(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】個別化された血管を作製する方法
(51)【国際特許分類】
A61L 27/50 20060101AFI20230111BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
A61L27/50 300
A61L27/54
(21)【出願番号】P 2021529544
(86)(22)【出願日】2019-08-02
(86)【国際出願番号】 IB2019056621
(87)【国際公開番号】W WO2020026212
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-07-26
(32)【優先日】2018-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521047627
【氏名又は名称】ベリグラフト アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】ライムンド ストレール
【審査官】篭島 福太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-511491(JP,A)
【文献】特表2003-531685(JP,A)
【文献】特開平02-274244(JP,A)
【文献】J. Vis. Exp.,2018年07月27日,Issue 137,p.e57803
【文献】eBioMedicine,2018年05月27日,Vol.32,p.215-222
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/50
A61L 27/54
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
個別化された血管を作製する方法であって、無細胞性管状足場の表面を、前記個別化された血管を必要とする対象からの全血サンプルを含む懸濁液と接触させることを含み、この全血サンプルは生理学的溶液の中で希釈されており、かつこの接触操作を3~14日間にわたって実施する方法。
【請求項2】
前記全血サンプル内の細胞の集団が前記無細胞性管状足場に定着する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記全血サンプルが1つ以上の非細胞性因子を含み、前記全血の1つ以上の非血管性因子が前記足場に定着し、これら非血管性因子が、無細胞性管状足場の細胞化と、移植時の血管の宿主適合性を促進する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記全血サンプルを含む懸濁液が抗血栓因子をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記抗血栓因子が抗凝固剤を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記抗凝固剤がヘパリンまたはデキストランを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記無細胞性管状足場の接触操作を開始するとき、前記ヘパリンが、前記全血サンプルを含む懸濁液の中に約0.5 IU/ml~約150 IU/mlの濃度で存在する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記無細胞性管状足場の接触操作を開始するとき、前記ヘパリンが、前記全血サンプルを含む懸濁液の中に約6.7 IU/mlの濃度で存在する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記デキストランがデキストラン-40である、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記無細胞性管状足場の接触操作を開始するとき、前記デキストランが、前記全血サンプルを含む懸濁液の中に約1 g/L~約55 g/Lの濃度で存在する、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記抗血栓
因子がアスコルビン酸を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項12】
前記無細胞性管状足場の接触操作を開始するとき、前記アスコルビン酸が、前記全血サンプルを含む懸濁液の中に約0.2μg/ml~約200μg /mlの濃度で存在する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記無細胞性管状足場の接触操作を開始するとき、前記アスコルビン酸が、前記全血サンプルを含む懸濁液の中に約5μg/mlの濃度で存在する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記抗血栓因子がアセチルサリチル酸を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項15】
前記無細胞性管状足場の接触操作を開始するとき、前記アセチルサリチル酸が、前記全血サンプルを含む懸濁液の中に約0.2μg/ml~約200μg /mlの濃度で存在する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記無細胞性管状足場の接触操作を開始するとき、前記アセチルサリチル酸が、前記全血サンプルを含む懸濁液の中に約5μg/mlの濃度で存在する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記全血サンプルを含む懸濁液が、集団平均生理学的レベルと等しいかそれよりも高いレベルの増殖因子をさらに含み、この増殖因子の選択が、顆粒球マクロファージ-コロニー刺激因子(GM-CSF)、インターロイキン(IL)-3、IL-4、ニュートロフィン(NT)-6、プレイオトロフィン(HB-GAM)、ミッドカイン(MK)、インターフェロン誘導タンパク質-10(IP-10)、血小板因子(PF)-4、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)、RANTES(CCL-5、ケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド5)、IL-8、IGF、線維芽細胞増殖因子(FGF)-l、FGF-2、FGF-3、FGF-4、FGF-5、FGF-6、FGF-7、FGF-8、FGF-9、トランスフォーミング増殖因子(TGF)-β、VEGF、血小板由来増殖因子(PDGF)-A、PDGF-B、HB-EGF、肝細胞増殖因子(HGF)、腫瘍壊死因子(TNF)-α、インスリン様増殖因子(IGF)-1と、これらの任意の組み合わせからなされる、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記増殖因子が線維芽細胞増殖因子(FGF)-2である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記接触操作を3~9日間にわたって実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記接触操作を4~9日間にわたって実施する、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する特許出願の相互参照
本出願は、2018年8月3日に出願されたアメリカ合衆国仮出願第62/714,200号の恩恵を主張する。
【0002】
本開示は、個別化された血管と、個別化された血管を作製する方法に関する。さまざまな実施態様において、本明細書で考慮する方法によって作製される個別化された血管は、宿主への適合性と、組織との一体化が改善され、血栓症によりなりにくいため移植に有用である可能性がある。
【背景技術】
【0003】
血管疾患は、世界的なスケールで深刻な確実に増加しつつある健康問題である。損傷した血管を置き換えるという選択肢は現在のところ限られている。自家移植は患者に適した血管を必要とするし、ドナーサイトモービィディティ(donor site morbidity)につながる。合成血管による置換を利用できるが、宿主組織への生物学的一体化と長期の開通性に欠点がある。完全に生物学的で患者に個別化されたグラフトが必要とされている。
【0004】
国際出願番号WO/2013/136184には、「血管を再細胞化する方法」が開示されている。それは例えば「同種異系静脈を作製するためであり、ドナーの静脈を脱細胞化した後、全血または骨髄幹細胞を用いて再細胞化する」。
【0005】
国際出願番号WO/2015/181245には、「弁付き静脈の中の弁を再細胞化する方法」が開示されている。それは例えば「同種異系静脈弁を作製するためであり、ドナーの弁付き静脈を脱細胞化した後、全血または骨髄幹細胞を用いて再細胞化する」。
【発明の概要】
【0006】
本開示の1つの側面は、個別化された血管を作製する方法に関するものであり、この方法は、無細胞性管状足場の表面を、その個別化された血管を必要とする対象からの希釈されていない全血サンプルと接触させることを含み、この接触操作を2日間超にわたって実施する。
【0007】
本開示の別の1つの側面は、個別化された血管を作製する方法に関するものであり、この方法は、無細胞性管状足場の表面を、その個別化された血管を必要とする対象からの全血サンプルを含む懸濁液と接触させることを含み、その全血サンプルは生理学的溶液の中で希釈されている。いくつかの実施態様では、生理学的溶液は、細胞外環境のコロイド浸透圧を維持する、および/またはCO2とは独立なやり方でpHの変動を抑える、および/または細胞保護効果または抗酸化効果を提供する。
【0008】
いくつかの実施態様では、全血サンプル内の細胞の集団が無細胞性管状足場に定着する。
【0009】
いくつかの実施態様では、全血サンプルは1つ以上の非細胞性因子を含んでおり、全血の1つ以上の非細胞性因子は足場に定着し、血管がグラフトされると無細胞性管状足場の細胞化と血管の宿主適合性を促進する。
【0010】
いくつかの実施態様では、希釈されていない全血サンプル、またはこの全血サンプルを含む懸濁液は、抗血栓因子をさらに含んでいる。
【0011】
いくつかの実施態様では、抗血栓因子は抗凝固剤を含んでいる。
【0012】
いくつかの実施態様では、抗凝固剤はヘパリンまたはデキストランを含んでいる。
【0013】
いくつかの実施態様では、無細胞性管状足場の接触操作を開始するとき、ヘパリンは、希釈されていない全血サンプルの中、またはこの全血サンプルを含む懸濁液の中に約0.5 IU/ml~約150 IU/mlの濃度で存在する。
【0014】
いくつかの実施態様では、無細胞性管状足場の接触操作を開始するとき、ヘパリンは、希釈されていない全血サンプルの中、またはこの全血サンプルを含む懸濁液の中に約6.7 IU/mlの濃度で存在する。
【0015】
いくつかの実施態様では、デキストランはデキストラン-40である。
【0016】
いくつかの実施態様では、無細胞性管状足場の接触操作を開始するとき、デキストランは、希釈されていない全血サンプルの中、またはこの全血サンプルを含む懸濁液の中に約1 g/L~約55 g/Lの濃度で存在する。
【0017】
いくつかの実施態様では、抗血栓剤はアスコルビン酸を含んでいる。
【0018】
いくつかの実施態様では、無細胞性管状足場の接触操作を開始するとき、アスコルビン酸は、希釈されていない全血サンプルの中、またはこの全血サンプルを含む懸濁液の中に約0.2μg/ml~約200μg /mlの濃度で存在する。
【0019】
いくつかの実施態様では、無細胞性管状足場の接触操作を開始するとき、アスコルビン酸は、希釈されていない全血サンプルの中、またはこの全血サンプルを含む懸濁液の中に約5μg/mlの濃度で存在する。
【0020】
いくつかの実施態様では、抗血栓因子はアセチルサリチル酸を含んでいる。
【0021】
いくつかの実施態様では、無細胞性管状足場の接触操作を開始するとき、アセチルサリチル酸は、希釈されていない全血サンプルの中、またはその全血サンプルを含む懸濁液の中に約0.2μg/ml~約200μg /mlの濃度で存在する。
【0022】
いくつかの実施態様では、無細胞性管状足場の接触操作を開始するとき、アセチルサリチル酸は、希釈されていない全血サンプルの中、またはこの全血サンプルを含む懸濁液の中に約5μg/mlの濃度で存在する。
【0023】
いくつかの実施態様では、全血サンプル、またはこの全血サンプルを含む懸濁液は、集団平均生理学的レベルと等しいかそれよりも高いレベルの増殖因子をさらに含み、この増殖因子の選択は、顆粒球マクロファージ-コロニー刺激因子(GM-CSF)、インターロイキン(IL)-3、IL-4、ニュートロフィン(NT)-6、プレイオトロフィン(HB-GAM)、ミッドカイン(MK)、インターフェロン誘導タンパク質-10(IP-10)、血小板因子(PF)-4、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)、RANTES(CCL-5、ケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド5)、IL-8、IGF、線維芽細胞増殖因子(FGF)-l、FGF-2、FGF-3、FGF-4、FGF-5、FGF-6、FGF-7、FGF-8、FGF-9、トランスフォーミング増殖因子(TGF)-β、VEGF、血小板由来増殖因子(PDGF)-A、PDGF-B、HB-EGF、肝細胞増殖因子(HGF)、腫瘍壊死因子(TNF)-α、インスリン様増殖因子(IGF)-1と、これらの任意の組み合わせからなされる。
【0024】
いくつかの実施態様では、増殖因子は線維芽細胞増殖因子(FGF)-2である。
【0025】
いくつかの実施態様では、FGF-2はヒトFGF-2である。
【0026】
いくつかの実施態様では、無細胞性管状足場の接触操作を開始するとき、FGF-2は、希釈されていない全血サンプルの中、またはこの全血サンプルを含む懸濁液の中に約0.5 ng/ml~約200 ng /mlの濃度で存在する。
【0027】
いくつかの実施態様では、無細胞性管状足場の接触操作を開始するとき、FGF-2は、希釈されていない全血サンプルの中、またはこの全血サンプルを含む懸濁液の中に約10 ng/mlの濃度で存在する。
【0028】
いくつかの実施態様では、増殖因子は血管内皮非増殖因子(VEGF)である。
【0029】
いくつかの実施態様では、VEGFはヒトVEGFである。
【0030】
いくつかの実施態様では、無細胞性管状足場の接触操作を開始するとき、VEGFは、希釈されていない全血サンプルの中、またはこの全血サンプルを含む懸濁液の中に約4 ng/ml~約800 ng /mlの濃度で存在する。
【0031】
いくつかの実施態様では、無細胞性管状足場の接触操作を開始するとき、VEGFは、希釈されていない全血サンプルの中、またはこの全血サンプルを含む懸濁液の中に約80 ng/mlの濃度で存在する。
