(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】L-2-ヒドロキシグルタル酸及びストレス誘発性代謝
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20230111BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20230111BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20230111BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230111BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230111BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20230111BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230111BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230111BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230111BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230111BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20230111BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20230111BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230111BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230111BHJP
A61P 41/00 20060101ALI20230111BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230111BHJP
A61K 31/194 20060101ALI20230111BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230111BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20230111BHJP
A61K 31/225 20060101ALI20230111BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C12Q1/02
A61P9/10
A61P7/06
A61P31/04
A61P11/00
A61P29/00
A61P9/00
A61P7/02
A61P11/06
A61P37/06
A61P35/00
A61P41/00
A61P43/00 105
A61K31/194
A61K45/00
A61K31/198
A61K31/225
A61K49/00
(21)【出願番号】P 2021159462
(22)【出願日】2021-09-29
(62)【分割の表示】P 2017502940の分割
【原出願日】2015-03-27
【審査請求日】2021-10-28
(32)【優先日】2014-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500213834
【氏名又は名称】メモリアル スローン ケタリング キャンサー センター
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー エム. イントルコファー
(72)【発明者】
【氏名】クレッグ ビー. トンプソン
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/075065(WO,A1)
【文献】特表2013-506833(JP,A)
【文献】国際公開第2013/086365(WO,A2)
【文献】Rakheja, D. et al.,Papillary thyroid carcinoma shows elevated levels of 2-hydroxyglutarate,Tumor Biology,Springer,2010年11月16日,Vol.32,pp.325-333
【文献】STRUYS, E.A. et al.,Measurement of Urinary D- and L-2-Hydroxyglutarate Enantiomers by Stable-Isotope-Dilution Liquid Chromatography-Tandem Mass Spectrometry after Derivatization with Diacetyl-L-Tartaric Anhydride,Clinical Chemistry,2004年08月01日,Vol.50/No.8,pp.1391-1395
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低酸素を処置する方法に使用するための、L-2-ヒドロキシグルタル酸((S)-2-ヒドロキシグルタル酸または「L-2HG」)代謝を調節する薬剤を含む組成物であって、前記組成物は、
対象から得られた細胞を含有する生物学的試料中で測定されたL-2HGのレベルが
、正常酸素状態と相関する細胞を含有する対照
生物学的試料
中で測定されたL-2HGのレベルと有意に異なる対象に投与される、組成物。
【請求項2】
L-2HG代謝を調節する前記薬剤が、α-ケトグルタル酸、グルタミンおよびグルタミン酸からなる群より選択される、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
前記組成物が、α-ケトグルタル酸の細胞透過性変異体を含む、請求項2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
前記組成物が、α-ケトグルタル酸ジメチルを含む、請求項3に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
前記対象
から得られた細胞を含有する前記生物学的試料が、前記対照
生物学的試料と比較して少なくとも2倍上昇したL-2HGのレベルを有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
前記対象
から得られた細胞を含有する前記生物学的試料が、前記対照
生物学的試料と比較して、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、または少なくとも10倍上昇したL-2HGのレベルを有する、請求項5に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
L-2HGの前記レベルが、質量分析、ガスクロマトグラフィー質量分析、液体クロマトグラフィー質量分析または酵素アッセイによって測定される、請求項1~
6のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
L-2HGの前記レベルが、血液、尿、血清、リンパ
または脳脊髄液から
得られた細胞を含有する生物学的試料中で測定される、請求項1~
7のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
低酸素誘発性傷害を処置するために有用な薬剤を同定するまたは特徴づける方法であって、
i)対象となる細胞
を含有する生物学的試料、
または、対象となる組織または生体
から得られた細胞を含有する
生物学的試料を前記薬剤と接触させることと;
ii)前記薬剤と接触させた前記
生物学的試料を、キラル誘導体化剤と接触させることと;
iii)前記薬剤が存在するときの前記
生物学的試料中のL-2HGのレベルを、前記薬剤が不在のとき、または、前記対象となる細胞、組織または生体におけるL-2HGレベルに及ぼすその効果が知られている基準薬が存在するときと比較して測定することと;
iv)前記薬剤が存在するときに測定された前記L-2HGレベルが、前記薬剤が不在のときより高い場合、または、L-2HGレベルを増加させると知られている基準薬が存在するときに測定されたL-2HGレベルと類似する場合、またはL-2HGレベルを増加させないと知られている基準薬が存在するときに測定されたL-2HGレベルを上回る場合に、低酸素誘発性傷害の前記処置において前記薬剤が有用であると決定することと
を含む、方法。
【請求項10】
前記低酸素誘発性傷害が、敗血症性ショック、虚血性脳卒中、心筋梗塞、貧血症、肺疾患、気道閉塞、急性呼吸窮迫症候群、肺炎、気胸症、肺気腫、先天性心臓欠陥、アテローム性動脈硬化症、血栓症、肺塞栓症、肺水腫、喘息、膿胞性線維症、癌および外科的処置から選択される低酸素に関連する疾患、障害または病態を含む、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
前記薬剤が、小分子、抗体、抗体断片、アプタマー、核酸、ペプチド、またはペプチド模倣物である、請求項
9または請求項1
0に記載の方法。
【請求項12】
L-2HGの前記レベルが、質量分析、ガスクロマトグラフィー質量分析、液体クロマトグラフィー質量分析または酵素アッセイによって測定される、請求項
9~1
1のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記
生物学的試料が、心臓、動脈、脳、腫瘍またはこれらの組み合わせに由来する
組織から得られた細胞を含有する、請求項
9~1
2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記低酸素
誘発性傷害が慢性
低酸素状態と関連付けられる、請求項
9~1
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記
生物学的試料が、血液、尿、血清、リンパ
または脳脊髄液から
得られた細胞を含有する、請求項
9~1
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記
生物学的試料が血液試料
から得られた細胞を含有する、請求項1
5に記載の方法。
【請求項17】
前記血液試料が静脈血試料である、請求項1
6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本特許出願は、任意の及び全ての目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込
まれる、2014年3月28日に出願された米国仮特許出願第61/972,091号の
利益及びそれに対する優先権を主張する。
【0002】
政府支援
合衆国法典第35巻第202条(c)(6)に従い、本明細書に記載または特許請求す
る1つまたは複数の発明に関し、出願人は、本発明が、アメリカ国立衛生研究所による補
助金交付番号R01 CA168802-02の下に政府支援を伴って作成されたことを
述べる。米国政府は、本発明にある特定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
ストレス、例えば、低酸素、感染、飢餓、温度、毒性等は、細胞の代謝に著しい影響を
及ぼし、主要な疾患に寄与する。例えば、大半の細胞は、生存及びそれらの機能を実行す
るために酸素を必要とし、低酸素は細胞の代謝経路に影響を及ぼし、しばしば低酸素誘発
性傷害を引き起こす。ストレスに対する細胞応答の研究における新たな発展は、ストレス
誘発性傷害を必然的に含む障害へに対するより良好な処置に導くだろう。ストレスに関連
する疾患を処置するための組成物またはシステムの開発を目的とした多くの努力がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示は、L-2HGが組織低酸素において重要な役割を担うという認識を包含する。
本開示は、他の出願のなかでも、L-2HGを、組織低酸素を診断するためのバイオマー
カーとして使用することができることを実証する。いくつかの実施形態では、本開示は、
例えば、対象から採取された試料から細胞のL-2HGを測定することにより、組織低酸
素を診断するためのシステムを記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、対象から
のL-2HGのレベルを、正常酸素状態の対照対象からのものと比較することができるこ
とを記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、対象からのL-2HGのレベルを、
急性低酸素または慢性低酸素を有する患者からのものと比較することができることを記載
する。いくつかの実施形態では、本開示は、これらの異なる試料からのL-2HGの比較
が、対象における低酸素を診断するために使用され得ることを記載する。いくつかの実施
形態では、本開示は、試料の低酸素状態は、L-2HGレベルを測定することにより確認
され得ることを記載する。
【0005】
あるいはまたは加えて、本開示は、患者において低酸素誘発性傷害を診断することを記
載する。症候性または亜症候性(sub-symptomatic)でない低酸素誘発性
傷害は、臨床的に診断することがしばしば難しい。本開示に従って試料からL-2HGレ
ベルを測定することは、対象における低酸素誘発性傷害についての指標を与え得る。いく
つかの実施形態では、本開示は、例えば、対象から採取した試料からの細胞のL-2HG
を測定することにより組織低酸素を診断するためのシステムを記載する。いくつかの実施
形態では、試料は、例えば、血液試料または生検試料であり得る。いくつかの実施形態で
は、本開示は、対象からのL-2HGのレベルを、正常酸素状態の対照対象からのものと
比較することができることを記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、対象からの
L-2HGのレベルを、急性低酸素または慢性低酸素を有する患者からのものと比較する
ことができることを記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、これらの異なる試料
からのL-2HGの比較が、対象における低酸素誘発性傷害を診断するために使用され得
ることを記載する。
【0006】
本開示は、L-2HGが、低酸素または低酸素誘発性傷害を診断するための単一の代謝
産物として使用され得ることを記載する。あるいはまたは加えて、本開示は、それにより
L-2HGを、診断のためにより広範なセットのバイオマーカーに統合することができる
方法を代替的にまたは追加的に記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、診断にお
いてバイオマーカーセットの一部としてL-2HGを使用する方法を記載する。例えば、
いくつかの実施形態では、本開示は、対象からの試料中の少なくとも2つのバイオマーカ
ーを測定する方法を記載し、ここで少なくとも2つのバイオマーカーのうちの1つはL-
2HGである。
【0007】
本開示は、L-2HGが、低酸素に関連する診断及び治療のための新規及び信頼できる
因子であることを記載する。あるいはまたは加えて、いくつかの実施形態では、本開示は
、L-2HG代謝を制御するある特定の酵素、例えば、LDHA、MDH1、MDH2、
及びL-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼが、L-2HGを制御するメカニズ
ムを記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、これらの酵素の調節は、予測可能な
様式でL-2HGのレベルに影響を与え得ることを実証する。いくつかの実施形態では、
本開示は、低酸素に関連する診断及び治療のためにこれらの酵素を調節するためのシステ
ムを記載する。
【0008】
いくつかの実施形態では、本開示は、試料中の酸素レベルの測定に従い、低酸素の診断
を記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、低酸素が他の方法を介して診断するこ
とができることを記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、慢性低酸素におけるL
-2HGの使用を記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、急性低酸素におけるL
-2HGの使用を記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、慢性または急性のいず
れかの、低酸素の根本的原因により引き起こされた低酸素におけるL-2HGの使用を記
載する。
【0009】
いくつかの実施形態では、本発明に従って、本明細書に記載するような1つまたは複数
の低酸素マーカーが、例えば、低酸素または低酸素に関連する疾患、障害、もしくは病態
を、診断するまたは処置する文脈において、検出または測定される。
【0010】
いくつかの実施形態では、低酸素に関連する疾患、障害または病態は、例えば、敗血症
性ショック、虚血性脳卒中、心筋梗塞、貧血症、肺疾患、気道閉塞、急性呼吸窮迫症候群
、肺炎、気胸症、肺気腫、先天性心臓欠陥、アテローム性動脈硬化症、血栓症、肺塞栓症
、肺水腫、喘息、膿胞性線維症、癌、ならびに外科的処置中であるか、これを含む。
【0011】
本開示は、低酸素または低酸素誘発性傷害の処置において有用である薬剤を同定するま
たは特徴づけるためのシステムを記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、ある特
定の新規パラメータが低酸素において重要な役割を担う可能性があることを記載する。例
えば、いくつかの実施形態では、このパラメータは、L-2HGのレベルまたは動態であ
るかまたはこれからなる。いくつかの実施形態では、このパラメータは、α-ケトグルタ
ル酸のレベルまたは動態であるかまたはこれからなる。いくつかの実施形態では、このパ
ラメータは、LDHAのレベルまたは活性であるかまたはこれからなる。いくつかの実施
形態では、このパラメータは、LDHAのレベルまたは活性であるかまたはこれからなる
。いくつかの実施形態では、このパラメータは、MDH1のレベルまたは活性であるかま
たはこれからなる。いくつかの実施形態では、このパラメータは、MDH2のレベルまた
は活性であるかまたはこれからなる。いくつかの実施形態では、このパラメータは、L-
2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼのレベルまたは活性であるかまたはこれから
なる。
【0012】
いくつかの実施形態では、本開示は、L-2HGを使用することにより低酸素または低
酸素誘発性傷害の処置において有用である薬剤を同定するまたは特徴づけるためのシステ
ムを記載する。例えば、細胞、組織または生体中のL-2HGのレベルは、薬剤が不在の
ときまたは組織もしくは生体中のL-2HGレベルへの影響が知られている基準薬が存在
するときと比較して、薬剤が存在するときに測定することができる。いくつかの実施形態
では、薬剤が存在するときに測定されたL-2HGレベルが、それが不在のときのものよ
り高い場合、L-2HGを増加させると知られている基準薬が存在するときに測定された
ものと類似する場合、L-2HGを増加させないと知られている基準薬が存在するときに
測定されたものを超える場合に、薬剤は、低酸素誘発性傷害の処置において有用であると
同定されるまたは特徴づけられる。
【0013】
本開示は、例えば低酸素または低酸素誘発性傷害を診断することまたは処置することを
伴う、L-2HGレベルに対して比較することができるパラメータを記載する。一例をあ
げると、いくつかの実施形態では、本開示は、L-2HGレベルが正常酸素状態の基準対
象のものと比較して上昇している対象へ低酸素治療を施すことによる低酸素の処置を記載
する。いくつかの実施形態では、L-2HGのレベルの上昇は、正常酸素状態の対象につ
いて観察されるものと比較して、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少
なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、少
なくとも10倍であるか、またはさらに高い。
【0014】
いくつかの実施形態では、本開示は、患者集団を(例えば、低酸素治療での処置に対す
るそれらの候補性に関して)層別化するため、または1つまたは複数の対象に施したとき
の特定の治療の有効性をモニターするまたは調節するための技術を提供する。
【0015】
いくつかの実施形態では、低酸素治療は、例えば、酸素補充療法、赤血球濃厚液の輸血
、カフェイン、ビタミン療法、機械的換気、陽圧療法、身体運動、または外科的介入であ
ってよいかまたはこれを含んでよい。
【0016】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載するような低酸素マーカーは、患者試料中で
測定される。いくつかの実施形態では、試料は、例えば、心臓、動脈、脳、腫瘍、または
それらの組み合わせからの組織試料であってよいかまたはこれを含んでよい。いくつかの
実施形態では、試料は、血液、尿、血清、リンパまたは脳脊髄液であってよいかまたはこ
れを含んでよい。いくつかの実施形態では、試料は、静脈血試料であってよいかまたはこ
れを含んでよい。
【0017】
いくつかの実施形態では、本開示は、低酸素または低酸素誘発性傷害を処置するための
新規システムを記載する。いくつかの実施形態では、傷害は、低酸素に関連する疾患、障
害もしくは病態を有する患者からの症状であるかまたはこれを含む。いくつかの実施形態
では、傷害は、虚血性組織傷害であるかまたはこれを含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、本開示は、組織中のまたは系統的にL-2HGレベルを調節
する治療を記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、対象においてL-2HGのレ
ベルを増加させる治療を記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、対象においてL
-2HGのレベルを低減させる治療を記載する。
【0019】
いくつかの実施形態では、本開示は、L-2HG代謝を調節する薬剤を含む組成物の投
与を含む治療を記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、組織への送達を達成する
経路を介した対象への組成物の投与を含む治療を記載する。
【0020】
いくつかの実施形態では、本開示は、L-2HGであるかまたはこれを含む薬剤を含む
組成物の投与を含む治療を記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、L-2HGの
アンタゴニストであるかまたはこれを含む薬剤を含む組成物の投与を含む治療を記載する
。
【0021】
いくつかの実施形態では、本開示は、限定されないが、α-ケトグルタル酸、α-ケト
グルタル酸の細胞透過性変異体(例えば、α-ケトグルタル酸ジメチル)、グルタミン、
またはグルタミン酸塩を含む組成物を投与することを含む治療を記載する。いくつかの実
施形態では、本開示は、α-ケトグルタル酸のアンタゴニストであるかまたはこれを含む
薬剤を含む組成物の投与を含む治療を記載する。
【0022】
いくつかの実施形態では、本開示は、LDHA、MDH1、MDH2、及びL-2-ヒ
ドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼからなる群より選択される1つまたは複数の分子の
発現または活性に影響を及ぼす薬剤を含む組成物の投与を含む治療を記載する。いくつか
の実施形態では、本開示は、組織への送達を達成する経路を介した対象へのLDHAの阻
