(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】建設機械
(51)【国際特許分類】
F04D 29/30 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
F04D29/30 C
F04D29/30 F
(21)【出願番号】P 2018194562
(22)【出願日】2018-10-15
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大和
(72)【発明者】
【氏名】草野 和也
(72)【発明者】
【氏名】西口 仁視
(72)【発明者】
【氏名】池田 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】羽野 健一
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0149157(US,A1)
【文献】特開平09-112268(JP,A)
【文献】国際公開第2009/139422(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/006668(WO,A1)
【文献】特開平08-303241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/30
F04D 29/44
E02F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の内部に収容された遠心ファンと、
前記遠心ファンの吸込み側に配置され、流出口を有するベルマウスとを備え、
前記遠心ファンは、
回転軸線を中心に回転可能なハブと、
前記ハブに対向するように配置されて前記ハブとの間に流路を形成し、吸込口を有する環状のシュラウドと、
前記ハブと前記シュラウドとの間に周方向に間隔をあけて設けられた複数の羽根とを有し、
前記複数の羽根の各々は、
空気が流入する側の前縁と、
空気が流出する側の後縁と、
前記前縁と前記後縁との間に延在する一方側の翼面であって回転方向に対して前方側を向く正圧面と、
前記前縁と前記後縁との間に延在する他方側の翼面であって前記回転方向に対して後方側を向く負圧面とを含んで構成されており、
前記ベルマウスの前記流出口が前記シュラウドの前記吸込口よりも径方向内側に配置された建設機械において、
前記複数の羽根の各々は、前記前縁が前記前縁における前記ハブとの接続部と前記前縁における前記シュラウドとの接続部とを結ぶ線分に対して、前記負圧面側に凸形状となるように形成されると共に、前記前縁の凸形状における頂点が、前記遠心ファンの吸込み側を軸方向から見たときに、前記ベルマウスの前記流出口の壁面よりも径方向内側に位置するよう形成され、
前記複数の羽根の各々は、前記前縁の凸形状が前記後縁まで延在するように構成され、
前記複数の羽根の各々は、前記複数の羽根の各々の凸形状における頂点の曲率が、前記前縁から前記前縁と前記後縁との間の中途位置へ向かって徐々に大きくなる一方、前記中途位置から前記後縁に向かって徐々に小さくなるように構成されている
ことを特徴とする建設機械。
【請求項2】
請求項1に記載の建設機械において、
前記複数の羽根の各々は、前記回転軸線を中心とした円筒面で切断した断面における前記ハブとの接続部に対する前記シュラウドとの接続部の周方向の相対位置が前記前縁から前記後縁に向かって徐々に前記回転方向に対して後方側へ変位すると共に、前記後縁における前記シュラウドとの接続部の周方向の位置が前記後縁における前記ハブとの接続部の周方向の位置よりも前記回転方向に対して後方側にずれるように構成されている
ことを特徴とする建設機械。
【請求項3】
請求項1に記載の建設機械の冷却ファンにおいて、
前記遠心ファンを挟んで前記ベルマウスの反対側に配置された第1整流部材を更に備え、
前記第1整流部材は、少なくとも前記遠心ファンの外周縁から径方向外側に延在する部材である
ことを特徴とする建設機械。
【請求項4】
請求項
3に記載の建設機械において、
前記第1整流部材は、前記遠心ファンの外周縁よりも径方向外側の部分が径方向に対して前記遠心ファンから離れる方向へ傾斜するように構成されている
ことを特徴とする建設機械。
【請求項5】
請求項
3に記載の建設機械において、
前記第1整流部材に対向するように配置された第2整流部材を更に備え、
前記第2整流部材は、前記遠心ファンの外周縁の径方向外側に延在すると共に、径方向外側端部が径方向内側端部よりも前記第1整流部材側に位置するように構成され、
前記第2整流部材は、前記遠心ファンから吐出された気流を導く導風路を前記第1整流部材と共に形成する
ことを特徴とする建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械に係り、更に詳しくは、遠心ファンを搭載した建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルやダンプトラック等の建設機械では、エンジンや熱交換器等の各種機器を冷却ファンが生起した冷却風によって冷却している。建設機械の内部には、多数の機器や部品が密集した状態で配置されている。このような領域に冷却風を供給する場合、冷却風の圧力損失が大きくなるので、冷却ファンとして遠心ファンを採用することがある。遠心ファンは、一般に、軸流ファンと比べて同一回転数においてより高い圧力上昇が得られる。
【0003】
遠心ファンは、回転駆動軸に取り付けられる円板状のハブ(主板)と、ハブの外周部に周方向に間隔をおいて一端側が固定された複数枚の羽根と、これら複数枚の羽根における上記ハブと反対側の他端側に取り付けられ、一方側に空気吸込口を形成するリング状のシュラウド(側板)とを備えている。このような遠心ファンの中には、羽根の両面にスムーズな流れを形成して有効な羽根性能を発揮させることを意図したものがある(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
特許文献1に記載の遠心ファンでは、シュラウドが中央側空気吸込口から外周側遠心方向へ所定の曲率で傾斜する断面円弧形状に構成されており、羽根のハブとシュラウド間におけるシュラウド側端部を反回転側方向へ湾曲させている。上記の構成によって、羽根がハブからシュラウドへ略直線状に延びて接続される場合よりも、シュラウド内側の気流ガイド面と羽根の正圧面との間に形成されるコーナー部の断面積が拡大し、死水域低減空間が形成される。また、特許文献1に記載の遠心ファンでは、遠心ファンの空気吸込口に空気をスムーズに案内するために、遠心ファンの吸込側にベルマウスを設置している。ベルマウスは、下流側の空気流出口の端部がシュラウドの空気吸込口の内部に遊嵌された状態で配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
