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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-11
(45)【発行日】2023-01-19
(54)【発明の名称】溶媒含有物質検査キット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20230112BHJP
【FI】
G01N33/543 521
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020059480
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021156809
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2021-04-30
(73)【特許権者】
【識別番号】595008711
【氏名又は名称】アドテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100189865
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 正寛
(74)【代理人】
【識別番号】100094215
【弁理士】
【氏名又は名称】安倍 逸郎
(72)【発明者】
【氏名】高山 勝好
(72)【発明者】
【氏名】高山 野火子
(72)【発明者】
【氏名】小林 薫
(72)【発明者】
【氏名】本庄 栄二郎
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特許第6344517(JP,B1)
【文献】特開2010-014507(JP,A)
【文献】特表平11-506213(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0054414(US,A1)
【文献】特表2018-515785(JP,A)
【文献】実開平05-052757(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2016/0245804(US,A1)
【文献】国際公開第2018/181268(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/181741(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有して、検出される目的物質を含む展開溶媒が底部に収納される溶媒容器と、
前記開口部を密閉するように前記溶媒容器に装着されて、前記展開溶媒に含まれた前記目的物質を検査するための縦型のカセットデバイスとを備えた溶媒含有物質検査キットであって、
前記カセットデバイスは、前記展開溶媒を毛細管現象により送液可能な縦長な帯状展開媒体と、該帯状展開媒体を収納可能な縦長な媒体収納ケースとを有したもので、
前記帯状展開媒体には、前記展開溶媒に浸漬される溶媒浸漬ゾーンと、前記目的物質を標識する標識試薬を含有した標識試薬ゾーンと、前記目的物質を捕捉する捕捉物質を含有した検出ゾーンとが、前記帯状展開媒体の下端から上端に向かって順次配置され、
前記媒体収納ケースは、前記帯状展開媒体の溶媒浸漬ゾーンの部分を露出状態で保持する溶媒浸漬ゾーン保持部と、前記帯状展開媒体の標識試薬ゾーンの部分を被覆する標識試薬ゾーン被覆部と、前記溶媒容器の開口部を密閉する密閉蓋部と、前記帯状展開媒体の検出ゾーンを露出する判定窓を有して、前記帯状展開媒体の上部を収納する判定カセット部とが、上方へ向かって順次連結させたものである溶媒含有物質検査キットであって、
前記目的物質を含む展開溶媒は、目的物質を含む検体または目的物質と検体抽出液とを混合した溶液であり、
前記検体は、夾雑物を含む粘性のある液体である溶媒含有物質検査キット
【請求項2】
