(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】排気浄化装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/20 20060101AFI20230111BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20230111BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20230111BHJP
F02M 26/52 20160101ALI20230111BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20230111BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20230111BHJP
B01D 53/96 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
F01N3/20 B ZAB
F01N3/24 S
F01N3/08 A
F01N3/24 R
F02M26/52
F02D43/00 301N
F02D43/00 301Z
B01D53/94 222
B01D53/96 500
B01D53/94 400
(21)【出願番号】P 2019021764
(22)【出願日】2019-02-08
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【氏名又は名称】中山 浩光
(74)【代理人】
【識別番号】100192511
【氏名又は名称】柴田 晃史
(72)【発明者】
【氏名】森 護人
(72)【発明者】
【氏名】森 俊博
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-113974(JP,A)
【文献】特開2009-121289(JP,A)
【文献】特開2017-025718(JP,A)
【文献】特開2017-066970(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0006025(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/20
F01N 3/24
F01N 3/08
F02M 26/52
F02D 43/00
B01D 53/94
B01D 53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気流路上に設けられた触媒を備え、前記触媒に還元剤を供給することで前記触媒を再生する再生制御を実行する排気浄化装置であって、
前記触媒に還元剤を供給する還元剤供給部と、
前記触媒の温度を取得する触媒温度取得部と、
前記触媒の下流側の排気ガスの空燃比である下流空燃比を取得する空燃比取得部と、
前記再生制御中における前記下流空燃比の目標値である目標空燃比を設定すると共に、前記下流空燃比が前記目標空燃比となるように前記還元剤供給部を制御する空燃比制御部と、
前記再生制御中における前記触媒の温度の目標値である目標温度と前記触媒の温度とに基づいて、前記触媒の温度が前記目標温度となるように前記触媒に流入する排気ガス中のO
2量を調整する流入O
2量調整部と、
前記触媒に流入する前記排気ガスの温度である流入ガス温度を取得する流入ガス温度取得部と、
前記触媒を流通する前記排気ガスの流量である排気ガス流量を取得する排気ガス流量取得部と、
を備え、
前記流入O
2量調整部は、
前記触媒の温度が前記目標温度よりも低い場合、前記触媒の温度が前記目標温度以上である場合と比べて、前記内燃機関におけるEGR量を減量させるように前記内燃機関のEGR装置を制御
し、
前記目標温度と前記流入ガス温度と前記排気ガス流量とに基づいて前記O
2
量の目標値である目標O
2
量を算出し、前記O
2
量が前記目標O
2
量となるように前記O
2
量を調整する、排気浄化装置。
【請求項2】
内燃機関の排気流路上に設けられた触媒を備え、前記触媒に還元剤を供給することで前記触媒を再生する再生制御を実行する排気浄化装置であって、
前記触媒に還元剤を供給する還元剤供給部と、
前記触媒の温度を取得する触媒温度取得部と、
前記触媒の下流側の排気ガスの空燃比である下流空燃比を取得する空燃比取得部と、
前記再生制御中における前記下流空燃比の目標値である目標空燃比を設定すると共に、前記下流空燃比が前記目標空燃比となるように前記還元剤供給部を制御する空燃比制御部と、
前記再生制御中における前記触媒の温度の目標値である目標温度と前記触媒の温度とに基づいて、前記触媒の温度が前記目標温度となるように前記触媒に流入する排気ガス中のO
2量を調整する流入O
2量調整部と、
前記触媒に流入する前記排気ガス中のCOとHCとの比率を取得する比率取得部と、
を備え、
前記流入O
2量調整部は、前記比率が大きくなるに従って前記O
2量が大きくなるように、前記O
2量を調整する、排気浄化装置。
【請求項3】
前記触媒に流入する前記排気ガスの温度である流入ガス温度を取得する流入ガス温度取得部と、
前記触媒を流通する前記排気ガスの流量である排気ガス流量を取得する排気ガス流量取得部と、を更に備え、
前記流入O
2量調整部は、前記目標温度と前記流入ガス温度と前記排気ガス流量とに基づいて前記O
2量の目標値である目標O
2量を算出し、前記O
2量が前記目標O
2量となるように前記O
2量を調整する、請求項
2に記載の排気浄化装置。
【請求項4】
前記還元剤供給部は、前記内燃機関の筒内に燃料を噴射するインジェクタであり、
前記空燃比制御部は、前記内燃機関の膨張行程で前記燃料が燃焼する噴射時期で燃料噴射を行うように前記インジェクタを制御し、
前記流入O
2量調整部は、前記触媒の温度が前記目標温度よりも低い場合、前記触媒の温度が前記目標温度以上である場合と比べて、前記噴射時期を遅角させる、請求項1~3の何れか一項に記載の排気浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、排気流路上に設けられた触媒と、触媒の上流側に設けられた還元剤供給部と、を備える排気浄化装置が知られている(例えば特許文献1)。従来の排気浄化装置では、触媒の再生の際、還元剤供給部により供給された還元剤により排気の空燃比がリッチとされる時間と空燃比がリーンとされる時間とが予め設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の触媒の再生手法では、排気ガスの空燃比をリッチにするための還元剤の添加は、触媒の目標温度に対して過剰な発熱を生じさせる場合がある。そのため、触媒でのエネルギーバランスをとるために、空燃比がリッチとリーンとに交互に繰り返される。しかしながら、このような手法では、触媒に流入する排気ガス中のO2量が大きく変化してしまい、触媒温度が大きく周期的に変化するため、触媒の再生に適した温度となるように触媒の温度を調整することが難しい。
