(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】燃料電池システム制御方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04664 20160101AFI20230111BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20230111BHJP
H01M 8/0438 20160101ALI20230111BHJP
H01M 8/04089 20160101ALI20230111BHJP
【FI】
H01M8/04664
H01M8/04537
H01M8/0438
H01M8/04089
(21)【出願番号】P 2019147536
(22)【出願日】2019-08-09
【審査請求日】2021-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100212657
【氏名又は名称】塚原 一久
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲太郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 博之
(72)【発明者】
【氏名】森本 誠
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-310109(JP,A)
【文献】特開2008-130445(JP,A)
【文献】特開2000-243421(JP,A)
【文献】特開2010-86917(JP,A)
【文献】特開2009-48816(JP,A)
【文献】特開2007-87859(JP,A)
【文献】特開2007-5209(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/2495
B60L 50/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の燃料電池セルを有する燃料電池スタックを備える燃料電池システムの制御方法であって、
前記燃料電池スタックに異常な出力低下が発生した場合に、
前記燃料電池スタックに対する空気の供給量が適正かどうかをチェックするステップと、
前記燃料電池スタックに対する空気の供給圧が適正かどうかをチェックするステップと、
前記燃料電池セルの乾き具合が適正かどうかをチェックするステップと、
を含むチェック処理を行い、
前記チェック処理において、前記空気の供給量、前記空気の供給圧、および、前記燃料電池セルの乾き具合がいずれも適正であるときは、前記燃料電池セルの触媒反応を阻害するガスが前記空気と共に前記燃料電池スタックに送り込まれたことが、前記燃料電池スタックの異常な出力低下の原因であると推定する、
燃料電池システムの制御方法。
【請求項2】
前記燃料電池スタックの指令出力と実出力との偏差が閾値以上であり、かつ、前記偏差に基づいて前記燃料電池スタックの出力をフィードバック制御するときの積分項が飽和状態であるときに、前記燃料電池スタックに異常な出力低下が発生したと判定する、
請求項1に記載の燃料電池システムの制御方法。
【請求項3】
前記複数の燃料電池セルの平均セル電圧が所定の許容電圧を下回っており、かつ、各々の燃料電池セル間の電圧差が所定値未満である場合に、前記燃料電池スタックに異常な出力低下が発生したか否かの判断を行う、
請求項1または2に記載の燃料電池システムの制御方法。
【請求項4】
前記燃料電池セルの乾き具合を、前記燃料電池スタックのインピーダンスに基づいてチェックする、
請求項1~3のいずれか一項に記載の燃料電池システムの制御方法。
【請求項5】
前記燃料電池セルの乾き具合を、前記燃料電池セルの温度に基づいてチェックする、
請求項1~3のいずれか一項に記載の燃料電池システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システム制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、複数の燃料電池セルを有する燃料電池スタックは、水素と酸素の電気化学反応によって発電する。このため、燃料電池スタックを備える燃料電池システムには、燃料ガスとしての水素を燃料電池スタックに供給する水素供給ユニットと、酸化ガスとしての空気中の酸素を燃料電池スタックに供給する空気供給ユニットとが設けられている。
【0003】