前記溶媒容器の開口部には、一方のフランジが形成され、
前記密閉蓋部には、他方のフランジが形成され、
両フランジが接することにより、溶媒容器の開口部を密閉する請求項1に記載の溶媒含有物質検査キット。
【請求項3】
前記帯状展開媒体の前記溶媒浸漬ゾーンの部分は、厚さ0.5mm~3mmの多孔質体からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の溶媒含有物質検査キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、溶媒含有物質検査キット、詳しくは展開溶媒に含まれる生体成分、薬物などの目的物質(被検物質)を簡易に検査可能な溶媒含有物質検査キットに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、生体から採取された血液、血清、尿などの検体(展開溶媒)中に含まれる目的物質(抗原または抗体など)を簡易に検出する縦型の免疫学的検査具(溶媒含有物質検査キット)として、抗原抗体反応を利用したイムノクロマト法によるものが知られている(例えば、特許文献1など)。
この縦型の免疫学的検査具は、検体が投入される透明な試験管状のボトル(溶媒容器、例えば特許文献2など)と、このボトルより長尺で、毛細管現象により送液可能な帯状展開媒体(クロマトグラフィー媒体)とを有している。帯状展開媒体は、その下端から上端に向かって、検体浸漬ゾーン(溶媒浸漬ゾーン)と、標識試薬を含有した標識試薬ゾーンと、検体に含まれる目的物質を検出する検出ゾーンとに分かれている。
【0003】
検査時には、検体を投入したボトルに、各ゾーンをボトル内に配した状態で帯状展開媒体を差し込み、検体浸漬ゾーンを検体に浸漬する。これにより、検体が帯状展開媒体の上端に向かって展開し、標識試薬ゾーンにおいて検体中の目的物質と標識物質とが結合し、複合体が形成される。その後、検出ゾーンにおいて、検体中の複合体が捕捉物質により捕捉され、ここで標識物質の発色の有無を観察することにより、検体が目的物質を含む陽性であるか、そうでない陰性であるかを判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-122205号公報
【文献】特開2013-167509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の免疫学的検査具では、このように検体を投入したボトルに、細いスティック状の帯状展開媒体を差し込んで、検体検査を行っていた。その結果、以下の4つの課題が発生していた。
(1)ボトルの開口部には、ボトル開口縁と帯状展開媒体とのあいだに隙間が現出していた。そのため、誤ってボトルを倒した際には、検体が零れて感染物質が周囲に飛散するおそれがあった。
(2)また、検査中、管開口部の隙間からボトル内に埃、細菌やウイルス等の浮遊物質が侵入しやすく、それが検査結果に影響を及ぼすおそれがあった。
(3)さらに、検査時、検出ゾーンはボトル内に挿入されることから、検体による判定面の汚れや誤判定などを防止するため、検出ゾーンの表面は透明なカバーにより被覆されていた。そのため、発色の有無による目的物質の検出判定に際して、検査員がその判定結果を視認しにくい場合があった。
(4)一般的に細いスティックのみの製品も存在するが、検査時、検出ゾーンの発色位置により、陽性、反応の終了を判断するがそれぞれの発色位置を特定するための表示説明を検査具に物理的に配しにくい。したがって、複数の項目を同時に測定するような検査器具の場合に、発色の位置のみで判断するため、判定を誤るおそれがあった。
【0006】
また、例えば、検体が夾雑物を含む粘性の高いものの場合、スティック状の帯状展開媒体をボトルに差し込んで検体浸漬ゾーンを検体に浸漬したとき、夾雑物が検体浸漬ゾーンに付着してしまい、毛細管現象による検体の送液を妨げることがある。
【0007】
