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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-11
(45)【発行日】2023-01-19
(54)【発明の名称】炊飯器、及び、炊飯方法
(51)【国際特許分類】
   A47J 27/00 20060101AFI20230112BHJP
【FI】
A47J27/00 109G
A47J27/00 109F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018154095
(22)【出願日】2018-08-20
(65)【公開番号】P2020028325
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003702
【氏名又は名称】タイガー魔法瓶株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 逸美
(72)【発明者】
【氏名】一宮 悠香
【審査官】吉澤 伸幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-184125(JP,A)
【文献】特開2009-050485(JP,A)
【文献】米国特許第05277326(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被炊飯物を収容する内鍋と、
前記内鍋を加熱する加熱手段と、
前記内鍋内に配置され被炊飯物から発生する余剰のオネバを回収するオネバ回収具と、
前記加熱手段を制御する炊飯シーケンスを実行可能な制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記炊飯シーケンスとして、前記加熱手段により被炊飯物からオネバを生成させる加熱量を沸騰温度まで付与するオネバ生成工程と、前記加熱手段により被炊飯物を、沸騰温度を超える温度まで沸騰させて前記オネバ回収具に余剰のオネバを回収するオネバ回収工程と、を有するオネバ回収コースを実行可能である炊飯器。
【請求項2】
被炊飯物を収容する内鍋と、
前記内鍋を加熱する加熱手段と、
被炊飯物から発生する余剰のオネバを回収するオネバ回収具と、
前記加熱手段を制御する炊飯シーケンスを実行可能な制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記炊飯シーケンスとして、前記加熱手段により被炊飯物からオネバを生成させる加熱量を付与するオネバ生成工程と、
前記加熱手段により被炊飯物を沸騰させて前記オネバ回収具に余剰のオネバを回収するオネバ回収工程と、を有するオネバ回収コースと、
前記オネバ回収コースとは異なる通常炊飯コースを実行可能であり、
前記オネバ回収コースにおける被炊飯物に含まれる米の吸水を促す吸水工程を、前記通常炊飯コースにおける前記吸水工程よりも長い時間実行するように構成されている炊飯器。
【請求項3】
被炊飯物の沸騰を検出可能な沸騰検出手段を備え、
前記制御装置は、前記オネバ回収コースにおいて、前記沸騰検出手段による被炊飯物の沸騰の検出に基づいて、前記オネバ生成工程から前記オネバ回収工程へ切り換えるように構成されている請求項1に記載の炊飯器。
【請求項4】
前記制御装置は、前記オネバ回収コースにおいて、前記沸騰検出手段による被炊飯物の沸騰の検出がなされてから設定時間経過後に前記オネバ生成工程から前記オネバ回収工程へ切り換えるように構成されている請求項3に記載の炊飯器。
【請求項5】
加熱手段により内鍋に収容された被炊飯物からオネバを生成させる加熱量を付与するオネバ生工程と、
前記加熱手段により被炊飯物を沸騰させてオネバ回収具に余剰のオネバを回収するオネバ回収工程と、を有するオネバ回収コースと、
前記オネバ回収コースとは異なる通常炊飯コースの何れかが選択され、
