(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】ニオブ酸化合物及びニオブ含有スラリー
(51)【国際特許分類】
C01G 33/00 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
C01G33/00 A
(21)【出願番号】P 2021560863
(86)(22)【出願日】2021-05-10
(86)【国際出願番号】 JP2021017723
(87)【国際公開番号】W WO2021246111
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2022-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2020097336
(32)【優先日】2020-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 周平
(72)【発明者】
【氏名】荒川 泰輝
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 彰記
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-122921(JP,A)
【文献】特開2004-292234(JP,A)
【文献】特開平07-163887(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110078122(CN,A)
【文献】特開2004-051383(JP,A)
【文献】特開2005-001920(JP,A)
【文献】特開2018-127392(JP,A)
【文献】特開2018-104242(JP,A)
【文献】特開2008-081378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 33/00
B01J 21/00-38/74
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ酸構造を有するニオブ酸化合物であり、CuKα線を使用した粉末X線回折測定によるX線回折パターンにおいて、2θ=29.0°±1.5°における最高強度のピーク(第二ピーク)の強度に対する、2θ=9.4°±1.5°における最高強度のピーク(第一ピーク)の強度の比率(第一ピーク/第二ピーク)が1.3以上であることを特徴とするニオブ酸化合物。
【請求項2】
前記X線回折パターンにおいて、2θ=9.4°±1.5°に第一ピークを有し、2θ=29.0°±1.5°に第二ピークを有する請求項1に記載のニオブ酸化合物。
【請求項3】
式:[NbxOy]
n-・mH
2O(6≦x≦10、19≦y≦28、n=6、mは0~50の整数)で表される構造を有する含水化合物である請求項1又は2に記載のニオブ酸化合物。
【請求項4】
触媒原料用である請求項1~3の何れか1項に記載のニオブ酸化合物。
【請求項5】
下記3工程を有することを特徴とするニオブ酸化合物の製造方法。
(1)ニオブをNb
2O
5換算で1~100g/L含有するフッ化ニオブ水溶液を、アンモニア濃度5~30質量%のアンモニア水溶液に添加して1分以内に中和反応させてニオブ含有沈殿物を得る工程
(2)前記工程で得られたニオブ含有沈殿物からフッ素を除去する工程
(3)フッ素除去して得られたニオブ含有沈殿物を乾燥させる工程
【請求項6】
下記3工程を有することを特徴とするニオブ含有スラリーの製造方法。
(1)ニオブをNb
2O
5換算で1~100g/L含有するフッ化ニオブ水溶液を、アンモニア濃度5~30質量%のアンモニア水溶液に添加して1分以内に中和反応させてニオブ含有沈殿物を得る工程
(2)前記工程で得られたニオブ含有沈殿物からフッ素を除去する工程
(3)フッ素除去して得られたニオブ含有沈殿物を分散媒に分散させてニオブ含有スラリーとする工程
【請求項7】
請求項1~4の何れか1項に記載のニオブ酸化合物が分散媒に分散してなるニオブ含有スラリー。
【請求項8】
前記分散媒が、アンモニア又はアミンを含むものである請求項7に記載のニオブ含有スラリー。
【請求項9】
触媒原料用である請求項7又は8に記載のニオブ含有スラリー。
【請求項10】
請求項1~4の何れか1項に記載のニオブ酸化合物を、分散媒に分散するニオブ含有スラリーの製造方法。
【請求項11】
請求項5又は6に記載の製造方法で得られたニオブ酸化合物を、分散媒に分散するニオブ含有スラリーの製造方法。
【請求項12】
請求項1~4の何れか1項に記載のニオブ酸化合物と、アルカリ金属塩とを反応させることを特徴とするニオブ含有アルカリ金属塩の製造方法。
【請求項13】
請求項5又は6に記載の製造方法で得られたニオブ酸化合物と、アルカリ金属塩とを反応させることを特徴とするニオブ含有アルカリ金属塩の製造方法。
【請求項14】
請求項7~9の何れか1項に記載のニオブ含有スラリーと、アルカリ金属塩とを反応させることを特徴とする、ニオブ含有アルカリ金属塩を含有したスラリーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属との反応性に優れたニオブ酸化合物及びニオブ含有スラリーに関する。
