(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-11
(45)【発行日】2023-01-19
(54)【発明の名称】換気口端末部材、及び、建物
(51)【国際特許分類】
F24F 7/04 20060101AFI20230112BHJP
F24F 7/10 20060101ALI20230112BHJP
F24F 13/24 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
F24F7/04 B
F24F7/10 Z
F24F13/24 242
(21)【出願番号】P 2019040684
(22)【出願日】2019-03-06
【審査請求日】2021-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(73)【特許権者】
【識別番号】500398614
【氏名又は名称】株式会社メルコエアテック
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】黒木 拓
(72)【発明者】
【氏名】大脇 雅直
(72)【発明者】
【氏名】水野 徳人
(72)【発明者】
【氏名】成▲瀬▼ 正輝
(72)【発明者】
【氏名】田中 祐介
【審査官】渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】特許第5258712(JP,B2)
【文献】特開平09-014711(JP,A)
【文献】実開昭62-016689(JP,U)
【文献】特開2007-205070(JP,A)
【文献】特開昭56-073738(JP,A)
【文献】特開2011-190971(JP,A)
【文献】特開2020-038031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 7/04
F24F 7/10
F24F 13/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の外壁に形成された換気孔に取付けられる換気口端末部材であって、
建物の外壁面より建物の外側に突出するフード部と、フード部の天板の上に弾性支持体を介して設けられた水滴受板と、制振材とを備え、
水滴受板は、水滴を受ける
長方形状の板により形成されて板面がフード部の長方形の天板の板面と所定の間隔を隔てて平行に対向するように配置された中央板部と、中央板部の周辺に設けられ
て中央板部を構成する長方形板の各辺縁から対応するフード部の天板の長方形板の各辺縁に近付くように傾斜する傾斜板により形成された周辺板部とを備え、
周辺板部が、中央板部を構成する長方形板の各長辺縁から延長するように設けられた長辺縁側周辺板部と、中央板部を構成する長方形板の各短辺縁から延長するように設けられた短辺縁側周辺板部とを備え、
制振材が
、長辺縁側周辺板部に取付けられたことを特徴とする換気口端末部材。
【請求項2】
周辺板部は、水滴受板の中央板部に水滴が衝突した際にオクターブ1kHz~4kHz帯域の振動を放射するように、中央板部より延長する方向の長さ寸法及び板厚寸法が設定され、
制振材は、周辺板部の1kHz~4kHz帯域の振動を抑制することを特徴とする請求項1に記載の換気口端末部材。
【請求項3】
制振材は
長辺縁側周辺板部の傾斜表面の裏面に接着されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の換気口端末部材。
【請求項4】
制振材は、ゴムアスファルトを用いて形成されたものを用いたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の換気口端末部材。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載された換気口端末部材のフード部及び水滴受板が外壁面よりも外側に突出するように当該換気口端末部材が外壁に設けられた建物であって、
