(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-11
(45)【発行日】2023-01-19
(54)【発明の名称】経口投与される育毛用または発毛用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/716 20060101AFI20230112BHJP
A61K 36/062 20060101ALI20230112BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20230112BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230112BHJP
A23L 33/125 20160101ALI20230112BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
A61K31/716
A61K36/062
A61P17/14
A61P37/02
A23L33/125
A23L2/00 F
A23L2/52
(21)【出願番号】P 2020539497
(86)(22)【出願日】2019-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2019033520
(87)【国際公開番号】W WO2020045430
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-11-26
(31)【優先権主張番号】P 2018158397
(32)【優先日】2018-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592068200
【氏名又は名称】学校法人東京薬科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】506264650
【氏名又は名称】富士器業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513300554
【氏名又は名称】株式会社 グリーンケミー
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】水野 晃治
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-214273(JP,A)
【文献】特開2009-035732(JP,A)
【文献】特開2004-321177(JP,A)
【文献】特開2007-008885(JP,A)
【文献】特開2006-137719(JP,A)
【文献】特開2006-104439(JP,A)
【文献】特開2006-094828(JP,A)
【文献】久保勇貴他,Aureobasidium pullulans由来βグルカンの経口投与による発毛促進作用,日本皮膚科学会雑誌,2019年05月15日,第129巻,第5号,p.1172, ISSN 0021-499X,O8-4(P1-9)全文
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 31/00-31/80
A61K 33/00-33/44
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
A23L 33/00-33/29
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-グルカンを有効成分として含み、経口投与される育毛用または発毛用組成物であって、
前記組成物の粘度が0.09Pa・s以上0.15Pa・s以下であり、
前記β-グルカンとして、アウレオバシジウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)
ATCC No.20524株の培養液を用いる、組成物。
【請求項2】
β-グルカンを有効成分として含み、経口投与される脱毛予防用組成物であって、
前記組成物の粘度が0.09Pa・s以上0.15Pa・s以下であり、
前記β-グルカンとして、アウレオバシジウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)
ATCC No.20524株の培養液を用いる、組成物。
【請求項3】
β-グルカンを有効成分として含み、経口投与される毛球形成促進用組成物であって、
前記組成物の粘度が0.09Pa・s以上0.15Pa・s以下であり、
前記β-グルカンとして、アウレオバシジウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)
ATCC No.20524株の培養液を用いる、組成物。
【請求項4】
