(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-11
(45)【発行日】2023-01-19
(54)【発明の名称】ヒドリド含有化合物の製造方法、および、ヒドリド含有化合物の製造装置
(51)【国際特許分類】
C25B 1/01 20210101AFI20230112BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20230112BHJP
【FI】
C25B1/01 A
C25B9/00 Z
(21)【出願番号】P 2019060740
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2022-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】特許業務法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 智紀
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/008705(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0133751(US,A1)
【文献】Journal of Alloys and Compounds,2009年07月08日,Volume 480, Issue 2,p.L45-L48
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/01
C25B 9/00
C01B 3/00
CAplus/REGISTRY(STN)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素イオン伝導性を有する伝導体と、前記伝導体に配置された電極と、前記伝導体に配置された導電性酸化物と、を備える複合物を準備する工程と、
前記複合物における前記導電性酸化物に水素元素を含むガスが供給される状態で、前記導電性酸化物の電位が前記電極の電位より低くなるように前記導電性酸化物と前記電極との間に電圧を印加する工程と、
を備える、
ことを特徴とするヒドリド含有化合物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のヒドリド含有化合物の製造方法において、
前記伝導体は、さらに、電子伝導性およびホール伝導性の少なくとも一方を有する、
ことを特徴とするヒドリド含有化合物の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のヒドリド含有化合物の製造方法において、さらに、
前記導電性酸化物の少なくとも一部が面する空間内への前記ガスの供給を開始することにより、前記導電性酸化物に前記ガスが供給される状態とする工程を備え、
前記ガスの供給の開始後に、前記導電性酸化物と前記電極との間への電圧の印加を開始する、
ことを特徴とするヒドリド含有化合物の製造方法。
【請求項4】
酸素イオン伝導性を有する伝導体と、
前記伝導体に配置された電極と、
前記伝導体に配置される導電性酸化物と前記電極との間に電圧を印加する電圧印加部と、
前記導電性酸化物に水素元素を含むガスを供給するガス供給部と、
を備える、
ことを特徴とするヒドリド含有化合物の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、ヒドリド含有化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、BaTiO3(チタン酸バリウム)にCaH2を混合し、真空中で熱処理を行うことによって、ヒドリドイオン(H-)を含有するヒドリド含有化合物を製造する方法が知られている(下記特許文献1参照)。ヒドリドイオンは、活性が高いため、ヒドリド含有化合物は、例えば、燃料電池の燃料極等の用途に利用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述した従来のヒドリド含有化合物の製造方法では、その製造過程において、例えばCa(OH)2等の副生成物が生成されるため、その副生成物を除去するための洗浄を行うことが必要になるなどの課題があり、改善の余地があった。
【0005】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示される技術は、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本明細書に開示されるヒドリド含有化合物の製造方法は、酸素イオン伝導性を有する伝導体と、前記伝導体に配置された電極と、前記伝導体に配置された導電性酸化物と、を備える複合物を準備する工程と、前記複合物における前記導電性酸化物に水素元素を含むガスが供給される状態で、前記導電性酸化物の電位が前記電極の電位より低くなるように前記導電性酸化物と前記電極との間に電圧を印加する工程と、を備える。