【0032】
いくつかの実施態様では、全血サンプル、またはこの全血サンプルを含む懸濁液は、ヒト血清アルブミンをさらに含み、無細胞性管状足場の接触操作を開始するときのヒト血清アルブミンの濃度は約55 g/L~約105 g/Lである。
【0033】
いくつかの実施態様では、生理学的溶液は、無機塩とバッファ系を含んでいる。
【0034】
いくつかの実施態様では、バッファ系は、CO2とは独立なバッファ系を含んでいる。
【0035】
いくつかの実施態様では、CO2とは独立なバッファ系はリン酸塩バッファ系を含んでいる。
【0036】
いくつかの実施態様では、生理学的溶液は全血と実質的に同等な浸透圧を示し、この浸透圧は約270 mOsm/kg H2O~約310 mOsm/kg H2Oであることが好ましい。
【0037】
いくつかの実施態様では、生理学的溶液は、膠質因子および/または栄養素をさらに含んでいる。
【0038】
いくつかの実施態様では、膠質因子は血清アルブミンを含んでいる。
【0039】
いくつかの実施態様では、無細胞性管状足場の接触操作を開始するとき、血清アルブミンは、希釈されていない全血サンプルの中、またはこの全血サンプルを含む懸濁液の中に約55 g/L~約105 g/Lの濃度で存在する。
【0040】
いくつかの実施態様では、栄養素は、糖、アミノ酸、ビタミンの1つ以上を含んでいる。
【0041】
いくつかの実施態様では、糖はD-グルコースである。
【0042】
いくつかの実施態様では、生理学的溶液は、増殖因子、抗血栓因子、栄養素、膠質因子を含み;増殖因子は、ヒトFGF-2とヒトVEGFを含み;抗血栓因子は、アセチルサリチル酸、ヘパリン、デキストランの1つ以上を含み;栄養素はD-グルコースを含んでいる。
【0043】
いくつかの実施態様では、個別化された血管を作製するのに無細胞性管状足場を全血と接触させた後に細胞培地と接触させる必要はない。
【0044】
いくつかの実施態様では、無細胞性管状足場の接触操作は、3日間超、4日間超、5日間超、6日間超、7日間超、2~21日間、3~21日間、4~21日間、5~21日間、6~21日間、7~21日間、7~9日間のいずれかにわたる。
【0045】
いくつかの実施態様では、無細胞性管状足場を、全血サンプルを含む懸濁液と接触させる方法は、個別化された血管を作製している間、複数の環境パラメータおよび/または栄養素の濃度をモニタすることをさらに含んでいる。
【0046】
いくつかの実施態様では、本開示の方法は、複数の環境パラメータを調節することをさらに含んでいる。
【0047】
いくつかの実施態様では、複数の環境パラメータは、温度、および/またはpH、および/または酸素、および/またはCO2を含んでいる。
【0048】
いくつかの実施態様では、無細胞性管状足場を、全血サンプルを含む懸濁液と接触させる方法は、懸濁液の中の栄養素の濃度をモニタすることをさらに含んでいる。
【0049】
いくつかの実施態様では、本開示の方法は、栄養素の濃度を連続的に、または定期的に調節することをさらに含んでいる。
【0050】
いくつかの実施態様では、栄養素はD-グルコースであり、このD-グルコースの濃度を連続的または定期的に調節して約3~約11ナノモル/Lに維持する。
【0051】
いくつかの実施態様では、懸濁液から回収したサンプル中のD-グルコースの濃度を測定することによって懸濁液の中のD-グルコースの濃度をモニタする。
【0052】
いくつかの実施態様では、懸濁液の中のD-グルコースの濃度を毎日1回測定する。
【0053】
いくつかの実施態様では、懸濁液と接触しているセンサーを用いてD-グルコースの濃度を測定することにより、懸濁液の中のD-グルコースの濃度をモニタする。
【0054】
いくつかの実施態様では、接触操作中はセンサーを懸濁液に連続的に接触させる。
【0055】
いくつかの実施態様では、懸濁液の中のD-グルコースの濃度測定値が4ナノモル/L未満であるときにD-グルコースを添加する。
【0056】
いくつかの実施態様では、D-グルコースを添加して懸濁液の中のD-グルコースの最終濃度を10ナノモル/Lに到達させる。
【0057】
いくつかの実施態様では、無細胞性管状足場の表面は、この無細胞性管状足場の内面である。
【0058】
いくつかの実施態様では、全血は末梢血または臍帯血を含んでいる。
【0059】
いくつかの実施態様では、方法はヒト血清アルブミンの濃度をモニタすることをさらに含んでおり、無細胞性管状足場の接触操作を開始するとき、ヒト血清アルブミンの濃度は約55 g/L~約105 g/Lである。
【0060】
いくつかの実施態様では、接触の結果として複数の前駆細胞が増殖および/または分化して複数の内皮細胞になる。
【0061】
いくつかの実施態様では、これら複数の内皮細胞は、VE-カドヘリン、および/またはAcLDL、および/またはvWF、および/またはCD31を発現する。
【0062】
いくつかの実施態様では、無細胞性管状足場は、脱細胞化した血管である。
【0063】
いくつかの実施態様では、無細胞性管状足場に懸濁液または全血を連続的に灌流させる。
【0064】
いくつかの実施態様では、無細胞性管状足場への灌流は約0.1 ml/分~約50 ml/分の速度である。
【0065】
いくつかの実施態様では、無細胞性管状足場への灌流は約2 ml/分の速度である。
【0066】
いくつかの実施態様では、足場に閉鎖系で再循環する懸濁液または全血を灌流させる。
【0067】
いくつかの実施態様では、連続的接触操作は、バイオリアクターを用いて実施する灌流である。
【0068】
いくつかの実施態様では、接触操作をインビトロで実施する。
【0069】
いくつかの実施態様では、接触操作を約8℃~約40℃で実施する。
【0070】
いくつかの実施態様では、接触操作を約20℃~約25℃で実施する。
【0071】
いくつかの実施態様では、個別化された血管は静脈である。
【0072】
いくつかの実施態様では、静脈は大腿静脈である。
【0073】
いくつかの実施態様では、本開示の方法は、弁性能試験を利用して前記個別化された血管の静脈弁機能を評価することをさらに含んでいる。
【0074】
本開示の別の1つの側面は、本明細書に開示されている個別化された血管を作製する方法の任意の1つの方法によって作製される個別化された血管に関する。
【0075】
いくつかの実施態様では、個別化された血管は、手術によって対象に埋め込まれている。
【0076】
本開示の別の1つの側面は手術の方法に関係しており、この方法は、本明細書に開示されている個別化された血管を、それを必要とする対象に埋め込むことを含んでいる。
【0077】
本開示の別の1つの側面は、手術の方法で用いるための個別化された血管に関係しており、この方法は、本明細書に開示されている個別化された血管を、それを必要とする対象に埋め込むことを含んでいる。
【0078】
いくつかの実施態様では、対象はヒトである。
【0079】
本開示の別の1つの側面は、個別化された血管を作製するためのバイオリアクターに関係しており、このバイオリアクターは、蠕動ポンプと、サンプリングポートを含む容器と、第1のコネクタと、第2のコネクタを含んでいて、第1のコネクタと第2のコネクタは容器に直接的または間接的に接続され、それぞれのコネクタは、本明細書に開示されている方法によって作製される個別化された血管を作製するための管状足場の一端に接続され、第1のコネクタと第2のコネクタが管状足場の両端部に接続されているとき、蠕動ポンプが閉回路での懸濁液または溶液の循環を媒介する。
【0080】
いくつかの実施態様では、第1のコネクタと第2のコネクタはルアーコネクタである。
【0081】
いくつかの実施態様では、サンプリングポートは注入ポートである。
【0082】
いくつかの実施態様では、バイオプリントは注入ポートをさらに含んでいる。
【0083】
いくつかの実施態様では、注入ポートはD-グルコースのリザーバに接続されている。
【0084】
いくつかの実施態様では、第1のコネクタはチューブによって前記容器に直接接続されている、および/または前記第2のコネクタはチューブによって前記容器に直接接続されている。
【0085】
いくつかの実施態様では、バイオリアクターは1つ以上のサンプルポートをさらに含んでいる。
【0086】
いくつかの実施態様では、バイオリアクターは、グルコースのレベルを測定するための1つ以上のセンサーをさらに含んでいる。
【0087】
いくつかの実施態様では、バイオリアクターはpH調節モジュールをさらに含んでいる。
【0088】
いくつかの実施態様では、バイオリアクターはCO2調節モジュールをさらに含んでいる。
【0089】
本開示の別の1つの側面は、個別化された血管を作製する方法に関係しており、この方法は、無細胞性管状足場の表面を、全血の中に含まれる成分と接触させることを含み、この成分は、この表面の接触操作に使用する前に富化または選択する。
【0090】
いくつかの実施態様では、成分を、血小板、有核細胞、タンパク質、増殖因子、シグナル伝達因子、免疫グロブリンと、これらの任意の組み合わせから選択する。
【0091】
いくつかの実施態様では、成分を、遠心分離または勾配遠心分離によって富化するか;選択的接着、濾過、ソーティングのいずれかによって選択する。
【0092】
いくつかの実施態様では、表面は無細胞性管状足場の内面である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【
図1】
図1は、偽手術を受けた大静脈(
図1A)と移植されたP-TEV(
図1B)の血管造影図である。吻合部を特定するため金属クリップが矢の先端で示されている。
【0094】
【
図2】
図2は、手術から3日後、2週間後、17日間後、4~5週間後の隣り合った切片からの天然の大静脈(「天然」、
図2A)とP-TEV移植片(「P-TEV」、
図2B)をヘマトキシリンとエオシン(H&E)と、4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)で染色した一連の画像である。
【0095】
【
図3】
図3は、手術から2週間後の大静脈細胞化を示す画像である。
図3A~
図3Dは、手術から2週間後のDAPI染色とCD31免疫染色を示す一連の免疫ヒストグラムである。
図3Aは、吻合の近位の天然の大静脈を示している。
図3B~
図3Dは、P-TEVの近位部(
図3B)、中央部(
図3C)、遠位部(
図3D)を示している。矢の先端はCD31陽性細胞を示す。
【0096】
【
図4】
図4は、手術から4週間後の大静脈細胞化を示す画像である。
図4A~
図4Dは、手術から4~5週間後のDAPI染色とCD31免疫染色を示す一連の免疫ヒストグラムである。
図4Aは、吻合の近位の天然の大静脈を示している。
図4B~
図4Dは、P-TEVの近位部(
図4B)、中央部(
図4C)、遠位部(
図4D)を示している。矢の先端はCD31陽性細胞を示す。
【0097】
【
図5】
図5は、手術から4週間後の内腔細胞の形態を示す画像である。
図5A~
図5Bは、手術から4~5週間後の天然の大静脈(
図5A)とP-TEV移植片(
図5B)のH&E染色を示す倍率40倍の一連の画像である。矢印は、天然の組織の中の内皮細胞と、P-TEV移植片の中の平坦な内皮細胞様形態の細胞を示す。
【発明を実施するための形態】
【0098】
本開示は特に、血液中の細胞と非細胞因子が無細胞性管状足場(例えば脱細胞化された血管またはバイオプリントされた管状足場)を調整して個別化された血管を生成させることができるという発見に基づいている。本開示により特に、インビトロのプロセスで無細胞性管状足場を、希釈された全血サンプルと接触させるか、生理学的溶液の中で希釈された全血サンプルを含む懸濁液と接触させると、宿主への適合性が改善されていて血栓症によりなりにくい個別化された血管がさらに生成する。
【0099】
したがって本開示の1つの側面は、個別化された血管を作製する方法に関係しており、この方法は、無細胞性管状足場の表面を、その個別化された血管を必要とする対象からの希釈されていない全血サンプルと接触させることを含み、この接触操作を2日間超にわたって実施する。
【0100】
本開示の別の1つの側面は、個別化された血管を作製する方法に関係しており、この方法は、無細胞性管状足場の表面を、その個別化された血管を必要とする対象からの全血サンプルを含む懸濁液と接触させることを含み、その全血サンプルは生理学的溶液の中で希釈されている。いくつかの実施態様では、無細胞性管状足場の表面は、この無細胞性管状足場の内面である。
【0101】
本明細書では、「個別化された血管」という用語は、天然の血管ではない組織または器官を通過させて血液を運ぶことのできる管状構造を意味する。この管状構造は、ドナーに由来する天然の血管を脱細胞化することで無細胞性足場を取得した後、別の個体からの細胞を用いてこの足場を再調整/再細胞化することによって作製できる。無細胞性足場は、生体適合性材料をインビトロで組み立てること(例えばバイオプリンティングまたはポリマー自己組織化)によっても取得できる。本明細書では、「再調整する」、「再調整している」、「再調整された」という用語は、全血を含む再細胞化/再調整(RC)溶液の成分による無細胞性足場の改変を記述するのに用いられる。本明細書では、「再細胞化する」、「再細胞化している」、「再細胞化」という用語はいずれかの文脈で用いられ、初期出発材料に細胞が付着している必要はない。個別化された血管として、個別化された静脈、動脈、毛細血管のいずれかが可能である。いくつかの実施態様では、個別化された血管は天然の血管と置き換えるのに有用である。
【0102】
ドナーからの無細胞性管状足場の作製
本明細書に開示されている個別化された血管を作製する方法は、無細胞性管状足場を使用する。本明細書では、「無細胞性管状足場」という用語は、実質的に無細胞である管状足場を意味する。無細胞性管状足場は、ドナーからの天然の血管を脱細胞化することによって作製できる。ドナーとして、ヒト、または適切な種からの動物が可能である。無細胞性足場は、生体適合性材料をインビトロで組み立てること(例えばバイオプリンティングまたはポリマー自己組織化)によっても取得できる。
【0103】
無細胞性管状足場は、本分野で知られている任意の方法(例えば天然の血管の脱細胞化)によって作製することができる。天然の血管は、ヒト起源のもの、または適切な動物種から得られたものが可能である。管状構造は、生体適合性材料と細胞から組織培養法によってインビトロで構成することができ、無細胞性足場を作製するための出発材料として機能することができる。いくつかの実施態様では、無細胞性管状足場は、本明細書に開示されている脱細胞化の方法によって得られる。いくつかの実施態様では、本明細書に開示されている個別化された血管を作製する方法はさらに、天然の血管を脱細胞化し、そのことによって無細胞性管状足場を取得することを含んでいる。
【0104】