前記組成物の粘度が0.09Pa・s以上0.10Pa・s以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記培養液が780~815μg/mLのβ-グルカンを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
免疫機能を調節する作用を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物を含み、経口投与され、育毛用もしくは発毛用、脱毛予防用または毛球形成促進用である、薬剤。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物を含み、経口摂取され、育毛用もしくは発毛用、脱毛予防用または毛球形成促進用である、飲食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β-グルカンを有効成分として含む、経口投与される育毛用または発毛用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪(頭部)は、外的刺激からの頭部保護、寒冷時の保温や太陽光由来の紫外線および熱に対する防御因子として重要な役割を担っている。また、生理的老化、遺伝的素因や種々の環境要因に起因したストレスに関連して生じる脱毛症は、生体バリア機能の低下のみならず心理的ストレスをも惹起する。したがって、男女を問わず毛髪への関心は高く、発毛・育毛促進作用や脱毛予防効果が期待される医薬品、医薬部外品、化粧品や食品が市販されている。
【0003】
発毛・育毛剤は、一般的に外用剤として用いられているが、経口剤として処方されるものも存在している。例えば、特表平9-505034号公報には、5α-レダクターゼ2阻害剤を経口投与することで、髪の成長を促進できることが記載されている。
【発明の概要】
【0004】
毛髪再生には、長期的な使用が必須であり、安心安全に長期にわたり使用できる発毛・育毛剤が求められている。
【0005】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、β-グルカンを有効成分として含み、経口投与される育毛用または発毛用組成物を提供することを目的とする。
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、所定の粘度を有するβ-グルカン含有組成物によって、上記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施例において経口投与したβ-グルカン溶液による発毛促進効果を示す。
【
図2】
図2は、マウス背部皮膚における発毛面積の評価方法を示す。
【
図3】
図3は、実施例において経口投与したβ-グルカン溶液による発毛促進効果の半定量的解析の結果を示す。
【
図4】
図4は、実施例において経口投与したβ-グルカン溶液による毛髪形成の形態観察の結果を示す。
【
図5】
図5は、β-グルカン溶液を経口投与したマウスにおける腸管リンパ節由来の免疫細胞数の変動割合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一形態に係る実施の形態を説明する。本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0009】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)、相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0010】
<組成物>
本発明の一形態は、β-グルカンを有効成分として含み、経口投与される育毛用または発毛用組成物であって、前記組成物の粘度が0.04Pa・s以上である、組成物に関する。
【0011】
本発明の他の形態は、β-グルカンを有効成分として含み、経口投与される脱毛予防用組成物であって、前記組成物の粘度が0.04Pa・s以上である、組成物に関する。
【0012】
本発明のさらに他の形態は、β-グルカンを有効成分として含み、経口投与される毛球形成促進用組成物であって、前記組成物の粘度が0.04Pa・s以上である、組成物に関する。
【0013】
本発明によれば、β-グルカンを有効成分として含み、経口投与される育毛用もしくは発毛用組成物、脱毛予防用組成物または毛球形成促進用組成物を提供することができる。
【0014】
本明細書において、上記「経口投与される育毛用または発毛用組成物」、「経口投与される脱毛予防用組成物」および「経口投与される毛球形成促進用組成物」をまとめて、単に「本発明に係るβ-グルカン含有組成物」とも称する。
【0015】
本発明者らは、皮膚機能に対するβ-グルカンの新たな生物活性を検討したところ、毛母細胞の司令塔の役割を担う毛乳頭細胞に対してβ-グルカンが細胞増殖促進作用を示すことを発見した。また、所定の粘度を有するβ-グルカン溶液を経口投与することにより、発毛促進効果および毛質(毛の太さ)改善効果が発現することが判明した。β-グルカンは、食品添加剤として一般的に利用されており、従来の経口投与される発毛・育毛剤と比べて、より安心かつ安全に長期にわたり経口投与にて使用できると考えられる。実施例に示すように、本発明に係るβ-グルカン含有組成物を経口投与することにより、毛髪および毛球形成を促進することができる(
