(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-11
(45)【発行日】2023-01-19
(54)【発明の名称】キャリアテープの製造方法
(51)【国際特許分類】
B65D 85/86 20060101AFI20230112BHJP
B65B 15/04 20060101ALI20230112BHJP
B65H 18/08 20060101ALI20230112BHJP
C08J 7/00 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
B65D85/86 300
B65B15/04 P
B65H18/08
C08J7/00 305
C08J7/00 CER
C08J7/00 CEZ
(21)【出願番号】P 2018233121
(22)【出願日】2018-12-13
【審査請求日】2021-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】篠塚 信裕
【審査官】宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-222407(JP,A)
【文献】特開2006-182417(JP,A)
【文献】特開平11-278451(JP,A)
【文献】特開昭54-039474(JP,A)
【文献】特開2006-290535(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101746558(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 85/86
B65B 15/04
B65H 18/08
C08J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパイラル巻きされる
厚さ0.1mm以上0.5mm以下の樹脂シートと、この樹脂シートに形成される部品用の収納エンボス
とを備えたキャリアテープの製造方法であって、
カバーにより被覆された原反からカバーにより被覆された巻取ロールに炭化水素系の樹脂を主成分とした樹脂シート用の幅広樹脂シートを連続して繰り出し、この繰り出された略水平の幅広樹脂シートに放射線を上方から照射した後に幅広樹脂シートを巻取ロールに巻き取り、
巻取ロールから幅広樹脂シートを繰り出して所定の長さで裁断することで複数本の中間樹脂シートを横一列に形成するとともに、中間樹脂シートを長手方向に裁断して複数本の樹脂シートを形成し、
樹脂シートを加熱してその長手方向に複数の収納エンボスを所定の間隔で配列形成することを特徴とするキャリアテープの製造方法。
【請求項2】
原反を略水平方向に移動させながら幅広樹脂シートを繰り出し、この繰り出された幅広樹脂シートを巻取ロールにスパイラル巻きする請求項1記載のキャリアテープの製造方法。
【請求項3】
放射線の放射線量が5Mrad以上300Mrad以下である請求項1又は2記載の
キャリアテープの製造方法。
【請求項4】
放射線は、ガンマ線あるいは電子線である請求項1、2、又は3記載の
キャリアテープの製造方法。
【請求項5】
ガンマ線の放射線源がコバルト60である請求項4記載の
キャリアテープの製造方法。
【請求項6】
樹脂シートに電子線が照射される場合の加速電圧が1kV以上300kV以下である請求項4記載の
キャリアテープの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品等の収納、保管、搬送、輸送等に使用されるキャリアテープの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の電子部品を個々に収納し、保管、搬送、輸送等する場合には、ハンドリングしにくい小型の電子部品を効率的に取り扱ったり、電子部品の破損を未然に防止したり、あるいはできるだけ多くの電子部品を収納する観点から、キャリアテープが使用されている。
