(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/00 20060101AFI20230111BHJP
C10M 105/54 20060101ALN20230111BHJP
C10M 105/52 20060101ALN20230111BHJP
C10M 119/22 20060101ALN20230111BHJP
C10M 147/04 20060101ALN20230111BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20230111BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20230111BHJP
【FI】
C10M169/00
C10M105/54
C10M105/52
C10M119/22
C10M147/04
C10N30:00 Z
C10N50:10
(21)【出願番号】P 2018244370
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】591213173
【氏名又は名称】住鉱潤滑剤株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 徹彦
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/114921(WO,A1)
【文献】特開2015-98546(JP,A)
【文献】特開2018-150396(JP,A)
【文献】特開2017-115099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
C09K23/00-23/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体潤滑剤を含むフッ素グリースがフッ素系溶剤に溶解又は分散してなる溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物であって、
前記フッ素系溶剤は、フッ素溶剤と、有機顔料と、パーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリルコポリマーとを含有し、
前記パーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリルコポリマーは、前記フッ素系溶剤100質量%に対して0.030質量%以上1.000質量%以下の範囲で含まれており、
前記有機顔料は、当該溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物中において0.01質量%以上0.2質量%未満の範囲で含まれている
溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記フッ素溶剤は、ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロカーボン、及びハイドロフルオロオレフィンからなる群から選択される1種以上を含む
請求項1に記載の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記フッ素グリースに含まれる固体潤滑剤は、ポリテトラフルオロエチレンである
請求項1又は2に記載の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物に関し、より詳しくは、塗布対象である部材に塗布して溶剤が蒸発し薄膜状のグリースが形成された後に、そのグリースの塗布箇所の視認性を向上させることができる溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
グリースは、その基油や増ちょう剤によって分類されることが多い。その中でも、パーフルオロポリエーテル油をポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系ポリマーや無機増ちょう剤により増ちょうさせたグリースをフッ素グリースと呼ぶ。
【0003】
フッ素グリースは、その基油に由来する優れた性能により、潤滑性、耐熱性、酸化安定性、対樹脂性、対ゴム性、低発塵性、耐薬品性といった非常に多機能を誇るグリースである。このフッ素グリースは、特に、家電製品等の精密でデリケートな部分に使用されることが多い。家電製品は、製品によっては10年以上をメンテナンスすることなく取り扱うため、フッ素グリースの多機能性は要求仕様を十分満足させ得る。
【0004】
このようにフッ素系グリースはその性能に優れる一方で、高価なものである。そこで、フッ素グリースをフッ素系の溶剤であるハイドロフルオロエーテルやハイドロフルオロカーボン等の溶剤に溶解又は分散した液状潤滑剤である溶剤希釈型フッ素系潤滑剤が用いられている(例えば特許文献1)。このような溶剤希釈型フッ素系潤滑剤は、フッ素グリースを薄膜で塗布できるため、フッ素グリースの使用量を減らすことができ、コストを低減することができる。また、溶剤希釈型フッ素系潤滑剤は、液状潤滑剤であるため、ディッピングや刷毛塗りといった塗布方法により、作業効率や生産性を向上させることが可能になる。さらに、有効成分量をコントロールすることで溶剤の塗布量を調整可能とし、結果として生産コストを低減することができる。