図1および
図4)。加えて、毛球形成促進は、毛周期における休止期への移行を抑制または遅延させることができるため、脱毛を予防できると考えられる。
【0016】
さらに、0.04Pa・s以上の粘度を有する本発明に係るβ-グルカン含有組成物中のβ-グルカンが腸管免疫系に働き、免疫担当細胞の発現分布を変化させることが判明した。具体的には、腸間膜リンパ節において、B細胞の割合が増加する一方、T細胞の割合が減少することが判明した(
図5)。すなわち、本発明の一実施形態によると、本発明に係るβ-グルカン含有組成物は、免疫機能を調節する作用を有する。
【0017】
本発明に係るβ-グルカン含有組成物は、β-グルカンを有効成分として含み、前記組成物の粘度は、0.04Pa・s以上である。
【0018】
本明細書において「有効成分として含む」とは、育毛用もしくは発毛用、脱毛予防用または毛球形成促進用として有効である程度に含むことを意味し、その他の成分を含むことを妨げるものではない。
【0019】
β-グルカンは、β-グリコシド結合で連なったD-グルコースを構成糖とする多糖類であり、多様な生物活性を有することが知られている。β-グルカンは、植物、菌類、細菌などに幅広く存在する。β-グルカンとしては、β-1,3-グルカン、β-1,4-グルカン、β-1,3-1,4-グルカン、β-1,3-1,6-グルカンなどが知られている。本発明で使用されるβ-グルカンとしては、特に制限されないが、水溶性の観点から、β-1,3-1,4-グルカンまたはβ-1,3-1,6-グルカンが好ましい。中でも、本発明の効果を発揮するとの観点から、β-グルカンは、少なくともβ-1,3-1,6-グルカンを含むことが好ましい。
【0020】
本発明に係るβ-グルカン含有組成物に使用される溶媒は、経口投与に適したものであれば、特に制限されない。前記溶媒は、好ましくは水である。水としては、純水、蒸留水、脱イオン水、RO水などを適宜使用することができる。
【0021】
本発明に係るβ-グルカン含有組成物の粘度は、0.04Pa・s以上である。本発明に係るβ-グルカン含有組成物の粘度が0.04Pa・s未満であると、育毛効果、発毛効果、脱毛予防効果および毛球形成促進効果が発揮されない。本発明に係るβ-グルカン含有組成物の粘度は、育毛または発毛効果、脱毛予防効果および毛球形成促進効果の少なくとも1つをより発揮するとの観点から、好ましくは0.09Pa・s以上である。本発明に係るβ-グルカン含有組成物の粘度の上限は、特に制限されないが、例えば0.15Pa・s以下であり、好ましくは0.10Pa・s以下である。言い換えると、このような範囲の粘度を付与できるβ-グルカンを用いることにより、本発明に係るβ-グルカン含有組成物は、育毛効果、発毛効果、脱毛予防効果および毛球形成促進効果の少なくとも一つを発揮することができる。
【0022】
本明細書中、本発明に係るβ-グルカン含有組成物の粘度は、β-グルカンのみを水に溶解させた溶液を用いて測定した値の算術平均値である。ただし、β-グルカンとして後述の真菌の培養液を用いる場合、本発明に係るβ-グルカン含有組成物の粘度は、得られた培養液をガラスフィルター(柴田科学株式会社製)により真空ろ過することで得られたろ過培養液を用いて測定した値の算術平均値である。具体的には、設定温度(25℃±1)においてsTVC-10型粘度計(東機産業株式会社製)を用いて、少なくとも3回測定した値の算術平均値を採用する。
【0023】
本発明に係るβ-グルカン含有組成物の粘度は、使用するβ-グルカンの鎖長、高次構造などにより調整することができる。例えば、本発明に係るβ-グルカン含有組成物の粘度は、使用するβ-グルカンの鎖長を大きくすることにより、粘性を高めることができる。また、β-グルカンとして後述の真菌の培養液を使用する場合、培養時間を長くしてβ-グルカンの重合化や高次構造を変化させることで、粘性を高めることができる。
【0024】
本発明に係るβ-グルカン含有組成物中のβ-グルカンの含量は、組成物の粘度を0.04Pa・s以上にできる量であれば、特に制限されない。
【0025】
本発明に係るβ-グルカン含有組成物の投与量は、対象の年齢、体重、性別、症状などに応じて異なるが、1回の投与において1kg体重あたり、β-グルカン換算で0.1μg~1000mg、好ましくは5μg~50mg、より好ましくは50μg~10mg、さらに好ましくは50μg~1.5mgである。1日あたりの投与回数も特に制限されず、例えば1日あたり1~3回投与することができる。また、投与頻度も対象の年齢、体重、性別、症状などに応じて適宜決定することができる。
【0026】
