(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】CT撮影装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/046 20180101AFI20230111BHJP
A61B 6/03 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
G01N23/046
A61B6/03 350J
A61B6/03 373
A61B6/03 320K
(21)【出願番号】P 2018044051
(22)【出願日】2018-03-12
【審査請求日】2021-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】391017540
【氏名又は名称】東芝ITコントロールシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】井上 隆一
(72)【発明者】
【氏名】長野 雅実
(72)【発明者】
【氏名】大門 弘典
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/061810(WO,A1)
【文献】特開平10-033523(JP,A)
【文献】特開2017-127638(JP,A)
【文献】特表2007-513725(JP,A)
【文献】特開2004-097429(JP,A)
【文献】特開2013-208257(JP,A)
【文献】特表2001-521805(JP,A)
【文献】米国特許第06067342(US,A)
【文献】特開2015-228912(JP,A)
【文献】KIMURA, S. et al.,A convolution/superposition method using primary and scatter dose kernels formed for energy bins of X-ray spectra reconstructed as a function of off-axis distance: comparison of calculated and measured 10-MV X-ray doses in thorax-like phantoms,Radiol. Phys. Technol.,日本,2011年06月22日,Vol. 4,pp. 216-224,doi:10.1007/s12194-011-0124-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-G01N 23/2276
A61B 6/00-A61B 6/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線ビームを照射する放射線源と、
開口を有し、前記開口で前記放射線ビームを通過させるとともに、前記開口からはみ出た部分を遮蔽することにより前記放射線ビームの形状を整形する遮蔽材と、
前記放射線ビームの照射範囲に位置し、被検体を載置可能なステージと、
前記ステージを挟んで前記放射線源とは反対側に位置し、前記被検体を透過した放射線を検出する検出器と、
前記検出器の検出結果である透過データから前記被検体の断面像を再構成する処理装置と、
前記断面像を表示する表示部と、
前記遮蔽材の位置を、前記放射線源と前記検出器の間を前記放射線ビームの光軸方向に沿って移動させる移動機構と、
を備え、
前記処理装置は、
前記遮蔽材の開口幅
及び配置位置に基づいて前記透過データをビームハードニング補正する補正部と、
前記補正部により補正された前記透過データから前記断面像を再構成する再構成部と
、
を有
し、
前記補正部は、
前記遮蔽材の開口幅及び配置位置と前記放射線ビームのエネルギースペクトルとが対応したデータベースが記憶された記憶部を有し、
前記データベースを参照し、前記開口幅及び配置位置に対応する前記エネルギースペクトルに基づいてビームハードニング補正し、
前記遮蔽材は、前記放射線源と前記ステージとの間又は前記ステージと前記検出器との間に配置され、且つ複数の遮蔽板により構成されており、
前記移動機構には、前記複数の遮蔽板と連結されたスライダが設けられており、当該スライダが前記放射線ビームの光軸方向に沿って前記複数の遮蔽板を一括して移動させ、
前記データベースは、前記遮蔽材の開口幅及び配置位置と前記エネルギースペクトルとが対応付けられていること、
