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特許7208709不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置及び車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-11
(45)【発行日】2023-01-19
(54)【発明の名称】不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置及び車両
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20230112BHJP
【FI】
F02D45/00 368Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017212400
(22)【出願日】2017-11-02
(65)【公開番号】P2019085889
(43)【公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-07-30
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】堀田 実
(72)【発明者】
【氏名】野々垣 芳彦
(72)【発明者】
【氏名】木下 久寿
(72)【発明者】
【氏名】荒牧 耀
(72)【発明者】
【氏名】岩本 一輝
【合議体】
【審判長】山本 信平
【審判官】木村 麻乃
【審判官】鈴木 充
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-70255(JP,A)
【文献】国際公開第2016/194953(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不等間隔燃焼する複数気筒とクランクシャフトを有する不等間隔燃焼エンジンの失火を前記クランクシャフトの回転角を表すクランク角信号に基づいて判定する不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置であって、
前記不等間隔燃焼エンジンの運転中に前記クランク角信号に基づいて、720度クランク角度ごとに、気筒のそれぞれについて設定された所定の定位置である判定角度位置を中に含む720×m度クランク角度の区間における回転速度である、前記不等間隔燃焼による変動成分がキャンセルされた不等間隔燃焼変動キャンセル値を取得し、mは自然数である、不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部と、
前記不等間隔燃焼エンジンの運転中に前記クランク角信号に基づいて、前記判定角度位置における回転速度から、前記判定角度位置を中に含む720×m度クランク角度の区間における回転速度である、前記不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部で取得された前記不等間隔燃焼変動キャンセル値を減算することにより、前記不等間隔燃焼による変動成分が顕在化された不等間隔燃焼変動顕在化値を算出する不等間隔燃焼変動顕在化値算出部と、
前記不等間隔燃焼エンジンの運転中に前記不等間隔燃焼変動顕在化値算出部で算出された前記不等間隔燃焼変動顕在化値が、所定の第1基準値を超えているか否かに応じて、前記不等間隔燃焼エンジンが有する前記複数気筒のうち前記判定角度位置が設定された特定気筒の失火を判定する特定気筒失火判定部と、
を備えた不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置。
【請求項2】
請求項1記載の不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置であって、
前記不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部は、前記不等間隔燃焼変動キャンセル値として、720度クランク角度ごとに、前記判定角度位置を中心とする720×m度クランク角度の区間における回転速度を取得し、
前記不等間隔燃焼変動顕在化値算出部は、記判定角度位置における回転速度から、前記不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部で取得された前記不等間隔燃焼変動キャンセル値としての、前記判定角度位置を中心とする720×m度クランク角度の区間における回転速度の値を減算することによって、前記不等間隔燃焼による変動成分が顕在化された不等間隔燃焼変動顕在化値を算出し、
前記特定気筒失火判定部は、前記不等間隔燃焼変動顕在化値算出部で算出された前記不等間隔燃焼変動顕在化値が、所定の第1基準値を超えているか否かに応じて、前記不等間隔燃焼エンジンが有する前記複数気筒のうち前記特定気筒の失火を判定する
不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置。
【請求項3】
請求項2記載の不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置であって、
前記特定気筒失火判定部は、前記不等間隔燃焼エンジンの運転中に前記不等間隔燃焼変動顕在化値算出部で算出された前記不等間隔燃焼変動顕在化値、前記所定の第1基準値を超えているか否かに応じて、前記不等間隔燃焼エンジンの前記特定気筒の失火を判定する
不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置。
【請求項4】
請求項2記載の不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置であって、
前記不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部は、更に、前記判定角度位置とは別の基準角度位置であって、前記基準角度位置における回転速度から、前記基準角度位置を中心とする720×m度クランク角度の区間における回転速度を減算した値が失火の発生時における前記判定角度位置の前記不等間隔燃焼変動顕在化値と正負において反対となるような基準角度位置を中心とする720×m度クランク角度の区間における回転速度の値を基準変動キャンセル値として取得し、
前記不等間隔燃焼変動顕在化値算出部は、更に、前記クランク角信号に基づいて、前記基準角度位置における回転速度から、前記基準変動キャンセル値を減算して前記不等間隔燃焼による変動成分を顕在化する基準変動顕在化値を算出し、
前記特定気筒失火判定部は、前記不等間隔燃焼変動顕在化値と、前記基準変動顕在化値との差が所定の第2基準値を超えているか否かに応じて、前記不等間隔燃焼エンジンの前記特定気筒の失火を判定する
不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1に記載の不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置と、
前記不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置によって失火が判定される不等間隔燃焼エンジンとを備える車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、失火判定装置が示されている。特許文献1の失火判定装置は、不等間隔爆発エンジンにおける失火を判定する。特許文献1の失火判定装置は、点火時期とは異なるクランク角度位置における発生トルク相関量を演算している。特許文献1の失火判定装置は、さらに演算された発生トルク相関量から平均値を演算している。特許文献1の失火判定装置は、さらに演算された発生トルク相関量の平均値に基づいて失火判定を行う。発生トルク相関量は例えば回転速度である。特許文献1の失火判定装置は、1サイクルよりも短い区間、即ち720度クランク角よりも短い区間で発生トルク相関量の平均値を演算し、演算された平均値を閾値と比較することにより失火判定する。これにより、不等間隔燃焼エンジンの1サイクル内での発生トルク相関量の変化が平均値に現れる。
また、特許文献1は、判定時の回転速度と、判定時より前の非失火時の区間の回転速度との差を算出することによって失火判定を行う失火判定装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-070255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているような不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置の判定処理について検討したところ、失火の態様によっては判定が困難な場合があった。
【0005】
本発明の課題は、不等間隔燃焼エンジンについて、様々な失火の態様に適用可能な不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置及び車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが、不等間隔燃焼エンジンにおける様々な失火の態様について検討したところ、連続失火の判定精度が低い場合があることが分かった。
本発明者らは、不等間隔燃焼エンジンの連続失火について詳細に検討した。
不等間隔燃焼エンジンの回転速度には、不等間隔燃焼エンジンの燃焼に起因する変動と、燃焼以外の要素に起因する変動とが含まれる。