燃料電池スタックに水素と空気を供給して発電させる場合、燃料電池スタックの出力電力が頻繁に変動すると、燃料電池セルの劣化が早く進行する傾向にある。そこで、特許文献1には、燃料電池ユニットの出力状態を蓄電装置の充電率に応じて複数段階に切り替える技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
燃料電池スタックを発電させる場合は、燃料電池スタックに対して要求される指令出力に応じて、水素の供給量と空気の供給量とが調整される。ただし、指令出力に応じた量の水素と空気が供給されていても、燃料電池スタックの実出力が指令出力を下回る状態が続くことがある。その場合は、燃料電池スタックの実出力に対して空気の供給量が過剰となり、燃料電池セルの劣化が早まるおそれがある。従来においては、燃料電池スタックの出力低下の原因が幾つか挙げられており、その中では出力低下の原因を特定できるものの、それ以外の原因によって燃料電池スタックの出力が低下している場合には、出力低下の原因を突き止めることができなかった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、燃料電池スタックの出力低下の原因を従来よりも絞り込むことができる燃料電池システムの制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数の燃料電池セルを有する燃料電池スタックを備える燃料電池システムの制御方法であって、燃料電池スタックに異常な出力低下が発生した場合に、燃料電池スタックに対する空気の供給量が適正かどうかをチェックするステップと、燃料電池スタックに対する空気の供給圧が適正かどうかをチェックするステップと、燃料電池セルの乾き具合が適正かどうかをチェックするステップと、を含むチェック処理を行い、チェック処理において、空気の供給量、空気の供給圧、および、燃料電池セルの乾き具合がいずれも適正であるときは、燃料電池セルの触媒反応を阻害するガスが空気と共に燃料電池スタックに送り込まれたことが、燃料電池スタックの異常な出力低下の原因であると推定する。
【0008】
本発明に係る燃料電池システムの制御方法においては、燃料電池スタックの指令出力と実出力との偏差が閾値以上であり、かつ、偏差に基づいて燃料電池スタックの出力をフィードバック制御するときの積分項が飽和状態であるときに、燃料電池スタックに異常な出力低下が発生したと判定する。
【0009】
本発明に係る燃料電池システムの制御方法においては、複数の燃料電池セルの平均セル電圧が所定の許容電圧を下回っており、かつ、各々の燃料電池セル間の電圧差が所定値未満である場合に、燃料電池スタックに異常な出力低下が発生したか否かの判断を行う。
【0010】
本発明に係る燃料電池システムの制御方法において、燃料電池セルの乾き具合を、燃料電池スタックのインピーダンスに基づいてチェックする。
【0011】
本発明に係る燃料電池システムの制御方法において、燃料電池セルの乾き具合を、燃料電池セルの温度に基づいてチェックする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、燃料電池スタックの出力低下の原因を従来よりも絞り込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る燃料電池システムの構成を示す概略図である。
【
図3】燃料電池スタックの出力を制御する方法を説明する図である。
【
図4】本発明の実施形態に燃料電池システムの制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る燃料電池システムの構成を示す概略図である。
図1に示すように、燃料電池システム11は、燃料電池スタック15を備えている。燃料電池スタック15は、複数の燃料電池セル16を有し、これらの燃料電池セル16を積層したスタック構造となっている。各々の燃料電池セル16は、図示はしないが、電解質膜の両面を2つのセパレータで挟んだ構造になっている。電解質膜の一方の面にはカソード電極が配置され、電解質膜の他方の面にはアノード電極が配置される。カソード電極およびアノード電極の各電極面には触媒の層が形成され、その触媒での化学反応(以下、「触媒反応」ともいう。)によって燃料電池セル16が発電する。また、燃料電池スタック15は、第1エンドプレート21と、第1絶縁板22と、第1集電板23と、複数の燃料電池セル16と、第2集電板24と、第2絶縁板25と、第2エンドプレート26とを、この順に積層したスタック構造となっている。
【0015】
