(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の劣化診断ツール
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20230111BHJP
G01N 17/04 20060101ALI20230111BHJP
G01N 33/38 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C04B28/02
G01N17/04
G01N33/38
(21)【出願番号】P 2019079047
(22)【出願日】2019-04-18
【審査請求日】2021-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】七澤 章
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 崇
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-105136(JP,A)
【文献】特開2015-224906(JP,A)
【文献】特開2008-115062(JP,A)
【文献】特開2017-110954(JP,A)
【文献】山田猛、菊地道生、佐伯竜彦、斎藤豪,薄板モルタル供試体を用いた中性化環境評価の影響要因に関する基礎的検討,セメント・コンクリート論文集,2013年,Vol.67 ,P.371-377
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00-32/02, C04B40/00-40/06, C04B103/00-111/94
G01N 17/04,33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物のおかれた環境に曝露される主面と、前記コンクリート構造物またはその近傍に存在する構造体に対する貼り付け面となる裏面とを有する、板状のモルタルパネルで構成されるコンクリート構造物の劣化診断ツールであって、
前記モルタルパネルにおいて、水銀圧入法で測定される細孔径分布に基づいて微分細孔容積分布および積算細孔容量を算出したとき、
前記微分細孔容積分布における最大ピークを有する細孔径が、1.0×10
-2μm以上5.0μm以下
、
前記微分細孔容積分布における最大ピークの半値幅が、7.0×10
-2
μm以上7.0×10
-1
μm以下、
前記微分細孔容積分布における最大ピークの微分細孔容量が、5.0×10
-2ml/g以上2.0ml/g以下、
10%積算細孔容量における細孔径が、1.0×10
-1μm以上3.0μm以下
、
90%積算細孔容量における細孔径が、7.0×10
-3
μm以上3.0×10
-1
μm以下、
全体の積算細孔容量に対する、5μm以上の細孔径に対応する積算細孔容量の割合が、10.0%以下、
水銀圧入法で測定される前記モルタルパネルの全細孔容積が、0.05ml/g以上0.23ml/g以下、
水銀圧入法で測定される前記モルタルパネルの全細孔比表面積が、9.0m
2
/g以上22.0m
2
/g以下、および
水銀圧入法で測定される前記モルタルパネルの気孔率が、15.0%以上30.0%以下である、
コンクリート構造物の劣化診断ツール。
【請求項2】
請求項
1に記載のコンクリート構造物の劣化診断ツールであって、
JSCE-G 572-2018に準拠して測定される、前記モルタルパネルに
おける塩化物イオンの見掛けの拡散係数は、10cm
2/年以上50cm
2/年以下である、
コンクリート構造物の劣化診断ツール。
【請求項3】
請求項1
または2に記載のコンクリート構造物の劣化診断ツールであって、
前記モルタルパネルの厚みは、3mm以上20mm以下である、
コンクリート構造物の劣化診断ツール。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の劣化診断ツールであって、
前記モルタルパネルの側面に、塩化物イオンまたは二酸化炭素を遮蔽する遮蔽層が設けられている、
コンクリート構造物の劣化診断ツール。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の劣化診断ツールであって、
JIS A 1108に準拠して測定される前記モルタルパネルの圧縮強度が、15N/mm
2
~30N/mm
2
である、コンクリート構造物の劣化診断ツール。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の劣化診断ツールであって、
前記モルタルパネルの裏面に設置される密着層を備え、
前記密着層が、両面が接着可能な接着面を有する両面テープで構成される、コンクリート構造物の劣化診断ツール。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の劣化診断ツールであって、
前記モルタルパネルは、セメントおよび細骨材を含むモルタル組成物の硬化体で構成される、
コンクリート構造物の劣化診断ツール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の劣化診断ツールに関する。
【背景技術】
【0002】
これまでコンクリート構造物の劣化診断技術について様々な開発がなされてきた。
この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が一般的に知られている。特許文献1には、コンクリート構造物からコンクリートをコアリングして分析する破壊型検査方法が記載されている。
【0003】
しかしながら、コアリング作業によってコンクリート構造物を部分的に破壊する必要がある。また、より簡便な手法が要求されている。
現在、非壊型検査方法の開発が進められている。例えば、特許文献2には、モルタルパンルをコンクリート構造物に液状のエポキシ系接着剤で取り付けて、それを一定期間後に剥ぎ取って回収し、塩分量を測定することにより、コンクリート構造物が設置されている箇所の塩分量を評価する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-230383号公報