本明細書では、「脱細胞化する」、「脱細胞化された」、「脱細胞化している」、「脱細胞化」という用語は、血管(血管内のあらゆる静脈弁を含む)から細胞を除去するプロセスを意味する。有効な脱細胞化は、組織の密度と構成、最終製品にとって望ましい幾何学的特性と生物学的特性、目的とする臨床用途などの因子によって決まる。ECMの完全性と生物活性が保持された血管の脱細胞化は、当業者が例えばプロセシングの間の特定の薬剤と技術を選択することによって最適化することができる。
【0105】
成功した脱細胞化は、標準的な組織学的染色手続きを利用して組織学的切片内に内皮細胞、平滑筋細胞、核などの細胞が存在しないことと定義される。大半の細胞除去剤と細胞除去法はECMの組成を変化させ、超構造の破壊をある程度引き起こすが、こうした望ましくない効果は最少にすることが望ましい。脱細胞化の方法は本分野で知られている(例えばアメリカ合衆国特許出願公開第2017/0071738号)。
【0106】
したがっていくつかの実施態様では、脱細胞化プロセスですべての核が除去され、そのことが本分野で知られている方法によって検出される(例えばDAPI染色、DNA定量化)。いくつかの実施態様では、脱細胞化プロセスによってHLAクラスI抗原とHLAクラスII抗原が減少するか除去され、そのことが本分野で知られている方法によって検出される(例えばHLAクラスI抗原とHLAクラスII抗原のための免疫組織化学アッセイ)。
【0107】
いくつかの実施態様では、ECMの成分は脱細胞化プロセスにおいて実質的に保持される。脱細胞化プロセスの間と脱細胞化プロセスの後、ECMの形態と構造を目視で、および/または組織学的に調べ、脱細胞化プロセスがECM足場の三次元構造と生物活性を損なっていないことを確認することができる。染色(例えばH&E染色、マッソントリクローム染色、ヴァーヘフ-ヴァン・ギーソン染色)による組織学的分析は、脱細胞化された血管構造とECM成分(コラーゲンI、コラーゲンIV、ラミン、フィブロネクチンなど)の保持を可視化するのに有用である可能性がある。本分野で知られている他の方法は、保持されているECM成分(グリコサミノグリカン、コラーゲンなど)を明らかにするのに使用できる可能性がある。
【0108】
1つ以上の細胞破壊溶液を用いて血管を脱細胞化することができる。細胞破壊溶液は一般に少なくとも1つの洗浄剤(SDS、PEG、Triton Xなど)を含んでいる。特に好ましい洗浄剤はTriton X(例えばTriton X-100)である。細胞破壊溶液は、有機溶媒(例えばリン酸トリ-n-ブチル(TNBP))を含むことができる。細胞破壊溶液は血液よりも浸透圧が実質的に低いことで細胞を容易に溶解させることもできる。あるいは細胞破壊溶液は等張性であることが可能である。細胞破壊溶液は、酵素(その非限定的な例は1つ以上のヌクレアーゼ(例えばDNアーゼまたはRNアーゼ)である)とプロテイナーゼ(例えばコラゲナーゼ、ディスパーゼ、トリプシン)も含むことができる。DNアーゼIを含む細胞破壊溶液は、この酵素を活性化させるため塩化カルシウムと塩化マグネシウム(A12858、Life Technologies社)も含むことができる。いくつかの実施態様では、細胞破壊溶液はさらに、1つ以上のプロテアーゼ阻害剤(例えばフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)、コラゲナーゼ阻害剤)を含んでいる。いくつかの実施態様では、細胞破壊溶液はさらに、抗生剤(例えばペニシリン、ストレプトマイシン、アムホテリシン)またはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含むことができる。
【0109】
いくつかの実施態様では、灌流法を利用し、血管を脱細胞化するための細胞破壊溶液を用いて血管(例えば弁付き静脈)を処理することができる。灌流の方向を交互に変える(例えば順行と逆行)と、弁付き静脈の効果的な脱細胞化を助けることができる。本明細書に記載されている脱細胞化により、弁付き静脈のライニングとなっている細胞が内側から実質的に除去され、ECMの損傷が非常に少なくなる。血管のサイズと重量、具体的な洗浄剤、細胞破壊溶液内の洗浄剤の濃度に応じ、弁付き静脈は一般に細胞破壊媒体を用いて4~48時間、または8~24時間灌流される。洗浄を含め、血管には、Triton Xは約48時間または24時間まで、TNBPは約8時間まで、DNアーゼは約16時間まで灌流させることができ、洗浄の合計は1時間、最終洗浄は約48時間である。いくつかの実施態様では、上記の灌流手続きは、1~14サイクル;1~5サイクル;2~4サイクル;1~3サイクル;または2サイクル;または3サイクル;または4サイクル;または5サイクル;または6サイクル繰り返される。いくつかの実施態様では、脱細胞化は、上記の試薬を用いて100時間、110時間、120時間、130時間、140時間、150時間、160時間、170時間、180時間、190時間、200時間、210時間、220時間、230時間、240時間、250時間、260時間、270時間、280時間、290時間、300時間、310時間、320時間、330時間、340時間、350時間、またはそれよりも長時間にわたって実施される。灌流は一般に、生理学的条件(脈動流、速度、圧力が含まれる)となるように調節される。本明細書に記載されている灌流式脱細胞化は、いくつかの実施態様において、例えばアメリカ合衆国特許第6,753,181号と第6,376,244号に記載されている浸漬式脱細胞化と比較することができる。いくつかの実施態様では、脱細胞化は、下記の実施例1に示されている血管脱細胞化法に従って実施される。
【0110】
いくつかの実施態様では、無細胞性管状足場は、合成された足場および/または組み立てられた足場(例えば生体適合性材料をインビトロで組み立てることによって得られる足場)である。このような足場を作製する方法は本分野で知られており(例えばバイオプリンティングまたはポリマー自己組織化)、その非限定的な例がアメリカ合衆国特許出願公開第2017/0304503号と第2016/0354194号に提示されている。
【0111】
したがっていくつかの実施態様では、本明細書に開示されている方法はさらに、バイオプリントされたポリマー製足場を用いてバイオプリントされた管状血管足場を作製する工程を含んでいる。バイオプリントされた血管足場は(天然または合成の)ポリマーの表面に作製され、ゲル形態、スポンジ形態、泡形態、パッチ形態、半液体/流体形態のいずれかが可能である。いくつかの実施態様では、バイオプリントされた足場は、全血、または溶液の中で希釈された全血(例えば全血を含む懸濁液)を用いて灌流される。
【0112】
いくつかの実施態様では、ECM成分を粉末形態のポリマーに添加することができる。本開示では、本開示の組成物を調製するための粉末は、組織を化学薬品で処理し、化学薬品で処理したこの組織を凍結乾燥させ、凍結乾燥させたこの組織を均一化することによって調製される。いくつかの実施態様では、粉末はフィラメント状である。
【0113】
いくつかの実施態様では、バイオプリントされたポリマー製足場はゼラチンとフィブリンを含むことができる。ゼラチンとフィブリンは、天然のECMを模倣した相互浸透ポリマーネットワークを形成することができ、細胞の付着、バイオプリンティング、透明性、生体適合性に関して最適化することができる。
【0114】
いくつかの実施態様では、ECMの成分を哺乳動物(例えばブタ、ウシ、子ヒツジ、ヤギ、ヒツジ、チンパンジー、サル、ヒト、他の霊長類のいずれか)の組織から単離および/または精製するか、ECMの各成分(例えばコラーゲン、エラスチン、ラミニン、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、抗菌剤、化学誘引物質、サイトカイン、増殖因子)をコードする哺乳動物(例えばブタ、ウシ、子ヒツジ、ヤギ、ヒツジ、チンパンジー、サル、ヒト、他の霊長類のいずれか)の遺伝子または遺伝子断片が関与する組み換えDNA技術を利用して生成させ、適切な発現系(原核細胞または真核細胞(例えば酵母、昆虫、哺乳動物いずれかの細胞))の中で発現させ、その後、本分野の適切な方法による単離および/または精製を実施する、または実施することができる。いくつかの実施態様では、ECMの成分の1つ以上をポリマー製足場に添加してバイオプリントされたポリマー製足場を作製した後、この足場に全血を、または溶液の中で希釈した全血(例えば全血を含む懸濁液)を灌流させて個別化された血管を作製する。
【0115】
いくつかの実施態様では、管状足場は、さまざまな材料の3Dプリンティング、自己組織化、化学的または生化学的な操作などの方法によって作製することができる。いくつかの実施態様では、管状足場は、生物性出発材料と非生物性出発材料から作製される。
【0116】
患者の全血
いくつかの実施態様では、全血サンプルの中に存在する細胞の集団は足場に定着する。患者の全血は、希釈せずに用いること、または実施例4~5に記載されているような生理学的灌流溶液または他の臓器保存溶液(例えばPerfadex(商標)、STEEN(商標)、Euro Collins溶液、ウィスコンシン大学冷蔵溶液、Celsior(登録商標)溶液など)で希釈して用いることができる。
【0117】
いくつかの実施態様では、全血は末梢血(末梢静脈血)を含んでいる。いくつかの実施態様では、全血は末梢血(末梢静脈血)である。いくつかの実施態様では、全血は臍帯血を含んでいる。いくつかの実施態様では、全血は臍帯血である。
【0118】
「患者」と「対象」という用語は本開示では交換可能に用いられ、ヒトまたは非ヒト動物(例えば哺乳動物)を意味する。非限定的な例に含まれるのは、ヒト、ウシ、ラット、マウス、イヌ、ネコ、サル、ヤギ、ヒツジ、シカである。いくつかの実施態様では、対象はヒトである。
【0119】
希釈されていない患者全血
本開示の1つの側面は個別化された血管を作製する方法に関係しており、この方法は、無細胞性管状足場の表面を、その個別化された血管を必要とする対象からの希釈されていない全血サンプルと接触させることを含み、この接触操作は2日間超にわたって実施する。
【0120】
いくつかの実施態様では、全血の中に存在する細胞および/または前駆細胞は足場に定着する。いくつかの実施態様では、全血サンプルの中に存在する細胞の集団は足場に定着する。「全血」という用語は、身体、臓器、組織のいずれかから取り出されて、いかなる成分も除去されていない血液を意味する。
【0121】
当業者であれば、全血の回収時、血液サンプルを対象から取り出している間、または取り出した直後にわずかな体積の抗血栓剤を添加してもよいことがわかるであろう。抗血栓剤の体積が、この抗血栓剤を混合する血液の体積の約5%または少なくとも10%を超えない場合に、このようにして調製される全血は希釈されていないと見なされる。同様にいくつかの実施態様では、全血に1つ以上の他の薬剤(例えば抗血栓剤、栄養素、希釈剤、保存剤、CO2とは独立なバッファ系)を補足することができる。添加される物質の全体積(回収時の最初に導入されたいかなる抗血栓剤も除外する)が全血の体積の約5%または少なくとも10%を超えない場合に、この補足された全血は希釈されていないと見なされる。
【0122】
いくつかの実施態様では、本開示の方法は、無細胞性管状足場を、個別化された血管を作製するための細胞培地と接触させる必要がない。いくつかの実施態様では、全血は、本明細書に開示されている方法において、回収してから約1時間以内、約2時間以内、約4時間以内、約6時間以内、約8時間以内、約12時間以内、約24時間以内、約36時間以内、約2日以内、約3日以内、約1週間以内のいずれかの期間内に使用される。いくつかの実施態様では、全血は、この方法で使用するまで約2℃~約8℃で保管される。
【0123】
希釈された患者全血
別の1つの側面では、本発明は、無細胞性管状足場を、希釈された患者全血と接触させることに関する。
【0124】
患者全血は、患者から採取されたこの全血が任意のタイプの溶液、バッファ、水性液体のいずれかで少なくとも15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、110%、120%、130%、140%、150%、160%、170%、180%、190%、200%のいずれかの割合で希釈される場合に希釈されたと見なされる。いくつかの実施態様では、全血サンプルは1:1に希釈される(すなわち全血1体積が1体積の希釈剤と混合される)。いくつかの実施態様では、全血サンプルは、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8、1:9、1:10のいずれかの比で希釈される。
【0125】
いくつかの実施態様では、全血は生理学的溶液の中で希釈される。いくつかの実施態様では、希釈剤は、実施例x~yに記載されている追加の浸透因子とそれ以外の因子を含有する生理学的溶液、または他の臓器保存溶液(例えばPerfadex(商標)(例えば下記の実施例5参照)、STEEN(商標)(ヒト血清アルブミンとデキストラン40を含む非毒性の生理学的塩溶液、またはアメリカ合衆国特許第8,980,541号に記載されている溶液)、Euro Collins溶液(例えば下記の実施例5参照)、ウィスコンシン大学冷蔵溶液(例えば下記の実施例5参照)Celsior(登録商標)溶液(例えば下記の実施例5参照))である。いくつかの実施態様では、生理学的溶液はSTEEN(商標)溶液である。
【0126】
いくつかの実施態様では、生理学的溶液の浸透圧を調節するため使用を検討する浸透因子は、血清アルブミン、グロブリン、フィブリノーゲンのいずれかを含む。いくつかの実施態様では、浸透因子は血清アルブミンを含む。いくつかの実施態様では、ゼラチンを用いて溶液の浸透圧を調節することができる。
【0127】
生理学的溶液は、細胞の生存、および/または増殖、および/または分化を支援するため、1つ以上の栄養素(例えばアミノ酸、および/または単糖(例えばD-グルコース)、および/またはビタミン、および/または無機イオン、および/または微量元素、および/または塩)、および/または増殖因子を、例えば生理学的濃度でさらに含むことができる。いくつかの実施態様では、栄養素は、糖、アミノ酸、ビタミンのうちの1つ以上を含む。いくつかの実施態様では、糖はD-グルコースである。
【0128】
いくつかの実施態様では、生理学的溶液は、無機塩とバッファ系を含む。いくつかの実施態様では、バッファ系は、CO2とは独立なバッファ系を含む。いくつかの実施態様では、CO2とは独立なバッファ系は、リン酸塩バッファ系を含む。生理学的溶液は、全血、または希釈された全血に添加される下記のさらに別の任意の薬剤を含むことができる。
全血サンプルまたは希釈されていない全血サンプルにさらに添加される薬剤
【0129】
いくつかの実施態様では、本明細書に記載されているさらに別の薬剤が、全血サンプル、または全血の懸濁液、または希釈された全血サンプルに添加された後、または添加されている間に、無細胞性管状足場を全血と接触させる。上に説明したように、本明細書に記載されている因子の添加によって全血が5%を超えて希釈されない限り、または少なくとも10%未満で希釈される限り、全血サンプルは相変わらず希釈されていないと見なされる。全血サンプルが本明細書に記載されている因子で15%を超えて希釈される場合、全血サンプルは希釈されている。