不等間隔燃焼エンジンの燃焼に起因する回転速度の変動の例としては、燃焼時の上昇と、燃焼後の低下が挙げられる。上昇により回転速度のピークが生じる。例えば、エンジンが単気筒である場合、720度クランク角ごとにピークが生じるので、連続するピーク間のクランク角は略一定である。また例えば、エンジンが等間隔燃焼する複数気筒を有する場合、各気筒での燃焼が等間隔で繰返し行われるので、ピーク間のクランク角は略一定である。
繰返し行われる燃焼以外の要素に起因する変動には、例えば運転者のアクセル操作による吸入空気量の変動に応じた変動が含まれる。また、燃焼以外の要素に起因する回転速度の変動には、例えば車輪及びチェーンによってエンジンに掛かる負荷に起因する変動が含まれる。
【0007】
様々な態様の失火を高い精度で判定するため、燃焼以外の要素に起因する変動が除外された変動を用いて判定を行うことが考えられる。
しかし、不等間隔燃焼エンジンでは、ある気筒で燃焼が行われるクランク角と、この気筒の次の気筒で燃焼が行われるクランク角との間隔が、気筒に応じて異なる。ある気筒での燃焼時の回転速度は、その燃焼の前の気筒の燃焼で生じ時間と共に減少するエネルギーの影響を受ける。このため、例えば燃焼時の回転速度は、各気筒によって異なる。つまり、不等間隔燃焼エンジンでは、ピーク間のクランク角とピークの値の双方が気筒ごとに異なる。ピーク間のクランク角とピークの値の双方が気筒ごとに異なるように変動する回転速度から、燃焼以外に起因する変動を除外して高い精度で失火を判定することは、困難である。これが、不等間隔燃焼エンジンにおける様々な態様の失火の判定が難しい理由の一つであった。このため、例えば一定のクランク角ごとの回転変動を算出する処理を不等間隔燃焼エンジンに適用し、算出の条件となるクランク角度を調整するだけでは、不等間隔燃焼エンジンの連続失火を高い精度で判定することが困難な場合がある。また、特許文献1に開示されるような1サイクルよりも短い区間での平均値を閾値と対比する方法でも、不等間隔燃焼による変動の影響を抑え高い精度で連続失火を判定することは困難な場合がある。また、特許文献1に開示されるような、判定時の回転速度と判定時より前の区間の回転速度との差を算出することによって判定を行う場合、1回の失火を検出することは可能であるが、連続失火を検出することは困難である。
【0008】
本発明者らは、不等間隔燃焼エンジンについて、不等間隔燃焼による変動成分ではなく、まず、不等間隔燃焼による変動成分がキャンセルされた値を取得することを考えた。本発明者らは、不等間隔燃焼による変動成分がキャンセルされた値として、720×m度クランク角度の区間における回転速度を取得することを考えた。mは自然数である。不等間隔燃焼エンジンが有する複数の気筒のいずれも、720度クランク角度で1サイクルの動作が完了する。従って、720×m度クランク角度の区間における回転速度では、不等間隔燃焼による変動成分がキャンセルされる。
そこで、本発明者らは、回転速度から、不等間隔燃焼による変動成分がキャンセルされた値を除去することによって、不等間隔燃焼による変動成分を高い精度で顕在化できることを見出した。より詳細には、判定角度位置における回転速度から、この判定角度位置を含む720×m度クランク角度の区間における回転速度を除去することによって、不等間隔燃焼による変動成分を高い精度で顕在化できる。また、この制御を単発失火について検討したところ、単発失火も検出できることが分かった。
本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。本発明の不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置によれば、様々な失火の態様に適用することが可能である。
【0009】
以上の知見に基づいて完成した本発明の各観点による不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置は、次の構成を備える。
【0010】
(1)本発明の一つの観点によれば、不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置は、
不等間隔燃焼する複数気筒とクランクシャフトを有する不等間隔燃焼エンジンの失火を前記クランクシャフトの回転角を表すクランク角信号に基づいて判定する不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置であって、
前記不等間隔燃焼エンジンの運転中に前記クランク角信号に基づいて、720度クランク角度ごとに、気筒のそれぞれについて設定された所定の判定角度位置を含む720×m度クランク角度の区間における回転速度である、前記不等間隔燃焼による変動成分がキャンセルされた不等間隔燃焼変動キャンセル値を取得し、mは自然数である、不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部と、
前記不等間隔燃焼エンジンの運転中に前記クランク角信号に基づいて、前記判定角度位置における回転速度から、前記判定角度位置を含む720×m度クランク角度の区間における回転速度である、前記不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部で取得された前記不等間隔燃焼変動キャンセル値を除去することにより、前記不等間隔燃焼による変動成分が顕在化された不等間隔燃焼変動顕在化値を算出する不等間隔燃焼変動顕在化値算出部と、
前記不等間隔燃焼エンジンの運転中に前記不等間隔燃焼変動顕在化値算出部で算出された前記不等間隔燃焼変動顕在化値と所定の第1基準値を比較し、その比較結果に応じて、前記不等間隔燃焼エンジンが有する前記複数気筒のうちの特定気筒の失火を判定する特定気筒失火判定部と、
を備えた不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置。
【0011】
(1)の不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置によれば、クランク角信号に基づいた回転速度から、判定角度位置を含む720×m度クランク角度の区間における回転速度である不等間隔燃焼変動キャンセル値が除去される。判定角度位置における回転速度から不等間隔燃焼変動キャンセル値が除去されることによって、不等間隔燃焼変動顕在化値が算出される。
不等間隔燃焼変動キャンセル値が取得される720×m度クランク角度の区間は、判定角度位置を含んでいる。このため、不等間隔燃焼変動キャンセル値に、判定角度位置を含む区間の状態が反映される。従って、不等間隔燃焼変動顕在化値に、判定角度位置を含む区間での燃焼の状態が高い精度で反映される。このため、失火が発生した場合、例えば回転速度の取得区間が判定角度位置より前の判定角度位置を含まない区間である場合と比べて、不等間隔燃焼変動顕在化値の変動がより顕著になる。従って、不等間隔燃焼変動顕在化値において、不等間隔燃焼よる変動及び不等間隔燃焼の失火による変動がより高い精度で顕在化する。
このため、不等間隔燃焼エンジンの特定気筒の失火を高い精度で判定することができる。
【0012】
(2)本発明の、別の観点によれば、(1)の不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置であって、
前記不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部は、前記不等間隔燃焼変動キャンセル値として、720度クランク角度ごとに、前記判定角度位置を中心とする720×m度クランク角度の区間における回転速度を取得し、
前記不等間隔燃焼変動顕在化値算出部は、少なくとも前記判定角度位置における回転速度から、前記不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部で取得された前記不等間隔燃焼変動キャンセル値としての、前記判定角度位置を中心とする720×m度クランク角度の区間における回転速度の値を除去することによって、前記不等間隔燃焼による変動成分が顕在化された不等間隔燃焼変動顕在化値を算出し、
前記特定気筒失火判定部は、前記不等間隔燃焼変動顕在化値算出部で算出された前記不等間隔燃焼変動顕在化値と所定の第1基準値を比較し、その比較結果に応じて、前記不等間隔燃焼エンジンが有する前記複数気筒のうちの特定気筒の失火を判定する。
【0013】
(2)の不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置によれば、不等間隔燃焼変動キャンセル値として取得される回転速度が、判定角度位置を中心とする720×m度クランク角度の区間の回転速度である。つまり、判定角度位置が、不等間隔燃焼変動キャンセル値を取得する720×m度クランク角度の区間の中心である。このため、不等間隔燃焼変動キャンセル値及び不等間隔燃焼変動顕在化値に、判定角度位置での燃焼の状態がより高い精度で反映される。
従って、不等間隔燃焼エンジンの特定気筒の失火をより高い精度で判定することができる。
【0014】
(3)本発明の、別の観点によれば、(2)の不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置であって、
前記特定気筒失火判定部は、前記不等間隔燃焼エンジンの運転中に前記不等間隔燃焼変動顕在化値算出部で算出された前記不等間隔燃焼変動顕在化値と、前記所定の第1基準値とを比較し、その比較結果に応じて、前記不等間隔燃焼エンジンの特定気筒の失火を判定する。
【0015】
