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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-11
(45)【発行日】2023-01-19
(54)【発明の名称】溶接台車
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/12 20060101AFI20230112BHJP
   B23K 37/02 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
B23K9/12 331A
B23K9/12 350D
B23K37/02 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018005773
(22)【出願日】2018-01-17
(65)【公開番号】P2019122991
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】593083918
【氏名又は名称】株式会社コクホ
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 芳弘
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-076365(JP,A)
【文献】特開平07-237824(JP,A)
【文献】特開平09-052196(JP,A)
【文献】特開2014-176868(JP,A)
【文献】特開平06-071441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/12
B23K 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隅肉溶接に用いる溶接台車であって、
溶接トーチが搭載される台車本体と、
前記台車本体の左右両側に複数個ずつ配置された走行車輪と、
前記台車本体に搭載されて該台車本体の一方側に位置する前記複数個の走行車輪を正逆回転させる一方側駆動源と、
前記台車本体に搭載されて該台車本体の他方側に位置する前記複数個の走行車輪を正逆回転させる他方側駆動源と、
前記台車本体の一方側に位置する前記複数個の走行車輪に供給する前記一方側駆動源からの駆動力の大きさ及び回転方向を制御すると共に前記台車本体の他方側に位置する前記複数個の走行車輪に供給する前記他方側駆動源からの駆動力の大きさ及び回転方向を制御する制御部と、
前記溶接トーチにより隅肉溶接される被溶接材間の溶接ラインに倣って台車本体を走行させる倣い機構が備えられている溶接台車。
【請求項2】
前記台車本体には前記一方側駆動源及び前記他方側駆動源が一つずつ搭載され、前記台車本体の一方側に位置する前記複数個の走行車輪のすべてに対して前記一方側駆動源からの駆動力を伝達する一方側駆動力伝達機構、及び、前記台車本体の他方側に位置する前記複数個の走行車輪のすべてに対して前記他方側駆動源からの駆動力を伝達する他方側駆動力伝達機構が備えられている請求項1に記載の溶接台車。
【請求項3】
前記台車本体の一方側に位置する前記複数個の走行車輪及び前記台車本体の他方側に位置する前記複数個の走行車輪のうちの互いに対向する前記一方側の走行車輪及び前記他方側の走行車輪の各車軸がイコライザを介して前記台車本体に支持されている請求項1又は2に記載の溶接台車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接トーチを搭載して溶接ラインに沿って走行する溶接台車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上記したような溶接台車としては、例えば特許文献1に記載されたものがある。
この溶接台車は、突き合わせ溶接に用いられる溶接台車であって、前後端左右に合計4個の走行車輪を有する台車本体と、この台車本体に搭載された減速機付きモータと、減速機付きモータから供給される駆動力を4個の走行車輪に伝達する駆動力伝達機構と、溶接トーチを台車本体の一方の側面がわで且つ先端を下方に向けた状態で支持するトーチ支持部と、台車本体の前部に配置された操舵機構と、倣いローラを備えている。
【0003】
この場合、倣いローラは、台車本体の溶接トーチが位置する一方の側面がわで且つ溶接トーチよりも進行方向前方に延出して設けられており、溶接トーチにより突き合わせ溶接される被溶接材間のV形開先に挿入するように位置調整されている。