害剤の投与を含む治療を記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、L-2-ヒドロ
キシグルタル酸デヒドロゲナーゼのアクチベーターの投与を含む治療を記載する。
【0023】
いくつかの実施形態では、本開示は、低酸素病態を適用することを必然的に含む用途を
記載する。例えば、低酸素は、幹細胞または前駆細胞の多能性を維持するなどのいくつか
の状況では望ましい可能性がある。いくつかの実施形態では、本開示は、低酸素の恩恵を
受けることができる対象において組織低酸素を促進するためのシステムを記載する。
【0024】
いくつかの実施形態では、本開示は、L-2HGレベルが正常酸素状態の対象と比較し
て低い対象において組織低酸素を促進するためのシステムを記載する。いくつかの実施形
態では、本開示は、L-2HGレベルが正常酸素状態の基準対象と比較して、最大で50
%である対象において組織低酸素を促進するためのシステムを記載する。いくつかの他の
実施形態では、本開示は、L-2HGレベルが正常酸素状態の基準対象と比較して、最大
で40%、最大で30%、最大で20%、最大で10%、または最大で5%である対象に
おいて組織低酸素を促進するためのシステムを記載する。
【0025】
いくつかの実施形態では、本開示は、細胞、組織または生体の多能性または自己複製を
維持するまたは促進するための組成物またはシステムを記載する。いくつかの実施形態で
は、これらの組成物またはシステムは、インビボで使用するためのものである。いくつか
の実施形態では、これらの組成物及びシステムは、インビトロで使用するためのものであ
る。
【0026】
いくつかの実施形態では、本開示は、細胞の多能性または自己複製を維持するまたは促
進するための組成物またはシステムを記載する。いくつかの実施形態では、細胞は、幹細
胞または前駆細胞である。いくつかの実施形態では、これらの組成物またはシステムは、
細胞中のL-2HGのレベルを調節することを含む。いくつかの実施形態では、本開示は
、細胞をL-2HGと接触させることを含む、L-2HGのレベルを調節するための組成
物またはシステムを記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、L-2-ヒドロキシ
グルタル酸デヒドロゲナーゼ活性または発現を阻害するための組成物またはシステムを記
載する。いくつかの実施形態では、本開示は、LDHA活性または発現を促進するための
組成物またはシステムを記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、MDH1または
MDH2活性または発現を促進するための組成物またはシステムを記載する。いくつかの
実施形態では、本開示は、L-2HGを細胞に送達するための方法を記載する。いくつか
の実施形態では、本開示は、細胞中のα-ケトグルタル酸を枯渇させるための方法を記載
する。いくつかの実施形態では、細胞または組織の多能性または自己複製を維持するまた
は促進するために使用することができる方法は、細胞培養または組織培養に適用される。
【0027】
いくつかの実施形態では、本開示は、L-2HGの枯渇が細胞分化を促進することを記
載する。いくつかの実施形態では、本開示は、幹細胞分化を促進するためのシステムを記
載する。いくつかの実施形態では、これらのシステムは、幹細胞または前駆細胞を有効量
のLDHAの阻害剤と接触させることを含む。いくつかの実施形態では、これらのシステ
ムは、幹細胞または前駆細胞を有効量のL-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ
のアクチベーターと接触させることを含む。いくつかの実施形態では、細胞は、癌幹細胞
である。
【0028】
いくつかの実施形態では、本開示は、L-2HG代謝におけるLDHAの重要性を記載
する。いくつかの実施形態では、本開示は、LDHA活性の阻害に有用な薬剤を同定する
または特徴づけるための方法を記載する。いくつかの実施形態では、本方法は、薬剤を、
LDHAを発現する細胞を含有する試料またはLDHAを含有する無細胞溶液と接触させ
ること、その後薬剤が存在するときの試料中のL-2HGのレベルを、それが不在のとき
、または試料中のL-2HGに及ぼすその効果が知られている基準薬が存在するときと比
較して測定すること、及び薬剤が存在するときの測定されたL-2HGレベルが、それが
不在のときのものより低い場合、L-2HGを低減させると知られている基準薬が存在す
るときに測定されたものと類似する場合、またはL-2HGを増加させないと知られてい
る基準薬が存在するときに測定されたものより低い場合に、LDHA活性の阻害において
薬剤が有用であると決定することを含む。
【0029】
いくつかの実施形態では、本開示は、L-2HG代謝におけるL-2-ヒドロキシグル
タル酸デヒドロゲナーゼの重要性を記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、L-
2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性の促進に有用な薬剤を同定するまたは特
徴づけるための方法を記載する。いくつかの実施形態では、本方法は、薬剤を、L-2-
ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼを発現する細胞を含有する試料またはL-2-ヒ
ドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼを含有する無細胞溶液と接触させること、薬剤が存
在するときの試料中のL-2HGのレベルを、それが不在のときまたは試料中のL-2H
Gに及ぼすその効果が知られている基準薬が存在するときと比較して測定すること、及び
薬剤が存在するときの測定されたL-2HGレベルが、それが不在のときのものより高い
場合、L-2HGを増加させると知られている基準薬が存在するときに測定されたものに
類似する場合、またはL-2HGを低減させないと知られている基準薬が存在するときに
測定されたものより高い場合に、L-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性の
促進において薬剤が有用であると決定することを含む。
【0030】
いくつかの実施形態では、本開示は、L-2HG代謝が、細胞のエピジェネティックな
変化に密接につながっているという新規知見を記載する。例えば、本開示は、L-2HG
蓄積がヒストンのメチル化を促進することを記載する。いくつかの実施形態では、ヒスト
ンのメチル化は、ヒストン3リジン9のトリメチル化(H3K9me3)を含む。いくつ
かの実施形態では、本開示は、細胞を、L-2HGを含む組成物、LDHAのアクチベー
ター、L-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼの阻害剤、またはそれらの組み合
わせと接触させることを含む、細胞中でヒストンのメチル化を促進するためのシステムを
記載する。一方で、いくつかの他の実施形態では、本開示は、細胞を、α-KGを含む組
成物、LDHAの阻害剤、またはL-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼのアク
チベーターと接触させることを含む、細胞中でヒストンのメチル化を阻害するためのシス
テムを記載する。
【0031】
いくつかの実施形態では、本開示は、L-2HGを、癌表現型を区別するために使用す
ることができるという新規知見を代替的にまたは追加的に記載する。例えば、本開示は、
L-2HG代謝が、IDH1/2変異を伴わない腫瘍の高く相関する領域であるH3K9
me3染色に影響を与えることを実証する。いくつかの実施形態では、本開示は、腫瘍異
質性を同定するためのシステムを記載する。いくつかの実施形態では、これらのシステム
は、以下のパラメータ、すなわちL-2HGレベル、α-ケトグルタル酸、LDHAの発
現または活性、L-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼの発現または活性、また
はH3K9me3の少なくとも1つを測定することを含む。いくつかの実施形態では、腫
瘍は膠芽腫を有する患者からのものである。
【0032】
いくつかの実施形態では、本開示は、L-2HGを、低酸素をイメージングするために
使用することができるという新規知見を記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、
L-2HGと反応する薬剤を含む組成物を試料または対象に投与するためのシステムを記
載する。いくつかの実施形態では、薬剤は、L-2HGに特異的に結合する抗体である。
いくつかの実施形態では、薬剤は、イメージング技術によるその視覚化を可能にする別の
部分とコンジュゲートする。
【0033】
いくつかの実施形態では、本開示は、L-2HGを正確に検出することができる組成物
またはシステムを記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、L-2HGとR-2H
Gを区別できる組成物またはシステムを記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、
ガスクロマトグラフィー質量分析、液体クロマトグラフィー質量分析または酵素アッセイ
を含む組成物またはシステムを記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、2HGを
キラル誘導化試薬と接触させることにより2-ヒドロキシグルタル酸を処理するための組
成物またはシステムを記載する。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
対象において組織低酸素を診断する方法であって、
(1)前記対象からの試料中のL-2-ヒドロキシグルタル酸((S)-2-ヒドロキシグルタル酸または「L-2HG」))のレベルを測定し;
(2)前記測定レベルと正常酸素状態に相関する基準レベルとを比較するステップを含み、組織低酸素は、前記測定レベルが前記基準レベルから有意差を示すときに診断される、前記方法。
(項目2)
対象において低酸素誘発性傷害を診断する方法であって:
(1)前記対象からの試料中のL-2HGのレベルを測定し;
(2)前記測定レベルと正常酸素状態に相関する基準レベルとを比較するステップを含み、低酸素誘発性傷害は、前記測定レベルが前記基準レベルから有意差を示すときに診断される、前記方法。
(項目3)
(1)前記対象からの試料中の少なくとも2つのバイオマーカーを測定し、ここで前記少なくとも2つのバイオマーカーの1つはL-2HGであり;及び
(2)前記測定レベルと低酸素または正常酸素状態を表す基準レベルとを比較するステップをさらに含み、組織低酸素または低酸素誘発性傷害は、前記測定レベルが前記基準レベルから有意差を示すときに診断される、項目1または2に記載の方法。
(項目4)
低酸素誘発性傷害の処置において有用な薬剤を同定するまたは特徴づける方法であって、前記方法が:
(1)薬剤を対象となる細胞、組織または生体と接触させ;
(2)前記薬剤が存在するときの前記組織中のL-2HGのレベルを、それが不在のとき、または前記組織または生体中のL-2HGレベルに及ぼすその効果が知られている基準薬が存在するときと比較して測定し;
(3)前記薬剤が存在するときの前記測定されたL-2HGレベルが、それが不在のときのものより高い場合、L-2HGを増加させると知られている基準薬が存在するときに測定されたものと類似する場合、またはL-2HGを増加させないと知られている基準薬が存在するときに測定されたものを超す場合に、低酸素誘発性傷害の前記処置において前記薬剤が有用であると決定するステップを含む、前記方法。
(項目5)
前記傷害が、敗血症性ショック、虚血性脳卒中、心筋梗塞、貧血症、肺疾患、気道閉塞、急性呼吸窮迫症候群、肺炎、気胸症、肺気腫、先天性心臓欠陥、アテローム性動脈硬化症、血栓症、肺塞栓症、肺水腫、喘息、膿胞性線維症、癌、または外科的処置中であるかまたはこれを含む、低酸素に関連する疾患、障害または病態を含む、項目2または4に記載の方法。
(項目6)
対象において組織低酸素またはその根本的原因を処置する方法であって、前記方法が、そのL-2HGレベルが正常酸素状態の基準対象と比較して少なくとも2倍である対象に、低酸素治療を施すことを含む、前記方法。
(項目7)
L-2HGの前記レベルが、正常酸素状態の対象と比較して、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、または少なくとも10倍に上昇している、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記低酸素治療が、酸素補充療法、赤血球濃厚液の輸血、カフェイン、ビタミン療法、機械的換気、陽圧療法、身体運動、または外科的介入を含む群から選択される、項目6に記載の方法。
(項目9)
前記低酸素が慢性である、先行項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目10)
前記治療が、慢性低酸素または慢性低酸素の根本的原因に向けられている、先行項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目11)
慢性低酸素の前記根本的原因が、慢性閉塞性肺障害、気道閉塞、急性呼吸窮迫症候群、肺炎、気胸症、肺気腫、先天性心臓欠陥、アテローム性動脈硬化症、血栓症、肺塞栓症、肺水腫、喘息、及び膿胞性線維症を含む群から選択される、項目10に記載の方法。
(項目12)
L-2HGの前記測定が、組織試料から得られる、先行項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目13)
前記組織試料が、心臓の組織、動脈、脳、腫瘍、またはそれらの組み合わせを含む、項目13に記載の方法。
(項目14)
前記試料が、血液、尿、血清、リンパ及び脳脊髄液を含む群から選択される、先行項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目15)
L-2HGの前記測定が、血液試料から取得される、先行項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目16)
前記血液試料が、静脈血試料である、項目16に記載の方法。
(項目17)
虚血性組織傷害を処置する方法であって、虚血性組織傷害を有する対象に、L-2HGのレベルを調節する治療を施すことを含む、前記方法。
(項目18)
前記治療が、前記対象におけるL-2HGの前記レベルを増加させる、項目6または17に記載の方法。
(項目19)
前記治療が、前記対象におけるL-2HGの前記レベルを低減させる、項目6または17に記載の方法。
(項目20)
前記治療が、前記組織への送達を達成する経路を介した前記対象へのL-2HGを含む組成物の投与を含む、項目18に記載の方法。
(項目21)
前記治療が、前記組織への送達を達成する経路を介した前記対象へのLDHAの阻害剤の投与を含む、項目19に記載の方法。
(項目22)
前記治療が、LDHA、MDH1、またはMDH2のレベルまたは活性を調節する薬剤の投与を含む、項目6または17に記載の方法。
(項目23)
前記薬剤の前記投与が、LDHA、MDH1、またはMDH2のレベルまたは活性を増加させる、項目22に記載の方法。
(項目24)
前記薬剤の前記投与が、LDHA、MDH1、またはMDH2のレベルまたは活性を低減させる、項目22に記載の方法。
(項目25)
前記処置が、これらに限定されないが、α-ケトグルタル酸、α-ケトグルタル酸の細胞透過性変異体(例えば、α-ケトグルタル酸ジメチル)、グルタミン、またはグルタミン酸塩を含む組成物を投与することを含む、項目18に記載の方法。
(項目26)
前記処置が、L-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼレベルまたは活性を阻害することを含む、項目18に記載の方法。
(項目27)
前記処置が、L-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼレベルまたは活性を促進することを含む、項目19に記載の方法。
(項目28)
対象において組織低酸素を促進する方法であって、前記方法が、そのL-2HGレベルが正常酸素状態の基準対象と比較して最大で50%である対象に治療を施すことを含む、前記方法。
(項目29)
L-2HGの前記レベルが、正常酸素状態の基準対象と比較して、最大で40%、最大で30%、最大で20%、最大で10%、または最大で5%である、項目28に記載の方法。
(項目30)
幹細胞または前駆細胞である細胞の多能性または自己複製を維持するまたは促進する方法であって、前記細胞中のL-2HGのレベルを調節することを含む、前記方法。
(項目31)
L-2HGのレベルを調節することが、前記細胞をL-2HGと接触させることを含む、項目30に記載の方法。
(項目32)
L-2HGのレベルを調節することが、前記細胞中のL-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼレベルまたは活性を阻害することを含む、項目30に記載の方法。
(項目33)
癌に罹患している対象において癌を処置する方法であって、1つまたは複数の用量のLDHAの阻害剤、または1つまたは複数の用量のL-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼの刺激剤の投与を含む治療レジメンを前記対象に投与することを含む、前記方法。
(項目34)
前記対象が、野生型イソクエン酸デヒドロゲナーゼ1または2(IDH1/2)を有する、項目33に記載の方法。
(項目35)
腫瘍血管新生を阻害する方法であって、腫瘍を、治療有効量のLDHAの阻害剤またはL-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼのアクチベーターと接触させることを含む、前記方法。
(項目36)
細胞分化を促進させる方法であって、幹細胞または前駆細胞である細胞を、有効量のLDHAの阻害剤またはL-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼのアクチベーターと接触させることを含む、前記方法。
(項目37)
前記細胞が癌幹細胞である、項目36に記載の方法。
(項目38)
癌の処置において有用な薬剤を同定するまたは特徴づける方法であって、前記方法が:
(1)薬剤を、癌細胞を含む系と接触させ;
(2)前記薬剤が存在するときの前記系中のL-2HGのレベルを、それが不在のとき、または前記組織または生体中のL-2HGレベルに及ぼすその効果が知られている基準薬が存在するときと比較して測定し;
(3)前記薬剤が存在するときの前記測定されたL-2HGレベルが、それが不在のときのものより低い場合、L-2HGを低減させると知られている基準薬が存在するときに測定されたものと類似する場合、またはL-2HGを増加させないと知られている基準薬が存在するときに測定されたものより低い場合に、癌の処置において前記薬剤が有用であると決定するステップを含む、前記方法。
(項目39)
前記系が腫瘍であるかまたは腫瘍を含む、項目38に記載の方法。
(項目40)
敗血症性ショックの症状を有する対象を処置する方法であって、前記対象に、治療有効量のLDHAの阻害剤またはL-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼのアクチベーターを投与することを含む、前記方法。
(項目41)
心筋梗塞の症状を有するまたは心筋梗塞のリスクがある対象を処置する方法であって、前記対象に、治療有効量のLDHAの阻害剤またはL-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼのアクチベーターを投与することを含む、前記方法。
(項目42)
虚血性脳卒中の症状を有するまたは虚血性脳卒中のリスクがある対象を処置する方法であって、前記対象に、治療有効量のLDHAの阻害剤またはL-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼのアクチベーターを投与することを含む、前記方法。
(項目43)
LDHA活性の阻害において有用である薬剤を同定するまたは特徴づける方法であって、前記方法が:
(1)薬剤を、LDHAを発現する細胞を含有する試料またはLDHAを含有する無細胞溶液と接触させ;
(2)前記薬剤が存在するときの前記試料中のL-2HGのレベルを、それが不在のとき、または前記試料中のL-2HGに及ぼすその効果が知られている基準薬が存在するときと比較して測定し;
(3)前記薬剤が存在するときの前記測定されたL-2HGレベルが、それが不在のときのものより低い場合、L-2HGを低減させると知られている基準薬が存在するときに測定されたものと類似する場合、またはL-2HGを増加させないと知られている基準薬が存在するときに測定されたものより低い場合に、LDHA活性の阻害において前記薬剤が有用であると決定するステップを含む、前記方法。
(項目44)
L-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性の促進において有用である薬剤を同定するまたは特徴づける方法であって、前記方法が:
(1)薬剤を、L-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼを発現する細胞を含有する試料またはL-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼを含有する無細胞溶液と接触させ;
(2)前記薬剤が存在するときの前記試料中のL-2HGのレベルを、それが不在のとき、または前記試料中のL-2HGに及ぼすその効果が知られている基準薬が存在するときと比較して測定し;
(3)前記薬剤が存在するときの前記測定されたL-2HGレベルが、それが不在のときのものより高い場合、L-2HGを増加させると知られている基準薬が存在するときに測定されたものに類似する場合、またはL-2HGを低減させないと知られている基準薬が存在するときに測定されたものより高い場合に、L-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性の促進において前記薬剤が有用であると決定するステップを含む、前記方法。
(項目45)
細胞におけるヒストンのメチル化を促進する方法であって、前記細胞を、L-2HG、LDHAのアクチベーター、L-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼの阻害剤、またはそれらの組み合わせと接触させることを含む、前記方法。
(項目46)
細胞におけるヒストンのメチル化を阻害する方法であって、前記細胞を、LDHAの阻害剤、またはL-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼのアクチベーターと接触させることを含む、前記方法。
(項目47)
前記ヒストンのメチル化が、ヒストン3リジン9のトリメチル化(H3K9me3)を含む、項目45または46に記載の方法。
(項目48)
組織における低酸素の異質性について試験する方法であって、
(1)前記組織の1つの領域内のL-2HGのレベルを測定し;
(2)L-2HGの前記測定レベルを、前記組織の少なくとも1つの異なる領域と比較するステップを含み、前記測定レベルがステップ(1)にて前記領域から測定された前記レベルから有意差を示すときに組織低酸素の異質性が診断される、前記方法。
(項目49)
組織における低酸素の異質性について試験する方法であって、
(1)前記組織の1つの領域内のH3K9me3のレベルを測定し;
(2)H3K9me3の前記測定レベルを、前記組織の少なくとも1つの異なる領域と比較するステップを含み、前記測定レベルがステップ(1)にて前記領域から測定された前記レベルから有意差を示すときに組織低酸素の異質性が診断される、前記方法。
(項目50)
前記組織が、腫瘍由来である、項目48または49に記載の方法。
(項目51)
