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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】微粒子抽出装置、微粒子抽出方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 19/00 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
B01D19/00 G
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018164770
(22)【出願日】2018-09-03
(65)【公開番号】P2020037067
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114605
【弁理士】
【氏名又は名称】渥美 久彦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 翔太
【審査官】谷本 怜美
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-016508(JP,A)
【文献】米国特許第05015398(US,A)
【文献】特開昭59-207139(JP,A)
【文献】特開2012-161710(JP,A)
【文献】特開2004-290870(JP,A)
【文献】実開平04-000901(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 19/00-19/04
C02F 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細気泡及び前記微細気泡と同程度の直径を有する固体微粒子を含む液体から前記固体微粒子を分離して抽出する装置であって、
上流側面及び下流側面を連通しかつ孔径が前記微細気泡及び前記固体微粒子の直径の2倍以上50倍以下である多数の細孔を有し、前記細孔を介して前記上流側面から前記下流側面に向けて前記液体を通過させることにより、前記微細気泡を消泡する一方、前記固体微粒子を前記液体とともに通過させる多孔体を備えることを特徴とする微粒子抽出装置。
【請求項2】
前記微細気泡及び前記固体微粒子の直径は1μm未満であることを特徴とする請求項1に記載の微粒子抽出装置。
【請求項3】
前記細孔の孔径は、前記微細気泡及び前記固体微粒子の直径の10倍以上20倍以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の微粒子抽出装置。
【請求項4】
前記細孔を介して前記上流側面から前記下流側面に向けて前記液体を強制的に通過させる強制通過手段を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の微粒子抽出装置。
【請求項5】
前記強制通過手段は、前記液体を前記多孔体側に圧送する圧送手段であることを特徴とする請求項4に記載の微粒子抽出装置。
【請求項6】
前記液体を溜める処理槽を備え、前記処理槽内に前記多孔体が配置されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の微粒子抽出装置。
【請求項7】
微細気泡及び前記微細気泡と同程度の直径を有する固体微粒子を含む液体から前記固体微粒子を分離して抽出する方法であって、
上流側面及び下流側面を連通しかつ孔径が前記微細気泡及び前記固体微粒子の直径の2倍以上50倍以下である多数の細孔を有する多孔体に対して、前記細孔を介して前記上流側面から前記下流側面に向けて前記液体を通過させることにより、前記微細気泡を消泡する一方、前記固体微粒子を前記液体とともに通過させる消泡工程を行うことを特徴とする微粒子抽出方法。
【請求項8】
前記消泡工程において消泡される前記微細気泡の直径、及び、前記消泡工程において前記多孔体を通過する前記固体微粒子の直径は、それぞれ1μm未満であることを特徴とする請求項7に記載の微粒子抽出方法。
【請求項9】
前記細孔の孔径は、前記微細気泡及び前記固体微粒子の直径の10倍以上20倍以下であることを特徴とする請求項7または8に記載の微粒子抽出方法。
【請求項10】
前記消泡工程では、前記細孔を介して前記上流側面から前記下流側面に向けて前記液体を強制的に通過させることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載の微粒子抽出方法。
