(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-11
(45)【発行日】2023-01-19
(54)【発明の名称】エンジン用失火判定装置及び車両
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20230112BHJP
【FI】
F02D45/00 368Z
F02D45/00 362
(21)【出願番号】P 2017212401
(22)【出願日】2017-11-02
【審査請求日】2020-07-30
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】堀田 実
(72)【発明者】
【氏名】野々垣 芳彦
(72)【発明者】
【氏名】木下 久寿
(72)【発明者】
【氏名】荒牧 耀
(72)【発明者】
【氏名】岩本 一輝
【合議体】
【審判長】山本 信平
【審判官】木村 麻乃
【審判官】鈴木 充
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-70255(JP,A)
【文献】国際公開第2016/194953(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数気筒とクランクシャフトを有するエンジンの失火を前記クランクシャフトの回転角を表すクランク角信号に基づいて判定するエンジン用失火判定装置であって、
前記エンジンの運転中に前記クランク角信号に基づいて、720度クランク角度ごとに、前記複数気筒のそれぞれについて設定された第1角度位置を所定の
定位置と
して含む720×m度クランク角度の区間における回転速度である、燃焼による変動成分がキャンセルされた第1燃焼変動キャンセル値を取得するとともに、前記第1角度位置とは別の位置であり且つ前記第1角度位置から1サイクル未満離れた第2角度位置を所定の
定位置と
して含む720×m度クランク角度の区間における回転速度である、前記燃焼による変動成分がキャンセルされた第2燃焼変動キャンセル値を取得し、mは自然数である、燃焼変動キャンセル値取得部と、
前記エンジンの運転中に前記クランク角信号に基づいて、前記第1角度位置における回転速度から、前記第1角度位置を所定の
定位置と
して含む720×m度クランク角度の区間における回転速度である、前記燃焼変動キャンセル値取得部で取得された前記第1燃焼変動キャンセル値を
減算することにより、前記変動成分が顕在化された第1変動顕在化値を算出するとともに、前記第2角度位置における回転速度から、前記第2角度位置を所定の
定位置と
して含む720×m度クランク角度の区間における回転速度である、前記燃焼変動キャンセル値取得部で取得された前記第2燃焼変動キャンセル値を
減算することにより、前記変動成分が顕在化された第2変動顕在化値を算出する燃焼変動顕在化値算出部と、
前記エンジンの運転中に前記燃焼変動顕在化値算出部で前記第1角度位置における回転速度から前記第1角度位置を所定の
定位置と
して含む720×m度クランク角度の区間における回転速度を
減算することにより算出された前記第1変動顕在化値と、前記第2角度位置における回転速度から前記第2角度位置を所定の
定位置と
して含む720×m度クランク角度の区間における回転速度を
減算することにより算出された前記第2変動顕在化値との1階差分を算出する1階差分算出部と、
前記第1変動顕在化値と前記第2変動顕在化値との前記1階差分から2階差分を算出することなしに前記1階差分
が、前記エンジン用失火判定装置に
記憶された所定の基準値を
超えているか否かに応じて、前記エンジンが有する前記複数気筒のうち
前記第1角度位置が設定された特定気筒の失火を判定する特定気筒失火判定部と、
を備えたエンジン用失火判定装置。
【請求項2】
請求項1記載のエンジン用失火判定装置であって、
前記燃焼変動キャンセル値取得部は、前記第1燃焼変動キャンセル値として、前記第1角度位置を中心とする720×m度クランク角度の区間における回転速度を取得するとともに、前記第2燃焼変動キャンセル値として、前記第2角度位置を中心とする720×m度クランク角度の区間における回転速度を取得し、
前記燃焼変動顕在化値算出部は、前記第1角度位置における回転速度から、前記燃焼変動キャンセル値取得部で取得された前記第1燃焼変動キャンセル値としての、前記第1角度位置を中心とする720×m度クランク角度の区間における回転速度の値を
減算することによって、前記変動成分が顕在化された前記第1変動顕在化値を算出するとともに、前記第2角度位置における回転速度から、前記燃焼変動キャンセル値取得部で取得された前記第2燃焼変動キャンセル値としての、前記第2角度位置を中心とする720×m度クランク角度の区間における回転速度の値を
減算することによって、前記変動成分が顕在化された前記第2変動顕在化値を算出する、
エンジン用失火判定装置。
【請求項3】
複数気筒とクランクシャフトを有するエンジンの失火を前記クランクシャフトの回転角を表すクランク角信号に基づいて判定するエンジン用失火判定装置であって、
前記エンジンの運転中に前記クランク角信号に基づいて、720度クランク角度ごとに、前記複数気筒のそれぞれについて設定された第1角度位置を所定の定位置として含む720×m度クランク角度の区間における回転速度である、燃焼による変動成分がキャンセルされた第1燃焼変動キャンセル値を取得するとともに、前記第1角度位置とは別の位置であり且つ前記第1角度位置から1サイクル未満離れた第2角度位置を所定の定位置として含む720×m度クランク角度の区間における回転速度である、前記燃焼による変動成分がキャンセルされた第2燃焼変動キャンセル値を取得し、mは自然数である、燃焼変動キャンセル値取得部と、
前記エンジンの運転中に前記クランク角信号に基づいて、前記第1角度位置における回転速度から、前記第1角度位置を所定の定位置として含む720×m度クランク角度の区間における回転速度である、前記燃焼変動キャンセル値取得部で取得された前記第1燃焼変動キャンセル値を減算することにより、前記変動成分が顕在化された第1変動顕在化値を算出するとともに、前記第2角度位置における回転速度から、前記第2角度位置を所定の定位置として含む720×m度クランク角度の区間における回転速度である、前記燃焼変動キャンセル値取得部で取得された前記第2燃焼変動キャンセル値を減算することにより、前記変動成分が顕在化された第2変動顕在化値を算出する燃焼変動顕在化値算出部と、
前記エンジンの運転中に前記燃焼変動顕在化値算出部で前記第1角度位置における回転速度から前記第1角度位置を所定の定位置として含む720×m度クランク角度の区間における回転速度を減算することにより算出された前記第1変動顕在化値と、前記第2角度位置における回転速度から前記第2角度位置を所定の定位置として含む720×m度クランク角度の区間における回転速度を減算することにより算出された前記第2変動顕在化値との1階差分を算出する1階差分算出部と、
前記1階差分算出部により算出された前記1階差分の値を記憶する記憶部
と、
前記第1変動顕在化値と前記第2変動顕在化値との前記1階差分から2階差分を算出することなしに特定気筒の失火を判定する特定気筒失火判定部とを備え、
前記1階差分算出部は、720度クランク角度ごとに前記1階差分を算出し、
前記特定気筒失火判定部は、前記1階差分算出部により算出された前記1階差分を前記記憶部に記憶するとともに、前記1階差分算出部により算出された前記1階差分及び以前の判定時に前記記憶部に記憶された
前記1階差分の値により
前記1階差分の平均値を算出し、前記1階差分の平均値が所定の基準値を超えているか否かに応じて、前記エンジンが有する前記複数気筒の
うち前記第1角度位置が設定された特定気筒の失火を判定する、
エンジン用失火判定装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1に記載のエンジン用失火判定装置と、
前記エンジン用失火判定装置によって失火が判定されるエンジンとを備える車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン用失火判定装置及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、エンジンで生じる失火を検出する失火検出装置が示されている。特許文献1に示す失火検出装置は、クランク角ごとに信号を出力する回転角センサの出力を用いて失火を検出する。
【0003】
特許文献1に示すような失火検出装置では、検出精度の低下を抑えることが求められている。
特許文献1に示す失火検出装置は、回転角センサの出力に基づいて第1の気筒の燃焼行程における平均回転速度ωnを求める。次に、失火検出装置は、上記気筒に対し燃焼行程が連続する気筒について平均回転速度ωn-1を求め、これら2つの平均回転速度の偏差ωn-1-ωnを求める。また、失火検出装置は、上記第1の気筒の燃焼行程より回転角360度クランク角前の気筒について平均回転数ωn-3求める。次に、失火検出装置は、燃焼行程が連続する気筒について平均回転速度ωn-4を求め、これら2つの平均回転速度の偏差ωn-4-ωn-3を求める。そして、失火検出装置は、上記2つの偏差の差分を求めることにより、平均回転数変動量Δωnを設定する。失火検出装置は、このようにして得られた2段階の差分(2階差分)である平均回転数変動量Δωnと判定値とを比較することにより失火を判定する。2階差分を用いて判定することにより、例えばアクセル操作に応じた加速及び減速の影響による失火精度低下の抑制が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているような失火検出装置の処理を様々な条件について検討したところ、エンジンの種類によっては、失火の検出のための判定が困難になる場合があった。
