(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】土壌用透水性向上剤組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 17/14 20060101AFI20230111BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20230111BHJP
C09K 101/00 20060101ALN20230111BHJP
【FI】
C09K17/14 H
A01G7/00 602B
C09K101:00
(21)【出願番号】P 2019103747
(22)【出願日】2019-06-03
【審査請求日】2022-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】亀井 昌敏
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-190436(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0106261(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0075944(US,A1)
【文献】特開2005-052013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/00-17/52
A01G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A)として下記成分(A1)及び成分(A2)から選ばれる1種以上の化合物、及び成分(B)として下記成分(B1)の化合物を含有する、土壌用透水性向上剤組成物。
成分(A1):脂肪酸の炭素数が8以上16以下であり、エチレンオキシドの平均付加モル数が3以上40以下であるポリオキシエチレン脂肪酸エステル
成分(A2):脂肪酸の炭素数が8以上16以下であり、グリセリンの平均縮合度が1以上3以下である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル
成分(B1):下記一般式(b1)で示されるアルコール
R
1b-OH (b1)
(式中、R
1bは炭素数6以上16以下の
直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。)
【請求項2】
成分(A)として成分(A1)と成分(A2)を含有する、請求項1に記載の土壌用透水性向上剤組成物。
【請求項3】
成分(A1)の含有量と成分(A2)の含有量との質量比(A1)/(A2)が、0.5以上2以下である、請求項2に記載の土壌用透水性向上剤組成物。
【請求項4】
成分(A)の含有量と成分(B)の含有量との質量比(A)/(B)が、0.03以上30以下である、請求項1~3の何れか1項に記載の土壌用透水性向上剤組成物。
【請求項5】
更に、成分(C)としてSP値が8以上13以下の化合物(但し、成分(A)及び成分(B)を除く)を含有する、請求項1~4の何れか1項に記載の土壌用透水性向上剤組成物。
【請求項6】
更に、成分(D)として水を含有する、請求項1~5の何れか1項に記載の土壌用透水性向上剤組成物。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載の土壌用透水性向上剤組成物を、成分(A)及び成分(B)の合計濃度が50mg/kg以上50000mg/kg以下となるように処理液を調製し、土壌に散布する、土壌の透水性向上方法。
【請求項8】
前記処理液を、土壌10aあたり0.5L以上5000L以下散布する、請求項7に記載の土壌の透水性向上方法。
【請求項9】
前記処理液を、植物が生育されていない土壌に散布する、請求項7又は8に記載の土壌の透水性向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌用透水性向上剤組成物、及び該組成物を用いる土壌の透水性向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土壌中の水分量を最適な状態に維持することは作物の収量と品質の向上を図るためには重要なことである。植物の根は、水分の吸収を行うとともに、媒体内の養分イオンと植物の根の部位への交換によって栄養素をとる。従って、水性移送媒体、すなわち水の非存在下では、植物は大きく成長することができない。
また、透水性の良い土壌と悪い土壌では、土壌に入る酸素の量が異なり、酸素がたくさん入るところには、好気性微生物の住処が多くなり、有機物の分解がよく進む。一方、透水性の悪い土壌では、嫌気性微生物の影響を大きく受け、作物の病害が増えることが考えられる。
