IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ テクニップ フランスの特許一覧

特許7208172分解炉システム、及び分解炉システム内で炭化水素供給原料を分解するための方法
<>
  • 特許-分解炉システム、及び分解炉システム内で炭化水素供給原料を分解するための方法 図1
  • 特許-分解炉システム、及び分解炉システム内で炭化水素供給原料を分解するための方法 図2
  • 特許-分解炉システム、及び分解炉システム内で炭化水素供給原料を分解するための方法 図3
  • 特許-分解炉システム、及び分解炉システム内で炭化水素供給原料を分解するための方法 図4
  • 特許-分解炉システム、及び分解炉システム内で炭化水素供給原料を分解するための方法 図5
  • 特許-分解炉システム、及び分解炉システム内で炭化水素供給原料を分解するための方法 図6
  • 特許-分解炉システム、及び分解炉システム内で炭化水素供給原料を分解するための方法 図7
  • 特許-分解炉システム、及び分解炉システム内で炭化水素供給原料を分解するための方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】分解炉システム、及び分解炉システム内で炭化水素供給原料を分解するための方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 9/36 20060101AFI20230111BHJP
   F22B 33/18 20060101ALI20230111BHJP
   F22D 1/02 20060101ALI20230111BHJP
   F23L 15/00 20060101ALI20230111BHJP
   F23C 9/08 20060101ALI20230111BHJP
   F22D 1/18 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C10G9/36
F22B33/18
F22D1/02
F23L15/00 A
F23C9/08 402
F22D1/18
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019569795
(86)(22)【出願日】2018-06-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-06
(86)【国際出願番号】 EP2018065998
(87)【国際公開番号】W WO2018229267
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2021-05-07
(31)【優先権主張番号】17176502.7
(32)【優先日】2017-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504191741
【氏名又は名称】テクニップ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】アウト,ペーター
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-130679(JP,A)
【文献】特開昭62-148591(JP,A)
【文献】特開昭62-059226(JP,A)
【文献】特開平09-249591(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素供給原料を分解ガスに変換するための分解炉システムであって、
対流部、放射部及び冷却部を備えており、
前記対流部は、炭化水素供給原料を受けて予熱するように構成された複数の対流バンクを有しており、
前記放射部は、熱分解反応を可能にする温度に前記炭化水素供給原料を加熱するように構成された少なくとも1つの放射コイルを有する火室を有しており、
前記冷却部は、少なくとも1つの移送ライン交換器を有しており、
前記分解炉システムは、前記炭化水素供給原料を前記放射部に送る前に前記移送ライン交換器によって予熱するように構成されており、
前記対流部は、飽和蒸気を発生させるように構成されたボイラコイルを有しており、
前記分解炉システムは、前記ボイラコイルに連結されて、前記ボイラコイルにボイラ水を送るように構成された蒸気ドラムを更に備えていることを特徴とする分解炉システム。
【請求項2】
前記ボイラコイルは、前記対流部の底部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の分解炉システム。
【請求項3】
前記対流部は、前記炭化水素供給原料を希釈剤、好ましくは希釈蒸気と混合して、供給原料-希釈剤の混合物を与えるように更に構成されており、
前記移送ライン交換器は、前記供給原料-希釈剤の混合物を前記放射部に送る前に予熱するように構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の分解炉システム。
【請求項4】
前記蒸気ドラムに連結されている二次移送ライン交換器を更に備えており、
前記蒸気ドラムは、前記二次移送ライン交換器にボイラ水を送るように更に構成されており、前記二次移送ライン交換器は、前記蒸気ドラムから送られたボイラ水から飽和高圧蒸気を発生させるように構成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載の分解炉システム。
【請求項5】
前記対流部は、飽和蒸気を発生させるためにボイラ給水を予熱するように構成されたエコノマイザを有していることを特徴とする請求項1~のいずれか1つに記載の分解炉システム。
【請求項6】
前記対流部は、好ましくは前記対流部の下流側に設けられた酸化剤予熱器を有しており、前記酸化剤予熱器は、酸化剤、例えば燃焼空気及び/又は酸素を前記火室に導入する前に予熱するように構成されていることを特徴とする請求項1~のいずれか1つに記載の分解炉システム。
【請求項7】
好ましくは煙道ガスが外部で再循環しない状態で、酸素を前記放射部に導入するように構成されていることを特徴とする請求項1~のいずれか1つに記載の分解炉システム。
【請求項8】
火炎温度を制御するために煙道ガスの少なくとも一部を回収して、前記煙道ガスを前記放射部に再循環させるように構成された煙道ガス外部再循環回路を更に備えており、