建物の上下階の外壁に設けられた各換気口端末部材の各水滴受板の中央板部の表面が、垂直線上に位置されたことを特徴とする建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フード部の天板の上に弾性支持体を介して水滴受板が設けられた構造を備えた換気口端末部材等に関する。
【背景技術】
【0002】
集合住宅、ホテル、事務所ビル等の建物においては、換気設備の設置が義務付けられている。当該換気設備としては、居室に換気口が設置されて、居室の外壁にベントキャップ等と呼称される換気口端末部材が設置されることが多い。
当該換気口端末部材は、フード部が外壁面よりも外側に突出するように建物の上下階の外壁の換気孔にそれぞれ取付けられ、上下階の各換気口端末部材が、垂直線上に位置されることが多い。
当該建物においては、降雨等の後に、上階の換気口端末部材から水滴が落下して下階の換気口端末部材のフード部の天板の上に衝突した際に、水滴落下衝突音が生じ、当該水滴落下衝突音が固体伝播音として居室内に伝播する。
当該水滴落下衝突音の低下対策を施した換気口端末部材としては、例えば、フード部の天板の上に弾性支持体を介して水滴受板が設けられた構造のものが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された換気口端末部材では、水滴受板が、水滴を受ける中央板部と、中央板部の周辺に設けられた周辺板部とを備え、中央板部は水平方向に延在して水滴を受ける表面を有し、周辺板部は中央板部の表面より傾斜して下る傾斜表面を有した構成となっている。
当該構成の場合、水滴受板の中央板部の表面に水滴が衝突した際の振動が水滴受板の中央板部の周縁の部分で増幅して周辺板部を介して空間に放射されるため、長く響く金属音が発生してしまい、当該音が不快な音と感じられる場合があるという課題があった。
本願発明は、水滴受板の中央板部に水滴が衝突した際に発生する音の響きを低減できる換気口端末部材等を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る換気口端末部材は、建物の外壁に形成された換気孔に取付けられる換気口端末部材であって、建物の外壁面より建物の外側に突出するフード部と、フード部の天板の上に弾性支持体を介して設けられた水滴受板と、制振材とを備え、水滴受板は、水滴を受ける長方形状の板により形成されて板面がフード部の長方形の天板の板面と所定の間隔を隔てて平行に対向するように配置された中央板部と、中央板部の周辺に設けられて中央板部を構成する長方形板の各辺縁から対応するフード部の天板の長方形板の各辺縁に近付くように傾斜する傾斜板により形成された周辺板部とを備え、周辺板部が、中央板部を構成する長方形板の各長辺縁から延長するように設けられた長辺縁側周辺板部と、中央板部を構成する長方形板の各短辺縁から延長するように設けられた短辺縁側周辺板部とを備え、制振材が、長辺縁側周辺板部に取付けられたことを特徴とする。
また、周辺板部は、水滴受板の中央板部に水滴が衝突した際にオクターブ1kHz~4kHz帯域の振動を放射するように、中央板部より延長する方向の長さ寸法及び板厚寸法が設定され、制振材は、周辺板部の1kHz~4kHz帯域の振動を抑制することを特徴とする。
また、制振材は長辺縁側周辺板部の傾斜表面の裏面に接着されたことを特徴とする。
また、制振材は、ゴムアスファルトを用いて形成されたものを用いたことを特徴とする。
本発明に係る換気口端末部材によれば、制振材が周辺板部に取付けられた構成としたので、水滴受板の中央板部に水滴が衝突した際に、周辺板部から空間に放射される振動を抑制でき、水滴受板の中央板部に水滴が衝突した際に発生する音の響きを低減できる。
また、本発明に係る建物は、上述したいずれかの換気口端末部材のフード部及び水滴受板が外壁面よりも外側に突出するように当該換気口端末部材が外壁に設けられた建物であって、建物の上下階の外壁に設けられた各換気口端末部材の各水滴受板の中央板部の表面が、垂直線上に位置されたので、上階の換気口端末部材から水滴が落下して下階の換気口端末部材の水滴受板の中央板部に衝突した際に生じる音の響きを低減できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】換気口端末部材を前側から見た斜視図(実施形態)。