(3)の不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置によれば、前記不等間隔燃焼変動顕在化値算出部で算出された不等間隔燃焼変動顕在化値と基準値との比較に基づいて失火が判定される。従って、不等間隔燃焼エンジンの特定気筒の失火を容易且つ高い精度で判定することができる。
【0016】
(4)本発明の、別の観点によれば、(2)の不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置であって、
前記不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部は、更に、前記判定角度位置とは別の基準角度位置であって、前記基準角度位置における回転速度から、前記基準角度位置を中心とする720×m度クランク角度の区間における回転速度を除去した値が失火の発生時における前記判定角度位置の前記不等間隔燃焼変動顕在化値と正負において反対となるような基準角度位置を中心とする720×m度クランク角度の区間における回転速度の値を基準変動キャンセル値として取得し、
前記不等間隔燃焼変動顕在化値算出部は、更に、前記クランク角信号に基づいて、前記基準角度位置における回転速度から、前記基準変動キャンセル値を除去して前記不等間隔燃焼による変動成分を顕在化する基準変動顕在化値を算出し、
前記特定気筒失火判定部は、前記不等間隔燃焼変動顕在化値と、前記基準変動顕在化値との差を算出し、その算出結果に応じて、前記不等間隔燃焼エンジンの特定気筒の失火を判定する。
【0017】
(4)の不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置によれば、判定角度位置と基準角度位置における2つの値の差に基づいて、不等間隔燃焼エンジンの特定気筒の失火が判定される。2つの値は、不等間隔燃焼変動キャンセル値と基準変動キャンセル値とがそれぞれ除去された値である。ある特定の気筒で失火が発生する場合、失火した気筒に対応する角度位置区間における回転速度が、その位置を中心とする720×m度クランク角度の区間における回転速度の値よりも小さくなる。逆に、残りの区間内の位置における回転速度が、その残りの区間内の位置を中心とする720×m度クランク角度の区間における回転速度の値よりも大きくなる。
(4)の不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置では、失火が発生した場合、基準角度位置における回転速度から基準角度位置を中心とする720×m度クランク角度の区間における回転速度の値を除去した基準変動顕在化値が、判定角度位置についての不等間隔燃焼変動顕在化値と正負において反対となる。このため、不等間隔燃焼変動顕在化値と、基準変動顕在化値との差が、不等間隔燃焼変動顕在化値と比べてより大きくなる。このため、失火による変動がさらに顕在化する。従って、不等間隔燃焼エンジンの特定気筒の失火をより高い精度で判定することができる。
【0018】
(5)本発明の、別の観点によれば、(4)の不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置であって、
前記特定気筒失火判定部は、前記不等間隔燃焼変動顕在化値と前記基準変動顕在化値との差と、所定の第2基準値とを比較し、その比較結果に応じて、前記不等間隔燃焼エンジンの特定気筒の失火を判定する。
【0019】
(5)の不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置によれば、不等間隔燃焼変動顕在化値と基準変動顕在化値との差と、基準値との比較に基づいて失火が判定される。従って、不等間隔燃焼エンジンの特定気筒の失火を容易且つより高い精度で判定することができる。
【0020】
(6)本発明の、別の観点による車両は、(1)~(5)のいずれか1の不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置と、
前記不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置によって失火が判定される不等間隔燃焼エンジンとを備える。
【0021】
(6)の構成によれば、不等間隔燃焼エンジンの特定気筒の様々な態様の失火を高い精度で判定することができる。
【0022】
本明細書にて使用される専門用語は特定の実施例のみを定義する目的であって発明を制限する意図を有しない。
本明細書にて使用される用語「および/または」はひとつの、または複数の関連した列挙された構成物のあらゆるまたはすべての組み合わせを含む。
本明細書中で使用される場合、用語「含む、備える(including)」「含む、備える(comprising)」または「有する(having)」およびその変形の使用は、記載された特徴、工程、操作、要素、成分および/またはそれらの等価物の存在を特定するが、ステップ、動作、要素、コンポーネント、および/またはそれらのグループのうちの1つまたは複数を含むことができる。
本明細書中で使用される場合、用語「取り付けられた」、「接続された」、「結合された」および/またはそれらの等価物は広く使用され、直接的および間接的な取り付け、接続および結合の両方を包含する。
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
一般的に使用される辞書に定義された用語のような用語は、関連する技術および本開示の文脈における意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書で明示的に定義されていない限り、理想的または過度に形式的な意味で解釈されることはない。
本発明の説明においては、技術および工程の数が開示されていると理解される。
これらの各々は個別の利益を有し、それぞれは、他の開示された技術の1つ以上、または、場合によっては全てと共に使用することもできる。
したがって、明確にするために、この説明は、不要に個々のステップの可能な組み合わせをすべて繰り返すことを控える。
それにもかかわらず、明細書および特許請求の範囲は、そのような組み合わせがすべて本発明および請求項の範囲内にあることを理解して読まれるべきである。
本明細書では、新しい不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置について説明する。
以下の説明では、説明の目的で、本発明の完全な理解を提供するために多数の具体的な詳細を述べる。
しかしながら、当業者には、これらの特定の詳細なしに本発明を実施できることが明らかである。
本開示は、本発明の例示として考慮されるべきであり、本発明を以下の図面または説明によって示される特定の実施形態に限定することを意図するものではない。
【0023】
本発明における失火は、エンジン内の混合気が正常に燃焼しない現象である。ガソリンエンジンにおける混合気の供給、圧縮、及び点火火花が正常に実施された場合に正常な燃焼が行われる。混合気の供給、圧縮、点火火花の一つまたは複数に異常があると、正常な燃焼が行われない。本発明における失火は、より詳細には、混合気、圧縮、及び点火火花の一つまたは複数に異常があるため、混合気が正常に燃焼しない現象である。
特定気筒の連続失火は、複数気筒のうち、少なくとも1つ以上の気筒が連続して失火する現象である。つまり、連続失火の場合、連続するサイクルで失火が発生する。
特定気筒は、予め特別に選択された気筒を意味しない。特定気筒は任意の気筒である。特定気筒の連続失火は、いずれか任意の気筒において、失火が連続することを意味する。
例えば1つのサイクルで、複数の気筒が順に燃焼行程を経る場合、ある1つのサイクルでこの複数の気筒のいずれにおいても失火が生じる場合、この1つのサイクル内で失火が連続した状態となる。しかし、この前のサイクルでも後のサイクルでも失火が生じない状況は、連続失火とは異なる。各気筒において、失火は連続していないからである。
【0024】
本発明に係る不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置は、連続失火の判定に用いることができる。また、本発明に係る不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置は、連続失火以外の失火の判定に用いることができる。本発明に係る不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置は、例えば連続して生じる燃焼のうちの1回の失火を判定するために用いられてもよい。
【0025】
不等間隔燃焼による変動成分がキャンセルされることは、不等間隔燃焼による変動成分が0になること、及び、不等間隔燃焼による変動成分が、クランク角信号に基づく瞬時回転速度と比べて低減されることの双方を含む。
【0026】
本発明の不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置は回転速度に基づいて失火を判定する。ここで、装置内において回転速度を表す形式は、特に限定されない。即ち、回転速度は、例えば、クランクシャフトが予め定められた角度回転するのに要する時間の形式で表されてもよく、また、時間の逆数として演算される単位時間当たりの回転数又は角度の形式で表されてもよい。
【0027】
本発明において、不等間隔燃焼変動キャンセル値に対応する範囲を決定する自然数mは、例えば1である。ただし、mの値はこれに限られず、例えば2又は3でもよい。
【0028】