【0003】
係るキャリアテープを製造する場合には
図5ないし
図7に示すように、原反10の樹脂シート用の幅広樹脂シート11を繰り出し(
図5参照)、この幅広樹脂シート11を所定の長さで裁断することにより、複数本の中間樹脂シート14を一列に形成(
図6参照)し、各中間樹脂シート14をさらに裁断して幅の狭い複数本の樹脂シート5を形成(
図7参照)し、各樹脂シート5の長手方向に、電子部品用の複数の収納エンボスを所定の間隔で配列形成するとともに、樹脂シート5の長手方向側部に、複数の送り孔を所定の間隔で穿孔することにより、キャリアテープを製造している。
【0004】
こうして製造されたキャリアテープは、巻取リールの巻芯にレコード巻きの多層に巻回されるが、複数の電子部品を収納する場合には、実装機にセットされた後、巻取リールの巻芯から繰り出され、複数の収納エンボスに電子部品が順次収納され、樹脂シート5の表面に、電子部品を被覆保護するカバーテープが貼着される。
【0005】
ところで、キャリアテープは、エンボス形状等、様々な提案がなされているが、搬送する電子部品の小型化の進行と共に、さらなる大量搬送が一つの命題となっている。この命題を実現するため、(1)複数の収納エンボスの間隔を狭め、一定の長さのキャリアテープに大量の電子部品を収納する方法、(2)キャリアテープの伸長化を図る方法が提案されている。
【0006】
しかしながら、(1)の方法の場合には、収納エンボスのエンボス形状等に制約があり、設計変更が容易ではないので、複数の収納エンボスの間隔を狭めるには限界がある。また、(2)の方法の場合には、ある程度有効ではあるものの、キャリアテープ上の同じ位置にキャリアテープが外層として徐々に積層され、レコード巻きされるので、巻取リールを大径化せざるを得ず、保管や搬送に支障を来すこととなる。また、キャリアテープの大径化に伴い、実装機も大型化して対応する構造に構成する必要があるので、使用設備の改造という大きな問題が新たに発生する。
【0007】
これらに鑑み、従来においては、
図8に示すように、巻芯15の左右軸方向に長いキャリアテープ1をスパイラル巻き(トラバース巻きともいう)してその巻径を抑制する方法が開発され、提案されている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015‐221673号公報
【文献】特開2005‐119880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、長いキャリアテープ1をスパイラル巻きする場合には、巻芯15に対するキャリアテープ1の巻き方向の転換点(
図9参照)TPで巻き癖WHが発生する(
図10参照)。この巻き癖WHは、キャリアテープ1の樹脂シート5にコシが無いときに、特に極端に発現し、キャリアテープ1のスパイラル巻きから長時間が経過し、電子部品が搬送された後、キャリアテープ1を巻きほぐすと、真っ直ぐであるべきキャリアテープ1が弓なりに変形して2mm以上反っていることが少なくない(
図10参照)。
【0010】
このようなキャリアテープ1の反り、特に大きな反りをそのまま放置すると、実装機に巻取リールがセットされた後、キャリアテープ1が繰り出され、電子部品が取り出される際、実装機のガイド等に反ったキャリアテープ1が干渉し、その結果、キャリアテープ1の繰り出しに支障を来し、重大なトラブルを招くおそれがある。
【0011】
本発明は上記に鑑みなされたもので、スパイラル巻きされるキャリアテープに巻き癖が発生するのを防ぎ、キャリアテープの反りを抑制することのできるキャリアテープの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明においては上記課題を解決するため、スパイラル巻きされる厚さ0.1mm以上0.5mm以下の樹脂シートと、この樹脂シートに形成される部品用の収納エンボスとを備えたキャリアテープの製造方法であって、