前記オネバ回収コースにおける前記被炊飯物に含まれる米の吸水を促す吸水工程を、前記通常炊飯コースにおける前記吸水工程よりも長い時間実行するように構成する炊飯方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嚥下がし易く食味の良い米飯を炊飯可能な炊飯器、及び、炊飯方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、高齢者や障害を持った人等で嚥下機能が低下してしまった人等にとって、口の中や喉に残留し難く、飲み込み易く、かつ、単位量当たりの栄養価を低下させない食味の良い米飯を提供する目的で、余剰のオネバ(米の澱粉質が水中に溶出した粘り気のある液体)を回収するオネバ回収具を設けた炊飯器が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-153536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
オネバ回収具は、炊飯時に発生する余剰のオネバを除去し、嚥下のし易い米飯を炊飯するのに有用である。しかし、どのようにオネバを除去できるのかについては、炊飯シーケンスによる影響も大きい。
【0005】
上記実情に鑑み、炊飯時に生じるオネバを効果的に除去して嚥下がし易く食味の良いオネバ回収米飯を炊飯できる炊飯器、及び、炊飯方法が要望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る炊飯器は、
被炊飯物を収容する内鍋と、
前記内鍋を加熱する加熱手段と、
前記内鍋内に配置され被炊飯物から発生する余剰のオネバを回収するオネバ回収具と、
前記加熱手段を制御する炊飯シーケンスを実行可能な制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記炊飯シーケンスとして、前記加熱手段により被炊飯物からオネバを生成させる加熱量を沸騰温度まで付与するオネバ生成工程と、前記加熱手段により被炊飯物を、沸騰温度を超える温度まで沸騰させて前記オネバ回収具に余剰のオネバを回収するオネバ回収工程と、を有するオネバ回収コースを実行可能であることを特徴とする。
【0007】
本発明であれば、オネバ回収コースを実行することにより、オネバ生成工程で被炊飯物に含まれる米から十分にオネバを発生させてから、オネバ回収工程でその被炊飯物を沸騰させる勢いでオネバ回収具に余剰オネバが回収される。被炊飯物から余剰のオネバが除かれたオネバ回収米飯は、粘り気の少なくさらっとした仕上がりになるため、非常に嚥下のし易いものとなる。さらに、オネバ回収米飯は、余剰のオネバのみが除去されているので、米の旨味や栄養が残存しており、単位量当たりの栄養価を低下させずに食味の良い米飯となる。
【0008】
よって、本発明に係る炊飯器であれば、炊飯時に生じるオネバを効果的に除去して嚥下がし易く食味の良いオネバ回収米飯を炊飯できるようになる。
【0009】
また、本発明に係る炊飯器は、
被炊飯物を収容する内鍋と、
前記内鍋を加熱する加熱手段と、
被炊飯物から発生する余剰のオネバを回収するオネバ回収具と、
前記加熱手段を制御する炊飯シーケンスを実行可能な制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記炊飯シーケンスとして、前記加熱手段により被炊飯物からオネバを生成させる加熱量を付与するオネバ生成工程と、
前記加熱手段により被炊飯物を沸騰させて前記オネバ回収具に余剰のオネバを回収するオネバ回収工程と、を有するオネバ回収コースと、
記オネバ回収コースとは異なる通常炊飯コースを実行可能であり、
記オネバ回収コースにおける被炊飯物に含まれる米の吸水を促す吸水工程を、前記通常炊飯コースにおける前記吸水工程よりも長い時間実行するように構成されていることを特徴とする
【0010】
本構成によれば、オネバ回収コースにおける吸水時間を十分に長く確保するので、被炊飯物に含まれる米の芯部近くまで吸水を行わせることが可能となり、加熱時における米の糊化を促進させることができる。これにより、米からオネバを浸出させて、十分な量のオネバを生成できると共に、米に含まれる余剰なオネバを好適に除去できるようになる。
【0011】
上記構成において、
被炊飯物の沸騰を検出可能な沸騰検出手段を備え、