【0130】
いくつかの実施態様では、全血、または希釈された全血、または希釈されていない全血を含む懸濁液は、抗血栓剤をさらに含んでいる。いくつかの実施態様では、抗血栓剤は、無細胞性管状足場を接触させる前に全血に導入される、または導入されている。いくつかの実施態様では、抗血栓剤は抗凝固剤を含んでいる。いくつかの実施態様では、抗凝固剤は、ヘパリン、デキストランを含む。いくつかの実施態様では、抗血栓剤は、血小板阻害剤(アスコルビン酸など)を含む。
【0131】
いくつかの実施態様では、抗凝固剤はヘパリンを含む。ヘパリンが凝固を阻止するのに有効な濃度は本分野で知られている。いくつかの実施態様では、ヘパリンは、無細胞性管状足場の表面への接触操作を開始するとき、希釈されていない全血サンプルの中、または全血サンプルを含む懸濁液の中に、約0.5 IU/ml~約150 IU/mlの濃度で存在している。いくつかの実施態様では、接触操作を開始するときのヘパリンの濃度は約5~約50 IU/mlである。いくつかの実施態様では、接触操作を開始するときのヘパリンの濃度は、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約15、約20 IU/mlのいずれかである。いくつかの実施態様では、接触操作を開始するときのヘパリンの濃度は約6.7 IU/mlである。いくつかの実施態様では、配管と静脈を有するバイオリアクターに、50 IU/mlのヘパリンを含むPBS溶液を(例えば1時間にわたって)灌流させた後、このバイオリアクターを空にし、このバイオリアクターに血液溶液を満たす。さまざまな実施態様では、溶液の切り換えによって1:10希釈液が得られ、その結果として血液溶液の中にヘパリンがほぼ5 IU/mlになる。いくつかの実施態様では、全血1 ml当たり17 IUのヘパリンを含有するバキュテナーを用いると、血液溶液の中のヘパリンが8.5 IUになる。
【0132】
いくつかの実施態様では、抗凝固剤はデキストランを含む。あらゆる平均分子量のデキストランを使用することができる。いくつかの実施態様では、デキストランは、平均分子量が約40 kD、すなわちデキストラン-40である。いくつかの実施態様では、デキストランは、平均分子量が約60 kD、すなわちデキストラン-60である。いくつかの実施態様では、デキストランは、平均分子量が約70 kD、すなわちデキストラン-70である。いくつかの実施態様では、接触操作を開始するときのデキストランの濃度は約1~約55 g/Lである。いくつかの実施態様では、接触操作を開始するときのデキストランの濃度は、約1、約2、約3、約4、約4.5、約5、約10、約20 g/Lのいずれかである。いくつかの実施態様では、接触操作を開始するときのデキストランの濃度は約5 g/Lである。
【0133】
いくつかの実施態様では、抗凝固剤はアスコルビン酸を含む。いくつかの実施態様では、接触操作を開始するときのアスコルビン酸の濃度は約0.2~約200μg/mlである。いくつかの実施態様では、接触操作を開始するときのアスコルビン酸の濃度は、約1、約5、約10、約20、約50、約100μg/mlのいずれかである。いくつかの実施態様では、接触操作を開始するときのアスコルビン酸の濃度は約5μg/mlである。
【0134】
2つ以上の抗血栓剤(例えば抗凝固剤)を本発明では組み合わせることができる。いくつかの実施態様では、懸濁液は、ヘパリン、デキストラン(例えばデキストラン-40)、アスコルビン酸からなるグループから選択された2つ以上の薬剤を含んでいる。いくつかの実施態様では、懸濁液は、ヘパリンと、デキストラン(例えばデキストラン-40)と、アスコルビン酸を含んでいる。当業者は、2つ以上の抗血栓剤を組み合わせるとき、そのうちの少なくとも1つを、それを単独で使用するときよりも低い濃度で使用できることがわかるであろう。いくつかの実施態様では、懸濁液は、約6.7 IU/mlのヘパリンと、約6.7 mg/mlのデキストラン-40と、約4.5μg/mlのアスコルビン酸を含んでいる。いくつかの実施態様では、懸濁液は、少なくとも約6.7 IU/mlのヘパリンと、約6.7 mg/mlのデキストラン-40と、約4.5μg/mlのアスコルビン酸を含んでいた。
【0135】
いくつかの実施態様では、全血、または希釈された全血、または希釈されていない全血を含む懸濁液は、増殖因子をさらに含んでおり、増殖因子の選択は、顆粒球マクロファージ-コロニー刺激因子(GM-CSF)、インターロイキン(IL)-3、IL-4、ニュートロフィン(NT)-6、プレイオトロフィン(HB-GAM)、ミッドカイン(MK)、インターフェロン誘導タンパク質-10(IP-10)、血小板因子(PF)-4、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)、RANTES(CCL-5、ケモカイン(C-Cもチーフ)リガンド5)、IL-8、IGF、線維芽細胞増殖因子(FGF)-l、FGF-2、FGF-3、FGF-4、FGF-5、FGF-6、FGF-7、FGF-8、FGF-9、トランスフォーミング増殖因子(TGF)-β、VEGF、血小板由来増殖因子(PDGF)-A、PDGF-B、HB-EGF、肝細胞増殖因子(HGF)、腫瘍壊死因子(TNF)-α、インスリン様増殖因子(IGF)-1と、これらの任意の組み合わせからなるグループからなされる。いくつかの実施態様では、増殖因子はヒト増殖因子である。いくつかの実施態様では、増殖因子の濃度は、増殖因子の集団の平均生理学的レベルに等しい。いくつかの実施態様では、増殖因子の濃度は、増殖因子の集団の平均生理学的レベルよりも高い。いくつかの実施態様では、増殖因子は組み換えタンパク質として補足される。
【0136】
いくつかの実施態様では、増殖因子は線維芽細胞増殖因子(FGF)-2である。いくつかの実施態様では、FGF-2はヒトFGF-2である。いくつかの実施態様では、接触操作を開始するときのFGF-2の濃度は約0.5~約200 ng/mlである。いくつかの実施態様では、接触操作を開始するときのFGF-2の濃度は約10 ng/mlである。いくつかの実施態様では、FGF-2は、接触させる前に約0.5~約200 ng/ml(例えば約10 ng/ml)の濃度で補足される。いくつかの実施態様では、FGF-2は組み換えヒトFGF-2(rhFGF-2)である。いくつかの実施態様では、接触操作を開始するときのrhFGF-2の濃度は、約0.5~約200 ng/ml(例えば約10 ng/ml)である。
【0137】
いくつかの実施態様では、増殖因子は血管内皮増殖因子(VEGF)である。いくつかの実施態様では、VEGFはヒトVEGFである。いくつかの実施態様では、接触操作を開始するときのVEGFの濃度は約4~約800 ng/mlである。いくつかの実施態様では、接触操作を開始するときのVEGFの濃度は約80 ng/mlである。いくつかの実施態様では、VEGFは、接触させる前に約4~約800 ng/ml(例えば約80 ng/ml)の濃度で補足される。いくつかの実施態様では、VEGFは組み換えヒトVEGF(rhVEGF)である。いくつかの実施態様では、接触操作を開始するときのrhVEGFの濃度は、約4~約800 ng/ml(例えば約80 ng/ml)である。
【0138】
いくつかの実施態様では、全血、または希釈された全血、または希釈されていない全血を含む懸濁液は、アセチルサリチル酸をさらに含んでいる。いくつかの実施態様では、接触操作を開始するときのアセチルサリチル酸の濃度は、0.2μg/ml~200μg/ml;または0.5μg/ml~100μg/ml;または0.1μg/ml~50μg/ml;または1μg/ml~25μg/ml;または1μg/ml~10μg/ml;または2μg/ml~10μg/ml;または3μg/ml~8μg/ml;または4μg/ml~6μg/mlである。いくつかの実施態様では、接触操作を開始するときのアセチルサリチル酸の濃度は、約0.5μg/ml;または約1μg/ml;または約2μg/ml;または約3μg/ml;または約4μg/ml;または約5μg/ml;または約6μg/ml;または約7μg/ml;または約8μg/ml;または約9μg/ml;または約10μg/ml;または約25μg/ml;または約50μg/ml;または約100μg/ml;または約200μg/mlである。いくつかの実施態様では、接触操作を開始するときのアセチルサリチル酸の濃度は約5μg/mlである。いくつかの実施態様では、VEGFは、接触させる前に4 ng/ml~800 ng/ml;または10 ng/ml~400 ng/ml;または20 ng/ml~200 ng/ml;または40 ng/ml~200 ng/ml;または60 ng/ml~100 ng/ml;または70 ng/ml~90 ng/mlの濃度で補足される。
【0139】
いくつかの実施態様では、接触操作を開始するときのヒト血清アルブミン(HSA)の濃度は、50 mg/ml~150 mg/ml;または50 mg/ml~125 mg/ml;または50 mg/ml~100 mg/ml;または60 mg/ml~90 mg/ml;または60 mg/ml~80 mg/ml;または65 mg/ml~75 mg/mlである。いくつかの実施態様では、接触操作を開始するときのヒト血清アルブミン(HSA)の濃度は約55~約105 ng/mlであり、これは全血を溶液の中で2倍に希釈するときの量である。いくつかの実施態様では、接触操作を開始するときのヒト血清アルブミンの濃度は約45~約69 mg/mlである。いくつかの実施態様では、溶液中のHSAの濃度は約70 mg/mlであり、ヒト血液中のHSAの濃度は約45 mg/mlであり、溶液の中で希釈された全血を含む懸濁液の中のHSAは55~60 mg/mlである(すなわち溶液の中で全血を2倍に希釈)。いくつかの実施態様では、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、11倍、12倍、13倍、14倍、15倍、16倍、17倍、18倍、19倍、20倍のいずれかに希釈されたHSAを含む溶液の中で全血が希釈された後のヒト血清アルブミンの濃度。
【0140】
いくつかの実施態様では、全血、または希釈された全血、または希釈されていない全血を含む懸濁液は、細胞の生存、および/または増殖、および/または分化を支援するため、1つ以上の栄養素および/または増殖因子を例えば生理学的濃度で含んでいる。いくつかの実施態様では、栄養素の選択は、単糖(例えばD-グルコース)、アミノ酸(天然アミノ酸)、ビタミン、無機イオン、微量元素、塩類と、これらの任意の組み合わせからなされる。いくつかの実施態様では、栄養素として含まれるアミノ酸として、L-アルギニンHCl, L-シスチン2HCl、L-シスチンHCl H2O、L-ヒスチジンHCl H2O、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リシンHCl、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-トレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン2H2O、L-バリン、L-アラン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、グリシン、L-プロリン、L-セリン、および/またはL-ヒドロキシプリンのうちの1つ以上が可能である。いくつかの実施態様では、栄養素として含まれるビタミンとして、K-Ca-パントテン酸、塩化コリン、葉酸、i-イノシトール、ナイアシンアミド、ピリドキサールHCl、ピリドキシンHCl、リボフラビン、チアミンHCl、ビオチン、ビタミンB12、パラ安息香酸、パラアミノ安息香酸、ナイアシン、アスコルビン酸、リン酸a-トコフェロール、カルシフェロール、メナジオン、ビタミンAのうちの1つ以上が可能である。いくつかの実施態様では、無機イオンは無機塩の形態で含まれ、その非限定的な例として、CaCl2、KCl、MgSO4、NaCl、NaHCO3、NaHPO4、KNO3、NaSeO3、Ca(NO3)2、CuSO4、NaHPO4、MgCl2、Fe(NO3)3、 CuSO4、FeSO4、および/またはKH2PO4のうちの1つ以上が可能である。
【0141】
いくつかの実施態様では、全血、または希釈された全血、または希釈されていない全血を含む懸濁液は、約0.7%~約1.5%の塩を含んでいる。いくつかの実施態様では、生理学的溶液は、約0.7%、または約0.8%、または約0.9%、または約1.0%の塩を含んでいる。
【0142】
いくつかの実施態様では、懸濁液は、CO2とは独立なバッファ系を含む。いくつかの実施態様では、CO2とは独立なバッファ系はリン酸塩バッファ系を含む。いくつかの実施態様では、CO2とは独立なバッファ系は、リン酸塩バッファと重炭酸ナトリウムを含む。いくつかの実施態様では、懸濁液はさらに、D-グルコース、フェノールレッド、HEPES、ピルビン酸ナトリウム、(還元された)グルタチオン、ヒポキサンチンNa、チミジン、リポ酸、プトレシン2HCl、バクト-ペプトン、チミン、硫酸アデニン、アデノシン-5-三リン酸、コレステロール、2-デオキシ-D-リボース、アデノシン-5-リン酸、グアニンHCl、リボース、酢酸ナトリウム、Tween 80、ウラシル、および/またはキサンチンNaのうちの1つ以上を含んでいる。
【0143】
いくつかの実施態様では、全血懸濁液の非細胞性因子は、例えば細胞の生存、および/または増殖、および/または分化を促進することにより、無細胞性管状足場の細胞化を促進する。いくつかの実施態様では、非細胞性因子は、全血の中に存在する非細胞性成分である。いくつかの実施態様では、非細胞性血液因子は、接触操作の間に全血(例えば全血の中の細胞)から生成する因子である。いくつかの実施態様では、非細胞性血液因子は、血管がグラフトされると血管の宿主適合性、または細胞化、または一体化を促進する。本発明の非細胞性因子の非限定的な例を以下の表に提示する。
【化1-1】
【化1-2】
【化1-3】
【0144】
上に開示されている薬剤のうちの任意のもの(例えば抗血栓剤、栄養素、希釈剤、CO2とは独立なバッファ系)を希釈剤(例えば生理学的溶液)に導入し、全血を希釈するときに懸濁液に混合することができる。その代わりに、またはそれに加えて、薬剤は、希釈前に全血に直接導入すること、および/または全血の希釈後に懸濁液に導入することができる。
【0145】
いくつかの実施態様では、懸濁液の中の栄養素の濃度を連続的または定期的にモニタして調節する。いくつかの実施態様では、栄養素の選択は、単糖(例えばD-グルコース)、アミノ酸(例えば天然アミノ酸)、ビタミン、無機イオン、微量元素、塩からなるグループからなされる。特別な一実施態様では、接触操作中に懸濁液の中のD-グルコースの濃度をモニタし、D-グルコースを懸濁液に添加してD-グルコースの濃度を約3~約11ミリモル/Lに維持する。
【0146】