本発明に係るβ-グルカン含有組成物の投与対象は、ヒトまたは非ヒト動物のいずれであってもよく、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、モルモット、ウシ、ブタ、イヌ、ウマ、ネコ、ヤギ、ヒツジを含む哺乳動物、鳥類であるが、好ましくはヒトである。
【0027】
本発明に係るβ-グルカン含有組成物の製造方法は、特に制限されない。製造方法としては、β-グルカンを溶媒と混合する方法、後述のアウレオバシジウム(Aureobasidium)属に属する真菌を培養して培養液を得る方法などが挙げられる。
【0028】
好ましい実施形態では、β-グルカンとして、アウレオバシジウム(Aureobasidium)属に属する真菌の培養液を用いる(本明細書中、「アウレオバシジウム(Aureobasidium)属に属する真菌の培養液」を単に「真菌の培養液」とも称する)。アウレオバシジウム(Aureobasidium)属に属する真菌は、β-グルカン生産能を有する微生物であれば、特に制限されない。アウレオバシジウム(Aureobasidium)属に属する真菌は、好ましくはアウレオバシジウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)に属する真菌(例えば、FERM BP-1306株(ATCC No.20524株))である。アウレオバシジウム(Aureobasidium)属に属する真菌は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)、米国菌培養収集所(ATCC)、ドイツ微生物細胞培養コレクション(DSMZ)などから入手することができる。
【0029】
真菌の培養液は、アウレオバシジウム(Aureobasidium)属に属する真菌を、液体培地中で培養することにより得ることができる。
【0030】
液体培地としては、アウレオバシジウム(Aureobasidium)属に属する真菌を培養することができ、その培養液中にβ-グルカンを生産できるものであれば、特に制限されない。液体培地は、通常、炭素源、窒素源、無機物および溶媒を含む。
【0031】
炭素源としては、グルコース、フルクトースなどの単糖類、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロースなどの二糖類などが挙げられる。炭素源は、1種または2種以上を選択して使用できる。好ましい実施形態では、炭素源は、スクロースを含む。
【0032】
窒素源としては、米ぬか、麦芽エキス、大豆粉、酵母エキスなどが挙げられる。窒素源は、1種または2種以上を選択して使用できる。好ましい実施形態では、窒素源は、米ぬかを含む。
【0033】
無機物としては、マグネシウム、マンガン、カルシウム、ナトリウム、カリウム、銅、鉄および亜鉛などの、リン酸塩、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、塩化物等のハロゲン化物などが挙げられる。上記無機物は、1種または2種以上を選択して使用できる。
【0034】
溶媒としては、通常、水が用いられる。水は、純水、蒸留水、脱イオン水、RO水などが挙げられるが、特に制限はない。
【0035】
液体培地は、必要に応じて、他の成分をさらに含んでもよい。他の成分としては、例えばビタミン類(アスコルビン酸およびその塩、トコフェロールなど)、植物エキス(リンゴエキスなど)が挙げられる。
【0036】
液体培地のpHは、好ましくは5.5~6.5である。液体培地のpHは、pHメーターを用いて、23℃で測定した値を採用する。
【0037】
アウレオバシジウム(Aureobasidium)属に属する真菌の培養は、通常の方法によって行うことができる。
【0038】
培養条件は、上記アウレオバシジウム(Aureobasidium)属に属する真菌が増殖できる条件であれば特に制限されず、培養する菌株に応じて適宜選択されうる。また、液体培地に添加する菌体量についても、特に制限されず、適宜調整することができる。液体培地に添加する菌体は、前培養したものでもよい。
【0039】
培養は、通常20~25℃、好気的条件下で行われる。また、培養は、振とうあるいは通気撹拌などによって行われる。
【0040】
培養時間は、培養液をガラスフィルター(柴田科学株式会社製)により真空ろ過して得られるろ過培養液の粘度が0.04Pa・s以上になるように、適宜調整できる。培養時間を長くすることにより、ろ過培養液の粘度を上げることができる。培養時間は、好ましくは約72時間(3日)以上であり、より好ましくは約144時間(6日)以上である。
【0041】
真菌の培養液中のβ-グルカンの含量は、培養液をガラスフィルター(柴田科学株式会社製)により真空ろ過して得られるろ過培養液の粘度が0.04Pa・s以上であれば、特に制限されない。真菌の培養液中のβ-グルカンの含量は、例えば72時間培養すると、約70~80μg/mLであり、144時間培養すると、約780~815μg/mLである。よって、好ましい実施形態では、本発明に係る真菌の培養液は、70μg/mL以上のβ-グルカンを含む。真菌の培養液中のβ-グルカンの含量は、エタノール沈殿法を用いて真菌の培養液からβ-グルカンを沈殿分離することにより求めることができる。
