(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-11
(45)【発行日】2023-01-19
(54)【発明の名称】遠心クラッチ、及びプーリ装置
(51)【国際特許分類】
F16D 43/10 20060101AFI20230112BHJP
F16D 13/52 20060101ALI20230112BHJP
F16D 43/20 20060101ALI20230112BHJP
F16H 9/18 20060101ALI20230112BHJP
F16H 55/56 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
F16D43/10
F16D13/52 C
F16D43/20
F16H9/18 Z
F16H55/56
(21)【出願番号】P 2019042155
(22)【出願日】2019-03-08
【審査請求日】2022-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】美濃羽 未紗樹
(72)【発明者】
【氏名】今井 亮一
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】実公昭40-260(JP,Y1)
【文献】特開平4-316724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/00-47/06
F16H 55/32-55/56
F16H 9/00-9/26
F16D 11/00-23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクが入力され、回転可能に配置される入力部材と、
第1カム面を有し、前記入力部材からトルクが入力され、回転可能
且つ軸方向に移動可能に配置されるカム部材と、
回転可能に配置され、トルクを出力する出力部材と、
前記カム部材と前記出力部材との間でトルクの伝達及び遮断を行うよう構成されるクラッチ部と、
前記カム部材と前記クラッチ部との間に配置され、前記カム部材とともに回転して遠心力を受けるウェイト部材と、
前記入力部材と前記カム部材とが相対回転したときに前記カム部材を前記クラッチ部に向けて軸方向に移動させるカム機構と、
を備え、
前記カム部材の第1カム面は、前記ウェイト部材の遠心力を前記ウェイト部材が前記クラッチ部に向かう推力に変換する、
遠心クラッチ。
【請求項2】
前記入力部材は、トルクが入力されるドライブプレートと、前記ドライブプレートに固定されるサポートプレートと、を有し、
前記カム部材は、軸方向において、前記ドライブプレートと前記サポートプレートとの間に配置される、
請求項1に記載の遠心クラッチ。
【請求項3】
トルクが入力され、回転可能に配置される入力部材と、
第1カム面を有し、前記入力部材からトルクが入力され、回転可能に配置されるカム部材と、
回転可能に配置され、トルクを出力する出力部材と、
前記カム部材と前記出力部材との間でトルクの伝達及び遮断を行うよう構成されるクラッチ部と、
前記カム部材とともに回転して遠心力を受けるウェイト部材と、
前記入力部材と前記カム部材とが相対回転したときに前記カム部材を前記クラッチ部に向けて軸方向に移動させるカム機構と、
を備え、
前記カム部材の第1カム面は、前記ウェイト部材の遠心力を前記ウェイト部材が前記クラッチ部に向かう推力に変換する、
前記入力部材は、トルクが入力されるドライブプレートと、前記ドライブプレートに固定されるサポートプレートと、を有し、
前記カム部材は、軸方向において、前記ドライブプレートと前記サポートプレートとの間に配置される、
遠心クラッチ。
【請求項4】
前記カム部材は、径方向において前記ウェイト部材の外側に配置されて前記ウェイト部材の径方向外側への移動を規制する規制部を有する、
請求項1
から3のいずれかに記載の遠心クラッチ。
【請求項5】
前記入力部材は、前記ウェイト部材との間で前記クラッチ部を挟む受圧面を有する、
請求項1
から4のいずれかに記載の遠心クラッチ。
【請求項6】
前記受圧面と前記クラッチ部との間に配置される弾性部材をさらに備える、
請求項
5に記載の遠心クラッチ。
【請求項7】
前記カム機構は、前記入力部材に形成される第2カム面と、前記カム部材に形成されて前記第2カム面と対向する第3カム面と、を有する、
