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  • 特許-回転ディスク機構 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】回転ディスク機構
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/06 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
B25J15/06 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021018320
(22)【出願日】2021-02-08
(65)【公開番号】P2021130192
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2021-02-08
(31)【優先権主張番号】202010098130.9
(32)【優先日】2020-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】505072650
【氏名又は名称】浙江大学
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】黎 ▲しん▼
(72)【発明者】
【氏名】余 徐波
(72)【発明者】
【氏名】趙 江宏
【審査官】稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-324090(JP,A)
【文献】特開2019-169537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転ディスク機構であって、
平板と、該平板を駆動して回転させる回転装置とを備え、平板の回転によって平板の下面とその吸着対象物の表面との間に負圧を発生させ、平板と吸着対象物とが該負圧により生成された吸着力で一体に吸着され、このとき、平板の下面と吸着対象物の表面との間に隙間があり、
前記平板に貫通孔が設置され、前記貫通孔は平板の上下両側の流体に連通し、負圧により前記貫通孔から空気を吸い込み、回転している空気膜の内部において前記貫通孔から外周までの径方向の隙間流動を形成することにより、正圧成分を形成し、負圧分布及び吸引力を弱めることを特徴とする回転ディスク機構。
【請求項2】
前記回転装置はモータと回転軸を備え、回転軸は平板に接続され、モータは回転軸を駆動することで平板を回転駆動することを特徴とする請求項1に記載の回転ディスク機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は負圧吸着の技術分野に関し、特に回転ディスク機構に関する。
【背景技術】
【0002】
吸着技術は、広く応用されている基本技術であり、自動化生産ラインにおいてワークを吸着・移動することはその応用シーンの代表例の1つである。例えば、出願番号CN201310366707.Xの特許文献には、内部にファンが設置されたハウジングを備える物体吸着装置が開示されている。ファンがモータにより回転駆動され、ハウジング内に回転気流が形成される。回転気流による遠心力の作用により、ハウジングの内部に凹んだ負圧分布が形成される。従って、該装置はワークを吸いつけることができる。出願番号JP2009-298331Aの特許文献には、ハウジングに吸気孔が増設され、空気を吸い込んでハウジングの下端面から空気を排出することにより、ワークと一定の間隔を保持しながらワークを吸着することができ、それにより、非接触吸着を実現することのできる非接触吸着装置が開示されている。しかしながら、上記2つの特許技術は以下の欠点がある。
【0003】
(1)ファンが空気を駆動して形成した回転気流は、連続していない回転気流である。図1(上面断面図)に示すように、ファン1′はハウジング2′内で反時計回りに回転する。円周方向において、2枚のファン1′間の空気の速度に速度勾配が大きい、即ち、ファンブレードのA面に隣り合う空気がファンブレードと同じ速度を維持する。しかしながら、A面とB面との間の空気はファンブレードにより直接駆動されない上に、ハウジング2′の静止壁面であるC面による粘性作用を受けて減速し、この結果、空気の回転数がA面からB面に向かうに従って減少する。回転気流の内部の速度が一致しないことにより同一半径での負圧も回転方向において変化し、このため、ファン1′の回転に伴いワーク表面のいずれかの部分の面積で受けた吸引力は周期的に変化するように波動し、それにより、深刻な振動の問題をもたらしてしまう。
【0004】
