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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】成形体製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/012 20060101AFI20230111BHJP
   G02B 6/02 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C03B37/012 A
G02B6/02 356A
G02B6/02 366
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022084973
(22)【出願日】2022-05-25
【審査請求日】2022-05-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】392017004
【氏名又は名称】湖北工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165663
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 光宏
(72)【発明者】
【氏名】荒木 治人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼村 一雅
(72)【発明者】
【氏名】山本 潤
(72)【発明者】
【氏名】中山 達峰
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 昌也
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-525931(JP,A)
【文献】米国特許第07779651(US,B2)
【文献】欧州特許出願公開第00652184(EP,A1)
【文献】国際公開第2013/031484(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 1/00-5/44
8/00-8/04
19/12-20/00
37/00-37/16
C03C 1/00-14/00
G02B 6/02-6/036
6/10
6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形体を製造するための成形体製造装置であって、
架台と、
前記架台に固定された成形体成形用の金型と、
前記金型を貫通した状態でワイヤを保持するワイヤ保持機構とを備え、
前記金型は、
前記成形体の両端面に相当する部位に取り付けられ、前記ワイヤを貫通させる貫通孔が形成された板状のガイドと、
前記金型に前記成形体を形成する溶液を注入するための注入口とを有しており、
前記ワイヤ保持機構は、
前記ワイヤの一端を前記架台に固定する固定部と、
前記ワイヤの他端に対して該ワイヤを直線に保持する所定の張力を付加するための重りを吊り下げる機構、前記ワイヤを直線に保持する所定の張力を付加するよう前記ワイヤの他端を巻き取る機構、又は前記ワイヤを直線に保持する所定の張力を付加するよう前記ワイヤの他端を引っ張る機構を備える成形体製造装置。
【請求項2】
請求項1記載の成形体製造装置であって、
前記金型の外側に配置され、前記ワイヤを通すための滑車と、
前記滑車と前記金型との相対位置を調整するための第1調整機構とを備える成形体製造装置。
【請求項3】
請求項2記載の成形体製造装置であって、
前記第1調整機構は、前記金型の底面の法線方向における前記滑車と前記金型との相対位置を調整可能な機構である成形体製造装置。
【請求項4】
請求項2または3記載の成形体製造装置であって、
前記第1調整機構および前記滑車は、前記金型の両端外側にそれぞれ配置されている成形体製造装置。
【請求項5】
請求項1記載の成形体製造装置であって、
前記ワイヤ保持機構は、
前記ワイヤの一端を前記架台に固定する固定部と、
前記ワイヤの他端に重りを吊り下げることで前記張力を付加する吊り下げ機構を有する成形体製造装置。
【請求項6】
請求項5記載の成形体製造装置であって、
前記吊り下げ機構は、
前記金型内で前記ワイヤを直線に維持するためのワイヤ直線化用滑車と、
前記ワイヤの方向を、前記重りを吊り下げる部位に変更するための方向変換用滑車とを有する成形体製造装置。
【請求項7】
請求項6記載の成形体製造装置であって、
前記方向変換用滑車は、前記ワイヤ直線化用滑車との相対位置を調整するための第2調整機構を備える成形体製造装置。
