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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】発電制御システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/38 20060101AFI20230111BHJP
   H02J 3/00 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
H02J3/38 130
H02J3/00 130
H02J3/00 170
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021075462
(22)【出願日】2021-04-28
(65)【公開番号】P2022169831
(43)【公開日】2022-11-10
【審査請求日】2021-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】592007601
【氏名又は名称】株式会社コンテック
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】周 建平
【審査官】田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-002932(JP,A)
【文献】国際公開第2016/166836(WO,A1)
【文献】特開2019-054584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00-5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力を消費する負荷と、前記負荷によって消費される電力をシステム外部の外部電源から受電して前記負荷へ供給する受電装置と、前記負荷によって消費される電力を発電する発電装置と、前記発電装置の発電量を制御するパワーコンディショナーと、前記パワーコンディショナーに制御指令を与える制御器と、を有する発電制御システムにおいて、
前記制御器は、
前記負荷の消費電力量を測定し、
特定の時刻およびその時刻までの複数の時刻における消費電力量を含む情報を入力データとして、前記特定の時刻から予め定められた時間経過後における最適な発電量として推論される最適発電量を出力データとして返す発電量推論AIモデルを用いて、前記発電装置の発電量が前記最適発電量以下となるように前記パワーコンディショナーへ制御指令を与え、
ここで、前記発電量推論AIモデルは、前記負荷の過去の消費電力量の実績データに基づいて作成されたAIモデルであること
を特徴とする発電制御システム。
【請求項2】
前記発電量推論AIモデルの作成の基となる実績データが、前記発電装置の過去の発電量を含むものであること
を特徴とする請求項1に記載の発電制御システム。
【請求項3】
前記発電量推論AIモデルは、
前記負荷の過去の消費電力量の実績データについて、特定の時刻およびその時刻までの複数の時刻の消費電力量に対して、前記特定の時刻から予め定められた時間経過後の消費電力量の、予め定められた割合の値を追従目標として学習することによって作成されたAIモデルであること
を特徴とする請求項1または請求項2に記載の発電制御システム。
【請求項4】
前記発電量推論AIモデルが、以下の方策による強化学習によって作成されたものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の発電制御システム:
前記強化学習においては、前記負荷の過去の消費電力量の実績データについて、特定の時刻およびその時刻までの複数の時刻の消費電力量と、前記特定の時刻から予め定められた時間経過後の消費電力量である次回消費電力量と、の対応関係が調べられて、
前記特定の時刻に対して、前記次回消費電力量の予め定められた割合の値が発電制御目標値として定められ、
前記特定の時刻において前記パワーコンディショナーに与える制御指令が、前記予め定められた時間経過後の前記発電装置の発電量である次回発電量が前記発電制御目標値に近くなるものであるほど大きい報酬が得られる、という方策によって報酬付けが行われ、
前記発電量推論AIモデルは、前記報酬付けに基づく強化学習の結果、特定の時刻およびその時刻までの複数の時刻の消費電力量を含む情報の入力データに対して、次回発電量の報酬が最も大きくなるように最適発電量の出力データを返すこととなるように作成される。
【請求項5】
前記報酬付けにおいて、
次回発電量が発電制御目標値と一致するときに最大の報酬が得られるものとし、