請求項1から
6のいずれかに記載の遠心クラッチ。
【請求項8】
前記クラッチ部は、乾式多板クラッチである、
請求項1から
7のいずれかに記載の遠心クラッチ。
【請求項9】
前記ウェイト部材は、円柱状である、
請求項1から8のいずれかに記載の遠心クラッチ。
【請求項10】
固定シーブと、
前記固定シーブから軸方向に延びる固定ボスと、
軸方向において前記固定シーブに対して接近及び離間するように移動可能に配置される可動シーブと、
前記可動シーブから軸方向に延び、径方向において前記固定ボスの外側に配置される筒状の可動ボスと、
前記固定ボスからトルクが入力される請求項1から
9のいずれかに記載の遠心クラッチと、
を備えるプーリ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心クラッチ、及びプーリ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遠心クラッチは、エンジンなどの回転数が所定値以上になると、エンジンからのトルクを駆動輪へと伝達するように構成されている。このような遠心クラッチは、主にスクータタイプのモータサイクルなどに用いられる。例えば、特許文献1に開示された遠心クラッチは、ドライブプレート、クラッチシュー、及びハウジングを有している。エンジンの回転数が上昇してドライブプレートの回転数が所定値を超えると、クラッチシューが径方向外側に移動してハウジングと摩擦係合する。この結果、ドライブプレートからのトルクがハウジングへと伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、エンジンだけでなくモータを駆動源として併用するハイブリッド型のモータサイクルが提案されている。このようなハイブリッド型のモータサイクルでは、低回転時に高トルクを出力することができる。その他にも、低燃費化のために低回転時に高トルクを出力することができるようなモータサイクルが提案されている。このような低回転時に高トルクを出力できる駆動源に対して、従来と同サイズの遠心クラッチでは、低回転時においてクラッチシューがハウジングと十分に摩擦係合しない。遠心クラッチの径を大きくすることにより、低回転時において高トルクを伝達することが可能となるが、遠心クラッチのコスト、及び重量が増加するという問題がある。
【0005】
本発明の課題は、低回転時におけるトルク伝達容量を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1側面に係る遠心クラッチは、入力部材と、カム部材と、出力部材と、クラッチ部と、ウェイト部材と、カム機構とを備えている。入力部材は、トルクが入力され、回転可能に配置される。カム部材は、第1カム面を有する。カム部材は、入力部材からトルクが入力され、回転可能に配置される。出力部材は、回転可能に配置され、トルクを出力する。クラッチ部は、カム部材と出力部材との間でトルクの伝達及び遮断を行うよう構成される。ウェイト部材は、カム部材とともに回転して遠心力を受ける。カム機構は、入力部材とカム部材とが相対回転したときにカム部材をクラッチ部に向けて軸方向に移動させる。カム部材の第1カム面は、ウェイト部材の遠心力をウェイト部材がクラッチ部に向かう推力に変換する。
【0007】
この構成によれば、まず、入力部材に入力されたトルクがカム部材に伝達され、カム部材及びウェイト部材が回転する。この回転によってウェイト部材に作用する遠心力は第1カム面によってウェイト部材がクラッチ部に向かう推力に変換される。この結果、ウェイト部材は、クラッチ部を押圧し、クラッチ部がクラッチオン状態となり、カム部材から出力部材にトルクが伝達される。ここで、低回転時に入力部材とカム部材とが相対回転するため、カム機構の作用によってカム部材はクラッチ部に向かって移動する。この結果、ウェイト部材がクラッチ部を押圧する推力が増加するため、低回転時におけるトルク伝達容量を向上させることができる。すなわち、遠心クラッチの径を必要以上に大きくすることなく、低回転時において高トルクを伝達することが可能となる。
【0008】
好ましくは、カム部材は、径方向においてウェイト部材の外側に配置されてウェイト部材の径方向外側への移動を規制する規制部を有する。
【0009】