(2)A面、B面、C面、ハウジング2′の天面及び被吸着対象の表面(図1では図示せず)により1つの空間が画定されている。この空間は複数の面からなり、2つの可動面(A面及びB面)及び3つの固定面(C面、ハウジング2′の天面及び被吸着対象の表面)を含む。該空間内の空気は、複数の界面に制限されて複雑な流動を行うものである。このような流動は二次流動を形成しやすい。二次流動は回転流動を弱め、更に負圧分布を弱め、吸着力を減少させることとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の解決しようとする技術的課題は、回転ディスクと被吸着対象との間に連続して一致し安定した流体膜を形成し、二次流動を発生しにくくし、回転ディスクと被吸着対象との間の吸着力を一層安定化する回転ディスク機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、平板と、該平板を駆動して回転させる回転装置とを備え、平板の回転によって平板の下面とその吸着対象物の表面との間に負圧を発生させ、平板と吸着対象物とが該負圧により生成された吸着力で一体に吸着され、このとき、平板の下面と吸着対象物の表面との間に隙間がある回転ディスク機構を提供することにより、実現される。
【0007】
さらに、前記回転ディスク機構は更に突き出し棒を備え、前記突き出し棒は接続部材により回転装置に接続固定され、突き出し棒の先端が吸着対象物の表面に延在して対象物の表面に接触し、平板の下面と吸着対象物の表面との間に隙間を保持させる。
【0008】
さらに、前記突き出し棒に高さ調節装置が設置されており、前記高さ調節装置は突き出し棒の先端の延出位置を調節して、更に平板の下面と吸着対象物の表面との間の隙間の大きさを調整することができる。
【0009】
さらに、前記高さ調節装置は押し棒装置であり、押し棒装置は回転装置に接続固定され、動作すると、突き出し棒の先端の延出位置を調節し、それにより、平板の下面と吸着対象物の表面との間の隙間の大きさを調整する。
【0010】
さらに、前記平板に貫通孔が設置され、貫通孔は平板の上下両側の流体に連通する。
【0011】
さらに、前記回転装置はモータと回転軸を備え、回転軸は平板に接続され、モータは回転軸を駆動することで平板を回転駆動する。
【発明の効果】
【0012】
従来技術に比べて、本発明の回転ディスク機構は、平板と、該平板を駆動して回転させる回転装置とを備え、回転平板は流体の粘性によって流体膜を回転駆動して、平板の下面とその吸着対象物の表面との間に負圧を発生させる。平板は連続表面であるので、円周方向において、流体膜内の流体が連続して一致する回転状態であり、形成された負圧分布及び吸引力も連続して安定したものである一方、流体膜は平板の表面及び吸着対象物の表面にのみ制限され、流体の流動を制限する界面の数が少なくなり、簡単で安定した流動となり、二次流動が発生しにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は従来の吸着装置の上面断面図である。
図2図2は本発明の回転ディスク機構の実施例1の構造原理模式図である。
図3図3は本発明の回転ディスク機構の実施例2の構造原理模式図である。
図4図4は本発明の回転ディスク機構の実施例3の構造原理模式図である。
図5図5は本発明の回転ディスク機構の実施例4の構造原理模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明が解決しようとする技術的課題、技術案及び有益な効果をより明確にするために、以下、図面を参照しながら実施例によって本発明を更に詳しく説明する。なお、ここで説明する具体的な実施例は本発明を解釈するためのものであり、本発明を制限するものではない。
【0015】
図2に示すように、本発明の回転ディスク機構の好適な実施例は、平板1と、該平板1を駆動して回転させる回転装置2とを備え、平板1の回転によって平板1の下面とその吸着対象物3の表面との間に負圧を発生させ、平板1と吸着対象物3とが該負圧により生成された吸着力で一体に吸着され、このとき、平板1の下面と吸着対象物3の表面との間に隙間4がある。
【0016】
以下、具体的な実施例によって本発明の回転ディスク機構の具体的な構造を更に説明する。
【実施例1】
【0017】
本発明の回転ディスク機構の第1実施例である。
【0018】
図2に示すように、回転装置2は1台のモータであり、平板1はモータ軸5に固定して取り付けられる。モータはモータ軸5によって平板1を回転駆動する。回転している平板1の下方に吸着対象物3がある。平板1と吸着対象物3の表面との間に一定の距離が保持され、流体膜が形成される。空気環境を例とし、該流体膜は空気膜である。空気流体の粘性作用により、回転している平板1はその下の空気膜を回転駆動する。回転している空気膜の内部に遠心力が発生し、空気膜の内部空気を排出させ、それにより平板1と吸着対象物3の表面との間に負圧分布を形成する。負圧分布によって吸引力が平板1と吸着対象物3との間に印加され、平板1と吸着対象物3が該負圧により生成された吸着力により一体に吸着され、このとき、平板1の下面と吸着対象物3の表面との間に隙間4がある。
【実施例2】
【0019】