を特徴とするCT撮影装置。
【請求項2】
前記遮蔽材は、前記開口が拡がる平面が前記放射線ビームの光軸に直交するように設けられ、
前記データベースは、前記開口が拡がる平面上の直交する二方向の開口幅と前記エネルギースペクトルとが対応付けられていること、
を特徴とする請求項
1記載のCT撮影装置。
【請求項3】
前記データベースは、前記開口幅と、前記放射線ビームを減衰させるフィルタの有無と、前記エネルギースペクトルとが対応付けられていること、
を特徴とする請求項
1又は2記載のCT撮影装置。
【請求項4】
前記データベースは、前記開口幅と、散乱線を減衰させるグリッドの有無と、前記エネルギースペクトルとが対応付けられていること、
を特徴とする請求項
1~3の何れか記載のCT撮影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、CT撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、小型電子部品等を高分解能で検査するための産業用のCT撮影装置が広く使用されている。このCT撮影装置は、放射線源と、放射線源の放射線ビームを2次元の分解能で検出する検出器が対向して配置される。この検出器は、この放射線ビーム中の被検体の透過データを検出する。断面像を撮影する場合は、回転テーブル上の被検体を1回転させながら多数の透過データを検出する。
【0003】
上記のようなCT撮影装置では、被検体内での散乱線の発生を抑制するために、放射線源から射出される放射線ビームの形状を整形する遮蔽材が用いられている。すなわち、遮蔽材は、開口を有し、開口より径の大きい放射線ビームを遮蔽材に照射し、当該開口から放射線ビームの中心部分を通過させるとともに、放射線ビームの当該開口からはみ出た部分を遮蔽材により遮蔽することで放射線ビームの形状を整形する。
【0004】
また、CT撮影装置に用いられる放射線源は、単一スペクトルではなく多スペクトルを有する。すなわち、当該放射線源から照射される放射線は、様々なエネルギーを有する光子で構成されており、エネルギーが高いほど減衰しにくいという性質を有する。この性質により、放射線が物質を透過する際、低エネルギーの放射線がより多く減衰するため、高エネルギーの放射線がより多く残り、物質を透過した放射線のエネルギースペクトルはエネルギーの高い部分が相対的に大きくなる。この現象を線質硬化又はビームハードニングという。このビームハードニングにより、得られた断面像にアーチファクトが発生するという問題があった。この問題は、物質を透過する放射線の透過経路が長いほど顕著に発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来から、ビームハードニング補正をする手法としては、ファントムの撮影による手法と、計算による手法とが知られている。ファントムによる撮影は、被検体と同じ材質からなるファントムを、実際の撮影条件と同じ条件で撮影してビームハードニングの補正量を予め取得し、当該補正量に基づいてビームハードニング補正する手法である。しかし、この手法は、撮影条件に変更があると、その度にビームハードニングの補正量の取得をやり直さなければならず、非常に時間と手間がかかる。
【0007】
一方、計算による手法は、放射線が透過する被検体の材質を考慮して放射線の減弱を計算し、その結果を用いてビームハードニング補正をする手法である。しかし、撮影条件とビームハードニング補正との因果関係が完全に解明されているとは言いがたい。
【0008】
本実施形態は、上述の課題を解決すべく、ファントムの撮影を不要としつつも、被検体の精度の高い断面像を得ることのできるCT撮影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意研究の結果、少なくとも遮蔽材の開口幅とビームハードニング補正との間に因果関係があることを見出した。すなわち、散乱線を抑制するための遮蔽材により、放射線源から照射された放射線ビームのエネルギースペクトルに歪みが生じること、及びこの歪みが遮蔽材の開口幅に応じて異なることから、被検体の断面像の精度を低下させていることを見出した。
【0010】