【0005】
本発明は、触媒の温度変動を抑えつつ、再生制御における触媒の温度を適切に調整することができる排気浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る排気浄化装置は、内燃機関の排気流路上に設けられた触媒を備え、触媒に還元剤を供給することで触媒を再生する再生制御を実行する排気浄化装置であって、触媒に還元剤を供給する還元剤供給部と、触媒の温度を取得する触媒温度取得部と、触媒の下流側の排気ガスの空燃比である下流空燃比を取得する空燃比取得部と、再生制御中における下流空燃比の目標値である目標空燃比を設定すると共に、下流空燃比が目標空燃比となるように還元剤供給部を制御する空燃比制御部と、再生制御中における触媒の温度の目標値である目標温度と触媒の温度とに基づいて、触媒の温度が目標温度となるように触媒に流入する排気ガス中のO2量を調整する流入O2量調整部と、を備え、流入O2量調整部は、触媒の温度が目標温度よりも低い場合、触媒の温度が目標温度以上である場合と比べて、内燃機関におけるEGR量を減量させるように内燃機関のEGR装置を制御する。
【0007】
本発明の一態様に係る排気浄化装置では、空燃比制御部により、再生制御中における下流空燃比が目標空燃比となるように還元剤供給部が制御される。例えば下流空燃比が還元雰囲気となっている場合、触媒での発熱反応の量が排気ガス中のO2量に支配される。そのため、O2量の調整により触媒での発熱量を調整することができる。よって、流入O2量調整部により、触媒の温度が目標温度となるように触媒に流入する排気ガス中のO2量を調整することで、触媒での発熱量を調整することができる。その結果、例えば排気ガスの空燃比のリッチとリーンとが交互に繰り返される場合と比較して、触媒の温度変動を抑えつつ、再生制御における触媒の温度を適切に調整することができる。また、EGR装置を用いて、排気ガス中のO2量を容易に調整することができる。
【0008】
本発明の他の態様に係る排気浄化装置は、内燃機関の排気流路上に設けられた触媒を備え、触媒に還元剤を供給することで触媒を再生する再生制御を実行する排気浄化装置であって、触媒に還元剤を供給する還元剤供給部と、触媒の温度を取得する触媒温度取得部と、触媒の下流側の排気ガスの空燃比である下流空燃比を取得する空燃比取得部と、再生制御中における下流空燃比の目標値である目標空燃比を設定すると共に、下流空燃比が目標空燃比となるように還元剤供給部を制御する空燃比制御部と、再生制御中における触媒の温度の目標値である目標温度と触媒の温度とに基づいて、触媒の温度が目標温度となるように触媒に流入する排気ガス中のO2量を調整する流入O2量調整部と、触媒に流入する排気ガス中のCOとHCとの比率を取得する比率取得部と、を備え、流入O2量調整部は、比率が大きくなるに従ってO2量が大きくなるように、O2量を調整する。
【0009】
本発明の他の態様に係る排気浄化装置では、空燃比制御部により、再生制御中における下流空燃比が目標空燃比となるように還元剤供給部が制御される。例えば下流空燃比が還元雰囲気となっている場合、触媒での発熱反応の量が排気ガス中のO2量に支配される。そのため、O2量の調整により触媒での発熱量を調整することができる。よって、流入O2量調整部により、触媒の温度が目標温度となるように触媒に流入する排気ガス中のO2量を調整することで、触媒での発熱量を調整することができる。その結果、例えば排気ガスの空燃比のリッチとリーンとが交互に繰り返される場合と比較して、触媒の温度変動を抑えつつ、再生制御における触媒の温度を適切に調整することができる。また、COの発熱量がHCの発熱量よりも小さいため、例えば一定の発熱量を触媒で生じさせるためには、排気ガス中のCOとHCとの比率が大きくなるほどCOと反応させるO2量が大きくなる。したがって、COとHCとの比率が大きくなるに従ってO2量が大きくなるように、流入O2量調整部によってO2量を調整することで、再生制御における触媒の温度をより適切に調整することができる。
【0010】
一実施形態において、触媒に流入する排気ガスの温度である流入ガス温度を取得する流入ガス温度取得部と、触媒を流通する排気ガスの流量である排気ガス流量を取得する排気ガス流量取得部と、を更に備え、流入O2量調整部は、目標温度と流入ガス温度と排気ガス流量とに基づいてO2量の目標値である目標O2量を算出し、O2量が目標O2量となるようにO2量を調整させてもよい。この場合、目標温度と流入ガス温度と排気ガス流量とに基づいて算出した目標O2量を、例えば見込み制御量として用いることで、O2量の調整の制御性を向上させることができる。
【0011】
一実施形態において、還元剤供給部は、内燃機関の筒内に燃料を噴射するインジェクタであり、空燃比制御部は、内燃機関の膨張行程で燃料が燃焼する噴射時期で燃料噴射を行うようにインジェクタを制御し、流入O2量調整部は、触媒の温度が目標温度よりも低い場合、触媒の温度が目標温度以上である場合と比べて、噴射時期を遅角させてもよい。この場合、噴射時期を遅角させた燃料が膨張行程で燃焼することにより、排気温度が上昇する。そのため、触媒での酸化反応の発熱量が小さくて済むため、触媒で反応させる排気ガス中のO2量を低減することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、触媒の温度変動を抑えつつ、再生制御における触媒の温度を適切に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態に係る排気浄化装置を備えたエンジンシステムを示すブロック図である。
【
図2】COHC比率と補正係数との関係の一例を示す図である。
【
図3】触媒温度の制御処理を例示するフローチャートである。
【
図4】
図3の目標O
2量の算出処理を例示するフローチャートである。
【
図5】
図3のO
2量の調整処理を例示するフローチャートである。
【
図6】
図1の排気浄化装置の動作例を示すタイミングチャートである。
【
図7】
図6の動作例における触媒温度を示すタイミングチャートである。
【
図8】従来の排気浄化装置の動作例を示すタイミングチャートである。
【
図9】
図8の動作例における触媒温度を示すタイミングチャートである。
【
図10】O
2量の調整処理の変形例を説明するための図である。
【
図11】
図10のO
2量の調整処理を例示するフローチャートである。
【
図12】O
2量の調整処理の他の変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
【0015】
[排気浄化装置の概要]
図1は、実施形態に係る排気浄化装置を備えたエンジンシステムを示すブロック図である。
図1において、本実施形態に係る排気浄化装置1は、例えば車両に搭載されており、エンジン(内燃機関)2を備えるエンジンシステム100の一部を構成している。エンジン2は、例えば、複数の気筒(図示せず)を有するディーゼルエンジンである。
