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特許7208918サテライト幹細胞の非対称分裂を刺激する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-11
(45)【発行日】2023-01-19
(54)【発明の名称】サテライト幹細胞の非対称分裂を刺激する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/427 20060101AFI20230112BHJP
   A61K 38/18 20060101ALI20230112BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
A61K31/427
A61K38/18
A61P21/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019556982
(86)(22)【出願日】2018-04-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-18
(86)【国際出願番号】 US2018027920
(87)【国際公開番号】W WO2018195046
(87)【国際公開日】2018-10-25
【審査請求日】2021-04-16
(31)【優先権主張番号】62/488,475
(32)【優先日】2017-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505357317
【氏名又は名称】オタワ ホスピタル リサーチ インスティチュート
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ルドニッキ, マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ワン, ユー シン
【審査官】小川 知宏
(56)【参考文献】
【文献】npj Regenerative Medicine,2016年,1,Article number:16006
【文献】Nature Medicine,2014年,20,1174-1181
【文献】Experimental Cell Research,2007年,313,341-356
【文献】Biochemical Journal,2010年,429,403-417
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/427
A61K 38/18
A61P 21/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能的ジストロフィン関連糖タンパク質複合体(DGC)を集合させる能力が欠如または減少しており、その結果、細胞極性を確立する能力が欠如または減少しているサテライト細胞を特徴とする疾患または障害の処置における使用のための組成物であって、前記組成物は、上皮成長因子受容体(EGFR)経路アクチベーターを含み、前記EGFR経路アクチベーターは、少なくともいくつかのサテライト幹細胞の非対称分裂を刺激するために十分な量で投与するために製剤化されている、組成物であって、ここで、前記EGFR経路アクチベーターは、(i)上皮成長因子(EGF)、または、(ii)3-(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシベンゾイル)-2-エチル-N-[4[(2-チアゾリルアミノ)スルホニル]フェニル]-6-ベンゾフランスルホンアミドである、組成物
【請求項2】
前記疾患または障害が筋ジストロフィーであり、前記サテライト幹細胞が、ペアードボックス7(PAX7)タンパク質およびEGFRタンパク質の発現と、筋原性因子5(Myf5)タンパク質およびMyoDタンパク質の発現の欠如とを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記筋ジストロフィーが、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ジストログリカノパチー、先天性筋ジストロフィーまたは肢帯筋ジストロフィーである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記サテライト幹細胞がジストロフィン欠損サテライト幹細胞である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
前記EGFR経路アクチベーターが、前記サテライト幹細胞におけるリン酸化EGFRのレベルの少なくとも20%の増加をもたらす量で投与するために製剤化されているか;
前記EGFR経路アクチベーターが、前記少なくともいくつかのサテライト幹細胞におけるAurkaキナーゼAを活性化して頂底極性を誘導する量で投与するために製剤化されているか;
前記EGFR経路アクチベーターが、前記サテライト幹細胞における非対称分裂の割合を、正常サテライト幹細胞の集団における非対称分裂の割合の少なくとも50%であるレベルに増加させる量で投与するために製剤化されているか;または
それらの任意の組み合わせである、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記使用が、サテライト細胞機能を向上もしくはレスキューするか;前記サテライト幹細胞の非対称分裂の割合を向上もしくは回復するか;前記疾患もしくは障害の1つもしくはそれを超える症状の重症度を改善するか;またはそれらの任意の組み合わせである、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本開示は、サテライト幹細胞の非対称分裂を刺激するための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
以下の段落は、それらにおいて議論されているいかなるものも先行技術であることや当業者の知識の一部であると認めるものではない。
【0003】
筋ジストロフィーは、経時的な骨格筋の減弱および衰弱の増加をもたらす筋肉疾患群である。異なるタイプの筋ジストロフィーは、筋肉タンパク質の生成に関与する異なる遺伝子の変異によるものである。筋ジストロフィーのいくつかの変異型は、ジストロフィンの喪失または産生減少によるものである。ジストロフィンの主な機能は、筋線維の膜を安定化することである。ジストロフィンの喪失は筋線維膜の減弱につながり、患者を筋肉損傷になりやすくする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
イントロダクション
以下のイントロダクションは、読者に本明細書を紹介するものであり、本発明を定義するものではない。1つまたはそれを超える本発明は、以下に記載される装置要素もしくは方法工程の組み合わせもしくは下位組み合わせまたはこの文書の他の部分に存在し得る。本発明者らは、このような他の1つまたは複数の発明を特許請求の範囲に単に記載しないことにより、本明細書に開示されるいかなる1つまたは複数の発明に対する権利を断念も放棄もしない。
【0005】
筋幹細胞機能の調節不全は、加齢における再生の減少およびデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)(ジストロフィンの機能喪失型変異により引き起こされる進行性および重度のミオパシー)に直接関連する。ヒトジストロフィンタンパク質は、Uniprotエントリー番号P11532に記載されている配列を有し得る。損傷筋線維の修復または新たな筋線維の形成のためには、筋肉サテライト細胞が活性化して増殖、分化および融合することが必要である。しかしながら、サテライト細胞におけるジストロフィンの喪失は細胞極性の喪失につながり、これが非対称細胞分裂を妨げ、コミットされた筋原性前駆体の生成を妨げる。ジストロフィン欠損サテライト幹細胞はまた、長期の細胞周期動態および異常な分裂パターンを示す。
【0006】
ジストロフィン関連糖タンパク質複合体(DGC)の成分をコードする遺伝子、またはそれらのプロセシング、例えばグリコシル化に関与する遺伝子の変異を有するものを含む他の遺伝病もまた、膜におけるDGC集合の失敗をもたらし、膜におけるジストロフィンの安定化不能をもたらし得る。
【0007】
ジストロフィン欠損サテライト幹細胞は、正常サテライト幹細胞と比較して減少した比率で、筋再生に必要な筋原性前駆体を生成する。同様に、機能的ジストロフィン関連糖タンパク質複合体(DGC)を集合させる能力が欠如または減少しており、その結果、細胞極性を確立する能力が欠如または減少しているサテライト細胞もまた、減少した比率で筋原性前駆体を生成する。サテライト幹細胞非対称分裂の調節は、筋再生プログラムの効率に影響を与える制御点である。このような疾患または障害を患っている患者におけるサテライト幹細胞の非対称分裂を刺激する化合物または方法が依然として必要である。このような疾患または障害の一例は、筋ジストロフィー、例えばデュシェンヌ型筋ジストロフィーである。このような化合物または方法は、患者におけるサテライト細胞機能を向上またはレスキューし、それにより、疾患または障害の症状の重症度を軽減し得る。いくつかの場合では、このような化合物または方法は、疾患または障害の1つまたはそれを超える症状を改善または転換し得る。
【0008】
本発明者らは、上皮成長因子受容体(EGFR)経路の極性化伝播が非対称サテライト幹細胞分裂の決定因子であることを決定した。上皮成長因子受容体は、Uniprotエントリー番号P00533に記載されている配列を有し得る。本発明者らは、EGFR極性経路がジストロフィンとは独立して作用し、組換えEGFによるEGFR経路の刺激がAurkaキナーゼAを刺激して極性を確立し、ジストロフィン欠損サテライト細胞の非対称分裂の割合の増加をもたらすことができることを確認した。ヒトAurkaキナーゼAは、Uniprotエントリー番号O14965に記載されている配列を有し得る。
【0009】