【
図2】換気口端末部材を後側から見た斜視図(実施形態)。
【
図5】建物の上下階の外壁に取付けられた上の換気口端末部材から下の換気口端末部材に水滴が落下する状態を示す図(実施形態)。
【
図6】換気口端末部材の防振体の構造を示す断面図(実施形態)。
【
図8】弾性支持体を上から見た平面図(実施形態)。
【
図9】水滴受板を下から見た底面(裏面(下面))図(実施形態)。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施形態
図1乃至
図6に示すように、実施形態に係る換気口端末部材1は、建物90の外壁91に建物90の内外に連通するように形成された換気孔92に挿入される筒部2と、建物90の外壁面93より建物90の外側に突出するフード部3と、フード部3の天板32の上に板状の弾性支持体4を介して設けられた水滴受板5と、制振材6とを備え、水滴受板5は、上方から落下する水滴Wを受ける中央板部51と、中央板部51の周辺に設けられて振動を放射する周辺板部とを備え、制振材6が周辺板部に取付けられた構成とした。
また、弾性支持体4におけるフード部3の天板32及び水滴受板5と接していない部分に貫通孔(スリット)Xが設けられており、かつ、水滴受板5と弾性支持体4とで構成される防振体の一次固有振動数f
0が、オクターブバンドの16Hz以上で125Hz以下の周波数となるように設定されている。
当該換気口端末部材1の筒部2、フード部3、水滴受板5は、例えば金属板により形成される。
尚、本明細書においては、換気口端末部材1の上、下、左、右、前、後は、
図1,
図2に示した方向と定義して説明する。
【0008】
図1,
図2に示すように、フード部3は、四角形状の前板31と、天板(上板)32と、左側板33と、右側板34と、後板35とを備えた直方体函状に形成されており、下部が開口された室外側通風孔36(
図1参照)に形成されて、かつ、後板35を形成する四角形状の板の中央側が開口された室内側通風孔37に形成され、当該室内側通風孔37の孔縁側に筒部2の一端開口縁側が接続されている。即ち、筒部2が、フード部3の後板35に接続されて当該後板35の後方に延長するように設けられた構成となっている。筒部2は、例えば、円筒部に形成される。
即ち、フード部3は、換気口端末部材1が換気孔92に取付けられることによって、下部の室外側通風孔36、及び、室内側通風孔37を介して、建物90の内側から建物90の外側に、又は、建物90の外側から建物90の内側に空気が流通可能となる。
また、室外側通風孔36、及び、室内側通風孔37のうち、少なくとも、一方の通風孔はガラリ38(
図1参照)に形成されている。
【0009】
換言すれば、フード部3は、四角形状の前板31と、前板31の板面と対向する板面を備えた後板35と、前板31の四角形の上辺と後板35の四角形の上辺とを繋ぐ天板32と、前板31の四角形の上辺の一端より下方に延長する四角形の左辺と後板35の四角形の上辺の一端より下方に延長する左辺とを繋ぐ左側板33と、前板31の四角形の上辺の他端より下方に延長する四角形の右辺と後板35の四角形の上辺の他端より下方に延長する右辺とを繋ぐ右側板34とで構成され、換気口端末部材1が換気孔92に取付けられた場合、これら前板31と天板32と左側板33と右側板34と後板35とで囲まれた空間が、下部の室外側通風孔36を介して室外と連通し、かつ、後板35の室内側通風孔37を介して室内と連通するように構成されている。
【0010】
即ち、換気口端末部材1は、筒部2が筒部2の他端側から建物90の外壁91に形成された換気孔92に挿入されて、フード部3の後板35の後面35aが建物90の外壁面93に近接し、かつ、天板32が上方、左側板33が左側、右側板34が右側に位置された状態となるように設置される。