【文献】特開2014-105136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献2に記載のモルタルパネルにおいて、吸着特性のバラツキの点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
モルタルパネルにおける細孔特性のバラツキによって、その吸着特性にバラツキが生じることがあった。詳細なメカニズムは定かでないが、モルタルパネルの内部気泡や表面凹凸によって、その吸着特性にバラツキが生じる、と考えられる。それによって、イオン化物浸透量等の劣化評価の判断材料となる測定値にバラツキが生じ得る。
【0007】
本発明者はさらに検討したところ、微分細孔容積分布における最大ピークを有する細孔径、その微分細孔容量、および、積算細孔容積における10%積算細孔容量の細孔径を指標とすることによって、モルタルパネルの吸着特性について安定的に評価できることを見出した。このような知見に基づきさらに鋭意研究したところ、上記の指標を適切な範囲内とすることによって、モルタルパネルの吸着特性のバラツキが抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明によれば、
コンクリート構造物のおかれた環境に曝露される主面と、前記コンクリート構造物またはその近傍に存在する構造体に対する貼り付け面となる裏面とを有する、板状のモルタルパネルで構成されるコンクリート構造物の劣化診断ツールであって、
前記モルタルパネルにおいて、水銀圧入法で測定される細孔径分布に基づいて微分細孔容積分布および積算細孔容量を算出したとき、
前記微分細孔容積分布における最大ピークを有する細孔径が、1.0×10-2μm以上5.0μm以下の範囲にあり
前記微分細孔容積分布における最大ピークの微分細孔容量が、5.0×10-2ml/g以上2.0ml/g以下であり、
前記積算細孔容積分布において、10%積算細孔容量における細孔径が、1.0×10-1μm以上3.0μm以下の範囲にある、
コンクリート構造物の劣化診断ツールが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、吸着特性のバラツキが抑制されたコンクリート構造物の劣化診断ツールが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(a)は、本実施形態の劣化診断ツールの一例を模式的に示す斜視図、(b)は、
図1(a)のA-A矢視の断面図である。
【
図2】劣化診断ツールを用いたコンクリート構造物の劣化診断方法について説明するための図である。
【
図3】(a)は、本実施形態の劣化診断ツールの変形例を模式的に表す側面図、(b)は、(a)の裏面側の上面図である。
【
図4】モルタルパネルの製造に用いる型枠の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図5】劣化診断ツールを包装袋に収容してなるパッケージの一例を示す模式図である。
【
図6】実施例1のパネルの微分細孔容積分布・積算細孔容積分布を示す図である。
【
図7】比較例1のパネルの微分細孔容積分布・積算細孔容積分布を示す図である。
【
図8】比較例2のパネルの微分細孔容積分布・積算細孔容積分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。なお、本実施の形態では図示するように前後左右上下の方向を規定して説明する。しかし、これは構成要素の相対関係を簡単に説明するために便宜的に規定するものである。従って、本発明を実施する製品の製造時や使用時の方向を限定するものではない。
【0012】
本実施形態のコンクリート構造物の劣化診断ツールの概要を説明する。
【0013】
図1(a)は、劣化診断ツールの一例を模式的に示す斜視図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A矢視の断面図である。
【0014】
図1の劣化診断ツール100は、板状のモルタルパネル10と、モルタルパネル10の裏面14に設けられた密着層20とを備える。
【0015】
モルタルパネル10は、コンクリート構造物のおかれた環境に曝露される主面12と、コンクリート構造物またはその近傍に存在する構造体に対する貼り付け面となる裏面14とを有する。
【0016】
密着層20は、その両面が接着可能な接着面で構成され、モルタルパネル10の裏面14に接着する主面22と、構造物に接着可能な裏面24とを有する。
【0017】
本実施形態の劣化診断ツール100を用いることにより、コンクリート構造物への密着安定性を向上させ、被着体の劣化を抑制できるため、コンクリート構造物の劣化診断を安定的に行うことができる。また、劣化診断時に、劣化診断ツール100の取り付け作業や回収作業が容易となる。
【0018】
図2は、劣化診断ツールを用いたコンクリート構造物の劣化診断方法について説明するための図である。
【0019】
劣化診断方法の概要は、例えば、
図2のコンクリート構造物200や構造体210の表面に、劣化診断ツール100を貼付固定し、一定の測定期間の後、回収し、分析するものである。
【0020】
劣化診断は、例えば、道路、鉄道、橋梁、土木構造物、建築物、港湾設備、プラント、および電力施設等の長期間維持管理されるコンクリート構造物を対象とする。海岸付近、湾岸付近、海洋中等の塩害環境に曝露されるコンクリート構造体の劣化度合いについて評価できる。
【0021】
劣化診断ツール100が設置場所は、コンクリート構造物200の表面や、コンクリート構造物200の近傍に存在する構造体210(例えば、土研式飛散塩分捕集器等)の表面としてもよい。設置面には、曲面や段差、凹凸部分がなく、平坦面がよい。設置面において、劣化診断ツール100を取り付ける前に、水分や汚れを洗浄により除去してもよい。
【0022】