燃料電池スタック15には、水素供給ユニット31と空気供給ユニット32とが接続されている。水素供給ユニット31は、燃料ガスとなる水素を燃料電池スタック15に供給するためのユニットである。水素供給ユニット31は、水素タンク34と、タンクバルブ35と、レギュレータ36と、インジェクタ37と、水素供給配管38と、圧力センサ39とを有している。圧力センサ39は、燃料電池スタック15における水素の圧力を検出するセンサである。圧力センサ39の検出結果は制御部12に与えられる。水素タンク34に貯蔵された水素は、水素供給配管38を通して燃料電池スタック15に供給される。その際、水素供給配管38を流れる水素は、タンクバルブ35および差圧により動作するレギュレータ36を経由してインジェクタ37に供給され、インジェクタ37の連続的な開閉動作により、圧力センサ39を経由して燃料電池スタック15に供給される。
【0016】
空気供給ユニット32は、酸素を含む空気を燃料電池スタック15に供給するためのユニットである。空気供給ユニット32は、コンプレッサ40と、空気供給配管41と、流量センサ47と、圧力センサ48とを有している。コンプレッサ40は、大気から吸引した空気を圧縮する。コンプレッサ40が圧縮した空気は、空気供給配管41を通して燃料電池スタック15に供給される。流量センサ47は、燃料電池スタック15に供給される空気の量を検出するセンサである。流量センサ47は、制御部12に電気的に接続されている。流量センサ47の検出結果は制御部12に与えられる。圧力センサ48は、燃料電池スタック15に供給される空気の圧力を検出するセンサである。圧力センサ48は、制御部12に電気的に接続されている。圧力センサ48の検出結果は制御部12に与えられる。
【0017】
また、燃料電池スタック15には、排出配管43と、冷却ユニット44と、排出ユニット45と、水素循環ユニット46とが接続されている。排出配管43は、燃料電池スタック15から排出されるカソードオフガスを大気中に排出するための配管である。冷却ユニット44は、燃料電池スタック15を冷却するためのユニットである。冷却ユニット44は、温度センサ51と、配管52と、ラジエータ53と、ポンプ54と、配管55とを有している。冷却ユニット44は、冷却媒体としての冷却水をポンプ54によって循環させることにより、燃料電池スタック15の熱を回収するとともに、回収した熱をラジエータ53によって大気中に放出させる。これにより、燃料電池スタック15が冷却される。温度センサ51は、配管52を流れる冷却水の温度を検出するセンサである。温度センサ51の検出結果は制御部12に与えられる。
【0018】
排出ユニット45は、燃料電池スタック15から排出されるアノードオフガスを排出するためのユニットである。排出ユニット45は、排気排水弁61と、排出配管62とを有している。排気排水弁61は、アノードオフガスとこれに含まれる生成水とを、排出配管62を通して大気中に排出するための弁である。
【0019】
水素循環ユニット46は、燃料電池スタック15から排出されるアノードオフガスに含まれる水素を、水素供給配管38を通して再び燃料電池スタック15に供給するためのユニットである。水素循環ユニット46は、水素循環用の水素ポンプ65と、水素循環路66とを有している。燃料電池スタック15から排出されるアノードオフガスに含まれる水素は、水素ポンプ65により水素循環路66を通して水素供給配管38に流入し、水素供給配管38を通して燃料電池スタック15に供給される。
【0020】
燃料電池システム11は、燃料電池スタック15の他に、上記の水素供給ユニット31、空気供給ユニット32、排出配管43、冷却ユニット44、排出ユニット45および水素循環ユニット46を備えている。
【0021】
燃料電池スタック15にはセルモニタ71が電気的に接続されている。セルモニタ71は、
図2に示すように、複数の燃料電池セル16に対して個別に接続されている。この接続状態のもとで、セルモニタ71は、各々の燃料電池セル16ごとに、燃料電池セル16の電圧(以下、「セル電圧」ともいう。)を検出する。また、セルモニタ71は制御部12に電気的に接続されている。セルモニタ71によるセル電圧の検出結果は制御部12に与えられる。
【0022】
また、
図1に示すように、燃料電池スタック15にはDC/DCコンバータ75が電気的に接続されている。DC/DCコンバータ75は、燃料電池スタック15から出力される直流電力を所定の電圧レベルに降圧して出力するものである。DC/DCコンバータ75は、制御部12に電気的に接続されている。蓄電池76は、燃料電池スタック15によって得られる余剰電力、または、負荷78によって発生する回生電力を蓄電するものである。蓄電池76は、充放電可能なリチウムイオン電池などの二次電池によって構成される。インバータ77は、燃料電池スタック15からDC/DCコンバータ75を経て出力される直流電力や、蓄電池76から出力される直流電力を、それぞれ交流電力に変換して負荷78に出力するものである。負荷78は、電力の供給を受けて電気的または機械的に動作するものである。燃料電池システム11が燃料電池式車両に搭載される場合、負荷78には車両走行用のモータが含まれる。