一態様では、本開示は、機能的ジストロフィン関連糖タンパク質複合体(DGC)を集合させる能力が欠如または減少しており、その結果、細胞極性を確立する能力が欠如または減少しているサテライト細胞を特徴とする疾患または障害を患っている患者における少なくともいくつかのサテライト幹細胞の非対称分裂を刺激するための方法を提供する。前記方法は、十分量の上皮成長因子受容体(EGFR)経路アクチベーターを患者に投与して、少なくともいくつかのサテライト幹細胞の非対称分裂を刺激することを含む。別の態様では、本開示は、機能的ジストロフィン関連糖タンパク質複合体(DGC)を集合させる能力が欠如または減少しており、その結果、細胞極性を確立する能力が欠如または減少しているサテライト細胞を特徴とする疾患または障害を患っている患者における少なくともいくつかのサテライト幹細胞の非対称分裂を刺激するためのEGFR経路アクチベーターを提供する。さらに他の態様では、本開示は、機能的ジストロフィン関連糖タンパク質複合体(DGC)を集合させる能力が欠如もしくは減少しており、その結果、細胞極性を確立する能力が欠如もしくは減少しているサテライト細胞を特徴とする疾患もしくは障害を患っている患者における少なくともいくつかのサテライト幹細胞の非対称分裂を刺激するための、または機能的ジストロフィン関連糖タンパク質複合体(DGC)を集合させる能力が欠如もしくは減少しており、その結果、細胞極性を確立する能力が欠如もしくは減少しているサテライト細胞を特徴とする疾患もしくは障害を患っている患者における少なくともいくつかのサテライト幹細胞の非対称分裂を刺激するための医薬の製造におけるEGFR経路アクチベーターの使用を提供する。
【0010】
疾患または障害が筋ジストロフィーである場合、サテライト幹細胞は、ペアードボックス7(PAX7)タンパク質およびEGFRタンパク質の発現と、筋原性因子5(Myf5)タンパク質およびMyoDタンパク質の発現の欠如とを特徴とする。ヒトPAX7タンパク質は、Uniprotエントリー番号P23759に記載されている配列を有し得る。ヒトMyf5タンパク質は、Uniprotエントリー番号P13349に記載されている配列を有し得る。ヒトMyoDタンパク質は、P15172に記載されている配列を有し得る。
【0011】
少なくともいくつかのサテライト幹細胞の非対称分裂の刺激は、サテライト細胞機能を向上もしくはレスキューし得るか;サテライト幹細胞の非対称分裂の割合を向上もしくは回復し得るか;またはそれらの任意の組み合わせであり得る。
患者における少なくともいくつかのサテライト幹細胞の非対称分裂の刺激は、患者における疾患または障害の1つまたはそれを超える症状の重症度を軽減し得る。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
機能的ジストロフィン関連糖タンパク質複合体(DGC)を集合させる能力が欠如または減少しており、その結果、細胞極性を確立する能力が欠如または減少しているサテライト細胞を特徴とする疾患または障害を患っている患者における少なくともいくつかのサテライト幹細胞の非対称分裂を刺激する方法であって、十分量の上皮成長因子受容体(EGFR)経路アクチベーターを前記患者に投与して、前記少なくともいくつかのサテライト幹細胞の非対称分裂を刺激することを含む、方法。
(項目2)
前記疾患または障害が筋ジストロフィーであり、前記サテライト幹細胞が、ペアードボックス7(PAX7)タンパク質およびEGFRタンパク質の発現と、筋原性因子5(Myf5)タンパク質およびMyoDタンパク質の発現の欠如とを特徴とする、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記筋ジストロフィーが、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ジストログリカノパチー、先天性筋ジストロフィーまたは肢帯筋ジストロフィーである、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記サテライト幹細胞がジストロフィン欠損サテライト幹細胞である、項目1または2に記載の方法。
(項目5)
十分量の前記EGFR経路アクチベーターを投与して、前記サテライト幹細胞におけるリン酸化EGFRのレベルの少なくとも20%の増加をもたらすか;
十分量の前記EGFR経路アクチベーターを投与して、前記少なくともいくつかのサテライト幹細胞におけるAurkaキナーゼAを活性化して頂底極性を誘導するか;
十分量の前記EGFR経路アクチベーターを投与して、前記サテライト幹細胞における非対称分裂の割合を、正常サテライト幹細胞の集団における非対称分裂の割合(proption)の少なくとも50%であるレベルに増加させるか;または
それらの任意の組み合わせである、項目1~4のいずれか一項に記載の方法。
(項目6)
前記EFGR経路アクチベーターがEGFR経路の間接アクチベーターである、項目1~5のいずれか一項に記載の方法。
(項目7)
前記間接EFGR経路アクチベーターが、PTP1bに対するIC50よりも2桁超大きいSHP1ホスファターゼおよびSHP2ホスファターゼに対するIC50を有するPTP1bインヒビターである、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記PTP1bインヒビターが、
3-(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシベンゾイル)-2-エチル-N-[4-[(2-チアゾリルアミノ)スルホニル]フェニル]-6-ベンゾフランスルホンアミド;
2-(オキサリルアミノ)-4,5,6,7-テトラヒドロチエノ[2,3-c]ピリジン-3-カルボン酸塩;
N-アルキル-2-(オキサリルアミノ)-4,5,6,7-テトラヒドロチエノ[2,3-c]ピリジン-3-カルボン酸塩;または
それらのプロドラッグである、項目7に記載の方法。
(項目9)
前記PTP1bインヒビターが、
3-(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシベンゾイル)-2-エチル-N-[4[(2-チアゾリルアミノ)スルホニル]フェニル]-6-ベンゾフランスルホンアミド;
2-(オキサリルアミノ)-4,5,6,7-テトラヒドロチエノ[2,3-c]ピリジン-3-カルボン酸塩酸塩;または
6-メチル-2-(オキサリルアミノ)-4,5,6,7-テトラヒドロチエノ[2,3-c]ピリジン-3-カルボン酸トリフルオロ酢酸塩である、項目8に記載の方法。
(項目10)
前記EFGR経路アクチベーターがEGFR経路の直接アクチベーターである、項目1~5のいずれか一項に記載の方法。
(項目11)
前記直接EFGR経路アクチベーターが、
上皮成長因子(EGF)、
TGF-アルファ、
アンフィレグリン、
ヘパリン結合EGF様成長因子(HB-EGF)、
ベータセルリン、
エピレグリン、
抗EGFR抗体もしくはその抗原結合断片、
参照配列と少なくとも80%同一の配列を有するその変異体、または
そのナノ粒子コンジュゲートである、項目10に記載の方法。
(項目12)
前記抗EGFR抗体が、EGFR上のEGF結合ドメインに結合する、項目11に記載の方法。
(項目13)
前記抗EGFR抗体の前記抗原結合断片が、EGFRの細胞内キナーゼドメインに結合する細胞透過性ナノボディである、項目11に記載の方法。
(項目14)
前記少なくともいくつかのサテライト幹細胞の非対称分裂の刺激が、サテライト細胞機能を向上もしくはレスキューするか;前記サテライト幹細胞の非対称分裂の割合を向上もしくは回復するか;前記患者における前記疾患もしくは障害の1つもしくはそれを超える症状の重症度を改善するか;またはそれらの任意の組み合わせである、項目1~13のいずれか一項に記載の方法。
(項目15)
機能的ジストロフィン関連糖タンパク質複合体(DGC)を集合させる能力が欠如または減少しており、その結果、細胞極性を確立する能力が欠如または減少しているサテライト細胞を特徴とする疾患または障害を患っている患者における少なくともいくつかのサテライト幹細胞の非対称分裂をシミュレートするために十分な量で前記患者に投与するために製剤化された、上皮成長因子受容体(EGFR)経路アクチベーター。
(項目16)
前記疾患または障害が筋ジストロフィーであり、前記サテライト幹細胞が、ペアードボックス7(PAX7)タンパク質およびEGFRタンパク質の発現と、筋原性因子5(Myf5)タンパク質およびMyoDタンパク質の発現の欠如とを特徴とする、項目15に記載のEGFR経路アクチベーター。
(項目17)
前記筋ジストロフィーが、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ジストログリカノパチー、先天性筋ジストロフィーまたは肢帯筋ジストロフィーである、項目15に記載のEGFR経路アクチベーター。
(項目18)
前記サテライト幹細胞がジストロフィン欠損サテライト幹細胞である、項目15または16に記載のEGFR経路アクチベーター。
(項目19)
前記サテライト幹細胞におけるリン酸化EGFRのレベルの少なくとも20%の増加をもたらす量で投与するために製剤化されているか;
前記少なくともいくつかのサテライト幹細胞におけるAurkaキナーゼAを活性化して
頂底極性を誘導する量で投与するために製剤化されているか;
前記サテライト幹細胞における非対称分裂の割合を、正常サテライト幹細胞の集団における非対称分裂の割合の少なくとも50%であるレベルに増加させる量で投与するために製剤化されているか;または
それらの任意の組み合わせである、項目15~18のいずれか一項に記載のEGFR経路アクチベーター。
(項目20)
EGFR経路の間接アクチベーターである、項目15~19のいずれか一項に記載のEGFR経路アクチベーター。
(項目21)
前記間接EFGR経路アクチベーターが、PTP1bに対するIC50よりも2桁超大きいSHP1ホスファターゼおよびSHP2ホスファターゼに対するIC50を有するPTP1bインヒビターである、項目20に記載のEGFR経路アクチベーター。
(項目22)
前記PTP1bインヒビターが、
3-(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシベンゾイル)-2-エチル-N-[4[(2-チアゾリルアミノ)スルホニル]フェニル]-6-ベンゾフランスルホンアミド;
2-(オキサリルアミノ)-4,5,6,7-テトラヒドロチエノ[2,3-c]ピリジン-3-カルボン酸塩;
N-アルキル-2-(オキサリルアミノ)-4,5,6,7-テトラヒドロチエノ[2,3-c]ピリジン-3-カルボン酸塩;または
それらのプロドラッグである、項目21に記載のEGFR経路アクチベーター。
(項目23)
前記PTP1bインヒビターが、
3-(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシベンゾイル)-2-エチル-N-(4-[(2-チアゾリルアミノ)スルホニル]フェニル]-6-ベンゾフランスルホンアミド;
2-(オキサリルアミノ)-4,5,6,7-テトラヒドロチエノ[2,3-c]ピリジン-3-カルボン酸塩酸塩;または
6-メチル-2-(オキサリルアミノ)-4,5,6,7-テトラヒドロチエノ[2,3-c]ピリジン-3-カルボン酸トリフルオロ酢酸塩である、項目22に記載のEGFR経路アクチベーター。