不等間隔燃焼エンジンは、複数気筒を有する。不等間隔燃焼エンジンは、複数気筒のそれぞれが、クランク角を基準として不等間隔で燃焼するエンジンである。不等間隔燃焼エンジンは、例えば、ガソリンを燃料とするガソリンエンジンである。複数気筒を有するエンジンには、例えば、2気筒エンジン、3気筒エンジン、及び4以上の気筒を有するエンジンが含まれる。複数気筒を有するエンジンとして、例えば、並列型エンジン、及びV型エンジンが挙げられる。
【0029】
車両は、不等間隔燃焼エンジンに加え、例えば、車輪を有する。車輪には、不等間隔燃焼エンジンから出力される動力を受けて回転する駆動輪が含まれる。車輪の数は、特に限定されない。車両としては、特に限定されず、例えば、四輪自動車、鞍乗型車両などが挙げられる。四輪自動車は、例えば、車室を有する。鞍乗型車両とは、運転者がサドルに跨って着座する形式の車両をいう。鞍乗型車両としては、例えば、自動二輪車、自動三輪車、ATV(All-Terrain Vehicle)が挙げられる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、不等間隔燃焼エンジンについて、様々な失火の態様に適用可能な不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置及び不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置を備えた車両が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の第一実施形態に係る不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置及びその周辺の装置の構成を模式的に示す構成図である。
図2図1に示す失火判定装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図3】不等間隔燃焼エンジンにより回転されるクランクシャフトの回転速度を模式的に示すグラフである。
図4図2に示す失火判定装置の動作を示すフローチャートである。
図5図3に示す回転速度の一部を拡大して示すグラフである。
図6】失火が生じた場合における平準化値の変化を説明するグラフである。
図7】第2気筒で失火が生じた場合及び失火が生じない正常時における回転速度の変化を示すグラフである。
図8】第1気筒で失火が生じた場合、及び失火が生じない正常時における回転速度の変化を示すグラフである。
図9】本発明の第二実施形態に係る不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置及びその周辺の装置の構成を模式的に示す構成図である。
図10図9に示す失火判定装置の動作を示すフローチャートである。
図11】第一~第三実施形態に係る失火判定装置が搭載される鞍乗型車両を示す外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0033】
[第一実施形態]
図1は、本発明の第一実施形態に係る不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置及びその周辺の装置の構成を模式的に示す構成図である。
【0034】
図1に示す不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置10(以降、単に失火判定装置10とも称する。)は、不等間隔燃焼エンジン20の失火を判定する。
不等間隔燃焼エンジン20は、例えば、図11に示す鞍乗型車両50に設けられている。不等間隔燃焼エンジン20は、鞍乗型車両50、より詳細には、鞍乗型車両50の車輪52を駆動する。
本実施形態に係る不等間隔燃焼エンジン20は、4ストロークエンジンである。不等間隔燃焼エンジン20は、複数の気筒20a,20bを有する。図1には、2気筒が示されており、2気筒のうち1気筒の内部構成が示されている。
不等間隔燃焼エンジン20では、各気筒20a,20bにおける燃焼が、クランクシャフトの回転角を基準として不等間隔で実施される。
【0035】
不等間隔燃焼エンジン20は、クランクシャフト21を備えている。クランクシャフト21は不等間隔燃焼エンジン20の動作に伴い回転する。つまり、クランクシャフト21は、不等間隔燃焼エンジン20により回転される。クランクシャフト21には、クランクシャフト21の回転を検出させるための複数の被検出部25が設けられている。被検出部25は、クランクシャフト21の周方向に、クランクシャフト21の回転中心から見て予め定められた配置角度を空けて並んでいる。被検出部25は、クランクシャフト21の回転に伴い移動する。
【0036】
失火判定装置10は、クランクシャフト21の回転速度に基づいて、不等間隔燃焼エンジン20の失火を検出する。
本実施形態の失火判定装置10は、不等間隔燃焼エンジン20の動作を制御する制御装置としての機能も有する。失火判定装置10は、電子制御装置(ECU)である。失火判定装置10は燃焼制御部11を備えている。燃焼制御部11は、不等間隔燃焼エンジン20の燃焼動作を制御する。但し、失火判定装置10は、不等間隔燃焼エンジン20の動作を制御する制御装置と別個に設けられていてもよい。
【0037】
失火判定装置10には、回転センサ105及び表示装置30が接続されている。回転センサ105は、不等間隔燃焼エンジン20のクランクシャフト21の回転速度を得るためのセンサである。回転センサ105は、クランクシャフト21の回転を検出する。回転センサ105は、被検出部25の通過を検出すると信号を出力する。回転センサ105は、不等間隔燃焼エンジン20のクランクシャフト21が配置角度回転する毎に信号を出力する。
失火判定装置10には、表示装置30も接続されている。表示装置30は、失火判定装置10から出力される情報を表示する。
失火判定装置10には、不図示の吸気圧力センサ、燃料噴射装置、及び、点火プラグも接続される。
【0038】
失火判定装置10は、不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部13、不等間隔燃焼変動顕在化値算出部14、及び特定気筒失火判定部15を備えている。また、失火判定装置10は、回転速度取得部12を備えている。
【0039】
図2は、図1に示す失火判定装置10のハードウェア構成を示すブロック図である。
失火判定装置10は、CPU101、記憶部102、及びI/Oポート103を備えている。
CPU101は、制御プログラムに基づいて演算処理を行う。記憶部102は、制御プログラムと、演算に必要な情報とを記憶する。I/Oポート103は、外部装置に対し信号を入出力する。
回転センサ105及び表示装置30(図1参照)は、I/Oポート103に接続されている。
図1に示す回転速度取得部12、不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部13、不等間隔燃焼変動顕在化値算出部14、特定気筒失火判定部15、失火報知部19、及び燃焼制御部11の各部は、制御プログラムを実行するCPU101が、図2に示すハードウェアを制御することによって実現される。
【0040】
図1に示す回転速度取得部12は、回転センサ105の出力に基づいてクランクシャフト21の回転速度(OMG)を得る。クランクシャフト21の回転速度は、不等間隔燃焼エンジン20の回転速度である。回転速度取得部12は、回転センサ105からクランクシャフト21の回転角を表すクランク角信号を得る。回転速度取得部12は、回転センサ105からの信号に基づいて、クランクシャフト21の回転速度を得る。回転速度取得部12は、少なくとも判定角度位置における回転速度を得る。判定角度位置は、検出対象の気筒に応じて設定される。不等間隔燃焼エンジン20は複数の気筒を有するので、720度クランク角度内に複数の判定角度位置が設定されている。回転速度取得部12は、720度クランク角度ごとに、複数の判定角度位置における回転速度を得る。判定角度位置の詳細については後述する。
【0041】
不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部13は、不等間隔燃焼エンジン20の運転中にクランク角信号に基づいて不等間隔燃焼変動キャンセル値(NEOMG)を取得する。不等間隔燃焼変動キャンセル値は、クランクシャフト21の回転速度から不等間隔燃焼による変動成分がキャンセルされた回転速度の値である。不等間隔燃焼変動キャンセル値は、所定の判定角度位置を含む720×m度クランク角度の区間における回転速度である。mは自然数である。本実施形態は、主にmを1として説明する。
具体的には、不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部13は、不等間隔燃焼変動キャンセル値として、判定角度位置を含む720×m度クランク角度の区間における回転速度を取得する。720度クランク角度の範囲に複数の判定角度位置が設定される。従って、不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部13は、720度クランク角度ごとに、複数の不等間隔燃焼変動キャンセル値を取得する。
【0042】
図3は、不等間隔燃焼エンジン20により回転されるクランクシャフト21の回転速度を模式的に示すグラフである。
図3の横軸は、クランクシャフト21の回転角度θを示し、縦軸は回転速度を示す。
図3の実線は、失火が生じていない状態での不等間隔燃焼エンジン20の運転中における回転速度OMGを示している。回転速度OMGは、被検出部25の通過ごとに得られる回転速度OMGを曲線で結ぶことにより生成されている。図3の回転速度OMGは、配置角度ごとの回転速度である。つまり、図3の回転速度OMGは、瞬時回転速度を示している。