【0005】
さて、上述したように溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は、部材に塗布されるものであるが、薄膜であるがゆえに、塗布状態の確認が困難となる。例えば、塗布対象が黒色や無色の部材である場合には視認することも可能であるが、塗布対象が白色の部材である場合には塗布状態を明確に視認できないことがある。
【0006】
溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物の塗布状態の視認性を改善するために、例えば、フッ素系溶剤に染料着色剤を溶解させることが考えられる。しかしながら、染料着色剤は、フッ素系溶剤に溶けにくく、特に低温環境下では染料成分の析出が見られることがある。また、染料着色剤は、耐侯性が悪く、紫外線が照射されると退色するといった問題がある。
【0007】
また、視認性改善のために、顔料着色剤を用いることが考えられる。顔料着色剤は、染料着色剤に比べ耐侯性に優れ退色することがなく、また、顔料着色剤は溶剤に分散させて使用するため、低温時に再析出することがない。しかしながら、顔料着色剤では、フッ素系溶剤との比重差により顔料成分が沈降しやすく、塗布時に固体潤滑剤成分が不均一に成りやすいという不具合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、有機顔料が安定的に溶解又は分散したフッ素系溶剤を用いた溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、フッ素グリースを溶解又は分散させるフッ素系溶剤において有機顔料を含有させ、さらにパーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリルコポリマーを添加剤として添加することで、溶剤中における有機顔料の沈降を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
(1)本発明の第1の発明は、固体潤滑剤を含むフッ素グリースがフッ素系溶剤に溶解又は分散してなる溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物であって、前記フッ素系溶剤は、フッ素溶剤と、有機顔料と、パーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリルコポリマーとを含有し、前記パーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリルコポリマーは、前記フッ素系溶剤100質量%に対して0.030質量%以上1.000質量%以下の範囲で含まれており、前記有機顔料は、当該溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物中において0.01質量%以上0.2質量%未満の範囲で含まれている、溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物である。
【0012】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記フッ素溶剤は、ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロカーボン、及びハイドロフルオロオレフィンからなる群から選択される1種以上を含む、溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物である。
【0013】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記フッ素グリースに含まれる固体潤滑剤は、ポリテトラフルオロエチレンである、溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、有機顔料が安定的に溶解又は分散したフッ素系溶剤を用いた溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で変更が可能である。また、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0016】
≪1.溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物≫
本実施の形態に係る溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物(以下、単に「潤滑剤組成物」又は「組成物」ともいう)は、固体潤滑剤を含むフッ素グリースがフッ素系溶剤に溶解又は分散してなるものである。溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物では、塗布対象の部材に塗布すると、組成物中の溶剤(フッ素系溶剤中におけるフッ素溶剤)が常温で瞬時に蒸発し、その塗布面に薄膜状にフッ素グリースを形成させる。
【0017】