カバーにより被覆された原反からカバーにより被覆された巻取ロールに炭化水素系の樹脂を主成分とした樹脂シート用の幅広樹脂シートを連続して繰り出し、この繰り出された略水平の幅広樹脂シートに放射線を上方から照射した後に幅広樹脂シートを巻取ロールに巻き取り、
巻取ロールから幅広樹脂シートを繰り出して所定の長さで裁断することで複数本の中間樹脂シートを横一列に形成するとともに、中間樹脂シートを長手方向に裁断して複数本の樹脂シートを形成し、
樹脂シートを加熱してその長手方向に複数の収納エンボスを所定の間隔で配列形成することを特徴としている。
【0013】
なお、原反を略水平方向に移動させながら幅広樹脂シートを繰り出し、この繰り出された幅広樹脂シートを巻取ロールにスパイラル巻きすることができる。
また、放射線の放射線量が5Mrad以上300Mrad以下であることが好ましい。
また、放射線は、ガンマ線あるいは電子線であると良い。
また、ガンマ線の放射線源がコバルト60であると良い。
また、樹脂シートに電子線が照射される場合の加速電圧が1kV以上300kV以下であると良い。
【0016】
ここで、特許請求の範囲における樹脂シートは、単層構造、二層構造、三層構造、多層構造等を特に問うものではない。この樹脂シートは、多層に形成される場合、相互に異なる樹脂材料で形成されることが好ましい。また、収納エンボスに収納される部品には、少なくとも機械部品、電気部品、電子部品、半導体部品、精密部品等が含まれる。
【0017】
本発明によれば、キャリアテープの樹脂シートに放射線が照射され、樹脂シートの樹脂が架橋されているので、巻芯等にスパイラル巻きされるキャリアテープの巻き方向の転換点で巻き癖が発生するのを抑制し、キャリアテープが変形して反るのを低減することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、樹脂シートに放射線が照射されているので、スパイラル巻きされるキャリアテープに巻き癖が発生するのを防ぎ、キャリアテープの反りを抑制することができるという効果がある。また、原反と巻取ロールがカバーにより被覆されているので、湾曲した幅広樹脂シートに放射線が照射されることにより、不要な巻き癖が付くのを有効に防止することができる。また、樹脂シートや幅広樹脂シートが炭化水素系の樹脂を主成分とするので、キャリアテープの巻き癖や反りの発生防止に資することができる。
また、原反に巻かれた屈曲状態の幅広樹脂シートに放射線を照射したり、傾斜して繰り出された幅広樹脂シートに放射線を照射するのではなく、略水平に繰り出された平坦な幅広樹脂シートに放射線を照射するので、幅広樹脂シートに不要な巻き癖が付くのを防止することができる。さらに、幅広樹脂シートを性急に樹脂シートに形成するのではなく、幅広樹脂シートを一旦中間樹脂シートに形成した後、この中間樹脂シートを樹脂シートに形成するので、樹脂シートの段階的な形成が期待でき、高精度な寸法精度を有する複数本の樹脂シートを安全確実に形成することが可能となる。
【0019】
請求項2記載の発明によれば、巻取ロールに繰り出された幅広樹脂シートを単に重ね巻きするのではなく、スパイラル巻きするので、巻取ロールに長尺の幅広樹脂シートを崩れにくく巻き取ることができる。
請求項3記載の発明によれば、放射線の放射線量が5Mrad以上300Mrad以下なので、樹脂シートの放射線架橋効果が期待でき、しかも、放射線の照射作業の迅速化や樹脂シートに脆弱部が発生するのを防止することができる。
【0020】
請求項4記載の発明によれば、放射線がガンマ線あるいは電子線なので、優れた樹脂シートの放射線架橋効果が期待できる。
請求項5記載の発明によれば、ガンマ線の放射線源がコバルト60なので、安全性の向上を図ることができる。
請求項6記載の発明によれば、樹脂シートに電子線が照射される場合の加速電圧が1kV以上300kV以下なので、電子線照射装置の大型化を防ぐことができ、実用性の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明に係るキャリアテープ