【請求項8】
請求項6または7記載の成形体製造装置であって、
前記ワイヤ直線化用滑車は、前記ワイヤの伸びる方向に2個以上が備えられており、
前記ワイヤは、2つの前記ワイヤ直線化用滑車にわたって、前記金型に近い側から上側、下側の順に通って前記方向変換用滑車に至る成形体製造装置。
【請求項9】
請求項1記載の成形体製造装置であって、
前記架台は、前記金型を一端が低く他端が高くなるよう傾斜して保持しており、
前記金型の注入口は、前記低く保持された側の端に設けられている成形体製造装置。
【請求項10】
請求項9記載の成形体製造装置であって、
前記傾斜の角度は、45度以下である成形体製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトニック結晶ファイバなどを形成するための複数の孔を有する成形体の製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバの発展に伴い、光ファイバ断面に空孔や高屈折率ガラスを規則的に配列した構造を有するフォトニック結晶ファイバが知られるようになってきた。近年、フォトニック結晶ファイバの性能向上のため、空孔の直径および間隔をより微細にし、クラッド部分の全面にわたって多くの空孔を設けることが求められる傾向にある。フォトニック結晶ファイバは、空孔を設けた成形体を用いて製造される。
【0003】
このような空孔を設けた成形体を製造する方法として次の先行技術が知られている。
例えば、特許文献1は、金属管容器内に金属ワイヤを所定の配列で張り巡らせた上で、その容器内に成形体を形成する溶液を流し込み、乾燥、硬化させた後に金属ワイヤおよび金属管を取り外すことで、フォトニック結晶ファイバ用の成形体を製造する技術を開示している。
特許文献2は、円筒形の容器の上方からは、ロッド形状の細長部材を配列した上部保持固定物を配置し、下方からも同様にロッド形状の細長部材を配列した下部保持固定物を配置した上で、容器内にゾルを導入して固めてゲル化した後、容器から取り出し、成形体に変換する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2013/31484号公報
【文献】特許第3895562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これらの従来技術においては、フォトニック結晶ファイバ用の成形体について、概念的な製造方法は示されているものの、具体的にいかなる装置を用いて製造するのかは開示されていなかった。特に近年の非常に微細な構造からなるフォトニック結晶ファイバ用の成形体を製造するためには、従来技術において金属ワイヤまたは細長部材を精度良く配置する必要があるが、いかにしてかかる配置を実現するか、という点について何ら開示されていなかった。かかる課題は、フォトニック結晶ファイバ用に限らず複数の孔を有する成形体を製造する際に共通の課題であった。
本発明は、かかる課題に鑑み、フォトニック結晶ファイバ用などを形成するための複数の孔を有する成形体を精度良く製造可能とする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
成形体を製造するための成形体製造装置であって、
架台と、
前記架台に固定された成形体成形用の金型と、
前記金型を貫通した状態でワイヤを保持するワイヤ保持機構とを備え、
前記金型は、
前記成形体の両端面に相当する部位に取り付けられ、前記ワイヤを貫通させる貫通孔が形成された板状のガイドと、
前記金型に前記成形体を形成する溶液を注入するための注入口とを有しており、
前記ワイヤ保持機構は、
前記ワイヤに対して、該ワイヤを直線に保持する所定の張力を付加できるよう構成されている成形体製造装置と構成することができる。
【0007】
本発明の成形体製造装置によれば、ワイヤを貫通保持した金型に溶液を注入することで、フォトニック結晶ファイバなどの形成に用いることができる空孔を有する成形体を製造することができる。
この場合において、本発明では、ワイヤの位置を貫通孔で規制するとともに、ワイヤに対して直線を保持できる所定の張力を付加することができる。成形体を精度良く製造するためには、金型内でワイヤの直線性が保持されること、および複数のワイヤを用いる場合には、その径が設計通りに保持されることが重要となる。このためには、それぞれのワイヤに対して、所定の張力を付加することが必要である。