本実施形態に係るCT撮影装置は、この知見に基づき得られたものであり、上記の目的を達成するために、本実施形態に係るCT撮影装置は、放射線ビームを照射する放射線源と、開口を有し、前記開口で前記放射線ビームを通過させるとともに、前記開口からはみ出た部分を遮蔽することにより前記放射線ビームの形状を整形する遮蔽材と、前記放射線ビームの照射範囲に位置し、被検体を載置可能なステージと、前記ステージを挟んで前記放射線源とは反対側に位置し、前記被検体を透過した放射線を検出する検出器と、前記検出器の検出結果である透過データから前記被検体の断面像を再構成する処理装置と、前記断面像を表示する表示部と、前記遮蔽材の位置を、前記放射線源と前記検出器の間を前記放射線ビームの光軸方向に沿って移動させる移動機構と、を備え、前記処理装置は、前記遮蔽材の開口幅及び配置位置に基づいて前記透過データをビームハードニング補正する補正部と、前記補正部により補正された前記透過データから前記断面像を再構成する再構成部と、を有し、前記補正部は、前記遮蔽材の開口幅及び配置位置と前記放射線ビームのエネルギースペクトルとが対応したデータベースが記憶された記憶部を有し、前記データベースを参照し、前記開口幅及び配置位置に対応する前記エネルギースペクトルに基づいてビームハードニング補正し、前記遮蔽材は、前記放射線源と前記ステージとの間又は前記ステージと前記検出器との間に配置され、且つ複数の遮蔽板により構成されており、前記移動機構には、前記複数の遮蔽板と連結されたスライダが設けられており、当該スライダが前記放射線ビームの光軸方向に沿って前記複数の遮蔽板を一括して移動させ、前記データベースは、前記遮蔽材の開口幅及び配置位置と前記エネルギースペクトルとが対応付けられていること、を特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係るCT撮影装置の構成の一例を示す図である。
【
図3】遮蔽材の開口幅と放射線のエネルギースペクトルとが対応したデータベースを示す図である。
【
図4】実施形態に係るCT撮影装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図5】実施形態に係るCT撮影装置の作用の一例を示す図である。(a)は、放射線が遮蔽材の開口縁でエネルギー毎に異なる角度で反射する態様を示し、(b)は、放射線が遮蔽材の開口縁でエネルギー毎に同角度で反射する態様を示し、(c)は、放射線が遮蔽材の開口縁でエネルギー毎に反射し又は吸収される態様を示す。
【
図6】実施形態の変形例2に係る遮蔽材の構成を示す図である。
【
図7】実施形態の変形例3に係るCT撮影装置の構成を示す図である。
【
図8】実施形態の変形例4に係るCT撮影装置の構成を示す図である。
【
図9】実施形態の変形例5に係るCT撮影装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態)
以下、実施形態に係るCT撮影装置について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0013】
(構成)
図1は、本実施形態に係るCT撮影装置1の構成の一例を示す図である。CT撮影装置1は、被検体100周りに当該被検体100を透過するビームを照射し、複数ビュー数の透過データからボリュームデータを作成し、更にボリュームデータから被検体100の断面像を作成することで、断面像により被検体100の非破壊検査に供する装置である。透過データは、被検体100の透過過程で減弱したビーム強度の二次元分布データである。ボリュームデータは、空気及び水等の基準に対して被検体100の組織密度を相対的に表現したCT値の3次元分布である。断面像は、被検体100の断面の画像である。
【0014】
このCT撮影装置1は、放射線源2、遮蔽材3、ステージ4、検出器5、回転機構6、移動機構7、処理装置8、入力部9、及び表示部10を備える。
【0015】
放射線源2は、被検体100を透過するビームとして放射線ビーム21を照射する。放射線ビーム21は、放射線源2の焦点Fを頂点とし、ファン角及びコーン角を有して円錐状又は角錐状に拡がる放射線の束である。この放射線は、単一のエネルギーではなく、様々なエネルギーを有する。この放射線源2は、例えば、反射型又は透過型のX線管である。X線管は、フィラメント側の陰極とターゲット側の陽極とを対向に配置し、電圧を印加する。そうすると、フィラメントから電子が放出され、電子はターゲットに向かって加速し、ターゲットに衝突する。この衝突時に、X線が放射される。尚、被検体100を透過するビームとしては、X線に限らない。放射線源2は、被検体100を透過するビームとして、例えば、γ線、マイクロ波などを照射するようにしてもよい。