【0016】
排気浄化装置1は、エンジン2で燃焼後の排気ガスを排出するための排気流路3上に設けられたNSR[NOx Storage Reduction]4を備えている。NSR4は、エンジン2から排出される排気ガス中に含まれるNOx(窒素酸化物)を吸着し、排気ガスを浄化する触媒である。排気流路3では、NSR4の下流側にDPF[Diesel Particulate Filter]5が設けられている。DPF5は、排気ガス中に含まれるPM(煤等の粒子状物質)を捕集し、排気ガスを浄化する。
【0017】
排気浄化装置1は、NSR4に還元剤を供給することで、NSR4に吸着されたSOxを還元するNSR4の再生制御(いわゆるS再生)を実行可能に構成されている。再生制御では、所定の温度以上となっているNSR4に還元剤が供給される。ここでの還元剤とは、エンジン2の燃焼室内に燃料として供給され、燃焼室内で燃焼されて生じた排ガス中に含まれるCO(一酸化炭素)、H2(水素)、及びHC(炭化水素、つまり未燃燃料)とを意味する。NSR4に還元剤が供給されることで、NSR4においてSOxが還元されてSOxがNSR4から離脱する。再生制御の処理について、詳しくは後述する。
【0018】
[排気浄化装置の構成]
排気浄化装置1は、一例として、NSR4にO2を供給するO2供給部及びNSR4に還元剤を供給する還元剤供給部として機能するエンジン2を有している。
【0019】
エンジン2は、それぞれの気筒の燃焼室内に新気を供給するための吸気装置2aを有している。吸気装置2aは、燃焼室内に供給する新気の量(以下、単に筒内新気量という)を調整する。
【0020】
吸気装置2aは、例えば、スロットルバルブ及び可変容量ターボチャージャのコンプレッサを含んでいる(図示せず)。スロットルバルブは、例えば電子制御バタフライバルブである。スロットルバルブの動作は、後述のECU[Electronic Control Unit]10によって制御される。可変容量ターボチャージャは、コンプレッサとタービンとを有する過給機である。このタービンは、複数のベーンを駆動することで可変ノズル開度(以下、単にVN開度[Variable Nozzle]という)を変更可能な可変ノズルを有している。可変容量ターボチャージャのVN開度は、ECU10によって制御される。
【0021】
吸気装置2aは、筒内新気量を調整することで、燃焼室で燃焼して排気流路3に排出された排ガスに残存するO2の量を調整することができる。つまり、吸気装置2aは、NSR4にO2を供給するO2供給部として機能する。
【0022】
エンジン2は、それぞれの気筒の燃焼室内に燃料を噴射する複数のインジェクタ2bを有している。インジェクタ2bは、ECU10によって設定された燃料の量(以下、単に噴射燃料量という)及び噴射時期で燃料を噴射することで、燃焼室内に燃料を供給する。各インジェクタ2bには、コモンレール(図示せず)が接続されている。コモンレールは、各インジェクタ2bに供給される高圧燃料を貯留する。インジェクタ2bの噴射燃料量は、ECU10によって制御される。
【0023】
インジェクタ2bは、燃料の噴射として、メイン噴射と、メイン噴射の前に微小の燃料を噴射するパイロット噴射と、メイン噴射の後に微小の燃料を噴射するアフター噴射と、アフター噴射の後に噴射するポスト噴射とを行うことができる。
【0024】
インジェクタ2bは、噴射燃料量を調整することで、排気流路3に排出された排ガス中の還元剤の量を調整することができる。つまり、インジェクタ2bは、NSR4に還元剤を供給する還元剤供給部として機能する。
【0025】
エンジン2は、排気ガスの一部を排気再循環(EGR)ガスとして燃焼室内に還流するためのEGR装置2cを有している。EGR装置2cは、EGRガスの還流量を調整するEGRバルブ(図示せず)を含んでいる。EGRガスの還流量は、例えば、筒内新気量に対するEGRガスの還流量の割合に相当するEGR率(以下、単にEGR量という)で表されてもよい。EGR装置2cのEGR量は、EGRバルブを開閉するEGRバルブ駆動部(図示せず)がECU10によって制御されることによって調整される。
【0026】
EGR装置2cは、EGR量を調整することで、燃焼室で燃焼して排気流路3に排出された排ガスに残存するO2の量を調整することができる。つまり、EGR装置2cは、NSR4にO2を供給するO2供給部として機能する。
【0027】
続いて、排気浄化装置1は、排気流路3のNSR4の上流側に設けられた上流温度センサ(流入ガス温度取得部)6と、排気流路3のNSR4の下流側に設けられた下流温度センサ7と、排気流路3のDPF5の下流側に設けられたNOxセンサ8及び空燃比センサ(空燃比取得部)9と、各センサ6~9と接続されたECU10と、を備えている。
【0028】
上流温度センサ6は、NSR4に流入する排気ガスの温度である上流温度(以下、流入ガス温度という)を検出(取得)する検出器である。上流温度センサ6は、検出した流入ガス温度の検出信号をECU10に送信する。下流温度センサ7は、NSR4の下流側の排気ガスの温度(以下、単に下流温度という)を検出する検出器である。下流温度センサ7は、検出した下流温度の検出信号をECU10に送信する。
【0029】
NOxセンサ8は、DPF5の下流側の排気ガスのNOx濃度である下流NOx濃度を検出する検出器である。NOxセンサ8は、検出したNOx濃度の検出信号をECU10に送信する。空燃比センサ9は、DPF5の下流側の排気ガスの空燃比を検出する検出器である。つまり、空燃比センサ9は、NSR4の下流側の排気ガスの空燃比である下流空燃比を取得する。空燃比センサ9は、検出した下流空燃比の検出信号をECU10に送信する。
【0030】
ECU10は、NSR4の温度及び下流空燃比に基づいて、O2供給部及び還元剤供給部を制御する制御部である。ECU10は、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]、CAN[Controller Area Network]通信回路等を有する電子制御ユニットである。ECU10では、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより各種の機能を実現する。ECU10は、複数の電子制御ユニットから構成されていてもよい。
【0031】
ECU10は、機能的構成として、エンジン状態取得部11と、触媒温度取得部12と、排気ガス流量取得部13と、比率取得部14と、再生制御実行部15と、空燃比制御部16と、流入O2量調整部17と、を有している。
【0032】