【0023】
制御部12は、燃料電池システム11全体の動作を統括的に制御するものである。制御部12は、ECU(Electronic Control Unit)によって構成される。制御部12は、流量センサ47、圧力センサ48、セルモニタ71およびDC/DCコンバータ75の他に、インジェクタ37、圧力センサ39、温度センサ51、排気排水弁61および水素ポンプ65に、それぞれ電気的に接続されている(
図1の符号A,B,C,D,E,Fを参照)。インジェクタ37、排気排水弁61、水素ポンプ65およびDC/DCコンバータ75は、それぞれ制御部12から与えられる指令に基づいて動作する。
【0024】
上記構成からなる燃料電池システム11においては、水素供給ユニット31によって燃料電池スタック15に供給された水素と、空気供給ユニット32によって燃料電池スタック15に供給された空気に含まれる酸素とが、燃料電池スタック15内で各々の燃料電池セル16に分配して供給される。その際、燃料電池セル16のアノード側には水素が供給され、燃料電池セル16のカソード側には酸素が供給される。これにより、燃料電池セル16は、水素と酸素の電気化学反応によって発電する。
【0025】
次に、燃料電池システムにおいて燃料電池スタックの出力を制御する方法について
図3を用いて説明する。
まず、燃料電池スタック15の出力状態には、燃料電池スタック15が発電する電力の違いにより、発電停止状態、低出力状態、中出力状態、および、高出力状態の4つの段階がある。発電停止状態は、燃料電池スタック15が発電を停止している状態である。低出力状態は、燃料電池スタック15が低い発電電力で出力している状態である。また、中出力状態は、燃料電池スタック15が低出力状態よりも高い発電電力で出力している状態であり、高出力状態は、燃料電池スタック15が中出力状態よりも高い発電電力で出力している状態である。
【0026】
燃料電池スタック15の出力状態は、制御部12によって1段階ずつ切り替えられる。また、燃料電池スタック15が出力する発電電力は、各々の出力状態ごとに要求される指令出力に基づいて制御部12により制御される。たとえば、中出力状態で要求される指令出力が6(kW)、高出力状態で要求される指令出力が12(kW)であるとすると、制御部12は、燃料電池スタック15の出力状態を中出力状態から高出力状態へと切り替える場合に、燃料電池スタック15の実出力が6(kW)から12(kW)に増加するように燃料電池システム11を制御する。燃料電池スタック15の実出力とは、燃料電池スタック15が実際に出力する発電電力である。燃料電池スタック15の実出力は、制御部12において計測可能である。
【0027】
また、制御部12は、燃料電池スタック15の出力状態を切り替える場合に、燃料電池スタック15の指令出力と実出力との偏差に基づいて燃料電池スタック15の出力をフィードバック制御する。このフィードバック制御により、制御部12は、燃料電池スタック15の実出力が指令出力に一致するように、燃料電池システム11を動作させる。なお、燃料電池スタック15に供給される水素の量や空気の量、燃料電池スタック15に供給される水素の圧力や空気の圧力は、燃料電池スタック15に要求される指令出力ごとに予め決められている。このため、制御部12は、燃料電池スタック15の出力状態を切り替える場合に、切り替え後の出力状態で要求される指令出力に応じて、空気供給ユニット32および水素供給ユニット31の動作を制御する。その際、燃料電池スタック15に供給される空気の量は、エアコンプレッサ40によって制御され、燃料電池スタック15に供給される空気の圧力は、空気供給管に設けれた圧力制御バルブによって制御される。
【0028】
上述のように燃料電池スタック15の出力を制御する場合に、燃料電池スタック15に異常な出力低下が発生することがある。そうした場合、燃料電池スタック15の異常な出力低下の原因を特定することは、その後、その原因をできるだけ早く取り除いて燃料電池スタック15を正常な状態に戻すために重要である。そこで本実施形態においては、
図4に示す燃料電池システムの制御方法を採用することとした。この制御方法は制御部12によって実行されるものである。