【0016】
遮蔽材3は、放射線ビーム21の形状を整形する板状部材であり、この遮蔽材3を経ることにより放射線ビーム21はファン角及びコーン角を有する角錐状に整形される。この遮蔽材3は、例えばタングステンからなる。具体的には、遮蔽材3は、開口31を有し、開口31で放射線ビーム21を通過させるとともに、開口31からはみ出た放射線ビーム21の部分を遮蔽することにより、放射線ビーム21の形状を整形する。ここでは、遮蔽材3は、放射線源2とステージ4との間に設けられ、二枚の遮蔽板32により構成される。開口31は、例えば、二枚の遮蔽板32間のスリットである。以下では、開口31の幅を開口幅ともいう。
【0017】
ステージ4は、被検体100の載置台である。このステージ4は、被検体100を載置する載置面を有し、載置面が放射線ビーム21の光軸CLと平行に拡がり、載置面の上方を放射線ビーム21の光軸CLが通過するように延在する。即ち、ステージ4は、被検体100を放射線ビーム21の照射範囲に位置させる。
【0018】
検出器5は、放射線源2の焦点Fと対向して配置され、ステージ4を挟んで放射線源2とは反対側に位置する。この検出器5は、被検体100を透過した放射線ビーム21を検出して被検体100の透過データを出力する。検出器5は、イメージインテンシファイア(I.I.)とカメラにより構成される。また、検出器5は、例えば、フラットパネルディテクタ(FPD)であってもよい。
【0019】
回転機構6は、ステージ4の下方に設けられ、ステージ4の載置面と直交する回転軸周りで回転させる。この回転機構6は、例えば、モータとシャフトを有する。シャフトは、回転軸と一致して延び、ステージ4を軸支し、モータの回転によりシャフトを回転軸周りに回転させる。この回転機構6は、被検体100に放射線ビーム21を照射している間、回転軸を中心に、ステージ4を360度回転させる。
【0020】
尚、回転機構6はステージ4を360度、即ち、1回転させたが、これに限定されない。1回転より回転角の小さいハーフスキャンでもよいし、1回転より回転角の大きいオーバースキャンでもよい。また、回転機構6を用いて被検体100を回転させているが、これに限定するものではない。放射線源2及び検出器5を回転軸周りで回転させることで被検体100を撮影してもよい。
【0021】
移動機構7は、ステージ4を直線移動及び昇降させる。直線移動方向はX軸方向及びY軸方向である。X軸方向は、ステージ4の載置面に沿う一方向である。ここでは、X軸方向は、放射線ビーム21の光軸CLに沿った方向であり、放射線源2に接近又は離隔する方向である。Y軸方向は、ステージ4の載置面に沿い、X軸方向と直交する方向である。昇降方向はZ軸方向である。Z軸方向は、ステージ4の載置面と直交する高さ方向である。
【0022】
移動機構7は、例えばボールネジ機構である。ボールネジ機構は、位置固定のモータと、ネジが切られてモータにより回転するシャフトと、シャフトと螺合してステージ4と連結されたスライダとで構成される。移動機構7は、X軸方向にシャフトが延びるボールネジ機構、Y軸方向にシャフトが延びるボールネジ機構、及びZ軸方向にシャフトが延びるボールネジ機構を有する。
【0023】
処理装置8は、CT撮影装置1の各部を制御する。処理装置8は、機構制御部81、放射線源制御部82、画像処理部83を備え、放射線ビーム21を制御し、ステージ4の位置及び動作を制御し、検出器5で得た透過データを補正し、被検体100の断面像を作成する。この処理装置8は、所謂コンピュータ及び当該コンピュータと信号線で接続されたドライバ回路であり、コンピュータ部分はCPU、HDD又はSSDといったストレージ、RAMで構成される。ストレージはプログラムを記憶し、RAMはプログラムが展開され、またデータが一時的に記憶され、CPUはプログラムを処理し、ドライバ回路は、例えばモータドライバであり、CPUの処理結果に従って各部に電力を供給する。
【0024】
すなわち、機構制御部81は、CPU及びドライバ回路を含み構成され、回転機構6及び移動機構7を制御する。典型的には、CPUにより、オペレータの指示に基づいてX軸、Y軸、Z軸方向の移動量又はZ軸周りの回転量を算出し、当該移動量又は回転量に応じた制御信号を生成し、この制御信号に基づいてドライバ回路により回転機構6又は移動機構7のモータを駆動させる。