【0008】
本ヒドリド含有化合物の製造方法では、複合物における導電性酸化物の電位が電極の電位より低くなるように導電性酸化物と電極との間に電圧が印加されることで、導電性酸化物を構成していた酸素イオンが伝導体を介して電極側に移動し、その結果、導電性酸化物に酸素欠損が生じる。また、導電性酸化物に水素元素を含むガスが供給されるため、そのガスに含まれる水素元素と、電圧印加によって導電性酸化物に流れる電子との反応によってヒドリドイオン(H-)が生成され、導電性酸化物の酸素欠損に入る。その結果、ヒドリド含有化合物が製造される。このように、本ヒドリド含有化合物の製造方法によれば、導電性酸化物への電圧印加と水素元素を含むガスの供給とによって、ヒドリド含有化合物を製造することができる。
【0009】
(2)上記ヒドリド含有化合物の製造方法において、前記伝導体は、さらに、電子伝導性およびホール伝導性の少なくとも一方を有してもよい。本ヒドリド含有化合物の製造方法では、伝導体が、酸素イオン伝導性に加えて、電子伝導性およびホール伝導性の少なくとも一方を有する。このため、伝導体が電子伝導性およびホール伝導性のいずれも有しない場合に比べて、多くの電子が導電性酸化物に供給されることにより、ヒドリドイオンの生成が促進されるため、ヒドリド含有化合物を、より効率的に製造することができる。
【0010】
(3)上記ヒドリド含有化合物の製造方法において、さらに、前記導電性酸化物の少なくとも一部が面する空間内への前記ガスの供給を開始することにより、前記導電性酸化物に前記ガスが供給される状態とする工程を備え、前記ガスの供給の開始後に、前記導電性酸化物と前記電極との間への電圧の印加を開始してもよい。仮に、ガスの供給の開始前に、導電性酸化物と電極との間への電圧の印加を開始すると、導電性酸化物が水素元素を含むガスに面しておらず、ヒドリドイオンが生成できない状況で導電性酸化物に電圧が印加され、その結果、例えば、水素元素を含むガスの供給前に存在していた大気に含まれる酸素をイオン化して伝導体を介して電極に移動させるといった無駄な作用が生じる。しかし、本ヒドリド含有化合物の製造方法によれば、大気に含まれる酸素をイオン化して電極に移動させるといった無駄な作用が生じることを抑制することができる。
【0011】
(4)本明細書に開示されるヒドリド含有化合物の製造装置は、酸素イオン伝導性を有する伝導体と、前記伝導体に配置された電極と、前記伝導体に配置される導電性酸化物と前記電極との間に電圧を印加する電圧印加部と、前記導電性酸化物に水素元素を含むガスを供給するガス供給部と、を備える。本ヒドリド含有化合物の製造装置によれば、導電性酸化物への電圧印加と水素元素を含むガスの供給とによって、ヒドリド含有化合物を製造することができる。
【0012】
本明細書によって開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、ヒドリド含有化合物の製造方法および製造装置、それらの方法または装置の機能を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態におけるヒドリド含有化合物の製造方法の原理を説明するための模式図である。
【
図2】実施形態におけるヒドリド含有化合物の製造装置100の構成を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
A.実施形態:
A-1.ヒドリド含有化合物の製造方法の原理:
図1は、本実施形態におけるヒドリド含有化合物の製造方法の原理を説明するための模式図である。
図1(A)に示すように、まず、複合物1を準備する。複合物1は、酸素イオン伝導性を有する伝導体10と、伝導体10に配置された電極20と、伝導体10に配置された導電性酸化物30と、を備える。具体的には、伝導体10は、酸素イオン伝導性を有する材料(例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア))により形成された平板状部材である。電極20は、導電性材料(例えばPt(白金))により形成されており、伝導体10の一方の面(下面)に配置されている。なお、電極20は、例えば、箔状でもよいし、板状であってもよい。導電性酸化物30は、ヒドリドイオン(H
-)を含有でき、かつ、導電性を有する酸化物(例えば、CeO