腫瘍が、膠芽腫を有する対象由来である、項目50に記載の方法。
(項目52)
組織中の低酸素をイメージングする方法であって、L-2HGと反応する薬剤を含む組成物を投与することを含む、前記方法。
(項目53)
低酸素の前記イメージングが、対象で実行される、項目52に記載の方法。
(項目54)
前記薬剤が、L-2HGに特異的に結合する、項目52に記載の方法。
(項目55)
前記薬剤が、臨床イメージング法によるその視覚化を可能にする部分を含む、項目54に記載の方法。
(項目56)
L-2HGの前記レベルが、ガスクロマトグラフィー質量分析、液体クロマトグラフィー質量分析または酵素アッセイによって測定される、先行項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目57)
L-2HGの前記レベルの測定が、質量分析の使用を含む、先行項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目58)
前記測定が、ガスクロマトグラフィー質量分析の使用を含む、先行項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目59)
2-ヒドロキシグルタル酸をキラル誘導化試薬と反応させるステップをさらに含む、先行項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目60)
前記基準レベルが、正常酸素状態の個体対象に由来する、先行項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目61)
前記正常酸素状態の個体対象が前記対象である、項目60に記載の方法。
(項目62)
前記基準レベルが、正常酸素状態の対象の集団に由来する、先行項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目63)
前記基準レベルが、急性的に低酸素の対象に由来する、先行項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目64)
前記基準レベルが、急性的に低酸素の対象の集団に由来する、先行項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目65)
前記試料において測定された前記1つまたは複数のバイオマーカーの前記レベルと前記基準レベルとの間の前記差が、前記対象における慢性低酸素の重症度と相関する、先行項目のいずれか一項に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】低酸素に応答したL-2-ヒドロキシグルタル酸(L-2HG)の産生を示すGC-MSヒストグラム及びウェスタンブロット画像を示す。(A)のパネルは、異なる細胞型での2HGレベルを示す棒グラフである。指定の細胞を、21%または0.5%酸素(O
2)中で24~48時間培養した。総細胞内2HGをガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)によって測定し、入力を統制するために総タンパク質に対して正規化した。21%O
2における各細胞型の2HGレベルを、倍率変化を示すために任意に1と設定した。グラフは、3重の試料の平均+/-標準偏差を示す。(B及びC)のパネルは、ウェスタンブロット及び異なるタンパク質の発現を示すこれらのブロットの定量化である。SF188細胞を、非標的shRNA(対照)、D2HGDH(D2、D3、D4、D5)を標的とするshRNA、またはL2HGDH(L2、L3、L4)を標的とするshRNAを発現するレンチウイルスに安定定期に感染させた。細胞を21%または0.5%O
2中で48時間培養し、2HGを(A)のように測定した。ウェスタンブロットは、HIF1α、D2HGDH、L2HGDH、及びS6タンパク質(負荷対照)の発現を示す。(D)のパネルは、時間の関数としてイオンの濃縮を示すGC-MSヒストグラムである。低酸素のSF188細胞からの代謝産物を、4つの画分に分け、次いで、D-2HG、L-2HG、D-2HG及びL-2HGの混合物の基準標準物質でスパイクするか、またはスパイクしないままにした。キラル誘導体化を行って、GC-MSによる2HGエナンチオマーの分離を可能にした。この図の各パネルでは、3つ以上の独立した実験のうちの1つからの代表的なデータを示す。
図6も参照されたい。
【
図2】低酸素誘発性L-2HGがグルタミン由来のα-ケトグルタル酸を起源とすることを示すGC-MSヒストグラムの定量化結果を示す。(A及びB)のパネルは、指定の時間で
13Cにより標識された細胞内2HGの割合を示す線図である。同位体追跡を、[U-
13C]グルコースまたは[U-
13C]グルタミンのいずれかを含有する培地内で培養されたSF188細胞において行った。同様の標識パターンが、RCC4及びCS-1細胞で観察された(データは示さず)。(C)のパネルは、正規化2HGを示す棒グラフである。SF188細胞を、ビヒクル(DMSO)または5mMのジメチル-α-KGの存在下、21%または0.5%O
2中で48時間培養した。総細胞内2HGをGC-MSにより評価した。グラフは、3重の試料の平均+/-標準偏差を示す。3つの独立した実験のうちの1つからの代表的なデータを示す。(D及びE)のパネルは、異なる条件における2HGイオンを示すGC-MSヒストグラムである。SF188細胞を、(C)のように培養し、次いで代謝産物のキラル誘導体化を行って、GC-MSによる2HGエナンチオマーの分離を可能にした。(D)のパネルは、同じ目盛りで2HGについてGC-MSヒストグラムのオーバーレイを示す。(E)のパネルは、異なる目盛りで2HGについて個別のGC-MSヒストグラムを示す。(D)及び(E)についてのグラフの線のスタイルは、(C)に示すものと同じである。(
図1D)のように、L-2HG(左)は、D-2HG(右)よりも短い保持時間で溶出する。5つの独立した実験のうちの1つからの代表的なデータを示す。
【
図3】低酸素誘発性L-2HGがLDHAによる無差別な基質使用を介して生じることを示すウェスタンブロット画像を示す。(A、B、C)のパネルは、siRNA実験後に示された様々なタンパク質のウェスタンブロット画像及び定量化である。SF188細胞を、(A)IDH1(IDH1-a、-b)またはIDH2(IDH2-a、-b)、(B)MDH1(MDH1-a、-b)またはMDH2(MDH2-a、-b)、または(C)LDHA(LDHA-a、-b、-c、-d)を標的とするsiRNAでトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、細胞を21%または0.5%O
2にさらに24~48時間移し、その後、細胞内2HGを測定した。ウェスタンブロットは、標的ノックダウン有効性を確かにし、HIF1αの低酸素誘発性発現を示す。S6タンパク質またはα-チューブリンのいずれかの発現を、負荷対照として示す。各パネルについて、3つの独立した実験のうちの1つからの代表的なデータを示す。
図7も参照されたい。パネル(D)は、低酸素誘発性L-2HGの酵素源をまとめる概略図である。
【
図4】LDHAの活性部位が、L-2HGへの還元を受け入れられる幾何学におけるα-KGの結合を立体的に受け入れることができることを示す構造モデルレンダリングを示す。(A及びC)のパネルは、NADHを有するLDHAの活性部位にドッキングしたピルベート及びα-KGのポーズの構造モデルである。(B及びD)のパネルは、NAD+を有するLDHAの活性部位にドッキングしたL-乳酸塩及びL-2HGのポーズの構造モデルである。影付きの雲状部分は、基質結合性ポケット内で予測される空の空間を表す。予測される水素結合を青色で示す。線として示す残基は、Arg168(パネルの右上角の細い灰色の線)、Thr247(パネルの左上角の太い灰色の線)、His192(底部中央の細い灰色の線)、Arg105(背景中央の淡灰色の線)、Asn137(上部中央の細い灰色の線)、及びGln99(淡灰色と黒色の間の上部中央の太い灰色の線)である。ドッキングは、PDBアクセッションコード1I10(Readら、2001)を使用した。四角は、対応するα-ヒドロキシル酸のL-(S)-エナンチオマーを産生するように還元反応を拘束する、NADHのヒドリド基に関連して、各基質のカルボン酸頭部基及び隣接するカルボニル基の空間的立体配置を強調する。
【
図5】L-2HGが、低酸素に応答してヒストン3リジン9のトリメチル化を増強させることを示す免疫組織化学染色及びウェスタンブロット画像を示す。(A)のパネルは、指定のタンパク質について染色されたヒト膠芽腫検体の免疫組織化学画像である。HIF1α発現及びH3K9me3レベルを、生検において捉えた低酸素性領域を有する(n=26)または有さない(n=21)ヒト膠芽腫検体における免疫組織化学により評価した。パネル(B)は、HIF1αを発現しない(-)または発現する(+)生検内でのH3K9me3染色強度(画素単位)の定量化を示す。値は、平均+/-標準偏差を表し;
*p=0.01は、対応のない両側スチューデントのt検定により決定した。(C、D及びE)のパネルは、指定の条件下のH3K9me3のウェスタンブロット画像及び定量化結果である。空のレンチウイルスベクター(ベクター)またはL2HGDHをコードするレンチウイルスベクターに安定的に感染したSF188膠芽腫細胞を、48時間21%または0.5%O
2内で培養し、その後ヒストン抽出を行い、ウェスタンブロットによりH3K9me3を評価した。(D)非標的shRNA(対照)またはL2HGDH(L1、L3)を標的とするshRNAを発現するレンチウイルスに安定的に感染したSF188膠芽腫細胞を、21%または0.5%O
2内で培養し、その後ヒストン抽出を行い、ウェスタンブロットによりH3K9me3を評価した。(E)のパネルでは、バルクヒストンを、α-KG(1mM)との反応混合物中で精製したヒトKDM4Cと、ならびに指定濃度のL-2HGまたはD-2HGとインキュベートした。H3K9me3を、総H3を負荷対照として使用して、ウェスタンブロットにより評価した。(C)、(D)、及び(E)のパネルは、3つの独立した実験のうちの1つからの代表的なデータを示す。
【
図6】低酸素に応答したL-2HGの選択的産生を示すGC-MSヒストグラムを示す。パネル(A)は、R(-)-2-ブタノール及び酢酸無水物での連続的な誘導体化後のL-2-ヒドロキシグルタル酸を示す概略図である(詳細については実験手法を参照されたい)。(B及びC)のパネルは、GC-MSからのヒストグラムである。正常酸素状態(21%O2)または低酸素(0.5%O2)で培養された(B)HEK293T細胞または(C)SV40-不死化MEFからの代謝産物を、(A)のようにキラル誘導体化に供して、GC-MSによる2HGエナンチオマーの分離を可能にした。
図1Dに実証するように、L-2HG(左)は、D-2HG(右)よりも短い保持時間で溶出する。2つ以上の独立した実験のうちの1つからの代表的なデータを示す。
【
図7】低酸素誘発性L-2HGの酵素源を示すウェスタンブロット画像を示す。上のパネルは、そのパネルの左側に指定された条件下のタンパク質のウェスタンブロット画像であり、下のパネルは、そのウェスタンブロットの定量化である。HEK293T細胞を、(A)IDH1(IDH1-a、-b)またはIDH2(IDH2-a、-b)、(B)LDHA(LDHA-a、-b、-c、-d)、または(C)LDHA(LDHA-b、-d)及びMDH2(MDH2-a、-b)の両方を標的とするsiRNAでトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、細胞を21%または0.5%O2へとさらに24~48時間移し、その後細胞内2HGを測定した。ウェスタンブロットは、負荷対照としてS6タンパク質またはα-チューブリンのいずれかの発現で標的ノックダウン有効性を確かにする。各パネルについて、2つ以上の独立した実験のうちの1つからの代表的なデータを示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
定義
本出願では、文脈から別様に明確でない限り、(i)「a」という用語は、「少なくと
も1つ」を意味すると理解されてよく;(ii)「または」という用語は、「または」を
意味すると理解されてよく;(iii)「含む(comprising)」及び「含む(
including)」という用語は、それら単独かまたは1つまたは複数の追加の構成
要素またはステップと一緒に提示される、個条書きされた構成要素またはステップを包含
すると理解されてよく;(iv)「約」及び「おおよそ」という用語は、当業者に理解さ
れるであろう標準的な変動を許可すると理解されてよく;(v)範囲が提供される場合、
端点を含む。
【0036】
活性化剤:本明細書で用いるとき、「活性化剤」という用語、またはアクチベーターは
、薬剤無し(または異なるレベルでの薬剤)で観察されるものと比較して、その存在また
はレベルが標的のレベルまたは活性の上昇と相関する薬剤を指す。いくつかの実施形態で
は、活性化剤は、その存在またはレベルが、特定の(例えば、既知の活性化剤、例えば陽
性対照、の存在下などの適切な基準条件下で観察される)基準レベルまたは活性と同等ま
たはそれらより大きい標的レベルまたは活性と相関するものである。
【0037】
投与:本明細書で用いるとき、「投与」という用語は、対象または系への組成物の投与
を指す。動物対象(例えば、ヒト)への投与は、任意の適切な経路によるものであってよ
い。例えば、いくつかの実施形態では、投与は、(気管支注入によるものを含む)気管支
、口腔、経腸、皮間(interdermal)、動脈内、皮内、胃内、髄内、筋肉内、
鼻腔内、腹腔内、髄腔内、静脈内、脳室内、経粘膜、経鼻、経口、直腸、皮下、舌下、局
所、気管(気管内注入を含む)、経皮、膣及び硝子体であってよい。
【0038】
薬剤:「薬剤」という用語は、本明細書で用いるとき、例えば、ポリペプチド、核酸、
多糖類、脂質、小分子、金属、またはそれらの組み合わせを含む任意の化学クラスの化合
物または実体を指してよい。いくつかの実施形態では、薬剤は、自然に見いだされるまた
は自然から獲得されるという点で自然産物であるかまたはこれを含む。いくつかの実施形
態では、薬剤は、ヒトの手の作用を通して設計され、操作され、もしくは産生されるかま
たは自然に見いだされるものではない点で人工である1つまたは複数の実体であるかまた
はこれを含む。いくつかの実施形態では、薬剤は、単離されたまたは純粋な形態において
活用されてよく、いくつかの実施形態では、薬剤は、粗形態で活用されてよい。いくつか
の実施形態では、潜在的な薬剤は、コレクションまたはライブラリーとして提供され、例
えばそれらは、それらの中の活性剤を同定または特徴づけるためにスクリーニングされて
よい。本発明に従って活用されてよい薬剤のいくつかの特定の実施形態には、小分子、抗
体、抗体断片、アプタマー、核酸(例えば、siRNA、shRNA、DNA/RNAハ
イブリッド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム)、ペプチド、ペプチド模倣
物等が含まれる。いくつかの実施形態では、薬剤は、ポリマーであるかまたはこれを含む
。いくつかの実施形態では、薬剤は、ポリマーではないかまたは実質的にいずれのポリマ
ーも含まない。いくつかの実施形態では、薬剤は、少なくとも1つのポリマー部分を含有
する。いくつかの実施形態では、薬剤は、任意のポリマー部分を欠くか実質的に含まない
。
【0039】
動物:本明細書で用いるとき、「動物」という用語は、動物界の任意の成員を指す。い
くつかの実施形態では、「動物」は、任意の発達段階のヒトを指す。いくつかの実施形態
では、「動物」は、任意の発達段階の非ヒト動物を指す。いくつかの実施形態では、非ヒ
ト動物は、哺乳類(例えば、げっ歯類、マウス、ラット、ウサギ、サル、イヌ、ネコ、ヒ
ツジ、ウシ、霊長類、またはブタ)である。いくつかの実施形態では、動物には、哺乳類
、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、または蠕虫類が含まれるが、これらに限定されない。い
くつかの実施形態では、動物は、トランスジェニック動物、遺伝子操作された動物、また
はクローンであってよい。
【0040】
アンタゴニスト:本明細書で用いるとき、「アンタゴニスト」という用語または阻害剤
は、i)別の薬剤の効果を阻害する、低減するもしくは低下させる;またはii)1つま
たは複数の生物学的事象を阻害する、低減する、低下させる、もしくは遅らせる薬剤を指
す。アンタゴニストは、例えば、小分子、ポリペプチド、核酸、炭水化物、脂質、金属、
または関連する阻害活性を示す任意の他の実体を含む、任意の化学クラスの薬剤であって
よいかまたはこれらを含んでよい。アンタゴニストは、直接(その場合その影響をその標
的に直接及ぼす)または間接(その場合その標的に結合する以外で;例えば、標的のレベ
ルまたは活性が変化するように、例えば、標的の制御因子と相互作用することによって、
その影響を及ぼす)であってよい。
【0041】
おおよそ:本明細書で用いるとき、「おおよそ」及び「約」という用語は、それぞれ、
関連する文脈に適切であると当業者により理解されるであろう通常の統計学的変動を包含
すると意図される。ある特定の実施形態では、「おおよそ」または「約」という用語は、
別段の記載がない限り、または文脈からそうでないと明確でない限り(例えば、かかる数
字があり得る値の100%を超す場合)、それぞれ、記した値のいずれかの方向(より多
いまたはより少ない)において25%、20%、19%、18%、17%、16%、15
%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、
3%、2%、1%、またはそれ未満内に入る値の範囲を指す。
【0042】
と関連する:本用語が本明細書で用いられるとき、一方の存在、レベルまたは形態が他
方のものと相関する場合に、2つの事象または実体はお互いに「関連する」。例えば、特
定の実体(例えば、ポリペプチド)は、その存在、レベルまたは形態が、疾患、障害、ま
たは病態の(例えば、関連する集団にわたる)発生率または感受性と相関する場合に、特
定の疾患、障害、または病態と関連するとみなされる。いくつかの実施形態では、2つ以
上の実体は、物理的にお互いに近接し、近接したままであるようにそれらが直接的または
間接的に相互作用する場合、お互いに物理的に「関連」する。いくつかの実施形態では、
お互いに物理的に関連する2つ以上の実体は、お互いに共有結合する;いくつかの実施形
態では、お互いに物理的に関連する2つ以上の実体は、お互いに共有結合しないが、例え
ば、水素結合、ファンデルワールス相互作用、疎水性相互作用、磁気、及びこれらの組み
合わせにより、非共有結合的に関連する。
【0043】
生物学的に活性:本明細書で用いるとき、「生物学的に活性」という語句は、生物系内
(例えば、細胞内(例えば、培養物内、組織内、生体内に、単離された)、細胞培養物内
、組織内、生体内、等)における活性を有する物質を指す。例えば、生体に投与されたと
き、その生体上に生物学的効果を有する物質が、生物学的に活性であるとみなされる。し
ばしば生物学的に活性な物質の一部または断片のみが、活性を提示するために要求される
(例えば、必要及び十分である)ことが当業者により理解されるだろう;そのような環境
では、その部分または断片は「生物学的に活性な」部分または断片であるとみなされる。
【0044】
併用療法:本明細書で用いるとき、「併用療法」という用語は、対象が、2つ以上の治
療レジメン(例えば、2つ以上の治療剤)に同時に曝露される状況を指す。いくつかの実
施形態では、2つ以上の薬剤は、同時に投与されてよい;いくつかの実施形態では、かか
る薬剤は、順次投与されてよい;いくつかの実施形態では、かかる薬剤は、重複する投与
レジメンにおいて投与される。
【0045】
同等:「同等」という用語は、本明細書で用いるとき、お互いに同一ではないがその間
での比較を可能にし、結論を観察された差異または類似性に基づいて合理的に引き出し得
るのに十分に類似する2つ以上の薬剤、実体、状況、条件のセット等を指す。いくつかの
実施形態では、条件、環境、個体または集団の同等のセットは、複数の実質的に同一の特
性及び1つまたは少数の異なる特性によって特徴づけられる。当業者は、2つ以上のかか
る薬剤、実体、状況、条件のセット等が同等であるとみなされるには、任意の所与の環境
においてどの程度の同一性が必要とされるかを、文脈において、理解するだろう。例えば
、当業者は、異なる環境、個体、または集団のセットでまたはその下で、それらにより得
られた結果または観察された現象における差異が、変動したそれらの特性における変動性
により引き起こされるまたはそれを示すという、合理的な結論を保証するのに十分な数及
びタイプの実質的に同一の特性により特徴づけられるとき、環境、個体、または集団のセ
ットがお互いに同等であると理解するだろう。
【0046】
に対応する:本明細書で用いるとき、「に対応する」という用語は、しばしば、適切な
基準薬において存在するものと(例えば、3次元空間でまたは別の要素または部分に対し
て)位置を共有する対象となる薬剤の構造要素または部分を示すのに使用される。例えば
、いくつかの実施形態では、本用語は、ポリペプチド内のアミノ酸残基または核酸内のヌ
クレオチド残基などのポリマー内の残基の位置/同一性を指すために使用される。当業者
は、簡潔さを目的として、そのようなポリマー内の残基が基準に関連するポリマーに基づ
く規範的な番号付けシステムを使用してしばしば示される、ゆえに、基準ポリマー内の1
90位の残基に「に対応する」第一のポリマー内の残基は、例えば、必ずしも実際に第一
ポリマーの190番目の残基である必要はなく、基準ポリマーの190番目の位置で見い
だされた残基に対応するということを理解するだろう;当業者は、ポリマー配列比較用に
特異的に設計された1つまたは複数の市販のアルゴリズムの使用を通すことを含む、「対
応する」アミノ酸を同定する方法を容易に理解する。
【0047】
誘導体:本明細書で用いるとき、「誘導体」という用語は、基準物質の構造類似体を指
す。つまり、「誘導体」は、基準物質との著しい構造類似性を示す、例えばコアまたはコ
ンセンサス構造を共有するが、同時にある特定の別々の方法で異なる物質である。いくつ
かの実施形態では、誘導体は、化学的操作により基準物質から生成されることができる物
質である。いくつかの実施形態では、誘導体は、基準物質を生成するものと実質的に類似
する(例えば、複数のステップを共有する)合成プロセスの遂行を通して生成されること
ができる物質である。
【0048】
設計された:本明細書で用いるとき、「設計された」という用語は、(i)その構造が
人の手により選択されるまたはされた;(ii)人の手を要するプロセスにより産生され
た;または(iii)自然物質または他の既知の薬剤と異なる薬剤を指す。
【0049】
決定する:本明細書に記載の多くの方法が「決定する」ステップを含む。当業者は、本
明細書を読むと、そのような「決定すること」が、例えば、本明細書に明確に言及される
特定の技術を含む、当業者に利用可能な任意の様々な技術を活用することができるまたは
これらの使用を通して達成されることができることを理解するだろう。いくつかの実施形
態では、決定することは、身体的試料の操作を必然的に含む。いくつかの実施形態では、
決定することは、データまたは情報の考慮または操作、例えば、関連分析を実施するのに
適合したコンピュータまたは他の処理装置を活用することを必然的に含む。いくつかの実
施形態では、決定することは、供給源から関連情報や材料を受け取ることを必然的に含む
。いくつかの実施形態では、決定することは、試料または実体の1つまたは複数の特性を
同等の基準と比較することを必然的に含む。
【0050】
診断情報:本明細書で用いるとき、「診断情報」または「診断において使用するための
情報」は、患者が疾患、障害もしくは病態を有するかどうかの決定、または表現型カテゴ
リー、もしくは疾患、障害もしくは病態の予後に関して有意性を有する、または疾患、障
害もしくは病態の処置(一般的な処置または任意の特定の処置のいずれか)への可能性の
高い応答、任意のカテゴリーへの疾患、障害もしくは病態の分類において有用である情報