次回発電量が発電制御目標値よりも小さい場合には、次回発電量が発電制御目標値に近いほど報酬が大きくなり、次回発電量が小さいほど報酬が小さくなるものとし、
次回発電量が発電制御目標値よりも大きく、かつ次回消費電力量よりも小さい場合には、次回発電量が発電制御目標値に近いほど報酬が大きくなり、次回発電量が次回消費電力量に近いほど報酬が小さくなるものとし、
次回発電量が次回消費電力量よりも大きい場合には、次回発電量が次回消費電力量よりも小さい場合のいずれの場合よりも報酬が小さくなるものとする、
というように報酬が定められること
を特徴とする請求項4に記載の発電制御システム。
【請求項6】
前記発電量推論AIモデルへと入力される入力データに、各時刻における前記発電装置の発電量も含まれること
を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の発電制御システム。
【請求項7】
前記発電量推論AIモデルの作成の基となる前記負荷の過去の消費電力量の実績データが、想定され得る複数の状況を取り入れたシミュレーションによって作成されたデータを含むものであること
を特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の発電制御システム。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池などの発電装置による発電を制御する発電制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電力を消費する負荷を備えた施設においては、電力を確保するために、負荷を商用電力線に接続するだけでなく、負荷によって消費される電力を発電する発電装置(太陽光発電設備など)が設けられていることがある。
【0003】
こうした施設においては、負荷によって消費される分を超えて発電された余剰電力は商用電力線に逆潮流されることになる。施設の運営者(太陽光発電事業者など)が電力会社と売買契約を結んでいれば、余剰電力は電力会社に売電される。
【0004】
しかしながら、電力会社と売買契約を結ぶためには、商用電力線の送電系統に空き容量が残っている必要があり、空き容量が残っていない地域では売買契約を結ばずに発電装置が運用されることになる。
【0005】
ここで、発電装置が例えば太陽光発電や風力発電のような発電電力が変動しやすい方式で発電を行うものである場合には、発電された電力の電圧変動や周波数変動が大きくなる。このような変動の大きい電力は商用電力線で供給される電力の規格に合わないため、逆潮流が起きると商用電力線で供給される電力の品質に影響を及ぼすおそれがある。
【0006】
そのため、電力会社は売買契約を結ばずに発電装置を運用する施設に対しては、逆潮流が起きることのないように求める。具体的には逆電力継電器(RPR:Reverse Power Relay)と呼ばれる機器の設置が求められる。このRPRは発電装置の発電量が過剰な場合に、発電装置の発電を停止させることで逆潮流を防止する。
【0007】
発電装置による発電が停止されている間は、負荷の消費電力の全量が商用電力線から供給されることになるため、施設にとって不利益が生じる。したがって発電装置を有しながらも電力会社との売買契約を結んでいない施設においては、発電装置の発電量を制御して、なるべく逆潮流が発生しないようにすることが望まれる。そうした制御の一例として、特許文献1には、太陽光発電システムの発電量を制御することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許6792272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示されている制御方法においては、複数の時刻の消費電力量から所定時間経過後の消費電力量を予測し、その予測値以下となる発電電力を指定する指令値がパワーコンディショナーへと出力されるようになっている。この方法では、別々の日において予測値を算出する場合に、どちらの日でも予測値の算出基準となる複数の時刻で消費電力量が同様に推移する場合には、どちらの日でも同じ予測値が得られることになる。
【0010】
しかしながら、施設における実際の消費電力量の変動を1日間記録したデータを複数の日について比較してみると、途中までの消費電力量の変動が同様であっても、それ以降の変動が異なる場合がある。例えば電力を消費する負荷に空調機が含まれる場合、午前中に比べて午後の気温が高くなる日と低くなる日とでは、午前中の消費電力量の変動が双方の日で同じであっても、午後の消費電力量の変動が異なることがある。
【0011】