いくつかの実施態様では、懸濁液の中のD-グルコースの濃度は、懸濁液から回収したサンプル中のD-グルコースの濃度を測定することによってモニタする。いくつかの実施態様では、懸濁液の中のD-グルコースの濃度を定期的に測定する(例えば毎日2回、毎日1回、2日に1回)。いくつかの実施態様では、懸濁液の中のD-グルコースの濃度は、懸濁液と接触しているD-グルコースの濃度をセンサーで測定することによってモニタする。いくつかの実施態様では、センサーは、接触操作の間は懸濁液に連続的に接触している。いくつかの実施態様では、懸濁液の中のD-グルコースの濃度測定値が4ナノモル/L未満になったときにD-グルコースを添加する。いくつかの実施態様では、D-グルコースを添加し、懸濁液の中のD-グルコースの最終濃度を約7ミリモル/L;または約8ミリモル/L;または約9ミリモル/L;または約10ミリモル/Lに到達させる。いくつかの実施態様では、1.1 MのD-グルコース貯蔵溶液を添加してグルコースのレベルを調節する。いくつかの実施態様では、血液溶液1 ml当たり0.91μlの貯蔵溶液(1.1 M)を添加するとグルコースのレベルが1ミリモル/L上昇する。センサーで連続的にモニタし、場合によってはD-グルコースの自動的添加を組み合わせることにより、D-グルコースの濃度をより狭い範囲に維持することができる。したがっていくつかの実施態様では、D-グルコースの濃度は約5~約8ナノモル/Lに維持される。
【0147】
非細胞性血液因子
いくつかの実施態様では、全血サンプルは1つ以上の非細胞性因子を含んでおり、全血の1つ以上の非細胞性因子は足場に定着し、血管がグラフトされると無細胞性管状足場の細胞化と血管の宿主適合性を促進する。本明細書では、「非細胞性因子」という用語は、全血懸濁液の中にあって完全な真核細胞を含んでいない化合物を意味する。非細胞性因子として任意のタイプの分子が可能であり、その非限定的な例に含まれるのは、タンパク質、核酸、糖、脂質、小分子、金属イオン、またはこれらの複合体または組み合わせである。
【0148】
例えば非細胞性因子として増殖因子が可能である。いくつかの実施態様では、増殖因子の選択は、顆粒球マクロファージ-コロニー刺激因子(GM-CSF)、インターロイキン(IL)-3、IL-4、ニュートロフィン(NT)-6、プレイオトロフィン(HB-GAM)、ミッドカイン(MK)、インターフェロン誘導タンパク質-10(IP-10)、血小板因子(PF)-4、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)、RANTES(CCL-5、ケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド5)、IL-8、IGF、線維芽細胞増殖因子(FGF)-l、FGF-2、FGF-3、FGF-4、FGF-5、FGF-6、FGF-7、FGF-8、FGF-9、トランスフォーミング増殖因子(TGF)-β、VEGF、血小板由来増殖因子(PDGF)-A、PDGF-B、HB-EGF、肝細胞増殖因子(HGF)、腫瘍壊死因子(TNF)-α、インスリン様増殖因子(IGF)-1と、これらの任意の組み合わせからなるグループからなされる。
【0149】
いくつかの実施態様では、非細胞性血液因子は細胞の断片である(例えば血小板、細胞分画)。いくつかの実施態様では、非細胞性血液因子はタンパク質である(例えばサイトカイン、ケモカイン、増殖因子、抗体、抗体断片、補体系のタンパク質、酵素)。いくつかの実施態様では、非細胞性血液因子は核酸である(例えば循環しているDNA、循環しているRNA、循環しているmiRNA)。いくつかの実施態様では、非細胞性血液因子は糖である(例えば単糖または二糖)。いくつかの実施態様では、非細胞性血液因子は脂質である(例えば脂肪酸、トリグリセリド、コレステロール)。いくつかの実施態様では、非細胞性血液因子は小分子である。いくつかの実施態様では、非細胞性血液因子は金属イオンである。
【0150】
いくつかの実施態様では、非細胞性血液因子は、上記の分子の任意のものの修飾形態または代謝産物である。例えばいくつかの実施態様では、非細胞性血液因子はタンパク質の1つのセグメントである(例えばペプチドまたはポリペプチド)。いくつかの実施態様では、非細胞性血液因子は、1つ以上の修飾(例えばメチル化、5'キャッピング)を有する核酸である。いくつかの実施態様では、非細胞性血液因子は、アルドン酸、または糖のアルジオールである。いくつかの実施態様では、非細胞性血液因子はステロールである。いくつかの実施態様では、非細胞性血液因子は、本明細書に開示されている分子の任意の1つとの複合体であり、これら分子は共有結合または非共有結合している。
【0151】
いくつかの実施態様では、増殖因子の濃度は、この増殖因子の集団平均生理学的レベルに等しい。いくつかの実施態様では、増殖因子の濃度は、この増殖因子の集団平均生理学的レベルよりも高い。いくつかの実施態様では、増殖因子は、単離された分子、および/または精製された分子、および/または合成分子として補足される。
【0152】
非細胞性血液因子は、インビトロで、または移植後に、さまざまなやり方で無細胞性管状足場の再調整/再細胞化に寄与することができる。例えばいくつかの実施態様では、非細胞性血液因子は、足場への細胞の付着または接着を促進する。いくつかの実施態様では、非細胞性血液因子は、前駆細胞の増殖を促進する。いくつかの実施態様では、非細胞性血液因子は、前駆細胞が分化して足場に定着できる細胞になるのを促進する。いくつかの実施態様では、非細胞性血液因子は、細胞および/または前駆細胞のアポトーシスおよび/または壊死を抑制する。いくつかの実施態様では、非細胞性血液因子は、足場の表面に存在する同種タンパク質の除去またはマスキングを促進する。いくつかの実施態様では、非細胞性血液因子は、自家タンパク質が足場の表面に堆積するのを促進する。いくつかの実施態様では、非細胞性血液因子は、足場の調節を促進して宿主による拒絶を抑制する。
【0153】
無細胞性管状足場を患者の全血と接触させる
本開示により、個別化された血管を作製する方法として、無細胞性管状足場(例えば脱細胞化された血管、またはバイオプリントされた管状足場)の表面(例えば内面)を、全血を含む懸濁液に48時間超にわたって接触させることにより、血液の中に存在する細胞が足場に定着できるようにすることを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、無細胞性管状足場の表面は、この無細胞性管状足場の内面である。
【0154】
本明細書では、「接触する」、「接触している」、「接触した」という用語は、静的なインキュベーション、灌流、導入、注入、培養のいずれかを意味する。灌流として、パルス状の灌流、時間間隔をあけた灌流、方向が交互する灌流、無灌流が可能である。いくつかの実施態様では、無細胞性管状足場に懸濁液または全血を連続的に灌流させる。
【0155】
いくつかの実施態様では、接触操作は2日間超にわたる。本明細書では、「2日間超」という用語は、48時間よりも長い期間と、約48時間よりも長い期間を意味する。「日」という用語は、24時間のサイクルを意味する。いくつかの実施態様では、接触操作は、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間、少なくとも7日間のいずれかにわたる。いくつかの実施態様では、接触操作は、9日間まで、10日間まで、11日間まで、12日間まで、13日間まで、14日間まで、21日間まで、31日間までのいずれかである。いくつかの実施態様では、接触操作は1ヶ月までである。いくつかの実施態様では、接触操作は、約1~31日間、2~21日間、2~14日間、2~9日間、2~7日間、2~5日間、5~7日間、7~9日間のいずれかである。いくつかの実施態様では、接触操作は7~9日間である。いくつかの実施態様では、無細胞性管状足場の表面を接触させる操作は、2~21日間、3~21日間、4~21日間、5~21日間、6~21日間、7~21日間のいずれかである。いくつかの実施態様では、接触操作は、約2日間、約3日間、約4日間、約5日間、約6日間、約7日間、約8日間、約9日間、約10日間、約11日間、約12日間、約13日間、約14日間、約15日間、約16日間、約17日間、約18日間、約19日間、約20日間、約21日間のいずれかである。
【0156】
無細胞性管状足場(例えば脱細胞化された血管、またはバイオプリントされた管状足場)は、希釈されていない全血サンプル、または希釈されていない全血を含有する懸濁液と、本分野で知られている任意のやり方で接触させることができる。例えばいくつかの実施態様では、足場は懸濁液の中に緩く懸濁されており、場合によっては懸濁液を震盪して(例えば回転させて)諸成分を定期的または連続的に再混合する。灌流している間の管状足場の回転として、連続的/断続的な回転、または方向が交互する回転、または時間間隔をあけた回転が可能である。
【0157】
いくつかの実施態様では、足場の内面を懸濁液と接触させる。いくつかの実施態様では、足場に懸濁液を灌流させる。いくつかの実施態様では、足場に懸濁液を閉鎖式再循環で灌流させる。いくつかの実施態様では、連続的接触操作は、バイオリアクターを用いて実施される灌流である。いくつかの実施態様では、足場の外面も懸濁液に接触させる。別の実施態様では、足場の外面を懸濁液に接触させない。いくつかの実施態様では、接触操作をインビトロで実施する。
【0158】
灌流は、任意のやり方で実施することができる。例えばいくつかの実施態様では、足場に懸濁液を連続的に灌流させる。いくつかの実施態様では、足場に懸濁液を断続的に灌流させる(例えば1分間の灌流を4分間隔で)。いくつかの実施態様では、灌流を一方向に実施する。いくつかの実施態様では、一方向は、順行流の方向である(例えば足場内の弁構造によって許される方向)。いくつかの実施態様では、灌流は、方向を交互にして実施される(例えば方向を5分ごとに変える)。灌流の速度は、当業者が多数の因子(管状足場の直径、足場の機械的強度、細胞が沈殿するのに要する時間、懸濁液の粘度など)に照らして決定することができる。いくつかの実施態様では、約0.1~約50 ml/分の速度で足場に灌流させる。いくつかの実施態様では、約2 ml/分の速度で足場に灌流させる。足場の向きに応じ、灌流の間(合間の時間を含む)に回転させることは、足場の内面への均一な定着に有利である可能性がある。いくつかの実施態様では、足場を連続的に回転させる。いくつかの実施態様では、足場を断続的に(例えば5分ごとに30°)回転させる。回転の方向は、一定でも交互でもよい。回転させることの利点は、足場が鉛直方向に固定されている場合には大きくない可能性がある。したがっていくつかの実施態様では、足場を回転させない。
【0159】
特別な実施態様では、足場(例えば足場の内腔)に懸濁液を連続的に灌流させる。いくつかの実施態様では、約0.1~約50 ml/分の速度(例えば約2 ml/分)で足場に灌流させる。いくつかの実施態様では、足場に懸濁液を閉鎖再循環で灌流させる。いくつかの実施態様では、連続的接触操作は、バイオリアクターを用いて実施される灌流である。
【0160】
接触操作の間の環境条件のモニタリング
別の1つの側面では、本開示により、個別化された血管を作製する方法として、無細胞性管状足場(例えば脱細胞化された血管、またはバイオプリントされた管状足場)の表面を、全血を含む懸濁液に接触させ、複数の環境パラメータ(例えば温度、および/またはpH、および/または酸素含量、および/またはCO2含量)を連続的または定期的にモニタして調節することを含む方法が提供される。
【0161】
いくつかの実施態様では、接触操作を約8℃~約40℃で実施する。いくつかの実施態様では、接触操作を約20℃~約25℃で実施する。いくつかの実施態様では、接触操作を約37℃で実施する。いくつかの実施態様では、接触操作を、約20℃、約21℃、約22℃、約23℃、約24℃、約25℃のいずれかの温度で実施する。
【0162】
いくつかの実施態様では、接触操作を約7.2~約7.5のpHで実施する。いくつかの実施態様では、接触操作を約7.4のpHで実施する。
【0163】
いくつかの実施態様では、接触操作を約30 mmHg~約100 mmHgの酸素分圧で実施する。いくつかの実施態様では、接触操作を約30 mmHg~約40 mmHgの酸素分圧で実施する。いくつかの実施態様では、接触操作を約80 mmHg~約100 mmHgの酸素分圧で実施する。いくつかの実施態様では、接触操作を約160 mmHgの酸素分圧で実施する。
【0164】
いくつかの実施態様では、接触操作を約38 mmHg~約76 mmHgの二酸化炭素分圧で実施する。いくつかの実施態様では、接触操作を約38 mmHgの二酸化炭素分圧で実施する。いくつかの実施態様では、接触操作を約76 mmHgの二酸化炭素分圧で実施する。いくつかの実施態様では、接触操作を約40 mmHg~約50 mmHgの二酸化炭素分圧で実施する。
【0165】
いくつかの実施態様では、接触操作の間、環境パラメータ(例えば温度、および/またはpH、および/または酸素含量、および/またはCO2含量)を連続的または定期的にモニタして調節する。
【0166】
別の1つの側面では、本開示により、個別化された血管を作製する方法として、無細胞性管状足場(例えば脱細胞化された血管、またはバイオプリントされた管状足場)の表面を、全血を含む懸濁液に接触させ、懸濁液の中の栄養素の濃度を連続的または定期的にモニタして調節することを含む方法が提供される。
【0167】
別の1つの側面では、本開示により、個別化された血管を作製する方法として、無細胞性管状足場(例えば脱細胞化された血管、またはバイオプリントされた管状足場)の表面を、全血を含む懸濁液に接触させ、懸濁液の中のD-グルコースの濃度を接触操作中にモニタし、D-グルコースを懸濁液に添加してD-グルコースの濃度を約3~約11ミリモル/Lに維持することを含む方法が提供される。
【0168】
いくつかの実施態様では、懸濁液の中のD-グルコースの濃度は、懸濁液から回収されたサンプル中のD-グルコースの濃度を測定することによってモニタする。いくつかの実施態様では、懸濁液の中のD-グルコースの濃度を毎日1回測定する。いくつかの実施態様では、懸濁液の中のD-グルコースの濃度は、懸濁液に接触するセンサーを用いてD-グルコースの濃度を測定することによってモニタする。いくつかの実施態様では、センサーは、接触操作中は懸濁液に連続的に接触している。
【0169】
いくつかの実施態様では、懸濁液の中のD-グルコースの濃度測定値が4ミリモル/L未満になったときにD-グルコースを添加する。いくつかの実施態様では、D-グルコースを添加して懸濁液の中のD-グルコースの最終濃度を10ミリモル/Lに到達させる。
【0170】
全血の富化または選択した成分を用いた無細胞性管状足場の作製