【0025】
オペレータの指示は、入力部9により行う。処理装置8には、入力部9が接続されている。入力部9は、マウス、キーボード、操作ボタン、タッチパネル等により構成されており、オペレータから各方向の移動量及び回転量又はビュー数、積分時間の入力を受け付け、機構制御部81に出力する。
【0026】
放射線源制御部82は、CPU及びドライバ回路を含み構成され、入力部9を介して放射線源2の管電圧、管電流等を制御し、放射線ビーム21を制御する。
【0027】
画像処理部83は、CPU及びストレージを含み構成され、検出器5の検出結果である透過データから被検体100の断面像を再構成する。この画像処理部83は、
図2に示すように、補正部83a、再構成部83bを有する。
【0028】
補正部83aは、検出器5により得た透過データを、遮蔽材3の開口幅に基づいてビームハードニング補正する。ビームハードニングとは、物質の透過によって放射線の線質が変化することにより線減弱係数に線形性が失われて非線形化する現象であり、ビームハードニング補正は、この非線形化した線減弱係数が線形になるようにする補正である。
【0029】
この補正部83aは、記憶部831を有する。記憶部831は、HDD又はSDDなどのストレージで構成されており、
図3に示すように、遮蔽材3の開口幅と放射線のエネルギースペクトルとが対応したデータベースDBが記憶されている。補正部83aは、データベースDBを参照し、遮蔽材3の開口幅に対応するエネルギースペクトルに基づいて、検出器5で得た透過データをビームハードニング補正し、補正された透過データ(以下、補正済透過データともいう。)を生成する。補正部83aは、被検体100が360度から撮影され、検出器5が検出した各角度の透過データをそれぞれビームハードニング補正する。このエネルギースペクトルは、放射線源2が出力して遮蔽材3を経た放射線ビーム21の放射線強度の初期値I
0であり、ビームハードニング補正において放射線の減衰を計算するために用いられる。放射線の減衰は、初期値I
0と被検体100の透過経路sに沿った線減弱係数μ(s)の線積分を用いて周知の方法で計算することができる。
【0030】
尚、このエネルギースペクトルは、遮蔽材3により整形された放射線ビーム21を、被検体100を透過させずに測定したものである。このエネルギースペクトルは、CdTe半導体検出器などの半導体検出器により、放射線を構成する光子のエネルギーを電子又は正孔の電荷量に変換するとともに、アンプにより当該電荷量に比例した電圧パルスに変換し、異なる閾値が設定された複数のコンパレータによってエネルギー弁別し、弁別したエネルギー毎にカウンタで光子の数をカウントして測定することができる。この測定を遮蔽材3の開口幅毎に予め行い、測定したエネルギースペクトルと開口幅とを対応させてデータベースDBとし、記憶部831に記憶させる。
【0031】
再構成部83bは、補正部83aにより得られた補正済透過データから被検体100の断面像を再構成する。すなわち、再構成部83bは、各角度の補正済透過データからボリュームデータを生成し、ボリュームデータから被検体100の断面に対応するCT値を抽出し、被検体100の断面像を再構成する。再構成部83bは、FeldKampのフィルタ補正逆投影法又はART(Algebraic Reconstruction Technique)の逐次近似法などを使用する。
【0032】
入力部9は、撮影条件の設定、撮影の開始、被検体100の断面像の表示などのオペレータの操作を受け付ける。撮影条件としては、例えば、放射線源2の管電圧、管電流、遮蔽材3の開口幅、放射線源2の焦点Fと検出器5との距離、放射線源2の焦点Fから回転機構6の回転軸までの距離、回転機構6の回転軸周りの回転角、ビュー数、積分時間が挙げられる。なお、ビュー数は、回転中の透過データの収集数である。積分時間は、1透過データを検出する時間である。
【0033】
表示部10は、処置装置8に接続されており、被検体100の断面像を表示する。表示部10は、例えば、液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイである。
【0034】
上記の構成を有するCT撮影装置1の動作を、
図4を用いて説明する。
図4は、実施形態に係るCT撮影装置1の動作の一例を示すフローチャートである。
【0035】