尚、筒部2の外周面には、例えば図外の板ばねが設けられており、当該筒部2が換気孔92内に押し込まれて当該板ばねが換気孔92の内面にばね弾性によって押し付けられることによって、換気口端末部材1が換気孔92に固定され、当該固定された状態で、フード部3の後板35の上縁、左縁、右縁と外壁面93との隙間にシーリング材等の隙間充填剤が充填されることにより、換気口端末部材1が換気孔92に取付けられる。
【0011】
また、フード部3の後板35の下端側には、フード部3の板面を伝って流れてくる水を受けて当該受けた水を外壁面93から離れた外壁面93の前側に流す水切部39を備える。
水切部39は、例えば、フード部3の後板35において室外側通風孔36よりも下方に突出した部分により形成された奥板39aと、奥板39aの下端側の左右の側縁より突出する突出片39b,39bと、奥板39aの下端及び左右の突出片39b,39bの下端より前方下方に傾斜して突出する傾斜片39cと、傾斜片39cの左右の側縁より上方に立ち上がるように設けられた左右の規制片39d,39dとを備えた構成である。
当該水切部39を備えたので、フード部3の板面を伝って流れてくる水滴が傾斜片39cを介して外壁面93の前側に流下して、下階の換気孔92に取付けられた換気口端末部材1の水滴受板5の表面(上面)に落下するので、水滴が外壁面93を伝って流れ落ちることを防止でき、外壁面93に水跡が付いてしまうことを防止できる。
【0012】
フード部3の天板32の上に弾性支持体4を介して設けられた水滴受板5は、フード部3の天板32の上方を覆うように配置された屋根形状の板材により構成される。
図1に示すように、例えば、水滴受板5の表面は、寄棟の頂上部がフード部3の天板32の長方形よりも一回り小さい相似な長方形の平面状となった屋根形状に形成される。
そして、水滴受板5は、中央板部51の表面を構成する長方形の中心5Cが、フード部3の天板32の板面と直交して当該天板32の表面を構成する長方形の中心を通過する垂直線V上に位置されるように、弾性支持体4を介してフード部3の天板32の上に設けられる。
【0013】
そして、
図5に示すように、上下階の外壁91,91に、換気口端末部材1のフード部3及び水滴受板5が外壁面93より外側に突出するように各換気口端末部材1,1が設けられ、各換気口端末部材1,1の各水滴受板5,5の中央板部51,51の表面の中心5C,5Cが、垂直線V上に位置された建物90が構成される。
当該建物90においては、上階に取付けられた換気口端末部材1のフード部3の板面を伝って水切部39に流れてくる水が水切部39の傾斜片39cの前端を介して下階に取付けられた換気口端末部材1の水滴受板5の表面(上面)に落下する。
【0014】
水滴受板5は、例えば、フード部3の天板32の長方形よりも一回り小さい長方形状の板により形成されて板面がフード部3の天板32の板面と所定の間隔を隔てて平行に対向すように配置された中央板部51と、当該中央板部51を構成する長方形板の各辺縁から対応するフード部3の天板32の長方形板の各辺縁に近付くように傾斜する傾斜板により形成された周辺板部とを備え、当該周辺板部が、中央板部51を構成する長方形板の各長辺縁から延長するように設けられた長辺縁側周辺板部52,52と、中央板部51を構成する長方形板の各短辺縁から延長するように設けられた短辺縁側周辺板部53,53とを備えた構成である。
即ち、水滴受板5は、中央板部51は水平方向に延在して水滴を受ける表面を有し、周辺板部は中央板部51の表面より傾斜して下る傾斜表面を有するように構成されている。
【0015】
尚、中央板部51の表面に水滴が衝突した場合に周辺板部から空間に放射される振動の固有振動数は、理論的には以下の式により求まる。
【数1】
【0016】
実施形態においては、水滴受板5の長辺縁側周辺板部52は、中央板部51より延長する方向の長さ寸法(以下、「幅寸法」という)Hが12mmに設定されるとともに、板厚寸法が1.2mmに設定されており、中央板部51の表面に水滴が衝突した場合に、特に、オクターブ2kHz帯域の振動を放射する構成となっている。
【0017】
そして、実施形態においては、中央板部51の表面に水滴が衝突した場合に、当該長辺縁側周辺板部52,52が空間に放射するオクターブ2kHz帯域の振動を抑制するため、