具体的な設置場所について、コンクリート構造物200が橋である場合について説明すると、コンクリート構造物200として、橋梁の桁202、橋脚床板204、橋脚壁面206等が挙げられる。コンクリート構造物200の近傍に存在する構造体210の壁面に劣化診断ツール100を設置してもよい。あるいは、コンクリート構造物200中のいずれかの部位について、海側と山側とのそれぞれに設置してもよい。調査対象における設置数は、特に限定されないが、複数(例えば、3個以上)としてもよい。
【0023】
固定期間は、例えば、1ヶ月程度としてもよいが、数ヶ月~1年程度としてもよい。
【0024】
分析において、環境曝露後における劣化診断ツール100の塩化物イオン量および/または中性化深さを測定し、設置したコンクリート構造物200の劣化度合いについて、精度良く推定できる。
【0025】
<劣化診断ツール100>
劣化診断ツール100を構成するモルタルパネル10は、板状であれば形状を特に限定せずに使用できるが、裏面14の垂直方向から見たときの形状が、略正方形状または略長方形状としてもよい。ロット間の製造バラツキを抑制できる。
【0026】
モルタルパネル10の厚みは、例えば、3mm~20mm、好ましくは4mm~15mm、より好ましくは5mm~10mmである。上記下限値以上とすることで、長い測定期間にも使用可能となる。一方、上記上限値以下とすることで、狭い場所にも設置することができるため、実環境に近い状態での評価が可能となる。
【0027】
本明細書中、「~」は、特に明示しない限り、上限値と下限値を含むことを表す。
【0028】
モルタルパネル10の主面12および裏面14の面積は、例えば、5cm2~100cm2、好ましくは10cm2~50cm2としてもよい。上記下限値以上とすることで、分析精度が向上する。また、製造安定性も高くできる。一方、上記上限値以下とすることで、取扱性が良好となる。
【0029】
モルタルパネル10の圧縮強度は、例えば、15N/mm2~30N/mm2、好ましくは16N/mm2~28N/mm2、より好ましくは17N/mm2~25N/mm2である。上記下限値以上とすることで、回収時におけるモルタルパネル10の破損を抑制できる。一方、上記上限値以下とすることで、塩化物イオン量の測定などの分析時に、モルタルパネル10を微粉砕しやすくなり、測定サンプルの準備が容易となる。
モルタルパネル10の圧縮強度は、JIS A 1108に準拠して測定される。
【0030】
モルタルパネル10にける塩化物イオンの見掛けの拡散係数は、例えば、10cm2/年以上50cm2/年以下、好ましくは20cm2/年以上45cm2/年以下である。これにより、コンクリート構造物の状態を安定的に評価できる。
モルタルパネル10にける塩化物イオンの見掛けの拡散係数は、JSCE-G 572-2018
【0031】
モルタルパネル10の裏面14に設置される密着層20は、シート状であればよく、その両面が接着可能な接着面を有する両面テープで構成されてもよい。
【0032】
密着層20は、粘着剤からなる粘着層を備えてもよい。粘着層は、少なくとも主面22および裏面24のそれぞれに設けられていればよく、単層または複数層で構成されてもよい。密着層20は、複数層の粘着層の間に不織布やアクリルフォームなどの基材を有してもよい。
【0033】
粘着剤は、公知の粘着材料が用いられるが、例えば、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、エポキシ系粘着剤などが用いられる。この中でも、コンクリート構造物への接着性や耐久性の観点から、アクリル系粘着剤が用いられる。
【0034】
密着層20は、裏面14に対して垂直な方向から見たとき、1個のモルタルパネル10の面内方向において、単体で構成されてもよいが、複数枚で構成されていてもよい。
【0035】
密着層20の形状は、裏面14に対して垂直な方向から見たとき、モルタルパネル10の外形に沿った形状でもよく、例えば、略正方形状または略長方形状でもよい。
【0036】
密着層20の厚みは、例えば、0.3mm~3.0mm、好ましくは0.4mm~2.5mm、より好ましくは0.5mm~2.0mmである。上記下限値以上とすることで、長い測定期間にも使用可能となる。一方、上記上限値以下とすることで、狭い場所にも設置することができるため、実環境に近い状態での評価が可能となる。
【0037】
密着層20は、モルタルパネル10の裏面14の全体を被覆してもよい、部分的に被覆してもよい。すなわち、モルタルパネル10の裏面14に対して垂直な方向から見たときに、裏面14の周縁領域の少なくとも一部に、密着層20が貼り付けされていない部分が形成されていてもよい。さらには、裏面14の周縁領域の全周囲に密着層20が形成されない領域があってもよい。
これにより、コンクリート構造物200に密着層20を介してモルタルパネル10を貼り付けたときに、コンクリート構造物200とモルタルパネル10との間に間隙が形成されるため、モルタルパネル10の引き剥がしが容易となる。よって、劣化診断ツール100の作業性を高めることができる。
【0038】
モルタルパネル10の裏面14に対して垂直な方向から見たときに、裏面14を被覆する密着層20の被覆面積は、裏面14の全面積に対して、例えば、85%~95%、好ましくは87%~93%である。上記下限値以上とすることで、長い測定期間にも使用可能となる。一方、上記上限値以下とすることで、測定期間経過後、モルタルパネル10の取り外し作業が容易となる。
【0039】
図3は、劣化診断ツール100の変形例の模式図であり、(a)は、劣化診断ツール100の側面図、(b)は、裏面側の上面図である。
【0040】
劣化診断ツール100は、密着層20の裏面24に剥離可能な剥離層50を備えてもよい。
裏面24側の密着層20(両面テープ)から剥離層50(カバーフィルム)を剥がすことで、劣化診断ツール100の設置が可能な状態となる。よって、劣化診断ツール100の作業性を高められる。
なお、密着層20の裏面24とは、モルタルパネル10裏面と密着した主面22とは反対側に位置する面である。また、剥離層50により密着層20の接着面を保護することにより、使用の前にかかる接着面(裏面24)が汚染されることを抑制できる。