特許文献1において消費電力量が取得される複数の時刻は、午前と午後のような大きな間隔ではなく数秒単位の短い間隔であるが、消費電力量を取得する間隔を短くしても、途中まで同じように消費電力量が変動しながらもその後の変動が異なる場合に対応できないという課題は存在する。この課題は、日が異なる場合だけでなく、負荷が設置されている地域が異なる場合(例えば暖かい地域と寒い地域)にも考慮する必要がある。こうした季節や地域性による影響が、従来の制御方法では反映されない。
【0012】
また特許文献1に開示されている制御方法では、まず消費電力量の予測値を算出してから、その予測値に応じた指令値を算出するため、消費電力量の計測が行われてからパワーコンディショナーへ制御指令が与えられるまでのステップが多くなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明に係る実施形態の一例としての発電制御システムは、電力を消費する負荷と、前記負荷によって消費される電力をシステム外部の外部電源から受電して前記負荷へ供給する受電装置と、前記負荷によって消費される電力を発電する発電装置と、前記発電装置の発電量を制御するパワーコンディショナーと、前記パワーコンディショナーに制御指令を与える制御器と、を有する発電制御システムにおいて、前記制御器は、前記負荷の消費電力量を測定し、特定の時刻およびその時刻までの複数の時刻における消費電力量を含む情報を入力データとして、前記特定の時刻から予め定められた時間経過後における最適な発電量として推論される最適発電量を出力データとして返す発電量推論AIモデルを用いて、前記発電装置の発電量が前記最適発電量以下となるように前記パワーコンディショナーへ制御指令を与え、ここで、前記発電量推論AIモデルは、前記負荷の過去の消費電力量の実績データに基づいて作成されたAIモデルであることを特徴とする。
【0014】
また好ましくは、前記発電量推論AIモデルの作成の基となる実績データが、前記発電装置の過去の発電量を含むものであるとよい。
【0015】
また好ましくは、前記発電量推論AIモデルは、前記負荷の過去の消費電力量の実績データについて、特定の時刻およびその時刻までの複数の時刻の消費電力量に対して、前記特定の時刻から予め定められた時間経過後の消費電力量の、予め定められた割合の値を追従目標として学習することによって作成されたAIモデルであるとよい。
【0016】
また好ましくは、前記発電量推論AIモデルが、以下の方策による強化学習によって作成されたものであるとよい:
前記強化学習においては、前記負荷の過去の消費電力量の実績データについて、特定の時刻およびその時刻までの複数の時刻の消費電力量と、前記特定の時刻から予め定められた時間経過後の消費電力量である次回消費電力量と、の対応関係が調べられて、前記特定の時刻に対して、前記次回消費電力量の予め定められた割合の値が発電制御目標値として定められ、前記特定の時刻において前記パワーコンディショナーに与える制御指令が、前記予め定められた時間経過後の前記発電装置の発電量である次回発電量が前記発電制御目標値に近くなるものであるほど大きい報酬が得られる、という方策によって報酬付けが行われ、前記発電量推論AIモデルは、前記報酬付けに基づく強化学習の結果、特定の時刻およびその時刻までの複数の時刻の消費電力量を含む情報の入力データに対して、次回発電量の報酬が最も大きくなるように最適発電量の出力データを返すこととなるように作成される。
【0017】
また好ましくは、前記報酬付けにおいて、次回発電量が発電制御目標値と一致するときに最大の報酬が得られるものとし、次回発電量が発電制御目標値よりも小さい場合には、次回発電量が発電制御目標値に近いほど報酬が大きくなり、次回発電量が小さいほど報酬が小さくなるものとし、次回発電量が発電制御目標値よりも大きく、かつ次回消費電力量よりも小さい場合には、次回発電量が発電制御目標値に近いほど報酬が大きくなり、次回発電量が次回消費電力量に近いほど報酬が小さくなるものとし、次回発電量が次回消費電力量よりも大きい場合には、次回発電量が次回消費電力量よりも小さい場合のいずれの場合よりも報酬が小さくなるものとする、というように報酬が定められるとよい。
【0018】
また好ましくは、前記発電量推論AIモデルへと入力される入力データに、各時刻における前記発電装置の発電量も含まれる。
【0019】