好ましくは、入力部材は、ウェイト部材との間でクラッチ部を挟む受圧面を有する。
【0010】
好ましくは、遠心クラッチは、受圧面とクラッチ部との間に配置される弾性部材をさらに備える。
【0011】
好ましくは、入力部材は、トルクが入力されるドライブプレートと、ドライブプレートに固定されるサポートプレートと、を有する。カム部材は、軸方向において、ドライブプレートとサポートプレートとの間に配置される。
【0012】
好ましくは、カム機構は、入力部材に形成される第2カム面と、カム部材に形成されて第2カム面と対向する第3カム面と、を有する。
【0013】
好ましくは、クラッチ部は、乾式多板クラッチである。
【0014】
本発明の第2側面に係るプーリ装置は、固定シーブと、固定ボスと、可動シーブと、可動ボスと、上述したいずれかの遠心クラッチとを備えている。固定ボスは、固定シーブから軸方向に延びる。可動シーブは、軸方向において固定シーブに対して接近及び離間するように移動可能に配置されている。可動ボスは、可動シーブから軸方向に延びている。可動ボスは、筒状であって、径方向において固定ボスの外側に配置される。遠心クラッチは、固定ボスからトルクが入力される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低回転時におけるトルク伝達容量を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る遠心クラッチを有するプーリ装置100の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において、軸方向とは、プーリ装置100の回転軸Oが延びる方向を意味する。また、径方向とは、回転軸Oを中心とした円の径方向を意味し、周方向とは、回転軸Oを中心とした円の周方向を意味する。
【0018】
[プーリ装置]
プーリ装置100は、例えばCVT(Continuously Variable Transmission)を構成する従動側のプーリ装置として用いられる。このプーリ装置100は、駆動側のプーリ装置(図示省略)からベルト120を介してトルクが伝達される。そして、プーリ装置100は、駆動シャフト(図示省略)を介してトルクを駆動輪(図示省略)に伝達する。
【0019】
プーリ装置100は、固定シーブ101、可動シーブ102、固定ボス103、可動ボス104、及び遠心クラッチ10を備える。プーリ装置100は、回転軸Oを中心に回転する。詳細には、プーリ装置100は、駆動シャフトに取り付けられており、駆動シャフトと相対回転可能である。
【0020】
[固定シーブと可動シーブ]
固定シーブ101及び可動シーブ102は、軸方向において、互いに接近及び離間する。詳細には、可動シーブ102が軸方向に移動することによって固定シーブ101と接近及び離間する。可動シーブ102は、付勢部材108、例えばコイルスプリングによって、固定シーブ101に向かって付勢されている。ベルト120が径方向の内側に移動することによって、可動シーブ102は、付勢部材108の付勢力に抗して固定シーブ101から離間するように移動する。
【0021】
固定シーブ101および可動シーブ102は、軸方向において互いに向き合う円板面を有している。固定シーブ101及び可動シーブ102の円板面は、径方向外側に向かって互いの間隔が大きくなるように構成される。この固定シーブ101及び可動シーブ102の円板面によってベルト120を挟んでいる。固定シーブ101および可動シーブ102の中央部には開口が設けられている。
【0022】
[固定ボス]
固定ボス103は、固定シーブ101から軸方向の第1側に延びている。固定ボス103は円筒状である。固定ボス103は、固定シーブ101と一体的に回転する。固定シーブ101と固定ボス103とは、別部材によってそれぞれ形成されており、互いに固定されることによって、一体的に回転する。例えば、固定シーブ101と固定ボス103とを溶接またはろう付けなどによって互いに固定する。なお、固定シーブ101と固定ボス103とは一つの部材で構成されてもよい。
【0023】
固定ボス103の内部には、駆動シャフトが延びている。駆動シャフトは、駆動輪にトルクを伝えるためのシャフトである。駆動シャフトと固定ボス103とは、相対回転可能である。駆動シャフトと固定ボス103との間には、ニードルベアリング105、及びボールベアリング106が配置されている。