(項目24)
EGFR経路の直接アクチベーターである、項目15~18のいずれか一項に記載のEGFR経路アクチベーター。
(項目25)
前記直接EFGR経路アクチベーターが、
上皮成長因子(EGF)、
TGF-アルファ、
アンフィレグリン、
ヘパリン結合EGF様成長因子(HB-EGF)、
ベータセルリン、
エピレグリン、
抗EGFR抗体もしくはその抗原結合断片、
参照配列と少なくとも80%同一の配列を有するその変異体、または
そのナノ粒子コンジュゲートである、項目24に記載のEGFR経路アクチベーター。
(項目26)
前記抗EGFR抗体が、EGFR上のEGF結合ドメインに結合する、項目25に記載のEGFR経路アクチベーター。
(項目27)
前記抗EGFR抗体の前記抗原結合断片が、EGFRの細胞内キナーゼドメインに結合する細胞透過性ナノボディである、項目25に記載のEGFR経路アクチベーター。
(項目28)
前記患者への投与が、サテライト細胞機能を向上もしくはレスキューするか;前記サテライト幹細胞の非対称分裂の割合を向上もしくは回復するか;前記患者における前記疾患もしくは障害の1つもしくはそれを超える症状の重症度を改善するか;またはそれらの任意の組み合わせである、項目15~27のいずれか一項に記載のEGFR経路アクチベーター。
(項目29)
機能的ジストロフィン関連糖タンパク質複合体(DGC)を集合させる能力が欠如もしくは減少しており、その結果、細胞極性を確立する能力が欠如もしくは減少しているサテライト細胞を特徴とする疾患もしくは障害を患っている患者における少なくともいくつかのサテライト幹細胞の非対称分裂を刺激するための、または機能的ジストロフィン関連糖タンパク質複合体(DGC)を集合させる能力が欠如もしくは減少しており、その結果、細胞極性を確立する能力が欠如もしくは減少しているサテライト細胞を特徴とする疾患もしくは障害を患っている患者における少なくともいくつかのサテライト幹細胞の非対称分裂を刺激するための医薬の製造における、上皮成長因子受容体(EGFR)経路アクチベーターの使用。
(項目30)
前記疾患または障害が筋ジストロフィーであり、前記サテライト幹細胞が、ペアードボックス7(PAX7)タンパク質およびEGFRタンパク質の発現と、筋原性因子5(Myf5)タンパク質およびMyoDタンパク質の発現の欠如とを特徴とする、項目29に記載の使用。
(項目31)
前記筋ジストロフィーが、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ジストログリカノパチー、先天性筋ジストロフィーまたは肢帯筋ジストロフィーである、項目30に記載の使用。
(項目32)
前記サテライト幹細胞がジストロフィン欠損サテライト幹細胞である、項目29または30に記載の使用。
(項目33)
前記EGFR経路アクチベーターもしくは前記医薬が、前記サテライト幹細胞におけるリン酸化EGFRのレベルを少なくとも20%増加させるためのものであるか;
前記EGFR経路アクチベーターもしくは前記医薬が、前記少なくともいくつかのサテライト幹細胞におけるAurkaキナーゼAを活性化して頂底極性を誘導するためのものであるか;
前記EGFR経路アクチベーターもしくは前記医薬が、前記サテライト幹細胞における非対称分裂の割合を、正常サテライト幹細胞の集団における非対称分裂の割合の少なくとも50%であるレベルに増加させるためのものであるか;または
それらの任意の組み合わせである、項目29~32のいずれか一項に記載の使用。
(項目34)
前記EFGR経路アクチベーターがEGFR経路の間接アクチベーターである、項目29~33のいずれか一項に記載の使用。
(項目35)
前記間接EFGR経路アクチベーターが、PTP1bに対するIC50よりも2桁超大きいSHP1ホスファターゼおよびSHP2ホスファターゼに対するIC50を有するPTP1bインヒビターである、項目34に記載の使用。
(項目36)
前記PTP1bインヒビターが、
3-(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシベンゾイル)-2-エチル-N-[4-[(2-チアゾリルアミノ)スルホニル]フェニル]-6-ベンゾフランスルホンアミド;
2-(オキサリルアミノ)-4,5,6,7-テトラヒドロチエノ[2,3-c]ピリジン-3-カルボン酸塩;
N-アルキル-2-(オキサリルアミノ)-4,5,6,7-テトラヒドロチエノ[2,3-c]ピリジン-3-カルボン酸塩;または
それらのプロドラッグである、項目35に記載の使用。
(項目37)
前記PTP1bインヒビターが、
3-(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシベンゾイル)-2-エチル-N-[4[(2-チアゾリルアミノ)スルホニル]フェニル]-6-ベンゾフランスルホンアミド;
2-(オキサリルアミノ)-4,5,6,7-テトラヒドロチエノ[2,3-c]ピリジン-3-カルボン酸塩酸塩;または
6-メチル-2-(オキサリルアミノ)-4,5,6,7-テトラヒドロチエノ[2,3-c]ピリジン-3-カルボン酸トリフルオロ酢酸塩である、項目36に記載の使用。
(項目38)
前記EFGR経路アクチベーターがEGFR経路の直接アクチベーターである、項目29~33のいずれか一項に記載の使用。
(項目39)
前記直接EFGR経路アクチベーターが、
上皮成長因子(EGF)、
TGF-アルファ、
アンフィレグリン、
ヘパリン結合EGF様成長因子(HB-EGF)、
ベータセルリン、
エピレグリン、
抗EGFR抗体もしくはその抗原結合断片、
参照配列と少なくとも80%同一の配列を有するその変異体、または
そのナノ粒子コンジュゲートである、項目38に記載の使用。
(項目40)
前記抗EGFR抗体が、EGFR上のEGF結合ドメインに結合する、項目39に記載の使用。
(項目41)
前記抗EGFR抗体の前記抗原結合断片が、EGFRの細胞内キナーゼドメインに結合する細胞透過性ナノボディである、項目39に記載の使用。
(項目42)
前記患者への投与が、サテライト細胞機能を向上もしくはレスキューするか;前記サテライト幹細胞の非対称分裂の割合を向上もしくは回復するか;前記患者における前記疾患もしくは障害の1つもしくはそれを超える症状の重症度を改善するか;またはそれらの任意の組み合わせである、項目29~41のいずれか一項に記載の使用。
(項目43)
前記間接EFGR経路アクチベーターがPTPインヒビターである、項目6に記載の方法。
図面の説明
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1および2は、EGFRシグナル伝達が非対称サテライト幹細胞分裂をどのように調節するかの描写である。 図1(A)は、DMSO対照(ビヒクル)またはビヒクル対照に対して正規化したラパチニブの存在下で42時間培養した時点における筋線維当たりの非対称サテライト幹細胞分裂の数を示す。 図1(B)は、DMSO対照(ビヒクル)またはビヒクル対照に対して正規化したラパチニブの存在下で42時間培養した時点における筋線維当たりのYFP-サテライト幹細胞分裂の数を示す。 図1(C)は、スクランブル対照siRNA(siSCR)またはsiSCR対照に対して正規化したEGFRに対するsiRNA(siEGFR)でのトランスフェクション後に42時間培養した時点における筋線維当たりの非対称サテライト幹細胞分裂の数を示す。 図1(D)は、スクランブル対照siRNA(siSCR)またはsiSCR対照に対して正規化したEGFRに対するsiRNA(siEGFR)でのトランスフェクション後に42時間培養した時点における筋線維当たりのYFP-サテライト幹細胞分裂の相対数を示す。図1のエラーバーは平均±SEMを表す;p値:≦0.05;**≦0.01;***≦0.005。
図2図1および2は、EGFRシグナル伝達が非対称サテライト幹細胞分裂をどのように調節するかの描写である。 図2(A)は、PBS中1%BSA対照(ビヒクル)または組換えEGFの存在下で42時間培養した時点における筋線維当たりの非対称サテライト幹細胞分裂の相対数(elative number)を示す。 図2(B)は、PBS中1%BSA対照(ビヒクル)または組換えEGFの存在下で36時間培養した時点における頂底方向有糸分裂サテライト細胞分裂の相対数を示す。 図2(C)は、36時間培養した時点における単一筋線維におけるサテライト細胞のp-Aurk中心体染色の平面(上)および頂底(下)方向を示す。サテライト細胞のホスト筋線維は破線で描かれている。図2のエラーバーは平均±SEMを表す;p値:≦0.05;**≦0.01;***≦0.005。
図3図3~13は、EGF刺激がmdxサテライト細胞の極性欠損をどのようにレスキューするかを示す。 図3(A)は、PBS中1%BSA対照(ビヒクル)または100ng/mL組換えEGFを含むハムF10培地で1時間培養した後におけるEDL筋線維におけるPax7+(灰色)サテライト細胞のp-EGFR(白色)のシグナル伝達状態を示す。DNAはDAPIで染色されている(暗灰色)。 図3(B)は、PBS中1%BSA対照(ビヒクル)または組換えEGFの存在下で36時間培養した時点におけるmdx筋線維におけるサテライト細胞の異常有糸分裂紡錘体、対平面および頂底方向有糸分裂紡錘体の定量を示す。図3のエラーバーは平均±SEMを表す;p値:≦0.05;**≦0.01;***≦0.005。
図4図3~13は、EGF刺激がmdxサテライト細胞の極性欠損をどのようにレスキューするかを示す。 図4(A)は、PBS中1%BSA対照(ビヒクル)または組換えEGFの存在下で42時間培養した時点におけるWTおよびmdx筋線維の総サテライト幹細胞分裂に対する非対称分裂の定量を示す。 図4(B)は、PBS中1%BSA対照(ビヒクル)または組換えEGFの存在下で42時間培養した時点におけるWTおよびmdx筋線維の筋線維当たりの非対称分裂の定量を示す。 図4(C)は、PBS中1%BSA対照(ビヒクル)または組換えEGFの存在下で72時間培養した時点におけるmdx筋線維当たりのMyog発現細胞の定量を示す。 図4(D)は、PBS中1%BSA対照(ビヒクル)または組換えEGFの存在下で72時間培養した時点におけるmdx筋線維当たりの総筋原性細胞(Pax7発現またはMyog発現細胞)の定量を示す。図4のエラーバーは平均±SEMを表す;p値:≦0.05;**≦0.01;***≦0.005。