図3に示す例において、回転速度OMGは、各気筒20a,20bでの燃焼による増大と、燃焼後の減少を繰り返している。不等間隔燃焼エンジン20(図1参照)では、1サイクルの期間内に、複数の気筒20a,20bのそれぞれにおいて1回の燃焼が生じる。例えば、1サイクルの期間に、第1気筒20aの圧縮上死点(#1TDC)で開始する燃焼と、第2気筒20bの圧縮上死点(#2TDC)で開始する燃焼とがある。
なお、本明細書では、第1気筒20aの圧縮上死点(#1TDC)を1サイクルの区切りとして説明する。
【0043】
不等間隔燃焼エンジン20において、第1気筒20aの圧縮上死点(#1TDC)から、これに続く第2気筒20bの圧縮上死点(#2TDC)までの回転角度は、第2気筒20bの圧縮上死点(#2TDC)から、これに続く第1気筒20aの圧縮上死点(#1TDC)までの回転角度と異なる。不等間隔燃焼エンジン20において、同じサイクル内で第1気筒20aの燃焼による回転速度のピークの高さと、第2気筒20bの燃焼による回転速度のピークの高さは異なる。
【0044】
図3の細かい破線は、第2気筒20bで失火が生じた場合の回転速度OMG’の例を示している。ある気筒で失火が生じると、失火が生じた気筒に対応する回転速度の増加量は、失火が生じない場合と比べて小さい。詳細には、失火が生じた気筒に対応する回転速度は減少する。
【0045】
特定気筒失火判定部15は、基本的には、気筒のそれぞれに応じて設定された判定角度位置における回転速度に基づいて失火を判定する。各判定角度位置は、対応する気筒の燃焼の影響が回転速度に現れ易い角度位置に設定される。
本実施形態の失火判定装置10では、第1気筒に対応する判定角度位置として角度位置t2が設定される。特定気筒失火判定部15は、判定角度位置t2での回転速度に基づいて第1気筒の失火を判定する。また、第2気筒に対応する判定角度位置として角度位置t3が設定される。特定気筒失火判定部15は、判定角度位置t3での回転速度に基づいて第2気筒の失火を判定する。
各気筒に対応する判定角度位置は、1サイクルの中で固定された角度位置である。各気筒に対応する判定角度位置は、不等間隔燃焼エンジン20の1サイクル毎に1回到来する。
【0046】
上述したように、不等間隔燃焼エンジン20では、失火が生じない場合でも、第1気筒20aの燃焼による回転速度のピークの高さと、第2気筒20bの燃焼による回転速度のピークの高さが異なる。
本実施形態の特定気筒失火判定部15は、気筒に対応する判定角度位置での回転速度と、この判定角度位置とは別に設定された基準角度位置における回転速度との差分に基づいて失火を判定する。これによって、複数の気筒に応じた回転速度の違いに起因する判定精度の低下が抑えられる。
【0047】
図3に示す回転速度OMGの変動には、燃焼に起因する増加と減少の繰返し及び不等間隔燃焼に起因するピークの高さの違いとは別の変動が含まれている。例えば、図3には、第1気筒20aの燃焼による複数のピークが表れている。第1気筒20aの燃焼によるピークの高さは徐々に増加している。このような回転速度の変動は、例えば運転者の操作による吸入空気量の変動、又は、エンジンに掛かる負荷の変動に起因している。
このように、不等間隔燃焼に起因する変動には、破線NEOMGに示すような変動が含まれている。この場合、気筒毎のピークの高さの違いによる影響を判定から除去しようとしても、この影響が適切に除去されにくい。このため、不等間隔燃焼エンジン20における失火判定の精度が低下してしまう。
【0048】
本実施形態の失火判定装置10は、図1に示す不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部13、及び、不等間隔燃焼変動顕在化値算出部14によって、不等間隔燃焼による回転速度の変動を顕在化している。
【0049】
不等間隔燃焼変動顕在化値算出部14は、まず、判定角度位置における回転速度OMGから不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部13で取得された不等間隔燃焼変動キャンセル値NEOMGを除去する。不等間隔燃焼変動キャンセル値NEOMGは、上述したように、判定角度位置を含む720×m度クランク角度の区間における回転速度である。判定角度位置における回転速度から不等間隔燃焼変動キャンセル値を除去することにより、不等間隔燃焼変動顕在化値算出部14は、不等間隔燃焼による変動成分が顕在化された不等間隔燃焼変動顕在化値AOMG(AOMG1C,AOMG2C)を算出する。
【0050】
特定気筒失火判定部15は、不等間隔燃焼エンジン20の運転中に不等間隔燃焼変動顕在化値算出部14で算出された不等間隔燃焼変動顕在化値AOMGに基づいて、失火を判定する。
特定気筒失火判定部15は、差分算出部16、平準化処理部17、及び判定部18を備えている。差分算出部16、平準化処理部17、及び判定部18の詳細については後述する。
【0051】
図4は、図2に示す失火判定装置10の動作を示すフローチャートである。
失火判定装置10は、図4に示す各処理を繰り返し実行する。
【0052】
失火判定装置10において、まず、燃焼制御部11が不等間隔燃焼エンジン20の燃焼動作を制御する(S11)。次に、回転速度取得部12が不等間隔燃焼エンジン20のクランクシャフト21の回転速度OMGを得る(S12)。次に、不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部13が、不等間隔燃焼変動キャンセル値NEOMGを取得する。(S13)。次に、不等間隔燃焼変動顕在化値算出部14が、判定角度位置における回転速度OMGから不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部13で取得された不等間隔燃焼変動キャンセル値NEOMGを除去することによって、不等間隔燃焼変動顕在化値AOMGを算出する(S14)。不等間隔燃焼変動顕在化値AOMGは、不等間隔燃焼変動を顕在化する回転速度である。次に、特定気筒失火判定部15が、不等間隔燃焼エンジン20の特定気筒の失火を判定する(S15)。より詳細には、ステップS15内で、差分算出部16が、異なる角度位置について取得された回転速度の差分を算出する(S16)。次に、平準化処理部17が差分を平準化する。次に、判定部18が、平準化された差分に基づき失火の有無を判定する(S18)。
回転速度取得部12、不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部13、特定気筒失火判定部15、差分算出部16、平準化処理部17、及び判定部18のそれぞれは、各部で処理する対象のデータが処理可能となった時にデータの処理を実行する。
特定気筒失火判定部15が、特定気筒の失火が生じたと判定した場合(S18でYes)、失火報知部19が失火有りの報知を行う(S19)。特定気筒失火判定部15が失火有りと判定しない場合(S18でNo)、失火報知部19は報知を行わない。
【0053】
なお、燃焼制御部11、回転速度取得部12、不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部13、特定気筒失火判定部15、及び失火報知部19が動作する順は、図4に示す順に限られない。また、いくつかの部分の処理は、一つの値を得るための式の演算としてまとめて実施されてもよい。また、必ずしも、特定気筒失火判定部15が失火有りと判定するごとに失火報知部19が失火有りの報知を行う必要はない。例えば、特定気筒失火判定部15により失火有りの判定が行われるごとに、特定気筒失火判定部15が失火有りの判定結果を記憶しておき、特定気筒失火判定部15が記憶した失火有りの判定結果が所定の条件を満たした場合に、失火報知部19が失火有りの報知を行ってもよい。
【0054】
続いて、図1及び図3を参照して各部の詳細を説明する。
[回転速度取得部]
回転速度取得部12は、回転センサ105(図1参照)からの信号に基づいて、クランクシャフト21の回転速度を得る。回転速度取得部12は、回転センサ105からの信号が出力される時間間隔を計測することによって回転速度を得る。また、回転速度取得部12は、回転センサ105からの信号によって、クランクシャフト21の角度位置を得る。
【0055】
失火判定装置10では、1サイクル内で複数の気筒に対応して複数の判定角度位置が設定される。従って、回転速度取得部12は、1サイクル内で、複数の判定角度位置について、回転速度を取得する。例えば、本実施形態の回転速度取得部12は、2つの気筒20a,20bに対応して、1サイクル内で2つの判定角度位置t2,t3における回転速度OMG1C,OMG2Cを取得する。
【0056】
回転速度取得部12は、例えば、角度位置t2における回転速度OMGとして、この角度位置t2に対応する被検出部25から隣の被検出部25までの配置角度に対応する回転速度OMG1Cを取得する。この場合、判定角度位置t2に対応する回転速度OMG1Cとして、瞬時回転速度が得られる。