【背景技術】
【0002】
ニオブ(Nb)と酸素(O)を含有するニオブ酸として、酸化ニオブ、水酸化ニオブ、ニオブのポリ酸などが知られている。これらは、例えば光学、電子、電池などの原料や添加剤などとして用いられている。
また、ニオブ酸が固体酸性を示すことから、触媒としての研究もなされている。例えば、非特許文献1では、ポリ酸として知られている金属酸化物クラスター[MxOy]n-の中でも、Nbなどの5族元素のポリ酸について、特に優れた塩基触媒作用が報告されている。
【0003】
他方、アルカリ金属などを含有するニオブ酸化物は、周波数フィルターやコンデンサなどのような電子部品の原料や、スパッタリングのターゲット原料等としての使用量が増加している。最近では、代表的な圧電体セラミックスであるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の代替材料として、ニオブ酸カリウム(KNbO3),ニオブ酸ナトリウム(NaNbO3),ニオブ酸リチウム(LiNbO3)のほか、ニオブ酸ナトリウムとチタン酸バリウムの固溶体や、ニオブ酸ナトリウムとニオブ酸カリウムとの固溶体など、ニオブ酸ナトリウムを含むペロブスカイト型金属酸化物が非鉛系圧電セラミクスの候補として注目されている。
【0004】
ニオブ酸乃至ニオブ酸化合物に関しては、例えば特許文献1において、CuKα1線を用いたX線回折分析における2θ(回折角)=20°~30°の範囲の最大ピークは半値幅が0.08°~0.8°である酸化ニオブ粉末が開示されている。
また、特許文献2において、CuKα線に基づくX線回折分析による回折角2θ=20°~30°の範囲における最大ピークが、2θ=22.6°±0.5°又は2θ=28.4°±0.5°に位置し、さらに、回折角2θ=23.7°±0.5°における最大ピーク強度Iyと2θ=22.6°±0.5°における最大ピーク強度Ixとの比Ix/Iyが10以上である酸化ニオブ粉が開示されている。
【0005】
特許文献3には,圧電セラミックスの高性能化を目的として,ニオブ化合物と水酸化ナトリウム(NaOH)溶液から構成される懸濁液のソルボサーマル反応によるNaNbO3粒子の合成方法が開示されている。
特許文献4には、NaNbO3微粒子の製造方法に関し、酸化ニオブ(Nb2O5)とNaOH水溶液と別工程で製造したNaNbO3とを混合し、オートクレーブを用いて該混合物に対して高温・高圧の状態に曝露する水熱処理を施す製造方法が開示されている。
【0006】
非特許文献2には、含水酸化ニオブ(Nb2O5・nH2O)を水酸化テトラメチルアンモニウム溶液(TMAH)に加えて加熱攪拌してNb-TMAH溶液を得、このNb-TMAH溶液とLiOHを混合することでLiNbO3前駆体溶液を得、LiNbO3前駆体溶液を電気炉で加熱することでLiNbO3を合成する方法が開示されている。
【0007】
特許文献5には、水酸化ナトリウム(NaOH)と水酸化カリウム(KOH)を含有するアルカリ性水溶液と結晶性Nb2O5と界面活性剤から成る懸濁液を調製し、この懸濁液にオートクレーブを用いて200℃の水熱処理を施してK4Na4NbO・9H2O粒子を合成し、次にこのK4Na4NbO・9H2O粒子を熱処理で脱水することによってニオブ酸アルカリ金属塩を作製する方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献6には、酸化ニオブの微粒子粉に関する技術が開示されており、当該微粒子粉はスラリーとして用いることができる旨が記載されている。
特許文献7には、水に分散させたときに、分散継続性の高いニオブ酸粉体として、水酸化第四級アンモニウムを含有するニオブ酸粉体が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】山添 誠司「多価アニオン金属酸化物クラスターの塩基触媒応用」2018,The Chemical Society of Japan
【文献】紋川亮「TMAH溶解法を用いたLiNbO3前駆体溶液の作製方法,東京都立産業技術センター研究報告,第11号,2016年
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2005-247601号公報
【文献】特開2008-266047号公報
【文献】特開2010-241658号公報
【文献】特開2013-224228号公報
【文献】特開2011-132118号公報
【文献】特開2009-73675号公報
【文献】特開2018-131346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、Nbのポリ酸は、特に優れた塩基触媒作用を有するため、触媒として注目されている材料である(非特許文献1参照)。このようなポリ酸を得るには、Nb2O5やNb2O5・nH2Oなどを金属カチオンや四級アンモニウム等と反応させる必要がある(非特許文献2参照)。しかし、Nb2O5やNb2O5・nH2Oの反応性は高くないため、一般的に水熱合成や90℃程度以上に加熱する必要があった。
【0012】