また好ましくは、前記発電量推論AIモデルの作成の基となる前記負荷の過去の消費電力量の実績データが、想定され得る複数の状況を取り入れたシミュレーションによって作成されたデータを含むものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る実施形態の一例としての発電制御システムによれば、負荷の過去の消費電力量の実績データに基づいて作成された発電量推論AIモデルが用いられる。そのため、出力データとして得られる最適発電量は、わずか数点の時刻の消費電力量から算出されるものではなく、過去の消費電力量の実績データの全てが反映されたものとなる。これにより、この発電制御システムによれば、従来の制御方法よりも適切な最適発電量が得られることとなる。特に、従来の制御方法に比べて、季節や地域性による影響も反映された最適発電量が得られる。
【0021】
そして、パワーコンディショナーへ与えられる制御指令においては、この最適発電量がそのまま発電装置が発電すべき電力量として伝えられるため、従来の制御方法よりも制御指令が与えられるまでのステップが少なくなる。そのため制御器の演算負担が低減され、さらに制御の遅れも低減される。
【0022】
また、前記発電量推論AIモデルの作成の基となる実績データが、発電装置の過去の発電量を含むものであれば、どのような発電量であれば消費電力量を超えないかという推論の精度が高くなり、消費電力量のみを基準に推論するよりも適切な最適発電量が得られる。
【0023】
また、発電量推論AIモデルが、消費電力量の実績データについて、特定の時間から所定時間経過後の消費電力量の、所定割合の値を追従目標として学習することによって作成されたAIモデルであれば、実績データと同様の消費電力量変動に対して、所定時間経過後に消費電力量を超えないような最適発電量が確実に得られるようになる。
【0024】
また、発電量推論AIモデルが、次回発電量の報酬が最も大きくなるように最適発電量の出力データを返すこととなるように強化学習によって作成されたものであれば、実績データに記録されていないような消費電力量変動に対しても、適切な最適発電量が得られるようになる。
【0025】
また、強化学習によって作成された発電量推論AIモデルの報酬付けが、次回発電量、発電制御目標値、次回消費電力量の大小関係に応じて定められたものであれば、様々な消費電力量の変動に対して適切な最適発電量が得られるようになる。特に、次回発電量が次回消費電力量よりも大きい場合の報酬が小さくなるように定められていれば、発電量推論AIモデルが出力する最適発電量が消費電力量を上回ることが防止され、逆潮流の発生を確実に防ぐことが可能となる。
【0026】
また発電量推論AIモデルへと入力される入力データに、各時刻における発電装置の発電量も含まれると、どのような発電量であれば消費電力量を超えないかという推論の精度が高くなり、消費電力量のみを基準に推論するよりも適切な最適発電量が得られる。
【0027】
また、発電量推論AIモデルの作成の基となる負荷の過去の消費電力量の実績データが、想定され得る複数の状況を取り入れたシミュレーションによって作成されたデータを含むものであると、稼働実績のない負荷に関してもシミュレーションによって実績データを用意することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明に係る実施形態の一例としての発電制御システムのブロック図。
図2】強化学習における報酬付けの一例を示す図。
図3】発電量と消費電力量の変動の一例を示すグラフであり、発電量が最適発電量となるように制御が行われる場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<発電制御システム10の全体構成>
図1に、本発明に係る実施形態の一例としての発電制御システム10のブロック図を示す。発電制御システム10は負荷50を有する。負荷50とは発電制御システム10において電力を消費する主体である電気設備や装置をまとめて示したものであり、例えば空調機や照明器具といった、電力によって稼働する機器の集合体である。
【0030】
発電制御システム10には、発電制御システム10外部の外部電源である商用電源60からの電力を受電する受電装置65(受変電設備や分電盤など)が設けられており、負荷50はこの受電装置65に接続されている。これにより、負荷50は受電装置65を介して電力会社からの電力供給を受けることができる。
【0031】
また、発電制御システム10には発電装置としての太陽電池30が設けられている。この太陽電池30は太陽の光を受けることで発電を行う。太陽電池30も受電装置65に接続されており、負荷50は受電装置65を介してこの太陽電池30が発電する電力の供給を受けることもできる。
【0032】