【請求項11】
前記消泡工程では、前記液体を前記多孔体側に圧送することにより、前記液体を強制的に通過させることを特徴とする請求項10に記載の微粒子抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細気泡及び固体微粒子を含む液体から固体微粒子を分離して抽出する微粒子抽出装置、及び、微粒子抽出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、直径1μm~100μm程度の気泡であるマイクロバブルが知られているが、それよりもさらに細かい直径1μm以下の気泡に対して近年注目が集まっている。このような気泡はウルトラファインバブル(UFB:Ultrafine-Bubble)あるいはナノバブルと呼ばれており、例えば、洗浄、農業、水産業、医療等の様々な分野で利用が拡大しつつある。
【0003】
ところが、技術分野によっては、UFBと微粒子とを含む液体から微粒子を分離して抽出する場合などに、UFBの消泡が要求されることもある。しかしながら、UFBは、液体を加圧または減圧したり、沸騰させたりしても、消える訳ではないため、消泡が非常に困難である。そこで、近年、微細気泡を消泡させるための技術が種々提案されている(例えば、非特許文献1及び特許文献1参照)。非特許文献1では、UFBの分離(消泡)方法として、“緩慢凍結融解分離”が有効であることが紹介されている。また、特許文献1には、ナノインプリント用の液体材料中にナノバブル(UFB)等の不純物(パーティクル)が含まれないようにすることで、歩留まりを向上させる技術が開示されている。具体的には、粗液体材料の濾過を行って、UFBを含んだパーティクルをフィルタの一次側に残すことにより、パーティクルを含まない液体材料を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-164977号公報([0149]~[0151]等)
【非特許文献】
【0005】
【文献】第8回ファインバブル国際シンポジウム(一般社団法人ファインバブル産業会主催)資料、2016年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
なお、本発明者らは、非特許文献1に記載の緩慢凍結融解分離を試験的に実施してみた。その結果、微細気泡と微粒子とを含む液体から微粒子を分離して抽出する場合には、微粒子が凝集してしまうことが確認された。さらに、非特許文献1に記載の従来技術は、凍結の速度を制御するための特殊な試験機や、電源を必要とし、連続的な処理が困難であるという問題がある。
【0007】
また、特許文献1に記載の従来技術を用いて、微細気泡(UFB)と微粒子とを含む液体から微粒子を分離して抽出する場合、微粒子の直径がUFBの直径と大きく異なるときには、濾過によって微粒子を分離することができる。しかし、微粒子の直径がUFBの直径に近い場合(即ち、100nm程度の場合)には、微粒子の分離が困難であると推察される。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、微細気泡を確実に消泡しつつ固体微粒子を確実に分離して抽出することができる微粒子抽出装置、微粒子抽出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段(手段1)としては、微細気泡及び前記微細気泡と同程度の直径を有する固体微粒子を含む液体から前記固体微粒子を分離して抽出する装置であって、上流側面及び下流側面を連通しかつ孔径が前記微細気泡及び前記固体微粒子の直径の2倍以上50倍以下である多数の細孔を有し、前記細孔を介して前記上流側面から前記下流側面に向けて前記液体を通過させることにより、前記微細気泡を消泡する一方、前記固体微粒子を前記液体とともに通過させる多孔体を備えることを特徴とする微粒子抽出装置がある。
【0010】
従って、上記手段1に記載の発明では、多孔体の細孔を介して上流側面から下流側面に向けて液体が通過する際に、液体に含まれる微細気泡は、細孔の内壁面に衝突して弾けたり、細孔の内壁面に付着するなどして消泡すると推定される。このため、微細気泡を確実に消泡することができる。また、細孔を介して上流側面から下流側面に向けて液体が通過する際に、微細気泡が消泡する一方、固体微粒子が液体とともに通過する。なお、固体微粒子は、“固体”であるため、“気体”の微粒子である微細気泡とは異なり、衝突したとしても潰れにくい。その結果、多孔体によって固体微粒子を確実に分離して抽出することができる。