そこで本発明の目的は、アルカリ金属塩との反応性に優れており、常温でアルカリ金属塩と反応させることができる、新たなニオブ酸化合物、ニオブ含有スラリーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、CuKα線を使用した粉末X線回折測定によるX線回折パターンにおいて、2θ=29.0°±1.5°における最高強度のピーク(第二ピーク)の強度に対する、2θ=9.4°±1.5°における最高強度のピーク(第一ピーク)の強度の比率(第一ピーク/第二ピーク)が1.3以上、より好ましくは1.6以上、さらにより好ましくは1.7以上であることを特徴とするニオブ酸化合物を提案する。
【0014】
本発明はまた、上記ニオブ酸化合物が分散媒に分散してなるニオブ含有スラリーを提案する。
【0015】
本発明はまた、下記3工程を有することを特徴とするニオブ酸化合物の製造方法を提案する。
(1)ニオブをNb2O5換算で1~100g/L含有するフッ化ニオブ水溶液を、アンモニア濃度5~30質量%のアンモニア水溶液に添加して反応させニオブ含有沈殿物を得る工程
(2)前記工程で得られたニオブ含有沈殿物からフッ素を除去する工程
(3)フッ素除去して得られたニオブ含有沈殿物を乾燥させる工程
【0016】
本発明はさらにまた、下記3工程を有することを特徴とするニオブ含有スラリーの製造方法を提案する。
(1)ニオブをNb2O5換算で1~100g/L含有するフッ化ニオブ水溶液を、アンモニア濃度5~30質量%のアンモニア水溶液に添加して反応させニオブ含有沈殿物を得る工程
(2)前記工程で得られたニオブ含有沈殿物からフッ素を除去する工程
(3)フッ素除去して得られたニオブ含有沈殿物を分散媒に分散させてニオブ含有スラリーとする工程
【発明の効果】
【0017】
本発明が提案するニオブ酸化合物及びニオブ含有スラリーは、アルカリ金属塩との反応性に優れており、常温でアルカリ金属塩と反応させることができ、ポリ酸構造を有するニオブ含有アルカリ金属塩を合成することができる。よって、本発明が提案するニオブ酸化合物及びニオブ含有スラリーは、工業的に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例1で得たニオブ含有スラリー(サンプル)を用いて、水酸化ナトリウム水溶液と反応させて得られた粉体のX線回折パターンである。
【
図2】比較例2で得たニオブ含有スラリー(サンプル)を用いて、水酸化ナトリウム水溶液と反応させて得られた粉体のX線回折パターンである。
【
図3】実施例1で得たニオブ含有スラリー(サンプル)を遠心分離し、得られた沈殿物を乾燥して得られたニオブ酸化合物(サンプル)のX線回折パターンである。
【
図4】実施例2で得たニオブ含有スラリー(サンプル)を遠心分離し、得られた沈殿物を乾燥して得られたニオブ酸化合物(サンプル)のX線回折パターンである。
【
図5】実施例3で得たニオブ含有スラリー(サンプル)を遠心分離し、得られた沈殿物を乾燥して得られたニオブ酸化合物(サンプル)のX線回折パターンである。
【
図6】実施例4で得たニオブ含有スラリー(サンプル)を遠心分離し、得られた沈殿物を乾燥して得られたニオブ酸化合物(サンプル)のX線回折パターンである。
【
図7】実施例5で得たニオブ含有スラリー(サンプル)を遠心分離し、得られた沈殿物を乾燥して得られたニオブ酸化合物(サンプル)のX線回折パターンである。
【
図8】比較例1で得たニオブ含有スラリー(サンプル)を遠心分離し、得られた沈殿物を乾燥して得られたニオブ酸化合物(サンプル)のX線回折パターンである。
【
図9】比較例2で得たニオブ含有スラリー(サンプル)を遠心分離し、得られた沈殿物を乾燥して得られたニオブ酸化合物(サンプル)のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0020】
<本ニオブ酸化合物>
本発明の実施形態の一例に係るニオブ酸化合物(「本ニオブ酸化合物」)は、Nb、O及びHからなるか、若しくは、Nb、O、H及びNからなる化合物である。典型的な形態としては、例えばニオブ酸アンモニウム又はその塩である。但し、これらに限定されるものではない。
なお、本ニオブ酸化合物は不可避不純物を含有することは許容される。不可避不純物の種類は特に限定されないが、例えば、Ta、P、Si、B、Sb及びMnなどが挙げられる。
【0021】
本ニオブ酸化合物の形態としては、粉体を挙げることができる。但し、粉体に限定するものではない。
【0022】
本ニオブ酸化合物は、CuKα線を使用した粉末X線回折測定によるX線回折パターンにおいて、2θ=29.0°±1.5°における最高強度のピーク(第二ピーク)の強度に対する、2θ=9.4°±1.5°における最高強度のピーク(第一ピーク)の強度の比率(第一ピーク/第二ピーク)が1.3以上であることが特徴の一つである。
第二ピーク強度に対する第一ピーク強度の比率(第一ピーク/第二ピーク)が1.3以上であれば、常温で水酸化ナトリウムと反応してポリ酸(Na8Nb6O19・13H2O)を合成できることが確認された。
