(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04225 20160101AFI20230111BHJP
H01M 8/04302 20160101ALI20230111BHJP
H01M 8/04746 20160101ALI20230111BHJP
H01M 8/04303 20160101ALI20230111BHJP
H01M 8/0432 20160101ALI20230111BHJP
H01M 8/0438 20160101ALI20230111BHJP
H01M 8/0444 20160101ALI20230111BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20230111BHJP
B60L 58/31 20190101ALN20230111BHJP
【FI】
H01M8/04225
H01M8/04302
H01M8/04746
H01M8/04303
H01M8/0432
H01M8/0438
H01M8/0444
H01M8/10 101
B60L58/31
(21)【出願番号】P 2019158898
(22)【出願日】2019-08-30
【審査請求日】2021-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】垣見 洋輔
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-198406(JP,A)
【文献】特開2014-146505(JP,A)
【文献】特開2014-35822(JP,A)
【文献】特開2014-146416(JP,A)
【文献】特開2006-209996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/2495
B60L 50/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード極とカソード極とを有し、前記アノード極に供給される水素と前記カソード極に供給される酸素を含む空気とにより発電する燃料電池と、
前記アノード極に接続され、水素が流動するアノードガス供給路と、
アノードオフガスが流動するアノードオフガス排出路と、
前記アノードオフガス排出路と気液分離器を介して接続され、前記気液分離器により分離された水素を前記アノードガス供給路に戻すアノードガス循環路と、
前記カソード極に接続され、酸素を含む空気が流動するカソードガス供給路と、
カソードオフガスが流動するカソードオフガス排出路と、
前記アノードガス循環路に設けられる水素循環ポンプを含むとともに前記アノードガス供給路及び前記アノードオフガス排出路に設けられ、前記燃料電池に水素を給排する水素用アクチュエータと、
前記カソードガス供給路及び前記カソードオフガス排出路に設けられ、前記燃料電池に空気を給排する酸素用アクチュエータと、
前記燃料電池を冷却する冷却回路と、
前記水素用アクチュエータ及び前記酸素用アクチュエータの動作を制御することにより前記燃料電池の動作を制御する制御装置と、を備える燃料電池システムであって、
前記制御装置は、
前記燃料電池システムの起動時に、前記酸素用アクチュエータを停止させた状態において前記水素用アクチュエータを動作させることで前記燃料電池の前記アノード極に水素を供給するとともに前記水素循環ポンプを動作させることで前記燃料電池の内部で水素を規定時間に亘って循環させる水素循環制御と、
前記燃料電池システムの停止時に、前記酸素用アクチュエータを停止させた状態で前記水素用アクチュエータを動作させることで前記燃料電池の前記アノード極に水素を供給する水素供給制御と、
前記水素供給制御の直後に前記冷却回路の温度である第1温度、前記カソードオフガス排出路における空気の圧力であるカソード圧力、前記アノードガス供給路における水素の圧力である第1アノード圧力、及び前記アノード極の水素濃度を取得する第1データ取得制御と、
前記第1データ取得制御を実施した次の前記燃料電池システムの起動時に前記冷却回路の温度である第2温度、及び前記アノードガス供給路における水素の圧力である第2アノード圧力を取得する第2データ取得制御と、
前記第1データ取得制御を実施した次の前記燃料電池システムの起動時に前記第1データ取得制御及び前記第2データ取得制御により取得した前記第1温度、前記カソード圧力、前記第1アノード圧力、前記水素濃度、及び前記第2温度により前記燃料電池システムの起動時における前記アノード極にて推定される水素の圧力である推定アノード圧力を演算する推定アノード圧力演算制御と、を実施し、
前記第2アノード圧力が前記推定アノード圧力よりも大きい場合、前記燃料電池システムの起動時に実施する前記水素循環制御の前記規定時間を長くすることを特徴とする燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載されるような燃料電池システムが知られている。