この発明は、上述する従来技術の問題点に鑑みなされたもので、検査時、検査容器からの検査液の零れを原因とした被検物質の周囲への飛散を解消できるとともに、検査中に検査容器内への浮遊物質の侵入も防止でき、さらには検査結果の視認が容易となり判定精度が高まる溶媒含有物質検査キットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、開口部を有して、検出される目的物質を含む展開溶媒が底部に収納される溶媒容器と、前記開口部を密閉するように前記溶媒容器に装着されて、前記展開溶媒に含まれた前記目的物質を検査するための縦型のカセットデバイスとを備えた溶媒含有物質検査キットであって、前記カセットデバイスは、前記展開溶媒を毛細管現象により送液可能な縦長な帯状展開媒体と、該帯状展開媒体を収納可能な縦長な媒体収納ケースとを有したもので、前記帯状展開媒体には、前記展開溶媒に浸漬される溶媒浸漬ゾーンと、前記目的物質を標識する標識試薬を含有した標識試薬ゾーンと、前記目的物質を捕捉する捕捉物質を含有した検出ゾーンとが、前記帯状展開媒体の下端から上端に向かって順次配置され、前記媒体収納ケースは、前記帯状展開媒体の溶媒浸漬ゾーンの部分を露出状態で保持する溶媒浸漬ゾーン保持部と、前記帯状展開媒体の標識試薬ゾーンの部分を被覆する標識試薬ゾーン被覆部と、前記溶媒容器の開口部を密閉する密閉蓋部と、前記帯状展開媒体の検出ゾーンを露出する判定窓を有して、前記帯状展開媒体の上部を収納する判定カセット部とが、上方へ向かって順次連結させたものである溶媒含有物質検査キットであって、前記目的物質を含む展開溶媒は、目的物質を含む検体または目的物質と検体抽出液とを混合した溶液であり、前記検体は、夾雑物を含む粘性のある液体である溶媒含有物質検査キットである。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記溶媒容器の開口部には、一方のフランジが形成され、前記密閉蓋部には、他方のフランジが形成され、両フランジが接することにより、溶媒容器の開口部を密閉する請求項1に記載の溶媒含有物質検査キットである。
【0010】
ここでいう溶媒含有物質検査キットとは、展開溶媒に含まれる各種の目的物質を簡易に検査できる検査用の器具(キット)である。例えば、免疫学的検査具を有したものなどを採用することができる。
免疫学的検査具とは、抗原抗体反応を利用したイムノクロマト法によって、臨床検体を免疫学的に簡易検査するための器具である。免疫学的検査は、抗原検出系のものでも、抗体検出系のものでもよい。
ここでいう展開溶媒とは、目的物質を含む検体のみ、または、この検体と検体抽出液とを混合した溶液を意味する。
検体の種類は限定されない。例えば、全血、血漿、血清などの血液や尿、唾液、関節液、骨髄液などの体液、さらには喀痰、咽頭や鼻腔の拭い液、肺洗浄液などが挙げられる。
検体抽出液としては、例えば、ウイルス等を可溶化するための緩衝液やイムノクロマト法における展開性を向上させるための緩衝液、ムチン等のサンプルの粘性を解消するための緩衝液を採用することができる。また、これらの緩衝液を複数組み合わせた複合緩衝液を用いることもできる。ウイルス等を可溶化するための緩衝液やイムノクロマト法における展開性を向上させるための緩衝液には、非イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤が含まれている。ムチン等のサンプルの粘性を解消するための緩衝液には、リゾチーム、ヒアルロニダーゼ、グルコシダーゼ等が含まれている。
【0011】
溶媒容器の素材は限定されない。例えば、各種の合成樹脂、各種の金属など採用することができる。
溶媒容器の形状も任意である。例えば、試験管状、矩形箱状などを採用することができる。
