(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】β型サイアロン蛍光体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 11/08 20060101AFI20230111BHJP
C09K 11/64 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C09K11/08 G
C09K11/64
(21)【出願番号】P 2019031766
(22)【出願日】2019-02-25
【審査請求日】2021-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】近藤 良祐
(72)【発明者】
【氏名】小林 慶太
(72)【発明者】
【氏名】三谷 駿介
(72)【発明者】
【氏名】梶山 亮尚
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/152341(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/104286(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
H01L 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
β型サイアロン粒子を準備する準備工程と、
前記β型サイアロン粒子とシリコーンオイルとを共存させた状態で加熱処理を行う表面処理工程と、
を含む、β型サイアロン蛍光体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法であって、
前記表面処理工程において、加熱処理の温度を180℃以上400℃以下とする、
β型サイアロン蛍光体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法であって、
前記表面処理工程において、大気雰囲気下、湿度80%以下の条件で行う、
β型サイアロン蛍光体の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法であって、
前記シリコーンオイルが、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、およびこれらの変性体からなる群から選ばれる一または二以上を含む、
β型サイアロン蛍光体の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法であって、
前記表面処理工程において、前記シリコーンオイルの添加量は、β型サイアロン蛍光体100重量%に対して、0.01重量%以上10重量%以下である、
β型サイアロン蛍光体の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法であって、
前記β型サイアロン粒子の平均粒子径d50が0.1μm以上50μm以下である、
β型サイアロン蛍光体の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法であって、
前記β型サイアロン粒子が、一般式Si
6-zAl
zO
zN
8-z:Eu
2+(0<z≦4.2)で示され、Eu
2+を固溶させたβ型サイアロンで構成される、
β型サイアロン蛍光体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β型サイアロン蛍光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでβ型サイアロン蛍光体において様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、β型Si3N4結晶構造を持つ窒化物または酸窒化物の結晶中に金属元素M(ただし、Mは、Mn、Ce、Euから選ばれる1種または2種以上の元素)が固溶してなり、励起源を照射することにより波長500nmから600nmの範囲の波長にピークを持つ蛍光を発光することを特徴とする蛍光体が記載されている(特許文献1の請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載のβ型サイアロン蛍光体において、発光装置に適用した際の輝度維持率の点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