【0042】
本発明に係るβ-グルカン含有組成物は、上記培養で得られた培養液自体を含んでもよく、培養液からろ過や遠心分離などにより菌体を除去した溶液を含んでもよい。また、必要に応じて、前記培養液や前記溶液を殺菌処理してもよい。殺菌処理としては、加熱殺菌、加圧加熱殺菌など公知の方法を用いることができる。
【0043】
すなわち、本明細書において、真菌の培養液は、上記培養で得られた培養液および培養液からろ過や遠心分離などにより菌体を除去した溶液だけではなく、これらの培養液および溶液を殺菌処理したものを含む。
【0044】
また、真菌の培養液をエタノール沈殿処理などの方法により分離させて、β-グルカンを得ることができる。得られたβ-グルカンを溶媒に溶解させて、本発明に係るβ-グルカン含有組成物としてもよい。
【0045】
より好ましい実施形態では、本発明に係るβ-グルカン含有組成物は、所望の粘度を容易に得られるとの観点から、真菌の培養液からなる。
【0046】
<薬剤>
本発明の一実施形態では、上記本発明に係るβ-グルカン含有組成物を含む薬剤が提供される。薬剤は、育毛または発毛、脱毛予防および毛球形成促進から選択される少なくとも一つの用途に使用することができる。
【0047】
薬剤は、経口投与されるため、上記本発明に係るβ-グルカン含有組成物そのものを薬剤としてもよく、本発明に係るβ-グルカン含有組成物を薬学的に許容される他の成分とともに製剤化してもよい。薬学的に許容される他の成分としては、例えば賦形剤が挙げられる。賦形剤としては、特に限定されないが、例えば、乳糖、ショ糖、ブドウ糖、セルロース、マンニトールのような糖類や糖アルコール;コムギデンプン、バレイショデンプン、コーンスターチなどのデンプン;シクロデキストリンなどのデキストリン;カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース誘導体;ポリビニルピロリドンなどの合成高分子化合物などが例示できる。さらに、オリーブ油、大豆油、綿実油、カカオ脂、スクワラン、セラック、セタノール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン等の親油性成分を、製剤化のための添加剤として添加してもよい。
【0048】
また、他の成分としては、担体、希釈剤、増量剤、乳化剤、増粘剤、崩壊剤、溶解補助剤、安定化剤、保存剤、緩衝剤、滑沢剤、結着剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、等張化剤、酸化防止剤、防腐剤、界面活性剤、着色剤、香料、甘味料などがさらに例示できる。
【0049】
剤形は、経口投与に適した形態であれば特に制限されず、例えば錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、溶液剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁液剤、乳剤、シロップ剤などが例示できる。
【0050】
薬剤中のβ-グルカンの含量は、例えば、0.01~90重量%であり、好ましくは1~10重量%である。
【0051】
薬剤の最適な投与量は、対象の年齢、体重、性別、症状などに応じて異なるが、例えば、1回の投与において1kg体重あたり、β-グルカン換算で0.1μg~1000mg、好ましくは5μg~50mg、より好ましくは50μg~10mg、さらに好ましくは50μg~1.5mgである。薬剤は、例えば1日あたり1回~3回投与することができる。また、投与頻度も対象の年齢、体重、性別、症状などに応じて適宜決定することができる。固体状、半固体状、液状、懸濁液状、ゲル状、糊状、粉末状、顆粒状等、公知の形態の食品に本発明に係るβ-グルカン含有組成物を配合して投与してもよい。
【0052】
薬剤が投与される対象は、ヒトまたは非ヒト動物のいずれであってもよく、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、モルモット、ウシ、ブタ、イヌ、ウマ、ネコ、ヤギ、ヒツジを含む哺乳動物、鳥類であるが、好ましくはヒトである。
【0053】
<飲食品組成物>
本発明の一実施形態では、上記本発明に係るβ-グルカン含有組成物を含む飲食品組成物が提供される。
【0054】
