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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】車両用モータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 5/24 20060101AFI20230111BHJP
   H02K 5/22 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
H02K5/24 A
H02K5/22
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018021150
(22)【出願日】2018-02-08
(65)【公開番号】P2019140770
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 直哉
(72)【発明者】
【氏名】田村 四郎
(72)【発明者】
【氏名】太向 真也
【審査官】津久井 道夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-023405(JP,A)
【文献】特開2001-280249(JP,A)
【文献】特開2016-158389(JP,A)
【文献】特開2017-065301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 5/24
H02K 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪の内空領域に配置される車両用モータ駆動装置であって、
車輪を駆動するモータ部と、前記車輪と連結するハブ輪を回転自在に支持する車輪ハブ軸受部とを備え、
前記モータ部は、モータ回転軸と、前記モータ回転軸と結合するロータと、前記ロータと隙間を介して対面する筒状のステータと、前記ステータの外周を包囲する円筒部および前記ステータの一方端側に位置し、前記モータ部の内部空間と複数の歯車を含む減速部の内部空間とを仕切る隔壁である壁部を有するモータケーシングと、前記壁部における前記モータ回転軸回りの所定の周方向位置に設けられて前記モータ回転軸と平行に延びる雌ねじ穴を有する複数のケーシング基部と、前記ステータを前記ケーシング基部に固定するために、前記ステータの他方端側から前記ステータを貫通して前記雌ねじ穴に螺合する軸部と前記ステータの他方端面に当接する頭部とを有するボルトと、前記ステータの他方端を覆い、前記ボルトの前記頭部から離れて配置されたモータケーシングカバーとを有し、
前記モータケーシングおよび前記モータケーシングカバーは、軸線方向に互いに突き合わされる突合面をそれぞれ有し、
前記モータケーシングは、前記ステータに設けられるコイルから延びるコイル端子を収容して外径側に突出する動力線端子ボックスと、車両用モータ駆動装置内部に設けられるセンサから延びる導線の端子を収納して外径側に突出する信号線端子ボックスとを含み、
前記モータケーシングは、前記円筒部のうち前記動力線端子ボックスおよび前記信号線端子ボックスを除く部分において前記ステータの外周面と接触することによって前記ステータの外周面を外径側から支持しており、
前記モータケーシングの前記突合面は、前記ステータの外周面を囲繞する形状であって、前記ステータの外周面に沿って延びる複数の近接部分と、前記動力線端子ボックスの輪郭を形成する部分および前記信号線端子ボックスの輪郭を形成する部分を含み、前記ステータの外周面から離れた状態で外径側へ突出する複数の膨らみ部分とを含み、
前記ボルトが配置される前記所定の周方向位置であって、前記壁部に前記複数のケーシング基部が設けられる位置それぞれ、前記複数の膨らみ部分の周方向位置と重なる、車両用モータ駆動装置。
【請求項2】
前記ステータは、当該ステータの外周面から突出する突起を有し、
前記ボルトは、前記突起を前記ケーシング基部に固定する、請求項1に記載の車両用モータ駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪を駆動するモータ駆動装置に関し、モータ部のステータをモータ部のケーシングに固定する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1のように、車輪を駆動するモータが知られている。特許文献1はハウジングに収納されるステータに関し、ステータコアの中心回りに3点の周方向位置で、ステータコアを径方向外方に突出させて当接部とする。かかるステータコア当接部は、ハウジングの内周面に当接する。ステータコアを貫通して当該ステータコアをハウジングに締結する締結部材は首長のボルトであり、かかるステータコア当接部の周方向位置に含まれるよう配置される。