図5図3~13は、EGF刺激がmdxサテライト細胞の極性欠損をどのようにレスキューするかを示す。図5(A)は、mdxマウスにおける心臓毒誘発性傷害および組換えEGFタンパク質による処置の概略図を示す。 図5(B)は、心臓毒誘発性傷害および食塩水(ビヒクル)または組換えEGFタンパク質による処置の10日後における再生mdx TA筋肉由来の凍結切片におけるPax7+細胞の定量を示す。 図5(C)は、心臓毒誘発性傷害および食塩水(ビヒクル)または組換えEGFタンパク質による処置の10日後における再生mdx TA筋肉由来の凍結切片におけるMyog+細胞の定量を示す。 図5(D)は、心臓毒誘発性傷害および食塩水(ビヒクル)または組換えEGFタンパク質による処置の10日後における再生mdx TA筋肉由来の筋線維の最小フェレットの分布を示す。図5のエラーバーは平均±SEMを表す;p値:≦0.05;**≦0.01;***≦0.005。
図6図3~13は、EGF刺激がmdxサテライト細胞の極性欠損をどのようにレスキューするかを示す。 図6A)は、幼若mdxマウスにおけるEGF発現ベクターのエレクトロポレーション、ならびに傷害30日および150日後のインサイチュー力測定および組織学の概略図を示す。 図6(B)は、30日および150日の時点における対側脚に対して正規化した、空ベクター(EV)またはEGF発現ベクター(EGF)をエレクトロポレーションしたmdxマウスのTA筋肉の相対筋肉量を示す。 図6(C)は、30日および150日の時点における対側脚に対して正規化した、空ベクター(EV)またはEGF発現ベクター(EGF)をエレクトロポレーションしたmdxマウスのTA筋肉の断面積を示す。 図6(D)は、30日および150日の時点における対側脚に対して正規化した、空ベクター(EV)またはEGF発現ベクター(EGF)をエレクトロポレーションしたmdxマウスの筋線維1mm当たりのMyog発現細胞の相対発現(telative expression)を示す。 図6(E)は、対側脚と比較した、空ベクター(EV)またはEGF発現ベクター(EGF)をエレクトロポレーションしたmdxマウスのTA筋肉の筋線維の定量を示す。図6のエラーバーは平均±SEMを表す;p値:≦0.05;**≦0.01;***≦0.005。
図7図3~13は、EGF刺激がmdxサテライト細胞の極性欠損をどのようにレスキューするかを示す。 図7(A)は、対側脚と比較した、空ベクター(EV)またはEGF発現ベクター(EGF)により処置された、心臓毒誘発性傷害後30日(dpi)における再生mdx TA筋肉由来の筋線維の最小フェレットの分布を示す。 図7(B)は、対側脚と比較した、空ベクター(EV)またはEGF発現ベクター(EGF)により処置された、心臓毒誘発性傷害後150日における再生mdx TA筋肉由来の筋線維の最小フェレットの分布を示す。図7のエラーバーは平均±SEMを表す;p値:≦0.05;**≦0.01;***≦0.005。
図8図3~13は、EGF刺激がmdxサテライト細胞の極性欠損をどのようにレスキューするかを示す。 図8(A)は、空ベクター(EV)またはEGF発現ベクター(EGF)により処置された、30dpiおよび150dpiにおける再生mdx TA筋肉由来の筋線維の最大強縮力(mN)を示す。 図8(B)は、空ベクター(EV)またはEGF発現ベクター(EGF)により処置された、30dpiおよび150dpiにおける再生mdx TA筋肉由来の筋線維の最大比力(mN/cm)を示す。図8のエラーバーは平均±SEMを表す;p値:≦0.05;**≦0.01;***≦0.005。
図9図3~13は、EGF刺激がmdxサテライト細胞の極性欠損をどのようにレスキューするかを示す。 図9(A)は、幼若mdxマウスにおけるEGF発現ベクターのエレクトロポレーション、ならびに採取および力測定時点の概略図を示す。 図9(B)は、対側脚に対して正規化した、24週間の時点における空ベクター(EV)またはEGF発現ベクター(EGF)をエレクトロポレーションしたmdxマウスのTA筋肉の相対筋肉量を示す。 図9(C)は、対側脚に対して正規化した、24週間の時点における空ベクター(EV)またはEGF発現ベクター(EGF)をエレクトロポレーションしたmdxマウスの再生TA筋肉由来の筋線維の相対平均最小フェレットを示す。 図9(D)は、24週間の時点における空ベクター(EV)またはEGF発現ベクター(EGF)をエレクトロポレーションしたmdxマウスの対側(contra)脚および処置脚の再生TA筋肉由来の筋線維の数を示す。図9のエラーバーは平均±SEMを表す;p値:≦0.05;**≦0.01;***≦0.005。
図10図3~13は、EGF刺激がmdxサテライト細胞の極性欠損をどのようにレスキューするかを示す。 図10(A)は、mdxマウスのエレクトロポレーションTA筋肉由来の凍結切片におけるMyh3+(灰色(gery))新形成筋線維、Myh4+(黒色)タイプIIb速筋筋線維およびマウス免疫グロブリンG浸潤壊死筋線維(msIgG+、白色)の免疫染色を示す。DNAはDAPIで染色されている(暗灰色)。 図10(B)は、対側脚と比較した、空ベクター(EV)またはEGF発現ベクター(EGF)をエレクトロポレーションしたmdxマウスのTA筋の再生指数を示す。エラーバーは平均±SEMを表す;p値:≦0.05;**≦0.01;***≦0.005。
図11図3~13は、EGF刺激がmdxサテライト細胞の極性欠損をどのようにレスキューするかを示す。 図11(A)は、mdxマウスのエレクトロポレーションTA筋肉由来の凍結切片におけるコムギ胚芽凝集素(WGA)染色(灰色)線維沈着物の代表的な画像を示す。DNAはDAPIで染色されている(暗灰色)。 図11(B)は、対側脚に対して正規化した、空ベクター(EV)またはEGF発現ベクター(EGF)をエレクトロポレーションしたmdxマウスのTA筋肉のWGA+線維面積の定量を示す。図11のエラーバーは平均±SEMを表す;p値:≦0.05;**≦0.01;***≦0.005。
図12図3~13は、EGF刺激がmdxサテライト細胞の極性欠損をどのようにレスキューするかを示す。 図12(A)は、成長培地、組換えEGFを補充した成長培地、PTP1bインヒビターを補充した成長培地、または組換えEGFおよびPTP1bインヒビターを補充した成長培地を1時間再補給した血清飢餓筋芽細胞におけるp-EGFRのイムノブロット分析を示す。 図12(B)は、組換えEGFおよびPTP1bインヒビターで処置した筋芽細胞におけるp-EGFRの濃淡値(grey value)の定量を示す。 図12(C)は、ビヒクル対照、組換えEGF、PTP1bインヒビターまたは組換えEGFおよびPTP1bインヒビターの両方の存在下で42時間培養した時点におけるWT筋線維の総サテライト幹細胞分裂に対する非対称分裂の定量を示す。 図12(D)は、ビヒクル対照、組換えEGF、PTP1bインヒビターまたは組換えEGFおよびPTP1bインヒビターの両方の存在下で42時間培養した時点におけるmdx筋線維の総サテライト幹細胞分裂に対する非対称分裂の定量を示す。図12のエラーバーは平均±SEMを表す;p値:≦0.05;**≦0.01;***≦0.005。
図13図3~13は、EGF刺激がmdxサテライト細胞の極性欠損をどのようにレスキューするかを示す。 図13(A)は、mdxマウスにおける心臓毒誘発性傷害およびPTP1bインヒビターによる処置の概略図を示す。 図13(B)は、DMSO(ビヒクル)またはPTP1bインヒビターによる処置の心臓毒誘発性傷害後10日におけるmdxマウスの再生TA筋肉由来の凍結切片におけるMyh3+(灰色)新形成筋線維、Myh4+(黒色)タイプIIb速筋筋線維およびマウス免疫グロブリンG浸潤壊死筋線維(msIgG+、白色)の免疫染色を示す。 図13(C)は、対側脚に対して正規化した、DMSO(ビヒクル)またはPTP1bインヒビターにより処置された心臓毒誘発性傷害後10日におけるmdxマウスの再生TA筋肉の相対量を示す。 図13(D)は、DMSO(ビヒクル)またはPTP1bインヒビターにより処置された、心臓毒誘発性傷害後10日におけるmdxマウスの再生TA筋肉由来の筋線維の相対平均最小フェレットを示す。 図13(E)は、非傷害対側脚と比較した、DMSO(ビヒクル)またはPTP1bインヒビターにより処置された、心臓毒誘発性傷害後10日におけるmdxマウスの再生TA筋肉由来の筋線維の最小フェレットの分布を示す。 図13(F)は、DMSO(ビヒクル)またはPTP1bインヒビターにより処置された、心臓毒誘発性傷害後10日における再生mdx TA筋肉由来の凍結切片におけるPax7+細胞の定量を示す。図13のエラーバーは平均±SEMを表す;p値:≦0.05;**≦0.01;***≦0.005。
図14図14は、筋幹細胞におけるEGFRシグナル伝達を刺激するPTP1bの薬理学的阻害の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
一般に、本開示は、機能的ジストロフィン関連糖タンパク質複合体(DGC)を集合させる能力が欠如または減少しており、その結果、細胞極性を確立する能力が欠如または減少しているサテライト細胞を特徴とする疾患または障害を患っている患者における少なくともいくつかのサテライト幹細胞の非対称分裂を刺激するための方法を提供する。疾患または障害は、筋ジストロフィーであり得る。前記方法は、十分量の上皮成長因子受容体(EGFR)経路アクチベーターを患者に投与して、少なくともいくつかのサテライト幹細胞の非対称分裂を刺激することを含む。
【0014】
本開示では、「機能的ジストロフィン関連糖タンパク質複合体(DGC)を集合させる能力が欠如または減少しており、その結果、細胞極性を確立する能力が欠如または減少しているサテライト細胞を特徴とする疾患または障害」は、簡潔にするために、「疾患または障害」または「細胞極性を確立する能力が欠如または減少しているサテライト細胞を特徴とする疾患または障害」と称され得る。
【0015】
いくつかの例では、EGFR経路アクチベーターは、サテライト幹細胞におけるリン酸化EGFRのレベルを、EGFR経路アクチベーターの投与前に存在するリン酸化EGFRのレベルと比較して少なくとも20%増加させるために十分な量で投与される。いくつかの例では、EGFR経路アクチベーターは、AurkaキナーゼAを活性化してサテライト細胞の頂底極性を誘導するために十分な量で投与される。いくつかの例では、EGFR経路アクチベーターは、サテライト幹細胞における非対称分裂の割合を、正常サテライト幹細胞の集団における非対称分裂の割合の少なくとも50%であるレベルに増加させるために十分な量で投与される。いくつかの特定の例では、レベルは、正常サテライト幹細胞の少なくとも80%である。いくつかの例では、EGFR経路アクチベーターは、筋線維当たりのサテライト幹細胞の非対称分裂の数を、EGFR経路アクチベーターの投与前の筋線維当たりのサテライト幹細胞の非対称分裂の数よりも少なくとも85%増加させるために十分な量で投与される。いくつかの特定の例では、増加は最大150%であった。例えば、投与前の筋線維当たりの非対称分裂の平均数が0.235であり、EGFR経路アクチベーターの投与後の筋線維当たりの非対称分裂の平均数が0.463である場合、増加は97%である。