具体的に、この溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は、フッ素系溶剤中において、フッ素溶剤と、有機顔料と、パーフルオロアルキル基を含有する(メタ)アクリルコポリマーと、が含まれていることを特徴としている。
【0018】
このような溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物では、フッ素系溶剤中において、パーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリルコポリマーの作用により、有機顔料が当該溶剤に安定的に分散し、沈降が抑制される。これにより、当該組成物を塗布対象に塗布して形成されるフッ素グリースの薄膜において、有機顔料に基づく着色が施され、視認性が向上したグリース薄膜となる。また、そのフッ素グリースの薄膜においては、固体潤滑剤が均一に分布した状態となり、優れた潤滑性を奏する。
【0019】
[フッ素グリース]
溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は、上述のように、フッ素グリースがフッ素系溶剤に溶解又は分散して構成されている。当該組成物を構成するフッ素グリースは、少なくとも、フッ素オイルであるパーフルオロエーテル油と、固体潤滑剤と、を含有する。
【0020】
(1)パーフルオロポリエーテル油(基油)
フッ素グリースにおいて、パーフルオロポリエーテル油は基油として用いられる。例えば、パーフルオロエーテル油としては、下記一般式(i)~(iv)で表される構造を有するものが挙げられる。
【0021】
F-(CFCF3-CF2-O-)n-CF2-CF3・・(i)
(なお、式(i)中のnは、0又は正の整数である。)
CF3-(O-CFCF3-CF2)p-(O-CF2-)q-O-CF3
・・(ii)
(なお、式(ii)中のp及びqは、それぞれ独立に、0又は正の整数である。)
F-(CF2-CF2-CF2-O-)r-CF2-CF3・・(iii)
(なお、式(iii)中のrは、0又は正の整数である。)
CF3-(O-CF2-CF2-)s-(O-CF2-)t-O-CF3・・(iv)
(なお、式(iv)中のs及びtは、それぞれ独立に、0又は正の整数である。)
【0022】
具体的には、例えば、Krytoxシリーズ(デュポン株式会社製)、Fomblin Yシリーズ(ソルベイスペシャリティポリマーズジャパン製)、Fomblin Mシリーズ(ソルベイスペシャリティポリマーズジャパン製)、Fomblin Wシリーズ(ソルベイスペシャリティポリマーズジャパン製)、Fomblin Zシリーズ(ソルベイスペシャリティポリマーズジャパン製)、デムナムSシリーズ(ダイキン工業製)等の市販品を使用することができる。
【0023】
パーフルオロポリエーテル油は、上述のような構造を有するものが挙げられるが、その中でも、40℃動粘度が15mm2/s~600mm2/s程度であるものが好ましい。
【0024】
(2)固体潤滑剤
固体潤滑剤としては、後述する溶剤であるフッ素系溶剤の比重よりも大きいものを用いることができる。具体的には、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、メラミンシアヌレート、窒化ホウ素、グラファイト、二硫化モリブデン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等が挙げられる。その中でも特に、白色で低摩擦係数を有するポリテトラルオロエチレンを用いることが好ましい。
【0025】
例えば、固体潤滑剤としてポリテトラフルオロエチレンを用いる場合、平均粒径が10.0μm以下のものを用いることが好ましい。ポリテトラフルオロエチレンの粒径が細かいほど、基油のパーフルオロポリエーテル油との接触面積が大きくなるため、パーフルオロポリエーテル油の油分離を小さくする効果が得られる。
【0026】
一方で、ポリテトラフルオロエチレンとして、平均粒径が10.0μmより大きい粒径のものを用いた場合、基油のパーフルオロポリエーテル油との接触面積が小さくなる。すなわち親和力が小さくなる。そのため、同量を配合した場合でも、平均粒径が10.0μm以下のものに比べて油分離が多くなり、また、ちょう度が大きくなって流動性が増すために適用部からの流出が起こりやすくなる。ここで、ポリテトラフルオロエチレンの配合量を増やすことで、グリースのちょう度及び油分離量を低減させることは可能であるが、グリース中の固体成分比が大きくなってしまうため、グリースの粘性が増大し、ハンドリング及び低温下でのトルクが増大する。
【0027】
このように、固体潤滑剤としてポリテトラフルオロエチレンを用いる場合、その粒径が細かいものほどパーフルオロポリエーテル油との親和力が大きくなるため好ましい。具体的には、上述したように、平均粒径が10.0μm以下のものを用いることが好ましく、0.1μm~5.0μmのものを用いることがより好ましい。
【0028】