【0003】
特許文献1の記載によれば、ステータコア当接部がハウジング内周面に直接当接することで、モータのロータとステータとの偏芯を抑制するという。ひいてはモータの騒音、振動が抑制されるという。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4811114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところでモータ(回転電機)の騒音、振動は、上記のようなロータとステータの偏芯の他、多種多様な原因に基づく。換言するとロータおよびステータが同軸に保持されていても、ステータ自身の微振動がモータの他の部品に伝達して、該部品から不快な騒音を起こす場合がある。
【0006】
本発明者は、モータ駆動時に、モータの軸線方向端面を覆う円形カバーが膜振動して騒音源となることに気付いた。
【0007】
特許文献1記載のモータによれば、締結部材(ボルト)の頭部に近い箇所、つまり円形カバーの近傍で、ステータコアが外径側に突出してハウジングに当接する。かかる当接箇所の近傍に円形カバーが取付固定される。このため、ステータ自身が微振動すると、微振動が減衰されずに円形カバーに伝達して円形カバーを加振してしまい、円形カバーが不快な騒音源になってしまう。
【0008】
本発明は、上述の実情に鑑み、車輪を駆動するモータ駆動装置において、ステータの端面を覆うカバーが騒音源とならないようにする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的のため本発明による車両用モータ駆動装置は、車輪を駆動するモータ部を備え、かかるモータ部は、モータ回転軸と、モータ回転軸と結合するロータと、ロータと隙間を介して対面する筒状のステータと、ステータの外周を包囲するモータケーシングと、ステータの一方端を支持するケーシング基部と、ステータの他方端を覆うモータケーシングカバーと、モータ回転軸回りにおける所定の周方向位置に配置されてステータをケーシング基部に固定する固定手段とを有し、これらのモータケーシングおよびケーシングカバーは、軸線方向に互いに突き合わされる突合面をそれぞれ有し、モータケーシングの突合面は、ステータの外周面を囲繞する形状であって、ステータの外周面に沿って延びる近接部分と、ステータの外周面から離れるように外径側へ突出する膨らみ部分とを含み、固定手段が配置される所定の周方向位置は、膨らみ部分の周方向位置と重なる。
【0010】
かかる本発明によれば、モータケーシングが固定手段から離隔される。またモータケーシングが、ステータのうち固定手段と連結する部位からも離隔される。特にモータケーシングとモータケーシングカバーの突合面が、固定手段からも、ステータのうち固定手段と連結する部位からも離隔される。したがってモータ部が車輪を駆動する際にステータ自身が微振動しても、突合面でモータケーシングに突き合わされるモータケーシングカバーは殆ど加振されない。したがって本願発明によれば、ステータの端面を覆うモータケーシングカバーの膜振動を低減して不快な騒音を抑制することができる。
【0011】
本発明の一局面としてモータケーシングは、ステータに設けられるコイルから延びるコイル端子、車両用モータ駆動装置の外部から引き込まれる動力線の端部、車両用モータ駆動装置内部に設けられるセンサから延びる導線の端子、および車両用モータ駆動装置の外部から引き込まれる信号線の端部、のうち少なくとも1を収納する箱状の端子ボックスを含み、突合面の膨らみ部分は、端子ボックスの輪郭をなす。かかる局面によれば、膨らみ部分が端子ボックスを兼用することから、膨らみ部分とステータとの間の空間を端子ボックスの内部空間として有効利用することができる。他の局面として、膨らみ部分とステータとの間は、単なる隙間であってもよい。
【0012】
本発明の好ましい局面として固定手段は、モータ回転軸と平行に延びてステータを貫通するボルトであり、該ボルトの軸部先端がケーシング基部に設けられた雌ねじ穴と螺合し、該ボルトの頭部がステータに当接する。かかる局面によれば、ステータはボルト締結により軸線方向に変位しないよう確りと固定される。ボルトの長さは特に限定されない。一例としてボルトはステータよりも長く、ステータの軸線方向他方端から軸線方向一方端まで貫通する。他の例としてボルトはステータよりも短く、ステータの軸線方向一方端部にフランジ部や外径側に突出する突起を設けておき、かかるフランジ部または突起に貫通孔を設けておき、かかる貫通孔にボルトを通して締結してもよい。
【0013】