【0041】
剥離層50は、公知の材料で構成されるが、例えば、シリコーン処理平面紙(剥離紙)、ポリエステル等で構成されてもよい。
【0042】
また、劣化診断ツール100において、曝露面である劣化診断ツール100の主面12が露出されていればよく、その他の面、例えば、劣化診断ツール100の側面16に遮蔽層30が設けられてもよい。
例えば、略正方形状または直方形状を有するモルタルパネル10の4つの側面16のすべてに、遮蔽層30が被覆されてもよい。
【0043】
遮蔽層30は、塩化物イオンまたは二酸化炭素を遮蔽するものであればよく、金属層に粘着材層が積層した金属シールテープ、例えばアルミテープを用いてもよい。側面16の全体がアルミテープで被覆されていてよい。これにより、環境曝露面を1面(主面12)とすることで、安定的な評価が可能な劣化診断ツール100を実現できる。
【0044】
遮蔽層30には、
図3(a)に示すように、ラベル40が形成されていてもよい。ラベル40は、印刷や筆記されたものでもよいが、刻印であってもよい。刻印のラベル40は、長期の測定期間後も認識性に優れる。例えば、アルミテープに刻印を施したものを遮蔽層30に使用できる。
【0045】
ラベル40は、ロット番号、製造年月日などの各種情報を示すものとしてもよい。あるいは、設置前の初期のモルタルパネル10の質量などの初期情報を含んでもよい。これにより、トレーサビリティ性に優れた劣化診断ツール100となる。
【0046】
モルタルパネル10は、セメントおよび細骨材を含むモルタル組成物の硬化体で構成されてもよい。
【0047】
以下、モルタル組成物の原料や添加剤について説明する。
本実施形態に係るモルタル組成物は、原料として、セメント、細骨材、および水を含むものである。
【0048】
セメントとして、公知の普通セメント、高炉セメントなどを使用できる。
【0049】
細骨材として、ケイ石系細骨材(硅砂、セメント強さ用標準砂等)、アルミナ質細骨材等を使用できる。ケイ石系骨材やアルミナ質系骨材はセメントや塩化物イオンとほとんど反応しない。このため、モルタルパネルを用いた劣化診断安定性を向上できる。
【0050】
細骨材には、石灰石系骨材を含まない構成としてもよい。石灰石系骨材を用いると、カルシウムアルミネートモノカーボネート水和物やカルシウムアルミネートヘミカーボネート水和物が生成し、モルタルパネルを用いた劣化診断安定性が低下する恐れがある。
【0051】
水は、特に限定されないが、水道水、工業用水などを使用してもよい。
【0052】
水/セメント比(W/C比)は、適度に調整すればよいが、例えば、30%~70%としてもよい。上記下限値以上とすることで、モルタルパネルの緻密さが適度になり、上記上限値以下とすることで、過度なポーラス化を抑制できる。
【0053】
セメントと細骨材との比率は、例えば、質量比で、1:0.5~1:4としてもよい。細骨材の比率を0.5以上とすることで、均一なモルタルパネルの製造が可能となる。また、モルタルパネルの緻密さを適度に調整できる。一方、細骨材の比率を4以下とすることで、均一なモルタルパネルの製造が可能となり、モルタルパネルを用いた劣化診断安定性を向上できる。
【0054】
モルタル組成物は、必要に応じて、減水剤、増粘材、消泡剤などの添加剤を含んでもよい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、分散剤、硬化促進剤、遅延剤等の他の添加剤を含んでもよい。
【0055】
減水剤は、特に限定されないが、ポリアルキルアリルスルホン酸塩系減水剤、芳香族アミノスルホン酸塩系減水剤、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸塩系減水剤等を使用できる。
ポリアルキルアリルスルホン酸塩系減水剤として、例えば、メチルナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、及びアントラセンスルホン酸ホルマリン縮合物等の塩等が挙げられる。
その他、リグニンスルホン酸塩系減水剤、ポリオール系減水剤、及びオキシカルボン酸塩系減水剤等の一般減水剤を使用してもよい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
減水剤は、セメント100質量部に対して、例えば、0.05質量部~2.0質量部含まれていてもよい。減水剤を添加することで、モルタルが劣化し、大きくバラツキがあるポーラス構造が形成されることを抑制できる。
【0057】
増粘剤は、特に限定されないが、メチルセルロース系、ポリエチレングリコールやエチレンオキサイド系、ポリアクリルアマイド等のアクリル系、及びポリビニルアルコール系等が挙げられるが、既に、水中不分離性混和剤として市販されているものを使用できる。増粘剤は、セメント100質量部に対して、例えば、0.05質量部~2.0質量部含まれていてもよい。
【0058】
消泡剤は、特に限定されないが、オキシアルキレン系消泡剤(ポリエーテル系消泡剤)、シリコーン系消泡剤、アルコール系消泡剤、鉱油系消泡剤、脂肪酸系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤等を使用できる。消泡剤は、セメント100質量部に対して、例えば、0.05質量部~2.0質量部含まれていてもよい。
【0059】
減水剤、増粘材および消泡剤の配合比率を適切に制御することで、ポーラス構造のバラツキが抑制されたモルタルパネルを実現することが可能になる。
【0060】
原料(セメント、水、細骨材)や添加剤、W/C比を調整することで、コンクリートに比べて塩化物イオンの拡散係数が高いモルタルパネルを実現できる。これにより、飛来塩分を効率的に取り込むことが可能となり、短期間での分析や劣化診断が可能となる。
【0061】
モルタル組成物は、上述の各材料(原料および添加剤)を混合する方法により得ることができる。混合方法は、特に限定されないが、それぞれの材料を施工時に混合しても良いし、予めその一部、或いは全部を混合しておいても差し支えない。材料の混練には混合装置を用いてもよい。混練時の回転速度や混練時間、材料の投入順序を、適宜設定する。