【0006】
本発明の課題は、様々な種類のエンジンにおける失火の判定に適用可能なエンジン用失火判定装置及び車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが、特許文献1に開示された失火検出装置の失火判定を様々な種類のエンジンに適用しようとしたところ、等間隔燃焼エンジンでは高い精度で失火を検出できるが、不等間隔燃焼エンジンでは失火の判定精度が低い場合があることが分かった。
そこで本発明者らは、不等間隔燃焼エンジンでの失火の判定について検討した。
【0008】
不等間隔燃焼エンジンで燃焼が生じるクランク角度の間隔は気筒毎に異なる。不等間隔燃焼エンジンの失火を判定するため、平均回転速度の検出位置(角度)を、各気筒で燃焼が生じるクランク角に合わせて調整することが考えられる。
しかし、不等間隔燃焼エンジンでは、例えばある気筒についての回転速度と、この気筒と燃焼行程が連続する気筒についての回転速度とに差が生じる。つまり、これら2つの回転速度の偏差は、失火が生じない正常時でもゼロではない。そして、2つの回転速度の偏差の大小関係も、検出位置によって変化する。このため、ある時点で求めた偏差と、360度クランク角前の位置について求めた偏差との差、即ち2階差分の値は、正常時でもゼロにならない。しかも2階差分の値は、検出位置に応じて正になったり負になったりする。つまり、2階差分の値は、時間の経過に伴いゼロより小さい値からゼロより大きい値まで広い範囲で変化する。このため、例えば、特許文献1の方法において、不等間隔燃焼エンジンに対応するため回転速度の検出位置を調整するだけでは、高い精度で失火を検出できない。
【0009】
特許文献1に示すように、1つの偏差と、360度クランク角前についての別の偏差とによる2階差分の値を求めることは、等間隔燃焼エンジンにおいて、例えばアクセル操作及び車両の走行状況に応じた加速及び減速の影響を低減することに貢献している。しかし、上述したように、360度クランク角前後の位置についての2階差分の値は、不等間隔燃焼エンジンにおける正常時に加速及び減速の影響がなくても、時間の経過に伴い変化する。このため、不等間隔燃焼エンジンの失火を2階差分を用いて高い精度で判定することが困難である。
そこで本発明者らは、エンジンの回転速度の変動について根本から再検討した。
【0010】
エンジンの回転速度には、エンジンの燃焼に起因する変動と、燃焼以外の要素に起因する変動とが含まれる。
エンジンの燃焼に起因する回転速度の変動には、燃焼時の増大と、燃焼後の減少が含まれる。増大と減少により回転速度のピークが生じる。例えば、エンジンが単気筒である場合、720度クランク角ごとにピークが生じるので、連続するピーク間のクランク角は略一定である。また例えば、エンジンが等間隔燃焼する複数気筒を有する場合、各気筒での燃焼が等間隔で繰返し行われるので、ピーク間のクランク角は略一定である。
繰返し行われる燃焼以外の要素に起因する変動には、例えば上述したような運転者のアクセル操作による吸入空気量の変動に応じた変動が含まれる。また、燃焼以外の要素に起因する回転速度の変動には、例えば車輪及びチェーンによってエンジンに掛かる負荷に起因する変動が含まれる。
【0011】
失火を高い精度で判定するため、燃焼以外の要素に起因する変動が除外された変動を用いて判定を行うことが考えられる。
しかし、エンジンが不等間隔燃焼エンジンである場合、ある気筒で燃焼が行われるクランク角と、この気筒の次の気筒で燃焼が行われるクランク角との間隔が、気筒に応じて異なる。ある気筒での燃焼時の回転速度は、その燃焼の前の気筒の燃焼で生じ時間と共に減少するエネルギーの影響を受ける。このため、例えば燃焼時の回転速度は、各気筒によって異なる。ピーク間のクランク角とピークの値の双方が気筒ごとに異なるように変動する回転速度から、燃焼以外に起因する変動を除外して高い精度で失火を判定することは、困難である。また、繰返し行われる燃焼以外の要素に起因する変動が含まれる回転速度から、不等間隔燃焼に起因するピークの値の変動を除去することも困難である。
【0012】
本発明者らは、各クランク角の位置において、敢えてこのクランク角位置を含む720×m度クランク角度の区間における回転速度を取得することを検討した。mは自然数である。720×m度クランク角度の区間における回転速度では、不等間隔燃焼に起因する変動だけでなく、失火判定に用いるための燃焼に起因する変動が除去されてしまっている。
しかし、本発明者らは、各クランク角の位置における回転速度から、上記720×m度クランク角度の区間における回転速度を除去することによって、不等間隔燃焼による変動成分を高い精度で顕在化できることを見出した。
具体的には、あるクランク角度位置(第1角度位置)における回転速度から、この第1角度位置を含む720×m度クランク角度の区間における回転速度を除去する。同様に、第1角度位置とは別の第2角度位置の回転速度から、第2角度位置を含む720×m度クランク角度の区間における回転速度を除去する。
720×m度クランク角度の区間における回転速度は、例えばアクセル操作及び車両の走行状況に応じた加速及び減速による変動を含んでいる。このため、各角度位置における回転速度から、この位置を含む720×m度クランク角度の区間における回転速度を除去すると、アクセル操作及び車両の走行状況に応じた加速及び減速による変動がキャンセルされる。この結果、不等間隔燃焼による変動成分が顕在化される。
不等間隔燃焼による変動成分が顕在化された第1角度位置での回転速度と、不等間隔燃焼による変動成分が顕在化された第2角度位置での回転速度との1階差分を算出することで、不等間隔燃焼に起因する気筒毎の変動の影響が高い精度で抑えられる。従って、1階差分により不等間隔燃焼エンジンの失火を高い精度で判定することができる。
【0013】
さらに、本発明者らは、等間隔燃焼エンジンの失火判定についても検討した。この結果、720×m度クランク角度の区間における回転速度が除去された回転速度の1階差分を用いた失火の判定は、等間隔燃焼エンジンにも適用できることが分かった。
【0014】
また、1階差分の値による判定によれば、2階差分のような広い範囲の回転速度に基づく値を用いて判定する場合よりも、アクセル操作及び車両の走行状況に応じた加速及び減速に対する応答性が高い。従って、アクセル操作及び車両の走行状況に応じた加速及び減速が急に行われた場合でも、判定の誤りが低減される。従って、高い精度で失火を判定することができる。また、1階差分の値による判定によれば、特定気筒の連続失火も高い精度で判定することができる。
【0015】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。本発明のエンジン用失火判定装置は、様々な種類のエンジンにおける失火の判定に適用可能である。
【0016】
以上の知見に基づいて完成した本発明の各観点によるエンジン用失火判定装置は、次の構成を備える。
【0017】
(1)本発明の一つの観点によれば、複数気筒とクランクシャフトを有するエンジンの失火を前記クランクシャフトの回転角を表すクランク角信号に基づいて判定するエンジン用失火判定装置であって、
前記エンジンの運転中に前記クランク角信号に基づいて、720度クランク角度ごとに、前記複数気筒のそれぞれについて設定された第1角度位置を所定の定位置として含む720×m度クランク角度の区間における回転速度である、燃焼による変動成分がキャンセルされた第1燃焼変動キャンセル値を取得するとともに、前記第1角度位置とは別の位置であり且つ前記第1角度位置から1サイクル未満離れた第2角度位置を所定の定位置として含む720×m度クランク角度の区間における回転速度である、前記燃焼による変動成分がキャンセルされた第2燃焼変動キャンセル値を取得し、mは自然数である、燃焼変動キャンセル値取得部と、
前記エンジンの運転中に前記クランク角信号に基づいて、前記第1角度位置における回転速度から、前記第1角度位置を所定の定位置として含む720×m度クランク角度の区間における回転速度である、前記燃焼変動キャンセル値取得部で取得された前記第1燃焼変動キャンセル値を減算することにより、前記変動成分が顕在化された第1変動顕在化値を算出するとともに、前記第2角度位置における回転速度から、前記第2角度位置を所定の定位置として含む720×m度クランク角度の区間における回転速度である、前記燃焼変動キャンセル値取得部で取得された前記第2燃焼変動キャンセル値を減算することにより、前記変動成分が顕在化された第2変動顕在化値を算出する燃焼変動顕在化値算出部と、
前記エンジンの運転中に前記燃焼変動顕在化値算出部で前記第1角度位置における回転速度から前記第1角度位置を所定の定位置として含む720×m度クランク角度の区間における回転速度を減算することにより算出された前記第1変動顕在化値と、前記第2角度位置における回転速度から前記第2角度位置を所定の定位置として含む720×m度クランク角度の区間における回転速度を減算することにより算出された前記第2変動顕在化値との1階差分を算出する1階差分算出部と、
前記第1変動顕在化値と前記第2変動顕在化値との前記1階差分から2階差分を算出することなしに前記1階差分が、前記エンジン用失火判定装置に記憶された所定の基準値を超えているか否かに応じて、前記エンジンが有する前記複数気筒のうち前記第1角度位置が設定された特定気筒の失火を判定する特定気筒失火判定部と、
を備えたエンジン用失火判定装置。
【0018】