従来技術においては、ワイヤを用いて空孔を形成する点については開示されているものの上述の点については十分に開示されていなかった。むしろ、特にワイヤに対して配慮しなくとも直線性、設計通りの径が保持されることを前提にした製造方法しか開示されていなかった。
ところが、成形体に形成される空孔は、昨今では、非常に微細かつ緻密なものが求められるようになっており、製造過程で用いられるワイヤも当然に細径のものが要求されるため、ワイヤの直線性、設計通りの径を維持する方法についての考察が不可欠となってきた。本発明は、かかる課題の重要性に対する着眼からなされたものである。
従って、本発明の成形体製造装置によれば、ワイヤに所定の張力を付加することにより、成形体を精度良く製造することが可能となる。
【0008】
本発明において、ワイヤの本数および配置は任意に決めることができる。
また、ワイヤの材質も任意に決めることができる。一般には、ステンレスなどの金属を用いるが、これに限らず、合成繊維、樹脂などを用いることもできる。ただし、成形体の精度を維持するため、張力によってワイヤの径に有意な変化が生じない素材を選択することが好ましい。
成形体とは、光ファイバを形成するために用いられるガラス、樹脂などで形成された柱状の材料であり、広義のプリフォームにも相当する。ただし、プリフォームは、狭義には種々の工程を経て、光ファイバに線引きする直前の状態の材料を指すこともあり多義的であるため、本発明では、こうした工程を経ていない柱状の材料も包含する意味で、成形体と称するものとする。
成形体の形成に用いる溶液は、スラリー、ゾルなどを用いることができる。
ワイヤ保持機構は、ワイヤに対して張力を付与できる種々の機構を用いることができる。後述する通り重りを用いる機構としてもよいし、ワイヤを巻き取る機構、ワイヤを引っ張る機構などとしてもよい。張力を計測可能とすれば、さらに良い。
複数のワイヤが用いられる場合、張力は、一本一本のワイヤに個別に付加すれば、個別に張力を調整することが可能となる利点がある。別の態様として、複数のワイヤをひとまとまりとして付加したり、全体のワイヤに一度に付加してもよく、かかる場合には、複数のワイヤに対して均一な張力を付加しやすい利点がある。
【0009】
本発明の成形体製造装置においては、
前記金型の外側に配置され、前記ワイヤを通すための滑車と、
前記滑車と前記金型との相対位置を調整するための第1調整機構とを備えるものとしてもよい。
【0010】
このように滑車を用いることにより、金型のガイドの外側におけるワイヤの位置および方向を調整することができ、ワイヤとガイドの貫通孔との干渉を緩和することが可能となる。この結果、ワイヤ保持機構による張力がガイドによって阻害され、ワイヤの直線性が損なわれることを回避できる。また、ワイヤに対してガイドから余剰の張力が付加され、想定外の変形を生じるなどの弊害も緩和することができる。
【0011】
前記第1調整機構は、前記金型の底面の法線方向における前記滑車と前記金型との相対位置を調整可能な機構であるものとしてもよい。
【0012】
上記態様は、金型の底面の法線方向、即ち金型の底面を基準とする高さ方向の位置を調整可能とするものである。金型を貫通させてワイヤを保持する場合、高さを調整することにより、ガイドに設けられた貫通孔とワイヤとの干渉を効果的に緩和することが可能となる。発明者は、貫通孔とワイヤとの幅方向(ガイドの表面において高さ方向に直交する方向を言う)の干渉よりも、高さ方向の干渉の方が、ワイヤに付加される張力に対する影響、ひいては金型内でのワイヤの姿勢に対する影響が大きいことを見いだした。従って、上述の通り、高さを調整可能とすることは、ワイヤと貫通孔との干渉による悪影響を効果的に緩和させることが可能となるのである。
もっとも、第1調整機構について、高さ方向および幅方向のいずれにおいても位置を調整可能とすることを否定するものではない。ただし、高さ方向のみを調整可能な機構とすれば、高さ方向および幅方向を調整可能とするよりも安価となる利点がある。また、高さ方向のみの調整であれば、高さ方向および幅方向を調整するよりも調整が容易であるという実用面での利点もある。
【0013】
本発明においては、
前記第1調整機構および前記滑車は、前記金型の両端外側にそれぞれ配置されていることが好ましい。
【0014】
こうすることにより、金型の両側でワイヤの位置および方向を調整できるため、より効果的に貫通孔とワイヤとの干渉を緩和することが可能となる。
もっとも、第1調整機構および滑車を、金型の一方側にのみ設ける構造とすることを否定するものではない。
【0015】
本発明の成形体製造装置においては、
前記ワイヤ保持機構は、
前記ワイヤの一端を前記架台に固定する固定部と、