但し、回転速度取得部12は、角度位置t2における回転速度OMG1Cとして、3つ以上の被検出部25の検出に相当する期間での回転速度を取得することが可能である。つまり、回転速度取得部12は、回転速度OMG1Cとして、複数の配置角度に亘る区間に対応する回転速度を取得してもよい。つまり、回転速度取得部12は、判定角度位置における回転速度として、判定角度位置を含む所定の角度範囲における回転速度を取得してもよい。例えば、回転速度取得部12は、判定角度位置を中心とした360度の範囲における回転速度を、判定角度位置t2における回転速度として取得してもよい。この場合、回転速度取得部12は、判定角度位置t2に対応する被検出部25よりも180度前に配置された被検出部25が回転センサ105で検出された時(t1)から、クランクシャフト21の1回転後に同じ被検出部25が検出される時(t3)までの時間間隔に基づいて回転速度を取得する。この場合、1つの被検出部25を2回検出することによって回転速度が取得される。
【0057】
本実施形態の回転速度取得部12は、判定角度位置とは別の基準角度位置における回転速度を取得する。1つの判定角度位置ごとに1つの基準角度位置が設定される。
ある気筒に対応する判定角度位置とは別の位置に基準角度位置が設定される。但し、ある気筒に対応する基準角度位置は、別の気筒に対応する判定角度位置と同じであってもよい。例えば、本実施形態における第2気筒20bに対応する基準角度位置は、第1気筒20aに対応する判定角度位置t2と同じである。また、本実施形態における第1気筒20aに対応する基準角度位置は、前のサイクルにおける、第2気筒20bに対応する判定角度位置t1と同じである。
本実施形態では、1サイクル当たり2つの位置の回転速度によって、2気筒のそれぞれに対する判定角度位置の回転速度と基準角度位置の回転速度をカバーすることができる。
【0058】
判定角度位置に対応する基準角度位置は、基準角度位置での回転速度から基準角度位置を中心とする720度クランク角度の区間における回転速度(基準変動キャンセル値)を除去した値を考慮して予め設定される。詳細には、基準角度位置は、この基準角度位置における回転速度から、基準変動キャンセル値を除去した値が、失火の発生時における判定角度位置での不等間隔燃焼変動顕在化値と正負において反対となるような位置である。
例えば、図3における細かい破線は、第2気筒20bで失火が生じた場合の回転速度OMG’を示す。第2気筒20bの判定角度位置t3に対応する基準角度位置はt2に設定される。基準角度位置t2における回転速度OMG1Cから、基準角度位置t2を中心とする720度クランク角度の区間における基準変動キャンセル値NEOMG1Cを除去した値(OMG1C-NEOMG1C)は正である。これに対し、第2気筒20bの判定角度位置t3における不等間隔燃焼変動顕在化値(OMG2C’-NEOMG2C)は負である。
【0059】
なお、上述した例では、基準角度位置が判定角度位置と同じ位置に設定されているが、基準角度位置はこれに限られない。例えば、ある1つの気筒に対応する判定角度位置に対する基準角度位置は、別の気筒に対応する判定角度位置と異なっていてもよい。
【0060】
[不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部]
不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部13は、不等間隔燃焼変動キャンセル値として、判定角度位置を含む720度クランク角度の区間における回転速度を取得する。
本実施形態の不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部13は、複数の判定角度位置t2,t3のそれぞれを中心とする720度クランク角度の区間における回転速度NEOMG1C、NEOMG2Cを取得する。
例えば、不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部13は、図3において、第1気筒20aに対応する判定角度位置t2を中心とする720度クランク角度の区間LN1Cにおける回転速度NEOMG1Cを取得する。判定角度位置t2を中心とする720度クランク角度の区間LN1Cは、角度位置t1からt3までの区間である。また、不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部13は、第2気筒20bに対応する判定角度位置t3を中心とする720度クランク角度の区間LN2Cにおける回転速度NEOMG2Cを取得する。判定角度位置t3を中心とする720度クランク角度の区間LN2Cは、角度位置t2からt4までの区間である。
【0061】
図5は、図3に示す回転速度の一部を拡大して示すグラフである。
図5には、図3の回転速度OMGの一部が横軸を拡大して示されている。図5の横軸は、図3と同じくクランクシャフト21の回転角度である。ただし、図5の横軸には、クランクシャフト21に設けられた各被検出部25を識別するための番号が表示されている。番号は奇数で表示されている。例えば、第1気筒20aに対応する判定角度位置t2には、27番の被検出部25が対応する。なお、番号25~47の被検出部25は、番号1~23の被検出部25とそれぞれ同じである。1サイクル即ちクランクシャフト21の2回転における回転角度位置を区別するため、これらの被検出部25には別の番号が割り当てられている。
【0062】
また、図5には、不等間隔燃焼変動キャンセル値NEOMG1C,NEOMG2Cに対応するクランク角の範囲が示されている。
不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部13は、第2気筒20bに対応する判定角度位置t3を含む720度クランク角度の区間LN2Cにおける回転速度NEOMG2Cを取得する。具体的には、不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部13は、27番の被検出部25の角度位置(t2)から、次に検出される27番の被検出部25の角度位置(t4)までの回転速度を取得する。取得された回転速度は、第2気筒20bに対応する不等間隔燃焼変動キャンセル値NEOMG2Cである。つまり、不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部13は、27番(3番でもある)の被検出部25が連続して3回通過する時間に基づいて、不等間隔燃焼変動キャンセル値NEOMG2Cを取得する。
また、不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部13は、第1気筒20aに対応する判定角度位置t2を含む720度クランク角度の区間LN1Cにおける回転速度NEOMG1Cを取得する。具体的には、不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部13は、3番の被検出部25の角度位置(t1)から、次に検出される3番の被検出部25の角度位置(t3)までの回転速度を取得する。取得された回転速度は、第1気筒20aに対応する不等間隔燃焼変動キャンセル値NEOMG1Cである。つまり、不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部13は、3番(27番でもある)の被検出部25が連続して3回通過する時間に基づいて不等間隔燃焼変動キャンセル値NEOMG1Cを取得する。
【0063】
ここで、図5を参照して回転速度取得部12による回転速度の取得についても説明する。
回転速度取得部12は、第1気筒20aに対応する判定角度位置t2の回転速度OMG1Cとして、例えば、25番の被検出部25の角度位置から27番の被検出部25の角度位置までの回転速度OMG1Cを取得する。
但し、回転速度取得部12は、回転速度OMG1Cとして、15番の被検出部25の角度位置から39番の被検出部25の角度位置まで360度に亘る回転速度を取得することも可能である。15番の被検出部25と39番の被検出部25は同じである。従ってこの場合、回転速度取得部12は、15番(39番でもある)の被検出部25が連続して2回通過する時間に基づいて、判定角度位置t2の回転速度OMG1Cを取得する。
また、回転速度取得部12は、第2気筒20bに対応する判定角度位置t3の回転速度OMG2Cとして、例えば、1番の被検出部25の角度位置から3番の被検出部25の角度位置までの回転速度OMG2Cを取得する。但し、回転速度取得部12は、回転速度OMG2Cとして、39番の被検出部25の角度位置から15番の被検出部25の角度位置まで360度に亘る回転速度を取得することも可能である。
【0064】
再び図3を参照して、不等間隔燃焼変動キャンセル値を説明する。
図3に示す回転速度NEOMGは、各回転角度θにおいて、各回転角度θを中心とする720度クランク角度の区間における回転速度を示している。
不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部13は、判定角度位置t2についての不等間隔燃焼変動キャンセル値NEOMG1Cとして、判定角度位置t2を中心とする720度クランク角度の区間LN1Cにおける回転速度を取得する。また、不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部13は、判定角度位置t3についての不等間隔燃焼変動キャンセル値NEOMG1Cとして、判定角度位置t3を中心とする720度クランク角度の区間LN2Cにおける回転速度を取得する。
【0065】
上述したように、不等間隔燃焼エンジン20が有する各気筒の燃焼の間隔は等しくない。しかし、不等間隔燃焼エンジン20が有する気筒のいずれも、720度クランク角度で1サイクルの動作が完了する。従って、720度クランク角度の区間における回転速度である不等間隔燃焼変動キャンセル値NEOMGは、不等間隔燃焼による変動成分がキャンセルされた値である。また、不等間隔燃焼変動キャンセル値NEOMGが取得される720度クランク角度の区間は、判定角度位置(例えばt2,t3)をそれぞれ含んでいる。このため、不等間隔燃焼変動キャンセル値NEOMGに判定角度位置を含む区間の状態が反映される。