前記制御装置は、前記オネバ回収コースにおいて、前記沸騰検出手段による被炊飯物の沸騰の検出に基づいて、前記オネバ生成工程から前記オネバ回収工程へ切り換えるように構成されていると好適である。
【0012】
本構成によれば、被炊飯物が実際に沸騰したことを条件にして、オネバ生成工程からオネバ回収工程へ切り換えるので、オネバ生成工程においてオネバがたくさん生成された状態となってから、オネバ回収工程でオネバ回収具にオネバを回収できる。
【0013】
上記構成において、
前記制御装置は、前記オネバ回収コースにおいて、前記沸騰検出手段による被炊飯物の沸騰の検出がなされてから設定時間経過後に前記オネバ生成工程から前記オネバ回収工程へ切り換えるように構成されていると好適である。
【0014】
本構成によれば、被炊飯物をしばらく沸騰させてから、オネバ生成工程からオネバ回収工程へ切り換えるので、オネバ生成工程においてオネバが十分に浸出した状態となってから、オネバ回収工程でオネバ回収具にオネバを回収できる。
【0015】
また、本発明に係る炊飯方法は、
加熱手段により内鍋に収容された被炊飯物からオネバを生成させる加熱量を付与するオネバ生成工程と、前記加熱手段により被炊飯物を沸騰させてオネバ回収具に余剰のオネバを回収するオネバ回収工程と、を有するオネバ回収コースと、
前記オネバ回収コースとは異なる通常炊飯コースの何れかが選択され、
前記オネバ回収コースにおける前記被炊飯物に含まれる米の吸水を促す吸水工程を、前記通常炊飯コースにおける前記吸水工程よりも長い時間実行するように構成することを特徴とする。
【0016】
本発明に係る炊飯方法であれば、上述の炊飯器と同様に、炊飯時に生じるオネバを効果的に除去して嚥下がし易く食味の良いオネバ回収米飯を炊飯できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】炊飯器の縦断面を模式的に示す図である。
図2】オネバ回収具を示す斜視図である。
図3】炊飯器が実行するオネバ回収コースのシーケンスの一例を示す図である。
図4】オネバ回収コースにおける処理フローの一例を示す図である。
図5】オネバ回収コースにおける経時変化の一例を示す図である。
図6】通常炊飯コースにおける経時変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一例である実施形態を図面を参照しながら説明する。
炊飯器は、被炊飯物を収容する内鍋30、内鍋30が収納される筐体32、内鍋30の上部開口を密閉する内蓋34、内蓋34を支持する外蓋36、内鍋30を加熱する加熱手段38、内鍋30内に配置され、被炊飯物から発生する余剰のオネバを回収する皿状のオネバ回収具10等を備えている。
【0019】
また、炊飯器は、内鍋30内の温度を把握する温度センサとして内鍋30の底に接触する鍋底センサ40と、内蓋34の内側(内鍋30側)に設けられた蓋センサ42(「沸騰検出手段」の一例)と、を少なくとも有している。蓋センサ42は、被炊飯物の蒸気の温度を検出することで、被炊飯物の沸騰を検出可能となっている。また、炊飯器は、鍋底センサ40と蓋センサ42からの信号を受信し、加熱手段38を制御する炊飯シーケンスを実行可能な制御装置50を備えている。
【0020】
炊飯器には、全体の動作を指示したり、現在の状態を表示するための操作パネル(図示せず)が設けられている。操作パネルは、例えば、筐体32や外蓋36に設置される。また、筐体32には、電源コード(図示せず)が、巻き取り可能に備えられている。
【0021】
内鍋30、筐体32、内蓋34、外蓋36、加熱手段38といった各構成要素は、従来の炊飯器と同様の構成を利用できる。内蓋34及び外蓋36は、内鍋30の内部で蒸気が発生し内圧が高くなったら、蒸気を逃がす構造を有している。
【0022】
オネバ回収具10は、内鍋30内に固定するための固定手段11を備えている。説明を加えると、オネバ回収具10には、内鍋30の縁部に掛止可能なフランジ部が固定手段11として設けられている。また、オネバ回収具10には、揺動軸心X周りに揺動可能な取手33が設けられている。
【0023】