【0011】
ところで、液体内に存在しうる気泡は、直径が100μmよりも大きい気泡であるミリバブル、直径が100μm以下であるものの1μmよりは大きい気泡であるマイクロバブル、直径が1μm以下の気泡であるウルトラファインバブル(UFB)に分類される。なお、本発明における「微細気泡」とは、上記の気泡のうちマイクロバブル及びウルトラファインバブルをいうものとする。また、液体は、微細気泡に加えて、微細気泡と同程度の直径を有する固体微粒子を含んでいる。ここで、「微細気泡と同程度の直径」とは、例えば、微細気泡の直径±50nm以内の直径をいう。
【0012】
上記微粒子抽出装置は、上流側面及び下流側面を連通しかつ孔径が微細気泡及び固体微粒子の直径よりも大きい多数の細孔を有する多孔体を備える。なお、多孔体は、例えばセラミック材料からなることが好ましい。多孔体を構成するセラミック材料としては、例えば、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化珪素、窒化ホウ素、ジルコニア、チタニア、ムライト、マグネシア、セリア、ドープセリア及びこれらの混合物などを挙げることができる。また、多孔体の形成材料としては、上記のようなセラミックのほか、例えばガラスや金属(ステンレス等)などを用いてもよく、導電性の有無を問わず材料を選択することができる。なお、これらのような無機材料だけではなく、例えば合成樹脂のような有機材料を用いることもできる。
【0013】
また、上記微粒子抽出装置は、細孔を介して上流側面から下流側面に向けて液体を強制的に通過させる強制通過手段を備えることが好ましい。このようにすれば、液体が、多孔体の細孔を強制的に通過させられるため、細孔を詰まることなく通過する。従って、液体中に含まれる微細気泡を効率良く消泡できるとともに、液体中に含まれる固体微粒子を効率良く分離することができる。さらに、強制通過手段は、液体を多孔体側に圧送する圧送手段であることが好ましい。このようにすれば、液体が加圧した状態で多孔体側に供給されるため、液体が多孔体の細孔を詰まることなく通過する。従って、液体中に含まれる微細気泡をより効率良く消泡できるとともに、液体中に含まれる固体微粒子をより効率良く分離することができる。
【0014】
孔の孔径は、微細気泡及び固体微粒子の直径の2倍以上50倍以下であり、10倍以上20倍以下であることが好ましい。細孔の孔径を微細気泡及び固体微粒子の直径の2倍以上にすることにより、液体が細孔を通過する際の抵抗が小さくなるため、微細気泡の消泡や固体微粒子の分離を素早く行うことができる。また、細孔の孔径を微細気泡及び固体微粒子の直径の50倍以下にすることにより、液体が細孔を通過する際に、液体に含まれる微細気泡が細孔の内壁面に衝突して弾けやすくなるため、微細気泡を確実に消泡することができる。
【0015】
なお、微粒子抽出装置は、液体を溜める処理槽を備え、処理槽内に多孔体が配置されることが好ましい。このようにすれば、処理槽に溜めた液体を処理槽に配置した多孔体に接触させることができるため、液体に含まれる微細気泡を効率良く消泡できるとともに、液体に含まれる固体微粒子を効率良く分離することができる。
【0016】
また、上記課題を解決するための別の手段(手段2)としては、微細気泡及び前記微細気泡と同程度の直径を有する固体微粒子を含む液体から前記固体微粒子を分離して抽出する方法であって、上流側面及び下流側面を連通しかつ孔径が前記微細気泡及び前記固体微粒子の直径の2倍以上50倍以下である多数の細孔を有する多孔体に対して、前記細孔を介して前記上流側面から前記下流側面に向けて前記液体を通過させることにより、前記微細気泡を消泡する一方、前記固体微粒子を前記液体とともに通過させる消泡工程を行うことを特徴とする微粒子抽出方法がある。
【0017】
従って、手段2に記載の発明によると、消泡工程において、多孔体の細孔を介して上流側面から下流側面に向けて液体を通過させる際に、液体に含まれる微細気泡は、細孔の内壁面に衝突して弾けたり、細孔の内壁面に付着するなどして消泡すると推定される。このため、微細気泡を確実に消泡することができる。また、消泡工程において、細孔を介して上流側面から下流側面に向けて液体が通過する際に、微細気泡が消泡する一方、固体微粒子が液体とともに通過する。なお、固体微粒子は、“固体”であるため、“気体”の微粒子である微細気泡とは異なり、衝突したとしても潰れにくい。その結果、多孔体によって固体微粒子を確実に分離して抽出することができる。