【0003】
土壌透水性の悪化の原因は多様であるが、芝生地では、サッチの集積・土壌の固結・ドライスポットの形成などが原因となり、土壌が撥水化することが考えられる。特に、植物などが微生物による分解を経て形成された最終生成物であるフミン質(腐植物質)のうち、酸性の無定形高分子有機物であるフミン酸(腐植酸)が土壌粒子を被覆して疎水化することが有力な原因と考えられ、このような撥水化が進行することでゴルフ場などでは、芝生の美観を損なってしまい、大きな問題となっている。
【0004】
このような土壌の透水性改善技術がこれまで開発されてきている。例えば、特許文献1には、(A)下記式(1)で示される脂肪酸ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、及び(B)下記式(2)で示されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含有する土壌改良剤組成物が開示されている。
R1CO(EO)m(PO)nOR2 (1)
(式中、R1は、炭素数13~21の直鎖又は分岐鎖の鎖式炭化水素基を表し、EOは、エチレンオキサイドを表し、mは2~10の数を表し、POは、プロピレンオキサイドを表し、nは1~4の数を表し、R2は、炭素数1~3の炭化水素基を表す。)
R3O(EO)x(PO)yH (2)
(式中、R3は、炭素数8~14の直鎖又は分岐鎖の鎖式炭化水素基を表し、EOは、エチレンオキサイドを表し、xは7~12の数を表し、POはプロピレンオキサイドを表し、yは0~3の数を表す。)
【0005】
特許文献2には、特に撥水性土壌中で、メチルオキシラン-オキシラン共重合体のC1-C4アルキルエーテルを含む組成物の有効量を媒体に適用する、植物成長媒体中での植物成長の促進方法が開示されている。
特許文献3には、(a)少なくとも1つの非イオン性アルキレンオキシドコポリマーと、(b)少なくとも1つのテルペン系アルコキシレートとを含む成長培地湿潤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2012/063899号
【文献】特表2007-531521号公報
【文献】特表2015-506685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
植物に対して薬害を起こすことなく、土壌の透水性を向上させるには、これまでの技術では不十分であった。特に透水性が低下して水が浸透しにくくなった土壌に対する改善効果が不十分であり、透水性を改善するために大量に薬剤を使用する必要があり、植物に対して薬害を生じさせていた。
【0008】
本発明は、透水性の低下した土壌に対して優れた透水性向上能力を発揮し、植物に対する薬害が低い土壌用透水性向上剤組成物、及び該組成物を用いる土壌の透水性向上方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、成分(A)として下記成分(A1)及び成分(A2)から選ばれる1種以上の化合物、及び成分(B)として下記成分(B1)の化合物を含有する、土壌用透水性向上剤組成物に関する。
成分(A1):脂肪酸の炭素数が8以上16以下であり、エチレンオキシドの平均付加モル数が3以上40以下であるポリオキシエチレン脂肪酸エステル
成分(A2):脂肪酸の炭素数が8以上16以下であり、グリセリンの平均縮合度が1以上3以下である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル
成分(B1):下記一般式(b1)で示されるアルコール
R1b-OH (b1)
(式中、R1bは炭素数6以上16以下の炭化水素基を示す。)
【0010】
本発明は、前記土壌用透水性向上剤組成物を、成分(A)及び成分(B)の合計濃度が50mg/kg以上50000mg/kg以下となるように処理液を調製し、土壌に散布する、土壌の透水性向上方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、透水性の低下した土壌に対して優れた透水性向上能力を発揮し、植物に対する薬害が低い土壌用透水性向上剤組成物、及び該組成物を用いる土壌の透水性向上方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【0013】
[土壌用透水性向上剤組成物]
本発明の土壌用透水性向上剤組成物は、植物に対して薬害を起こすことなく、透水性の低下した土壌に対して優れた透水性向上能力を発揮することができる。
本発明に係る土壌用透水性向上剤組成物の作用メカニズムの詳細は定かではないが、以下のように考えられる。