本発明のさらに好ましい局面としてステータは当該ステータの外周面から突出する突起を有し、固定手段はステータの突起をケーシング基部に固定し、モータケーシングはステータの突起から離れるように外径側へ突出する突出部を有する。かかる局面によれば、ステータに設けた突起によって、ステータを車両用モータ駆動装置のケーシングに取り付けるための構造が実現する。またモータケーシングの突出部は、ステータの突起を回避するように突出しているから、モータケーシング内周面とステータ外周面が離隔され、ステータの振動がモータケーシングカバーへ伝達し難くされる。なお突起は、フランジのようにステータの軸線方向一方端部に設けられてもよいし、あるいは突条のようにステータの軸線方向一方端から他方端まで延びていてもよい。また突起は、固定手段の周方向配列に対応するよう、ステータの所定の周方向位置に設けられるとよい。他の局面として、ステータに突起を設けることなく、円筒形状あるいは多角形のステータをケーシング基部に取り付けてもよい。
【0014】
本発明の車両用モータ駆動装置は、電動車両のいずれかの位置に設けられる。本発明の一局面として、車輪と連結するハブ輪を回転自在に支持する車輪ハブ軸受部をさらに備え、車輪の内空領域に配置される。かかる局面によれば、ロードホイールの内空領域に配置されるインホイールモータ駆動装置において、モータ部のモータケーシングカバーから発生する不快な騒音を抑制できる。他の局面として車両用モータ駆動装置は、車体に搭載されるオンボードモータ駆動装置であってもよい。オンボードモータ駆動装置は等速継手および駆動軸を介して車輪と連結する。
【発明の効果】
【0015】
このように本発明によれば、車輪を駆動するモータにおいて、モータの端部に設けられてモータ内部のステータの端面を覆うモータケーシングカバーが、膜振動することを低減することができ、モータケーシングカバーから不快な騒音が発生することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態になるインホイールモータ駆動装置の内部を示す模式図である。
図2】同実施形態を示す展開断面図である。
図3】同実施形態のモータ部を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態になるインホイールモータ駆動装置の内部を示す模式図であり、モータケーシングカバーを外しステータ等の位置を表す。発明の理解を容易にするため図1では、ロータ等の部品は図略される。図1中、紙面右側は車両前方を表し、紙面左側は車両後方を表し、紙面上側は車両上方を表し、紙面下側は車両下方を表す。図1では、車幅方向内側(インボード側)から車幅方向外側(アウトボード側)を視ている。
【0018】
図2は、同実施形態を示す展開断面図であり、図2で表される断面は、図1に示す軸線Mおよび軸線Nを含む平面と、軸線Nおよび軸線Oを含む平面を、この順序で接続した展開平面である。図2中、紙面左側は車幅方向外側(アウトボード側)を表し、紙面右側は車幅方向内側(インボード側)を表す。
【0019】
図2に示すように、インホイールモータ駆動装置10は、図示しない車輪の中心に設けられる車輪ハブ軸受部11と、車輪を駆動するモータ部21と、モータ部の回転を減速して車輪ハブ軸受部11に伝達する減速部31とを備える。モータ部21および減速部31は、車輪ハブ軸受部11の軸線Oからオフセットして配置される。軸線Oは車幅方向に延び、車軸に一致する。軸線O方向位置に関し、車輪ハブ軸受部11はインホイールモータ駆動装置10の軸線方向一方(アウトボード側)に配置され、モータ部21はインホイールモータ駆動装置10の軸線方向他方(インボード側)に配置され、減速部31はモータ部21よりも軸線方向一方に配置され、減速部31の軸線方向位置が車輪ハブ軸受部の軸線方向位置と重なる。
【0020】
インホイールモータ駆動装置10は、電動車両の車輪を駆動する車両用モータ駆動装置である。インホイールモータ駆動装置10は、図示しない車体に連結される。インホイールモータ駆動装置10は、電動車両を時速0~180km/hで走行させることができる。
【0021】
図2に示すように車輪ハブ軸受部11は、回転内輪・固定外輪とされ、図示しない車輪ホイールと結合する回転輪(ハブ輪)としての内輪12と、内輪12の外径側に同軸に配置される固定輪としての外輪13と、内輪12と外輪13との間の環状空間に配置される複数の転動体14を有する。内輪12の回転中心は、車輪ハブ軸受部11の中心を通る軸線Oに一致する。
【0022】
外輪13の外周面には周方向で異なる位置に複数の外輪突出部13fが立設される。外径方向に突出する各外輪突出部13fには貫通孔が穿設される。各貫通孔は軸線Oと平行に延び、軸線O方向一方側からボルト15が通される。各ボルト15の軸部は、キャリア部材61に穿設される雌ねじ孔と螺合する。これにより外輪13はキャリア部材61に連結固定される。