飲食品組成物の形態は、特に制限されず、液状、ゲル状あるいは固形状の食品(例えばジュース、清涼飲料、茶、スープ、豆乳、サラダ油、ドレッシング、ヨーグルト、ゼリー、プリン、ふりかけ、育児用粉乳、ケーキミックス、粉末状または液状の乳製品、パン、クッキー等)に添加したり、必要に応じてデキストリン、乳糖、澱粉等の賦形剤や香料、色素等とともにペレット、錠剤、顆粒等に加工したりしてもよい。また、本発明に係るβ-グルカン含有組成物をゼラチン等で被覆してカプセルに成形加工して健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品などとして利用できる。本実施形態の飲食品組成物に含まれるβ-グルカンの配合量は、当該食品や組成物の種類や状態等により一律に規定しがたいが、食品の全重量に対して、0.01~90重量%、より好ましくは0.1~80重量%である。このような配合量であれば、風味を損なうことなく、β-グルカンによる効能を十分発揮できる。また、食品を容易に調製できる。
【0055】
ここで、「飲食品組成物」とは、人間等の哺乳動物(ペットを含む)による摂取を意図した組成物を意味する。飲食品組成物は、当技術分野において広く知られている。
【0056】
本発明の好ましい実施形態において、飲食品組成物は、健康食品、機能性食品、特定保健用食品または栄養補助食品である。
【0057】
<育毛または発毛方法、脱毛予防方法、毛球形成促進方法>
本発明に係るβ-グルカン含有組成物は、経口投与されることにより、育毛または発毛効果、脱毛予防効果および毛球形成促進効果の少なくとも一つを発揮することができる。
【0058】
よって、本発明の一実施形態では、上記本発明に係るβ-グルカン含有組成物を対象に経口投与することを含む、育毛もしくは発毛方法、脱毛予防方法および/または毛球形成促進方法が提供される。
【0059】
本実施形態において、本発明に係るβ-グルカン含有組成物の投与量は、対象の年齢、体重、性別、症状などに応じて異なるが、1回の投与において1kg体重あたり、β-グルカン換算で0.1μg~1000mg、好ましくは5μg~50mg、より好ましくは50μg~10mg、さらに好ましくは50μg~1.5mgである。
【0060】
本実施形態において、本発明に係るβ-グルカン含有組成物の投与対象は、ヒトまたは非ヒト動物のいずれであってもよく、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、モルモット、ウシ、ブタ、イヌ、ウマ、ネコ、ヤギ、ヒツジを含む哺乳動物、鳥類であるが、好ましくはヒトである。
【実施例】
【0061】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0062】
<βグルカン溶液の調製>
(β-グルカン溶液1の調製)
300mLの米ぬか培地(pH6.0)にアウレオバシジウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)FERM BP-1306株(ATCC No.20524株)(以下、単に「BP-1306株」とも称する)を1白金耳接種して、23℃、72時間振盪培養(10rpm)して、前培養液を得た。
【0063】
100mLの前培養液をスクロース120g、リンゴエキス120mL、ビタミンC10g、CaCl2 2.1g、 MgCl2 0.5g、米ぬか3g、蒸留水10Lを入れたジャーファーメンター(PH6.0)に植菌して、23℃、6日間培養した。培養液を105℃、15分間加熱殺菌し、ガラスフィルター(柴田科学株式会社製)により真空ろ過して、β-グルカン溶液1を調製した。β-グルカン溶液1の粘度は、0.09Pa・sであり、β-グルカン溶液1中のβ-グルカン含量は、796.7μg/mLであった(表1)。
【0064】
β-グルカン溶液1の粘度は、設定温度(25℃±1)においてsTVC-10型粘度計(東機産業株式会社製)を用いて測定した。また、β-グルカン溶液1中のβ-グルカン含量は、エタノール沈殿法により測定した。
【0065】
(β-グルカン溶液2の調製)
ジャーファーメンターでの培養を、6日間から3日間に変更したこと以外は、β-グルカン溶液1の調製と同様にして、β-グルカン溶液2を調製した。β-グルカン溶液2の粘度は、0.04Pa・sであり、β-グルカン溶液2中のβ-グルカン含量は、73.3μg/mLであった(表1)。
【0066】
<試験例>
1.マウス背部皮膚における経口投与したβ-グルカン溶液1およびβ-グルカン溶液2による発毛促進効果
5週齢の雄性C57BL6Jマウス(日本エスエルシー株式会社より購入)を用いて、1週間予備飼育を行った。6週齢となったマウスの背部を剃毛し、除毛クリーム(除毛クリームepilat;クラシエホームプロダクツ株式会社製)を用いて除毛した。β-グルカン溶液1またはβ-グルカン溶液2を、平日に1日1回経口投与した(β-グルカン投与量:6μg/0.2mL/マウス;10回投与/14日間)。マウス体重から換算したβ-グルカン量は、0.3mg/kg体重であった。対照群のマウスには、同用量の水を経口投与した。経口投与14日後のマウスの背部皮膚における発毛を肉眼で観察した。対照群(水投与群)に比べて、β-グルカン溶液1および2により発毛促進効果が観察され、特にβ-グルカン溶液1で顕著な促進効果が観察された(
図1)。