前記煙道ガス外部再循環回路は、前記火室に送る前に酸素を、再循環する煙道ガスに導入するように構成された煙道ガス放出器を有していることを特徴とする請求項1~のいずれか1つに記載の分解炉システム。
【請求項9】
前記対流部に設けられた蒸発器コイルと凝縮器とを有するヒートポンプ回路を更に備えており、
前記ヒートポンプ回路は、前記蒸発器コイルが前記対流部から熱を回収して、前記凝縮器が前記熱をボイラ給水に伝えるように構成されていることを特徴とする請求項1~のいずれか1つに記載の分解炉システム。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1つに記載の分解炉システムで炭化水素供給原料を分解するための方法であって、
第1の供給原料予熱工程、及び第2の供給原料予熱工程を有し、
前記第1の供給原料予熱工程では、前記対流部の前記複数の対流バンクの内の少なくとも1つで炭化水素供給原料を分解炉システムの高温の煙道ガスによって予熱し、
前記第2の供給原料予熱工程では、前記炭化水素供給原料を前記分解炉システムの放射部に送る前に、前記冷却部の前記移送ライン交換器で前記炭化水素供給原料を前記分解炉システムの分解ガスの廃熱によって更に予熱することを特徴とする方法。
【請求項11】
前記放射部は、熱分解反応を可能にする温度に前記炭化水素供給原料を加熱するように構成された少なくとも1つの放射コイルを有する火室を有していることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ボイラ水を前記分解炉システムの蒸気ドラムから前記分解炉システムの対流部内のボイラコイルに送り、前記ボイラ水を高温の煙道ガスによって加熱し、水及び蒸気の混合物を前記蒸気ドラムに戻すことを特徴とする請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記ボイラコイルで前記ボイラ水を蒸発させることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
移送ライン交換器の下流側に設けられた二次移送ライン交換器を使用して、前記分解炉システムの分解ガスの廃熱によって、前記蒸気ドラムから送られたボイラ水から高圧蒸気を発生させることを特徴とする請求項1013のいずれか1つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分解炉システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば米国特許第4479869 号明細書に開示されているような従来の分解炉システムは、一般に対流部を備えており、対流部内で炭化水素供給原料を予熱する及び/又は部分的に蒸発させ、希釈蒸気と混合して供給原料-希釈蒸気の混合物を与える。このシステムは、少なくとも1つの放射コイルを火室に有する放射部を更に備えており、放射部内で、対流部からの供給原料-希釈蒸気の混合物を熱分解によって高温で生成物成分及び副生成物成分に変換する。このシステムは、少なくとも1つの急冷交換器、例えば移送ライン交換器を有する冷却部を更に備えており、冷却部は、熱分解副反応を止めて生成物に有利な反応の平衡を維持するために、放射部からの生成物又は分解ガスを迅速に急冷するように構成されている。移送ライン交換器からの熱を高圧蒸気の形態で回収することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
既知のシステムの欠点は、熱分解反応に多くの燃料を供給する必要があるということである。この燃料消費量を減らすために、火室効率、つまり放射コイルに吸収される火室内の放出熱の割合を著しく高めることができる。しかしながら、火室効率を高めた従来の分解炉システムの対流部の熱回収機構は、放射部に送るために最適温度に達するように炭化水素供給原料を加熱する能力を僅かしか有さない。その結果、燃料消費量を減らし、ひいてはCO2 排出量を減らすことは従来の分解炉システム内ではほとんど不可能である。
【0004】
本発明の目的は、前述した問題を解決又は緩和することである。特に本発明は、エネルギー供給の必要性を低下させ、従ってCO2 の排出量を減らすより効率的なシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的のために、本発明の第1の態様によれば、請求項1の特徴によって特徴付けられた分解炉システムが提供される。特に、炭化水素供給原料を分解ガスに変換するための分解炉システムは、対流部、放射部及び冷却部を備えている。対流部は、炭化水素供給原料を受けて予熱するように構成された複数の対流バンクを有している。放射部は、熱分解反応を可能にする温度に炭化水素供給原料を加熱するように構成された少なくとも1つの放射コイルを有する火室を有している。冷却部は、熱交換器として少なくとも1つの移送ライン交換器を有している。発明的な方法で、分解炉システムは、炭化水素供給原料を放射部に送る前に移送ライン交換器によって予熱するように構成されている。
【0006】
移送ライン交換器は、分解ガスを冷却又は急冷するために配置された熱交換器である。そのため、この急冷の際の回収熱又は廃熱を、例えば先行技術で一般に知られているように蒸気を発生させるために回収して分解炉システムで使用することができる。先行技術のシステムで行われているように供給原料を対流部で加熱する代わりに、本発明に応じて移送ライン交換器内の分解ガスの廃熱を使用して冷却部内の供給原料を加熱することにより、火室効率を著しく高めて、最大約20%、又約20%を超える燃料ガスの減少率を得ることができる。火室効率は、吸熱反応である熱分解により炭化水素供給原料を分解ガスに変換するために少なくとも1つの放射コイルに吸収される熱と、燃焼ゾーンでの燃焼プロセスによって放出される熱との、25℃の低位発熱量に基づく比である。この定義は、API 規格560 (Fired Heaters for General Refinery Service)で定義されているような燃料効率3.25の公式に相当する。この効率が高いほど、燃料消費量は少なくなるが、対流部で予熱する供給原料に利用可能な熱も下げる。冷却部で供給原料を予熱することにより、この障害を克服することができる。従って、本発明に係る分解炉システムには、第1の供給原料予熱工程及び第2の供給原料予熱工程がある。第1の供給原料予熱工程では、例えば対流部の複数の対流バンクの内の1つで、炭化水素供給原料を分解炉システムの高温の煙道ガスによって予熱する。