【0024】
[可動ボス]
可動ボス104は、可動シーブ102から軸方向の第1側に延びている。可動ボス104は、円筒状である。可動ボス104は、径方向において固定ボス103の外側に配置されている。すなわち、固定ボス103が可動ボス104の内部を延びている。可動ボス104は、固定ボス103の外周面上を軸方向に摺動する。
【0025】
可動ボス104は、可動シーブ102と一体的に回転する。また、可動ボス104は、可動シーブ102と一体的に軸方向に移動する。可動ボス104と可動シーブ102とは、別部材によってそれぞれ形成されており、互いに固定されることによって、一体的に回転及び軸方向に移動する。例えば、可動ボス104と可動シーブ102とを溶接またはろう付けなどによって互いに固定する。なお、可動ボス104と可動シーブ102とは、一つの部材で構成されてもよい。可動ボス104は円筒状である。
【0026】
[遠心クラッチ]
遠心クラッチ10は、入力部材2、カム部材3、出力部材4、クラッチ部5、複数のウェイト部材6、及び複数のカム機構7を有している。遠心クラッチ10は、固定ボス103からのトルクを、駆動シャフトに伝達したり遮断したりするように構成されている。遠心クラッチ10は、軸方向において、固定シーブ101及び可動シーブ102の第1側に配置されている。なお、
図1の左側が軸方向の第1側であり、
図1の右側が軸方向の第2側である。
【0027】
[入力部材2]
入力部材2は、回転軸O周りを回転可能に配置されている。入力部材2は、固定ボス103の先端部103aに取り付けられている。入力部材2は、固定ボス103からのトルクが入力されて、固定ボス103と一体的に回転する。なお、固定ボス103の基端部103bには固定シーブ101が取り付けられている。
【0028】
固定ボス103の先端部103aは他の部分に比べて外径が小さくなっているため、段差部103cが形成されている。この段差部103cによって、入力部材2の軸方向の第2側への移動が規制される。また、入力部材2はナット(図示省略)などによって固定ボス103の先端部103aに締結され、入力部材2の軸方向の第1側への移動が規制されている。このように、入力部材2は、軸方向へ移動不能である。
【0029】
入力部材2は、ドライブプレート21と、サポートプレート22とを有する。ドライブプレート21は、固定ボス103に取り付けられている。ドライブプレート21は、固定ボス103からのトルクが入力される。ドライブプレート21は、円板状である。
【0030】
ドライブプレート21は、軸方向の第2側に延びる複数の第1柱部211を有する。複数の第1柱部211は、周方向に間隔をあけて配置されている。第1柱部211は、例えば円柱状である。第1柱部211は、軸方向の第2側に開口するネジ孔212を有している。
【0031】
ドライブプレート21は、軸方向の第2側に突出する環状突起213を有している。この環状突起213は、付勢部材108を径方向の内側から位置決めしている。また、ドライブプレート21は、複数の位置決め突部214を有している。複数の位置決め凸部214は、周方向に間隔をあけて配置されている。この位置決め突部214は、皿バネ53を径方向の内側から位置決めしている。位置決め突部214は、第1柱部211の根元に形成されている。なお、複数の位置決め突部214が互いに連結されて環状となっていてもよい。
【0032】
ドライブプレート21は、外周端部において、軸方向の第2側を向く受圧面215を有している。受圧面215は、ウェイト部材6側を向いている。受圧面215は、環状である。この受圧面215とウェイト部材6とで、クラッチ部5を挟んでいる。
【0033】
サポートプレート22は、環状である。サポートプレート22は、軸方向においてドライブプレート21の第2側に配置されている。サポートプレート22は、軸方向の第1側に延びる複数の第2柱部221を有する。複数の第2柱部221は、周方向に間隔をあけて配置されている。第2柱部221の先端面は、第1柱部211の先端面と当接する。
【0034】
第2柱部221は、軸方向に延びる貫通孔を有する。この貫通孔を介してボルト110が第1柱部211のネジ孔212に螺合する。これにより、サポートプレート22はドライブプレート21に固定される。すなわち、ドライブプレート21とサポートプレート22とは、互いに一体的に回転する。