よって、本ニオブ酸化合物においては、第二ピーク強度に対する第一ピーク強度の比率(第一ピーク/第二ピーク)が1.3以上であるのが好ましく、中でも1.4以上、その中でも1.5以上、その中でも1.6以上、その中でも1.7以上であるのがさらに好ましい。上限値は、常識的には3.0以下であると考えることができる。
【0023】
本ニオブ酸化合物は、ポリ酸構造を有する化合物であると推定することができる。すなわち、本ニオブ酸化合物は、式:[NbxOy]n-・mH2O(6≦x≦10、19≦y≦28、n=6、mは0~50の整数)で表される構造を有する含水化合物であると推定することができる。具体的には、[Nb6O19]6-・mH2Oで表される構造を有する含水化合物などを挙げることができる。但し、この含水化合物に限定するものではない。
この推定の根拠としては、アルカリ金属との反応性が高く、NaOH、LiOH又はKOHと混合して反応させると、ポリ酸構造を有する化合物を得ることができる点を挙げることができる。
【0024】
(アルカリ金属との反応性)
本ニオブ酸化合物は、アルカリ金属との反応性が高く、NaOH、LiOH又はKOHなどのアルカリ金属の水酸化物と常温で混合することで反応させることができ、ポリ酸構造を有する化合物を得ることができる。
具体的には、水酸化Na水溶液と本ニオブ酸化合物とを常温(10~35℃)で混合すると反応してNa8Nb6O19・13H2Oを合成することができる。
【0025】
この際、混合して得られた反応物が、Na8Nb6O19・13H2Oであることの確認は、例えば次のようなX線回折測定(XRD)による同定によって行うことができる。
すなわち、反応生成物である沈殿を、下記条件にてX線回折測定により測定し、ICDDカードNo,00-014-0370のXRDパターンと照らし合わせて、Na8Nb6O19・13H2Oであるか否か同定することができる。この際の測定条件及び解析条件の一例として、下記実施例の条件を挙げることができる。
但し、同定方法を、この方法及び条件に限定するものではない。
【0026】
<本製造方法>
次に、本ニオブ酸化合物の好適な製造方法(「本製造方法」と称する)について説明する。
【0027】
本製造方法の一例として、フッ化ニオブ水溶液を、所定濃度のアンモニア水溶液中に添加してニオブ含有沈殿物を得(「逆中和工程」と称する)、当該ニオブ含有沈殿物からフッ素を除去し(「F洗浄工程」と称する)、フッ素除去して得られたニオブ含有沈殿物を乾燥させる(「乾燥工程」と称する)という製造方法を挙げることができる。但し、本ニオブ酸化合物の製造方法は、このような製造方法に限定されるものではない。
【0028】
本製造方法は、上記工程を備えていれば、他の工程若しくは他の処理を追加することは適宜可能である。
また、本製造方法において「工程」とは、一連の製造ラインで行うものでなくてもよく、断続的であってもよく、その際、時間をおいたり、装置を変えたり、場所を変えたりして断続的に行うものであってもよい。
【0029】
(逆中和工程)
逆中和工程では、フッ化ニオブ水溶液を、所定濃度のアンモニア水溶液中に添加してニオブ含有沈殿物を得るのが好ましい。すなわち、逆中和するのが好ましい。
アンモニア水溶液をフッ化ニオブ水溶液に添加して中和する正中和ではなく、フッ化ニオブ水溶液をアンモニア水溶液に添加して中和する逆中和を行うことが好ましい。
逆中和することによって、ニオブ酸の構造が水に溶けやすい構造になると推測している。
【0030】
フッ化ニオブ水溶液は、ニオブ乃至ニオブ酸化物をフッ酸(HF)と反応させてフッ化ニオブ(H2NbF7)とし、これを水に溶解して作製することができる。
そしてこのフッ化ニオブ水溶液は、水(例えば純水)を加えて、ニオブをNb2O5換算で1~100g/L含有するように調製するのが好ましい。この際、ニオブ濃度が1g/L以上であれば、水に溶けやすいニオブ酸化合物水和物になるので、フッ化ニオブ水溶液のニオブ濃度は、Nb2O5換算で1g/L以上であるのがより好ましく、生産性を考えた場合、中でも10g/L以上、その中でも20g/L以上であるのがさらに好ましい。他方、ニオブ濃度が100g/L以下であれば、水に溶けやすいニオブ酸化合物水和物になるので、より確実に水に溶けやすいニオブ酸化合物水和物を合成するには、90g/L以下であるのがより好ましく、中でも80g/L以下、その中でも70g/L以下であるのがさらに好ましい。
フッ化ニオブ水溶液のpHは、ニオブ乃至ニオブ酸化物を完全溶解させる観点から、2以下であるのが好ましく、中でも1以下であるのがさらに好ましい。
【0031】
他方、上記アンモニア水溶液は、アンモニア濃度が5~30質量%であることが好ましい。
逆中和に用いるアンモニア水溶液のアンモニア濃度を5質量%以上とすることで、Nbが溶け残ることを無くし、ニオブ乃至ニオブ酸を水に完全に溶けるようにさせることができる。他方、アンモニア水溶液のアンモニア濃度が30質量%以下であれば、アンモニアの飽和水溶液付近だから好ましい。
かかる観点から、アンモニア水溶液のアンモニア濃度は5質量%以上であるのが好ましく、中でも10質量%以上、中でも15質量%以上、中でも20質量%以上、その中でも25質量%以上であるのがさらに好ましい。他方、30質量%以下であるのが好ましく、中でも29質量%以下、その中でも28質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0032】