予熱する際、液体の供給原料の場合には部分的に蒸発させ、気体の供給原料の場合には過熱する。第2の供給原料予熱工程では、供給原料を分解炉システムの放射部に送る前に、供給原料を分解炉システムの分解ガスの廃熱によって更に予熱する。第2の供給原料予熱工程を、冷却部の移送ライン交換器を使用して行う。放射部への供給原料の最適な入口温度を、当業者に知られているように供給原料の熱安定性によって決定する。理想的には、熱分解反応が開始するポイント直下の温度で供給原料を放射部に送る。供給原料の入口温度が低過ぎる場合、放射部内の供給原料を加熱するために更なる熱が必要であり、放射部に供給する必要がある熱及び対応する燃料消費量を増やす。供給原料の入口温度が高過ぎる場合、熱分解が対流部で既に開始する場合があるため、反応が管の内面でのコークスの形成に関連し、このようなコークスは炭素除去中に対流部で容易に除去することができないので望ましくない。この発明的な分解炉システムの更なる利点は、本発明に係る移送ライン交換器では重い(アスファルテンの)かすの凝縮による汚れがまず無いことである。ガスから沸騰蒸気への熱伝達の場合、例えば、移送ライン交換器が先行技術のシステムのように飽和蒸気を発生させるように構成されている場合、沸騰水の熱伝達率はガスの熱伝達率より高い。このため、壁の温度が沸騰水の温度に非常に近くなる。分解炉内のボイラ水の温度は典型的には約320 ℃であり、交換器の冷却側の壁の温度は、交換器の冷却端部の広範囲な部分でこの温度をごくわずかに超える一方、分解ガスの露点は液体の供給原料の大部分で350 ℃を超えるため、管の表面での重いかす成分の凝縮、及び機器の汚れが生じる。このため、交換器を定期的に清浄化する必要がある。交換器の清浄化は、放射コイルの炭素除去中に部分的に行われるが、移送ライン交換器を機械的に清浄化する作業のために炉を定期的に取り出す必要がある。炉の取り出しは、交換器の水噴射だけでなく、破損を回避すべく制御して時間をかけた炉の冷却及び加熱をも含むので数日かかる場合がある。本発明の本システムのようにガスからガスへの熱伝達の場合、両方の熱伝達率は等しく、移送ライン交換器の壁の温度はガスから沸騰水への熱交換の場合より十分高く、壁の温度は、およそ壁の両側の2つの媒体の平均値である。本発明に係る本システムでは、壁の温度は最も低温の部分で約450 ℃であり、最も高温の部分で約700 ℃に迅速に上昇すると予測される。これは、炭化水素の露点を交換器全体に亘って常に超えており、凝縮が生じ得ないことを意味する。
【0007】
好ましい実施形態では、対流部は、飽和蒸気を発生させるように構成されたボイラコイルを有し得る。蒸気を発生させることにより、供給原料の予熱に使用されない煙道ガスのあらゆる廃熱を回収し得るように、ボイラコイルは蒸気を発生させることができる。このため、全体的な炉効率が高まる。実際、この好ましい実施形態に係るシステムでは、放射部に送る前に供給原料の最適温度に達するために排出物の熱を供給原料の予熱に部分的に流用する一方、加えて高圧蒸気を発生させるために煙道ガスの熱を流用することにより、システムの熱回収の変化が可能になり得る。飽和高圧蒸気の発生に流用するより、より多くの熱を供給原料の加熱に流用することができるため、供給原料の加熱を高めるのに有利になるように高圧蒸気の発生量を減らすことができる。前記ボイラコイルは、有利には対流部の底部に設けられ得る。対流部の底部領域の温度が対流部の頂部領域の温度より高いため、この位置は、ボイラ水を加熱する際に比較的高い効率を与え得る。加えて、ボイラコイルは、対流部の高圧蒸気過熱器バンクが過熱することを防止することができる。
【0008】
対流部は、好ましくは前記炭化水素供給原料を希釈剤と混合して供給原料-希釈剤の混合物を与えるように更に構成されることができ、移送ライン交換器は、供給原料-希釈剤の混合物を放射部に送る前に予熱するように構成されている。希釈剤は好ましくは蒸気とすることができる。或いは、メタンを蒸気の代わりに希釈剤として使用することができる。混合物を対流部で更に過熱することができる。このため、供給原料混合物がいかなる液滴も含まないことが保証される。過熱量は、希釈剤又は炭化水素の凝縮を防ぐために露点を確実に十分な差で超えるのに十分である必要がある。加えて、対流部、及びより高い温度のためにコークス形成の危険性がより高い移送ライン交換器での供給原料の分解及びコークス形成を防ぐことができる。更に、供給原料-希釈剤の混合物及び分解ガスの両方の比熱が非常に近いので、生じる熱流も熱交換器、つまり移送ライン交換器の壁の両側で近い。これは、熱交換器が低温側から高温側に熱交換器全体に亘ってほとんど同一の温度差で作動し得ることを意味する。これは、プロセスの観点及び機械的な観点の両方から有利である。
【0009】
分解炉システムは二次移送ライン交換器を更に備えることができ、二次移送ライン交換器は、飽和高圧蒸気を発生させるように構成されている。火室効率、ひいては冷却部の有効熱量に応じて、二次移送ライン交換器は、放射部からの分解ガスを更に冷却するために主移送ライン交換器の後に直列に配置され得る。主移送ライン交換器は、供給原料を放射部に送る前に加熱するように構成されている一方、二次移送ライン交換器はボイラ水を部分的に蒸発させるように構成され得る。分解炉システムは、一又は複数の二次熱交換器を備えることができるが、主熱交換器は、高圧飽和蒸気を発生させるのではなく供給原料を予熱するように常に構成されている。分解炉システムは、ボイラコイル及び/又は二次移送ライン交換器に連結されている蒸気ドラムを更に備えることができる。ボイラ水は、例えば分解炉システムの蒸気ドラムから二次移送ライン交換器及び/又はボイラコイルに流れることができる。二次移送ライン交換器及びボイラコイルを備えたシステムの場合、二次移送ライン交換器及びボイラコイルは両方共、飽和高圧蒸気を並行して発生させることができる。蒸気及び水の混合物を二次移送ライン交換器及びボイラコイルの一方の内部で部分的に蒸発させた後、蒸気ドラムに送ることができ、蒸気ドラムで、残っている液体水から蒸気を分離することができる。従って、先行技術のシステムと比較して、ボイラ水を分解炉システムの蒸気ドラムから分解炉システムの対流部内のボイラコイルに送ることができ、ボイラコイルで前記ボイラ水を高温の煙道ガスによって部分的に蒸発させるように、更なる並列回路が形成される。そのため、水及び蒸気の混合物を前記蒸気ドラムに戻すことができる。
【0010】