【0035】
[カム部材3]
カム部材3は回転軸Oを中心に回転可能に配置されている。カム部材3は、入力部材2からトルクが入力される。詳細には、後述するカム機構7を介してカム部材3は入力部材2からトルクが入力される。カム部材3は、軸方向において、ドライブプレート21とサポートプレート22との間に配置されている。カム部材3は、入力部材2に取り付けられている。カム部材3は、入力部材2に対して軸方向に移動可能である。
【0036】
カム部材3は、複数の第1カム面31を有している。複数の第1カム面31は、周方向に間隔をあけて配置されている。第1カム面31は、ウェイト部材6の遠心力を、ウェイト部材6がクラッチ部5に向かう推力に変換する。この第1カム面31は、クラッチ部5を向いている。すなわち、第1カム面31は、軸方向の第1側を向いている。また、第1カム面31は、軸方向の第1側を向き且つ径方向の内側を向くように傾斜している。
【0037】
カム部材3は、規制部32を有している。規制部32は、カム部材3の外壁を構成している。この規制部32は、径方向において、ウェイト部材6の外側に配置されている。そして、規制部32は、ウェイト部材6の径方向外側への移動を規制する。このように、規制部32は、ウェイト部材6の径方向外側への移動を規制することによって、過剰なトルクが遠心クラッチ10に入力された場合に、その過剰なトルクを伝達することを防止することができる。
【0038】
カム部材3は、軸方向の第1側に突出する複数の支持部33を有する。複数の支持部33は、周方向に間隔をあけて配置されている。この支持部33は、後述するクラッチ部5のインナーディスク51を軸方向に摺動可能に支持している。なお、この複数の支持部33は環状に連結されていてもよい。すなわち、複数の支持部33が互いに連結されることによって1つの円筒部を構成していてもよい。
【0039】
カム部材3は、ウェイト部材6を収容するための複数の収容部34を有している。複数の収容部34は、周方向に間隔をあけて配置されている。この収容部34は、カム部材3に形成された凹部であり、軸方向の第1側に向かって開口している。すなわち、収容部34は、クラッチ部5に向かって開口している。収容部34は、第1カム面31、規制部32の内壁面などによって画定されている。
【0040】
カム部材3は、複数の摺動部35を有している。複数の摺動部35は、周方向に間隔をあけて配置されている。なお、周方向において隣り合う摺動部35の間の空間を介して第2柱部221が軸方向に延びている。
【0041】
摺動部35は、カム部材3の本体部36と別部材によって構成されている。摺動部35は、カム部材3の本体部36に取り付けられており、本体部36と一体的に回転したり軸方向に移動したりする。摺動部35は、後述するカム機構7を構成するための部分である。摺動部35は、例えば、樹脂製である。なお、カム部材3の本体部36は、たとえば、鋼又はアルミニウム合金製などである。
【0042】
[出力部材4]
出力部材4は、回転軸O周りを回転可能に配置されている。出力部材4は、トルクを駆動シャフトへと出力する。出力部材4は、軸方向において、入力部材2の第1側に配置されている。
【0043】
出力部材4は、円板部41、円筒部42、及びボス部43を有している。円筒部42は、円板部41の外周端部から軸方向の第2側に延びている。円筒部42は、径方向において支持部33の外側に配置されている。円筒部42には、後述するクラッチ部5のアウターディスク52が軸方向に摺動可能に取り付けられている。
【0044】
ボス部43は、円板部41の内周端部から軸方向の第2側に延びている。ボス部43は、固定ボス103内を延びている。ボス部43には、スプライン孔431が形成されている。このスプライン孔431に、駆動シャフトがスプライン係合する。
【0045】
[クラッチ部5]
クラッチ部5は、カム部材3と出力部材4との間でトルクの伝達および遮断を行うように構成されている。クラッチ部5は、多板クラッチとして構成されている。すなわち、クラッチ部5は、複数のインナーディスク51と、複数のアウターディスク52とを有している。なお、このクラッチ部5は、乾式クラッチである。
【0046】