【0062】
混合装置として、公知の装置を使用可能であり、例えば、傾胴ミキサー、オムニミキサー、プロシェアミキサー、ヘンシェルミキサー、V型ミキサー及びナウターミキサー等が挙げられる。
【0063】
<モルタルパネルの製造方法>
本実施形態に係るモルタルパネル10は、上記モルタル組成物を硬化することで得られる。
モルタルパネルの製造方法は、特に限定されないが、例えば、モルタル組成物を型枠内に流し入れる工程、モルタル組成物を硬化養生する工程を含んでもよい。
【0064】
図4は、モルタルパネルの製造に用いる型枠60の一例を模式的に示す斜視図である。
【0065】
図4の型枠60は、モルタルパネル成形用型枠であり、型枠60内の成形空間66内にモルタル組成物を充填して、主面12、裏面14および側面16を備えるモルタルパネル10を成型できる。成形空間66は、モルタルパネル10の立体形状に合わせた構造を有してよく、例えば、略正方形や略直方体で構成されていてもよい。
【0066】
型枠60の成形空間66は、モルタルパネル1枚分の体積で構成されてもよく、複数枚分の体積で構成されてもよい。成形空間66は、複数の仕切り板64で区画されてもよい。区画された個々の成形空間66は、モルタルパネル1枚分の体積で構成される。
【0067】
型枠60は、金属材料で構成されていてもよく、繰り返し使用時の耐久性や製造安定性の観点から、金属材料として、鋼材を用いてもよい。
【0068】
型枠60は、1または複数の金属部材で構成されてもよい。複数の金属部材が固定治具により固定されて、型枠60が構成される。固定治具を外すと脱型できるため、脱型が容易となる。
【0069】
仕切り板64は、型枠60に固定されていればよく、型枠60と一体化して設けられてもよく、取り外し自在の可動板でもよい。型枠60を可動板で構成することで、脱型が容易となる。
【0070】
上記の型枠60を用いてモルタル組成物の流し込みを行う。モルタルパネル10の側面16の一面に対応する枠を有しない型枠60の上面開口から、モルタル組成物を流し込み、成形空間66を充填させる。上面開口からはみ出たものは、スキージなどの器具を使用して除去してよい。また、上面開口部分のモルタル組成物に平滑処理を施してもよい。
【0071】
振動装置を用いて型枠60を振動させてもよい。モルタル組成物の流し込み時や、流し込み後に型枠60を振動させてもよい。これにより、ロット間のバラツキを抑制できる。
【0072】
次に、モルタル組成物が充填された型枠60を養生する。養生方法としては、蒸気養生を行う。
蒸気養生において、加熱時間、昇温・降温速度を適切に調整する。これによって、モルタル組成物を硬化養生する。
【0073】
蒸気養生の条件を適切に選択するにより、水和反応を十分に進め、使用時に鉱物組成の変化を抑制できる。このため、より細孔が均一化するため、安定した測定が可能な劣化診断ツール100を実現できる。
【0074】
その後、型枠60の脱型を行い、1個または複数個のモルタルパネル10が得られる。
【0075】
1個のモルタルバーからダイヤモンドカッターで切断して、複数個のモルタルパネル10を得てもよい。モルタルパネル10におけるロット間のバラツキを抑制する観点から、仕切り板64を用いて、1つの型枠60から複数のモルタルパネル10を成形する手法が好ましい。
【0076】
得られたモルタルパネル10に密着層20を貼付けて劣化診断ツール100を得る。
劣化診断ツール100は、包装袋に収容して保管してもよい。モルタルパネル10の諸特性のバラツキが少ないものを複数個選別し、それを同じ包装袋に収容してもよい。
【0077】
図5は、劣化診断ツール100を包装袋310に収容してなるパッケージ300の模式図を示す。
【0078】
図5のパッケージ300は、1枚または2枚以上の劣化診断ツール100と、劣化診断ツール100を収容する包装袋310とを備えるものである。
【0079】
包装袋310は、例えば、3枚の劣化診断ツール100を収容してもよい。複数枚の劣化診断ツール100は、包装袋310中で積層した状態で収容されてもよい。モルタルパネル10の間には密着層20の裏面24上に設けられた剥離層50が、緩衝材の機能を発揮し得る。積層することでモルタルパネル10が互いに接触して破損してしまうことを抑制できる。
【0080】
包装袋310は、アルミラミネートフィルムで構成されたアルミパウチでもよい。アルミラミネートフィルムは、アルミニウム層と樹脂層とが積層されたラミネートフィルムであってもよい。なお、包装袋310は、アルミニウムや樹脂以外にも、ガスバリア性を高め、水蒸気透過率を低くする目的で、他の材料を含んでもよい。
【0081】
包装袋310の厚みは、特に限定されないが、50μm以上300μm以下であり、より好ましくは80μm以上250μm以下であり、さらに好ましくは100μm以上200μm以下である。上記下限値以上とすることで、包装袋310の機械的強度やガスバリア性を向上できる。上記上限値以下とすることで、包装袋310の取扱性が向上する。
【0082】
包装袋310の形態としては、例えば、スタンディングパウチ、2方シール、3方シール、4方シール等が用いられる。
【0083】
包装袋310の内部は、脱気されていてもよく、不活性ガス雰囲気に保たれていてもよい。
【0084】
包装袋310には、開閉自在なチャック320が設けられていてもよい。包装袋310から取り出した劣化診断ツール100を、測定期間経過後に再度、包装袋310に収容できる。
【0085】
また、チャック320付きの包装袋310には、表面に筆記可能なシール(ラベル)が設けられていてもよい。これにより、回収時にも、劣化診断ツール100の識別が容易となる。
【0086】
パッケージ300は、段ボール箱やプラスチックケースなどの箱に梱包される。すなわち、梱包箱は、複数のパッケージ300と、これを収容する箱を備える。これにより、パッケージ300の搬送効率を高めることができる。
【0087】
梱包箱中、パッケージ300の周囲の少なくとも一部が緩衝材で覆われていてもよい。緩衝材には、公知の緩衝材、例えば、気泡緩衝シートや紙などが使用し得る。