固体潤滑剤の配合量は、基油であるパーフルオロポリエーテル油との配合比に基づいて決定する。具体的には、パーフルオロポリエーテル油:固体潤滑剤の比率が、97:3~50:50の範囲となるように配合させることが好ましい。フッ素グリース中において、固体潤滑剤の配合割合が3質量%以上であることにより潤滑性を高めることができる。一方で、フッ素グリース中における固体潤滑剤の配合割合が50質量%以下であることにより、乾燥後の状態において、ハンドリング性を高めることができ、例えばトルクが高くなる等の弊害が生じることを防止できる。
【0029】
ここで、フッ素グリースをフッ素系溶剤に溶解又は分散させてなる溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物において、実質的な有効成分となるフッ素グリースの含有割合としては、当該組成物100質量%に対して、1質量%~50質量%であることが好ましく、3質量%~25質量%であることがより好ましい。組成物中におけるフッ素グリースの含有割合が1質量%以上であることにより、潤滑性を高めることができる。一方で、フッ素グリースの含有割合が50質量%以下であることにより、溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物(塗料)の流動性を高め、ハンドリング性や均一薄膜塗布性を高めることができる。
【0030】
(3)その他
フッ素グリースには、上述した必須成分のほか、その効果を阻害しない範囲で種々の添加剤を含有させることができる。例えば、摩擦調整剤、酸化防止剤、金属腐食防止剤、防錆剤等のグリースに一般的に用いられる添加剤を含有させることができる。
【0031】
[フッ素系溶剤]
溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は、フッ素グリースを、フッ素系溶剤に溶解又は分散させて構成されている。当該溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物を塗布対象に塗布すると、フッ素系溶剤を構成する溶剤が瞬時に蒸発する。これにより、塗布面において、フッ素グリースからなる薄膜が形成される。
【0032】
本実施の形態に係る溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物においては、フッ素系溶剤として、溶剤(フッ素溶剤)と、有機顔料と、パーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリルコポリマーと、が含有されている。なお、このような成分により構成されるフッ素系溶剤を、便宜的に「フッ素系溶剤組成物」ともいう。
【0033】
(1)フッ素溶剤
フッ素溶剤は、上述したフッ素グリースを溶解又は分散させる溶剤成分であり、特に限定されないが、ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロオレフィン等が挙げられる。
【0034】
その中でも特に、ハイドロフルオロエーテルやハイドロフルオロカーボンは、フッ素グリースの基油を構成するパーフルオロポリエーテル油との溶解性が高く、また、他のハロゲン系溶剤に比べて地球温暖化係数が低いため、近年の環境意識の高まりの観点からも好ましい。これらのフッ素溶剤としては、例えば、NOVECシリーズ(スリーエムジャパン製)、アサヒクリンシリーズ(旭硝子株式会社製)、バートレルシリーズ(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製)等の市販品を用いることができる。
【0035】
また、ハイドロフルオロオレフィンも近年環境対応型の溶剤として普及し始めている。例えば、スープリオン(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製)等の製品が市販されており、好適に用いることができる。
【0036】
(2)有機顔料
フッ素系溶剤組成物には、有機顔料が含有されている。このように、有機顔料を含有するフッ素系溶剤組成物にフッ素グリースを溶解又は分散させることで、フッ素溶剤が蒸発して形成されるフッ素グリースの薄膜に、有機顔料に基づく着色が施されるようになり、塗布面に対する視認性を高めることができる。
【0037】
有機顔料としては、特に限定されず、例えば、活性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、金属又は無金属フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、イソインドリノン顔料、イソインドリン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン顔料、金属錯体顔料、ジケトピロロピロール顔料、カーボンブラック顔料等が挙げられる。なお、有機顔料の色についても、特に限定されず、青色、赤色、緑色、橙色等の顔料を用いることができる。
【0038】
具体的には、クラリアントジャパン社製のPV FAST SCARLET 4RF(アゾ顔料)、大日精化工業社製のシアニンブルー4920(金属フタロシアニン顔料)、大日精化工業社製のシアニングリーン5370(金属フタロシアニン顔料)、大日精化工業社製のクロモファインレッド6820(多環式顔料)等が市販されている。
【0039】