【0023】
キャリア部材61の軸線O方向他方側には本体ケーシング38の正面部分38fが隣接して配置される。キャリア部材61には複数の雌ねじ孔がさらに穿設される。本体ケーシング38の正面部分38fには周方向で異なる位置に複数の貫通孔が設けられ、これらの貫通孔はキャリア部材の雌ねじ孔と接続する。キャリア部材61の雌ねじ孔および外輪突出部13fの貫通孔は軸線Oと平行に延び、軸線O方向他方側からボルト62が通される。各ボルト62の軸部は、キャリア部材61に穿設される雌ねじ孔と螺合する。これにより本体ケーシング38はキャリア部材61に連結固定される。
【0024】
なお本体ケーシング38とは、減速部31の外郭をなすケーシングをいう。正面部分38fは、本体ケーシング38のうち減速部31の軸線O方向一方端を覆うケーシング壁部である。外輪13は正面部分38fを貫通する。
【0025】
内輪12は、外輪13よりも長い筒状体であり、外輪13の中心孔に通される。外輪13からインホイールモータ駆動装置10の外部へ突出する内輪12の軸線O方向一方端部には、結合部12fが形成される。結合部12fはフランジであり、図示しないブレーキロータおよび車輪と同軸に結合するための結合部を構成する。内輪12は、結合部12fで車輪のロードホイールと結合し、車輪と一体回転する。
【0026】
内輪12および外輪13間の環状空間には、複数列の転動体14が配置される。内輪12の軸線O方向中央部の外周面は、第1列に配置される複数の転動体14の内側軌道面を構成する。内輪12の軸線O方向他方端部外周には内側軌道輪12rが嵌合する。内側軌道輪12rの外周面は、第2列に配置される複数の転動体14の内側軌道面を構成する。外輪13の軸線O方向一方端部の内周面は、第1列の転動体14の外側軌道面を構成する。外輪13の軸線O方向他方端部の内周面は、第2列の転動体14の外側軌道面を構成する。内輪12および外輪13間の環状空間には、シール材16がさらに介在する。シール材16は環状空間の両端を封止して、塵埃および異物の侵入を阻止する。内輪12の軸線O方向他方端の中心孔には減速部31の出力軸37が差し込まれてスプライン嵌合する。
【0027】
モータ部21は、モータ回転軸22、ロータ23、ステータ24、およびモータケーシング25を有し、この順序でモータ部21の軸線Mから外径側へ順次配置される。モータ部21は、インナロータ、アウタステータ形式のラジアルギャップモータであるが、他の形式であってもよい。例えば図示しなかったがモータ部21はアキシャルギャップモータであってもよい。モータケーシング25はステータ24の外周を包囲する。モータケーシング25の軸線M方向一方端は本体ケーシング38の背面部分38bと結合する。モータケーシング25の軸線M方向他方端は、板状のモータケーシングカバー25vで封止される。背面部分38fは、本体ケーシング38のうち減速部31の軸線M方向(軸線O方向)他方端を覆うケーシング壁部である。
【0028】
本体ケーシング38およびモータケーシング25は、インホイールモータ駆動装置10の外郭をなすケーシングを構成する。以下の説明において本体ケーシング38およびモータケーシング25の一部を、単にケーシングともいう。
【0029】
ステータ24は円筒形状のステータコア24bと、該ステータコア24bに巻回されたコイル24cを含む。ステータコア24bはリング状の鋼板を軸線M方向に積層してなる。
【0030】
モータ回転軸22の両端部は、転がり軸受27,28を介して、本体ケーシング38の背面部分38bと、モータ部21のモータケーシングカバー25vに回転自在に支持される。モータ回転軸22の軸線M方向他方端部には回転角センサ52が設けられる。回転角センサ52は転がり軸受28よりも軸線M方向内側に配置され、モータケーシングカバー25vの中央部に取り付けられる。
【0031】
モータ回転軸22およびロータ23の回転中心になる軸線Mは、車輪ハブ軸受部11の軸線Oと平行に延びる。つまりモータ部21は、車輪ハブ軸受部11の軸線Oから離れるようオフセットして配置される。例えば図1に示すようにモータ部の軸線Mは、軸線Oから車両前後方向にオフセットして、具体的には軸線Oよりも車両前方、に配置される。
【0032】
図1に示すようにモータケーシング25は略円筒を基調としつつ、所定の周方向位置が外径側に突出する形状である。本実施形態のモータケーシング25は、上方へ突出する箱状の動力線端子ボックス26bと、車両後方へ突出する箱状の信号線端子ボックス26cと、車両前方へ突出する半円筒形状の突出部26dとを含む。具体的には動力線端子ボックス26bは、軸線Mよりも上方に配置される。信号線端子ボックス26cは、軸線Mよりも下方かつ車両後方に配置される。突出部26dは、軸線Mよりも下方かつ車両前方に配置される。