【0016】
本開示の文脈では、疾患または障害が筋ジストロフィーである場合、サテライト幹細胞の対称分裂は、Myf5タンパク質およびMyoDタンパク質の発現の欠如を特徴とする娘サテライト幹細胞と、Myf5タンパク質、MyoDタンパク質またはMyf5タンパク質およびMyoDタンパク質の両方の発現を特徴とする娘細胞とを生成する細胞分裂を指すと理解すべきである。MYF5タンパク質および/またはMyoDタンパク質の発現を特徴とする娘細胞は、コミットされた筋原性前駆細胞と称され得る。
【0017】
疾患または障害は、細胞極性を確立する能力が欠如または減少しているサテライト細胞を特徴とする。細胞極性を確立するサテライト幹細胞の能力は、基底板と、中心体ペア間の整列との間の角度を測定することにより決定され得る。角度を測定する方法は、Dumontら、「Dystrophin expression in muscle stem cells regulates their polarity and asymmetric division」、Nat.Med.(2015)21:1455-63に記載されている。前記方法は、参照により本明細書に組み込まれる。有糸分裂面を頂底方向(基底板に対して約90度)に向けることができる場合、細胞は細胞極性を確立する能力を有し、非対称分裂を受けることができると理解される。単一のサテライト幹細胞は、細胞極性を確立することができるか、できない場合があるかのいずれかであるが、サテライト幹細胞の集団は、全体として、細胞極性を確立する能力が低下している場合がある。例えば、サテライト幹細胞の集団では、50%が細胞極性を確立することができ、50%が細胞極性を確立することができない場合がある。このような状況では、集団は、細胞極性を確立する能力が50%減少していると称され得る。細胞極性を確立する能力のこの欠如または減少は、サテライト幹細胞によるジストロフィン産生の喪失または減少によるものであり得る。いくつかの例では、疾患または障害は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ジストログリカノパチー、先天性筋ジストロフィーまたは肢帯筋ジストロフィーなどの筋ジストロフィーである。
【0018】
EGFR経路アクチベーターは、EGFR経路の直接アクチベーターまたはEGFR経路の間接アクチベーターであり得る。
【0019】
直接アクチベーターは、サテライト幹細胞の細胞表面上のEGF受容体に直接結合してEGFR-Aurkaシグナル伝達経路を活性化することにより作用する化合物、ペプチドまたはタンパク質であると理解される。EGFR-Aurka経路を活性化するために使用され得る直接アクチベーターの例としては、上皮成長因子(EGF)、TGF-アルファ、アンフィレグリン、ヘパリン結合EGF様成長因子(HB-EGF)、ベータセルリン、エピレグリン、参照配列と少なくとも80%同一の配列を有する任意のその変異体、および少なくともいくらかの活性化活性を維持する任意のその断片が挙げられる。ヒトEGFタンパク質は、Uniprotエントリー番号P01133に記載されている配列を有し得る。ヒトTGFAタンパク質は、Uniprotエントリー番号P01135に記載されている配列を有し得る。ヒトアンフィレグリンタンパク質は、Uniprotエントリー番号P15514に記載されている配列を有し得る。ヒトHG-EGFタンパク質は、Uniprotエントリー番号O99075に記載されている配列を有し得る。ヒトベータセルリンタンパク質は、Uniprotエントリー番号P35070に記載されている配列を有し得る。ヒトエピレグリンタンパク質は、Uniprotエントリー番号O14944に記載されている配列を有し得る。
【0020】
あるいは、直接アクチベーターは、受容体二量体化を促進することができる抗EGFR抗体または抗EGFR抗体の抗原結合断片であり得る。抗EGFR抗体は、EGFR上のEGF結合ドメインに結合し得る。抗EGFR抗体の抗原結合断片は、EGFRの細胞内キナーゼドメインに結合する細胞透過性ナノボディであり得る。
【0021】
間接アクチベーターは、EGF受容体ではないがEGFR-Aurkaシグナル伝達経路と相互作用するタンパク質または経路に関与するタンパク質と相互作用することにより作用する化合物、ペプチドまたはタンパク質であると理解される。例えば、プロテインチロシンホスファターゼ1b(PTP1b、Ptpn1とも称される)は、EGFRのリサイクルまたは分解(degredation)の前にEGFRを脱リン酸化する。ヒトPTP1bタンパク質は、Uniprotエントリー番号P18031に記載されている配列を有し得る。PTP1b活性の阻害は、脱リン酸化の全体的な比率を減少させ、PTP1bインヒビターの非存在下で見られるよりも多くのEGFR経路活性化をもたらす。PTP1b脱リン酸化のインヒビターはPTP1bと相互作用し、そのPTP1bが活性化EGFRに対するEGFRの相対量に影響を与えるので、PTP1b脱リン酸化のインヒビターはEGFR経路の間接アクチベーターの例であると理解される。
【0022】
間接EFGR経路アクチベーターは、PTPインヒビターであり得る。好ましい実施形態では、PTPインヒビターはPTP1bインヒビターである。さらにより好ましい実施形態では、PTP1bインヒビターは、PTP1bに対するIC50よりも2桁超大きいSHP1ホスファターゼおよびSHP2ホスファターゼに対するIC50を有する。SHP1ホスファターゼおよびSHP2ホスファターゼはEGFRシグナル伝達に関与するので、このようなPTP1bインヒビターが望ましい。
【0023】
いくつかの例では、PTP1bインヒビターは、3-(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシベンゾイル)-2-エチル-N-[4-[(2-チアゾリルアミノ)スルホニル]フェニル]-6-ベンゾフランスルホンアミド;2-(オキサリルアミノ)-4,5,6,7-テトラヒドロチエノ[2,3-c]ピリジン-3-カルボン酸塩;N-アルキル-2-(オキサリルアミノ)-4,5,6,7-テトラヒドロチエノ[2,3-c]ピリジン-3-カルボン酸塩;またはそれらのプロドラッグであり得る。いくつかの具体的な例では、PTP1bインヒビターは、2-(オキサリルアミノ)-4,5,6,7-テトラヒドロチエノ[2,3-c]ピリジン-3-カルボン酸塩酸塩(「TCS401」);6-メチル-2-(オキサリルアミノ)-4,5,6,7-テトラヒドロチエノ[2,3-c]ピリジン-3-カルボン酸トリフルオロ酢酸塩(「BML-267」);またはそれらのプロドラッグであり得る。
【0024】
「プロドラッグ」は、投与後に活性薬物化合物に代謝される化合物を指すと理解される。例えば、プロドラッグは、各カルボン酸化合物へのプロドラッグエステルの化学的または酵素的加水分解により代謝され得る。患者への投与後に代謝され得るエステルとしては、アルキルエステル(例えば、C-Cアルキルエステル)が挙げられる。
【0025】
サテライト幹細胞またはサテライト細胞は、骨格筋細胞に分化することができる前駆細胞を生じさせる。サテライト幹細胞はサテライト細胞を生じさせ得、これらは両方とも、融合して分化骨格筋細胞を形成する前駆体を生じさせる。サテライト細胞の対称分裂は2つのサテライト細胞を生じさせ、サテライト細胞の非対称分裂は、1つのサテライト細胞および1つのコミットされた筋原性前駆細胞を生じさせる。筋ジストロフィーにおけるサテライト幹細胞は、ペアードボックス7(PAX7)タンパク質およびEGFRタンパク質の発現と、筋原性因子5(MYF5)タンパク質およびMyoDタンパク質の発現の欠如とを特徴とする。本開示の文脈では、PAX7およびEGFRタンパク質の発現は、疾患も障害も有しない人由来のサテライト細胞におけるタンパク質発現レベルと実質的に等しいタンパク質発現のレベルを指すと理解すべきである。PAX7および/またはEGFRタンパク質は、免疫蛍光を使用して検出され得る。
【0026】
別の態様では、本開示は、細胞極性を確立する能力が欠如または減少しているサテライト細胞を特徴とする疾患または障害を患っている患者における少なくともいくつかのサテライト幹細胞の非対称分裂を刺激するために十分な量で前記患者に投与するために製剤化されたEGFR経路アクチベーターを提供する。いくつかの例では、疾患または障害は筋ジストロフィーである。
【0027】
さらに別の態様では、本開示は、細胞極性を確立する能力が欠如または減少しているサテライト細胞を特徴とする疾患または障害を患っている患者における少なくともいくつかのサテライト幹細胞の非対称分裂を刺激するためのEGFR経路アクチベーターの使用を提供する。いくつかの例では、疾患または障害は筋ジストロフィーである。
【0028】
さらに別の態様では、本開示は、細胞極性を確立する能力が欠如または減少しているサテライト細胞を特徴とする疾患または障害を患っている患者における少なくともいくつかのサテライト幹細胞の非対称分裂を刺激するための医薬の製造におけるEGFR経路アクチベーターの使用を提供する。いくつかの例では、疾患または障害は筋ジストロフィーである。
【0029】
さらなる態様では、本開示は、細胞極性を確立する能力が欠如または減少しているサテライト細胞を特徴とする疾患または障害を患っている患者における少なくともいくつかのサテライト幹細胞の非対称分裂を刺激する方法において使用するためのEGFR経路アクチベーターを提供する。いくつかの例では、疾患または障害は筋ジストロフィーである。
【0030】
上記疾患または障害を患っている患者における少なくともいくつかのサテライト幹細胞の非対称分裂の刺激は、サテライト細胞機能を向上もしくはレスキューし得るか、サテライト幹細胞の非対称分裂の割合を向上もしくは回復し得るか、またはそれらの任意の組み合わせであり得る。本開示の文脈では、「向上する」という用語は、EGFR経路アクチベーターの投与前のレベル、機能または量と比較したものであると理解すべきである。本開示の文脈では、「レスキューする」および「回復する」という用語は、疾患も障害も有しない人におけるレベル、機能または量に近づくかまたはそれとほぼ等しくなるように、レベル、機能または量を変化させることを意味すると理解すべきである。サテライト幹細胞機能は、分化適格前駆体、筋再生、または筋肉による力発生を測定することにより間接的に決定され得る。分化適格前駆体の測定は、免疫蛍光により検出される組織切片におけるPax7+およびMyoD+細胞またはPax7+およびMyg+(ミオゲニン)細胞の密度を測定することにより達成され得る。筋線維損傷の測定は、IgG浸潤を示す筋線維の数をカウントすることにより達成され得る。筋線維再生の測定は、新再生筋線維を示すMyh3発現を示す筋線維の数をカウントすることにより達成され得る。サテライト幹細胞機能を決定する方法は、von Maltzahn,Jら、「Wnt7a treatment ameliorates muscular dystrophy.」、Proc Natl Acad Sci USA(2012)109:20614-20619において議論されており、参照により本明細書に組み込まれる。