逆中和工程では、アンモニア水溶液に対するフッ化ニオブ水溶液の添加量(NH3/Nb2O5モル比)を95~300とするのが好ましく、中でも100以上或いは200以下、その中でも110以上或いは150以下とするのがさらに好ましい。
フッ化ニオブ水溶液及びアンモニア水溶液ともに常温でよい。
【0033】
逆中和工程では、前記フッ化ニオブ水溶液を前記アンモニア水溶液に添加する際、1分以内に中和反応させる。すなわち、時間をかけて徐々に前記フッ化ニオブ水溶液を加えるのではなく、例えば一気に投入するなど、1分以内の時間で投入して中和反応させる。
この際、前記フッ化ニオブ水溶液の添加時間は、1分以内とする。中でも30秒以内、その中でも10秒以内とするのがさらに好ましい。
【0034】
(F洗浄工程)
前記中和反応で得られた液、すなわちニオブ含有沈殿物には、不純物として、フッ化アンモニウムなどのフッ素化合物が存在するため、これらを除去するのが好ましい。
【0035】
フッ素化合物の除去方法は任意である。例えば、アンモニア水や純水を用いた逆浸透ろ過、限外ろ過、精密ろ過などの膜を用いたろ過による方法のほか、遠心分離、その他の公知の方法を採用することができる。
F洗浄工程は、常温で行えばよく、それぞれの温度調整は特に必要ない。
【0036】
(乾燥工程)
次に、前記工程でフッ素除去して得られたニオブ含有沈殿物を乾燥させることで、本ニオブ酸化合物を得ることができる。
この際の乾燥方法は、公知に乾燥方法を適宜採用すればよい。
【0037】
<本ニオブ含有スラリー>
本ニオブ酸化合物を分散媒に分散させてニオブ含有スラリー(「本ニオブ含有スラリー」と称する)とすることができる。
【0038】
ここで、「スラリー」とは、本ニオブ酸化合物からなる固体粒子が液体中に分散して懸濁している状態を意味し、ゾルの状態も包含する。
【0039】
本ニオブ含有スラリーは、上述した本ニオブ酸化合物の製造方法において、乾燥工程の代わりに、次のスラリー工程を実施することで得ることができる。すなわち、F洗浄工程において、フッ素除去して得られたニオブ含有沈殿物を、分散媒に分散させて本ニオブ含有スラリーを得ることができる。
【0040】
本ニオブ含有スラリーは、Nb2O5換算で0.1~40質量%のニオブを含有するのが好ましく、中でも0.5質量%以上、その中でも1質量%以上の割合で含有するのがさらに好ましい一方、中でも30質量%以下、その中でも20質量%以下の割合で含有するのがさらに好ましい。
【0041】
なお、ニオブの含有量を、Nb2O5換算で示しているのは、Nb濃度を示す際の慣例に基づくものである。本ニオブ含有スラリーにおいて、Nbは必ずしもNb2O5状態で存在するものではなく、必ずしもNb2O5を含有するものではない。
【0042】
上記分散媒としては、水、アンモニア水、アミン水溶液、薄いアルカリ金属水酸化物水溶液のうちの何れか又はこれら二種類以上の組み合わせであってもよい。
なお、分散媒としてアンモニア水やアミン水溶液を用いる場合、含有するニオブ酸化合物が少なくとも一部粒子として残留する(動的光散乱法で1.0μm以上の粒子が観察される)ように、アンモニア水やアミン水溶液の濃度および液量を調節する必要がある。
【0043】
ここで、上記アミンとしては、後述するアルキルアミン、コリン([(CH3)3NCH2CH2OH]+)、水酸化コリン([(CH3)3NCH2CH2OH]+OH-)などを好ましく例示することができる。
【0044】
上記アルキルアミンとしては、アルキル基を1~4個有するものが使用可能である。アルキル基を2~4個有する場合、2~4個のアルキル基は全部同じものでもよいし、また、異なるなるものを含んでいてもよい。アルキルアミンのアルキル基としては、溶解性の観点から、アルキル基の炭素数1~6のものが好ましく、中でも4以下、その中でも3以下、さらにその中でも2以下のものが好ましい。
【0045】
上記アルキルアミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム、エチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン、ジメチルエチルアミン、水酸化テトラエチルアンモニウム、n-プロピルアミン、ジn-プロピルアミン、トリn-プロピルアミン、iso-プロピルアミン、ジiso-プロピルアミン、トリiso-プロピルアミン、n-ブチルアミン、ジn-ブチルアミン、トリn-ブチルアミン、iso-ブチルアミン、ジiso-ブチルアミン、トリiso-ブチルアミンおよびtert-ブチルアミン、n-ペンタアミン、n-ヘキサアミンなどを挙げることができる。
中でも、溶解性の点からは、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム、エチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン、ジメチルエチルアミンおよび水酸化テトラエチルアンモニウムが好ましく、中でもメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、水酸化テトラメチルアンモニウムがさらに好ましい。とりわけ、ジメチルアミンが最も好ましい。