【0088】
本実施形態のコンクリート構造物の劣化診断ツール100の詳細について説明する。
【0089】
本発明者の知見によれば、微分細孔容積分布における最大ピークを有する細孔径、その微分細孔容量、および、積算細孔容積分布における10%積算細孔容量の細孔径を指標とすることによって、モルタルパネルの吸着特性について安定的に評価できること、そして、その指標を適切な範囲内とすることによって、モルタルパネルの吸着特性のバラツキが抑制されることが見出された。
モルタルパネルの吸着特性のバラツキを抑制することで、そのモルタルパネルを劣化診断ツールに用いたとき、イオン化物浸透量や飽和含水状態の初期質量等のコンクリート構造物の劣化評価の判断材料となる測定値について、安定的に計測が可能となる。すなわち、劣化測定の安定化が可能となる。
【0090】
モルタルパネル10について、水銀圧入法により細孔径分布を測定できる。
得られた細孔径分布に基づいて微分細孔容積分布(dV/d(logD))を算出し、最大ピークの細孔径、最大ピークの微分細孔容量、最大ピークの半値幅、5μm以上の細孔径に対応する積算細孔容量の割合を求める。
また、細孔径分布に基づいて積算細孔容積分布を算出し、10%積算細孔容量における細孔径、および90%積算細孔容量における細孔径を求める。
【0091】
モルタルパネル10において、最大ピークを有する細孔径、最大ピークの微分細孔容量、および、10%積算細孔容量の細孔径は、それぞれ以下の条件を満たすものである。
【0092】
モルタルパネル10の最大ピークを有する細孔径の下限は、1.0×10-2μm以上、好ましくは7.0×10-2μm以上、より好ましくは9.0×10-2μm以上である。一方、最大ピークを有する細孔径の上限は、5.0μm以下、好ましくは2.0μm以下、より好ましくは2.0×10-1μm以下である。このような範囲内とすることで、モルタルパネル10が適当な吸着特性を発現できる。
【0093】
モルタルパネル10の最大ピークの微分細孔容量の下限は、5.0×10-2ml/g以上、好ましくは7.0×10-2ml/g以上、より好ましくは9.0×10-2ml/g以上である。一方、最大ピークの微分細孔容量の上限は、2.0ml/g以下、好ましくは1.0ml/g以下、より好ましくは1.4×10-1ml/g以下である。このような範囲内とすることで、モルタルパネル10が適当な吸着特性を発現できる。
【0094】
モルタルパネル10の10%積算細孔容量における細孔径の下限は、1.0×10-1μm以上、好ましくは2.0×10-1μm以上、より好ましくは3.0×10-1μm以上である。一方、10%積算細孔容量における細孔径の上限は、3.0μm以下、好ましくは2.5μm以下、より好ましくは2.0μm以下である。これにより、モルタルパネル10の吸着特性のバラツキを抑制できる。
【0095】
モルタルパネル10の最大ピークの半値幅の下限は、例えば、7.0×10-2μm以上、好ましくは9.0×10-2μm以上、より好ましくは1.0×10-1μm以上である。これによって、モルタルパネル10が適当な吸着特性を発現できる。一方、最大ピークの半値幅の上限は、例えば、7.0×10-1μm以下、好ましくは3.0×10-1μm以下、より好ましくは2.0×10-1μm以下である。これにより、モルタルパネル10の吸着特性のバラツキを抑制できる。
【0096】
モルタルパネル10の90%積算細孔容量における細孔径の下限は、例えば、7.0×10-3μm以上、好ましくは8.0×10-3μm以上、より好ましくは1.2×10-2μm以上である。これによって、モルタルパネル10が適当な吸着特性を発現できる。一方、90%積算細孔容量における細孔径の上限は、例えば、3.0×10-1μm以下、好ましくは2.0×10-1μm以下、より好ましくは1.5×10-1μm以下でもよい。
【0097】
モルタルパネル10の、全体の積算細孔容量に対する、5μm以上の細孔径に対応する積算細孔容量の割合の上限は、例えば、10.0%以下、好ましくは9.0%以下、より好ましくは7.0%以下である。これにより、モルタルパネル10の吸着特性のバラツキを抑制できる。一方、5μm以上の細孔径に対応する積算細孔容量の割合の下限は、特に限定されないが、0%以上でもよく、0.1%以上でもよい。
【0098】
水銀圧入法で測定されるモルタルパネル10の全細孔容積は、例えば、0.05ml/g以上0.23ml/g以下、好ましくは0.09ml/g以上0.20ml/gである。これによって、モルタルパネル10が適当な吸着特性を発現できる。
【0099】
水銀圧入法で測定されるモルタルパネル10の全細孔比表面積は、例えば、9.0m2/g以上22.0m2/g以下、好ましくは10.0m2/g以上16.0m2/g以下である。これによって、モルタルパネル10が適当な吸着特性を発現できる。
【0100】
水銀圧入法で測定されるモルタルパネル10の気孔率は、例えば、15.0%以上30.0%以下、好ましくは16.0%以上29.0%以下、より好ましくは17.0%以上28.0%以下である。これによって、モルタルパネル10の吸着特性のバラツキを抑制できる。
【0101】
本実施形態では、たとえばモルタル組成物中に含まれる各成分の種類や配合量、モルタル組成物の調製方法やモルタルパネルの作製方法等を適切に選択することにより、上記寸法、密度、圧縮強度、最大ピークの細孔径、最大ピークの微分細孔容量、最大ピークの半値幅、5μm以上の細孔径に対応する積算細孔容量の割合、10%積算細孔容量における細孔径、および90%積算細孔容量における細孔径を制御することが可能である。これらの中でも、たとえば、減水剤の使用、混練条件、振動条件、養生条件、可動型の仕切り付きの型の使用などを適切に選択すること等が、上記寸法、密度、圧縮強度、最大ピークの細孔径、最大ピークの微分細孔容量、最大ピークの半値幅、5μm以上の細孔径に対応する積算細孔容量の割合、10%積算細孔容量における細孔径、および90%積算細孔容量における細孔径を所望の数値範囲とするための要素として挙げられる。
【0102】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