遠心ファンは空気を軸方向から吸い込んで径方向外側へ吐出することで空気を加圧するものなので、ファン内部の空気の流れは急激に転向されることになる。その気流は、軸方向から径方向外側へ転向される際に、慣性によってハブ側へ押し付けられる。また、シュラウド側の気流は、ハブ側の気流よりも大きな曲率で転向する必要があるが、シュラウドの壁面形状に沿いきれずにハブ側へ押し付けられる。そのため、気流の向きがある程度径方向に転向した位置では、羽根のスパン方向(羽根のハブ側からシュラウド側に向かう方向)において、ハブ側の気流の速度がシュラウド側よりも大きくなる偏りのある流速分布が生じる。このハブ側とシュラウド側の流速差が大きくなると、気流がシュラウドから剥離してしまう。この場合、遠心ファン内部の有効流路面積が縮小するので、遠心ファンの性能が低下する。
【0007】
羽根のスパン方向における流速分布を均一化させる1つの方法として、遠心ファンのシュラウドの曲率を小さくすることで気流をシュラウドの内壁面に沿わせる構成が挙げられる。しかし、建設機械においては、エンジンや熱交換器以外にも様々な機器や部品が内部に収容されており、遠心ファンの設置スペースが限られている。そのため、可能な限り薄型の(軸方向が短い)遠心ファンが求められており、曲率が小さく緩やかに湾曲するシュラウドを用いることは遠心ファンの大型化に繋がるので難しい。
【0008】
また、羽根のスパン方向における流速分布を均一化させる別の方法として、遠心ファンの径方向の流路長を長くする構成が挙げられる。しかし、建設機械では、一般に、遠心ファンの上流側に熱交換器が設置されており、熱交換器を効率良く冷却するためには、遠心ファンの吸込口の面積を可能な限り大きくする必要がある。さらに、建設機械では、前述したように、遠心ファンの設置スペースが限られているので、遠心ファンの外径も設置スペースに応じて制限される。遠心ファンの吸込口の面積を大きくすると、その分、遠心ファンの吸込口の開口縁から吐出側の外周縁までの距離が短くなるので、外径が制限された遠心ファンでは、径方向の流路長を伸長することは難しい。
【0009】
ところで、遠心ファンを搭載した建設機械の中には、特許文献1に記載の遠心ファンと同様に、遠心ファンの吸込側にベルマウスを設置し、ベルマウスの空気流出口を遠心ファンのシュラウドの空気吸込口の内周側に配置したものがある。遠心ファン側へ向かって縮径するベルマウスでは、その空気流出口から流出する空気の速度がベルマウスの中心側(径方向内側)よりも壁面側(径方向外側)の方が大きくなる。
【0010】
また、回転する遠心ファンと静止するベルマウスとが接触しないように、両者間に隙間を設けている。遠心ファンから吐出された空気の一部は、当該隙間を通って再び遠心ファンへ漏れ流れとして流入する。建設機械に搭載された遠心ファンでは、運転時の車体振動などを考慮して、特許文献1のような天井埋込型空気調和機に適用される遠心ファンと比べて、遠心ファンとベルマウスとの隙間を大きくする必要がある。当該隙間が大きい程、遠心ファンに流入する漏れ流れが増加する。
【0011】
このようなベルマウスの壁面形状の影響や漏れ流れの影響によって、遠心ファンの空気吸込口では、シュラウドの壁面近傍の方が空気吸込口中心部よりも速度の大きな空気の流れが流入する。すなわち、空気吸込口に流入する空気は、シュラウドの壁面近傍で局所的に増速している。そのため、シュラウドの壁面近傍の空気の流れは、軸方向から径方向外側へ転向される際に、速度の増速分慣性が大きくなるので、よりハブ側へ押し付けられる。したがって、吸込側にベルマウスを設置した遠心ファンでは、気流の向きがある程度径方向に転向した位置において、ハブ側の気流のシュラウド側の気流に対する速度差が更に大きくなるスパン方向の流速分布が生じる。このような流速分布では、気流がシュラウドからはく離しやすくなる。
【0012】
以上のことから、建設機械に搭載する遠心ファンの性能を向上させるためには、ハブ側の気流の速度がシュラウド側よりも大きくなる偏りのある羽根のスパン方向の流速分布を緩和する必要がある。
【0013】
特許文献1に記載の遠心ファンにおいては、羽根のシュラウド側端部を反回転側方向へ湾曲させることで、シュラウド内面の気流ガイド面と羽根の正圧面との間に形成されるコーナー部の断面積を拡大させている。しかし、当該コーナー部のようなシュラウド側の局所的な領域の断面積を拡大させる構成では、軸方向から径方向へ転向する際に生じる気流のシュラウド側からハブ側への偏りを局所的にしか抑制できないと考えられる。
【0014】
本発明は、上記の問題点を解消するためになされたものであり、その目的は、遠心ファンにおけるハブ側の気流の速度がシュラウド側よりも大きくなる偏りのある羽根のスパン方向の流速分布を緩和することができる建設機械を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、車体の内部に収容された遠心ファンと、前記遠心ファンの吸込み側に配置され、流出口を有するベルマウスとを備え、前記遠心ファンは、回転軸線を中心に回転可能なハブと、前記ハブに対向するように配置されて前記ハブとの間に流路を形成し、吸込口を有する環状のシュラウドと、前記ハブと前記シュラウドとの間に周方向に間隔をあけて設けられた複数の羽根とを有し、前記複数の羽根の各々は、空気が流入する側の前縁と、空気が流出する側の後縁と、前記前縁と前記後縁との間に延在する一方側の翼面であって回転方向に対して前方側を向く正圧面と、前記前縁と前記後縁との間に延在する他方側の翼面であって前記回転方向に対して後方側を向く負圧面とを含んで構成されており、前記ベルマウスの前記流出口が前記シュラウドの前記吸込口よりも径方向内側に配置された建設機械において、前記複数の羽根の各々は、前記前縁が前記前縁における前記ハブとの接続部と前記前縁における前記シュラウドとの接続部とを結ぶ線分に対して、前記負圧面側に凸形状となるように形成されると共に、前記前縁の凸形状における頂点が、前記遠心ファンの吸込み側を軸方向から見たときに、前記ベルマウスの前記流出口の壁面よりも径方向内側に位置するよう形成され、前記複数の羽根の各々は、前記前縁の凸形状が前記後縁まで延在するように構成され、前記複数の羽根の各々は、前記複数の羽根の各々の凸形状における頂点の曲率が、前記前縁から前記前縁と前記後縁との間の中途位置へ向かって徐々に大きくなる一方、前記中途位置から前記後縁に向かって徐々に小さくなるように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、遠心ファンの羽根の前縁における負圧面側に凸形状の頂点を軸方向から見たときにベルマウスの流出口の壁面よりも径方向内側に位置するように羽根を構成したので、ベルマウスの壁面近傍から遠心ファンへ流入した空気の流れの径方向外側への転向の際の慣性によるハブ側への移動を抑制することができる。その結果、建設機械に搭載された遠心ファンにおいて、ハブ側の気流の速度がシュラウド側よりも大きくなる傾向にある羽根のスパン方向の流速分布を緩和することができる。
上記以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の建設機械の第1の実施の形態としての油圧ショベルを示す側面図である。