【0031】
例えば、疾患または障害を有する患者由来の細胞におけるサテライト細胞機能の回復またはレスキューは、回復またはレスキューされたサテライト幹細胞が、疾患も障害も有しない人由来のサテライト幹細胞の対応する能力に近いかまたはそれとほぼ等しい細胞極性確立能力を有するように、細胞極性を確立する能力が欠如している少なくともいくつかのサテライト幹細胞を恒久的または一時的に変化させることを指すと理解され得る。
【0032】
患者における少なくともいくつかのサテライト幹細胞の非対称分裂の刺激は、患者における疾患もしくは障害の1つまたはそれを超える症状の重症度を軽減し得る。例えば、筋ジストロフィーを有する患者は、疾患進行の減少、筋肉強度の減少率の減少、筋肉強度の増加またはそれらの組み合わせを有し得る。例えば、筋ジストロフィーを有する患者は、呼吸、嚥下、握る、歩行またはそれらの組み合わせの改善された能力を有し得る。
【0033】
EGFR経路アクチベーターは、潜在的なアクチベーターをスクリーニングする方法において同定され得る。前記方法は、複数のZスタック平面でMyf5-Cre/ROSA26-YFPマウス由来の単離、培養および染色された短趾屈(FDB)筋線維を視覚化して投影画像を作成することを含む。筋肉サテライト細胞は、Pax7発現に基づいて投影画像で同定される。同定された筋肉サテライト細胞のうち、(i)サテライト幹細胞は、YFP発現の非存在に基づいて同定され、(ii)コミットされたサテライト前駆細胞は、黄色蛍光タンパク質(YFP)発現に基づいて同定される。潜在的なEGFR経路アクチベーターをFDB筋線維に投与する。2つのYFP(+)サテライト細胞の産生により同定されるサテライト筋原細胞の対称分裂の数をカウントする。2つのYFP(-)サテライト細胞の産生により同定される対称サテライト幹細胞分裂の数をカウントする;1つのYFP(+)および1つのYFP(-)サテライト細胞の産生により同定される非対称サテライト細胞分裂の数をカウントする。非対称分裂であるYFP(-)分裂のパーセントが対照サンプルの対応するパーセントよりも大きい場合、潜在的なEGFR経路アクチベーターをEGFR経路アクチベーターとして同定する。「YFP(-)分裂」という表現は、娘細胞の1つがYFP(-)であるすべての細胞分裂を指す。
【0034】
前記方法は自動化され、ThermoFisher Scientific(商標)Cellomicsプラットフォーム(これは、高含有量分析のために蛍光顕微鏡法、画像処理、自動細胞測定および情報学ツールを合わせたものである)を使用したハイスループットスクリーニングに適合され得る。Cellomicsプラットフォームの使用により、サテライト幹細胞の検出は、少なくとも90%の検出率、約2%未満の偽陽性検出率および0.93のz因子スコアで達成され得る。個別の幹細胞分裂の検出は、少なくとも78%の検出率、約2%未満の偽陽性検出率および0.81のz因子スコアで達成され得る。
【実施例
【0035】
本発明者らは、EGFRシグナル伝達が非対称サテライト幹細胞分裂を調節し、EGF処置がジストロフィン欠損サテライト幹細胞における非対称分裂を刺激することを確認した。本開示の著者らはまた、EGF処置がインビボで筋原前駆細胞の数の増加をもたらすことを確認した。本発明者らはさらに、PTP、特にPTP1bの阻害がEGFRのリサイクルまたは分解を減少させ、EGFR活性を増加させ、それにより、ジストロフィン欠損サテライト幹細胞における非対称分裂を刺激し得ることを確認した。本発明者らはまた、PTP1b阻害がインビボで筋原性前駆細胞の数の増加をもたらすことを確認した。これらの結果は、以下でより詳細に議論されている。
【0036】
EGFRシグナル伝達は、非対称サテライト幹細胞分裂を調節する。非対称分裂におけるEGFRの役割を評価するために、本発明者らは、Myf5-Cre/R26R-eYFPマウス由来の長趾伸筋(EDL)筋肉から単離した筋線維においてサテライト細胞を培養し、機能喪失実験および機能獲得実験の両方を実施した。最初に、ラパチニブ(EGFRシグナル伝達の特異的インヒビター)による処置ありおよびなしで単離筋線維を42時間培養した。スクリーニングにおいて使用した濃度のラパチニブは、EGFRシグナル伝達を完全に無効化する(データは示さず)。非対称分裂の比率が83%減少することから明らかなように、EGFRシグナル伝達の阻害は、サテライト幹細胞対称分裂への顕著なシフトをもたらした(図1A)。したがって、EGFRシグナル伝達の阻害は、サテライト幹細胞の数の71%の増加をもたらした(図1B)。
【0037】
実際にEGFRがラパチニブの特異的遺伝子標的であることを検証するために、Myf5-Cre/R26R-eYFPマウスから単離した単一EDL筋線維において、EGFRに対するsiRNA(siEGFR)をサテライト細胞にトランスフェクトした。薬理学的阻害と同様に、siEGFRは、スクランブルsiRNA(siSCR)によるトランスフェクションと比較して、非対称分裂の比率を65%減少させた(図1C)。siEGFRのトランスフェクションはまた、対称分裂の比率を増加させ、サテライト幹細胞数の76%の増加をもたらした(図1D)。したがって、本発明者らは、サテライト幹細胞における非対称分裂の比率の制御において、EGFRが直接的な役割を果たすと結論付ける。
【0038】
EGFRシグナル伝達の活性化が非対称分裂の駆動因子として作用するかを調べるために、組換えEGFタンパク質を、Myf5-Cre/R26R-eYFPマウスから単離した単一EDL筋線維の培養培地に補充した(図2)。注目すべきことに、本発明者らは、EGF処置が、非対称サテライト幹細胞分裂の比率を2.5倍の増加させたことを観察した(図2A)。極性上皮MDCK細胞の最近の研究では、有糸分裂軸を頂底軸に沿って向けさせる際のEGFRの役割が同定されている。また、非対称サテライト細胞分裂は、頂底方向で起こる。本発明者らは単一EDL筋線維を36時間培養し、リン酸化オーロラキナーゼ(p-Aurk)の免疫染色により、サテライト細胞中心体を検出した。EGF処置にかかわらず、36時間の時点で、細胞の約5%がp-Aurkで標識された。EGF処置は、頂底軸に沿って整列した有糸分裂細胞の割合の50%の増加をもたらした(図2Bおよび2C)。理論に縛られるものではないが、サテライト細胞のEGF刺激は、極性p-EGFRシグナルに沿って中心体を動員することにより、有糸分裂方向の変化を刺激すると考えられる。
【0039】
EGF処置は、ジストロフィン欠損サテライト細胞の極性欠損をレスキューする。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)におけるジストロフィンの喪失は、mdxマウス(DMDのマウスモデル)におけるサテライト細胞の極性欠損を引き起こす。ジストロフィンを欠くサテライト幹細胞は、非対称分裂の数の10倍の減少を示し、Myog発現筋原性前駆体の生成の減少および再生の遅延をもたらす。
【0040】
EGFRの局在化および活性化がジストロフィンの喪失により影響を受けるかを確立するために、組換えEGF刺激の有りまたは無しでの1時間後に、リン酸化EGFR(p-EGFR)について、mdxマウス由来の単一EDL筋線維を免疫染色した。EGFで処置したmdx線維においてのみ、P-EGFRが観察された(図3A)。また、野生型(WT)細胞と同程度に、mdx細胞の基底表面上の「ストリーク」様構造では、p-EGFRが同様に局在化していた。したがって、本発明者らは、mdxサテライト細胞では、EGFRシグナル伝達が通常起こると結論付ける。
【0041】
EGFRシグナル伝達がジストロフィン欠損サテライト幹細胞の非対称分裂を刺激するかを評価するために、WTおよびmdxMyf5-Cre/R26R-eYFPマウスからEDL筋線維を単離し、組換えEGF刺激ありおよびなしで42時間培養した。非対称mdxサテライト幹細胞分裂の比率は、WTサテライト細胞と比べて有意に減少している。WTサテライト細胞のEGF処置は、非対称分裂の29%の増加をもたらした。mdxサテライト細胞のEGF刺激は、非対称分裂の比率の67%の増加をもたらした。EGFRシグナル伝達のEGF刺激は、ジストロフィン欠損サテライト細胞の非対称分裂をシミュレートすることができた(図3Bおよび4A)。
【0042】
WTサテライト細胞と同様に、mdxサテライト細胞のEGF処置は、頂底方向有糸分裂中心体の数の増加を誘導した。しかしながら、p-Aurk染色の異常パターンにより証明されるようにmdxサテライト細胞における異常細胞分裂の比率は、EGF刺激により影響を受けなかった。この観察結果は、極性シグナル伝達のみにより、細胞周期調節不全が完全にはレスキューされないことを意味する。しかしながら、非対称分裂の比率の増加により、EGF処置は、再生mdx筋肉において観察された生成の減少を改善することができることが示唆された。したがって、EGF駆動性非対称分裂が、mdx培養物中の筋原性前駆体の生成の減少を改善することができるかを評価するために、mdxマウス由来の単一EDL筋線維を72時間培養し、Myogの発現について免疫染色した。特に、mdxサテライト細胞のEGF刺激は、42時間の筋線維培養後に、非対称サテライト幹細胞分裂の絶対数の2倍の増加をもたらし(図4B)、72時間の筋線維培養後に、MyoG発現細胞の数の20%の増加をもたらした(図4C)。EGF処置は、筋原細胞の総数を約14%増加させた(図4D)。
【0043】
EGF処置は、mdx筋肉の再生を増強する。本発明者らは、EGF処置がジストロフィン欠損サテライト幹細胞非対称分裂の増加を刺激し、培養筋線維における前駆体の数を増加させることを見出した。
【0044】
以前に、本発明者らは、ジストロフィンまたはDag1欠損筋肉が、CTX傷害後に、Pax7発現細胞およびMyog発現細胞の数の減少をもたらすことを観察した。インビボにおけるジストロフィン欠損サテライト細胞に対するEGF処置の効果を評価するために、CTX誘発性傷害時および傷害の2日後に、10ngの組換えEGFタンパク質を筋肉内(IM)注射した(図5A)。傷害mdx筋肉へのEGF注射は、Pax7発現細胞の26%の増加をもたらし(図5B)、Myog発現細胞の数の50%の増加をもたらす(図5C)ことが観察された。また、EGF処置筋肉における再生筋線維は、ビヒクル注射対照と比較して、フェレット直径の増加を示した(図fD)。これらの結果は、組換えEGFの筋肉内補充が筋原性前駆体の生産的生成を増加させて、mdx筋肉の再生を増強することを示唆している。