(1)のエンジン用失火判定装置によれば、燃焼変動キャンセル値取得部が、720度クランク角度ごとに、クランク角信号に基づいて、第1燃焼変動キャンセル値と第2燃焼変動キャンセル値とを取得する。第1燃焼変動キャンセル値は、第1角度位置を含む720×m度クランク角度の区間における回転速度である。第1燃焼変動キャンセル値は、燃焼による変動成分がキャンセルされた値である。第1燃焼変動キャンセル値は、エンジンが不等間隔燃焼エンジンである場合に、不等間隔燃焼による変動成分がキャンセルされた値である。第2燃焼変動キャンセル値は、第2角度位置を含む720×m度クランク角度の区間における回転速度である。第2角度位置は、第1角度位置から1サイクル未満離れた位置である。第2燃焼変動キャンセル値は、燃焼による変動成分がキャンセルされた値である。第2燃焼変動キャンセル値は、エンジンが不等間隔燃焼エンジンである場合に、不等間隔燃焼による変動成分がキャンセルされた値である。
燃焼変動顕在化値算出部は、第1角度位置における回転速度から、第1燃焼変動キャンセル値を除去することにより、変動成分が顕在化された第1変動顕在化値を算出する。また、燃焼変動顕在化値算出部は、第2角度位置における回転速度から、第2燃焼変動キャンセル値を除去することにより、変動成分が顕在化された第2変動顕在化値を算出する。
1階差分算出部は、算出された第1変動顕在化値、第2変動顕在化値の1階差分を算出する。
特定気筒失火判定部は、1階差分により前記エンジンが有する複数気筒のうちの特定気筒の失火を判定する。特定気筒失火判定部は、1階差分から2階差分を算出することなしに1階差分により失火を判定する。
【0019】
第1変動顕在化値は、第1角度位置の回転速度から、第1燃焼変動キャンセル値が除去されることによって算出されている。例えば、エンジンが不等間隔燃焼エンジンである場合、第1燃焼変動キャンセル値は、不等間隔燃焼による変動成分がキャンセルされた値である。
具体的には、燃焼変動キャンセル値取得部は、第1角度位置を含む720×m度クランク角度の区間における回転速度を第1燃焼変動キャンセル値として取得する。第1燃焼変動キャンセル値には、例えばアクセル操作及び車両の走行状況に応じた加速及び減速による変動が含まれている。第1角度位置の回転速度から、第1燃焼変動キャンセル値が除去されることによって、加速及び減速による変動が除去される。第2角度位置についても第1角度位置と同じ取得及び算出が実行される。このように(1)のエンジン用失火判定装置では、サイクル内の回転速度のピーク値及びピーク間角度が気筒ごとに異なる不等間隔燃焼エンジンについても、上記の加速及び減速による回転速度変動が高い精度で除去される。これによって、不等間隔燃焼による変動成分を高い精度で顕在化できる。また、(1)のエンジン用失火判定装置では、エンジンが等間隔燃焼エンジンの場合も、不等間隔燃焼エンジンの場合と同じく、上記の加速及び減速による回転速度変動が高い精度で除去される。
エンジンが不等間隔燃焼エンジンの場合でも、不等間隔燃焼による変動成分が高い精度で顕在化するので、第1変動顕在化値と、第2変動顕在化値の1階差分によって、特定気筒の失火を高い精度で判定することができる。また、エンジンが等間隔燃焼エンジンの場合でも、第1変動顕在化値と、第2変動顕在化値の1階差分によって、特定気筒の失火を高い精度で判定することができる。
従って、不等間隔燃焼による変動成分が顕在化された、第1角度位置についての回転速度と、不等間隔燃焼による変動成分が顕在化された、第2角度位置についての回転速度との1階差分の値により失火を判定することで、不等間隔燃焼エンジンにおいて、高い精度で失火を判定することができる。
【0020】
さらに、720×m度クランク角度の区間における回転速度を除去した回転速度どうしの1階差分の値により失火を判定することは、等間隔燃焼エンジンについても適用できる。燃焼変動キャンセル値取得部は、第1角度位置を含む720×m度クランク角度の区間における回転速度を第1燃焼変動キャンセル値として取得する。燃焼変動顕在化値算出部では、第1角度位置の回転速度から第1燃焼変動キャンセル値が除去されることによって、加速及び減速による変動が除去される。また、第2角度位置における回転速度から、第2燃焼変動キャンセル値が除去される。加速及び減速による変動が除去された第1角度位置についての回転速度と、加速及び減速による変動が除去された第2角度位置についての回転速度との1階差分の値により失火を判定することで、等間隔燃焼エンジンにおいても、高い精度で失火を判定することができる。
【0021】
(1)のエンジン用失火判定装置における1階差分の値による判定によれば、2階差分のようなより広い範囲の回転速度に基づく値により判定する場合よりも、アクセル操作及び車両の走行状況に応じた加速及び減速に対する応答性が高い。従って、アクセル操作及び車両の走行状況に応じた加速及び減速が急に行われた場合でも、判定の誤りが低減される。従って、高い精度で失火を判定することができる。
【0022】
従って、(1)のエンジン用失火判定装置によれば、不等間隔燃焼エンジン及び等間隔燃焼エンジンを含む様々種類のエンジンにおける失火を判定することができる。
【0023】
(2)本発明の、別の観点によれば、(1)のエンジン用失火判定装置であって、
前記燃焼変動キャンセル値取得部は、前記第1燃焼変動キャンセル値として、前記第1角度位置を中心とする720×m度クランク角度の区間における回転速度を取得するとともに、前記第2燃焼変動キャンセル値として、前記第2角度位置を中心とする720×m度クランク角度の区間における回転速度を取得し、
前記燃焼変動顕在化値算出部は、前記第1角度位置における回転速度から、前記燃焼変動キャンセル値取得部で取得された前記第1燃焼変動キャンセル値としての、前記第1角度位置を中心とする720×m度クランク角度の区間における回転速度の値を減算することによって、前記変動成分が顕在化された前記第1変動顕在化値を算出するとともに、前記第2角度位置における回転速度から、前記燃焼変動キャンセル値取得部で取得された前記第2燃焼変動キャンセル値としての、前記第2角度位置を中心とする720×m度クランク角度の区間における回転速度の値を減算することによって、前記変動成分が顕在化された前記第2変動顕在化値を算出する。
【0024】
(2)の燃焼エンジン用失火判定装置によれば、第1燃焼変動キャンセル値として取得される回転速度が、第1角度位置を中心とする720×m度クランク角度の区間の回転速度である。つまり、第1角度位置が、第1燃焼変動キャンセル値を取得する720×m度クランク角度の区間の中心である。このため、第1燃焼変動キャンセル値及び第1変動顕在化値に、第1角度位置での燃焼の状態がより高い精度で反映される。また、第2燃焼変動キャンセル値及び第2変動顕在化値に、第2角度位置での燃焼の状態がより高い精度で反映される。
従って、(2)の燃焼エンジン用失火判定装置によれば、等間隔燃焼エンジンを含む様々な種類のエンジンの特定気筒の失火をより高い精度で判定することができる。
【0025】
(3) 本発明の、別の観点によれば、複数気筒とクランクシャフトを有するエンジンの失火を前記クランクシャフトの回転角を表すクランク角信号に基づいて判定するエンジン用失火判定装置であって、
前記エンジンの運転中に前記クランク角信号に基づいて、720度クランク角度ごとに、前記複数気筒のそれぞれについて設定された第1角度位置を所定の定位置として含む720×m度クランク角度の区間における回転速度である、燃焼による変動成分がキャンセルされた第1燃焼変動キャンセル値を取得するとともに、前記第1角度位置とは別の位置であり且つ前記第1角度位置から1サイクル未満離れた第2角度位置を所定の定位置として含む720×m度クランク角度の区間における回転速度である、前記燃焼による変動成分がキャンセルされた第2燃焼変動キャンセル値を取得し、mは自然数である、燃焼変動キャンセル値取得部と、
前記エンジンの運転中に前記クランク角信号に基づいて、前記第1角度位置における回転速度から、前記第1角度位置を所定の定位置として含む720×m度クランク角度の区間における回転速度である、前記燃焼変動キャンセル値取得部で取得された前記第1燃焼変動キャンセル値を減算することにより、前記変動成分が顕在化された第1変動顕在化値を算出するとともに、前記第2角度位置における回転速度から、前記第2角度位置を所定の定位置として含む720×m度クランク角度の区間における回転速度である、前記燃焼変動キャンセル値取得部で取得された前記第2燃焼変動キャンセル値を減算することにより、前記変動成分が顕在化された第2変動顕在化値を算出する燃焼変動顕在化値算出部と、
前記エンジンの運転中に前記燃焼変動顕在化値算出部で前記第1角度位置における回転速度から前記第1角度位置を所定の定位置として含む720×m度クランク角度の区間における回転速度を減算することにより算出された前記第1変動顕在化値と、前記第2角度位置における回転速度から前記第2角度位置を所定の定位置として含む720×m度クランク角度の区間における回転速度を減算することにより算出された前記第2変動顕在化値との1階差分を算出する1階差分算出部と、
前記1階差分算出部により算出された前記1階差分の値を記憶する記憶部と、
前記第1変動顕在化値と前記第2変動顕在化値との前記1階差分から2階差分を算出することなしに特定気筒の失火を判定する特定気筒失火判定部とを備え、
前記1階差分算出部は、720度クランク角度ごとに前記1階差分を算出し、
前記特定気筒失火判定部は、前記1階差分算出部により算出された前記1階差分を前記記憶部に記憶するとともに、前記1階差分算出部により算出された前記1階差分及び以前の判定時に前記記憶部に記憶された前記1階差分の値により前記1階差分の平均値を算出し、前記1階差分の平均値が所定の基準値を超えているか否かに応じて、前記エンジンが有する前記複数気筒のうち前記第1角度位置が設定された特定気筒の失火を判定する、
エンジン用失火判定装置。
【0026】
(3)のエンジン用失火判定装置によれば、特定の気筒の連続失火をより高い精度で判定することができる。
【0027】
(4) 本発明の別の観点による車両は、(1)~(3)のいずれか1のエンジン用失火判定装置と、
