(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】双極性障害の予防、軽減又は治療のためのカルバメート化合物の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/41 20060101AFI20230111BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
A61K31/41
A61P25/18
(21)【出願番号】P 2019531623
(86)(22)【出願日】2017-12-14
(86)【国際出願番号】 KR2017014740
(87)【国際公開番号】W WO2018111008
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-11-24
(31)【優先権主張番号】10-2016-0170224
(32)【優先日】2016-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】511206696
【氏名又は名称】エスケー バイオファーマスティカルズ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】シン・ユジン
(72)【発明者】
【氏名】ハン・セミョン
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-538557(JP,A)
【文献】特表2008-520581(JP,A)
【文献】抗精神病薬「エビリファイ」新しい適応症「双極性障害における躁症状の改善」および新剤形「エビリファイOD錠」が承認 [online],大塚製薬株式会社ホームページ,2012年01月18日,[検索日2021.10.05], インターネット<URL: https://www.otsuka.co.jp/company/newsreleases/2012/20120118_01.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量の
下記式(2)
【化1】
で示されるカルバミン酸(R)-1-(2-クロロフェニル)-2-テトラゾール-2-イル-エチルエステルであるカルバメート化合物、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物又は水和物を含む双極性障害の躁病の予防、軽減又は治療用薬剤。
【請求項2】
双極性障害が、双極性障害I型、双極性障害II型、気分循環性障害及び他に分類されない双極性障害からなる群から選ばれる一つ以上である請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
哺乳類投与用に製造された請求項1
または2に記載の薬剤。
【請求項4】
式
(2)のカルバメート化合物を、遊離形に基づいて、50~500mgの量で含む請求項1
または2に記載の薬剤。
【請求項5】
治療有効量の
下記式(2)
【化2】
で示されるカルバミン酸(R)-1-(2-クロロフェニル)-2-テトラゾール-2-イル-エチルエステルであるカルバメート化合物、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物又は水和物を含み、さらに薬学的に許容される担体を1種以上含む双極性障害の躁病の予防、軽減又は治療用医薬組成物。
【請求項6】
双極性障害が、双極性障害I型、双極性障害II型、気分循環性障害及び他に分類されない双極性障害からなる群から選ばれる一つ以上である請求項
5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
哺乳類投与用に製造された請求項
5または6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
式
(2)のカルバメート化合物を、遊離形に基づいて、50~500mgの量で含む請求項
5または6に記載の医薬組成物。
【請求項9】
対象における双極性障害の躁病を予防、軽減又は治療するための医薬組成物の製造における、
下記式(2)
【化3】
で示されるカルバミン酸(R)-1-(2-クロロフェニル)-2-テトラゾール-2-イル-エチルエステルであるカルバメート化合物、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物又は水和物の使用。
【請求項10】
双極性障害が、双極性障害I型、双極性障害II型、気分循環性障害及び他に分類されない双極性障害からなる群から選ばれる一つ以上である請求項
9に記載の使用。
【請求項11】
対象が、哺乳動物である請求項
9または10に記載の使用。
【請求項12】
哺乳動物が、ヒトである請求項
11に記載の使用。
【請求項13】
医薬組成物中の式
(2)のカルバメート化合物の治療有効量が、遊離形に基づいて、50~500mgである請求項
9または10に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前記カルバメート化合物を含む医薬組成物を投与することによる双極性障害を予防、軽減又は治療のために下記式(1)のカルバメート化合物の使用に関する:
【化1】
(式中、R
1、R