β型サイアロンは加水分解されやすく、それによって発光装置に適用した際に輝度の継時的変化を引き起こす恐れがある。本発明者はさらに検討したところ、シリコーンオイルによってβ型サイアロン粒子の表面をコーティング(被覆)するとともに、それに対して加熱処理を行うことで、発光装置の信頼性を向上できるβ型サイアロン蛍光体を実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明によれば、
β型サイアロン粒子を準備する準備工程と、
前記β型サイアロン粒子とシリコーンオイルとを共存させた状態で加熱処理を行う表面処理工程と、
を含む、β型サイアロン蛍光体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、発光装置の輝度維持率に優れたβ型サイアロン蛍光体の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例2、比較例1のβ型サイアロン蛍光体をFT-IR測定したときの赤外吸収スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態のβ型サイアロン蛍光体の製造方法の概要を説明する。
【0010】
上記β型サイアロン蛍光体の製造方法は、β型サイアロン粒子を準備する準備工程と、β型サイアロン粒子とシリコーンオイルとを共存させた状態で加熱処理を行う表面処理工程と、を含むものである。
【0011】
本発明者によれば、次のようなことが知見された。
β型サイアロンの加水分解によって、劣化やイオン溶出等が起こり、発光装置の信頼性が低下する恐れがあった。そこで、加水分解を抑制するため、β型サイアロンの表面をコーティングすることで、水との接触を防げることができれば、有効だと考えた。
【0012】
各種の材料の中から、撥水性を付与する観点から有機物について検討した。しかし、オレイン酸は、発光装置の製造過程での加熱により黒色化してしまうため、発光装置の輝度を低下させてしまう恐れがあった。さらに検討を重ねた結果、耐熱性に優れたシリコーンオイル(オルガノポリシロキサン)に着眼するに至った。しかしながら、β型サイアロン粒子とシリコーンオイルとを混合して、表面をコーティングするだけでは、発光装置の信頼性が十分に得られないことが分かった。
【0013】
このような開発事情を踏まえ鋭意検討した結果、β型サイアロン粒子とシリコーンオイルと混合物に対して適切な加熱処理を行うことで、発光装置の信頼性を向上できるβ型サイアロン蛍光体を実現できることが判明した。詳細なメカニズムは定かでないが、シリコーンオイル中の低分子量成分が加熱処理によって揮発して、シリコーンオイルによる被覆状態が適当となったため、と考えられる。
【0014】
本実施形態によれば、β型サイアロン蛍光体を発光装置に使用することで、高温高湿信頼性を向上させ、輝度の維持率を高めることが可能である。
【0015】
以下、本実施形態のβ型サイアロン蛍光体について詳述する。
【0016】
上記β型サイアロン蛍光体は、Light Emitting Diode(以下LED)などの光源用蛍光体として極めて有用であり、例えば、波長420~480nmの範囲の光を吸収して、480nmを超え800nm以下の波長の光を放出するLEDに使用することができる。
【0017】
上記β型サイアロン蛍光体は、β型サイアロン粒子と、β型サイアロン粒子の表面に付着したシリコーンオイルと、を含むものである。すなわち、β型サイアロン蛍光体は、表面がシリコーンオイルで被覆されたβ型サイアロン粒子の一または二個以上で構成されてもよい。シリコーンオイルは、β型サイアロン粒子の表面上に形成されたシリコーン被覆層を構成してもよい。
【0018】
本明細書において、付着とは、化学的結合、物理的結合のいずれかまたは両方で結合された状態でもよい。被覆とは、表面の一部を覆う状態、全体を覆う状態のいずれでもよい。
【0019】
上記β型サイアロン蛍光体についてFT-IR測定し、赤外吸収スペクトルを得る。上記β型サイアロン蛍光体は、この赤外吸収スペクトルにSi-CH3由来のピークが存在するように構成されてもよい。これにより、シリコーンオイルがβ型サイアロン粒子の表面に付着していることが分かる。
【0020】
上記シリコーンオイルは、公知のものが使用できるが、耐熱性や透明性等の観点から選択したものを使用してよい。中でも、外観が無色透明のシリコーンオイルが好ましい。
【0021】
上記シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、およびこれらの変性体を使用してもよい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。耐熱性の観点から、メチルハイドロジェンポリシロキサン等の分子内にフェニル基を有するポリシロキサンを使用してもよい。