【0004】
この溶接台車により、被溶接材同士を突き合わせて溶接する場合には、倣いローラを被溶接材間のV形開先に挿入して台車本体を一方の被溶接材上に配置し、この状態で溶接トーチによる溶接を開始すると共に、減速機付きモータから駆動力伝達機構を介して走行車輪に駆動力を供給して台車本体をV形開先に沿って走行させ、この走行の間、必要に応じて操舵機構を動作させる。
【0005】
この溶接台車において、突き合わせ溶接中に台車本体が所定の溶接終端位置まで進んだ場合には、減速機付きモータを止めて台車本体を停止させる。そして、台車本体を溶接始端位置まで運んでセットし直した後、再び溶接トーチによる溶接を開始すると共に、台車本体をV形開先に沿って走行させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-138176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記した従来の溶接台車では、突き合わせ溶接時の進行方向が決められているので(方向性があるので)、突き合わせ溶接を仕上げるまでに複数回のパスが必要な場合には、台車本体を所定の溶接終端位置から溶接始端位置まで運んでセットし直す作業をパスの回数分だけ行わなくてはならず、作業効率が悪いという問題を有している。
【0008】
また、上記した従来の溶接台車では、突き合わせ溶接時に必要に応じて操作される操舵機構を駆動力伝達機構とともに台車本体に搭載しているので、台車本体の構造の複雑化及び重量の増加を招いてしまうという問題があり、これらの問題を解決することが従来の課題となっていた。
【0009】
本発明は、上記した従来の課題に着目してなされたもので、構造の簡略化及び重量の軽減を実現したうえで、作業効率を高めることが可能である溶接台車を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、隅肉溶接に用いる溶接台車であって、溶接トーチが搭載される台車本体と、前記台車本体の左右両側に複数個ずつ配置された走行車輪と、前記台車本体に搭載されて該台車本体の一方側に位置する前記複数個の走行車輪を正逆回転させる一方側駆動源と、前記台車本体に搭載されて該台車本体の他方側に位置する前記複数個の走行車輪を正逆回転させる他方側駆動源と、前記台車本体の一方側に位置する前記複数個の走行車輪に供給する前記一方側駆動源からの駆動力の大きさ及び回転方向を制御すると共に前記台車本体の他方側に位置する前記複数個の走行車輪に供給する前記他方側駆動源からの駆動力の大きさ及び回転方向を制御する制御部と、前記溶接トーチにより隅肉溶接される被溶接材間の溶接ラインに倣って台車本体を走行させる倣い機構が備えられている構成としている。
【0011】
本発明の第の態様は、前記台車本体には前記一方側駆動源及び前記他方側駆動源が一つずつ搭載され、前記台車本体の一方側に位置する前記複数個の走行車輪のすべてに対して前記一方側駆動源からの駆動力を伝達する一方側駆動力伝達機構、及び、前記台車本体の他方側に位置する前記複数個の走行車輪のすべてに対して前記他方側駆動源からの駆動力を伝達する他方側駆動力伝達機構が備えられている構成とする。
【0012】
本発明の第の態様は、前記台車本体の一方側に位置する前記複数個の走行車輪及び前記台車本体の他方側に位置する前記複数個の走行車輪のうちの互いに対向する前記一方側の走行車輪及び前記他方側の走行車輪の各車軸がイコライザを介して前記台車本体に支持されている構成とする。
【0013】
本発明に係る溶接台車において、突合せ溶接により被溶接材同士を接合する場合には、例えば、台車本体に設けた倣いローラを被溶接材間のV形開先に挿入して一方の被溶接材上にセットする。この状態で溶接トーチによる溶接を開始すると、制御部からの指令によって左右両側の駆動源から台車本体の左右に複数個ずつ配置された走行車輪に同じ大きさで且つ同じ回転方向の駆動力がそれぞれ供給されて、台車本体がV形開先に沿って走行を開始する。
【0014】
そして、突き合わせ溶接中に台車本体が所定の溶接終端位置に到達すると、制御部からの指令によって左右両側の駆動源からの左右の走行車輪に対する駆動力の供給がいずれも遮断されて台車本体が停止する。
【0015】