【0033】
モータケーシング25のうち周方向に離れたこれら3箇所の突出部の間の部分は、円筒部分29,29,29を構成する。円筒部分29,29,29の内壁面は軸線Mを中心とする円筒面である。
【0034】
動力線端子ボックス26bは、ステータ24の軸線M方向端部(コイルエンド)から引き出される3本のコイル端子41を収容する。また動力線端子ボックス26bには、インホイールモータ駆動装置10の外部から延びる3本の動力線(図示せず)が引き込まれ、各動力線の端部が図示しないコネクタ構造を介して各コイル端子41に接続される。
【0035】
信号線端子ボックス26cには、インホイールモータ駆動装置10内部に設置される回転角センサ52、温度センサ(図示せず)、その他のセンサ、といった複数のセンサから延びる導線の端部(図示せず)が集約される。また信号線端子ボックス26cには、インホイールモータ駆動装置10の外部から延びる信号線(図示せず)が引き込まれ、信号線の端部が図示しないコネクタ構造を介して導線の端部に接続される。
【0036】
図1は、モータケーシング25からモータケーシングカバー25vを取り外すことによって現れるステータ24の端面を表す。図面の煩雑を避けるため、図1中、ステータ24端面をハッチングで簡素化して示し、ロータ、モータ回転軸、およびステータ24を背面部分38bに固定する構造の一部を図略してある。
【0037】
円筒部分29,29,29の内周面は、ステータ24の外周面と接触する。このように周方向に離れて配置される三箇所の円筒部分29,29,29がステータ24の外周面を外径側から支持することによって、ステータ24は軸線Mと同軸になるよう位置決めされる。かかるステータ24とモータケーシング25の嵌め合いは圧入嵌合であってもよい。
【0038】
円筒部分29に隣接してモータケーシング25の内壁面には、溝状の切欠き25gが形成される。またステータ24の外周面にも、溝状の切欠き24gが同様に形成される。各切欠き24g,25gは軸線Mと平行に延び、円弧断面である。また切欠き24g,25gは同じ周方向位置とされ、両切欠き24g,25g間に丸棒状の回り止めピン30が差し込まれる。本実施形態では周方向複数箇所に回り止めピン30が設置される。回り止めピン30を弾性部材とすることにより、ステータ24の振動がモータケーシング25へ伝達することを低減することができる。
【0039】
ステータ24の外周面には外径側へ突出する突条24dが形成される。突条24dはステータコア24b(図2)の一部であり、ステータ24の軸線M方向一方端から他方端まで延びる。本実施形態では、周方向に間隔をあけて複数個所に突条24dが設けられる。各突条24dには軸線Mと平行に延びる貫通孔24hが形成される。貫通孔24hは後述する固定手段が通され、これによりステータ24はインホイールモータ駆動装置のケーシングに取付固定される。各突条24dは、動力線端子ボックス26b、信号線端子ボックス26c、および突出部26dにそれぞれ収容される。突出部26dの内壁面と突条24dの間には隙間Gが介在する。また別の突条24dは、動力線端子ボックス26bや信号線端子ボックス26cの内部空間に配置されることから、突条24dはこれら端子ボックスの内壁面から離隔される。突条24d、特に突条24dの軸線M方向一方端部は、ステータ24のうち背面部分38b側に取付固定される部位に相当する。
【0040】
貫通孔24hは、周方向に間隔を開けて複数設けられる。具体的には貫通孔24hは、軸線Mよりも上方および下方にそれぞれ配置される。さらに軸線Mよりも下方のうち、車両前方および車両後方に貫通孔24hがそれぞれ配置される。あるいは図示しない変形例として、軸線Mよりも上方のうち、車両前方および車両後方に貫通孔24hがそれぞれ配置されてもよい。突条24dも同様である。本実施形態では、突条24dおよび貫通孔24hが周方向等間隔に3箇所配置される。
【0041】
キャリア部材61は、箱状の信号線端子ボックス26cよりも上方および下方へ広がり、かかる広がり部分に複数の貫通孔63を有する。かかる貫通孔63にボルト62(図2)等の連結具を通すことにより、キャリア部材61は図示しないサスペンション装置に連結される。これによりインホイールモータ駆動装置10は、サスペンション装置を介して電動車両の車体に連結され、サスペンション装置の作用によって上下方向のバウンド・リバウンドが可能になる。またインホイールモータ駆動装置10はサスペンション装置の作用によって左右方向の転舵が可能になる。
【0042】
