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特許7208020グルカゴン誘導体、その結合体、及びそれを含む組成物、並びにその治療的用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】グルカゴン誘導体、その結合体、及びそれを含む組成物、並びにその治療的用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20230111BHJP
   A61K 38/26 20060101ALI20230111BHJP
   A61K 47/50 20170101ALI20230111BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20230111BHJP
   A61K 47/56 20170101ALI20230111BHJP
   A61K 47/58 20170101ALI20230111BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20230111BHJP
   A61K 47/61 20170101ALI20230111BHJP
   A61K 47/62 20170101ALI20230111BHJP
   A61K 47/65 20170101ALI20230111BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230111BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230111BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20230111BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20230111BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20230111BHJP
   A61P 3/08 20060101ALI20230111BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230111BHJP
   A61P 5/48 20060101ALI20230111BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230111BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230111BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20230111BHJP
   C07K 14/605 20060101ALI20230111BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20230111BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
A61K38/16
A61K38/26
A61K47/50
A61K47/54
A61K47/56
A61K47/58
A61K47/60
A61K47/61
A61K47/62
A61K47/65
A61K47/68
A61P1/16
A61P3/00
A61P3/04
A61P3/06
A61P3/08
A61P3/10
A61P5/48
A61P9/00
A61P9/10 101
A61P9/12
C07K14/605 ZNA
C07K16/00
C07K19/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018568310
(86)(22)【出願日】2017-06-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-05
(86)【国際出願番号】 KR2017006922
(87)【国際公開番号】W WO2018004283
(87)【国際公開日】2018-01-04
【審査請求日】2020-06-26
(31)【優先権主張番号】10-2016-0081995
(32)【優先日】2016-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2016-0182982
(32)【優先日】2016-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2017-0069217
(32)【優先日】2017-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515022445
【氏名又は名称】ハンミ ファーマシューティカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100154988
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 真知
(72)【発明者】
【氏名】キム ジョンクク
(72)【発明者】
【氏名】パク ヨンジン
(72)【発明者】
【氏名】チェ インヨン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ソンヨプ
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-516566(JP,A)
【文献】特表2015-536942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/16
A61K 38/26
A61K 47/50
A61K 47/54
A61K 47/56
A61K 47/58
A61K 47/60
A61K 47/61
A61K 47/62
A61K 47/65
A61K 47/68
A61P 1/16
A61P 3/00
A61P 3/04
A61P 3/06
A61P 3/08
A61P 3/10
A61P 5/48
A61P 9/00
A61P 9/10
A61P 9/12
C07K 14/605
C07K 16/00
C07K 19/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)配列番号37、38、40、41、及び44からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む分離されたペプチドと、(ii)薬学的に許容される賦形剤とを含む、低血糖症の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項2】
(i)配列番号37、38、40、41、及び44からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む分離されたペプチドと、(ii)薬学的に許容される賦形剤とを含む、先天性高インスリン症の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項3】
(i)配列番号37、38、40、41、及び44からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む分離されたペプチドと、(ii)薬学的に許容される賦形剤とを含む、代謝症候群の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項4】
少なくとも1つの代謝症候群に対する治療的活性を有する化合物又は物質をさらに含む、請求項3に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
少なくとも1つの代謝症候群に対する治療的活性を有する化合物又は物質と組み合わせて投与される、請求項3に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記代謝症候群に対する治療的活性を有する化合物又は物質は、インスリン分泌ペプチド、GLP-1(glucagon like peptide-1)受容体アゴニスト、レプチン(Leptin)受容体アゴニスト、DPP-IV(dipeptidyl peptidase-IV)阻害剤、Y5受容体アンタゴニスト、MCH(Melanin-concentrating hormone)受容体アンタゴニスト、Y2/4受容体アゴニスト、MC3/4(Melanocortin 3/4)受容体アゴニスト、胃/膵臓リパーゼ(gastric/pancreatic lipase)阻害剤、5HT2c(5-hydroxytryptamine receptor 2C, G protein-coupled)アゴニスト、β3A受容体アゴニスト、アミリン(Amylin)受容体アゴニスト、グレリン(Ghrelin)アンタゴニスト、グレリン受容体アンタゴニスト、PPARα(peroxisome proliferator-activated receptor alpha)アゴニスト、PPARδ(peroxisome proliferator-activated receptor delta)アゴニスト、FXR(farnesoid X receptor)アゴニスト、アセチル-CoAカルボキシラーゼ阻害剤(acetyl-CoA carboxylase inhibitor)、ペプチドYY、CCK(Cholecystokinin)、キセニン(Xenin)、グリセンチン(glicentin)、オベスタチン(obestatin)、セクレチン(secretin)、ネスファチン(nesfatin)、インスリン(insuin)及びGIP(glucose-dependent insulinotropic peptide)からなる群から選択される、請求項4又は5に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
前記インスリン分泌ペプチドが、GLP-1、エキセンジン-3、エキセンジン-4、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項6に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
前記インスリン分泌ペプチドが、インスリン分泌ペプチドのN末端のヒスチジン残基がデス-アミノ-ヒスチジル、N-ジメチル-ヒスチジル、β-ヒドロキシイミダゾプロピオニル、4-イミダゾアセチル及びβ-カルボキシイミダゾプロピオニルからなる群から選択されるものに置換されたインスリン分泌ペプチド誘導体である、請求項6に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
前記インスリン分泌ペプチドが、天然エキセンジン-4、エキセンジン-4のN末端のアミノ基が除去されたエキセンジン-4誘導体、エキセンジン-4のN末端のアミノ基がヒドロキシ基に置換されたエキセンジン-4誘導体、エキセンジン-4のN末端のアミノ基がジメチル基で修飾されたエキセンジン-4誘導体、エキセンジン-4の1番目のアミノ酸(ヒスチジン)のα炭素を欠失(deletion)させたエキセンジン-4誘導体、エキセンジン-4の12番目のアミノ酸(リシン)がセリンに置換されたエキセンジン-4誘導体、及びエキセンジン-4の12番目のアミノ酸(リシン)がアルギニンに置換されたエキセンジン-4誘導体からなる群から選択される、請求項6に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記代謝症候群は、耐糖能障害、高コレステロール血症、脂質異常症、肥満、糖尿病、高血圧、非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis, NASH)、脂質異常症による動脈硬化、アテローム性動脈硬化症、動脈硬化症、冠状動脈心疾患(冠動脈性心疾患)及び脳卒中からなる群から選択される、請求項3に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
前記インスリン分泌ペプチドが、前記インスリン分泌ペプチドの生体内半減期を延長できる生体適合性物質に結合された持続型結合体形態であり、前記生体適合性物質が、免疫グロブリンFc領域、高分子重合体、コレステロール、アルブミン、抗体、フィブロネクチン、トランスフェリン(Transferrin)、サッカライド、ヘパリン、及びエラスチンからなる群から選択され、前記高分子重合体が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール-プロピレングリコール共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、キチン、ヒアルロン酸、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項6~9のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
(i)配列番号37のアミノ酸配列を含むペプチド部位、及びそれに共有結合で連結された生体適合性物質を含む結合体、並びに
(ii)エキセンジン-4の1番目のアミノ酸(ヒスチジン)のα炭素を欠失させたイミダゾアセチルエキセンジン-4部位、及びそれに共有結合で連結された生体適合性物質を含む結合体を含み、前記生体適合性物質が、免疫グロブリンFc領域、高分子重合体、コレステロール、アルブミン、抗体、フィブロネクチン、トランスフェリン(Transferrin)、サッカライド、ヘパリン、及びエラスチンからなる群から選択され、前記高分子重合体が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール-プロピレングリコール共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、キチン、ヒアルロン酸、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項4に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
配列番号37のアミノ酸配列を含むペプチド部位、及びそれに共有結合で連結された生体適合性物質を含む結合体を含み、前記結合体が、エキセンジン-4の1番目のアミノ酸(ヒスチジン)のα炭素を欠失させたイミダゾアセチルエキセンジン-4部位、及びそれに共有結合で連結された生体適合性物質を含む結合体と組み合わせて投与され、前記生体適合性物質が、免疫グロブリンFc領域、高分子重合体、コレステロール、アルブミン、抗体、フィブロネクチン、トランスフェリン(Transferrin)、サッカライド、ヘパリン、及びエラスチンからなる群から選択され、前記高分子重合体が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール-プロピレングリコール共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、キチン、ヒアルロン酸、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項5に記載の薬学的組成物。
【請求項14】
前記配列番号37のアミノ酸配列を含むペプチド部位及びイミダゾアセチルエキセンジン-4部位は、それぞれの生体適合性物質にリンカーを介して連結されている、請求項12又は13に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルカゴン誘導体、その結合体、及びそれを含む組成物、並びにその用途、特に代謝症候群、低血糖症及び先天性高インスリン症に対する治療的用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、経済的発展や食習慣などの変化により、肥満、脂質異常症、高血圧、動脈硬化、高インスリン血症、糖尿病、肝疾患など様々な疾患が含まれる代謝症候群関連疾患の発症が急増している状況である。これらの疾患は、それぞれ発生することもあるが、一般には互いに密接な関連を有し、様々な症状を伴って発生することが多い。
【0003】
過体重及び肥満は、血圧とコレステロール値を増加させるので、心臓疾患、糖尿病、関節炎などの各種疾患の発症又は悪化の原因となっている。また、過体重及び肥満は、成人だけでなく、子供や青少年においても、動脈硬化、高血圧、脂質異常症、心臓疾患などの発症率を増加させる主要因となっている。
【0004】
肥満は意外に治療が容易でなく、その理由は、肥満は食欲調節及びエネルギー代謝の作用機序が関連する複雑な疾患であるからである。よって、肥満を治療するためには、患者自身の努力だけでなく、食欲調節及びエネルギー代謝に関連する異常な作用機序を治療する方法が同時に行われなければならないので、前記異常な作用機序を治療する薬剤を開発する努力が続けられている。
【0005】
そのような努力の結果として、リモナバン(Rimonabant, Sanofi-Aventis)、シブトラミン(Sibutramin, Abbott)、コントレイブ(Contrave, Takeda)、オルリスタット(Orlistat, Roche)などの肥満治療剤が開発されているが、これらは致命的な副作用があったり、肥満治療効果が不十分であるという欠点がある。例えば、リモナバンは中枢神経障害の副作用があり、シブトラミンとコントレイブは心血管副作用があり、オルリスタットは服用1年で約4kgの体重減少効果を示すにすぎないことが報告されている。
【0006】
一方、グルカゴンは、薬物治療、疾病、ホルモンや酵素の欠乏などの原因で血糖値が下がり始めると膵臓で産生される。グルカゴンは、肝臓でグリコーゲンを分解してグルコースを放出するように働きかけ、血糖レベルを正常レベルまで引き上げる役割を果たす。また、グルカゴンは、低血糖症を治療するのに効果的なことが知られている。グルカゴンの低血糖症治療効果は、肝グリコーゲンのグルコースへの分解(グリコーゲン分解)を促進したり、肝臓からのグルコース流出を増加させるアミノ酸前駆体から誘導されるグルコース生成(グルコース生合成)を増加させた結果である。
【0007】
それだけでなく、グルカゴンは、血糖上昇効果以外に、食欲を抑制し、脂肪細胞のホルモン感受性リパーゼ(hormone-sensitive lipase)を活性化して脂肪分解を促進することにより、抗肥満効果を示すことが報告されている。しかし、グルカゴンは、低い溶解度と中性pHにおける沈殿により、治療剤としての使用が制限されている。
【0008】
よって、物性が改善されたグルカゴンは、深刻な低血糖症の治療、脂肪分解、肝臓におけるβ酸化(β-oxydation)の増加など、グルカゴン単独の非アルコール性脂肪肝(NASH)や脂質異常症(dyslipidemia)などの治療に有用である。
【0009】
このようなグルカゴンの誘導体の一つであるグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)は、糖尿病患者の高血糖症を減少させる治療剤として開発中の物質である。GLP-1は、インスリン合成と分泌を促進し、グルカゴンの分泌を阻害し、空腹を抑制し、グルコースの使用を増進すると共に、食物摂取を阻害する機能を有する。
【0010】
GLP-1と約50%のアミノ酸相同性を有するトカゲ毒(lizard venom)から作られるエキセンジン-4(exendin-4)も、GLP-1受容体を活性化して糖尿病患者の高血糖症を減少させることが知られている(非特許文献1)。しかし、前記GLP-1又はエキセンジン-4を含む肥満治療用医薬品は、嘔吐と吐気の副作用を伴うという問題のあることが報告されている。
【0011】
よって、前記GLP-1の代案として、GLP-1とグルカゴンの両ペプチドの受容体に結合するオキシントモジュリン(oxyntomodulin)が脚光を浴びている。前記オキシントモジュリンは、グルカゴンの前駆体であるプレグルカゴン(pre-glucagon)から作られるペプチドであり、GLP-1の食物摂取阻害、満腹感増進の効能と、グルカゴンの脂肪分解機能を有することから、抗肥満治療剤としての可能性を高めている。
【0012】
しかし、オキシントモジュリン又はその誘導体は、生体内での短い半減期と低い薬効により、毎日過剰量の薬物を投与しなければならないという大きな欠点がある。また、1つのペプチドにGLP-1とグルカゴンの活性がどちらも存在する場合、その活性比が固定されるので、様々な比率を有する二重作用剤としての使用は困難になる。よって、GLP-1とグルカゴンの含有量を調節することにより様々な活性比で用いることのできる併用治療がさらに効果的である。ただし、そのためには、中性pHで凝集し、時間の経過により沈殿する低い溶解度を示すグルカゴンの物性を改善することが必要である。
【0013】
一方、先天性高インスリン症(congenital hyperinsulinism)は、新生児と小児において発生する深刻かつ持続的な低血糖症を引き起こす最も典型的な原因疾患の一つである。インスリンは、人体内で血糖を調節するホルモンであり、食物摂取などにより血糖が上昇すると血糖を低くする役割を果たすが、先天性高インスリン症患者においては、このような調節の役割が果たせず、血糖に関係なく膵臓からインスリンを分泌する。その結果、患者は低血糖症になる。
【0014】
低血糖症が発生すると、脳細胞が主に用いるグルコース、ケトン、ラクトースなどを維持することができず、体内のタンパク質や脂肪からのエネルギー供給が遮断されて脳細胞が損傷を受け、その結果痙攣疾患、学習障害、脳性麻痺、失明、重篤な場合は死亡にも至る。
【0015】
その原因の一つとして、一時的に過大なインスリンが分泌されることにより、低血糖症が発生することがある。また、胎児切迫仮死(fetal distress)となった嬰児においても低血糖症が発生する。インスリン異常分泌の原因は明らかでないが、これらの場合は数日から数カ月以内に好転する。糖尿病が発症した産婦において糖調節が困難な場合も一過性の低血糖症が発生することがあるが、授乳が良好に行われて低血糖症が改善されれば再発しない。他の原因として、いくつかの遺伝的欠陥による持続性高インスリン症がある。遺伝的欠陥による高インスリン症の原因としては、11p15.1染色体にあるSUR又はKir6.2遺伝子の突然変異、7p15-p13染色体にあるGK(glucokinase)遺伝子の突然変異によるGK活性度の増加、GDH(Glutamate dehydrogenase)遺伝子の突然変異によるGDHの活性化とそれによるβ島細胞内のATPの増加などが報告されている。
【0016】
よって、低血糖症の即時治療が脳損傷の予防のために重要である。低血糖症は口から炭水化物を含む飲料を飲むことにより治療することができるが、重篤な場合は静脈にグルコースを注入するか、グルカゴンを注射しなければならない。治療の目標は、小児が正常な食生活中に簡単な安全装置で生活できるようにすることである。例えば、1歳の乳児の場合、夜は10~12時間食べずに寝ているので、薬物の助けを借りて少なくとも14~15時間絶食を維持できるようにすることである。
【0017】
薬物としては、ジアゾキシド(diazoxide)、オクトレオチド(octreotide)、グルカゴンなどが用いられる。ジアゾキシドは、1日に2~3回経口服用し、KATPチャネル(ATP dependent K+channel)に作用してインスリン分泌を抑制するので、GK高インスリン症やGDH高インスリン症においては効果を発揮するが、常染色体劣性KATPチャネル異常による高インスリン症においては反応がないことが多い。オクトレオチドは、注射製剤を皮下注射で投与し、はじめは薬物に反応を示すが、時間が経過すると効果が低下することがある。グルカゴンは、肝臓における糖排出を促進する作用をし、皮下注射や静脈注射で投与するが、緊急事態の際に経口摂取が不可能な場合に用いることが知られている。
【0018】
このうちグルカゴンは、低い溶解度と中性pHにおける沈殿により、現在は凍結剤として用いられており、使用前に溶媒に溶解して用いなければならないという不便があり、さらに半減期が短いため、長期治療が必要な先天性高インスリン症治療剤として用いる場合は、頻繁な投与によりその使用が制限されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】国際公開第97/034631号
【文献】国際公開第96/032478号
【文献】米国特許出願公開第2010/0105877号明細書
【非特許文献】
【0020】
【文献】J Biol Chem. 1992 Apr 15;267(11):7402-5.