この後、制御部からの指令によって左右両側の駆動源から台車本体の左右に複数個ずつ位置する走行車輪に対して同じ大きさで且ついずれもそれまでとは逆回転方向の駆動力がそれぞれ供給されて、台車本体がV形開先に沿って逆方向への走行を開始する。
【0016】
つまり、本発明に係る溶接台車では、制御部からの指令によって前進後退が自在なので(方向性がないので)、突き合わせ溶接を仕上げるまでに複数回のパスが必要な場合であったとしても、台車本体を所定の溶接終端位置から溶接始端位置まで運んでセットし直す作業を必要とすることがなく、作業効率が向上することとなる。
【0017】
また、本発明に係る溶接台車において、V形開先がカーブしている場合には、左右両側の駆動源から左右の走行車輪に対して供給する駆動力の大きさに差を持たせて左右の走行車輪の回転数を互いに違えることで操舵を行い得るので、操舵機構を駆動力伝達機構とともに台車本体に搭載しなくて済む分だけ、台車本体の構造が簡単になると共に軽量化が図られることとなる。
【0018】
この際、台車本体には一方側駆動源及び他方側駆動源を一つずつ搭載し、台車本体の一方側に位置する複数個の走行車輪のすべてに対して一方側駆動源からの駆動力を伝達する一方側駆動力伝達機構、及び、台車本体の他方側に位置する複数個の走行車輪のすべてに対して他方側駆動源からの駆動力を伝達する他方側駆動力伝達機構を台車本体に搭載するように成せば、台車本体の構造がより簡単になると共により一層の軽量化が図られることとなる。
【0019】
さらに、本発明に係る溶接台車において、走行路に踏破可能な段差やうねりがある場合には、台車本体に支持される互いに対向する一方側の走行車輪及び他方側の走行車輪における各車軸の上下方向のずれがイコライザにより吸収されるので、溶接台車の走行に支障を来すことが回避されることとなる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る溶接台車において、構造の簡略化及び重量の軽減を実現したうえで、作業効率を高めることが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る溶接台車の突合せ溶接時の側面方向からの断面説明図である。
図2図1に示した溶接台車の正面説明図である。
図3図1における溶接台車の走行車輪から上の構成要素を省略して示した平面説明図である。
図4】本発明の他の実施形態に係る溶接台車の隅肉接時の正面説明図である。
図5図4における溶接台車の走行車輪から上の構成要素を省略して示した平面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を図面に基づいて説明する。
図1図3は、本発明の一実施形態による溶接台車を示しており、この実施形態では、本発明に係る溶接台車が突合せ溶接に用いる溶接台車である場合を例に挙げて説明する。なお、図1及び図3において、矢印方向の動作を前進とし、矢印とは反対方向の動作を後退とする。
【0023】
図1図3に示すように、この溶接台車1は、走行車輪4を前後左右の4箇所に配置した台車本体2と、駆動ユニット10と、台車本体2の動作を制御する制御部6と、台車本体2の前後端間に配置されたトーチ支持機構30を備えており、駆動ユニット10は、減速機付きモータ11と、走行車輪4に対して減速機付きモータ11からの駆動力を伝達する駆動力伝達機構20を具備している。
【0024】
この場合、台車本体2には、左側駆動ユニット10L及び右側駆動ユニット10Rの2組の駆動ユニットが搭載されており、左側駆動ユニット10Lの減速機付きモータ11は台車本体2の前部に搭載されて、台車本体2の左側(一方側)に位置する2個の走行車輪4,4を駆動し、右側駆動ユニット10Rの減速機付きモータ11は台車本体2の後部に搭載されて、台車本体2の右側(他方側)に位置する2個の走行車輪4,4を駆動する。
【0025】
左側駆動ユニット10Lの駆動力伝達機構20は、減速機付きモータ11の出力軸11aに装着された出力歯車21と、前部左側の走行車輪4FLの前輪車軸4fに装着した入力歯車22と、出力歯車21及び入力歯車22間に掛け渡したチェーン23と、入力歯車22と並べて前輪車軸4fに装着した伝達歯車24と、後部左側の走行車輪4RLの後輪車軸4rに装着した入力歯車25と、伝達歯車24及び入力歯車25間に掛け渡したチェーン26を具備している。
【0026】