図4に示すように、入力部9により、遮蔽材3の開口幅を含めた撮影条件の設定を受け付け(ステップS01)、オペレータからの撮影指示を受け付ける(ステップS02)。そして、CT撮影装置1は、ステージ4上の被検体100の撮影を実行する(ステップS03)。すなわち、放射線源2により放射線ビーム21を射出させ、回転機構6によりステージ4上の被検体100を回転させながら、検出器5により被検体100を透過した放射線を検出し、各回転角での透過データを取得する。
【0036】
そして、補正部83aは、データベースDBを参照し、入力された遮蔽材3の開口幅に対応する放射線のエネルギースペクトルを記憶部831から読み出し(ステップS04)、当該エネルギースペクトルに基づいて透過データをビームハードニング補正し(ステップS05)、補正済透過データを生成する。
【0037】
さらに、再構成部83bにより、補正済透過データからボリュームデータを作成し、当該ボリュームデータから被検体100の断面像を再構成する(ステップS06)。そして、再構成部83bにより得られた断面像を表示部10の表示画面に表示する(ステップS07)。
【0038】
(作用)
実施形態に係るCT撮影装置1の作用を、
図5を用いて説明する。上記の通り、CT撮影装置1は、開口31を有する遮蔽材3を備えている。この遮蔽材3により、放射線ビーム21が撮影対象としたい撮影断層面以外の経路において被検体100を透過することにより発生する散乱線を抑制することができる。
【0039】
その一方で、本発明者の鋭意研究により、散乱線を抑制するための遮蔽材3により、放射線源2から照射された放射線ビーム21のエネルギースペクトルに歪みが生じること、及びこの歪みが遮蔽材3の開口31の幅に応じて異なることから、被検体100の断面像の精度を低下させていることを見出した。
【0040】
このエネルギースペクトルの歪みは、
図5に示すように、遮蔽材3の開口31の縁(以下、開口縁31aともいう。)における放射線ビーム21の反射又は吸収により生じるものと考えられる。すなわち、放射線ビーム21の放射線は、複数のエネルギー帯域の光子で構成されており、
図5(a)に示すように、遮蔽材3の開口縁31aに入射した放射線ビーム21の放射線が、当該開口縁31aにおいて、例えば、高エネルギーの放射線、中程度のエネルギーの放射線、低エネルギーの放射線がそれぞれ異なる角度で反射することでエネルギースペクトルに歪みが生じると考えられる。また、
図5(b)に示すように、開口縁31aに入射した放射線ビーム21の放射線が、開口縁31aにおいて、エネルギーに依らず同角度で反射されることで、エネルギースペクトルに歪みが生じると考えられる。さらに、
図5(c)に示すように、開口縁31aに入射した放射線ビーム21の放射線が、低エネルギー等の一部の放射線が開口縁31aで吸収され、他のエネルギーの放射線が開口縁31aで反射されることで、エネルギースペクトルに歪みが生じると考えられる。
【0041】
換言すれば、このような反射、吸収により、検出器5では、検出面に二次元状に配列された検出素子が、正しい透過経路の放射線とともに、これらの反射された放射線を検出するために、スペクトルの歪みが検出結果である透過データに影響する。
【0042】
このような反射、吸収の現象は、放射線と開口縁31aとの間で、コンプトン散乱、レイリー散乱、光電効果、電子対生成等の相互作用により生じると考えられるが、各相互作用がどのエネルギー帯の放射線でどの程度発生するのかを計算で求めることは難しいが、一方、このような反射、吸収の現象によるエネルギースペクトルの歪みは、遮蔽材3の開口幅の大小に応じることが判明した。
【0043】
そこで、放射線源2の放射線ビーム21のエネルギースペクトルを遮蔽材3の開口31を介して半導体検出器等により予め測定するとともに記憶部831に記憶させておき、当該スペクトルをビームハードニング補正に用いている。すなわち、この予め測定したエネルギースペクトルは、各種の相互作用が反映されたものである。そのため、この遮蔽材3の開口幅に基づくスペクトルを用いて放射線の減衰等を計算し、ビームハードニング補正を行うことで、より精度の高い断面像を得ることができる。
【0044】
尚、エネルギースペクトルに歪みが生じるメカニズムは、上記の開口縁31aでの反射、吸収のメカニズムに限定されるものではない。
【0045】
(効果)
