、各支持面の間にスペーサリング52が配置されている。上部および底部部分の各環状段付き部分56は、支持面を備え、各支持面に試験リング12が取り付けられている。環状段付き部分の外径は、スペーサリング52の内径に実質的に対応する。スペーサリング52は、上部および底部部分の2つの面の間の距離を調整するのに役立つ。スペーサリング52の内径は、上部および底部部分16、18の外径よりも小さく、それぞれの開口部の直径よりも大きい。スペーサリング52の外径は、上部および底部部分16、18の外径よりも大きい。
【0039】
シール手段20を保持する円周溝が、上部および底部部分16、18の対向する面に設けられている。追加のシール手段58が、スペーサリング52と上部および底部部分16、18の環状段付き部分56の側面との間に、環状段付き部分の側面の円周溝に設けられている。
【0040】
上部および底部部分は、上部部分16の外側縁部周りの穴32およびスペーサリング20を通って延び、底部部分18の穴32と係合する機械的シール手段、たとえばねじ(図示せず)によって一緒に保持される。追加の固定手段が、上部部分の環状段付き部分56の穴を通って延び、底部部分18の環状段付き部分56の穴と係合してもよい。各部分を一緒に適切に締め付け固定するために、任意の数の固定手段を使用することができる。
【0041】
本試験方法は、関連する試験装置とともに、以前の実規模のパイプ試験手法に勝る多くの利点を実証している。まず、パイプラインに必要なすべてのパイプ継手から取り出した試験リングの代表サンプルの試験が可能になり、これらの各パイプ継手の外部静水圧崩壊に耐える能力の直接的、物理定量的な証左をもたらし得る。各試験リングの崩壊許容範囲は、切断元のパイプ継手の崩壊許容範囲の代表として確実に保持することができる。2つ目に、本試験方法の使用は、実規模のパイプ試験を実施するよりもはるかに安価であるため、データセットが大きくなり、十分に規格外の単一の継手が崩壊を起こす統計的確率の増加に対して、パイプラインの長さの増加に伴って露出が増加することに基づいてパイプライン全体の壁厚を増加させる、例示の指針で現在使用されている安全率の低減を可能にする。各試験リングが切断されたパイプ継手は、製品のパイプ継手としてなお使用することができるため、無駄にならない。
【0042】
目標壁厚が計算されると、複数の予備パイプ継手が製造され、各パイプ継手は上記内径および上記目標壁厚を有する。次に、予備パイプ継手で外圧崩壊試験を実施して、外部静水圧に対する許容範囲を決定し、予備パイプが崩壊する静水圧崩壊圧力を表すデータセットを得る。外圧崩壊試験は、実規模のパイプ継手で、または好ましくは、出願人によって開発された前述の試験方法を使用して実施することができる。
【0043】
次に、データセットを検査して、たとえば10
-7の確率で静水圧崩壊圧力がどの程度になるかを決定する。これは、データセットに基づいて確率分布をプロットすることにより行われる。現在の慣例では、確率分布を取得するために、正規分布モデルをデータセットにフィッティングさせる。しかしながら、本発明は、一般化パレート分布(GPD)モデルなどの極値理論から導出された統計的テールモデルをフィッティングすることにより確率分布を決定する。
図7は、静水圧(x)に対してプロットされた確率密度関数f(x)のグラフ61を示し、フィッティングされた正規モデル62およびフィッティングされたGPDモデル64の密度関数間の差を示している。両方のモデル62、64は、34.7MPa~44.4MPaの範囲にあるデータセットにフィッティングされており、グラフ61は、25MPa~40MPaの範囲にわたってプロットされていて、上記データセット範囲と観測値がない分布のはるかに低いテールとの両方に及ぶ。フィッティングされた正規モデル62は、平均39.2MPaおよび標準偏差2.1MPaがサンプルの平均および標準偏差にそれぞれ対応する、ベル型の分布を示している。フィッティングされたGPDモデル64は、この例では閾値40.3MPaより下のデータにのみフィッティングされた統計的テールモデルである。フィッティングされたGPDモデル64の分布のパラメータは、スケール3.91MPaおよび形状-0.669である。これらのパラメータは、ベイジアンMCMC法を使用して導出された事後平均である。グラフ61から、フィッティングされたGPDモデル64から導出された分布は、有限の下端点で突然停止する凸状のテールを有することが明らかであろう。これは、崩壊の確率が低下するにつれて予測される崩壊圧力のレベルが指数関数的に低下する無限に長い連続テールを有するフィッティングされた正規分布モデルから導出された分布と対照的である。