右側駆動ユニット10Rの駆動力伝達機構20は、減速機付きモータ11の出力軸11aに装着された出力歯車21と、後部右側の走行車輪4RRの後輪車軸4rに装着した入力歯車22と、出力歯車21及び入力歯車22間に掛け渡したチェーン23と、入力歯車22と並べて後輪車軸4rに装着した伝達歯車24と、前部右側の走行車輪4FRの前輪車軸4fに装着した入力歯車25と、伝達歯車24及び入力歯車25間に掛け渡したチェーン26を具備している。
【0027】
この実施例において、左右の前輪車軸4f,4f間及び後輪車軸4r,4r間は、いずれもイコライザ12で連結されている。
【0028】
制御部6は、台車本体2の前部左側の走行車輪4FL及び後部左側の走行車輪4RLに駆動力伝達機構20を介して供給する左側駆動ユニット10Lの減速機付きモータ11からの駆動力の大きさ及び回転方向を制御すると共に、台車本体2の前部右側の走行車輪4FR及び後部右側の走行車輪4RRに駆動力伝達機構20を介して供給する右側駆動ユニット10Rの減速機付きモータ11からの駆動力の大きさ及び回転方向を制御する。
【0029】
トーチ支持機構30は、台車本体2の走行方向と直交する方向(図2左右方向)に沿って台車本体2上に配置されたレール31と、このレール31上を往復移動可能なスライドベース32と、このスライドベース32に配置されたウィービングユニット33を具備している。
【0030】
ウィービングユニット33は、スライドベース32に固定されたウィービングモータ34と、スライダ35と、スライドベース32に固定されてウィービングモータ34の駆動力によってスライダ35を台車本体2の走行方向と直交する方向に往復移動させるウィービング装置36と、スライダ35に連結されて溶接トーチTの先端Taを台車本体2の一方の側面がわ(図2左側)で且つ下方に向けた状態で溶接トーチTを支持するトーチクランプ37を有している。
【0031】
スライドベース32は、水平ノブ38の回動操作によって台車本体2の走行方向と直交する方向の位置調整が可能となっており、トーチクランプ37に支持された溶接トーチTのV形開先Waに対するセンタ出しが行えるようになっている。
【0032】
また、ウィービングユニット33は、高さノブ39の回動操作によって上下方向の位置調整が可能となっており、トーチクランプ37に支持された溶接トーチTのV形開先Waに対する距離の調整が行えるようになっている。
【0033】
また、この溶接台車1は、台車本体2の前後端に配置されて溶接トーチTにより突き合わせ溶接される被溶接材W,W間のV形開先Waに倣って台車本体2を走行させる2組の倣い機構40,40と、台車本体2の前後端に配置されたリミットスイッチ8を備えている。
【0034】
被溶接材W,W間のV形開先Waに倣って台車本体2を走行させる倣い機構40は、台車本体2の溶接トーチTが位置する一方の側面がわに延出するホルダ41と、このホルダ41に支持されて被溶接材W,W間のV形開先Waに挿入される倣いローラ42と、ホルダ41の先端及び倣いローラ42間に介在させた開先センタ検知機43を具備している。
【0035】
この場合、倣いローラ42は、傘状の駒42a,42aを2つ合わせて全体で算盤の珠状を成すようにして形成されており、2つの駒42a,42aの間隔を調整することで、僅かなV形開先Waの段差をも開先センタ検知機43に伝えることができるようになっている。
【0036】
この溶接台車1において、突合せ溶接により被溶接材W,W同士を接合する場合には、、台車本体2に搭載した倣い機構40,40の倣いローラ42,42を被溶接材W,W間のV形開先Waに挿入しつつ台車本体2を一方の被溶接材W上にセットする。
【0037】
この後、水平ノブ38を回動操作することでスライドベース32の台車本体2の走行方向と直交する方向の位置調整を行い、トーチクランプ37に支持された溶接トーチTのV形開先Waに対するセンタ出しを行うと共に、高さノブ39を回動操作することでウィービングユニット33の上下方向の位置調整を行い、トーチクランプ37に支持された溶接トーチTのV形開先Waに対する距離の調整を行う。
【0038】
次いで、この状態でウィービングユニット33のウィービングモータ34を作動させつつ溶接トーチTによる溶接を開始すると、制御部6からの指令によって、左側駆動ユニット10L及び右側駆動ユニット10Rの各減速機付きモータ11から台車本体2の左側に位置する走行車輪4FL,4RL及び台車本体2の右側に位置する走行車輪4FR,4RRに同じ大きさで且つ同じ回転方向の駆動力がそれぞれ供給され、倣い機構40,40の倣いローラ42,42を挿入したV形開先Waに沿って台車本体2が走行を開始する(前進する)。
