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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-11
(45)【発行日】2023-01-19
(54)【発明の名称】抗I型アレルギー剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/899 20060101AFI20230112BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20230112BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230112BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20230112BHJP
【FI】
A61K36/899
A61P37/08
A61P43/00 105
A23L33/105
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018146229
(22)【出願日】2018-08-02
(65)【公開番号】P2019210271
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2018103256
(32)【優先日】2018-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】321006774
【氏名又は名称】DM三井製糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】古田 到真
(72)【発明者】
【氏名】水 雅美
【審査官】▲高▼岡 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-137803(JP,A)
【文献】古田到真 他,国内製糖工場廃棄物からの有価物製造におけるGHG削減技術実証,精糖技術研究会誌,2017年,Vol.63,pp.7-10,実験方法
【文献】三菱ケミカル,合成吸着剤,[online],2017年04月04日,https://web.archive.org/web/201704072547/http://www.diaion.com/products/synthesis_0201.html#01,ダイヤイオンHP20,セパビーズSP850
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPINDEX(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バガスの分解抽出物を有効成分として含有する、抗I型アレルギー剤。
【請求項2】
前記バガスの分解抽出物は、アルカリ処理、水熱処理、酸処理、亜臨界水処理、微粉砕処理及び爆砕処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の分解処理により得られる分解処理液である、請求項1に記載の抗I型アレルギー剤。
【請求項3】
前記バガスの分解抽出物は、前記分解処理液を、固定担体を充填したカラムに通液することより得られる画分である、請求項2に記載の抗I型アレルギー剤。
【請求項4】
前記固定担体は、合成吸着剤又はイオン交換樹脂である、請求項3に記載の抗I型アレルギー剤。
【請求項5】
前記固定担体が合成吸着剤であり、前記バガスの分解抽出物は、該合成吸着剤に吸着された成分を、水、メタノール、エタノール及びこれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒で溶出させることにより得られる画分である、請求項3に記載の抗I型アレルギー剤。
【請求項6】
前記合成吸着剤は、芳香族系樹脂、アクリル酸系メタクリル樹脂、又はアクリロニトリル脂肪族系樹脂である、請求項4又は5に記載の抗I型アレルギー剤。
【請求項7】
前記バガスの分解抽出物は、前記分解処理液を、固定担体としての合成吸着剤を充填したカラムに通液し、該合成吸着剤に吸着された成分を、エタノール及び水の混合溶媒で溶出させて得られる画分であり、
前記合成吸着剤は、無置換基型の芳香族系樹脂であり、
前記カラムの温度は20~60℃であり、
前記混合溶媒のエタノール及び水の体積比(エタノール/水)は50/50~60/40である、請求項2に記載のI型アレルギー剤。
【請求項8】
肥満細胞又は好塩基球の脱顆粒抑制作用に基づくものである、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗I型アレルギー剤。
【請求項9】
バガスの分解抽出物を有効成分として含有する、肥満細胞又は好塩基球の脱顆粒抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗I型アレルギー剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギー(allergy)とは「免疫反応に基づく生体に対する全身的または局所的な障害」と定義される。アレルギー反応を分類するとI型~IV型に分けられる。このうち、I、II、III型アレルギーは血清交代が関与する体液性免疫(humoral immunity)であり、IV型アレルギーは感作リンパ球による細胞性免疫(Cellular immunity)である。