【
図2】
図1に示す油圧ショベルをII-II矢視から見た部分断面図であり、油圧ショベルの機械室内部を一部省略した状態で示す図である。
【
図3】本発明の建設機械の第1の実施の形態の一部を構成する遠心ファンの吸込側を軸方向から見た図である。
【
図4】
図3に示す遠心ファンをシュラウドを取り除いた状態で示す図である。
【
図5】
図3の符号Lで示す領域の拡大図であり、遠心ファンの羽根の前縁及び前縁の近傍を示す図である。
【
図6】
図4に示す遠心ファンをVI-VI矢視から見た斜視図であり、遠心ファンの羽根形状を示す図である。
【
図7】
図3に示す遠心ファンをVII-VII矢視から見た断面図(羽根の前縁とシュラウドとの接続部の位置において回転軸線を中心とした円筒面で切断した断面図)である。
【
図8】
図3に示す遠心ファンをVIII-VIII矢視から見た断面図(羽根の翼弦方向中央付近の位置において回転軸線を中心とした円筒面で切断した断面図)である。
【
図9】
図3に示す遠心ファンをIX-IX矢視から見た断面図(羽根の後縁近傍の位置において回転軸線を中心とした円筒面で切断した断面図)である。
【
図10】本発明の建設機械の第1の実施の形態における遠心ファン吸込口を通過する気流の径方向の流速分布を示す説明図である。
【
図11】本発明の建設機械の第1の実施の形態における遠心ファンの羽根前縁のハブ側の位置(
図10に示す位置H)での速度三角形を示す説明図である。
【
図12】本発明の建設機械の第1の実施の形態における遠心ファンの羽根前縁のスパン方向中央付近の位置(
図10に示す位置M)での速度三角形を示す説明図である。
【
図13】本発明の建設機械の第1の実施の形態における遠心ファンの羽根前縁のシュラウド側の位置(
図10に示す位置S)での速度三角形を示す説明図である。
【
図14】従来の遠心ファンの構造及び従来の遠心ファンの空気の流れを示す説明図であり、
図3に示す矢視XVI-XVIと同様な矢視から見た斜視図である。
【
図15】従来の遠心ファンの羽根の前縁、翼弦方向中央付近、及び後縁におけるスパン方向の流速分布を示す説明図である。
【
図16】発明の建設機械の第1の実施の形態の遠心ファンにおける羽根の前縁から翼弦方向中央付近までの流れを示す説明図であり、
図3に示す矢視XVI-XVIから見た斜視図である。
【
図17】発明の建設機械の第1の実施の形態の遠心ファンにおける羽根の翼弦方向中央付近から後縁までの空気の流れを示す説明図である。
【
図18】発明の建設機械の第1の実施の形態における遠心ファンの羽根の正圧面に沿った流れ場の解析結果を示す図である。
【
図19】発明の建設機械の第1の実施の形態における遠心ファン内部の空気の流れを示す図である。
【
図20】発明の建設機械の第1の実施の形態の第1変形例における遠心ファン内部の空気の流れを示す図である。
【
図21】発明の建設機械の第1の実施の形態の第2変形例における遠心ファン内部の空気の流れを示す図である。
【
図22】発明の建設機械の第2の実施の形態における機械室内部を一部省略した状態で示す断面図である。
【
図23】発明の建設機械の第3の実施の形態における機械室内部を一部省略した状態で示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の建設機械の実施の形態について図面を用いて説明する。本実施の形態においては、建設機械の一例として油圧ショベルを例に挙げて説明する。
【0019】
まず、本発明の建設機械の第1の実施の形態としての油圧ショベルの構成を
図1及び
図2を用いて説明する。
図1は本発明の建設機械の第1の実施の形態としての油圧ショベルを示す側面図、
図2は
図1に示す油圧ショベルをII-II矢視から見た部分断面図であり、油圧ショベルの機械室内部を一部省略した状態で示す図である。ここでは、運転席に着座したオペレータから見た方向を用いて説明する。
図2中、太い矢印は空気の流れを示している。
【0020】
図1において、油圧ショベル1は、自走可能なクローラ式の下部走行体2と、下部走行体2上に旋回可能に搭載された上部旋回体3とを備えている。下部走行体2と上部旋回体3とで車体を構成している。上部旋回体3の前端部には、作業フロント4が俯仰動可能に設けられている。作業フロント4は、掘削作業等を行うための多関節型の作動装置であり、例えば、ブーム6、アーム7、バケット8を備えている。ブーム6の基端側は、上部旋回体3の前端部に回動可能に連結されている。ブーム6の先端部には、アーム7の基端部が回動可能に連結されている。アーム7の先端部には、バケット8の基端部が回動可能に連結されている。ブーム6、アーム7、及びバケット8はそれぞれ、油圧駆動装置としてのブームシリンダ6a、アームシリンダ7a、バケットシリンダ8aによって駆動される。
【0021】
上部旋回体3は、下部走行体2上に旋回可能に搭載された支持構造体である旋回フレーム11と、旋回フレーム11上の左前側に設置されたキャブ12と、旋回フレーム11の後端部(
図1中、右端部)に設けられたカウンタウェイト13と、キャブ12とカウンタウェイト13の間に配置された機械室14とを含んで構成されている。キャブ12には、下部走行体2や作業フロント4等の動作を指示する操作装置やオペレータが着座する運転席等(ともに図示せず)が配置されている。カウンタウェイト13は、作業フロント4との重量バランスをとるためのものである。
【0022】
機械室14には、例えば
図2に示すように、原動機としてのエンジン20、エンジン20に駆動される油圧ポンプ(図示せず)、エンジン20等を冷却する冷却装置30を含む多数の機器が収容されている。機械室14は、建屋カバー16によって外郭が形成されている。建屋カバー16には、機械室14内に外気を取り込む吸込口(図示せず)及び機械室14内から空気を排出する排出口(図示せず)が設けられている。
【0023】
冷却装置30は、冷却風を生起する遠心ファン31と、遠心ファン31の吸込側に配置され、空気を整流して遠心ファン31へ導くベルマウス32と、遠心ファン31の生起した冷却風により冷却される熱交換装置33とを含んで構成されている。遠心ファン31は、回転軸23に取り付けられている。回転軸23は、エンジン20の駆動軸20aより上方でエンジン20に回転可能に支持されている。エンジン20の駆動軸20a及び回転軸23にはそれぞれ、第1プーリ24及び第2プーリ25が設けられている。第1プーリ24と第2プーリ25に対してベルト26が掛け渡されている。このような構成により、遠心ファン31はエンジン20によって回転軸線Aを中心に回転駆動される。
【0024】
ベルマウス32は、流路断面が遠心ファン31側へ向かって縮小する形状を有している。ベルマウス32の上流側(
図2中、左側)の端部は、例えば、機械室14内の機器又は建屋カバー16に取り付けられている。ベルマウス32の遠心ファン31側(