【0022】
上記β型サイアロン粒子は、蛍光体として使用可能なものであれば特に限定されないが、ユウロピウムが固溶したβ型サイアロンで構成されてもよい。具体的には、上記β型サイアロン粒子は、一般式Si6-zAlzOzN8-z:Eu2+(0<z≦4.2)で示され、Eu2+を固溶させたβ型サイアロンで構成されてもよい。
【0023】
一般式Si6-zAlzOzN8-z:Eu2+において、z値とユウロピウムの含有量は特に限定されないが、z値は、例えば0を超えて4.2以下であり、β型サイアロン蛍光体の発光強度をより向上させる観点から、好ましくは0.005以上1.0以下である。またユウロピウムの含有量は0.1質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。
【0024】
上記β型サイアロン粒子の平均粒子径d50は、例えば、0.1μm~50μm、好ましくは0.2μm~40μm、より好ましくは0.5μm~30μmである。上限以下とすることで、発光色の色度にバラツキを抑制できる。下限以上とすることで、輝度を向上できる。
平均粒子径d50は、レーザー回折散乱法で測定した体積平均径より算出した値である。
【0025】
上記β型サイアロン蛍光体は、複数の粒子が焼成工程での加熱処理時に強固に一体化されたものでもよい。
【0026】
次に、本実施形態のβ型サイアロン蛍光体の製造方法について説明する。
【0027】
上記β型サイアロン蛍光体の製造方法は、β型サイアロン粒子を準備する準備工程と、β型サイアロン粒子とシリコーンオイルとを共存させた状態で加熱処理を行う表面処理工程と、を含むものである。
【0028】
上記β型サイアロン粒子を準備する準備工程は、公知の方法を使用してもよいが、例えば、原料混合粉末を焼成して焼成物を得る焼成工程と、焼成工程後の焼成物に、さらに解砕粉砕処理、分級処理、アニール処理及び酸処理等の後処理工程とを有してもよい。
【0029】
上記表面処理工程は、β型サイアロン粒子の表面にシリコーンオイルを接触させた状態で加熱処理を行うことができる。具体的には、β型サイアロン粒子とシリコーンオイルとの混合物を加熱処理してもよい。
【0030】
上記表面処理工程において、加熱処理の温度の下限は、例えば、180℃以上、好ましくは190℃以上、より好ましくは200℃以上である。これにより、シリコーンオイルによる被覆状態を改質することができ、発光装置の輝度維持率を向上できる。一方、加熱処理の温度の上限は、例えば、400℃以下、好ましくは380℃以下、より好ましくは350℃以下である。これにより、シリコーンオイルの分解を抑制でき、発光装置の輝度の低下を抑制できる。
【0031】
上記表面処理工程において、加熱処理の加熱時間は、適切に設定できるが、例えば、30分~10時間としてもよい。また、表面処理工程は、大気雰囲気下で行ってもよく、例えば、湿度80%以下の条件で行ってもよい。加熱処理の環境中、水分が比較的少ない方が好ましい。
【0032】
上記表面処理工程において、シリコーンオイルの添加量の上限は、上記β型サイアロン蛍光体100重量%に対して、例えば、10重量%以下、好ましくは8重量%以下、より好ましくは5重量%以下である。これにより、β型サイアロン蛍光体の青色光の吸収率の低下を抑制できる。一方、上記シリコーンオイルの添加量の下限は、上記β型サイアロン蛍光体100重量%に対して、例えば、0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、より好ましくは0.10重量%以上である。これにより、発光装置の輝度維持率を向上できる。
【0033】
以上により、β型サイアロン蛍光体を得ることができる。
なお、上記表面処理工程の後、必要に応じて公知の工程を追加してもよい。例えば、破砕・分級処理、精製処理、乾燥処理などの後処理を行ってもよい。
【0034】
(波長変換体)
本実施形態の波長変換体は、発光素子から照射された光を変換して発光するものであって、上記β型サイアロン蛍光体を有するものである。波長変換体は、β型サイアロン蛍光体からのみで構成されてもよく、β型サイアロン蛍光体が分散した母材を含んでもよい。母材としては、公知のものを使用できるが、例えば、ガラス、樹脂、無機材料などが挙げられる。
【0035】
上記波長変換体は、その形状が特に限定されず、プレート状に構成されてもよく、発光素子の一部または発光面全体を封止するように構成されてもよい。