【文献】http://expasy.org/tools/pi_tool.html; Gasteiger et al., 2003
【文献】H.Neurath, R.L.Hill, The Proteins, Academic Press, New York, 1979
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、グルカゴン誘導体又はそれを含む結合体を含む組成物、具体的には先天性高インスリン症、低血糖症又は代謝症候群の予防又は治療用薬学的組成物を提供することを目的とする。
【0022】
また、本発明は、グルカゴン誘導体を提供することを目的とする。
【0023】
さらに、本発明は、グルカゴン誘導体をコードする分離されたポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター、及び前記ポリヌクレオチド又はベクターを含む分離された細胞を提供することを目的とする。
【0024】
さらに、本発明は、ペプチド部位、及び前記ペプチド部位に共有結合で連結された生体適合性物質部を含む分離された結合体を提供することを目的とする。
【0025】
本発明は、グルカゴン誘導体又はそれを含む結合体を含むキット、具体的には先天性高インスリン症、低血糖症又は代謝症候群の予防又は治療用キットを提供することを目的とする。
【0026】
また、本発明は、前記グルカゴン誘導体、それを含む結合体、又はそれを含む組成物を、それを必要とする個体に投与するステップを含む、先天性高インスリン症の予防又は治療方法を提供することを目的とする。
【0027】
さらに、本発明は、先天性高インスリン症の予防又は治療のための薬剤の製造における、前記グルカゴン誘導体、それを含む結合体、又はそれを含む組成物の用途を提供することを目的とする。
【0028】
さらに、本発明は、前記グルカゴン誘導体、それを含む結合体、又はそれを含む組成物を、それを必要とする個体に投与するステップを含む、低血糖症の予防又は治療方法を提供することを目的とする。
【0029】
さらに、本発明は、低血糖症の予防又は治療のための薬剤の製造における、前記グルカゴン誘導体、それを含む結合体、又はそれを含む組成物の用途を提供することを目的とする。
【0030】
さらに、本発明は、グルカゴン誘導体、分離された結合体、又はそれを含む組成物を、それを必要とする個体に投与するステップを含む、代謝症候群を予防又は治療する方法を提供することを目的とする。
【0031】
さらに、本発明は、グルカゴン誘導体、分離された結合体、又は前記組成物を代謝症候群に対する予防又は治療用薬剤(又は薬学的組成物)の製造に用いる用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明の一実施態様は、グルカゴン誘導体又はそれを含む結合体を含む組成物、具体的には先天性高インスリン症、低血糖症又は代謝症候群の予防又は治療用薬学的組成物である。
【0033】
一具体例において、本発明は、一般式(1)のアミノ酸配列を含むグルカゴン誘導体ペプチドを含む組成物、具体的には先天性高インスリン症、低血糖症又は代謝症候群の予防又は治療用薬学的組成物に関する。
【0034】

X1-X2-QGTF-X7-SD-X10-S-X12-X13-X14-X15-X16-X17-X18-X19-X20-X21-F-X23-X24-W-L-X27-X28-X29-X30(一般式(1),配列番号45)
【0035】
前記式において、X1は、ヒスチジン(H)、デスアミノ-ヒスチジル(desamino-histidyl)、ジメチル-ヒスチジル(N-dimethyl-histidyl)、β-ヒドロキシイミダゾプロピオニル(beta-hydroxy imidazopropionyl)、4-イミダゾアセチル(4-imidazoacetyl)、β-カルボキシイミダゾプロピオニル(beta-carboxy imidazopropionyl)、トリプトファン(W)もしくはチロシン(Y)であるか、又は存在せず、X2は、α-メチルグルタミン酸(α-methyl-glutamic acid)、Aib(aminoisobutyric acid)、D-アラニン、グリシン(G)、Sar(N-methylglycine)、セリン(S)又はD-セリンであり、X7は、トレオニン(T)、バリン(V)又はシステイン(C)であり、X10は、チロシン(Y)又はシステイン(C)であり、X12は、リシン(K)又はシステイン(C)であり、X13は、チロシン(Y)又はシステイン(C)であり、X14は、ロイシン(L)又はシステイン(C)であり、X15は、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)又はシステイン(C)であり、X16は、グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)、セリン(S)、α-メチルグルタミン酸もしくはシステイン(C)であるか、又は存在せず、X17は、アスパラギン酸(D)、グルタミン(Q)、グルタミン酸(E)、リシン(K)、アルギニン(R)、セリン(S)、システイン(C)もしくはバリン(V)であるか、又は存在せず、X18は、アラニン(A)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、アルギニン(R)、バリン(V)もしくはシステイン(C)であるか、又は存在せず、X19は、アラニン(A)、アルギニン(R)、セリン(S)、バリン(V)もしくはシステイン(C)であるか、又は存在せず、X20は、リシン(K)、ヒスチジン(H)、グルタミン(Q)、アスパラギン酸(D)、アルギニン(R)、α-メチルグルタミン酸もしくはシステイン(C)であるか、又は存在せず、X21は、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、ロイシン(L)、バリン(V)もしくはシステイン(C)であるか、又は存在せず、X23は、イソロイシン(I)、バリン(V)もしくはアルギニン(R)であるか、又は存在せず、X24は、バリン(V)、アルギニン(R)、アラニン(A)、システイン(C)、グルタミン酸(E)、リシン(K)、グルタミン(Q)、α-メチルグルタミン酸もしくはロイシン(L)であるか、又は存在せず、X27は、イソロイシン(I)、バリン(V)、アラニン(A)、リシン(K)、メチオニン(M)、グルタミン(Q)もしくはアルギニン(R)であるか、又は存在せず、X28は、グルタミン(Q)、リシン(K)、アスパラギン(N)もしくはアルギニン(R)であるか、又は存在せず、X29は、リシン(K)、アラニン(A)、グリシン(G)もしくはトレオニン(T)であるか、又は存在せず、X30は、システイン(C)であるか、又は存在しない(ただし、一般式(1)のアミノ酸配列が配列番号1と同じ場合は除く)。
【0036】
以下、本発明の他の具体例を示す。
【0037】
具体的には、前述した具体例による薬学的組成物において、一般式(1)において、X1は、ヒスチジン(H)、トリプトファン(W)もしくはチロシン(Y)であるか、又は存在せず、X2は、セリン(S)又はAib(aminoisobutyric acid)であり、X7は、トレオニン(T)、バリン(V)又はシステイン(C)であり、X10は、チロシン(Y)又はシステイン(C)であり、X12は、リシン(K)又はシステイン(C)であり、X13は、チロシン(Y)又はシステイン(C)であり、X14は、ロイシン(L)又はシステイン(C)であり、X15は、アスパラギン酸(D)又はシステイン(C)であり、X16は、グルタミン酸(E)、セリン(S)又はシステイン(C)であり、X17は、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、リシン(K)、アルギニン(R)、セリン(S)、システイン(C)又はバリン(V)であり、X18は、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、アルギニン(R)又はシステイン(C)であり、X19は、アラニン(A)又はシステイン(C)であり、X20は、グルタミン(Q)、アスパラギン酸(D)、リシン(K)又はシステイン(C)であり、X21は、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、ロイシン(L)、バリン(V)又はシステイン(C)であり、X23は、イソロイシン(I)、バリン(V)又はアルギニン(R)であり、X24は、バリン(V)、アルギニン(R)、アラニン(A)、グルタミン酸(E)、リシン(K)、グルタミン(Q)又はロイシン(L)であり、X27は、イソロイシン(I)、バリン(V)、アラニン(A)、メチオニン(M)、グルタミン(Q)又はアルギニン(R)であり、X28は、グルタミン(Q)、リシン(K)、アスパラギン(N)又はアルギニン(R)であり、X29はトレオニン(T)であり、X30は、システイン(C)であるか、又は存在しないことを特徴とする。
【0038】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、一般式(1)において、X1は、ヒスチジン(H)、トリプトファン(W)又はチロシン(Y)であり、X2は、セリン(S)又はAib(aminoisobutyric acid)であり、X7は、システイン(C)、トレオニン(T)又はバリン(V)であり、X10は、チロシン(Y)又はシステイン(C)であり、X12は、リシン(K)又はシステイン(C)であり、X13は、チロシン(Y)又はシステイン(C)であり、X14は、ロイシン(L)又はシステイン(C)であり、X15は、アスパラギン酸(D)又はシステイン(C)であり、X16は、グルタミン酸(E)、セリン(S)又はシステイン(C)であり、X17は、グルタミン酸(E)、リシン(K)、アルギニン(R)、システイン(C)又はバリン(V)であり、X18は、アルギニン(R)又はシステイン(C)であり、X19は、アラニン(A)又はシステイン(C)であり、X20は、グルタミン(Q)又はリシン(K)であり、X21は、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、バリン(V)又はシステイン(C)であり、X23はバリン(V)であり、X24は、バリン(V)又はグルタミン(Q)であり、X27はメチオニン(M)であり、X28は、アスパラギン(N)又はアルギニン(R)であり、X29はトレオニン(T)であり、X30は、システイン(C)であるか、又は存在しないことを特徴とする。
【0039】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、一般式(1)において、X1はチロシン(Y)であり、X2はAib(aminoisobutyric acid)であり、X7は、システイン(C)、トレオニン(T)又はバリン(V)であり、X10は、チロシン(Y)又はシステイン(C)であり、X12はリシン(K)であり、X13は、チロシン(Y)又はシステイン(C)であり、X14は、ロイシン(L)又はシステイン(C)であり、X15は、アスパラギン酸(D)又はシステイン(C)であり、X16は、グルタミン酸(E)、セリン(S)又はシステイン(C)であり、X17は、リシン(K)、アルギニン(R)、システイン(C)又はバリン(V)であり、X18は、アルギニン(R)又はシステイン(C)であり、X19は、アラニン(A)又はシステイン(C)であり、X20は、グルタミン(Q)又はリシン(K)であり、X21は、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)又はシステイン(C)であり、X23はバリン(V)であり、X24はグルタミン(Q)であり、X27はメチオニン(M)であり、X28は、アスパラギン(N)又はアルギニン(R)であり、X29はトレオニン(T)であり、X30は、システイン(C)であるか、又は存在しないことを特徴とする。
【0040】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、一般式(1)において、X1は、ヒスチジン(H)、トリプトファン(W)もしくはチロシン(Y)であるか、又は存在せず、X2は、セリン(S)又はAib(aminoisobutyric acid)であり、X7は、トレオニン(T)、バリン(V)又はシステイン(C)であり、X10は、チロシン(Y)又はシステイン(C)であり、X12は、リシン(K)又はシステイン(C)であり、X13は、チロシン(Y)又はシステイン(C)であり、X14は、ロイシン(L)又はシステイン(C)であり、X15は、アスパラギン酸(D)又はシステイン(C)であり、X16は、グルタミン酸(E)、セリン(S)又はシステイン(C)であり、X17は、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、リシン(K)、アルギニン(R)、セリン(S)、システイン(C)又はバリン(V)であり、X18は、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、アルギニン(R)又はシステイン(C)であり、X19は、アラニン(A)又はシステイン(C)であり、X20は、グルタミン(Q)、アスパラギン酸(D)又はリシン(K)であり、X21は、アスパラギン酸(D)又はグルタミン酸(E)であり、X23はバリン(V)であり、X24は、バリン(V)又はグルタミン(Q)であり、X27は、イソロイシン(I)又はメチオニン(M)であり、X28は、アスパラギン(N)又はアルギニン(R)であり、X29はトレオニン(T)であり、X30は、システイン(C)であるか、又は存在しないことを特徴とする。
【0041】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、一般式(1)において、X1はチロシン(Y)であり、X2はAib(aminoisobutyric acid)であり、X7はトレオニン(T)であり、X10はチロシン(Y)であり、X12はリシン(K)であり、X13はチロシン(Y)であり、X14はロイシン(L)であり、X15は、アスパラギン酸(D)又はシステイン(C)であり、X16は、グルタミン酸(E)、セリン(S)又はシステイン(C)であり、X17は、リシン(K)又はアルギニン(R)であり、X18はアルギニン(R)であり、X19はアラニン(A)であり、X20は、グルタミン(Q)、システイン(C)又はリシン(K)であり、X21は、アスパラギン酸(D)、システイン(C)、バリン(V)又はグルタミン酸(E)であり、X23は、バリン(V)又はアルギニン(R)であり、X24は、グルタミン(Q)又はロイシン(L)であり、X27はメチオニン(M)であり、X28は、アスパラギン(N)又はアルギニン(R)であり、X29はトレオニン(T)であり、X30は存在しないことを特徴とする。
【0042】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記ペプチドは、一般式(2)のアミノ酸配列を含むペプチドであることを特徴とする。
【0043】

Y-Aib-QGTF-X7-SD-X10-S-X12-Y-L-X15-X16-X17-R-A-X20-X21-F-V-X24-W-L-M-N-T-X30(一般式(2),配列番号46)
【0044】
一般式(2)において、X7は、トレオニン(T)、バリン(V)又はシステイン(C)であり、X10は、チロシン(Y)又はシステイン(C)であり、X12は、リシン(K)又はシステイン(C)であり、X15は、アスパラギン酸(D)又はシステイン(C)であり、X16は、グルタミン酸(E)又はセリン(S)であり、X17は、リシン(K)又はアルギニン(R)であり、X20は、グルタミン(Q)又はリシン(K)であり、X21は、アスパラギン酸(D)又はグルタミン酸(E)であり、X24は、バリン(V)又はグルタミン(Q)であり、X30は、システイン(C)であるか、又は存在しない。
【0045】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記ペプチドは、天然グルカゴンのpIである6.8とは異なるpI、例えばpIが6.5以下か、pIが7.0以上であることを特徴とする。
【0046】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、本発明の一実施形態は、一般式(1)又は(2)のX10とX14、X12とX16、X16とX20、X17とX21、X20とX24、及びX24とX28のアミノ酸対の少なくとも1つのアミノ酸対の各アミノ酸が環を形成するグルタミン酸又はリシンに置換されていることを特徴とする。
【0047】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、本発明の一実施形態は、一般式(1)又は(2)のX12とX16のアミノ酸対、X16とX20のアミノ酸対、又はX17とX21のアミノ酸対の各アミノ酸が環を形成するグルタミン酸又はリシンに置換されていることを特徴とする。
【0048】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、本発明の一実施形態は、一般式(1)又は(2)において、X10とX14、X12とX16、X16とX20、X17とX21、X20とX24、及びX24とX28のアミノ酸対の少なくとも1つのアミノ酸対における各アミノ酸間に環(例えば、ラクタム環)を形成することを特徴とする。
【0049】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、本発明の一実施形態は、一般式(1)又は(2)において、X16はグルタミン酸であり、X20はリシンであり、X16とX20の側鎖はラクタム環を形成することを特徴とする。
【0050】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、本発明の一実施形態は、前記ペプチドのC末端は、アミド化されているか、改変されていないことを特徴とする。
【0051】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記ペプチドは、グルカゴン受容体を活性化させることのできる天然グルカゴンの誘導体であることを特徴とする。
【0052】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記ペプチドは、配列番号2~44からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする。
【0053】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記ペプチドは、配列番号12、13、15及び36~44からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする。
【0054】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記ペプチドは、配列番号37のアミノ酸配列を含むことを特徴とする。
【0055】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記ペプチドは、前記ペプチド部位、具体的には一般式(1)又は(2)のアミノ酸配列を含むペプチド部位に生体適合性物質部が結合された持続型結合体形態であることを特徴とする。
【0056】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記生体適合性物質部は、高分子重合体、脂肪酸、コレステロール、アルブミン及びそのフラグメント、アルブミン結合物質、特定アミノ酸配列の繰り返し単位の重合体、抗体、抗体フラグメント、FcRn結合物質、生体内結合組織又はその誘導体、ヌクレオチド、フィブロネクチン、トランスフェリン(Transferrin)、サッカライド(saccharide)、ヘパリン並びにエラスチンからなる群から選択されることを特徴とする。
【0057】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記高分子重合体は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール-プロピレングリコール共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、生分解性高分子、脂質重合体、キチン、ヒアルロン酸、オリゴヌクレオチド及びそれらの組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする。
【0058】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記FcRn結合物質は、免疫グロブリンFc領域を含むポリペプチドであることを特徴とする。
【0059】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記ペプチド部位と生体適合性物質部は、リンカーを介して連結されていることを特徴とする。
【0060】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記リンカーは、ペプチド、脂肪酸、サッカライド、高分子重合体、低分子化合物、ヌクレオチド及びそれらの組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする。
【0061】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記高分子重合体は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール-プロピレングリコール共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、生分解性高分子、脂質重合体、キチン、ヒアルロン酸、オリゴヌクレオチド及びそれらの組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする。
【0062】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記リンカーはポリエチレングリコールであることを特徴とする。
【0063】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記免疫グロブリンFc領域は非グリコシル化されていることを特徴とする。
【0064】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記免疫グロブリンFc領域は、(a)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメイン、(b)CH1ドメイン及びCH2ドメイン、(c)CH1ドメイン及びCH3ドメイン、(d)CH2ドメイン及びCH3ドメイン、(e)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメインの少なくとも1つのドメインと免疫グロブリンヒンジ領域又はヒンジ領域の一部との組み合わせ、並びに(f)重鎖定常領域の各ドメインと軽鎖定常領域の二量体からなる群から選択されることを特徴とする。
【0065】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記免疫グロブリンFc領域を含むポリペプチドは二量体形態(dimeric form)であることを特徴とする。
【0066】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記免疫グロブリンFc領域は、ジスルフィド結合を形成する部位が除去されたか、天然FcからN末端の一部のアミノ酸が欠失されたか、天然FcのN末端にメチオニン残基が付加されたか、補体結合部位が除去されたか、又はADCC(antibody dependent cell mediated cytotoxicity)部位が除去された、天然Fcの誘導体であることを特徴とする。