火室は、好ましくは火室効率が40%より高く、好ましくは45%より高く、より好ましくは48%より高いように構成され得る。上記で既に説明したように、火室効率は、熱分解により炭化水素供給原料を分解ガスに変換するために少なくとも1つの放射コイルに吸収される熱と、燃焼プロセスによって放出される熱との比である。先行技術の分解炉の通常の火室効率は約40%である。この火室効率を超える場合、煙道ガスで利用可能な熱が不十分であるので、供給原料を最適温度まで加熱することができず、火室効率を約40%から約48%に高めることにより、対流部で利用可能な熱の割合を約50~55%から約42~47%に下げる。先行技術のシステムに対して、本発明に係るシステムは、対流部での熱のこのような利用可能性の低下に対処することができる。火室効率を約40%から約48%に高めることにより、燃料の約20%を節約することができる。様々な方法で、例えば、火室内の断熱火炎温度を上昇させることによって、及び/又は少なくとも1つの放射コイルの熱伝達率を高めることにより、火室効率を高めることができる。断熱火炎温度を上昇させずに火室効率を上昇させることにより、本明細書に更に述べられている火室効率を高める他の方法である酸素-燃料燃焼又は予熱空気燃焼の場合のように、NOx 排出量が実質的に増えないという利点がある。例えば、燃焼が火室の高温側、つまり、底部燃焼炉の場合には火室の底部の近くの領域、又は頂部燃焼炉の場合には頂部の近くの領域に制限されるように、火室が構成され得る。火室は好ましくは十分な熱伝達領域を有しており、より具体的には、少なくとも1つの放射コイルの熱伝達表面積は、煙道ガスを火室の出口又は対流部の入口で40%より高く、好ましくは45%より高く、より好ましくは48%より高い火室効率を得るために十分低い温度に冷却しながら、少なくとも1つの放射コイル内で供給原料の必要な変換レベルで供給原料を変換するのに必要な熱を伝えるために十分大きい。火室の少なくとも1つの放射コイルは、欧州特許出願公開第1611386 号明細書、欧州特許出願公開第2004320 号明細書又は欧州特許出願公開第2328851 号明細書に開示されているような旋回流管、又は英国特許出願第1611573.5 号明細書に開示されているような巻き環状放射管のような非常に効率的な放射管を好ましくは含む。前記少なくとも1つの放射コイルは、米国特許出願公開第2008/142411号明細書に開示されているような3レーン構成のような改良された放射コイル構成を有することがより好ましい。
【0011】
対流部は、好ましくはボイラ給水を分解炉システムの蒸気ドラムに送る前に飽和蒸気を発生させるためにボイラ給水を予熱するように構成されたエコノマイザを有利には有し得る。このため、分解炉システムの全体効率を高めることが可能になる。全体効率は、あらゆる酸化剤予熱器及び/又は燃料予熱器を除いた複数の対流バンクにより対流部に吸収される熱を含めた、熱分解により炭化水素供給原料を分解ガスに変換するために少なくとも1つの放射コイルに吸収される熱と、燃焼ゾーンでの燃焼プロセスによって放出される熱との、25℃の低位発熱量に基づく比である。
【0012】
本発明の更なる実施形態では、対流部は、好ましくは対流部の下流側、つまり煙道ガスが最も低温である箇所に設けられた酸化剤予熱器を有してもよく、酸化剤予熱器は、例えば燃焼空気及び/又は酸素のような酸化剤を火室に導入する前に予熱するように構成されている。この場合、火室内の熱分解反応のための熱は、火室の燃焼器での燃料ガス及び例えば予熱された空気の燃焼によって与えられ得る。酸化剤を予熱することにより、断熱火炎温度を上昇させることができ、火室をより効率的にすることができる。
【0013】
分解炉システムは、酸素を放射部に導入するように更に構成されてもよい。好ましくは、限られた量の酸素を放射部の燃焼器に、特には燃焼空気と共に例えば直接導入することができるため、放射部内の断熱火炎温度を上昇させることができ、火室効率を高めることができる。下記に述べる完全な酸素-燃料燃焼には通例であるように、煙道ガス再循環回路が設けられていない状態で限られた量の酸素を放射部の燃焼器に導入することは別個の発明とみなされ得る。例として、煙道ガスを通常約1900℃の断熱火炎温度から約25℃の基準温度まで冷却することができる。断熱火炎温度では、熱の100 %が煙道ガスで利用可能である一方、基準温度では、煙道ガスで利用可能な熱は残らない。例を単純化するために温度範囲全体に亘って一定の比熱を仮定すると、40%の効率に達するために火室内の1900℃から1150℃への冷却が必要である。50%の効率に達するために、火室を出る煙道ガスの温度を1150℃に維持しながら、断熱火炎温度を1900℃から2275℃に上昇させる、つまり375 ℃上昇させることが必要である。このような断熱火炎温度の上昇は、燃焼器に純酸素を燃焼空気と共に注入することにより行われ得る。燃焼空気に対する酸素の約7%の重量比での酸素の注入は、火室効率を25%高めるのに十分である。酸素の注入は、好ましくはNOx の形成を最小限度に抑えるために燃料先端部から遠く離して各燃焼器に酸素を供給することにより、又は例えば火室の壁を通して燃焼ゾーンに酸素を直接供給することにより行われ得る。主な利点は、火室効率を著しく高めて、その結果、燃料ガス消費量を減らし、更に大気への温室効果ガスCO2 の排出量を同量減らすことである。別の利点は、下記に述べるように、完全な酸素-燃料燃焼、つまり燃焼空気の代わりに酸化剤として酸素を用いた燃焼と比較して、必要な純酸素が制限されることである。燃焼空気への7wt%の酸素の注入は酸素分を20.7 vol%から25.2 vol%に増加させて、窒素分を77 vol%から72.6 vol%に減少させることができる。より高い断熱火炎温度により、NOx 発生量がより多くなる場合がある。例えば選択的な触媒NOx 還元床を対流部又は煙突に取り付けることにより、NOx 減少対策を講じる必要があるかもしれない。
【0014】