【0003】
I型アレルギーは即時型アレルギー、アナフィラキシー型アレルギーとも呼ばれる。I型アレルギーの症状としては花粉症、蕁麻疹等が挙げられるが、これらの症状を有する人口は比較的多いため、有効な抗I型アレルギー剤が求められている。例えば特許文献1には、カルニチン誘導体および/または前記カルニチン誘導体を効果促進剤と併用されることにより、抗アレルギー効果を有する化粧料又は皮膚外用剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-114289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新規な抗I型アレルギー剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一態様として、バガスの分解抽出物を有効成分として含有する、抗I型アレルギー剤を提供する。
【0007】
本発明者らは、in vitro試験によって、バガスの分解抽出物が抗I型アレルギー作用を有することを見出した。すなわち、本発明の抗I型アレルギー剤によれば、I型アレルギーの症状を抑制(治療、緩和又は予防)することができる。
【0008】
本発明の抗I型アレルギー剤は、肥満細胞又は好塩基球の脱顆粒抑制作用に基づくものであってもよい。
【0009】
I型アレルギー反応の機序は以下のとおりである。
(1)花粉やダニなどの抗原(アレルゲン)が生体内に侵入すると、ヘルパーT細胞(Th2細胞)が指令を出しB細胞を免疫グロブリンE(IgE)抗体産生細胞へと分化させる。
(2)IgE抗体産生細胞からその抗原に特異的なIgE抗体が産生される。
(3)IgE抗体が肥満細胞又は好塩基球に結合し、そこに再び抗原が結合することによりヒスタミン、ロイコトリエン等の化学伝達物質が分泌(脱顆粒)され、アレルギー症状が発現する。
【0010】
本発明の抗I型アレルギーは、少なくとも肥満細胞又は好塩基球の脱顆粒を抑制する作用を有する。したがって、本発明の抗I型アレルギー剤によれば、I型アレルギーの症状を効果的に抑制することができる。
【0011】
バガスの分解抽出物は、アルカリ処理、水熱処理、酸処理、亜臨界水処理、微粉砕処理及び爆砕処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の分解処理により得られる分解処理液であってよい。
【0012】
バガスの分解抽出物は、分解処理液を、固定担体を充填したカラムに通液することより得られる画分であってもよい。固定担体は、好ましくは、合成吸着剤又はイオン交換樹脂である。
【0013】
固定担体が合成吸着剤である場合、バガスの分解抽出物は、該合成吸着剤に吸着された成分を、水、メタノール、エタノール及びこれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒で溶出させることにより得られる画分であってもよい。
【0014】
合成吸着剤は、好ましくは、芳香族系樹脂、アクリル酸系メタクリル樹脂、又はアクリロニトリル脂肪族系樹脂である。
【0015】
バガスの分解抽出物は、分解処理液を、固定担体としての合成吸着剤を充填したカラムに通液し、該合成吸着剤に吸着された成分を、エタノール及び水の混合溶媒で溶出させて得られる画分であってよく、この場合、合成吸着剤は、無置換基型の芳香族系樹脂であり、カラムの温度は20~60℃であり、混合溶媒のエタノール及び水の体積比(エタノール/水)は50/50~60/40であってもよい。
【0016】
本発明は、他の態様として、バガスの分解抽出物を有効成分として含有する、肥満細胞又は好塩基球の脱顆粒抑制剤を提供するということもできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、新規な抗I型アレルギー剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1~3、比較例1及び陽性対照の脱顆粒率を示すグラフである。
図2】実施例4~6及び比較例1の脱顆粒率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0020】
本明細書における抗I型アレルギー剤は、I型アレルギー症状を抑制する作用を備える組成物である。I型アレルギー症状を抑制する作用とは、例えば、花粉症、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、気管支喘息等のI型アレルギーによる症状を緩和、治療、又は予防する作用であってよい。また、I型アレルギー症状を抑制する作用とは、I型アレルギー反応のメカニズムにおける、肥満細胞又は好塩基球の脱顆粒を抑制する作用であってよい。すなわち、本明細書における抗I型アレルギー剤は、肥満細胞又は好塩基球の脱顆粒抑制剤であってもよい。
【0021】
一実施形態に係る抗I型アレルギー剤は、バガスの分解抽出物を有効成分として含有する。バガスの分解抽出物には、p-クマル酸、フェルラ酸、カフェ酸及びバニリン等のフェニルプロパノイド、並びにリグニン及びその分解物からなる群より選ばれる少なくとも1種が含まれていることが好ましい。
【0022】