図2に示すように減速部31は、モータ部21のモータ回転軸22と同軸に結合する入力軸32sと、入力軸32sの外周面に同軸に設けられる入力歯車32と、複数の中間歯車33,35と、これら中間歯車33,35の中心と結合する中間軸34と、車輪ハブ軸受部11の内輪12と同軸に結合する出力軸37と、出力軸37の外周面に同軸に設けられる出力歯車36と、これら複数の歯車および回転軸を収容する本体ケーシング38を有する。本体ケーシング38は減速部31の外郭をなすことから減速部ケーシングともいう。
【0043】
入力歯車32は外歯のはすば歯車である。入力軸32sは中空構造であり、この入力軸32sの中空孔にモータ回転軸22の軸線方向一方端部が差し込まれて相対回転不可能にスプライン嵌合(セレーションも含む、以下同じ)する。入力軸32sは入力歯車32の両端側で、転がり軸受32m,32nを介して、本体ケーシング38の正面部分38fおよび背面部分38bに回転自在に支持される。
【0044】
減速部31の中間軸34の回転中心になる軸線Nは軸線Oと平行に延びる。中間軸34の両端は、軸受34m,34nを介して、本体ケーシング38の正面部分38fおよび背面部分38bに回転自在に支持される。中間軸34の中央部には、第1中間歯車33および第2中間歯車35が、中間軸34の軸線Nと同軸に設けられる。第1中間歯車33および第2中間歯車35は、外歯のはすば歯車であり、第1中間歯車33の径が第2中間歯車35の径よりも大きい。大径の第1中間歯車33は、第2中間歯車35よりも軸線N方向他方側に配置されて、小径の入力歯車32と噛合する。小径の第2中間歯車35は、第1中間歯車33よりも軸線N方向一方側に配置されて、大径の出力歯車36と噛合する。
【0045】
中間軸34の軸線Nは、図1に示すように、軸線Oおよび軸線Mよりも上方に配置される。また中間軸34の軸線Nは、軸線Oよりも車両前方、軸線Mよりも車両後方に配置される。減速部31は、車両前後方向に間隔を空けて配置されて互いに平行に延びる軸線O,N,Mを有する3軸の平行軸歯車減速機である。
【0046】
説明を図2に戻すと出力歯車36は外歯のはすば歯車であり、出力軸37の中央部に同軸に設けられる。出力軸37は軸線Oに沿って延びる。出力軸37の軸線O方向一方端部は、内輪12の中心孔に差し込まれて相対回転不可能に嵌合する。かかる嵌合は、スプライン嵌合あるいはセレーション嵌合である。出力軸37の軸線O方向他方端部は、転がり軸受37nを介して、本体ケーシング38の背面部分38bに回転自在に支持される。
【0047】
出力歯車36の軸線O方向一方端面には、環状凸部36cが形成される。環状凸部36cは軸線Oを中心として周方向に延びる壁である。本体ケーシング38の正面部分38fには、環状凸部36cよりも外径側に環状段差38gが形成される。環状段差38gは環状凸部34cの全周を包囲する。内径側の環状凸部36cと外径側の環状段差38gとの間には転がり軸受37mが設けられる。これにより出力軸37の軸線O方向中央部は、転がり軸受37mを介して、本体ケーシング38の正面部分38fに回転自在に支持される。
【0048】
減速部31は、小径の駆動歯車と大径の従動歯車の噛合、即ち入力歯車32と第1中間歯車33の噛合、また第2中間歯車35と出力歯車36の噛合、により入力軸32sの回転を減速して出力軸37に伝達する。減速部31の入力軸32sから出力軸37までの回転要素は、モータ部21の回転を内輪12に伝達する駆動伝達経路を構成する。
【0049】
本体ケーシング38は、筒状部分と、当該筒状部分の両端を覆う板状の正面部分38fおよび背面部分38bを含む。筒状部分は、互いに平行に延びる軸線O、N、Mを取り囲むように減速部31の内部部品を覆う。板状の正面部分38fは、減速部31の内部部品を軸線方向一方側から覆う。板状の背面部分38bは、減速部31の内部部品を軸線方向他方側から覆う。本体ケーシング38の背面部分38bは、モータケーシング25と結合し、減速部31の内部空間およびモータ部21の内部空間を仕切る隔壁でもある。モータケーシング25は本体ケーシング38に支持されて、本体ケーシング38から軸線方向他方側へ突出する。
【0050】
本体ケーシング38は、減速部31の内部空間を区画し、減速部31の全ての回転要素(回転軸および歯車)を内部空間に収容する。図1に示すように本体ケーシング38の下部は、オイル貯留部39とされる。オイル貯留部39はモータ部21よりも低位置に配置される。本体ケーシング38の内部空間の下部を占めるオイル貯留部39には、モータ部21および減速部31を潤滑する潤滑油が貯留する。
【0051】
入力軸32sと、中間軸34と、出力軸37は、上述した転がり軸受によって両持ち支持される。これらの転がり軸受32m,34m,37m,32n,34n,37nはラジアル軸受である。
【0052】