【0046】
(本ニオブ含有スラリー中の本ニオブ酸化合物の確認方法)
入手したニオブ含有スラリーが本ニオブ含有スラリーであるか否か、言い換えれば、本ニオブ酸化合物を含有するものであるか否かを確認するには、例えば、当該ニオブ含有スラリーを遠心分離して上澄みを除去して沈殿物を得、該沈殿物を60℃、真空(0.08MPa以下)の雰囲気において15時間静置して乾燥させる。得られた乾燥物を、本ニオブ酸化合物について説明したのと同様に粉末X線回折測定して確認することができる。
【0047】
(アルカリ金属との反応性)
本ニオブ含有スラリーについても、本ニオブ酸化合物同様、アルカリ金属との反応性が高く、NaOH、LiOH又はKOHなどのアルカリ金属の水酸化物と常温で混合することで反応させることができ、ポリ酸構造を有する化合物を得ることができる。
具体的には、本ニオブ含有スラリーと水酸化Naとを常温(10~35℃)で混合すると、反応してNa8Nb6O19・13H2Oを合成することができる。
【0048】
<本ニオブ酸化合物及び本ニオブ含有スラリーの用途>
本ニオブ酸化合物及び本ニオブ含有スラリーは、ニオブ酸アルカリ金属塩の合成用として有用である。また、触媒原料用としても有用である。さらに、導電材料、光触媒材料、その他の複合材料合成用としても有用である。
【0049】
<語句の説明>
本明細書において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例】
【0050】
本発明について、以下の実施例により更に説明する。但し、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【0051】
(実施例1)
五酸化ニオブ100gを55質量%フッ化水素酸水溶液200gに溶解させ、イオン交換水を830mL添加することによって、ニオブをNb2O5換算で100g/L含有する(Nb2O5=8.84質量%)フッ化ニオブ水溶液を得た。
このフッ化ニオブ水溶液200mLを、アンモニア水(NH3濃度25質量%)1Lに、1分間未満の時間で添加して反応液(pH11)を得た。この反応液はニオブ酸化合物水和物のスラリー、言い換えればニオブ含有沈殿物のスラリーであった。
次に、前記反応液を、遠心分離機を用いてデカンテーションし、上澄み液のフリーフッ素量が100mg/L以下になるまで洗浄してフッ素除去したニオブ含有沈殿物を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。
前記ニオブ含有沈殿物の一部を、1000℃で4時間焼成することでNb2O5を生成し、その質量からニオブ含有沈殿物に含まれるNb2O5濃度を算出した。
前記ニオブ含有沈殿物の他の一部を純水で希釈して、Nb2O5濃度10質量%のニオブ含有スラリー(サンプル)を作製した。
【0052】
(実施例2)
五酸化ニオブ100gを55質量%フッ化水素酸水溶液200gに溶解させ、イオン交換水を1830mL添加することによって、ニオブをNb2O5換算で50g/L含有する(Nb2O5=4.69質量%)フッ化ニオブ水溶液を得た。
このフッ化ニオブ水溶液400mLを、アンモニア水(NH3濃度25質量%)1Lに、1分間未満の時間で添加して反応液(pH11)を得た。この反応液はニオブ酸化合物水和物のスラリー、言い換えればニオブ含有沈殿物のスラリーであった。
次に、前記反応液を、遠心分離機を用いてデカンテーションし、上澄み液のフリーフッ素量が100mg/L以下になるまで洗浄してフッ素除去したニオブ含有沈殿物を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。
前記ニオブ含有沈殿物の一部を、1000℃で4時間焼成することでNb2O5を生成し、その質量からニオブ含有沈殿物に含まれるNb2O5濃度を算出した。
前記ニオブ含有沈殿物の他の一部に純水と40質量%メチルアミンを添加し、Nb2O5濃度10質量%、メチルアミン濃度0.2質量%のニオブ含有スラリー(サンプル)を作製した。
【0053】
(実施例3)
五酸化ニオブ100gを55質量%フッ化水素酸水溶液200gに溶解させ、イオン交換水を9800mL添加することによって、ニオブをNb2O5換算で10.3g/L含有する(Nb2O5=1質量%)フッ化ニオブ水溶液を得た。
このフッ化ニオブ水溶液2Lを、アンモニア水(NH3濃度25質量%)2Lに、1分間未満の時間で添加して反応液(pH12)を得た。この反応液はニオブ酸化合物水和物のスラリー、言い換えればニオブ含有沈殿物のスラリーであった。次に、前記反応液を、遠心分離機を用いてデカンテーションし、上澄み液のフリーフッ素量が100mg/L以下になるまで洗浄してフッ素除去したニオブ含有沈殿物を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。
前記ニオブ含有沈殿物の一部を、1000℃で4時間焼成することでNb2O5を生成し、その質量からニオブ含有沈殿物に含まれるNb2O5濃度を算出した。