好ましい実施形態では、分解炉システムは、火炎温度を制御するために煙道ガスの少なくとも一部を回収して、前記煙道ガスを前記放射部に再循環させるように構成された煙道ガス外部再循環回路を更に備え得る。このため、所与の断熱火炎温度のために酸化剤への酸素の注入量を増加させることができ、ひいては酸化剤の窒素濃度を下げることができる。酸化剤の酸素濃度が高くなるほど、同一の断熱火炎温度を維持するために必要な煙道ガスの再循環率が高くなる。極端な場合、酸化剤は、窒素をほとんど除去した純酸素である。これは完全な酸素-燃料燃焼と称される。窒素無しではNOx が形成され得ない。純酸素での燃焼が断熱火炎温度を最適値より高い値に上昇させるので、火炎を急冷して所望の温度レベルに維持するために、十分な煙道ガスの外部再循環を好ましくは追加する場合がある。煙道ガスを、好ましくは分解炉システムの対流部の下流側から再循環させる。このようにして、放射部の断熱火炎温度を下げることができる。上記に説明したように、煙道ガスの外部再循環を導入して、酸化剤の酸素分の増加に起因する断熱火炎温度の上昇を調節する。煙道ガスの再循環率が高くなり、再循環する煙道ガスの温度が低くなるほど、火炎が低温になり、NOx の形成が低下する。
【0015】
煙道ガス外部再循環回路は、火室に送る前に酸素を再循環煙道ガスに導入するように構成された第1の煙道ガス放出器を有利には有し得る。この場合、火室内の吸熱性の高い熱分解反応のための熱は、再循環煙道ガスの存在下で、燃料ガス及び酸素、好ましくは窒素を十分除去した酸素の燃焼、又は燃料ガスと酸素及び燃焼空気の組み合わせとの燃焼から与えられる。再循環煙道ガス及び酸素が共通ラインで火室に供給されるように、第1の煙道ガス放出器は火室の燃焼器の上流側に配置され得る。有利には、第1の煙道ガス放出器は、より低い圧力を煙道ガス外部再循環管に加えることができ、分解炉システムの対流部の下流側に設けられ得る再循環装置、例えば誘引ファンのためのエネルギー要件を下げることができる。
【0016】
分解炉システムの有利な実施形態では、対流部に設けられた蒸発器コイルと凝縮器とを有するヒートポンプ回路を更に備えることができ、ヒートポンプ回路は、蒸発器コイルが対流部から熱を回収して、凝縮器が前記熱をボイラ給水に伝えるように構成されている。このようなヒートポンプ回路は、炉の特定の供給原料組成及び作動状態に応じて供給原料の温度を約40~50℃下げることができる。そのため、煙突温度を下げることにより、分解炉システムの全体効率を高めることができる。煙道ガスから熱を回収することによりボイラ給水を予熱して、システムの全体効率を高めることが知られている。しかしながら、特に炉火室内での酸素-燃料燃焼の場合、煙道ガスの温度がボイラ給水の温度未満になる場合があるので、煙道ガスの廃熱はボイラ給水を直接予熱するには十分ではない場合がある。ボイラ給水は、典型的には約120 ~130 ℃の温度で脱気器から直接供給される一方、供給予熱バンクを出る煙道ガスは一般にこの温度未満であるので、給水の直接予熱は不可能である。ヒートポンプ回路は、煙突温度を更に下げることができ、分解炉システムの全体効率を更に高めることができるように、熱を間接的に交換するための解決策を提供し得る。
【0017】
それ自体で発明としてみなされ得る分解炉システムのボイラ給水を予熱するためのヒートポンプ回路は、この予熱を間接的に行って、対流部のエコノマイザの必要なしで分解炉システムの全体効率を高めることができる。ヒートポンプ回路内を循環する有機流体が、例えばブタン、ペンタン若しくはヘキサンの内の1つ、又はあらゆる他の適切な有機流体を含むことができる。更に、更なる利点として、既存の分解炉システムが、既存の分解炉システムの主な改良を必要とすることなく、設置後にこのようなヒートポンプ回路を備えることができるように、ヒートポンプ回路は追加のモジュールとして具体化され得る。更にヒートポンプ回路は、複数の分解炉システムに備えられ得るように構成され得るので、必要とする機器の部品を減らして関連するコストを下げることができる。
【0018】
本発明の態様によれば、上記の利点の一又は複数を与える、分解炉システム内で炭化水素供給原料を分解するための方法が提供される。
【0019】
本発明を、例示的な実施形態の図面を参照して更に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る分解炉システムの第1の好ましい実施形態を示す概略図である。
図2】本発明に係る分解炉システムの第2の実施形態を示す概略図である。
図3】本発明に係る分解炉システムの第3の実施形態を示す概略図である。
図4】本発明に係る分解炉システムの第4の実施形態を示す概略図である。
図5】本発明に係る分解炉システムの第5の実施形態を示す概略図である。
図6】本発明に係る分解炉システムの第6の実施形態を示す概略図である。
図7】本発明に係る分解炉システムの第7の実施形態を示す概略図である。
図8】相対酸素流率対相対空気流率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
尚、図面は本発明の実施形態の概略図として示されている。対応する要素は対応する参照符号で示されている。
【0022】
図1は、本発明の好ましい実施形態に係る分解炉システム40を示す概略図である。分解炉システム40は、複数の対流バンク21を有する対流部を備えている。炭化水素供給原料1 を供給予熱器22に送ることができる。供給予熱器22は、分解炉システム40の対流部20内の複数の対流バンク21の内の1つとすることができる。この炭化水素供給原料1 は、好ましくは天然のパラフィン系又はナフテン系のあらゆる種類の炭化水素とすることができるが、少量の芳香族化合物及びオレフィンが更に存在し得る。このような供給原料の例として、エタン、プロパン、ブタン、天然ガソリン、ナフサ、灯油、天然の凝縮物、軽油、減圧軽油、水素化若しくは脱硫若しくは水素化脱硫された(減圧)軽油又はこれらの組み合わせがある。供給原料の状態に応じて、供給原料を予熱器で予熱する及び/又は部分的に若しくは完全に蒸発させ、その後、希釈蒸気2 のような希釈剤と混合する。希釈蒸気2 を直接注入することができる。或いは、この好ましい実施形態のように、希釈蒸気2 をまず希釈蒸気過熱器24で過熱して、その後、供給原料1 と混合することができる。例えば、より重い供給原料のために1つの蒸気注入ポイント又は複数の蒸気注入ポイントを設けることが可能である。混合した供給原料/希釈蒸気の混合物を高温コイル23で更に加熱することができ、本発明によれば、放射コイル11に導入するために一次移送ライン交換器35で最適温度に達するように更に加熱することができる。放射コイルは、例えば欧州特許出願公開第1611386 号明細書、欧州特許出願公開第2004320 号明細書又は欧州特許出願公開第2328851 号明細書に開示されているような旋回流タイプ、(米国特許出願公開第2008/142411号明細書に開示されているような)3レーン放射コイル構成、巻き環状管タイプ(英国特許出願第1611573.5 号明細書)、又は当業者に知られているような、適度な連続運転時間を維持するあらゆる他のタイプの放射コイルとすることができる。