受電装置65は、負荷50が消費する電力量(消費電力量)に対して、太陽電池30の発電量だけでは足りない分を商用電源60から受電する。本実施形態においては、負荷50の消費電力量と、太陽電池30の発電量をそれぞれ測定することが可能になっている。例えば負荷50への電力供給を行う電力線上に設置された電力計などによって、消費電力量を測定することができる。また太陽電池30で発電された電力を他の機器へと供給する電力線上上に設置された電力計などによって、発電量を測定することができる。発電量の測定手段については、太陽電池30に内蔵されていてもよい。ここで、測定手段が他の機器と通信可能に接続されるなどして、消費電力量および発電量の測定値が、他の機器から参照可能なようになっていることが好ましい。
【0033】
太陽電池30と受電装置65との間にはパワーコンディショナー40が接続されている。このパワーコンディショナー40は、太陽電池30が出力する電力について、直流電力を交流電力に変換するなど、負荷50へ供給するのに適した形態に変換する。
【0034】
また、パワーコンディショナー40は太陽電池30の発電量を制御することもできる。例えば従来の最大電力点追従制御により、様々な環境条件(日射量など)に応じて発電電力が最大となるように制御が行われてもよい。
【0035】
その一方で、発電量が大きくなり過ぎると前述の通り逆潮流が発生してしまうおそれがあるため、本実施形態の発電制御システム10には、パワーコンディショナー40に逆潮流防止のための制御指令を与える制御器20(例えばコンピュータ)が設けられている。
【0036】
<制御器20による制御>
この制御器20は、負荷50の消費電力量および太陽電池30の発電量を測定する電力計と通信するなどの方法で、消費電力量および発電量を測定する。そしてその測定結果に応じて、パワーコンディショナー40に太陽電池30の発電量をどのように制御すべきかの制御指令を与える。
【0037】
消費電力量(および発電量)の測定結果に基づいて制御器20からパワーコンディショナー40へ与えられる制御指令は、発電量が指定する値(指定値)以下となるように制御する(抑制する)ことを求めるものとなる。その指定値が、その時点での負荷50の消費電力量以下であれば、発電量が消費電力量以下に抑えられることとなり、逆潮流が防止される。
【0038】
ただし、制御器20が負荷50の消費電力量を測定してからパワーコンディショナー40が制御指令を受け取るまでの間には、測定や通信に要する時間の分ずれ(制御ラグ)が生じる。したがって、制御器20がパワーコンディショナー40へ与える制御指令で指定される値は、消費電力量が測定された時刻(現在時刻)において最も適切な値ではなく、そこからある程度経過した後の時刻における発電量として最も適切な値であることが望ましい。
【0039】
<発電量推論AIモデル25による推論>
そこで、制御器20は、現在時刻から予め定められた時間経過後における発電量として最も適切な値である最適発電量を導く、発電量推論AIモデル25を用いて制御指令における指定値を決定する。これにより、制御器20は、測定が行われた特定の時刻(現在時刻)までの複数の時刻の消費電力量に基づいて、現在時刻から予め定められた時間経過後における太陽電池30の発電量を最適発電量とする制御指令をパワーコンディショナー40へ与えることが可能になる。
【0040】
ここで、発電量推論AIモデル25は、何らかの入力データを受け取ると、その入力データに対応した出力データを返すという、入出力関係を記述したモデルである。具体的には、発電量推論AIモデル25は、1点以上の時刻(例えば現在時刻までの複数の時刻)およびその時刻の消費電力量を入力データとして受け取ると、入力された時刻のうち特定の時刻(例えば現在時刻)から予め定められた時間経過後における最適な発電量として推論される最適発電量を出力データとして返す。
【0041】
この発電量推論AIモデル25は一種の電子情報として構築されており、実体としては例えば制御器20が備える電子情報記憶媒体(ハードディスクやソリッドステートドライブなど)に記録されている。
【0042】
発電量推論AIモデル25の出力データは前述の通り現在時刻から予め定められた時間経過後における最適発電量である。この予め定められた時間(以下、推論時間差とも呼ぶ)というのは、消費電力量の測定から制御指令の発行までのずれ、すなわち制御ラグに相当する時間であることが望ましい。具体的な制御ラグの値は、通信速度などの、発電制御システム10に関する仕様上の数値から算出することが可能である。あるいは、発電制御システム10を実際に稼働させてみて実測することで制御ラグを調べることが可能である。
【0043】
制御ラグは使用する機器の種類によって変動する可能性がある。また推論時間差が制御ラグと必ずしも同一である必要はない。そのため、推論時間差は、必要に応じてユーザー(発電制御システム10の運営者など)による変更が可能である。以下においては簡略化のため、推論時間差を1時間と仮定して説明することがある。
【0044】