【0029】
まず、制御部12は、複数の燃料電池セル16の平均セル電圧Vmが所定の電圧Vaを下回っているかどうかを確認する(ステップS11)。そして、平均セル電圧Vmが所定の電圧Vaを下回っている場合は、ステップS11からステップS12に進む。平均セル電圧Vmは、各々の燃料電池セル16ごとにセルモニタ71が検出したセル電圧を積算して総セル電圧を求め、この総セル電圧を、燃料電池スタック15が有する燃料電池セル16の個数で除算することにより得られるものである。所定の電圧Vaは、平均セル電圧Vmの低下を検出するために予め設定されるものである。
【0030】
次に、ステップS12において、制御部12は、各々の燃料電池セル16間の電圧差ΔVが所定値未満であるかどうかを確認する。そして、各セル間の電圧差ΔVが所定値以上である場合はステップS11に戻り、各セル間の電圧差ΔVが所定値未満である場合はステップS13に進む。各セル間の電圧差ΔVに関しては、各々の燃料電池セル16ごとにセルモニタ71が検出したセル電圧の中から最大セル電圧および最小セル電圧を抽出し、最大セル電圧と最小セル電圧との差を、各セル間の電圧差ΔVとして特定すればよい。また、これ以外にも、平均セル電圧と最大セル電圧との差、または、平均セル電圧と最小セル電圧との差を、各セル間の電圧差ΔVとして特定してもよい。
【0031】
次に、ステップS13において、制御部12は、燃料電池スタック15に異常な出力低下が発生したか否かの判断を行う。その際、制御部12は、燃料電池スタック15に異常な出力低下が発生したか否かを、以下に述べる2つの事項を確認することによって判断する。
【0032】
まず、制御部12は、燃料電池スタック15の指令出力と実出力との偏差が閾値以上であるかどうかを確認する。そして、燃料電池スタック15の指令出力と実出力との偏差が閾値以上であれば、次の事項を確認する。燃料電池スタック15の指令出力と実出力との偏差(以下、「出力偏差」ともいう。)は、燃料電池スタック15に要求される指令出力から燃料電池スタック15の実出力を減算することにより得られる。このとき、燃料電池スタック15の実出力が指令出力を下回っていて、出力偏差が閾値以上である場合は、次の事項、すなわち出力偏差に基づいて燃料電池スタック15の出力をフィードバック制御するときの積分項が飽和状態であるかどうかを確認する。そして、フィードバック制御の積分項が飽和状態であれば、制御部12は、燃料電池スタック15に異常な出力低下が発生したと判断してステップS14に進み、それ以外はステップS11に戻る。フィードバック制御の積分項が飽和状態である場合とは、制御部12が、燃料電池スタック15の実出力を指令出力に近づけるために制御をしているにもかかわらず、偏差の積分値が予め決められた上限値に達してしまった状態をいう。フィードバック制御の積分項が飽和状態になると、燃料電池スタック15の実出力が指令出力を下回ったまま定常状態となり、この定常状態のもとで出力偏差が閾値以上に維持される。燃料電池スタック15の実出力を指令出力に近づけるための制御には、燃料電池スタック15に供給する水素の量や空気の量を調整すること、および、燃料電池スタック15に供給する水素の圧力や空気の圧力を調整することが含まれる。
【0033】
次に、ステップS14において、制御部12はチェック処理を行う。このチェック処理には、3つのステップS14a,S14b,S14cが含まれる。なお、チェック処理に含まれる3つのステップS14a,S14b,S14cを行う順序は任意に変更可能である。
【0034】
ステップS14aは、燃料電池スタック15に対する空気の供給量が適正かどうかをチェックするステップである。燃料電池スタック15に要求される指令出力に対して、燃料電池スタック15に供給される空気の量が不足すると、燃料電池セル16の平均セル電圧が低下し、燃料電池スタック15の実出力が指令出力を下回ったままになる。このため、燃料電池スタック15に供給される空気量の不足は、燃料電池スタック15の異常な出力低下の原因となり得る。ステップS14aのチェックは、流量センサ47の検出結果に基づいて行われる。具体的には、制御部12は、流量センサ47によって検出される空気の流量が、燃料電池スタック15の指令出力に応じた基準流量以上であれば、ステップS14aでYesと判断し、基準流量に満たない場合はNoと判断する。ステップS14aでNoと判断した場合はステップS15に移行し、燃料電池スタック15の異常な出力低下の原因を特定する。ステップS14aからステップS15に移行した場合、制御部12は、燃料電池スタック15に対する空気の供給量が不足していたことが、燃料電池スタック15の異常な出力低下の原因であると特定する。