透水性が低下した土壌は、フミン酸(腐植酸)等の疎水性物質が土壌粒子を被覆して疎水化していると考えられ、この疎水性物質に成分(B)が吸着するとともに成分(A)が成分(B)を介して吸着し、土壌粒子表面を親水化する。そして、土壌粒子が親水化することにより、土壌粒子の水との接触角が低下し、透水性が向上するものと推定される。また、成分(A)及び成分(B)は植物の生理障害を起こしにくいため、植物に対する薬害を生じさせにくいものと推定される。
なお本発明の作用メカニズムは上記のものに限定されるものではない。
【0014】
<成分(A)>
成分(A)は、脂肪酸エステルであって、下記成分(A1)及び成分(A2)から選ばれる1種以上の化合物である。
成分(A1):脂肪酸の炭素数が8以上16以下であり、エチレンオキシドの平均付加モル数が3以上40以下であるポリオキシエチレン脂肪酸エステル
成分(A2):脂肪酸の炭素数が8以上16以下であり、グリセリンの平均縮合度が1以上3以下である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル
本発明の土壌用透水性向上剤組成物は、成分(A1)、成分(A2)のいずれのものであっても1種を含有していればよく、成分(A1)、成分(A2)の2種を含有していてもよい。
【0015】
<成分(A1)>
成分(A1)は、脂肪酸の炭素数が8以上16以下であり、エチレンオキシドの平均付加モル数が3以上40以下であるポリオキシエチレン脂肪酸エステルである。成分(A1)における脂肪酸の炭素数は、透水性向上及び薬害低減の観点から、好ましくは10以上、より好ましくは12以上、そして、好ましくは14以下、より好ましくは13以下であり、更に好ましくは12である。成分(A1)における脂肪酸は、直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、又は直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基を有するものが好ましく、直鎖のアルキル基を有するものがより好ましい。成分(A1)における脂肪酸としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸等が挙げられ、透水性向上及び薬害低減の観点から、好ましくはラウリン酸、ミリスチン酸、より好ましくはラウリン酸である。成分(A1)において、エチレンオキシドの平均付加モル数は、透水性向上及び薬害低減の観点から、3以上、好ましくは5以上、より好ましくは6以上、更に好ましくは8以上、そして、40以下、好ましくは20以下、より好ましくは15以下、更に好ましくは13以下である。成分(A1)において、エステルはモノエステルが好ましい。
【0016】
<成分(A2)>
成分(A2)は、脂肪酸の炭素数が8以上16以下であり、グリセリンの平均縮合度が1以上3以下である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルである。ここで、「(ポリ)グリセリン」は、「グリセリン又はポリグリセリン」の意味である。成分(A2)において、脂肪酸の炭素数は、透水性向上及び薬害低減の観点から、8以上、好ましくは10以上、そして、16以下、好ましくは14以下、より好ましくは12以下、更に好ましくは10である。成分(A2)における脂肪酸は、直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、又は直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基を有するものが好ましく、直鎖のアルキル基を有するものがより好ましい。成分(A2)における脂肪酸としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸等が挙げられ、透水性向上及び薬害低減の観点から、好ましくはカプリン酸、ラウリン酸であり、より好ましくはカプリン酸である。成分(A2)において、グリセリンの平均縮合度は、透水性向上及び薬害低減の観点から、1以上、そして、3以下、好ましくは2以下、より好ましくは2である。また、成分(A2)において、エステル結合の形態は、モノエステル体、ジエステル体が好ましく、モノエステル体がより好ましい。
【0017】
<成分(B)>
成分(B)は下記成分(B1)の化合物である。
成分(B1):下記一般式(b1)で示されるアルコール
R1b-OH (b1)
(式中、R1bは炭素数6以上16以下の炭化水素基を示す。)
一般式(b1)において、R1bの炭素数は、透水性向上及び薬害低減の観点から、6以上、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、そして、16以下、好ましくは14以下、より好ましくは12以下であり、更に好ましくは10である。R1bは炭化水素基であり、透水性向上及び薬害低減の観点から、好ましくはアルキル基、アルケニル基、又はアリール基であり、より好ましくは直鎖又は分岐鎖のアルキル基であり、更に好ましくは直鎖のアルキル基である。