上記の燃料電池システムは、燃料電池と、アノードガス供給路としての燃料ガス供給流路と、アノードオフガス排出路としての燃料ガス系排出流路と、アノードガス循環路としての燃料ガス循環流路と、カソードガス供給路としての酸化ガス供給流路と、カソードオフガス排出路としての酸化ガス系排出流路と、冷却回路とを有している。燃料電池は、アノード極と、カソード極と、電解質膜とを有している。燃料ガス供給流路は、アノード極に接続され、水素が流動する。燃料ガス系排出流路は、アノード極から排出されるアノードオフガスとしての水素オフガスが流動する。燃料ガス循環流路は、気液分離器を介して燃料ガス系排出流路と接続されており、且つ燃料ガス供給流路に接続されている。燃料ガス循環流路には、水素循環ポンプとして水素ポンプが設けられている。燃料ガス循環流路には、気液分離器により分離された水素が流動しており、当該水素は水素ポンプにより燃料ガス供給流路に戻されている。酸化ガス供給流路は、カソード極に接続され、酸素を含む空気が流動する。酸化ガス系排出流路は、カソード極から排出されるカソードオフガスとしての空気オフガスが流動する。冷却回路は、燃料電池を冷却するための冷却水経路を有している。冷却水経路には、冷却水を冷却するためのラジエータ等が設けられている。また、燃料電池システムは、燃料電池の動作を制御する制御装置を備えている。制御装置は、燃料ガス供給流路、燃料ガス系排出流路、及び燃料ガス循環流路に設けられ、燃料電池に水素を給排する水素用アクチュエータや酸化ガス供給流路及び酸化ガス系排出流路に設けられ、燃料電池に空気を給排する酸素用アクチュエータを動作させることで燃料電池の動作を制御している。なお、水素用アクチュエータは、例えば燃料ガス供給流路に設けられている燃料ガス供給弁や上記の水素ポンプ等を含んでいる。また、酸素用アクチュエータは、例えば酸化ガス供給流路に設けられているエアコンプレッサ等を含んでいる。燃料電池は、アノード極に水素が供給され、カソード極に酸素を含む空気が供給されると、アノード極での触媒反応により発生した水素イオンが電解質膜を通過してカソード極まで移動し、カソード極で酸素と電気化学反応を起こして発電する。このとき、燃料電池では、水素と酸素とが反応することで水が生成される。制御装置は、水素供給開始前に水素ポンプを駆動させることでアノード極での水素をほぼ均一化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、燃料電池システムの停止中に燃料電池の温度が低下したことによる結露やカソード極に存在する酸素及び窒素がアノード極に侵入した場合、アノード極に存在する水素が酸素と反応して消滅し、アノード極は部分的に水素欠の状態になる。その状態で燃料電池システムを起動させると部分的に水素欠となる部分に負電圧が発生するため、燃料電池が劣化する。そのため、燃料電池システムの起動時において、上記の水素ポンプを駆動させることでアノード極での水素を均一化させた後にカソード極に酸素を含む空気を供給させることが好ましい。しかし、酸化ガス供給流路や酸化ガス系排出流路等と燃料電池との間をシールするシール部材の劣化により燃料電池システムの停止中に燃料電池に透過する酸素量が増える場合がある。この場合、燃料電池システムの停止中に燃料電池内に存在する水素が酸素と反応して消滅し、さらに燃料電池内の窒素量が多いため、燃料電池システムの起動時において水素ポンプを駆動させたとしても燃料電池の隅々まで水素が行き届かず部分的に水素欠となる部分が発生する虞がある。
【0005】
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的は、起動時における燃料電池の劣化をより好適に抑制できる燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する燃料電池システムは、アノード極とカソード極とを有し、前記アノード極に供給される水素と前記カソード極に供給される酸素を含む空気とにより発電する燃料電池と、前記アノード極に接続され、水素が流動するアノードガス供給路と、アノードオフガスが流動するアノードオフガス排出路と、前記アノードオフガス排出路と気液分離器を介して接続され、前記気液分離器により分離された水素を前記アノードガス供給路に戻すアノードガス循環路と、前記カソード極に接続され、酸素を含む空気が流動するカソードガス供給路と、カソードオフガスが流動するカソードオフガス排出路と、前記アノードガス循環路に設けられる水素循環ポンプを含むとともに前記アノードガス供給路及び前記アノードオフガス排出路に設けられ、前記燃料電池に水素を給排する水素用アクチュエータと、前記カソードガス供給路及び前記カソードオフガス排出路に設けられ、前記燃料電池に空気を給排する酸素用アクチュエータと、前記燃料電池を冷却する冷却回路と、前記水素用アクチュエータ及び前記酸素用アクチュエータの動作を制御することにより前記燃料電池の動作を制御する制御装置と、を備える燃料電池システムであって、前記制御装置は、前記燃料電池システムの起動時に、前記酸素用アクチュエータを停止させた状態において前記水素用アクチュエータを動作させることで前記燃料電池の前記アノード極に水素を供給するとともに前記水素循環ポンプを動作させることで前記燃料電池の内部で水素を規定時間に亘って循環させる水素循環制御と、前記燃料電池システムの停止時に、前記酸素用アクチュエータを停止させた状態で前記水素用アクチュエータを動作させることで前記燃料電池の前記アノード極に水素を供給する水素供給制御と、前記水素供給制御の直後に前記冷却回路の温度