本発明の回転ディスク機構の第2実施例である。実施例1の構造を更に分析したところ、平板1は粘性作用によって流体膜を回転駆動し、平板1と吸着対象物3の表面との距離が流体の粘性作用に大きく影響することが分かる。間隔が小さいと、粘性作用が高くなり、流体膜の回転が一層十分になり、間隔が大きいと、粘性作用が低くなり、流体膜の回転が弱まる。十分に回転する流体膜は、一層低い負圧及び一層大きな吸引力を形成することができるが、十分に回転していない流体膜の負圧分布は弱く、吸引力も弱まる。以上から分かるように、平板1と吸着対象物3の表面との間の間隔の大きさを設定することにより、それらの吸着力を設定することができる。
【0020】
図3に示すように、本実施例では、回転装置に複数の突き出し棒6が増設されている。突き出し棒6は回転装置2に固定して接続される。本例では、突き出し棒6は接続部材8によって回転装置2に接続固定される。突き出し棒6の先端部は平板1の下端面より低く、吸着対象物3の表面に接触する。突き出し棒6の先端部と平板1との高さの差は平板1と吸着対象物3の表面との間の間隔である。このため、突き出し棒6の長さを設定することにより、平板1と吸着対象物3の表面との間の隙間を設定することができる。平板1の回転数が一定である場合、突き出し棒6の先端部と平板1の下面との高さの差を減少することにより、大きな吸引力を得ることも、突き出し棒6の先端部と平板1の下面との高さの差を増加することにより吸引力を弱めることもできる。
【実施例3】
【0021】
本発明の回転ディスク機構の第3実施例である。実施例2に基づいて、回転ディスク機構に高さ調節装置が増設されている。高さ調節装置は突き出し棒6に設置され、突き出し棒6の延出長さを調節することで平板1の下面と吸着対象物3の表面との間の隙間4の大きさを変える。
【0022】
図4に示すように、本実施例では、前記高さ調節装置は複数の押し棒装置7である。押し棒装置7は接続部材8によって回転装置2に接続固定される。押し棒装置7は突き出し棒6の延出長さを調節することで平板1の下面と吸着対象物3の表面との間の間隔を調整する。押し棒装置7は突き出し棒6を押動して上下方向に移動させることができる。突き出し棒6の先端部と平板1の下面との高さの差を増加する必要がある場合、押し棒装置7は突き出し棒6を下向きに押動する。突き出し棒6の先端部と平板1の下面との高さの差を減少する必要がある場合、押し棒装置7は突き出し棒6を上向きに押動する。これにより、平板1と吸着対象物3との間の吸着力の大きさを制御する。
【実施例4】
【0023】
実施例4
本発明の回転ディスク機構の第4実施例である。吸着対象物3の表面がワークの表面である場合、実施例1の回転ディスク機構はワークに接近して吸着力をワークに印加し、ワークは吸い上げられて吸引力の作用により回転している平板1に接近し、ワークが回転している平板1に接近するにつれて、平板1とワークとの間の空気膜が薄くなり、吸引力が増加し、ワークが回転している平板1に更に接近する。最終的に、ワークは回転している平板1と衝突し、その結果、ワークは回転ディスク機構と衝突して破損してしまう。
【0024】
図5に示される平板1の断面図に示すように、上記問題を解決するために、平板1にいくつかの貫通孔9を設置する。平板1とワークとの間に負圧を形成し、負圧により貫通孔9から空気を吸い込む。吸い込まれた空気が回転している平板1に連動して回転して、遠心力の作用により平板の外周に流れる。このように、回転している空気膜の内部において貫通孔9から外周までの径方向の隙間流動が形成される。該径方向の隙間流動の粘性作用は正圧成分を確立し、且つ、隙間4が小さければ小さいほど、粘性作用が高くなり、正圧成分が大きくなる。該正圧成分は回転空気膜の負圧分布に重なり、負圧分布及び吸引力を弱める。ワークの吸着過程において、ワークが回転している平板1に接近するときに、隙間4が小さくなり、正圧成分が大きくなり、吸引力が弱まる。それにより、ワークが回転している平板1に接近し続けることを阻止し、ワークが回転している平板1から離れるときに、隙間4が大きくなり、正圧成分が小さくなり、吸引力を弱める作用が低減し、ワークが回転している平板1から離れ続けることを吸引力によって阻止する。径方向の隙間流動の正圧成分及び回転流動の負圧の共同作用により、ワークは回転している平板1と一定の間隔を保持しながら、回転している平板1の下方に安定的にフロートすることができる。貫通孔9の設計はワークと回転している平板1との衝突を回避することができ、非接触吸着を実現する。該構造による非接触吸着は、精密ワーク(半導体ウェハ、ガラス基板等)の運搬に適用されてもよく、精密ワークの表面の破壊を効果的に回避することができる。
【0025】
上記実施例では、空気を流体媒質として詳しく説明した。本実施例の原理は、あらゆる流体媒質、例えば水、油液等に適用できる。
【0026】
以上の説明は本発明の好適な実施例に過ぎず、本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨及び原則内に行ったいずれの修正、等価置換や改良等も本発明の保護範囲に含まれるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5