前記ワイヤの他端に重りを吊り下げることで前記張力を付加する吊り下げ機構を有するものとしてもよい。
【0016】
先に説明したとおり、ワイヤ保持機構としては種々の機構を適用できるが、上述の態様によれば、張力は重りの重量に依存するため、成形体を繰り返し製造する場合でも、比較的容易に一定の張力を付加することができる利点がある。また、複数のワイヤを用いて成形体を製造する場合でも、均一な張力が付加されるべきワイヤに対して、比較的容易に均一な張力を付加することができる利点がある。
上記態様において、重りは必ずしも一つの重量に統一すべき必要はない。付加する張力がワイヤに応じて多段階に分けられる場合には、張力に応じた重量の重りを用意すればよい。
また、重りは1本のワイヤに対して1つを用いる必要もなく、複数のワイヤに対して1つの重りを用いるようにしてもよい。ただし、この場合、ワイヤに付加される張力は、1つの重りを吊り下げるワイヤの本数に依存するため、ワイヤの本数を考慮して重りの重量を設定することが望まれる。
【0017】
重りを用いる場合、
前記吊り下げ機構は、
前記金型内で前記ワイヤを直線に維持するためのワイヤ直線化用滑車と、
前記ワイヤの方向を、前記重りを吊り下げる部位に変更するための方向変換用滑車とを有するものとしてもよい。
【0018】
重りを吊り下げるための機構は、種々の機構をとり得るが、上記態様は、その一つである。ワイヤは、金型側からワイヤ直線化用滑車と、方向変換用滑車とを通った先で、重りに取り付けられることになる。このように重りを吊り下げるための方向変換用滑車とは別に、ワイヤ直線化用滑車を用いることにより、金型内でワイヤの直線性を効果的に維持することが可能となる。
ワイヤ直線化用滑車には、先に説明した第1調整機構を設けてもよい。こうすることで、ワイヤとガイドの貫通孔との干渉を効果的に緩和することが可能となる。
なお、方向変換用滑車は、1つである必要はなく複数の滑車を組み合わせて構成してもよい。
【0019】
上記態様においては、
前記方向変換用滑車は、前記ワイヤ直線化用滑車との相対位置を調整するための第2調整機構を備えるものとしてもよい。
【0020】
こうすることで、方向変換用滑車とワイヤ直線化用滑車との相対位置を調整できるため、例えば、ワイヤ直線化用滑車からワイヤが浮く状態になることで、ワイヤの位置および方向を十分に規制できないなどの弊害を緩和することができる。
【0021】
方向変換用滑車とワイヤ直線化用滑車とを用いる機構においては、
前記ワイヤ直線化用滑車は、前記ワイヤの伸びる方向に2個以上が備えられており、
前記ワイヤは、2つの前記ワイヤ直線化用滑車にわたって、前記金型に近い側から上側、下側の順に通って前記方向変換用滑車に至るものとしてもよい。
【0022】
上記態様では、方向変換用滑車には、ワイヤ直線化用滑車の下側を通ったワイヤが通ることになる。この状態で、方向変換用滑車の上側を通ってワイヤを下向きに方向変換すれば、ワイヤの先に重りを吊り下げることができる。こうすることで、方向変換用滑車およびワイヤ直線化用滑車で、ワイヤの位置を安定させることができる。
なお、方向変換用滑車は、ワイヤを一旦上向きに方向変換した後、下向きに方向変換して重りを吊り下げても良い。かかる構造にする場合には、ワイヤは、ワイヤ直線化用滑車の上側を通った後、方向変換用滑車の下側を通すよう構成してもよい。
このように、ワイヤ直線化用滑車と方向変換用滑車の軸が、それぞれワイヤを挟んで反対側に位置するように構成することで、ワイヤの位置を安定させることができる。
【0023】
本発明の成形体製造装置においては、
前記架台は、前記金型を一端が低く他端が高くなるよう傾斜して保持しており、
前記金型の注入口は、前記低く保持された側の端に設けられているものとしてもよい。
【0024】
上記態様によれば、傾斜して保持された金型に、低い側から溶液を注入することができる。溶液を注入して成形体を製造する場合、溶液を金型内に空隙を生じさせずに注入すること、および溶液に気泡を生じさせないことが重要となる。
発明者が試行錯誤した結果、金型を垂直に立てた状態で溶液を注入したり、水平に保持した状態で溶液を注入した場合には、空隙や気泡が生じやすいことがわかった。これに対し、金型を傾斜して保持した上で、低い側からゆっくりと溶液を注入することにより、空隙や気泡を十分に抑制できることが見いだされた。
上記態様によれば、こうした態様での注入を実現することができ、欠陥のない成形体を歩留まり良く製造することが可能となる。
また、注入口を設ける位置も、任意に決めることができる。厳密に金型の端である必要はなく、その近傍とすればよい。
【0025】