いくつかの実施態様では、本開示により、個別化された血管を作製する方法として、全血の1つ以上の成分を富化して選択した後、無細胞性管状足場の表面に添加してこの足場の内面と接触させる方法が提供される。例えば血小板、有核細胞、タンパク質、増殖因子、シグナル伝達因子、免疫グロブリンと、これらの任意の組み合わせから選択された成分を無細胞性管状足場の内面に添加することができる。成分は、例えば遠心分離、勾配遠心分離、選択的接着による分離、濾過、ソーティング(例えばFACS、MACS)のいずれかによって富化または選択することができる。
【0171】
「豊化させて選択した」という表現は、(天然状態で、または実験設定で)最初に生成されたときに混合された複数の成分の少なくとも1つから分離された物質および/または存在物を意味する。いくつかの実施態様では、単離された物質および/または存在物は、最初に生成されたときに混合された複数の成分を、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも99%含んでいない。いくつかの実施態様では、富化して選択した物質および/または存在物を精製する。いくつかの実施態様では、富化、および/または選択、および/または精製された物質および/または存在物は、実質的に他の成分を含まない。本明細書では、分離率または精製率の計算に賦形剤(例えばバッファ、溶媒、水など)は含まれない。
【0172】
個別化された血管
本明細書に開示されている方法により、細胞および/または前駆細胞を無細胞性管状足場(例えば脱細胞化された血管、またはバイオプリントされた管状足場)の表面(例えば内面)に定着させることが可能になり、そのことによって個別化された血管が生成する。いくつかの実施態様では、細胞は内皮細胞を含んでいる。いくつかの実施態様では、細胞は平滑筋細胞を含んでいる。いくつかの実施態様では、前駆細胞は内皮前駆細胞を含んでいる。いくつかの実施態様では、前駆細胞は平滑筋前駆細胞を含んでいる。当業者であればわかるように、細胞および/または前駆細胞は1つ以上のやり方で足場に定着させることができる。足場への定着は、インビトロで移植の前に、または生体内で移植の後に起こることができる。いくつかの実施態様では、細胞は足場に付着する。いくつかの実施態様では、前駆細胞は増殖および/または分化して前駆細胞を生成させ、これら前駆細胞が足場に付着する。
【0173】
いくつかの実施態様では、接触操作によって前駆細胞が増殖および/または分化して内皮細胞になる。いくつかの実施態様では、内皮細胞は、VE-カドヘリン、および/またはAcLDL、および/またはvWF、および/またはCD31を発現する。再調整/再細胞化された足場は、内皮細胞と平滑筋細胞の存在を特徴とすることができる。当業者に周知の免疫組織化学技術と免疫蛍光技術を利用して内皮細胞と平滑筋細胞の存在を検出する。内皮細胞の存在を可視化するため、CD31に対する抗体(1:200)(Abcam社、ドイツ国)とvWFに対する抗体(1:100)(Santa Cruz社、ドイツ国)を再調整/再細胞化された足場の染色に用いることができる。平滑筋細胞を可視化するため、平滑筋アクチンに対する抗体(1:50)(Abcam社、ドイツ国)を用いて再調整/再細胞化された弁を染色することができる。これらマーカーに対して陽性の細胞が再細胞化された足場の中に存在することを免疫組織化学または免疫蛍光によって検出する。平滑筋細胞は、再調整/再細胞化された足場のライニングとなる紡錘形筋肉細胞の形態によって同定することもできる。
【0174】
本明細書に開示されている方法によって作製された個別化された血管は、対象(例えばヒト)に埋め込むのに役立つ。いくつかの実施態様では、個別化された血管は静脈として役立つ。いくつかの実施態様では、この方法はさらに、(例えばインビトロ弁性能試験を利用して)静脈弁の機能を評価する工程を含んでいる。代表的なインビトロ弁性能試験がアメリカ合衆国特許出願公開第2017/0071738号に提示されている。いくつかの実施態様では、静脈弁の機能を再調整/再細胞化の前に試験する。いくつかの実施態様では、静脈弁の機能を再調整/再細胞化の後に試験する。いくつかの実施態様では、静脈弁の機能を再調整/再細胞化の前と後の両方で試験する。
【0175】
機能的な個別化された血管は漏れがない。したがっていくつかの実施態様では、この方法はさらに、漏れを評価する工程を含んでいる。漏れを試験するさまざまな方法が本分野で知られている。例えばいくつかの実施態様では、個別化された血管に溶液(例えば生理学的緩衝化溶液であるリン酸塩緩衝化食塩水(PBS)など)を好ましくは一定速度で流し、この個別化された血管の表面で、漏れまたは穴から生じる溶液の蓄積を観察する。いくつかの実施態様では、漏れを再調整/再細胞化の前に試験する。いくつかの実施態様では、漏れを再調整/再細胞化の後に試験する。いくつかの実施態様では、漏れを再調整/再細胞化の前と後の両方で試験する。
【0176】
別の1つの側面では、本開示により、本明細書に開示されている方法の任意の1つによって作製された個別化された血管が提供される。いくつかの実施態様では、個別化された血管は、非細胞性因子(例えば哺乳動物の血管またはその機能的部分のECM成分/組成物で、ヒト細胞(例えば内皮細胞および/または平滑筋細胞)を用いて細胞化されたもの)を含む無細胞性管状足場(例えば脱細胞化された血管(場合によってはMMPで処理されている)、またはバイオプリントされた管状足場)を含んでいる。
【0177】
本開示の個別化された血管はさらに、細胞(その非限定的な例は、全血由来の幹細胞または前駆細胞、例えば内皮幹細胞、内皮前駆細胞、平滑筋前駆細胞である)、全血、末梢血と、全血から単離することのできる任意の細胞集団を含んでいる。前駆細胞は、1つのタイプの細胞に分化することが運命づけられた細胞と定義される。例えば内皮前駆細胞は、内皮細胞に分化するようにプログラムされた細胞を意味する。平滑筋前駆細胞は、平滑筋細胞に分化するようにプログラムされた細胞を意味する。全血または末梢血の中の前駆細胞は、運命づけられていない細胞および/または運命づけられた細胞(例えば多能性細胞または全能性細胞)の集団を含んでいる。
【0178】
いくつかの実施態様では、個別化された血管の表面は細胞で実質的に覆われている。いくつかの実施態様では、個別化された血管の内面は内皮細胞で実質的に覆われている。いくつかの実施態様では、内皮細胞は、VE-カドヘリン、および/またはAcLDL、および/またはvWF、および/またはCD31を発現する。
【0179】
当業者であればわかるように、全血の中の細胞および/または前駆細胞が足場の内面に定着し、再調整/再細胞化された足場を天然の血管から識別できないくらいになる必要はない。本明細書に開示されているように、再細胞化は移植後にインビトロと生体内で起こることができ、インビトロで部分的に再細胞化された足場はさらに生体内で再細胞化されて天然の血管の形態および/または機能を再獲得することができる。だが天然の血管におけるよりも低密度の内皮細胞も、より広がった形態を採用することによって足場の内面を実質的に覆うことができ、そのことによって細胞1個につきより広い表面領域に付着する。
【0180】
本明細書に開示されている方法によって作製された個別化された血管は、対象(例えばヒト)に埋め込むのに有用である。いくつかの実施態様では、個別化された血管は静脈として有用である。
【0181】
いくつかの実施態様では、無細胞性管状足場は、(例えば天然の静脈を脱細胞化することによって作製された)静脈に由来する。いくつかの実施態様では、静脈は下肢に存在する。下肢の静脈系は、筋膜の下方にあって下肢筋肉に血液を供給する深部静脈と、深在筋膜の上方にあって皮膚微小循環に血液を供給する表在静脈と、筋膜を貫通していて表在静脈と深部静脈を接続する穿通静脈を含んでいる。交通静脈が、同じセグメント内の静脈を接続している。
【0182】
いくつかの実施態様では、静脈は深部静脈である。本発明の方法で有用な深部静脈の非限定的な例に含まれるのは、膝窩静脈を総大腿静脈に接続する表在大腿骨静脈と、ふくらはぎの深部静脈(例えば前脛骨静脈、後脛骨静脈、腓骨静脈)である。いくつかの実施態様では、静脈は表在静脈である。本発明の方法で有用な表在静脈の非限定的な例に含まれるのは、大伏在静脈、前副大伏在静脈、後副大伏在静脈、小伏在静脈(SSV)、伏在静脈間静脈(ジャコミニ静脈としても知られる)である。
【0183】
大半の静脈は、血液が一方向に流れるのを保証するため静脈弁を有する。例えば下肢にある表在静脈、深部静脈、大半の穿通静脈は、二尖弁を含有している。したがっていくつかの実施態様では、無細胞性管状足場は弁構造を含み、この弁構造は再調整/再細胞化されて個別化された血管において機能的な静脈弁を提供する。弁構造は、天然の静脈弁に由来するもの、または足場の合成および/または組み立てに由来するものが可能である。静脈弁の機能を評価する方法は本分野で知られており、その非限定的な例に含まれるのは、インビトロ弁性能試験である。いくつかの実施態様では、本開示の方法はさらに、無細胞性管状足場の静脈弁の機能を(例えばインビトロ弁性能試験を利用して)評価することを含んでいる。
【0184】
いくつかの実施態様では、無細胞性管状足場の中の弁構造は、足場の内面の残部を再調整/再細胞化している間に再調整/再細胞化される(すなわち弁構造を特別に再調整/再細胞化する追加工程がない)。いくつかの実施態様では、再調整/再細胞化された弁はCD31陽性である。再調整/再細胞化された弁は、平滑筋アクチン陽性および/またはvWF陽性である可能性、および/または紡錘形の平滑筋細胞の存在を特徴とする可能性もある。
【0185】
いくつかの実施態様では、個別化された血管は、天然の血管の1つ以上の特徴を持っていた。いくつかの実施態様では、本明細書に開示されている方法によって作製された個別化された静脈は、力の最初のピークが0.8 N超という力学的特性を持つ再調整/再細胞化された弁を含んでいる。いくつかの実施態様では、本明細書に開示されている方法によって作製された個別化された血管は、試験したときに漏れを示さないことがわかる。
【0186】
治療法または使用法
別の1つの側面では、本開示により、治療に用いるための、本明細書に開示されている個別化された血管が提供される。いくつかの実施態様では、対象に移植するのに用いるための個別化された血管が提供される。いくつかの実施態様では、本開示により、血管疾患または血管障害の治療を必要とする対象のその疾患または障害を治療するのに用いるための個別化された血管が提供される。
【0187】
本明細書で用いられる「治療する」、「治療している」、「治療」や、これらと文法的に同等な他の用語には、疾患、状態、症状のいずれかを緩和すること、弱めること、改善すること、阻止すること、追加の症状を阻止すること、症状の元になっている代謝的原因を改善または予防すること、疾患または状態を抑制すること(例えば疾患または状態の進行を停止させること)、疾患または状態を緩和すること、疾患または状態の後退を引き起こすこと、疾患または状態によって起こる状態を緩和すること、疾患または状態の症状を停止させることが含まれるとともに、予防が含まれることが想定されている。これらの用語にはさらに、治療の利益および/または予防の利益を実現することが含まれる。治療の利益とは、治療している原障害の根絶または改善を意味する。治療の利益は、原障害に関係する生理学的症状の1つ以上の根絶または改善によっても実現され、患者は相変わらず原障害を患っている可能性があるにもかかわらず、改善が観察される。
【0188】
本明細書に開示されている方法は、設計された自家様血管を生成させるのに特に適している。この血管が持つ利点は、(1)非免疫原性であるため、移植片拒絶または有害な免疫反応のリスクが最小であること;(2)免疫を抑制する必要性が回避されるため、手術後とその後の人生を通じた患者のリスクがより小さくなること;(3)長さに制限がないこと;(4)適合ドナーの静脈または自家静脈と比べてより容易に入手できること;(5)天然の成分(すなわちECM、内皮細胞、平滑筋細胞)で構成されているため、大半の合成静脈や人工静脈よりも優れた品質(残留する血管新生増殖因子と生体力学的完全性が保持されることを含む)を持つこと;(6)移植のための自家静脈を回収するのとは異なり、侵襲的な静脈作製を必要とすること;(7)全血を使用することで、対象にとって侵襲的な手続きを迅速かつ最少にできること;(8)細胞化されて対象の身体とその機能(修復、増殖、免疫防御)に生物学的に組み込まれることである。
【0189】
したがって1つの側面では、本開示により、手術の方法として、本明細書に開示されている個別化された血管を必要とする対象(例えばヒト)にその個別化された血管を埋め込むことを含む方法が提供される。別の1つの側面では、本開示により、本明細書に開示されている個別化された血管を必要とする対象(例えばヒト)に移植するのに用いるための個別化された血管が提供される。別の1つの側面では、本開示により、本明細書に開示されている方法の任意の1つによって作製された個別化された血管が提供され、この個別化された血管は手術によって対象(例えばヒト)に埋め込まれている。
【0190】
いくつかの実施態様では、個別化された血管は自家血管である。本明細書では、「自家」という用語は、個別化された血管を作製する方法で用いられる血液が、移植または手術を受ける対象に由来することを意味する。個別化された血管が天然の血管を脱細胞化することによって作製されるいくつかの実施態様では、天然の血管のドナーは、その個別化された血管のレシピエントと同じ個体ではない。個別化された血管が天然の血管を脱細胞化することによって作製されるいくつかの実施態様では、天然の血管は、適切な動物種(例えばブタ、ヒツジ、ウシ)から得られる。
【0191】
本明細書に開示されている手術の方法は、血管のさまざまな疾患または障害の治療に有用である。したがっていくつかの実施態様では、対象は、血管の疾患または障害(例えば静脈の疾患または障害)を持つ。いくつかの実施態様では、静脈の疾患または障害の選択は、深部静脈血栓症(DVT)、慢性静脈不全(CVI)(静脈炎後症候群とも呼ばれる)、静脈瘤、静脈潰瘍(例えば静脈性下肢潰瘍)、再発性下肢がん(例えば深部静脈逆流および/または静脈性高血圧によって起こる)からなるグループからなされる。いくつかの実施態様では、個別化された血管は、血管の疾患または障害のいずれか1つに冒されている天然の血管のセグメントと置き換えるため、そのセグメントに埋め込まれる、または移植される、またはグラフトされる。いくつかの実施態様では、個別化された血管は静脈であり、少なくとも1つの静脈弁を含んでいる。
【0192】
いくつかの実施態様では、手術という方法で1つ以上の症状を治療、および/または改善、および/または緩和する。症状に含まれるのは、下肢の鈍い痛み、重い感じ、痙攣;かゆみ、うずき;立っているときに悪化する痛み;下肢を持ち上げているときに改善される痛み;下肢のむくみ;下肢とくるぶしの赤み;くるぶし周辺の皮膚の色の変化;表面の静脈瘤(表在性)、下肢とくるぶしの皮膚の肥厚と硬化(脂肪皮膚硬化症);下肢とくるぶしの潰瘍;下肢またはくるぶしにあって治癒を遅らせる傷である。
【0193】