図2中、右側)端部の開口部は、空気の流れの流出口32aを構成している。ベルマウス32の流出口32aは、遠心ファン31の吸込口31aの径方向内側に隙間Dをあけて配置されている。
【0025】
熱交換装置33は、例えば、ベルマウス32の上流側(
図2中、左側)に配置されている。熱交換装置33は、例えば、ラジエータやオイルクーラ等の熱交換器により構成されている。ラジエータはエンジン20の冷却水を冷却するものであり、オイルクーラは作業フロント4の油圧シリンダ6a、7a、8a(
図1参照)を含む油圧駆動装置に供給される作動油を冷却するものである。
【0026】
また、遠心ファン31を挟んでベルマウス32の反対側には、整流部材35が配置されている。つまり、整流部材35は、遠心ファン31における吸込口31aの反対側である後述のハブ41の背面側に配置されている。整流部材35は、遠心ファン31から機械室14内へ吐出される気流Fdの急拡大を抑制するものであり、少なくとも遠心ファン31の外周縁から径方向外側に延在する部材である。整流部材35は、例えば、外周縁が円形、楕円、又は多角形等を成す環状の平板部材であり、ステー36を介してエンジン20に固定されている。整流部材35は、また、遠心ファン31から吐出される気流Fdの導風路をベルマウス32と共に形成している。整流部材35は、遠心ファン31から吐出した気流Fdとの摩擦によって旋回速度成分を減速させることで、摩擦による損失があるものの、気流Fdの運動エネルギーの一部を静圧へと変換し、エネルギー損失を低減することが可能である。
【0027】
次に、本発明の建設機械の第1の実施の形態における遠心ファンの構成について図面を用いて説明する。先ず、遠心ファンの全体構成を
図2~
図4を用いて説明する。
図3は本発明の建設機械の第1の実施の形態の一部を構成する遠心ファンの吸込側を軸方向から見た図、
図4は
図3に示す遠心ファンをシュラウドを取り除いた状態で示す図である。
【0028】
図2~
図4において、遠心ファン31は、回転軸23に取り付けられ、回転軸線Aを中心に回転可能な円盤状のハブ41と、ハブ41の軸方向一方側(
図2中、左側)に対向してハブ41と同軸上に配置され、ハブ41との間に流路を形成する環状のシュラウド42と、ハブ41とシュラウド42の間において周方向に互いに所定の間隔をあけて設けられた複数の羽根43とを備えている。シュラウド42は、
図2及び
図3に示すように、軸方向一方側(
図2中、左側)の方が他方側(
図2中、右側)よりも径が小さくなるように形成されている。シュラウド42は、軸方向一方側の中心部に位置する径の小さい開口が遠心ファン31の吸込口31aを構成している。
【0029】
次に、遠心ファンの羽根の形状を
図2~
図9を用いて説明する。
図5は
図3の符号Lで示す領域の拡大図であり、遠心ファンの羽根の前縁及び前縁の近傍を示す図、
図6は
図4に示す遠心ファンをVI-VI矢視から見た斜視図であり、遠心ファンの羽根形状を示す図、
図7は
図3に示す遠心ファンをVII-VII矢視から見た断面図(羽根の前縁とシュラウドとの接続部の位置において回転軸線を中心とした円筒面で切断した断面図)、
図8は
図3に示す遠心ファンをVIII-VIII矢視から見た断面図(羽根の翼弦方向中央付近の位置において回転軸線を中心とした円筒面で切断した断面図)、
図9は
図3に示す遠心ファンをIX-IX矢視から見た断面図(羽根の後縁近傍の位置において回転軸線を中心とした円筒面で切断した断面図)である。
【0030】
各羽根43は、
図2及び
図4に示すように、空気が流入する側の前縁44と、空気が流出する側の後縁45と、前縁44と後縁45との間に延在する一方側の翼面であって回転方向Rに対して前方側を向く正圧面46と、前縁44と後縁45との間に延在する他方側(正圧面46の裏面側)の翼面であって回転方向Rに対して後方側を向く負圧面47とを含んでいる。羽根43におけるハブ41との接続部からシュラウド42との接続部へ延在する方向を羽根43のスパン方向と規定する。また、羽根43における前縁44から後縁45へ延在する方向を羽根43の翼弦方向と規定する。
【0031】
各羽根43の前縁44は、
図3~
図5に示すように、ハブ41との接続部44hがシュラウド42との接続部44sよりも径方向内側に位置している。また、前縁44は、
図5及び
図6に示すように、ハブ41との接続部44hとシュラウド42との接続部44sとを結ぶ線分SLに対して、負圧面47側(回転方向Rに対して後方側)に凸形状となるように湾曲している。さらに、各羽根43は、
図3及び
図5に示すように、遠心ファン31の吸込側をその軸方向から見たときに、前縁44の凸形状の頂点44vがベルマウス32の流出口32aの壁面よりも径方向内側(回転軸線A側)に位置するように構成されている。
【0032】
羽根43は、
図4及び
図6に示すように、前縁44における負圧面47側へ湾曲した凸形状が翼弦方向に延在して後縁45にまで至るように構成されている。すなわち、羽根43は、
図7~
図9に示すように、回転軸線Aを中心とする円筒面で切断した前縁44から後縁45までの各断面が羽根43のハブ41との接続部(根元部)43hと羽根43のシュラウド42との接続部(先端部)43sとを結ぶ線分Sに対して、負圧面47側(回転方向Rに対して後方側)に凸形状となるように湾曲している。
【0033】
羽根43は、
図7及び
図8に示すように、上記凸形状における頂点43vの曲率が前縁44から翼弦方向中央付近の位置(前縁44と後縁45との間の途中位置)に向かって徐々に大きくなるように構成されている。加えて、羽根43は、
図8及び
図9に示すように、上記凸形状における頂点43vの曲率が翼弦方向中央付近の位置(前縁44と後縁45との間の途中位置)から後縁45に向かって徐々に小さくなるように構成されている。すなわち、羽根43は、前縁44側に位置し、羽根43の凸形状における頂点43vの曲率が前縁44から徐々に大きくなる第1湾曲羽根部と、後縁45側に位置し、羽根43の凸形状における頂点43vの曲率が後縁45に向かって徐々に小さくなる第2湾曲羽根部とで構成されている。
【0034】
また、羽根43は、
図7~
図9に示すように、回転軸線Aを中心とした円筒面で切断した羽根断面におけるハブ41との接続部43hに対するシュラウド42との接続部43sの周方向の相対位置が、前縁44から後縁45に向かって徐々に回転方向Rに対して後方側へ変位するように構成されている。より詳細には、羽根43の前縁44近傍における羽根断面では、
図7に示すように、シュラウド42との接続部43sの周方向の位置がハブ41との接続部43hの周方向の位置よりも回転方向Rに対して前方側にずれている。羽根43の翼弦方向中央付近の位置における羽根断面では、
図8に示すように、シュラウド42との接続部43sの周方向の位置がハブ41との接続部43hの周方向の位置と略同じである。羽根43の後縁45近傍における羽根断面では、