2(セリウム酸化物))により形成されており、伝導体10の他方の面(上面)に配置されている。なお、導電性酸化物30は、例えば、粉状であってもよいし、固形状(板状)であってもよい。
【0015】
次に、
図1(B)に示すように、複合物1における導電性酸化物30に水素(H
2)を含む導入ガスGinが供給された状態で、導電性酸化物30の電位が電極20の電位より低くなるように導電性酸化物30と電極20との間に電圧を印加する。具体的には、導電性酸化物30の少なくとも一部が導入ガスGinに面するように導電性酸化物30を配置する。また、電源41のプラス端子を電極20に電気的に接続し、電源41のマイナス端子を導電性酸化物30に電気的に接続する。
【0016】
このように導電性酸化物30と電極20との間に電圧が印加されると、導電性酸化物30を構成していた酸素イオン(O2-)が伝導体10を介して電極20側に移動し(電圧印加による酸素イオンのポンピング)、その結果、導電性酸化物30に酸素欠損が生じる。また、導電性酸化物30に導入ガスGinが供給されると、その導入ガスGinに含まれる水素元素(H)と、電圧印加によって導電性酸化物30に流れる電子(e-)との反応によってヒドリドイオン(H-)が生成される。生成されたヒドリドイオンは、導電性酸化物30の酸素欠損に入る。その結果、酸素がヒドリドイオンに置換されたヒドリド含有化合物(Ce(3+)O(2-)H(-),Ce(3+)H(-)
3 かっこ内は、各元素の原子価(価数)を示す。以下、同じ)が製造される。このように、本実施形態におけるヒドリド含有化合物の製造方法によれば、導電性酸化物30への電圧印加と、導電性酸化物30への導入ガスGinの供給とによって、ヒドリド含有化合物を製造することができる。なお、導入ガスGinは、特許請求の範囲における「水素元素を含むガス」に相当する。
【0017】
A-2.ヒドリド含有化合物の製造装置100について:
(ヒドリド含有化合物の製造装置100の構成)
図2は、本実施形態におけるヒドリド含有化合物の製造装置100の構成を模式的に示す説明図である。
図2には、方向を特定するためのZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を「上方向」といい、Z軸負方向を「下方向」というものとするが、ヒドリド含有化合物の製造装置100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
【0018】
図2に示すように、ヒドリド含有化合物の製造装置100は、チューブ10aと、外側電極20aと、CeO
2粉末30aと、電圧印加部40と、ガス供給部50と、ガス排出部56と、を備える。
【0019】
チューブ10aは、一端が開放し、他端が閉塞した筒状の収容管であり、酸素イオン伝導性を有する材料(例えば、YSZ)により形成されている。チューブ10aとしては、例えば、ニッカトー製YSZ-8保護管(φ13×φ9×250mm)を用いることができる。ヒドリド含有化合物の製造装置100では、チューブ10aは、開放端部が上方を向くように配置されている。チューブ10aは、上述のヒドリド含有化合物の製造方法における伝導体10に対応し、また、特許請求の範囲における伝導体に相当する。
【0020】
外側電極20aは、導電性材料(例えば、Pt)により形成された導電性部材であり、チューブ10aにおける閉塞端部の外面側に配置されている。具体的には、外側電極20aは、チューブ10aにおける閉塞端部の外面に接触するように薄膜状に形成されている。なお、本実施形態では、ヒドリド含有化合物の製造装置100は、さらに、内側電極22を備える。内側電極22は、外側電極20aと同じ導電性材料により形成された導電性部材であり、チューブ10aにおける閉塞端部の内面側に配置されている。具体的には、内側電極22は、チューブ10aにおける閉塞端部の内面に接触するように薄膜状に形成されている。外側電極20aは、上述のヒドリド含有化合物の製造方法における電極20に対応し、また、特許請求の範囲における電極に相当する。
【0021】
CeO2粉末30aは、導電性酸化物であるCeO2(n型半導体のCeO2 信越化学製)の粉末であり、チューブ10a内に導入されている。具体的には、CeO2粉末30aは、チューブ10a内において、該チューブ10aにおける閉塞端部の内面(底面)に形成された上記内側電極22上に配置されている。CeO2粉末30aは、水素雰囲気で導電性が比較的に高い、n型半導体であることが好ましい。なお、チューブ10a内に導入されたCeO2粉末30aの量は、例えば略1gである。CeO2粉末30aは、上述のヒドリド含有化合物の製造方法における導電性酸化物30に対応し、また、特許請求の範囲における導電性酸化物に相当する。CeO2は、BET比表面積が10m2g-1のものを用いた。粉末は微細である方が良く、比表面積は1~500m2g-1のものが好ましい。粉末の充填率は粉末同士が良好に接触し、ガスが透過する30%以上90%以下が好ましい。導電性酸化物が固体で形成される場合は、気孔率10%以上70%以下が好ましい。導電性酸化物の電気伝導度は、純水素中1000℃で0.001Scm-1以上のものが好ましい。