である。同様に、「診断」は、対象が疾患、障害もしくは病態(癌など)を有するまたは
発症する可能性が高いかどうか、対象において顕在化した疾患、障害もしくは病態の状態
、ステージ付けまたは特徴、腫瘍の特性または分類に関連する情報、予後に関する情報ま
たは適切な処置を選択するのに有用である情報を含むが、これに限定されない、任意の種
類の診断情報を提供することを指す。処置の選択は、特定の治療(例えば、化学療法)剤
、または他の処置法、例えば、外科手術、放射線等の選択、治療を控えるか送達するかに
関する選択、投与レジメン(例えば、1つまたは複数の用量の特定の治療剤または治療剤
の組み合わせの頻度またはレベル)に関連する選択、等を含んでよい。
【0051】
分化:「分化」という用語は、特殊化されていない(「未拘束の(uncommitt
ed)」)または比較的特殊化されていない細胞が、例えば、神経細胞または筋細胞など
の特殊化された細胞の特性を獲得するプロセスである。分化細胞または分化を誘導された
細胞は、細胞の系統内でより特殊化された状況を呈している細胞である。分化のプロセス
に適用した際の「拘束された(committed)」という用語は、通常の環境下で特
定の細胞型または細胞型の小集合に分化し続けるだろう分化経路の点に進行しており、か
つ、通常の環境下では、異なる細胞型に分化するまたはより分化されていない細胞型に戻
ることができない細胞を指す。脱分化は、細胞が細胞の系統内で比較的特殊化されて(ま
たは拘束されて)いない位置に戻るプロセスを指す。本明細書で用いるとき、細胞の系統
は、細胞の遺伝、つまりその細胞がどの細胞から由来したか、またどの細胞を生じさせる
ことができるかを規定する。細胞の系統は、発生及び分化の遺伝スキーム内にその細胞を
位置付けるものである。系統特異的マーカーとは、対象とする系統の細胞の表現型と特異
的に関連した特徴を指し、対象とする系統への未拘束の細胞の分化を評価するために使用
することができる。
【0052】
投与レジメン:(または「治療レジメン」)は、本明細書で用いるとき、典型的には期
間を空けて、対象に個別に投与される単位用量(典型的には、1つより多い)のセットで
ある。いくつかの実施形態では、所与の治療剤は、推奨される投与レジメンを有し、これ
には1つまたは複数の用量が必然的に含まれ得る。いくつかの実施形態では、投与レジメ
ンは、そのそれぞれがお互いに同じ長さの期間で離れている複数の用量を含む;いくつか
の実施形態では、投与レジメンは、複数の用量及び個別の用量を離す少なくとも2つの異
なる期間を含む。いくつかの実施形態では、治療剤は、所定の期間にわたって連続的に(
例えば、注入により)投与される。いくつかの実施形態では、治療剤は1日1回(QD)
または1日2回(BID)投与される。いくつかの実施形態では、投与レジメンは、その
それぞれがお互いに同じ長さの期間で離れている複数の用量を含む;いくつかの実施形態
では、投与レジメンは、複数の用量及び個別の用量を離す少なくとも2つの異なる期間を
含む。いくつかの実施形態では、投与レジメン内の全ての用量は、同じ単位用量の量のも
のである。いくつかの実施形態では、投与レジメン内の異なる用量は、異なる量のもので
ある。いくつかの実施形態では、投与レジメンは、第一用量の量の第一用量、その後第一
用量の量とは異なる第二用量の量の1つまたは複数の追加の用量を含む。いくつかの実施
形態では、投与レジメンは、第一用量の量の第一用量、その後、第一用量の量と同じ第二
用量の量の1つまたは複数の追加の用量を含む。いくつかの実施形態では、投与レジメン
は、適切な母集団全体に投与されたとき、所望のまたは有益な転帰と相関する(つまり、
治療的投与レジメンである)。
【0053】
低酸素:「低酸素」または「低酸素病態」という用語は、本明細書で用いるとき、哺乳
類の1つまたは複数の組織における酸素が生理学的なレベルを下回る、例えば、最適レベ
ル未満である状態または病態を指す。いくつかの実施形態では、低酸素は、ストレス、例
えば、有酸素運動、体重圧、麻酔、外科手術、貧血症、急性呼吸窮迫症候群、慢性疾病、
慢性疲労症候群、外傷、火傷、皮膚潰瘍、癌に起因する悪液質及び他の異化状態等から生
じ得る。いくつかの実施形態では、低酸素は、血管の狭窄または遮断に起因する血流の減
少のためにその組織が酸素欠乏である「虚血」または「虚血性病態」であるかまたはこれ
を含む。虚血または虚血性病態は、冠動脈疾患、アルコール性心筋症を含む心筋症、血管
形成術、ステント留置、バイパス手術または心臓修復手術(「開心術」)などの心臓手術
、臓器移植、組織への長期重圧(褥瘡または床ずれ)、移植された臓器または組織に損傷
を引き起こし得る虚血再灌流傷害、等により引き起こされるものを含む。本開示により提
供される技術は、例えば、低酸素に起因する1つまたは複数の症状を、その根本的原因に
かかわらず、診断する及び/または処置するのに有効であることができる。例えば、いく
つかの実施形態では、本明細書に記載の処置は、たとえそれらが根本的病態(例えば、数
例をあげると、ウイルス性または細菌性感染、細菌または他の毒素への暴露、低い赤血球
数、加齢、癌、運動の継続)の1つまたは複数の態様を処置しないとしても、例えば、低
酸素症に罹患している対象のエネルギーレベル、強さ及び/または健康状態を増加させ得
る。いくつかの実施形態では、「低酸素」または「低酸素病態」という用語は、血液中の
酸素含有率が低い病態を指す。特定の実施形態では、「低酸素」または「低酸素の」病態
は、おおよそ80mm Hg未満の動脈PO2値及びおおよそ30mm Hg未満の静脈
PO2値により定義されてよい。いくつかの実施形態では、「低酸素」または「低酸素の
」病態は、おおよそ60mm Hg未満の動脈PO2値により定義されてよい。ある特定
の実施形態では、「低酸素」または「低酸素の」病態は、おおよそ50mm Hg未満の
動脈PO2値により定義されてよい。特定の実施形態では、「低酸素」または「低酸素の
」病態は、おおよそ50~20mm Hg間の動脈PO2値により定義されてよい。ある
いはまたは加えて、「低酸素」または「低酸素の」病態は、動脈血液または組織から酸素
が存在しないまたはほとんど完全に存在しないとして定義される無酸素症と区別されてよ
い。いくつかの実施形態では、低酸素の型及び重症度は、2HGの絶対的または相対的定
量化または定性化により定義されてよい。いくつかの実施形態では、「低酸素」または「
低酸素の」病態は、約10mm Hg未満の組織内PO2レベルにより定義されてよい。
いくつかの実施形態では、「低酸素」または「低酸素の」病態は、約5mm Hg未満の
組織内PO2レベルにより定義されてよい。いくつかの実施形態では、「低酸素」または
「低酸素の」病態は、約10mm Hg未満の腫瘍内PO2レベルにおより定義されてよ
い。いくつかの実施形態では、「低酸素」または「低酸素の」病態は、約5mm Hg未
満の腫瘍内PO2レベルにより定義されてよい。「低酸素」または「低酸素の」病態は、
慢性または急性であってよい。「慢性低酸素」は、本明細書で用いるとき、2HG産生に
おいて測定可能な増加をもたらす持続的低酸素病態を指してよい。つまり、慢性低酸素は
、2HGがベースラインレベルを超えて蓄積することを可能にするのに十分な期間の低酸
素病態として定義されてよい。いくつかの実施形態では、慢性低酸素は、30分を超える
、1時間を超える、2時間を超える、3時間を超える、4時間を超える、5時間を超える
、10時間を超える、12時間を超える、24時間を超える、1日を超える、または一週
間またはそれ以上の期間の低酸素病態である。いくつかの実施形態では、慢性低酸素は、
血液毛細血管と低酸素性領域との間の組織または腫瘍細胞による酸素の消費及び枯渇によ
り引き起こされる。慢性低酸素の持続的病態とは対照的に、急性低酸素は一過的である。
いくつかの実施形態では、急性低酸素は、組織または腫瘍において血管または微小血管の
一時的な停止があるときに生じる。いくつかの実施形態では、急性低酸素は、赤血球細胞
レベルにおける増減の結果として生じる。
【0054】
低酸素に関連する疾患:「低酸素に関連する疾患、障害または病態」という用語は、低
酸素を伴う(例えば、その発生率または重症度が、低酸素の1つまたは複数の態様と相関
する及び/またはそれを特徴とする)疾患、障害または病態である。いくつかの特定の実
施形態では、低酸素に関連する疾患、障害または病態は、例えば、敗血症性ショック、虚
血性脳卒中、心筋梗塞、貧血症、肺疾患、気道閉塞、急性呼吸窮迫症候群、肺炎、気胸症
、肺気腫、先天性心臓欠陥、アテローム性動脈硬化症、血栓症、肺塞栓症、肺水腫、喘息
、膿胞性線維症、癌、ある特定の外科的処置であってよいかまたはこれを含んでよい。い
くつかの実施形態では、低酸素に関連する疾患、障害または病態は、ストレス、例えば、
有酸素運動、体重圧、麻酔、外科手術、貧血症、急性呼吸窮迫症候群、慢性疾病、慢性疲
労症候群、外傷、火傷、皮膚潰瘍、癌に起因する悪液質及び他の異化状態等と関連する。
いくつかの実施形態では、低酸素に関連する疾患、障害または病態は、血管の狭窄または
遮断に起因する血流の減少のためにその組織が酸素欠乏である「虚血」または「虚血性病
態」であるかまたはこれを含む。虚血または虚血性病態は、冠動脈疾患、アルコール性心
筋症を含む心筋症、血管形成術、ステント留置、バイパス手術または心臓修復手術(「開
心術」)などの心臓手術、臓器移植、組織への長期重圧(褥瘡または床ずれ)、移植され
た臓器または組織に損傷を引き起こし得る虚血再灌流傷害、等により引き起こされるもの
を含む。
【0055】
マーカー:マーカーは、本明細書で用いるとき、その存在またはレベルが特定の状態ま
たは事象の特徴である実体または部分を指す。いくつかの実施形態では、特定のマーカー
の存在またはレベルは、疾患、障害、または病態の存在またはステージの特徴であり得る
。一例をあげると、いくつかの実施形態では、本用語は、代謝産物、例えば、特定の低酸
素誘発性傷害等の特徴である、L-2HGを指す。別の例をあげると、いくつかの実施形
態では、本用語は、遺伝子発現産物、例えば、特定の低酸素誘発性傷害の特徴である、L
DHAを指す。いくつかの実施形態では、マーカーは、特定の腫瘍、腫瘍サブクラス、腫
瘍のステージ、等と関連し得る。あるいはまたは加えて、いくつかの実施形態では、特定
のマーカーの存在またはレベルは、例えば、腫瘍の特定のクラス、例えば、膠芽腫の特徴
であり得る特定のシグナル伝達経路の活性(または活性レベル)と相関する。マーカーの
存在または不在の統計学的有意性は、特定のマーカーに依存して変動し得る。いくつかの
実施形態では、マーカーの検出は、腫瘍が特定のサブクラスのものである高い可能性をそ
れが反映するという点で非常に特異的である。そのような特異性は、感受性と引き換えに
なり得る(つまり、腫瘍がマーカーを発現すると予期され得る腫瘍であったとしても陰性
の結果が起こる可能性がある)。逆に、感受性の程度が高いマーカーは、感度が低いもの
よりもあまり特異的ではない可能性がある。本発明に従って、有用なマーカーは、100
%の精度で特定のサブクラスの腫瘍を区別する必要はない。
【0056】
質量分析:質量分析は、気相イオンの質量対電荷比に変換することができるパラメータ
を測定する気相イオン分光計を用いた方法を指す。質量分析計は、一般に、イオン源及び
質量分析器を含む。質量分析計の例は、飛行時間型、磁場型、四重極フィルター型、イオ
ントラップ型、イオンサイクロトロン共鳴型、静電場分析器型及びこれらの複合型である
。
【0057】
代謝産物:本明細書で用いるとき、「代謝産物」は、食事及び栄養素の消化、尿及び糞
を通した老廃物の排出、呼吸、血液循環、及び体温調節などのエネルギーを生成するまた
は使用する体内での物理的または化学的プロセス中に産生されるまたは使用される任意の
物質を指す。「代謝前駆体」という用語は、それから代謝産物が作られる化合物を指す。
「代謝産生物」という用語は、代謝経路の一部である任意の物質を指す(例えば、代謝物
、代謝前駆体)。
【0058】
調節物質:「調節物質」という用語は、対象となる活性が観察される系内のその存在ま
たはレベルが、調節物質が不在のときにそれ以外は同等の条件下で観察されるものと比較
して、その活性のレベルまたは特性における変化と相関する実体を指すために使用される
。いくつかの実施形態では、調節物質は、アクチベーターであり、調節物質が不在のとき
にそれ以外は同等の条件下で観察されるものと比較して、その活性がその存在において増
加する。いくつかの実施形態では、調節物質は、アンタゴニストまたは阻害剤であり、調
節物質が不在のときのそれ以外は同等の条件と比較して、その活性がその存在において低
下する。いくつかの実施形態では、調節物質は、その活性が対象となるものである標的実
体と直接相互作用する。いくつかの実施形態では、調節物質は、その活性が対象となるも
のである標的実体と間接的に(つまり、標的実体と相互作用する中間剤と直接的に)に相
互作用する。いくつかの実施形態では、調節物質は、対象となる標的実体のレベルに影響
を与える;あるいはまたは加えて、いくつかの実施形態では、調節物質は、標的実体のレ
ベルに影響を与えることなく対象となる標的実体の活性に影響を与える。いくつかの実施
形態では、調節物質は、対象となる標的実体のレベル及び活性の両方に影響を与え、ゆえ
に活性において観察される差異は、レベルにおいて観察される差異により完全に説明され
ないかまたはそれに比例しない。
【0059】
正常酸素状態の:本明細書で用いるとき、「正常酸素状態の」という用語は、慢性的に
または急性的に低酸素ではない血清または組織PO2レベルを指す。本用語が「個体」ま
たは「対象」を修飾するように使用されるときは、本用語は、慢性または急性低酸素を有
さない個体または個体の群を指す。例えば、特定の実施形態では、正常酸素状態の個体は
、おおよそ80~100mm Hg間の動脈PO2またはおおよそ30~50mm Hg
間の静脈PO2を有する。「正常酸素状態」または「正常酸素状態の」は、インビボまた
はインビトロでおおよそ21%の大気酸素分圧により代替的にまたは追加的に定義されて
よい。いくつかの実施形態では、正常酸素状態のレベルは、慢性または急性低酸素を有さ
ない個体の集団全体にわたってまたはその中で提示されるレベルを考慮することで確立さ
れる。例えば、いくつかの実施形態では、正常酸素状態のレベルは、そのような集団全体
にわたるまたはその中でのレベルの平均、中央値、または平均値を表し、典型的に統計学
的有意性を示す。いくつかの実施形態では、「正常酸素状態の」病態は、約10mm H
gを超える組織内PO2レベルにより定義されてよい。いくつかの実施形態では、
【0060】
栄養素:本明細書で用いるとき、「栄養素」という用語は:細胞、組織または生体の健
康に寄与するアミノ酸及びペプチド、ビタミン、ヌクレオチド、脂肪酸、炭水化物、ミネ
ラル及び他の物質または材料を指す。
【0061】
医薬組成物:本明細書で用いるとき、「医薬組成物」という用語は、1つまたは複数の
薬学的に許容され得る担体と一緒に製剤化された活性剤を指す。いくつかの実施形態では
、活性剤は、適切な母集団に投与されたときに、所定の治療効果を達成する統計学的に有
意な可能性を示す治療レジメンにおける投与に適切な単位用量の量で存在する。いくつか
の実施形態では、医薬組成物は、以下、すなわち経口投与、例えば、水薬(水系または非
水系液剤または懸濁剤)、錠剤、例えば、口腔、舌下、及び全身吸収を標的とするもの、
ボーラス、散剤、顆粒剤、舌に塗布するためのペースト;非経口投与、例えば、皮下、筋
肉内、静脈内または硬膜外注射によって、例えば、滅菌液剤または懸濁剤、または徐放性
製剤として;局所適用、例えば、皮膚、肺、または口腔に適用するクリーム、軟膏、また
は制御放出性パッチまたは噴霧剤として;膣内にまたは直腸内に、例えば、ペッサリー、
クリーム、または泡として;舌下;点眼;経皮;または経鼻、肺、及び他の粘膜表面に適
するものを含む固体または液体形態での投与のために特別に製剤化され得る。
【0062】
薬学的に許容され得る:「薬学的に許容され得る」という用語は、本明細書で用いると
き、健全な医学的判断の範囲内で、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題
または合併症を伴わず、合理的なベネフィット/リスク比に見合う、ヒトまたは動物の組
織との接触における使用に好適である薬剤を指す。
【0063】
薬学的に許容され得る担体:本明細書で用いるとき、「薬学的に許容され得る担体」と
いう用語は、対象化合物をある臓器、または身体の部分から、別の臓器または身体の部分
へと運ぶことまたは輸送することに関与する、薬学的に許容され得る材料、組成物または
ビヒクル、例えば、材料を封入した液体または固体充填剤、希釈剤、賦形剤、または溶媒
を指す。各担体は、製剤の他の成分と適合し、患者にとって有害でないという意味で「許
容可能」でなくてはならない。薬学的に許容され得る担体として機能することができる材
料のいくつかの例には、ラクトース、グルコース及びスクロースなどの糖類;トウモロコ
シデンプン及びジャガイモデンプンなどのデンプン;セルロース、及びカルボキシメチル
セルロースナトリウム、エチルセルロース及び酢酸セルロースなどのその誘導体;粉末ト
ラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;ココアバター及び坐剤ワックスなどの賦形剤;落
花生油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油及びダイズ油など
の油;プロピレングリコールなどのグリコール類;グリセリン、ソルビトール、マンニト
ール及びポリエチレングリコールなどのポリオール;オレイン酸エチル及びラウリン酸エ
チルなどのエステル;寒天;水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;
アルギン酸;発熱物質を含まない水;等張食塩水;リンゲル液;エチルアルコール;pH
緩衝液;ポリエステル、ポリカーボネートまたはポリ無水物;及び医薬製剤に採用される
他の非毒性適合物質が挙げられる。
【0064】
予防:「予防」という用語は、本明細書で用いるとき、発症の遅延、または特定の疾患
、障害もしくは病態の1つまたは複数の症状の頻度もしくは重症度の低下を指す。いくつ
かの実施形態では、予防は、疾患、障害または病態の1つまたは複数の症状の発症、頻度
、または強度において統計学的に有意な低減が、疾患、障害、または病態に感受性である
集団において観察される場合に、薬剤が特定の疾患、障害または病態を「予防する」とみ
なされるように集団に基づいて評価される。
【0065】
前駆細胞:本明細書で用いるとき、「前駆細胞」という用語は、より大きな発生能を有
する細胞、つまり、分化により生じることができる細胞と比較してより初期である(例え
ば、発生経路または進行に沿ってより初期段階である)細胞の表現型を指す。しばしば、
前駆細胞は、有意または非常に高い増殖能を有する。前駆細胞は、細胞が発生し分化する
発生経路及び環境に依存して、より低い発生能を有する、つまり、分化した細胞型の複数
の別個の細胞、または単一の分化した細胞型を生じさせることができる。
【0066】
基準:「基準」という用語は、それに対して対象となる薬剤、個体、集団、試料、配列
または値が比較される、標準または対照の薬剤、個体、集団、試料、配列または値を記載
するために本明細書でしばしば使用される。いくつかの実施形態では、基準の薬剤、個体
、集団、試料、配列または値は、対象となる薬剤、個体、集団、試料、配列または値の試
験または決定と実質的に同時に試験または決定される。いくつかの実施形態では、基準の
薬剤、個体、集団、試料、配列または値は、歴史的な基準であり、任意選択的に有形的表
現媒体において具体化される。典型的には、当業者によって理解され得るように、基準の
薬剤、個体、集団、試料、配列または値は、対象となる薬剤、個体、集団、試料、配列ま
たは値の決定または特徴づけに活用されるものと同等の条件下で決定されるまたは特徴づ
けられる。
【0067】
応答:本明細書で用いるとき、処置に対する応答は、処置の結果として起こるまたは処
置に相関する対象の病態における任意の有益な変化を指してよい。そのような変化は、病
態の安定化(例えば、処置がなければ起こるだろう悪化の予防)、病態の症状の寛解、ま
たは病態の治癒への見込みにおける改善等を含んでよい。それは、対象の応答または腫瘍
の応答を指してよい。腫瘍または対象応答は、臨床的な判定基準及び客観的な判定基準を
含む、広範な判定基準に従って測定されてよい。応答を評価するための技術には、臨床検
査、ポジトロン放射断層法、胸部X線CTスキャン、MRI、超音波検査、内視鏡検査、
腹腔鏡検査、対象から得られた試料における腫瘍マーカーの存在またはレベル、細胞学的
検査、GC-MS、または組織学的検査が含まれるがこれらに限定されない。厳密な応答
判定基準は、腫瘍または患者の群を比較するときは、比較される群は、応答率を決定する
ために同じまたは同等の判定基準に基づいて評価されるということを条件として、任意の
適切な様式で選択されることができる。当業者は、適切な判定基準を選択することができ
るだろう。
【0068】
リスク:文脈から理解され得るように、疾患、障害または病態の「リスク」は、特定の
個体が疾患、障害、または病態を発症し得る可能性の度合いである。いくつかの実施形態
では、リスクは、割合(%)として表現される。いくつかの実施形態では、リクスは、0
、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10から最大100%までである。いくつかの
実施形態では、リスクは、基準試料または基準試料の群に関連するリスクに対するリスク
として表現される。いくつかの実施形態では、基準試料または基準試料の群は、疾患、障
害、または病態の既知のリスクを有する。いくつかの実施形態では、基準試料または基準
試料の群は、特定の個体と同等の個体からのものである。いくつかの実施形態では、相対
的リスクは、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上である。
【0069】
試料:本明細書で用いるとき、「試料」という用語は、典型的に、本明細書に記載のよ
うに、対象となる供給源から得られたまたはそれに由来する生体試料を指す。いくつかの
実施形態では、対象となる供給源は、動物またはヒトなどの生体を含む。いくつかの実施
形態では、生体試料は、生物学的組織または液体であるかまたはこれを含む。いくつかの
実施形態では、生物学的試料は、骨髄;血液;血液細胞;腹水;組織または細針生検試料
;細胞を含有する体液;浮動性(free floating)核酸;喀痰;唾液;尿;
脳脊髄液、腹水;胸水;糞便;リンパ;婦人科学的流体;皮膚スワブ;膣スワブ;口腔ス
ワブ;鼻スワブ;洗浄液または洗浄物、例えば腺管洗浄物または気管支肺胞(bronc
heoalveolar)洗浄物;吸引物;擦過物;骨髄検体;組織生検検体;外科的検
体;糞便、他の体液、分泌物または排出物;またはそれらに由来する細胞等であってよい
かまたはこれを含んでよい。いくつかの実施形態では、生体試料は、個体から得られた細
胞であるかまたはこれを含む。いくつかの実施形態では、得られた細胞は、試料を得た個
体から得られた細胞であるかまたはこれを含む。いくつかの実施形態では、試料は、対象
となる供給源から任意の適切な手段によって直接的に得られた「一次試料」である。例え
ば、いくつかの実施形態では、一次生体試料は、生検(例えば、細針吸引または組織生検
)、外科手術、体液(例えば、血液、リンパ、糞便等)の収集等からなる群から選択され
る方法によって得られる。いくつかの実施形態では、文脈から明らかであり得る通り、「
試料」という用語は、一次試料の処理によって(例えば、一次試料の1つまたは複数の構
成成分を除去することによって、または一次試料に1つまたは複数の薬剤を添加すること
によって)得られる調製物を指す。例えば、半透過膜を使用して濾過する。このような「
処理された試料」は、試料から抽出された、または一次試料を、mRNAの増幅もしくは
逆転写、ある特定の構成成分の単離または精製などの技術に供することによって得られた
、例えば核酸またはタンパク質を含んでよい。
【0070】
小分子:本明細書で用いるとき、「小分子」という用語は、低分子量の有機化合物また