図9に示すように、シュラウド42との接続部43sの周方向の位置がハブ41との接続部43hの周方向の位置よりも回転方向Rに対して後方側にずれている。このように、前縁44近傍から翼弦方向中央付近の位置までは、ハブ41との接続部43hに対するシュラウド42との接続部43sの周方向の相対位置が回転方向Rに対して前方側にずれている。一方、翼弦方向中央付近の位置から後縁45までは、ハブ41との接続部43hに対するシュラウド42との接続部43sの周方向の相対位置が回転方向Rに対して後方側にずれている。
【0035】
次に、遠心ファンにおける羽根の入口角の設定を
図10~
図13を用いて説明する。
図10は本発明の建設機械の第1の実施の形態における遠心ファン吸込口を通過する気流の径方向の流速分布を示す説明図、
図11は本発明の建設機械の第1の実施の形態における遠心ファンの羽根前縁のハブ側の位置(
図10に示す位置H)での速度三角形を示す説明図、
図12は本発明の建設機械の第1の実施の形態における遠心ファンの羽根前縁のスパン方向中央付近の位置(
図10に示す位置M)での速度三角形を示す説明図、
図13は本発明の建設機械の第1の実施の形態における遠心ファンの羽根前縁のシュラウド側の位置(
図10に示す位置S)での速度三角形を示す説明図である。
【0036】
本実施の形態においては、
図10に示すように、遠心ファン31の吸込側にベルマウス32を設置しており、遠心ファン31の吸込口31aとベルマウス32の流出口32aとの間に隙間Dを設けている。この場合、遠心ファン31から吐出された空気の一部は、遠心ファンとベルマウスの隙間Dを通って再び遠心ファンに漏れ流れFLとして流入する。また、ベルマウス32は流出口32a側へ向かって縮径しているので、ベルマウス32の流出口32aから流出する空気の速度はベルマウス32の中心側(径方向内側)よりも壁面側(径方向外側)の方が大きくなる(
図10中に示す流速分布を参照)。つまり、ベルマウス32の流出口32aの壁面近傍の領域では、局所的に速度が増加する。このベルマウス32の影響により、遠心ファン31の吸込口31aでは、シュラウド42の壁面近傍の方が中心部よりも速度の大きな流れが流入する。
【0037】
本実施の形態においては、遠心ファン31の羽根43の入口角が上記のベルマウス32の影響を考慮して設定される。羽根43は、その入口角が羽根43に対する空気の流入角と一致するように構成されている。この場合、遠心ファン31に流入する空気の流れが無衝突流入条件となるので、流れの衝突損失を低減することができる。なお、羽根43の入口角とは、
図11に示す羽根43の断面形状の反り線Cの前縁44における接線Ctと遠心ファン31の回転軸線A(
図10を参照)を中心として各羽根の前縁44に接する仮想の内接円Iにおける前縁44での接線Itとの成す角である。反り線とは、羽根43の正圧面46と負圧面47との中点を順々に結んで得られる曲線である。流入角は、気流の相対流入速度ベクトルと遠心ファン31の回転方向Rとのなす角度である。
【0038】
具体的には、羽根43の前縁44におけるハブ41側の位置H(
図10を参照)には、
図11に示すように、羽根43の周速Uhと気流の絶対速度Cahとから求められる相対流入速度Whの気流が流入する。周速Uhは、遠心ファン31の定格回転数と回転軸線Aから位置Hまでの径方向の距離(
図10に示す両矢印を参照)とから定められる。子午面方向速度Cmhは、ベルマウス32の内部から遠心ファン31の吸込口31aに流入する気流に予旋回がないと仮定しているので、絶対速度Cahと等しい。したがって、位置Hにおける羽根43の入口角khは、周速Uhと子午面方向速度Cmhとから定まる相対流入速度Whによって得られる流入角βhと一致するように設定される。
【0039】
羽根43の前縁44におけるスパン方向中央付近の位置M(
図10を参照)では、
図12に示すように、羽根43の周速Umと気流の絶対速度Camとから定まる相対流入速度Wmの気流が流入する。周速Umは、遠心ファン31の定格回転数と回転軸線Aから位置Mまでの径方向の距離とから定められる。位置Mにおける周速Umは、位置Mが位置Hよりも径方向外側に位置しているので(
図10を参照)、位置Hにおける周速Uhよりも大きくなる。子午面速度Cmmは、ベルマウス32の壁面での増速の影響により(
図10に示す流速分布を参照)、位置Hにおける子午面速度Cmh(
図11を参照)よりも大きくなる。子午面方向速度Cmmは、位置Hの場合と同様に予旋回がなく、絶対速度Camと等しい。したがって、位置Mにおける翼入口角kmは、周速Umと子午面方向速度Cmmとから定まる相対流入速度Wmによって得られる流入角βmと一致するように設定される。
【0040】
羽根43の前縁44におけるシュラウド側の位置Sでは、
図10に示すように、ベルマウス32とシュラウド42の隙間Dから遠心ファン31の吸込口31aに漏れ流れFLが流入する。この漏れ流れFLは、遠心ファン31から吐出された気流なので、旋回速度成分を有している。したがって、位置Sに流入する空気の流れには予旋回が存在する。つまり、
図13に示すように、気流の絶対速度Cas≠子午面速度Cmsであり、絶対速度Casには旋回速度Cusが含まれる。したがって、羽根43の前縁44におけるシュラウド側の位置S(
図10を参照)では、旋回速度Cusを含む絶対速度Casと羽根43の周速Usとから定まる相対流入速度Wsの流れが流入する。周速Umは、遠心ファン31の定格回転数と回転軸線Aから位置Sまでの径方向の距離とから定められる。位置Sにおける周速Usは、位置Sが位置Mよりも径方向外側に位置しているので(
図10を参照)、位置Mにおける周速Umよりも大きくなる。絶対速度Casは、子午面速度Cmsと旋回速度Cusとから求められる。子午面速度Cmsは、ベルマウス32の壁面での増速の影響により(
図10に示す流速分布を参照)、位置Hにおける子午面速度Cmh(
図11を参照)よりも大きくなる。位置Sにおける入口角ksは、周速Usと絶対速度Casとから定まる流入相対速度Wsによって得られる流入角度βsと一致するように設定される。
【0041】
次に、本発明の建設機械の第1の実施の形態における遠心ファン内部の空気の流れ及び効果を従来の遠心ファンと比較しつつ説明する。先ず、従来の遠心ファンの構造及び内部の空気の流れを
図10、
図14、及び15を用いて説明する。
図14は従来の遠心ファンの構造及び従来の遠心ファンの空気の流れを示す説明図であり、
図3に示す矢視XVI-XVIと同様な矢視から見た斜視図、
図15は従来の遠心ファンの羽根の前縁、翼弦方向中央付近、及び後縁におけるスパン方向の流速分布を示す説明図である。
図14中、太い矢印は空気の流れを示している。
図15中、流速分布を複数の矢印で示している。なお、
図14及び
図15において、
図1~
図14に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0042】
従来の遠心ファン131では、