オネバ回収具10は、底面12及び側壁14が設けられている。底面12には、内鍋30内で吹き上がったオネバを回収するための筒状のオネバ回収孔20が設けられている。オネバ回収孔20は、例えば、断面扇形状であり、2つ設けられている。また、底面12には、回収し過ぎたオネバを被炊飯物側へ戻す筒状のオネバ戻し孔21が設けられている。オネバ回収孔20には、孔の縁から筒体が延設されている。この筒体は、オネバ回収具10の底面12から上方向に向かって形成されている。
【0024】
オネバ戻し孔21は、例えば、断面円形状であり、2つ設けられている。オネバ戻し孔21の断面積は、オネバ回収孔20の断面積よりも小さい。
【0025】
内鍋30内で、沸騰状態になると、オネバが蒸気と共に、上方に吹き上がり、オネバ回収孔20から上方に吹き上がり、オネバ回収具10の貯留空間16内に貯留される。回収し過ぎたオネバは、オネバ戻し孔21を通じて被炊飯物側へ戻る。
【0026】
〔制御構成について〕
制御装置50には、各種情報を記憶する記憶部、経過時間を計測するタイマ、演算処理を行う演算処理部、加熱手段38を制御する制御部等を備えている。制御装置50は、ハードウェアとソフトウェアとを適宜組み合わせて構築可能である。制御装置50の配置位置等は、任意の箇所に設定してよい。制御装置50は、炊飯シーケンスとして、オネバ回収コースを実行可能であり、通常炊飯コースと選択的に実行可能であれば好ましい。
【0027】
制御装置50は、通常炊飯コースにおいて、おおまかに、吸水工程、第1昇温工程、第2昇温工程、炊き上げ工程、蒸らし工程、を実行するようになっている。
【0028】
制御装置50は、オネバ回収コースにおいて、おおまかに、吸水工程、オネバ生成工程、オネバ回収工程、蒸らし工程、を実行するようになっている。説明を加えると、オネバ回収コースにおける炊飯方法は、少なくとも、加熱手段38により内鍋30に収容された被炊飯物からオネバを生成させる加熱量を付与するオネバ生成工程と、加熱手段38により被炊飯物を沸騰させてオネバ回収具10に余剰のオネバを回収するオネバ回収工程と、を有している。
【0029】
オネバ生成工程では、加熱手段38により被炊飯物からオネバを生成させる加熱量を付与するようになっている。また、オネバ回収工程では、加熱手段38により被炊飯物を沸騰させてオネバ回収具10に余剰のオネバを回収するようになっている。
【0030】
制御装置50は、オネバ回収コースにおける被炊飯物に含まれる米の吸水を促す吸水工程を、通常炊飯コースにおける吸水工程よりも長い時間実行するように構成されている。
【0031】
制御装置50は、オネバ回収コースにおいて、蓋センサ42による被炊飯物の沸騰の検出に基づいて、オネバ生成工程からオネバ回収工程へ切り換えるように構成されている。
【0032】
説明を加えると、制御装置50は、オネバ回収コースにおいて、蓋センサ42による被炊飯物の沸騰の検出がなされてから設定時間経過後にオネバ生成工程からオネバ回収工程へ切り換えるように構成されている。
【0033】
図3は、オネバ回収コースに関するものである。また、図4は、制御装置50のフローを示す。図3は、横軸として同じ時間軸をとった2つのグラフを合わせて示している。図3における上側のグラフは、縦軸が温度であり、鍋底センサ40の出力と蓋センサ42の出力の変化を示している。また、図3における下側のグラフは、縦軸が加熱手段38に投入する電力(加熱量)の制御目標値の割合を示している(1.0が最大)。尚、各工程では、電力(加熱量)は、一定値が継続するようにしてもよいし、断続的に付与することで平均値が制御目標値となるようにしてもよい。
【0034】
まず、内鍋30には所定量の白米と、重量比で白米の1.8倍~2倍の水と、が投入される。白米は事前に洗米されていてもよい。オネバ回収コースでは、通常炊飯コースより多い水が投入される。通常炊飯コースでは、重量比で白米の1.5倍程度の水が投入される。加えて、オネバ回収コースでは、軟飯やおかゆを炊飯する場合よりは水の量が少ない。軟飯やおかゆでは、重量比で白米の2~5倍程度の水が投入される。
【0035】
オネバ回収コースが開始されると(ステップS100)、所定の温度プロファイルでの吸水工程が行われる(ステップS102)。吸水工程では、例えば、鍋底センサ40による出力が約35℃になるように温調がなされる。吸水工程は、開始からの経過時間t1が予め設定された吸水設定時間Abtに達すると終了し、次の工程に移行する。