環状凸部36cと出力軸37と出力歯車36の軸線O方向一方端面は軸線O方向に窪んだ環状凹部を構成する。かかる環状凹部は内輪12の軸線O方向他方端部および内側軌道輪12rの軸線O方向他方端部を収容する。このように軸線O方向位置に関し、内輪12と転がり軸受37mとを重ねるように配置して、インホイールモータ駆動装置10の軸線方向寸法を小さくすることができる。
【0053】
インホイールモータ駆動装置10外部から上述したコイル端子41に電力が供給されると、モータ部21のロータ23が回転し、モータ回転軸22から減速部31に回転を出力する。減速部31はモータ部21から入力軸32sに入力された回転を減速し、出力軸37から車輪ハブ軸受部11へ出力する。車輪ハブ軸受部11の内輪12は、出力軸37と同じ回転数で回転し、内輪12に取付固定される図示しない車輪を駆動する。
【0054】
次に上述したモータ部のステータをインホイールモータ駆動装置のケーシングに固定する構造につき補足説明する。
【0055】
図3はモータ部を図1にIII-IIIで示す平面で切断し、この断面を矢の方向にみた状態を模式的に示す縦断面図であり、図2に示すモータ部の断面とは異なる断面を表わす。図3中、ステータ24の他方端を覆うモータケーシングカバー25vは二点鎖線で表される。互いに突き合わされるモータケーシングカバー25vの突合面25dとモータケーシング25の突合面25dは、平坦面である。これら突合面25dは、モータ部21の軸線M方向他方端に配置される。本実施形態では、突合面25dの軸線M方向位置がステータ24の軸線M方向位置と重なるが、この他にも突合面25dがステータ24よりも軸線M方向他方に配置されてもよい。モータケーシングカバー25vは図示しないボルト等の固定手段でモータケーシング25に固定される。モータケーシングカバー25vは、ステータ24から軸線M方向他方側に離隔される。
【0056】
ステータ24の軸線M方向一方端にはケーシング基部38cが設けられる。ケーシング基部38cは、背面部分38bの軸線M方向他方壁面に設けられ、ケーシング基部38cよりも内径側の他方壁面から軸線M方向他方へ突出する。ケーシング基部38cの突出端は軸線Mと直角な平坦面とされる。ケーシング基部38cの突出端には雌ねじ穴38dが形成される。雌ねじ穴38dは、軸線M方向他方へ指向する。ケーシング基部38cは、動力線端子ボックス26bと同じ周方向位置に配置される。また他のケーシング基部38cは、信号線端子ボックス26c(図1)と、突出部26d(図1)と同じ周方向位置に配置される。本実施形態のケーシング基部38cは120°で周方向等間隔に配置される。
【0057】
図3に示すようにケーシング基部38cは、モータケーシング25の軸線M方向一方端と一体形成される。背面部分38bは、モータ回転軸22が貫通する中央孔38eを有し、当該中心孔38eに隣接して転がり軸受27が同軸に設けられる。
【0058】
ステータ24の貫通孔24hには、軸線M方向他方から固定手段としてのボルト51が通される。ボルト51の先端部がケーシング基部38cの雌ねじ穴38dに螺合してボルト51の頭部が締め込まれると、ボルト51の頭部が突条24dの軸線M方向他方端に当接してステータ24をケーシング基部38cに押圧する。これによりステータ24は軸線M方向に移動不能に取付固定される。
【0059】
ここで附言すると、モータケーシング25は、一部で二重壁にされる。例えばモータケーシング25の下部は、円筒部分29を内壁とし、軸線M方向一方が低くなり軸線M方向他方が高くなる傾斜壁25nを外壁として有する。
【0060】
動力線端子ボックス26bは、モータケーシング25の軸線M方向一方端から他方端まで形成され、ケーシング基部38cと隣接する。なお図示はしなかったが、信号線端子ボックス26cおよび突出部26dも同様である。このため突条24dは、図3に示すように突条24dの全長において動力線端子ボックス26bから離隔する。信号線端子ボックス26cおよび突出部26dも同様に、突条24dから離隔する。
【0061】
図1に示すように、突合面25dは帯状に延びて、ステータ24を囲繞する。具体的には突合面25dはステータ24の外周面に沿って円弧状に延びる近接部分25gを含む。さらに突合面25dは、動力線端子ボックス26bの輪郭と、信号線端子ボックス26cの輪郭と、突出部26dの輪郭をなす。かかる突合面25dの輪郭部分は、ステータ24の外周面から離れるように外径側へ突出する膨らみ部分25fになる。
【0062】
図1に示すようにモータ部21の軸線Mに関し、貫通孔24hが配置される周方向位置は、突出部26dの周方向位置と重なるよう配置される。また貫通孔24hが配置される周方向位置は、動力線端子ボックス26bの周方向位置と重なるよう配置される。また貫通孔24hが配置される周方向位置は、信号線端子ボックス26cの周方向位置と重なるよう配置される。つまり各貫通孔24hに通されるステータ固定手段としてのボルト51(図3)の周方向位置は、これら膨らみ部分25fの周方向位置と重なるよう配置される。