有機顔料は、当該溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物中(100質量%中)において、0.01質量%以上0.2質量%未満の範囲で含まれている。また、有機顔料は、0.05質量%以上0.18質量%以下の範囲で含まれていることがより好ましい。
【0040】
溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物中における有機顔料の含有量が0.01質量%未満であると、形成されるフッ素グリースの薄膜に対して十分に着色されず、視認性が得られない可能性がある。一方で、その含有量が0.2質量%以上であると、フッ素系溶剤中に安定的に分散せず、沈降してしまい、溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物を塗布対象に塗布したときに、フッ素グリースを構成する固体潤滑剤が不均一となって、潤滑性が低下する。
【0041】
(3)パーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリルコポリマー
フッ素系溶剤組成物においては、パーフルオロアルキル基を含有する(メタ)アクリルコポリマーが含まれていることを特徴とする。パーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリルコポリマーは、フッ素溶剤に含有させた有機顔料を、その溶剤中に分散させるために作用する。
【0042】
一般的に有機顔料は、フッ素溶剤等の溶剤に対する溶解性が低い。これは、有機顔料の粒子が比較的大きいため、溶剤に溶けきらないことによると考えられる。そのため、従来では、例えば溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物に有機顔料を含有させると、フッ素溶剤中において有機顔料が沈降してしまい、塗布対象に塗布したときに顔料の塊が表面に形成されて、良好に着色されなかった。また、有機顔料が溶解せずに沈降した状態であると、フッ素グリースを構成する固体潤滑剤にも影響を及ぼし、形成されるフッ素グリースの薄膜において均一な分布が妨げられて、潤滑性を低下させていた。
【0043】
これに対して、本実施の形態では、フッ素系溶剤組成物においてパーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリルコポリマーを含有していることにより、フッ素溶剤に対する有機顔料の分散性を高めることができ、沈降を抑制することができる。そのメカニズムは定かではないが、パーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリルコポリマーが、有機顔料の粒子に対して撥水撥油性のコーティング剤として働き、粒子間の凝集を抑制することにより、沈降を防ぐとともに溶剤中での分散性を高めるものと推測される。
【0044】
また、このようなフッ素系溶剤組成物を含む溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物では、再分散性の効果も奏し、例えば長時間静置した状態において有機顔料が沈降した場合でも簡易的な撹拌操作によって有機顔料を再分散させることができる。
【0045】
さらに、この溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物では、例えば-20℃以下の低温環境下でも、分散状態を維持することができ、すなわち低温安定性を有する。したがって、極寒冷地や冷蔵装置等に適用する場合であっても、好適に用いることができる。
【0046】
パーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリルコポリマーは、パーフルオロアルキル基を有する化合物(パーフルオロアルキル基含有化合物)と、パーフルオロアルキル基含有化合物以外の原料とを共重合させることにより得られる。
【0047】
パーフルオロアルキル基含有化合物としては、例えば、好ましくは炭素数が1~24、より好ましくは炭素数4~12の直鎖又は分岐のパーフルオロアルキル基を有するものであり、具体的には、パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0048】
また、パーフルオロアルキル基含有化合物と共重合する原料としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル系モノマーが挙げられる。また、塩化ビニル、塩化ビニリデン、架橋モノマー(N-メチロールアクリルアミド等のコモノマーも挙げられる。その中でも、上述したn-アルキルアクリレートが好適に用いられる。
【0049】
また、パーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリルコポリマーは、数平均分子量が2000~1000000程度であることが好ましい。
【0050】
具体的には、ノックスバリアST-462(ユニマテック社製)等が市販されており好適に用いることができる。なお、市販品のノックスバリアST-462は、パーフルオロアルキル基含有アクリルコポリマーが15質量%、1,3-トリフルオロメチルベンゼンが85質量%の割合で含有されている添加剤である。