【0066】
本実施形態の不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部13はさらに、基準角度位置についても、720度クランク角度の区間における回転速度を基準変動キャンセル値として取得する。但し上述したように、本実施形態では、1つの気筒(例えば第2気筒20b)に対応する基準角度位置(t2)が、別の気筒(第1気筒20a)に対応する判定角度位置(t2)と同じである。従って、各判定角度位置における不等間隔燃焼変動キャンセル値の取得によって、別の気筒に対応する基準角度位置における基準変動キャンセル値も取得されることとなる。
【0067】
[不等間隔燃焼変動顕在化値算出部]
不等間隔燃焼変動顕在化値算出部14は、判定角度位置における回転速度OMGから不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部13で取得された不等間隔燃焼変動キャンセル値NEOMGを除去する。これにより、不等間隔燃焼変動顕在化値算出部14は、不等間隔燃焼変動顕在化値AOMG(AOMG1C,AOMG2C)を算出する。不等間隔燃焼変動顕在化値AOMGは、不等間隔燃焼による変動成分が顕在化された値である。
【0068】
不等間隔燃焼変動顕在化値算出部14は、基準角度位置における回転速度についても、不等間隔燃焼変動キャンセル値を除去する。基準角度位置における回転速度から不等間隔燃焼変動キャンセル値を除去された値は基準変動顕在化値AOMGである。但し、本実施形態では、1つの気筒に対応する判定角度位置に対する基準角度位置が、別の気筒に対応する判定角度位置と同じである。従って、本実施形態では、判定角度位置における不等間隔燃焼変動顕在化値AOMGを算出することにより、基準角度位置についても不等間隔燃焼変動キャンセル値が除去された基準変動顕在化値AOMGが求められることとなる。
各角度位置の回転速度OMGからその位置に対応する不等間隔燃焼変動キャンセル値NEOMGが除去されることによって、アクセル操作及び加速及び減速による変動が除去される。
上述した不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部13が、720度(720×m、m=1)クランク角度の区間における回転速度を取得することによって、アクセル操作及び加速及び減速による変動が燃焼変動キャンセル値NEOMGに、より高い精度で反映される。この結果、回転速度OMGから不等間隔燃焼変動キャンセル値NEOMGを除去することにより算出された不等間隔燃焼変動顕在化値AOMGにおいて、アクセル操作及び加速及び減速による変動の影響がより多く除去される。
【0069】
[特定気筒失火判定部]
特定気筒失火判定部15は、不等間隔燃焼エンジン20の運転中に不等間隔燃焼変動顕在化値算出部14で算出された不等間隔燃焼変動顕在化値に基づいて失火を判定する。本実施形態の特定気筒失火判定部15は、差分算出部16、平準化処理部17、及び判定部18の処理によって失火を判定する。
以下に説明する差分算出部16、平準化処理部17、及び判定部18の構成及び動作は、特定気筒失火判定部15の構成及び動作と見なすことができる。
【0070】
差分算出部16は、不等間隔燃焼変動顕在化値と、基準変動顕在化値との差を算出する。
例えば、第2気筒20bについての失火を判定する場合、差分算出部16は、第2気筒20bについての不等間隔燃焼変動顕在化値(OMG2C-NEOMG2C)と第2気筒20bについての基準変動顕在化値(OMG1C-NEOMG1C)との差NDOMG2Cを算出する。本実施形態では、第2気筒20bについての基準角度位置は、第1気筒についての判定角度位置t2と同じである。従って、第2気筒についての基準変動顕在化値は、第1気筒についての不等間隔燃焼変動顕在化値(OMG1C-NEOMG1C)と同じである。
算出される差は、2つの異なる位置についての回転速度の差分であるので1階差分と称する。
【0071】
詳細には下の式に基づいて1階差分が算出される。
NDOMG2C=(OMG1C-NEOMG1C)-(OMG2C-NEOMG2C)
ここで、
OMG2C:判定角度位置における回転速度
NEOMG2C:判定角度位置における不等間隔燃焼変動キャンセル値
OMG1C:基準角度位置における回転速度
NEOMG1C:基準角度位置における不等間隔燃焼変動キャンセル値
【0072】
また、第1気筒20aについての失火を判定する場合、差分算出部16は、第1気筒20aについての不等間隔燃焼変動顕在化値と第1気筒20aについての基準変動顕在化値との1階差分NDOMG1Cを算出する。なお、第1気筒20aについての基準角度位置t1は第1気筒20aについての判定角度位置t2より前の位置である。
【0073】
第1気筒20aについて、下の式に基づいて1階差分が算出される。
NDOMG1C=(OMG2C-NEOMG2C)-(OMG1C-NEOMG1C)
【0074】
平準化処理部17は、差分算出部16で順次算出される不等間隔燃焼変動顕在化値と基準変動顕在化値との差(1階差分)を気筒毎に平準化する。例えば、差分算出部16は、第1気筒20aについて算出される1階差分を、不等間隔燃焼エンジン20の1サイクルにつき1つ算出する。平準化処理部17は、算出される1階差分の値を累積的に平準化する。
平準化の算出処理としては、例えば、指数移動平均処理(なまし処理)が用いられる。 具体的には、平準化処理部17は、差分算出部16により算出された差分を記憶部102(図2参照)に記憶するとともに、差分算出部16により算出された1階差分及び以前の判定時に記憶部102に記憶された値により平均値を算出する。
平準化処理によって、例えばクランクシャフト21の回転に対する外乱の影響を抑え、連続して生じる失火をより高い精度で判別することができる。
【0075】
判定部18は、平準化処理部17で算出された平準化値に基づいて、失火を判定する。判定部18は、平準化処理部17で算出された平準化値が所定の基準値を超えた場合、対応する気筒に失火が生じたと判定する。判定部18は、失火が生じたと判定した数をカウントする。基準値は、失火判定装置10に予め記憶された値である。基準値はマップで構成されている。基準値は、例えば、対象の気筒、回転速度、及び不等間隔燃焼エンジン20の吸気圧に対応づけられたマップで構成されている。
判定部18は、平準化処理部17で算出された平準化値が、気筒、回転速度、及び吸気圧に応じて選択された基準値を超えている場合に、対応する気筒で失火があったと判定する。
【0076】
図6は、失火が生じた場合における平準化値の変化を説明するグラフである。
図6の横軸は、不等間隔燃焼エンジン20の動作サイクル数を示す。グラフの実線は、平準化処理部17の処理によって得られる平準化値NDOMGを示す。
第1気筒20aで連続失火が発生すると、平準化処理部17における平準化処理によって、動作に伴い平準化値NDOMGが徐々に増大する。
平準化値NDOMGが基準値を超えると、判定部18は、この平準化値NDOMGに対応する気筒で、連続失火が生じたと判定する。判定部18は、平準化値NDOMGが基準値を超えた数をカウントする。従って、図6に示す例では、平準化値NDOMGが基準値を超えた後、サイクル数の増加に伴いカウント値が増加する。カウント値は、失火が生じた回数を概略的に示す。
【0077】
このようにして、図1に示す特定気筒失火判定部15は、不等間隔燃焼変動顕在化値算出部14で算出された不等間隔燃焼変動顕在化値AOMGに基づいて、不等間隔燃焼エンジン20が有する複数気筒のうちの特定気筒の失火を判定する。
【0078】
[失火報知部]
失火報知部19は、特定気筒失火判定部15により判定された失火の有無を報知する。失火報知部19は、特定気筒失火判定部15により失火有りと判定された場合には、表示装置30(図1参照)に失火有りの表示を行わせる。また、失火報知部19は、失火が生じた数として、判定部18によってカウントされたカウント値を表示装置30に表示させる。
【0079】
本実施形態では、気筒20a,20bに対応する判定角度位置t2,t3における回転速度OMG1C,OMG2Cから不等間隔燃焼変動キャンセル値NEOMG1C,NEOMG2Cが除去されることによって、不等間隔燃焼変動顕在化値AMOG(AOMG1C=OMG1C-NEOMG1C,AOMG2C=OMG2C-NEOMG2C)が算出される。
不等間隔燃焼変動顕在化値(AOMG)には、判定角度位置を含む区間での燃焼の状態が高い精度で反映される。このため、不等間隔燃焼変動顕在化値には、失火が発生した場合の変動がより顕著に表れる。
【0080】
図7は、第2気筒で失火が生じた場合及び失火が生じない正常時における回転速度の変化を示すグラフである。
図7のパート(A)は、不等間隔燃焼変動顕在化値算出部14による処理が行われた後の回転速度(不等間隔燃焼変動顕在化値)AOMGを示す。図7のパート(B)は、不等間隔燃焼変動顕在化値算出部14による処理が行われる前の回転速度OMGを示す。図7には、複数サイクルの回転速度の測定値が重ねて示されている。図7は、不等間隔燃焼による変動の顕在化を説明するため、失火判定装置10が実際に回転速度を取得する位置に限られず、連続的な角度位置範囲における回転速度の変化を示している。なお、図7には、回転速度OMGとして回転角度毎に、この角度を中心とする360度の角度範囲における回転速度が示されている。グラフの破線は失火が生じた場合の回転速度を示し、実線は失火が生じない正常時の回転速度を示している。