図1,
図7,
図9等に示すように、制振材6が、当該長辺縁側周辺板部52,52の傾斜表面(上面)の裏面(下面)に接着されて、当該制振材6と長辺縁側周辺板部52とが一体化された構成とした。
尚、制振材6としては、例えば、ゴムアスファルトを用いて形成されたものを用いた。具体的には、商品名「RAシート」(宇部興産株式会社製)を制振材6として用いた。当該RAシートは、ゴムアスファルトで含浸したポリエステル長繊維不織布基材とアスファルト粘着層とを圧着加工して形成された自己粘着層タイプのシートであり、成分比は、アスファルト55~65%、石油系炭化水素5.0~15%、その他25~35%である。
【0018】
即ち、実施形態では、周辺板部のうち面積の大きい長辺縁側周辺板部52の幅寸法Hを12mm、長辺縁側周辺板部52の板厚寸法を1.2mmに設定するとともに、中央板部51の表面に水滴が衝突した場合に、当該長辺縁側周辺板部52が空間に放射する振動を抑制するために、当該長辺縁側周辺板部52の傾斜表面(上面)の裏面(下面)に制振材6を接着して、当該制振材6と長辺縁側周辺板部52とを一体化させた水滴受板5を構成した。
【0019】
また、実施形態では、水滴受板5への水滴落下衝突時の音圧レベルのばらつきを小さくして高品質な換気口端末部材1を提供するため、板状の弾性支持体4におけるフード部3の天板32及び水滴受板5と接していない部分に貫通孔Xを設けるとともに、当該水滴受板5と弾性支持体4とで構成される防振体の一次固有振動数f0を、オクターブバンドの16Hz以上で125Hz以下の周波数となるように、より好ましくは、オクターブバンドの16Hz以上で63Hz以下の周波数となるように設定した。
【0020】
弾性支持体4は、板ばね60を使用した。当該板ばね60は、
図6乃至
図8に示すように、天板32の上面の中央側に連結される中央板部62と、中央板部62の左右両方の端部からそれぞれ天板32の上面と直交して水滴受板5の中央板部51に近づく方向に延長する左右の立ち上がり板部63,63と、左右の立ち上がり板部63,63の上端からそれぞれ互いに反対方向に上がって傾斜するように延長する左右の傾斜板部64,64と、各傾斜板部64,64の上端からそれぞれ互いに反対方向に延長して水滴受板5の中央板部51の下面51uと接触して水滴受板5の中央板部51の左右両側に連結される左右両方の端板部61,61とを備えた形状のものを用いた。
【0021】
即ち、実施形態の換気口端末部材1は、
図6に示すように、弾性支持体4を、貫通孔Xが形成された板ばね60により構成し、当該板ばね60の中央板部62の中心と天板32の上面の中心とを一致させた状態で当該中央板部62と天板32とが1組以上のボルト41及びナット42により連結されるとともに、天板32に連結された板ばね60の中央板部62よりも上方に位置された板ばね60の左右両方の端板部61,61と中央板部51の左右側とがボルト41及びナット42により連結された構成とした。
尚、天板32の下面とナット42との間、端板部61の下面とナット42との間には、例えば、平座金43及びばね座金44が設置される。
【0022】
即ち、実施形態に係る換気口端末部材1の弾性支持体4として板ばね60は、中央側の中央板部62がフード部3の天板32に取付けられて左右両方の端部側の端板部61,61が水滴受板5に取付けられた金属板等の板材により構成され、貫通孔Xは、例えば、板ばね60の中央板部62と端板部61との間の部分において、板ばね60の延長方向に沿って延長する一定幅の長孔(スリット)により構成されている。
具体的には、
図7,
図8に示すように、貫通孔Xは、板ばね60の延長方向に沿って左の立ち上がり板部63及び傾斜板部64の全域に亘って延長する左の貫通孔Xと、板ばね60の延長方向に沿って右の立ち上がり板部63及び傾斜板部64の全域に亘って延長する右の貫通孔Xとにより構成される。