【0035】
ステップS14bは、燃料電池スタック15に対する空気の供給圧が適正かどうかをチェックするステップである。燃料電池スタック15に要求される指令出力に対して、燃料電池スタック15に供給される空気の圧力が不足すると、燃料電池セル16の平均セル電圧が低下し、燃料電池スタック15の実出力が指令出力を下回ったままになる。このため、燃料電池スタック15に供給される空気の圧力不足は、燃料電池スタック15の異常な出力低下の原因となり得る。ステップS14bのチェックは、圧力センサ48の検出結果に基づいて行われる。具体的には、制御部12は、圧力センサ48によって検出される空気の圧力が、燃料電池スタック15の指令出力に応じた基準圧以上であれば、ステップS14bでYesと判断し、基準圧に満たない場合はNoと判断する。ステップS14bでNoと判断した場合はステップS15に移行し、燃料電池スタック15の異常な出力低下の原因を特定する。ステップS14bからステップS15に移行した場合、制御部12は、燃料電池スタック15に対する空気の供給圧が不足していたことが、燃料電池スタック15の異常な出力低下の原因であると特定する。
【0036】
ステップS14cは、燃料電池セル16の乾き具合が適正かどうかをチェックするステップである。燃料電池スタック15では燃料電池セル16の電解質膜を湿潤状態に保つことにより、電解質膜へのガス拡散性を良好に維持している。これに対し、燃料電池セル16が乾燥すると、抵抗過電圧の上昇によって平均セル電圧が低下し、燃料電池スタック15の実出力が指令出力を下回ったままになる。このため、燃料電池セル16の乾燥は、燃料電池スタック15の異常な出力低下の原因となり得る。ステップS14cのチェックは、燃料電池スタック15のインピーダンスに基づいて行われる。燃料電池スタック15のインピーダンスは、燃料電池セル16の電解質膜の膜抵抗に相当するもので、燃料電池セル16の乾燥が進むほど高くなる。このため、制御部12は、燃料電池セル16の乾き具合を確認するために燃料電池スタック15のインピーダンスを計測する。そして、計測したインピーダンスが予め定められた基準インピーダンス以下であれば、ステップS14cでYesと判断し、基準インピーダンスを超えていればNoと判断する。ステップS14cでNoと判断した場合はステップS15に移行し、燃料電池スタック15の異常な出力低下の原因を特定する。ステップS14cからステップS15に移行した場合、制御部12は、燃料電池セル16が乾燥していたことが、燃料電池スタック15の異常な出力低下の原因であると特定する。なお、燃料電池スタック15のインピーダンスの計測に関しては、制御部12とは別にインピーダンス計測部(図示せず)を設け、このインピーダンス計測部で計測した結果を制御部12に取り込むようにしてもよい。
【0037】
上述したステップS14のチェック処理において、空気の供給量、空気の供給圧、および、燃料電池セル16の乾き具合がいずれも適正であるときは、ステップS16に進む。ステップS16において、制御部12は、燃料電池セル16の触媒反応を阻害するガスが空気と共に燃料電池スタック15に供給されたことが、燃料電池スタック15の異常な出力低下の原因であると推定する。燃料電池セル16の触媒反応を阻害するガスとしては、たとえば、有機溶剤から揮発するガスが考えられる。この種のガスが燃料電池システム11の周辺に存在すると、空気供給ユニット32のコンプレッサ40を駆動したときに、そのガスが空気と共に燃料電池スタック15に送り込まれる。その結果、各々の燃料電池セル16の触媒が被毒して平均セル電圧が低下し、燃料電池スタック15の実出力が指令出力を下回ったままになる。このため、燃料電池セル16の触媒反応を阻害するガスが空気と共に燃料電池スタック15に送り込まれることは、燃料電池スタック15の異常な出力低下の原因となり得る。また、ステップS16の前に行われるステップS14のチェック処理では、空気の供給量、空気の供給圧、および、燃料電池セル16の乾き具合がいずれも適正であることが確認されている。このため、それ以外の原因で燃料電池スタック15の異常な出力低下が起こるケースとしては、燃料電池セル16の触媒反応を阻害するガスが燃料電池スタック15に送り込まれたケースが想定される。このため、制御部12は、チェック処理の結果を基に、燃料電池セル16の触媒反応を阻害するガスが空気と共に燃料電池スタック15に送り込まれたことが、燃料電池スタック15の異常な出力低下の原因であると推定する。
【0038】