1. コンクリート構造物のおかれた環境に曝露される主面と、前記コンクリート構造物またはその近傍に存在する構造体に対する貼り付け面となる裏面とを有する、板状のモルタルパネルで構成されるコンクリート構造物の劣化診断ツールであって、
前記モルタルパネルにおいて、水銀圧入法で測定される細孔径分布に基づいて微分細孔容積分布および積算細孔容量を算出したとき、
前記微分細孔容積分布における最大ピークを有する細孔径が、1.0×10
-2
μm以上5.0μm以下の範囲にあり
前記微分細孔容積分布における最大ピークの微分細孔容量が、5.0×10
-2
ml/g以上2.0ml/g以下であり、
10%積算細孔容量における細孔径が、1.0×10
-1
μm以上3.0μm以下の範囲にある、
コンクリート構造物の劣化診断ツール。
2. 1.に記載のコンクリート構造物の劣化診断ツールであって、
前記微分細孔容積分布における最大ピークの半値幅が、7.0×10
-2
μm以上7.0×10
-1
μm以下の範囲にある、
コンクリート構造物の劣化診断ツール。
3. 1.または2.に記載のコンクリート構造物の劣化診断ツールであって、
90%積算細孔容量における細孔径が、7.0×10
-3
μm以上3.0×10
-1
μm以下の範囲にある、
コンクリート構造物の劣化診断ツール。
4. 1.~3.のいずれか一つに記載のコンクリート構造物の劣化診断ツールであって、
全体の積算細孔容量に対する、5μm以上の細孔径に対応する積算細孔容量の割合が、10.0%以下である、
コンクリート構造物の劣化診断ツール。
5. 1.~4.のいずれか一つに記載のコンクリート構造物の劣化診断ツールであって、
水銀圧入法で測定される全細孔容積が、0.05ml/g以上0.23ml/g以下である、
コンクリート構造物の劣化診断ツール。
6. 1.~5.のいずれか一つに記載のコンクリート構造物の劣化診断ツールであって、
水銀圧入法で測定される全細孔比表面積が、9.0m
2
/g以上22.0m
2
/g以下である、
コンクリート構造物の劣化診断ツール。
7. 1.~6.のいずれか一つに記載のコンクリート構造物の劣化診断ツールであって、
JSCE-G 572-2018に準拠して測定される、前記モルタルパネルにける塩化物イオンの見掛けの拡散係数は、10cm
2
/年以上50cm
2
/年以下である、
コンクリート構造物の劣化診断ツール。
8. 1.~7.のいずれか一つに記載のコンクリート構造物の劣化診断ツールであって、
前記モルタルパネルにおける気孔率は、15.0%以上30.0%以下である、
コンクリート構造物の劣化診断ツール。
9. 1.~8.のいずれか一つに記載のコンクリート構造物の劣化診断ツールであって、
前記モルタルパネルの厚みは、3mm以上20mm以下である、
コンクリート構造物の劣化診断ツール。
10. 1.~9.のいずれか一つに記載のコンクリート構造物の劣化診断ツールであって、
前記モルタルパネルの側面に、塩化物イオンまたは二酸化炭素を遮蔽する遮蔽層が設けられている、
コンクリート構造物の劣化診断ツール。
11. 1.~10.のいずれか一つに記載のコンクリート構造物の劣化診断ツールであって、
前記モルタルパネルは、セメントおよび細骨材を含むモルタル組成物の硬化体で構成される、
コンクリート構造物の劣化診断ツール。
【実施例】
【0103】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0104】
<モルタル組成物の調整>
(試験例1)
セメント(デンカ社製、普通セメント)628.0g、減水剤(第一工業製薬社製、セルフロー110P、ポリアルキルアリルスルホン酸塩系減水剤)2.4g、増粘剤(信越化学工業社製、MH4000P2、メチルセルロース系増粘剤)3.4g、消泡剤(サンノプコ社製、SN デフォーマー 14HP、ポリエーテル系消泡剤)3.4gを秤量し、混合した。これらの混合物に、標準砂((一社)セメント協会、セメント強さ試験用標準砂)1350.0g、水(水道水)376.8gを加え(水/セメント比:60%)、ミキサーを用いて、低速、停止、低速の順で回転条件を変更しながら混練を行い、モルタル組成物Aを得た。
【0105】
(試験例2)
減水剤を使用せず、回転条件を低速、高速の順に変更した点以外は、上記の試験例1と同様にして、モルタル組成物Bを得た。
【0106】
<モルタルパネルの作製>
(実施例1)
可動式の仕切り板64で仕切られた複数の成形空間66を備える
図4の型枠60を準備する。
テーブルバイブレータを用いて、型枠60を下記の条件で振動させつつ、得られたモルタル組成物Aを、型枠60の成形空間66のそれぞれに流し込んだ。
テーブルバイブレータの振動条件:
・時間:6分
・振動電動機の回転数:2800±50rpm
・振動台:全振幅0.8±0.05mm
【0107】
20℃、相対湿度80%の恒温恒湿室内に、型枠60を静置し、下記の条件で蒸気養生を行った。
蒸気養生の条件:
・20℃から85℃まで、6時間かけて昇温する。
・85℃を、3時間保持する。
・自然冷却で、20℃まで降温する。
・20℃で1時間静置する。
【0108】
蒸気養生の後、型枠60の固定治具を取り外し、型枠60を脱型して、板状のモルタルパネルA1を3つ得た。各モルタルパネルA1は、厚み:約5mm×縦:約4cm×横:約4cmの略直方形状を有していた。
【0109】
(実施例2)
蒸気養生の条件を、以下の条件に変更した以外は、実施例1と同様にして、板状のモルタルパネルA2を3つ得た。各モルタルパネルA12、厚み:約5mm×縦:約4cm×横:約4cmの略直方形状を有していた。
蒸気養生の条件:
20℃、相対湿度80%の恒温恒湿室内に、型枠60を静置し、下記の条件で蒸気養生を行った。
・20℃から60℃まで、4時間かけて昇温する。
・60℃を、3時間保持する。
・自然冷却で、20℃まで降温する。
・20℃で1時間静置する。
【0110】
(比較例1)
仕切り板を有さずに一つの成形空間を備える型枠を準備する。
得られたモルタル組成物Bを、振動させずに、型枠の成形空間に流し込んだ。
【0111】