【0018】
なお、消泡工程では、細孔を介して上流側面から下流側面に向けて液体を強制的に通過させることが好ましい。このようにすれば、液体が、多孔体の細孔を強制的に通過させられるため、細孔を詰まることなく通過する。従って、液体中に含まれる微細気泡を効率良く消泡できるとともに、液体中に含まれる固体微粒子を効率良く分離することができる。さらに、消泡工程では、液体を多孔体側に圧送することにより、液体を強制的に通過させることが好ましい。このようにすれば、液体が加圧した状態で多孔体側に供給されるため、液体が多孔体の細孔を詰まることなく通過する。従って、液体中に含まれる微細気泡をより効率良く消泡できるとともに、液体中に含まれる固体微粒子をより効率良く分離することができる。
【0019】
なお、消泡工程において消泡される微細気泡の直径、及び、消泡工程において多孔体を通過する固体微粒子の直径は、それぞれ1μm未満であることが好ましい。このようにすれば、消泡工程において、直径1μm未満のウルトラファインバブルを微細気泡として消泡させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態における微粒子抽出装置を示す概略断面図。
図2】多孔体を示す拡大断面図。
図3】消泡工程前の状態を示す説明図。
図4】消泡工程を示す説明図。
図5】供給水に含まれる粒子数を100%とした場合における、一次側及び二次側の純水に含まれる粒子数を示すグラフ。
図6】粒子の直径と粒子濃度との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0022】
図1に示されるように、本実施形態の微粒子抽出装置10は、微細気泡W1及び固体微粒子W2を含む純水W3(液体)から固体微粒子W2を分離して抽出する装置である。微細気泡W1は、純水W3内に収容された半導体を洗浄するためのものであり、直径が1μm以下(具体的には100nm)の気泡(UFB)である。一方、固体微粒子W2は、微細気泡W1と同一の直径(具体的には100nm)を有するポリスチレン粒子である。また、微粒子抽出装置10は、純水W3を溜める処理槽11を備えている。処理槽11は、ステンレス板を用いて略円筒状に形成されており、天井板12、底板13及び側板14を備えている。
【0023】
図1図2に示されるように、微粒子抽出装置10は多孔体21を備えている。多孔体21は、第1端(図1では上端)及び第2端(図1では下端)のうち第2端のみにおいて開口し、長さ20mm、外径12mm、内径9mm、厚さ1.5mmの中空円筒状を成す部材である。詳述すると、多孔体21は、処理槽11内に配置されており、第2端側の端部に圧入された固定治具15を介して処理槽11の底板13に取り付けられている。なお、底板13には、同底板13の中央部を貫通する貫通孔16が設けられており、貫通孔16内には固定治具15が嵌め込まれている。よって、多孔体21の内部空間は処理槽11の外部に連通する。
【0024】
また、多孔体21は、純水W3が接触する上流側面22(外側面)と、上流側面22の反対側に位置する下流側面23(内側面)とを有している。なお、多孔体21は、上流側面22と下流側面23との間で純水W3を透過しうる性質を有する多孔質のセラミック材料(本実施形態ではアルミナ(Al))を用いて形成されている。
【0025】
図2に示されるように、多孔体21は、上流側面22及び下流側面23を連通する多数の細孔24を内部に有することから、好適な液体透過性を有している。多孔体21は、細孔24を介して上流側面22から下流側面23に向けて純水W3を通過させることにより、微細気泡W1を消泡する一方、固体微粒子W2を純水W3とともに通過させるようになっている。なお、多孔体21は、アルミナによって形成された微粒子25を含む部材である。また、細孔24の孔径A1は、微細気泡W1の直径(100nm)や固体微粒子W2の直径(100nm)よりも大きく、本実施形態では1500nmとなっている。即ち、孔径A1は、微細気泡W1及び固体微粒子W2の直径の15倍である。
【0026】