前記エンジン用失火判定装置によって失火が判定されるエンジンとを備える。
【0028】
(4)の構成によれば、エンジンの種類が不等間隔燃焼エンジン又は等間隔燃焼エンジンいずれの場合でも、エンジンにおける失火を高い精度で判定することができる。
【0029】
本明細書にて使用される専門用語は特定の実施例のみを定義する目的であって発明を制限する意図を有しない。
本明細書にて使用される用語「および/または」はひとつの、または複数の関連した列挙された構成物のあらゆるまたはすべての組み合わせを含む。
本明細書中で使用される場合、用語「含む、備える(including)」「含む、備える(comprising)」または「有する(having)」およびその変形の使用は、記載された特徴、工程、操作、要素、成分および/またはそれらの等価物の存在を特定するが、ステップ、動作、要素、コンポーネント、および/またはそれらのグループのうちの1つまたは複数を含むことができる。
本明細書中で使用される場合、用語「取り付けられた」、「接続された」、「結合された」および/またはそれらの等価物は広く使用され、直接的および間接的な取り付け、接続および結合の両方を包含する。
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
一般的に使用される辞書に定義された用語のような用語は、関連する技術および本開示の文脈における意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書で明示的に定義されていない限り、理想的または過度に形式的な意味で解釈されることはない。
本発明の説明においては、技術および工程の数が開示されていると理解される。
これらの各々は個別の利益を有し、それぞれは、他の開示された技術の1つ以上、または、場合によっては全てと共に使用することもできる。
したがって、明確にするために、この説明は、不要に個々のステップの可能な組み合わせをすべて繰り返すことを控える。
それにもかかわらず、明細書および特許請求の範囲は、そのような組み合わせがすべて本発明および請求項の範囲内にあることを理解して読まれるべきである。
本明細書では、新しいエンジン用失火判定装置について説明する。
以下の説明では、説明の目的で、本発明の完全な理解を提供するために多数の具体的な詳細を述べる。
しかしながら、当業者には、これらの特定の詳細なしに本発明を実施できることが明らかである。
本開示は、本発明の例示として考慮されるべきであり、本発明を以下の図面または説明によって示される特定の実施形態に限定することを意図するものではない。
【0030】
本発明における失火は、エンジン内の混合気が正常に燃焼しない現象である。ガソリンエンジンにおける混合気の供給、圧縮、及び点火火花が正常に実施された場合に正常な燃焼が行われる。混合気の供給、圧縮、点火火花の一つまたは複数に異常があると、正常な燃焼が行われない。本発明における失火は、より詳細には、混合気、圧縮、及び点火火花の一つまたは複数に異常があるため、混合気が正常に燃焼しない現象である。
【0031】
本発明に係るエンジン用失火判定装置は、連続失火の判定に用いることができる。また、本発明に係るエンジン用失火判定装置は、連続失火以外の失火の判定に用いることができる。本発明に係るエンジン用失火判定装置は、例えば連続して生じる燃焼のうちの1回の失火を判定するために用いられてもよい。
【0032】
燃焼による変動成分がキャンセルされることは、燃焼による変動成分が0になること、及び、燃焼による変動成分が、クランク角信号に基づく瞬時回転速度と比べて低減されることの双方を含む。
【0033】
本発明のエンジン用失火判定装置は回転速度に基づいて失火を判定する。ここで、装置内において回転速度を表す形式は、特に限定されない。即ち、回転速度は、例えば、クランクシャフトが予め定められた角度回転するのに要する時間の形式で表されてもよく、また、時間の逆数として演算される単位時間当たりの回転数又は角度の形式で表されてもよい。
【0034】
本発明において、燃焼変動キャンセル値に対応する範囲を決定する自然数mは、例えば1である。ただし、mの値はこれに限られず、例えば2又は3でもよい。
【0035】
本発明に係るエンジン用失火判定装置は、不等間隔燃焼エンジンに適用することができる。また、本発明に係るエンジン用失火判定装置は、等間隔燃焼エンジンに適用することもできる。
不等間隔燃焼エンジンは、複数気筒のそれぞれが、クランク角を基準として不等間隔で燃焼するエンジンである。不等間隔燃焼エンジンは、例えば、ガソリンを燃料とするガソリンエンジンである。複数気筒を有するエンジンには、例えば、2気筒エンジン、3気筒エンジン、及び4以上の気筒を有するエンジンが含まれる。複数気筒を有するエンジンとして、例えば、並列型エンジン、及びV型エンジンが挙げられる。
【0036】
1階差分は、あるクランク角位置に対応する値と別のクランク角位置に対応する値との差の値である。2階差分は、2つの1階差分の差の値である。
【0037】
車両は、エンジンに加え、例えば、車輪を有する。車輪には、エンジンから出力される動力を受けて回転する駆動輪が含まれる。車輪の数は、特に限定されない。車両としては、特に限定されず、例えば、四輪自動車、鞍乗型車両などが挙げられる。四輪自動車は、例えば、車室を有する。鞍乗型車両とは、運転者がサドルに跨って着座する形式の車両をいう。鞍乗型車両としては、例えば、自動二輪車、自動三輪車、ATV(All-Terrain Vehicle)が挙げられる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、様々な種類のエンジンにおける失火の判定に適用可能なエンジン用失火判定装置及びエンジン用失火判定装置を備えた車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明の第一実施形態に係るエンジン用失火判定装置及びその周辺の装置の構成を模式的に示す構成図である。
【
図2】
図1に示す失火判定装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図3】エンジンにより回転されるクランクシャフトの回転速度を模式的に示すグラフである。
【
図4】
図2に示す失火判定装置の動作を示すフローチャートである。
【
図5】
図3に示す回転速度の一部を拡大して示すグラフである。
【
図6】失火が生じた場合における平準化値の変化を説明するグラフである。
【
図7】第2気筒で失火が生じた場合及び失火が生じない正常時における回転速度の変化を示すグラフである。
【
図8】第1気筒で失火が生じた場合、及び失火が生じない正常時における回転速度の変化を示すグラフである。
【
図9】第一実施形態及び第二実施形態に係る失火判定装置が搭載される鞍乗型車両を示す外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0041】
[第一実施形態]
図1は、本発明の第一実施形態に係るエンジン用失火判定装置及びその周辺の装置の構成を模式的に示す構成図である。
【0042】
図1に示すエンジン用失火判定装置10(以降、単に失火判定装置10とも称する。)は、エンジン20の失火を判定する。
エンジン20は、例えば、
図9に示す鞍乗型車両50に設けられている。エンジン20は、鞍乗型車両50、より詳細には、鞍乗型車両50の車輪52を駆動する。
本実施形態に係るエンジン20は、4ストロークエンジンである。エンジン20は、複数の気筒20a,20bを有する。
図1には、2気筒が示されており、2気筒のうち1気筒の内部構成が示されている。
本実施形態に係るエンジン20は、不等間隔燃焼エンジンである。エンジン20では、各気筒20a,20bにおける燃焼が、クランクシャフトの回転角を基準として不等間隔で実施される。
【0043】
エンジン20は、クランクシャフト21を備えている。クランクシャフト21はエンジン20の動作に伴い回転する。つまり、クランクシャフト21は、エンジン20により回転される。クランクシャフト21には、クランクシャフト21の回転を検出させるための複数の被検出部25が設けられている。被検出部25は、クランクシャフト21の周方向に、クランクシャフト21の回転中心から見て予め定められた配置角度を空けて並んでいる。被検出部25は、クランクシャフト21の回転に伴い移動する。
【0044】
失火判定装置10は、クランクシャフト21の回転速度に基づいて、エンジン20の失火を検出する。
本実施形態の失火判定装置10は、エンジン20の動作を制御する制御装置としての機能も有する。失火判定装置10は、電子制御装置(ECU)である。失火判定装置10は燃焼制御部11を備えている。燃焼制御部11は、エンジン20の燃焼動作を制御する。但し、失火判定装置10は、エンジン20の動作を制御する制御装置と別個に設けられていてもよい。
【0045】
失火判定装置10には、回転センサ105及び表示装置30が接続されている。回転センサ105は、エンジン20のクランクシャフト21の回転速度を得るためのセンサである。回転センサ105は、クランクシャフト21の回転を検出する。回転センサ105は、被検出部25の通過を検出すると信号を出力する。回転センサ105は、エンジン20のクランクシャフト21が配置角度回転する毎に信号を出力する。
失火判定装置10には、表示装置30も接続されている。表示装置30は、失火判定装置10から出力される情報を表示する。
失火判定装置10には、不図示の吸気圧力センサ、燃料噴射装置、及び、点火プラグも接続される。
【0046】
失火判定装置10は、燃焼変動キャンセル値取得部13、燃焼変動顕在化値算出部14、1階差分算出部16、及び特定気筒失火判定部15を備えている。また、失火判定装置10は、回転速度取得部12を備えている。