エンジン状態取得部11は、エンジン状態を取得する。エンジン状態取得部11は、例えば、アクセル開度センサ(図示せず)で検出されたアクセル開度、エアフローセンサ(図示せず)で検出された吸入空気量、及び、エンジン回転数センサ(図示せず)で検出されたエンジン2のエンジン回転数を、エンジン状態として取得する。エンジン状態取得部11は、例えば、検出されたアクセル開度とエンジン回転数とに基づいて、エンジン2の要求トルクに応じた基本噴射燃料量をエンジン状態として取得する。エンジン状態取得部11は、例えば、検出されたアクセル開度とエンジン回転数とに基づいて、基本噴射燃料量に対する筒内空燃比の補正のための筒内空燃比補正係数をエンジン状態として取得する。エンジン状態取得部11は、例えば公知の手法により、エンジン回転数及び要求トルクなどに基づいて燃料噴射の噴射時期を算出してもよい。噴射時期とは、インジェクタ2bに燃料の噴射を開始させる時期を意味する。エンジン状態取得部11は、NSR4における排ガスの通過量、吸入空気量及び噴射燃料量に基づいて、NSR4における硫黄分の推定堆積量を算出してもよい。推定堆積量は、例えば、噴射燃料量に基づいて算出される燃料消費量の時間積算値に、単位重量当たりの硫黄分の濃度を乗算することで算出されてもよい。推定堆積量は、後述の再生制御実行部15により、NSR4の再生が必要か否かを判断するために用いられる。エンジン状態取得部11は、例えば、検出されたアクセル開度とエンジン回転数とに基づいて、再生制御を実行していない場合の基本EGR量を算出する。エンジン状態取得部11は、その他、噴射燃料量、筒内新気量、及びEGR量を補正するための環境パラメータ(例えば大気圧等)をエンジン状態として取得してもよい。
【0033】
触媒温度取得部12は、NSR4の温度Tを取得する。触媒温度取得部12は、例えば、上流温度センサ6で検出した流入ガス温度と下流温度センサ7で検出した下流温度とエンジン状態とに基づいて、NSR4の温度Tを推定する。触媒温度取得部12は、公知の推定手法により、NSR4の温度Tを推定することができる。なお、NSR4の温度Tとは、NSR4の床温のことである。
【0034】
ここでの触媒温度取得部12は、温度Tの一例として、NSR4の上段側の上段温度と、NSR4の下段側の下段温度と、をNSR4の温度Tとして推定する。NSR4の上段側とは、NSR4における排気流路3の排気ガスの流れ方向上流側の部分を意味する。NSR4の下段側とは、NSR4における排気流路3の排気ガスの流れ方向下流側の部分を意味する。触媒温度取得部12は、下段温度に代えて、あるいは下段温度に加えて、NSR4の中段の中段温度を更に推定してもよい。NSR4の中段とは、NSR4における上段側と下段側との間の部分を意味する。
【0035】
排気ガス流量取得部13は、NSR4を流通する排気ガスの流量である排気ガス流量を取得する。排気ガス流量取得部13は、例えば、吸入空気量に基づいて排気ガス流量を算出してもよい。排気ガス流量取得部13は、吸入空気量を用いた公知の手法により、排気ガス流量を算出することができる。
【0036】
比率取得部14は、NSR4に流入する排気ガス中のCOとHCとの比率(以下、単にCOHC比率という)を取得する。COHC比率は、例えば、NSR4に流入する排気ガス中のCOの濃度(g/s)をNSR4に流入する排気ガス中のHCの濃度(g/s)で除算した比率であってもよい。比率取得部14は、例えば、筒内空燃比と筒内温度(燃焼温度)に応じて定まる燃焼特性(排気ガスの成分の特性)に応じて、COHC比率を算出してもよい。
【0037】
具体的には、比率取得部14は、エンジン回転数と基本噴射燃料量とに応じて規定されたマップを用いて、基本COHC比率を算出する。基本COHC比率は、基本噴射燃料量に応じた筒内空燃比の場合の筒内温度に応じたCOHC比率を意味する。比率取得部14は、例えば、筒内空燃比補正係数に応じて規定されたマップを用いて、基本COHC比率に対する筒内空燃比の補正のためのCOHC比率補正係数を算出する。比率取得部14は、基本COHC比率とCOHC比率補正係数とを乗算することにより、COHC比率を算出する。基本COHC比率及びCOHC比率補正係数は、例えばエンジン2の実機試験又はシミュレーション等により予め設定することができる。
【0038】
あるいは、比率取得部14は、推定筒内温度と筒内空燃比とに応じて規定されたマップを用いて、COHC比率を算出してもよい。この場合、比率取得部14は、例えば、エンジン2の圧縮比、充填効率、吸気温度、水温等に基づいて、推定筒内温度を算出してもよい。比率取得部14は、例えば、筒内空燃比として下流空燃比を用いてもよいし、吸入空気量、基本噴射燃料量、筒内空燃比補正係数等に基づいて筒内空燃比を推定してもよい。
【0039】
再生制御実行部15は、NSR4に還元剤を供給することでNSR4を再生する再生制御を実行する。再生制御実行部15は、例えば、推定堆積量が所定の堆積量閾値を超えた場合に、再生制御を実行する。堆積量閾値は、再生制御を実行するか否かを判定するための推定堆積量の閾値である。堆積量閾値は、例えば、要求される排気ガス浄化能力の要件等によって設定される。
【0040】
再生制御では、例えば、NSR4の温度Tが目標温度以上となるように、O2供給部及び還元剤供給部としてのエンジン2が制御される。目標温度は、再生制御中におけるNSR4の温度Tの目標値である。目標温度は、NSR4の再生活性温度範囲内において予め設定された温度T1とすることができる。再生活性温度範囲は、再生制御においてNSR4の再生を好適に進行させることができるNSR4の温度Tの範囲を意味する。温度T1は、再生活性温度範囲の下限温度(例えば640℃)であってもよい。温度T1は、時間的に変化してもよく、例えば再生制御の開始からの経過時間に応じて段階的に変化してもよい。
【0041】
再生制御実行部15は、例えば、再生制御の実行中にNSR4のS被毒量を推定し、推定したS被毒量が所定の閾値を下回った場合に、再生制御を終了する。再生制御実行部15は、例えば、NSR4の温度Tと下流空燃比とを引数とするマップ等に基づいて、S被毒量を推定することができる。なお、再生制御実行部15は、再生制御の実行時間が所定の時間閾値に達した場合、再生制御を終了してもよい。
【0042】
空燃比制御部16は、例えば、空燃比センサ9からの検出信号に基づいて、下流空燃比を取得する。空燃比制御部16は、再生制御中における下流空燃比の目標値である目標空燃比を設定する。目標空燃比は、再生制御における排気ガスを、NSR4の再生を好適に進行させることができる還元雰囲気にするための下流空燃比の目標値である。目標空燃比は、再生制御を実行していない場合の下流空燃比よりもリッチ側の空燃比となるように予め設定されている。目標空燃比は、例えばエンジン2の仕様及びNSR4の仕様等に応じて設定されている。目標空燃比としては、特に限定されないが、例えば15以下のA/F(空燃比)とすることができる。目標空燃比は、例えば、再生制御中において略一定とされる。
【0043】
目標空燃比の一例として、
図6に示されるように、空燃比制御部16は、再生制御中の目標空燃比をAF2に設定してもよい。
図6は、排気浄化装置1の動作例を示すタイミングチャートである。
図6において、横軸は時間を示しており、実線にて下流空燃比が示されている。右縦軸は下流空燃比のA/Fを示しており、左縦軸はNSR4からのSOx放出量を示している(SOx放出量については後述)。