金型を傾斜して保持する態様においては、
前記傾斜の角度は、45度以下としてもよい。
【0026】
傾斜の角度は、成形体のサイズ、ワイヤの本数および配置、溶液の粘性などを考慮して任意に決めることができるが、発明者の試行錯誤の結果、45度以下とすることが効果的であることが見いだされた。
なお、傾斜の角度は、調整可能としてもよい。
【0027】
本発明は、以上で説明した種々の特徴を必ずしも全て備えている必要はなく、適宜、その一部を省略したり組み合わせたりして構成することもできる。
また、本発明は、上述した成形体製造装置としての態様だけでなく、以下に述べるように成形体の製造方法として構成してもよい。
【0028】
例えば、
成形体を製造する成形体製造方法であって、
成形体成形用の金型であって、前記成形体の両端面に相当する部位に取り付けられ、前記ワイヤを貫通させる貫通孔が形成された板状のガイドと、前記金型に前記成形体を形成する溶液を注入するための注入口とを有する金型を架台に固定するステップと、
前記金型を貫通した状態でワイヤを、該ワイヤを直線に保持する所定の張力を付加して保持するステップと、
前記注入口から、前記溶液を注入し、硬化させるステップとを有する成形体製造方法とすることができる。
かかる成形体製造方法においても、上述した種々の特徴を適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】成形体製造工程を示す工程図である。
図2】成形体製造装置の全体構成を示す説明図である。
図3】金型の構成を示す説明図である。
図4】固定側滑車の構成を示す説明図である。
図5】ワイヤ直線化用滑車、方向変換用滑車の構成を示す説明図である。
図6】滑車と金型の位置関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、多くの空孔を設けた成形体を製造する場合の実施例について、まずその製造工程について説明した後、それを実現するための成形体製造装置について説明する。
以下、成形体とは、スラリーを硬化して得られる光ファイバ用の材料であり、広義のプリフォームに相当する材料である。
【0031】
図1は、成形体製造工程を示す工程図である。
まず、作業者は、後述する成形体製造装置に、ワイヤおよび金型を設置する(ステップS10)。本実施例では、ワイヤは、金型を貫通する形で、直線を維持できるよう張力を付加した状態で取り付けられる。
次に、金型に設けられた注入口から、成形体を形成するための溶液であるスラリーを注入する(ステップS12)。スラリーは、種々の成分で構成することができるが、例えば、シリカガラス粉体、硬化性樹脂、バインダー、純水を含む溶液とすることができる。また、ゾルを用いてもよい。
こうしてスラリーを注入した後は、その状態で硬化させる(ステップS14)。その後、ワイヤおよび金型を取り外すことにより(ステップS16)、図示するように、ワイヤに対応した位置に空孔2を多数が設けられた硬化体1が形成される。そして、硬化体1を、乾燥、脱脂、ガラス化することにより、成形体が形成される。
【0032】
上述した工程により成形体を製造するための成形体製造装置について、以下、説明する。
図2は、成形体製造装置の全体構成を示す説明図である。側面から見た状態を示した。
【0033】
成形体製造装置においては、架台10に金型20が傾斜して固定されている。金型20の傾斜角度Aは、以下に示す機構により、変更することができる。
架台10においては、水平に設けられた固定梁11と、可動梁14が軸14aで回動可能に連結されている。固定梁11には、複数の連結孔12hが水平方向に配列して形成された連結梁12が固定されている。また、可動梁14には、支柱13が軸13aで回動可能に連結されている。かかる機構とすることにより、支柱13の先端を、任意の連結孔12hにボルト等で固定することにより、傾斜を変更することができる。金型20は可動梁14上に固定されているため、併せて金型20の傾斜も変更することができる。
金型20の傾斜は、成形体のサイズ、金型に配置するワイヤの本数や配列、スラリーの粘度などに応じて、適宜、選択すればよい。
なお、可動梁14の傾斜を変更する機構は、図示したものに限らず傾斜を連続的に変更可能な機構など種々の構成を適用可能である。ただし、本実施例の成形体製造装置は、後述する通り、成形体を精度良く形成するため、種々の部位を調整可能となっているため、可動梁14の傾斜角については選択的に変更可能としておく方が、以前に製造した成形体を再度製造しようとする場合などに、再現性に優れる利点がある。
【0034】