【0044】
図8および
図9はそれぞれ、グラフ66、68を示し、確率範囲にわたって2つのモデル62、64の分布関数をプロットし、データが存在する範囲から極端な観測値のないはるかに低いテールまで移動している。
図8から、確率範囲0~0.6にわたる2つのモデル62、64の分布関数は、データが存在する範囲で密接に一致することがわかる。
【0045】
図9のグラフ68は、確率範囲10
-1~10
-9にわたる2つのモデル62、64の分布関数を示している。このプロットは、2つのモデル62、64がデータセットからさらに外挿され、データセットの範囲を超える圧力に対する外圧崩壊の確率を推定するため、2つのモデル62、64の違いを強調している。グラフ68から明らかなように、フィッティングされた正規モデル62から導出された分布関数は、ゼロに向かってゆっくりと減衰する低いテールを有し、凸状形状の、データセット内で観測された最小のデータ点に比較的近い有限の下端点を有するフィッティングされたGPDモデル64から得られた分布曲線と比較して、はるかに高い崩壊確率を割り当てる。
【0046】
フィッティングされたGPDモデルの使用によって、パイプ継手の外圧崩壊を確実に予測する新規の方法が提供され、パイプ継手の壁厚の大幅な削減を可能にし、パイプラインの商業的可用性の向上と大幅なコスト削減とがもたらされる。たとえば、データセットが深さ2,500mに設置されるパイプ継手に関連すると仮定すると、パイプ継手の最小許容崩壊圧力は、水密度1,025kg/m
3および重力加速度9.81m/s
2に基づいて、25.1MPaの範囲にある。
図9を参照すると、データセットは、フィッティングされた正規モデル62から導出された分布関数に基づく確率10
-7でのパイプ崩壊圧力は29MPaの範囲にあることを示している。この圧力を最小許容崩壊圧力25.1MPaと比較すると、当該点の継手の目標壁厚および内径は安全性を有し、おそらく壁厚をたとえば1mmだけわずかに低減し得ることがわかる。この例では、パイプラインの長さが500kmであると仮定する。このようなパイプラインの建設には、約40,000個のパイプ継手が必要である。パイプ鋼のコストが1m
3あたり約19,000ポンドの場合、壁厚を1mm低減すると、約2,300万ポンドの節約になる。
【0047】
同じデータセットは、フィッティングされたGPDモデル64から導出された分布関数に基づく確率10-7でのパイプ崩壊圧力は34.5MPaの範囲にあることを示している。この圧力を最小許容崩壊圧力25.1MPaと比較すると、目標壁厚は過度に慎重であることがわかり、それにより壁厚を大幅に削減する機会が開放され、大幅なコスト削減につながる。上記の例に続いて、確率10-7でのフィッティングされたGPDモデル64を使用して導出されたパイプ崩壊圧力と最小許容崩壊圧力25.1MPaとの差は、壁厚を9mm程度ほど大幅に低減し得ることを示している。このような壁厚の低減は、約2億400万ポンドの節約につながる可能性がある。これは、フィッティングされた正規分布モデル62を使用して導出された確率分布関数を使用して導出される可能な節約額と比較すると、桁違いに大きい。
【0048】
本発明による方法は、数十年前に確立され、今日も使用され続けている従来のパイプ継手設計方法から大きく逸脱し、海底パイプラインの可用性、ならびにパイプラインで使用するパイプ継手の製造および設置においてかなりの商業的利点を提供する。当業者であれば、現在開示されている方法は、限定ではなく例として教示していることが理解されよう。したがって、上記の説明に含まれるまたは添付の図面に示される事項は、限定的な意味ではなく、例示として解釈されるべきである。添付の特許請求の範囲は、言語の問題としてそれらの中間に属する可能性がある、本明細書に記載されているすべての一般的および特定の特徴、ならびに本方法および装置の範囲のすべての記述を包含することが意図される。