【0018】
<組成等>
本発明の土壌用透水性向上剤組成物において、成分(A)の含有量と成分(B)の含有量との質量比(A)/(B)は、透水性向上の観点から、好ましくは0.03以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上、より更に好ましくは0.3以上、より更に好ましくは0.5以上、そして、好ましくは30以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは10以下、より更に好ましくは8以下、より更に好ましくは2以下である。
【0019】
本発明の土壌用透水性向上剤組成物は、成分(A)と成分(B)とを合計で好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、より更に好ましくは40質量%以上、より更に好ましくは60質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上、そして、100質量%以下含有する。成分(A)と成分(B)の合計含有量が前記範囲であれば、保存及び輸送が効率的になるとともに、水等による希釈作業の作業性を向上でき、土壌に対して良好な透水性向上効果が得られるため好ましい。また本発明の土壌用透水性向上剤組成物は、成分(A)及び成分(B)からなるものであってもよい。
【0020】
本発明の土壌用透水性向上剤組成物は、透水性向上の観点から、成分(A)として、成分(A1)及び成分(A2)を含有することが好ましい。
本発明の土壌用透水性向上剤組成物において、成分(A)として、成分(A1)及び成分(A2)を含有する場合、成分(A1)の含有量と成分(A2)の含有量との質量比(A1)/(A2)は、透水性向上及び薬害低減の観点から、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.7以上、更に好ましくは0.8以上、より更に好ましくは1以上であり、そして、好ましくは2以下、より好ましくは1.9以下、更に好ましくは1.8以下、より更に好ましくは1.7以下である。
【0021】
本発明の土壌用透水性向上剤組成物は、保存安定性向上の観点から、成分(C)として、SP値が8以上13以下の化合物を含有することが好ましい。但し、成分(C)からは、成分(A)及び成分(B)に該当する化合物は除かれる。
【0022】
成分(C)のSP値は、好ましくは8以上、より好ましくは8.4以上、更に好ましくは9.5以上、そして、好ましくは13以下、より好ましくは12以下、更に好ましくは11以下である。SP値は、溶解度パラメーターである。本発明において、SP値は、Hoyの方法によって求めた値(単位:(cal/cm3)1/2)である。
【0023】
成分(C)は、他成分の低温析出抑制の観点から、炭素数5以下のエステル化合物、ジメチルスルホキシド、及び炭素数1以上3以下のアルコールから選ばれる1種以上の化合物が好ましい。
炭素数5以下のエステル化合物としては、酢酸エチル(SP値8.1)、乳酸エチル(SP値9.7)、酢酸メチル(SP値8.4)、乳酸メチル(SP値10.2)、プロピオン酸エチル(SP値8.3)、プロピオン酸メチル(SP値8.3)等が挙げられる。
ジメチルスルホキシドのSP値は、13.0である。
炭素数1以上3以下のアルコールとしては、エタノール(SP値12.7)、プロピルアルコール(SP値12.0)等が挙げられる。
成分(C)は、他成分の低温析出抑制の観点から、乳酸エチル、ジメチルスルホキシドから選ばれる1種以上の化合物が好ましい。
【0024】
本発明の土壌用透水性向上剤組成物において、成分(C)を含有する場合、成分(C)の含有量は、特に制限されないが、好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上、そして、好ましくは50質量%未満、より好ましくは30質量%以下である。
【0025】
本発明の土壌用透水性向上剤組成物において、成分(C)を含有する場合、成分(C)の含有量と成分(A)と成分(B)の合計含有量との質量比(C)/((A)+(B))は、保存安定性向上の観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上、そして、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.2以下、更に好ましくは0.15以下である。
【0026】