【0067】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記免疫グロブリンFc領域は、IgG、IgA、IgD、IgE及びIgMからなる群から選択される免疫グロブリンに由来するFc領域であることを特徴とする。
【0068】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記免疫グロブリンFc領域はIgG4 Fc領域であることを特徴とする。
【0069】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記免疫グロブリンFc領域は、ヒトIgG4由来の非グリコシル化されたFc領域であることを特徴とする。
【0070】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記リンカーは、一般式(1)又は(2)のアミノ酸配列を含むペプチドのシステイン残基に連結されていることを特徴とする。
【0071】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、本発明の一実施形態は、前記結合体のリンカーは、一末端が生体適合性物質部のアミノ基又はチオール基と、前記リンカーの他の末端が一般式(1)又は(2)のアミノ酸配列を含むペプチド部位のアミノ基又はチオール基とそれぞれ反応して形成された共有結合により、前記ペプチド部位と前記生体適合性物質部にそれぞれ連結されていることを特徴とする。
【0072】
本発明の他の実施態様はグルカゴン誘導体である。
【0073】
一具体例において、本発明は、配列番号45で表される一般式(1)のアミノ酸配列を含む分離されたペプチドに関する。
【0074】
他の具体例において、本発明は、一般式(2)のアミノ酸配列を含む分離されたペプチドに関する。
【0075】

Y-Aib-QGTF-X7-SD-X10-S-X12-Y-L-X15-X16-X17-R-A-X20-X21-F-V-X24-W-L-M-N-T-X30(一般式(2),配列番号46)
【0076】
一般式(2)において、X7は、トレオニン(T)、バリン(V)又はシステイン(C)であり、X10は、チロシン(Y)又はシステイン(C)であり、X12は、リシン(K)又はシステイン(C)であり、X15は、アスパラギン酸(D)又はシステイン(C)であり、X16は、グルタミン酸(E)又はセリン(S)であり、X17は、リシン(K)又はアルギニン(R)であり、X20は、グルタミン(Q)又はリシン(K)であり、X21は、アスパラギン酸(D)又はグルタミン酸(E)であり、X24は、バリン(V)又はグルタミン(Q)であり、X30は、システイン(C)であるか、又は存在しない。
【0077】
前述した具体例によるペプチドにおいて、一般式(2)のアミノ酸配列を含む分離されたペプチドのうち、配列番号19、33、49及び50に相当するペプチドは除かれてもよい。
【0078】
前述した具体例のいずれかによるペプチドにおいて、前記ペプチドは、一般式(2)のX16はグルタミン酸であり、X20はリシンであり、X16とX20の側鎖はラクタム環を形成することを特徴とする。
【0079】
前述した具体例のいずれかによるペプチドにおいて、一般式(2)のアミノ酸配列を含むペプチドのC末端は、アミド化されているか、改変されていないことを特徴とする。
【0080】
前述した具体例のいずれかによるペプチドにおいて、前記ペプチドは、グルカゴン受容体を活性化させることのできるグルカゴン誘導体であることを特徴とする。
【0081】
前述した具体例のいずれかによるペプチドにおいて、前記ペプチドは、配列番号12、13、15及び36~44からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする。
【0082】
本発明のさらに他の実施態様は、前記分離されたペプチド、具体的には一般式(1)又は(2)のアミノ酸配列を含む分離されたペプチドをコードする分離されたポリヌクレオチド、前記分離されたポリヌクレオチドを含むベクター、及び前記ポリヌクレオチド又はベクターを含む分離された細胞である。
【0083】
本発明のさらに他の実施態様は、ペプチド部位、及び前記ペプチド部位に共有結合で連結された生体適合性物質部を含む分離された結合体であって、前記ペプチド部位は、一般式(1)又は(2)のアミノ酸配列と同じ配列、又はそれを含む配列である分離された結合体である。
【0084】
一具体例において、本発明は、ペプチド部位、及び前記ペプチド部位に共有結合で連結された生体適合性物質部を含む分離された結合体であって、前記ペプチド部位は、一般式(1)のアミノ酸配列と同じ配列、又はそれを含む配列である分離された結合体に関する。
【0085】
他の具体例において、本発明は、ペプチド部位、及び前記ペプチド部位に共有結合で連結された生体適合性物質部を含む分離された結合体であって、前記ペプチド部位は、一般式(2)のアミノ酸配列と同じ配列、又はそれを含む配列である分離された結合体に関する。
【0086】
前述した具体例による結合体において、前記生体適合性物質部は、高分子重合体、脂肪酸、コレステロール、アルブミン及びそのフラグメント、アルブミン結合物質、特定アミノ酸配列の繰り返し単位の重合体、抗体、抗体フラグメント、FcRn結合物質、生体内結合組織又はその誘導体、ヌクレオチド、フィブロネクチン、トランスフェリン(Transferrin)、サッカライド、ヘパリン並びにエラスチンからなる群から選択されることを特徴とする。
【0087】
前述した具体例のいずれかによる結合体において、前記高分子重合体は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール-プロピレングリコール共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、生分解性高分子、脂質重合体、キチン、ヒアルロン酸、オリゴヌクレオチド及びそれらの組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする。
【0088】
前述した具体例のいずれかによる結合体において、前記FcRn結合物質は、免疫グロブリンFc領域を含むポリペプチドであることを特徴とする。
【0089】
前述した具体例のいずれかによる結合体において、前記ペプチド部位と前記生体適合性物質部間の共有結合は、リンカーを介して連結されていることを特徴とする。
【0090】
前述した具体例のいずれかによる結合体において、前記リンカーは、ペプチド、脂肪酸、サッカライド、高分子重合体、低分子化合物、ヌクレオチド及びそれらの組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする。
【0091】
前述した具体例のいずれかによる結合体において、前記リンカーは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール-プロピレングリコール共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、生分解性高分子、脂質重合体、キチン、ヒアルロン酸、オリゴヌクレオチド及びそれらの組み合わせからなる群から選択される高分子重合体であることを特徴とする。
【0092】
前述した具体例のいずれかによる結合体において、前記生体適合性物質部は、FcRn結合物質であり、前記ペプチド部位に前記ペプチド、脂肪酸、サッカライド、高分子重合体、低分子化合物、ヌクレオチド及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるリンカーを介して生体適合性物質部が結合されていることを特徴とする。
【0093】
前述した具体例のいずれかによる結合体において、前記リンカーはポリエチレングリコールであることを特徴とする。
【0094】
前述した具体例のいずれかによる結合体において、前記免疫グロブリンFc領域は非グリコシル化されていることを特徴とする。
【0095】
前述した具体例のいずれかによる結合体において、前記免疫グロブリンFc領域は、(a)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメイン、(b)CH1ドメイン及びCH2ドメイン、(c)CH1ドメイン及びCH3ドメイン、(d)CH2ドメイン及びCH3ドメイン、(e)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメインの少なくとも1つのドメインと免疫グロブリンヒンジ領域又はヒンジ領域の一部との組み合わせ、並びに(f)重鎖定常領域の各ドメインと軽鎖定常領域の二量体からなる群から選択されることを特徴とする。
【0096】
前述した具体例のいずれかによる結合体において、前記免疫グロブリンFc領域を含むポリペプチドは二量体形態(dimeric form)であることを特徴とする。
【0097】
前述した具体例のいずれかによる結合体において、前記免疫グロブリンFc領域は、ジスルフィド結合を形成する部位が除去されたか、天然FcからN末端の一部のアミノ酸が欠失されたか、天然FcのN末端にメチオニン残基が付加されたか、補体結合部位が除去されたか、又はADCC(antibody dependent cell mediated cytotoxicity)部位が除去された、天然Fcの誘導体であることを特徴とする。
【0098】
前述した具体例のいずれかによる結合体において、前記免疫グロブリンFc領域は、IgG、IgA、IgD、IgE及びIgMからなる群から選択される免疫グロブリンに由来するFc領域であることを特徴とする。
【0099】
前述した具体例のいずれかによる結合体において、前記免疫グロブリンFc領域はIgG4 Fc領域であることを特徴とする。
【0100】
前述した具体例のいずれかによる結合体において、前記免疫グロブリンFc領域は、ヒトIgG4由来の非グリコシル化されたFc領域であることを特徴とする。
【0101】
前述した具体例のいずれかによる結合体において、前記リンカーは、前記ペプチドのシステイン残基に連結されていることを特徴とする。
【0102】
前述した具体例のいずれかによる結合体において、本発明の一実施形態は、前記結合体のリンカーは、一末端が生体適合性物質部のアミノ基又はチオール基と、前記リンカーの他の末端が一般式(1)又は(2)のアミノ酸配列を含むペプチド部位のアミノ基又はチオール基とそれぞれ反応して形成された共有結合により、前記ペプチド部位と前記生体適合性物質部にそれぞれ連結されていることを特徴とする。
【0103】
本発明のさらに他の実施態様は、グルカゴン誘導体又はそれを含む結合体と、薬学的に許容される賦形剤とを含む、低血糖症の予防又は治療用薬学的組成物である。
【0104】
一具体例において、本発明は、前記分離されたペプチド又は前記分離されたペプチドと同じ配列もしくはそれを含む配列であるペプチド部位、及び前記ペプチド部位に共有結合で連結された生体適合性物質部を含む分離された結合体を含む、低血糖症の予防又は治療用薬学的組成物に関する。
【0105】
本発明のさらに他の実施態様は、グルカゴン誘導体又はそれを含む結合体と、薬学的に許容される賦形剤とを含む、代謝症候群の予防又は治療用薬学的組成物である。
【0106】
一具体例において、前記分離されたペプチド又は前記分離されたペプチドと同じ配列もしくはそれを含む配列であるペプチド部位、及び前記ペプチド部位に共有結合で連結された生体適合性物質部を含む分離された結合体を含む、代謝症候群の予防又は治療用薬学的組成物に関する。
【0107】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記薬学的組成物は、少なくとも1つの代謝症候群に対する治療的活性を有する化合物又は物質をさらに含むことを特徴とする。
【0108】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記代謝症候群に対する治療的活性を有する化合物又は物質は、インスリン分泌ペプチド、GLP-1(glucagon like peptide-1)受容体アゴニスト、レプチン(Leptin)受容体アゴニスト、DPP-IV(dipeptidyl peptidase-IV)阻害剤、Y5受容体アンタゴニスト、MCH(Melanin-concentrating hormone)受容体アンタゴニスト、Y2/4受容体アゴニスト、MC3/4(Melanocortin 3/4)受容体アゴニスト、胃/膵臓リパーゼ(gastric/pancreatic lipase)阻害剤、5HT2c(5-hydroxytryptamine receptor 2C, G protein-coupled)アゴニスト、β3A受容体アゴニスト、アミリン(Amylin)受容体アゴニスト、グレリン(Ghrelin)アンタゴニスト、グレリン受容体アンタゴニスト、PPARα(Peroxisome proliferator-activated receptor alpha)アゴニスト、PPARδ(Peroxisome proliferator-activated receptor delta)アゴニスト、FXR(farnesoid X receptor)アゴニスト、アセチル-CoAカルボキシラーゼ阻害剤(acetyl-CoA carboxylase inhibitor)、ペプチドYY、CCK(Cholecystokinin)、キセニン(Xenin)、グリセンチン(glicentin)、オベスタチン(obestatin)、セクレチン(secretin)、ネスファチン(nesfatin)、インスリン(insuin)及びGIP(glucose-dependent insulinotropic peptide)からなる群から選択されることを特徴とする。
【0109】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記インスリン分泌ペプチドは、GLP-1、エキセンジン-3、エキセンジン-4、それらのアゴニスト(agonist)、誘導体(derivative)、フラグメント(fragment)、変異体(variant)及びそれらの組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする。
【0110】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記インスリン分泌ペプチドは、インスリン分泌ペプチドのN末端のヒスチジン残基がデス-アミノ-ヒスチジル、ジメチル-ヒスチジル、β-ヒドロキシイミダゾプロピオニル、4-イミダゾアセチル及びβ-カルボキシイミダゾプロピオニルからなる群から選択されるものに置換されたインスリン分泌ペプチド誘導体であることを特徴とする。
【0111】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記インスリン分泌ペプチドは、天然エキセンジン-4、エキセンジン-4のN末端のアミノ基が除去されたエキセンジン-4誘導体、エキセンジン-4のN末端のアミノ基がヒドロキシ基に置換されたエキセンジン-4誘導体、エキセンジン-4のN末端のアミノ基がジメチル基で修飾されたエキセンジン-4誘導体、エキセンジン-4の1番目のアミノ酸(ヒスチジン)のα炭素を欠失(deletion)させたエキセンジン-4誘導体、エキセンジン-4の12番目のアミノ酸(リシン)がセリンに置換されたエキセンジン-4誘導体、及びエキセンジン-4の12番目のアミノ酸(リシン)がアルギニンに置換されたエキセンジン-4誘導体からなる群から選択されることを特徴とする。
【0112】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記インスリン分泌ペプチドは、前述したインスリン分泌ペプチドのアミノ酸配列を有するペプチド部位、及びそれに共有結合で連結された生体適合性物質部を含む結合体形態であることを特徴とする。
【0113】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記生体適合性物質部は、高分子重合体、脂肪酸、コレステロール、アルブミン及びそのフラグメント、アルブミン結合物質、特定アミノ酸配列の繰り返し単位の重合体、抗体、抗体フラグメント、FcRn結合物質、生体内結合組織又はその誘導体、ヌクレオチド、フィブロネクチン、トランスフェリン(Transferrin)、サッカライド、ヘパリン並びにエラスチンからなる群から選択されることを特徴とする。
【0114】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記高分子重合体は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール-プロピレングリコール共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、生分解性高分子、脂質重合体、キチン、ヒアルロン酸、オリゴヌクレオチド及びそれらの組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする。
【0115】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記FcRn結合物質は、免疫グロブリンFc領域を含むポリペプチドであることを特徴とする。
【0116】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記インスリン分泌ペプチドのアミノ酸配列を有するペプチド部位は、リンカーを介して生体適合性物質部に連結されていることを特徴とする。
【0117】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記リンカーは、ペプチド、脂肪酸、サッカライド、高分子重合体、低分子化合物、ヌクレオチド及びそれらの組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする。
【0118】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記リンカーは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール-プロピレングリコール共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、生分解性高分子、脂質重合体、キチン、ヒアルロン酸、オリゴヌクレオチド及びそれらの組み合わせからなる群から選択される高分子重合体であることを特徴とする。
【0119】
前述した具体例による薬学的組成物において、前記代謝症候群は、耐糖能障害、高コレステロール血症、脂質異常症、肥満、糖尿病、高血圧、非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis, NASH)、脂質異常症による動脈硬化、アテローム性動脈硬化症、動脈硬化症、冠状動脈心疾患(冠動脈性心疾患)及び脳卒中からなる群から選択されることを特徴とする。
【0120】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記インスリン分泌ペプチドは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール-プロピレングリコール共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、PLA(polylactic acid)やPLGA(polylactic-glycolic acid)などの生分解性高分子、脂質重合体、キチン類、ヒアルロン酸、脂肪酸、高分子重合体、低分子化合物、ヌクレオチド及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるリンカーを介して生体適合性物質部に連結されていることを特徴とする。
【0121】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記生体適合性物質部は、FcRn結合物質であり、前記インスリン分泌ペプチドのアミノ酸配列を有するペプチド部位は、ペプチドリンカー、又はポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール-プロピレングリコール共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、PLA(polylactic acid)やPLGA(polylactic-glycolic acid)などの生分解性高分子、脂質重合体、キチン類、ヒアルロン酸及びそれらの組み合わせからなる群から選択される非ペプチド性リンカーを介して生体適合性物質部に結合されていることを特徴とする。
【0122】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記組成物は、(i)配列番号37のアミノ酸配列を含むペプチド部位、及びそれに共有結合で連結された生体適合性物質部を含む結合体、並びに(ii)エキセンジン-4の1番目のアミノ酸(ヒスチジン)のα炭素を欠失させたイミダゾアセチルエキセンジン-4部位、及びそれに共有結合で連結された生体適合性物質部を含む結合体の全てを含むことを特徴とする。
【0123】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記配列番号37のアミノ酸配列を含むペプチド部位及びイミダゾアセチルエキセンジン-4部位は、それぞれの生体適合性物質部にリンカーを介して連結されていることを特徴とする。
【0124】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記FcRn結合物質は、免疫グロブリンFc領域を含むポリペプチドであることを特徴とする。
【0125】
本発明のさらに他の実施態様は、前記グルカゴン誘導体、それを含む結合体、又はそれを含む組成物を、それを必要とする個体に投与するステップを含む、先天性高インスリン症の予防又は治療方法である。
【0126】
本発明のさらに他の実施態様は、先天性高インスリン症の予防又は治療のための薬剤の製造における、前記グルカゴン誘導体、それを含む結合体、又はそれを含む組成物の用途である。
【0127】
本発明のさらに他の実施態様は、前記グルカゴン誘導体、それを含む結合体、又はそれを含む組成物を、それを必要とする個体に投与するステップを含む、低血糖症の予防又は治療方法である。
【0128】
本発明のさらに他の実施態様は、低血糖症の予防又は治療のための薬剤の製造における、前記グルカゴン誘導体、それを含む結合体、又はそれを含む組成物の用途である。
【0129】
本発明のさらに他の実施態様は、前記グルカゴン誘導体、それを含む結合体、又はそれを含む組成物を、それを必要とする個体に投与するステップを含む、代謝症候群の予防又は治療方法である。
【0130】
一具体例において、前記方法は、少なくとも1つの代謝症候群に対する治療的活性を有する化合物又は物質を投与することをさらに含むことを特徴とする。
【0131】
前述した具体例による方法において、前記グルカゴン誘導体又はそれを含む結合体と、少なくとも1つの代謝症候群に対する治療的活性を有する化合物又は物質は、同時、個別又は順次投与されることを特徴とする。
【0132】
本発明のさらに他の実施態様は、グルカゴン誘導体、分離された結合体、又は前記組成物を代謝症候群に対する予防又は治療用薬剤(又は薬学的組成物)の製造に用いる用途である。
【発明の効果】
【0133】