また、左の貫通孔X及び右の貫通孔Xは、立ち上がり板部63及び傾斜板部64の前後幅方向の中央側に設けられる。換言すれば、左の貫通孔X及び右の貫通孔Xは、貫通孔Xの前側側縁X1と立ち上がり板部63及び傾斜板部64の前側縁60aとの間の板幅aと、貫通孔Xの後側側縁X2と立ち上がり板部63及び傾斜板部64の後側縁60bとの間の板幅aとが等しくなるように、立ち上がり板部63及び傾斜板部64の前後幅方向の中央側に形成されている。
尚、
図7,
図9において、符号56は、水滴受板5の中央板部51の左右両側に形成されたボルト挿通孔、
図7,
図8において、符号57は、板ばね60の中央板部62及び端板部61,61に形成されたボルト挿通孔である。
【0023】
実施形態の換気口端末部材1において、水滴受板5と弾性支持体4とで構成される防振体の一次固有振動数f
0は、次式(2)で求めることができる。
【数2】
ここで、
f
0:防振体の一次固有振動数(Hz)
m:水滴受板の質量(kg)
k:弾性支持体のばね定数(N/m)
【0024】
一般に、上述した防振体の一次固有振動数f0を低くするためには、弾性支持体4のばね定数を小さくすればよいが、弾性支持体4のばね定数を小さくしすぎると、弾性支持体4が柔らかくなりすぎて、防振体を構造体として成立させることが難しくなる。
そこで、このような場合は、水滴受板5の質量を大きくすることによって、防振体の一次固有振動数f0を目標値(例えば、オクターブバンドの16Hz以上で63Hz以下)に設定すればよい。
例えば、水滴受板5の板厚を厚くしたり、あるいは、水滴受板5の裏面(下面)に、錘、補強板等の質量体を付加することにより、水滴受板5の質量を大きくして、防振体の一次固有振動数f0を目標値(例えば、オクターブバンドの16Hz以上で63Hz以下)に設定すればよい。
【0025】
本発明の換気口端末部材1の水滴落下衝突音低減効果を確認するための実験を以下のように行った。
【0026】
・実験方法
共同住宅の給気孔に取付けた換気口端末部材の各試験体の水滴受板の中央板部の表面(上面)に水滴が落下する状況を模擬した実験を簡易無響室内で行った。
実験設備は以下のとおりである。
足場の下部に内径900mm角の箱(内部をグラスウールで吸音処理した箱)を設置し、箱の正面中央の位置の外側に換気口端末部材の試験体を設置するとともに、内側にレジスター(内側換気口)を設置した。レジスターは樹脂製のプッシュタイプとし、実験時は「開」の状態とした。
共同住宅の一般的な階高を想定し,換気口端末部材の水滴受板の中央板部の表面に高さ3mの位置からスポイトを使って水滴を落下させた。
水滴落下衝突音の測定は、マイクロホンを箱内部の中心の位置に設置し、水滴落下衝突音の1/3オクターブバンド音圧レベルを測定した。各試験体の水滴受板の中央板部の表面への水滴の落下回数は、1試験体に対し50回とし、外部からの影響の小さい40回のデータの平均値を測定値とした。
【0027】
実験に用いた換気口端末部材の各試験体は、
図10に示すように、
・制振材あり=実施形態の換気口端末部材1
・制振材なし=実施形態の換気口端末部材1から制振材6を除去した換気口端末部材
である。
尚、制振材ありの試験体の設計値は、水滴受板5の質量=143g、弾性支持体4のばね定数k=16.1N/mmとした。
また、制振材なしの試験体の設計値は、水滴受板5の質量=141g、弾性支持体4のばね定数k=16.1N/mmとした。
また、各換気口端末部材の試験体の材質、寸法等は、以下のとおりである。
共通部分=筒部、フード部、水滴受板の材質=ステンレス鋼SUS304、水滴受板5の短辺40mm、長辺150mm、長辺縁側周辺板部52の幅寸法12mm、長辺縁側周辺板部52の板厚寸法1.2mmとした。
【0028】
・実験結果
実験に用いた換気口端末部材の各試験体において、水滴受板5の中央板部51の表面(上面)に水滴が衝突した際に、長辺縁側周辺板部52が空間に放射する固有振動数は、2kHz帯域である。
図10(a)に、制振材なしの試験体の水滴受板5の中央板部51の表面に水滴が衝突した際に発生した音の2kHz帯域の時系列波形を示す。
図10(b)に、制振材ありの試験体の水滴受板5の中央板部51の表面に水滴が衝突した際に発生した音の2kHz帯域の時系列波形を示す。