2、A
1及びA
2は、本明細書の定義と同義である)
【背景技術】
【0002】
双極性障害(BPD)は、躁病(mania)とうつ病(depression)が伴われる気分障害であり、これらは慢性の循環的精神疾患である。DSM-IVによれば、双極性障害は、双極性障害I型、双極性障害II型、気分循環性障害及び他に分類されない双極性障害などとして分類される。患者が複数の躁病エピソード、又はうつ病エピソードと躁病エピソードとが同時に起こる混合性エピソードを経験した場合、双極性障害I型と診断される。双極性障害II型は、少なくとも1回の主なうつ病エピソードの病歴に加えて、さらに少なくとも1回の軽躁病エピソードを経験したことがある症例を指す(非特許文献1)。
【0003】
躁病は、1週間続く少なくとも次の症状によって特徴付けられる:怒り(irritability)、高揚感(euphoria)、睡眠欲求の減少(decreased need for sleep)、誇大妄想(grandiose ideas)、衝動的行動(impulsive behavior)、多弁(increased talkativeness)、めくるめく思い(racing thoughts)、活動の増加(increased activity)、注意力の散漫(distractibility)など。症状は、入院が必要とされるほどの程度まで生活に深刻な困難を引き起こす状態である。軽躁病は、症状が躁病と類似しているが、その持続期間が躁病のそれらよりも短く、機能的変化が軽度であるため入院が必要とされない状態をいう。うつ病エピソードの間、患者は集中力低下、自尊心の欠如、罪悪感、無力感(嗜眠)、興味喪失、疲労感、不眠又は過度の睡眠、体重の増加又は減少、衝動的な自殺行為又は自殺企画などを経験する。National Comorbidity Survey Replicationによると、双極性障害の生涯有病率は約4%と推定され、双極性障害は、注意欠陥多動性障害(ADHD)、全般性不安障害、アルコール依存症、薬物乱用などを伴う高い罹患率を有する。
【0004】
今日まで、双極性障害の病態生理学及び原因は明確に解明されていない。遺伝的要因、生物学的要因、心理社会的要因などが複合的に働き、発病を引き起こすことが理解されている。双極性障害は、神経伝達物質、特にドーパミン、セロトニン及びノルエピネフリンなどの不均衡が関連し、絶対量ではなく各受容体の感受性が薬物の効果(即ち、症状の軽減)に影響を与えることが知られている。
【0005】
双極性障害の治療の目的は、躁病、軽躁病及びうつ病などの症状を治療し、疾患の循環性を低減又は防止することによって治療効果を維持することである。リチウム及び抗精神病剤が躁病治療剤として使用され、ベンゾジアゼピン類は補助治療剤として考慮されている。最近、多くの文献がリチウムの有効性や治療の優位性に疑問を投げかけているが、それでもリチウムは、双極性躁病の標準治療法として考えられている(非特許文献2)。リチウム治療の早期開始は、頭痛、手の震え、体重増加などにつながる可能性があり、治療の突然の中止は躁病につながる可能性があるため、適切な血中濃度を維持することが重要である。オランザピン(olanzapine)、クエチアピン(quetiapine)、リスペリドン(risperidone)及びクロザピン(clozapine)等の第2世代抗精神病剤は、双極性躁病を治療する可能性が高いが、鎮静、体重増加及び代謝障害などの副作用が一般的である(非特許文献3)。抗うつ剤は、短極性うつ病には有効であるが、双極性うつ病において気分安定剤と組み合わせて抗うつ剤を使用することの利点は議論を引き起こしている。躁病や軽躁病への症状の切り替えに関する懸念のために、最近のガイドラインは、双極性うつ病の治療目的で抗うつ剤の使用を制限又は禁止している(非特許文献4)。
【0006】
双極性障害の治療又は予防のために様々な薬物が使用されてきたが、それでも不十分なレベルの薬物反応又は副作用ために、それらの使用には制限がある。したがって、改善された効能及びより少ない副作用を有する双極性障害のための新規薬物が必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 4th ed. Washington DC: American Psychiatric Association (2000)
【文献】Ketter TA, Miller S, Dell'Osso B, Wang PW. Treatment of bipolar disorder: Review of evidence regarding quetiapine and lithium. J. of Affect. Disord. (2016)191:256-273
【文献】Vieta E, Rosa AR. Evolving trends in the long-term treatment of bipolar disorder. World J Biol Psychiatry.(2007) 8:4-11
【文献】Pacchiarotti, D.J. Bond, R.J. Baldessarini et al. The International Society for Bipolar Disorders (ISBD) task force report on antidepressant use in bipolar disorders. Am. J. Psychiatry (2013) 170:1249-1262