【0039】
そして、突き合わせ溶接中に台車本体2が所定の溶接終端位置に到達すると(リミットスイッチ8が所定の溶接終端位置を検出すると)、制御部6からの指令によって、左右の駆動ユニット10L,10Rにおける各減速機付きモータ11からの走行車輪4FL,4RL及び走行車輪4FR,4RRに対する駆動力の供給がいずれも遮断されて台車本体2が停止する。
【0040】
この後、制御部6からの指令によって、左側駆動ユニット10L及び右側駆動ユニット10Rの各減速機付きモータ11から台車本体2の左側の走行車輪4FL,4RL及び台車本体2の右側の走行車輪4FR,4RRに対して同じ大きさで且ついずれもそれまでとは逆回転方向の駆動力がそれぞれ供給されて、台車本体2がV形開先Waに沿って逆方向への走行を開始する(後退する)。
【0041】
つまり、この実施形態に係る溶接台車1では、制御部6からの指令による左側駆動ユニット10L及び右側駆動ユニット10Rの各減速機付きモータ11の作動によって、前進後退が自在なので(方向性がないので)、突き合わせ溶接を仕上げるまでに複数回のパスが必要な場合であったとしても、台車本体2を所定の溶接終端位置から溶接始端位置まで運んでセットし直す作業が不要になり、したがって、作業効率が向上することとなる。
【0042】
また、この実施形態に係る溶接台車1において、V形開先Waがカーブしている場合には、左側駆動ユニット10Lの減速機付きモータ11から台車本体2の左側の走行車輪4FL,4RLに対して供給する駆動力の大きさと、右側駆動ユニット10Rの減速機付きモータ11から台車本体2の右側の走行車輪4FR,4RRに対して供給する駆動力の大きさとの間に差を持たせて、左側の走行車輪4FL,4RL及び右側の走行車輪4FR,4RRの各回転数を互いに違えることで操舵を行い得るので、操舵機構を駆動力伝達機構20とともに台車本体2に搭載しなくて済む分だけ、台車本体2の構造が簡単になると共に軽量化が図られることとなる。
【0043】
さらに、この実施形態に係る溶接台車1において、走行路に踏破可能な段差やうねりがある場合には、台車本体2における左右の前輪車軸4f,4f間及び後輪車軸4r,4r間を連結するイコライザ12が、前輪車軸4f,4f間及び後輪車軸4r,4r間の上下方向のずれを吸収するので、溶接台車1の走行に支障を来すことが回避されることとなる。
【0044】
図4及び図5は、本発明の他の実施形態による溶接台車を示しており、この実施形態では、本発明に係る溶接台車が隅肉溶接に用いる溶接台車である場合を例に挙げて説明する。
【0045】
この実施形態に係る溶接台車51は、図4及び図5に示すように、先の実施形態と同様に、台車本体2の走行方向と直交する方向に往復移動するスライダ35Aと、このスライダ35Aに連結されて溶接トーチTを台車本体2の一方の側面がわ(図4左側)で支持するトーチクランプ37Aを具備したウィービングユニット33Aを有しており、溶接トーチTは、その先端Taを被溶接材W,W間の溶接ラインLに向けた状態でトーチクランプ37Aにより斜めに支持される。
【0046】
また、この実施形態に係る溶接台車51において、被溶接材W,W間の溶接ラインLに倣って台車本体2を走行させる倣い機構40Aは、台車本体2の溶接トーチTの進行方向における後方において一方の側面がわに延出するホルダ41Aと、このホルダ41Aに台車本体2の進行方向に並べて支持されて被溶接材W,Wのうちの鉛直方向の被溶接材Wに摺接する水平倣いローラ42A,42Aと、ホルダ41Aの先端及び水平倣いローラ42A,42A間に介在させた間隔検知センサ43Aを具備している。
【0047】
なお、この実施形態に係る溶接台車51の上記ウィービングユニット33A及び倣い機構40A以外の構成は先の実施形態に係る溶接台車1と同じなので、説明は省略する。
【0048】
このような構成を成す溶接台車51では、被溶接材W,W間の入隅における隅肉溶接を行うに際して、台車本体2に搭載した倣い機構40Aの水平倣いローラ42A,42Aを被溶接材W,Wのうちの鉛直方向の被溶接材Wに接触させつつ溶接台車2を水平方向の被溶接材W上にセットする。
【0049】
この後、水平ノブ38を回動操作することでスライドベース32の台車本体2の走行方向と直交する方向の位置調整を行うと共に、高さノブ39を回動操作することでウィービングユニット33Aの上下方向の位置調整を行い、トーチクランプ37Aに支持された溶接トーチTの先端Taの被溶接材W,W間の溶接ラインLに対する距離の調整を行う。