である第1温度、前記カソードオフガス排出路における空気の圧力であるカソード圧力、前記アノードガス供給路における水素の圧力である第1アノード圧力、及び前記アノード極の水素濃度を取得する第1データ取得制御と、前記第1データ取得制御を実施した次の前記燃料電池システムの起動時に前記冷却回路の温度である第2温度、及び前記アノードガス供給路における水素の圧力である第2アノード圧力を取得する第2データ取得制御と、前記第1データ取得制御を実施した次の前記燃料電池システムの起動時に前記第1データ取得制御及び前記第2データ取得制御により取得した前記第1温度、前記カソード圧力、前記第1アノード圧力、前記水素濃度、及び前記第2温度により前記燃料電池システムの起動時における前記アノード極にて推定される水素の圧力である推定アノード圧力を演算する推定アノード圧力演算制御と、を実施し、前記第2アノード圧力が前記推定アノード圧力よりも大きい場合、前記燃料電池システムの起動時に実施する前記水素循環制御の前記規定時間を長くする。
【0007】
第2アノード圧力が推定アノード圧力よりも大きい場合とは、例えば燃料電池システムの停止中にカソードガス供給路及びカソードオフガス排出路と燃料電池との間から酸素を含む空気が侵入し、水素供給制御したときに燃料電池のアノード極に供給された水素が足りなかったことを示している。この状態で燃料電池システムの起動時に制御装置が水素循環制御を規定時間に亘って実施したとしても、アノード極で部分的に水素欠の状態が発生する虞がある。
【0008】
その点、これによれば、第2アノード圧力が推定アノード圧力よりも大きい場合に水素循環制御を実施する規定時間を長くしている。よって、燃料電池の内部で水素を循環させる時間が長くなるため、燃料電池のアノード極において水素を均一化させやすくなる。したがって、燃料電池の内部において水素欠となる部分を少なくすることができ、ひいては燃料電池システムの起動時における燃料電池の劣化を好適に抑制できる。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、燃料電池システムの起動時における燃料電池の劣化をより好適に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、燃料電池システムを具体化した実施形態を
図1~
図3にしたがって説明する。
図1に示すように、本実施形態の燃料電池システム1は、例えば燃料電池車に適用されるものである。燃料電池システム1は、燃料電池10を備えている。燃料電池10は、複数の燃料電池セルをスタック化したものである。燃料電池セルとは、例えば固体分子型燃料電池である。燃料電池10は、アノード極と、カソード極と、電解質膜とを有している。燃料電池10は、アノード極に供給される水素とカソード極に供給される酸素を含む空気とにより発電する。より具体的には、燃料電池10は、アノード極に水素が供給され、カソード極に酸素を含む空気が供給されると、アノード極での触媒反応により発生した水素イオンが電解質膜を通過してカソード極まで移動し、カソード極で酸素と電気化学反応を起こして発電する。このとき、燃料電池10では、水素と酸素とが反応することで水が生成される。
【0012】
燃料電池システム1は、アノードガス供給路Lshと、アノードオフガス排出路Lehと、アノードガス循環路Lchと、カソードガス供給路Lsoと、カソードオフガス排出路Leoとを有している。アノードガス供給路Lshは、燃料電池10のアノード極に接続されている。アノードガス供給路Lshは、水素タンク91に接続されている。アノードガス供給路Lshには、水素タンク91に貯留されている水素が流動する。アノードオフガス排出路Lehには、燃料電池10で水素と酸素とを反応させたときのアノードオフガスが流動する。アノードオフガスは、燃料電池10で未反応の水素と、水素と酸素とが反応したときの水が主に含まれている。アノードガス循環路Lchは、アノードオフガス排出路Lehと気液分離器92を介して接続されている。気液分離器92は、アノードオフガスに含まれる水素と水とを分離する機能を有している。アノードガス循環路Lchは、アノードガス供給路Lshに接続されている。そのため、アノードガス循環路Lchは、気液分離器92により分離された水素をアノードガス供給路Lshに戻すために設けられている。カソードガス供給路Lsoは、燃料電池10のカソード極に接続されている。カソードガス供給路Lsoには、大気中の酸素を含む空気が流動する。カソードオフガス排出路Leoには、燃料電池10で水素と酸素とを反応させたときのカソードオフガスが流動する。カソードオフガスは、燃料電池10で未反応の酸素を含む空気と、水素と酸素とが反応したときの水が主に含まれている。アノードオフガス排出路Leh及びカソードオフガス排出路Leoは、希釈器93に接続されている。希釈器93は、アノードオフガスをカソードオフガスで希釈する機能を有している。希釈器93は、アノードオフガスをカソードオフガスで希釈した混合排出ガスEgを大気中に排出する。希釈器93は、燃料電池10で未反応の水素の濃度を薄くして大気中に排出させる目的で設けられている。希釈器93には、貯水タンク94が接続されている。貯水タンク94は、アノードオフガス及びカソードオフガスに含まれる水を貯留する機能を有している。なお、アノードガス供給路Lsh、アノードオフガス排出路Leh、カソードガス供給路Lso、及びカソードオフガス排出路Leoと燃料電池10との間には、図示しないシール部材が介在されており、燃料電池10の内部への空気の侵入を防止している。