【文献】Poitou P, Boulu R, Bohuon C, Effect of lithium and other drugs on the amphetamine chlordiazepoxide hyperactivity in mice. Experientia (1975) 31:99-101
【文献】Arban R, Maraia G, Brackenborough K, Winyard L, Wilson A, Gerrard P, Large C. Evaluation of the effects of lamotrigine, valproate and carbamazepine in a rodent model of mania. Behav Brain Res (2005) 158:123-132
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、双極性障害、特に双極性障害の躁病(双極性躁病)の予防、軽減又は治療のための方法を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、下記式(1)
【化2】
(式中、R
1、R
2、A
1及びA
2は、本明細書の定義と同義である)
のカルバメート化合物、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物又は水和物を双極性障害、特に双極性障害の躁病(双極性躁病)の予防、軽減又は治療のための使用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、治療有効量の下記式(1)
【化3】
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、C
1-C
8アルキル、C
1-C
8ハロアルキル、C
1-C
8チオアルコキシ及びC
1-C
8アルコキシからなる群から選ばれ、A
1及びA
2の一方はCHであり、他方はNである。)で示されるカルバメート化合物、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物又は水和物を含む双極性障害の予防、軽減又は治療用薬剤を提供する。
【0011】
また、本発明は、治療有効量の前記式(1)のカルバメート化合物、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物又は水和物を含み、さらに薬学的に許容される担体を1種以上含む双極性障害、特に双極性障害の躁病の予防、軽減又は治療用医薬組成物を提供する。
【0012】
さらに、本発明は、前記式(1)のカルバメート化合物、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物又は水和物を治療有効量で治療対象に投与することを含み、双極性障害、特に双極性障害の躁病を予防、軽減又は治療する方法を提供する。
【0013】
さらに、本発明は、前記式(1)のカルバメート化合物、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物又は水和物の、双極性障害、特に双極性障害の躁病を予防、軽減又は治療、これと関連した兆候を改善するための使用を提供する。
【0014】
本発明の一実施形態では、前記式(1)において、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン及びC1-C8アルキルからなる群から選ばれる。
【0015】
一実施形態では、C1-C8ハロアルキルはペルフルオロアルキルである。
【0016】
本発明の他の実施形態では、前記式(1)のカルバメート化合物は、下記式(2)
【化4】
で示されるカルバミン酸(R)-1-(2-クロロフェニル)-2-テトラゾール-2-イル)エチルエステルである。
【0017】
前記式(1)及び(2)のカルバメート化合物の製造は、当業界で化合物合成に関する通常の知識を有した者であれば、公示の化合物又はそれらから容易に製造することができる化合物を使用して製造することができる。特に、前記式(1)化合物の製造方法は、WO2006/112685 A1、WO2010/150946 A1及びWO2011/046380 A2に詳細に記載されており、それらの開示は参照のために本明細書に組み込まれる。前記式(1)の化合物は、前記文献に記載された方法のいずれかにより化学合成することができるが、これらは例示に過ぎず、必要に応じて単位操作の順序などを選択的に変更してもよい。従って、前記方法は本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0018】
前記式(1)のカルバメート化合物は、双極性障害の予防、軽減又は治療のために使用することができる。
【0019】
特に、前記式(1)のカルバメート化合物は、双極性障害の躁病の予防、軽減又は治療のために使用することができる。
【0020】
本発明の一実施形態によれば、前記双極性障害は、双極性障害I型、双極性障害II型、気分循環性障害及び他に分類されない双極性障害からなる群から選ばれる一つ以上であってもよく、より具体的には、双極性障害I型又は双極性障害II型であってもよい。