の製造方法の実施形態における巻取リールにキャリアテープが多層にスパイラル巻きされる状態を模式的に示す説明図である。
【
図2】本発明に係るキャリアテープ
の製造方法の実施形態を模式的に示す平面説明図である。
【
図3】本発明に係るキャリアテープ
の製造方法の実施形態における原反から幅広樹脂シートを水平に繰り出し、この繰り出された幅広樹脂シートに放射線を照射する状態を模式的に示す説明図である。
【
図4】本発明に係るキャリアテープ
の製造方法の実施例における反り試験の無荷重の測定状態を模式的に示す説明図である。
【
図5】原反の樹脂シート用の幅広樹脂シートを繰り出す状態を模式的に示す斜視説明図である。
【
図6】複数本の中間樹脂シートを形成した状態を模式的に示す斜視説明図である。
【
図7】中間樹脂シートを裁断して幅の狭い複数本の樹脂シートを形成した状態を模式的に示す斜視説明図である。
【
図8】巻芯の軸方向に長いキャリアテープをスパイラル巻きする状態を模式的に示す斜視説明図である。
【
図9】巻芯にスパイラル巻きされたキャリアテープの巻き方向の転換点を示す説明図である。
【
図10】キャリアテープが変形して反った状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態におけるキャリアテープ1は、
図1ないし
図3に示すように、巻取リール2にスパイラル巻きされる樹脂シート5と、この樹脂シート5に形成される複数の電子部品用の収納エンボス6と、樹脂シート5の側部に穿孔される複数の送り孔7とを備え、樹脂シート5に放射線が照射されており、この放射線の照射に基づく樹脂シート5の架橋効果により、巻き癖WHや反りが抑制される。
【0025】
巻取リール2は、
図1に示すように、相対向する左右一対のフランジ板3を備え、この左右一対のフランジ板3の中心間に筒形の巻芯4が挟持されており、図示しない実装機に回転可能に軸支される。各フランジ板3は所定の樹脂(例えば、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)等)により円板に成形され、巻芯4は所定の樹脂や用紙により円筒形に形成される。このような巻取リール2は、巻芯4の周面に長尺のキャリアテープ1が多層にスパイラル巻き(トラバース巻き)される。
【0026】
この場合、キャリアテープ1は、例えば巻芯4の軸方向の右から左に斜めに巻かれ、フランジ板3と巻芯4との境界、すなわち転換点TPに到達すると、反転して左方向から右方向に斜めに巻かれ、反対側のフランジ板3と巻芯4との境界の転換点TPに到達すると、再度反転して右方向から左方向に傾斜して巻かれ、以下、巻き取られるまで繰り返されることとなる。
【0027】
樹脂シート5は、
図1や
図2に示すように、所定の樹脂を含有する成形材料により、厚さ0.1mm以上0.5mm以下の細長い帯形に押出成形法等で形成される。この樹脂シート5の所定の樹脂は、ポリカーボネート(PC)樹脂、ABS樹脂、MBS樹脂等、特に限定されるものではないが、キャリアテープ1の巻き癖WHや反りを未然に防止する観点からすると、炭化水素系の樹脂を主成分とするのが好ましい。炭化水素系の樹脂としては、例えば汎用性に優れる透明のポリスチレン(PS)樹脂、静電気トラブルを防止可能な導電性ポリスチレン樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂等があげられる。
【0028】
樹脂シート5は、1種類の樹脂により形成されても良いが、必要に応じ、複数種の樹脂により形成される。例えば、樹脂シート5は、多機能化を図りたい場合等には、1層目が薄いポリエチレン樹脂、2層目が厚いポリスチレン樹脂、及び3層目が薄いポリエチレン樹脂の積層構造に形成されても良い。また、1層目がポリスチレン樹脂、2層目がポリエチレン樹脂、及び3層目がポリスチレン樹脂の積層構造でも良いし、1層目が薄いABS樹脂、2層目が厚いポリスチレン樹脂、及び3層目が薄いABS樹脂の三層構造でも良い。
【0029】