は無機化合物を意味する。一般に、「小分子」は、サイズが約5キロダルトン(kD)未
満の分子である。いくつかの実施形態では、小分子は、約4kD、3kD、約2kD、ま
たは約1kD未満である。いくつかの実施形態では、小分子は、約800ダルトン(D)
、約600D、約500D、約400D、約300D、約200D、または約100D未
満である。いくつかの実施形態では、小分子は、約2000g/mol未満、約1500
g/mol未満、約1000g/mol未満、約800g/mol未満、または約500
g/mol未満である。いくつかの実施形態では、小分子は、ポリマーではない。いくつ
かの実施形態では、小分子は、ポリマー部分を含まない。いくつかの実施形態では、小分
子は、タンパク質またはポリペプチドではない(例えば、オリゴペプチドまたはペプチド
ではない)。いくつかの実施形態では、小分子は、ポリヌクレオチドではない(例えば、
オリゴヌクレオチドではない)。いくつかの実施形態では、小分子は、多糖類ではない。
いくつかの実施形態では、小分子は、多糖類を含まない(例えば、糖タンパク質、プロテ
オグリカン、糖脂質等ではない)。いくつかの実施形態では、小分子は、脂質ではない。
いくつかの実施形態では、小分子は、調節剤である。いくつかの実施形態では、小分子は
、生物学的に活性である。いくつかの実施形態では、小分子は、検出可能である(例えば
、少なくとも1つの検出可能な部分を含む)。いくつかの実施形態では、小分子は、治療
的である。
【0071】
特異的:「特異的」という用語は、活性を有する薬剤または実体を参照して本明細書で
用いるとき、当業者には、その薬剤または実体が、潜在的に可能な標的または状態の間の
違いを識別することを意味すると理解される。例えば、薬剤は、競合する代替標的の存在
下でその標的に優先的に結合する場合、その標的に「特異的に」結合するとされる。いく
つかの実施形態では、薬剤または実体は、その標的に結合する条件下では、競合する代替
標的に検出可能に結合しない。いくつかの実施形態では、薬剤または実体は、競合する代
替標的(複数可)と比較して、その標的に対してより高いオン速度(on-rate)、
より低いオフ速度(off-rate)、増加した親和性、低減した解離性、または増加
した安定性を伴って結合する。
【0072】
ストレス誘発性障害:「ストレス誘発性障害」という用語は、生体がその恒常性を乱す
環境に置かれたときに生じるものを含む。疾病、疾患、生命を脅かす事象、飢餓、疲労、
低酸素等の事象は、全て生体に対するストレス因子であると理解される。いくつかの実施
形態では、ストレス誘発性障害は、低酸素により引き起こされる。
【0073】
幹細胞:「幹細胞」という用語は、自己複製し、分化して後代細胞を産生するという両
方の、単一細胞のレベルでのそれらの能力により定義される未分化細胞を含むがこれに限
定されない。後代細胞には、自己複製前駆細胞、非再生前駆細胞、及び最終分化細胞が挙
げられる。例えば、「幹細胞」は、(1)全能性幹細胞;(2)多能性幹細胞;(3)複
能性幹細胞;(4)小能性幹細胞;及び(5)単能性幹細胞を含んでよい。
【0074】
対象:「対象」は、哺乳類(例えば、いくつかの実施形態では、出生前のヒト形態を含
むヒト)を意味する。いくつかの実施形態では、対象は、関連性のある疾患、障害または
病態に罹患している。いくつかの実施形態では、対象は、疾患、障害または病態に感受性
である。いくつかの実施形態では、対象は、疾患、障害または病態の1つまたは複数の症
状または特徴を呈している。いくつかの実施形態では、対象は、疾患、障害または病態の
いずれの症状または特徴も呈さない。いくつかの実施形態では、対象は、疾患、障害もし
くは病態に対する感受性、または疾患、障害もしくは病態のリスクに特徴的な1つまたは
複数の特徴を有するものである。対象は、患者であることができ、それは、疾患の診断ま
たは処置を提供する医師の診察を受けるヒトを指す。いくつかの実施形態では、対象は、
治療を施される個体である。
【0075】
実質的に:本明細書で用いるとき、「実質的に」という用語は、対象となる特徴または
特性の全てまたはほぼ全ての程度または度合いを呈する質的な状態を指す。生物学的分野
の当業者は、生物学的現象及び化学的現象が、完全であるかもしくは完全に至るまで進行
する、または絶対的な結果を達成するまたは回避することは、仮にあるとしてもめったに
ないことを理解するだろう。ゆえに、「実質的に」という用語は、本明細書では、多くの
生物学的現象及び化学的現象に固有の、完全性の潜在的な欠如を捉えるために使用される
。
【0076】
感受性である:疾患、障害または病態(例えば、インフルエンザ)に「感受性である」
個体は、その疾患、障害または病態を発症するリスクがある。いくつかの実施形態では、
疾患、障害または病態に感受性である個体は、その疾患、障害または病態のいずれの症状
も呈さない。いくつかの実施形態では、疾患、障害または病態に感受性である個体は、そ
の疾患、障害または病態を有していると診断されていない。いくつかの実施形態では、疾
患、障害または病態に感受性である個体は、その疾患、障害または病態の発症に関連する
条件に曝露されている個体である。いくつかの実施形態では、疾患、障害または病態を発
症するリスクは、集団に基づくリスクである(例えば、疾患、障害または病態に罹患して
いる個体の家族)。
【0077】
症状が低下する:本発明に従い、特定の疾患、障害または病態の1つまたは複数の症状
が大きさ(例えば強度、重症度等)または頻度において低下するとき、「症状が低下する
」。明確にする目的で、特定の症状の発症の遅延は、その症状の頻度が低下する1つの形
態とみなされる。比較的小さい腫瘍を有する多くの癌患者は、症状がない。本発明は、症
状が排除される場合だけに限定されることを意図しない。本発明は、具体的には、1つま
たは複数の症状が、完全には排除されなくても低下する(及び対象の病態が、それによっ
て「改善される」)ように処置を企図する。
【0078】
治療剤:本明細書で用いるとき、「治療剤」という表現は、一般に、生体に投与される
と所望の薬理学的効果を引き出す任意の薬剤を指す。いくつかの実施形態では、薬剤は、
適切な集団全体に統計学的に有意な効果があることを実証する場合に、治療剤であるとみ
なされる。いくつかの実施形態では、適切な集団は、モデル生体の集団であってよい。い
くつかの実施形態では、適切な集団は、例えば、ある特定の年齢群、性別、遺伝的背景、
既存の臨床状態等の様々な判定基準によって定義され得る。いくつかの実施形態では、治
療剤は、疾患、障害または病態の1つまたは複数の症状または特徴を、軽減する、寛解さ
せる、和らげる、阻害する、防止する、その発症を遅延させる、その重症度を低下させる
、またはその発生率を低下させるために使用できる物質である。いくつかの実施形態では
、「治療剤」は、ヒトに投与するために販売され得る前に、政府機関によって承認されて
いるかまたは承認される必要がある薬剤である。いくつかの実施形態では、「治療剤」は
、ヒトに投与するために医学的処方箋が必要とされる薬剤である。
【0079】
治療有効量:本明細書で用いるとき、それが投与されるものにとって所望の効果を産生
する量を意味する。いくつかの実施形態では、本用語は、治療投与レジメンに従って、疾
患、障害、または病態に罹患しているまたは感受性である集団に投与されたときに、該疾
患、障害、または病態を処置するのに十分な量を指す。いくつかの実施形態では、治療有
効量は、疾患、障害、または病態の1つまたは複数の症状の、発生率または重症度を低下
させる、またはその発症を遅らせるものである。当業者は、「治療有効量」という用語が
、特定の個体において処置の成功が実際に達成されることを要しないことを理解するだろ
う。むしろ、治療有効量は、そのような処置を必要とする患者に投与されたとき、有意な
数の対象において特定の所望の薬理学的な応答を提供する量であってよい。いくつかの実
施形態では、治療有効量への言及は、1つまたは複数の特定の組織(例えば、疾患、障害
または病態に冒された組織)または液体(例えば、血液、唾液、血清、汗、涙、尿、等)
において測定される量への言及であってよい。当業者は、いくつかの実施形態では、治療
有効量の特定の薬剤または治療が、製剤化されてよいかまたは単回用量で投与されてよい
ことを理解するだろう。いくつかの実施形態では、治療的に有効な薬剤は、例えば、投与
レジメンの一部として、製剤化されてよいかまたは複数の用量で投与されてよい。
【0080】
処置:本明細書で用いるとき、「処置」(「処置する」または「処置すること」)とい
う用語は、特定の疾患、障害または病態(例えば、癌)の1つまたは複数の症状、特性ま
たは原因を、部分的または完全に軽減する、寛解させる、和らげる、阻害する、その発症
を遅延させる、その重症度を低下させる、またはその発生率を低下させる物質(例えば、
抗受容体チロシンキナーゼ抗体または受容体型チロシンキナーゼアンタゴニスト)の任意
の投与を指す。このような処置は、関連性のある疾患、障害もしくは病態の徴候を呈さな
い対象、または疾患、障害もしくは病態の初期徴候だけを呈する対象のものであってよい
。あるいはまたは加えて、このような処置は、関連性のある疾患、障害または病態の、1
つまたは複数の確立された徴候を呈する対象のものであってよい。いくつかの実施形態で
は、処置は、関連性のある疾患、障害または病態に罹患していると診断された対象のもの
であってよい。いくつかの実施形態では、処置は、関連性のある疾患、障害または病態が
発症するリスクの増加に統計的に相関している、1つまたは複数の感受性要因を有するこ
とが公知の対象のものであってよい。
【0081】
単位用量:「単位用量」という表現は、本明細書で用いるとき、医薬組成物の単回用量
としてまたは物理的に別個の単位で投与される量を指す。多くの実施形態では、単位用量
は、所定量の活性剤を含有する。いくつかの実施形態では、単位用量は、薬剤の単回用量
全体を含有する。いくつかの実施形態では、1つより多いの単位用量が、全ての単回用量
を達成するために投与される。いくつかの実施形態では、意図した効果を達成するために
、複数の単位用量の投与が必要とされるか、または必要であると予測される。単位用量は
、例えば、所定量の1つまたは複数の治療剤を含有する液体(例えば、許容され得る担体
)の体積、固体形態の所定量の1つまたは複数の治療剤、所定量の1つまたは複数の治療
剤を含有する徐放製剤または薬物送達デバイス等であってよい。単位用量は、治療剤(複
数可)の代わりにまたはそれに加えて、様々な構成成分のいずれかを含む製剤内に存在し
てよいことが理解されるだろう。例えば、許容され得る担体(例えば、薬学的に許容され
得る担体)、希釈剤、安定剤、緩衝液、保存剤等が、下記のように、含まれてよい。多く
の実施形態では、特定の治療剤の適切な1日の総投与量は、一部または複数の単位用量を
含んでよく、例えば担当医によって健全な医学的判断の範囲内で決定されてよいことを、
当業者は理解するだろう。いくつかの実施形態では、任意の特定の対象または生体のため
の特定の有効用量レベルは、処置される障害及び障害の重症度;採用される特定の活性化
合物の活性;採用される特定の組成物;対象の年齢、体重、全身健康状態、性別及び食事
;採用される特定の活性化合物の投与時間及び排出速度;処置期間;採用される特定の化
合物(複数可)と組み合わせてまたは同時に使用される薬物または追加の治療、及び医療
分野で周知の類似の因子を含む、様々な因子に依存してよい。
【0082】
ある特定の実施形態の詳細説明
本発明は、なかでも、低酸素と関連する病態を診断または処置するための組成物または
システムを提供する。いくつかの実施形態では、本開示は、細胞多能性または分化を調節
するための組成物またはシステムも記載する。
【0083】
本発明の様々な態様は、以下の項において詳細に記載される。項の使用は、本発明の限
定を意図しない。各項は、本発明の任意の態様に適用されることができる。この出願では
、「または」の使用は、別段の指定がない限り、「または」を意味する。
【0084】
低酸素及びストレス誘発性代謝
ストレス、例えば、低酸素、感染、飢餓、温度、毒性等は、細胞の代謝に著しく影響を
与え、主要な疾患に寄与する。下記の実施例に示すように、本発明の実施形態は、ストレ
ス誘発性代謝の試験を包含する。いくつかの実施形態では、ストレスは、低酸素により引
き起こされる。
【0085】
低酸素は、様々な疾患プロセスに関与し、未処置のままにされた場合、著しい組織損傷
の原因となる。酸素の、定常的な不断の供給が生命を維持させるために不可欠である。低
酸素は、血液または組織中の酸素含有率が低い状態であり、酸素供給と需要の不均衡から
生じる。低酸素のいくつかの異なるサブタイプが知られている。例えば、貧血性低酸素は
、機能的ヘモグロビンの濃度の低減または赤血球細胞の数の減少による。低酸素性低酸素
は、肺内での酸素化の欠損メカニズムから生じ、これは低圧の酸素、肺機能の異常、気道
閉塞、または心臓における右から左短絡により引き起こされ得る。酸素親和性低酸素は、
酸素を還元するヘモグロビンの能力の低下による。組織または細胞の低酸素は、冠動脈血
流の中断または動脈血酸素分圧(PO2)における低下により引き起こされる。
【0086】
生命を維持するための酸素の必要性を考慮すると、生体は、多様なメカニズムを進化さ
せて、酸素利用可能度の急性及び慢性の両方の低減;つまり、急性及び慢性低酸素に対応
してきた。多細胞生体、特に哺乳類にとって、これらのメカニズムは、赤血球生成、血管
新生及び細胞の活性を最小許容可能レベルで維持するように設計された適応性の代謝変化
を含む。急性低酸素は、脳卒中、敗血症性ショック、心筋梗塞、及び外科的処置中などの
状況において生じる。一方で、慢性低酸素は、貧血症、うっ血性心不全、肺疾患、先天性
心疾患、ならびに癌と関連する。
【0087】
しかしながら、低酸素に関連する疾患の上記リストが低酸素に関与するすべての病態の
完全なリストではないことが理解されたい。当業者は、本開示の組成物またはシステムが
、上記リストにないものを含む任意の低酸素に関連する疾患、障害または病態に適用され
ることができることを知っている。
【0088】
低酸素条件下でのL-2HG代謝
栄養素及び代謝中間体が、細胞の成長及び増殖を促進することに加えて生理学的攪乱(
physiologic perturbations)に対する細胞の応答に影響を与
えることができることが知られている(Vander Heidenら、2009;Wa
rd及びThompson,2012)。本開示は、なかでも、L-2HG誘発を、低酸
素により強いられたストレスに対する新規の細胞の代謝的応答として同定する。
【0089】
本開示は、2HGの以前の知識を大幅に拡張し、L-2HGを細胞の代謝のある特定の
機能を制御する新規代謝産物として実証する。栄養素及び代謝産物は、基礎的な細胞のプ
ロセスに影響を与える(Kaelin及びMcKnight,2013;Vander
Heidenら、2009)。α-KG及び2HG間の関係は、一つのそのような例とし
て提案されている。例えば、α-KGは、ヒストン及びDNAのジメチル化、HIF1α
安定性の制御、及びコラーゲンの成熟化などの多様な機能に関与するおおよそ70種の異
なる酵素に対する必須基質として機能する(Losman及びKaelin,2013)
。これらの酵素的プロセスをα-KG利用能につなげることにより、細胞の代謝的適応は
、系統分化及び環境的ストレス要因への適応などの重要な細胞の「決断」に密接につなが
ることができる。「癌代謝物」D-2HGによるα-KGに依存する酵素活性の阻害は、
それによりIDH1/2における発癌性変異が正常な細胞の生理機能を崩壊させる主なメ
カニズムを表すと思われる(Kaelin及びMcKnight,2013;Losma
n及びKaelin,2013;Ward及びThompson,2012)。
【0090】
2-ヒドロキシグルタル酸(2HG)は、D-またはL-立体異性体のいずれでも存在
することができるキラル分子である。L-2HGと比べて、D-2HGは、集中的な研究
の対象となっている。イソクエン酸デヒドロゲナーゼ1または2(IDH1/2)におけ
る変異は、「癌代謝物」D-2-ヒドロキシグルタル酸(D-2HG、(R)-2-ヒド
ロキシグルタル酸としても知られる)の産生をもたらす。D-2HGは、Jumonji
ファミリーヒストンリジン脱メチル化酵素を含む、α-ケトグルタル酸(α-KG)に依
存する酵素の競合阻害剤として機能することにより悪性細胞の分化を妨害する。
【0091】
IDH1/2変異による悪性病変の分子病態におけるD-2HGの役割の解明に焦点を
あてた集中的な研究努力とは対照的に、正常な細胞生理学におけるD-2HG及びL-2
HGの制御された産生及び排除の潜在的な役割は、あまり注目されていない(Krane
ndijkら、2012)。癌関連IDH1/2変異は、D-2HGを排他的に産生する
が、生化学研究は、L-2-ヒドロキシグルタル酸(L-2HG、(R)-2-ヒドロキ
シグルタル酸)が、α-KGに依存する酵素のより強力な阻害剤として機能することを実
証している。しかしながら、L-2HGの生物学的源または活性は未知のままである。両
方の2-ヒドロキシグルタル酸エナンチオマーの潜在的な生理学的役割は、D2HGDH
(D-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ)及びL2HGDH(L-2-ヒドロ
キシグルタル酸デヒドロゲナーゼ)として知られる進化的に保存されている「老廃物処理
」酵素の存在により示され、それらの唯一の機能は、それぞれD-2HGまたはL-2H
Gをα-ケトグルタル酸に変換することである。
【0092】
本開示は、なかでも、L-2HG誘発を、低酸素により強いられた環境的ストレスに対
する新規の細胞の代謝応答として同定する。例えば、本発明者らは、低酸素におけるL-
2HGの産生は、IDH1/2とは独立して起こり、代わりに主にLDHAによるα-K
Gの無差別酵素的還元を介して生じることを発見した。
【0093】
本開示は、IDH1またはIDH2の機能喪失は、複数のタイプの細胞において低酸素
条件ではL-2HGの産生を損なわないことを実証する。ゆえに、IDH1/2酵素は、
基質結合の際の立体的拘束のために、α-KGをL-2-ヒドロキシグルタル酸に還元さ
せることができない可能性が高い。本発明者らは、その主な触媒活性が、α-KG及びL
-2HGに対する構造的類似性を伴ったα-ケト酸基質のL-ヒドロキシル酸への還元を
必然的に含む代謝酵素の要件を試験した。
【0094】
しかしながら、本開示は、際立って、乳酸脱水素酵素A(LDHA)が、低酸素誘発性
L-2HGの産生に必要とされる主要な酵素であることを実証する。本開示は、低酸素誘
発性L-2HGへのMDH1及びMDH2からの部分的な寄与を同定する。これらの所見
は、LDHA及びMDH2の組み合わせ除去が、低酸素誘発性L-2HGのほぼ全ての抑
止も結果もたらしたときに確認された。本開示は、例えば、遺伝子操作(例えば、機能喪
失)及び構造生物学を含む、複数連の証拠からL-2HG代謝におけるLDHAの役割を
実証する。例えば、本発明者らは、LDHAの活性部位が、L-2HGへのα-KGの還
元に対応することができることを発見した。まとめると、本開示からのこれらの知見は、
低酸素性細胞が、細胞基質のMDH1及びミトコンドリアのMDH2からの少しの寄与を
伴って、LDHAによる乱雑な基質使用を介して細胞質でグルタミン由来のα-KGの還
元からL-2HGを産生することができることを示唆する。
【0095】
低酸素誘発性L-2HGは、利用できる酸素が制限されたときに、それにより細胞がα
-KGに依存するプロセス(例えば、H3K9me3の脱メチル化)を抑圧し得る分子メ
カニズムを表す。本発明者らは、L-2HGが、低酸素適応のα-KG依存性逆転を抑制
できることを発見した。ゆえに、本開示は、なかでも、低酸素誘発性L-2HGが、それ
を通して細胞が低酸素適応に反作用し得るα-KGに依存するプロセスの抑圧を維持する
ことができる手段を表すことを実証する。いくつかの実施形態では、本開示は、L-2H
Gの低酸素誘発性蓄積がグルタミン依存性であることを実証し、これは、低酸素における
グルタミン依存性L-2HG産生と持続的なHIF1α誘発との間の連結を示す。
【0096】
いくつかの実施形態では、本開示は、環境的ストレス、具体的には低酸素が、L-2H
Gを制御する細胞のメカニズムを引き起こすことを記載する。それゆえ、本開示は、それ
により低酸素がL-2HG代謝に影響を与える分子メカニズムを解明した。
【0097】
低酸素及び低酸素誘発性傷害の診断
本発明は、なかでも、低酸素または低酸素誘発性傷害について診断する新規システムを
提供する。いくつかの実施形態では、本開示は、低酸素に関連する疾患、障害または病態
を診断するためのシステムを記載する。通常条件下の哺乳類細胞及び体液中でめったに痕
跡量で見いだされない代謝産物である、L-2HGが、不十分な酸素供給の条件下で再現
性よく有意に上昇し、低酸素または低酸素誘発性傷害のバイオマーカーとして十分に機能
することが、本発明に従って決定されている。
【0098】
L-2HGが、LDHAの作用を通してクエン酸回路中間体α-ケトグルタル酸の非カ
ルボキシル化還元から生じることが、本発明に従って決定された。本開示は、MDH1ま
たはMDH2もこのプロセスに寄与することを実証する。通常条件下では、L-2HGを
産生するこの反応の程度は最小であり、産生されるL-2HGは、L-2HGを酸化させ
てα-ケトグルタル酸へと戻すように機能する、L-2HGデヒドロゲナーゼの酵素活性
のために実質的に蓄積しない。しかしながら、本明細書に開示するように、低酸素条件後
は、α-ケトグルタル酸の正常な酸化的代謝がヒト細胞中で抑制され、α-ケトグルタル
酸は、L-2HGの蓄積をもたらす還元的代謝を優先的に受ける。
【0099】
L-2HG上昇は、低酸素と共に生じ、細胞レベルでの代謝における変化を反映する。
血清総2HG(両L-及びD-2HG)が上昇する低酸素とは独立した既知の状況は、生
殖細胞系列遺伝子変異を必然的に含む稀な代謝の先天異常、またはIDH1/2遺伝子内
の特定の体細胞変異を伴う骨髄性血液悪性腫瘍に限られる。これらの患者は、心肺疾患ま
たは組織低酸素を呈する数に対して稀であり、それらの症状は特有であり重複しない。そ
れゆえ、慢性低酸素のL-2HGを試験することに伴う偽陽性のリクスは低い傾向にある
。
【0100】
実施例の項において論ずるように、L-2HGは、低酸素のバイオマーカーであり、低
酸素の診断に使用することができると発見されている。L-2HGレベルは、当業者に公
知の任意の方法で検出されてよい。様々な検出方法の非限定的な例を下記に論ずる。本発
明は、ガスクロマトグラフィー質量分析(「GC-MS」)、液体クロマトグラフィー質
量分析(「LC-MS」)、酵素アッセイ及び免疫系の方法などの方法が、L-2HGレ
ベルの測定に使用されてよいという具体的な見識を提供する。本発明は、キラル誘導体化
が、D-2HGとL-2HGを区別するために使用されることができるということを提供
する。
【0101】
いくつかの実施形態では、本開示は、低酸素及び低酸素誘発性傷害を診断するための方
法を記載する。ある特定の実施形態では、血液または組織中のL-2HGのレベルを測定
することは、組織低酸素に感受性の及び特異的なバイオマーカーとして機能し得、低酸素
に関連する疾患、障害または病態の診断またはモニタリングについて潜在的な臨床的な関
連を伴う。
【0102】
本発明は、なかでも、低酸素が、LDHA、MDH1、MDH2、またはL-2HGデ
ヒドロゲナーゼを含むがこれに限定されない、ある特定のL-2HG関連酵素の発現また
は活性により診断されることができることを提供する。これらの酵素が測定される実施形
態では、追加のマーカーが当業者に公知の任意の方法によって測定されてよい;例えば、
イムノアッセイ(例えば、ウェスタンブロット法)、ハイブリダイゼーション(例えば、
ノーザンブロット法)、RT-PCR、及び質量分析)。例えば、特定の実施形態では、
L-2HGレベルは、GC-MSによりアッセイされ、LDHA、MDH1、MDH2、
またはL-2HGデヒドロゲナーゼの、核酸またはイムノアッセイをベースとする測定と
組み合わせて評価または相関されてよい。