本実施形態のCT撮影装置1は、放射線の束である放射線ビーム21を照射する放射線源2と、開口31を有し、開口31で放射線ビーム21を通過させるととともに、開口31からはみ出た部分を遮蔽することにより放射線ビーム21の形状を整形する遮蔽材3と、放射線ビーム21の照射範囲に位置し、被検体100を載置可能なステージ4と、ステージ4を挟んで放射線源2とは反対側に位置し、被検体100を透過した放射線を検出する検出器5と、検出器5の検出結果である透過データから被検体100の断面像を再構成する処理装置8と、被検体100の断面像を表示する表示部10と、を備え、処理装置8は、遮蔽材3の開口幅に基づいて透過データをビームハードニング補正する補正部83aと、補正部83aにより補正された透過データから断面像を再構成する再構成部83bと、を有するようにした。
【0046】
これにより、遮蔽材3の開口幅に対応するエネルギースペクトルを用いてビームハードニング補正をしているので、ファントムの撮影を不要としつつも、被検体100の断面像の精度を向上させることができる。
【0047】
具体的には、補正部83aは、遮蔽材3の開口幅と放射線ビーム21のエネルギースペクトルとが対応したデータベースDBが記憶された記憶部831を有し、データベースDBを参照し、開口幅に対応するエネルギースペクトルに基づいてビームハードニング補正するようにした。
【0048】
これにより、記憶部831に記憶されたデータベースDBのエネルギースペクトルには遮蔽材3の開口縁31aと放射線ビーム21との各種相互作用が加味されているので、遮蔽材3の開口縁31aと放射線ビーム21との各種相互作用を計算して初期のエネルギースペクトルを求める必要がなく、簡便に遮蔽材3の開口幅に基づいてビームハードニング補正をすることができる。
【0049】
また、データベースDBは、遮蔽材3の開口幅だけでなく、各種撮影条件と対応させても良い。撮影条件としては、例えば、放射線源2の管電圧、遮蔽材3の開口31の二方向の開口幅、遮蔽材3の配置位置、フィルムの有無、グリッドの有無などが挙げられる。以下、より詳細に説明する。なお、上記実施形態と同一構成及び同一機能については同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0050】
(変形例1)
放射線源2の管電圧により放射線ビーム21のエネルギースペクトルは変動する。そのため、データベースDBは、遮蔽材3の開口幅と、放射線源2の管電圧と、放射線のエネルギースペクトルとを対応付けて記憶部831に記憶されていても良い。これにより、管電圧及び開口幅に応じたエネルギースペクトルを用いてビームハードニング補正するので、被検体100の精度の高い断面像を得ることができる。
【0051】
(変形例2)
図6は、実施形態の変形例2に係る遮蔽材3の構成を示す図である。
図6に示すように、遮蔽材3は、上下の二枚の遮蔽板32と、左右の二枚の遮蔽板33とで構成される。開口31が放射線ビーム21の光軸CLに直交するように設けられている。左右の遮蔽板33は、Y軸方向に離間させて配置され、上下の遮蔽板32は、Z軸方向に離間させて配置され、各遮蔽板32、33の各辺により四角形の開口31が形成される。すなわち、開口31は、開口31が拡がるYZ平面上に直交する二方向(Y軸方向、Z軸方向)の開口幅を有する。
【0052】
データベースDBは、Y軸方向及びZ軸方向の開口幅とエネルギースペクトルとが対応付けられて記憶部831に記憶されている。
【0053】
また、遮蔽板32、33を移動させ、開口31の二方向の開口幅を調整する調整機構を設けても良い。この調整機構は、各遮蔽板32、33と接続されたボールネジ機構で構成することができる。Y軸方向及びZ軸方向の開口幅に応じたビームハードニング補正により、被検体100の精度の高い断面像を得ることができる。
【0054】
(変形例3)
図7は、実施形態の変形例3に係るCT撮影装置1の構成を示す図である。
図7に示すように、CT撮影装置1は、遮蔽材3の位置を放射線源2と検出器5との間をX軸方向に沿って移動させる移動機構71を更に備える。この移動機構71は、例えば、ボールネジ機構である。ボールネジ機構は、位置固定のモータと、ネジが切られてモータにより回転するシャフト71aと、シャフト71aと螺合して遮蔽材3と連結されたスライダ71bとで構成される。この移動機構71により、遮蔽材3の配置位置をX軸方向に変更することができる。例えば、遮蔽材3は、放射線源2とステージ4との間、又は、ステージ4と検出器5との間に配置する。なお、遮蔽材3を放射線源2とステージ4との間からステージ4と検出器5との間に移動させるには、ステージ4を遮蔽材3の移動の障壁にならないように移動機構7で降下させて、移動機構71で遮蔽材3をX軸方向に沿って検出器5側に移動させる。