但し、製造コストを削減する観点からすると、樹脂シート5の50%以上がポリスチレン樹脂で、中心の芯となる層がポリスチレン樹脂であるのが好ましい。
【0030】
樹脂シート5の厚さは、樹脂シート5に対する放射線の透過性を考慮すると、0.1mm以上0.5mm以下が良い。好ましくは0.15mm以上0.3mm以下、より好ましくは0.2mm以上0.25mm以下が良い。
【0031】
複数の収納エンボス6は、
図1や
図2に示すように、樹脂シート5の長手方向中央部に所定の間隔で配列形成され、各収納エンボス6が熱プレスで平面矩形に凹み形成されており、この収納エンボス6に図示しない電子部品、例えば抵抗素子やダイオード等が収納される。このような収納エンボス6に電子部品が収納されると、樹脂シート5の表面に、電子部品を被覆保護する透明のカバーテープが徐々に貼着される。
【0032】
複数の送り孔7は、同図に示すように、樹脂シート5の長手方向両側部に所定の間隔でそれぞれ穿孔され、各送り孔7が平面円形に形成されており、各送り孔7が繰り出し用のスプロケット孔として機能する。
【0033】
放射線は、樹脂シート5の放射線架橋効果に優れるガンマ線あるいは電子線からなり、放射線量が5Mrad以上300Mrad以下とされ、専用の照射装置13から製造途中の樹脂シート5に照射される。放射線の放射線量は、5Mrad以上300Mrad以下、好ましくは50Mrad以上300Mrad以下、より好ましくは50Mrad以上100Mrad以下が良い。これは、放射線量が5Mrad未満の場合には、樹脂シート5の充分な架橋効果が期待できず、逆に放射線量が300Mradを越える場合には、照射作業に長時間を要し、しかも、樹脂シート5に脆弱部が散見されるからである。
【0034】
放射線がガンマ線の場合、ガンマ線の放射線源は、安全性や実用性の観点からコバルト60が好ましい。また、放射線が電子線の場合、樹脂シート5に電子線が照射されるときの加速電圧は、1kV以上300kV以下が最適である。これは、電子線の加速電圧が1kV以上300kV以下の範囲から外れると、電子線の照射装置13の大型化を招き、実用性や取扱性に乏しくなるからである。
【0035】
上記構成において、キャリアテープ1を製造する場合には
図3に示すように、原反10の樹脂シート5用の幅広樹脂シート11の端部を下流の巻取ロール12に接続し、これら原反10と巻取ロール12とを共に回転させて幅広樹脂シート11を連続して水平に繰り出し、この繰り出された幅広樹脂シート11に放射線(
図3の矢印参照)を照射装置13で上方から照射した後、巻取ロール12に幅広樹脂シート11を巻き取る。
【0036】
原反10と巻取ロール12とは、ロールtoロール方式に構成され、共に図示しないカバーにより被覆される。これらのカバーは、湾曲した幅広樹脂シート11に放射線が照射されることにより、不要な巻き癖WHが付くのを有効に防止するよう機能する。
【0037】
原反10は、巻取ロール12に幅広樹脂シート11が巻き崩れ防止のため、スパイラル巻きに巻き取られる場合等には、左右横方向(
図3の奥方向)に略水平に移動する。原反10が左右横方向に移動しながら幅広樹脂シート11を連続して繰り出すのは、幅広樹脂シート11のスパイラル巻きに資する他、放射線用の照射装置13が一般に大型なので、移動しながらの放射線の照射が困難であるという理由に基づく。また、原反10の幅広樹脂シート11は、特に限定されるものではないが、多数の樹脂シート5を得るため、例えば200mm以上1100mm以下の幅とされる。
【0038】
放射線は、原反10ではなく、原反10から略水平に繰り出された平坦な幅広樹脂シート11に照射され、幅広樹脂シート11の剛性を向上させる。これは、原反10に巻かれて曲がった幅広樹脂シート11に放射線を照射したり、斜めに繰り出された幅広樹脂シート11に放射線を照射すると、幅広樹脂シート11に不要な巻き癖WHが付いてしまうという理由に基づく。
【0039】
次いで、巻取ロール12から幅広樹脂シート11を繰り出して所定の長さで裁断することにより、複数本の中間樹脂シート14を横一列に形成(