【0103】
いくつかの実施形態では、本開示は、対象からのL-2HGのレベルは、正常酸素状態
対照対象からのものと比較することができることを記載する。いくつかの実施形態では、
本開示は、対象からのL-2HGのレベルは、急性低酸素または慢性低酸素と診断された
患者からのものと比較することができることを記載する。
【0104】
本開示は、患者における低酸素誘発性傷害を診断するためのシステムを代替的にまたは
追加的に記載する。症候性または亜症候性でない低酸素誘発性傷害は、臨床的に診断する
ことがしばしば難しい。しかしながら、試料からL-2HGレベルを測定することは、対
象における低酸素誘発性傷害についての指標を与え得る。
【0105】
本開示は、低酸素または低酸素誘発性傷害を診断することまたは処置することを伴う、
それに対してL-2HGレベルを比較することができるパラメータを記載する。一例をあ
げると、いくつかの実施形態では、本開示は、L-2HGレベルが正常酸素状態の基準対
象のものと比較して上昇している対象への低酸素治療を施すことによる低酸素の処置を記
載する。いくつかの実施形態では、L-2HGのレベルの上昇は、正常酸素状態の対象に
ついて観察されるものと比較して、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、
少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、
少なくとも10倍であるか、またはさらに高い
【0106】
いくつかの実施形態では、本開示は、L-2HGが、低酸素または低酸素誘発性傷害を
診断するために単独で使用され得ることを記載する。いくつかの実施形態では、本開示は
、診断においてバイオマーカーセットの一部としてL-2HGを使用する方法を記載する
。例えば、いくつかの実施形態では、本開示は、対象からの試料中の少なくとも2つのバ
イオマーカーを測定する方法を記載し、ここで少なくとも2つのバイオマーカーのうちの
1つはL-2HGである。
【0107】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載するような低酸素マーカーは、患者試料中で
測定される。いくつかの実施形態では、試料は、例えば、心臓、動脈、脳、腫瘍、または
それらの組み合わせからの組織試料であってよいかまたはこれを含んでよい。いくつかの
実施形態では、試料は、血液、尿、血清、リンパまたは脳脊髄液であってよいかまたはこ
れを含んでよい。いくつかの実施形態では、試料は、静脈血試料であってよいかまたはこ
れを含んでよい。
【0108】
当業者は、低酸素性状態が、低酸素性傷害を有する組織、例えば、腫瘍、及び隣接する
または近接する組織の両方において見出され得ることを理解するだろう。例えば、慢性低
酸素は、血液毛細血管及び低酸素性領域間の腫瘍細胞による酸素の消費及び枯渇により引
き起こされ得る。ゆえに、組織または対象が低酸素であるかどうかを決定するためのL-
2HGレベルの測定のための試料は、腫瘍そのものかまたは近接する組織から得てよい。
【0109】
くつかの実施形態では、本開示は、患者集団を(例えば、低酸素治療での処置に対する
それらの候補性に関して)層別化するため、または1つまたは複数の対象に施したときの
特定の治療の有効性をモニターするまたは調節するための技術を提供する
【0110】
いくつかの実施形態では、本開示は、治療的介入の臨床的評価のためのバイオマーカー
としてのL-2HGの使用を記載する。例えば、血液からのL-2HGのクリアランスは
、低酸素に関連する疾患、障害または病態に対する治療的介入の妥当性を評価するための
バイオマーカーとして使用することができる。適切な処置の特定もしくは選択、患者が処
置に陽性反応を有するかどうかの決定、または処置の最適化は、これらの方法で得られた
情報を使用して導くことができる。
【0111】
いくつかの実施形態では、本発明は、対照において、治療の有効性を評価する、治療に
対する応答性をモニタリングする、疾患経過の予後、疾患進行の測定のための方法を提供
する。例えば、1つまたは複数の時点の対象から得た生体試料について決定された好適な
バイオマーカー(例えば、L-2HG、またはLDHAの発現/活性)のレベルは、1つ
または複数の他の時点の対象からのレベルと比較される。
【0112】
L-2HGの調節
本明細書で提供する方法及び組成物が、様々な低酸素に関連する疾患、障害または病態
のいずれかを処置するために使用されてよいことが企図される。L-2HGが、コラーゲ
ン成熟化に関与する酵素の強力な阻害剤であると示されている(Koivunenら、N
ature 2012)ため、L-2HGの低酸素性誘発は、虚血性組織傷害後の組織修
復及び新血管形成に関与し得る。例えば、本開示は、L-2HG産生の治療的操作、例え
ば、LDHA活性(低酸素性L-2HGの主な源)の調節、L-2HGの外因性補充等が
、心筋梗塞または虚血性脳卒中などの病態において利益となり得ることを記載する。
【0113】
治療的使用は、単独で、またはかかる低酸素に関連する疾患、障害もしくは病態の処置
に使用されると知られている他の処置と組み合わせて、L-2HG代謝を調節する薬剤の
投与を含む。例えば、いくつかの実施形態では、癌を有する患者については、治療的使用
は、単独で、または化学療法等の癌療法と組み合わせて、L-2HG代謝を調節する薬剤
の投与を含む。
【0114】
いくつかの実施形態では、本開示は、低酸素または低酸素誘発性傷害を処置するための
新規組成物またはシステムを記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、低酸素に関
連する疾患、障害または病態を処置するための組成物またはシステムを記載する。当業者
は、本開示により記載される組成物またはシステムが、任意の低酸素に関連する疾患、障
害または病態を処置するために使用されることができることを知るであろう。
【0115】
いくつかの実施形態では、本開示は、組織中のまたは系統的にL-2HGレベルを調節
する治療を記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、対象においてL-2HGのレ
ベルを増加させる治療を記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、対象においてL
-2HGのレベルを低減させる治療を記載する。
【0116】
いくつかの実施形態では、本開示は、L-2HG代謝を調節する薬剤を含む組成物の投
与を含む治療を記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、組織への送達を達成する
経路を介した対象への組成物の投与を含む治療を記載する。
【0117】
いくつかの実施形態では、本開示は、L-2HGであるかまたはそれを含む薬剤を含む
組成物の投与を含む治療を記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、L-2HGの
アンタゴニストであるかまたはそれを含む薬剤を含む組成物の投与を含む治療を記載する
。
【0118】
いくつかの実施形態では、本開示は、限定されないが、α-ケトグルタル酸、α-ケト
グルタル酸の細胞透過性変異体(例えば、α-ケトグルタル酸ジメチル)、グルタミン、
またはグルタミン酸塩を含む組成物を投与することを含む治療を記載する。いくつかの実
施形態では、本開示は、α-ケトグルタル酸のアンタゴニストであるかまたはそれを含む
薬剤を含む組成物の投与を含む治療を記載する。
【0119】
いくつかの実施形態では、本開示は、L-2HG代謝を調節するための標的剤を記載す
る。原則として、そのレベル、形態、または活性がL-2HG代謝の特性と相関するまた
はそれを調節する(例えば、阻害するまたは増強する)任意の薬剤は、少なくとも本明細
書に記載のある特定の実施形態については、L-2HG標的剤であることができる。いく
つかの実施形態では、本開示は、LDHA、MDH1、MDH2、及びL-2-ヒドロキ
シグルタル酸デヒドロゲナーゼからなる群より選択される1つまたは複数の分子の発現ま
たは活性に影響を与える薬剤を含む組成物の投与を含む治療を記載する。いくつかの実施
形態では、本開示は、それへのLDHAの阻害剤の投与を含む治療を記載する。いくつか
の実施形態では、本開示は、L-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼのアクチベ
ーターの投与を含む治療を記載する。
【0120】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のようにL-2HG代謝を標的とする薬剤は
、小分子であるかまたはこれを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のように
L-2HG代謝を標的とする薬剤は、ポリペプチドであるかまたはこれを含む。いくつか
の実施形態では、本明細書に記載のようにL-2HG代謝を標的とする薬剤は、核酸であ
るかまたはこれを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のようにL-2HG代
謝を標的とする薬剤は、グリカンであるかまたはそれを含む。いくつかの実施形態では、
本明細書に記載のようにL-2HG代謝を標的とする薬剤は、脂質であるかまたはそれを
含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のようにL-2HG代謝を標的とする薬
剤は、(例えば、L-2HG代謝機構の構成成分に結合する)抗体薬であるかまたはこれ
を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のようにL-2HG代謝を標的とする
薬剤は、(例えば、L-2HG代謝機構の構成成分、またはそれをコードするまたは補助
する遺伝子または遺伝子産物に結合する)核酸剤(例えば、アンチセンス、shRNAま
たはsiRNA剤)であるかまたはそれを含む。いくつかの実施形態では、標的剤は、検
出可能部分であるか、それと関連する。いくつかの実施形態では、標的剤は、治療部分と
結合している。
【0121】
一般に、本開示は、L-2HG代謝を標的とすることによりある特定の低酸素誘発性傷
害を処置することの望ましさ及び有効性を実証する。当業者は、そのような標的を実現す
るために任意の様々なアプローチが活用されてよいことを理解するだろう。
【0122】
本発明のシステムの様々な実施形態に従って、L-2HGまたはL-2HG代謝を調節
する酵素を標的とする薬剤は、単独で、または組成物もしくは医薬品の構成成分として、
本明細書に記載のように対象に投与されることができる。
【0123】
いくつかの実施形態では、本明細書で提供する薬剤は、生理学的に許容され得る担体ま
たは賦形剤と製剤化されて医薬組成物を調製することができる。いくつかの実施形態では
、そのような医薬組成物中で活用される担体、または組成物そのものは、無菌であること
ができる。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、投与の特定の様式用に製剤化される
。組成物を製剤化するためのシステムは、当該分野で公知である(例えば、Reming
ton’s Pharmaceuticals Sciences,第17版、Mack
Publishing Co.,(Alfonso R.Gennaro,編集)(1
989)を参照されたい)。
【0124】
組成物または医薬品は、必要に応じて、タンパク質(特に、アルブミン)、ナノ粒子、
微小粒子、リポソーム、及びミセルのうちの1つまたは複数を、例えば担体として、特に
脂肪酸または脂質の送達用に、含有することができる。
【0125】
本明細書に記載の組成物は、任意の適切な経路で投与されてよい。いくつかの実施形態
では、組成物は皮下投与される。本明細書で用いるとき、「皮下組織」という用語は、皮
膚の直下にある疎性、不規則性結合組織の層として定義される。例えば、皮下投与は、大
腿部、腹部、臀部、肩甲部を含むがこれらに限定されない、領域内に組成物を注射するこ
とにより実施されてよい。いくつかの実施形態では、組成物は、静脈内投与される。いく
つかの実施形態では、組成物は経口投与される。いくつかの実施形態では、組成物は、心
臓または筋肉(例えば、筋肉内)、腫瘍(腫瘍内)、神経系(例えば、脳への直接注射;
脳室内;髄腔内)などの標的組織への直接投与により投与される。あるいはまたは加えて
、組成物は、吸入、非経口、皮内、経皮、または経粘膜(例えば、経口または経鼻)によ
り投与されることができる。必要に応じて、1つより多い経路を同時に使用することがで
きる。
【0126】
いくつかの実施形態では、組成物は、治療有効量または特定の所望の転帰と相関する投
与レジメンに従って投与される。
【0127】
本開示に従って投与される特定の用量または量は、例えば、所望の転帰の特性もしくは
程度、投与の特定の経路もしくは時期、または1つまたは複数の特徴(例えば、体重、年
齢、病歴、遺伝的特徴、ライフスタイルパラメータ、またはそれらの組み合わせ)に依存
して変動してよい。そのような用量または量は、当業者により決定することができる。い
くつかの実施形態では、適切な用量または量は、標準的な臨床技術に従って決定される。
あるいはまたは加えて、いくつかの実施形態では、適切な用量または量は、望ましいまた
は最適な投与量範囲または投与するべき量の特定を助けるために、1つまたは複数のイン
ビトロまたはインビボアッセイの使用を通して決定される。
【0128】
いくつかの実施形態では、本明細書で提供する組成物は、医薬製剤として提供される。
いくつかの実施形態では、医薬製剤は、発生率または特定の終末点、例えば、腫瘍、心筋
梗塞等の発生率またはリスクの低下の達成と相関する投与レジメンに従って投与するため
の単位用量の量であるかまたはこれを含む。
【0129】
いくつかの実施形態では、L-2HG代謝機構のある特定の構成成分は、例えば、その
ような構成成分と直接相互作用する薬剤、またはそうでなければそのレベルまたは活性を
調節する、薬剤の使用を通して、標的とされる(例えば、LDHA)。様々な実施形態で
は、本明細書に記載のようにL-2HG代謝を標的とする治療法は、少なくとも2週間、
3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12
週間、13週間、14週間、15週間、16週間、17週間、18週間、19週間、20
週間、21週間、22週間、23週間、24週間、25週間、26週間の期間にわたって
、または治療的エンドポイントが観察されるまで、例えば、腫瘍縮小が観察されるで、ま
たは心機能が改善するまで、施される。
【0130】
L-2HG調節剤の同定及び/または特徴づけ
いくつかの実施形態では、本発明は、L-2HG薬剤またはプロトコルを同定するまた
は特徴づけるための方法及びシステムを提供する。いくつかの実施形態では、本明細書で
提供する方法及びシステムは、1つまたは複数の候補L-2HG調節剤またはプロトコル
を、細胞、組織または生体に投与すること、及びL-2HG応答についてアッセイするこ
とを含む。いくつかの実施形態では、細胞または組織は、インビトロである。いくつかの
実施形態では、細胞または組織は、インビボである。いくつかの実施形態では、候補L-
2HG調節剤またはプロトコルは、細胞を含まない系に適用される。いくつかの実施形態
では、候補L-2HG調節剤またはプロトコルは、ハイスループットスクリーニング系の
成分として適用される。
【0131】
いくつかの実施形態では、本明細書で提供する方法及びシステムは、L-2HG増強剤
を選択する。いくつかの実施形態では、本明細書で提供する方法及びシステムは、L-2
HG阻害剤を選択する。
【0132】
いくつかの実施形態では、本明細書で提供する方法及びシステムは、1つまたは複数の
候補L-2HG調節剤またはプロトコルを、細胞、組織または生体に投与すること、及び
L-2HG代謝の下流効果についてアッセイすることを含む。いくつかの実施形態では、
L-2HG代謝の下流効果は、ヒストン3リジン9のトリメチル化である。いくつかの実
施形態では、L-2HG代謝の下流効果は、ヒストン3リジン27のトリメチル化である
。
【0133】
いくつかの実施形態では、候補L-2HGを増強する薬剤またはプロトコルは、細胞、
組織または生体への投与が、測定されたパラメータ、例えば、L-2HGにおいて、薬剤
(複数可)またはプロトコル(複数可)に曝露されなかった同様の細胞、組織または生体
と比較して、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、またはそれ以
上の増加をもたらす場合に、L-2HGを増強する薬剤またはプロトコルであるとみなさ
れる。
【0134】
いくつかの実施形態では、候補L-2HGを阻害する薬剤またはプロトコルは、細胞、
組織または生体への投与が、測定されたパラメータ、例えば、L-2HGにおいて、薬剤
(複数可)またはプロトコル(複数可)に曝露されなかった同様の細胞、組織または生体
と比較して、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、またはそれ以
上の低下をもたらす場合に、L-2HGを阻害する薬剤またはプロトコルであるとみなさ
れる。
【0135】
L-2HG代謝に従って癌表現型を診断する
本明細書で提供する方法及び組成物が、組織における低酸素を検出またはイメージング
するために使用されてよいことが企図される。いくつかの実施形態では、組織は、腫瘍で
ある。いくつかの実施形態では、低酸素は、L-2HG、L-2HG代謝を制御するある
特定の酵素、またはL-2HGにより影響されたある特定の下流のエピジェネティックな
変化、またはそれらの組み合わせにより検出またはイメージングされる。いくつかの実施
形態では、低酸素は、L-2HGにより検出またはイメージングされる。いくつかの実施
形態では、低酸素は、LDHAにより検出またはイメージングされる。いくつかの実施形
態では、低酸素は、H3K9me3により検出またはイメージングされる。いくつかの実
施形態では、低酸素は、少なくとも1つの追加の方法により検出またはイメージングされ
る。いくつかの実施形態では、この追加の方法は、遺伝子の変異である。
【0136】
本開示は、L-2HGが、癌の細胞生物学において重要な役割を担うエピジェネティッ
クなシグナル伝達を直接調節することを実証する。生化学的に、D-2HG及びL-2H
Gの双方は、Jumonjiファミリーヒストンリジン脱メチル化酵素KDM4Cを阻害
し、それは、トリメチル化ヒストン3リジン9(H3K9me3)の異常蓄積及び正常な
細胞の分化の機能障害をもたらすと報告されている(Chenら、2013;Chowd
huryら、2011;Katsら、2014;Luら、2012;Rohleら、20
13;Sasakiら、2012)。例えば、膠芽腫では、IDH1/2変異は、腫瘍全
体にわたるH3K9me3の拡散的増加を伴うが、一方でH3K9me3は、IDH1/
2変異を伴わない腫瘍において領域による変動を示す(Vennetiら、2013a)
。これらのデータは、IDH1/2野生型膠芽腫におけるH3K9me3染色の変動性は
、低酸素の領域と相関する可能性があることを示す。
【0137】
本開示では、本発明者らは、HIF1α発現とH3K9me3との間の相関関係を、I
DH1/2について野生型であるヒト膠芽腫試料を用いた免疫組織化学により試験し、H
IF1α発現及びH3K9me3が、高く統計学的に相関することを見出した。これらの
観察結果は、低酸素誘発性L-2HGが、ヒト膠芽腫の血管性に易感染性の領域において
観察されたH3K9me3の増強を媒介し得ることを示す。本発明者らは、低酸素誘発性
L-2HGが抑止されたとき、低酸素誘発性H3K9me3において実質的な低下があっ
たことを発見した。逆に、低酸素誘発性L-2HGの結果としての増加を伴う、L2HG
DHの除去は、H3K9me3の増加をもたらした。本発明者らは、たとえ比較的強くな
くても、同様のパターンをH3K27me3で観察した。それゆえ、本開示は、L-2H
Gが、エピジェネティックな修飾の形成(例えば、H3K9、及びH3K27のトリメチ
ル化)を促進することを確立した。
【0138】
本開示は、膠芽腫を有する患者からの生検を使用することによって、本発明者らは、L
-2GHの低酸素性誘発が、この腫瘍型におけるエピジェネティックな異質性の発達に寄
与することを発見したことを記載する。低酸素の影響下にある腫瘍細胞は、かかる条件を
伴わない腫瘍細胞と比較して異なる表現型を発達させるだろう。ゆえに、L-2HGのレ
ベル、L-2HGを制御する他の因子のレベルまたは活性は、癌表現型を区別するための
指標として使用することができる。
【0139】
いくつかの実施形態では、本開示は、L-2HG代謝が、IDH1/2変異を伴わない
腫瘍の高く相関する領域である、H3K9me3染色に影響を与えることを実証する。い
くつかの実施形態では、本開示は、LDHA、α-ケトグルタル酸、またはH3K9me
3の発現または活性を使用して腫瘍表現型を区別するまたは腫瘍異質性を同定するための
システムを記載する。いくつかの実施形態では、腫瘍は膠芽腫を有する患者からのもので
ある。
【0140】
癌は、様々な既知の技術のいずれかを使用して本明細書に記載のような変異を検出する
ためにスクリーニングされてよい。いくつかの実施形態では、その特定の変異または発現
は、核酸レベルで(例えば、DNAまたはRNAにおいて)検出される。いくつかの実施
形態では、かかる変異、またはその発現は、タンパク質レベル(例えば、癌細胞からのポ
リペプチドを含む試料において、その試料はポリペプチド複合体、または細胞、組織もし
くは臓器を含むがそれに限定されない他の高次構造であってよいかまたはこれを含んでよ
い)で検出される。
【0141】
いくつかの特定の実施形態では、検出は、核酸配列決定を必然的に含む。いくつかの実
施形態では、検出は、全エクソーム配列決定を必然的に含む。いくつかの実施形態では、
検出は、イムノアッセイを必然的に含む。いくつかの実施形態では、検出は、アマイクロ
アレイ(amicroarray)の使用を必然的に含む。いくつかの実施形態では、検
出は、超並列(massively parallel)エクソーム配列決定配列決定を
必然的に含む。いくつかの実施形態では、変異は、ゲノム配列決定により検出され得る。
いくつかの実施形態では、検出は、RNA配列決定を必然的に含む。いくつかの実施形態
では、検出は、標準的なDNAまたはRNA配列決定を必然的に含む。いくつかの実施形
態では、検出は、質量分析を必然的に含む。
【0142】
いくつかの実施形態では、検出は、次世代配列決定(DNA及び/またはRNA)を必
然的に含む。いくつかの実施形態では、検出は、ゲノム配列決定、ゲノム再配列決定、標
的配列決定パネル、トランスクリプトームプロファイリング(RNA-Seq)、DNA
-タンパク質相互作用(ChIP-配列決定)、及び/またはエピゲノム特徴づけを必然
的に含む。
【0143】
いくつかの実施形態では、検出は、ELISA、ウェスタン転写(Tranfer)、
イムノアッセイ、質量分析、マイクロアレイ分析等の技術を使用することを必然的に含む
。
【0144】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、一般に
、この発明が属する分野の当業者に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載
のものと同様またはそれに相当する方法及び材料を、本発明の実施または試験において使
用することができるが、好適な方法及び材料を本明細書に記載する。
【0145】
細胞多能性及び自己複製を調節するシステム及びプロトコル
本開示は、なかでも、L-2HGの低酸素誘発性レベルは、増強された抑圧的なヒスト
ンのメチル化をもたらすことを実証する。IDH1/2変異によるD-2HGの発癌性産
生が分化に対する癌促進遮断をもたらす一方で、低酸素誘発性L-2HGは、幹/前駆細
胞分化の生理学的制御因子として機能し得る。低酸素誘発性L-2HGは、少なくとも一
部には、様々な幹細胞集団の自己複製を維持するための低酸素性ニッチ及びLDHA両方