【0013】
燃料電池システム1は、電磁バルブ21と、インジェクタ22と、水素循環ポンプ23と、排気排水バルブ24とを備えている。電磁バルブ21は、アノードガス供給路Lshに設けられている。電磁バルブ21は、アノードガス供給路Lshを開閉させる機能を有している。インジェクタ22は、アノードガス供給路Lshにおける電磁バルブ21よりも燃料電池10寄りに設けられている。インジェクタ22は、電磁バルブ21を通過した水素を圧縮させた状態で燃料電池10のアノード極に供給する機能を有している。水素循環ポンプ23は、アノードガス循環路Lchに設けられている。水素循環ポンプ23は、アノードオフガス排出路Lehに流れるアノードオフガスを、気液分離器92を介してアノードガス循環路Lchに引き込む機能を有している。水素循環ポンプ23は、アノードガス循環路Lchに引き込んだ水素をアノードガス供給路Lshに戻している。排気排水バルブ24は、アノードオフガス排出路Lehに設けられている。排気排水バルブ24は、アノードオフガス排出路Lehを開閉させる機能を有している。電磁バルブ21及び排気排水バルブ24は、いわゆる電磁弁である。電磁バルブ21及び排気排水バルブ24は、ソレノイドが励磁されることで内部の弁体が動作することでアノードガス供給路Lsh及びアノードオフガス排出路Lehを開状態にする。電磁バルブ21及び排気排水バルブ24は、ソレノイドが励磁されずに弁体の動作が停止している状態では定常的にアノードガス供給路Lsh及びアノードオフガス排出路Lehを閉状態にしている。このように、電磁バルブ21、インジェクタ22、水素循環ポンプ23、及び排気排水バルブ24は燃料電池10に水素を給排する水素用アクチュエータ20をなしている。
【0014】
燃料電池システム1は、エアコンプレッサ41と、エアシャットバルブ42と、エア調圧バルブ43とを備えている。エアコンプレッサ41は、カソードガス供給路Lsoに設けられている。エアコンプレッサ41は、大気中の酸素を含む空気を圧縮させた状態で燃料電池10に供給する機能を有している。エアシャットバルブ42は、カソードガス供給路Lsoにおけるエアコンプレッサ41よりも燃料電池10寄りに設けられている。エアシャットバルブ42は、カソードガス供給路Lsoを開閉させる機能を有している。エア調圧バルブ43は、カソードオフガス排出路Leoに設けられている。エア調圧バルブ43は、カソードオフガス排出路Leoを開閉させる機能を有している。エアシャットバルブ42及びエア調圧バルブ43は、いわゆる電磁弁である。そのため、エアシャットバルブ42及びエア調圧バルブ43は、ソレノイドが励磁されることで内部の弁体が動作することでカソードガス供給路Lso及びカソードオフガス排出路Leoを開状態にする。エアシャットバルブ42及びエア調圧バルブ43は、ソレノイドが励磁されずに弁体の動作が停止している状態では定常的にカソードガス供給路Lso及びカソードオフガス排出路Leoを閉状態にしている。このように、エアコンプレッサ41、エアシャットバルブ42、及びエア調圧バルブ43は燃料電池10に空気を給排する酸素用アクチュエータ40をなしている。
【0015】
燃料電池システム1は、燃料電池10を冷却する冷却回路30を備えている。冷却回路30は、燃料電池10に冷却水を循環させるための冷却水循環路Lcを有している。冷却水循環路Lcは、燃料電池10に両端を接続することで閉回路をなしている。冷却回路30は、冷却水循環ポンプ31と、ラジエータ32と、インタークーラ33とを有している。冷却水循環ポンプ31、ラジエータ32、及びインタークーラ33は、冷却水循環路Lcに設けられている。冷却水循環ポンプ31は、冷却水循環路Lcにおいて冷却水を循環させる動力を発生させる機能を有している。冷却水循環路Lcを循環する冷却水は、燃料電池10で発生する熱を吸熱する。ラジエータ32は、燃料電池10で発生する熱を吸熱した冷却水を冷却する機能を有している。インタークーラ33は、カソードガス供給路Lsoに接続されている。カソードガス供給路Lsoを流動する酸素を含む空気は、エアコンプレッサ41により圧縮されるため温度が高い状態となっている。そのため、インタークーラ33は、カソードガス供給路Lsoに流動する空気を冷却する機能を有している。
【0016】
燃料電池システム1は、温度センサ61と、アノード圧力センサ62と、カソード圧力センサ63とを備えている。温度センサ61は、冷却回路30の冷却水循環路Lcに設けられている。温度センサ61は、冷却回路30の冷却水の温度を検出する。冷却回路30の冷却水の温度は、燃料電池10の温度と同義である。アノード圧力センサ62は、アノードガス供給路Lshにおけるインジェクタ22よりも燃料電池10寄りに設けられている。アノード圧力センサ62は、アノードガス供給路Lshにおける水素の圧力を検出する。アノード圧力センサ62により検出される水素の圧力は、燃料電池10のアノード極での水素の分圧と同義である。カソード圧力センサ63は、カソードオフガス排出路Leoにおける空気の圧力を検出している。カソード圧力センサ63により検出される空気の圧力は、燃料電池10のカソード極での空気の分圧と同義である。