【0021】
躁病は、その原因にかかわらず、軽躁病、躁病又は躁病の気分相(manic mood phase)を含む。双極性躁病は、双極性障害と関連する躁病を意味する。
【0022】
一実施形態において、双極性障害、特に双極性障害の躁病に対する効能を確認するために、アンフェタミン誘発活動亢進モデルを用いて、前記式(1)のカルバメート化合物の効果を試験することができる。ドーパミンの神経伝達を増加させる中枢神経刺激制であるアンフェタミンを単独で又はクロルジアゼポキシドと組み合わせて齧歯類に投与時、活動亢進など躁病様症状を誘導する可能性があり、オープンフィールド試験における行動の増加をもたらす(非特許文献5、6)。
【0023】
前記疾患の予防、軽減又は治療のための式(1)のカルバメート化合物の投与量は、通常的に、疾患の重症度、対象の体重及び代謝状態に応じて変わり得る。個々の患者に対する「治療有効量」は、前記した薬理学的効果、即ち、治療効果を達成するのに十分な活性化合物の量を意味する。本発明の化合物の治療有効量は、ヒトへの投与時、遊離形に基づいて、1日1回投与に対して50~500mg、50~400mg、50~300mg、100~400mg、100~300mg、50~200mg、又は100~200mgである。好ましくは50~300mg、より好ましくは50~200mgである。
【0024】
本発明の化合物は、経口、非経口、静脈内、筋肉内、皮下又は直腸投与などの治療剤の投与に使用される任意の従来の方法によって投与することができる。
【0025】
本発明の一実施形態による薬剤又は医薬組成物は、治療有効量の本発明のカルバメート化合物、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、水和物及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる化合物を含むことができる。
【0026】
前記式(1)のカルバメート化合物の薬学的に許容される塩としては、独立して、アセテート、ベンゼンスルホネート、ベンゾエート、ビタルトラート、カルシウムアセテート、カンシラート、カーボネート、シトラート、エデタート、エジシラート、エストレート、エシレート、フマレート、グルセプテート、グルコネート、グルタメート、グリコロイルアルサニレート(glycoloyl arsanilate)、ヘキシルレゾルシネート(hexylresorcinate)、ヒドラバミン、ヒドロブロミド、ヒドロクロリド、ヒドロゲンカーボネート、ヒドロキシナフトアート、ヨージド、イセチオナート、ラクテート、ラクトビオナート、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデラート、メシレート、メチルニトラート、メチルスルフェート、ムカート(mucate)、ナプシラート、ニトラート、パモ酸塩(エンボン酸塩)、パントテナート、ホスフェート/ジホスフェート、ポリガラクツロン酸塩、サリチラート、ステアレート、サブアセテート、スクシナート又はヘミ-スクシナート、スルフェート又はヘミ-スルフェート、タンニン酸塩、タルトラート、シュウ酸塩又はヘミ-タルトラート、テオクレート、トリエチオジド、ベンザチン、クロロプロカイン、コリン(choline)、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン、プロカイン、アルミニウム、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム及び亜鉛など挙げられる。
【0027】
本発明の一実施形態による薬剤又は医薬組成物は、経口又は非経口投与することができる。非経口投与としては、静脈内注射、皮下注射、筋肉注射、腹腔注射、内皮投与、局所投与、鼻腔内投与、膣内投与、肺内投与及び直腸内投与などが挙げられる。経口投与の場合、本発明の一実施形態による医薬組成物は、素錠として、又は活性薬剤がコーティングされているか、又は胃内での分解に対して保護されているように製剤化することができる。また、前記組成物は、活性物質を標的細胞に移動させることができる任意の装置によって投与することができる。投与経路は、治療対象の一般的な条件及び年齢、治療条件の性質及び選ばれる有効成分に応じて変わり得る。
【0028】
本発明の一実施形態による薬剤又は医薬組成物の適した投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重及び性別、病状、食事、投与時間、投与経路、排せつ速度及び反応感受性などの要因によって変わり得る。通常、熟練した医師は、所望の治療又は予防に効果的な投与量を容易に決定及び処方することができる。一実施形態による前記医薬組成物は、1回以上の用量で、例えば、1日に1~4回投与されることができる。一実施形態による前記医薬組成物は、式(1)の化合物を、遊離形に基づいて、50~500mg、50~400mg、50~300mg、100~400mg、100~300mg、50~200mg、又は100~200mgの量で含み、好ましくは50~300mg、より好ましくは50~200mgの量で含むことができる。
【0029】