の重要性について説明し得る。具体的には、本開示は、低酸素性ニッチ内に存在する正常
な幹細胞は、分化に必要とされる遺伝子のサイレンシングを維持するのに十分なL-2H
Gを産生し得、ゆえに前駆/幹細胞運命を維持し得ることを記載する。
【0146】
L-2HGを標的として、幹細胞及び前駆細胞の多能性及び自己複製を維持する。
L-2HGの低酸素性誘発は、胚肝細胞、造血幹細胞、または臓器幹細胞を含む、正常
な幹細胞の多能性及び自己複製を維持することに関与し得る。ゆえに、L-2HGのLD
HA媒介性産生またはL-2HGの外因性補充を高めるための戦略は、組織操作または他
の幹細胞をベースとする治療にとって有益であり得る。
【0147】
いくつかの実施形態では、本開示は、細胞、組織または生体の多能性または自己複製を
維持するまたは促進するために使用することができるシステムまたはプロトコルを記載す
る。いくつかの実施形態では、これらのシステムまたはプロトコルは、幹細胞または前駆
細胞の自己複製を維持するまたは促進するための使用することができる。いくつかの実施
形態では、これらのシステムまたはプロトコルは、細胞中のL-2HGのレベルを調節す
ることを含む。いくつかの実施形態では、本開示は、L-2HGのレベルを調節するため
のシステムまたはプロトコルであって、細胞をL-2HGと接触させることを含む、前記
システムまたはプロトコルを記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、L-2-ヒ
ドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性または発現を阻害するためのシステムまたはプ
ロトコルを記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、LDHA活性または発現を促
進するためのシステムまたはプロトコルを記載する。いくつかの実施形態では、本開示は
、MDH1またはMDH2活性または発現を促進するためのシステムまたはプロトコルを
記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、L-2HGを細胞に送達するためのシス
テムまたはプロトコルを記載する。いくつかの実施形態では、本開示は、細胞中のα-ケ
トグルタル酸を枯渇させるためのシステムまたはプロトコルを記載する。いくつかの実施
形態では、細胞または組織の多能性または自己複製を維持するまたは促進するために使用
することができるシステムまたはプロトコルは、細胞培養または組織培養に適用される。
【0148】
いくつかの実施形態では、本開示は、幹細胞及び前駆細胞の多能性及び自己複製を促進
する薬剤を含む組成物を投与することにより、幹細胞及び前駆細胞の多能性及び自己複製
を対象においてインビボで維持するためのシステムまたはプロトコルを記載する。
【0149】
L-2HGを標的として、幹細胞及び前駆細胞の分化を促進する。
いくつかの実施形態では、本開示は、L-2HGの蓄積が、細胞の多能性をもたらすこ
とを記載する。一方で、他のメカニズムを通したL-2HGの枯渇またはL-2HGの阻
害は、細胞分化を促進する。いくつかの実施形態では、本開示は、幹細胞の分化を促進す
るためのシステムまたはプロトコルを記載する。いくつかの実施形態では、これらのシス
テムまたはプロトコルは、幹細胞または前駆細胞を、有効量のLDHAの阻害剤と接触さ
せることを含む。いくつかの実施形態では、これらのシステムまたはプロトコルは、幹細
胞または前駆細胞を有効量のL-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼのアクチベ
ーターと接触させることを含む。いくつかの実施形態では、細胞は、癌幹細胞である。
【0150】
本発明の、多能性及び/もしくは自己複製する特徴を維持するためのシステムもしくは
プロトコル、または細胞分化を促進するためのシステムもしくはプロトコルは、任意の幹
細胞または前駆細胞に好適である。例示的な例として、任意の多能性ヒトESCまたはそ
れぞれの細胞株は、それぞれの方法において使用してよい。そのような細胞の集団を誘導
するための方法は、当該分野で十分に確立されている(参照。例えば、Thomson,
J.A.ら、[1998]Science 282,1145-1147またはCowa
n,CA.ら、[2004]JV.Engl.J.Med.350,1353-1356
)。本方法が、前駆細胞について使用されることを意図する場合、任意の前駆細胞が本発
明のこの方法において使用されてよい。好適な前駆細胞の例には、神経前駆細胞、内皮前
駆細胞、赤血球前駆細胞、心臓前駆細胞、オリゴデンドロサイト前駆細胞、網膜前駆細胞
、または造血前駆細胞が挙げられるが、これらに限定されない。前駆細胞を獲得する方法
は、当該分野で周知である。2つの例示的な例として、巨核球前駆細胞を獲得する方法は
、米国特許出願2005/0176142に開示されており、マウス肝臓前駆細胞株を獲
得する方法は、Liら、((2005)Stem Cell Express,doi:
10.1634/stemcells.2005-0108)により記載されている。
【0151】
いくつかの実施形態では、選択されたL-2HGを制御する遺伝子(例えば、LDHA
、MDH1/2、またはL-2HGデヒドロゲナーゼ)、またはその機能的断片は、本発
明の方法の実施に十分な量で内因的に発現される。他の実施形態では、L-2HGを制御
する遺伝子、またはその機能的断片は、所望の転写因子をコードする遺伝子を含む1つま
たは複数の組換えベクターを用いて細胞に導入されてよい。
【0152】
他の実施形態では、本開示は、本明細書に前述のように、それぞれの細胞を、L-2H
G代謝を調節する薬剤と接触させることをさらに含む。いくつかの実施形態では、薬剤は
、L-2HGである。いくつかの実施形態では、薬剤は、α-KGである。
【0153】
本発明は、以下の実施例を参照することにより完全に理解されるだろう。しかしながら
、それらは、本発明の範囲を制限すると解釈されるべきではない。
【0154】
本開示における全ての文献の引用は、参考文献により組み込まれる。
【実施例】
【0155】
以下の実施例は、例示のために提供され、いずれにしても本発明の範囲を制限しない。
【0156】
実施例1:低酸素性細胞内でのL-2-ヒドロキシグルタル酸(Hydroxgluta
rate)の蓄積
背景:
特定の代謝産物が細胞応答性に与えることができる潜在的な影響は、様々なヒト癌にお
けるイソクエン酸デヒドロゲナーゼ1及び2(IDH1/2)の再発性体細胞変異の同定
により例証された(Amaryら、2011;Borgerら、2012;Cairns
ら、2012;Leyら、2008;Parsonsら、2008;Patelら、20
12;Yanら、2009)。IDH1/2は、α-ケトグルタル酸(α-KG)へのイ
ソクエン酸の酸化的脱炭酸を通常触媒する、NADP+依存性酵素である(Ward及び
Thompson,2012)。
【0157】
IDH1/2における癌に関連する変異は、野生型酵素活性の喪失を、D-2-ヒドロ
キシグルタル酸(D-2HG)へのα-KGの変換を可能にする活性の機能獲得を伴って
もたらす。(Dangら、2009;Grossら、2010;Wardら、2010)
。D-2HGは、Jumonjiヒストンリジン脱メチル化酵素を含む、多くのα-KG
依存性酵素を阻害するその能力を介して「癌代謝物」として機能すると提案されている。
(Chowdhuryら、2011;Figueroaら、2010;Luら、2012
;Xuら、2011)。具体的には、エピジェネティックな修飾酵素のD-2HG媒介性
阻害は、誘発性増殖因子/サイトカインに応答して正常な分化に必要とされる遺伝子の発
現を弱める抑圧的なクロマチン構造を促進する(Chenら、2013;Figuero
aら、2010;Katsら、2014;Losmanら、2013;Sasakiら、
2012)。実際、IDH1/2変異体酵素の小分子阻害剤は、D-2HG産生を遮断し
、抑圧的なクロマチンマークを逆転し、増殖因子/サイトカイン誘発性細胞の分化を回復
させることができる(Rohleら、2013;Wangら、2013)。
【0158】
留意されたいことには、2HGは、D-(R)-またはL-(S)-エナンチオマーの
コンフォメーションのいずれでも存在することができるキラル分子である(Linste
rら、2013)。IDH1/2変異体がD-2HGを排他的に産生するが、生化学的証
拠は、L-2HGはエピジェネティックな修飾因子を含む多くのα-KG依存性酵素を強
力に阻害することができることを示す(Chowdhuryら、2011;Koivun
enら、2012;Xuら、2011)。
【0159】
IDH1/2変異を伴わない正常な細胞は、いまだあまり理解されていない代謝経路を
介してD-2HG及びL-2HGの両方を少量産生する(Linsterら、2013)
。進化的に保存されたD-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ及びL-2-ヒド
ロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ(D2HGDH及びL2HGDH)は、α-KGに戻
るそれらの変換を触媒することにより、それぞれD-2HG及びL-2HGの蓄積を予防
する(Achouriら、2004;Rzemら、2004)。D2HGDHまたはL2
HGDHの同型接合性の生殖細胞系列の機能喪失変異は、D-2HGまたはL-2HGの
全身的上昇を特徴とする障害である、2HG酸性尿をもたらす(Kranendijkら
、2012;Rzemら、2004;Struysら、2005)。2HG酸性尿を有す
る患者は、早期死亡をもたらす重大な発生異常を患う(Kranendijkら、201
2)。L2HGDHの遺伝性変異から生じるL-2HGの全身性上昇は、脳腫瘍と関連し
ている(Halilogluら、2008;Moroniら、2004)。同様に、腎臓
癌における再発性L2HGDH喪失の最近の特定は、代替的にまたは追加的に、調節解除
されたL-2HGの潜在的な発癌性役割を支持する(Shimら、2014)。
【0160】
2HG酸性尿は、生理学的D-2HG及びL-2HGレベルが、2HG媒介性病理を予
防するためにD2HGDH及びL2HGDHにより密接に制御されなければならないこと
を実証する(Kranendijkら、2012)。これらの知見は、D-2HGまたは
L-2HGの生理学的産生の制御が、特定の細胞機能を調節し得る可能性を高くした。
【0161】
前述の所見は、2HG、特に、低酸素の条件下などのストレス誘発性代謝における研究
下にあるL-2HGの役割への継続した必要性の証拠を提供する。
【0162】
材料及び方法:
細胞培養:接着細胞株SF188、HEK293T、SH-SY5Y、及びSV40-
不死化MEFは、高グルコースDMEM中で維持され、一方で、造血細胞株32D及びF
L5.12は、RMPI中、10%FBS、グルコース25mM、グルタミン4mM、ペ
ニシリン100単位/ml、及びストレプトマイシン100マイクログラム/mlで維持
され、培養密度に達するまで2~3日毎に分裂した。低酸素実験については、細胞を、0
.5%酸素の低酸素室(Coy)内で、24~48時間培養してから、回収した。siR
NA実験については、SF188またはHEK293T細胞を製造業者により説明される
ように、Opti-MEM(登録商標)血清低減培地(Life Technologi
es)中でリポフェクタミンRNAiMAX(Life Technologies)と
混合したsiRNAでリバーストランスフェクトした。L2HGDH cDNAを、標準
的な方法により、pCDH-CMV-MCS-EF1-Puroベクター(pCDH)(
System Biosciences)へとクローニングした。shRNA(PLKO
.1)、空ベクター(pCDH)、またはL2HGDH(pCDH)の安定的な発現を伴
うSF188細胞株を生成するために、ヘルパーウイルス及びプラスミドでトランスフェ
クトされた293T細胞からの上清を、72時間後に回収し、濾過し、SF188親細胞
に一晩適用した。ピューロマイシン耐性細胞を連続培養ピューロマイシン1μg/mlか
ら選択した。
【0163】
shRNA実験:以下のPLKO.1ベクター中のTRCバージョン1のshRNA(
Sigma)を使用した:shL2HGDH-1(L1)=クローンID:NM_024
884.1-1113s1c1、配列:CCGGCCACAGATGTTATGGATA
TAACTCGAGTTATATCCATAACATCTGTGGTTTTTG(配列番
号1);shL2HGDH-2(L2)=クローンID:NM_024884.1-13
70s1c1、配列:CCGGCGCATTCTTCATGTGAGAAATCTCGA
GATTTCTCACATGAAGAATGCGTTTTTG(配列番号2);shL2
HGDH-3(L3)=クローンID:NM_024884.1-1217s1c1、配
列:CCGGGCAACAGTGAAGTATCTTCAACTCGAGTTGAAGA
TACTTCACTGTTGCTTTTTG(配列番号3);shL2GHDH-4(L
4)=クローンID:NM_024884.1-674s1c1、配列:CCGGGCT
TTGTCATTTGCCCAGGATCTCGAGATCCTGGGCAAATGAC
AAAGCTTTTTG(配列番号4);shD2HGDH-2(D2)=クローンID
:NM_152783.2-630s1c1、配列:CCGGGCGTGTCTGGAA
TTCTGGTTTCTCGAGAAACCAGAATTCCAGACACGCTTTT
TG(配列番号5);shD2HGDH-3(D3)=クローンID:NM_15278
3.2-1270s1c1、配列:CCGGCGACCAGAGGAAAGTCAAGA
TCTCGAGATCTTGACTTTCCTCTGGTCGTTTTTG(配列番号6
);shD2HGDH-4(D4)=クローンID:NM_152783.2-319s
1c1、配列:CCGGGCCGTTCTCCACGGTGTCTAACTCGAGTT
AGACACCGTGGAGAACGGCTTTTTG(配列番号7);shD2HGD
H-5(D5)=クローンID:NM_152783.2-1066s1c1、配列:C
CGGCCTGTCTGCATTCGAGTTCATCTCGAGATGAACTCGA
ATGCAGACAGGTTTTTG(配列番号8)。
【0164】
代謝産物抽出及びGC-MS解析:代謝産物を、2マイクロモル重化水素化2-ヒドロ
キシグルタル酸(D-2-ヒドロキシグルタル-2,3,3,4,4-d5酸;重化水素
化-D-2HG)を内部標準として補充した1mLの氷冷80%メタノールで抽出した。
-80°Cで一晩インキュベートした後、ライセートを回収し、超音波処理し、次いで2
1,000gで、20分間4℃で遠心分離して、タンパク質を除去した。抽出物をエバポ
レーター(Genevac EZ-2 Elite)内で乾燥させ、30℃で90分間、
50マイクロリットルのメトキシアミン塩酸塩40mg/mLを含むピリジン内でインキ
ュベートすることにより再懸濁した。代謝産物を、80マイクロリットルのMSTFA+
1%TCMS(Thermo Scientific)及び70マイクロリットルの酢酸
エチル(Sigma)の添加により代替的にまたは追加的に誘導体化し、37℃で30分
間インキュベートした。試料を、Agilent 5975C質量選択検出器に結合した
Agilent 7890A GCを使用して解析した。GCは、1mL/分の一定のヘ
リウムガス流でスプリットレスモードにて操作した。1マイクロリットルの誘導体化代謝
産物を、HP-5MSカラムに注入し、GCオーブン温度を60℃から290℃に25分
間にわたり上昇させた。対象の化合物を表すピークを抽出し、MassHunterソフ
トウェア(Agilent Technologies)を使用して積分し、次いで、内
部標準(重化水素化-D-2HG)ピーク面積及びタンパク質含有率の両方に正規化した
。代謝産物レベルの定量化に使用するイオンは、2HG m/z 247及び重化水素化
-2HG m/z 252であった。ピークを手動で検査し、各代謝産物について既知の
スペクトルに対して検証した。
【0165】
キラル誘導体化:いくつかの実験では、細胞を、内部標準を伴わない80%メタノール
中で回収した。メタノールから抽出された代謝産物をエバポレーター(Genevac
EZ-2 Elite)内で乾燥させ、水中に再懸濁し、AG 1-X8アニオン交換カ
ラム(Bio-Rad)を実行し、3N HClで溶出し、4つの画分に分割し、D-(
R)-2HGまたはL-(S)-2HG標準物質(Sigma)でスパイクするかまたは
スパイクしないままにし、エバポレーター内で乾燥させ、R(-)-2-ブタノール(S
igma)、次いで、酢酸無水物(Sigma)で95℃に加熱しながら順次誘導体化し
、窒素流下で乾燥させ、酢酸エチルに再懸濁し、上記のようにGC-MSにより解析した
。2HGは、m/z 173と同定した。この方法によるキラル誘導体化は、L-2HG
がD-2HGよりも短い保持時間で溶出されることで、ガスクロマトグラフィーによるL
-2HG及びD-2HGエナンチオマーの分離を可能にする。
【0166】
結果:
イソクエン酸デヒドロゲナーゼ1または2(IDH1/2)における体細胞変異は、「
癌代謝物」D-2-ヒドロキシグルタル酸(D-2HG)の産生を介して癌の病理形成に
寄与する。上昇したD-2HGは、Jumonjiファミリーヒストンリジン脱メチル化
酵素を含む、α-ケトグルタル酸(α-KG)依存性酵素の競合阻害剤として機能するこ
とにより悪性細胞の分化を遮断することができる。2HGは、D-エナンチオマーまたは
L-エナンチオマーのいずれでも存在することができるキラル分子である。癌に関連する
IDH1/2変異は、D-2HGを排他的に産生するが、生化学的研究は、L-2HGが
代替的にまたは追加的に、α-KGに依存する酵素の強力な阻害剤として機能することを
実証している。
【0167】
以前の報告は、いくつかの細胞型が、酸素制限条件下で増加した総2HGレベルを呈す
ることを示した(Albersら、1998;Wiseら、2011)。実際、本発明者
らは、哺乳類細胞は低酸素に応答して2HGを蓄積するという一般化できる現象を同定し
た(
図1A)。本発明者らは、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)を使用し
て正常酸素状態(21%酸素)対低酸素(0.5%酸素)で培養されたIDH1/2野生
型細胞株における細胞内2HGを測定した。全ての事例で、本発明者らは、細胞の種類に
応じて5~25倍の範囲の、低酸素における2HGの実質的な増加を観察した(
図1A)
。重要なことは、GC-MSにより代謝産物を測定するための標準的な方法は、エナンチ
オマーの種を区別せず、ゆえに、これらのアッセイにおいて測定された総2HGにはD-
2HG及びL-2HGの両方が含まれる。
【0168】
本発明者らは、次に細胞内2HGレベルに及ぼすD2HGDHまたはL2HGDHを操
作することの効果を調査した。D2HGDHまたはL2HGDHを標的とするshRNA
を、代謝経路を研究するために広く使用されているSF188膠芽腫細胞株に安定的に感
染させた(DeBerardinisら、2007;Wiseら、2008;Wiseら
、2011)。酸素の利用可能度にかかわらず、D2HGDHの除去は、細胞内2HGに
ほとんど効果を有さなかった(
図1B)。しかしながら、L2HGDHの除去は、低酸素
における2HGの蓄積を大幅に増加させた。これは、L-2HGが酸素制限に応答して蓄
積する2HGの主要な形態を表すことを示す(
図1C)。同様の結果が、D2HGDHま
たはL2HGDHを標的とするsiRNAでトランスフェクトされたHEK293T細胞
を使用して得られた。
【0169】
低酸素において2HGのどちらのエナンチオマーが蓄積するのか直接決定するために、
本発明者らは、代謝産物が、R(-)-2-ブタノール、その後酢酸無水物との連続的な
反応を受けるキラル誘導体化手法を活用した(
図6A)。それにより、GC-MSにより
D-2HG及びL-2HGを区別することを可能にした(Wardら、2012;War
dら、2010)。キラル誘導体化の前に、低酸素性SF188細胞からの代謝産物抽出
物を、未操作のままにするか、または基準として、市販されている標準物質のD-2HG
、L-2HGもしくはD-2HG及びL-2HGの混合物でスパイクした。この技術は、
L-2HGが、低酸素性細胞中に存在する2HGの主要なエナンチオマー型であることを
実証した(
図1D)。キラル誘導体化は、L-2HGが、HEK293T細胞及び不死化
マウス胚繊維芽細胞(MEF)中で低酸素に応答して選択的に産生されたことを、代替的
または追加的に実証した(
図6B及び6C)。
【0170】
実施例2:低酸素誘発性L-2HGは、グルタミン由来のα-KGから生じる
材料及び方法:
細胞培養及びGC-MS手法は実施例1に記載する。同位体追跡試験では、培地を指示
された時間で交換し、その後、12C-グルコース(Sigma)及び12C-グルタミ
ン(Gibco)または各代謝産物の13Cバージョンである、[U-13C]グルコー
スまたは[U-13C]グルタミン(Cambridge Isotope Labs)
を補充したグルコース及びグルタミンを含まないDMEM培地を使用して回収した。試料
を、内部標準を伴わない80%メタノール中で回収した。13Cの濃縮を、2HGイオン
、m/z 349-362の存在量を定量化することにより評価した。自然同位体の存在
量の収集を、IsoCorソフトウェアを使用することにより実施した(Millard
ら、2012)。
【0171】
結果
グルコース及びグルタミンは、増殖する細胞が取り込み、代謝する2つの主要な栄養素
を表す(Vander Heidenら、2009)。本発明者らは、低酸素におけるL
-2HGの産生に活用される炭素主鎖の源を同定するために、[U-
13C]グルコース
または[U-
13C]グルタミンのいずれかを補充されたSF188細胞において代謝フ
ラックス解析を行った(
図2A及び2B)。正常酸素状態では、比較的少ない総2HG(
図1A)が主にグルタミンから誘導され、グルコースからの寄与は少しであった(
図2A
及び2B)。対照的に、より多い低酸素誘発性L-2HG(
図1A及び1D)はグルタミ
ンから排他的に誘導された(
図2A及び2B)。
【0172】
グルタミンの細胞代謝がα-ケトグルタル酸を生成する(Wise及びThompso
n,2010)ので、本発明者らは、低酸素誘発性L-2HGが、グルタミン由来のα-
KGの酵素的還元から生じ得ると理由づけた。本発明者らは、α-KGの細胞透過性形態
を細胞に補充することの効果を試験した。正常酸素状態におけるSF188細胞への細胞
透過性ジメチル-α-KGの添加により、細胞内2HGは中程度に増加し、一方で低酸素
では、2HGがほぼ100倍増加した(
図2C)。これは、キラル誘導体化によりL-2
HGであると確認された(
図2D及び2E)。L-2HG酸性尿を有する患者からの細胞
の以前の試験(Struysら、2007)と一致して、これらの知見は、低酸素誘発性
L-2HGが、グルタミン由来のα-KGの酵素的還元から生じることを示す。
【0173】
考察:
栄養素及び代謝産物は、根本的な細胞のプロセスに影響を与える(Kaelin及びM
cKnight,2013;Vander Heidenら、2009)。例えば、α-
KGは、ヒストン及びDNAの脱メチル化、HIF1α安定性の調節、及びコラーゲンの
成熟化などの多様な機能に関与するおおよそ70の異なる酵素の必須基質として機能する
(Losman及びKaelin,2013)。これらの酵素的プロセスをα-KG利用
能につなげることにより、細胞の代謝的健全性は、系統分化及び環境的ストレス要因への
適応などの重要な細胞の「決断」に密接につながることができる。「癌代謝物」D-2H
Gによるα-KGに依存する酵素活性の阻害は、それによりIDH1/2における発癌性
変異が正常な細胞の生理機能を攪乱させる主なメカニズムを表すと思われる(Kaeli
n及びMcKnight,2013;Losman及びKaelin,2013;War