前記ニオブ含有沈殿物の他の一部を純水で希釈して、Nb2O5濃度10質量%のニオブ含有スラリー(サンプル)を作製した。
【0054】
(実施例4)
五酸化ニオブ100gを55質量%フッ化水素酸水溶液200gに溶解させ、イオン交換水を830mL添加することによって、ニオブをNb2O5換算で100g/L含有する(Nb2O5=8.84質量%)フッ化ニオブ水溶液を得た。
このフッ化ニオブ水溶液220mLを、アンモニア水(NH3濃度5質量%)2Lに、1分間未満の時間で添加して反応液(pH10)を得た。この反応液はニオブ酸化合物水和物のスラリー、言い換えればニオブ含有沈殿物のスラリーであった。
次に、前記反応液を、遠心分離機を用いてデカンテーションし、上澄み液のフリーフッ素量が100mg/L以下になるまで洗浄してフッ素除去したニオブ含有沈殿物を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。
前記ニオブ含有沈殿物の一部を、1000℃で4時間焼成することでNb2O5を生成し、その質量からニオブ含有沈殿物に含まれるNb2O5濃度を算出した。
前記ニオブ含有沈殿物の他の一部を純水で希釈して、Nb2O5濃度10質量%のニオブ含有スラリー(サンプル)を作製した。
【0055】
(実施例5)
五酸化ニオブ100gを55質量%フッ化水素酸水溶液200gに溶解させ、イオン交換水を830mL添加することによって、ニオブをNb2O5換算で100g/L含有する(Nb2O5=8.84質量%)フッ化ニオブ水溶液を得た。
このフッ化ニオブ水溶液220mLを、アンモニア水(NH3濃度5質量%)550mLに、1分間未満の時間で添加して反応液(pH9)を得た。この反応液はニオブ酸化合物水和物のスラリー、言い換えればニオブ含有沈殿物のスラリーであった。
次に、前記反応液を、遠心分離機を用いてデカンテーションし、上澄み液のフリーフッ素量が100mg/L以下になるまで洗浄してフッ素除去したニオブ含有沈殿物を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。
前記ニオブ含有沈殿物の一部を、1000℃で4時間焼成することでNb2O5を生成し、その質量からニオブ含有沈殿物に含まれるNb2O5濃度を算出した。
前記ニオブ含有沈殿物の他の一部を純水で希釈して、Nb2O5濃度10質量%のニオブ含有スラリー(サンプル)を作製した。
【0056】
(比較例1)
五酸化ニオブ100gを55質量%フッ化水素酸水溶液200gに溶解させ、イオン交換水を830mL添加することによって、ニオブをNb2O5換算で100g/L含有する(Nb2O5=8.84質量%)フッ化ニオブ水溶液を得た。
このフッ化ニオブ水溶液200mLへ、アンモニア水(NH3濃度25質量%)200mLを、60分間かけて添加して反応液(pH10)を得た(正中和)。この反応液はニオブ酸化合物水和物のスラリー、言い換えればニオブ含有沈殿物のスラリーであった。
次に、前記反応液を、5Cろ紙を用いヌッチェろ過により、上澄み液のフリーフッ素量が100ppm以下になるまで洗浄してニオブ酸化合物水和物を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。
前記ニオブ含有沈殿物の一部を、1000℃で4時間焼成することでNb2O5を生成し、その質量からニオブ含有沈殿物に含まれるNb2O5濃度を算出した。
前記ニオブ含有沈殿物の他の一部を純水で希釈して、Nb2O5濃度10質量%のニオブ含有スラリー(サンプル)を作製した。
【0057】
(比較例2)
五酸化ニオブ100gを55質量%フッ化水素酸水溶液200gに溶解させ、イオン交換水を19600mL添加することによって、ニオブをNb2O5換算で5.1g/L含有する(Nb2O5=0.5質量%)フッ化ニオブ水溶液を得た。
このフッ化ニオブ水溶液9Lをアンモニア水(NH3濃度1質量%)5Lへ60分間かけて添加して反応液(pH8)を得た(逆中和)。この反応液はニオブ酸化合物水和物のスラリー、言い換えればニオブ含有沈殿物のスラリーであった。
次に、このスラリーをろ過装置(マイクローザUF:型式ACP-0013D;旭化成(株)製)を用いて、ろ液のフリーフッ素量が100mg/L以下になるまで洗浄してフッ素除去ニオブ含有濃縮スラリーを得た。
前記ニオブ含有濃縮スラリーの一部を、110℃で24時間乾燥後、1000℃で4時間焼成することでNb2O5を生成し、その質量からスラリーに含まれるNb2O5濃度を算出した。結果、Nb2O5濃度32質量%のスラリーであった。
前記フッ素除去ニオブ含有濃縮スラリーの他の一部を純水で希釈し、Nb2O5濃度10質量%のニオブ含有スラリー(サンプル)を作製した。
【0058】
(実施例6)
実施例1と同様に、フッ素除去したニオブ含有沈殿物を得、当該ニオブ含有沈殿物10gを60℃×15hで真空乾燥させてニオブ酸化合物(サンプル)を得た。
【0059】
(比較例3)
比較例2と同様に、フッ素除去ニオブ含有濃縮スラリーを得、当該フッ素除去ニオブ含有濃縮スラリー10gを、60℃×15hで真空乾燥させてニオブ酸化合物(サンプル)を得た。
【0060】
<NaOHとの反応性試験>