また、図4に示されるように、処理槽11には、純水W3を多孔体21側に圧送する圧送手段である気体供給源31(窒素ボンベ)が取付可能となっている。具体的に言うと、処理槽11の天井板12には、同天井板12の中央部を貫通する供給口17が設けられている。そして、処理槽11には、気体供給源31から供給口17を介して処理槽11内に気体W4(本実施形態では窒素)を供給する気体供給流路32が接続されている。そして、気体供給源31から処理槽11内に気体W4が供給されると、処理槽11内の純水W3は、多孔体21側に押されて、多孔体21の細孔24を通過するようになる。即ち、気体供給源31は、細孔24を介して上流側面22から下流側面23に向けて純水W3を強制的に通過させる強制通過手段としての機能を有している。
【0027】
次に、純水W3から固体微粒子W2を分離して抽出する方法(微粒子抽出方法)を説明する。
【0028】
まず、微細気泡W1及び固体微粒子W2を含む純水W3を容器41内に入れる。次に、容器41内の純水W3を、供給口17を介して処理槽11内に注ぎ込む(図3参照)。そして、微細気泡W1を消泡する消泡工程を行う。具体的には、気体供給源31から気体供給流路32を介して処理槽11内に気体W4を供給する(図4参照)。これに伴い、処理槽11内の純水W3は、処理槽11内に供給された気体W4に押圧され、同じく処理槽11内にある多孔体21側に圧送される。なお、純水W3は、所定の圧力(本実施形態では0.3MPaG)に加圧した状態で多孔体21の上流側面22(外側面)に接触する。このとき、純水W3は、多孔体21が有する細孔24を介して上流側面22から下流側面23(内側面)に向けて通過する。その結果、純水W3に含まれる微細気泡W1が、細孔24の内壁面に衝突するなどして消泡する。一方、純水W3に含まれる固体微粒子W2は、純水W3とともに細孔24を通過する。そして、固体微粒子W2を含む純水W3は、細孔24の下流側面23側開口から多孔体21の内部空間に放出され、多孔体21の下方に配置された容器42内に溜められる。なお、この時点で、固体微粒子W2が分離されて抽出される。
【0029】
次に、微粒子抽出装置10の製造方法を説明する。
【0030】
まず、多孔体21を押出成形により作製する。具体的には、平均粒径が5.5μmのアルミナ粉末に対して有機バインダーや水等を添加した後、ミキサーで混合、混錬することにより、粘土状の押出成形用秤土を得る。次に、押出成形機を用いて押出成形用秤土の成形を行い、多孔体21の前駆体を得る。そして、成形した前駆体を乾燥することにより、多孔体21の形状(即ち円筒状)と同じ形状の成形体を得る。その後、成形体を脱脂し、大気雰囲気下にて1500℃で焼成することにより、多孔体21を得る。
【0031】
そして、多孔体21の第2端側の端部を固定治具15内に圧入する。次に、固定治具15を取り付けた多孔体21を処理槽11内に挿入し、処理槽11の底板13に設けられた貫通孔16に固定治具15を嵌め込む作業を行う。なお、この時点で、処理槽11内に多孔体21が取り付けられ、微粒子抽出装置10が完成する。
【0032】
次に、微粒子抽出装置の評価方法及びその結果を説明する。
【0033】
まず、測定用サンプルを次のように準備した。多孔体の細孔の孔径が1500nmとなる微粒子抽出装置、即ち、本実施形態の微粒子抽出装置10と同じ微粒子抽出装置を準備し、これを実施例とした。一方、多孔体の細孔の孔径が110nmとなる微粒子抽出装置を準備し、これを比較例とした。
【0034】
次に、各測定用サンプル(実施例、比較例)に対する液体(純水)の透過試験を行った。具体的には、まず、UFB(直径100nm)とポリスチレン粒子(直径100nm)とを0:1の割合で含む純水、即ち、ポリスチレン粒子のみを含み、UFBを含まない純水を準備した。次に、準備した純水を処理槽内に供給した後、純水を0.3MPaGに加圧した状態で多孔体の外側面に接触させ、多孔体の外側面から内側面に向けて純水を通過させる通過処理を行った。なお、通過処理は、一次側(多孔体の上流側)の純水の重量が半分になるまで継続した。その後、一次側に残った純水と、二次側(多孔体の下流側)の純水と、通過処理前の純水(供給水)とを採取した。さらに、Malvern Panalytical 社製 商品名 ナノサイト(NS-300)を用いて、採取した純水に含まれる粒子数を測定した。以上の結果を図5に示す。
【0035】
その結果、多孔体の細孔の孔径が110nmとなる比較例では、二次側の粒子数が0%であるため、多孔体の二次側(下流側)にポリスチレン粒子が通過していないことが確認された。一方、多孔体の細孔の孔径が1500nmとなる実施例では、粒子数が20%程度であるため、多孔体の二次側にポリスチレン粒子が通過したことが確認された。以上のことから、細孔の孔径を粒子(ポリスチレン粒子)の直径よりもかなり大きくしなければ、粒子は細孔を通過しないことが証明された。