いくつかの実施態様では、本明細書に開示されている手術の方法は、CVIを治療および/または改善する。CVIは、運動下静脈高血圧から生じる静脈疾患のさまざまな症状であり、運動で静脈圧が低下しないことと定義される。通常の状況では、下肢の静脈弁と筋ポンプが、下肢静脈に血液が滞留するのを制限している。流出路閉塞、筋膜の弱さ、関節運動の喪失、弁不全のいずれかに起因する下肢筋ポンプの不全が、末梢静脈不全と関係している。
【0194】
いくつかの実施態様では、本明細書に開示されている手術の方法は、静脈潰瘍を治療および/または改善する。静脈潰瘍は、通常は下肢の静脈弁の機能が不適切であることに起因する損傷(すなわち下肢静脈潰瘍)である。静脈潰瘍は、弁の機能が低下して血液が逆流することにより静脈内に血液が滞留し、静脈と毛細血管の圧力が上昇するときに発生する。すると他の関連した合併症(浮腫、炎症、組織の硬化、皮膚の栄養不足、静脈浮腫など)につながる。静脈潰瘍は、赤血球細胞の中の鉄含有色素が組織に漏れ出すことが原因で広範囲に浅く変色しており、分泌物がある可能性がある。潰瘍は、くるぶしの内側と後部の周辺に位置することが最も多い。
【0195】
いくつかの実施態様では、本明細書に開示されている手術の方法は、正常な下肢静脈圧を回復させる。例えば歩行すると、7~12歩以内に下肢静脈圧は約100 mmHg(高さによって異なる)から平均で18 mmHg~約25 mmHgへと低下する。立位でのくるぶしと足底の屈曲、かかとの持ち上げ、前足への体重移動(つま先運動)でも同様の圧力変化が観察される。運動下静脈圧(AVP)は、21ゲージの針を用いて10回のつま先運動(通常は1秒に1回の速度)に対する反応を背側足静脈で測定して求めることができる。立位を再び取ると、静水圧が平均して31秒後に回復する。潰瘍の発生は、AVPが30 mmHgを超えると線形関係で増加する。AVPの上昇は、90%静脈再充満時間が20秒以内であることとも関係している。AVPとは異なり、体積変化はプレスチモグラフィを利用して侵襲なしに測定することができる。急速な再充満(すなわち7 ml/秒よりも大きい静脈充満)とふくらはぎポンプ機能不全は、潰瘍の高発生と関係している。静脈内の再調整/再細胞化された弁は、グラフトされると、正常なAVP、および/または正常な迅速充満、および/または正常なふくらはぎポンプ機能を回復させる。個別化された血管内の静脈弁は、グラフトされると、充満圧を正常範囲である約100 mmHgに回復させ、7~12歩歩く間に平均で約18 mmHg~約25 mmHgへと低下させる。
【0196】
いくつかの実施態様では、本明細書に開示されている手術の方法は、大腿の機能しない弁の症状を治療および/または改善する。いくつかの実施態様では、症状の治療および/または改善は、筋ポンプと静脈弁の間の正常な動作関係を回復させることによって実現される。下肢の筋ポンプには、足、ふくらはぎ、大腿の筋ポンプが含まれる。これらのうちでふくらはぎのポンプが最も重要である。というのもそれが最も効率的で、容量が最大であり、最も大きな圧力を発生させる(筋収縮の間に200 mmHg)からである。正常な下肢は、体積が1500~3000 ccの範囲のふくらはぎと、体積が100~150 ccの静脈を持ち、静脈の体積の40%~60%を超える量の血液を1回の収縮で排出する。
【0197】
収縮の間に腓腹筋とヒラメ筋は血液を容積が大きい膝窩静脈と大腿静脈へと移動させる。本開示の再調整/再細胞化された弁は、その後の弛緩時に逆流(還流)を阻止し、負圧を生じさせ、機能する穿通静脈を通じて血液を表在系から深部系へと引き込む。再調整/再細胞化された弁は、動脈からの流入が静脈からの流出と等しくなるまで静脈圧を徐々に低下させる。本開示により、対象が運動を停止したとき、再調整/再細胞化された弁を持つ静脈が毛細血管床をゆっくりと満たし、残っている静脈圧をゆっくりと元に戻すことが実現される
【0198】
筋肉が大腿静脈を取り囲んでいるが、静脈還流への大腿筋収縮の寄与は、ふくらはぎ筋ポンプと比べてわずかである。歩き回っている間の足底静脈叢の圧縮に起因するポンプ作用がふくらはぎポンプを始動させる。さまざまな下肢ポンプが、機能する弁機能ととともに作動して静脈血を遠位端から近位端へと戻す。本開示の個別化された血管は、機能する下肢ポンプを回復させて静脈血を遠位端から近位端へと戻すのに用いられる。
【0199】
バイオリアクター
別の1つの側面では、本開示により、個別化された血管を作製するためのバイオリアクターが提供され、このバイオリアクターは、ポンプ(例えば蠕動ポンプ、重力ポンプ、プランジャポンプや、それ以外の適切なポンプ)、容器、第1のコネクタ、第2のコネクタを含んでいて、第1と第2のコネクタは容器に直接的または間接的に接続され、各コネクタは、本明細書に開示されている個別化された血管を作製するための方法の任意の1つによって個別化された血管を作製するため管状足場の一端に接続され、第1と第2のコネクタが管状足場の2つの端部に接続されているとき、ポンプが、懸濁液、または全血、または溶液の閉回路での循環を媒介する。多くの実施態様において、本明細書で用いられているポンプ(例えば蠕動ポンプ、重力ポンプ、プランジャポンプや、それ以外の適切なポンプ)は、十分に静かで、血液細胞に対する損傷が最少であることが有利である。
【0200】
いくつかの実施態様では、バイオリアクターはさらに管状足場(例えば無細胞性管状足場(例えば脱細胞化された血管、またはバイオプリントされた管状足場))を含んでいる。いくつかの実施態様では、バイオリアクターはさらに、個別化された血管を作製するため本明細書に開示されている懸濁液または全血を含んでいる。
【0201】
いくつかの実施態様では、バイオリアクターの少なくとも2つの部分が別々に、これらの部分を記載されている順番で接続するための指示とともに提供される。したがって1つの側面では、本開示により、個別化された血管を作製するためのバイオリアクターを組み立てるためのキットが提供される。このバイオリアクターは、ポンプ(例えば蠕動ポンプ、重力ポンプ、プランジャポンプや、それ以外の適切なポンプ)、容器、第1のコネクタ、第2のコネクタを含んでいて、第1と第2のコネクタは容器に直接的または間接的に接続され、各コネクタは、本明細書に開示されている個別化された血管を作製するための方法の任意の1つによって個別化された血管を作製するため管状足場の一端に接続され、第1と第2のコネクタが管状足場の2つの端部に接続されているとき、ポンプが、懸濁液、または全血、または溶液の閉回路での循環を媒介する。いくつかの実施態様では、キットはさらに、管状足場(例えば無細胞性管状足場(例えば脱細胞化された血管、またはバイオプリントされた管状足場))を含んでいる。
【0202】
いくつかの実施態様では、第1のコネクタと第2のコネクタはルアーコネクタである。いくつかの実施態様では、第1のコネクタはチューブによって容器に直接接続されている、および/または第2のコネクタはチューブによって容器に直接接続されている。
【0203】
いくつかの実施態様では、バイオリアクターはサンプリングポートを含んでいる。いくつかの実施態様では、サンプリングポートは容器の一部である。いくつかの実施態様では、サンプリングポートにより、閉回路から懸濁液、全血、溶液いずれかのサンプルを取り出すことが可能になる。いくつかの実施態様では、サンプリングポートは、懸濁液、全血、溶液いずれかの中の温度、および/またはpH、および/または酸素、CO2、栄養素(例えばD-グルコース)いずれかの濃度を測定するためのセンサーを含んでいる。
【0204】
いくつかの実施態様では、サンプリングポートは注入ポートとしても有用である。いくつかの実施態様では、バイオリアクターはさらに注入ポートを含んでいる。いくつかの実施態様では、注入ポートは、酸素、CO2、栄養素(例えばD-グルコース)いずれかのリザーバに接続されるか、接続することができる。
【0205】
いくつかの実施態様では、管状足場の外面は、容器内の懸濁液、全血、溶液のいずれかと接触している。このバイオリアクターにより、管状足場の内面と外面を同時に再調整/再細胞化することが可能になる。
【0206】
いくつかの実施態様では、バイオリアクターは、管状足場を収容するチェンバーをさらに含むことにより、この管状足場の外面をチェンバー内の液体と接触させることができる。チェンバーは減菌することもできるため、管状足場が減菌状態に保持される。
【0207】
当業者であればわかるように、同じバイオリアクターを用いて天然の血管を脱細胞化すること、または管状足場を調節することが可能である。適切な懸濁液、または全血、または溶液は、当業者が用途に合ったものを選択することができる。
【0208】
長期にわたる灌流期間中でさえ血液溶液中の細胞成分と非細胞成分を破壊しないさまざまなポンプを用いることができる。ポンプとして、蠕動ポンプ、重力ポンプ、ピストンポンプや、同様のポンプが可能である。バイオリアクターの設定にサンプルポートを含めることで、灌流媒体の減菌サンプリングができるほか、閉鎖ループを開放することなく、そしていくつかの場合には灌流を停止させることさえなく、追加成分を減菌注入することができる。バイオリアクターの設定の改良バージョンでは、関連する多彩なパラメータ(グルコース、pH、酸素含量、CO2含量、代謝産物など)を直列でカップルさせて灌流の配管の中に入れることができる。こうすることで、RC中、またはDC中に個別化プロセスを連続的にモニタし、細胞とDNAの破壊と除去の進行と成功をモニタすることが可能になる。
【0209】
本開示の別の1つの側面は、個別化された血管を作製するためのバイオリアクターに関係しており、このバイオリアクターは、ポンプ(例えば蠕動ポンプ、重力ポンプ、プランジャポンプや、それ以外の適切なポンプ)、容器、第1のコネクタ、第2のコネクタを含んでいて、第1と第2のコネクタは容器に直接的または間接的に接続され、各コネクタは、本明細書に開示されている個別化された血管を作製するための方法の任意の1つによって個別化された血管を作製するため管状足場の一端に接続され、第1と第2のコネクタが管状足場の2つの端部に接続されているとき、ポンプが、懸濁液、または全血、または溶液の閉回路での循環を媒介する。
【0210】
いくつかの実施態様では、第1のコネクタと第2のコネクタはルアーコネクタである。いくつかの実施態様では、サンプリングポートは注入ポートである。いくつかの実施態様では、バイオリアクターはさらに注入ポートを含んでいる。いくつかの実施態様では、注入ポートはD-グルコースのリザーバに接続されている。いくつかの実施態様では、第1のコネクタはチューブによって容器に直接接続されている、および/または第2のコネクタはチューブによって容器に直接接続されている。いくつかの実施態様では、バイオリアクターは1つ以上のサンプルポートを含んでいる。いくつかの実施態様では、バイオリアクターはさらに、グルコースのレベルを測定するための1つ以上のセンサーを含んでいる。いくつかの実施態様では、バイオリアクターはさらにpH調節モジュールを含んでいる。いくつかの実施態様では、バイオリアクターはさらにCO2調節モジュールを含んでいる。
【0211】
本開示の別の1つの側面は、個別化された血管を作製する方法に関係しており、この方法は、無細胞性管状足場の表面を、全血に含まれる成分と接触させることを含み、この成分は、表面に接触させる前に富化または選択される。
【0212】
いくつかの実施態様では、成分の選択は、血小板、有核細胞、タンパク質、増殖因子、シグナル伝達因子、免疫グロブリンと、これらの任意の組み合わせからなされる。
【0213】
いくつかの実施態様では、成分は、遠心分離または勾配遠心分離によって;または選択的接着、濾過、ソーティングのいずれかによって富化される。成分の富化またはソーティングのための多くの方法が本分野で周知である。ソーティングのための方法のいくつかの例に含まれるのは、蛍光活性化セルソーティング(FACS)、磁性活性化セルソーティング(MACS)である。
【0214】
定義
方法が、記載されている具体的な実施態様に限定されることはないため、変化してもよいことを理解すべきである。本明細書で用いられている用語は具体的な実施態様を記述することだけを目的としており、制限する意図はないことも理解すべきである。本発明の技術の範囲は、添付の請求項によってだけ制限される。
【0215】
本明細書では、いくつかの用語は以下に定義する意味を持つことができる。本明細書と請求項で用いられている単数形「1つの」、「その」には、文脈で明らかに異なること記載されている場合を除き、単数形と複数形が含まれる。例えば「1個の細胞」という表現には、単一の細胞のほか、複数の細胞が含まれ、その中にはその混合物が含まれる。
【0216】
本明細書では、「含む」という用語は、組成物と方法が、言及されている要素を含むが、他の要素を除外しないことを意味する。「から主になる」は、組成物と方法を規定するのに用いられているときには、その組成物または方法にとって何らかの本質的に重要な他の要素が除外されることを意味する。「からなる」は、権利を請求する組成物と方法の実質的な工程にとって、痕跡量を超える他の成分が除外されることを意味する。移行句のそれぞれによって規定される実施態様は本開示の範囲に含まれる。したがって方法と組成物は、追加の工程と成分を含むこと(「含む」)、またはその代わりに重要でない工程と組成物を含むこと(「から主になる」)またはその代わりに方法の記載されている工程、または記載されている組成物だけを含むこと(「からなる」)ができることが想定されている。
【0217】
「約」という用語は、記載されている効果、活性、作用、結果などを変化させない、記載されている絶対的な値(例えば薬剤の濃度や量)のあらゆる最小限の変化を意味する。実施態様では、「約」という用語は、特定されている数値またはデータ点の±10%を含むことができる。「約」という用語は、記載されている値を含む(例えば「約1%」には、1%のほか、その最小限の変化が含まれる)。
【0218】
範囲は、本開示では、「約」第1の具体値から、および/または「約」第2の具体値までとして表わすことができる。このような範囲が示されているとき、第1の具体値から、および/または第2の具体値までを含む別の側面も考慮される。同様に、数値が「約」を用いて大まかに示されているとき、その具体値は別の側面を形成すると理解される。さらに、それぞれの範囲の終点は、他方の終点との関係においてと、他方の終点とは独立にの両方で重要であると理解される。また、本開示には開示されている多数の数値が存在していて、それぞれの数値が特定の数値そのものに加えて「約」としても開示されていると理解される。また、本出願全体を通してデータは多くの異なる形式で提示されていて、このデータは、終点と、始点と、データ点の任意の組み合わせに関する範囲を表わしていると理解される。例えば1つの具体的なデータ点「10」と1つの具体的なデータ点「15」が開示されている場合には、10よりも大きい、10以上、15未満、15以下が開示されていると見なされるほか、10と15の間の数値が開示されていると理解される。2つの具体的な整数の間の各整数も開示されていると理解される。例えば10と15が開示されている場合には、11、12、13、14も開示されている。
【0219】