【0051】
パーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリルコポリマーの含有量は、フッ素系溶剤組成物100質量%に対して0.030質量%~1.000質量%の範囲である。また、好ましくは0.075質量%~0.750質量%の範囲であり、より好ましくは0.090質量%~0.200質量%の範囲である。
【0052】
フッ素系溶剤組成物中におけるパーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリルコポリマーの含有量が0.030質量%未満であると、有機顔料の沈降が十分に抑制されない可能性がある。一方で、その含有量が1.000質量%を超えると、有機顔料の沈降は抑制できるものの、ハードケーキ化してしまう可能性がある。また、パーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリルコポリマーの溶媒はその種類によって樹脂材料に対して悪影響を及ぼすものもあるため、含有量の増加により耐樹脂性が低下する可能性がある。
【0053】
≪2.溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物の製造方法≫
本実施の形態に係る溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は、例えば以下の方法により製造することができる。
【0054】
具体的には、先ず、ハイドロフルオロエーテル等のフッ素溶剤を容器に所定量秤量し、そのフッ素溶剤に、有機顔料と、パーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリルコポリマーとを添加し、公知の撹拌方法にて撹拌することによって有機顔料を分散させる。これにより、フッ素系溶剤組成物(有機顔料分散液)を得ることができる。
【0055】
次に、有機顔料の分散液であるフッ素系溶剤組成物に、パーフルオロエーテルと固体潤滑剤とを含むフッ素グリースを投入して分散させる。また、必要に応じて各種の添加剤を加えて分散させることができる。なお、フッ素グリースの製造方法についても、特に限定されず公知の方法により製造することができる。例えば、基油であるパーフルオロポリエーテル油に、固体潤滑剤と、さらに必要に応じて各種の添加剤とを混合した後、混練することにより製造することができる。
【0056】
これにより、フッ素グリースをフッ素系溶剤に分散させてなる溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物を得ることができる。
【0057】
フッ素溶剤に有機顔料を分散させる際の分散処理や、フッ素系溶剤にフッ素グリースを分散させる際の分散処理においては、例えば、プロペラ撹拌機、ディゾルバー、ディスパーマット、スターミル、ダイノーミル、アジテーターミル、クレアミックス、フィルミックス等の湿式撹拌・分散処理装置を用いて行うことができる。フッ素グリースの製造に際しての混練処理や分散処理についても、例えば、3本ロールミル、万能撹拌機、ホモジナイザー、コロイドミル等の周知の撹拌・分散処理装置を用いて行うことができる。
【0058】
なお、上述の順序で各成分を順に添加することに限られず、各成分を同時に添加して撹拌することもできる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0060】
≪溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物の製造≫
先ず、250mlのポリ容器にフッ素溶剤(NOVEC7200,スリーエムジャパン社製)と、有機顔料と、パーフルオロアルキル基含有アクリルコポリマー(ノックスバリアST-462,ユニマテック社製)とを秤量した。なお、添加剤である「ノックスバリアST-462」において、有効成分であるパーフルオロアルキル基含有アクリルコポリマーが、溶剤である1,3-トリフルオロメチルベンゼンによって、全量に対して15質量%の割合で希釈されている。
【0061】
(有機顔料)
有機顔料としては、以下の有機顔料A~Dを、いずれかを単独であるいは併用した。
・有機顔料A:クロモファインレッド6820(多環式顔料、大日精化工業社製)
・有機顔料B:PV FAST SCARLET 4RF
(アゾ顔料、クラリアントジャパン社製)
・有機顔料C:シアニンブルー4920(フタロシアニン顔料、大日精化工業社製)
・有機顔料D:シアニングリーン5370(フタロシアニン顔料、大日精化工業社製)
【0062】
続いて、各成分を秤量し、撹拌・分散装置を使用して120分間分散処理を施して、有機顔料分散液であるフッ素系溶剤組成物(分散液試料)を作製した。
【0063】
次に、フッ素グリースを作製した。具体的には、基油であるパーフルオロポリエーテル油(フォンブリンY15,ソルベイスペシャリティポリマーズジャパン社製)と、固体潤滑剤であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(KTL-500F,喜多村社製)とを混練し、3本ロールミルで分散処理を施して、フッ素グリースを作製した。