放射コイル11では、炭化水素供給原料が生成物及び副生成物に変換されるように熱分解反応が開始するポイントまで炭化水素供給原料を迅速に加熱する。このような生成物は、特に水素、エチレン、プロピレン、ブタジエン、ベンゼン、トルエン、スチレン及び/又はキシレンである。副産物は、特にメタン及び燃料油である。希釈蒸気のような希釈剤、変換されなかった供給原料及び変換された供給原料の生じた混合物(「分解ガス」と称される反応器排出物)を一次移送ライン交換器35で迅速に冷却して、生成物に有利な反応の平衡を固定する。発明的な方法では、放射コイル11に送る前に供給原料又は供給原料-希釈剤の混合物を加熱することにより、分解ガス8 の廃熱を、まず一次移送ライン交換器35で回収する。本発明によれば、例えば蒸気ドラム33からのボイラ水を少なくとも部分的に蒸発させて飽和高圧蒸気を発生させるように構成されたボイラコイル26によって、高圧蒸気を対流部で発生させることができる。ボイラ水9aが蒸気ドラム33からボイラコイル26に流れることができ、部分的に蒸発したボイラ水9bが自然循環によってボイラコイル26から蒸気ドラム33に還流することができるように、ボイラコイル26は対流部の底部に設けられることができ、蒸気ドラム33と連結されている。ボイラ給水3 を蒸気ドラム33に直接送ることができる。蒸気ドラム33では、ボイラ給水3 を、蒸気ドラム33に既にあるボイラ水と混合する。蒸気ドラム33では、発生した飽和蒸気をボイラ水から分離し、対流部20に送って過熱することができる。過熱を、対流部20内の少なくとも1つの高圧蒸気過熱器25、例えば第1及び第2の過熱器25によって行うことができる。対流部の底部に設けられた前記ボイラコイル26は煙道ガスから余熱を回収することができ、下流の対流部バンク、特に少なくとも1つの高圧蒸気過熱器バンク25が過熱することを防止することができる。前記少なくとも1つの過熱器25は、希釈蒸気過熱器24の上流側であって、好ましくはボイラコイル26の下流側に設けられ得ることが好ましい。高圧蒸気の温度を制御するために、第1の過熱器25と第2の過熱器25との間に設けられた過熱低減器34に追加のボイラ給水3 を注入することができる。
【0023】
吸熱性の高い熱分解反応のための反応熱は、当業者に知られているように、様々な方法で炉火室とも称される放射部10内の燃料(ガス)5 の燃焼によって供給され得る。燃焼空気6 を、例えば炉火室の燃焼器12に直接導入することができ、燃焼器12内で、燃料ガス5 及び燃焼空気6 を燃焼させて熱分解反応のための熱を与える。炉火室内の燃焼ゾーン14で、燃料5 及び燃焼空気6 を水及びCO2 のような燃焼生成物、いわゆる煙道ガスに変換する。煙道ガス7 からの廃熱を、様々なタイプの対流バンク21を使用して対流部20内で回収する。熱の一部をプロセス側、つまり、炭化水素供給原料及び/又は供給原料-希釈剤の混合物の予熱及び/又は蒸発及び/又は過熱のために使用し、熱の残りを非プロセス側、例えば上述したような高圧蒸気の発生及び過熱のために使用する。
【0024】
分解炉システムの第2の実施形態の概略図である図2に例示されているような一実施形態では、分解ガス中のあらゆる余熱を、飽和高圧蒸気を発生させるように構成されている少なくとも更なる移送ライン交換器、つまり二次移送ライン交換器36で回収することができる。この蒸気を蒸気ドラム33からのボイラ水9aから発生させる。このボイラ水は二次移送ライン交換器36によって部分的に蒸発する。この部分的に蒸発するボイラ水9bは、自然循環によって蒸気ドラム33に流れる。このように、高圧蒸気の発生を向上させて全体的な炉効率を高めるために、蒸気ドラム33に対する更なるループが設けられている。ボイラ給水3 を、図1のように蒸気ドラム33に直接送ることができる。或いは例えばボイラコイル26に必要ではない対流部20で利用可能な余熱によって、ボイラ給水3 をまず予熱することができる。更なる対流バンク21、例えばエコノマイザ28を対流部20に加えることができる。この対流バンク28は、全体的な炉効率を高めて更に費用対効果の高い対流部を設けるために、蒸気ドラム33に送る前にボイラ給水3 を予熱するように構成され得る。図2の実施形態では、煙道ガスファンとも称される誘引ファン30、及び煙道ガスを対流部20から排出するために対流部の下流側端部に設けられた煙突31が更に示されている。
【0025】
図1及び図2に示されているような新たな発明的な配置により、放射コイルに送るべく希釈蒸気炭化水素混合物を最適温度に予熱するために必要なプロセス仕事量とは無関係に、非プロセス仕事量、つまり高圧蒸気を発生させるために分解ガス及び対流部で回収する仕事量を減らすことができる。これは、火室効率を、従来の機構での40%から、図1及び2に示されているような新たな機構での48%まで高めて、燃料消費量を約17%減らすことができることを意味する。燃料消費量を減らすことにより、煙道ガス流率及び関連する対流部の仕事量もおよそ17%減少する。新たな機構により、この熱を、非プロセス使用を犠牲にしてプロセス使用に優先させることが可能になり、その結果、放射コイルのための最適化されたプロセス入口温度が得られるが、高圧蒸気の発生量はより低い。供給原料のより低い入口温度は放射仕事量を高めて火室効率を低下させ、燃料消費量を増やす一方、より高い入口温度は対流部内の供給原料の変換、及び対流部の管の内面へのコークスの関連する堆積を生じさせ得るので、最適化された放射コイルの入口温度の維持は重要である。管の温度は対流部内のコークスの燃焼には低過ぎるので、放射コイル内のコークスを除去するための定期的な炭素除去サイクル中に、このコークス堆積物を除去することができず、最終的には対流部内の影響を受けた管の切断及びコークスの機械的な除去のために長期に亘って費用がかかる炉の操業停止が必要である。
【0026】