図6の例では、時刻t1において再生制御が開始されている。空燃比制御部16は、再生制御中の目標空燃比のAF2を、再生制御を実行していない場合の空燃比のAF1よりもリッチ側の空燃比に設定する。
【0044】
なお、空燃比制御部16は、例えば、エンジン2がアイドリング中の場合には、目標空燃比を更にリッチ側に所定値だけ補正してもよい。所定値は、例えば、アイドリング中におけるエンジン2の燃焼の安定性に応じて設定することができる。また、所定値は、排気ガス流量が小さいほど大きい値であってもよい。
【0045】
空燃比制御部16は、例えば、下流空燃比が目標空燃比となるようにインジェクタ2bを制御する。空燃比制御部16は、インジェクタ2bの制御として、例えば出力トルクに対する寄与が小さいポスト噴射の噴射燃料量を調整することで、下流空燃比を調整してもよい。空燃比制御部16は、空燃比センサ9で検出された下流空燃比に基づいて、目標空燃比を目標値とする燃料のフィードバック制御を行うことで、下流空燃比が目標空燃比となるようにポスト噴射の噴射燃料量を制御してもよい。燃料のフィードバック制御としては、公知の手法を用いることができる。
【0046】
流入O2量調整部17は、再生制御中におけるNSR4の目標温度を設定すると共に、NSR4の温度Tと目標温度とに基づいて、NSR4の温度Tが目標温度となるようにNSR4に流入する排気ガス中のO2量を調整する。O2量とは、NSR4の温度Tの上昇のためにNSR4における還元剤の酸化反応に供されるO2の量を意味する。O2量は、排気ガス中に含まれるO2の濃度で表され、例えば、排気ガス中に含まれるO2の質量流量(g/sec)であってもよい。
【0047】
より具体的には、流入O2量調整部17は、例えば、再生制御中において目標温度と流入ガス温度と排気ガス流量とに基づいて、温度偏差を算出すると共に、O2量の目標値である目標O2量を算出する。流入O2量調整部17は、例えば、上流温度センサ6からの検出信号に基づいて、流入ガス温度を取得する。流入O2量調整部17は、例えば、下記の式(1)~式(3)を用いて、基本目標O2量を算出する。基本目標O2量は、例えばCOHC比率が0の場合(つまり排気ガス中にCOが含まれていない場合)にNSR4に流入させるO2量の目標値である。目標O2量は、COHC比率に応じたO2量の目標値である。
基本目標O2量=排気ガス流量×比熱×温度偏差×係数K/発熱量・・(1)
係数K =O2分子量/還元剤分子量 ・・(2)
目標O2量 =基本目標O2量×補正係数 ・・(3)
【0048】
式(1)において、「排気ガス流量」は、排気ガス流量取得部13で取得した排気ガス流量である。「比熱」は、排気ガスの比熱であり、例えば再生制御中において代表的な所定成分を有する排気ガスの比熱である。代表的な所定成分とは、例えば下流空燃比が目標空燃比となっており上述のEGR量の減量をしていない場合の排気ガスの成分とすることができる。「温度偏差」は、流入ガス温度と目標温度との偏差であり、流入ガス温度が目標温度よりも低い場合に正の値となる。「発熱量」は、NSR4における還元剤の発熱量であり、例えば排気ガス中のHCの単位質量当たりの燃焼熱を用いることができる。排気ガス中のHCの燃焼熱としては、例えば、予め選定された化合物の値で代表させてもよいし、燃料中のHC成分の組成に応じた平均値を用いてもよい。「発熱量」は、例えば、燃料の性状等に応じて、排気ガス中のCOの単位質量当たりの燃焼熱が考慮されていてもよい。
【0049】
式(2)において、「O2分子量」は、排気ガス中のO2の分子量である。「還元剤分子量」は、排気ガス中のHC及びCOの分子量である。排気ガス中のHC及びCOの分子量としては、例えば、予め選定した化合物の分子量で代表させてもよいし、燃料中のHC成分の組成に応じた平均分子量を用いてもよい。「O2分子量」及び「還元剤分子量」には、特に係数が付されていないが、還元剤の酸化反応における反応モル比に応じた係数が乗算されてもよし、予め適合試験により決定された係数が乗算されてもよい。
【0050】
式(1)及び(2)において、「比熱」、「目標温度」、「発熱量」、「O2分子量」、及び「還元剤分子量」については、例えばECU10のROM等に予め記憶されたパラメータであってもよい。
【0051】
流入O
2量調整部17は、例えば、COHC比率が大きくなるに従ってO
2量が大きくなるように、O
2量を調整する。ここでの流入O
2量調整部17は、例えば
図2に示されるように、COHC比率に基づいて、基本目標O
2量を補正するための補正係数を算出してもよい。
図2は、COHC比率と補正係数との関係の一例を示す図である。
図2において、横軸はCOHC比率を示しており、縦軸は補正係数を示している。補正係数は、正の値であり、例えばCOHC比率が0の場合(つまり排気ガス中にCOが含まれていない場合)、「1」となる。補正係数は、COHC比率が大きくなるに従って「1」よりも大きくなる。したがって、流入O
2量調整部17は、上記式(3)のように基本目標O
2量に補正係数を乗算することにより、COHC比率が大きくなるに従ってO
2量が大きくなるように、目標O
2量を算出する。
【0052】
流入O2量調整部17は、再生制御中にNSR4に流入する排気ガス中のO2量が、算出した目標O2量となるように、O2量を調整する。流入O2量調整部17は、例えば、再生制御におけるO2量が目標O2量となるようにEGR装置2cを制御することで、O2量を調整する。より詳しくは、流入O2量調整部17は、吸入空気量とEGR量(EGR率)と筒内への燃料噴射量と推定燃焼燃料量とに基づいて、再生制御における筒内の実O2量を算出してもよい。推定燃焼燃料量は、筒内へ噴射された燃料噴射量のうち燃焼したと推定される燃料量を意味する。推定燃焼燃料量は、例えば、推定筒内温度(上述)及び推定筒内圧力を引数とするマップ等に基づいて算出することができる。この場合、流入O2量調整部17は、例えば、エンジン状態取得部11で算出された噴射時期、エンジン2の圧縮比、充填効率、吸気温度、水温等に基づいて、推定筒内圧力を算出してもよい。なお、例えばNSR4に温度センサが設けられている場合、当該温度センサの検出結果に基づいて、実際のNSR4の温度変化に応じて推定燃焼燃料量の算出に係るパラメータの学習が行われてもよい。流入O2量調整部17は、実O2量が目標O2量となるように、EGR装置2cの制御量(例えばEGRバルブの開度又はEGRバルブ駆動部の駆動量)を調整し、EGR量(EGR率)を調整してもよい。
【0053】