【0047】
図2は、
図1に示す失火判定装置10のハードウェア構成を示すブロック図である。
失火判定装置10は、CPU101、記憶部102、及びI/Oポート103を備えている。
CPU101は、制御プログラムに基づいて演算処理を行う。記憶部102は、制御プログラムと、演算に必要な情報とを記憶する。I/Oポート103は、外部装置に対し信号を入出力する。
回転センサ105及び表示装置30(
図1参照)は、I/Oポート103に接続されている。
図1に示す回転速度取得部12、燃焼変動キャンセル値取得部13、燃焼変動顕在化値算出部14、特定気筒失火判定部15、失火報知部19、及び燃焼制御部11の各部は、制御プログラムを実行するCPU101が、
図2に示すハードウェアを制御することによって実現される。
【0048】
図1に示す回転速度取得部12は、回転センサ105の出力に基づいてクランクシャフト21の回転速度(OMG)を得る。クランクシャフト21の回転速度は、エンジン20の回転速度である。回転速度取得部12は、回転センサ105からクランクシャフト21の回転角を表すクランク角信号を得る。回転速度取得部12は、回転センサ105からの信号に基づいて、クランクシャフト21の回転速度を得る。回転速度取得部12は、クランクシャフト21の特定の角度位置における回転速度を得る。具体的には、回転速度取得部12は、720度クランク角度内で気筒毎に設定された第1角度位置及び第2角度位置における回転速度を得る。
【0049】
燃焼変動キャンセル値取得部13は、エンジン20の運転中にクランク角信号に基づいて燃焼変動キャンセル値(NEOMG)を取得する。燃焼変動キャンセル値は、クランクシャフト21の回転速度から燃焼による変動成分がキャンセルされた回転速度の値である。
例えば、燃焼変動キャンセル値取得部13は、第1角度位置及び第2角度位置に応じて第1燃焼変動キャンセル値及び第2燃焼変動キャンセル値を取得する。具体的には、燃焼変動キャンセル値取得部13は、第1燃焼変動キャンセル値として、第1角度位置を含む720×m度クランク角度の区間における回転速度を取得する。また、燃焼変動キャンセル値取得部13は、第2燃焼変動キャンセル値として、第2角度位置を含む720×m度クランク角度の区間における回転速度を取得する。ここで、mは自然数である。本実施形態は、主にmを1として説明する。燃焼変動キャンセル値取得部13は、720度クランク角度ごとに、複数の燃焼変動キャンセル値を取得する。
【0050】
図3は、エンジン20により回転されるクランクシャフト21の回転速度を模式的に示すグラフである。
図3の横軸は、クランクシャフト21の回転角度θを示し、縦軸は回転速度を示す。
図3の実線は、失火が生じていない状態でのエンジン20の運転中における回転速度OMGを示している。回転速度OMGは、被検出部25の通過ごとに得られる回転速度OMGを曲線で結ぶことにより生成されている。
図3の回転速度OMGは、配置角度ごとの回転速度である。つまり、
図3の回転速度OMGは、瞬時回転速度を示している。
図3に示す例において、回転速度OMGは、各気筒20a,20bでの燃焼による増大と、燃焼後の減少を繰り返している。エンジン20(
図1参照)では、1サイクルの期間内に、複数の気筒20a,20bのそれぞれにおいて1回の燃焼が生じる。例えば、1サイクルの期間に、第1気筒20aの圧縮上死点(#1TDC)で開始する燃焼と、第2気筒20bの圧縮上死点(#2TDC)で開始する燃焼とがある。
なお、本明細書では、第1気筒20aの圧縮上死点(#1TDC)を1サイクルの区切りとして説明する。
【0051】
エンジン20において、第1気筒20aの圧縮上死点(#1TDC)から、これに続く第2気筒20bの圧縮上死点(#2TDC)までの回転角度は、第2気筒20bの圧縮上死点(#2TDC)から、これに続く第1気筒20aの圧縮上死点(#1TDC)までの回転角度と異なる。このエンジン20において、同じサイクル内で第1気筒20aの燃焼による回転速度のピークの高さと、第2気筒20bの燃焼による回転速度のピークの高さは異なる。
【0052】
図3の細かい破線は、第2気筒20bで失火が生じた場合の回転速度OMG’を示している。ある気筒で失火が生じると、失火が生じた気筒に対応する回転速度の増加量は、失火が生じない場合と比べて小さい。詳細には、失火が生じた気筒に対応する回転速度は減少する。
【0053】
特定気筒失火判定部15は、基本的には、気筒のそれぞれに応じて設定された第1角度位置における回転速度と第2角度位置における回転速度との差に基づいて失火を判定する。第1角度位置は、対応する気筒の燃焼による回転速度の影響が現れ易い角度位置に設定される。第2角度位置は、第1角度位置から1サイクル未満離れた位置に設定される。
本実施形態の失火判定装置10では、第1気筒に対応する第1角度位置として角度位置t2が設定され、第1気筒に対応する第2角度位置として角度位置t1が設定される。
また、第2気筒に対応する第1角度位置として角度位置t3が設定され、また、第2角度位置として角度位置t2が設定される。
各気筒に対応する第1角度位置及び第2角度位置は、1サイクルの中で固定された角度位置である。各気筒に対応する第1角度位置及び第2角度位置は、エンジン20の1サイクル毎に1回ずつ到来する。
本実施形態の特定気筒失火判定部15は、例えば、第2気筒の失火を、第1角度位置t3の回転速度と第2角度位置t2の回転速度との差に基づいて判定する。
【0054】
上述したように、エンジン20では、失火が生じない場合でも、第1気筒20aの燃焼による回転速度のピークの高さと、第2気筒20bの燃焼による回転速度のピークの高さが異なる。
本実施形態の特定気筒失火判定部15は、基本的には、各気筒に対応する第1角度位置での回転速度と、この第1角度位置とは別に設定された第2角度位置における回転速度との差分(1階差分)に基づいて失火を判定する。これによって、複数の気筒に応じた回転速度の違いに起因する判定精度の低下が抑えられる。
【0055】
図3に示す回転速度OMGの変動には、燃焼に起因する増加と減少の繰返し及び不等間隔燃焼に起因するピークの高さの違いとは別の変動が含まれている。例えば、
図3には、第1気筒20aの燃焼による複数のピークが表れている。第1気筒20aの燃焼によるピークの高さは徐々に増加している。このような回転速度の変動は、例えば運転者の操作による吸入空気量の変動、又は、エンジンに掛かる負荷の変動に起因している。
このように、燃焼に起因する変動には、破線NEOMGに示すような変動が含まれている。この場合、気筒毎のピークの高さの違いによる影響を判定から除去しようとしても、この影響が適切に除去されにくい。このため、エンジン20における失火判定の精度が低下してしまう。
【0056】
本実施形態の失火判定装置10は、
図1に示す燃焼変動キャンセル値取得部13、及び、燃焼変動顕在化値算出部14によって、不等間隔燃焼による回転速度の変動を顕在化している。
【0057】
ここで、例として、第2気筒20bの失火判定について説明する。第2気筒20bに対応する第1角度位置として、
図3に示す角度位置t3が設定される。第2気筒20bの第1角度位置t3では、第2気筒20bの燃焼の影響が回転速度に現れ易い。また、第2気筒20bに対応する第2角度位置として、角度位置t2が設定される。なお、
図3に示す例において角度位置t2は、第1気筒に対応する第1角度位置でもある。ここでは、第2気筒20bに対応する第2角度位置として説明する。
第2角度位置t2は、第1角度位置t3より先に検出される。回転速度取得部12は、第2気筒20bにとっての第2角度位置t2で回転速度OMG1Cを取得する。回転速度取得部12は、第1角度位置t3で、回転速度OMG2Cを取得する。また、燃焼変動キャンセル値取得部13は、第2角度位置t2で第2燃焼変動キャンセル値NEOMG1Cを取得する。第2燃焼変動キャンセル値NEOMG1Cは、上述したように、第2角度位置t2を含む720度クランク角度の区間における回転速度である。また、燃焼変動キャンセル値取得部13は、第1角度位置t3で第1燃焼変動キャンセル値NEOMG2Cを取得する。第1燃焼変動キャンセル値NEOMG2Cは、第1角度位置t3を含む720度クランク角度の区間における回転速度である。なお、値が取得される実際のタイミングは、後に説明するように各値に対応する範囲の通過後である。
燃焼変動顕在化値算出部14は、第2角度位置t2で第2燃焼変動キャンセル値NEOMG1Cが取得されると、第2角度位置t2における回転速度OMG1Cから第2燃焼変動キャンセル値NEOMG1Cを除去する。第2角度位置における回転速度OMG1Cから第2燃焼変動キャンセル値NEOMG1Cを除去することにより、燃焼変動顕在化値算出部14は、不等間隔燃焼による変動成分が顕在化された第2変動顕在化値AOMG1Cを算出する。
燃焼変動顕在化値算出部14は、次に、第1角度位置t3における回転速度OMG2Cから第1燃焼変動キャンセル値NEOMG2Cを除去する。第1角度位置における回転速度OMG2Cから第1燃焼変動キャンセル値NEOMG2Cを除去することにより、燃焼変動顕在化値算出部14は、不等間隔燃焼による変動成分が顕在化された第1変動顕在化値AOMG2Cを算出する。
【0058】
1階差分算出部16は、第1変動顕在化値AOMG2Cと、第2変動顕在化値AOMG1Cとの差を算出する。1階差分算出部16で算出される差は1階差分である。
例えば、1階差分算出部16は、第2気筒20bについての第1変動顕在化値AOMG2C(OMG2C-NEOMG2C)と第2気筒20bについての第2変動顕在化値AOMG1C(OMG1C-NEOMG1C)との1階差分NDOMG2Cを算出する。
【0059】
特定気筒失火判定部15は、エンジン20の運転中に1階差分算出部16で算出された1階差分NDOMG2Cに基づいて、失火を判定する。