「バガス」とは、典型的には原料糖製造工程における製糖過程で排出されるバガスをいう。原料糖工場における製糖過程で排出されるバガスには、最終圧搾機を出た最終バガスだけではなく、第1圧搾機を含む以降の圧搾機に食い込まれた細裂甘蔗をも含む。好適なバガスは、原料糖工場において圧搾工程により糖汁を圧搾した後に排出されるバガスである。当該バガスは、甘蔗の種類、収穫時期等により、その含まれる水分、糖分及びそれらの組成比が異なるが、本発明においては、これらのバガスを任意に用いることができる。さらに、本実施形態では、原料のバガスとして、原料糖工場と同様に、例えば黒糖製造工場において排出される甘蔗圧搾後に残るバガス、又は実験室レベルの小規模な実施により甘蔗から糖液を圧搾した後のバガスも用いることができる。
【0023】
バガスの分解抽出物は、一実施形態において、バガス(及び/又はその加工物)の分解処理液であってよい。分解処理液は、アルカリ処理、水熱処理、酸処理、亜臨界水処理、微粉砕処理及び爆砕処理からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の分解処理により得ることができる。分解処理は、バガスの分解抽出物を得やすい観点から、好ましくはアルカリ処理又は水熱処理である。
【0024】
アルカリ処理は、バガスにアルカリ性溶液を接触させる処理であってよい。アルカリ性溶液を接触させる方法としては、例えば、アルカリ性溶液をバガスに振りかける方法、バガスをアルカリ性溶液に浸漬させる方法等が挙げられる。バガスをアルカリ性溶液に浸漬させる方法においては、バガス及びアルカリ性溶液の混合物を撹拌しながら浸漬させてもよい。
【0025】
アルカリ性溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液等が挙げられる。アルカリ性溶液は、これらの溶液を1種単独で又は2種以上を混合して用いられてよい。アルカリ性溶液は、安価であり、食品製造工程で容易に用いられる観点から、好ましくは水酸化ナトリウム水溶液である。
【0026】
アルカリ性溶液の温度(液温)は、分解処理の処理時間を短縮する観点から、好ましくは40℃以上であり、より好ましくは100℃以上であり、更に好ましくは130℃以上である。アルカリ性溶液の温度は、分解処理液に多糖類を残存させないようにする観点から、好ましくは250℃以下であり、より好ましくは200℃以下であり、更に好ましくは150℃以下である。
【0027】
アルカリ処理は、常圧下で行われてよく、加圧して行われてもよい。加圧する場合、圧力は、0.1MPa以上、又は0.2MPa以上であってよく、4.0MPa以下、1.6MPa以下、又は0.5MPa以下であってよい。
【0028】
水熱処理は、バガスに高温の水又は水蒸気を高圧下で接触させる処理であってよい。水熱処理は、より具体的には、例えば、バガスの固形物濃度が0.1~50%となるように水を加え、高温・高圧条件下で分解処理を行う方法であってもよい。水又は水蒸気の温度は130~250℃であることが好ましく、加える圧力は、各温度の水の飽和水蒸気圧に、更に0.1~0.5MPa高い圧力であることが好ましい。
【0029】
酸処理は、バガスに酸性溶液を接触させる処理であってよい。酸性溶液としては、希硫酸等が挙げられる。バガスに酸性溶液を接触させる方法、酸処理における酸溶液の温度、酸処理における圧力条件は、上述したアルカリ処理における方法又は条件と同様であってよい。
【0030】
亜臨界水処理は、バガスに亜臨界水を接触させる処理であってよい。バガスに亜臨界水を接触させる方法は、上述したアルカリ処理における方法と同様であってよい。亜臨界水処理の条件は特に制限されないが、亜臨界水の温度を160~240℃とし、処理時間を1~90分間とすることが好ましい。
【0031】
微粉砕処理は、圧縮、衝撃、せん断、摩擦などによりバガスを数μm~数百μmに粉砕する処理であってよい。爆砕処理は、水熱処理によりバガスに含まれる不溶性キシランをある程度分解させた後、耐圧反応容器に設けられたバルブを一気に開放すること等によって、瞬間的に大気圧に放出することによりバガスを粉砕する処理であってよい。
【0032】
分解処理液においては、上述した分解処理の後、固形分及び液分を分離する処理がなされてもよい。この場合、分離後に得られた液分を分解処理液とすることができる。固形分及び液分を分離する方法は、ストレーナー、ろ過、遠心分離、デカンテーション等による分離であってよい。
【0033】
分解処理液においては、膜分離により多糖類等の高分子成分が除去されてもよい。この場合、膜分離後の液分を分解処理液とすることができる。分離膜は、限外濾過膜(UF膜)であれば特に限定されない。限外濾過膜の分画分子量は、好ましくは2,500~50,000であり、より好ましくは2,500~5,000である。
【0034】
限外濾過膜の素材としては、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスルホン(PS)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)、再生セルロース、セルロース、セルロースエステル、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリ四フッ化エチレン等を使用することができる。
【0035】
限外濾過膜の濾過方式は、デッドエンド濾過、クロスフロー濾過であってよいが、膜ファウリング抑制の観点から、クロスフロー濾過であることが好ましい。