図14に示すように、羽根143のスパン方向のシュラウド42側の端部を回転方向Rに対して後方側へ湾曲させている。すなわち、羽根143の前縁144は、ハブ41との接続部144hとシュラウド42との接続部144sとを結ぶ線分SLに対して、負圧面147側(回転方向Rに対して後方側)に凸形状となるように湾曲している。羽根143は、前縁144の凸形状の頂点144vの位置がシュラウド42側の近傍にあるように構成されている。
【0043】
遠心ファン131は空気を軸方向(
図14中、上方向)から吸い込んで径方向外側へ吐出するものなので、ファン内部の空気の流れは急激に転向されることになる。この気流は、軸方向から径方向外側へ転向される際に、慣性によってハブ41側へ押し付けられる。また、シュラウド42側の気流は、ハブ41側の気流よりも大きな曲率で転向する必要があるが、シュラウド42の壁面形状に沿いきれずにハブ41側へ押し付けられる。
【0044】
上記した従来の遠心ファン131の羽根143では、羽根143が負圧面147側に凸形状となるように湾曲しているので、羽根143の翼面形状によって気流のハブ41側への押付けの影響が緩和される。しかし、羽根143の凸形状における頂点144vの位置がシュラウド42側近傍にあるので、シュラウド42側近傍の気流に対してのみハブ41側への押付けの影響が緩和される。そのため、気流のハブ41側への押付けの影響を十分に緩和できず、気流の向きがある程度径方向に転向した径方向の位置では、羽根143のスパン方向において、ハブ41側の流速がシュラウド42側よりも大きくなる偏りある流速分布が生じる。
【0045】
具体的には、次のような流速分布となる。従来の遠心ファン131は、
図15に示すように、本実施の形態と同様に、吸込側にベルマウス32が配置されている。ベルマウス32の流出口32aの子午面断面における流速分布は、ベルマウス32の壁面付近の流速が中心側(回転軸線A側)よりも大きくなっている(
図10中に示す流速分布を参照)。そのため、従来の遠心ファン131の吸込口131aでも、シュラウド42側の流速がハブ41側よりも大きい流速分布となる。
【0046】
従来の羽根143の前縁144では、
図15に示すように、気流がハブ41側へ押し付けられることにより、シュラウド42側とハブ41側との速度差が低減された流速分布となる。つまり、前縁144におけるスパン方向の流速分布は、吸込口131aにおける径方向の流速分布よりも均一化される。
【0047】
一方、前縁144から翼弦方向中央付近までの流路の前半部では、軸方向から径方向外側への気流の転向による気流のハブ41側への押付けが継続する。そのため、当該中央付近の位置(
図15中、二点鎖線で示した位置)において、ハブ41側からシュラウド42側へ向かって徐々に低下するスパン方向の流速分布が生じる。ハブ41側とシュラウド42側の速度差が急激に変化するような流速分布が生じた場合、気流がシュラウド42に沿いきれず、シュラウド42から剥離した流れFsとなる。
【0048】
また、翼弦方向中央付近から後縁145までの流路の後半部では、気流の転向が終了しているので、気流がハブ41側へ押し付けられることはない。したがって、羽根143の後縁145では、翼弦方向中央付近でのスパン方向の流速分布とほぼ同じ流速分布となる。すなわち、後縁145におけるスパン方向の流速分布はハブ41側からシュラウド42側向かって徐々に低下する分布となる。
【0049】
このように、従来の遠心ファン131では、ハブ41側とシュラウド42側の速度差を効果的に低減することができない。すなわち、羽根143の後縁145においてハブ41側に流量が偏るファン特性を改善することは難しい。
【0050】
次に、本発明の建設機械の第1の実施の形態における遠心ファンの空気の流れ及び効果を
図5、及び
図16~
図19を用いて説明する。
図16は発明の建設機械の第1の実施の形態の遠心ファンにおける羽根の前縁から翼弦方向中央付近までの流れを示す説明図であり、
図3に示す矢視XVI-XVIから見た斜視図、
図17は発明の建設機械の第1の実施の形態の遠心ファンにおける羽根の翼弦方向中央付近から後縁までの空気の流れを示す説明図、
図18は発明の建設機械の第1の実施の形態における遠心ファンの羽根の正圧面に沿った流れ場の解析結果を示す図、
図19は発明の建設機械の第1の実施の形態における遠心ファン内部の空気の流れを示す図である。
図16及び
図17中、太い矢印は流れを示している。
図18中、白抜き矢印は流れの向きを示している。
図19中、黒点は羽根の湾曲した凸形状における頂点の曲率が最大である位置を示している。
【0051】
本実施の形態においては、
図5及び
図16に示すように、羽根43の前縁44を負圧面47側(回転方向Rに対して後方側)に凸形状となるように湾曲させている。さらに、遠心ファン31の吸込側をその軸方向から見たときに、前縁44の凸形状の頂点44vの位置がベルマウス32の流出口32aの壁面よりも径方向内側に存在するように羽根43を構成している。つまり、前縁44の凸形状の頂点44vの位置は、
図14に示す従来の遠心ファン131の羽根143における前縁144の凸形状の頂点144vの位置よりもハブ41側に寄っている。この前縁44の形状によって、遠心ファン31の吸込口31aへ流入した空気の流れにおいて、軸方向から径方向外側への転向によりハブ41側へ移動する流量を減少させることができる。特に、従来の遠心ファン131と比較すると(
図14を参照)、
図16に示すように、スパン方向中央付近の気流のハブ41側への移動を抑制することができると共に、ハブ41側の気流の一部をスパン方向中央付近に寄せることができる。
【0052】
さらに、本実施の形態においては、
図16に示すように、前縁44の凸形状を翼弦方向に延在させ、上記凸形状における頂点の曲率が前縁44から翼弦方向中央付近の位置に向かって徐々に大きくなるように羽根43を構成している。このような羽根43の湾曲形状によって、従来の遠心ファン131と比較すると(
図14を参照)、軸方向から径方向外側への転向によるハブ41側の気流のハブ41側への移動を抑制することができ、翼弦方向中央付近において凸形状の頂点付近に気流を集めることができる。
【0053】
加えて、本実施の形態においては、
図17に示すように、前縁44の凸形状を翼弦方向に後縁45まで延在させ、上記凸形状における頂点の曲率が翼弦方向中央付近の位置から後縁45に向かって徐々に小さくなるように羽根43を構成している。このような羽根43の湾曲形状によって、翼弦方向中央付近において凸形状の頂点付近に集めた気流を後縁45側でスパン方向に拡散することができる。
【0054】
さらにまた、本実施の形態においては、回転軸線Aを中心とした円筒面で切断した羽根43の断面におけるハブ41との接続部43hに対するシュラウド42との接続部43sの周方向の相対位置を前縁44から後縁45に向かって徐々に回転方向Rに対して後方側へ変位させると共に(
図7~
図9を参照)、
図17に示すように、後縁45においてシュラウド42との接続部43sの周方向の位置がハブ41との接続部43hの周方向の位置よりも回転方向Rに対して後方側にずれるように羽根43を構成している。このような羽根43の形状によって、ハブ41側に偏る傾向にある気流をシュラウド42側へ誘導して後縁45においてスパン方向に拡散することができる。