特定気筒失火判定部15は、平準化処理部17、及び判定部18を備えている。平準化処理部17、及び判定部18の詳細については後述する。
【0060】
図4は、
図2に示す失火判定装置10の動作を示すフローチャートである。
失火判定装置10は、
図4に示す各処理を繰り返し実行する。
【0061】
失火判定装置10において、まず、燃焼制御部11がエンジン20の燃焼動作を制御する(S11)。次に、回転速度取得部12が第1角度位置及び第2角度位置でのクランクシャフト21の回転速度OMG2C,OMG1Cを得る(S12)。次に、燃焼変動キャンセル値取得部13が、第1角度位置及び第2角度位置に対応した第1燃焼変動キャンセル値NEOMG2C及び第2燃焼変動キャンセル値NEOMG1Cを取得する。(S13)。
次に、燃焼変動顕在化値算出部14が、第1角度位置における回転速度OMG2Cから燃焼変動キャンセル値取得部13で取得された第1燃焼変動キャンセル値NEOMG2Cを除去することによって、第1変動顕在化値AOMG2Cを算出する。また、燃焼変動顕在化値算出部14は、第2角度位置における回転速度OMG1Cから燃焼変動キャンセル値取得部13で取得された第2燃焼変動キャンセル値NEOMG1Cを除去することによって、第2変動顕在化値AOMG1Cを算出する(S14)。
次に1階差分算出部16は、第1変動顕在化値AOMG2Cと、第2変動顕在化値AOMG1Cとの差、即ち1階差分を算出する(S16)。
次に、特定気筒失火判定部15が、エンジン20の特定気筒の失火を判定する(S15)。より詳細には、ステップS15内で、平準化処理部17が1階差分を平準化する(S16)。次に、判定部18が、平準化された差分に基づき失火の有無を判定する(S18)。
回転速度取得部12、燃焼変動キャンセル値取得部13、特定気筒失火判定部15、1階差分算出部16、平準化処理部17、及び判定部18のそれぞれは、各部で処理する対象のデータが処理可能となった時にデータの処理を実行する。
特定気筒失火判定部15が、特定気筒の失火が生じたと判定した場合(S18でYes)、失火報知部19が失火有りの報知を行う(S19)。特定気筒失火判定部15が失火有りと判定しない場合(S18でNo)、失火報知部19は報知を行わない。
【0062】
なお、燃焼制御部11、回転速度取得部12、燃焼変動キャンセル値取得部13、特定気筒失火判定部15、及び失火報知部19が動作する順は、
図4に示す順に限られない。また、いくつかの部分の処理は、一つの値を得るための式の演算としてまとめて実施されてもよい。また、必ずしも、特定気筒失火判定部15が失火有りと判定するごとに失火報知部19が失火有りの報知を行う必要はない。例えば、特定気筒失火判定部15により失火有りの判定が行われるごとに、特定気筒失火判定部15が失火有りの判定結果を記憶しておき、特定気筒失火判定部15が記憶した失火有りの判定結果が所定の条件を満たした場合に、失火報知部19が失火有りの報知を行ってもよい。
【0063】
続いて、
図1及び
図3を参照して各部の詳細を説明する。
[回転速度取得部]
回転速度取得部12は、回転センサ105(
図1参照)からの信号に基づいて、クランクシャフト21の回転速度を得る。回転速度取得部12は、回転センサ105からの信号が出力される時間間隔を計測することによって回転速度を得る。また、回転速度取得部12は、回転センサ105からの信号によって、クランクシャフト21の角度位置を得る。
【0064】
失火判定装置10では、1サイクル内で複数の気筒に対応して複数の第1角度位置と複数の第2角度位置が設定される。例えば、本実施形態の回転速度取得部12は、第1気筒20aの第1角度位置t2における回転速度OMG1Cを取得する。また、回転速度取得部12は、第2気筒20bの第1角度位置t3における回転速度OMG2Cを取得する。
【0065】
回転速度取得部12は、例えば、角度位置t2における回転速度OMGとして、この角度位置t2に対応する被検出部25から隣の被検出部25までの配置角度に対応する回転速度OMG1Cを取得する。この場合、第1角度位置t2に対応する回転速度OMG1Cとして、瞬時回転速度が得られる。
但し、回転速度取得部12は、角度位置t2における回転速度OMG1Cとして、3つ以上の被検出部25の検出に相当する期間での回転速度を取得することが可能である。つまり、回転速度取得部12は、回転速度OMG1Cとして、複数の配置角度に亘る区間に対応する回転速度を取得してもよい。つまり、回転速度取得部12は、ある角度位置における回転速度として、その角度位置を含む所定の角度範囲における回転速度を取得してもよい。例えば、回転速度取得部12は、第1気筒20aの第1角度位置t2を中心とした360度の範囲における回転速度を、第1角度位置t2における回転速度として取得してもよい。この場合、回転速度取得部12は、第1角度位置t2に対応する被検出部25よりも180度前に配置された被検出部25が回転センサ105で検出された時(t1)から、クランクシャフト21の1回転後に同じ被検出部25が検出される時(t3)までの時間間隔に基づいて回転速度を取得する。この場合、1つの被検出部25を2回検出することによって回転速度が取得される。
【0066】
本実施形態の回転速度取得部12は、第2角度位置における回転速度も取得する。
ある気筒に対応する第1角度位置と第2角度位置は別の位置に設定される。但し、上述したように、ある気筒に対応する第2角度位置は、別の気筒に対応する第1角度位置と同じであってもよい。例えば、第2気筒20bに対応する第2角度位置は、第1気筒20aに対応する第1角度位置t2と同じである。また、第1気筒20aに対する第2角度位置は、前のサイクルにおける、第2気筒20bに対応する第1角度位置t1と同じである。
本実施形態では、1サイクル当たり2つの位置の回転速度によって、2気筒のそれぞれに対する第1角度位置の回転速度と第2角度位置の回転速度をカバーすることができる。
【0067】
第1角度位置に対応する第2角度位置は、第2角度位置での回転速度から第2角度位置を中心とする720度クランク角度の区間における回転速度(第2燃焼変動キャンセル値)を除去した値を考慮して予め設定される。詳細には、第2角度位置は、この第2角度位置における回転速度から、第2燃焼変動キャンセル値を除去した第2変動顕在化値が、失火の発生時における第1角度位置での第1変動顕在化値と正負において反対となるような位置である。
例えば、
図3における細かい破線は、第2気筒20bで失火が生じた場合の回転速度OMG’を示す。第2気筒20bに対応する第2角度位置はt2に設定される。第2角度位置t2における回転速度OMG1Cから、第2角度位置t2を中心とする720度クランク角度の区間における第2燃焼変動キャンセル値NEOMG1Cを除去した第2変動顕在化値(OMG1C-NEOMG1C)は正である。これに対し、第2気筒20bの第1角度位置t3における第1変動顕在化値(OMG2C’-NEOMG2C)は負である。
【0068】
なお、上述した例では、ある気筒に対応する第2角度位置が別の気筒に対応する第1角度位置と同じ位置に設定されているが、第2角度位置の設定はこれに限られない。例えば、ある気筒に対応する第2角度位置は、別の気筒に対応する第1角度位置と異なっていてもよい。
【0069】
[燃焼変動キャンセル値取得部]
燃焼変動キャンセル値取得部13は、第1燃焼変動キャンセル値として、第1角度位置を含む720度クランク角度の区間における回転速度を取得する。
本実施形態の燃焼変動キャンセル値取得部13は、複数の角度位置t2,t3のそれぞれを中心とする720度クランク角度の区間における回転速度NEOMG1C、NEOMG2Cを取得する。
例えば、燃焼変動キャンセル値取得部13は、第2気筒20bに対応する第1角度位置t3を中心とする720度クランク角度の区間LN2Cにおける回転速度NEOMG2Cを取得する。第1角度位置t3を中心とする720度クランク角度の区間LN2Cは、角度位置t2からt4までの区間である。取得された回転速度NEOMG2Cは、第2気筒20bに対応する第1燃焼変動キャンセル値である。
また、燃焼変動キャンセル値取得部13は、第2気筒20bに対応する第2角度位置t2を中心とする720度クランク角度の区間LN1Cにおける回転速度NEOMG1Cを取得する。第2角度位置t3を中心とする720度クランク角度の区間LN1Cは、角度位置t1からt3までの区間である。取得された回転速度NEOMG1Cは、第2気筒20bに対応する第2燃焼変動キャンセル値である。
【0070】
図5は、
図3に示す回転速度の一部を拡大して示すグラフである。
図5には、
図3の回転速度OMGの一部が横軸を拡大して示されている。
図5の横軸は、
図3と同じくクランクシャフト21の回転角度である。ただし、
図5の横軸には、クランクシャフト21に設けられた各被検出部25を識別するための番号が表示されている。番号は奇数で表示されている。例えば、第1気筒20aに対応する第1角度位置t2には、27番の被検出部25が対応する。なお、番号25~47の被検出部25は、番号1~23の被検出部25とそれぞれ同じである。1サイクル即ちクランクシャフト21の2回転における回転角度位置を区別するため、これらの被検出部25には別の番号が割り当てられている。
【0071】
また、
図5には、第2気筒20bに対応する第1燃焼変動キャンセル値NEOMG2C,第2燃焼変動キャンセル値NEOMG1Cに対応するクランク角の範囲が示されている。
燃焼変動キャンセル値取得部13は、第2気筒20bに対応する第1角度位置t3を含む720度クランク角度の区間LN2Cにおける回転速度NEOMG2Cを取得する。具体的には、燃焼変動キャンセル値取得部13は、27番の被検出部25の角度位置(t2)から、次に検出される27番の被検出部25の角度位置(t4)までの回転速度を取得する。取得された回転速度は、第2気筒20bに対応する第1燃焼変動キャンセル値NEOMG2Cである。つまり、燃焼変動キャンセル値取得部13は、27番(3番でもある)の被検出部25が連続して3回通過する時間に基づいて、第1燃焼変動キャンセル値NEOMG2Cを取得する。