【0036】
限外濾過膜の膜形態としては、平膜型、スパイラル型、チューブラー型、中空糸型等、適宜の形態のものが使用できる。より具体的には、GE Power&WaterのGEシリーズ、GHシリーズ、GKシリーズ、DESAL社のG-5タイプ、G-10タイプ、G-20タイプ、G-50タイプ、PWタイプ、HWSUFタイプ、KOCH社のHFM-180、HFM-183、HFM-251、HFM-300、HFK-131、HFK-328、MPT-U20、MPS-U20P、MPS-U20S、Synder社のSPE1、SPE3、SPE5、SPE10、SPE30、SPV5、SPV50、SOW30、旭化成株式会社製のマイクローザ(登録商標)UFシリーズの分画分子量3,000から10,000に相当するもの、日東電工株式会社製のNTR7410、NTR7450等が挙げられる。
【0037】
バガスの分解抽出物は、他の実施形態において、上述した分解処理液を、固定担体を充填したカラムに通液することより得られる画分であってもよい。分解処理液をカラムに通液することにより、分解処理液中の抗I型アレルギー作用を有する成分(有効成分)が固定担体に吸着され、糖類及び無機塩類の大部分がそのまま流出する。
【0038】
上述した分解処理液は、直接又は水で任意の濃度に調整して、カラムに通液することができる。分解処理液においては、カラムの通液前にpHを調整してもよい。吸着率を向上させる観点から、分解処理液は、pH6以下に調整されていることが好ましい。分解処理液のpHは、4.5を超え6以下であってもよい。
【0039】
固定担体は、好ましくは、合成吸着剤又はイオン交換樹脂のいずれかである。
【0040】
合成吸着剤は、好ましくは合成多孔質吸着剤である。合成吸着剤(合成多孔質吸着剤)としては、好ましくは有機系樹脂が用いられる。有機系樹脂は、好ましくは、芳香族系樹脂、アクリル酸系メタクリル樹脂、又はアクリロニトリル脂肪族系樹脂である。
【0041】
芳香族系樹脂としては、例えば、スチレン-ジビニルベンゼン系樹脂が挙げられる。芳香族系樹脂としては、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、無置換基型の芳香族系樹脂、無置換基型に特殊処理をした芳香族系樹脂等の多孔質性樹脂も挙げられ、このうち、無置換基型の芳香族系樹脂又は無置換基型に特殊処理をした芳香族系樹脂が好ましい。
【0042】
合成吸着剤で市販のものとしては、ダイヤイオン(商標)HP-10、HP-20、HP-21、HP-30、HP-40、HP-50(以上、無置換基型の芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社);SP-825、SP-800、SP-850、SP-875、SP-70、SP-700(以上、無置換基型に特殊処理を施した芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社);SP-900(芳香族系樹脂、商品名、三菱ケミカル株式会社);アンバーライト(商標)XAD-2、XAD-4、XAD-16、XAD-2000(以上、芳香族系樹脂、いずれも商品名、株式会社オルガノ);ダイヤイオン(商標)SP-205、SP-206、SP-207(以上、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社);HP-2MG、EX-0021(以上、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社);アンバーライト(商標)XAD-7、XAD-8(以上、アクリル酸エステル樹脂、いずれも商品名、株式会社オルガノ製);ダイヤイオン(商標)HP1MG、HP2MG(以上、アクリル酸メタクリル樹脂、いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社);セファデックス(商標)LH20、LH60(以上、架橋デキストランの誘導体、いずれも商品名、ファルマシア バイオテク株式会社)等が挙げられる。中でも、無置換基型の芳香族系樹脂(例えば、HP-20)又は無置換基型に特殊処理を施した芳香族系樹脂(例えば、SP-850)が好ましい。
【0043】
カラムに充填する合成吸着剤の量は、カラムの大きさ、合成吸着剤の種類等によって適宜決定することができる。
【0044】
固定担体として合成吸着剤を用いる場合、分解処理液を通液するときの通液速度は、カラムの大きさ、溶出溶媒の種類、合成吸着剤の種類等によって適宜変更が可能であるが、好ましくは、SV=1~30時間-1である。なお、SV(Space Velocity、空間速度)は、1時間当たり樹脂容量の何倍量の液体を通液するかという単位である。
【0045】
合成吸着剤に吸着された吸着成分(有効成分)は、溶媒(溶出溶媒)により溶出させることができる。吸着成分をより効率よく回収する観点から、吸着成分を溶出させる前に、カラムに残留する糖類及び無機塩類を水洗により洗い流すことが好ましい。この場合、溶出させた成分をバガスの分解抽出物とすることができる。
【0046】