【0022】
以上により、ヒドリド含有化合物の製造装置100では、チューブ10aにおける閉塞端部の内面上に、内側電極22を介してCeO2粉末30aが配置され、チューブ10aにおける閉塞端部の外面上に外側電極20aが配置されている。したがって、チューブ10aと内側電極22とCeO2粉末30aとは、上述のヒドリド含有化合物の製造方法における複合物1に対応し、また、特許請求の範囲における複合物に相当する。
【0023】
電圧印加部40は、上述の電源41と、一対の電線42,44(例えば白金ロジウム線)と、を備える。一方の電線42は、電源41のマイナス端子から、チューブ10aの開放端部を介してチューブ10a内に導入され、チューブ10a内に導入されたCeO2粉末30aに電気的に接続されている。また、他方の電線44は、電源41のプラス端子から、チューブ10aの外周面に巻かれるように配置され、チューブ10aにおける閉塞端部の外面に形成された外側電極20aに電気的に接続されている。これにより、電圧印加部40は、CeO2粉末30aと外側電極20aとの間に電圧を印加することができる。なお、他方の電線44には、CeO2粉末30aに流れる電流の量を測定するための電流計46が電気的に接続されている。このため、電圧印加部40は、電流計46の測定結果に基づき、一定量の電流がCeO2粉末30aに流れるように定電流制御を行いつつ、CeO2粉末30aと外側電極20aとの間に電圧を印加することができる。
【0024】
ガス供給部50は、ガス導入管52と、ガス導入部54とを備える。
【0025】
ガス導入管52は、上下方向に延び、両端が開放した筒状である。ガス導入管52の外径は、チューブ10aの内径より小さく、ガス導入管52の上下方向の長さは、チューブ10aの上下方向の長さより長い。ガス導入管52の一部は、チューブ10a内に収容され、ガス導入管52の下端は、チューブ10a内に配置されたCeO2粉末30aに向けられている。ガス導入管52の上端は、チューブ10aの開放端部から上方に突出するように配置されている。また、ガス導入管52は、チューブ10a内に配置された上述の一方の電線42の周囲を囲むように配置されている。換言すれば、一方の電線42は、ガス導入管52内に挿通され、該一方の電線42の下端がCeO2粉末30aに電気的に接続されている。
【0026】
ガス導入部54は、ガス導入管52の内、チューブ10aの開放端部から上方に突出した突出部分に設けられている。ガス導入部54は、ガス導入管52に上下方向に貫かれている。ガス導入部54には、導入孔55が形成されており、導入孔55は、ガス導入管52内の第1の空間S1に連通している。
【0027】
ガス排出部56は、上下方向においてガス導入部54とチューブ10aとの間に位置し、チューブ10aの開放端部を塞ぐように配置されている。ガス排出部56は、ガス導入管52に上下方向に貫かれている。ガス排出部56には、排出孔57が形成されており、排出孔57は、チューブ10a内におけるガス導入管52の外側の第2の空間S2に連通している。
【0028】
このような構成により、ガス供給部50では、導入ガスGinが、ガス導入管52の導入孔55を介して、ガス導入管52内の第1の空間S1に導入される。第1の空間S1に導入された導入ガスGinは、ガス導入管52によって下方に導かれ、ガス導入管52の下端からCeO2粉末30aに向けて供給される。CeO2粉末30aにて生成された生成ガスGoutは、チューブ10a内の第2の空間S2に流れ出し、後述する電気炉60によって温められて上方に移動し、ガス排出部56の排出孔57を介して、チューブ10aの外部に排出される。
【0029】
また、ヒドリド含有化合物の製造装置100は、さらに、電気炉60と熱電対70とを備える。電気炉60は、チューブ10aの下側部分の周囲に配置されている。熱電対70は、チューブ10aの閉塞端部の近傍に配置されている。ヒドリド含有化合物の製造装置100では、熱電対70によってCeO2粉末30aの近傍の温度が測定され、その測定結果に基づき、電気炉60の温度が制御される。
【0030】
(ヒドリド含有化合物の製造装置100の作用)