また、燃焼変動キャンセル値取得部13は、第2気筒20bに対応する第2角度位置t2を含む720度クランク角度の区間LN1Cにおける回転速度NEOMG1Cを取得する。具体的には、燃焼変動キャンセル値取得部13は、3番の被検出部25の角度位置(t1)から、次に検出される3番の被検出部25の角度位置(t3)までの回転速度を取得する。取得された回転速度は、第2気筒20bに対応する第2燃焼変動キャンセル値NEOMG1Cである。つまり、燃焼変動キャンセル値取得部13は、3番(27番でもある)の被検出部25が連続して3回通過する時間に基づいて第2燃焼変動キャンセル値NEOMG1Cを取得する。
【0072】
ここで、
図5を参照して回転速度取得部12による回転速度の取得についても説明する。
回転速度取得部12は、第1気筒20aに対応する第1角度位置t2の回転速度OMG1Cとして、例えば、25番の被検出部25の角度位置から27番の被検出部25の角度位置までの回転速度NEOMG1Cを取得する。
但し、回転速度取得部12は、回転速度OMG1Cとして、15番の被検出部25の角度位置から39番の被検出部25の角度位置まで360度に亘る回転速度を取得することも可能である。15番の被検出部25と39番の被検出部25は同じである。従ってこの場合、回転速度取得部12は、15番(39番でもある)の被検出部25が連続して2回通過する時間に基づいて、第1角度位置t2の回転速度OMG1Cを取得する。
また、回転速度取得部12は、第2気筒20bに対応する第1角度位置t3の回転速度OMG2Cとして、例えば、1番の被検出部25の角度位置から3番の被検出部25の角度位置までの回転速度を取得する。但し、回転速度取得部12は、回転速度OMG2Cとして、39番の被検出部25の角度位置から15番の被検出部25の角度位置まで360度に亘る回転速度を取得することも可能である。
【0073】
再び
図3を参照して、燃焼変動キャンセル値を説明する。
図3に示す回転速度NEOMGは、各回転角度θにおいて、各回転角度θを中心とする720度クランク角度の区間における回転速度を示している。
燃焼変動キャンセル値取得部13は、第2気筒20bの第1角度位置t3についての第1燃焼変動キャンセル値NEOMG2Cとして、第1角度位置t3を中心とする720度クランク角度の区間LN2Cにおける回転速度を取得する。また、燃焼変動キャンセル値取得部13は、第2気筒20bの第2角度位置t2についての第2燃焼変動キャンセル値NEOMG1Cとして、第2角度位置t2を中心とする720度クランク角度の区間LN1Cにおける回転速度を取得する。
【0074】
上述したように、エンジン20が有する各気筒の燃焼の間隔は等しくない。しかし、エンジン20が有する気筒のいずれも、720度クランク角度で1サイクルの動作が完了する。従って、燃焼変動キャンセル値NEOMGは、燃焼による変動成分がキャンセルされた値である。また、720度クランク角度の区間における回転速度である燃焼変動キャンセル値NEOMGは、不等間隔燃焼による変動成分がキャンセルされた値である。例えば、燃焼変動キャンセル値NEOMG2Cが取得される720度クランク角度の区間は、第1角度位置(例えばt3)を含んでいる。このため、燃焼変動キャンセル値NEOMGに第1角度位置を含む区間の状態が反映される。
【0075】
本実施形態の燃焼変動キャンセル値取得部13はさらに、第2角度位置についても、720度クランク角度の区間における回転速度を第2燃焼変動キャンセル値として取得する。但し上述したように、本実施形態では、1つの気筒(例えば第2気筒20b)に対応する第2角度位置(t2)が、別の気筒(第1気筒20a)に対応する第1角度位置(t2)と同じである。従って、各第1角度位置における第1燃焼変動キャンセル値の取得によって、別の気筒に対応する第2角度位置における第2燃焼変動キャンセル値も取得されることとなる。
【0076】
[燃焼変動顕在化値算出部]
燃焼変動顕在化値算出部14は、回転速度OMGから燃焼変動キャンセル値NEOMGを除去することにより、変動顕在化値AOMGを算出する。
燃焼変動顕在化値算出部14は、第2気筒20bに対応する第1角度位置t3における回転速度OMG2Cから、燃焼変動キャンセル値取得部13で取得された第1燃焼変動キャンセル値NEOMG2Cを除去する。これにより、燃焼変動顕在化値算出部14は、第1変動顕在化値AOMG2Cを算出する。
また、燃焼変動顕在化値算出部14は、第2気筒20bに対応する第2角度位置t2における回転速度OMG1Cから、第2燃焼変動キャンセル値NEOMG1Cを除去する。これにより、燃焼変動顕在化値算出部14は、第2変動顕在化値AOMG1Cを算出する。
各角度位置の回転速度OMGからその位置に対応する燃焼変動キャンセル値NEOMGが除去されることによって、アクセル操作及び加速及び減速による変動が除去される。
上述した燃焼変動キャンセル値取得部13が、720度(720×m、m=1)クランク角度の区間における回転速度を取得することによって、アクセル操作及び加速及び減速による変動が燃焼変動キャンセル値NEOMGに、より高い精度で反映される。この結果、回転速度OMGから第1燃焼変動キャンセル値NEOMGを除去することにより算出された変動顕在化値AOMGにおいて、アクセル操作及び加速及び減速による変動の影響がより多く除去される。
【0077】
[1階差分算出部]
1階差分算出部16は、第1変動顕在化値AOMG2Cと、第2変動顕在化値AOMG1Cとの差を算出する。
例えば、1階差分算出部16は、第2気筒20bについての第1変動顕在化値AOMG2C(OMG2C-NEOMG2C)と第2気筒20bについての第2変動顕在化値AOMG1C(OMG1C-NEOMG1C)との差NDOMG2Cを算出する。
本実施形態では、第2気筒20bについての第2角度位置は、第1気筒についての第1角度位置t2と同じである。従って、第2気筒についての第2変動顕在化値は、第1気筒についての第1変動顕在化値(OMG1C-NEOMG1C)と同じである。
1階差分算出部16で算出される差は、2つの異なる位置についての回転速度の1階差分である。
【0078】
詳細には下の式に基づいて1階差分が算出される。
NDOMG2C=(OMG1C-NEOMG1C)-(OMG2C-NEOMG2C)
ここで、
OMG2C:第1角度位置における回転速度
NEOMG2C:第1角度位置における第1燃焼変動キャンセル値
OMG1C:第2角度位置における回転速度
NEOMG1C:第2角度位置における第2燃焼変動キャンセル値
【0079】
また、第1気筒20aについての失火を判定する場合、1階差分算出部16は、第1気筒20aについての第1変動顕在化値と第1気筒20aについての第2変動顕在化値との1階差分NDOMG1Cを算出する。
【0080】
第1気筒20aについて、下の式に基づいて1階差分が算出される。
NDOMG1C=(OMG2C-NEOMG2C)-(OMG1C-NEOMG1C)
なお、上式のOMG2C、NEOMG2Cは、詳細には、第1気筒20aに対応する第2角度位置t1における値である。
【0081】
[特定気筒失火判定部]
特定気筒失火判定部15は、エンジン20の運転中に1階差分算出部16で算出された第1変動顕在化値と第2変動顕在化値との差に基づいて失火を判定する。
本実施形態の特定気筒失火判定部15は、平準化処理部17、及び判定部18の処理によって失火を判定する。
以下に説明する平準化処理部17、及び判定部18の構成及び動作は、特定気筒失火判定部15の構成及び動作と見なすことができる。
【0082】
平準化処理部17は、1階差分算出部16で順次算出される第1変動顕在化値と第2変動顕在化値との1階差分を気筒毎に平準化する。例えば、1階差分算出部16は、第1気筒20aについて算出される1階差分を、エンジン20の1サイクルにつき1つ算出する。平準化処理部17は、算出される1階差分の値を累積的に平準化する。
平準化の算出処理としては、例えば、指数移動平均処理(なまし処理)が用いられる。 具体的には、平準化処理部17は、1階差分算出部16により算出された1階差分を記憶部102(
図2参照)に記憶するとともに、1階差分算出部16により算出された1階差分及び以前の判定時に記憶部102に記憶された値により平均値を算出する。
平準化処理によって、例えばクランクシャフト21の回転に対する外乱の影響を抑え、連続して生じる失火をより高い精度で判別することができる。
【0083】
判定部18は、平準化処理部17で算出された平準化値に基づいて、失火を判定する。判定部18は、平準化処理部17で算出された平準化値が所定の基準値を超えた場合、対応する気筒に失火が生じたと判定する。判定部18は、失火が生じたと判定した数をカウントする。基準値は、失火判定装置10に予め記憶された値である。基準値はマップで構成されている。基準値は、例えば、対象の気筒、回転速度、及びエンジン20の吸気圧に対応づけられたマップで構成されている。
判定部18は、平準化処理部17で算出された平準化値が、気筒、回転速度、及び吸気圧に応じて選択された基準値を超えている場合に、対応する気筒で失火があったと判定する。
【0084】
図6は、失火が生じた場合における平準化値の変化を説明するグラフである。
図6の横軸は、エンジン20の動作サイクル数を示す。グラフの実線は、平準化処理部17の処理によって得られる平準化値NDOMGを示す。
第1気筒20aで連続失火が発生すると、平準化処理部17における平準化処理によって、動作に伴い平準化値NDOMGが徐々に増大する。