炉火室10内の燃焼は、底部燃焼器12及び/若しくは側壁燃焼器を用いて、並びに/又は頂部燃焼炉の屋根燃焼器及び/若しくは側壁燃焼器を用いて行われ得る。図2に示されているような炉10の例示的な実施形態では、燃焼は、底部燃焼器12のみを使用して火室の下部に制限されている。このため、従来の機構と比較して火室効率を高めて、燃料ガス消費量を最大約20%まで大幅に減らすことができる。高い火室効率は特に、例えば(図示されているような)底部燃焼器若しくは底部燃焼の場合には底部の近くに置かれた複数列の側壁燃焼器のみを用いて達成され得るか、又は、屋根燃焼器若しくは頂部燃焼の場合には屋根の非常に近くに置かれた複数列の側壁燃焼器のみを用いて達成され得る。この目的を実現するための他の例として、より高い火室を製造するか、又はより効率的な放射コイルを設けることがある。この場合の熱分布は放射コイルの一部にある程度集中するので、局所的な熱流束が増加し、連続運転時間を減らす。この影響を打ち消すために、適度な連続運転時間を維持すべく、例えば旋回流管タイプ又は巻き環状放射管タイプのような熱伝達を向上させる放射コイル管を放射コイルに適用することが必要であってもよい。3レーンコイル構成のようなより良い性能を得るための他の手段を別々に又は他の手段と組み合わせて更に使用して連続運転時間を増やすことが可能である。断熱火炎温度が酸素-燃料燃焼又は空気の予熱により上昇しないので、この実施形態は従来の炉と比較して実質的にNOx 排出量の問題がないことが有利である。
【0027】
図3は、分解炉システムの第3の実施形態を示す概略図である。この実施形態では、炉火室10内での熱分解反応のための熱が、燃焼器12内で燃焼する燃料ガス5 及び予熱燃焼空気50によって与えられる。押込ファン37を介して燃焼空気6 を導入することができ、その後、例えば対流部20の下流側、好ましくは対流部のあらゆる他の対流部バンクの下流側に設けられた空気予熱器27として具体化された対流バンクによって、対流部20内で加熱することができる。燃焼空気の予熱は断熱火炎温度を上昇させて、図2に示された分解炉システムより火室を更に効率的にすることができる。従来の機構と比較して25%を超える燃料ガスの削減が実現可能である。しかしながら、より高い断熱火炎温度は、燃焼空気の予熱の程度に応じてNOx 排出量を上昇させる場合がある。このため、最大許容NOx 排出量に関する環境規制に応じて、例えば選択的な触媒NOx 還元床を対流部20に取り付けることにより、NOx 減少対策を講じる必要があるかもしれない。火室効率を図2に示されている分解炉システムより高くすることができるので、対流部の仕事量が減少し、火室効率が高くなるにつれて、ボイラ給水を予熱するための対流部内の余熱を利用できなくなる場合がある。結局、エコノマイザは余分になる場合があり、図3に示されているようにエコノマイザで予熱することなく、ボイラ給水を蒸気ドラムに送ることができる。
【0028】
図4は、分解炉システムの第4の実施形態を示す概略図である。この実施形態では、炉火室10内での熱分解反応のための熱が、燃焼器12内で燃焼する燃料ガス5 、燃焼空気6 、及び窒素を十分除去した燃焼酸素51によって与えられる。燃焼ゾーン14への酸素の導入は、図3に示されている機構に代わる方法として断熱火炎温度を上昇させ得る。この機構でも、従来の機構と比較して25%を超える燃料ガスの削減が実現可能である。しかしながら、より高い断熱火炎温度は、酸素注入の程度に応じてNOx 排出量を上昇させる場合がある。このため、最大許容NOx 排出量に関する環境規制に応じて、例えば選択的な触媒NOx 還元床を対流部20に取り付けることにより、NOx 減少対策を講じる必要があるかもしれない。
【0029】
図5は、分解炉システムの第5の実施形態を示す概略図である。この実施形態では、炉火室10内での熱分解反応のための熱が、外部で再循環する煙道ガス52の存在下で燃焼器12内で燃焼する燃料(ガス)5 、燃焼空気6 、及び窒素を十分除去した燃焼酸素51によって与えられる。燃焼酸素51を、放出器55を使用して燃焼器12と共通ラインで燃焼器12の上流側で再循環煙道ガス52と混合することができる。再循環煙道ガス52を得るために、対流部20を出る煙道ガスを、生成された煙道ガス7 及び外部再循環のための煙道ガス52に、例えば煙道ガス分離器54によって分離することができる。生成された煙道ガス7 を、誘引ファン30を使用して煙突31を通して排出することができる。誘引ファン30は、煙道ガスを燃焼器12の外部で再循環させるように構成され得る。或いは、誘引ファン30は、下流のシステム、例えば煙突31又は煙道ガス再循環回路52の圧力降下差のようなパラメータに応じて2以上のファンとして具体化されてもよい。
【0030】
図6は、分解炉システムの第6の実施形態を示す概略図である。この実施形態では、炉火室10内での熱分解反応のための熱が、外部で再循環する煙道ガス52の存在下で燃焼器12内で燃焼する燃料(ガス)5 、及び窒素を十分除去した燃焼酸素51によって与えられる。この機構は、全ての燃焼空気6 が燃焼酸素51と取り替えられていることを除いて図5に示されている機構とほとんど同一である。この機構は、燃焼酸素51の消費量が最も多いが、煙突を出る煙道ガスの量が最も少ない機構である。この煙道ガスはCO2 が非常に豊富であるため、炭素の捕捉には理想的であり、NOx 排出量は、対流部への空気漏れに関連した窒素を除いて、窒素が存在しないため最も低い。この機構は最も環境にやさしい。
【0031】
図4図5及び図6の関係を、図8を参照して更に説明することができる。図8のグラフは、(水平軸の)相対空気流率に応じた(垂直軸の)相対酸素流率を示す。相対酸素流率は、100 %の酸素-燃料燃焼、つまり、あらゆる燃焼空気が存在しない状態での酸素要求率に関する流率である。図4は、煙道ガスの外部再循環を必要としない部分的な酸素-燃料燃焼のための分解炉システムの概略図である一方、図6は、断熱火炎温度を調節するために煙道ガスの外部再循環を用いた完全な酸素-燃料燃焼のための分解炉システムの概略図である。図5は、中間の状況のための分解炉システムの概略図である。図6に示されているような完全な酸素-燃料燃焼に関する酸素要求率は、図4に示されているような機構では一極値として図8のグラフで「Y」によって示されている25%であり、図6に示されている機構では図8のグラフで「X」によって示されている100 %である。図5に示されている機構はこれら2つの極値の中間である。図6に示されている機構は、現在最新の機構のNOx 排出量より少なく、3つの機構の内最も少ない排出量のNOx を生じさせる一方、図4に示されている機構のNOx 排出量レベルは、他の2つの機構のNOx 排出量レベルより実質的に高い。図5に示されている機構はこれら2つの極値の中間である。炭素の捕捉の要件がなく、より高い燃料効率の要件のみがある場合、図4に示されている機構は、3つの機構の中で最も経済的な場合がある。前述したように、図6に示されている機構は最も環境にやさしく、炭素の捕捉に適している場合がある。燃焼空気の導入により、酸素の必要性を著しく低下させることができ、酸素要求率を相対空気流率に応じて100 %から約25%に減らす。図6に示されている機構では、相対酸素流率は100 %であり、図4に示されている機構では、相対酸素流率は約25%である。図5に示されている機構はこれら2つの極値の中間である。相対空気流率は、図4に示されている機構のように部分的な酸素-燃料燃焼での燃焼空気要求率に関する流率であり、約7wt%の酸素注入で、煙道ガスの外部再循環無しで断熱火炎温度を上昇させる。図6に示されている機構では、相対燃焼空気要求率は0%である。図5に示されている機構はこれら2つの極値の中間である。