【0036】
また、測定用サンプルを次のように準備した。UFBとポリスチレン粒子とを1:0の割合で含む純水、即ち、UFBのみを含み、ポリスチレン粒子を含まない純水を準備し、これを試料1とした。また、UFBとポリスチレン粒子とを1:0.5の割合で含む純水を準備し、これを試料2とした。さらに、UFBとポリスチレン粒子とを1:1の割合で含む純水を試料3、UFBとポリスチレン粒子とを1:5の割合で含む純水を試料4とした。
【0037】
次に、多孔体の細孔の孔径が1500nmとなる上記実施例の微粒子抽出装置に対して、各測定用サンプル(試料1~4)の透過試験を行った。具体的には、まず、試料1~4の純水を0.3MPaGに加圧した状態で多孔体の外側面に接触させ、多孔体の外側面から内側面に向けて純水を通過させる通過処理を行った。そして、一次側(多孔体の上流側)の純水の重量が半分になった後、一次側に残った純水、二次側(多孔体の下流側)の純水、通過処理前の純水(供給水)を採取し、ナノサイト(NS-300)を用いて、採取した純水に含まれる粒子数を測定した。以上の結果を図5に示す。
【0038】
その結果、ポリスチレン粒子を含まない試料1では、二次側の粒子数が0%であるため、多孔体の二次側にUFBが通過していないことが確認された。即ち、純水が多孔体を通過する際に、UFBが消泡しているものと推察される。また、UFBとポリスチレン粒子との割合を変化させて透過試験を行った場合(試料2~4参照)、ポリスチレン粒子の割合が高くなるのに従って、二次側の粒子数も増加することが確認された。以上のことから、純水が多孔体を通過する際に、粒子(ポリスチレン粒子)が液体とともに通過することが証明されたため、上記実施例の微粒子抽出装置を用いれば、UFBと粒子とを含む純水から粒子を分離して抽出できることが確認された。
【0039】
また、UFBとポリスチレン粒子とを1:1の割合で含む試験水を準備した。そして、本実施形態の多孔体21と同じ多孔体に試験水を透過させることにより、試験水に含まれるUFBを消泡する消泡試験を行った。また、試験水に対して、特許文献1に記載の緩慢冷凍(緩慢統括融解分離)を行うことにより、試験水に含まれるUFBを消泡する消泡試験を行った。さらに、ナノサイト(NS-300)を用いて、消泡試験後の試験水の粒子濃度(pc/ml:ここでは、ポリスチレン粒子の濃度)を測定するとともに、粒子(ポリスチレン粒子)の直径を測定した。以上の結果を図6に示す。
【0040】
その結果、緩慢冷凍による消泡試験では、直径が220nmとなる範囲まで粒子の存在が確認されたため、ポリスチレン粒子が凝集しているものと推察される。一方、透過による消泡試験では、直径が150nmなる範囲までしか粒子の存在が確認されなかったため、ポリスチレン粒子の凝集は確認されなかった。以上のことから、多孔体に液体を透過させてUFBの消泡を行えば、粒子の凝集を防止できることが証明された。
【0041】
従って、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0042】
(1)本実施形態の微粒子抽出装置10では、多孔体21の細孔24を介して上流側面22から下流側面23に向けて純水W3が通過する際に、純水W3に含まれる微細気泡W1は、細孔24の内壁面に衝突して弾けたり、細孔24の内壁面に付着するなどして消泡すると推定される。また、微細気泡W1は、多孔体21の表面(上流側面22や下流側面23)に付着することによっても消泡すると推測される。以上のことから、多孔体21に純水W3を通過させることにより、微細気泡W1を確実に消泡することができる。また、細孔24を介して上流側面22から下流側面23に向けて純水W3が通過する際に、微細気泡W1が消泡する一方、固体微粒子W2が純水W3とともに通過する。なお、固体微粒子W2は、“固体”であるため、“気体”の微粒子である微細気泡W1とは異なり、衝突したとしても潰れにくい。その結果、多孔体21によって固体微粒子W2を確実に分離して抽出することができる。
【0043】
(2)本実施形態では、気体W4が加圧した状態で処理槽11内に供給されることに伴い、処理槽11内の純水W3が気体W4によって多孔体21側に押されるようになっている。その結果、純水W3が加圧した状態で多孔体21側に供給されるため、純水W3が多孔体21の細孔24を詰まることなく通過する。従って、純水W3中に含まれる微細気泡W1を効率良く消泡できるとともに、純水W3中に含まれる固体微粒子W2を効率良く分離することができる。また、処理槽11内は、純水W3によって加圧された状態にあるため、多孔体21内の空気が細孔24を通過して処理槽11内に侵入する等の問題を解消することができる。