d及びThompson,2012)。同様に、L2HGDHまたはD2HGDHのいず
れかの両親対立遺伝子における機能喪失変異をもって産まれた子供は、それぞれL-2H
G及びD-2HGを蓄積し、これは重度の発育障害をもたらす(Kranendijkら
、2;Rzemら、2004;Struysら、2005)。
【0174】
実施例3:低酸素誘発性L-2HGは、LDHAによる無差別な基質使用から生じる
材料及び方法:
細胞培養及びGC-MS手法を実施例1に記載する。
【0175】
ウェスタンブロット法:細胞ライセートを、1×RIPA緩衝液(Cell Sign
aling)中で抽出し、超音波処理し、14,000gで4℃にて遠心分離し、上清を
収集した。ヒストン酸抽出については、細胞を、低張性溶解バッファー(Amresco
)に1時間溶解した。H2SO4を、0.2Nに一晩4℃で回転させながら加え、上清を
遠心分離後に回収した。ヒストンを、33%TCA中に沈殿させ、アセトンで洗浄し、脱
イオン化した水中に再懸濁した。清澄化した細胞ライセートまたはヒストン調製物を、総
タンパク質濃度に正規化した。試料をSDS-PAGEにより分離し、ニトロセルロース
膜(Life Technologies)に転写し、0.1%Tween 20を含有
するトリス緩衝生理食塩水(TBST)にて調製された5%ミルク中で遮断し、一次抗体
を用いて一晩4℃でインキュベートし、次いで、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)
とコンジュゲートした二次抗体(GE Healthcare,NA931V及びNA9
34V)を用いて、その翌日に1時間インキュベートした。ECL(Thermo Sc
ientific)を適用した後、SRX-101A(Konica Minolta)
を使用してイメージングを行った。インビトロでのヒストン脱メチル化酵素アッセイにつ
いては、バルク仔ウシ胸腺ヒストン(Sigma)を、トリス-HCl 50mM、pH
8.0、プロテアーゼ阻害剤、α-KG 1mM、FeSO4 100マイクロモル、及
びアスコルビン酸 2マイクロモルを含有する反応混合物中でGSTタグ付きKDM4C
(BPS Bioscience)とインキュベートした。反応混合物を、37℃で4時
間、様々な濃度のL-2HGまたはD-2HG(Sigma)の存在下または不在下でイ
ンキュベートした。H3K9me3レベルを、総ヒストンH3を負荷対照として使用して
、ウェスタンブロットにより解析した。使用された一次抗体は:抗L2HGDH(Pro
teintech,15707-1-AP)、抗D2HGDH(Proteintech
,13895-1-AP)、抗LDHA(Cell Signaling,2012)、
抗IDH1(抗IDH2(Abcam,ab55271)、抗MDH1(Abcam,a
b55528)、抗MDH2(Abcam,ab96193)、抗チューブリン(Sig
ma,T9026)、抗S6リボソームタンパク質(Cell Signaling,2
317)、抗HIF1α(BD Biosciences,610959)、抗H3(C
ell Signaling,4499)、及び抗H3K9me3(Active Mo
tif,39765)を含んだ。
【0176】
siRNA実験:以下のsiRNA(Thermo Scientific)を使用し
た:siIDH1-a=J-008294-10、標的配列:GCAUAAUGUUGG
CGUCAAA(配列番号9);siIDH1-b=J-008294-11、標的配列
:GCUUGUGAGUGGAUGGGUA(配列番号10);siIDH2-a=J-
004013-09、標的配列:GCAAGAACUAUGACGGAGA(配列番号1
1);siIDH2-b=J-004013-12、標的配列:GCGCCACUAUG
CCGACAAA(配列番号12);siMDH1-a=J-009264-10、標的
配列:GGGAGAAUUUGUCACGACU(配列番号13);siMDH1-b=
J-009264-12、標的配列:AGGUUAUUGUUGUGGGUAA(配列番
号14);siMDH2-a=J-008439-10、標的配列:GAUCUGAGC
CACAUCGAGA(配列番号15);siMDH2-b=J-008439-12、
標的配列:CGCCUGACCCUCUAUGAUA(配列番号16);siLDHA-
a=J-008201-05、標的配列:GGAGAAAGCCGUCUUAAUU(配
列番号17);siLDHA-b=J-008201-06、標的配列:GGCAAAG
ACUAUAAUGUAA(配列番号18);siLDHA-c=J-008201-0
7、標的配列:UAAGGGUCUUUACGGAAUA(配列番号19);siLDH
A-d=J-008201-08、標的配列:AAAGUCUUCUGAUGUCAUA
(配列番号20)
【0177】
結果:
低酸素誘発性L-2HGの酵素源(複数可)を決定するために、本発明者らは、siR
NAにより候補代謝酵素を除去した(
図3)。IDH1またはIDH2のノックダウンは
、低酸素性SF188細胞におけるL-2HGの産生を損なわなかった(
図3A)。同様
に、IDH1、IDH2、またはIDH1及びIDH2を両方一緒に、siRNAを媒介
する除去に供したHEK293T細胞は、低酸素に応答するL-2HGの産生に対してこ
れらの酵素への依存性を呈さなかった(
図7A)。これらの所見は、天然に生じるイソク
エン酸のα-ヒドロキシル基(2HGのα-ヒドロキシル基に類似する)が、イソクエン
酸デヒドロゲナーゼにより触媒される酵素反応の立体化学のために、D-(R)-エナン
チオマーの立体構造内に常に存在するという事実と一致する(Pattersonら、1
962;Sprecherら、1964)。ゆえに、IDH1/2酵素は、基質結合の際
の立体的拘束に起因して、α-KGをL-2-ヒドロキシグルタル酸に還元することがで
きない可能性が高い。
【0178】
代謝酵素は、「無差別の」触媒活性(Linsterら、2013)を呈することがで
き、以前の細胞分画試験は、細胞基質のリンゴ酸デヒドロゲナーゼ1(MDH1)及びミ
トコンドリアのリンゴ酸デヒドロゲナーゼ2(MDH2)を、L-2HGの潜在的な酵素
源として関連づけた(Rzemら、2007)。本発明者らは、その主な触媒活性が、α
-ケト酸基質のL-ヒドロキシル酸への還元に関与し、それぞれα-KG及びL-2HG
に対する構造類似性を有する、代謝酵素の要件を試験した(
図3D)。SF188細胞で
は、本発明者らは、低酸素誘発性L-2HGに対するMDH1及びMDH2から部分的な
寄与を特定した(
図3B)。しかしながら、際立って、乳酸脱水素酵素A(LDHA)が
、SF188細胞における低酸素誘発性L-2HGに必要とされる主要な酵素として特定
された(
図3C)。これらの所見は、HEK293T細胞において確認され、そこではL
DHA及びMDH2の組み合わせ除去もまた、低酸素誘発性L-2HGのほぼ全ての抑止
をもたらした(
図S7B及びS7C)。まとめると、これらの知見は、低酸素性細胞は、
LDHAによる無差別の基質使用を介して細胞質においてグルタミン由来のα-KGの還
元からL-2HGを産生することができ、それより少ない細胞基質のMDH1及びミトコ
ンドリアのMDH2からの寄与を伴う、ということを示す(
図3D)。
【0179】
低酸素誘発性L-2HGの抑止は、HIF1αタンパク質レベルに大きな影響を与えな
かった(
図3B及び3C)。以前の報告は、L-2HGが、プロテアソーム分解のために
HIF1αをマークするα-KG依存性プロリルヒドロキシラーゼのEGLNファミリー
の、L-2HG媒介性阻害を介して、正常酸素状態においてHIF1αを安定化させるこ
とができることを実証した(Chowdhuryら、2011;Koivunenら、2
012;Losmanら、2013)。これらの所見と一致して、本発明者らは、(結果
として低酸素誘発性L-2HGの増強を伴う)L2HGDHの除去に供された低酸素性細
胞中のHIF1αタンパク質レベルにおいて軽微な増加を認めた(
図1C)。しかしなが
ら、低下した酸素利用可能度(0.5%)が、L-2HGにおける上昇がたとえ無くとも
、EGLNプロリルヒドロキシラーゼの活性を弱めるのに十分であるように思われる(図
3C)。
【0180】
考察:
IDH1/2変異による悪性病変の分子病態におけるD-2HGの役割の解明に焦点を
当てた集中的な研究努力とは対照に、正常な細胞生理学におけるD-2HG及びL-2H
Gの制御された産生及び除去の潜在的な役割は、あまり注目されていない(Kranen
dijkら、2012)。本明細書に提示する知見は、低酸素により強いられた環境的ス
トレスに応答した新規の細胞の代謝応答としてL-2HG誘発を同定する。酸素制限条件
下では、細胞は、TCA回路中間体ならびにNADHの形態の細胞基質の及びミトコンド
リアの還元等価物を蓄積し(Bensaad及びHarris,2014;Metall
oら、2012;Semenza,2013;Wiseら、2011;Zhdanovら
、2014)、それは、α-KGの酵素的還元を支持して本明細書に記載のL-2HGを
産生するだろう。低酸素におけるL-2HGの産生は、IDH1/2とは独立して生じ、
代わりに主にLDHAによるα-KGの無差別な酵素的還元を介して生じる。低酸素誘発
性L-2HGは、それにより細胞が、制限された酸素利用可能度に直面したときに、α-
KGに依存するプロセス(例えば、H3K9me3の脱メチル化)を抑圧し得る分子メカ
ニズムを表す。あるいはまたは加えて、L-2HGは、低酸素適応のα-KG依存性逆転
を抑制することができる。α-KGは、HIF1αクリアランスを開始し、ヒストンのメ
チル化によりサイレンシングされた遺伝子の発現を回復させることが求められる(Kae
lin及びRatcliffe,2008;Kooistra及びHelin,2012
;Ozer及びBruick,2007;Tausendschonら、2011)。ゆ
えに、低酸素誘発性L-2HGは、それを通して低酸素適応に反作用し得るα-KGに依
存するプロセスの抑圧を細胞が維持できる手段を表す。
【0181】
代替的な(alternative)または無差別な基質使用は、乳酸脱水素酵素を含
む多くの代謝酵素の十分に記載された特性である(Linsterら、2013;Mei
ster,1950;Schatz及びSegal,1969)。低酸素においてL-2
HGへのα-KGの還元を触媒するLDHAの能力は、有意義な生物学的効果を媒介し得
る代替的な基質使用の例を表す。LDHAによるL-2HGの産生は、簡素なメカニズム
を表し、ここでは単一の酵素が、嫌気的解糖の媒介因子及び細胞の代謝状態についての情
報を核に伝達する代謝シグナル伝達経路の発動因子の両方として機能する。LDHA発現
は、低酸素においてHIF1αにより上方制御され(Huら、2003)、その後のL-
2HGへのαKGのLDHA依存性変換は、低酸素適応を持続するために正のフィードバ
ックループを提供し得る。Zhdanovら、(2014)は、近年、持続的な核HIF
1αの蓄積は、低酸素適応中に進行しているグルタミン代謝に依存することを実証した。
これと一致して、本発明者らは、L-2HGの低酸素誘発性蓄積もグルタミン依存性であ
ることを発見した。これらの知見は、低酸素におけるグルタミン依存性L-2HG産生と
持続的なHIF1α誘発との間のつながりを示す。
【0182】
低酸素におけるL-2HGの選択的蓄積は、2HGのエナンチオマー種を区別すること
の重要性を強調する(Terunumaら、2014)。L-2HGは、HIF1α分解
を開始し低酸素適応を終了させるその能力を抑制する、EGLNプロリルヒドロキシラー
ゼの競合阻害剤として機能すると示されている。対照的に、D-2HGは、HIF1αの
水酸化及び分解を促進し、ゆえに低酸素適応を妨害する、EGLNプロリルヒドロキシラ
ーゼに対する基質として作用することができる(Koivunenら、2012;Los
manら、2013)。まとめると、本結果は、D-2HGと共有されない特性である、
HIF1α軸を強化し、低酸素への細胞の適応を維持することにおける低酸素誘発性L-
2HGの支援的役割を、支持する。
【0183】
実施例4:LDHAの活性部位は、L-2HGへのα-KGの還元に対応することができ
る
材料及び方法:
細胞培養及びGC-MS手法を実施例1に記載する。
【0184】
推定LDHA基質の分子ドッキング:推定基質及び産物分子のドッキングをMaest
ro 2014-3のGlideを使用して行った(Friesnerら、2004;F
riesnerら、2006;Halgrenら、2004;Schrodinger,
2014)。結晶水及びリガンドを、NADHを除いて除去した後にリガンドをPDB構
造1I10の鎖A内へとドッキングした(Readら、2001)。欠落している側鎖及
びループを、Primeを使用して自動的に再構築した(Jacobsonら、2002
;Jacobsonら、2004)。PROPKAを、7のpHに適合するプロトン状態
を配置するために使用した(Olssonら、2011;Sondergaardら、2
011)。NADHまたはNAD+の結合次数は、PROPKAによる割り当てのミスを
避けるために手動で確認した。OPLS2005を使用して制限最小化を行った(Ban
ksら、2005)。結合部位定義を満たすための最小原子要件を確認するために架空の
原子を加えた後、オキサメートを基準リガンドとして使用して結合部位を定義した。ヒド
ロキシル及びチオール基を、グリッド生成中に回転させた。ピルベート及びα-ケトグル
タル酸を、結晶NADHの存在下でドッキングした。乳酸塩及びL-2-ヒドロキシグル
タル酸を、結合次数を変えることにより結晶NADHからモデル化されたNAD+の存在
下でドッキングした。リガンドのカルボン酸部分を完全に脱プロトン化した。ドッキング
を、柔軟なリガンドを用いてExtra Precision Glideを使用して行
った(Friesnerら、2004;Friesnerら、2006;Halgren
ら、2004)。ドッキングポーズは、ドッキング後に最小化した。結果得られたコンフ
ォメーションは、1オングストロームのRMSDカットオフ内でクラスタリングした。こ
れは、それぞれのドッキングされたリガンドについて単一の代表的なポーズをもたらした
。全てのステップは、別段の注記がない限り、既定パラメータを使用した。ポーズ及び予
測された水素結合は、PyMOL(The PyMOL Molecular Grap
hics System,バージョン1.7.0.0 Schrodinger,LLC
)を用いて可視化された。
【0185】
結果:
LDHAが、どのようにしてL-2HGへのα-KGの還元を触媒し得るかをよりよく
理解するために、本発明者らは、LDHAの活性部位への推定基質の分子ドッキングを行
った。結果得られたドッキングポーズは、ピルベートが、カルボン酸頭部基及び隣接する
カルボニル基への水素結合により空間的に配位されたことを実証した。(
図4A)。NA
DHからのヒドリド基によるピルベートのカルボニル炭素の求核攻撃は、還元反応が乳酸
塩のL-(S)-エナンチオマーを排他的に産生するように空間的に制限される(
図4B
)。同様に、α-ケトグルタル酸の分子ドッキングは、カルボン酸頭部基及び隣接するカ
ルボニル基への同一の水素結合を介してピルベートへの類似した空間配位を有利に採択し
得ることを示した(
図4C)。重要なことに、LDHAの基質結合性ポケット内に、好ま
しくない立体相互作用を伴わずに、α-ケトグルタル酸のより長い尾に対応するために利
用可能なかなりの立体的空間があった(
図4C)。L-乳酸塩へのピルベートの還元に類
似して、α-KGのカルボニル炭素の求核攻撃は、L-2-ヒドロキシグルタル酸が還元
反応の独占的な最終産物となり得るように空間的に制限された(
図4D)。まとめると、
これらの知見は、代替的にまたは追加的に、LDHAを低酸素誘発性L-2HGの主要な
酵素源と同定する遺伝的データを支持する(
図3C、S7B、S7C)。
【0186】
実施例5:L-2HGは、低酸素に応答してエピジェネティックな変化を媒介する
材料及び方法:
ヒト膠芽腫検体:ヒト膠芽腫生検検体は、治験審査委員会からの承認後にペンシルベニ
ア大学から得た。全ての事例は、分析の前に非特定化し、以前に十分に特徴づけされた組
織マイクロアレイ(Vennetiら、2013a)に含有した。
【0187】
免疫組織化学的分析:免疫組織化学試験及び定量化を、以前に記載されたように実施し
た(Vennetiら、2013b)。要するに、免疫染色をDiscovery XT
プロセッサ(Ventana Medical Systems)を使用して行った。組
織切片を、PBS中の2%BSA中の10%正常ヤギ血清にて30分間ブロックした。切
片を、10マイクログラム/mlのマウスモノクローナル抗HIF1α(Alexis
Biochem,ALX-210-069)と、または0.1マイクログラム/mlのウ
サギポリクローナル抗H3K9me3抗体(Abcam,ab8898)と5時間インキ
ュベートした。次いで、組織切片をビオチン標識されたヤギ抗マウスまたは抗ウサギIg
G(Vector labs,PK6102及びPK6101)と1:200希釈で60
分間インキュベートした。ブロッカーD、ストレプトアビジン-HRP及びDAB検出キ
ット(Ventana Medical Systems)を、製造業者の使用説明書に
従って使用した。
【0188】
自動スコアリングのために、スライドをPannoramic Flash 250ス
キャナー(Perkin Elmer,マサチューセッツ州ウォルサム)を使用して走査
し、Pannoramic viewerソフトウェアプログラム(3D Histec
h,マサチューセッツ州ウォルサム)を通して見た。実験計画を知らされていない個体は
、JPEG画像を10倍の倍率でとらえた。各JPEGでの免疫染色の定量化は、前述の
方法(Vennetiら、2013b)に従って、Matlabの画像処理ツールボック
スを用いる自動解析プログラムを使用して実行した。アルゴリズムは、RGBの色区別を
伴うカラーセグメンテーション、K平均法及び大津の閾値を用いる背景前景分離を使用し
た。抽出された画素の数に、各コアのそれらの平均強度(画素単位で表される)を乗じて
、スコアに到達した。所与の事例及びマーカーについての最終スコアは、所与のマーカー
について(各事例の)2つのコアのスコアを平均化することにより算出された。
【0189】
結果:
生化学的に、D-2HG及びL-2HGは両方とも、Jumonjiファミリーヒスト
ンリジン脱メチル化酵素KDM4Cを阻害すると報告されており、それはトリメチル化ヒ
ストン3リジン9(H3K9me3)の異常蓄積及び正常な細胞の分化の機能障害を結果
もたらす(Chenら、2013;Chowdhuryら、2011;Katsら、20
14;Luら、2012;Rohleら、2013;Sasakiら、2012)。膠芽
腫では、IDH1/2変異は、腫瘍全体にわたるH3K9me3の拡散的増加を伴うが、
一方でH3K9me3は、IDH1/2変異を伴わない腫瘍において領域による変動を示
す(Vennetiら、2013a)。
【0190】
上記の結果は、IDH1/2野生型膠芽腫におけるH3K9me3染色の変動性は、低
酸素の領域と相関する可能性があることを示す。この考えを試験するために、本発明者ら
は、IDH1/2について野生型である47ヒト膠芽腫試料を使用して免疫組織化学によ
りHIF1α発現とH3K9me3との間の相関関係を決定した(
図5A)。HIF1α
発現及びH3K9me3は、これらの試料において高く統計学的に相関した(p=0.0
1)(
図5B)。
【0191】
これらの所見は、低酸素誘発性L-2HGが、ヒト膠芽腫の血管性に易感染性の領域に
おいて観察されるH3K9me3の増強を媒介し得ることを示す。この仮説を試験するた
めに、ヒト膠芽腫細胞株SF188を、L2HGDHを発現するレンチウイルスまたは空
レンチウイルスベクターに安定的に感染させた。空ベクターに感染したSF188膠芽腫
細胞は、低酸素に応答してH3K9me3の増加した全体レベルを呈し(
図5C)、これ
は原発性膠芽腫検体からの知見と一致した(
図5A及び5B)。しかしながら、低酸素誘
発性L-2HGがL2HGDHの過剰発現により抑止されたとき、低酸素誘発性H3K9
me3において大幅な低下があった(
図5C)。逆に、L2HGDHの除去(結果として
低酸素誘発性L-2HGの増加を伴う)は、H3K9me3の増加をもたらした(
図5D
)。同様のパターンが、比較的強くないが、H3K27me3で観察された(データは示
さず)。
【0192】
本発明者らは、インビトロでヒストン脱メチル化アッセイを行って、H3K9me3に
与える効果が、低酸素誘発性L-2HGによるKDM4Cの直接阻害を通して媒介され得
るかどうか決定した。ヒストン基質への精製したKDM4Cの添加は、用量依存的様式で
、L-2HGによる阻害に感受性であるH3K9me3の脱メチル化をもたらした(
図5
D)。これらの所見は、L-2HG及びD-2HGによるKDM4Cのほぼ同等の阻害を
実証する以前の報告と一致する(Chowdhuryら、2011;Luら、2012)
。ゆえに、L-2HGの誘発は、低酸素に応答してH3K9me3を増強すると思われる
。
【0193】
考察:
HIF1αのEGLN依存性プロリンヒドロキシル化を制御するそれらの異なる役割と
は対照的に、L-2HG及びD-2HGは両方とも、ヒストン脱メチル化酵素の阻害剤と
して機能する(Chowdhuryら、2011;Koivunenら、2012;Lu
ら、2012;Xuら、2011)。D-2HGの発癌性レベルのように、L-2HGの
低酸素誘発性性レベルは、増強された抑圧的なヒストンメチル化をもたらす。IDH1/
2変異によるD-2HGの発癌性産生が分化に対する癌促進遮断をもたらす一方で、低酸
素誘発性L-2HGは、幹/前駆細胞分化の生理学的制御因子として機能し得る。低酸素
誘発性L-2HGは、少なくとも一部には、様々な幹細胞集団の自己複製を維持するため
の低酸素性ニッチ及びLDHA両方の重要性について説明し得る(Nombela-Ar
rietaら、2013;Simon及びKeith,2008;Spencerら、2
014;Sudaら、2011;Wangら、2014;Xieら、2014)。具体的
には、低酸素性ニッチに存在する正常幹細胞は、分化に必要とされる遺伝子のサイレンシ
ングを維持するのに十分なL-2HGを産生し得、ゆえに前駆/幹細胞運命を維持する。
これと一致して、Shimら(2014)は、癌進行プロセス中のL2GHDHの喪失が
、低酸素に応答して本明細書で観察されるものと類似した、L-2HGの蓄積及び抑圧的
なヒストンのメチル化における変化をもたらすと近年示している。最後に、膠芽腫を有す
る患者からの生検を試験する我々の結果は、L-2GHの低酸素性誘発が、この腫瘍型に
おけるエピジェネティックな異質性の発達に寄与する可能性があることを示す。これらの
結果が他の腫瘍型に当てはまるかどうかは、将来の臨床検査の対象とするところであるだ
ろう。
【0194】
本実施例は、それによりIDH1/2野生型細胞が低酸素中にα-KGの酵素的還元を
介してL-2HGを選択的に産生する新規代謝経路の本明細書に含まれる記載を支持する
。低酸素誘発性L-2HGは、IDH1またはIDH2のいずれにも依存せず、代わりに
、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ1及び2(MDH1/2)からの追加的な寄与を伴う乳酸脱
水素酵素A(LDHA)による無差別の基質使用を介して生じる。LDHAの活性部位の
構造モデルは、α-KGのLDHA媒介性還元がどのようにL-2HGを生じさせるかに
ついて指示する基質結合に対する空間的拘束を実証する。さらには、本開示は、L-2H
Gが、低酸素に応答して生じるヒストン3リジン9のトリメチル化(H3K9me3)を
増強することを示す。ゆえに、本開示は、低酸素誘発性L-2HGが、核内のエピジェネ
ティックなマークの調節を介して細胞の代謝状態についての情報を運ぶ代謝シグナル伝達
中間体を表すことを実証する。
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