本実施形態において、発電量推論AIモデル25は、現在時刻を含む1つ以上の時刻における負荷50に関する消費電力量に基づいて推論時間差経過後の最適発電量を推論する。このような推論を可能とするため、発電量推論AIモデル25は、負荷50に関する過去の消費電力量の実績データに基づいて作成されたものとなっている。
【0045】
<消費電力量の実績データについて>
過去の消費電力量の実績データとは、過去に負荷50が稼働した際に、その負荷50を含む発電制御システム10がどの時刻に、負荷50がどれだけの消費電力量を必要としたか、の情報を一組の例示データとして、複数の例示データが蓄積されたものである。ここで、発電制御システム10の含む負荷50が複数の機器の集合体である場合には、それぞれの機器に関する複雑な消費電力量の変動が総合されて、実績データとしては1まとまりの実体による消費電力量の変動として記録されている。また季節や祝祭日による消費電力量の変動も実績データに反映されている。また長いスパンの消費電力量の実績データには、そのデータが採取された際に負荷50が設置されていた地域の経緯度データすなわち地理情報や、気温、湿度、気圧などの気象データが反映されている。すなわち言い換えると、消費電力量の実績データには、負荷50が全体としてどのような条件下でどれだけの電力量を消費するか、が記録されている。
【0046】
<消費電力量の実績データに基づく学習>
こうした消費電力量の実績データに基づいてどのように発電量推論AIモデル25が作成されるかについて説明する。基本的には、まず特定の時刻(例えば現在時刻)およびその時刻までの複数の時刻の消費電力量と、そこから予め定められた時間(ここでは推論時間差)経過後の消費電力量である次回消費電力量と、の対応関係が調べられる。そして、推論時間差経過後の発電量である次回発電量が、次回消費電力量よりも小さく、かつできるだけ次回消費電力量に近い値となるような最適発電量を出力できるようにすることを目標として学習が行われる。
【0047】
具体的な学習方法の一例としては、実績データ内の現在時刻およびそれまでの複数の時刻の消費電力量に対して、推論時間差経過後の消費電力量(次回消費電力量)の所定割合(予め定められた割合、例えば90%)の値が追従目標として定められる、という学習方法が挙げられる。これにより、現在時刻までの消費電力量の変動と、追従目標と、の対応関係に基づく発電量推論AIモデル25が作成される。こうして作成された発電量推論AIモデル25は、現在時刻までの消費電力量の変動を入力データとして受け取ると、次回消費電力量の所定割合に近い値を最適発電量として出力できるようになる。
【0048】
<強化学習>
さらに精度のよい発電量推論AIモデル25が得られることが期待される学習方法として、消費電力量の実績データに基づく強化学習を行うという学習方法が挙げられる。ここでいう強化学習とは、学習の過程において構築途上のAIモデルが入力に対する出力を返した際に、その出力の妥当性に応じて報酬が与えられるという条件下で学習が行われることにより、AIモデルはできるだけ大きな報酬が得られるような出力を返すようになる、というものである。本実施形態においては、現在時刻(特定の時刻)に対して、次回消費電力量の予め定められた割合の値が発電制御目標値として定められる。そして、現在時刻においてパワーコンディショナー40に与える制御指令が、推論時間差経過後の太陽電池30の次回発電量が発電制御目標値に近くなるものであるほど大きい報酬が得られる、という方策によって報酬付けが行われる。こうした報酬付けの条件下で学習が行われることで、発電量推論AIモデル25は、現在時刻までの消費電力量を入力データとして受け取ると、それに対して最も大きな報酬が得られることが期待される値を最適発電量として出力するようになる。
【0049】
<強化学習における報酬付け>
この強化学習における報酬付けについて、詳しく説明する。まず、前述のように現在時刻に対する発電制御目標値が定められる。すなわち、過去の実績データに次の時刻(次回)の消費電力データがあるので、そのデータの所定割合(予め定められた割合、例えば90%)の値を発電制御目標値として定める。そして、構築途上のAIモデルが現在時刻までの消費電力量の入力に対して出力する次回発電量が発電制御目標値にどれだけ近いかに応じてAIモデルに報酬が与えられる。
【0050】
図2に、消費電力量の実績データにおける次回消費電力量と、それに応じた発電制御目標値と、構築途上のAIモデルが出力する次回発電量と、それに対する報酬の大小(報酬付け)の一例をグラフとして示す。実際の実績データは複雑な変動をするグラフとなるが、図2においては、強化学習における報酬付けの傾向を説明するために、単純化されたグラフが示されている。