ここでいう溶媒容器としては、例えば、軟質合成樹脂からなる試験管状のボトルに加え、握っても容易に変形しない瓶状のものでもよい。具体的には、例えば、綿棒等で採取した生体成分(検体)を処理する場合、軟質合成樹脂製の試験管状のボトルについては、ボトルの外側より指で搾り取ること(スクイズ)により検体処理液により検体を抽出するものでもよい。また、容易に変形しない瓶状のものの場合、特許文献2に示すスクイズレスボトルであって、抽出補助部材により綿棒から検体を抽出するものの場合には、搾り取る操作による指の疲労が解消されるために、さらに好適となる。また、本発明の溶媒含有物質検査キットの溶媒容器は、その開口部が、媒体収納ケースの密閉蓋部により密閉可能なものであれば、特に限定されない。
【0012】
なお、特許文献2のように容器内ホルダに溶媒浸漬ゾーンの露出状態を維持して、溶媒浸漬ゾーン保持部と標識試薬ゾーン被覆部とのうち、少なくとも1つを支持できる形状、素材のものであればさらに好ましい。
また、特許文献2の容器内ホルダの代わりに、溶媒浸漬ゾーンの露出状態を維持して、この容器内ホルダの溶媒浸漬ゾーン保持部と標識試薬ゾーン被覆部とのうち、少なくとも1つを支持可能な形状を、溶媒容器の一部に設けてもよい。
【0013】
目的物質(捕捉物質)の種類は任意である。例えば、展開溶媒が検体の場合には、抗原、抗体、ホルモン、ホルモンレセプター、レクチン、レクチン結合性糖質、薬物もしくはその代謝物、薬物レセプター、核酸およびこれらの断片などを採用することができる。具体的には、細菌、原生生物や真菌などの細胞、ウイルス、タンパク質、多糖類などが挙げられる。さらに具体的には、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルス、マイコプラズマニューモニエ、ロタウイルス、カルシウイルス、コロナウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス、ヘルペスウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、肝炎ウイルスなどの各種ウイルスの他、大腸菌、スタフィロコッカスアウレウス、ストレプトコッカスニューモニエ、ストレプトコッカスピヨゲネス、マイコプラズマニューモニエ、マラリア原虫などの細胞、消化器系疾患、中枢神経系疾患、出血熱等の様々な疾患の病原体、病原体の代謝産物が挙げられる。
【0014】
カセットデバイスは、展開溶媒中の目的物質を検査可能な帯状展開媒体と、帯状展開媒体を収納して、溶媒容器への装着時に、その開口部を密閉可能なカセットケースとを有したものであれば任意である。
帯状展開媒体の素材は任意である。例えば、ニトロセルロース、プラスチック、不織布、濾紙など採用することができる。このうち、液体に対して湿潤性があり、添着された液体を実質的に吸収しないニトロセルロースが好ましい。この帯状展開媒体を担体として、検出ゾーンに抗体や抗原を固相化する。
【0015】
帯状展開媒体の構成としては、例えば、溶媒浸漬ゾーンに配置されるサンプルパッドと、標識試薬ゾーンに配置され、標識試薬が固定されたコンジュゲートパッドと、検出ゾーンに配置され、捕捉物質が固定されたニトロセルロース膜と、検出ゾーンより帯状展開媒体の上端側に配置される給水材(給水紙を含む)とからなるものを採用することができる。この場合、溶媒浸漬ゾーンでサンプルパッドに浸漬された展開溶媒(例えば検体)は、帯状展開媒体の上端に向かって展開され、標識試薬ゾーンのコンジュゲートパッドを通過中に目的物質が標識試薬と結合し、目的物質-標識試薬の複合体が形成される。その後、この複合体を含む展開溶媒は検出ゾーンに到達し、ここでニトロセルロース膜に固定された捕捉物質に複合体が捕捉されて、目的物質-標識試薬-捕捉物質の免疫複合体が形成される。また、捕捉後の使用済みの展開溶媒は濾紙、スポンジなどの吸水材に吸水される。これにより、展開溶媒の帯状展開媒体内の逆流が防止される。
【0016】
溶媒浸漬ゾーンは、帯状展開媒体に配置されて、溶媒容器の底部に投入された展開溶媒に浸漬される領域である。
標識試薬ゾーンは、帯状展開媒体の溶媒浸漬ゾーンより上端側に配置され、標識試薬が固相化される領域である。