固定担体として合成吸着剤を用いる場合、溶出溶媒は、水、メタノール、エタノール及びこれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であってよい。溶出溶媒は、アルコール及び水の混合溶媒が好ましく、エタノール及び水の混合溶媒がより好ましく、吸着成分が室温においてより効率よく溶出可能となる観点から、体積比が50/50~60/40(エタノール/水)であるエタノール及び水の混合溶媒が更に好ましい。
【0047】
固定担体として合成吸着剤を用いる場合、溶出する際のカラムの温度(カラム温度)は室温であってよいが、室温よりもカラム温度を高温にすることにより、エタノール及び水の混合溶媒においてエタノールの混合割合を減らすことができ、吸着成分をより効率的に溶出させることができる。温度は、好ましくは20~60℃であり、より好ましくは40~60℃である。カラム内は常圧条件下であっても、加圧条件下であってもよい。
【0048】
固定担体として合成吸着剤を用いる場合、溶出速度は、カラムの大きさ、溶出溶媒の種類、合成吸着剤の種類等によって適宜設定することが可能であるが、SV=0.1~10時間-1である。
【0049】
イオン交換樹脂は、樹脂の形態に基づいて、ゲル型樹脂と、ポーラス型、マイクロポーラス型又はハイポーラス型等の多孔性樹脂とに分類されるが、特に制限はない。イオン交換樹脂は、好ましくは陰イオン交換樹脂である。陰イオン交換樹脂としては、強塩基性陰イオン交換樹脂又は弱塩基性陰イオン交換樹脂が用いられてよい。アルカリ処理液を原料として使用する場合、好ましくは、強塩基性陰イオン交換樹脂が用いられるが、その他の処理による分解処理液を原料とする場合は特に制限はない。
【0050】
市販の強塩基性陰イオン交換樹脂としては、ダイヤイオン(商標)PA306、PA308、PA312、PA316、PA318L、HPA25、SA10A、SA12A、SA11A、SA20A、UBA120(以上、三菱ケミカル株式会社)、アンバーライト(商標)IRA400J、IRA402Bl、IRA404J、IRA900J、IRA904、IRA458RF、IRA958、IRA410J、IRA411、IRA910CT(以上、オルガノ株式会社製)、ダウエックス(商標)マラソンA、マラソンMSA、MONOSPHERE550A、マラソンA2(以上、ダウケミカル日本株式会社)等が挙げられる。
【0051】
市販の弱塩基性陰イオン交換樹脂としては、ダイヤイオン(商標)WA10、WA20、WA21J、WA30(以上、三菱ケミカル株式会社)、アンバーライト(商標)IRA478RF、IRA67、IRA96SB、IRA98、XE583(以上、オルガノ株式会社)、ダウエックス(商標)マラソンWBA、MONOSPHERE66、MONOSPHERE77(以上、ダウケミカル日本株式会社)等が挙げられる。
【0052】
カラムに充填するイオン交換樹脂の量は、カラムの大きさ、イオン交換樹脂の種類などによって適宜決定できるが、分解処理液の固形分に対して2~10,000倍湿潤体積量が好ましく、5~500倍湿潤体積量がより好ましい。
【0053】
通液条件は、前処理液の種類、イオン交換樹脂の種類等により適宜設定することが可能である。好ましくは、流速はSV=0.3~30時間-1であり、通液する液量はイオン交換樹脂の100~300%であり、カラム温度は40~90℃である。カラム内は常圧又は加圧された状態であってもよい。
【0054】
固定担体としてイオン交換樹脂を用いる場合、バガスの分解抽出物は、イオン交換樹脂を充填したカラムに通液し、塩や酸、アルコール又はこれらの混合水溶液等の溶離液で溶出させることで得られる画分であってもよい。溶離液は脱気処理されていてもよい。
【0055】
バガスの分解抽出物は、一実施形態においては、上述した分解処理液又は画分を濃縮した濃縮物であってもよい。濃縮方法は公知の方法であってよく、例えば、減圧下での溶媒留去、凍結乾燥等の方法であってよい。濃縮を行う場合、分解処理液又は画分を15~30倍に濃縮して、濃縮後の成分をバガスの分解抽出物とすることができる。
【0056】
バガスの分解抽出物は、例えば、次のようにして得ることができる。バガスに、固形物濃度が0.1~50%となるように1質量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加して100℃で煮沸を行い、分解処理液(アルカリ処理液)を得る。分解処理液を分画分子量2500~5000のUF膜にて限外濾過を行い、得られた濾過液を酸性に調整してから、無置換基型の芳香族系樹脂を充填したカラムに、カラム温度20~60℃にて通液する。その後、カラムに吸着された成分を、カラム温度20~60℃にて、体積比が50/50~60/40(エタノール/水)のエタノール及び水の混合溶媒(溶出溶媒)で溶出させ、エタノール及び水の混合溶媒での溶出開始時点から集めた溶出液の量が該芳香族系樹脂の45倍湿潤体積量以内に溶出する画分を回収する。回収された画分(抗I型アレルギー作用を有する成分を含む画分)を集め、慣用の手段(減圧下での溶媒留去、凍結乾燥等)により濃縮して、バガスの分解抽出物を得ることができる。このようにして得られたバガスの分解抽出物は、固形分が30質量%以上になるように濃縮した液状又は粉末状の抽出物として保存することができる。抽出物の保存は、当該抽出物が液状の場合、冷蔵で行うことが好ましい。
【0057】