【0055】
このように、遮蔽材3の配置位置が変わり得るため、記憶部831には、遮蔽材3の開口幅及び配置位置と放射線のエネルギースペクトルとを対応させたデータベースDBを予め記憶させておく。これにより、遮蔽材3の配置位置が変動したとしても、遮蔽材3の開口幅及び配置位置に応じたビームハードニング補正により、被検体100の精度の高い断面像を得ることができる。
【0056】
(変形例4)
図8は、実施形態の変形例4に係るCT撮影装置1の構成を示す図である。
図8に示すように、CT撮影装置1は、フィルタ11を更に備える。フィルタ11は、放射線源2とステージ4との間に配置され、放射線ビーム21を減衰させる。フィルタ11は、例えば厚さが0.1mm~2mm銅板で構成され、低エネルギーの放射線を吸収し、高エネルギーの放射線を透過させる。これにより、ビームハードニングの一因となる低エネルギーの放射線が除去された高エネルギーの放射線が被検体100を透過するので、ビームハードニングの影響を低減させることができる。
【0057】
データベースDBは、遮蔽材3の開口幅と、フィルタ11の有無と、放射線のエネルギースペクトルとが対応付けられて記憶部831に記憶されている。これにより、遮蔽材3の開口幅とフィルタの有無に応じたビームハードニング補正により、被検体100の精度の高い断面像を得ることができる。
【0058】
なお、上記変形例3の移動機構71のスライダ71bに遮蔽材3とともにフィルタ11を固定することで、移動機構71により、フィルタ11を移動させるようにしても良い。
【0059】
(変形例5)
図9は、実施形態の変形例5に係るCT撮影装置1の構成を示す図である。
図9に示すように、CT撮影装置1は、グリッド12を備える。グリッド12は、被検体100内で放射線ビーム21が反射することに発生した散乱線を吸収するプレートであり、検出器5の受光面となる前面を覆うように配置される。
【0060】
データベースDBは、遮蔽材3の開口幅と、グリッド12の有無と、放射線のエネルギースペクトルとが対応付けられて記憶部831に記憶されている。これにより、遮蔽材3の開口幅及びグリッド12の有無が変動したとしても、遮蔽材3の開口幅及びグリッド12の有無に応じたビームハードニング補正により、被検体100の精度の高い断面像を得ることができる。
【0061】
(他の実施形態)
本明細書においては、本発明に係る実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。以上のような実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0062】
例えば、上記実施形態には、変形例1乃至5のいずれか1つを組み合わせても良いし、変形例1乃至5の何れか2以上を組み合わせても良い。
【0063】
また、データベースDBは、遮蔽材3の開口幅と、放射線源2の管電圧、遮蔽材3の開口31の二方向の開口幅、遮蔽材3の配置位置、フィルムの有無、グリッドの有無の少なくとも1つ以上と、エネルギースペクトルとを対応させて記憶部831に記憶されていても良い。
【0064】
また、遮蔽材3の開口31は、上記実施形態ではスリット状としたが、任意の形状とすることができる。例えば、開口31は、円形であっても良い。
【0065】
また、補正部83aによる放射線の減衰には、検出器5の窓材の材質及び厚さ、検出器5のシンチレータ等の検出素子の材質及び厚さ、被検体100の材質、フィルタ11の材質及び厚さなどを加味しても良い。例えば、各部材の線減弱係数の線積分の和を用いて放射線の減衰を求めても良い。
【符号の説明】
【0066】
1 CT撮影装置
2 放射線源
21 放射線ビーム
F 焦点
3 遮蔽材
31 開口
31a 開口縁
32、33 遮蔽板
4 ステージ
5 検出器
6 回転機構
7 移動機構
71 移動機構
71a シャフト
71b スライダ
8 処理装置
81 機構制御部
82 放射線源制御部
83 画像処理部
83a 補正部
831 記憶部
83b 再構成部
9 入力部
10 表示部
11 フィルタ
12 グリッド
100 被検体
DB データベース