標識試薬としては、例えば、有色のラテックスや金属コロイド(金コロイド、銀コロイド、青銅コロイド、鉄コロイドなど)、着色セルロース粒子、蛍光セルロース粒子などの標識物質と、抗原または抗体とが結合した複合体を採用することができる。その他、蛍光物質や化学発光物質を標識物質としたものや、各種の酵素標識試薬を採用してもよい。
【0017】
検出ゾーンは、帯状展開媒体の標識試薬ゾーンより上端側に配置されて、標識試薬ゾーンで得られた標識試薬と結合した目的物質を捕捉する捕捉物質が固相化される領域である。
捕捉物質は、展開溶媒中の目的物質に応じて適宜変更される。目的物質が抗体の場合には、その抗原が捕捉物質となる。また、その反対の場合もある。
検出ゾーンにおいて捕捉された免疫複合体の構造(捕捉物質-目的物質-標識試薬)としては、(1)固相抗体-検体中抗原-標識抗体、(2)固相抗原-検体中抗体-標識抗体、(3)固相抗原-検体中抗体-標識抗原が挙げられる。このようにサンドイッチ構造が形成された部分は、標識試薬中の金コロイドや着色ラテックスなどの標識物質により着色され、目視またはカメラ撮像機器を利用して目的物質の検出の有無などが判定される。
また、検出ゾーンには、展開溶媒中に目的物質が存在しない陰性の検査結果を確認するため、標識試薬を捕捉する別の捕捉物質を固相化してもよい。
【0018】
媒体収納ケースの素材は任意である。例えば、各種の合成樹脂、各種の金属などを採用することができる。
媒体収納ケースの形状は、溶媒浸漬ゾーンの部分を露出状態で支持するように帯状展開媒体を収納できる縦長な形状であれば任意である。例えば、スティック状でもよい。
溶媒浸漬ゾーン保持部とは、帯状展開媒体の下部に配された溶媒浸漬ゾーンの部分を、表面のみの露出状態、裏面のみの露出状態、表,裏両面の露出状態で支持する、媒体収納ケースの下側部分である。
溶媒浸漬ゾーン保持部の形状は限定されない。例えば、スティック状、円管状、半円管状、楕円管状などを採用することができる。
【0019】
標識試薬ゾーン被覆部の形状は、帯状展開媒体の標識試薬ゾーンの部分を被覆可能であれば限定されない。例えば、所定の管状でもよい。
密閉蓋部の素材は、媒体収納ケースの他の部分と異なる素材でも、同一素材でよい。
密閉蓋部としては、溶媒容器の開口部を内側または外側、さらには密閉度を高めるために内,外両側から密閉するものを採用することができる。
判定カセット部の形状は、判定窓を有して帯状展開媒体の上部を収納可能であれば任意である。例えば、矩形箱状でもよい。
判定窓は、検体検査の判定に支障がない形状およびサイズでなければならない。
【0020】
請求項に記載の発明は、前記帯状展開媒体の前記溶媒浸漬ゾーンの部分は、厚さ0.5mm~3mmの多孔質体からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の溶媒含有物質検査キットである。
【0021】
多孔質体の素材としては、多孔質体は、多孔質成型が可能であれば材質は問わない。例えば、ポリブチルアルコール、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、濾紙、ガラス繊維、再生セルロースなどを採用することができる
この多孔質体は、気孔径はおおよそ50μm~500μmである。50m未満では空隙が狭いことにより濾過処理能力が低下しやすく、検体由来の夾雑物による目詰まりが発生する。また、500μmを超えれば、空隙が広くなり、毛細管現象による吸液性能が著しく低下する。好ましい気孔径は、80μm~300μmである。この範囲であれば、検体の自然濾過性能を維持しつつ、迅速な展開性か得られる。