バガスの分解抽出物は、他の例として、例えば、次のようにして得ることもできる。すなわち、バガスに固形物濃度が0.1~50%となるように加水して130~250℃の水により、0.2~4.0Mpaの圧力下で水熱処理を行い、濾過による固液分離で分解処理液(水熱処理液)を得る。得られた水熱処理液について、無置換基型に特殊処理を施した芳香族系樹脂を充填したカラムに、温度20~60℃にて通液した後、カラムに吸着された成分を、カラム温度20~60℃にて、体積比が50/50~60/40(エタノール/水)のエタノール及び水の混合溶媒(溶出溶媒)で溶出させ、エタノール及び水の混合溶媒での溶出開始時点から集めた溶出液の量が該芳香族系樹脂の5倍湿潤体積量以内に溶出する画分を回収する。回収された画分(抗I型アレルギー作用を有する成分を含む画分)を集め、慣用の手段(減圧下での溶媒留去、凍結乾燥等)により濃縮して、バガスの分解抽出物を得ることができる。このようにして得られたバガスの分解抽出物は、固形分が30質量%以上になるように濃縮した液状又は粉末状の抽出物として保存することができる。抽出物の保存は、当該抽出物が液状の場合、冷蔵で行うことが好ましい。
【0058】
上述した各実施形態におけるバガスの分解抽出物は、液状又は粉末状であってよい。粉末状のバガスの分解抽出物は、例えば、液状のバガス分解抽出物を用いて、スプレードライ法、凍結乾燥法、流動層造粒法、又は賦形剤を用いた粉末化法等により製造することができる。
【0059】
本実施形態に係る抗I型アレルギー剤は、有効成分であるバガスの分解抽出物のみからなってもよく、食品、医薬部外品又は医薬品に使用可能な素材を更に配合してもよい。食品、医薬部外品又は医薬品に使用可能な素材としては、特に制限されるものではないが、例えば、アミノ酸、タンパク質、炭水化物、油脂、甘味料、ミネラル、ビタミン、香料、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、乳化剤、界面活性剤、基剤、溶解補助剤、懸濁化剤等が挙げられる。
【0060】
タンパク質としては、例えば、ミルクカゼイン、ホエイ、大豆タンパク、小麦タンパク、卵白等が挙げられる。炭水化物としては、例えば、コーンスターチ、セルロース、α化デンプン、小麦デンプン、米デンプン、馬鈴薯デンプン等が挙げられる。油脂としては、例えば、サラダ油、コーン油、大豆油、ベニバナ油、オリーブ油、パーム油等が挙げられる。甘味料としては、例えば、ブドウ糖、ショ糖、果糖、ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖等の糖類、キシリトール、エリスリトール、マルチトール等の糖アルコール、スクラロース、アスパルテーム、サッカリン、アセスルファムK等の人工甘味料、ステビア甘味料等が挙げられる。ミネラルとしては、例えば、カルシウム、カリウム、リン、ナトリウム、マンガン、鉄、亜鉛、マグネシウム、及びこれらの塩類等が挙げられる。ビタミンとしては、例えば、ビタミンE、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンB類、ビオチン、ナイアシン等が挙げられる。賦形剤としては、例えば、デキストリン、デンプン、乳糖、結晶セルロース等が挙げられる。結合剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク等が挙げられる。崩壊剤としては、例えば、結晶セルロース、寒天、ゼラチン、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、デキストリン等が挙げられる。乳化剤又は界面活性剤としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、クエン酸、乳酸、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。基剤としては、例えば、セトステアリルアルコール、ラノリン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。溶解補助剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。懸濁化剤としては、例えば、モノステアリン酸グリセリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0061】
抗I型アレルギー剤が他の素材を配合する場合、有効成分であるバガスの分解抽出物の含有量は、後述する抗I型アレルギー剤の形態、使用目的等に応じて適宜設定すればよいが、脂肪細胞又は好塩基球の脱顆粒をより抑制しやすくする観点から、抗I型アレルギー剤全量を基準として、好ましくは100μg/g以上、より好ましくは25μg/g以上、更に好ましくは400μg/g以上であり、また、好ましくは10mg/g以下、より好ましくは7.5mg/g以下、更に好ましくは5mg/g以下である。
【0062】
抗I型アレルギー剤は、固体(粉末、顆粒等)、液体(溶液、懸濁液等)、ペースト等のいずれの形状であってもよく、散剤、丸剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、液剤、懸濁剤等のいずれの剤形であってもよい。
【0063】
本実施形態の抗I型アレルギー剤は、I型アレルギー反応において、特に、肥満細胞又は好塩基球から、ヒスタミン、ロイコトリエン等の化学伝達物質を含む顆粒が細胞外へ放出されること(脱顆粒)を抑制する作用(脱顆粒抑制作用)を有する。そのため、本実施形態の抗I型アレルギー剤によれば、I型アレルギー反応による症状を効果的に抑制、治療又は予防することができる。