本発明の土壌用透水性向上剤組成物は、成分(A)と成分(B)と成分(C)とを合計で好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、より更に好ましくは40質量%以上、より更に好ましくは60質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上、そして、100質量%以下含有する。また本発明の土壌用透水性向上剤組成物は、成分(A)、成分(B)及び成分(C)からなるものであってもよい。
【0027】
本発明の土壌用透水性向上剤組成物は、成分(A)、成分(B)による透水性向上効果を損なわず薬害に影響しない範囲で、成分(A)、成分(B)以外の界面活性剤を含有することもできる。そのような界面活性剤としては、成分(A)、成分(B)以外の非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤及び両性界面活性剤、或いはそれらの混合物が挙げられる。
【0028】
本発明の土壌用透水性向上剤組成物において、成分(A)、成分(B)以外の界面活性剤を含有する場合、その含有量は、成分(A)、成分(B)による効果を妨げない範囲で適宜選択可能である。本発明の土壌用透水性向上剤組成物において、全界面活性剤中の成分(A)及び成分(B)の合計含有量は、透水性向上及び薬害低減の観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、そして、好ましくは100質量%以下であり、100質量%であってもよい。
【0029】
非イオン界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシアルキレンアリールエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、ポリオキシアルキレンアルキルソルビトールエステル、ポリオキシアルキレンアルキルソルビタンエステル、ポリオキシアルキレンアルキルグリセロールエステル、ポリオキシアルキレンブロック共重合体、ポリオキシアルキレンブロック共重合体アルキルグリセロールエステル、ポリオキシアルキレンアルキルスルホンアミド、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグルコシド、アルキルグリセリルエーテル等が挙げられ、これらのうちの1種以上を用いることができる。非イオン界面活性剤としては、透水性向上及び薬害低減の観点から、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、及びポリオキシアルキレンアルケニルアミンから選ばれる1種以上が好ましく、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシプロピレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルケニルアミン、及びポリオキシプロピレンアルケニルアミンから選ばれる1種以上がより好ましく、ポリオキシエチレンタローアミン、ポリオキシエチレンココアミン、ポリオキシエチレンソイアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、及びポリオキシエチレンオクチルアミンから選ばれる1種以上が更に好ましく、ポリオキシエチレンココアミンがより更に好ましい。
【0030】
陽イオン界面活性剤としては、アルキルアミン塩型、第4級アンモニウム塩型、ピリジニウム塩型、ジアルキルアミン誘導体等が挙げられ、アルキルアミン塩型としては、例えば、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン及びそれらの酢酸等の酸塩;第4級アンモニウム塩型としては、例えば、ラウリルトリメチルアンモニウム、ミリスチルトリメチルアンモニウム、パルミチルトリメチルアンモニウム、ステアリルトリメチルアンモニウム、オレイルトリメチルアンモニウム等の第4級アンモニウムのクロライド等のハロゲン化物塩;ピリジニウム塩型としては、ドデシルピリジニウム、ヘキサデシルピリジニウム等のピリジニウムのクロライド等のハロゲン化物塩;ジアルキルアミン誘導体としては、ジアルキルモノメチルヒドロキシエチルアンモニウムプロピオネート、ジアルキルモノメチルベンザルコニウムクロライド、ジアルキルモノメチルエチルアンモニウムエチルサルフェートなどがある。
陽イオン界面活性剤としては、透水性向上及び薬害低減の観点から、アルキルアミン塩型、第4級アンモニウム塩型、及びジアルキルアミン誘導体から選ばれる1種以上が好ましく、ジラウリルモノメチルベンザルコニウムクロライドがより好ましい。
【0031】