多孔質体の厚さが0.5mm未満では、ディップ部分から吸液される液が停滞し、続く帯状展開媒体への展開速度が遅くなり、判定時間の遅延が生じる。また、3mmを超えれば、多孔質体に保持される液量が多くなり、続く帯状展開媒体へ十分な溶液が展開されず、判定時間の遅延や、展開不良が発生する。多孔質体の好ましい厚さは、1mm~3mmである。通常、フィルター付きノズルを用いてサンプル中の交雑物を濾過する際に、力をかけすぎると、フィルター表面に夾雑物が圧力により押しつけられ、目詰まりを起こし、サンプルの通過が困難となるが、多孔質体の気孔径が50μm~500μm、厚さが0.5mm~3mmの範囲の適切な空隙と適切な厚み、広い浸漬体積である場合は、毛細管現象により吸液された検体は自然濾過に近い濾過で、緩やかに効率よく濾過され、かつ迅速に帯状展開媒体の上端に向かって送液される。
【発明の効果】
【0022】
請求項1に記載の発明によれば、あらかじめ帯状展開媒体を媒体収納ケースに装着してカセットデバイスを組み立てておく。具体的には、溶媒浸漬ゾーンの露出状態で、溶媒浸漬ゾーンの部分を溶媒浸漬ゾーン保持部に保持し、標識試薬ゾーンを標識試薬ゾーン被覆部により被覆するとともに、帯状展開媒体の長さ方向の中間部付近を密閉蓋部に挿通してから、検出ゾーンを判定窓により露出して、帯状展開媒体の上部を判定カセット部に収納する。
【0023】
検査時には、媒体収納ケースの溶媒浸漬ゾーン保持部と標識試薬ゾーン被覆部とを、開口部を介して、目的物質を含む展開溶媒が入った溶媒容器の中に差し込んで、この開口部を密閉蓋部により密閉する。これにより、カセットデバイスが溶媒容器に縦置き状態で装着される。
このとき、帯状展開媒体の露出した溶媒浸漬ゾーンが展開溶媒に浸漬される。よって、溶媒浸漬ゾーンに吸液された展開溶媒は、帯状展開媒体の上端に向かって送液される。その途中、標識試薬ゾーンにおいて展開溶媒中の目的物質と標識物質とが結合して複合体を形成し、その後、検出ゾーンにおいて、展開溶媒中の複合体が捕捉物質により捕捉されるか否かを、判定窓を通した標識物質の発色の有無で観察する。
【0024】
このように、検査時、溶媒容器の開口部が密閉蓋部により密閉されるように構成したため、仮に誤って溶媒容器を倒しても、展開溶媒が零れて目的物質(感染物質など)がまわりに飛散し、周辺環境を汚染するおそれがない。しかも、検査中に開口部から、埃、細菌、ウイルス等の浮遊物質が溶媒容器内に侵入し、検査結果に悪影響を及ぼすおそれもない。
また、従来品にあっては、検査時に帯状展開媒体の検出ゾーンが溶媒容器に挿入される構成が採用されていたため、展開溶媒による判定面の汚れや誤判定等を防ぐ目的で、検出ゾーンの表面に透明なカバーが被せられていた。これに対して、本発明では、検出ゾーンを溶媒容器より上方に配される構成を採用したことにより、このカバーが不要になり、かつ判定者は、溶媒容器を通して判定結果を見なくてもよくなる。これにより、判定結果の視認性や判定精度を高めることができる。
【0025】
特に、請求項に記載の発明によれば、帯状展開媒体の溶媒浸漬ゾーンの構成物として、厚さ0.5mm~3mmの多孔質体を採用した。そのため、適切な空隙と適切な厚み、広い浸漬体積により、毛細管現象による吸液された検体は自然濾過に近い濾過で、緩やかに効率よく濾過されるため、仮に検体が夾雑物を含む高粘性のものであっても、溶媒浸漬ゾーンの展開溶媒への浸漬時に、溶媒浸漬ゾーンからの展開溶媒の送液を夾雑物が妨げにくい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】この発明の実施例1に係る溶媒含有物質検査キットの検査開始直前の状態を示す一部断面図を含む斜視図である。
図2】この発明の実施例1の溶媒含有物質検査キットの一部を構成するカセットデバイスの正面図である。
図3】この発明の実施例1の溶媒含有物質検査キットによる検査中を示す一部断面図を含む正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、この発明の実施例を具体的に説明する。ここでは、インフルエンザウイルスの抗原検査用の溶媒含有物質検査キットを例にとる。
【実施例
【0028】