本発明の一実施形態による薬剤又は医薬組成物は、当業者が容易に実施することができる方法に従って、薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤を用いて製剤化することによって単位用量形態又は多用量容器内に入れて製造することができる。前記製剤は、油性又は水性媒質中の溶液、懸濁液又はエマルジョン(乳化溶液)、抽出物、粉末剤、顆粒剤、錠剤又はカプセル剤形態であってもよく、分散剤又は安定化剤をさらに含むことができる。また、前記医薬組成物は、座薬、スプレー剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、吸入剤又は皮膚パッチ剤の形態で投与することができる。また、前記医薬組成物は、哺乳類投与用、より好ましくはヒト投与用に製造することができる。
【0030】
薬学的に許容される担体は、固体又は液体であってもよく、賦形剤、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、分散剤、吸着剤、界面活性剤、結合剤、防腐剤、崩壊剤、甘味剤、香味剤、滑沢剤、放出調節剤、湿潤剤、安定化剤、懸濁化剤及び潤滑剤から選ばれる1種以上であってもよい。また、薬学的に許容される担体は、食塩水、滅菌水、リンガー液、緩衝食塩水、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール及びそれらの混合物から選ぶことができる。
【0031】
一実施形態では、適切な賦形剤(filler)としては、糖(例えば、デキストロース、スクロース、マルトース及びラクトース)、デンプン(例えば、コーンスターチ)、糖アルコール(例えば、マンニトール、ソルビトール、マルチトール、エリトリトール及びキシリトール)、デンプン加水分解物(例えば、デキストリン及びマルトデキストリン)、セルロース又はセルロース誘導体(例えば、微晶質セルロース)又はそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されていない。
【0032】
一実施形態において、適切な結合剤としては、ポビドン、コポビドン、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ゼラチン、ガム類、スクロース、デンプン又はそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
一実施形態において、適切な防腐剤としては、安息香酸、安息香酸、ナトリウム、ベンジルアルコール、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、クロルブトール、ガレート(gallate)、ヒドロキシベンゾエート、EDTA又はそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
一実施形態において、適切な崩壊剤としては、デンプングリコール酸ナトリウム、架橋されたポリビニルピロリドン、架橋カルボキシメチルセルロース、デンプン、微晶質セルロース又はそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
一実施形態において、適切な甘味剤としては、スクラロース、サッカリン、ナトリウム又はカリウム又はカルシウムサッカリン、アセスルファムカリウム又はナトリウムシクラメート、マンニトール、フルクトース、スクロース、マルトース又はそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
一実施形態において、適切な滑沢剤としては、シリカ、コロイド状二酸化ケイ素、タルクなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
一実施形態において、適切な潤滑剤としては、ステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸などの長鎖脂肪酸及びその塩、タルク、グリセリドワックス又はそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
本明細書に使用された用語「予防する」、「予防すること」及び「予防」は、疾患の可能性を低減又は排除することを意味する。
【0039】
本明細書に使用された用語「軽減する」、「軽減すること」及び「軽減」は、疾患及び/又はそれに付随される症状を全体的に又は部分的に緩和させることを意味する。
【0040】
本明細書に使用された用語「治療する」、「治療すること」及び「治療」は、疾患及び/又はそれに付随される症状を全体的に又は部分的に排除することを意味する。
【0041】
本明細書に使用された用語「対象」は、治療、観察又は実験の客体となる動物、好ましくは哺乳類(例えば、霊長類(primates)(例えば、ヒト)、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウスなど)、最も好ましくは、ヒトを意味する。
【0042】
本明細書に使用された用語「治療有効量」は、治療される疾患又は障害の症状の緩和を含む、系、動物又はヒトにおける生物学的又は医学的反応を誘導する活性化合物又は医薬製剤の量を意味し、前記量は、研究者、医師(内科医)又は他の臨床医によって求められる量である。
【0043】