【0036】
尚、オネバ回収コースでは、通常炊飯コースの吸水工程よりも長い吸水時間を有する吸水工程が実行される。吸水時間を長く確保することで、白米の芯部近くまで吸水がなされて、加熱時に米の糊化が促進され易くなり、結果として、オネバの生成量や濃度を増加させることができる。より具体的には、オネバ回収コースの吸水工程では、30分以上、好ましくは40分以上の吸水時間が設けられることが好ましい。
【0037】
また、オネバ回収コースの吸水工程は、時間制御の工程であり、内鍋30の温度が略一定に保たれるように、加熱手段38が制御されるとよい。投入される電力は、0.1~0.3程度の割合であればよい。
【0038】
吸水設定時間Abtが経過したら(ステップS104のY分岐)、加熱手段38の出力を上げ、内鍋30をさらに加熱し、内鍋30内を昇温させる。これを、オネバ生成工程と呼ぶ(ステップS106)。オネバ生成工程では、内鍋30内の温度が時間と共に上昇するように制御される。すなわち、一定時間の間、内鍋30内の温度を一定に保持したり、途中で温度を下げたりしない。
【0039】
内鍋30内の温度が時間と共に上昇するのであれば、昇温レートは変化してもよい。また、略一定のレートで内鍋30の温度を上昇させるために、温度制御を行い、そのために生じる微小な温度の上下はあってもよい。特に、鍋底センサ40の温度でPID制御もしくはそれに類似した制御を行う場合は、米飯の温度は略一定のレートで昇温しても、鍋底センサ40の値は下降部分を設けながら上昇する場合がある。尚、オネバ生成工程で、内鍋30の昇温レートを略一定にする時間を約5分設けることで、被炊飯物の糊化が促進される。
【0040】
オネバ生成工程は、蓋センサ42の出力Stが沸騰温度Tp2になっていなければ、加熱を継続し(ステップS108のN分岐)、沸騰温度Tp2になったら(ステップS108のY分岐)、沸騰温度Tp2になってから経過時間t2が設定時間Actに達したか否かが判定される(ステップS109)。経過時間t2が設定時間Actを超えるまでは、加熱手段38による加熱が継続される(ステップS109のN分岐)。経過時間t2が設定時間Actに達すると、次の工程に移行する(ステップS109のY分岐)。すなわち、オネバ生成工程は、少なくとも、内鍋30内が適切に沸騰していると判断されるまで継続される(ステップS108、ステップS109)。
【0041】
説明を加えると、オネバ生成工程では、沸騰温度Tp2まで内鍋30内を昇温させる。加熱手段38には、例えば、約0.7~1.0の電力(加熱量)を投入する。
【0042】
通常炊飯コースであれば、内鍋30内が沸騰したら、電力を弱めて、沸騰状態を維持する。しかし、オネバ回収コースでは、内鍋30内が沸騰してからさらに加熱を継続し、この工程をオネバ回収工程と称する(ステップS110)。オネバ回収工程における加熱は、内鍋30内の沸騰状態を維持するエネルギーとしてだけでなく、オネバをオネバ回収具10に噴き上げさせる仕事のエネルギーとしても用いられる。このため、オネバ回収工程では、オネバ生成工程と同程度または同程度以上の電力(加熱量)が加熱手段38に継続して投入される。図3に示す例では、オネバ回収コースにおいて、全工程中でオネバ回収工程の加熱量を最も大きくしている。
【0043】
オネバ回収工程(ステップS110)は、鍋底センサ40の出力Sbが沸騰温度Tp2を超えて炊き上げ温度Tp3に達するまで継続される。内鍋30内の水分が略蒸発すると、内鍋30の温度が沸騰温度Tp2を超えて上昇するため、鍋底センサ40によって検出される温度も上昇する。鍋底センサ40の出力Sbが炊き上げ温度Tp3に達すると(ステップS112のY分岐)、次の工程に移行する。
【0044】
説明を加えると、ステップS112では、鍋底センサ40の出力Sbが炊き上げ温度Tp3になっていなければ(ステップS112のN分岐)、オネバ回収工程(ステップS110)を継続し、炊き上げ温度Tp3に達していれば(ステップS112のY分岐)、オネバ回収工程を終了する。
【0045】