図1に示すように、この発明の実施例1に係る溶媒含有物質検査キット10は、上面に開口部11aを有して、検出される目的物質aを含む検体Aと検体抽出液(展開溶媒)Bとが底部に収納されるスクイズレスボトル(溶媒容器、以下、ボトルという)11と、開口部11aの密閉状態でボトル11に装着されて、検体Aに含まれた目的物質aを検査するための縦型のカセットデバイス12とを備えたものである。
【0029】
以下、これらの構成体を説明する。
検体Aは、検出される目的物質(A型インフルエンザウイルス)aを含む鼻腔ぬぐい液処理検体、鼻汁鼻かみ液処理検体、鼻腔吸引液処理検体、咽頭ぬぐい液処理検体等である。
ボトル11は、上端の開口部にフランジ11bが形成された小型の試験管状をした合成樹脂製の容器である。このボトル11には、後述する帯状展開媒体13の検体浸漬ゾーン(溶媒浸漬ゾーン)13Aの部分の露出状態を維持して、検体浸漬ゾーン保持部(溶媒浸漬ゾーン保持部)14Aと標識試薬ゾーン被覆部14Bが内設されている。
【0030】
また、カセットデバイス12は、検体抽出液Bを毛細管現象により送液可能な帯状展開媒体13と、帯状展開媒体13を収納可能な縦長な媒体収納ケース14とを有している。
帯状展開媒体13は、複数の部材から構成されるスティック状のイムノクロマトグラフィー媒体である。
帯状展開媒体13には、その長さ方向の一端から他端に向かって、検出される目的物質aであるインフルエンザウイルスを含む検体Aに浸漬される検体浸漬ゾーン13Aと、目的物質aを補足する標識試薬(コンジュゲート抗体:金コロイド標識抗インフルエンザウイルス抗体)bを含有した標識試薬ゾーン13Bと、検体Aに含まれる目的物質aを捕捉する捕捉物質(抗インフルエンザウイルス固相化抗体)cを含有した検出ゾーン13Cとが配置されている。
【0031】
媒体収納ケース14は、合成樹脂製の縦長な容器である。
この媒体収納ケース14は、帯状展開媒体13の検体浸漬ゾーン13Aの部分を露出状態で保持する検体浸漬ゾーン保持部14Aと、帯状展開媒体13の標識試薬ゾーン13Bの部分を被覆する標識試薬ゾーン被覆部14Bと、ボトル11の開口部11aを密閉する密閉蓋部14Cと、帯状展開媒体13の検出ゾーン13Cを露出する判定窓15を有して、帯状展開媒体13の上部を収納する判定カセット部14Dとを、上方へ向かって順次連結させたものである。
【0032】
このうち、検体浸漬ゾーン保持部14Aは、検体浸漬ゾーン13Aの表面を露出した、深さが浅い縦長な短冊状または下部が半円形の樋部材である。なお、この検体浸漬ゾーン保持部14Aは、検体浸漬ゾーン13Aより短尺な板状のものでもよいし、省略してもよい。
また、標識試薬ゾーン被覆部14Bは、検体浸漬ゾーン保持部14Aの上端に一体的に連結されて、標識試薬ゾーン13Bの全域を被覆する縦長な矩形または上部が半円形の容器である。
密閉蓋部14Cは、標識試薬ゾーン被覆部14Bの上端に一体的に連結されて、ボトル11の開口部11aに対して密閉状態で内挿される厚肉な円筒部材である。密閉蓋部14Cの中心空間には、帯状展開媒体13の長さ方向の中間部が内挿される。また、密閉蓋部14Cの上端外縁には、ボトル11のフランジ11bに嵌着されるフランジ14aが一体形成されている。
【0033】
判定カセット部14Dは、フランジ14aの上側に一体形成された縦長で薄型の矩形容器である。
判定カセット部14Dの下部の表側には、縦長矩形状の判定窓15が形成されている。判定窓15の一側部には、上中下3つの判定ラインLの位置を示すために、下からA,B,Cの記号が配され、それぞれA位置で発色した場合、A型インフルエンザ陽性、B位置で発色した場合、B型インフルエンザ陽性、C位置が発色した場合は反応の終了を示している。また、判定窓15の直上には横長な小窓14bが形成されている。この小窓14bは、帯状展開媒体13の上端部まで達した検体Aの送液が判定窓15に逆流しないための逆流防止蒸散口である。
【0034】