【0051】
前述の通り、次回消費電力量の予め定められた割合(ここでは90%)の値が発電制御目標値として定められる。構築途上のAIモデルが出力する次回発電量が発電制御目標値と一致するときに最大の報酬が得られる。次回発電量が発電制御目標値よりも小さい場合には、次回発電量が発電制御目標値に近いほど報酬が大きくなる一方で、次回発電量が小さいほど報酬が小さくなる。そして、次回発電量が発電制御目標値よりも大きく、かつ次回消費電力量よりも小さい場合には、次回発電量が発電制御目標値に近いほど報酬が大きくなり、次回発電量が次回消費電力量に近いほど報酬が小さくなる。
【0052】
ところで、本実施形態の発電制御システム10は逆潮流を防ぐことを目的とするものであるので、逆潮流が発生することは絶対に避けることが望まれる。そのため、次回発電量が次回消費電力量よりも大きくなってしまった場合には、他のあらゆる場合よりも(次回発電量が次回消費電力量よりも小さい場合のいずれの場合よりも)報酬を小さくするべきである。図2においては、次回発電量が次回消費電力量よりも大きい場合には、報酬がマイナスとなるようになっている。このような報酬付けによる強化学習で作成された発電量推論AIモデル25は、次回発電量が発電制御目標値にできるだけ近い値となるように最適発電量を出力しつつも、次回発電量が次回消費電力量を上回ることだけは確実に避けるようになる。
【0053】
<消費電力量の実績データの蓄積と発電量推論AIモデル25の作成>
こうした実績データの蓄積と発電量推論AIモデル25の作成は、発電制御システム10を実際に稼働させて行うことができる。すなわち、稼働中の発電制御システム10における負荷50の消費電力量を時系列に沿って24時間(または発電制御システム10の稼働時間帯)にわたって記録することにより、1日分の実績データが蓄積される。そうして蓄積された実績データを基にして、前述の強化学習を行うことにより、発電量推論AIモデル25の構築が可能である。この発電量推論AIモデル25の構築は制御器20に備えられた電子演算器で行うことができる。消費電力量の実績データが長期間(好ましくは1年以上)にわたって蓄積されることで、季節要素も含んだ形の発電量推論AIモデル25が得られる。一方、消費電力量の実績データの蓄積期間が1日だけであっても、発電制御システム10における消費電力量の動きの特性が十分に記録されているため、それを基に発電量推論AIモデル25を作成することは可能である。
【0054】
また、発電制御システム10とは別の場所で消費電力量の実績データの蓄積と発電量推論AIモデル25の構築を行うことも可能である。例えば稼働予定の発電制御システム10に似せた環境の試験用システムを用意して、その試験用システムを稼働させることで実績データの蓄積を行うことができる。また、消費電力量の実績データから発電量推論AIモデル25を作成する際には、制御器20とは別の場所に設けられた高性能の演算器(例えばスーパーコンピュータ)が用いられてもよい。
【0055】
<シミュレーションによるデータの作成>
前述のように、実績データの蓄積は発電制御システム10を実際に稼働させることで行うことができるが、未だ稼働していない発電制御システム10について発電量推論AIモデル25による制御を行う場合などには、シミュレーションによりデータが作成されてもよい。すなわち、発電制御システム10に含まれる負荷50と、太陽電池30を実際に稼働させると、どのような消費電力量の変動および発電量の変動が生じるかについてシミュレーションを行って、その結果を実績データとすることができる。このシミュレーションにあたっては、実際に一年以上稼働させて得られる年間データと遜色ない品質のデータが得られるように、気象変動、平日と祝祭日、繁雑期、閑散期など想定され得る様々な(複数の)状況を取り入れたシミュレーションが行われることが好ましい。
【0056】
<発電量推論AIモデル25による推論の詳細>
このようにして消費電力量実績データを基に作成された発電量推論AIモデル25は、負荷50に関する消費電力量について、現在時刻までの複数点の消費電力量を入力データとして、その条件下で推論される推論時間差経過後の最適発電量を出力することができる。ここで必要に応じて、入力データには現在の日付や、現在負荷50が設置されている場所の地理情報、そして気象データなどを含めることができる。
【0057】
入力データを受けた発電量推論AIモデル25は、現在時刻から推論時間差経過後の最適発電量を出力データとして返す。最適発電量を得た制御器20は、その最適発電量をそのまま指定値としてパワーコンディショナー40へ制御指令を与える。
【0058】