オネバ回収工程が終了すると、続いて、蒸らし工程を行う(ステップS114)。蒸らし工程は時間で制御する。蒸らし工程が開始されてからの経過時間t3が蒸らし設定時間Sttを経過していなければ(ステップS116のN分岐)、蒸らし工程を継続し、経過したら(ステップS116のY分岐)、蒸らし工程を終了し、オネバ回収コースの終了となる(ステップS118)。
【0046】
尚、蒸らし工程の初期において、一定時間の間、内鍋30内の温度を維持するための電力(加熱量)が投入されてもよい。蒸らし工程における温度は、鍋底センサ40の出力Sbで設定温度Tp4に制御するとよい。また、蒸らし工程では、温度調整の範囲は、ある程度の幅が許容される。
【実施例
【0047】
次に、上記実施形態の具体例である実施例を示す。炊飯器は10合炊きのものを用いた。オネバ回収具10は、断面扇型(断面積が約7平方cm)のオネバ回収孔20を2つ備え、貯留空間16が約200mlのものを使用した。加熱手段38は、IH方式であり、IHコイルに投入可能な最大電力は約1200Wである。また、この炊飯器は、オネバ回収コースの炊飯シーケンス以外に、通常炊飯コースの炊飯シーケンスも有している。
【0048】
まず、6合の白米(約900g)に約1620gの水を加えて内鍋30に投入した。つまり、白米に対して重量比で約1.8倍相当の水を入れた。オネバ回収具10を内鍋30内に収納し、外蓋36を閉じてから、オネバ回収コースの炊飯シーケンスをスタートさせた。
【0049】
図5には、実施したオネバ回収コースの炊飯シーケンスと温度プロファイルを示す。吸水工程において、吸水設定時間は、約30分とした。吸水工程の内鍋30の吸水温度(鍋底センサ40で検出される温度)は、約35℃とした。
【0050】
吸水工程を終了すると、オネバ生成工程に移行する。ここでは、時間と共に内鍋30の温度を上昇させた。オネバ生成工程は、2つの区間で構成した。第1昇温工程の区間は、約8分間であった。この間のIHコイルの投入される電力を約890W(投入される電力:0.74)とした。最初の3分間で内鍋30の温度が60℃になるまで上昇させた。内鍋30の温度が60℃から80℃の間で昇温レートが一定になる区間を作った。第2昇温工程の区間は略フルパワーの約1200W(投入される電力が約1.0)の電力を投入し、沸騰まで約6分間であった。したがって、オネバ生成工程では、平均約0.85の割合で電力(加熱量)の投入を行った。
【0051】
オネバ回収工程では、約1200Wの電力をそのまま維持した。鍋底センサ40の温度が約120℃になるまでに、約5分かかった。したがって、オネバ回収工程では、平均1.0の割合で電力(加熱量)の投入を行った。
【0052】
次に比較例として、白米と水を実施例の場合と同じとし、通常炊飯コースで炊飯を行った。比較例においても、オネバ回収具10を装着した状態で炊飯を行った。図6には、通常炊飯コースのシーケンスと温度プロファイルを示す。吸水工程は、鍋底センサ40の出力を用いて約45℃になるように設定し、約20分間行った。第1昇温工程は、投入される電力(加熱量)を約1150Wとし、鍋底センサ40の出力が約90℃になるまで加熱した。これには約7分かかった。
【0053】
次に、第2昇温工程として、沸騰するまで(鍋底センサ40の出力が約95℃になるまで)に約1000Wの電力を投入した。沸騰するまでは約3分かかった。沸騰後の炊き上げ工程には、約950Wの電力を投入し、沸騰を維持した。鍋底センサ40が約120℃になるまで約7分かかった。
【0054】
オネバ回収コースでは、オネバ生成工程(第1昇温工程と第2昇温工程)において、平均約0.85の割合で電力(加熱量)の投入を行ったが、通常炊飯コースでは、第1昇温工程と第2昇温工程において、平均約0.89の割合で電力(加熱量)の投入を行った。
【0055】
その後、鍋底センサ40の出力が約100℃~約110℃となるように、電力(加熱量)を投入しながら蒸らしを行い(第1工程)、その後、IHコイルの電源をオフにした(第2工程)。第1工程と第2工程とを含む蒸らし工程は、全体として約12分行った。以上のようにして、通常炊飯コースで炊飯を行った。
【0056】