図10(c)に、各試験体の水滴受板5の中央板部51の表面に水滴が衝突した際に発生した音の周波数分析結果を示す。
【0029】
図10(a)から明らかなように、制振材なしの試験体の場合、水滴受板5の中央板部51の表面に水滴が衝突した際に発生した音は0.5秒経過しても完全に減衰していない。
一方、
図10(b)から明らかなように、制振材ありの試験体の場合、水滴受板5の中央板部51の表面に水滴が衝突した際に発生した音は0.15秒程度で減衰していることがわかる。
即ち、制振材ありの試験体の場合、水滴受板5の中央板部51の表面に水滴が衝突した際に、長辺縁側周辺板部52,52の振動を抑制できて、長辺縁側周辺板部52,52を介して空間に放射される振動を抑制でき、音の響きを低減できることが判明した。
【0030】
また、
図10(c)から明らかなように、2kHz帯域の周波数分析結果を見ると、どちらの試験体も1750Hz付近でピーク(
図10(c)のA部,B部参照)がみられるが、制振材ありの試験体の場合、制振材なしの試験体と比べて、ピークの鋭さが低減され、音圧レベルが小さくなっていることがわかる。
即ち、制振材ありの試験体の場合、制振材なしの試験体と比べて、水滴受板5の中央板部51の表面に水滴が衝突した際に発生する音の周波数ピークの音圧レベルも低減できることが判明した。
【0031】
実験結果から明らかなように、長辺縁側周辺板部52,52の傾斜表面の裏面に制振材6を接着して、当該制振材6と長辺縁側周辺板部52とを一体化させた水滴受板5を備えた構成とすれば、水滴受板5の中央板部51の表面に水滴が衝突した際に、長辺縁側周辺板部52,52の振動を抑制できて、長辺縁側周辺板部52,52を介して空間に放射される振動を抑制できるので、音の響きを低減でき、しかも、音の周波数ピークの音圧レベルも低減できることが判明した。
【0032】
即ち、水滴受板5が、水滴を受ける中央板部51と、中央板部51の周辺に設けられた周辺板部とを備え、中央板部51は水平方向に延在して水滴を受ける表面を有し、周辺板部は中央板部51の表面より傾斜して下る傾斜表面を有した構成の場合、水滴受板5の中央板部51の表面に水滴が衝突した際に発生する振動が水滴受板の中央板部51の周縁の部分で増幅して周辺板部を介して空間に放射されるため、長く響く金属音が発生してしまい、当該音が不快な音と感じられる場合があった。
そこで、実施形態では、長辺縁側周辺板部52,52の傾斜表面の裏面に制振材6を接着して、当該制振材6と長辺縁側周辺板部52とを一体化させた構成とし、水滴受板5の中央板部51の表面に水滴が衝突した際の長辺縁側周辺板部52,52の振動を抑制するようにしたことで、長辺縁側周辺板部52,52の振動を抑制できて、長辺縁側周辺板部52,52から空間に放射される振動を低減できるので、長く響く金属音の発生を防止できるととともに、音の周波数ピークの音圧レベルも低減できるようになった。
【0033】
また、実施形態に係る換気口端末部材1によれば、弾性支持体4におけるフード部3の天板32及び水滴受板5と接していない部分に貫通孔(スリット)Xを備えた構成としたので、水滴受板5への水滴落下衝突時の音圧レベルのばらつき(音圧レベル測定値の標準偏差)を小さくできる高品質な換気口端末部材となる。
【0034】
また、実施形態に係る換気口端末部材1によれば、水滴受板5と弾性支持体4とで構成される防振体の一次固有振動数f0が、オクターブバンドの16Hz以上で125Hz以下の周波数となるように設定したので、水滴落下衝突時における中高周波数帯域の音を低減させる効果が向上し、水滴落下衝突時のA特性音圧レベルをより低減できて、水滴落下衝突音の低減効果に優れた換気口端末部材1を得ることができる。
【0035】
本発明においては、水滴受板5の長辺縁側周辺板部52,52は、水滴受板5の中央板部51の表面に水滴が衝突した際に、1kHz~4kHz帯域の振動を放射するように、中央板部51より延長する方向の幅寸法H及び板厚寸法が設定されるとともに、制振材6が、当該長辺縁側周辺板部52,52の傾斜表面の裏面に接着等で取付けられて、制振材6と長辺縁側周辺板部52とが一体化されたことにより、長辺縁側周辺板部52,52の1kHz~4kHz帯域の振動を抑制できるように構成されていればよい。