【0064】
抗I型アレルギー剤が脱顆粒抑制作用を有しているか否かは、例えば、ラット好塩基球性白血病細胞(RBL-2H3細胞)等の、細胞表面に結合したIgEが抗原により架橋されることで、ヒスタミン等を含む顆粒球を細胞外へ放出する細胞を用いて、この細胞を抗原で刺激したときに、抗I型アレルギー剤を添加しなかった検体に比べて抗I型アレルギー剤を添加した検体の脱顆粒がどの程度抑制されたかを算出することによって確認することができる。
【0065】
抗I型アレルギー剤は、食品、医薬部外品又は医薬品として用いることができる。食品は、例えば、健康食品、特定保健用食品、機能性食品、栄養機能食品、サプリメント等の形態で提供されてもよい。
【0066】
抗I型アレルギー剤は、静脈投与等の非経口投与がされてよく、経口投与がされてもよい。抗I型アレルギー剤は、経口投与されることが好ましい。
【0067】
抗I型アレルギー剤が非経口投与される場合、投与量としては、例えば、バガスの分解抽出物が1回当たり50μg/kg(体重)以上となるように投与されるのが好ましく、150μg/kg(体重)以上となるように投与されるのがより好ましく、250μg/kg(体重)以上となるように投与されるのが更に好ましい。また、バガスの分解抽出物が1日当たり100μg/kg(体重)以上となるように投与されるのが好ましく、300μg/kg(体重)以上となるように投与されるのがより好ましく、500μg/kg(体重)以上となるように投与されるのが更に好ましい。また、バガスの分解抽出物が、1回当たり2000mg以下/kg(体重)となるように投与されるのが好ましく、1500mg/kg(体重)以下となるように投与されるのがより好ましく、1000mg/kg(体重)以下となるように投与されるのが更に好ましい。また、バガスの分解抽出物が1日当たり4000mg/kg(体重)以下となるように投与されるのが好ましく、3000mg/kg(体重)以下となるように投与されるのがより好ましく、2000mg/kg(体重)以下となるように投与されるのが更に好ましい。この範囲であれば、十分な血中濃度を達成することができ、抗I型アレルギー作用をよりよく発現することができる。
【0068】
抗I型アレルギー剤が経口投与される場合、投与量としては、バガスの分解抽出物が1回当たり50μg/kg(体重)以上となるように投与されるのが好ましく、100μg/kg(体重)以上となるように投与されるのがより好ましく、150μg/kg(体重)以上となるように投与されるのが更に好ましい。また、バガスの分解抽出物が1日当たり150μg/kg(体重)以上となるように投与されるのが好ましく、300μg/kg(体重)以上となるように投与されるのがより好ましく、450μg/kg(体重)以上となるように投与されるのが更に好ましい。また、バガスの分解抽出物が1回当たり1000mg/kg(体重)以下となるように投与されるのが好ましく、800mg/kg(体重)以下となるように投与されるのがより好ましく、600mg/kg(体重)以下となるように投与されるのが更に好ましい。また、バガスの分解抽出物が1日当たり3000mg/kg(体重)以下となるように投与されるのが好ましく、2000mg/kg(体重)以下となるように投与されるのがより好ましく、1000mg/kg(体重)以下となるように投与されるのが更に好ましい。この範囲であれば、十分な血中濃度を達成することができ、抗I型アレルギー作用をよりよく発現することができる。
【0069】
本実施形態の抗I型アレルギー剤は上述した作用を有するため、I型アレルギーの症状を有する患者用として、また、I型アレルギーを未然に防ぐことを望むアレルギー未発症者用として用いることができる。
【実施例
【0070】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。バガスの分解抽出物は、以下、単に「抽出物」と表現することがある。
【0071】
<バガスの分解抽出物の製造>
[製造例1]
サトウキビの搾りかすであるバガス15kg(含水率50質量%)及び0.5%(w/w)水酸化ナトリウム水溶液100Lを混合し、150℃の条件でアルカリ処理を行った。アルカリ処理後の混合液を固形分と液分に分離して、液分を約100L得た。分画分子量2500のUF膜(GEウォーター&プロセス・テクノロジー社、GH8040F30)を用いて限外濾過を行い、濾過液80Lを得た。合成吸着剤(三菱ケミカル株式会社製、HP-20)1Lを樹脂塔(内径80mm、高さ400mm)に充填し、これに上記の濾過液を、pHを6に調整してから流速10L/時間(SV=10.0(時間-1))で通液した。
【0072】
続いて、5Lの精製水を、流速10L/時間(SV=10.0(時間-1))で樹脂塔に通液して洗浄した。次に、溶出溶媒として60%エタノール水溶液(エタノール/水=60/40(体積/体積))2Lを、流速2L/時間(SV=2.0(時間-1))で樹脂塔に通液した。続けて、2Lの精製水を流速2L/時間(SV=2.0(時間-1))で樹脂塔に通液し、合成吸着剤に吸着した成分を溶出させた。樹脂塔から溶出した画分を、ロータリーエバポレーターにて約10倍の濃度に減圧濃縮したのち、一晩凍結乾燥して、バガスの分解抽出物として、茶褐色の粉末20gを得た。これを抽出物Aとした。
【0073】
[製造例2]