ヒドリド含有化合物の製造装置100が起動されると、まず電気炉60によってチューブ10aの温度が所定温度(例えば400℃以上、1000℃以下)まで昇温される。チューブ10aの温度が所定温度に達した後、ガス供給部50によって、導入ガスGinの供給が開始される。その導入ガスGinの供給開始と同時、またはその後に、電圧印加部40によって、CeO2粉末30aと電極20との間に電圧が印加される。これにより、CeO2粉末30aを構成していた酸素イオンがチューブ10aを介して外側電極20a側に移動し、その結果、CeO2粉末30aに酸素欠損が生じる。また、導入ガスGinに含まれる水素元素と、電圧印加によってCeO2粉末30aに流れる電子との反応によってヒドリドイオンが生成される。生成されたヒドリドイオンは、CeO2粉末30aの酸素欠損に入る。その結果、CeO2粉末30aは、ヒドリド含有化合物(例えば、酸素イオンに対するヒドリドイオンの含有率が1%以上である化合物)になる。CeO2からヒドリド含有化合物が生成されるまでの過程は、次のように示すことができる。
Ce(4+)O(2-)
2
→ Ce(3+)O(2-)
1.5
→ Ce(3+)O(2-)H(-)
→ Ce(3+)H(-)
3
【0031】
このように、本実施形態におけるヒドリド含有化合物の製造装置100によれば、CeO2粉末30aへの電圧印加と導入ガスGinの供給とによって、ヒドリド含有化合物を製造することができる。また、本実施形態では、例えばCeO2粉末30aを比較的に低い圧力(例えば常圧)下でヒドリド含有化合物を製造することができる。すなわち、加圧により水素元素の導入が促進されるため、エネルギー効率が大幅に悪化しない範囲(例えば1~10気圧)で圧力を加えることにより、ヒドリド含有化合物の製造速度を向上することができる。また、本実施形態では、ヒドリド含有化合物の製造に寄与しない副生成物が生成されることを抑制することができる。なお、電圧印加部40により印加される電圧は、電圧が印加されてない状態で発生する開回路電圧に対して0.01V~10Vだけ加えた値が好ましく、導入ガスGinに水蒸気を添加された場合は、電圧印加部40により印加される電圧は、水の解離電圧以上(例えば1.3V以上)であることが好ましい。
【0032】
ここで、導入ガスGinの供給の開始前に、CeO2粉末30aと外側電極20aとの間への電圧の印加を開始すると、CeO2粉末30aが水素元素を含む導入ガスGinに面しておらず、ヒドリドイオンが生成できない状況でCeO2粉末30aに電圧が印加される。その結果、例えば、導入ガスGinの供給前に存在していた大気に含まれる酸素をイオン化してCeO2粉末30aを介して外側電極20aに移動させるといった無駄な作用が生じることがある。これに対して、本実施形態では、導入ガスGinの供給開始と同時、またはその後に、電圧印加部40によって、CeO2粉末30aと電極20との間に電圧が印加される。このため、大気に含まれる酸素をイオン化して外側電極20aに移動させるといった無駄な作用が生じることを抑制することができる。
【0033】
A-3.性能評価について:
本性能評価では、上述のヒドリド含有化合物の製造装置100を用いて、本実施形態におけるヒドリド含有化合物の製造方法によるヒドリド含有化合物の生成の有無について評価を行った。
【0034】
具体的には、ヒドリド含有化合物の製造装置100を用いて、まず、電気炉60によってチューブ10aの温度を略650℃まで昇温し、650℃に達した後、ガス供給部50によって、30sccmの水素の導入ガスGinを、CeO2粉末30aに供給した。また、電圧印加部40によってCeO2粉末30aと電極20との間に電圧を印加した。なお、本性能評価では、100mAの一定量の電流がCeO2粉末30aに流れるように定電流制御を行った。その後、約6時間経過後に、導入ガスGinの供給を継続しつつ、電圧印加を停止させ、チューブ10a内の試料(CeO2粉末30a)を室温まで冷却した。その後、チューブ10aから試料を取り出して、メノウ乳鉢を用いて軽く粉砕し、X線結晶構造解析(XRD)を行った。その結果、Ce(3+)H(-)
3に帰属する強度ピークが確認された。このことは、本実施形態におけるヒドリド含有化合物の製造方法により、ヒドリド含有化合物を製造することができることを意味する。
【0035】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0036】
上記実施形態におけるヒドリド含有化合物の製造方法やヒドリド含有化合物の製造装置100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、複合物として、電極20と導電性酸化物30との間に伝導体10が配置された構成を例示したが、複合物は、例えば、電極20と導電性酸化物30とが伝導体10の同一面上において互いに離間して配置された構成であってもよい。