下記の表1に、上記の実施例のオネバ回収コースと上記比較例の通常炊飯コースとの対比を示す。表1では、各コースにおいて、オネバ回収具10に回収されたオネバの体積、重さ、比重、濃度の結果をまとめている。これらの各値は、10回試験を行ってその平均を求めた値である。尚、濃度は、株式会社アタゴ社製のポケット糖度計PAL-1を用いて測定したBrix値により求めた。糖度計は、計測対象の屈折率に基づいて計測対象の糖度(濃度)を求めるものである。Brix値が大きいほど、濃度が高い。
【0057】
【表1】
【0058】
表1を参照して、オネバ回収具10に回収されたオネバの量は通常炊飯コースでは、97mlであったのに対して、オネバ回収コースでは115mlと多かった。また、回収されたオネバの重さも、通常炊飯コースの場合は、76gであったのに対して、オネバ回収コースでは、93.2gであった。したがって、比重はそれぞれ0.78g/mlと0.81g/mlであり、オネバ回収コースの方が比重の重いオネバを回収していた。
【0059】
また、回収されたオネバの濃度を示すBrix値は、通常炊飯コースの場合は、0.65であったのに対してオネバ回収コースでは、1.31であり、オネバ回収コースの方が、濃度の高いオネバが回収され、オネバの回収効率が顕著に優れていた。
【0060】
以上のことから、オネバ回収コースで炊飯すると、濃度が高く比重の重いオネバが被炊飯物から適切に除去され、その結果、べたつきが少なく、嚥下のし易いさらっとしたオネバ回収米飯を得ることができる。また、オネバ回収具10において、オネバの回収量が制限されているので、通常炊飯コースで炊飯された通常米飯に比べて、単位量当たりの栄養価を極端に低下させないものとなる。
【0061】
上記実施形態は、例えば、下記のように、各種の変更を施してもよい。各変更は、矛盾が生じない限り、適宜組み合わせることができる。
【0062】
(1)上記実施形態では、炊飯シーケンスとして、オネバ回収コースと通常炊飯コースとを備えるものを例示しているが、これに限られない。例えば、炊飯シーケンスとして、オネバ回収コースと通常炊飯コース以外の別のコースが備えられていてもよい。また、例えば、炊飯シーケンスとして、オネバ回収コースのみが備えられていてもよい。
【0063】
(2)上記実施形態では、「沸騰検出手段」として蓋センサ42を例示しているが、これに限られない。例えば、蓋センサ42に代えて、鍋底センサ40による検出温度の上昇率の低下により被炊飯物の沸騰を検出する他の「沸騰検出手段」を備えるようにしてもよい。
【0064】
(3)上記実施形態では、オネバ回収コースにおいて、全工程中でオネバ回収工程の加熱量を最も大きくしているものを例示しているが、これに限られない。例えば、被炊飯物の合数が少ない場合(例えば、1合や2合等の場合)には、比較的少ない加熱量で被炊飯物の沸騰を維持可能なので、オネバ回収工程の加熱量をオネバ生成工程と同等または同等よりも若干小さい加熱量にしてもよい。
【0065】
(4)上記実施形態では、オネバ生成工程を被炊飯物の沸騰が検出されてから設定時間経過後に終了するようにしているが、これに限られない。例えば、オネバ生成工程を被炊飯物の沸騰を検出するとすぐに終了させるようにしてもよい。
【0066】
(5)上記実施形態では、オネバ回収具10は、2つのオネバ回収孔20等を備える皿状のものを例示しているが、オネバ回収具10の形状は種々の変更が可能である。オネバ回収具10はオネバ回収孔20とオネバを貯留しておける貯留空間16を有していればよい。例えば、中央部に1つのオネバ噴出孔を備える他の形状であってもよい。
【0067】
(6)上記実施形態では、電気式の炊飯器を例示しているが、これ以外にも、ガス式の炊飯器等の他の炊飯器であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る炊飯器、及び、炊飯方法は、例えば、嚥下機能が低下した高齢者や障害を持った人等に提供する米飯の炊飯に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0069】
10 :オネバ回収具
30 :内鍋
38 :加熱手段
42 :蓋センサ(沸騰検出手段)
50 :制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6