可動梁14には、空孔2を形成する複数のワイヤ60を固定するための機構として、固定側滑車30、ワイヤ直線化用滑車40が固定され、さらに、固定梁11には方向変換用滑車50が固定されている。ワイヤ60の一端は、固定梁11よりも下方で架台に設けられたワイヤ固定部15に固定されている。他端は、固定側滑車30を通った後、金型20の内部を貫通し、ワイヤ直線化用滑車40、方向変換用滑車50を通っており、そこに重り70が取り付けられている。こうすることで、重り70の重力によってワイヤ60には張力が付加されることになり、ワイヤ60は、金型20の内部でも直線性を保つことができる。また、重り70を用いることにより、予め定めた値の張力をワイヤ60に容易に付加することができる利点もある。さらに、複数のワイヤ60に付加する張力を比較的容易に均一にすることもできる利点がある。
本実施例では、ワイヤ60に付加される張力を精度良く調整するため、一本のワイヤ60に対して1つの重り70を吊り下げるものとしたが、複数のワイヤ60に対して1つの重り70を吊り下げるようにしてもよいし、一本のワイヤ60に対して複数の重り70を吊り下げるようにしてもよい。
なお、固定側滑車30、ワイヤ直線化用滑車40は、可動梁14に個別に固定するようにしてもよいし、固定側滑車30とワイヤ直線化用滑車40とをユニット化し、可動梁14に固定するようにしてもよい。ユニット化の方法としては、例えば、板またはフレームなどに、固定側滑車30とワイヤ直線化用滑車40とを固定し、この板またはフレームを可動梁14に固定できるようにする方法をとることができる。金型20は、板またはフレームに取り付けるようにしてもよいし、可動梁14に取り付けるようにしてもよい。このように、製品によって必要となるワイヤの数、位置が異なるため、固定側滑車30とワイヤ直線化用滑車40とをユニット化すれば、製品ごとにユニットを交換するだけで簡易に製造の切り換えを行うことが可能となる。
以下、説明の便宜上、金型20に対して、固定側滑車30の側を上流側、ワイヤ直線化用滑車40の側を下流側と称することもある。
【0035】
図3は、金型の構成を示す説明図である。
図3(a)は、金型20の一方の側壁を取り外した状態を示している。金型20は、所定の板厚の底面22に垂直に側壁21が固定されている。両者は一体成型してもよい。また、側壁21の内面23には、側壁21、底面22の双方に直交するように2枚のガイド24、25が設置されている。ガイド24、25は、成形体の空孔に対応する位置に多数の貫通孔24hが形成された部材である。側壁21、底面22、ガイド24、25および、側壁21に対向する側壁によって囲まれる領域Pa(図中では余裕をもって示してある)が、成形体を形成するためにスラリーを注入する空間となる。
ワイヤ60は、ガイド24、25および金型20内を貫通した状態で設置されることになる。
以下、説明の便宜上、ガイド24、25の法線方向を軸方向と称し、底面22の法線方向を高さ方向、両者に直交する方向、即ち側壁21の法線方向を幅方向と称するものとする。
【0036】
図3(b)には両方の側壁21に蓋27を取り付けた状態を模式的に示した。ワイヤ60(図示を省略している)が貫通した状態で両方の側壁、蓋27を取り付けることにより、先に図3(a)で示した領域Paはスラリーを注入する閉空間となる。
蓋27には、金型20の下流端、即ち傾斜の下側にスラリーの注入口27aが形成され、上流側に排出口27bが形成されている。注入口27a、排出口27bには、それぞれ樹脂製のパイプを取り付けてもよい。
かかる構成とすることにより、スラリーは傾斜した金型20に低い側から注入することができる。スラリーの注入は、金型20内に空隙が生じず、また注入されたスラリー内に気泡が生じないよう行うことが重要である。本実施例の構成によれば、十分にゆっくりとスラリーを注入することにより、空隙や気泡の発生を抑制することが可能である。
スラリーを注入し、金型20内がスラリーで満たされると、排出口27bに取り付けたパイプをスラリーが上昇してくるようになる。この状態に至れば、スラリーの注入は終了である。
なお、スラリーの注入は、注入口27a、排出口27bに取り付けたパイプ内のスラリーの液面がバランスした状態で安定することになる。実施例では、金型20が傾斜して保持されているから、注入口27a、排出口27bに取り付けたパイプの上端が、金型20の上端よりも十分に上方に来るようにしておく必要がある。
【0037】
図4は、固定側滑車の構成を示す説明図である。