本明細書に使用された用語「組成物」は、特定量の特定成分を含有する生成物及び特定量の特定成分の配合物から直接又は間接的に生じる任意の生成物を含む。
【発明の効果】
【0044】
本発明による薬剤及び医薬組成物は、双極性障害、より具体的には双極性躁病を効率的に治療及び予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】正常マウスと双極性躁病誘発マウスに、製造例で製造されたカルバミン酸(R)-1-(2-クロロフェニル)-2-テトラゾール-2-イル)エチルエステル(式(2)の化合物、以下、‘試験化合物’とも称する)を投与した後、行動性変化をビヒクル(vehicle)を投与した陰性対照群とそれぞれ比較した結果である。
【
図2】正常マウスと双極性躁病誘発マウスに陽性対照群化合物であるバルプロ酸を投与した後、行動性変化をビヒクル(vehicle)投与陰性対照群とそれぞれ比較した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。しかし、以下の実施例は、一つ以上の実施形態を例示することのみを意図しており、本発明の範囲を限定することを意図していない。
【0047】
製造例:カルバミン酸(R)-1-(2-クロロフェニル)-2-テトラゾール-2-イル)エチルエステルの製造
カルバミン酸(R)-1-(2-クロロフェニル)-2-テトラゾール-2-イル)エチルエステルを国際公開WO2010/150946号の製造例50に記載された方法に従って製造した。
【0048】
実施例:マウス双極性躁病モデルにおける躁病の治療のための薬理効果の実験
体重20~25gの雄性ICRマウスをオリエント化学工業社から購入し、本実験に用いた。動物は、標準温度(19~25℃)及び湿度(40~60%)、食物と水を自由に摂取及び制御された光(午前7時から午後7時まで照明)の条件下で4日以上安定させて、用いた。158匹のマウスを以下のように群分けした。各群のマウスに投与する化合物は、30%ポリエチレングリコール400(シグマ社製)に溶解して製造し、マウスに10mL/kgの容積で経口投与した。
【0049】
正常マウス群(各7~8匹)
-陰性対照群としてのマウスに、ビヒクルとして30%PEG400を10mL/kgの用量で1回経口投与
-試験化合物を3、10及び20mg/kgの用量で1回経口投与したマウス
-陽性対照群としてのマウスに、バルプロ酸を300mg/kgの用量で1回経口投与
【0050】
双極性躁病誘導マウス群(1群当たりマウス10~14匹、以下の対照群及び試験化合物投与後、アンフェタミン-クロルジアゼポキシドを混合して投与)
-陰性対照群としてのマウスに、ビヒクルとして30%PEG400を10mL/kg用量で1回経口投与
-試験化合物を3、10及び20mg/kgの用量で1回経口投与したマウス
-陽性対照群としてのマウスに、バルプロ酸を300mg/kgの用量で1回経口投与
【0051】
陽性対照群と試験化合物の濃度を決定するために、バルプロ酸300mg/kg、試験化合物
3、10及び20mg/kgをそれぞれ正常マウスに経口投与した。1時間後、Opto-Varimax(登録商標)(Columbus Instruments, Ohio, USA)機器を用いて30分間オープンフィールド試験を実施し、これらの群における挙動がビヒクル投与陰性対照群と比較して有意に低下しないことを確認した[
図1及び
図2:正常マウス]。
【0052】
アンフェタミン2.5mg/kgとクロルジアゼポキシド2.5mg/kgの混合剤をマウス腹腔内投与して躁病を誘発させ、投与30分後に30分間オープンフィールド試験で挙動を測定した。ビヒクルのみを投与した陰性対照群と比較した片側スチューデントt検定による測定行動の分析は、行動が有意に増加したことを示した(p<0.05)[
図1及び
図2:正常マウス対照群対比双極性躁病誘導]。したがって、これを双極性躁病誘発条件として使用した(非特許文献6)。
【0053】
躁病誘導モデルにおいて、躁病を予防するための陽性対照群及び試験化合物の効果(行動増加の抑制)を確認するために、バルプロ酸300mg/kg、試験化合物
3、10及び20mg/kgを各群のマウスにそれぞれ経口投与した。30分後、アンフェタミンとクロルジアゼポキシドの混合剤を腹腔内投与した。腹腔内投与30分後、オープンフィールド試験を30分間行った。陰性対照群(100%)と比較した試験群の行動性変化を一方向ANOVAによって分析し、これにより有効性が確認され(p<0.05)、結果を
図1及び
図2に示した。
【0054】
躁病誘導マウスへの試験化合物の投与は、ビヒクル投与群(陰性対照群)に対して、オープンフィールド試験における挙動を減少させており(
図1)、特に10mg/kg以上の試験化合物の用量で、効果は300mg/kgのバルプロ酸と同等かそれ以上であった(
図2)。試験化合物は20mg/kgの投与量まで正常マウスの行動に影響を及ぼさなかったが、躁病誘導マウスでは躁病を有意に減少させ、正常の行動に対する影響を及ぼすことなく双極性躁病を治療できることを示した(
図1)。
【0055】
以上の結果から、本化合物は双極性躁病モデルにおける行動の増加を抑制するのに十分な薬理学的効果を示し、正常マウスの行動に影響を及ぼさないことが確認され、これにより、本化合物は双極性躁病の治療薬として有効に使用することができる。