【0081】
図7のパート(B)に示すように、不等間隔燃焼変動顕在化値算出部14による処理が行われる前の回転速度OMG,OMG’は、回転速度の変動範囲が大きい。
例えば、正常時における処理が行われる前の回転速度OMGは、1サイクル内で燃焼に起因した増大及び減少の繰返しを有している。また、失火が生じた場合、第2気筒に対応する判定角度位置t3での回転速度OMG’は、正常時と比べ減少している傾向を有する。しかし、不等間隔燃焼変動顕在化値算出部14による処理が行われる前の回転速度OMG,OMG’は、サイクルの期間を超える大きな変動(ばらつき)を有する。このため、処理が行われる前の回転速度OMG,OMG’のみを用いた場合、失火の判定の精度が低い。
【0082】
これに対し、図7のパート(A)に示すように、不等間隔燃焼変動顕在化値算出部14によって処理された回転速度AOMG,AOMG’では、サイクル毎のばらつきが抑制されている。
この結果、回転速度(不等間隔燃焼変動顕在化値)AOMG,AOMG’では、不等間隔燃焼による変動がより顕在化している。不等間隔燃焼変動が顕在化した回転速度AOMG,AOMG’を用いることにより、第2気筒に対応する判定角度位置t3での値の減少が高い精度で判定できる。
特に、第2気筒20bで失火が生じる場合、第2気筒20bに対応する判定角度位置t3における回転速度AOMG’と、判定角度位置t3に対応する基準角度位置t2における回転速度AOMG’との1階差分は、失火が生じない場合の回転速度AOMGにおける1階差分よりも大きい。
このように、不等間隔燃焼変動顕在化値算出部14により不等間隔燃焼による変動が顕在化した回転速度AOMGに基づいて、不等間隔燃焼エンジン20の第2気筒20bの失火を高い精度で判定することができる。
さらに、本実施形態の失火判定装置10では、不等間隔燃焼による変動が顕在化した回転速度AOMGを用い、判定角度位置t3における回転速度と基準角度位置t2における回転速度の1階差分に基づいて、失火を判定する。このため、不等間隔燃焼エンジン20の第2気筒20bの失火をより高い精度で判定することができる。
【0083】
図8は、第1気筒で失火が生じた場合、及び失火が生じない正常時における回転速度の変化を示すグラフである。
図8のパート(A)は、不等間隔燃焼変動顕在化値算出部14による処理が行われた後の回転速度を示す。図8のパート(B)は、不等間隔燃焼変動顕在化値算出部14による処理が行われる前の回転速度を示す。
第1気筒20aで失火が生じた場合でも、図8のパート(A)に示すように、不等間隔燃焼変動顕在化値算出部14による処理が行われた回転速度AOMG,AOMG’では、サイクル毎のばらつきが抑制されている。
従って、不等間隔燃焼変動顕在化値算出部14により不等間隔燃焼による変動が顕在化した回転速度AOMGに基づいて、不等間隔燃焼エンジン20の第1気筒20aの失火を高い精度で判定することができる。
さらに、本実施形態の失火判定装置10では、不等間隔燃焼による変動が顕在化した回転速度AOMGを用い、判定角度位置t3における回転速度と基準角度位置t2における回転速度との1階差分に基づいて、失火を判定する。このため、不等間隔燃焼エンジン20の第1気筒20aの失火をより高い精度で判定することができる。
【0084】
[第二実施形態]
図9は、本発明の第二実施形態に係る不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置及びその周辺の装置の構成を模式的に示す構成図である。
本実施形態の不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置210(失火判定装置210)は、第一実施形態と同様に、特定気筒失火判定部215を備えている。但し、特定気筒失火判定部215は、差分算出部及び平準化処理部を備えていない。
図10は、図9に示す失火判定装置210の動作を示すフローチャートである。
本実施形態では、差分算出部及び平準化処理部による処理は行われない。また、判定部218の処理(S218)が、第一実施形態の場合と異なる。第二実施形態におけるこの他の点は、第一実施形態と同じである。従って、第二実施形態の説明では、第一実施形態についての図面を流用し、第一実施形態と同じ符号を用いる。
【0085】
本実施形態の特定気筒失火判定部215は、第一実施形態で実施された1階差分の算出を行わない。
特定気筒失火判定部215の判定部218は、不等間隔燃焼変動顕在化値算出部14で算出された不等間隔燃焼変動顕在化値AOMGと、所定の基準値との比較に基づいて失火を判定する。
不等間隔燃焼変動顕在化値算出部14は、判定角度位置t3(図3参照)における不等間隔燃焼変動顕在化値AOMG2Cを下の式に基づいて算出する。
AOMG2C=OMG2C-NEOMG2C
【0086】
特定気筒失火判定部215の判定部218は、算出された不等間隔燃焼変動顕在化値AOMG2Cが所定の基準値を超えているか否かに基づいて失火を検出する。基準値は、失火判定装置10に予め記憶された値である。ここで、基準値はマップで構成されている。詳細には基準値は、例えば、対象の気筒、回転速度、及び不等間隔燃焼エンジン20の吸気圧に対応づけられたマップで構成されている。
判定部218は、不等間隔燃焼変動顕在化値AOMG2Cが、気筒、回転速度、及び吸気圧に応じて選択された基準値を超えている場合に、対応する気筒で失火があったと判定する。
【0087】
本実施形態によれば、不等間隔燃焼変動顕在化値算出部14により不等間隔燃焼による変動が顕在化した回転速度AOMGに基づいて、不等間隔燃焼エンジン20の特定の気筒の失火を高い精度で判定することができる。
また、本実施形態によれば、連続失火及び単発失火の発生を判定することができる。
【0088】
[第三実施形態]
続いて、本発明の第三実施形態について説明する。
本実施形態の不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置は、特定気筒失火判定部15における差分算出部16の動作が、第一実施形態と異なる。本実施形態におけるこの他の点は、第一実施形態と同じである。従って、本実施形態の説明では、第一実施形態についての図面を流用し、第一実施形態と同じ符号を用いる。
【0089】
本実施形態における差分算出部16は、いわゆる2階差分を算出する。
差分算出部16は、第一実施形態と同じく、第2気筒20bについての不等間隔燃焼変動顕在化値(OMG2C-NEOMG2C)と基準変動顕在化値(OMG1C-NEOMG1C)との差NDOMG2Cを算出する。差分算出部16は、更に、算出した差NDOMG2Cと、1サイクル前に算出した差NDOMG2Cとの差を算出する。即ち、差分算出部16は、2階差分を算出する。
特定気筒失火判定部15は、算出した2階差分に基づいて、第2気筒20bについて失火を判定する。2階差分に基づいて失火を判定することにより、失火の発生をより高い精度で判定することができる。
【0090】
以上、第一実施形態から第三実施形態まで説明したが、これらの実施形態は組合せることが可能である。例えば、第一実施形態の差分算出部16と、第二実施形態の差分算出部216との双方を備えることにより、連続失火及び単発失火の両方を高い精度で判定することができる。また、例えば、第一実施形態の差分算出部16と、第三実施形態の差分算出部16との双方を備えることも可能である。
【0091】
また、第一実施形態から第三実施形態まで、2気筒エンジンにおける失火判定を説明したが、これらの失火判定は3つ以上の気筒を有する不等爆燃焼エンジンにも適用可能である。
例えば、4気筒エンジンの場合、4つの判定角度位置について、回転速度及び不等間隔燃焼変動キャンセル値が取得される。なお、基準角度位置における回転速度及び不等間隔燃焼変動キャンセル値を用いて失火を判定する場合、一部又はすべての基準角度位置は、判定角度位置と同じであってよい。
【0092】
[鞍乗型車両]
図11は、第一~第三実施形態に係る失火判定装置10(210)が搭載される鞍乗型車両を示す外観図である。
鞍乗型車両50は、運転者がサドルに跨って着座する形式の車両をいう。
図11に示す鞍乗型車両50は、自動二輪車である。図11に示す鞍乗型車両50は、車体51及び複数の車輪52を備えている。車体51は車輪52を支持している。図11に示す2つの車輪52は、鞍乗型車両50の車体51に対して、鞍乗型車両50の前後方向Xに並んで配置されている。
車体51には、失火判定装置10、及び不等間隔燃焼エンジン20が設けられている。不等間隔燃焼エンジン20は、車輪52を駆動する。不等間隔燃焼エンジン20の駆動力は、変速機58及びチェーン59を介して、車輪52に伝達される。鞍乗型車両50は、左右に対を成す駆動輪を備えておらず、一般的な自動車等が駆動輪に有するようなデファレンシャルギアを備えていない。
【0093】
失火判定装置10は、不等間隔燃焼エンジン20の制御を行う。また、失火判定装置10は、不等間隔燃焼エンジン20により回転されるクランクシャフト21(図1参照)の回転速度に基づいて、不等間隔燃焼エンジン20の失火を検出する。
【符号の説明】
【0094】
10,210 不等間隔燃焼エンジン用失火判定装置
12 回転速度取得部
13 不等間隔燃焼変動キャンセル値取得部
14 不等間隔燃焼変動顕在化値算出部
15,215 特定気筒失火判定部
19 失火報知部
20 不等間隔燃焼エンジン
21 クランクシャフト
50 鞍乗型車両

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11