【0037】
上記実施形態では、伝導体として、平板状の伝導体10や、一端が開口したチューブ10aを例示したが、他の形状(例えば両端が開口した筒状)のものであってもよい。また、上記実施形態では、伝導体として、YSZにより形成された伝導体10を例示したが、YSZ以外の酸素イオン伝導性を有する材料、例えば、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、CSZ(カルシウム安定化ジルコニア)、SDC(サマリウムドープセリア)、GDC、LSGM(ランタンガレート)、ペロブスカイト型酸化物等の固体酸化物により形成されたものでもよい。
【0038】
また、伝導体は、酸素イオン伝導性に加えて、電子伝導性およびホール伝導性の少なくとも一方を有するものであってもよい。例えば、Pt、Au等の貴金属ややn型酸化物半導体、およびホール伝導性を有する材料(例えばアルカリ土類をドープしたランタンクロマイト)との少なくとも一方との混合材料により形成された混合伝導体であってもよい。また、酸素イオンと電子またはホールとの混合伝導性を有するBSCF(Ba0.5Sr0.5Co0.8Fe0.2O3-δ)やLSGF(La0.7Sr0.3Ga0.6Fe0.4)等の、酸素透過膜として用いられるような種々の酸素イオンと電子またはホールとの混合伝導体を用いてもよい。このように、伝導体が、酸素イオン伝導性に加えて、電子伝導性およびホール伝導性の少なくとも一方を有する場合、伝導体が電子伝導性およびホール伝導性のいずれも有しない場合に比べて、多くの電子が導電性酸化物に供給されることにより、ヒドリドイオンの生成が促進されるため、ヒドリド含有化合物を、より効率的に製造することができる。また、仮に、例えば導電性酸化物における酸素の減少によって導電性酸化物から電極20側に酸素イオンを移動させるポンピングができなくなったとしても、伝導体が有する電子伝導性またはホール伝導性によって導電性酸化物に電子が供給され、ヒドリドイオンの生成が継続されるため、ヒドリド含有化合物の連続的な製造を継続することができる。
【0039】
上記実施形態では、電極として、Ptにより形成された電極20(外側電極20a)を例示したが、他の導電性材料(例えば、Ag、Au、Pd、Ni等の金属や、LSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)、LSM(ランタンストロンチウムマンガン酸化物)等の導電性酸化物)により形成されたものであってもよい。また、上記実施形態におけるヒドリド含有化合物の製造装置100において、CeO2粉末30a自体が導電性を有することによって電極としても機能するため、内側電極22を備えない構成であってもよい。
【0040】
また、上記実施形態では、導電性酸化物として、CeO2を例示したが、導電性酸化物は、水素元素を含むガスが供給される状態で、導電性酸化物の電位が電極の電位よりも低くなるように導電性酸化物と電極との間に電圧を印加することにより、ヒドリドイオンを含有できる導電性酸化物であればよく、n型半導体にも限られない。例えば、導電性酸化物は、GDC(n型半導体のセリウム化合物(GDC-Ce0.8Gd0.2O1.9))、SDC(サマリウムドープセリア)、YDC(イットリアドープセリア)、LDC(ランタンドープセリア)等のランタノイド含有化合物や、AXB1-XTiYC1-YO3(A:Ba,Sr,Ca、B:ランタノイド、C:Sc,Y,Ga)等のペロブスカイト酸化物や、LaSrCoO4等のK2NiO4型の酸化物でもあってもよい。なお、Gd、YやLa等のドープ量は限定されない。また、導電性酸化物に、貴金属(例えばRu、Pd、Rh、Pt、Au)や金属(例えばFe、Ni、Co、Cu)を触媒として混合したり担持させたりすることにより、ヒドリド含有化合物の生成速度をさらに向上させることができる。
【0041】
上記実施形態におけるヒドリド含有化合物の製造装置100において、例えば、水素を含めず、水蒸気またはアルコールを含むガスをCeO2粉末30aに供給するとしてもよい。要するに、水素元素を含むガスを導電性酸化物(CeO2粉末30a)に供給すればよい。
【符号の説明】
【0042】
1:複合物 10:伝導体 10a:チューブ 20:電極 20a:外側電極 22:内側電極 30:導電性酸化物 30a:CeO2粉末 40:電圧印加部 41:電源 42,44:電線 46:電流計 50:ガス供給部 52:ガス導入管 54:ガス導入部 55:導入孔 56:ガス排出部 57:排出孔 60:電気炉 70:熱電対 100:製造装置 Gin:導入ガス Gout:生成ガス S1:第1の空間 S2:第2の空間