流入O2量調整部17は、再生制御中においてNSR4の温度Tが目標温度よりも低い場合、NSR4の温度Tが目標温度以上である場合と比べて、エンジン2におけるEGR量を減量させるようにEGR装置2cを制御する。一例として、エンジン2の運転条件を同一とした場合に、再生制御中においてNSR4の温度Tが目標温度以上であるときのEGR量としては、再生制御を実行していないときの基本EGR量が用いられてもよい。この場合、流入O2量調整部17は、再生制御中においてNSR4の温度Tが目標温度よりも低い場合、EGR量が基本EGR量よりも減量されるように、EGR装置2cを制御してもよい。これにより、筒内のEGR量の減量に応じて筒内新気量が増加するため、NSR4に流入する排気ガス中のO2量が増加する。その結果、NSR4において酸化発熱が増加することで、NSR4の温度Tが上昇する。
【0054】
なお、流入O2量調整部17は、再生制御中において、NSR4の温度Tが目標温度以上である場合、EGR量を基本EGR量に戻すようにEGR装置2cを制御してもよい(EGR量の減量の解除)。
【0055】
[ECU10による演算処理の一例]
次に、ECU10による演算処理の一例について説明する。
図3は、触媒温度の制御処理を例示するフローチャートである。
図3に示される処理は、例えば、再生制御中において、所定の演算周期ごとに繰り返し実行される。
【0056】
図3に示されるように、ECU10は、S01において、エンジン状態取得部11により、エンジン状態の取得を行う。エンジン状態取得部11は、例えば、吸入空気量、エンジン回転数、基本噴射燃料量、筒内空燃比補正係数、推定堆積量、及び基本EGR量をエンジン状態として取得する。
【0057】
S02において、ECU10は、流入O2量調整部17により、目標温度の設定を行う。流入O2量調整部17は、例えば、再生活性温度範囲の下限温度に目標温度を設定する。S03において、ECU10は、空燃比制御部16により、目標空燃比の設定を行う。空燃比制御部16は、例えば、再生制御を実行していない場合の下流空燃比よりもリッチ側の空燃比となるように目標空燃比を設定する。S04において、ECU10は、空燃比制御部16により、下流空燃比の調整を行う。空燃比制御部16は、空燃比制御部16は、例えばポスト噴射の噴射燃料量を調整することで、空燃比センサ9からの検出信号に基づいて取得される下流空燃比を調整する。
【0058】
S05において、ECU10は、主として流入O
2量調整部17により、目標O
2量の算出を行う。具体的には、ECU10は、
図4の処理を行う。
図4は、
図3の目標O
2量の算出処理を例示するフローチャートである。
【0059】
図4に示されるように、S11において、ECU10は、流入O
2量調整部17により、流入ガス温度の取得を行う。流入O
2量調整部17は、例えば、上流温度センサ6からの検出信号に基づいて、流入ガス温度を取得する。S12において、ECU10は、排気ガス流量取得部13により、排気ガス流量の取得を行う。排気ガス流量取得部13は、例えば、吸入空気量に基づいて排気ガス流量を算出する。S13において、ECU10は、流入O
2量調整部17により、温度偏差の算出を行う。流入O
2量調整部17は、流入ガス温度と目標温度とに基づいて、温度偏差を算出する。S14において、ECU10は、流入O
2量調整部17により、基本目標O
2量の算出を行う。流入O
2量調整部17は、例えば、上記の式(1)及び式(2)を用いて、基本目標O
2量を算出する。
【0060】
S15において、ECU10は、比率取得部14により、COHC比率の取得を行う。比率取得部14は、例えば、エンジン回転数と基本噴射燃料量とに応じて規定されたマップ及び筒内空燃比補正係数に応じて規定されたマップを用いて算出された基本COHC比率とCOHC比率補正係数とを乗算することにより、COHC比率を算出する。S16において、ECU10は、流入O
2量調整部17により、基本目標O
2量を補正するための補正係数の算出を行う。流入O
2量調整部17は、例えば、COHC比率に基づいて補正係数を算出する。S17において、ECU10は、流入O
2量調整部17により、目標O
2量の算出を行う。流入O
2量調整部17は、例えば、上記の式(3)を用いて、目標O
2量を算出する。その後、ECU10は、
図4の処理を終了し、
図3のS06に移行する。
【0061】
S06において、ECU10は、主として流入O
2量調整部17により、O
2量の調整を行う。具体的には、ECU10は、
図5の処理を行う。
図5は、
図3のO
2量の調整処理を例示するフローチャートである。
【0062】
図5に示されるように、ECU10は、S21において、触媒温度取得部12及び流入O
2量調整部17により、NSR4の温度Tが目標温度よりも低いか否かの判定を行う。触媒温度取得部12は、例えば、上流温度センサ6で検出した流入ガス温度と下流温度センサ7で検出した下流温度とエンジン状態とに基づいて、NSR4の温度T(例えばNSR4の上段温度)を推定する。流入O
2量調整部17は、例えば、触媒温度取得部12で推定したNSR4の温度Tが目標温度よりも低いか否かを判定する。
【0063】
NSR4の温度Tが目標温度よりも低いと流入O
2量調整部17により判定された場合(S21:YES)、ECU10は、S22において、流入O
2量調整部17により、EGR量の減量を行う。流入O
2量調整部17は、例えば、EGR量が基本EGR量よりも減量されるように、EGR装置2cを制御する。その後、ECU10は、
図5の処理を終了すると共に、
図3の処理を終了する。
【0064】
一方、NSR4の温度Tが目標温度以上であると流入O
2量調整部17により判定された場合(S21:NO)、ECU10は、S23において、流入O
2量調整部17により、EGR量の減量の解除を行う。流入O
2量調整部17は、例えば、EGR量を基本EGR量に戻すように、EGR装置2cを制御する。その後、ECU10は、
図5の処理を終了すると共に、
図3の処理を終了する。
【0065】
[排気浄化装置1の動作例]
以上説明した排気浄化装置1により、一例として、
図7に示されるように、NSR4の温度Tが推移する。
図7は、
図6の動作例における触媒温度を示すタイミングチャートである。
図7において、横軸は時間であり、縦軸はNSR4の温度Tである。
図7では、実線にてNSR4の上段温度が示されており、破線にてNSR4の下段温度が示されている。
【0066】
図7の例では、時刻t1において再生制御が開始されると共に、下流空燃比が目標空燃比となるように空燃比制御部16によってインジェクタ2bが制御される。これにより、下流空燃比は目標空燃比のAF2付近に維持される(
図6参照)。時刻t1においてNSR4の上段温度が目標温度の温度T1(640℃)未満となっているため、流入O
2量調整部17によるEGR量の減量が実行される。これにより、NSR4において酸化発熱が増加するため、NSR4の温度Tが上昇することとなる(
図7のt1~t2)。
図7の時刻t2において、NSR4の温度Tが約640℃となり、NSR4の温度Tが目標温度以上となったため、上述のEGR量の減量が解除される。なお、排気浄化装置1での目標空燃比(
図6のAF2)は、従来の手法の空燃比のリッチ(
図8のAF0)よりも、リッチ側であってもよい。
【0067】
ここで、従来の手法を
図8及び
図9に示す。