【0032】
図7は、分解炉システムの第7の実施形態を示す概略図である。分解炉システムのこの実施形態は図6の実施形態に基づいており、従って、燃焼空気を導入せず、酸素を導入する煙道ガス再循環回路が設けられている。炉効率を更に高めるために、ヒートポンプ回路70が分解炉システム40に加えられている。ヒートポンプ回路70は、煙道ガスから熱を回収して、煙道ガスを使用してボイラ給水を予熱するように構成されているため、高圧蒸気の発生量を増やす。ヒートポンプ回路70の熱源は、分解炉システム40の対流部20に設けられた蒸発器コイル77を有している。この蒸発器コイル77は、例えばノックアウトドラムのような蒸気-液体分離装置76に下降管及び上昇管を介して連結されている。例えばブタン、ペンタン又はヘキサンのような有機流体60が、自然循環で下降管を介して蒸発器コイル77に流れ、蒸発器コイル77では煙道ガスから回収された熱によって部分的に蒸発する。有機液体/蒸気の混合物61が、上昇管を介して蒸気-液体分離装置76に還流する。蒸気-液体分離装置76では、有機液体/蒸気の混合物61から蒸気62を分離する。その後、ループ効率を高めるために、混合物61から分離された蒸気62を供給排出物交換器74で過熱する。過熱蒸気63を圧縮器71に送る。この圧縮器71は、圧縮器71の出口での凝縮温度が、ボイラ給水3 を予熱する必要がある温度レベルを十分な差で超えるようなレベルに過熱蒸気63の圧力を上昇させるように構成されている。このため、圧縮器効率の適切な選択が必要である。圧縮器71からの圧縮された高圧蒸気64を凝縮器72で完全に凝縮する。凝縮熱を使用してボイラ給水3 を予熱する。凝縮有機液体65を凝縮液容器73に蓄積する。凝縮液容器73から飽和液体66を供給排出物交換器74に送って過冷却する。過冷却液体67を減圧バルブ75でより低い圧力に急速に蒸発させる。供給排出物交換器74で液体を過冷却すればするほど、この減圧バルブ75の出口での液体留分がより多くなり、ヒートポンプ回路内を循環する有機流体の必要な循環量を減らす。低圧液体蒸気混合物68を蒸気-液体分離装置76に送り、蒸気-液体分離装置76では液体及び蒸気を互いに分離して、ヒートポンプ回路が完成する。
【0033】
蒸発器コイル77がヒートポンプ回路の熱源である場合、凝縮器72はヒートポンプ回路のヒートシンクとみなされ得る。凝縮器72で凝縮する必要のある仕事量は、蒸発器内の煙道ガスから回収される熱、及び圧縮器71の駆動部によって供給される熱の仕事量である。これは、駆動部によって供給されるエネルギーを更に使用して高圧蒸気を発生させることを意味する。圧縮器を駆動する際に熱が失われないので、この熱はループ効率を高める。更に、高性能な圧縮器を選択し、供給排出物交換器74を適用して流率、及び回路内の全ての部品の可能な限り小型の対応する機器寸法を維持することが有益である。連続した分解炉の場合、圧縮器71、凝縮液容器73及び供給排出物交換器74は、この連続した分解炉に備えられ得るように構成され得る。
【0034】
本願に繋がるプロジェクトは、助成金契約第723706号に基づき欧州連合ホライズンH2020 プログラム(H2020-SPIRE-2016)からの資金を受けている。
【0035】
明瞭化及び簡潔な説明のために、特徴は、同一の実施形態又は個別の実施形態の一部として本明細書に記載されているが、本発明の範囲は、記載された特徴の全て又は一部の組み合わせを有する実施形態を包含し得ることが認識される。示された実施形態は、異なっていると記載されている例とは別に、同一の要素又は同様の要素を有すると理解され得る。
【0036】
特許請求の範囲では、括弧内のあらゆる参照符号は、請求項を限定すると解釈されないものとする。「備えている」という文言は、請求項に記載されている特徴又は工程以外の他の特徴又は工程の存在を除外しない。更に、「1つの(a)」及び「1つの(an)」という文言は、「1つのみ」に限定すると解釈されないものとするが、代わりに「少なくとも1つ」を意味すべく使用され、複数を除外しない。ある手段が互いに異なる請求項に記載されているという単なる事実は、これらの手段の組み合わせが利点のために使用され得ないことを示さない。多くの変形例が当業者には明らかである。全ての変形例は、以下の特許請求の範囲に定義されている本発明の範囲内に含まれると理解される。
【符号の説明】
【0037】
1.炭化水素供給原料
2.希釈蒸気
3.ボイラ給水
4.高圧蒸気
5.燃料ガス
6.燃焼空気
7.煙道ガス
8.分解ガス
9a.ボイラ水
9b.部分的に蒸発したボイラ水
10.放射部/炉火室
11.放射コイル
12.底部燃焼器
14.燃焼ゾーン
20.対流部
21.対流バンク
22.供給予熱器
23.高温コイル
24.希釈蒸気過熱器
25.高圧蒸気過熱器
26.ボイラコイル
27.空気予熱器
28.エコノマイザ
30.誘引ファン
31.煙突
33.蒸気ドラム
34.過熱低減器
35.一次移送ライン交換器
36.二次移送ライン交換器
37.押込ファン
40.分解炉システム
50.予熱燃焼空気
51.酸素
52.外部で再利用される煙道ガス
54.煙道ガス分離器
55.煙道ガス放出器
60.有機液体
61.有機液体-蒸気の混合物
62.蒸気
63.過熱蒸気
64.高圧蒸気
65.凝縮有機液体
66.飽和液体
67.過冷却液体
68.低圧液体-蒸気の混合物
70.ヒートポンプ回路
71.圧縮器
72.凝縮器
73.凝縮液容器
74.供給排出物交換器
75.減圧バルブ
76.蒸気-液体分離装置
77.蒸発器コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8