【0036】
尚、本発明の換気口端末部材1にあっては、全体の大きさから、長辺縁側周辺板部52の幅寸法Hが12mmとなるとともに、長辺縁側周辺板部52の板厚寸法が1.2mmとなるように設計されているため、水滴受板5の中央板部51の表面に水滴が衝突した際に、オクターブ2kHz帯域の振動を放射する長辺縁側周辺板部52,52を備えた構成となっている。
【0037】
また、制振材6としては、例えば、アスファルトにより形成された制振材、ゴムにより形成された制振材、樹脂により形成された制振材等を、接着剤を用いて長辺縁側周辺板部52,52の傾斜表面(上面)の裏面(下面)に貼り付けても良い。
【0038】
また、制振材6を、長辺縁側周辺板部52の裏面及び短辺縁側周辺板部53の裏面、即ち、周辺板部の裏面(下面)のほぼ全面に貼り付けても良い。
また、制振材6を、周辺板部の表面(上面)に貼り付けても良い。
また、接着剤以外のもので、制振材6が周辺板部に取付けられた構成としてもよい。
【0039】
また、本発明においては、換気口端末部材1の全体形状は丸形でもよい。
また、換気口端末部材1のフード部3の天板32や水滴受板5の形状は矩形でなくてもよい。
例えば、上記では、水滴を受ける長方形板状の中央板部51と、当該中央板部の周辺に設けられた長辺縁側周辺板部52及び短辺縁側周辺板部53とを備えた構成の水滴受板5を例示したが、長方形板状以外の形、例えば、長円板状に形成された中央板部と、当該中央板部の周辺に設けられた周辺板部とを備え、制振材6が当該周辺板部に取付けられた水滴受板を備えた構成の換気口端末部材としてもよい。
また、換気口端末部材1は、開口部が、フード部3の下部のみでなく、フード部3の側面、正面に設けられた構成であってもよい。また、開口部にネットが張られた構成のものであってもよい。
また、換気口端末部材1は、筒部2を備えずに、外壁に直接取り付けられる構成のものであってもよい。
【0040】
また、水滴受板5と弾性支持体4との連結、弾性支持体4と天板32との連結は、ボルト及びナットによる連結でなくともよい。例えば、溶接や接着剤等によって連結された構成としてもよい。
【0041】
尚、貫通孔Xは、弾性支持体4におけるフード部3の天板32及び水滴受板5と接していない部分に、例えば、弾性支持体4の中心を基準として、前後左右に均等に設けられていればよく、個数、形状等は、特に限定されない。
例えば、貫通孔Xは、板状の弾性支持体4の延長方向に沿って延長する複数の長孔(スリット)が板状の弾性支持体4の板幅方向に沿って所定間隔を隔てて並ぶように形成された構成、あるいは、板状の弾性支持体4の板幅方向に沿って延長する複数の長孔(スリット)が板状の弾性支持体4の延長方向に沿って所定間隔を隔てて並ぶように形成された構成、あるいは、円孔や矩形孔等の複数の個別孔が板状の弾性支持体4の延長方向に沿って所定間隔を隔てて並ぶように形成された構成、円孔や矩形孔等の複数の個別孔が板状の弾性支持体4にパンチングメタルのようにランダムに形成された構成等であってもよい。
【0042】
また、実施形態では、水滴受板5と弾性支持体4とで構成される防振体の一次固有振動数f0が、オクターブバンドの16Hz以上で125Hz以下の周波数となるように設定された例を示したが、水滴受板5と弾性支持体4とで構成される防振体の一次固有振動数f0が、オクターブバンドの16Hz以上で125Hz以下の周波数となるように設定されていなくてもよい。例えば、当該防振体の一次固有振動数f0が、オクターブバンドの16Hzよりも多少低い周波数となるように設定されたり、あるいは、当該防振体の一次固有振動数f0が、オクターブバンドの125Hzよりも多少高い周波数となるように設定されていても構わない。
【符号の説明】
【0043】
1 換気口端末部材、3 フード部、4 弾性支持体、5 水滴受板、6 制振材、
32 フード部の天板、51 中央板部、52 長辺縁側周辺板部(周辺板部)、
90 建物、91 外壁、92 換気孔、93 外壁面。