平準化値NDOMGが基準値を超えると、判定部18は、この平準化値NDOMGに対応する気筒で、連続失火が生じたと判定する。判定部18は、平準化値NDOMGが基準値を超えた数をカウントする。従って、
図6に示す例では、平準化値NDOMGが基準値を超えた後、サイクル数の増加に伴いカウント値が増加する。カウント値は、失火が生じた回数を概略的に示す。
【0085】
このようにして、
図1に示す特定気筒失火判定部15は、燃焼変動顕在化値算出部14で算出された第1変動顕在化値AOMG2Cと第2変動顕在化値AOMG1Cの1階差分に基づいて、エンジン20が有する複数気筒のうちの特定気筒の失火を判定する。特定気筒失火判定部15は、1階差分から2階差分を算出することなしに、1階差分から特定気筒の失火を判定する。
【0086】
[失火報知部]
失火報知部19は、特定気筒失火判定部15により判定された失火の有無を報知する。失火報知部19は、特定気筒失火判定部15により失火有りと判定された場合には、表示装置30(
図1参照)に失火有りの表示を行わせる。また、失火報知部19は、失火が生じた数として、判定部18によってカウントされたカウント値を表示装置30に表示させる。
【0087】
本実施形態では、第2気筒20bに対応する第1角度位置t3における回転速度OMG2Cから第1燃焼変動キャンセル値NEOMG2Cが除去されることによって、第1変動顕在化値AOMG2C(OMG2C-NEOMG2C)が算出される。また、第2気筒20bに対応する第2角度位置t2における回転速度OMG1Cから第2燃焼変動キャンセル値NEOMG1Cが除去されることによって、第2変動顕在化値AOMG1C(OMG1C-NEOMG1C)が算出される。
第1変動顕在化値AOMG2Cには、第1角度位置t3を含む区間での燃焼の状態が高い精度で反映される。このため、第1変動顕在化値には、第2気筒20bで失火が発生した場合の変動がより顕著に表れる。
【0088】
図7は、第2気筒で失火が生じた場合及び失火が生じない正常時における回転速度の変化を示すグラフである。
図7のパート(A)は、燃焼変動顕在化値算出部14による処理が行われた後の回転速度(変動顕在化値)AOMGを示す。
図7のパート(B)は、燃焼変動顕在化値算出部14による処理が行われる前の回転速度OMGを示す。
図7には、複数サイクルの回転速度の測定値が重ねて示されている。
図7は、不等間隔燃焼による変動の顕在化を説明するため、失火判定装置10が実際に回転速度を取得する位置に限られず、連続的な角度位置範囲における回転速度の変化を示している。なお、
図7には、回転速度OMGとして回転角度毎に、この角度を中心とする360度の角度範囲における回転速度が示されている。グラフの破線は失火が生じた場合の回転速度を示し、実線は失火が生じない正常時の回転速度を示している。
【0089】
図7のパート(B)に示すように、燃焼変動顕在化値算出部14による処理が行われる前の回転速度OMG,OMG’は、回転速度の変動範囲が大きい。
例えば、正常時における処理が行われる前の回転速度OMGは、1サイクル内で燃焼に起因した増大及び減少の繰返しを有している。また、失火が生じた場合、第2気筒に対応する第1角度位置t3での回転速度OMG’は、正常時と比べ減少している傾向を有する。しかし、燃焼変動顕在化値算出部14による処理が行われる前の回転速度OMG,OMG’は、サイクルの期間を超える大きな変動(ばらつき)を有する。このため、処理が行われる前の回転速度OMG,OMG’のみを用いた場合、失火の判定の精度が低い。
【0090】
これに対し、
図7のパート(A)に示すように、燃焼変動顕在化値算出部14によって処理された回転速度AOMG,AOMG’では、サイクル毎のばらつきが抑制されている。
この結果、回転速度(変動顕在化値)AOMG,AOMG’では、不等間隔燃焼による変動がより顕在化している。不等間隔燃焼変動が顕在化した回転速度AOMG,AOMG’を用いることにより、第2気筒に対応する第1角度位置t3での値の減少が高い精度で判定できる。
特に、第2気筒20bで失火が生じる場合、第2気筒20bに対応する第1角度位置t3における回転速度AOMG’と、第1角度位置t3に対応する第2角度位置t2における回転速度AOMG’との1階差分は、失火が生じない場合の回転速度AOMGにおける1階差分よりも大きい。
このように、燃焼変動顕在化値算出部14により不等間隔燃焼による変動が顕在化した回転速度AOMG,AOMG’の1階差分に基づいて、エンジン20の第2気筒20bの失火を高い精度で判定することができる。
【0091】
図8は、第1気筒で失火が生じた場合、及び失火が生じない正常時における回転速度の変化を示すグラフである。
図8のパート(A)は、燃焼変動顕在化値算出部14による処理が行われた後の回転速度を示す。
図8のパート(B)は、燃焼変動顕在化値算出部14による処理が行われる前の回転速度を示す。
第1気筒20aで失火が生じた場合でも、
図8のパート(A)に示すように、燃焼変動顕在化値算出部14による処理が行われた回転速度AOMG,AOMG’では、サイクル毎のばらつきが抑制されている。
従って、燃焼変動顕在化値算出部14により不等間隔燃焼による変動が顕在化した回転速度AOMG,AOMG’の1階差分に基づいて、エンジン20の第1気筒20aの失火を高い精度で判定することができる。
【0092】
本実施形態では、失火判定装置10が不等間隔燃焼エンジンであるエンジン20の失火を判定することについて説明した。しかし本実施形態の失火判定装置10は、等間隔燃焼エンジンにもそのまま適用することが可能である。この場合、気筒に対応して設定される複数の第1角度位置は、等間隔に設定される。また、複数の第2角度位置も等間隔に設定される。
この場合、燃焼変動顕在化値算出部14は、燃焼による変動成分が顕在化された第1変動顕在化値及び第2変動顕在化値を算出する。そして、1階差分算出部16は、第1変動顕在化値と、第2変動顕在化値との差を算出する。特定気筒失火判定部15は、1階差分に基づいて、エンジン20が有する複数気筒のうちの特定気筒の失火を判定する。本実施形態における特定気筒失火判定部15の平準化処理部17は、1階差分を気筒毎に平準化する。特定気筒失火判定部15は、複数の1階差分から2階差分を算出することなく、1階差分に基づいて失火を判定する。つまり、特定気筒失火判定部15は、ある特定の気筒に対し、常に第1角度位置についての値と第2角度位置についての値から求めた1階差分に基づいて失火を判定する。
これによって、失火判定装置10は等間隔燃焼エンジンの失火も高い精度で判定することができる。
つまり、失火判定装置10は、不等間隔燃焼エンジン及び等間隔燃焼エンジンのいずれの失火の判定にも適用可能である。
【0093】
[第二実施形態]
続いて、本発明の第二実施形態について説明する。
本実施形態のエンジン用失火判定装置は、特定気筒失火判定部15が平準化処理部17を備えていない。特定気筒失火判定部15の判定部18は、1階差分算出部16が算出した1階差分を直接用いて失火を判定する。
本実施形態におけるこの他の点は、第一実施形態と同じである。従って、本実施形態の説明では、第一実施形態についての図面を流用し、第一実施形態と同じ符号を用いる。
【0094】
特定気筒失火判定部15の判定部18は、第1変動顕在化値AOMG2Cと、第2変動顕在化値AOMG1Cとの差である1階差分を用いて失火を判定する。
判定部18は、算出された1階差分が所定の基準値を超えているか否かに基づいて失火を検出する。基準値は、失火判定装置10に予め記憶された値である。ここで、基準値はマップで構成されている。詳細には基準値は、例えば、対象の気筒、回転速度、及びエンジン20の吸気圧に対応づけられたマップで構成されている。
判定部18は、1階差分が、気筒、回転速度、及び吸気圧に応じて選択された基準値を超えている場合に、対応する第2気筒20bで失火があったと判定する。
【0095】
本実施形態の失火判定装置10も、第一実施形態と同じく、等間隔燃焼エンジンの失火を判定することが可能である。
【0096】
また、上述した第1実施形態及び第2実施形態では、2気筒エンジンにおける失火判定の例を説明したが、これらの失火判定は3つ以上の気筒を有するエンジンにも適用可能である。
例えば、4気筒エンジンの場合、4つの気筒毎に設定される第1角度位置及び第2角度位置について、回転速度及び燃焼変動キャンセル値が取得される。ただし、ある気筒についての第2角度位置が、別の気筒についての第1角度位置と同じであってよい。
【0097】
[鞍乗型車両]
図9は、第一実施形態及び第二実施形態に係る失火判定装置10が搭載される鞍乗型車両を示す外観図である。
鞍乗型車両50は、運転者がサドルに跨って着座する形式の車両をいう。
図9に示す鞍乗型車両50は、自動二輪車である。
図9に示す鞍乗型車両50は、車体51及び複数の車輪52を備えている。車体51は車輪52を支持している。
図9に示す2つの車輪52は、鞍乗型車両50の車体51に対して、鞍乗型車両50の前後方向Xに並んで配置されている。
車体51には、失火判定装置10、及びエンジン20が設けられている。エンジン20は、車輪52を駆動する。エンジン20の駆動力は、変速機58及びチェーン59を介して、車輪52に伝達される。鞍乗型車両50は、左右に対を成す駆動輪を備えておらず、一般的な自動車等が駆動輪に有するようなデファレンシャルギアを備えていない。
【0098】
失火判定装置10は、エンジン20の制御を行う。また、失火判定装置10は、エンジン20により回転されるクランクシャフト21(
図1参照)の回転速度に基づいて、エンジン20の失火を検出する。
【符号の説明】
【0099】
10 エンジン用失火判定装置
12 回転速度取得部
13 燃焼変動キャンセル値取得部
14 燃焼変動顕在化値算出部
15 特定気筒失火判定部
19 失火報知部
20 エンジン
21 クランクシャフト
50 鞍乗型車両