【0017】
燃料電池システム1は、水素用アクチュエータ20及び酸素用アクチュエータ40の動作を制御することにより燃料電池10の動作を制御する制御装置50を備えている。なお、制御装置50は、図示しないメモリに保存されたプログラムをCPUにより実施することで水素用アクチュエータ20及び酸素用アクチュエータ40の動作を制御するものである。
【0018】
以下、燃料電池システム1の動作について燃料電池システム1の制御フローを参照しながら説明する。なお、燃料電池システム1の制御フローについて説明するにあたり、先に燃料電池システム1の基本的な制御フローについて説明する。
【0019】
図2に示すように、制御装置50は、燃料電池システム1の起動時に、水素循環制御を実施する(ステップS101)。制御装置50は、水素循環制御において酸素用アクチュエータ40を停止させた状態で水素用アクチュエータ20を動作させることで燃料電池10のアノード極に水素を供給する。制御装置50は、燃料電池10のアノード極に水素を供給するとともに水素循環ポンプ23を動作させることで燃料電池10の内部で水素を規定時間に亘って循環させる。
【0020】
制御装置50は、燃料電池システム1が起動してから規定時間に亘ってエアコンプレッサ41、エアシャットバルブ42、及びエア調圧バルブ43を停止させた状態に維持する。すなわち、制御装置50は、燃料電池システム1が起動してから規定時間に亘って燃料電池10に対して空気を給排させない。そして、制御装置50は、燃料電池システム1が起動してから規定時間に亘って、電磁バルブ21を開状態に維持するとともにインジェクタ22によって水素を圧縮させた状態で燃料電池10のアノード極に供給する。これにより、燃料電池システム1の停止中に燃料電池10の温度が低下したことによる結露やカソード極からアノード極に侵入した酸素及び窒素をアノードオフガス排出路Lehに向けて流動させることができる。このとき、排気排水バルブ24が開状態に維持されていることから、アノードオフガス排出路Lehに向けて流動したアノードオフガスを、気液分離器92を介して希釈器93に流動させることができる。また、水素循環ポンプ23が動作しているため、気液分離器92により分離された水素はアノードガス供給路Lshに戻される。なお、規定時間とは、燃料電池10のアノード極において部分的に水素欠となる部分がなくなるように電磁バルブ21、インジェクタ22、及び水素循環ポンプ23を動作させる時間を示している。ここで、燃料電池10のアノード極及びカソード極の容積は、燃料電池システム1の個体毎にばらつきがあるため、規定時間の長さもばらつきが生じる虞がある。その点、上記の規定時間は、燃料電池システム1の起動時にアノード極にどの程度の酸素や水が残存しているかを実験的に確認した上で、燃料電池10のアノード極及びカソード極の容積がばらついたとしても燃料電池10のアノード極において部分的に水素欠となる部分がないように設定されている。
【0021】
制御装置50は、水素循環制御を実施した後(ステップS101の後)に酸素用アクチュエータ40を動作させることで燃料電池10のカソード極に酸素を含む空気を供給するとともに水素用アクチュエータ20を動作させることで燃料電池10を動作させる発電制御を実施する(ステップS102)。
【0022】
制御装置50は、水素循環制御を実施しているときと同様に水素用アクチュエータ20の動作を継続させつつ、酸素用アクチュエータ40を動作させる。すなわち、制御装置50は、エアシャットバルブ42及びエア調圧バルブ43を開状態に維持し、エアコンプレッサ41を動作させる。これにより、燃料電池10のアノード極に水素が、カソード極に酸素を含む空気が供給されることにより燃料電池10にて発電が開始される。
【0023】
制御装置50は、発電制御を実施しているとき(ステップS102)に燃料電池システム1が停止処理を実施する必要があるか否かを判断している(ステップS103)。具体的には、制御装置50は、例えば燃料電池システム1が適用される燃料電池車のスタートボタンからの信号に基づき燃料電池システム1を停止させるか否かを判断している。制御装置50は、燃料電池システム1の停止させない場合(ステップS103でNO)、発電制御(ステップS102)を継続する。制御装置50は、燃料電池システム1を停止させる場合(ステップS103でYES)、酸素用アクチュエータ40を停止させる(ステップS104)。燃料電池システム1において、酸素用アクチュエータ40が停止すると、燃料電池10に対して酸素を含む空気が供給されなくなる。よって、燃料電池10における発電が停止する。
【0024】