【0045】
長期EGF処置の効果について取り組むために、本発明者らは、ヒトEGF cDNAを含有する発現プラスミド(Sunら、2015)をmdx前脛骨筋(TA)筋肉にエレクトロポレーションした(図6A)。印象的なことに、EGF発現ベクターをエレクトロポレーションしたmdx筋肉は、30d.p.i.までに量の18%の増加を示した(図6B)。この筋肉量の増加は、空ベクター対照と比較して、EGFエレクトロポレーションTA筋肉の全体的な断面積に反映されている(図6C)。
本発明者らが短期EGF処置で観察した効果と同様に、EGFベクターのエレクトロポレーションは、30d.p.i.におけるMyog+筋原性前駆体の数を増大させ、150d.p.i.であってもそれらの数を維持したのに対して、空ベクター対照で見られたMyog+細胞はより少なかった(図6D)。驚くべきことに、Myog+細胞の差は、肥大の増加に寄与しなかった。代わりに、本発明者らは、30d.p.i.および150d.p.i.において一貫して、EGFベクターをエレクトロポレーションした筋肉における筋線維の数の有意な増加を見出している(図6E、7A、7B)。
筋肉機能のレベルでこれらの組織学的変化の影響を測定するために、本発明者らは、TA筋力発生のインサイチュー測定を実施した。印象的なことに、EGF発現ベクターをエレクトロポレーションしたTA筋肉は、30d.p.i.において、空ベクターをエレクトロポレーションしたものと比較して、32%大きな強縮を生成した(図8A)。また、筋肉の生理学的断面積に対して正規化した後、本発明者らは、EGFベクターをエレクトロポレーションした筋肉が、30d.p.i.において25%高い比力を有し、150d.p.i.において空ベクター筋肉と比較してそれが依然として17%高いことを見出した(図8B)。
【0046】
短期EGF処置の効果について取り組むために、本発明者らは、ヒトEGF cDNAを含有する発現プラスミド(Sunら、2015)をmdx前脛骨筋(TA)筋肉にエレクトロポレーションした。4週齢(筋肉変性の発症中)においてTA筋肉にエレクトロポレーションし、24週間後に収集した(図9A)。印象的なことに、EGF発現ベクターをエレクトロポレーションしたmdx筋肉は、量の17%の増加を示した(図9B)。筋線維のフェレット直径の差は観察されなかったが(図9C)、本発明者らは、筋線維の数の22%の増加を見出した(図9D)。
【0047】
mdx筋肉は変性と再生との間でバランスするので、新形成胚性ミオシン重鎖(Myh3)発現筋線維および血清IgG(msIgG)浸潤壊死筋線維について、エレクトロポレーションマウス由来の筋肉切片を定量した(図10A)。新形成筋線維と壊死筋線維との間の比は、ジストロフィー表現型の進行を定量する相対再生指数を表す(図10B。これらのmdxマウスの対側TAは、0.3に近い再生指数で定常状態を維持したのに対して(図10B、空ベクターをエレクトロポレーションしたTAは平均して、新形成筋線維よりも多くの壊死筋線維を有しており、その結果、平均再生指数は-0.09であった(図10B。EGF発現ベクターをエレクトロポレーションしたTAはすべて、壊死性のものよりも多くのMyh3+筋線維を含有しており、0.99の平均再生指数を示した(図10B)。EGFエレクトロポレーション筋肉の再生指数の増加は、TA筋当たりの筋線維の数の増加に対応していた。ジストロフィー病状の緩和と一致して、EGFエレクトロポレーションは、コムギ胚芽凝集素(WGA)染色により測定した場合に線維症の漸進的増加を26%減少させた(図10A、10B)。
【0048】
PTP1bの阻害はEGFR活性を増加させる。フィードバック機構は、EGFRシグナル伝達活性を抑制し得る。例えば、リン酸化EGFRは、リサイクルまたは分解される前に脱リン酸化される。この脱リン酸化事象は、プロテインチロシンホスファターゼ1b(PTP1b、Ptpn1としても公知)により行われ、薬理学的インヒビターによりターゲティングされ得る。
【0049】
PTP1b阻害がEGFR活性をさらに増加させ得るかを評価するために、本発明の発明者らは、成長培地(3-(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシ-ベンゾイル)-2-エチル-ベンゾフラン-6-スルホン酸-(4-(チアゾール-2-イルスルファミル)-フェニル)-アミド(PTP1bインヒビター、CAS765317-72-4)、組換えEGFまたはそれらの両方を補充した成長培地)を再補給した血清飢餓筋芽細胞におけるEGFRリン酸化を測定した(図12A)。これらの細胞におけるp-EGFRの濃淡値の定量により、PTP1b阻害は、成長培地のみではEGFRリン酸化を80%増加させ、添加した組換えEGFの存在下では20%増加させることが示された(図12Aおよび12B)。
【0050】
PTP1b阻害は、筋芽細胞におけるEGFRシグナル伝達を増加させることができるので、本発明者らは、PTP1b阻害がサテライト幹細胞非対称分裂に影響を与えるかについて取り組むことにした。野生型およびmdxMyf5-Cre/R26R-eYFPマウスからEDL筋線維を単離し、PTP1bインヒビター、組換えEGFまたはそれらの両方の存在下で42時間培養した(図12Cおよび12D)。やはり、EGFは単独で、野生型およびmdxサテライト幹細胞の両方における非対称分裂を刺激することができた。PTP1b阻害は単独で、非対称分裂を刺激するために十分であった。EGFまたはPTP1bインヒビターで処置した野生型細胞では、非対称分裂の比率は同様であった。表1は、ビヒクル対照、組換えEGF、PTP1bインヒビター(CAS765317-72-4)または組換えEGFおよびPTP1bインヒビターの両方の存在下で42時間培養した時点におけるWTおよびmdx筋線維における総サテライト幹細胞分裂に対する非対称分裂の定量を示す。S.E.M.は、平均の標準誤差である。
【表1】
【0051】
理論に縛られるものではないが、これらの結果は、PTP1b阻害が活性EGFR経路の増加をもたらし、筋幹細胞非対称分裂を誘導することを示唆している。サテライト幹細胞における非対称分裂の刺激は、コミットされた筋原性前駆体の数を増加させ、筋肉組織再生を加速させる。
【0052】
PTP1b阻害はmdx筋肉の再生を増強する。PTP1b阻害はEGFRシグナル伝達を増加させ、mdxサテライト幹細胞の非対称分裂を刺激したので、本発明者らは、PTP1b阻害を使用してインビボで非対称分裂を刺激し得るかを調べることにした。
【0053】
PTP1bインヒビターを心臓毒と共にmdx TA筋肉に同時投与し、傷害の2日後に再補充した(図13A)。傷害後の筋幹細胞機能および処置mdx筋肉の再生能力を評価するために、本発明者らは、心臓毒注射の10日後に再生筋肉の組織学を検査した。対照ビヒクル処置筋肉は依然として、大きな面積の壊死線維(msIgG+)を含有していたのに対して、PTP1bインヒビターで処置した筋肉は、50%少ないMyh3発現筋線維の存在により明らかなようにより良好に再生された(図13B)。PTP1bインヒビター処置筋肉もまた、ビヒクル処置対照と比較して量が14%増加した(図13C)。組換えEGFによる処置と同様に、PTP1bインヒビター処置筋肉は、対照筋肉と比較して、フェレット直径が平均2倍増加した筋線維を含有していた(図13DおよびE)。最後に、PTP1bインヒビター処置筋肉は、増加した数のサテライト細胞を含有していた(図13F)。これらの知見は、PTP1b阻害がEGFRシグナル伝達の増加を誘導して再生mdx筋肉におけるデノボ筋線維形成を加速させたことと一致する(図14)。
実験手順
【0054】
マウスおよび動物管理。以下のマウス系統を使用した:mdx、Myf5-CreおよびROSA26-eYFP。動物の取り扱いおよび管理に関するオタワ大学ガイドラインにしたがって、すべての実験を実施した。別途指定がなければ、6~8週齢マウスをすべての実験に使用した。
【0055】
EDL線維培養およびsiRNAトランスフェクション。Dumont,N.Aら、「Dystrophin expression in muscle stem cells regulates their polarity and asymmetric division.」、Nat.Med.(2015)21:1455-63(これは、参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているように筋線維培養を実施した。簡潔に言えば、EDLを慎重に解剖し、0.2%コラゲナーゼ1(Sigma)を含有する2%L-グルタミン、4.5%グルコース、および110mg/mLピルビン酸ナトリウム(Gibco)を含むDMEMで45分間インキュベートした。ガラスピペットによる穏やかなトリチュレーションを使用して、筋線維を単離した。20%FBS(Wisent)、1%ニワトリ胚抽出物(MP Biomedicals)および2.5ng/ml bFGF(Cedarlane)を含有するDMEMで筋線維を36、42または72時間培養した。薬理学的阻害のために、ラパチニブジトシレート(DMSO中1mM;Santa Cruz Biotechnology)、PTP1bインヒビターCAS765317-72-4(DMSO中10mM;Santa Cruz Biotechnologies)をそれぞれ1μMまたは10μMの最終濃度で培養培地に添加した;DMSOの等希釈液をビヒクル対照として使用した。EGF処置のために、ヒト組換えEGF(0.1%BSAを含むPBS中100ng/μl、Life Technologies)を100ng/mLで培養培地に添加した。
【0056】
静止サテライト細胞におけるEGFRのシグナル伝達状態を評価するために、解剖直後にEDL筋肉を4%PFAで固定した。ピンセットにより、固定筋肉から筋線維束を掻き裂いた。EGFRの活性化に関する研究では、2%L-グルタミン、4.5%グルコースおよび110mg/mLピルビン酸ナトリウム(Gibco)を含むDMEMによる無血清条件で筋線維を単離し、次いで、ヒト組換えEGF(0.1%BSAを含むPBS中100ng/μl、Life Technologies)100ng/mLで1時間処置し、PBS中0.1%BSAの等希釈液をビヒクル対照として使用した。
【0057】