【0064】
そして、フッ素系溶剤組成物と追加のフッ素溶剤(NOVEC7200)に、作製したフッ素グリースを投入して撹拌混合した。これにより、フッ素系溶剤にフッ素グリースを分散させてなる溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物を製造した。
【0065】
≪評価その1≫
[有機顔料分散液(フッ素系溶剤組成物)の分散性]
フッ素グリースを混合させるに先立ち、作製した有機顔料分散液であるフッ素系溶剤組成物について、有機顔料の分散性を評価した。
【0066】
具体的には、所定量のフッ素溶剤(NOVEC7200)に対して、フッ素系溶剤組成物中の含有量が0.5質量%の割合となるように有機顔料を混合し、また、パーフルオロアルキル基含有アクリルコポリマー(ノックスバリアST-462)を添加し、撹拌・分散装置を使用して120分の処理時間で分散処理を施し、フッ素溶剤組成物(分散液試料)を作製した。
【0067】
得られた分散液試料を密閉できるガラス製容器(スクリュー瓶)に入れ、3日間室内にて静置し、3日後における顔料の分散状態を目視にて確認した。目視確認において、分散液試料が均一な状態でありかつガラス瓶壁面に付着している粒子が細かい場合を、顔料が良好に分散している(『○』)と評価し、ガラス瓶内で沈降が見られた場合や壁面に付着した粒子が粗い場合を、顔料の分散性が不良(『×』)と評価した。
【0068】
表1に、各実施例、比較例で作製した分散液試料の組成と分散性試験の結果を示す。
【0069】
【0070】
表1の結果に示されるように、有機顔料の種類による依存性はあるものの、フッ素系溶剤100質量%に対して、およそ0.030質量%~0.750質量%の範囲でパーフルオロアルキル基含有アクリルコポリマーを含有させた分散液試料では、有機顔料を有効に分散させることができることが分かった。
【0071】
≪評価その2≫
[グリース薄膜の視認性の評価]
上記の分散性評価を行った実施例1~10の分散液試料を用いて溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物を製造し、得られた溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物を白色のPOM樹脂(ジュラコンM-25S,ポリプラスチックス社製)に塗布して、形成されたグリース薄膜における着色度合を目視により評価した。目視確認において、塗布面にグリースの薄膜が形成されていることを良好に確認できた場合を、視認性を有する(『○』)と評価し、塗布面にグリースの薄膜の存在が確認できなかった又は一部確認が困難であった場合を、視認性が十分ではない(『×』)と評価した。
【0072】
[グリース薄膜の潤滑性の評価]
視認性試験で作製したものと同じグリース薄膜を用いて潤滑性を評価した。具体的には、試料試験機としてフリクションプレイヤー(株式会社レスカ製)を使用して、以下の試験条件で、5000回摺動させたときの平均摩擦係数を測定することによって評価した。測定の結果、平均摩擦係数が0.16以下であった場合を、潤滑性が良好である(『○』)と評価し、平均摩擦係数が0.16を超えた場合を、潤滑性が十分ではない(『×』)と評価した。
【0073】
(試験条件)
評価試験機 :フリクションプレイヤー
テストピース :上球(ABS樹脂)、下板(PC)
ボールオンディスク
荷重 :200gf
摺動形態 :円周運動
回転半径 :15mm
回転速度 :31.8rpm
摺速 :50mm/s
温度 :室温
試験時間 :30分
【0074】
表2~4に、実施例11~30、比較例10~19として作製した溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物の組成、視認性評価及び潤滑性評価の結果を示す。
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
表2~4の結果に示されるように、上記の分散性試験における実施例1~10の分散液試料を用いて製造した溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物では、形成されるグリース薄膜が有効に着色され、優れた視認性を奏した。また、分散液試料において有機顔料が良好に分散したため、グリース薄膜において固体潤滑剤が均一化し、優れた潤滑性を奏した。
【0079】
一方で、この試験の結果から、溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物中における有機顔料の含有割合が、視認性及び潤滑性に影響することが分かった。具体的には、比較例10~19の結果から、溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物中において0.2質量%以上の割合で有機顔料が含まれていると、潤滑性が低下することが分かった。また、溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物中における有機顔料の含有量が0.005質量%以下の割合であると、視認性が低下することが分かった。