【0050】
次いで、この状態でウィービングユニット33Aのウィービングモータ34を作動させつつ溶接トーチTによる溶接を開始すると、制御部6からの指令によって、左側駆動ユニット10L及び右側駆動ユニット10Rの各減速機付きモータ11から台車本体2の左側に位置する走行車輪4FL,4RL及び台車本体2の右側に位置する走行車輪4FR,4RRに同じ大きさで且つ同じ回転方向の駆動力がそれぞれ供給され、倣い機構40Aの水平倣いローラ42A,42Aを接触させた鉛直方向の被溶接材W(溶接ラインL)に沿って台車本体2が走行を開始する(前進する)。
【0051】
そして、隅肉溶接中に台車本体2が所定の溶接終端位置に到達すると(リミットスイッチ8が所定の溶接終端位置を検出すると)、制御部6からの指令によって、左右の駆動ユニット10L,10Rにおける各減速機付きモータ11からの走行車輪4FL,4RL及び走行車輪4FR,4RRに対する駆動力の供給がいずれも遮断されて台車本体2が停止する。
【0052】
この後、制御部6からの指令によって、左側駆動ユニット10L及び右側駆動ユニット10Rの各減速機付きモータ11から台車本体2の左側の走行車輪4FL,4RL及び台車本体2の右側の走行車輪4FR,4RRに対して同じ大きさで且ついずれもそれまでとは逆回転方向の駆動力がそれぞれ供給されて、台車本体2が溶接ラインLに沿って逆方向への走行を開始する(後退する)。
【0053】
つまり、この実施形態に係る溶接台車51においても、制御部6からの指令による左側駆動ユニット10L及び右側駆動ユニット10Rの各減速機付きモータ11の作動によって、前進後退が自在なので(方向性がないので)、隅肉溶接を仕上げるまでに複数回のパスが必要な場合であったとしても、台車本体2を所定の溶接終端位置から溶接始端位置まで運んでセットし直す作業が不要になり、したがって、作業効率が向上することとなる。
【0054】
また、この実施形態に係る溶接台車51においても、鉛直方向の被溶接材Wが湾曲している(溶接ラインLがカーブしている)場合には、左側駆動ユニット10Lの減速機付きモータ11から台車本体2の左側の走行車輪4FL,4RLに対して供給する駆動力の大きさと、右側駆動ユニット10Rの減速機付きモータ11から台車本体2の右側の走行車輪4FR,4RRに対して供給する駆動力の大きさとの間に差を持たせて、左側の走行車輪4FL,4RL及び右側の走行車輪4FR,4RRの各回転数を互いに違えることで操舵を行い得るので、操舵機構を駆動力伝達機構20とともに台車本体2に搭載しなくて済む分だけ、台車本体2の構造が簡単になると共に軽量化が図られることとなる。
【0055】
上記した実施形態では、いずれの場合も台車本体2に左側の減速機付きモータ11及び右側の減速機付きモータ11を一つずつ搭載したうえで、台車本体2の左側に位置する走行車輪4FL,4RLの双方に対して左側の減速機付きモータ11からの駆動力を伝達する左側の駆動力伝達機構20、及び、台車本体2の右側に位置する走行車輪4FR,4RRの双方に対して右側の減速機付きモータ11からの駆動力を伝達する右側の駆動力伝達機構20を台車本体2に搭載した構成としているが、これに限定されるものではない。
【0056】
他の構成として、例えば、台車本体2の左側に位置する走行車輪4FL,4RLの双方にホイルインモータ(一方側駆動源)を配置すると共に、台車本体2の右側に位置する走行車輪4FR,4RRの双方にホイルインモータ(他方側駆動源)を配置し、制御部6によって、台車本体2の左側に位置する走行車輪4FL,4RLに組み込んだホイルインモータの駆動力の大きさ及び回転方向を制御すると共に、台車本体2の右側に位置する走行車輪4FR,4RRに組み込んだホイルインモータの駆動力の大きさ及び回転方向を制御するようにしてもよい。
【0057】
本発明に係る溶接台車の構成は、上記した実施形態の構成に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0058】
1 溶接台車
2 台車本体
4FL,4RL 溶接台車の左側に位置する走行車輪
4FR,4RR 溶接台車の右側に位置する走行車輪
4f 前輪車軸
4r 後輪車軸
6 制御部
11 減速機付きモータ(一方側駆動源及び他方側駆動源)
12 イコライザ
20 駆動力伝達機構(一方側駆動力伝達機構及び他方側駆動力伝達機構)
T 溶接トーチ
図1
図2
図3
図4
図5