図8は、従来の排気浄化装置の動作例を示すタイミングチャートである。
図8において、横軸は時間を示しており、実線にて下流空燃比が示されている。右縦軸は下流空燃比のA/Fを示しており、左縦軸は触媒からのSOx放出量を示している。
図9は、
図8の動作例における触媒温度を示すタイミングチャートである。
図9において、横軸は時間であり、縦軸は触媒の温度である。
図9では、実線にて触媒の上段温度が示されており、破線にて触媒の下段温度が示されている。
【0068】
図8に示されるように、従来の手法の場合、再生制御におけるリッチ空燃比により、触媒の目標温度に対して過剰な発熱が生じる場合がある。そのため、触媒でのエネルギーバランスをとるために、空燃比がリッチとリーンとに交互に繰り返される。従来の手法におけるリーンとは、例えばA/Fが20以上である。このように空燃比を変化させると、
図9に示されるように、触媒に流入する排気ガス中のO
2量が大きく変化してしまい、触媒温度が大きく周期的に変化するため、触媒の再生に適した温度となるように触媒の温度を調整することが難しい。
【0069】
特に、触媒の前段側では、後段側に比べて触媒温度の変化の振幅が大きい傾向があることから、触媒の前段側の温度が下がり過ぎて触媒の再生に必要な触媒温度(
図9の例では、約640℃)よりも低くなり易い。その結果、触媒からのSOx放出量(
図8の破線)は、触媒温度が周期的に低下するのに応じて周期的に減少してしまう。換言すれば、触媒の前段側と後段側との温度バラツキが大きくなってしまうことにより、触媒全体としての再生効率が低下し、触媒を十分に再生するためにより多くの時間を要してしまう。
【0070】
この点、排気浄化装置1によれば、
図7に示されるように、NSR4の温度Tが上昇される。また、再生制御における目標空燃比がリッチとリーンとに交互に繰り返されないため(
図6参照)、
図7のNSR4の温度Tは、一定の振幅をもって周期的に変化するのではなく、安定的に目標温度以上の状態が継続するように推移する。その結果、NSR4においてSOxの還元反応を連続的に生じさせることができるため、SOxをNSR4から効率良く離脱させることが可能となる。例えば、あるピーク値まで単調に増加し、ピーク値以降は一次遅れの減衰曲線のように推移するようなSOx放出量(
図6の破線)を実現可能となる。
【0071】
[排気浄化装置1の作用効果]
以上説明した排気浄化装置1では、空燃比制御部16により、再生制御中における下流空燃比が目標空燃比となるようにインジェクタ2bが制御される。例えば下流空燃比が還元雰囲気となっている場合、NSR4での発熱反応の量が排気ガス中のO2量に支配される。そのため、O2量の調整によりNSR4での発熱量を調整することができる。よって、流入O2量調整部17により、NSR4の温度Tが目標温度となるようにNSR4に流入する排気ガス中のO2量を調整することで、NSR4での発熱量を調整することができる。その結果、例えば排気ガスの空燃比のリッチとリーンとが交互に繰り返される場合と比較して、NSR4の温度変動を抑えつつ、再生制御におけるNSR4の温度Tを適切に調整することができる。また、EGR装置2cを用いて、排気ガス中のO2量を容易に調整することができる。
【0072】
また、COの発熱量がHCの発熱量よりも小さいため、例えば一定の発熱量をNSR4で生じさせるためには、排気ガス中のCOとHCとの比率が大きくなるほどCOと反応させるO2量が大きくなる。したがって、排気浄化装置1では、COとHCとの比率が大きくなるに従ってO2量が大きくなるように、流入O2量調整部17によってO2量を調整することで、再生制御におけるNSR4の温度Tをより適切に調整することができる。
【0073】
排気浄化装置1は、NSR4に流入する排気ガスの温度である流入ガス温度を取得する上流温度センサ6と、NSR4を流通する排気ガスの流量である排気ガス流量を取得する排気ガス流量取得部13と、を更に備えている。流入O2量調整部17は、目標温度と流入ガス温度と排気ガス流量とに基づいてO2量の目標値である目標O2量を算出し、O2量が目標O2量となるようにO2量を調整させる。これにより、目標温度と流入ガス温度と排気ガス流量とに基づいて算出した目標O2量を、例えば見込み制御量として用いることで、O2量の調整の制御性を向上させることができる。
【0074】
なお、排気浄化装置1では、NSR4全体としての再生効率の向上が可能となるため、NSR4の再生時間の短縮化を図ることができる。なお、再生制御の時間を短縮できる結果、NSR4の温度Tが高い状態の時間を抑制(熱履歴の増加を抑制)できるため、NSR4に担持された貴金属の劣化(シンタリング)を抑制することができる。
【0075】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。
【0076】
上記実施形態では、流入O
2量調整部17は、O
2量を調整するためにEGR装置2cを制御したが、インジェクタ2bを制御することでO
2量を調整してもよい。例えば、流入O
2量調整部17は、NSR4の温度Tが目標温度よりも低い場合、NSR4の温度Tが目標温度以上である場合と比べて、噴射時期を遅角させてもよい。この場合、空燃比制御部16は、遅角させた噴射時期として、エンジン2の膨張行程で燃料が燃焼する噴射時期でポスト噴射を行うようにインジェクタ2bを制御する。エンジン2の膨張行程で燃料が燃焼する噴射時期とは、具体的には、
図10に示されるように、TDC(上死点)よりも遅角側の噴射時期であって、流入ガス温度が極大値を取るような噴射時期よりも進角側の噴射時期を意味する。このような噴射時期の範囲内においては、エンジン2の膨張行程で燃料が燃焼するため、噴射時期を遅角させるほど、流入ガス温度が上昇する。
【0077】
当該変形例において
図3のS06に対応するO
2量の調整処理について詳述する。
図11は、
図3のO
2量の調整処理を例示するフローチャートである。
図11に示されるように、ECU10は、S31において、触媒温度取得部12及び流入O
2量調整部17により、NSR4の温度Tが目標温度よりも低いか否かの判定を行う。流入O
2量調整部17は、例えば、触媒温度取得部12で推定したNSR4の温度Tが目標温度よりも低いか否かを判定する。
【0078】
NSR4の温度Tが目標温度よりも低いと流入O
2量調整部17により判定された場合(S31:YES)、ECU10は、S32において、流入O
2量調整部17により、噴射時期の遅角を行う。流入O
2量調整部17は、例えば、NSR4の温度Tが目標温度以上である場合の噴射時期よりも遅角側の噴射時期でポスト噴射するように、インジェクタ2bを制御する。その後、ECU10は、
図11の処理を終了すると共に、
図3の処理を終了する。
【0079】
一方、NSR4の温度Tが目標温度以上であると流入O
2量調整部17により判定された場合(S31:NO)、ECU10は、S33において、流入O
2量調整部17により、噴射時期の遅角の解除(遅角させていた噴射時期の進角)を行う。流入O