本発明によるグルカゴン誘導体は、天然グルカゴンより改善された物性を示し、肥満、糖尿病、非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis, NASH)をはじめとする代謝症候群(metabolic syndrome)、及び先天性高インスリン症の予防又は治療に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0134】
図1】高脂肪食餌による肥満動物モデル(ラット)に持続型インスリン分泌ペプチド結合体(持続型エキセンジン-4誘導体と命名した)と持続型グルカゴン誘導体結合体(配列番号12持続型誘導体と命名した)を、投与量を調節して15日間単独又は併用投与し、その結果として3日毎のラットの体重変化を示す図である。
図2】高脂肪食餌による肥満動物モデル(ラット)に持続型インスリン分泌ペプチド結合体(持続型エキセンジン-4誘導体と命名した)と持続型グルカゴン誘導体結合体(配列番号12持続型誘導体と命名した)を、投与量を調節して15日間単独又は併用投与し、その結果として腸間膜脂肪量の測定値を示す図である(対照群比*p<0.05,**p<0.01,一元ANOVA分析)。
図3】高脂肪食餌による肥満動物モデル(ラット)に持続型インスリン分泌ペプチド結合体(持続型エキセンジン-4誘導体と命名した)と持続型グルカゴン誘導体結合体(配列番号12持続型誘導体と命名した)を、投与量を調節して15日間単独又は併用投与し、その結果として肝臓重量変化の測定値を示す図である(対照群比***p<0.01,***p<0.001,一元ANOVA分析)。
図4】高脂肪食餌による肥満動物モデル(マウス)に持続型インスリン分泌ペプチド結合体(持続型エキセンジン-4誘導体と命名した)と持続型グルカゴン誘導体結合体(配列番号20持続型誘導体と命名した)を、投与量を調節して22日間単独又は併用投与し、その結果としてマウスの体重変化を示す図である。
図5】高脂肪食餌による肥満動物モデル(マウス)に持続型インスリン分泌ペプチド結合体(持続型エキセンジン-4誘導体と命名した)と持続型グルカゴン誘導体結合体(配列番号20持続型誘導体と命名した)を、投与量を調節して22日間単独又は併用投与し、その結果として血中コレステロール含有量の測定値を示す図である。
図6】高脂肪食餌による肥満動物モデル(マウス)にリラグルチド(ノボノルディスク)と持続型インスリン分泌ペプチド結合体(持続型エキセンジン誘導体と命名した)をそれぞれ単独投与するか、持続型インスリン分泌ペプチド結合体(持続型エキセンジン誘導体と命名した)と持続型グルカゴン誘導体結合体(配列番号37持続型誘導体と命名した)を28日間併用投与し、その結果として体重変化、血中コレステロール値、脂肪重量及び耐糖能の測定値を示す図である。対照群(賦形剤投与群)と比べた効能を示す。
図7】急性低血糖症(acute hypoglycemia)動物モデル(ラット)における配列番号37のグルカゴン誘導体の持続型結合体投与による低血糖症改善効果を示す図である。
図8】慢性低血糖症(chronic hypoglycemia)動物モデル(ラット)における配列番号37のグルカゴン誘導体の持続型結合体投与による低血糖症改善効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0135】
以下、本発明を実施するための具体的な内容について説明する。一方、本発明で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本発明で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本発明に含まれる。また、以下の具体的な記述により本発明が限定されるものではない。
【0136】
また、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、通常の実験のみを用いて本発明に記載された本発明の特定の態様の多くの等価物を認識し、確認することができるであろう。さらに、このような等価物も本発明に含まれることが意図されている。
【0137】
本明細書全体を通して、天然に存在するアミノ酸に対する通常の1文字及び3文字コードが用いられるだけでなく、Aib(α-アミノイソブチル酸)、Sar(N-methylglycine)などの他のアミノ酸に対して一般に許容される3文字コードが用いられる。また、本明細書において略語で言及したアミノ酸は、IUPAC-IUB命名法に従って記載したものである。
アラニン A
アルギニン R
アスパラギン N
アスパラギン酸 D
システイン C
グルタミン酸 E
グルタミン Q
グリシン G
ヒスチジン H
イソロイシン I
ロイシン L
リシン K
メチオニン M
フェニルアラニン F
プロリン P
セリン S
トレオニン T
トリプトファン W
チロシン Y
バリン V
【0138】
本発明の一実施態様は、グルカゴン誘導体又はそれを含む結合体を含む組成物、具体的には先天性高インスリン症、低血糖症又は代謝症候群の予防又は治療用薬学的組成物を提供する。
【0139】
本発明によるグルカゴン誘導体には、天然グルカゴンと比較してアミノ酸配列に少なくとも1つの差異のあるペプチド、天然グルカゴン配列を修飾(modification)することにより改変されたペプチド、天然グルカゴンのようにグルカゴン受容体を活性化させることのできる天然グルカゴンの模倣体が含まれる。
【0140】
このようなグルカゴン誘導体は、天然グルカゴンに比べて変化したpIを有し、改善された物性を示すものであってもよい。また、前記グルカゴン誘導体は、グルカゴン受容体を活性化する活性を有し、溶解度が改善されたものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0141】
さらに、前記グルカゴン誘導体は、天然に存在しない(non-naturally occurring)ものであってもよい。
【0142】
一方、天然グルカゴンは、次のアミノ酸配列を有してもよい。
His-Ser-Gln-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Tyr-Ser-Lys-Tyr-Leu-Asp-Ser-Arg-Arg-Ala-Gln-Asp-Phe-Val-Gln-Trp-Leu-Met-Asn-Thr(配列番号1)
【0143】
本発明における「等電点(isoelectric point)」又は「pI」とは、あるポリペプチドやペプチドなどの分子において、その全正味荷電(net charge)がゼロ(0)となるpH値を意味する。様々な荷電官能基が存在するポリペプチドの場合、pIにおいてその荷電の合計はゼロとなる。pIより高いpH値において、ポリペプチドの全正味荷電は陰性となり、pIより低いpH値において、ポリペプチドの全正味荷電は陽性となる。
【0144】
pIは、ポリアクリルアミド、デンプン又はアガロースで構成される固定化pH勾配ゲル上での等電点電気泳動により、又は例えばExPASyサーバにおいてpI/MWツール(非特許文献2)を用いてアミノ酸配列から計算することにより決定されてもよい。
【0145】
本発明における「変化したpI」とは、天然グルカゴンのアミノ酸配列において一部の配列が負電荷及び正電荷を帯びたアミノ酸残基に置換されることにより、天然グルカゴンのpIとは異なる、すなわちそれより減少又は増加したpIを有することを意味する。このように変化したpIを有するペプチドは、グルカゴン誘導体であり、中性pHにおいて改善された溶解度及び/又は高い安定性を示す。しかし、特にこれらに限定されるものではない。
【0146】
具体的には、前記グルカゴン誘導体は、天然グルカゴンのpI値(6.8)ではない、変化したpI値を有するものであってもよく、より具体的には、6.8未満、具体的には6.7以下、より具体的には6.5以下のpI値、さらに具体的には6.8超、7以上、一層具体的には7.5以上のものであってもよいが、これらに限定されるものではなく、天然グルカゴンとは異なるpI値を有するものであれば本発明に含まれる。特に、天然グルカゴンとは異なるpI値を有し、天然グルカゴンに比べて中性pHにおいて改善された溶解度を示すことにより、凝集(aggregation)する程度が低いものであれば、本発明に含まれる。
【0147】
具体的には4~6.5及び/又は7~9.5、より具体的には7.5~9.5、さらに具体的には8.0~9.3のpI値を有するものであってもよいが、これらに限定されるものではない。この場合、天然グルカゴンより高い又は低いpIを有するので、中性pHにおいて天然グルカゴンより改善された溶解度及び高い安定性を示す。しかし、これらに限定されるものではない。
【0148】
具体的には、天然グルカゴンの誘導体は、天然グルカゴンの一部のアミノ酸が置換(substitution)、付加(addition)、欠失(deletion)及び修飾(modification)のいずれかの方法又はそれらの方法の組み合わせにより改変されたものであってもよい。
【0149】
前記方法の組み合わせにより製造されるグルカゴンの誘導体の例として、天然グルカゴンとアミノ酸配列が少なくとも1つ異なり、N末端のアミノ酸残基が脱アミノ化(deamination)された、グルカゴン受容体に対する活性化機能を有するペプチドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、誘導体製造のための様々な方法の組み合わせにより、本発明に用いられる天然グルカゴンの誘導体を製造することができる。
【0150】
また、天然グルカゴンの誘導体の製造のためのこのような改変には、L型もしくはD型アミノ酸及び/又は非天然アミノ酸を用いた改変、及び/又は天然配列の修飾、例えば側鎖官能基の改変、分子内の共有結合、一例として側鎖間の環形成、メチル化、アシル化、ユビキチン化、リン酸化、アミノヘキサン化、ビオチン化などの修飾による改変が全て含まれる。さらに、前記改変には、非天然化合物への置換が全て含まれる。
【0151】
さらに、天然グルカゴンのN及び/又はC末端に少なくとも1つのアミノ酸が付加されたものが全て含まれる。
【0152】
前記置換されるか、付加されるアミノ酸としては、ヒトタンパク質において通常観察される20種のアミノ酸だけでなく、異常又は非天然アミノ酸を用いることができる。異常アミノ酸の商業的出所には、Sigma-Aldrich、ChemPep、Genzyme pharmaceuticalsが含まれる。これらのアミノ酸が含まれるペプチドと定型的なペプチド配列は、民間のペプチド合成会社、例えば米国のAmerican peptide companyやBachem、又は韓国のAnygenにおいて合成及び購入することができる。
【0153】
アミノ酸誘導体も同じ方法で入手することができ、一例として4-イミダゾ酢酸(4-imidazoacetic acid)などが挙げられる。
【0154】
グルカゴンは、約7のpIを有し、生理学的pH(pH4~8)の溶液中で不溶性であり、中性pHにおいては沈殿する傾向がある。pH3以下の水溶液中において、グルカゴンは初期には溶解するが、1時間以内にゲルを形成して沈殿する。ゲル化したグルカゴンは、主にβシートフィブリルからなり、このように沈殿したグルカゴンは、ゲルが注射針を詰まらせたり、静脈に投与されると血管を詰まらせるので、注射剤としての使用に適さない。沈殿過程を遅延させるために通常は酸性(pH2~4)の剤形を用いるが、そうすると短時間であれば相対的に無凝集状態にグルカゴンを維持することができる。しかし、グルカゴンのフィブリル形成は低いpHにおいて非常に迅速に起こるので、このような酸性の剤形は調製後直ちに注射しなければならない。
【0155】
よって、本発明においては、天然グルカゴンのpIを、負電荷及び正電荷を帯びたアミノ酸残基への置換により変化させ、延長された作用プロファイルを有するグルカゴン誘導体を開発した。本発明のグルカゴン誘導体は、天然グルカゴンに比べて変化したpIを有することにより、中性pHにおいて改善された溶解度及び/又は高い安定性を示すことを特徴とする。
【0156】
一具体的態様として、前記グルカゴン誘導体は、一般式(1)のアミノ酸配列を含むペプチドであってもよい。
【0157】

X1-X2-QGTF-X7-SD-X10-S-X12-X13-X14-X15-X16-X17-X18-X19-X20-X21-F-X23-X24-W-L-X27-X28-X29-X30(一般式(1),配列番号45)
【0158】
前記式において、X1は、ヒスチジン、デスアミノ-ヒスチジル(desamino-histidyl)、ジメチル-ヒスチジル(N-dimethyl-histidyl)、β-ヒドロキシイミダゾプロピオニル(beta-hydroxy imidazopropionyl)、4-イミダゾアセチル(4-imidazoacetyl)、β-カルボキシイミダゾプロピオニル(beta-carboxy imidazopropionyl)、トリプトファンもしくはチロシンであるか、又は存在せず、X2は、α-メチルグルタミン酸(α-methyl-glutamic acid)、Aib(aminoisobutyric acid)、D-アラニン、グリシン、Sar(N-methylglycine)、セリン又はD-セリンであり、X7は、トレオニン、バリン又はシステインであり、X10は、チロシン又はシステインであり、X12は、リシン又はシステインであり、X13は、チロシン又はシステインであり、X14は、ロイシン又はシステインであり、X15は、アスパラギン酸、グルタミン酸又はシステインであり、X16は、グルタミン酸、アスパラギン酸、セリン、α-メチルグルタミン酸もしくはシステインであるか、又は存在せず、X17は、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、リシン、アルギニン、セリン、システインもしくはバリンであるか、又は存在せず、X18は、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、バリンもしくはシステインであるか、又は存在せず、X19は、アラニン、アルギニン、セリン、バリンもしくはシステインであるか、又は存在せず、X20は、リシン、ヒスチジン、グルタミン、アスパラギン酸、アルギニン、α-メチルグルタミン酸もしくはシステインであるか、又は存在せず、X21は、アスパラギン酸、グルタミン酸、ロイシン、バリンもしくはシステインであるか、又は存在せず、X23は、イソロイシン、バリンもしくはアルギニンであるか、又は存在せず、X24は、バリン、アルギニン、アラニン、システイン、グルタミン酸、リシン、グルタミン、α-メチルグルタミン酸もしくはロイシンであるか、又は存在せず、X27は、イソロイシン、バリン、アラニン、リシン、メチオニン、グルタミンもしくはアルギニンであるか、又は存在せず、X28は、グルタミン、リシン、アスパラギンもしくはアルギニンであるか、又は存在せず、X29は、リシン、アラニン、グリシンもしくはトレオニンであるか、又は存在せず、X30は、システインであるか、又は存在しないものであってもよい(ただし、一般式(1)のアミノ酸配列が配列番号1と同じ場合は除く)。
【0159】
より具体的には、一般式(1)において、X1は、ヒスチジン、トリプトファンもしくはチロシンであるか、又は存在せず、X2は、セリン又はAib(aminoisobutyric acid)であり、X7は、トレオニン、バリン又はシステインであり、X10は、チロシン又はシステインであり、X12は、リシン又はシステインであり、X13は、チロシン又はシステインであり、X14は、ロイシン又はシステインであり、X15は、アスパラギン酸又はシステインであり、X16は、グルタミン酸、セリン又はシステインであり、X17は、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン、セリン、システイン又はバリンであり、X18は、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン又はシステインであり、X19は、アラニン又はシステインであり、X20は、グルタミン、アスパラギン酸、リシン又はシステインであり、X21は、アスパラギン酸、グルタミン酸、ロイシン、バリン又はシステインであり、X23は、イソロイシン、バリン又はアルギニンであり、X24は、バリン、アルギニン、アラニン、グルタミン酸、リシン、グルタミン又はロイシンであり、X27は、イソロイシン、バリン、アラニン、メチオニン、グルタミン又はアルギニンであり、X28は、グルタミン、リシン、アスパラギン又はアルギニンであり、X29はトレオニンであり、X30は、システインであるか、又は存在しないものであってもよい(一般式(1)のアミノ酸配列が配列番号1と同じ場合は除く)。
【0160】
例えば、前記ペプチドは、配列番号2~44からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むもの、具体的には配列番号2~44からなる群から選択されるアミノ酸配列(必須)からなるものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0161】
また、本発明において「特定配列番号からなるペプチド」と記載されているとしても、当該配列番号のアミノ酸配列からなるペプチドと同一又は対応する活性を有するものであれば、当該配列番号のアミノ酸配列の前後の無意味な配列付加、自然発生する突然変異、又はその非表現突然変異(silent mutation)を除外するものではなく、このような配列付加又は突然変異を有するものも本発明に含まれることは自明である。
【0162】
以上の内容は、本発明の他の具体例又は他の態様にも適用されるが、これらに限定されるものではない。
【0163】
具体的には、一般式(1)において、X1は、ヒスチジン、トリプトファン、又はチロシンであり、X2は、セリン又はAib(aminoisobutyric acid)であり、X7は、システイン、トレオニン又はバリンであり、X10は、チロシン又はシステインであり、X12は、リシン又はシステインであり、X13は、チロシン又はシステインであり、X14は、ロイシン又はシステインであり、X15は、アスパラギン酸又はシステインであり、X16は、グルタミン酸、セリン又はシステインであり、X17は、グルタミン酸、リシン、アルギニン、システイン又はバリンであり、X18は、アルギニン又はシステインであり、X19は、アラニン又はシステインであり、X20は、グルタミン又はリシンであり、X21は、アスパラギン酸、グルタミン酸、バリン又はシステインであり、X23はバリンであり、X24は、バリン又はグルタミンであり、X27はメチオニンであり、X28は、アスパラギン又はアルギニンであり、X29はトレオニンであり、X30は、システインであるか、又は存在しないものであってもよい。
【0164】
例えば、前記ペプチドは、配列番号3、11~17、19~27、29、31、33、35~44からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むもの、具体的には配列番号3、11~17、19~27、29、31、33、35~44からなる群から選択されるアミノ酸配列(必須)からなるものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0165】
具体的には、一般式(1)において、X1はチロシンであり、X2はAib(aminoisobutyric acid)であり、X7は、システイン、トレオニン又はバリンであり、X10は、チロシン又はシステインであり、X12はリシンであり、X13は、チロシン又はシステインであり、X14は、ロイシン又はシステインであり、X15は、アスパラギン酸又はシステインであり、X16は、グルタミン酸、セリン又はシステインであり、X17は、リシン、アルギニン、システイン又はバリンであり、X18は、アルギニン又はシステインであり、X19は、アラニン又はシステインであり、X20は、グルタミン又はリシンであり、X21は、アスパラギン酸、グルタミン酸又はシステインであり、X23はバリンであり、X24はグルタミンであり、X27はメチオニンであり、X28は、アスパラギン又はアルギニンであり、X29はトレオニンであり、X30は、システインであるか、又は存在しないものであってもよい(一般式(1)のアミノ酸配列が配列番号1と同じ場合は除く)。
【0166】
例えば、前記ペプチドは、配列番号12、14、17、19~25、27、29、33、35~38、40~42及び44からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むもの、具体的には配列番号12、14、17、19~25、27、29、33、35~38、40~42及び44からなる群から選択されるアミノ酸配列(必須)からなるものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0167】
具体的には、一般式(1)において、X1は、ヒスチジン、トリプトファンもしくはチロシンであるか、又は存在せず、X2は、セリン又はAib(aminoisobutyric acid)であり、X7は、トレオニン、バリン又はシステインであり、X10は、チロシン又はシステインであり、X12は、リシン又はシステインであり、X13は、チロシン又はシステインであり、X14は、ロイシン又はシステインであり、X15は、アスパラギン酸又はシステインであり、X16は、グルタミン酸、セリン又はシステインであり、X17は、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン、セリン、システイン又はバリンであり、X18は、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン又はシステインであり、X19は、アラニン又はシステインであり、X20は、グルタミン、アスパラギン酸又はリシンであり、X21は、アスパラギン酸又はグルタミン酸であり、X23はバリンであり、X24は、バリン又はグルタミンであり、X27は、イソロイシン又はメチオニンであり、X28は、アスパラギン又はアルギニンであり、X29はトレオニンであり、X30は、システインであるか、又は存在しないものであってもよい(一般式(1)のアミノ酸配列が配列番号1と同じ場合は除く)。
【0168】
例えば、前記ペプチドは、配列番号2~13、15、17、20~24、26~30及び32~44からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むもの、具体的には配列番号2~13、15、17、20~24、26~30及び32~44からなる群から選択されるアミノ酸配列(必須)からなるものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0169】
具体的には、一般式(1)において、X1はチロシンであるか、又はX2はAib(aminoisobutyric acid)であり、X7はトレオニンであり、X10はチロシンであり、X12はリシンであり、X13はチロシンであり、X14はロイシンであり、X15は、アスパラギン酸又はシステインであり、X16は、グルタミン酸、セリン又はシステインであり、X17は、リシン又はアルギニンであり、X18はアルギニンであり、X19はアラニンであり、X20は、グルタミン、システイン又はリシンであり、X21は、アスパラギン酸、システイン、バリン又はグルタミン酸であり、X23は、バリン又はアルギニンであり、X24は、グルタミン又はロイシンであり、X27はメチオニンであり、X28は、アスパラギン又はアルギニンであり、X29はトレオニンであり、X30は存在しないものであってもよい。
【0170】
例えば、前記ペプチドは、配列番号14、16、18、19、25及び31からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むもの、具体的には配列番号14、16、18、19、25及び31からなる群から選択されるアミノ酸配列(必須)からなるものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0171】