【0044】
(3)非特許文献1に記載の従来技術では、緩慢凍結融解分離を実施することによって気泡を消泡しているが、凍結の速度を制御するための特殊な試験機や、電源を必要とし、連続的な処理が困難であるという問題がある。一方、本実施形態では、多孔体21の細孔24に対して純水W3を透過させるだけで、微細気泡W1を消泡することができる。このため、上記した特殊な試験機を設置する必要がない。しかも、本実施形態の微粒子抽出装置10は、純水W3を多孔体21側に圧送する機能を有している。よって、純水W3は多孔体21を連続的に通過するため、微細気泡W1を連続的に消泡することができる。
【0045】
(4)特許文献1に記載の従来技術では、比較的小さい孔径(数十nm)を有するフィルタで液体を濾過しているため、液体がフィルタを通過する際の抵抗が大きくなり、液体に含まれている粒子の分離に時間が掛かってしまうという問題がある。一方、本実施形態では、細孔24の孔径A1(1500nm)が微細気泡W1及び固体微粒子W2の直径(100nm)の15倍にもなる多孔体21を用いて、純水W3(液体)を通過させるようになっている。その結果、純水W3が細孔24を通過する際の抵抗が小さくなるため、微細気泡W1の消泡や固体微粒子W2の分離を素早く行うことができる。
【0046】
なお、上記実施形態を以下のように変更してもよい。
【0047】
・上記実施形態の多孔体21は、円筒状を成していたが、矩形筒状、楕円筒状、三角筒状等の他の筒状を成していてもよい。また、多孔体は、筒状に限定される訳ではなく、円板状や平板状等の他の形状を成していてもよい。
【0048】
・上記実施形態では、処理槽11内に気体W4を供給する気体供給源31が強制通過手段及び圧送手段として用いられていたが、気体供給源31とは別の構成を強制通過手段及び圧送手段として用いてもよい。例えば、処理槽11内において同処理槽11の軸方向(図1では上下方向)に沿って往復動可能に設けられたピストンなどを、強制通過手段及び圧送手段として用いてもよい。この場合、ピストンを下方に移動させることにより、純水W3が、ピストンに押されて多孔体21側に圧送され、細孔24を介して上流側面22から下流側面23に向けて通過するようになる。
【0049】
・上記実施形態では、処理槽11内に供給される気体W4として窒素を用いたが、例えば、空気、酸素、アルゴン等の他の気体を用いてもよい。
【0050】
・上記実施形態では、処理槽11内の液体として純水W3を用いたが、これに限定される訳ではなく、純度がそれほど高くない水、例えば水道水などを用いても勿論よい。
【0051】
・上記実施形態の固体微粒子W2はポリスチレン粒子であった。しかし、固体微粒子W2は、シリカ、酸化アルミニウム、アクリル樹脂、ホウケイ酸ガラス、石英、金、酸化鉄、白金、パラジウム等の他の材料からなる微粒子であってもよい。
【0052】
・上記実施形態の処理槽11は、ステンレス板を用いて略円筒状に形成されていた。しかし、処理槽11は、ガラス容器や、ポリ塩化ビニルからなるパイプ(塩ビパイプ)を用いて形成されていてもよい。
【0053】
・上記実施形態の微粒子抽出装置10は、半導体を洗浄するための微細気泡W1の消泡に用いられていたが、例えば、食品や医療器具等を洗浄する微細気泡の消泡に用いてもよい。また、微粒子抽出装置10は、微細気泡を消泡するものであればよく、洗浄用の微細気泡の消泡を行うものでなくてもよい。例えば、微粒子抽出装置10は、農作物の成長促進に用いられる微細気泡を消泡するものであってもよい。
【0054】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0055】
(1)上記手段1において、前記液体は純水であることを特徴とする微粒子抽出装置。
【0056】
(2)上記手段1において、前記細孔の孔径は1000nm以上2000nm以下であることを特徴とする微粒子抽出装置。
【0057】
(3)上記手段1において、前記多孔体がセラミック材料からなることを特徴とする微粒子抽出装置。
【符号の説明】
【0058】
10…微粒子抽出装置
11…処理槽
21…多孔体
22…上流側面
23…下流側面
24…細孔
31…強制通過手段及び圧送手段としての気体供給源
A1…細孔の孔径
W1…微細気泡
W2…固体微粒子
W3…液体としての純水
図1
図2
図3
図4
図5
図6