【0055】
このように、本実施の形態においては、羽根43の前縁44から後縁45まで延在する負圧面47側に凸形状の頂点の曲率が前縁44から翼弦方向中央付近の位置に向かって徐々に大きくなる一方、翼弦方向中央付近の位置から後縁45に向かって徐々に小さくなるように羽根43の湾曲形状を規定すること、及び、羽根43のハブ41との接続部43hに対するシュラウド42との接続部43sの周方向の相対位置が前縁44から後縁45に向かって徐々に回転方向Rの後方側へ変位すると共に、羽根43の後縁45におけるシュラウド42との接続部43sがハブ41との接続部43hよりも回転方向Rの後方側にずれるように羽根43のハブ41及びシュラウド42に対する接続位置を規定することで、
図18に示すように、前縁44の凸形状の頂点44v付近から流入した空気を、前縁44から翼弦方向中央付近に至る過程において凸形状の頂点43v側に集め、その後、後縁45へ向かう過程においてシュラウド42側へ導くことができる。これにより、
図19に示すように、遠心ファン31の流路の前半部において軸方向から径方向外側への転向によりハブ41側へ移動する気流の流量を減少させると共に、流路の後半部において気流をスパン方向に拡散させることができる。したがって、後縁45におけるハブ41側からシュラウド42側までのスパン方向の流速分布を均一化することができる。すなわち、従来の遠心ファン131の吐出口におけるハブ41側に流量が偏るファン特性(
図15を参照)を改善することができる。
【0056】
上述したように、本発明の建設機械の第1の実施の形態によれば、遠心ファン31の羽根43の前縁44における負圧面47側に凸形状の頂点44vを軸方向から見たときにベルマウス32の流出口32aの壁面よりも径方向内側に位置するように羽根43を構成したので、ベルマウス32の壁面近傍から遠心ファン31へ流入した空気の流れの径方向外側への転向の際の慣性によるハブ41側への移動を抑制することができる。その結果、油圧ショベル(建設機械)1に搭載された遠心ファン31において、ハブ41側の気流の速度がシュラウド42側よりも大きくなる傾向にある羽根43のスパン方向の流速分布を緩和することができる。
【0057】
次に、本発明の建設機械の第1の実施の形態の第1変形例及び第2変形例を
図20及び
図21を用いて説明する。
図20は発明の建設機械の第1の実施の形態の第1変形例における遠心ファン内部の空気の流れを示す図、
図21は発明の建設機械の第1の実施の形態の第2変形例における遠心ファン内部の空気の流れを示す図である。
図20及び
図21中、黒点は羽根の湾曲した凸形状における頂点の曲率が最大である位置を示している。なお、
図20及び
図21において、
図1~
図20に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0058】
図20に示す本発明の建設機械の第1の実施の形態の第1変形例が第1の実施の形態に対して相違する点は、羽根43の湾曲した凸形状における頂点43vの曲率が最大である位置が、第1の実施の形態のような翼弦方向中央付近の位置(
図19を参照)ではなく、後縁45の近傍にあることである。具体的には、羽根43は、上記凸形状における頂点の曲率が前縁44から後縁45の近傍(黒点の位置)に向かって徐々に大きくなるように構成されている。加えて、羽根43は、上記凸形状における頂点の曲率が後縁45の近傍(黒点の位置)から後縁45に向かって徐々に小さくなるように構成されている。すなわち、羽根43は、前縁44から後縁45近傍(黒点の位置)までを含み、羽根43の凸形状における頂点の曲率が前縁44から徐々に大きくなる前縁44側の第1湾曲羽根部と、後縁45近傍(黒点の位置)から後縁45までを含み、羽根43の凸形状における頂点の曲率が後縁45に向かって徐々に小さくなる後縁45側の第2湾曲羽根部とで構成されている。
【0059】
本変形例においては、遠心ファン31の内部に流入した空気を前縁44から後縁45の近傍(黒点の位置)に至る過程において羽根43の凸形状の頂点側に集める一方、後縁45に至る過程においてシュラウド42側へ導く。これにより、ハブ41側へ移動する気流の流量を減少させると共に、後縁45の近傍において気流をスパン方向に拡散させることができる。したがって、従来の遠心ファン131の吐出口におけるハブ41側に流量が偏るファン特性(
図15を参照)を改善することができる。
【0060】
ただし、本変形例においては、羽根43の凸形状における頂点の曲率の最大位置が第1の実施の形態と比較して後縁45側にずれた分、後縁45におけるスパン方向への拡散が第1の実施の形態と比較して不十分となる。それ故、後縁45では、スパン方向の中央部付近の流速がハブ41側及びシュラウド42側よりも大きくなる流速分布となる。
【0061】
また、
図21に示す本発明の建設機械の第1の実施の形態の第2変形例が第1の実施の形態に対して相違する点は、羽根43の湾曲した凸形状における頂点43vの曲率が最大である位置が、第1の実施の形態のような翼弦方向中央付近の位置(
図19を参照)ではなく、前縁44の近傍にあることである。具体的には、羽根43は、上記凸形状における頂点の曲率が前縁44から前縁44の近傍(黒点の位置)に向かって徐々に大きくなるように構成されている。加えて、羽根43は、上記凸形状における頂点の曲率が前縁44の近傍(黒点の位置)から後縁45に向かって徐々に小さくなるように構成されている。すなわち、羽根43は、前縁44から前縁44近傍(黒点の位置)までを含み、羽根43の凸形状における頂点の曲率が前縁44から徐々に大きくなる前縁44側の第1湾曲羽根部と、前縁44近傍(黒点の位置)から後縁45までを含み、羽根43の凸形状における頂点の曲率が後縁45に向かって徐々に小さくなる後縁45側の第2湾曲羽根部とで構成されている。
【0062】
本変形例においては、遠心ファン31の内部に流入した空気を前縁44から前縁44の近傍(黒点の位置)に至る過程において羽根43の凸形状の頂点側に集めることができる。これにより、軸方向から径方向外側への転向によりハブ41側へ移動する気流の流量を低減させることができる。したがって、従来の遠心ファン131の吐出口におけるハブ41側に流量が偏るファン特性(
図15を参照)を改善することができる。
【0063】
ただし、本変形例においては、羽根43の凸形状における頂点の曲率の最大位置が第1の実施の形態と比較して前縁44側にずれた分、転向する際のハブ41側へ移動する気流の流量を低減させる効果が第1の実施の形態と比較して小さくなる。それ故、後縁45では、ハブ41側の流速がシュラウド42側よりも大きな流速分布となる。しかし、従来の遠心ファン131と比較すると、ハブ41側とシュラウド42側の流速差が緩和されている。
【0064】