陰イオン界面活性剤のうち、典型的なものは、水溶液或いは固体状態で入手され得るが、その例としては、モノ-及びジ-アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、α-オレフィンスルホン酸ナトリウム、アルカンスルホン酸ナトリウム、モノ-及びジ-アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホネートのホルムアルデヒド縮合物等のスルホン酸塩;アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル硫酸塩等の硫酸塩;モノ及びジアルキルリン酸塩、ポリオキシアルキレンモノ及びジアルキルリン酸塩、ポリオキシアルキレンモノ及びジフェニルエーテルリン酸塩、ポリオキシアルキレンモノ及びジアルキルフェニルエーテルリン酸塩等のリン酸塩;ポリアクリル酸等のポリカルボン酸及びその塩、直鎖及び分岐アルキルポリオキシアルキレンエーテル酢酸及びその塩、アルケニルポリオキシアルキレンエーテル酢酸及びその塩、直鎖及び分岐アルキルアミドポリオキシアルキレンエーテル酢酸及びその塩、ステアリン酸やオレイン酸等の脂肪酸及びその塩等のカルボン酸及びその塩;ココイルメチルタウリンナトリウム等が挙げられ、これらのうちの1種以上を用いることができる。
陰イオン界面活性剤としては、透水性向上及び薬害低減の観点から、脂肪酸塩が好ましく、オレイン酸、ヒマシ油脂肪酸等の高級脂肪酸のナトリウム塩、カリウム塩がより好ましく、オレイン酸カリウムがより好ましい。
【0032】
両性界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミンオキサイド等のアルキルアミンオキサイド型;ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン等のカルボキシベタイン型;アルキルジエチレントリアミノ酢酸等のグリシン型;2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等の2-アルキルイミダゾリン誘導体等が挙げられ、これらのうちの1種以上を用いることができる。
【0033】
本発明の土壌用透水性向上剤組成物は、成分(D)として、水を含有することができる。本発明の土壌用透水性向上剤組成物が水を含有する場合、該組成物の希釈時の成分(A)、成分(B)及び任意成分(成分(C)を含む)の希釈媒体(例えば、水及び/又は有機溶媒)への分散及び溶解が容易となるため、土壌散布時において、希釈媒体で希釈して処理液を調製する工程が容易になる。
【0034】
本発明の土壌用透水性向上剤組成物において、成分(D)の含有量は、特に制限されないが、好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上、そして、好ましくは50質量%未満、より好ましくは30質量%以下である。
【0035】
本発明の土壌用透水性向上剤組成物は、成分(A)と成分(B)と成分(C)と成分(D)とを合計で好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、より更に好ましくは40質量%以上、より更に好ましくは60質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上、そして、100質量%以下含有する。また本発明の土壌用透水性向上剤組成物は、成分(A)、成分(B)、成分(C)、及び成分(D)からなるものであってもよい。
【0036】
なお、本発明の土壌用透水性向上剤組成物に含有される成分(A)及び成分(B)は、組成物の調製後であっても、ガスクロマトグラフィーにより分離し、FID検出器にて検出することができる。例えば、土壌用透水性向上剤組成物をエタノール等の適当な溶媒で希釈した後、以下の条件で測定することにより、土壌用透水性向上剤組成物中の成分(A)及び成分(B)を定量的に確認することができる。
装置:ガスクロマトグラフィー分析システム(Agilent6850 Series II、アジレント・テクノロジー株式会社製)
カラム:DB-5((5%-Phenyl)-Methylpolysiloxane)(アジレント・テクノロジー株式会社製)
カラムサイズ:長さ:12m、内径:200μm、膜厚:0.33μm
ヘリウムガス流量:1.0mL/分、圧力:85.0kPa
カラム温度条件(初期カラム温度:60℃、2分間保持→昇温10℃/分→300℃、14分間保持)
【0037】
[土壌の透水性向上方法]
本発明は、本発明の土壌用透水性向上剤組成物を、成分(A)及び成分(B)の合計濃度が50mg/kg以上50000mg/kg以下となるように処理液を調製し、土壌に散布する、土壌の透水性向上方法である。
本発明の土壌の透水性向上方法は、本発明の土壌用透水性向上剤組成物で記載した事項を適宜適用することができる。
【0038】