より具体的には、前記ペプチドは、一般式(2)のアミノ酸配列を含むペプチドでああってもよい。
【0172】

Y-Aib-QGTF-X7-SD-X10-S-X12-Y-L-X15-X16-X17-R-A-X20-X21-F-V-X24-W-L-M-N-T-X30(一般式(2),配列番号46)
【0173】
一般式(2)において、X7は、トレオニン、バリン又はシステインであり、X10は、チロシン又はシステインであり、X12は、リシン又はシステインであり、X15は、アスパラギン酸又はシステインであり、X16は、グルタミン酸又はセリンであり、X17は、リシン又はアルギニンであり、X20は、グルタミン又はリシンであり、X21は、アスパラギン酸又はグルタミン酸であり、X24は、バリン又はグルタミンであり、X30は、システインであるか、又は存在しないものであってもよい。
【0174】
例えば、前記ペプチドは、配列番号12、13、15及び36~44からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むもの、具体的には配列番号12、13、15及び36~44からなる群から選択されるアミノ酸配列(必須)からなるものであってもよいが、これらに限定されるものではない。より具体的には、前記ペプチドは、配列番号12、20又は37のアミノ酸配列を含むか、当該アミノ酸配列(必須)からなることを特徴とする。しかし、これらに限定されるものではない。
【0175】
具体的には、一般式(2)において、X7は、トレオニン、バリン又はシステインであり、X10は、チロシン又はシステインであり、X12はリシンであり、X15はアスパラギン酸であり、X16は、グルタミン酸又はセリンであり、X17は、リシン又はアルギニンであり、X20は、グルタミン又はリシンであり、X21は、アスパラギン酸又はグルタミン酸であり、X24はグルタミンであり、X30は、システインであるか、又は存在しないものであってもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0176】
例えば、前記ペプチドは、配列番号12、36~38、40~42及び44からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むもの、具体的には配列番号12、36~38、40~42及び44からなる群から選択されるアミノ酸配列(必須)からなるものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0177】
もっとも、前記分離されたペプチドのうち、配列番号2~11、14、16~35、49及び50、具体的には配列番号19、33、49及び50に相当するペプチドには、請求の範囲に該当しない組み合わせも存在するが、特にこれらに限定されるものではなく、請求の範囲において特に断らない限り、請求の範囲に記載されたペプチドは全て本発明に含まれる。
【0178】
前述したグルカゴン誘導体は、分子内架橋(intramolecular bridge)を含んでもよく(例えば、共有結合的架橋又は非共有結合的架橋)、具体的には環を含む形態であってもよい。例えば、グルカゴン誘導体の16番目のアミノ酸と20番目のアミノ酸間に環が形成された形態であってもよいが、特にこれに限定されるものではない。
【0179】
前記環の例として、ラクタム架橋(又はラクタム環)が挙げられるが、特にこれに限定されるものではない。
【0180】
また、前記グルカゴン誘導体には、目的とする位置に環を形成するアミノ酸を含むことにより環を含むように改変されたものが全て含まれる。
【0181】
このような環は、前記グルカゴン誘導体内のアミノ酸側鎖間に形成されてもよく、例えばリシンの側鎖とグルタミン酸の側鎖間にラクタム環が形成される形態であってもよいが、特にこれに限定されるものではない。
【0182】
例えば、一般式(1)又は(2)のアミノ酸配列を含むペプチドは、一般式(1)又は(2)のX10とX14、X12とX16、X16とX20、X17とX21、X20とX24、及びX24とX28のアミノ酸対において、各アミノ酸対のアミノ酸がそれぞれグルタミン酸又はリシンに置換されたものであってもよいが、これらに限定されるものではない。前記において、Xn(nは自然数)のnは、提示されたアミノ酸配列のN末端からのアミノ酸位置を示す。
【0183】
また、一般式(1)又は(2)のアミノ酸配列を含むペプチドは、X12とX16のアミノ酸対、X16とX20のアミノ酸対、又はX17とX21のアミノ酸対の各アミノ酸が環を形成するグルタミン酸又はリシンに置換されたものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0184】
さらに、一般式(1)又は(2)のX10とX14、X12とX16、X16とX20、X17とX21、X20とX24、及びX24とX28のアミノ酸対の少なくとも1つのアミノ酸対において、各アミノ酸対の各アミノ酸間に環(例えば、ラクタム環)を形成するものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0185】
さらに、一般式(1)又は(2)において、X16はグルタミン酸であり、X20はリシンであり、X16とX20の側鎖はラクタム環を形成するものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0186】
また、本発明によるペプチドは、N末端及び/又はC末端が改変されていないものであってもよいが、生体内のタンパク質切断酵素から保護して安定性を増加させるために、そのN末端及び/又はC末端などが化学的に修飾された形態、有機団により保護された形態、又はペプチド末端などにアミノ酸が付加されて改変された形態も本発明によるペプチドに含まれる。C末端が改変されていない場合、本発明によるペプチドの末端はカルボキシ基を有するが、特にこれに限定されるものではない。
【0187】
特に、化学的に合成したペプチドの場合、N及びC末端が電荷を帯びているので、このような電荷を除去するために、N末端のアセチル化(acetylation)及び/又はC末端のアミド化(amidation)を行ってもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0188】
本発明において特に断らない限り、本発明による「ペプチド」又はそのペプチドが生体適合性物質に共有結合で連結された「結合体」についての明細書の詳細な説明や請求の範囲の記述は、当該ペプチド又は結合体は言うまでもなく、当該ペプチド又は結合体の塩(例えば、前記ペプチドの薬学的に許容される塩)、又はその溶媒和物の形態が全て含まれるカテゴリーにも適用される。よって、明細書に「ペプチド」又は「結合体」とのみ記載されていたとしても、当該記載内容はその特定の塩、その特定の溶媒和物、その特定の塩の特定の溶媒和物にも同様に適用される。これらの塩の形態は、例えば薬学的に許容される任意の塩を用いた形態であってもよい。前記塩の種類は特に限定されるものではない。もっとも、個体、例えば哺乳類に安全かつ効果的な形態であることが好ましいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0189】
前記「薬学的に許容される」とは、医薬学的判断の範囲内で、過度な毒性、刺激、アレルギー反応などを誘発することなく所望の用途に効果的に使用できる物質を意味する。
【0190】
本発明における「薬学的に許容される塩」には、薬学的に許容される無機酸、有機酸又は塩基から誘導された塩が含まれる。好適な酸の例としては、塩酸、臭素酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、フマル酸、マレイン酸、リン酸、グリコール酸、乳酸、サリチル酸,コハク酸、トルエン-p-スルホン酸、酒石酸、酢酸,クエン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、安息香酸、マロン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ベンゼンスルホン酸などが挙げられる。好適な塩基から誘導された塩には、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、マグネシウムなどのアルカリ土類金属、アンモニウムなどが含まれる。
【0191】
また、本発明における「溶媒和物」とは、本発明によるペプチド、結合体又はその塩が溶媒分子と複合体を形成したものを意味する。
【0192】
また、本発明のペプチドは、その長さに応じてこの分野で周知の方法、例えば自動ペプチド合成機により合成することができ、遺伝子操作技術により産生することができる。
【0193】
具体的には、本発明のペプチドは、標準合成方法、組換え発現システム又は任意の他の当該分野の方法により作製することができる。よって、本発明によるグルカゴン誘導体は、例えば(a)ペプチドを固相又は液相法で段階的に又はフラグメント組立により合成し、最終ペプチド生成物を分離及び精製する方法、(b)ペプチドをコードする核酸作製物を宿主細胞内で発現させ、発現生成物を宿主細胞培養物から回収する方法、(c)ペプチドをコードする核酸作製物を無細胞試験管内で発現させ、発現生成物を回収する方法、又は(a)、(b)及び(c)の任意の組み合わせによりペプチドのフラグメントを得て、次にフラグメントを連結してペプチドを得ることにより当該ペプチドを回収する方法が含まれる多くの方法で合成することができる。
【0194】
より具体的な例として、遺伝子操作により、融合パートナー及びグルカゴン誘導体を含む融合タンパク質をコードする融合遺伝子を作製し、それを宿主細胞に形質転換し、その後融合タンパク質の形態で発現させ、タンパク質分解酵素又は化合物を用いて融合タンパク質からグルカゴン誘導体を切断、分離することにより、所望のグルカゴン誘導体を生成することができる。そのために、例えばFactor Xaやエンテロキナーゼなどのタンパク質分解酵素、CNBrやヒドロキシルアミンなどの化合物により切断されるアミノ酸残基をコードするDNA配列を融合パートナーとグルカゴン誘導体をコードするポリヌクレオチド間に挿入してもよい。
【0195】
より具体的な態様として、グルカゴン誘導体、例えば一般式(1)又は(2)のアミノ酸配列を含むペプチドは、その生体内半減期を延長させる生体適合性物質部に結合された持続型結合体形態であってもよいが、これに限定されるものではない。前記生体適合性物質部はキャリアと混用されてもよい。
【0196】
具体的には、前記結合体は、ペプチド部位、及び前記ペプチド部位に共有結合で連結された生体適合性物質部を含み、前記ペプチド部位は、一般式(1)又は(2)のアミノ酸配列と同じ配列、又はそれを含む配列であってもよい。
【0197】
本発明における「持続型結合体」とは、生理活性物質(例えば、グルカゴン誘導体、インスリン分泌ペプチドなど)に生体適合性物質部又はキャリアが結合された形態であり、生体適合性物質部又はキャリアが結合されていない生理活性物質より効果の持続性(例えば、体内半減期延長)が向上した結合体を意味する。前記持続型結合体における生体適合性物質部又はキャリアは、生理活性物質に共有結合で連結されたものであってもよいが、特にこれに限定されるものではない。
【0198】
本発明の具体的な実施形態において、前記グルカゴン誘導体の結合体は、キャリアが結合されていない天然グルカゴン又はグルカゴン誘導体より効果の持続性が向上する。
【0199】
本発明における「生体適合性物質部」とは、生理活性物質(例えば、グルカゴン誘導体、インスリン分泌ペプチドなど)に結合され、生体適合性物質部又はキャリアに結合されていない生理活性物質より生理活性物質の効果の持続性を向上させることのできる物質を示す。前記生体適合性物質部は、生理活性物質に共有結合で連結されたものであってもよいが、特にこれに限定されるものではない。
【0200】
前記生体適合性物質部の例として、高分子重合体、脂肪酸、コレステロール、アルブミン及びそのフラグメント、アルブミン結合物質、特定アミノ酸配列の繰り返し単位の重合体、抗体、抗体フラグメント、FcRn結合物質、生体内結合組織又はその誘導体、ヌクレオチド、フィブロネクチン、トランスフェリン(transferrin)、サッカライド、ヘパリン又はエラスチンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0201】
前記高分子重合体の例として、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール-プロピレングリコール共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、生分解性高分子、脂質重合体、キチン、ヒアルロン酸、オリゴヌクレオチド及びそれらの組み合わせからなる群から選択される高分子重合体が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0202】
前記ポリエチレングリコールは、エチレングリコール同種重合体、PEG共重合体、又はモノメチル置換PEG重合体(mPEG)の形態を包括する用語であるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0203】
また、前記生体適合性物質部には、ポリリシン、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸などのポリアミノ酸が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0204】
さらに、脂肪酸は、生体内アルブミンとの結合力を有するものであってもよいが、特にこれに限定されるものではない。
【0205】
より具体的な例として、前記FcRn結合物質は、免疫グロブリンFc領域であってもよく、さらに具体的にはIgG Fc領域であってもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0206】
本発明のペプチド内の少なくとも1つのアミノ酸側鎖は、生体内で可溶性及び/又は半減期を向上させ、かつ/又は生体利用率を増加させるために、このような生体適合性物質部に接合されてもよい。また、このような改変は、治療学的タンパク質及びペプチドのクリアランス(clearance)を減少させることができる。
【0207】
このような生体適合性物質部は、水溶性(両親媒性又は親水性)のもの及び/又は無毒性のもの及び/又は薬学的に許容されるものであってもよい。
【0208】
このように改変されたグルカゴン誘導体が天然グルカゴンより優れた治療学的効果を発揮することは、当業者にとって周知の事実である。よって、前述したようなグルカゴン誘導体の変異体も、本発明のグルカゴン誘導体に含まれる。
【0209】
前記生体適合性物質部は、前記グルカゴン誘導体と直接連結されたものであってもよく、リンカーを介して連結されたものであってもよい。前記生体適合性物質部は、グルカゴン誘導体に直接連結されるか、又はリンカーに連結される際に、共有結合で連結されるものであってもよい。
【0210】
具体的には、前記リンカーは、ペプチド性リンカー又は非ペプチド性リンカーであってもよい。
【0211】
前記リンカーがペプチド性リンカーである場合、1つ以上のアミノ酸を含んでもよく、例えば1個~1000個のアミノ酸を含んでもよいが、特にこれらに限定されるものではない。本発明において、公知の様々なペプチドリンカーが本発明に用いられてもよく、例えば[GS]xリンカー、[GGGS]xリンカー、[GGGGS]xリンカーなどが挙げられ、ここで、xは1以上の自然数であってもよい。しかし、前記例に限定されるものではない。
【0212】
本発明における「非ペプチド性リンカー」には、繰り返し単位が少なくとも2つ結合された生体適合性重合体が含まれる。前記繰り返し単位は、ペプチド結合を除く任意の共有結合により互いに連結される。前記非ペプチド性リンカーは、本発明の結合体の一部をなす一構成であってもよい。
【0213】
本発明における前記非ペプチド性リンカーは、非ペプチド性重合体と混用されてもよい。
【0214】
具体的な一実施形態において、生体適合性物質部(具体的には、免疫グロブリンFc領域)及びペプチド薬物にそれぞれ結合される反応基を両末端に含む非ペプチド性リンカーを介して、前記生体適合性物質部と前記ペプチドが共有結合的に連結されたものであってもよい。
【0215】
具体的には、前記非ペプチド性リンカーは、脂肪酸、サッカライド(saccharide)、高分子重合体、低分子化合物、ヌクレオチド及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるものであってもよい。
【0216】
特に、これらに限定されるものではないが、本発明における前記高分子重合体は、0超、約100kDa以下の範囲、具体的には約1~約100kDaの範囲、より具体的には約1~約20kDaの範囲であってもよい。
【0217】
特に、これらに限定されるものではないが、前記非ペプチド性リンカーは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、PLA(polylactic acid)やPLGA(polylactic-glycolic acid)などの生分解性高分子、脂質重合体、キチン類、ヒアルロン酸、オリゴヌクレオチド及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるものであってもよい。
【0218】
より具体的な実施形態における前記非ペプチド性重合体はポリエチレングリコールであってもよいが、これに限定されるものではない。また、当該分野で公知のそれらの誘導体や当該分野の技術水準で容易に作製できる誘導体も本発明に含まれる。
【0219】
本発明に用いられる非ペプチド性リンカーは、生体内タンパク質分解酵素に抵抗性のある重合体であれば制限なく用いられる。非ペプチド性重合体の分子量は、0超、約100kDa以下の範囲、具体的には約1~100kDaの範囲、より具体的には約1~約20kDaの範囲であるが、これらに限定されるものではない。また、前記免疫グロブリンFc領域を含むポリペプチドに結合される本発明の非ペプチド性リンカーは、1種類の重合体だけでなく、異なる種類の重合体の組み合わせが用いられてもよい。
【0220】
本発明における「約」とは、±0.5、±0.4、±0.3、±0.2、±0.1などが全て含まれる範囲であり、約という用語の後に続く数値又はその範囲と同等であるものが全て含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0221】
具体的には、前記リンカーは、一末端が生体適合性物質部のアミノ基又はチオール基と、前記リンカーの他の末端がペプチド部位、具体的には一般式(1)又は(2)のアミノ酸配列のアミノ基又はチオール基とそれぞれ反応して形成された共有結合により、前記ペプチド部位と前記生体適合性物質部にそれぞれ連結されたものであってもよい。
【0222】
具体的な一実施形態において、前記非ペプチド性リンカーの一末端が免疫グロブリンFc領域のアミノ基又はチオール基と、前記リンカーの他の末端がグルカゴン誘導体のアミノ基又はチオール基とそれぞれ反応して形成された共有結合を形成してもよい。具体的には、前記非ペプチド性重合体は、両末端にそれぞれ生体適合性物質部、具体的には免疫グロブリンFc領域、及びグルカゴン誘導体に結合される反応基、例えばグルカゴン誘導体のN末端もしくはリシンに位置するアミノ基もしくはシステインのチオール基、又は生体適合性物質(例えば、具体的には、免疫グロブリンFc領域)のN末端もしくはリシンに位置するアミノ基もしくはシステインのチオール基と反応することにより、前記生体適合性物質と前記グルカゴン誘導体に共有結合を形成する反応基を含んでもよいが、これらに限定されるものではない。
【0223】
また、生体適合性物質部、具体的には免疫グロブリンFc領域、及びグルカゴン誘導体に結合される、前記非ペプチド性重合体の末端反応基は、アルデヒド基、マレイミド基及びスクシンイミド誘導体からなる群から選択されてもよいが、これらに限定されるものではない。
【0224】
前記において、アルデヒド基の例として、プロピオンアルデヒド基又はブチルアルデヒド基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0225】
前記において、スクシンイミド誘導体としては、スクシンイミジルバレレート、スクシンイミジルメチルブタノエート、スクシンイミジルメチルプロピオネート、スクシンイミジルブタノエート、スクシンイミジルプロピオネート、N-ヒドロキシスクシンイミド、ヒドロキシスクシンイミジル、スクシンイミジルカルボキシメチル又はスクシンイミジルカーボネートが用いられてもよいが、これらに限定されるものではない。
【0226】
また、アルデヒド結合による還元的アミノ化により生成された最終産物は、アミド結合で連結されたものよりはるかに安定している。アルデヒド反応基は、低いpHではN末端に選択的に反応し、高いpH、例えばpH9.0の条件ではリシン残基と共有結合を形成することができる。
【0227】
さらに、前記両末端の反応基は、同じものであってもよく、異なるものであってもよい。例えば、一末端にはマレイミド基、他の末端にはアルデヒド基、プロピオンアルデヒド基又はブチルアルデヒド基を有してもよい。しかし、非ペプチド性リンカーの各末端に免疫グロブリンFc領域とグルカゴン誘導体が結合されるものであれば、特にこれらに限定されるものではない。
【0228】
例えば、前記非ペプチド性リンカーの一末端には反応基としてマレイミド基を含み、他の末端にはアルデヒド基、プロピオンアルデヒド基、ブチルアルデヒド基などを含んでもよい。
【0229】
両末端にヒドロキシ反応基を有するポリエチレングリコールを非ペプチド性重合体として用いる場合、公知の化学反応により前記ヒドロキシ基を前述した様々な反応基として活性化するか、商業的に入手可能な修飾された反応基を有するポリエチレングリコールを用いることにより、本発明の持続型タンパク質結合体を製造することができる。
【0230】
具体的な一実施形態における前記非ペプチド性重合体は、グルカゴン誘導体のシステイン残基、より具体的にはシステインの-SH基に連結されたものであってもよいが、これに限定されるものではない。ここで、前記非ペプチド性重合体は、ポリエチレングリコールであってもよいが、特にこれに限定されるものではなく、前述した他の種類の非ペプチド性重合体であってもよい。
【0231】
具体的態様として、前記結合体は、配列番号12、20又は37のアミノ酸配列を含むペプチドと免疫グロブリンFc領域が非ペプチド性重合体を介して連結されたものであり、ここで非ペプチド性重合体は、配列番号12のアミノ酸配列の30番目に位置するシステイン残基、配列番号20のアミノ酸配列の17番に位置するシステイン残基、又は配列番号37のアミノ酸配列の30番目に位置するシステイン残基に連結されたものであってもよい。しかし、これらに限定されるものではない。ここで、前記非ペプチド性重合体は、ポリエチレングリコールであってもよいが、特にこれに限定されるものではなく、前述した他の種類の非ペプチド性重合体であってもよい。
【0232】
マレイミド-PEG-アルデヒドを用いる場合、マレイミド基はグルカゴン誘導体の-SH基にチオエーテル(thioether)結合で連結することができ、アルデヒド基は免疫グロブリンFcの-NH2基に還元的アミノ化反応により連結することができるが、これに限定されるものではなく、これは一例にすぎない。
【0233】
また、前記結合体において、非ペプチド性重合体の反応基が免疫グロブリンFc領域のN末端に位置する-NH2に連結されたものであってもよいが、これは一例にすぎない。
【0234】