制御装置50は、燃料電池システム1の停止時(ステップS104)に、酸素用アクチュエータ40を停止させた状態で水素用アクチュエータ20を動作させることで燃料電池10のアノード極に水素を供給する水素供給制御を実施する(ステップS105)。燃料電池システム1の停止時に酸素用アクチュエータ40を停止させているが、燃料電池10の内部に酸素が残ってしてしまう虞がある。残存した酸素は、燃料電池10の劣化に寄与するため、燃料電池10に残存している酸素を水素と反応させて水に変換する必要がある。そこで、上記の水素供給制御により燃料電池10のアノード極に水素を供給している。ここで、水素供給制御により燃料電池10のアノード極に供給する水素量は、発電制御後に燃料電池10の内部にどの程度の酸素が残存しているかを実験的に確認した上で、燃料電池10のアノード極及びカソード極の容積がばらついたとしても燃料電池10の内部に酸素が残存しないように設定されている。また、水素供給制御により燃料電池10のアノード極に供給する水素量は、次回の燃料電池システム1の起動時に希釈器93を介して大気中に排出される混合排出ガスEgに含まれる水素が4%を超えないように設定されている。当該数値は、燃料電池システム1を燃料電池車に適用する場合に法的に定められた数値である。
【0025】
燃料電池システム1の基本的な制御フローは、上記したステップS101からステップS105であり、ステップS105の終了後、燃料電池システム1が停止する。ところで、カソードガス供給路Lsoやカソードオフガス排出路Leoと燃料電池10との間をシールするシール部材が劣化し、燃料電池システム1の停止中に燃料電池10の内部に透過する酸素量が増える場合がある。また、例えばアノードガス供給路Lshやアノードオフガス排出路Lehと燃料電池10との間のシール部材の劣化、エアシャットバルブ42やエア調圧バルブ43の弁体の劣化により燃料電池システム1の停止中に燃料電池10の内部に透過する酸素量が増える場合がある。この場合、燃料電池システム1の停止中に燃料電池10内に存在する水素が酸素と反応して消滅し、さらに燃料電池10内の窒素量が多いため、燃料電池システム1の起動時において水素循環制御により規定時間に亘って水素循環ポンプ23を動作させ燃料電池10の内部に水素を循環させたとしても燃料電池10の隅々まで水素が行き届かず部分的に水素欠となる部分が発生する虞がある。
【0026】
その点、本実施形態では、燃料電池システム1の起動時における燃料電池10の劣化を抑制できるように、及び燃料電池システム1の停止中における燃料電池10の劣化を抑制できるように構成されている。以下、その構成について説明する。
【0027】
図2に示すように、制御装置50は、水素供給制御の直後に第1データ取得制御を実施する(ステップS106)。制御装置50は、第1データ取得制御において第1温度T1、カソード圧力Po、第1アノード圧力Ph1、及び水素濃度Hdを取得する。第1温度T1は、水素供給制御の直後の冷却回路30の冷却水の温度である。カソード圧力Poは、水素供給制御の直後のカソードオフガス排出路Leoにおける空気の圧力である。第1アノード圧力Ph1は、水素供給制御の直後のアノードガス供給路Lshにおける水素の圧力である。水素濃度Hdは、水素供給制御の直後の燃料電池10のアノード極における水素の濃度である。
【0028】
制御装置50は、温度センサ61で検出される第1温度T1を取得する。制御装置50は、アノード圧力センサ62で検出される第1アノード圧力Ph1を取得する。制御装置50は、カソード圧力センサ63で検出されるカソード圧力Poを取得する。水素濃度Hdは、水素供給制御にて燃料電池10のアノード極に供給される水素量によって推定されるパラメータである。すなわち、水素濃度Hdは、燃料電池システム1の停止時に燃料電池10に酸素が残存しないように、且つ次回の燃料電池システム1の起動時に希釈器93から排出される混合排出ガスEgに含まれる水素が4%を超えないように燃料電池10に水素を供給した後の燃料電池10のアノード極における水素の濃度を実験的に確認することで得られる。そのため、制御装置50は、図示しないメモリに水素濃度Hdを記憶しておき、第1データ取得制御時にメモリから水素濃度Hdを取得する。なお、本実施形態では、第1データ取得制御を実施した後、燃料電池システム1は停止する。
【0029】
図3に示すように、制御装置50は、第1データ取得制御を実施した次の燃料電池システム1の起動時に第2データ取得制御を実施する(ステップS107)。制御装置50は、第2データ取得制御において、第2温度T2及び第2アノード圧力Ph2を取得する。第2温度T2は、第1データ取得制御を実施した次の燃料電池システム1の起動時における冷却回路30の冷却水の温度である。第2アノード圧力Ph2は、第1データ取得制御を実施した次の燃料電池システム1の起動時におけるアノードガス供給路Lshにおける水素の圧力である。
【0030】
制御装置50は、温度センサ61で検出される第2温度T2を取得する。制御装置50は、アノード圧力センサ62で検出される第2アノード圧力Ph2を取得する。
制御装置50は、第1データ取得制御を実施した次の燃料電池システム1の起動時に推定アノード圧力演算制御を実施する(ステップS108)。制御装置50は、推定アノード圧力演算制御において、第1温度T1、カソード圧力Po、第1アノード圧力Ph1、水素濃度Hd、及び第2温度T2により推定アノード圧力Pcalを演算する。推定アノード圧力Pcalは、第1データ取得制御を実施した次の燃料電池システム1の起動時におけるアノード極にて推定される水素の圧力である。
【0031】
制御装置50は、ステップS108の後に第2アノード圧力Ph2が推定アノード圧力Pcalよりも大きいか否かを判断している(ステップS109)。制御装置50は、第2アノード圧力Ph2が推定アノード圧力Pcalよりも大きくないと判断した場合(ステップS109でNO)、