2量調整部17は、例えば、ポスト噴射の噴射時期をNSR4の温度Tが目標温度以上である場合の噴射時期に戻すように、インジェクタ2bを制御する。その後、ECU10は、
図11の処理を終了すると共に、
図3の処理を終了する。
【0080】
このような噴射時期の遅角によるO2量の調整では、噴射時期を遅角させた燃料が膨張行程で燃焼することにより、流入ガス温度(排気温度)が上昇する。そのため、NSR4での酸化反応の発熱量が小さくて済むため、NSR4で反応させる排気ガス中のO2量を低減することができる。なお、当該インジェクタ2bの制御をO2供給部の制御と併用してO2量を調整してもよいし、併用しなくてもよい。
【0081】
なお、流入O
2量調整部17は、NSR4の温度Tが目標温度よりも低い場合、NSR4の温度Tが目標温度以上である場合と比べて、噴射燃料量を低減させてもよい。この場合、
図12に示されるように、噴射燃料量(筒内噴射量)が低減されるほど筒内での燃焼に供される筒内新気量が低減されるため、残存するO
2量(O
2濃度)が増加する。この場合、空燃比制御部16は、下流空燃比が目標空燃比となるように、エンジン2の膨張行程で燃焼しない燃料を追加で噴射するようにインジェクタ2bを制御してもよい。
【0082】
上記実施形態では、O2量を調整するためにEGR装置2cを制御したが、EGR装置2cに代えて、あるいはEGR装置2cと共に、吸気装置2aを制御することでO2量を調整してもよい。例えば、流入O2量調整部17は、再生制御中においてNSR4の温度Tが目標温度よりも低い場合、NSR4の温度Tが目標温度以上である場合と比べて、筒内新気量を増加させるように吸気装置2aを制御してもよい。なお、O2量を変更できるものであれば、その他の構成をO2供給部として機能させてもよい。例えば、可変バルブタイミング機構、可変バルブリフト機構、排気流路3に設けられた2次エア装置、等をO2供給部として機能させてもよい。
【0083】
上記実施形態では、流入O2量調整部17は、比率取得部14によって算出されたCOHC比率を用いて、COHC比率が大きくなるに従ってO2量が大きくなるように、O2量を調整したが、これに限定されない。流入O2量調整部17は、COHC比率を用いる場合、必ずしもCOHC比率が大きくなるに従ってO2量を大きくしなくてもよい。例えば、COHC比率は、上記実施形態の例の逆数であってもよい。具体的には、COHC比率は、NSR4に流入する排気ガス中のHCの濃度(g/s)をNSR4に流入する排気ガス中のCOの濃度(g/s)で除算した比率であってもよい。この場合、流入O2量調整部17は、COHC比率が小さくなるに従ってO2量が大きくなるように、O2量を調整してもよい。あるいは、COHC比率の分子又は分母には、HCの濃度又はCOの濃度とは別のパラメータ(例えば補正係数、比例定数など)が含まれていてもよい。なお、流入O2量調整部17は、COHC比率を用いることなくO2量を調整してもよい。
【0084】
上記実施形態では、流入O2量調整部17は、目標O2量を算出し、算出した目標O2量となるようにO2量を調整したが、必ずしも目標O2量を算出しなくてもよい。この場合、流入O2量調整部17は、例えば、流入ガス温度と目標温度との温度偏差に応じた制御量が予め記憶されたパラメータ又はマップ等に基づいて吸気装置2a、EGR装置2c、インジェクタ2b等を制御することにより、O2量を調整してもよい。
【0085】
上記実施形態では、流入ガス温度取得部として上流温度センサ6を例示したが、流入ガス温度取得部としてECU10における推定処理を用いて流入ガス温度を取得してもよい。
【0086】
上記実施形態では、空燃比取得部として空燃比センサ9を例示したが、空燃比取得部としてECU10における推定処理を用いて推定下流空燃比を取得してもよい。
【0087】
上記実施形態では、エンジン2のインジェクタ2bが還元剤供給部として機能したが、例えば、還元剤供給部として機能する添加弁が排気流路3に配設されていてもよい。この場合、筒内の燃焼状態の変化を抑えつつ、NSR4に還元剤を供給することができるため、例えばアイドリング中などにおいて有利となる。また、還元剤として燃料の供給に代えて、CO及びH2等を供給してもよい。また、O2量を調整するためのインジェクタ2bの燃料噴射としてポスト噴射を例示したが、これに限定されない。
【0088】
上記実施形態では、流入O2量調整部17によってCOHC比率に基づいて目標O2量を算出する処理をフィードフォワードで実行したが、フィードバックで実行してもよい。例えば、下流温度センサ7で検出した下流温度と目標温度との偏差に基づいて、比率取得部14で算出したCOHC比率とNSR4に流入する排気ガスの実際のCOHC比率とのズレを補償するように、比率取得部14で算出したCOHC比率を補正してもよい。この場合、例えば、下流温度が目標温度よりも所定温度以上高い場合には、実際のCOHC比率の方が比率取得部14で算出したCOHC比率よりも小さいとして、目標O2量を算出する処理に用いるCOHC比率を、比率取得部14で算出したCOHC比率よりも小さくしてもよい。これにより、O2量の調整の制御性を一層向上させることができる。
【0089】
上記実施形態では、再生制御実行部15は、推定堆積量が所定の堆積量閾値を超えた場合に、再生制御を実行したが、例えばNOxセンサ8のセンサ値を用いた公知の手法により、再生制御を実行するか否かを判定してもよい。
【0090】
上記実施形態では、NSR4の上流に他の触媒が設けられていないが、例えばNSR4の上流にDOC[Diesel Oxidation Catalyst]が設けられていてもよい。この場合、上流温度センサ6は、DOCの上流に設けられればよい。また、DOCでの発熱及びDOCからNSR4までの放熱の影響を考慮してもよく、公知の手法を用いて補正することができる。
【0091】
上記実施形態では、触媒温度取得部12は、NSR4の温度Tを推定により取得したが、例えばNSR4の担体に設けられた温度センサを用いて、NSR4の温度を直接的に取得してもよい。
【0092】
上記実施形態では、NSR4の温度TとしてNSR4の上段温度を用いたが、これに限定されない。NSR4の温度Tとして、中段温度又は下段温度を用いてもよいし、上段温度、中段温度及び下段温度の少なくとも2つの平均値を用いてもよい。平均値は、上段温度、中段温度及び下段温度の重み付けを考慮してもよい。
【0093】
上記実施形態では、エンジン2はディーゼルエンジンであったが、例えばガソリンエンジン等、その他の内燃機関であってもよい。
【符号の説明】
【0094】
1…排気浄化装置、2…エンジン(内燃機関)、2b…インジェクタ(還元剤供給部)、2c…EGR装置、3…排気流路、4…NSR(触媒)、6…上流温度センサ(流入ガス温度取得部)、9…空燃比センサ(空燃比取得部)、10…ECU、11…エンジン状態取得部、12…触媒温度取得部、13…排気ガス流量取得部、14…比率取得部、16…空燃比制御部、17…流入O2量調整部。