図6参照)し、各中間樹脂シート14を長手方向に裁断して幅の狭い複数本の樹脂シート5を形成(
図7参照)し、各樹脂シート5を4mm以上16mm以下の幅とする。
【0040】
こうして細長い樹脂シート5を形成したら、樹脂シート5を加熱してその長手方向中央部に、電子部品用の複数の収納エンボス6を所定の間隔で配列形成するとともに、樹脂シート5の長手方向両側部に、複数の送り孔7をそれぞれ所定の間隔でパンチングすれば、キャリアテープ1を製造することができる。製造されたキャリアテープ1は、破断強度が30N/mm2以上60N/mm2以下、好ましくは30.4N/mm2以上55N/mm2以下が良い。また、破断伸びが30%以上90%以下、好ましくは32%以上87%以下が良い。
【0041】
製造されたキャリアテープ1は、巻取リール2の巻芯4にスパイラル巻きの多層に巻回されるが、樹脂シート5に放射線が幅広樹脂シート11の段階で既に照射され、樹脂シート5の樹脂の架橋で機械的強度が増大しているので、巻取リール2に対するキャリアテープ1の巻き方向の転換点TPで巻き癖WHが発生するのを防止し、キャリアテープ1が変形して2mm以上反るのを防ぐことができる。
【0042】
上記によれば、放射線の照射により、樹脂シート5の剛性が向上するので、キャリアテープ1の反り、特に問題となる大きな反りの発生を著しく抑制することができる。したがって、実装機からキャリアテープ1が繰り出されても、実装機のガイド等にキャリアテープ1が干渉することがなく、キャリアテープ1の繰り出しに何ら支障を来すことがない。また、繰り出された略平坦な幅広樹脂シート11に放射線を照射するので、幅広樹脂シート11に不要な巻き癖WHが付くのを有効に防止することができる。
【0043】
さらに、幅広樹脂シート11を性急に樹脂シート5に形成するのではなく、幅広樹脂シート11を一旦中間樹脂シート14に形成した後、この中間樹脂シート14を樹脂シート5に形成するので、高精度な寸法精度を有する複数本の樹脂シート5を安全確実に形成することができる。
【0044】
なお、上記実施形態では幅広樹脂シート11に放射線を照射した後、樹脂シート5に複数の収納エンボス6と送り孔7とをそれぞれ形成したが、何らこれに限定されるものではなく、放射線を照射した後、巻取ロール12に巻き取ることなく、幅広樹脂シート11を中間樹脂シート14と樹脂シート5とに順次細分化しても良い。また、幅広樹脂シート11に放射線を照射した後、樹脂シート5に複数の収納エンボス6と送り孔7とをそれぞれ形成したが、樹脂シート5に複数の収納エンボス6と送り孔7とをそれぞれ形成した後、樹脂シート5に放射線を照射しても良い。
【0045】
また、上記実施形態では樹脂シート5に複数の収納エンボス6と送り孔7とを同時に形成したが、何ら限定されるものではない。例えば、複数の収納エンボス6を形成した後に複数の送り孔7を形成しても良いし、複数の送り孔7を形成後、複数の収納エンボス6を形成しても良い。さらに、樹脂シート5の長手方向両側部に複数の送り孔7をそれぞれ穿孔したが、樹脂シート5の幅が狭い場合には、樹脂シート5の一側部長手方向に複数の送り孔7を所定の間隔で穿孔することもできる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明に係るキャリアテープ
の製造方法の実施例を説明する。
〔実施例1〕
先ず、ポリスチレン(PS)樹脂により、0.2mm厚×500mm幅に成形された幅広樹脂シートの原反を用意し、この原反の樹脂シート用の幅広樹脂シートを巻取ロールに接続し、これら原反と巻取ロールとを共に回転させて幅広樹脂シートを連続して水平に繰り出し(
図3参照)、この水平に繰り出された平坦な幅広樹脂シートに電子線を照射装置で照射し、その後、巻取ロールに幅広樹脂シートを巻き取った。
【0047】