サトウキビの搾りかすであるバガス30kg(含水率50質量%)を、200℃、1.8MPaの熱水100Lで水熱処理を行った。前処理後の混合液を固形分と液分とに分離して、液分を約88L得た。分画分子量2500のUF膜(GEウォーター&プロセス・テクノロジー社、GH8040F30)を用いて限外濾過を行い、濾過液70Lを得た。合成吸着剤(三菱ケミカル株式会社製、SP-850)1Lを樹脂塔(内径80mm、高さ400mm)に充填し、これに上記の濾過液のうち25Lを、流速20L/時間(SV=20.0(時間-1))で通液した。
【0074】
続いて、3.3Lの精製水を、流速20L/時間(SV=20.0(時間-1))で樹脂塔に通液して洗浄した。次に
、溶出溶媒として60%エタノール水溶液(エタノール/水=60/40(体積/体積))2Lを、流速2L/時間(SV=2.0(時間-1))で樹脂塔に通液した。続けて、2Lの精製水を流速2L/時間(SV=2.0(時間-1))で樹脂塔に通液し、合成吸着剤に吸着した成分を溶出させた。樹脂塔から溶出した画分を、ロータリーエバポレーターにて約10倍の濃度に減圧濃縮したのち、一晩凍結乾燥して、バガスの分解抽出物として、茶褐色の粉末40gを得た。これを抽出物Wとした。
【0075】
<試験1:抽出物AによるRBL-2H3細胞脱顆粒抑制試験>
[試験液の調製]
抽出物Aを水に溶解させて、50mg/mLの試験液原液を調製した。この試験液原液を以下の表1に示す緩衝溶液で希釈し、検体濃度2000、1000及び500μg/mLの試験液をそれぞれ調製した。
【0076】
[試験操作]
ラット好塩基球性白血病細胞であるRBL-2H3細胞(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)を96ウェルプレートに播種後、一晩培養した。表1に示す組成を有し、更に抗DNP-IgE抗体を含む培地を添加し、37℃で2時間反応させた後、細胞を緩衝溶液で洗浄した。さらに、調製した2000、1000及び500μg/mLの試験液を、終濃度がそれぞれ1000μg/mL(実施例1)、500μg/mL(実施例2)及び250μg/mL(実施例3)となるように添加した。その後、37℃で10分間反応させてから、DNP標識ヒト血清アルブミンを加え、37℃で更に3時間反応させた。また、試験液を添加せず、緩衝溶液のみを添加したものを未処置対照(比較例1)、ウォルトマンニン(和光純薬(株))を終濃度25nmol/Lとなるように添加したものを陽性対照として同様に試験を行った。また、抗DNP-IgE抗体を含まない培地を添加した後、緩衝溶液及びDNP標識ヒト血清アルブミンを順次加えて、同様に反応させたものを抗原未刺激対照とした。
【0077】
細胞上清全量を空のウェルに分取した後、細胞には細胞溶解バッファー(Lysis buffer)を添加し、室温で10分間静置して細胞溶解液を得た。細胞上清及び細胞溶解液にそれぞれp-ニトロフェニル-2-アセトアミド-2-デオキシ-β-D-グルコプラノシド溶液(以下、基質溶液と呼ぶ。)を加え、37℃で25分間反応させた後、グリシンバッファーを加えて反応を停止させた。また、細胞上清及び細胞溶解液にそれぞれグリシンバッファーを加え、37℃で25分間反応させた後に基質溶液を加えたものをサンプルブランクとした。
【0078】
【表1】
【0079】
[脱顆粒率の算出]
実施例1~3、比較例1、陽性対照、抗原未刺激対照及びサンプルブランクの各サンプルについて、マイクロプレートリーダー(SpectraMax M2e、モレキュラーデバイス社)を用いて、顆粒中に存在するβ-ヘキソサミニダーゼと基質との反応により生じたp-ニトロフェノールの吸光度を測定した(測定波長:405nm、対照波長:650nm)。
【0080】
比較例1の吸光度に対する各サンプルの吸光度から、次式により放出率を求め、更に放出率から脱顆粒率を算出した。なお、式中、「細胞上清側の吸光度」及び「細胞溶液側の吸光度」は、サンプルブランクを差し引いた値である。
放出率(%)=細胞上清側の吸光度/(細胞上清側の吸光度+細胞溶液側の吸光度)
脱顆粒率(%)={(試験液の放出率-抗原未刺激対照の放出率)/(未処置対照の放出率-抗原未刺激対照の放出率)の平均値}×100
【0081】
脱顆粒率を算出した結果を図1に示す。脱顆粒率は、比較例1が100±11.5であったのに対して、陽性対照が39±8.4、実施例1が49±12.5、実施例2が61±11.2、実施例3が77±11.1であった。
【0082】
<試験2:抽出物WによるRBL-2H3細胞脱顆粒抑制試験>
[試験液の調製]
抽出物Wをエタノールに溶解させて、50mg/mLの試験液原液を調製した。この試験液原液を上述の表1に示す緩衝溶液で希釈し、検体濃度1000、500及び250μg/mLの試験液をそれぞれ調製した。
【0083】
[RBL-2H3細胞脱顆粒抑制試験]
調製した抽出物Wを含む試験液を用い、上述の試験例1における試験操作中、試験液の終濃度が500μg/mL(実施例4)、250μg/mL(実施例5)及び125μg/mL(実施例6)となるように試験液を添加した以外は、試験例1と同様の方法によって脱顆粒率を算出した。比較例1は、試験例1と同様の未処置対照である。
【0084】
脱顆粒率を算出した結果を図2に示す。脱顆粒率は、比較例1が100±2.9であったのに対して、実施例4が12±1.6、実施例5が47±4.9、実施例3が80±6.1であった。
図1
図2