【0067】
なお、マウスを用いた動物実験に関しては、東京薬科大学実験動物施設管理運営委員会の承認(承認番号:P16-38およびP17-39)を得て実施した。
【0068】
2.β-グルカン溶液1およびβ-グルカン溶液2による発毛促進効果の半定量的解析
上記1と同様にして、マウスにβ-グルカン溶液1、β-グルカン溶液2または水を経口投与した。経口投与14日後のマウス背部を一定距離(20cm)から撮影した。画像解析ソフトImageJ(https://imagej.nih.gov/ij/、米国国立衛生研究所)を用いて発毛部分のみが黒くなるように色度を統一し、耳の下から尻尾の付け根までを100%とし、上下10%を除いた80%部位を発毛評価エリアとして用いた(
図2)。この評価エリア内の黒い面積(発毛部分)を半定量的に解析した。その結果、発毛部分は、対照群(水投与群)に比べて、β-グルカン溶液2の投与では1.1倍、β-グルカン溶液1の投与では1.4倍(p<0.05)増加した(
図3)。
【0069】
3.β-グルカン溶液1およびβ-グルカン溶液2を経口投与したマウス背部皮膚組織における毛髪形成の形態観察
上記1と同様にして、マウスにβ-グルカン溶液1、β-グルカン溶液2または水を経口投与した。経口投与14日後のマウス背部の皮膚組織を採取し、マイルドホルム(登録商標)10N(富士フィルム和光純薬株式会社製)にて固定後、パラフィン固定組織を作製した。パラフィン固定皮膚組織より厚さ5μmの組織切片を作製し、キシレンによる脱パラフィン、エタノールによる再水和を行った。ヘマトキシリン溶液[0.4%ヘマトキシリン/5%硫酸カリウムアルミニウム/0.03%ヨウ素酸ナトリウム/5%抱水クロラール/0.05%クエン酸(結晶)]を加え、室温にて2分間染色した。流水にて組織切片を20分間洗浄し、エオジン溶液[0.25%エオジン/20%エタノール/0.5%酢酸]を加え、2分間染色した。染色後、エタノールにて脱水し、キシレンにて組織切片の透徹を行った。封入後、光学顕微鏡BX60(オリンパス株式会社製)を用いて組織観察を行った。
【0070】
その結果、β-グルカン溶液2と比べて、β-グルカン溶液1を投与することで、毛球形成がより促進されることが判明した(
図4)。
【0071】
4.β-グルカン溶液1を経口投与したマウスにおける腸管リンパ節由来の免疫細胞の発現分布
5週齢の雄性C57BL6Jマウス(日本エスエルシー株式会社より購入)を用いて、1週間予備飼育を行った。6週齢となったマウスにβ-グルカン溶液1を1日1回、5日間経口投与した(β-グルカン投与量:1μg、6μgまたは30μg/0.2mL/マウス)。経口投与5日目に解剖し、腸管リンパ節を採取した。腸管リンパ節より免疫細胞を単離し、免疫細胞の分布をBD FACSCANT II (BDバイオサイエンス社製)により解析した。T細胞(特にヘルパーT細胞、キラーT細胞)およびNK細胞を認識する抗体としてそれぞれ抗CD3抗体、抗CD4抗体および抗CD8抗体ならびに抗NK1抗体(eBioscience社製)、B細胞を認識する抗体として抗CD19抗体(eBioscience社製)を用いた。
【0072】
腸管リンパ節由来のT細胞(CD3、CD4およびCD8陽性細胞)の割合は、6μgのβ-グルカン投与群において減少することが判明した(
図5)。また、その抑制作用は、β-グルカン投与量の6μg>1μg>30μgの順に観察された(*p<0.05、**p<0.01)。しかしながら、β-グルカンの投与有無に関わらず、腸管リンパ節からはNK細胞は検出されなかった。一方、腸管リンパ節由来のB細胞の割合は、6μgのβ-グルカン投与群においてより増強し、その増強効果は、6μg>1μg>30μgの順に観察された。
【0073】
5.統計解析
Fisherの多変量分散分析法により各処理間の有意差検定を実施し、危険率5%を有意水準とした。
【0074】
<考察>
図1、3~4に示すように、β-グルカン溶液1(粘度:0.09Pa・s)またはβ-グルカン溶液2(粘度:0.04Pa・s)を経口投与することで、毛髪および毛球形成促進作用が発揮されることが分かる。特に、β-グルカン溶液1は、より優れた毛髪および毛球形成促進作用を有することが分かる。
【0075】
さらに、
図5に示すように、β-グルカン溶液1を5日間経口投与したマウスにおいて、腸間膜リンパ節のT細胞の数が減少する一方、腸間膜リンパ節のB細胞の数が増加することが分かる。これらの結果により、β-グルカンは腸管免疫系に働き、免疫担当細胞の発現分布(B細胞>T細胞)を変化させることが強く示唆される。すなわち、β-グルカンの経口投与による腸間膜リンパ節での免疫担当細胞存在比の変化(B細胞>T細胞)が、発毛・育毛促進効果に密接に関わるものと考えられる。
【0076】
本出願は、2018年8月27日に出願された日本国特許出願第2018-158397号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。