【0036】
(発光装置)
本実施形態に係る発光装置は、発光光源(発光素子)と上記波長変換体とを含む発光部材を備える。
発光光源と波長変換体とを組み合わせることによって高い発光強度を有する光を発光させることができる。
【0037】
発光装置の一例は、LEDパッケージが挙げられる。LEDパッケージは、発光光源(LEDチップ)と、発光光源を搭載する基板(リードフレーム)と、発光光源を被覆する波長変換体と、を備えてもよい。LEDチップは、近紫外から青色光の波長として300nm~500nmの光を発生してよい。LEDチップとリードフレームとはボンディングワイヤで電気的に接続されてよい。波長変換体は、合成樹脂製のキャップで覆われていてよい。
【0038】
上記波長変換体は、上記β型サイアロン蛍光体を含むものであればよいが、この他に、他の蛍光体を含んでもよい。他の蛍光体として、例えば、α型サイアロン蛍光体、KSF蛍光体、CASN蛍光体、YAG蛍光体の単体又は混合体等の蛍光体をさらに含んでもよい。これらの蛍光体に固溶される元素としては、例えば、ユーロピウム(Eu)、セリウム(Ce)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)等が挙げられる。これらの蛍光体は一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
上記β型サイアロン蛍光体を用いた発光装置の場合、発光光源として、300nm以上500nm以下の波長を含有している近紫外光や可視光を励起源として照射することで、520nm以上550nm以下の範囲の波長にピークを持つ緑色の発光特性を有する。このため、発光光源として近紫外LEDチップ又は青色LEDチップとβ型サイアロン蛍光体とを用い、さらに波長が600nm以上700nm以下である赤色発光蛍光体、青色発光蛍光体、黄色発光蛍光体又は橙発光蛍光体の単体又は混合体とを組み合わせることによって、白色光にすることができる。
【0040】
一例として、緑色を示すβ型サイアロン蛍光体と、赤色を示すKSF系蛍光体とを組み合わせて用いることによって、高演色TV等に適したバックライト用LED等に好適に用いることができる。
【0041】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0043】
<β型サイアロン蛍光体の作製>
(比較例1)
比較例1のβ型サイアロン蛍光体は、以下に記載するように、原料混合粉末を焼成して焼成物を得る焼成工程を実施し、焼成工程後の焼成物に、さらに解砕粉砕処理、分級処理、アニール処理及び酸処理を施して製造した。
【0044】
(焼成工程、原料混合粉末と焼成)
α型窒化ケイ素(SN-E10グレード、酸素含有量1.0質量%、宇部興産社製)95.58質量%、窒化アルミニウム(Eグレード、酸素含有量0.8質量%、トクヤマ社製)2.89質量%、酸化アルミニウム(TM-DARグレード、大明化学社製)0.93質量%、及び酸化ユーロピウム(RUグレード、信越化学工業社製)0.60質量%となるように秤量した。当該原料の配合比は、β型サイアロンの一般式:Si6-zAlzOzN8-zにおいて、酸化ユーロピウムを除いて、z=0.25となるように設計した。この原料混合粉末をV型混合機(S-3、筒井理化学器械社製)で10分間乾式混合した。混合後の原料のうち、目開き250μmのナイロン製篩を通過したものを以下の工程に用いた。前記混合物を蓋付きの円筒型窒化ホウ素製容器(N-1グレード、デンカ社製)に充填し、カーボンヒーターの電気炉で0.8MPaの加圧窒素雰囲気中、2000℃で15時間放置して焼成を行った。焼成終了後、容器から取り出し、室温になるまで放置した。
【0045】
(焼成物の解砕、粉砕、分級処理)
得られた塊状の焼成物を、ロールクラッシャーで解砕し、目開き150μmの篩を通過させた粉体を以下の処理に用いた。
【0046】
(アニール処理)
前記焼成工程後の粉体を、アルゴンガス雰囲気下、雰囲気圧力0.15MPaで1450℃に8時間保持した。
【0047】
(酸処理)
アニール処理後の粉体を、フッ化水素酸と硝酸の混酸に30分間浸すことにより酸処理を行った。酸処理後の粉体から酸を分離するため、粉体を混酸ごと合成樹脂製フィルタに流し、フィルタ上に残った粉体を水洗いして比較例1のβ型サイアロン蛍光体Aを得た。
【0048】
(比較例2)
比較例1のβ型サイアロン蛍光体A100重量%に、シリコーンオイル(モメンティブ社製TSF-4300)1.0重量部%添加し、これらを混合して混合物を得た。得られた混合物を、β型サイアロン蛍光体Bとして使用した。