実施例1-5及び比較例1-2で得たニオブ含有スラリー(サンプル)を30g量り、これに5.7質量%水酸化ナトリウム水溶液30mLをマグネティックスターラー(撹拌速度:150rpm)で撹拌しながら1分間かけて添加した。添加後、5分間撹拌し、沈殿物をヌッチェろ過した。これを純水で洗浄した後、真空乾燥炉内において60℃(設定温度)で15時間加熱して真空乾燥した。得られた乾燥物をメノウ乳鉢にて粉砕し、得られた粉体についてX線回折測定を実施した。この測定結果を表1に示した。
他方、実施例6及び比較例3については、上記ニオブ含有スラリー(サンプル)の代わりに、実施例6及び比較例3で得たニオブ酸化合物(サンプル)を3g量り、2.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液50mLと反応させた以外は上記と同様に行い、得られた粉体についてX線回折測定を実施した。この測定結果を表2に示した。
この際、X線回折測定条件及びX線回
折解析条件は、下記<XRD測定>の条件と同様である。
図1、2には、実施例1、比較例2で得たニオブ含有スラリー(サンプル)を用いて、水酸化ナトリウム水溶液と反応させて得られた粉体のX線回折パターンを示した。
【0061】
実施例1-5で得たニオブ含有スラリー(サンプル)を用いて、水酸化ナトリウム水溶液と反応させて得られた粉体、並びに、実施例6で得たニオブ酸化合物(サンプル)を用いて、水酸化ナトリウム水溶液と反応させて得られた粉体はいずれも、X線回折測定結果から、ICDDカードNo,00-014-0370のNa8Nb6O19・13H2Oからなるものであると同定された。
他方、比較例1、2で得たニオブ含有スラリー(サンプル)を用いて、水酸化ナトリウム水溶液と反応させて得られた粉体、並びに、比較例3で得たニオブ酸化合物(サンプル)を用いて、水酸化ナトリウム水溶液と反応させて得られた粉体はいずれも、X線回折測定を実施したところ、アモルファスでニオブ酸化合物は得られなかった。
表1,2には、上記反応後の粉体が、Na8Nb6O19・13H2Oからなるものであると同定された場合を「〇」、同定されなかった場合を「×」と表示した。
【0062】
<XRD測定>
実施例1-5及び比較例1-2で得たニオブ含有スラリー(サンプル)を、工機ホールディングス社製himac CT6Eを用いて、4000rpm×10分で遠心分離して上澄みを除去して沈殿物を得た。得られた沈殿物4gを、減圧乾燥炉を用いて、60℃、真空(0.08MPa以下)の雰囲気において15時間静置して乾燥させ、ニオブ酸化合物(サンプル)を得た。
これらニオブ酸化合物(サンプル)、ならびに実施例6および比較例3のニオブ酸化合物(サンプル)について、CuKα線を使用した粉末X線回折測定を行い、X線回折パターンを得た。
図3、4、5、6、7、8、9には、実施例1、2、3、4、5、比較例1,2で得たニオブ含有スラリー(サンプル)からそれぞれ得たニオブ酸化合物(サンプル)のX線回折パターンを示した。
【0063】
なお、実施例6で得たニオブ酸化合物(サンプル)のX線回折パターンは、実施例1で得られたニオブ酸化合物(サンプル)のX線回折パターンとほぼ同じであった。
また、比較例3で得られたニオブ酸化合物(サンプル)のX線回折パターンは、比較例2で得られたニオブ酸化合物(サンプル)のX線回折パターンとほぼ同じであった。
【0064】
=X線回折測定条件=
・装置:MiniFlexII(株式会社リガク製)
・測定範囲(2θ):5~90°
・サンプリング幅:0.02°
・スキャンスピード:2.0°/min
・X線:CuKα線
・電圧:30kV
・電流:15mA
・発散スリット:1.25°
・散乱スリット:1.25°
・受光スリット:0.3mm
【0065】
=X線回折解析条件=
・リガク社製データ解析ソフトPDXL2を使用
・ピークトップを明確化するためb-splingでピークを平滑化した
【0066】
測定して得られたX線回折パターンから第一ピークおよび第二ピークの強度を求め、第二ピークの強度に対する第一ピークの強度の比率(第一/第二強度比)を算出して表3に示した。
この際、第一ピークは、2θ=9.4°±1.5°における最高強度のピークとし、その強度を第一ピーク強度と定義した。
第二ピークは、2θ=29.0°±1.5°における最高強度のピークとし、その強度を第二ピーク強度と定義した。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
(考察)
上記実施例・比較例の結果、並びに、これまで本発明者が行ってきた試験結果から、第二ピーク強度に対する第一ピーク強度の比率(第一ピーク/第二ピーク)が1.3以上であるニオブ酸化合物であれば、常温で水酸化ナトリウムと反応してポリ酸(Na8Nb6O19・13H2O)を合成できることが分かった。また、当該ニオブ酸化合物を用いたニオブ含有スラリーも、常温で水酸化ナトリウムと反応してポリ酸(Na8Nb6O19・13H2O)を合成できることが分かった。
よって、そのようなニオブ酸化合物及びそれを含有するニオブ含有スラリーであれば、アルカリ金属塩との反応性に優れており、常温でアルカリ金属塩と反応させることができると理解できる。