なお、カセットデバイス12は、工場出荷の時点で、帯状展開媒体13が媒体収納ケース14に装着され、組み立てが完了しているものとする。具体的には、検体浸漬ゾーン13Aの露出状態で、検体浸漬ゾーン13Aの部分を検体浸漬ゾーン保持部14Aにより保持し、標識試薬ゾーン13Bを標識試薬ゾーン被覆部14Bにより被覆するとともに、帯状展開媒体13の長さ方向の中間部付近を密閉蓋部14Cに挿通してから、検出ゾーン14Cを判定窓15から露出して、帯状展開媒体13の上部が判定カセット部14Dに収納されている。
【0035】
次に、図1図3を参照して、この発明の実施例1に係る溶媒含有物質検査キット10を使用した検体検査方法を説明する。
検体を検査する際には、検査時には、まず、生体成分を含む検体Aを採取した図示しない綿棒を、検体抽出液(展開溶媒)Bの入った軟質合成樹脂からなる試験管状のボトル11に挿入し、その後、ボトル11の外側より指で搾り取ること(スクイズ)で、検体抽出液Bに検体Aを抽出する。なお、ボトル11として、例えば、特許文献2に記載されたスクイズレスボトルを採用した際には、抽出補助部材により綿棒から検体を抽出するとき、搾り取る作による指の疲労感を解消することができる。
その後、媒体収納ケース14の検体浸漬ゾーン保持部14Aと標識試薬ゾーン被覆部14Bとを、開口部11aからボトル11の中に差し込み、この開口部11aを密閉蓋部14Cにより密閉する。これにより、カセットデバイス12がボトル11に縦置き状態で装着される。
【0036】
このとき、帯状展開媒体13のうち、露出した検体浸漬ゾーン13Aが、検体Aと検体抽出液Bとの混合液(以下、検体Aと略す)に浸漬される。これにより、検体浸漬ゾーン13Aに吸収された検体Aは、帯状展開媒体13の上端に向かって送液される。その途中、標識試薬ゾーン13Bにおいて、検体A中の目的物質aと標識物質bとが結合して複合体を形成し、検出ゾーン13Cにおいて、検体A中の複合体が捕捉物質cにより捕捉されるか否かを、判定窓15を通した標識物質bの発色の有無で観察する。
【0037】
このように、ボトル11の開口部11aが密閉蓋部14Cにより密閉されるため、検査時、誤ってボトル11を倒しても、検体Aが零れて目的物質(感染物質など)aが周囲に飛散し、周辺環境を汚染するおそれがない。しかも、検査中に開口部11aから、埃、細菌、ウイルス等の浮遊物質がボトル11内に侵入し、検査結果に悪影響を及ぼすおそれもない。なお、検体Aが吸収され展開した後は、その方がより判定しやすければ、水平に置くことも可能である。
【0038】
また、従来品にあっては、検査時に帯状展開媒体の検出ゾーンが溶媒容器に挿入される構成が採用されていたため、検体による判定面の汚れや誤判定等を防ぐ目的で、検出ゾーンの表面に透明なカバーを被せていた。これに対して、実施例1では、検出ゾーン13Cをボトル11より上方に配置する構成を採用したことで、このカバーが不要になり、かつ判定者は、ボトル11の胴部を通して判定結果を見なくてもよい。これにより、判定結果の視認性や判定精度を高めることができる。さらにまた、(デジタル)カメラにより検出ゾーン13Cを撮影し、得られた画像データに基づき、検査結果を判定すことも可能である。
また、溶媒容器として、合成樹脂製で試験管状のボトル11を採用したため、この溶媒容器が廉価で取り扱いが容易なものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
この発明の溶媒含有物質検査キットは、展開溶媒に含まれる生体成分、薬物などの目的物質を簡易に検査可能な技術として有用である。
【符号の説明】
【0040】
10 溶媒含有物質検査キット、
11 溶媒容器、
11a 開口部、
12 カセットデバイス、
13 帯状展開媒体、
13A 検体浸漬ゾーン(溶媒浸漬ゾーン)、
13B 標識試薬ゾーン、
13C 検出ゾーン、
14 媒体収納ケース、
14A 検体浸漬ゾーン保持部(溶媒浸漬ゾーン保持部)、
14B 標識試薬ゾーン被覆部、
14C 密閉蓋部、
14D 判定カセット部、
15 判定窓、
A 検体、
B 検体抽出液(検体溶媒)、
a 目的物質、
b 標識試薬、
c 捕捉物質。
図1
図2
図3