図4(a)には、固定側滑車30の構成を模式的に示した。固定側滑車30は架台の可動梁14に金型20の幅方向の中心に合わせて固定されており、複数の滑車31が金型20の軸方向に配置されている。可動梁14の下方から来たワイヤ60aは、滑車31でワイヤ60bのように金型20の方向に方向変換される。図示した以外の滑車についても同様である。
【0038】
図4(b)には、滑車31の拡大図を示した。滑車31は、第1調整機構としての調整機構32に軸支されている。調整機構32は、滑車31の高さ方向Bの位置を調整することができる種々の機構を適用可能である。
【0039】
このように調整機構32を設けることにより、滑車31の高さを調整することができるから、金型20のガイド24に設けられた貫通孔24hに対して、ワイヤ60を金型20の底面22と平行に運ぶことが可能となる。この結果、ワイヤ60と貫通孔24hの干渉を緩和することができ、重りによる張力が干渉によって阻害されることを抑制できる。この結果、金型20の内部におけるワイヤ60の直線性を維持することができる。
【0040】
なお、本実施例では、可動梁14の下方から来た複数のワイヤ60aは、滑車31でワイヤ60bのように金型20の方向に方向変換されるとともに扇状に広げられ、ガイド24において同じ高さで幅方向に配列された貫通孔を貫通するよう取り付けられる。この効果については後述する。
【0041】
図5は、ワイヤ直線化用滑車、方向変換用滑車の構成を示す説明図である。
図5(a)に示すように、上流側からワイヤ直線化用滑車40、方向変換用滑車50の順に配置されている。ワイヤ直線化用滑車40、方向変換用滑車50は、固定側滑車30と同様、金型20の幅方向の中心に合わせて固定されており、複数の滑車が金型20の軸方向に配置されている。
ワイヤ直線化用滑車40は、金型20の内部においてワイヤ60の直線性を維持する機能を奏する。方向変換用滑車50は、重りをつりさげるためにワイヤ60の方向を下向きに変換する機能を奏する。本実施例では、それぞれの機能に分けてワイヤ直線化用滑車40、方向変換用滑車50を設けることにより、ワイヤ60の位置をより安定させることが可能となっている。
特に、本実施例では、金型20が可動梁14とともに傾斜が変更可能となっているため、ワイヤ直線化用滑車40を金型20とともに可動梁14に固定することにより、傾斜を変更してもワイヤの直線性が維持しやすくなっている。
【0042】
ワイヤ直線化用滑車40に備えられた複数の滑車41は、それぞれ第1調整機構としての調整機構42によって支持されており、高さ方向の位置を調整することができるようになっている。
方向変換用滑車50に備えられた複数の滑車51も、第2調整機構としての調整機構52によって支持されており、架台の法線方向、即ち架台に対する高さ方向の滑車51の位置を調整することができるようになっている。
【0043】
図5(b)には、ワイヤ60がワイヤ直線化用滑車40、方向変換用滑車50を通る状態を模式的に示した。ワイヤは、ワイヤ直線化用滑車40の上流側の滑車41[1]の上側を通り、隣接する滑車41[2]の下側を通った後、方向変換用滑車50の滑車51で下向きに方向変換される。従って、滑車41[2]は、滑車51からワイヤ60が外れないよう押さえつける機能を奏することになる。同時に、滑車51は、滑車41[2]からワイヤ60が外れないよう支持する機能を奏することになる。このように、滑車41[2]と滑車51の軸がワイヤ60を挟んで反対側にくるように配置することにより、ワイヤ60を安定させることが可能となる。
上述の機能も、例えば、滑車51の位置が下に下がると、滑車51からワイヤ60が浮いた状態が生じやすくなり、十分な効果が得られなくなることが生じ得る。これに対し、本実施例では、滑車51の高さを調整機構52によって調整可能となっているため、かかる弊害を緩和することが可能である。
【0044】
なお、図5(a)に示した通り、下流側の端にある滑車41aについては、隣接する滑車が存在しない。そこで、実施例においては、この滑車41aについては、同じ調整機構42aに、滑車41aの上側に滑車41bをとりつけ、ワイヤ60cのように、滑車41bの下側を通すようにした。こうすることで、ワイヤ60cも滑車42bの下側を通った状態でワイヤ直線化用滑車40から下流側に伸びることになる。
【0045】
以上で説明した本実施例の成形体製造装置によれば、以下に示す通り成形体を精度良く製造することが可能となる。
図6は、滑車と金型の位置関係を示す説明図である。図6(a)には側面図、図6(b)には平面図を示した。なお、金型20は傾斜して保持されているが、図6(a)では、金型20を基準にした図であるため、金型20を水平に描いてある。