本発明における「免疫グロブリンFc領域」とは、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の可変領域を除いたものであり、重鎖定常領域2(CH2)及び/又は重鎖定常領域3(CH3)部分を含む部位を意味する。前記免疫グロブリンFc領域は、本発明のタンパク質結合体の一部をなす一構成であってもよい。
【0235】
このような免疫グロブリンFc領域は、重鎖定常領域にヒンジ(hinge)部分を含んでもよいが、これに限定されるものではない。また、本発明の免疫グロブリンFc領域は、天然のものと実質的に同等又は向上した効果を有するものであれば、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の可変領域を除き、一部又は全部の重鎖定常領域1(CH1)及び/又は軽鎖定常領域1(CL1)を含む拡張されたFc領域であってもよい。さらに、CH2及び/又はCH3に相当する非常に長い一部のアミノ酸配列が除去された領域であってもよい。
【0236】
例えば、本発明の免疫グロブリンFc領域は、1)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメイン、2)CH1ドメイン及びCH2ドメイン、3)CH1ドメイン及びCH3ドメイン、4)CH2ドメイン及びCH3ドメイン、5)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメインの少なくとも1つのドメインと免疫グロブリンヒンジ領域(又はヒンジ領域の一部)との組み合わせ、6)重鎖定常領域の各ドメインと軽鎖定常領域の二量体であってもよい。しかし、これらに限定されるものではない。
【0237】
また、一具体例として、前記免疫グロブリンFc領域は、二量体形態(dimeric form)であってもよく、二量体形態の1つのFc領域にグルカゴン誘導体1分子が共有結合的に連結されたものであってもよく、ここで前記免疫グロブリンFcとグルカゴン誘導体は非ペプチド性重合体により互いに連結されたものであってもよい。一方、二量体形態の1つのFc領域にグルカゴン誘導体2分子が対称に結合されたものであってもよい。ここで、前記免疫グロブリンFcとグルカゴン誘導体又はインスリン分泌ペプチドは、非ペプチド性リンカーにより互いに連結されてもよい。しかし、これらに限定されるものではない。
【0238】
また、本発明の免疫グロブリンFc領域には、天然アミノ酸配列だけでなく、その配列誘導体も含まれる。アミノ酸配列誘導体とは、天然アミノ酸配列の少なくとも1つのアミノ酸残基が欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより異なる配列を有するものを意味する。
【0239】
例えば、IgG Fcの場合、結合に重要であることが知られている214~238、297~299、318~322又は327~331番目のアミノ酸残基が修飾に適した部位として用いられてもよい。
【0240】
また、ジスルフィド結合を形成する部位が除去された誘導体、天然FcからN末端のいくつかのアミノ酸が欠失された誘導体、天然FcのN末端にメチオニン残基が付加された誘導体など様々な種類の誘導体が用いられてもよい。さらに、エフェクター機能をなくすために、補体結合部位、例えばC1q結合部位が除去されてもよく、ADCC(antibody dependent cell mediated cytotoxicity)部位が除去されてもよい。このような免疫グロブリンFc領域の配列誘導体を作製する技術は、特許文献1、2などに開示されている。
【0241】
分子の活性を全体的に変化させないタンパク質及びペプチドにおけるアミノ酸交換は当該分野において公知である(非特許文献3)。最も一般的な交換は、アミノ酸残基Ala/Ser、Val/Ile、Asp/Glu、Thr/Ser、Ala/Gly、Ala/Thr、Ser/Asn、Ala/Val、Ser/Gly、Thy/Phe、Ala/Pro、Lys/Arg、Asp/Asn、Leu/Ile、Leu/Val、Ala/Glu、Asp/Gly間の交換である。場合によっては、リン酸化(phosphorylation)、硫酸化(sulfation)、アクリル化(acrylation)、グリコシル化(glycosylation)、メチル化(methylation)、ファルネシル化(farnesylation)、アセチル化(acetylation)、アミド化(amidation)などにより修飾(modification)されてもよい。
【0242】
前述したFc誘導体は、本発明のFc領域と同等の生物学的活性を示し、Fc領域の熱、pHなどに対する構造的安定性を向上させたものであってもよい。
【0243】
また、このようなFc領域は、ヒト、及びウシ、ヤギ、ブタ、マウス、ウサギ、ハムスター、ラット、モルモットなどの動物の生体内から分離した天然のものから得てもよく、形質転換された動物細胞もしくは微生物から得られた組換えたもの又はその誘導体であってもよい。ここで、天然のものから得る方法は、全免疫グロブリンをヒト又は動物の生体から分離し、その後タンパク質分解酵素で処理することにより得る方法であってもよい。パパインで処理するとFab及びFcに切断され、ペブシンで処理するとpF’c及びF(ab)2に切断される。これらは、サイズ排除クロマトグラフィー(size-exclusion chromatography)などを用いてFc又はpF’cを分離することができる。より具体的な実施形態においては、ヒト由来のFc領域、微生物から得られた組換え免疫グロブリンFc領域である。
【0244】
また、免疫グロブリンFc領域は、天然糖鎖、天然のものに比べて増加した糖鎖、天然のものに比べて減少した糖鎖、又は糖鎖が除去された形態であってもよい。このような免疫グロブリンFc糖鎖の増減又は除去には、化学的方法、酵素学的方法、微生物を用いた遺伝工学的手法などの通常の方法が用いられてもよい。ここで、Fcから糖鎖が除去された免疫グロブリンFc領域は、補体(c1q)との結合力が著しく低下し、抗体依存性細胞傷害又は補体依存性細胞傷害が低減又は除去されるので、生体内で不要な免疫反応を誘発しない。このようなことから、糖鎖が除去されるか、非グリコシル化された免疫グロブリンFc領域は、薬物のキャリアとしての本来の目的により適する形態といえる。
【0245】
本発明における「糖鎖の除去(Deglycosylation)」とは、酵素で糖を除去したFc領域を意味し、非グリコシル化(Aglycosylation)とは、原核動物、より具体的な実施形態においては大腸菌で産生されてグリコシル化されていないFc領域を意味する。
【0246】
一方、免疫グロブリンFc領域は、ヒト起源、又はウシ、ヤギ、ブタ、マウス、ウサギ、ハムスター、ラット、モルモットなどの動物起源であってもよく、より具体的な実施形態においてはヒト起源である。
【0247】
また、免疫グロブリンFc領域は、IgG、IgA、IgD、IgE、IgM由来であるか、又はそれらの組み合わせ(combination)もしくはそれらのハイブリッド(hybrid)によるFc領域であってもよい。より具体的な実施形態においては、ヒト血液に最も豊富なIgG又はIgM由来であり、さらに具体的な実施形態においては、リガンド結合タンパク質の半減期を延長させることが知られているIgG由来である。一層具体的な実施形態において、前記免疫グロブリンFc領域はIgG4 Fc領域であり、最も具体的な実施形態において、前記免疫グロブリンFc領域はヒトIgG4由来の非グリコシル化されたFc領域であるが、これらに限定されるものではない。
【0248】
一方、本発明における「組み合わせ(combination)」とは、二量体又は多量体を形成する際に、同一起源の単鎖免疫グロブリンFc領域をコードするポリペプチドが異なる起源の単鎖ポリペプチドに結合することを意味する。すなわち、IgG Fc、IgA Fc、IgM Fc、IgD Fc及びIgE Fcフラグメントからなる群から選択される少なくとも2つのフラグメントから二量体又は多量体を作製することができる。
【0249】
本発明の組成物は、先天性高インスリン症、低血糖症又は代謝症候群の予防又は治療に用いられてもよい。
【0250】
本発明における「予防」とは、前記グルカゴン誘導体、それを含む結合体又は組成物の投与により標的疾患、例えば先天性高インスリン症、低血糖症又は代謝症候群の発症を抑制又は遅延させるあらゆる行為を意味し、「治療」とは、前記グルカゴン誘導体、それを含む結合体又は組成物の投与により標的疾患、例えば先天性高インスリン症、低血糖症又は代謝症候群の症状を好転又は有利に変化させるあらゆる行為を意味する。
【0251】
本発明における「投与」とは、任意の適切な方法で患者に所定の物質を導入することを意味し、前記組成物の投与経路は、特にこれらに限定されるものではないが、前記組成物を生体内標的に到達できるものであれば、一般的なあらゆる経路で投与することができ、例えば腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、局所投与、鼻腔内投与、肺内投与、直腸内投与などが挙げられる。
【0252】
本発明における「低血糖症」とは、血糖量が正常より低い状態を意味する。通常、血糖が50mg/dl以下の場合であるが、特にこれに限定されるものではない。低血糖症を発症する多くの原因は、経口用血糖降下剤やインスリンを用いる人において、普段より食べ物の摂取量が少ないことや、活動量や運動量が過度に多いことである。それ以外にも、飲酒や一部の血糖を下げる薬物の使用、重症の身体的疾患、副腎皮質ホルモンやグルカゴンなどのホルモン欠乏、インスリン産生膵臓腫瘍、インスリンに対する自己免疫疾患がある場合、胃切除術患者、先天性炭水化物代謝異常症などによっても低血糖症を発症することがある。
【0253】
本発明における前記低血糖症には、急性低血糖症及び慢性低血糖症の両方が含まれる。
【0254】
低血糖症の症状としては、気だるさ、体のふるえ、顔面蒼白、冷や汗、めまい、興奮、不安感、動悸、空腹感、頭痛、疲労などが挙げられる。低血糖症が長く続くと、痙攣や発作を起こすこともあり、ショック状態になって意識を失うこともある。
【0255】
より具体的には、前記低血糖症は、遺伝的欠陥による持続性高インスリン症により誘発されることがある。遺伝的欠陥による高インスリン症の原因としては、11p15.1染色体にあるSUR又はKir6.2遺伝子の突然変異、7p15-p13染色体にあるGK(glucokinase)遺伝子の突然変異によるGK活性度の増加、GDH(Glutamate dehydrogenase)遺伝子の突然変異によるGDHの活性化とそれによるβ島細胞内のATPの増加などが知られている。
【0256】
一方、先天性高インスリン症は、新生児と小児において発生する深刻かつ持続的な低血糖症を引き起こす原因疾患の一つである。低体重出生児又は糖尿病母体からの出生児において、一時的なインスリン分泌増加、遺伝子の突然変異による膵臓細胞の機能異常などにより誘発されることがある。このような先天性高インスリン症の治療にグルカゴンが用いられることが知られている。
【0257】
また、前記グルカゴン誘導体又はそれを含む結合体は、代謝症候群の予防又は治療に用いられてもよい。
【0258】
さらに、本発明のグルカゴン誘導体又はそれを含む結合体は、体重増加を予防したり、体重減少を促進したり、過体重を減少させたり、病的肥満をはじめとする肥満(例えば、食欲、摂食、食品摂取、カロリー摂取及び/又はエネルギー消費の調節により)だけでなく、肥満関連炎症、肥満関連胆嚢疾患及び肥満により誘導された睡眠無呼吸が含まれるが、これらに限定されるものではない関連疾患及び健康状態を治療するための薬剤として用いられてもよい。また、本発明のグルカゴン誘導体又はそれを含む結合体は、肥満以外の代謝症候群、すなわち耐糖能障害、高コレステロール血症、脂質異常症、肥満、糖尿病、高血圧、非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis, NASH)、脂質異常症による動脈硬化、アテローム性動脈硬化症、動脈硬化症、冠状動脈心疾患(冠動脈性心疾患)、脳卒中などの関連疾患の治療に用いられてもよい。しかし、これらの病態における本発明によるペプチドの効果は、前述した体重関連効果により全体的又は部分的に媒介されるものであってもよく、それとは独立したものであってもよい。
【0259】
本発明における「代謝症候群(metabolic syndrome)」とは、慢性的な代謝障害によって起こる様々な疾患が単独又は複合的に起こる症状を意味し、特に代謝症候群に該当する疾患としては、耐糖能障害、高コレステロール血症、脂質異常症(dyslipidemia)、肥満、糖尿病、高血圧、非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis, NASH)、脂質異常症による動脈硬化、アテローム性動脈硬化症、動脈硬化症、冠状動脈心疾患(冠動脈性心疾患)、脳卒中などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0260】
本発明における「肥満」とは、体内に脂肪組織が過剰な状態であり、ボディマス指数(体重(kg)を身長(m)の2乗で割った値)が25以上であれば肥満と定義される。通常、肥満は、長期間にわたりエネルギー消費量より栄養素を過剰に摂取する場合にエネルギー不均衡により誘発される。肥満は、身体全体に影響を及ぼす代謝疾患であり、糖尿病や脂質異常症に罹患する可能性が高くなり、性機能障害、関節炎、心血管系疾患の発症リスクが高くなり、場合によっては癌の発生にも関連する。
【0261】
本発明によるグルカゴン誘導体は、天然グルカゴンに比べて変化したpIを有することにより、中性pHにおいて改善された溶解度及び高い安定性を示し、またグルカゴン受容体に対して活性を示すので、低血糖症、代謝症候群及び先天性高インスリン症をはじめとする標的疾患の予防又は治療に有用である。
【0262】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容される担体、賦形剤又は希釈剤をさらに含んでもよい。本発明における「薬学的に許容される」とは、治療効果を示す程度の十分な量と副作用を起こさないことを意味し、疾患の種類、患者の年齢、体重、健康状態、性別、薬物に対する感受性、投与経路、投与方法、投与回数、治療期間、配合、同時に用いられる薬物などの医学分野における公知の要素により当業者が容易に決定することができる。
【0263】
本発明のペプチド又はその結合体を含む薬学的組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含んでもよい。前記担体は、特にこれらに限定されるものではないが、経口投与の場合は、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、賦形剤、可溶化剤、分散剤、安定化剤、懸濁化剤、色素、香料などを用いることができ、注射剤の場合は、緩衝剤、保存剤、無痛化剤、可溶化剤、等張化剤、安定化剤などを混合して用いることができ、局所投与用の場合は、基剤、賦形剤、滑沢剤、保存剤などを用いることができる。
【0264】
本発明の組成物の剤形は、前述したような薬学的に許容される担体と混合して多様に製造することができる。例えば、経口投与の場合は、錠剤、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、ウエハー剤などの形態に製造することができ、注射剤の場合は、使い捨てアンプル又は複数回投薬形態に製造することができる。その他、溶液、懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル剤、徐放性製剤などに剤形化することができる。
【0265】
一方、製剤化に適した担体、賦形剤及び希釈剤の例としては、ラクトース、グルコース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリトリトール、マルチトール、デンプン、アカシア、アルギン酸塩、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、鉱物油などが挙げられる。また、充填剤、抗凝集剤、滑沢剤、湿潤剤、香料、防腐剤などをさらに含んでもよい。
【0266】
さらに、本発明の薬学的組成物は、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤、滅菌水溶液剤、非水性溶剤、凍結乾燥剤及び坐剤からなる群から選択されるいずれかの剤形を有してもよい。
【0267】
また、前記組成物は、薬学的分野における通常の方法による患者の体内投与に適した単回投与型の製剤、具体的にはペプチド医薬品の投与に有用な製剤形態に剤形化し、当業界で通常用いる投与方法を用いて経口、又は皮膚、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、髄膜腔内、心室内、肺、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、消化管内、局所、舌下、膣内もしくは直腸経路を含む非経口投与経路で投与することができるが、これらに限定されるものではない。
【0268】
さらに、前記ペプチド又は結合体は、生理食塩水や有機溶媒のように薬剤に許容された様々な担体(carrier)と混合して用いることができ、安定性や吸収性を向上させるために、グルコース、スクロース、デキストランなどの炭水化物、アスコルビン酸(ascorbic acid)、グルタチオンなどの抗酸化剤(antioxidants)、キレート剤、低分子タンパク質、他の安定化剤(stabilizers)などを薬剤として用いることができる。
【0269】
本発明の薬学的組成物の投与量と回数は、治療する疾患、投与経路、患者の年齢、性別及び体重、疾患の重症度などの様々な関連因子と共に、活性成分である薬物の種類により決定される。
【0270】
特にこれらに限定されるものではないが、本発明の前記薬学的組成物は、前記成分(有効成分)を0.01~99%(w/v)含有してもよい。
【0271】
本発明の組成物の総有効量は、単回投与量(single dose)で患者に投与してもよく、複数回投与量(multiple dose)で長期間投与される分割治療方法(fractionated treatment protocol)により投与してもよい。本発明の薬学的組成物は、疾患の程度に応じて有効成分の含有量を変えてもよい。具体的には、本発明のペプチド又は結合体の総用量は、1日体重1kg当たり約0.0001μg~500mgであることが好ましい。しかし、前記ペプチド又は結合体の用量は、薬学的組成物の投与経路及び治療回数だけでなく、患者の年齢、体重、健康状態、性別、疾患の重症度、食餌、排泄率などの様々な要因を考慮して患者に対する有効投与量が決定されるので、これらを考慮すると、当該分野における通常の知識を有する者であれば、前記本発明の組成物の特定の用途に応じた適切な有効投与量を決定することができるであろう。本発明による薬学的組成物は、本発明の効果を奏するものであれば、その剤形、投与経路及び投与方法が特に限定されるものではない。
【0272】
本発明の薬学的組成物は、生体内持続性及び力価に優れ、他の薬剤に比べて投与回数及び頻度が低減されるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0273】
特に、本発明の薬学的組成物は、天然グルカゴンに比べて変化したpIを有するグルカゴン誘導体を有効成分として含むことにより、中性pHにおいて改善された溶解度及び/又は高い安定性を示すので、先天性高インスリン症、低血糖症又は代謝症候群をはじめとする標的疾患の治療のための安定したグルカゴン剤形の製造に有用である。
【0274】
前記代謝症候群の予防又は治療のための薬学的組成物、又は代謝症候群の予防又は治療のための療法において、前記薬学的組成物は、代謝症候群に対する治療的活性を有する化合物又は物質をさらに含んでもよく、前記療法は、前記化合物又は物質のさらなる使用を含んでもよい。
【0275】
本発明の併用投与又は組成物に含まれる前記代謝症候群に対する治療的活性を有する化合物又は物質の例として、インスリン分泌ペプチド、GLP-1(glucagon like peptide-1)受容体アゴニスト、レプチン(Leptin)受容体アゴニスト、DPP-IV(dipeptidyl peptidase-IV)阻害剤、Y5受容体アンタゴニスト、MCH(Melanin-concentrating hormone)受容体アンタゴニスト、Y2/4受容体アゴニスト、MC3/4(Melanocortin 3/4)受容体アゴニスト、胃/膵臓リパーゼ(gastric/pancreatic lipase)阻害剤、5HT2c(5-hydroxytryptamine receptor 2C, G protein-coupled)アゴニスト、β3A受容体アゴニスト、アミリン(Amylin)受容体アゴニスト、グレリン(Ghrelin)アンタゴニスト、グレリン受容体アンタゴニスト、PPARα(Peroxisome proliferator-activated receptor alpha)アゴニスト、PPARδ(Peroxisome proliferator-activated receptor delta)アゴニスト、FXR(farnesoid X receptor)アゴニスト、アセチル-CoAカルボキシラーゼ阻害剤(acetyl-CoA carboxylase inhibitor)、ペプチドYY、CCK(Cholecystokinin)、キセニン(Xenin)、グリセンチン(glicentin)、オベスタチン(obestatin)、セクレチン(secretin)、ネスファチン(nesfatin)、インスリン(insuin)又はGIP(glucose-dependent insulinotropic peptide)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、肥満治療に効果的な薬物と、肝臓の炎症及び線維症(fibrosis)を抑制する薬物が全て含まれてもよい。
【0276】
具体的には、前記インスリン分泌ペプチドは、GLP-1、エキセンジン-3、エキセンジン-4、それらのアゴニスト(agonist)、誘導体(derivative)、フラグメント(fragment)、変異体(variant)及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるものであってもよい。
【0277】
より具体的には、前記インスリン分泌ペプチドは、インスリン分泌ペプチドのN末端のヒスチジン残基がデス-アミノ-ヒスチジル、ジメチル-ヒスチジル、β-ヒドロキシイミダゾプロピオニル、4-イミダゾアセチル及びβ-カルボキシイミダゾプロピオニルからなる群から選択されるものに置換されたインスリン分泌ペプチド誘導体であってもよいが、これらに限定されるものではない。ここで、前記インスリン分泌ペプチドは、GLP-1、エキセンジン-3又はエキセンジン-4であってもよい。
【0278】
さらに具体的には、前記インスリン分泌ペプチドは、天然エキセンジン-4、エキセンジン-4のN末端のアミノ基が除去されたエキセンジン-4誘導体、エキセンジン-4のN末端のアミノ基がヒドロキシ基に置換されたエキセンジン-4誘導体、エキセンジン-4のN末端のアミノ基がジメチル基で修飾されたエキセンジン-4誘導体、エキセンジン-4の1番目のアミノ酸(ヒスチジン)のα炭素を欠失(deletion)させたエキセンジン-4誘導体、エキセンジン-4の12番目のアミノ酸(リシン)がセリンに置換されたエキセンジン-4誘導体、及びエキセンジン-4の12番目のアミノ酸(リシン)がアルギニンに置換されたエキセンジン-4誘導体からなる群から選択されるものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0279】