ポリスチレン樹脂は、DIC株式会社〔製品名:XC315〕製を採用した。また、電子線を照射装置で照射する場合には、250μm厚×500mm幅の幅広樹脂シートに、電子線を0Mrad、3Mrad、5Mrad、50Mrad、100Mrad、150Mrad、200Mrad、300Mrad、350Mradの放射線量でそれぞれ照射し、比較検討することとした。電子線の照射装置は、岩崎電気株式会社〔製品名:EC300〕製を採用した。
【0048】
次いで、巻取ロールから幅広樹脂シートを繰り出して所定の長さで裁断することにより、8mm幅の樹脂シートを形成し、この樹脂シートをスパイラル巻きし、このスパイラル巻きのまま、樹脂シートを30℃、60%の環境下で3箇月放置した。こうして樹脂シートを3箇月放置したら、樹脂シートの反り試験を実施してその反りの測定結果を表1に記載した。
【0049】
反り試験は、
図4に示すように、JIS C 0806‐3に準拠した方法で実施した。具体的には、250mm幅に切断した樹脂シートのサンプル片を用意し、このサンプル片の平らな面側を測定器に接地させ、サンプル片の両端部が測定器の基準面に接触するよう配置した。この際、サンプル片が上下方向にカールしている場合には、サンプル片の両端部付近に軽く手を添え、サンプル片の全面が測定器の基準面に接触するよう配置した。こうしてサンプル片を配置したら、サンプル片と測定器の基準面との隙間のうち、最も大きな隙間を反り量として測定した。
【0050】
また、樹脂シートの反り試験の他、樹脂シートの引張試験を実施し、この樹脂シートの破断強度と破断伸びとをそれぞれ測定してその測定結果を表2、表3に記載した。引張試験は、JIS K 7127 1Bに基づき、引張速度50mm/minの条件で実施した。
【0051】
〔実施例2〕
原反を、積層構造の幅広樹脂シートの原反に変更し、その他は実施例1と同様にして反り試験と引張試験とを実施し、測定結果を表1、表2、表3に記載した。
積層構造の幅広樹脂シートは、1層目が薄いABS樹脂、2層目が厚いポリスチレン樹脂、及び3層目が薄いABS樹脂の三層構造とし、3層2連押出機により押出成形した。この幅広樹脂シートの層比は、1:8:1となるよう調整した。
【0052】
〔実施例3〕
原反を、PSジャパン株式会社製のMBS樹脂〔製品名:SX〕により、0.2mm厚×500mm幅に成形された幅広樹脂シートの原反に変更し、その他は実施例1と同様にして反り試験と引張試験とを実施し、測定結果を表1、表2、表3にまとめた。
【0053】
〔実施例4〕
原反を、旭化成株式会社製のABS樹脂〔製品名:スタイラック220〕により、0.2mm厚×500mm幅に成形された幅広樹脂シートの原反に変更し、その他は実施例1と同様にして反り試験と引張試験とを実施し、測定結果を表1、表2、表3にまとめた。
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
〔評 価〕
各実施例共に電子線を照射することにより、樹脂シートの反りを改善することができた。特に、ポリスチレン樹脂含有の樹脂シートを用いる実施例1、2の場合には、樹脂シートの反りをより改善することができると推測される。また、表1の測定結果から、電子線を5Mrad以上の放射線量で照射すれば、樹脂シートの反りを大幅に抑制できることが判明した。この際、電子線を50Mrad以上300Mrad以下の放射線量で照射すれば、反りをJISで許容範囲とされる1mm以下に抑えることが可能となるのが判明した。
【0058】
さらに、表2、表3の測定結果から、電子線を300Mradを越える350Mradの放射線量で照射した場合、樹脂シートに脆弱部が発生し、実用性に乏しいことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係るキャリアテープの製造方法は、機械、電子、電子、半導体等の製造分野で使用される。
【符号の説明】
【0060】
1 キャリアテープ
2 巻取リール
4 巻芯
5 樹脂シート
6 収納エンボス
10 原反
11 幅広樹脂シート
12 巻取ロール
13 照射装置
14 中間樹脂シート
TP 転換点
WH 巻き癖