【0049】
(比較例3)
シリコーンオイルの添加量を0.5重量%に変更した以外は、比較例2と同様にして得られた混合物を、β型サイアロン蛍光体Cとして使用した。
【0050】
(比較例4)
シリコーンオイルの添加量を3.0重量%に変更した以外は、比較例2と同様にして得られた混合物を、β型サイアロン蛍光体Dとして使用した。
【0051】
(実施例1)
比較例2で得られたβ型サイアロン蛍光体B 30gを蒸発皿に入れ、湿度:59%のドラフト内のホットプレート上で、200℃、2時間の加熱処理を実施し、β型サイアロン蛍光体Eを得た。
【0052】
(実施例2)
比較例2で得られたβ型サイアロン蛍光体B 30gを蒸発皿に入れ、湿度:52%のドラフト内のホットプレート上で、300℃、2時間の加熱処理を実施し、β型サイアロン蛍光体Fを得た。
【0053】
(実施例3)
比較例2で得られたβ型サイアロン蛍光体B 30gを蒸発皿に入れ、湿度:67%のドラフト内のホットプレート上で、350℃、2時間の加熱処理を実施し、β型サイアロン蛍光体Gを得た。
【0054】
(実施例4)
比較例3で得られたβ型サイアロン蛍光体C 30gを蒸発皿に入れ、湿度:80%のドラフト内のホットプレート上で、300℃、2時間の加熱処理を実施し、β型サイアロン蛍光体Hを得た。
【0055】
(実施例5)
比較例4で得られたβ型サイアロン蛍光体D 30gを蒸発皿に入れ、湿度:34%のドラフト内のホットプレート上で、300℃、2時間の加熱処理を実施し、β型サイアロン蛍光体Iを得た。
【0056】
【0057】
表1中のシリコーンオイル量はβ型サイアロン粒子の表面に付着した付着量を意味する。X重量%は、β型サイアロン蛍光体100重量%に対する、シリコーンオイルの付着量(重量%)を表す。
比較例2~4において、添加されたシリコーンオイルはすべてβ型サイアロン粒子に付着したことが確認されたため、シリコーンオイルの添加量を付着量とした。
一方、実施例1~5において、シリコーンオイルの添加量から、各実施例の加熱温度(200℃、300℃、350℃)・加熱時間(2時間)で加熱処理したときのシリコーンオイルの揮発分を除いた残分を付着量とした。
【0058】
各実施例・各比較例のβ型サイアロン蛍光体について、以下の特性および評価項目を評価した。
評価結果を表1に示す。
【0059】
(IRスペクトル)
実施例2、比較例1の各β型サイアロン蛍光体について、FT-IR測定を行い、赤外吸収スペクトルを取得した。得られた赤外吸収スペクトルを
図1に示す。
図1の結果、実施例2には、1260cm
-1にSi-CH
3対称変角振動由来のピークが認められるが、比較例1には、そのピークが認められなかった。
【0060】
(光束維持率)
各実施例および各比較例のβ型サイアロン蛍光体を搭載したLEDパッケージの信頼性試験を以下の要領で評価した。信頼性試験によって得られた結果を表1に示す。
β型サイアロン蛍光体のLEDパッケージへの搭載は、ケース凹型の底部に設置されたLED上面の電極とリードフレームとをワイヤボンディングした後、液体状のシリコーン樹脂(OE6656、東レダウコーニング社製)に混合したβ型サイアロン蛍光体をマイクロシリンジからケース凹部に注入して行った。β型サイアロン蛍光体の搭載後、120℃で硬化させた後、110℃×10時間のポストキュアを施して封止した。LEDは、発光ピーク波長448nmで、チップ1.0mm×0.5mmの大きさのものを用いた。
【0061】
上述の要領にて得られた、各実施例および各比較例のβ型サイアロン蛍光体を搭載したLEDパッケージについて、光束を測定し、初期値L0とした。また、85℃、85%RHで500時間放置後、取り出して室温で乾燥した際の光束L1を測定し、光束維持率(=L1/L0×100)を算出した。
信頼性試験の合格条件は、光束維持率が95%以上である。各実施例のβ型サイアロン蛍光体E~Iによって、高信頼性の表面被覆蛍光体粒子を実現できることが示された。
【0062】
(比較例5)
実施例1のシリコーンオイルに代えて、オレイン酸を使用した以外は同様にして、β型サイアロン蛍光体Jが得られた。β型サイアロン蛍光体Jを用いた場合、パッケージの作製過程の加熱によってオレイン酸が黒色化し、パッケージ輝度が15%低下する結果が示された。
【0063】
実施例1~5のβ型サイアロン蛍光体を用いることにより、比較例1~4と比べて、光束維持率が向上することが示された。実施例1~5のβ型サイアロン蛍光体を発光装置に使用することで、高温高湿信頼性を向上させ、輝度の維持率を高めることが可能である。