本明細書では、「含む」という用語は、組成物と方法が、言及されている要素を含むが、他の要素を除外しないことを意味する。「から主になる」は、組成物と方法を規定するのに用いられているときには、その組成物または方法にとって何らかの本質的に重要な他の要素が除外されることを意味する。「からなる」は、権利を請求する組成物と方法の実質的な工程にとって、痕跡量を超える他の成分が除外されることを意味する。移行句のそれぞれによって規定される実施態様は本開示の範囲に含まれる。したがって方法と組成物は、追加の工程と成分を含むこと(「含む」)、またはその代わりに重要でない工程と組成物を含むこと(「から主になる」)またはその代わりに方法の記載されている工程、または記載されている組成物だけを含むこと(「からなる」)ができることが想定されている。
【実施例】
【0220】
実施例1:個別化された組織工学静脈(P-TEV)
ブタP-TEVグラフトを用意し、安全性と実現可能性を生体内で調べた。具体的には、ヒト大腿静脈の血管壁のサイズと厚みを模倣した置換モデル系として、ブタ大静脈を選択した。
【0221】
P-TEVの作製
大静脈をブタの死体から回収し、脱細胞化してこのドナーの細胞とDNAを取り出した。簡単に述べると、静脈セグメントにDC溶液1、DC溶液2、DC溶液3をこの順番で灌流させ、減菌水を用いた洗浄工程を異なるDC溶液の間に挟んだ。この実施例では、Triton Xを24時間、TNBPを8時間、DNアーゼを16時間使用した。次いでこれら静脈セグメントをDC基礎溶液とPBSで1時間にわたって徹底的に洗浄した後、最終洗浄を48時間にわたって実施した。次に、静脈セグメントを減菌溶液の中で減菌し、PBSの中で徹底的に洗浄した(1時間の減菌洗浄と、48時間の最終洗浄)。次いでそれぞれの減菌DC静脈セグメントを、剥がれないラベル付きの容器に移し、PBSの中で-80℃で凍結させた。脱細胞化と減菌に使用した溶液の組成を表1に示す。
【0222】
【0223】
脱細胞化された静脈足場に細胞が存在しないことを、ヘマトキシリンとエオシン(H&E)染色と、4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)染色で組織学的に確認した。具体的には、H&E染色において、核を表わす青いドットが処理なしの静脈で観察されたが、脱細胞化されたサンプルでは観察されなかった。同様に、DNAを示すDAPIからの蛍光は、処理なしの静脈では検出できたが、脱細胞化されたサンプルでは検出できなかった。脱細胞化された静脈セグメントのDNA含量も、Qubit(商標)蛍光光度計を用いて評価した。脱細胞化前のサンプルの二本鎖DNA(dsDNA)平均含量は、組織1 mg当たり152 ngであり、平均値の標準誤差(SEM)は32 ng/mgであった。脱細胞化後、サンプルは0.5 ngのdsDNAを含んでおり、SEMは0.04 ng/mgであった。これは、処理していない材料の約0.3±0.03%であった。したがって脱細胞化によって静脈足場にDNAが実質的に存在しなくなった。
【0224】
静脈足場を再調整/再細胞化するため、末梢全血(PWB)サンプルをレシピエントのブタから定型的な静脈穿刺により、17 IU/mlのナトリウムヘパリンを収容した10 mlの減菌BDバキュテナーガラス製チューブの中に採取した。PWBを生体外臓器灌流溶液(STEEN(商標)溶液)と1:1の比で混合し、10 ng/mlの組み換えヒトFGF-2(rhFGF-2)と、80 ng/mlの組み換えヒトVEGF(rhVEGF)と、5μg/mlのアセチルサリチル酸を補足することにより、自家血液懸濁液を生成させた。閉じたバイオリアクターの中で再調整/再細胞化を実施した。PBSであらかじめ洗浄し、ヘパリンで前処理した後、静脈足場に血液懸濁液を再循環閉回路の中で7日間にわたって連続的に灌流させた。灌流の間、血液懸濁液の中のグルコースのレベルを3~11ミリモル/Lに維持した。このような条件下で自家血液懸濁液からの細胞成分とそれ以外の成分を静脈足場に再定着させた。
【0225】
手術
再調整/再細胞化されたP-TEVをレシピエントのブタに手術によって埋め込んだ。具体的には、白線に切れ込みを入れた。最初の2匹のブタでは大静脈を特定する従来の技術を利用した。すなわち、生理食塩水の中で湿らせたガーゼと、手術用フックを用いて腸を脇に保持し、大静脈のうちで大腿静脈への分岐部と腎静脈に挟まれた部分を切除して周囲の組織から自由な状態にした。2匹のブタの一方で腸癒着が形成されたため、別の6匹のブタ(4匹にはP-TEVが埋め込まれ、2匹は偽手術を受けた)では改良された後腹膜技術を利用して大静脈を特定した。すなわち、腹膜と腹壁を分離して右側の大静脈まで下げることにより、腸に触れていない状態にした。P-TEVを移植されたブタに関しては、大静脈を切断し、約4 cmのP-TEVを端々吻合によって付着させた。偽手術したブタでは、静脈の圧力のためにP-TEV移植片のように2箇所で切断して縫合することはできなかった。その代わりに大静脈を切断して1つの吻合によって縫合した。
【0226】
手術の間、ブタをチレタミン、ゾラゼパム、メデトミジンで鎮静させた後、イソフランで麻酔するため挿管した。術後の痛みを緩和するため、手術中はブプレノルフィンを与えた。凝固と血栓症を防止するため、すべてのブタを、手術の前まで1週間にわたって160mgのアセチルサリチル酸を経口で1日に1回用いるとともに、手術の1日前から安楽死まで2 mg/kgのリバロキサバンを経口で1日に2回用いて処理した。それに加え、手術中は10,000 IUのヘパリンを静脈内投与した。
【0227】
手術後のブタの状態
2匹のブタが手術後に腸癒着を起こしたため、腸閉塞の症状を理由として計画したエンドポイントよりも前に安楽死させねばならなかった。1匹はP-TEVのブタであり、大静脈を従来の技術を利用して特定した。手術から16日後に安楽死させねばならず、腸は解剖時に大量の癒着を示していた。もう1匹は偽手術のブタであり、手術から7日後に安楽死させた。このブタの腹膜は手術中に破裂したため、腸を従来の技術の場合のように湿ったガーゼとフックで取り扱わねばならなかった。
【0228】
他の6匹のブタでは解剖の間に腸癒着は観察されなかった。これら6匹のブタのうちで偽手術した1匹のブタとP-TEVの3匹のブタを、手術から4~5週間後の予定通りのエンドポイントで安楽死させた。P-TEVの2匹のブタは、大静脈の移植とは無関係の合併症が理由でより早く安楽死させねばならなかった。1匹は、腹壁の縫合が破れたため手術から3日後に安楽死させた。もう1匹は、左前足の膝を骨折したため手術から17日後に安楽死させた。
【0229】
移植されたP-TEVの特徴づけ
血管造影法を麻酔下で実施した後、手術から4~5週間生きていた1匹の偽手術のブタとP-TEVの3匹のブタを安楽死させた。造影剤を大腿静脈に注入し、C-bow X線を用いて大静脈を生きたままモニタした。
図1A~
図1Bに示されているように、P-TEV(
図1B)の静脈と偽手術(
図1A)の静脈は両方とも開いていて自由に血液が流れた。
【0230】
それぞれのブタを安楽死させた後、大静脈を調べた。偽手術の2匹のブタとP-TEVの6匹のブタの静脈はすべて開いていて自由に血液が流れ、凝固または血栓症の徴候はなかった。血液塊または血栓症は巨視的な試験では観察されなかった。
【0231】
次に静脈を切片にし、H&E染色とDAPI染色の準備をした。
図2A~
図2Bに示されているように、手術から3日後に安楽死させたP-TEVのブタ(
図2B)では、P-TEVグラフトにおいて細胞がH&E染色とDAPI染色によって観察された。3日後のサンプルは記載されているようにして分析した。RC後のサンプルは同様に常法で分析した(これらのサンプルは、移植されないP-TEVサンプルの最終段階を表わす)。手術から17日後に安楽死させたブタではP-TEVグラフトがよく細胞化されていた。手術から4~5週間後、P-TEV(
図2B)の中の細胞数は天然組織(
図2A)と同じであるように見えた。重要なことだが、この研究における主な潜在的合併症である内膜肥厚は、移植されたP-TEVでは観察されなかった。
【0232】
静脈サンプルは免疫組織化学によっても特徴づけた。手術から2週間後に安楽死させたブタでは、P-TEVの近位部、中央部、遠位部にかなり多数の細胞があり、CD31陽性細胞を同定することができた(
図3A~
図3D)。
図3Aは、吻合の近位にある天然の大静脈を示している。
図3B~
図3Dは、P-TEVの近位部(
図3B)、中央部(
図3C)、遠位部(
図3D)を示している。矢の先端はCD31陽性細胞を示す。
【0233】
手術の4~5週間後に安楽死させたブタでは、P-TEVの近位部、中央部、遠位部は天然の大静脈と似た細胞密度を持っていて、P-TEV内腔はCD31陽性内皮細胞層で覆われていた(
図4A~
図4D)。
図4A~
図4Dは、手術から4週間後の大静脈のDAPI染色とCD31免疫染色を示す一連の免疫組織図である。
図4Aは、吻合の近位にある天然の大静脈を示している。
図4B~
図4Dは、P-TEVの近位部(
図4B)、中央部(
図4C)、遠位部(
図4D)を示している。矢の先端はCD31陽性細胞を示す。
【0234】
内腔表面を覆う内皮様細胞の形態を天然の大静脈の形態と識別することは実質的にできなかった(
図5A~
図5B)。
図5A~
図5Bは、手術から4週間後の天然の大静脈(
図5A)とP-TEV移植片(
図5B)のH&E染色を示す倍率40倍の一連の画像である。矢印は、天然組織の中の内皮細胞と、P-TEV移植片の中にあって播種された内皮細胞様の形態を持つ細胞を示している。
【0235】
まとめると、この生体内研究は、P-TEVが静脈移植にとって安全かつ実現可能であることを示唆していた。
【0236】
実施例2:生理学的灌流溶液の調製
カルシウムとマグネシウムを含む900 mlのダルベッコのリン酸塩緩衝化生理食塩水(DPBS)を室温にて60 rpmで連続的に撹拌した。(凝集を避けるため)74 gのヒト血清アルブミンの粉末をこの液体の表面に層状にしてゆっくりと添加し、完全に溶けるまで撹拌した。rpmを一時的に小さくすることによって泡の形成を回避した。その後、6.7 gのデキストラン-40を溶液に添加し、完全に溶けるまで撹拌した。NaOHを用いてpHを7.4にし、DPBSをカルシウムおよびマグネシウムとともに用いて最終体積を1000 mlに調節した。次いで低タンパク質結合減菌フィルタを用いてこの生理学的灌流溶液を減菌濾過した後、50 mlの試験管の中の25 mlのアリコートに分割し、2~8℃で12ヶ月間まで保管した。
【0237】
実施例3:(高価なHSAを必要としない)代わりの生理学的灌流溶液の調製
患者からの25 mlの減菌血漿を、減菌した50 mlの試験管に移した。次に1.5 mlの100 g/Lの減菌濾過デキストラン-40貯蔵溶液を血漿に添加し、この溶液を、完全に混合されるまで注意深く撹拌した。減菌生理学的灌流溶液を2~8℃で7日間まで保管した。
【0238】
実施例4:調製した生理学的灌流溶液の追加バリエーション
カルシウムおよびマグネシウムと、70 g/LのHSAと、5 g/Lのデキストラン-40と、11ミリモル/Lのグルコースを含有するDPBS
【0239】
カルシウムおよびマグネシウムと、40 g/LのHSAと、10 g/Lのデキストラン-40を含有するDPBS
【0240】
30 g/LのHSAと5 g/Lのデキストラン-40を追加して含有するヒト血漿
【0241】
5 g/Lのデキストラン-40と、合計11ミリモル/Lのグルコースを追加して含有するヒト血漿
【0242】
カルシウムおよびマグネシウムと、70 g/LのHSAと、5 g/Lのデキストラン-60と、11ミリモル/Lのグルコースを含有するDPBS
実施例5:市販されている生理学的灌流溶液の組成:
【化2】
【0243】
実施例6:バイオプリンティングによって作製した無細胞性管状足場からの個別化された血管の作製
実施例1は、脱細胞化された管状足場を用いて個別化された血管を作製する方法を記述している。あるいは個別化された血管は、バイオプリントされた管状無細胞性足場から作製する。簡単に述べると、バイオプリントされた血管足場を、ゲル、スポンジ、泡、パッチ、半液体/流体いずれかの形態の(天然または合成)ポリマーの表面に作製する。この方法では、ポリマー製足場に全血、または溶液の中で希釈した全血(例えば全血を含む懸濁液)を灌流させ、個別化された血管を作製する。
【0244】
実施例7:個別化された血管の移植
移植される血管を必要とする対象を選択し、本開示の実施例1または実施例2に示されている方法で作製した個別化された血管を対象に埋め込む/移植する。移植後の対象の予後と回復をモニタする。
【0245】
本明細書に開示されている個別化された血管を用いて血管のさまざまな疾患と障害を治療する。疾患と障害の例は、静脈血栓症(DVT)、慢性静脈不全(CVI)、静脈瘤、静脈潰瘍(例えば静脈下肢潰瘍)、再発性脚がん(例えば深部静脈逆流および/または静脈高血圧によって起こる)である。
【0246】
具体的には、血管の疾患または障害を持つ対象を選択する。個別化された血管を手術によって対象に導入する。疾患または障害のある天然の血管のセグメントを除去する。個別化された血管またはその機能的セグメントを天然の血管に吻合することで、除去した天然の血管のセグメントと置き換わる。手術によって生まれたハイブリッド血管は天然の血管と機能が同等であり、症状を改善する。症状に含まれるのは、下肢の鈍い痛み、重い感じ、痙攣;かゆみ、うずき;立っているときに悪化する痛み;下肢を持ち上げているときによくなる痛み;下肢のむくみ;下肢とくるぶしの赤み;くるぶし周辺の皮膚の色の変化;表面の静脈瘤(表在性)、下肢とくるぶしの皮膚の肥厚と硬化(脂肪皮膚硬化症);下肢とくるぶしの潰瘍;下肢またはくるぶしにあって治癒を遅らせる傷である。
【0247】
実施例8
個別化された血管を作製するための無細胞性足場の再細胞化/再調整プロセスには、患者からの全血の小さなサンプルが関係する。この実施例では、再細胞化/再調整のプロセスに関係する全血の細胞成分と非細胞成分(例えば血小板、有核細胞、タンパク質、増殖因子、シグナル伝達因子、免疫グロブリン)を選択または富化してこのプロセスで用いる。一例では、全血の細胞成分と非細胞成分を全血と組み合わせる。あるいは再細胞化/再調整プロセスで全血の細胞成分と非細胞成分を全血の代わりに用いる。後者のプロセスは、プロセスに関係する理由で、および/または血管の個別化を最適化するため、実施される。富化または選択は、例えば遠心分離、勾配遠心分離、選択的接着による分離、濾過、ソーティング(例えばFACS、MACS)のいずれかを利用して実施される。
【0248】
他の実施態様
本発明をその詳細な記述と組み合わせて記述してきたが、上記の記述は本開示を説明することを目的としており、その範囲を制限する意図はなく、本開示の範囲は添付の請求項の範囲によって規定される。他の側面、利点、改変は、以下の請求項の範囲に含まれる。本明細書に提示されているあらゆる定義は、本発明の主題を理解することと、添付の請求項を構成することを目的として含まれている。本明細書で用いられている略号は、化学と生物学の分野における従来からの意味を持つ。