インナーディスク51は、カム部材3に取り付けられている。詳細には、インナーディスク51は、カム部材3の支持部33に取り付けられている。インナーディスク51の内周端部が支持部33に係合している。インナーディスク51は、軸方向に摺動可能である。軸方向の両端に配置される一対のインナーディスク51は、コイルスプリングなどの付勢部材(図示省略)によって、互いに離れる方向に付勢されている。
【0047】
複数のインナーディスク51のうち、最も軸方向の第1側に配置されたインナーディスク51である端部インナーディスク51aは、皿バネ53(弾性部材の一例)と当接している。この皿バネ53は、軸方向において、ドライブプレート21の受圧面215と端部インナーディスク51aとの間に配置されている。
【0048】
アウターディスク52は、出力部材4に取り付けられている。詳細には、アウターディスク52は、出力部材4の円筒部42に取り付けられている。アウターディスク52の外周端部が円筒部42に係合している。アウターディスク52は、軸方向に摺動可能である。アウターディスク52は、軸方向においてインナーディスク51の間に配置されている。すなわち、軸方向において、インナーディスク51とアウターディスク52とは交互に配置されている。アウターディスク52は、両面に摩擦材が貼り付けられている。なお、アウターディスク52ではなく、インナーディスク51の両面に摩擦材が貼り付けられていてもよい。
【0049】
[ウェイト部材6]
ウェイト部材6は、カム部材3とともに回転して遠心力を受けるように配置されている。詳細には、ウェイト部材6は、カム部材3の収容部34内に収容されている。なお、複数のウェイト部材6は、周方向に間隔をあけて配置されている。ウェイト部材6は、円柱状である。ウェイト部材6は、その外周面が第1カム面31と当接するように配置されている。このため、ウェイト部材6は、遠心力が作用すると、径方向外側且つ軸方向の第1側に移動可能である。ウェイト部材6は、クラッチ部5を軸方向の第1側に押圧するように構成されている。過剰なトルクが入力されたとき、ウェイト部材6は、径方向外側に移動して規制部32と当接する。このようにウェイト部材6が規制部32と当接すると、それ以上の押圧力がクラッチ部5に掛からない。
【0050】
ウェイト部材6は、本体部61と、カバー部62とを有している。本体部61は円柱状である。カバー部62は、本体部61の外周面を覆うように構成されている。カバー部62は円筒状である。本体部61は、金属などによって形成されている。例えば、本体部61は、鉄、鋼、又は非鉄金属などによって形成されている。一方、カバー部62は、例えば、樹脂又はアルミニウムなどによって形成されている。
【0051】
[カム機構7]
カム機構7は、入力部材2とカム部材3とが相対回転したときに、カム部材3をクラッチ部5に向けて軸方向に移動させるように構成されている。
図2に示すように、カム機構7は、第1カム部71と、第2カム部72とを有している。
【0052】
第1カム部71は、発進時や加速時などに、入力部材2からのトルクがカム部材3に伝達されて入力部材2とカム部材3とが相対回転したときに機能する。第1カム部71は、入力部材2とカム部材3とが相対回転したとき、カム部材3をクラッチ部5に向けて軸方向に移動させる。第1カム部71は、第2カム面71a及び第3カム面71bを有している。
【0053】
第2カム面71aは、入力部材2のサポートプレート22に形成されている。第2カム面71aは、第2柱部221の周方向を向く側面によって構成されている。第2カム面71aは、回転方向を向くとともに軸方向の第1側を向くように傾斜している。なお、回転方向とは、モータサイクルが前進する際に遠心クラッチ10が回転する方向である。
図2の右方向が回転方向である。
【0054】
第3カム面71bは、第2カム面71aと対向するように延びている。第3カム面71bは、カム部材3に形成されている。詳細には、第3カム面71bは、カム部材3の摺動部35に形成されている。第3カム面71bは、回転方向の逆方向を向くとともに軸方向の第2側を向くように傾斜している。第3カム面71bと第2カム面71aとの間隔は、軸方向の第1側に向かって狭まっている。なお、第3カム面71bと第2カム面71aとの間隔は、軸方向において略一定であってもよい。第3カム面71bの長さは、第2カム面71aの長さよりも短い。
【0055】