図2に示す制御フローと同様にステップS101~ステップS106までを実施する。
【0032】
制御装置50は、第2アノード圧力Ph2が推定アノード圧力Pcalより大きいと判断した場合(ステップS109でYES)、燃料電池システム1の起動時に実施する水素循環制御の規定時間を長くする(ステップS110)。第2アノード圧力Ph2が推定アノード圧力Pcalよりも大きい場合とは、例えば燃料電池システム1の停止中にカソードガス供給路Lso及びカソードオフガス排出路Leoと燃料電池10との間から酸素を含む空気が侵入し、水素供給制御したときに燃料電池のアノード極に供給された水素が足りなかったことを示している。そのため、燃料電池システム1の基本的な制御フローにおいて、規定時間に亘って水素循環制御を実施したとしても燃料電池10のアノード極において部分的に水素欠となる状態が解消されない虞がある。よって、ステップS110において、制御装置50は、水素循環制御の規定時間を長くする。ここで、規定時間を長くするにあたり、燃料電池システム1の基本的な制御フローにおける規定時間に対して定数を足し合わせることで規定時間を長くする。ここで、当該定数は、燃料電池システム1において第2アノード圧力Ph2が推定アノード圧力Pcalよりも大きくなるときの燃料電池10のアノード極における水素濃度と水素循環ポンプ23の流量とにより計算された燃料電池10のアノード極における水素欠の部分がなくなるまでの時間と、燃料電池システム1の基本的な制御フローにおける規定時間との差分である。制御装置50は、規定時間に定数を足し合わせた新たな規定時間を図示しないメモリに記憶し、ステップS110以降に実施される水素循環制御(ステップS101)にて新たな規定時間に基づき水素循環制御を実施する。なお、上記したように燃料電池システム1の個体毎に燃料電池10のアノード極とカソード極との容積にばらつきがある。そのため、上記の定数は、燃料電池システム1の個体毎における燃料電池のアノード極及びカソード極の容積のばらつきを吸収できるように設定されている。
【0033】
また、制御装置50は、ステップS110の後に次回の水素供給制御の水素の供給量を増加させる(ステップS111)。すなわち、第2アノード圧力Ph2が推定アノード圧力Pcalよりも大きい場合、推定アノード圧力演算制御を実施した次の燃料電池システム1の停止時における水素供給制御は、推定アノード圧力演算制御を実施する直前の水素供給制御のときよりも燃料電池10のアノード極に供給する水素を多くする。水素供給制御において燃料電池10のアノード極に供給する水素を多くするとは、水素用アクチュエータ20の動作時間を長くすることにより燃料電池10のアノード極における水素の圧力を上昇させることと同義である。よって、ステップS111において、推定アノード圧力演算制御を実施した次の燃料電池システム1の停止時における水素供給制御は、推定アノード圧力演算制御を実施する直前の水素供給制御のときよりも水素用アクチュエータ20の動作時間を延長することで燃料電池10のアノード極に供給する水素量を増加させ、且つ燃料電池10のアノード極における水素の圧力を向上させる。ここで、水素供給制御において水素用アクチュエータ20の動作時間の延長分は、第2アノード圧力Ph2が推定アノード圧力Pcalよりも大きくなるときに燃料電池10のアノード極においてどの程度水素が足りていないかを確認し、燃料電池10の内部に侵入した酸素を全て水に変換するために必要な水素用アクチュエータ20の動作時間を実験的に計算することで求められる。制御装置50は、水素用アクチュエータ20の動作時間の延長分を図示しないメモリに記憶し、ステップS111以降に実施される水素供給制御(ステップS105)において当該延長分だけ長く水素用アクチュエータ20の動作を長くする。
【0034】
制御装置50は、ステップS110及びステップS111の後に燃料電池システム1の基本的な制御フローであるステップS101~ステップS105と、ステップS106とを実施する。上記したようにステップS109により第2アノード圧力Ph2が推定アノード圧力Pcalよりも大きい場合、ステップS110及びステップS111にしたがってステップS101及びステップS105を実施する。そして、制御装置50は、上記した制御フローを周期的に繰り返し実施する。
【0035】
本実施形態の効果について説明する。
(1)本実施形態では、第2アノード圧力Ph2が推定アノード圧力Pcalよりも大きい場合に水素循環制御を実施する規定時間を長くしている。よって、燃料電池10の内部で水素を循環させる時間が長くなるため、燃料電池10のアノード極において水素を均一化させやすくなる。したがって、燃料電池10の内部において水素欠となる部分を少なくすることができ、ひいては燃料電池システム1の起動時における燃料電池10の劣化を好適に抑制できる。
【0036】
(2)本実施形態では、第2アノード圧力Ph2が推定アノード圧力Pcalよりも大きい場合、推定アノード圧力演算制御を実施した次の燃料電池システム1の停止時における水素供給制御では、推定アノード圧力演算制御を実施する直前の水素供給制御のときよりも燃料電池10のアノード極に供給する水素を多くしている。したがって、燃料電池システム1の停止中における燃料電池10の劣化をより好適に抑制できる。