既に説明した通り、固定側滑車30の滑車31、およびワイヤ直線化用滑車40の高さ方向の位置を調整可能である。従って、図6(a)に示す通り、ワイヤ60を金型20内で底面に平行に保持することができる。この結果、ガイド24と高さ方向における干渉を十分に抑制することができ、ワイヤ60に付加される張力を適切な状態に維持することができる。
例えば、滑車31aに示すように金型20に対する位置が低すぎる場合、ワイヤ60aは、ガイド24に斜めに入り込むことになるため、入り口部分aでガイド24と干渉してしまう。このため、ワイヤ60に付加した張力が、ガイド24によって阻害され、金型20の内部でワイヤ60の直線性が保たれなくなるおそれがある。本実施例では、こうした弊害を回避することができるのである。
【0046】
図6(b)に示すように、本実施例では、滑車31、41[1]を通る複数のワイヤ60[1]~60[5]は、扇状に広げられてガイド24、25において同じ高さで幅方向に配列された貫通孔を貫通するよう取り付けられる。この結果、ワイヤ60[1]~60[5]は、ガイド24、ガイド25と若干、干渉することになる。しかしながら、本実施例では、重りを利用して張力を付加しているため、ワイヤと貫通孔との高さ方向における干渉は張力に悪影響を与えやすいのに対して、幅方向における干渉は張力にあまり悪影響を与えないことがわかっている。また、このように一つの滑車31、41[1]に対して複数のワイヤを通すことにより、これらのワイヤの高さ方向の位置のばらつきを抑制することができる利点がある。
【0047】
以上の実施例で説明した種々の特徴は、必ずしも全てが備えられている必要はなく、適宜、その一部を省略したり組み合わせたりしてもよい。また、本発明は、上述した実施例に限定されず、例えば、以下に示す例も含め、さらに種々の変形例をとることができる。
(1)滑車の変形例:
調整機構において用いられる滑車は、ワイヤを受ける外面の断面形状が円弧状になっていることがある。かかる断面形状でも差し支えないが、この断面にワイヤの太さに応じた溝を設けておくことで、ワイヤの幅方向のずれをさらに抑止することができる。また、溝に代えて断面をV字状にしてもよい。
(2)滑車配列の変形例:
図6(b)に示した通り、複数のワイヤを扇状に広げることで、幅方向に配列された複数の貫通孔を形成することは可能であるが、成形体の幅が大きくなると、このように扇状に広げるだけでは十分に対応できなくなる場合もある。かかる場合に対応可能とするため、滑車31、41を2個以上、幅方向に並列に設けるようにしてもよい。こうすることにより、幅広い成形体に対してもワイヤを精度良く配置することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、フォトニック結晶ファイバなどを形成するための複数の孔を有する成形体の製造に利用可能である。また、本発明は「光ファイバ」用の成形体に限定されず、スラリーを用いて形成される成形体にも利用可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 硬化体
2 空孔
10 架台
11 固定梁
12 連結梁
12h 連結孔
13 支柱
13a 軸
14 可動梁
14a 軸
15 ワイヤ固定部
20 金型
21 側壁
21b 蓋固定ボルト
22 底面
23 内面
24、25 ガイド
24h 貫通孔
27 蓋
27a 注入口
27b 排出口
28 固定具
30 固定側滑車
31、31a、41、41a、41b 滑車
32、42、42a、52 調整機構
40 ワイヤ直線化用滑車
50 方向変換用滑車
51 滑車
60、60a、60b、60c ワイヤ
70 重り
【要約】
【課題】 フォトニック結晶ファイバを形成するための成形体を精度良く製造する。
【解決手段】 成形体製造装置において、架台10の可動梁14に金型20を傾斜して固定する。可動梁14には、成形体に空孔を形成する複数のワイヤ60を固定するための機構として、固定側滑車30、ワイヤ直線化用滑車40を固定する。ワイヤ60の一端は、架台に設けられたワイヤ固定部15に固定されている。他端は、固定側滑車30を通った後、金型20の内部を貫通し、ワイヤ直線化用滑車40、方向変換用滑車50を通っており、そこに重り70が取り付けられる。
こうすることで、重り70の重力によってワイヤ60には張力が付加されることになり、ワイヤ60は、金型20の内部でも直線性を保つことができ、精度良く成形体を製造することが可能となる。
【選択図】 図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6