第2カム部72は、減速時又はキックスタート時などにカム部材3から入力部材2にトルクが伝達されて入力部材2とカム部材3とが相対回転したときに機能する。第2カム部72は、入力部材2とカム部材3とが相対回転したとき、カム部材3をクラッチ部5に向けて軸方向に移動させる。第2カム部72は、第4カム面72a及び第5カム面72bを有している。
【0056】
第4カム面72aは、入力部材2のサポートプレート22に形成されている。第4カム面72aは、第2柱部221の周方向を向く側面によって構成されている。第4カム面72aは、回転方向の逆方向を向くとともに軸方向の第1側を向くように傾斜している。
【0057】
第5カム面72bは、第4カム面72aと対向するように延びている。第5カム面72bは、カム部材3に形成されている。詳細には、第5カム面72bは、カム部材3の摺動部35に形成されている。第5カム面72bは、回転方向を向くとともに軸方向の第2側を向くように傾斜している。第5カム面72bと第4カム面72aとの間隔は、軸方向の第1側に向かって狭まっている。なお、第5カム面72bと第4カム面72aとの間隔は、軸方向において略一定であってもよい。第5カム面72bの長さは、第4カム面72aの長さよりも短い。
【0058】
[遠心クラッチ10の動作]
次に、遠心クラッチ10の動作について説明する。まず、停止時には、遠心クラッチ10はクラッチオフ状態である。すなわち、遠心クラッチ10は、固定ボス103と駆動シャフトとの間でトルクを伝達しない。詳細には、遠心クラッチ10のクラッチ部5においてトルクの伝達を遮断する。このため、容易にモータサイクルを押して移動させることができる。
【0059】
発進する際は、固定ボス103から入力部材2にトルクが入力される。ここで、入力部材2がカム部材3と相対回転するため、カム部材3がクラッチ部5に向かって移動する。詳細には、入力部材2がカム部材3と相対回転することによって、第2カム面71aと第3カム面71bとが当接し、カム機構7の第1カム部71が作動する。この結果、カム部材3は、クラッチ部5に向かって移動する。
【0060】
入力部材2からのトルクがカム部材3に伝達されてカム部材3が回転すると、カム部材3とともに回転するウェイト部材6は遠心力によって径方向外側に移動する。ここで、ウェイト部材6は、第1カム面31に沿って径方向外側に移動することによって、クラッチ部5側に移動し、クラッチ部5を押圧する。この結果、クラッチ部5はクラッチオン状態となる。カム部材3は上述したようにカム機構7によってクラッチ部5側に移動している。このカム部材3の軸方向の移動した分、ウェイト部材6によるクラッチ部5の押圧力が増加しているため、低回転時におけるクラッチ部5のトルク伝達容量が向上している。
【0061】
クラッチ部5は、オン状態となることで、カム部材3からのトルクを出力部材4へと伝達する。そして、出力部材4は、駆動シャフトへとトルクを出力する。このように、遠心クラッチ10に入力されたトルクは、ドライブプレート21、サポートプレート22、カム部材3、ウェイト部材6、クラッチ部5、出力部材4の順で駆動シャフトへと伝達される。すなわち、遠心クラッチ10に入力されたトルクは、一旦、軸方向の第2側に向かった後に、軸方向の第1側に向かって伝達される。
【0062】
一方、アクセルを緩めたりして減速した場合やキックスタータによってエンジンを始動させる場合、カム部材3が入力部材2に対して回転方向に相対回転する。この結果、第4カム面72aと第5カム面72bとが当接してカム機構7の第2カム部72が作動する。そして、カム部材3がクラッチ部5側に移動し、ウェイト部材6によるクラッチ部5の押圧力が増加する。
【0063】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0064】
例えば、上記実施形態では、カム機構7は、第1カム部71と第2カム部72との2つのカム部を有しているが、カム機構7は第2カム部72を有していなくてもよい。
【符号の説明】
【0065】
2 入力部材
21 ドライブプレート
22 サポートプレート
3 カム部材
31 カム面
32 規制部
4 出力部材
5 クラッチ部
6 ウェイト部材
7 カム機構
71a 第2カム面
71b 第3カム面
100 プーリ装置
101 固定シーブ
102 可動シーブ
103 固定ボス
104 可動ボス