【0037】
(3)燃料電池10のアノード極において部分的に水素欠の状態で燃料電池システム1を起動させた場合、燃料電池10の水素欠の部分で負電圧が発生してしまう。そのため、本実施形態では説明していないが、負電圧が発生した場合には燃料電池10で発電される電力の出力を制限、もしくは燃料電池システム1を停止させる制御を実施する。
【0038】
その点、本実施形態では、燃料電池10のアノード極において部分的に水素欠の状態となることを抑制しているため、燃料電池10で発電される電力の出力を制限させる、もしくは燃料電池システム1を停止させることを抑制できる。
【0039】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施できる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
〇 例えばカソードガス供給路Lso及びカソードオフガス排出路Leoと燃料電池10との間のシール部材の劣化により、当該シール部材から燃料電池10の内部に透過する酸素量が増える状況は、燃料電池システム1をある程度放置した状態にすることで発生する。その点を鑑みると、本実施形態の推定アノード圧力Pcalは、燃料電池10のアノード極とカソード極とが互いに平衡状態となり、且つ冷却回路30の冷却水の温度が落ち着いたときの燃料電池10のアノード極における水素の圧力とすることが好ましい。燃料電池10のアノード極とカソード極とが互いに平衡状態となる状態となるまでには、例えば燃料電池システム1が停止してから数時間程度必要である。冷却回路30の冷却水の温度が落ち着くまでには、例えば燃料電池システム1が停止してから10時間程度必要である。すなわち、本実施形態の効果は、燃料電池システム1が少なくとも10時間程度放置された場合に特に効果を発揮する。なお、10時間という数値は一例であり、燃料電池システム1のサイズや製品仕様によって適宜変更される。
【0040】
〇 規定時間を長くするにあたり、燃料電池システム1の基本的な制御フローにおける規定時間に定数を足し合わせていたが、これに限らない。例えば、燃料電池システム1の基本的なフローにおける規定時間に対して一定の係数を乗じることで規定時間を長くしてもよい。なお、一定の係数は、例えば燃料電池システム1において第2アノード圧力Ph2が推定アノード圧力Pcalよりも大きくなるときの燃料電池10のアノード極における水素濃度と水素循環ポンプ23の流量とにより計算された燃料電池10のアノード極における水素欠の部分がなくなるまでの時間を実験的に複数回計測し、燃料電池システム1の基本的な制御フローにおける規定時間からどの程度の割合で時間が増加しているかを考慮して設定されてもよい。
【0041】
〇 また、規定時間を長くするのにあたり、定数を足し合わせることに限らず、第2アノード圧力Ph2と推定アノード圧力Pcalとの差分に応じて変化する変数を足し合わせてもよい。このように変更する場合、例えば第2アノード圧力Ph2と推定アノード圧力Pcalとの差分と、規定時間に足し合わせる変数との相関を予めマップ等にまとめて保存しておき、推定アノード圧力演算制御が実施された後に上記の差分をマップに参照することで上記変数を演算してもよい。
【0042】
〇 水素供給制御において水素用アクチュエータ20の動作時間の延長分は、第2アノード圧力Ph2が推定アノード圧力Pcalよりも大きくなるときに燃料電池10のアノード極においてどの程度水素が足りていないかを確認し、燃料電池10の内部に侵入した酸素を全て水に変換するために必要な水素用アクチュエータ20の動作時間を実験的に計算することで求められていたが、これに限らない。例えば、規定時間の延長分は、例えば第2アノード圧力Ph2と推定アノード圧力Pcalとの差分に応じて変化する変数としてもよい。このように変更する場合、例えば第2アノード圧力Ph2と推定アノード圧力Pcalとの差分と、規定時間の延長分との相関を予めマップ等にまとめて保存しておき、推定アノード圧力演算制御が実施された後に上記の差分をマップに参照することで上記延長分を演算してもよい。
【0043】
〇 本実施形態において、燃料電池システム1の制御フローにおけるステップS111を割愛してもよい。このように変更しても、燃料電池システム1の起動時における燃料電池10の劣化を抑制できる。
【0044】
〇 燃料電池システム1は、燃料電池車に限らず、フォークリフトや無人搬送車等の産業車両や定置式電源等に適用させてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1…燃料電池システム、10…燃料電池、20…水素用アクチュエータ、21…電磁バルブ、22…インジェクタ、23…水素循環ポンプ、30…冷却回路、40…酸素用アクチュエータ、41…エアコンプレッサ、42…エアシャットバルブ、43…エア調圧バルブ、50…制御装置、92…気液分離器、Lsh…アノードガス供給路、Leh…アノードオフガス排出路、Lch…アノードガス循環路、Lso…カソードガス供給路、Leo…カソードオフガス排出路、T1…第1温度、T2…第2温度、Hd…水素濃度、Po…カソード圧力、Ph1…第1アノード圧力、Ph2…第2アノード圧力、Pcal…推定アノード圧力。