本発明の土壌の透水性向上方法において、本発明の土壌用透水性向上剤組成物を、成分(A)及び成分(B)の合計濃度が、透水性向上及び薬害低減の観点から、50mg/kg以上、好ましくは100mg/kg以上、より好ましくは300mg/kg以上、更に好ましくは500mg/kg以上、より更に好ましくは600mg/kg以上、そして、50000mg/kg以下、好ましくは25000mg/kg以下、より好ましくは20000mg/kg以下、更に好ましくは15000mg/kg以下、より更に好ましくは12000mg/kg以下、より更に好ましくは10000mg/kg以下となるように処理液を調製する。前記処理液において、成分(A)及び成分(B)の合計濃度が、下限値以上であれば、優れた透水性向上効果が得られ、また合計濃度が上限値以下であれば、透水性向上効果を十分に発揮でき、薬害を低減できる。
処理液の調製に用いる媒体としては、水等の成分(A)及び成分(B)を均一に溶解あるいは分散できる溶媒であればいずれの溶媒でも用いることができる。処理液の調製に用いる溶媒としては、水、エタノール等の水溶性溶剤及びこれらの混合溶媒を用いることが好ましく、水を含有することがより好ましく、水であることが更に好ましい。水としては、イオン交換水、水道水等の大量に入手可能な水を散布する土壌に応じて適宜使用できる。
【0039】
本発明の土壌用透水性向上剤組成物から調製した前記処理液を土壌に散布する場合、前記処理液を、土壌10aあたり、好ましくは0.5L以上、より好ましくは1L以上、更に好ましくは5L以上、より更に好ましくは50L以上、より更に好ましくは100L以上、そして、好ましくは5000L以下、より好ましくは2000L以下、更に好ましくは1000L以下散布する。
散布量が下限値以上であれば十分な透水性を得ることができ良好な透水性向上効果が得られ、また、上限値以下であれば薬害を生じることなく良好な透水性向上効果が得られる。
【0040】
本発明の土壌用透水性向上剤組成物から調製した前記処理液を土壌に散布する場合、前記成分(A)及び成分(B)の合計量を、土壌10aあたり、好ましくは5g以上、より好ましくは10g以上、更に好ましくは50g以上、より更に好ましくは100g以上、より更に好ましくは200g以上、そして、好ましくは50kg以下、より好ましくは10kg以下、更に好ましくは5kg以下、より更に好ましくは3kg以下となるように前記処理液を散布する。
散布量が前記範囲の下限値以上であれば十分な透水性を得ることができ良好な透水性向上効果が得られ、また、上限値以下であれば薬害を生じることなく良好な透水性向上効果が得られる。
【0041】
本発明の土壌用透水性向上剤組成物から調製した前記処理液は、植物が生育されていない土壌、植物が生育されている土壌のどちらにも散布できるが、植物が生育されていない土壌もしくは植物が栽培されていない土壌に散布することが好ましい。
【実施例】
【0042】
以下の実施例、比較例において、使用した成分は以下の通りである。
<成分(A)>
[成分(A1)]
A1-1:ポリオキシエチレン(12)モノラウリン酸エステル(花王株式会社製、エマノーン1112)
A1-2:ポリオキシエチレン(10)モノラウリン酸エステル(日光ケミカルズ株式会社製、NIKKOL MYL-10)
A1-3:ポリオキシエチレン(9)モノラウリン酸エステル(日油株式会社製、ノニオンL-4)
A1-4:ポリオキシエチレン(4.5)モノラウリン酸エステル(日油株式会社製、ノニオン L-2)
A1-5:ポリオキシエチレン(20)モノミリスチン酸エステル(日油株式会社製、ノニオン MM-9)
A1-6: ポリオキシエチレン(9)モノミリスチン酸エステル(日油株式会社製、ノニオン MM-4)
【0043】
[成分(A2)]
A2-1:モノカプリル酸モノグリセリル(東京化成工業株式会社製、モノカプリリン)
A2-2:モノカプリン酸モノグリセリル(東京化成工業株式会社製、モノカプリン)
A2-3:モノラウリン酸モノグリセリル(東京化成工業株式会社製、モノラウリン)
A2-4:モノラウリン酸ジグリセリル(太陽化学株式会社製、サンソフトQ-12D-C)
【0044】
<成分(A’)(成分(A)の比較成分>
A’-1:ポリオキシエチレン(9.1)モノオレイン酸エステル(青木油脂工業株式会社製、ブラウノン O-400SA)
A’-2:モノオレイン酸デカグリセリル(日光ケミカルズ株式会社製、NIKKOL DECAGLYN 1-OV)
【0045】
<成分(B)>
B-1:オクチルアルコール(花王株式会社製、カルコール0898)
B-2:デシルアルコール(花王株式会社製、カルコール1098)
B-3:ラウリルアルコール(花王株式会社製、カルコール2098)
B-4:ミリスチルアルコール(花王株式会社製、カルコール4098)
【0046】
<成分(B’)(成分(B)の比較成分>
B’-1:メタノール(富士フィルム和光純薬株式会社製)