上述した本発明の建設機械の第1の実施の形態の第1変形例及び第2変形例によれば、前述した第1の実施の形態と同様の効果に、遠心ファン31の羽根43の前縁44に流入した空気の流れの転向の際の慣性によるハブ41側への移動を抑制することができる。その結果、遠心ファン31における羽根43のスパン方向の流速分布を緩和することができる。
【0065】
次に、本発明の建設機械の第2の実施の形態について
図22を用いて説明する。
図22は発明の建設機械の第2の実施の形態における機械室内部を一部省略した状態で示す断面図である。なお、
図22において、
図1~
図21に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0066】
図22に示す本発明の建設機械の第2の実施の形態が第1の実施の形態に対して相違する点は、整流部材の形状が異なることである。具体的には、第1の実施の形態の整流部材35は環状の平板部材である(
図2参照)。それに対して、本実施の形態の整流部材35Aは、遠心ファン31の外周縁よりも径方向外側の部分が遠心ファン31の径方向に対して遠心ファン31から離れる方向へ傾斜するように構成されている。すなわち、整流部材35Aは、遠心ファン31の外周縁よりも径方向内側において径方向に延在する環状の平板部35bと、平板部35bの外周縁から遠心ファン31から離れる方向へ傾斜する環状の傾斜部35cとで構成されている。
【0067】
上述した本発明の建設機械の第2の実施の形態によれば、整流部材35Aにおける遠心ファン31の外周縁よりも径方向外側の部分が遠心ファン31の径方向に対して遠心ファン31から離れる方向へ傾斜しているので、遠心ファン31から吐出された気流Fdの一部を径方向から軸方向側へ転向させることができ、気流Fdの建屋カバー16との衝突を緩和することができる。
【0068】
次に、本発明の建設機械の第3の実施の形態について
図23を用いて説明する。
図23は発明の建設機械の第3の実施の形態における機械室内部を一部省略した状態で示す断面図である。なお、
図23において、
図1~
図22に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0069】
図23に示す本発明の建設機械の第3の実施の形態が第2の実施の形態に対して相違する点は、第2整流部材38を新たに整流部材35Aに対向するようにシュラウド42側に配置したことである。第2整流部材38は、遠心ファン31の外周縁よりも径方向外側に延在すると共に、径方向外側端部が径方向内側端部よりも整流部材35A側に位置するように構成されている。第2整流部材38は、例えば、遠心ファン31の径方向外側に位置する建屋カバー16に取り付けられている。第2整流部材38は、整流部材35Aと共に導風路を形成し、遠心ファン31から径方向へ吐出された気流Fdを軸方向へ転向させて建屋カバー16に沿うように導くものである。導風路は、例えば、圧力回復を図るディフーザーとして形成することも可能である。
【0070】
上述した本発明の建設機械の第3の実施の形態によれば、第2整流部材38を整流部材35Aに対向させ、第2整流部材38を、遠心ファン31の外周縁の径方向外側に延在させると共に、径方向外側端部が径方向内側端部よりも整流部材35A側に位置するように構成したので、遠心ファン31から吐出された気流Fdを軸方向へ転向させることができ、気流Fdの建屋カバー16との衝突損失を更に低減することができる。
【0071】
なお、本発明は本実施の形態に限られるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記した実施形態は本発明をわかり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。ある実施形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【0072】
例えば、上述した本発明の建設機械の実施の形態においては、本発明の建設機械を油圧ショベル1に適用した例を示したが、本発明は、油圧クレーンやホイールローダ等の各種の建設機械に広く適用することができる。
【0073】
また、上述した第1の実施の形態においては、羽根43の凸形状における頂点43vの曲率が前縁44から翼弦方向中央付近の位置に向かって徐々に大きくなる一方、翼弦方向中央付近の位置から後縁45に向かって徐々に小さくなるように羽根43を構成した例を示した。しかし、羽根43の凸形状における頂点43vの曲率を前縁44から翼弦方向中央付近の位置まで維持する一方、翼弦方向中央付近の位置から後縁45に向かって徐々に小さくなるように羽根を構成することも可能である。すなわち、羽根は、羽根43の凸形状における頂点43vの曲率が前縁44から同じに維持される前縁44側の第1湾曲羽根部と、羽根43の凸形状における頂点43vの曲率が後縁45に向かって徐々に小さくなる後縁45側の第2湾曲羽根部とで構成することも可能である。
【0074】
また、上述した第1の実施の形態の第1及び第2変形例においては、羽根43の凸形状の頂点43vの曲率を前縁44から後縁45の近傍又は前縁44の近傍に向かって徐々に大きくする一方、後縁45の近傍又は前縁44の近傍から後縁45に向かって徐々に小さくなるように羽根43を構成した例を示した。しかし、羽根43の凸形状における頂点43vの曲率を前縁44から後縁45の近傍又は前縁44の近傍まで維持する一方、後縁45の近傍又は前縁44の近傍から後縁45に向かって徐々に小さくなるように羽根43を構成することも可能である。
【0075】
また、上述した実施の形態においては、整流部材35、35A及び第2整流部材38を遠心ファン31の全周に配置するような構成(環状部材)の例を示したが、整流部材35、35A及び第2整流部材38の設置スペースや製造コスト、取付の容易性等を考慮して、遠心ファン31の外周側の一部分のみに配置する構成の整流部材及び第2整流部材を用いることも可能である。
【0076】
また、上述した第1及び第2実施の形態においては、整流部材35、35Aをエンジン20にステー36を介して固定した例を示したが、整流部材をエンジン20の一部とする構成も可能である。ただし、整流部材35、35Aをエンジン20にステー36を用いて固定する方が、設置スペースが小さくて済み、コスト低減や軽量化といった面で有利となる。
【0077】
また、上述した実施の形態においては、遠心ファン31の駆動装置としてエンジン20を用いた例を示したが、電動モータや油圧モータ等を遠心ファン31の駆動装置として用いることも可能である。
【符号の説明】
【0078】
1…油圧ショベル(建設機械)、 3…上部旋回体(車体)、 31…遠心ファン、 31a…吸込口、 32…ベルマウス、 32a…流出口、 35、35A…整流部材(第1整流部材)、 38…第2整流部材、 41…ハブ、42…シュラウド、 43…羽根、 43h…ハブとの接続部、 43s…シュラウドとの接続部、 43v…頂点、 44…前縁、 44h…ハブとの接続部、 44s…シュラウドとの接続部、 44v…頂点、 45…後縁、 46…正圧面、 47…負圧面、 A…回転軸線、 R…回転方向