20℃、相対湿度80%の恒温恒湿室内に、型枠を静置し、下記の条件で蒸気養生を行った。
蒸気養生の条件:
・20℃を、4時間保持する。
・20℃から80℃まで、4時間かけて昇温する。
・80℃を、4時間保持する。
・自然冷却で、20℃まで降温する。
【0112】
蒸気養生の後、型枠の固定治具を取り外し、型枠を脱型して、モルタルバーを得た。
得られたモルタルバーを、ダイヤモンドカッターにて所定の厚みに切断して、板状のモルタルパネルBを3つ得た。
各モルタルパネルBは、厚み:約5mm×縦:約4cm×横:約4cmの略直方形状を有していた。
【0113】
<コンクリートパネルの作製>
(比較例2)
セメント(普通ポルトランドセメント)100部、細骨材230部、及び粗骨材345部をミキサーに投入し混練して、水60部を添加して混練することによって、コンクリート組成物を得た。
モルタル組成物Bに代えて、コンクリート組成物を用いた以外は、比較例1と同様にして、板状のコンクリートパネルを3つ得た。
各コンクリートパネルは、厚み:約5mm×縦:約4cm×横:約4cmの略直方形状を有していた。
【0114】
得られたモルタルパネルA1、A2、B、およびコンクリートパネルの1つについて、細孔、寸法、質量を測定した。結果を表1に示す。
【0115】
[細孔]
測定装置として、水銀ポロシメーター(島津製作所社製、オートポアIV9520)を用いた水銀圧入法にて、細孔径分布、細孔容量、比表面積、気孔率を求めた。
まず、得られたパネルを、ジョークラッシャ-を用いて2.5~5.0mmの篩間になるように粉砕し、測定用の試料を作製した。
約2.5gの試料をセル内に封入し、測定装置にセットした。そして、測定装置内で100μmHgまで真空排気処理後、測定した。
なお、測定は、最大水銀圧力44500psia、平衡時間5秒の条件で行った。水銀の表面張力:480dynes/cm、水銀の接触:140°、水銀密度:13.5462g/ml、測定粒径範囲:0.0020μm~100.0000μmとした。
【0116】
得られた細孔径分布に基づいて微分細孔容積分布(dV/d(logD))を算出し、最大ピークの細孔径、最大ピークの微分細孔容量、及び最大ピークの半値幅を求めた。
【0117】
細孔径分布に基づいて積算細孔容積分布を算出し、10%積算細孔容量における細孔径、90%積算細孔容量における細孔径、及び5μm以上の細孔径に対応する積算細孔容量の割合を求めた。
【0118】
実施例1、比較例1、比較例2のパネルを用いて得られた微分細孔容積分布・積算細孔容積分布について、それぞれ
図6~
図8に示す。
【0119】
[寸法、質量]
得られたパネルの寸法(厚み、縦、横)はノギスを用いて測定し、質量(g)は精密天秤を用いて計測した。パネルの密度(g/cm3)は、測定された質量を体積で除することで算出した。
【0120】
【0121】
得られたモルタルパネルA1、A2、B、およびコンクリートパネルの3つのそれぞれに対して、塩化物イオン浸透量、および飽和含水状態の初期質量の測定を行った。
【0122】
・塩化物イオン浸透量
得られたパネルを、105℃、24時間乾燥させ、乾燥質量(g)を求めた。単位容積質量(g/cm3)を、乾燥質量/パネルの体積から算出した。
次いで、得られたパネルを、3%塩化ナトリウム水溶液中に28日間浸漬させた後、150μm以下に粉砕して、粉末状の試料を作製した。試料について、JIS A 1154:2012に準拠して、全塩化物イオンの濃度の測定値(wt%)を測定した。
単位容積質量中濃度(kg/m3)=全塩化物イオンの濃度の測定値(wt%)×単位容積質量(g/cm3)×1000
上記の式で算出された単位容積質量中濃度(kg/m3)を、塩化物イオン浸透量の指標とした。
【0123】
・飽和含水状態の初期質量
得られたパネルを、純水中に24時間浸漬させる。その後、表面をキムタオルで拭き取り、乾燥しないうちに、飽和含水状態での(24時間水浸漬後の)パネルの質量について、精密天秤を用いて測定した。
【0124】
比較例1のモルタルパネルB、塩化物イオン浸透量、飽和含水状態の初期質量のいずれも、値のバラツキが大きく、標準偏差が大きいことが示された。比較例2のコンクリートパネルの3つにおいて、塩化物イオン浸透量の値が得られない、または値が小さいことが示された。
これに対して、実施例1,2のモルタルパネルA1,A2の3つにおいては、比較例1,2と比べて、塩化物イオン浸透量、飽和含水状態の初期質量のいずれも、値のバラツキが低減されており、標準偏差が小さいことが示された。
【0125】
<劣化診断ツールの作製>
実施例1,2のモルタルパネルA1,A2を用いて劣化診断ツールを作製した。
まず、アクリル系粘着両面テープ(3M社製、4485、テープ厚み:0.5mm、片面に剥離紙付き)を、縦:3.8cm×横:3.8cmにカットした。カットしたテープの粘着面を、モルタルパネルの裏面に
図1(a)に示すように貼り付けた。
続いて、アルミ製シールの粘着面を、モルタルパネルの側面の4面の全体に、
図3(b)に示すように貼り付けた。以上より、劣化診断ツールA1,A2を得た。
【0126】
得られた劣化診断ツールA1の両面テープから剥離紙を剥離して、その粘着面を、屋外のコンクリート構造物の平坦面に接着させた。劣化診断ツールA1の3個を、数ヶ月(1ヶ月以上、1年未満)の間暴露した後、回収して、分析することにより、各モルタルパネルA1中に含まれる全塩化物イオン量を分析した。3つのモルタルパネルA1中の全塩化物イオン量のバラツキが抑制されていた。また、劣化診断ツールA2を用いても同様の結果が得られた。
したがって、実施例の劣化診断ツールを用いることで、劣化診断ツールを固定した付近のコンクリートの状況を安定的に推定することができる。
【符号の説明】
【0127】
10 モルタルパネル
12 主面
14 裏面
16 側面
20 密着層
22 主面
24 裏面
30 遮蔽層
40 ラベル
50 剥離層
60 型枠
64 仕切り板
66 成形空間
100 劣化診断ツール
200 コンクリート構造物
202 桁
204 橋脚床板
210 構造体
300 パッケージ
310 包装袋
320 チャック