B’-2:1-ブタノール(富士フィルム和光純薬株式会社製)
B’-3:オレイルアルコール(富士フィルム和光純薬株式会社製)
【0047】
<成分C>
C-1:乳酸エチル(東京化成工業株式会社製)
C-2:ジメチルスルホキシド(富士フィルム和光純薬株式会社製)
<成分D>
D-1:オルガノ株式会社製の純水装置G-10DSTSETで製造した1μS/cm以下の純水
【0048】
<その他成分>
市販品1:レボ(株式会社トモグリーン・ケミカル製、非イオン界面活性剤(ModifiedAlkylated Polyol(H3C-(CH2CH2O)x-(CH2CH(CH3)O)y(CH2CH2O)x-CH3))、特許第5015767号)
市販品2:クアリブラ(登録商標)(シンジェンタジャパン株式会社製、PO-EO共重合体(75~85%)、エトキシル-プロポキシルテルペン(ブロック重合体、15~25%)含有)
【0049】
<土壌用透水性向上剤組成物の製造(組成物No.1~21)>
表1に示す組成となるように、各成分を混合し、土壌用透水性向上剤組成物を調製した。得られた土壌用透水性向上剤組成物を以下の評価に用いた。
【0050】
【0051】
表1中、成分(A’)、及び成分(B’)は、便宜上、成分(A)、及び成分(B)にそれぞれ記載した。
【0052】
<処理液の調製(実施例1~24及び比較例2~8)>
各土壌用透水性向上剤組成物を表2に示す濃度となるように水(D-1)を用いて希釈して、処理液を調製した。なお、比較例1には土壌用透水性向上剤組成物を含まない水のみを用いた。また比較例7、8は、市販品1、2をそれぞれ表2に示す濃度となるように水を用いて希釈して、処理液を調製した。
【0053】
<評価用土壌の調製>
乾燥機(80℃)で3日間乾燥させた土壌(荒木田土、グリーンメール社製)800gを2Lの容器に入れ、ステンレス製アンカー型攪拌羽根(羽根径90mm×350mm)を取り付けた攪拌機を用いて土壌を25rpmの回転速度で緩やかに攪拌しながら、フミン酸(富士フィルム和光純薬株式会社製)/トルエン(富士フィルム和光純薬株式会社製)混合溶液(質量比1/1)400gを徐々に滴下し混合した。その後ドラフト室内に開放状態で室温にて3日間静置してトルエンを蒸発させ、評価用土壌を作成した。評価用土壌の水の接触角は122°であり、疎水性を示した。
【0054】
<透水係数(k)の測定>
10mLシリンジ(型番:SS-10ESZ(横口)、テルモ株式会社製、透過面積:1.855cm2)の外筒内に、筒先から土壌が流出せず、かつ透水速度に影響のないように、外筒内の筒先端にキムワイプS-200(日本製紙クレシア株式会社製)の小片を1枚敷き、2.0g評価用土壌を入れ、土壌高さ(透過長)が1.5cmになるように押し固め、透過した処理液を微小液滴で落下させるため、筒先にピペットチップ(1~200μL、イエロー、50mm、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)を取り付けた。筒先を下にして固定し、筒内の土壌に上から水を5mL滴下し、筒内を透過させ、土が毛管水で満たされている状態(毛管飽和状態)とした。その後、各処理液を筒内の土壌に5mL滴下し、水面の高さが一定になるよう(液面から液出口までの高さが5.0cmで一定)上から処理液を適宜添加し、水面の高さを一定に保ちながら、処理液添加開始時から土壌を透過した液の質量が5.0gに到達するまでに要する透過時間を測定した。比重は1.00とし、質量から容量を換算し、下記式(1)にて、透水係数を算出した。結果を表1に示す。
k=(Q×L)÷(h×A×t) (1)
k:透水係数(cm/秒)
Q:透過液量(cm3)
L:透過長(土壌高さ)(cm)
h:液面から液出口までの高さ(cm)
A:透過面積(cm2)
t:透過時間(秒)
【0055】
<接触角の測定>
評価用土壌0.5gをスライドガラス(松浪硝子工業株式会社製、商品名:S-1112)に乗せ、表面の形状を平らに整えた。各処理液5μLを滴下し、5秒後、光学顕微鏡(デジタルマイクロスコープVHX-2000、株式会社キーエンス製)を用い、横からの液滴を撮影し、画像処理ソフトにより接触角を測定した。同様の操作で5回測定し、その平均値を算出した。結果を表2に示す。
【0056】
<植物への薬害度の測定>
植物への薬害度の測定には、薬剤に対する感受性の高いダイズ(品種:富貴、タキイ種苗株式会社製)を用いた。ダイズを3週間栽培して2葉期のダイズを準備し、1m
2あたり3株のダイズを配置し、各処理液を表2に記載の各処理量となるように、ハンドスプレーを用いて葉面散布した。1週間後、第1葉に発生した薬害を、
図1及び下記の薬害度の指標で判定した。結果を表2に示す。
-:薬害発生なし、
±:わずかに薬害発生
+:明らかに薬害発生
++:強く薬害発生、
+++:極めて強く薬害発生
【0057】