最適発電量は、推論時間差経過後の消費電力量を超えず、かつ発電制御目標に近い値となるように出力されるため、本実施形態の発電制御システム10においては、太陽電池30の発電量が消費電力量を上回ることのないように制御される。すなわち、発電量が消費電力量を上回ることはなくなり、逆潮流の発生が防止される。
【0059】
本実施形態の発電制御システム10により発電量の制御が行われた場合の発電量と消費電力量の変動の一例を図3にグラフとして示す。図3に示す通り、発電量が発電量推論AIモデル25の出力する最適発電量となるように制御が行われることにより、発電量は消費電力量に近い推移を辿りながらも、消費電力量を超えることはないようになっている。なお、制御器20がパワーコンディショナー40へ与える制御指令は、発電量が「最適発電量以下」となるように指示するものであればよく、実際の発電量は必ずしも最適発電量と一致しなくともよい。図3に示す通り、夜間などに日光の照射量が足りず十分な発電が行なえない時間帯には、実際の発電量は最適発電量よりも小さくなる。
【0060】
<本実施形態の発電制御システム10全体について>
本実施形態の発電制御システム10において、発電量推論AIモデル25からは季節性、祝祭日なども考慮された最適発電量が得られる。またこれにより、当日(現在の日付)における消費電力量の変動が現在時刻の時点までは過去の複数の日における変動と一致していたとしても、当日の日付に応じた最適な最適発電量が得られる。特に発電量推論AIモデル25の基となった過去の消費電力量の実績データが、負荷50の稼働時間帯における各時刻と消費電力量との対応関係の時系列データが一年間以上にわたって測定された年間データであるならば、一年間のどの日付についても適切な最適発電量が得られる。
【0061】
また、発電量推論AIモデル25の作成の基となる過去の消費電力量の実績データは、負荷50が複数の機器の集合体である場合には、それぞれの機器による複雑な消費電力量の変動が総合されて記録されていることになる。このような実績データが用いられることにより、最適発電量の出力のためには発電制御システム10全体の消費電力量のみが入力されればよく、個別の機器のデータを一つ一つ測定する必要はなくなる。またこの実績データが前述の年間データであれば、これを基に作成される発電量推論AIモデル25は季節の影響や平日と祝祭日との違いなども考慮されたモデルとなる。そのため、最適発電量の出力のために今日が夏場か冬場か、祝祭日であるか否かなどの細かいパラメータを入力する必要はなく、そうした季節性や祝祭日の影響も含めた形での出力データが得られる。
【0062】
以上の実施の形態においては簡略化のために1時間後の最適発電量の推論を行う場合について説明したが、制御ラグは長くても数秒単位であるので、実際の推論時間差としては1秒単位またはさらに短い時間(例えば1ミリ秒)が用いられるとよい。また現在の消費電力量の測定および最適発電量による制御指令の発行は、推論時間差と同程度の時間周期(例えば1秒ごと)に行われることが望ましい。
【0063】
また、制御器20が負荷50の消費電力量を短い時間周期(例えば1ミリ秒単位)で測定し、その測定結果に応じて、パワーコンディショナー40への制御指令を発行するようにしてもよい。
【0064】
以上の実施の形態においては負荷50の過去の消費電力量の実績データに基づいて発電量推論AIモデル25が作成されているが、この実績データに太陽電池30の過去の発電量のデータが含まれていてもよい。また、以上の実施の形態においては測定した負荷50の消費電力量に基づいて最適発電量の推論が行われているが、これに加えて太陽電池30の発電量の測定が行われてもよい。すなわち、追従目標を定める学習または強化学習において、特定の時刻(現在時刻)およびその時刻までの複数の時刻における消費電力量と発電量の組み合わせに対して、推論時間差経過後の時刻における最適発電量がどのような値になるかを学習することで発電量推論AIモデル25が作成されるとよい。このようにして作成された発電量推論AIモデル25は、現在時刻までの複数の時刻における消費電力量が入力データとして与えられた場合に最適発電量の出力データを返すだけでなく、入力データに測定された発電量が含まれていれば、より適切な最適発電量を返すことが可能となる。
【0065】
以上の実施の形態においては発電装置として太陽電池30を示したが、本発明はこれに限るものではなく、様々な形態の発電に適用することができる。例えば風力発電機、地熱発電機などによる発電についても本発明を利用することができる。
【符号の説明】
【0066】
10 発電制御システム
20 制御器
25 発電量推論AIモデル
30 太陽電池
40 パワーコンディショナー
50 負荷
60 商用電源
65 受電装置
図1
図2
図3