以上述べたように、本発明の実施形態においては、燃料電池スタック15に異常な出力低下が発生した場合に、燃料電池スタック15に対する空気の供給量が適正かどうかをチェックするステップと、燃料電池スタック15に対する空気の供給圧が適正かどうかをチェックするステップと、燃料電池セル16の乾き具合が適正かどうかをチェックするステップと、を含むチェック処理を行う。そして、チェック処理において、空気の供給量、空気の供給圧、および、燃料電池セル16の乾き具合がいずれも適正であるときは、燃料電池セル16の触媒反応を阻害するガスが空気と共に燃料電池スタック15に送り込まれたことが、燃料電池スタック15の異常な出力低下の原因であると推定する。これにより、燃料電池スタック15の出力低下の原因が、燃料電池スタック15に対する空気の供給量不足や空気の供給圧不足、燃料電池セル16の乾燥以外にある場合に、チェック処理の後の原因推定により、燃料電池スタック15の出力低下の原因を従来よりも絞り込むことができる。そして、燃料電池セル16の触媒反応を阻害するガスの存在によって燃料電池スタック15の異常な出力低下が発生している場合、上記の原因推定に基づいて燃料電池システム11の周辺環境、たとえば、燃料電池システム11の稼働場所の近くで、有機溶剤を扱う作業などが行われていないかどうかを調査員が調査することにより、出力低下の原因を素早く突き止めることができる。
【0039】
また、本発明の実施形態においては、燃料電池スタック15の指令出力と実出力との偏差が閾値以上であり、かつ、その偏差に基づいて燃料電池スタック15の出力をフィードバック制御するときの積分項が飽和状態であるときに、燃料電池スタック15に異常な出力低下が発生したと判定する。これにより、燃料電池スタック15の出力をフィードバック制御によって増加させる場合に、制御途中の過渡的な出力不足が、異常な出力低下と誤認されることがない。よって、必要かつ適切なタイミングでチェック処理を実行させることができる。
【0040】
また、本発明の実施形態においては、複数の燃料電池セル16の平均セル電圧が許容電圧を下回っており、かつ、各々の燃料電池セル16間の電圧差が所定値未満である場合に、燃料電池スタック15に異常な出力低下が発生したか否かの判断を行う。これにより、燃料電池スタック15を構成する複数の燃料電池セル16のセル電圧が一様に低下した場合を対象に、燃料電池スタック15の異常な出力低下の有無を判断することができる。
【0041】
なお、本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0042】
たとえば、上記実施形態においては、燃料電池スタック15の出力状態を複数段階に切り替えて制御する場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らない。すなわち、本発明は、燃料電池スタック15の出力状態を無段階に制御する場合に適用してもよい。
【0043】
また、上記実施形態においては、複数の燃料電池セル16の平均セル電圧Vmが所定の許容電圧Vaを下回っているかどうかを確認したが、本発明はこれに限らず、複数の燃料電池セル16のセル電圧を積算した総セル電圧が所定の許容総セル電圧を下回っているかどうかを確認してもよい。
【0044】
また、上記実施形態においては、燃料電池スタック15の指令出力と実出力との偏差が閾値以上であり、かつ、その偏差に基づいて燃料電池スタック15の出力をフィードバック制御するときの積分項が飽和状態であるときに、燃料電池スタック15に異常な出力低下が発生したと判断したが、本発明はこれに限らない。すなわち、他の例として、燃料電池スタック15の出力電圧が予め設定された基準電圧よりも低く、その状態が予め設定された基準時間を超えて継続する場合に、燃料電池スタック15に異常な出力低下が発生したと判断してもよい。
【0045】
また、上記実施形態においては、燃料電池セル16の乾き具合を、燃料電池スタック15のインピーダンスに基づいてチェックしたが、本発明はこれに限らない。すなわち、燃料電池セル16の乾燥が進むと燃料電池セル16の温度が高くなる傾向にあるため、燃料電池セル16の温度に基づいて燃料電池セル16の乾き具合をチェックしてもよい。その場合、燃料電池セル16の温度は、冷却ユニット44の配管52を流れる冷却水の温度に反映される。このため、燃料電池セル16の温度は、冷却ユニット44の温度センサ51を用いて検出すればよい。
【符号の説明】
【0046】
11 燃料電池システム、12 制御部、15 燃料電池スタック、16 燃料電池セル、47 流量センサ、48 圧力センサ、51 温度センサ、71 セルモニタ。