一方、このようなインスリン分泌ペプチド又はその持続型結合体形態の例として、特許文献3に記載された全文が本発明に参考資料として援用されるが、これに限定されるものではない。
【0280】
また、前記インスリン分泌ペプチドは、前述したインスリン分泌ペプチドのアミノ酸配列を有するペプチド部位、及びそれに共有結合で連結された生体適合性物質部を含む結合体形態であってもよいが、これらに限定されるものではない。具体的には、前記インスリン分泌ペプチドのアミノ酸配列を有するペプチド部位は、リンカーを介して共有結合で生体適合性物質部に連結された結合体形態であることを特徴とするが、特にこれに限定されるものではない。このようなインスリン分泌ペプチドの結合体は持続型結合体であってもよく、持続型の定義は前述した通りである。
【0281】
前記結合体に関する全ての構成、特に生体適合性物質部(例えば、免疫グロブリンFc)及びリンカー(例えば、非ペプチド性重合体)については、前述したものが全て適用される。例えば、前記リンカーは、一末端が生体適合性物質部のアミノ基又はチオール基と、前記リンカーの他の末端がインスリン分泌ペプチド部位のアミノ基又はチオール基とそれぞれ反応して形成された共有結合により、前記インスリン分泌ペプチド部位と前記生体適合性物質部にそれぞれ連結されたものであってもよい。
【0282】
具体的な一実施形態において、前記非ペプチド性リンカーの一末端が免疫グロブリンFc領域のアミノ基又はチオール基と、前記リンカーの他の末端がインスリン分泌ペプチド部位のアミノ基又はチオール基とそれぞれ反応して形成された共有結合を形成してもよい。
【0283】
より具体的な一態様において、前述した代謝症候群の予防又は治療のための組成物又は療法は、一般式(2)のアミノ酸配列を含むペプチド、又はそれに共有結合で生体適合性物質部が結合された結合体を含有する組成物であってもよい。しかし、特にこれらに限定されるものではない。
【0284】

Y-Aib-QGTF-X7-SD-X10-S-X12-Y-L-X15-X16-X17-R-A-X20-X21-F-V-X24-W-L-M-N-T-X30(一般式(2),配列番号46)
【0285】
一般式(2)において、X7は、トレオニン、バリン又はシステインであり、X10は、チロシン又はシステインであり、X12は、リシン又はシステインであり、X15は、アスパラギン酸又はシステインであり、X16は、グルタミン酸又はセリンであり、X17は、リシン又はアルギニンであり、X20は、グルタミン又はリシンであり、X21は、アスパラギン酸又はグルタミン酸であり、X24は、バリン又はグルタミンであり、X30は、システインであるか、又は存在しない。
【0286】
前述した具体例によるペプチドにおいて、一般式(2)のアミノ酸配列を含む分離されたペプチドのうち、配列番号19、33、49及び50に相当するペプチドの一部又は全部は除かれてもよい。
【0287】
より具体的には、前記組成物は、(i)配列番号37のアミノ酸配列を含むペプチド部位、及びそれに共有結合で連結された生体適合性物質部を含む結合体、並びに(ii)エキセンジン-4の1番目のアミノ酸(ヒスチジン)のα炭素を欠失させたイミダゾアセチルエキセンジン-4部位、及びそれに共有結合で連結された生体適合性物質部を含む結合体の全てを含むものであってもよく、さらに具体的には、前記配列番号37のアミノ酸配列を含むペプチド部位及びイミダゾアセチルエキセンジン-4部位は、それぞれの生体適合性物質部にリンカーを介して連結されたものであってもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0288】
前記代謝症候群に対する治療的活性を有する化合物又は物質、具体的にはインスリン分泌ペプチド、及びそれに生体適合性物質部が連結された結合体の投与用量は、患者の体重1kg当たり約0.0001μg~500mgであってもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0289】
また、本発明の前記薬学的組成物は、前記併用剤、すなわち代謝症候群に対する治療的活性を有する化合物又は物質、及びグルカゴン誘導体又はそれを含む結合体(又は前記併用剤の各成分)を0.01~99%(w/v)含有してもよい。
【0290】
一方、一態様において、前記代謝症候群に対する治療的活性を有する化合物又は物質、及びグルカゴン誘導体又はそれを含む結合体、具体的にはインスリン分泌ペプチドに生体適合性物質部が連結された結合体(例えば、インスリン分泌ペプチド-PEG-免疫グロブリンFc結合体)、及びグルカゴン誘導体に生体適合性物質が連結された結合体は、1:0.01~1:50のモル比で用いられてもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0291】
本発明の他の実施態様は、グルカゴン誘導体又はそれを含む結合体を含むキット、具体的には先天性高インスリン症、低血糖症又は代謝症候群の予防又は治療用キットを提供する。
【0292】
前記グルカゴン誘導体又はそれを含む結合体、先天性高インスリン症、低血糖症又は代謝症候群、予防及び治療については前述した通りである。本キットにさらに含まれる成分の種類には、前述した組成物に含まれる成分の種類が全て含まれる。
【0293】
特に、前記キットが代謝症候群の予防又は治療用キットの場合、(i)前記グルカゴン誘導体、具体的には一般式(1)もしくは(2)のアミノ酸配列を含むペプチド、又はそれを含む結合体、(ii)インスリン分泌ペプチド、特にGLP-1、エキセンジン-3、エキセンジン-4もしくはその誘導体、又はそれを含む結合体の全てを含んでもよい。しかし、特にこれらに限定されるものではない。
【0294】
本発明のさらに他の実施態様はグルカゴン誘導体を提供する。
【0295】
前記グルカゴン誘導体については前述した通りである。
【0296】
より具体的には、前記誘導体は、配列番号45で表される一般式(1)のアミノ酸配列を含む分離されたペプチドであることを特徴とする。一般式(1)のアミノ酸配列を含む分離されたペプチドについての説明及び組み合わせには、前述した内容が全て適用される。
【0297】
前記誘導体は、一般式(2)のアミノ酸配列を含む分離されたペプチドであることを特徴とする。
【0298】

Y-Aib-QGTF-X7-SD-X10-S-X12-Y-L-X15-X16-X17-R-A-X20-X21-F-V-X24-W-L-M-N-T-X30(一般式(2),配列番号46)
【0299】
一般式(2)において、X7は、トレオニン、バリン又はシステインであり、X10は、チロシン又はシステインであり、X12は、リシン又はシステインであり、X15は、アスパラギン酸又はシステインであり、X16は、グルタミン酸又はセリンであり、X17は、リシン又はアルギニンであり、X20は、グルタミン又はリシンであり、X21は、アスパラギン酸又はグルタミン酸であり、X24は、バリン又はグルタミンであり、X30は、システインであるか、又は存在しない。
【0300】
ここで、一般式(2)のアミノ酸配列を含むペプチドのうち、配列番号19、33、49及び50に相当するペプチドは除かれてもよい。
【0301】
より具体的には、一般式(2)のアミノ酸配列を含むペプチドは、一般式(2)のX16はグルタミン酸であり、X20はリシンであり、X16とX20の側鎖はラクタム環を形成するものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0302】
また、一般式(2)のアミノ酸配列を含むペプチドのC末端は、アミド化されたものや、改変されていないものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0303】
さらに、前記ペプチドは、グルカゴン受容体を活性化させることのできるグルカゴン誘導体であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0304】
より具体的には、前記ペプチドは、配列番号12、13、15及び36~44からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0305】
本発明のさらに他の実施態様は、前記グルカゴン誘導体をコードする分離されたポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター、及び前記ポリヌクレオチド又はベクターを含む分離された細胞を提供する。
【0306】
前記グルカゴン誘導体については前述した通りである。
【0307】
具体的には、前記誘導体は、配列番号45で表される一般式(1)のアミノ酸配列を含む分離されたペプチドであってもよい。一般式(1)のアミノ酸配列を含む分離されたペプチドについての説明及び組み合わせには、前述した内容が全て適用される。また、具体的には、前記誘導体は、配列番号46で表される一般式(2)のアミノ酸配列を含む分離されたペプチドであることを特徴とする。一般式(2)のアミノ酸配列を含む分離されたペプチドについての説明及び組み合わせには、前述した内容が全て適用される。
【0308】
本発明における「相同性」とは、野生型(wild type)アミノ酸配列や野生型核酸配列と類似する程度を示すものであり、相同性の比較は肉眼で行うか、購入が容易な比較プログラムを用いて行う。市販のコンピュータプログラムは、2つ以上の配列間の相同性を百分率(%)で計算することができる。相同性(%)は隣接する配列について計算してもよい。
【0309】
本発明における「組換えベクター」とは、好適な宿主内で標的ペプチド、例えばグルカゴン誘導体を発現させることができるように、標的ペプチド、例えばグルカゴン誘導体が好適な調節配列に作動可能に連結されたDNA産物を意味する。
【0310】
前記調節配列には、転写を開始するプロモーター、その転写を調節するための任意のオペレータ配列、好適なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、並びに転写及び翻訳の終結を調節する配列が含まれる。組換えベクターは好適な宿主細胞内に形質転換されると、宿主ゲノムに関係なく複製及び機能することができ、ゲノム自体に組み込まれてもよい。
【0311】
本発明に用いられる組換えベクターは、宿主細胞内で複製可能なものであれば特に限定されるものではなく、当業界で公知の任意のベクターを用いて作製することができる。通常用いられるベクターの例としては、天然状態又は組換え状態のプラスミド、コスミド、ウイルス及びバクテリオファージが挙げられる。本発明において使用可能なベクターは、特に限定されるものではなく、公知の発現ベクターを用いることができる。
【0312】
前記組換えベクターは、本発明のグルカゴン誘導体を生産するために、宿主細胞の形質転換に用いられる。また、本発明に含まれるこのような形質転換細胞は、本発明の核酸フラグメント及びベクターの増殖に用いられるか、本発明のグルカゴン誘導体の組換え生産に用いられた培養された細胞又は細胞株であってもよい。
【0313】
本発明における「形質転換」とは、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクターを宿主細胞に導入することにより、宿主細胞内で前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現させることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドは、宿主細胞内で発現するものであれば、宿主細胞の染色体内に挿入されて位置するか、染色体外に位置するかに関係なく、それらが全て含まれるものである。
【0314】
また、前記ポリヌクレオチドは、標的タンパク質をコードするDNAやRNAを含むものである。前記ポリヌクレオチドは、宿主細胞内に導入されて発現するものであれば、いかなる形態で導入されるものでもよい。例えば、前記ポリヌクレオチドは、自ら発現する上で必要な全ての要素を含む遺伝子構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入されてもよい。通常、前記発現カセットは、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーター(promoter)、転写終結シグナル、リボソーム結合部位及び翻訳終結シグナルを含む。前記発現カセットは、自己複製可能な発現ベクター形態であってもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、それ自体の形態で宿主細胞に導入され、宿主細胞において発現に必要な配列と作動可能に連結されたものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0315】
さらに、前記「作動可能に連結」されたものとは、本発明の標的ペプチドをコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介するプロモーター配列と前記遺伝子配列が機能的に連結されたものを意味する。
【0316】
本発明に適した宿主は、本発明のポリヌクレオチドを発現させるものであれば特に限定されるものではない。本発明に用いられる宿主の特定例としては、大腸菌(E.coli)などのエシェリキア(Escherichia)属細菌、枯草菌(Bacillus subtilis)などのバチルス(Bacillus)属細菌、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)などのシュードモナス(Pseudomonas)属細菌、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)などの酵母、スポドプテラ・フルギペルダ(Sf9)などの昆虫細胞、CHO、COS、BSCなどの動物細胞が挙げられる。
【0317】
本発明のさらに他の実施態様は、グルカゴン誘導体と、その生体内半減期を延長させる生体適合性物質部が結合された、分離された結合体を提供する。前記結合体は持続型結合体であってもよい。
【0318】
具体的には、ペプチド部位、及び前記ペプチド部位に共有結合で連結された生体適合性物質部を含む分離された結合体であって、前記ペプチド部位は、一般式(1)又は(2)のアミノ酸配列と同じ配列、又はそれを含む配列である分離された結合体を提供する。
【0319】
前記グルカゴン誘導体、一般式(1)又は(2)のアミノ酸配列及び生体適合性物質部、並びに結合体の構成については、前述したものが全て適用される。
【0320】
具体的には、前記誘導体は、配列番号45で表される一般式(1)のアミノ酸配列を含む分離されたペプチドであってもよい。一般式(1)のアミノ酸配列を含む分離されたペプチドについての説明及び組み合わせには、前述した内容が全て適用される。
【0321】
また、具体的には、前記誘導体は、配列番号46で表される一般式(2)のアミノ酸配列を含む分離されたペプチドであることを特徴とする。一般式(2)のアミノ酸配列を含む分離されたペプチドについての説明及び組み合わせには、前述した内容が全て適用される。
【0322】
具体的には、前記生体適合性物質部は、高分子重合体、脂肪酸、コレステロール、アルブミン及びそのフラグメント、アルブミン結合物質、特定アミノ酸配列の繰り返し単位の重合体、抗体、抗体フラグメント、FcRn結合物質、生体内結合組織又はその誘導体、ヌクレオチド、フィブロネクチン、トランスフェリン(Transferrin)、サッカライド、ヘパリン並びにエラスチンからなる群から選択されてもよいが、これらに限定されるものではない。ここで、前記高分子重合体は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール-プロピレングリコール共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、生分解性高分子、脂質重合体、キチン、ヒアルロン酸、オリゴヌクレオチド及びそれらの組み合わせからなる群から選択されてもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0323】
より具体的には、前記FcRn結合物質は、免疫グロブリンFc領域を含むポリペプチドであってもよいが、特にこれに限定されるものではない。前述した免疫グロブリンFc領域についての説明が本態様にも適用される。
【0324】
前記分離された結合体は、前記グルカゴン誘導体部位、具体的には前記グルカゴン誘導体ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチド部位、及びそれに生体適合性物質部がリンカーを介して連結されたものであってもよい。前述したリンカーについての説明が本態様にも適用される。
【0325】
また、前記グルカゴン誘導体部位、具体的には前記グルカゴン誘導体ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチド部位は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール-プロピレングリコール共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、PLA(polylactic acid)やPLGA(polylactic-glycolic acid)などの生分解性高分子、脂質重合体、キチン類、ヒアルロン酸、脂肪酸、高分子重合体、低分子化合物、ヌクレオチド及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるリンカーを介して生体適合性物質部に連結されたものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0326】
また、前記生体適合性物質部は、FcRn結合物質であり、前記分離されたペプチドは、ペプチドリンカー、又はポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール-プロピレングリコール共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、PLA(polylactic acid)やPLGA(polylactic-glycolic acid)などの生分解性高分子、脂質重合体、キチン類、ヒアルロン酸及びそれらの組み合わせからなる群から選択される非ペプチド性リンカーを介して生体適合性物質部に結合されたものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0327】
ここで、前記FcRn結合物質は、免疫グロブリンFc領域を含むポリペプチドであってもよく、リンカーは、具体的にはポリエチレングリコールであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0328】
また、前記リンカーは、前記グルカゴン誘導体のシステイン残基に連結されたものであってもよいが、特にこれに限定されるものではない。
【0329】
さらに、前記結合体の前記リンカーは、その一末端が生体適合性物質部のアミノ基又はチオール基と、前記リンカーの他の末端が前記グルカゴン誘導体のアミノ基又はチオール基とそれぞれ反応して形成された共有結合により、前記グルカゴン誘導体と生体適合性物質部にそれぞれ連結されたものであってもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0330】
本発明のさらに他の実施態様は、前記グルカゴン誘導体、それを含む結合体、又はそれを含む組成物を個体に投与するステップを含む、先天性高インスリン症、低血糖症又は代謝症候群を予防又は治療する方法を提供する。
【0331】
前記グルカゴン誘導体、それを含む結合体、それを含む組成物、先天性高インスリン症、低血糖症、代謝症候群、予防及び治療については前述した通りである。
【0332】
本発明における前記個体とは、先天性高インスリン症、低血糖症又は代謝症候群(metabolic syndrome)が疑われる個体であり、前記先天性高インスリン症、低血糖症又は代謝症候群(metabolic syndrome)が疑われる個体とは、当該疾患が発症しているか、発症する可能性のある、ヒトをはじめとしてマウス、家畜などが含まれる哺乳動物を意味するが、本発明のグルカゴン誘導体又はそれを含む前記組成物で治療可能な個体であれば限定されない。また、本発明のグルカゴン誘導体を含む薬学的組成物を先天性高インスリン症、低血糖症又は肥満が疑われる個体に投与することにより、個体を効率的に治療することができる。先天性高インスリン症、低血糖症又は肥満については前述した通りである。
【0333】
本発明の方法は、ペプチドを含む薬学的組成物を薬学的有効量で投与することを含んでもよい。好適な総1日用量は正しい医学的判断の範囲内で担当医により決定されてもよく、1回又は数回に分けて投与することができる。しかし、発明の目的上、特定の患者に対する具体的な治療的有効量は、達成しようとする反応の種類と程度、場合によっては他の製剤が用いられるか否か、具体的な組成物、患者の年齢、体重、一般的な健康状態、性別、食餌、投与時間、投与経路、組成物の分泌率、治療期間、具体的な組成物と共に又は同時に投与される薬物をはじめとする様々な因子や、医薬分野で周知の類似の因子に応じて異なる量であることが好ましい。
【0334】
一方、特にこれらに限定されるものではないが、前記代謝症候群の予防又は治療方法は、少なくとも1つの代謝症候群に対する治療的活性を有する化合物又は物質を投与することをさらに含む併用療法であってもよい。
【0335】
本発明における「併用」とは、同時、順次又は個別投与を意味するものと理解されるべきである。前記投与が順次又は個別の場合、2次成分投与の間隔は、前記併用の有利な効果を失わないものでなければならない。
【0336】
本発明のさらに他の実施態様は、前記グルカゴン誘導体、分離された結合体、又は前記組成物を先天性高インスリン症、低血糖症又は代謝症候群に対する予防又は治療用薬剤(又は薬学的組成物)の製造に用いる用途を提供する。
【0337】
前記グルカゴン誘導体、分離された結合体、前記組成物、先天性高インスリン症、低血糖症及び代謝症候群については前述した通りである。
【0338】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0339】
グルカゴンに対してcAMP反応を示す細胞株の生産
ヒトグルカゴン受容体遺伝子のcDNA(OriGene Technologies, Inc. USA)においてORFに相当する部分を鋳型とし、EcoRI切断部位とXhoI切断部位をそれぞれ含む配列番号47及び48の正方向及び逆方向プライマーを用いたPCRを行った。
【0340】
ここで、PCR反応は、95℃で60秒間の変性、55℃で60秒間のアニーリング、及び68℃で30秒間の伸長の過程を30回繰り返した。こうして増幅したPCR産物を1.0%アガロースゲルに電気泳動し、その後450bpのサイズのバンドを溶離して得た。
正方向プライマー(配列番号47):5‘-CAGCGACACCGACCGTCCCCCCGTACTTAAGGCC-3’
逆方向プライマー(配列番号48):5‘-CTAACCGACTCTCGGGGAAGACTGAGCTCGCC-3’
【0341】
前記PCR産物を公知の動物細胞発現ベクターであるx0GC/dhfrにクローニングして組換えベクターx0GC/GCGRを作製した。
【0342】
前述したように作製した組換えベクターx0GC/GCGRを10%FBS含有DMEM/F12培地で培養したCHO DG44細胞にリポフェクタミンを用いて形質転換し、1mg/mLのG418及び10nMのメトトレキサートを含む選択培地で選択培養した。そこから限界希釈法でモノクローナル細胞株を選択し、その中からグルカゴンに対して優れた濃度依存的cAMP反応を示す細胞株を最終的に選択した。
【実施例2】
【0343】