【0063】
ところで本実施形態のインホイールモータ駆動装置10は、車輪を駆動するモータ部21を備える。モータ部21は、モータ回転軸22と、モータ回転軸22と結合するロータ23と、ロータ23と隙間を介して対面する筒状のステータ24と、ステータ24の外周を包囲するモータケーシング25と、ステータ24の軸線M方向一方端を支持するケーシング基部38cと、ステータ24の軸線M方向他方端を覆うモータケーシングカバー25vと、モータ回転軸22回りにおける所定の周方向位置に配置されてステータ24をケーシング基部38cに固定するボルト51(固定手段)とを有する。モータケーシング25およびモータケーシングカバー25vは、軸線M方向に互いに突き合わされる突合面25dをそれぞれ有する。図1に示すようにモータケーシング25の突合面25dは、ステータ24の外周面を囲繞する形状であって、ステータ24の外周面に沿って延びる近接部分25gと、ステータ24の外周面から離れるように外径側へ突出する膨らみ部分25fとを含む。そしてボルト51が配置される所定の周方向位置は、膨らみ部分15fの周方向位置と重なる。
【0064】
かかる本実施形態によれば、モータケーシング25がボルト51から離隔される。またモータケーシング25が、ステータ24のうちボルト51と連結する突条24dからも離隔される。したがってモータ部21が車輪を駆動する際にステータ24自身が微振動しても、かかる振動はボルト51を経由してケーシング基部38cに主に伝達するので、モータケーシング25に伝達する振動を低減できる。したがって突合面25dでモータケーシング25に突き合わされるモータケーシングカバー25vは殆ど加振されない。本願発明によれば、ステータ24の軸線M方向他方端面を覆うモータケーシングカバー25vの膜振動を低減して不快な騒音を抑制することができる。
【0065】
また本実施形態のモータケーシング25は、ステータ24に設けられるコイル24cから延びる動力線の端部およびコイル端子41を収納する箱状の動力線端子ボックス26bと、車両用モータ駆動装置内部に設けられるセンサから延びる信号線端子ボックス26cを含む。突合面25dの膨らみ部分25fは、これら端子ボックスの輪郭をなす。かかる本実施形態によれば、膨らみ部分25fが端子ボックスを兼用することから、膨らみ部分25fとステータ24との間の空間を端子ボックスとして有効利用することができる。
【0066】
また本実施形態では、ステータ24をケーシング基部38cに固定する固定手段は、モータ回転軸22と平行に延びてステータ24を貫通するボルト51であり、ボルト51の軸部先端がケーシング基部38cに設けられた雌ねじ穴38dと螺合し、ボルト51の頭部がステータ24の軸線M方向他方端に当接する。これによりステータ24は、ボルト締結することにより軸線M方向に変位しないよう確りと固定される。
【0067】
また本実施形態のステータ24は、ステータ24の外周面から突出する突条24dを有し、ステータ24を固定する手段になるボルト51は突条24dをケーシング基部38cに固定する。モータケーシング25は、突条24dから離れるように外径側へ突出する突出部26dを有する。突条24dは、ステータ24をインホイールモータ駆動装置10のケーシングに取り付けるための構造を提供する。
【0068】
以上、図面を参照して本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、本発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明になる車両用モータ駆動装置は、電気自動車およびハイブリッド車両において有利に利用される。
【符号の説明】
【0070】
10 インホイールモータ駆動装置、 11 車輪ハブ軸受部、
12 内輪、 21 モータ部、 22 モータ回転軸、
23 ロータ、 24 ステータ、 24b ステータコア、
24c コイル、 24d 突条(突起)、 24h 貫通孔、
25 モータケーシング、 25d 突合面、 25g 近接部分、
25f 膨らみ部分、 25v モータケーシングカバー、
26b 動力線端子ボックス(突出部)、
26c 信号線端子ボックス(突出部)、 26d 突出部、
29 円筒部分、 30 回り止めピン、 31 減速部、
38 本体ケーシング、 38b 背面部分、
38c ケーシング基部、 38d 雌ねじ穴、
51 ボルト(固定手段)、 61 キャリア部材、 G 隙間、
M,N,O 軸線。
図1
図2
図3