グルカゴン誘導体の合成
改善された物性を有するグルカゴン誘導体を開発するために、配列番号1の天然グルカゴンのアミノ酸配列を、負電荷及び正電荷を帯びたアミノ酸残基に置換することにより、表1のグルカゴン誘導体を合成した。表中の相対的in vitro活性は、実施例4の方法で測定したものである。
【0344】
【表1】



【0345】
天然グルカゴン及びグルカゴン誘導体のアミノ酸配列
表1の配列において、Xと表記したアミノ酸は非天然アミノ酸であるアミノイソブチル酸(Aib)を示すものであり、アミノ酸記号の下線は下線を引いた当該アミノ酸対の側鎖間におけるラクタム環の形成を示すものであり、「-」は当該位置にアミノ酸残基がないことを示すものである。また、環形成の有無の列において、「-」は当該配列に環が形成されていないことを示すものである。
【実施例3】
【0346】
グルカゴン誘導体のpI測定
実施例2で合成したグルカゴン誘導体の改善された物性を確認するために、ExPASyサーバにおいてpI/Mwツール(非特許文献2)を用いてアミノ酸配列からpIを計算した。
【0347】
表1に示すように、配列番号1の天然グルカゴンが6.8のpIを有するのに対して、本発明による一部のグルカゴン誘導体は、約4~6の範囲のpIを有する。このようなグルカゴン誘導体は、天然グルカゴンより低い又は高いpIを有するので、中性pHなどにおいて天然グルカゴンより改善された溶解度及び高い安定性を示す。
【0348】
このような本発明によるグルカゴン誘導体は、先天性高インスリン症、低血糖症などの標的疾患に対する治療剤として用いると、患者の順応度を向上させることができ、他の抗肥満治療剤又は糖尿病治療剤との併用投与に適するので、低血糖症、及び肥満、糖尿病、非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis, NASH)、脂質異常症、冠動脈性心疾患をはじめとする代謝症候群(metabolic syndrome)治療剤として有用である。
【実施例4】
【0349】
グルカゴン誘導体のcAMP活性測定
実施例1で生産したヒトグルカゴン受容体を有する細胞株において、実施例2で合成したグルカゴン誘導体の活性を測定した。具体的には、前記形質転換細胞株を1週間に3回又は4回継代培養し、その後384ウェルプレートに各ウェル当たり6×103個の継代培養した細胞株を分注して24時間培養した。前述したように培養した細胞において、0.5mM IBMX(3-isobutyl-1-methylxanthine)、0.1% BSA(Bovine serum albumin)、5mM HEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)を含むHBSS(Hank’s Balanced Salt Solution)緩衝液に、天然グルカゴンは200nMとなるように、グルカゴン誘導体は1600nMとなるようにそれぞれ懸濁し、その後4倍ずつ10回連続希釈し、それをcAMPアッセイキット(LANCE cAMP 384 kit, PerkinElmer)に適用し、前記細胞に添加して蛍光値を測定した。測定後に、最も高い蛍光値を100%とし、そこからグルカゴン誘導体のEC50値を算出して天然グルカゴンと相互比較した。その結果を表1に示す。
【実施例5】
【0350】
グルカゴン誘導体と免疫グロブリンFcとを含む結合体の製造(配列番号12又は配列番号20-免疫グロブリンFc領域結合体)
両末端にそれぞれマレイミド基及びアルデヒド基を有する10kDaのPEG、すなわちマレイミド-PEG-アルデヒド(10kDa, NOF, 日本)をグルカゴン誘導体(配列番号12又は配列番号20)のシステイン残基にペグ化するために、グルカゴン誘導体とマレイミド-PEG-アルデヒドのモル比を1:1~5とし、タンパク質の濃度を3~10mg/mlとして、低温で1~3時間反応させた。ここで、反応は、50mM Tris緩衝液(pH7.5)に20~60%イソプロパノールが添加された環境下で行った。反応終了後に、前記反応液をSP sepharose HP(GE healthcare, 米国)に適用し、システインにモノペグ化されたグルカゴン誘導体を精製した。
【0351】
次に、前記精製されたモノペグ化グルカゴン誘導体と免疫グロブリンFcのモル比を1:2~10とし、タンパク質の濃度を10~50mg/mlとして、4~8℃で12~18時間反応させた。反応は、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)に還元剤である10~50mMシアノ水素化ホウ素ナトリウムと10~20%イソプロパノールが添加された環境下で行った。反応終了後に、前記反応液をButyl sepharose FF精製カラム(GE healthcare, 米国)とSource ISO精製カラム(GE healthcare, 米国)に適用し、グルカゴン誘導体と免疫グロブリンFcとを含む結合体を精製した。
【0352】
製造後に逆相クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー及びイオン交換クロマトグラフィーで分析した純度は95%以上であった。
【0353】
ここで、配列番号12のグルカゴン誘導体及び免疫グロブリンFcがPEGを介して連結された結合体を「配列番号12のグルカゴン誘導体と免疫グロブリンFcとを含む結合体」、「配列番号12持続型結合体」又は「配列番号12持続型誘導体」と命名した。これらは本発明において混用されてもよい。
【0354】
ここで、配列番号20のグルカゴン誘導体及び免疫グロブリンFcがPEGを介して連結された結合体を「配列番号20のグルカゴン誘導体と免疫グロブリンFcとを含む結合体」、「配列番号20持続型結合体」又は「配列番号20持続型誘導体」と命名した。これらは本発明において混用されてもよい。
【実施例6】
【0355】
エキセンジン-4誘導体及び免疫グロブリンFcを含む結合体の製造
N末端のヒスチジンのα炭素を欠失させたイミダゾ-アセチルエキセンジン-4(CAエキセンジン-4, AP, 米国)を用いて、両末端にプロピオンアルデヒド基を有する3.4kDaのPEG、すなわち3.4k PropionALD(2)PEGをCAエキセンジン-4のLysと反応させ、その後2つのLys異性体ピークのうち反応が進んでN末端異性体と明確に区分される最後の異性体ピーク(Lys27位の異性体)を分離した。次に、このペグ化されたペプチド異性体を用いてFcに連結するカップリングを行った。
【0356】
カップリングは、前述したようにペグ化されたイミダゾ-アセチルエキセンジン-4ペプチドと免疫グロブリンFcのモル比を1:8とし、総タンパク質濃度を60mg/mlとして、4℃で20時間反応させた。反応液は100mM K-P pH6.0であり、還元剤である20mM SCBを添加した。カップリング反応液は2つの精製カラムで精製した。まず、カップリング反応に関与しない多量の免疫グロブリンFcを除去するために、Source Q(XK-16mL,アマシャムバイオサイエンス)を用いた。20mM Tris(pH7.5)において、1M NaClを用いて塩勾配(Salt gradient)を与えると、相対的に結合力が弱い免疫グロブリンFcが先に溶出し、次いでエキセンジン-4-免疫グロブリンFcが溶出する。一次精製によりある程度の免疫グロブリンFcが除去されるが、イオン交換カラムにおける免疫グロブリンFcとエキセンジン-4-免疫グロブリンFcの結合力の差が大きくないので、完全には分離しなかった。よって、両物質の疎水性の差(Hydrophobicity)を利用して二次精製した。SOURCE ISO(HR16ml,アマシャムバイオサイエンス)に20mM Tris(pH7.5)及び1.5M硫酸アンモニウムを用いて一次精製した試料を結合させ、徐々に硫酸アンモニウム濃度を低くして試料を溶出させた。HICカラムに結合力が弱い免疫グロブリンFcが先に溶出し、結合力が強いエキセンジン-4-免疫グロブリンFc試料が後で溶出した。これらの疎水性の差が大きいので、イオン交換カラムよりはるかに分離が容易であった。
カラム:SOURCE Q(XK16ml,アマシャムバイオサイエンス)
流速:2.0ml/分
勾配:A0→25%70分B(A:20mMトリス,pH7.5,B:A+1M NaCl)
カラム:SOURCE ISO(HR16ml,アマシャムバイオサイエンス)
流速:7.0ml/分
勾配:B100→0%60分B(A:20mMトリス,pH7.5,B:A+1.5M硫酸アンモニウム)
【0357】
前述したように製造した、エキセンジン-4誘導体と免疫グロブリンFc領域がPEGを介して連結された結合体を「持続型エキセンジン-4誘導体」と命名した。これは、本発明において「持続型エキセンジン誘導体」と混用されてもよい。
【実施例7】
【0358】
グルカゴン誘導体と免疫グロブリンFcとを含む結合体の製造(配列番号37-免疫グロブリンFc領域結合体)
両末端にそれぞれマレイミド基及びアルデヒド基を有する10kDaのPEG、すなわちマレイミド-PEG-アルデヒド(10kDa, NOF, 日本)をグルカゴン誘導体(配列番号37)のシステイン残基にペグ化するために、グルカゴン誘導体とマレイミド-PEG-アルデヒドのモル比を1:1~5とし、タンパク質の濃度を3~10mg/mlとして、低温で1~3時間反応させた。ここで、反応は、50mM Tris緩衝液(pH7.5)に20~60%イソプロパノールが添加された環境下で行った。反応終了後に、前記反応液をSP sepharose HP(GE healthcare, 米国)に適用し、システインにモノペグ化されたグルカゴン誘導体を精製した。
【0359】
次に、前記精製されたモノペグ化グルカゴン誘導体と免疫グロブリンFcのモル比を1:2~10とし、タンパク質の濃度を10~50mg/mlとして、4~8℃で12~18時間反応させた。反応は、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)に還元剤である10~50mMシアノ水素化ホウ素ナトリウムと10~20%イソプロパノールが添加された環境下で行った。反応終了後に、前記反応液をButyl sepharose FF精製カラム(GE healthcare, 米国)とSource ISO精製カラム(GE healthcare, 米国)に適用し、グルカゴン誘導体と免疫グロブリンFcとを含む結合体を精製した。
【0360】
製造後に逆相クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー及びイオン交換クロマトグラフィーで分析した純度は95%以上であった。
【0361】
ここで、配列番号37のグルカゴン誘導体及び免疫グロブリンFcがPEGを介して連結された結合体を「配列番号37のグルカゴン誘導体と免疫グロブリンFcとを含む結合体」、「配列番号37持続型結合体」又は「配列番号37持続型誘導体」と命名した。これらは本発明において混用されてもよい。
【0362】
実験例1:高脂肪食餌で誘導された肥満ラットにおける体重減少効果
肥満動物モデルに広く用いられる高脂肪食餌誘導肥満ラットをこの実験に用いた。具体的には、高脂肪食餌誘導齧歯類は、肥満治療剤の体重減少効果の前臨床評価に用いられる最も一般的な動物モデルであり、モデルの誘導は次のように行う。正常ラット又はマウスに60%が脂肪からなる飼料を4週間(ラット)又は6カ月間(マウス)供給すると、ラットにおいては投与前体重が約600g、マウスにおいては約55gに増加し、それに伴って血中脂質値も上昇するので、ヒトにおける肥満に類似した状態となる。本実験例に用いられたラットの体重も投与前に約600gであった。実験期間を通じて、ラットを個別に収容し、水に自由にアクセスできるようにした。照明は6PMから6AMまで消灯した。
【0363】
高脂肪食餌を与えた試験群は、群1:持続型グルカゴンが含まれていない賦形剤投与(2ml/kg,3日に1回注射)-対照群(Vehicle)、群2:実施例6の持続型エキセンジン誘導体3.3nmol/kg(3日に1回注射)、群3:配列番号12持続型誘導体1.6nmol/kg(3日に1回注射)、群4:配列番号12持続型誘導体3.3nmol/kg(3日に1回注射)、群5:配列番号12持続型誘導体6.6nmol/kg(3日に1回注射)、群6:実施例6の持続型エキセンジン誘導体3.3nmol/kg+配列番号12持続型誘導体1.6nmol/kg(それぞれ3日に1回注射)、群7:実施例6の持続型エキセンジン誘導体3.3nmol/kg+配列番号12持続型誘導体3.3nmol/kg(それぞれ3日に1回注射)、群8:実施例6の持続型エキセンジン誘導体3.3nmol/kg+配列番号12持続型誘導体6.6nmol/kg(それぞれ3日に1回注射)、群9:群4とペアで給餌、群10:群7とペアで給餌であった。
【0364】
実験は15日目に終了し、実験中は3日毎に各群のラットの体重変化を測定した。実験終了後に、剖検により腸間膜脂肪量と肝臓重量を測定した。統計処理は、一元ANOVAを用いて賦形剤群(対照群)と試験群を比較した。
【0365】
体重変化を測定した結果、図1から分かるように、持続型エキセンジン誘導体と配列番号12持続型誘導体の各単独投与群においては、投与開始前に比べて-8%、-7%から-22%の体重減少をそれぞれ示すのに対して、持続型エキセンジン誘導体と配列番号12持続型誘導体の併用投与においては、-22%から-35%の体重減少を示し、体重減少効果が一層増加することが確認された。
【0366】
また、配列番号12持続型誘導体の単独投与群と、持続型エキセンジン誘導体と配列番号12持続型誘導体の併用投与群とペアで給餌群との体重減少効果を比較すると、体重減少効果に-11%と-17%程度の差があるので、グルカゴン誘導体の単独又は併用投与において食餌摂取以外の作用によっても体重減少効果が現れることが分かった。
【0367】
すなわち、本発明のグルカゴン持続型誘導体は、食欲減少以外にも、体重減少において別の役割を果たすことが確認された。
【0368】
また、腸間膜脂肪量と肝臓重量を測定した結果、図2及び図3から分かるように、持続型エキセンジン誘導体と配列番号12持続型誘導体の併用投与において、賦形剤投与群と比較して体内脂肪が有意に減少し、肝臓重量も減少する結果が確認された。一方、肝臓重量の増減は一般に肝臓脂肪の増減に依存するので、この肝臓重量減少効果は肝臓脂肪が減少した効果であり、肥満、糖尿病、非アルコール性脂肪肝炎などの代謝症候群の治療効果を測定する方法として肝臓脂肪減少の測定が用いられる。
【0369】
実験例2:高脂肪食餌で誘導された肥満マウスにおける体重減少効果
肥満動物モデルに広く用いられる高脂肪食餌誘導肥満マウスをこの実験に用いた。マウスの体重は投与前に約55gであった。実験期間を通じて、マウスを7匹ずつ収容し、水に自由にアクセスできるようにした。照明は6PMから6AMまで消灯した。
【0370】
高脂肪食餌を与えた試験群は、群1:持続型グルカゴンが含まれていない賦形剤投与(5ml/kg,2日に1回注射)-対照群(Vehicle)、群2:実施例6の持続型エキセンジン誘導体4.3nmol/kg(2日に1回注射)、群3:配列番号20持続型誘導体4.4nmol/kg(2日に1回注射)、群4:配列番号20持続型誘導体8.8nmol/kg(2日に1回注射)、群5:実施例6の持続型エキセンジン誘導体4.3nmol/kg+配列番号20持続型誘導体4.4nmol/kg(それぞれ2日に1回注射)、群6:実施例6の持続型エキセンジン誘導体2.1nmol/kg+配列番号20持続型誘導体6.6nmol/kg(それぞれ2日に1回注射)、群7:実施例6の持続型エキセンジン誘導体0.8nmol/kg+配列番号20持続型誘導体8.0nmol/kg(それぞれ2日に1回注射)であった。
【0371】
実験は22日目に終了し、実験中は2日毎に各群のマウスの体重変化を測定した。実験終了後に、剖検により肝臓重量を測定した。
【0372】
体重変化を測定した結果、図4から分かるように、配列番号20持続型誘導体(8.8nmol/kg,2日1回投与)は、各単独群においても投与開始前に比べて-25%と-29%の体重減少をそれぞれ示すことが確認され、その効果は持続型エキセンジン誘導体との併用投与においてさらに大きくなることが確認された。持続型エキセンジン誘導体と配列番号20持続型誘導体の1:1、1:3、1:10の比の併用投与においては、-50%以上の体重減少を示し、体重減少効果が一層増加することが確認された。また、配列番号20持続型誘導体と持続型エキセンジン誘導体の比により体重減少効果は大きく変わらないが、食欲減少は持続型エキセンジン誘導体の比が大きいほど大きくなることから、本発明のグルカゴン持続型誘導体は、食欲減少以外にも、体重減少において別の役割を果たすことが確認された。
【0373】
また、血中総コレステロール量を測定した結果、図5から分かるように、類似した体重減少効果を示す持続型エキセンジン誘導体(4.4nmol/kg,2日1回投与)と配列番号20持続型誘導体(8.8nmol/kg,2日1回投与)の各群において、-35%と-71%のコレステロール減少を示した。このことから、本発明のグルカゴン持続型誘導体は、体重減少効果以外にも、血中コレステロール減少において別の役割を果たすことが確認された。統計処理は、一元ANOVAを用いて賦形剤群(対照群)と試験群を比較した。
【0374】
実験例3:高脂肪食餌で誘導された肥満マウスにおける持続型エキセンジン誘導体と配列番号37持続型結合体の併用投与効果
肥満動物モデルに広く用いられる高脂肪食餌誘導肥満マウスをこの実験に用いた。マウスの体重は投与前に約55gであった。実験期間を通じて、マウスは7匹ずつ収容し、水に自由にアクセスできるようにした。照明は6PMから6AMまで消灯した。
【0375】
高脂肪食餌を与えた試験群は、群1:持続型グルカゴンが含まれていない賦形剤投与(5ml/kg,2日に1回注射)-対照群(vehicle)、群2:リラグルチド(Liraglutide, ノボノルディスク)50nmol/kg(1日2回注射)、群3:実施例6の持続型エキセンジン誘導体4.3nmol/kg(2日に1回注射)、群4:実施例6の持続型エキセンジン誘導体4.3nmol/kg+配列番号37持続型誘導体2.2nmol/kg(それぞれ2日に1回注射)であった。
【0376】
実験は28日目に終了し、29日目に耐糖能(intraperitoneal glucose tolerance test, IPGTT)を測定した。実験中は2日毎に各群のマウスの体重変化を測定した。実験終了後に、血液から血中コレステロール値を測定し、剖検により脂肪重量を測定した。
【0377】
体重変化を測定した結果、図6から分かるように、リラグルチド(ノボノルディスク)50nmol/kg(1日2回注射)と持続型エキセンジン誘導体4.3nmol/kg(2日に1回注射)の各単独投与群において、対照群に比べてそれぞれ-22%、-32%の体重減少を示すことが確認され、持続型エキセンジン誘導体4.3nmol/kg(2日に1回注射)と配列番号37持続型誘導体2.2nmol/kg(それぞれ2日に1回注射)の併用投与において、-32%から-62%の体重減少を示し、体重減少効果が一層増加することが確認された。
【0378】
脂肪重量減少効果も、持続型エキセンジン誘導体4.3nmol/kg(2日に1回注射)の単独投与より、配列番号37持続型誘導体2.2nmol/kg(それぞれ2日に1回注射)の併用投与において、-62%から-88%の脂肪重量減少を示し、脂肪重量減少効果が一層増加した。
【0379】
また、血液から総コレステロール量を測定した結果、図6から分かるように、リラグルチド(ノボノルディスク)50nmol/kg(1日2回注射)と持続型エキセンジン誘導体4.3nmol/kg(2日に1回注射)の各単独投与群において、対照群に比べてそれぞれ-40%と-49%のコレステロール減少を示し、持続型エキセンジン誘導体4.3nmol/kg(2日に1回注射)と配列番号37持続型誘導体2.2nmol/kg(それぞれ2日に1回注射)の併用投与において、-49%から-70%のコレステロール減少を示し、コレステロール減少効果が一層増加することが確認された。
【0380】
図6の耐糖能(intraperitoneal glucose tolerance test, IPGTT)測定の結果、持続型エキセンジン誘導体4.3nmol/kg(2日に1回注射)の単独投与群と配列番号37持続型誘導体2.2nmol/kg(それぞれ2日に1回注射)の併用投与群において、それぞれ-61%と-67%の同等の効果を有することが確認された。
【0381】
このことから、持続型エキセンジン誘導体4.3nmol/kg(2日に1回注射)と配列番号37持続型誘導体2.2nmol/kg(それぞれ2日に1回注射)の併用投与は、同等の血糖調節能力を示し、体重減少効果及び血中コレステロール減少において一層優れた役割を果たすことが確認された。
【0382】
実験例4:配列番号37持続型結合体の急性低血糖症(acute hypoglycemia)改善効果
SDラットを4時間絶食させ、その後低血糖症を誘発するためにインスリン0.65U/kgを皮下投与した。インスリン投与45分後に低血糖症を確認し、次いで賦形剤(2ml/kg,単回注射)(vehicle)、配列番号37持続型結合体(5.16nmol/kg,10.31nmol/kg,20.63nmol/kg,以上静脈投与)及び天然グルカゴン60nmol/kgを皮下投与し、その後血糖変化を測定した。
【0383】
その結果、図7に示すように、配列番号37持続型結合体は、全ての投与用量においてインスリンによる低血糖症を改善した。このことから、配列番号37持続型結合体は、低血糖症関連疾患に対する治療効果を有することが確認された。
【0384】
実験例5:配列番号37持続型結合体の慢性低血糖症(chronic hypoglycemia)改善効果
先天性高インスリン症治療剤としての効果評価は、インスリンポンプ装着齧歯類において行った。先天性高インスリン症疾患モデルは、インスリンポンプを齧歯類(ラット又はマウス)に手術により装着することにより誘導する。当該齧歯類は、ポンプからインスリンが継続して分泌されるので低血糖症が継続して誘発され、ヒトにおける先天性高インスリン症に類似した疾病状態となる。
【0385】
具体的には、インスリンが充填された浸透圧ポンプ(osmotic pump)をSDラットの皮下に装着する手術を行った。血糖を1週間測定し、継続して低血糖症が誘発された個体を選択し、次いで賦形剤(vehicle)、配列番号37持続型結合体を3nmol/kg又は6nmol/kgずつ3日間隔で(Q3D)皮下投与し、その後血糖変化を2週間測定し、血糖曲線の曲線下面積値(AUCBG)を算出した。
【0386】
血糖曲線下面積(AUC, area under curve)は、薬物の長期投与における血糖の変化様相を数値化する一般的な方法である。その結果、図8に示すように、配列番号37持続型結合体は、全ての投与用量において持続型グルカゴンが含まれていない賦形剤投与(2ml/kg,3日に1回注射)対照群(vehicle)の慢性低血糖症ラットに比べて、持続的な血糖増加が有意に現れることが確認された(**p<0.01,***p<0.001vs.慢性低血糖症ラット,賦形剤,by一元ANOVA)。このことから、配列番号37持続型結合体は、先天性高インスリン症(congenital hyperinsulinism)患者において発症する慢性低血糖症に対する治療効果があることが確認された。
【0387】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、前記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明には、前記詳細な説明ではなく後述する特許請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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