リポフェクタミンRNAimax(Life Technologies)およびEGFR、Aurkaまたはスクランブル(SCR)用の検証済みSmartpool siRNAs(Dharmacon)を使用して、筋線維におけるサテライト細胞のトランスフェクションを実施した。Le Grandら、(2009)Wnt7a activates the planar cell polarity pathway to drive the symmetric expansion of satellite stem cells.Cell Stem Cell 4,pp 535-547(これは、参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているように、筋線維単離の4時間および16時間後に、2回のトランスフェクションを実施した。ウエスタンブロットおよびqRT-PCRにより、筋芽細胞においてsiRNAのノックダウン効率を検証した。
【0058】
サテライト細胞分裂の特性評価。Dumontら(2015)に記載されているように、サテライト細胞における有糸分裂紡錘体の方向を測定した。上記のように、36時間のインビトロ培養後に単一筋線維を固定した。免疫蛍光により検出した核におけるPax7発現により、サテライト細胞を同定した。核エンベロープの解離後、有糸分裂サテライト細胞では、Pax7染色は細胞質性になるが、依然として識別可能である。前中期から細胞質分裂までの細胞を標識する陽性p-Aurk染色により、有糸分裂サテライト細胞を同定した。WT細胞では観察されなかったp-Aurk染色パターン(単極、多極(>2)および脱離欠陥(abscission defect)を含む)を有する有糸分裂サテライト細胞を異常として定量した。有糸分裂紡錘体と、筋線維へのサテライト細胞の付着点の接平面との間の角度にしたがって、有糸分裂の方向を手動でカウントした。
【0059】
細胞培養および免疫共沈降。蛍光活性化細胞選別によりWTマウスからサテライト細胞を単離し、初代筋芽細胞成長培地(20%FBS(Wisent)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco)および5ng/mL bFGF(Cedarlane)を含むハムF10培地(Gibco))中、コラーゲンコーティングプレート上で、初代筋芽細胞として培養した。EGF刺激のために、ハムF10培地中で筋芽細胞を1時間血清飢餓させ、次いで、組換えヒトEGF(100ng/mL)を含むまたは含まない初代成長培地をさらに1時間再補給した。
【0060】
イムノブロッティング。10%SDS-PAGEでタンパク質を分離し、Immobilon-P PVDF膜(EMD Millipore)に転写した。膜を一次抗体でプローブし、続いて、1:5000の軽鎖特異的HRP結合二次抗体(Bio-Rad)でプローブし、Immobilon Western HRP基質(EMD Millipore)を使用して顕色した。FluorChem HD2(Alpha Innotech)を使用して膜を視覚化し、またはBIOMAXフィルム(Eastman Kodak)に曝露した。
【0061】
エレクトロポレーションおよび心臓毒傷害。筋肉内(i.m.)心臓毒注射液(Latoxan、50μlの食塩水中10μM溶液)を、全身麻酔下で皮膚から右TA筋肉に直接注射した。薬理学的阻害のために、ラパチニブジトシレート(DMSO中1mM;Santa Cruz Biotechnology)、PTP1bインヒビターCAS765317-72-4(DMSO中10mM;Santa Cruz Biotechnologies)をそれぞれ1μMまたは20μMの最終濃度で心臓毒溶液に混合した;DMSOの等希釈液をビヒクル対照として使用した。インヒビター(食塩水で希釈した20μLの2.5μMラパチビンまたは50μM PTP1bインヒビター)の補助注射を、心臓毒注射の2日後に実施した。組換えEGF注射では、10ngのヒト組換えEGF(食塩水中100ng/μL、Life Technologies)を50μLの心臓毒溶液または20μLの食塩水に混合し、等量の食塩水をビヒクル対照として使用した。
【0062】
Bentzinger,C.Fら、「Fibronectin regulates Wnt7a signaling and satellite cell expansion.」、Cell Stem Cell.(2013)12:75-87(これは、参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているように、エレクトロポレーションを実施した。30μgの食塩水中精製エンドトキシンフリー発現プラスミドを、全身麻酔下で皮膚から4週齢mdxマウスの右後部TA筋肉に注射した。注射直後に、5mm針電極(BTX)を使用して、20ミリ秒の固定持続時間および200ミリ秒の間隔で、6パルスで100~150ボルトのパルスジェネレーター(ECM830,BTX)により、電気刺激をTAに印加した。
【0063】
免疫染色および抗体。EDL筋線維を2%PFAで10分間固定し、PBSで洗浄した。ウマ血清ブロッキングバッファー(5%ウマ血清、1%BSA(Sigma)および0.5%TritonX-100(Sigma)を含むPBS)で線維を室温で1時間または4℃で一晩ブロッキングおよび透過処理した。一次抗体をブロッキング溶液に室温で2時間または4℃で一晩適用した。続いて、サンプルをPBSで洗浄し、適切な蛍光標識二次抗体(Alexa fluor 488、546または647)で室温で1時間染色した。PBSで洗浄した後、サンプルをPermafluor(Fisher)でマウントした。
【0064】
筋肉サンプルをOCT包埋化合物に包埋し、液体窒素冷却イソペンタンで凍結し、12μmスライスに凍結切片化した。薄片をPBSで1回洗浄し、2%PFAで10分間固定し、0.1%TritonX-100/0.15Mグリシン/PBSで10分間透過処理し、PBSで十分に洗浄した。M.O.Mブロッキング試薬(Vector)を使用して、サンプルを2時間ブロッキングし、続いて、5%NGS/2%BSAで4℃で一晩さらにブロッキングした。一次抗体を4℃で一晩のブロッキングに適用した。サンプルをPBSで十分に洗浄し、二次抗体(Alexa Flour 546、647)をPBSに室温で1時間適用した。PBS洗浄後、薄片をDAPI(4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)で10分間対比染色し、Permaflour(Fisher)でマウントした。
【0065】
抗体は以下のとおりであった:マウス抗Pax7(DSHB)、ニワトリ抗GFP(cat# ab13970,Abcam)、ウサギ抗EGFR(cat# 4267S,Cell Signaling technology)、ウサギ抗ホスホ-EGFR Y1068(cat# 3777S,Cell Signaling technology)、ウサギ抗ホスホ-Aurk(cat# 2914S,Cell Signaling technology)およびウサギ抗ミオゲニン(M225,cat# sc-576,Santa Cruz)。
【0066】
筋肉切片の組織学的分析。線維型分析のために、非固定サンプルをPBSで洗浄し、10%正常ヤギ血清(NGS)で室温1時間ブロッキングした。一次抗体を10%NGSに室温で2時間適用した。切片をPBSで十分に洗浄し、二次抗体をPBSに室温1時間適用した。PBS洗浄後、切片をDAPIで10分間対比染色し、Permaflourでマウントした。抗体は以下のとおりであった:マウス抗MyH3(クローンF1.652,DSHB)、マウス抗MyH4(クローンBF-F3,DSHB)。
【0067】
「再生指数=log10(新形成Myh3筋線維の数/壊死IgG筋線維の数)」として、mdx筋肉の再生指数を計算した。対数変換を使用して、指数のスケールを線形化した。上記指数の幾何平均に対して、統計的検定を実施した。
【0068】
筋線維フェレット直径の分析のために、非固定サンプルをPBSで洗浄し、コムギ胚芽凝集素Alexa 647コンジュゲート(Fisher)で室温1時間染色した。サンプルをPBSで1回洗浄し、DAPIで対比染色した。サンプルをPBSで洗浄し、Permaflourでマウントした。染色直後に、画像を撮影した。Smith,L.R.,and Barton,E.R.(2014)SMASH-semi-automatic muscle analysis using segmentation of histology:a MATLAB application.Skelet.Muscle 4,21(これは、参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているように、MATLAB 2015aのSMASHソフトウェアを使用して、最小線維フェレット測定を実施した。有意な染色アーチファクトを有するサンプルを自動分析から除外した。
【0069】
統計分析。平均±平均の標準誤差(SEM)としてコンパイルデータを表した。最低3回の生物学的反復で、実験を実施した。2つの条件の統計的比較のために、スチューデントt検定を使用した。生物学的にマッチしたサンプルについては、対応のある検定を使用した。非関連サンプルを比較するために、対応のない検定を使用した。有意水準は以下のように示されている:p<0.05、**p<0.01、***p<0.005。
【0070】
EGFR経路アクチベーターの同定。Myf5-Cre/Rosa-YFPマウスから短趾屈筋(FDB)線維を単離し、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地;110mg/mlピルビン酸ナトリウムを含む高グルコース、L-グルタミン)中、0.25%コラゲナーゼタイプI(Sigma)で2.5~3時間消化した。ガラスピペットによる穏やかなトリチュレーションを使用して、筋線維を解離した。
【0071】
筋線維培養培地(20%FBS(Wisent)、1%ニワトリ胚抽出物(MP Biomediacals)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Cederlane)および2.5ng/ml塩基性線維芽細胞成長因子(Cedarlane)を補充したDMEM)中で、筋線維を37℃、5%COで42時間培養する。
【0072】
最初に、2%パラホルムアルデヒド(PFA)で筋線維を5分間固定する。1%ウシ血清アルブミン、0.5%TritonX-100、5%HSおよび0.01%アジ化ナトリウムで筋線維を1~2時間ブロッキングする。一次抗体をブロッキング溶液に室温で2時間または4℃で一晩適用する。筋線維をPBSで洗浄し、適切な蛍光標識二次抗体(Alexa Fluor 488、546)で室温1時間染色する。PBSで洗浄した後、線維核をDAPIで5分間染色する。以下の抗体を使用する:マウス抗Pax7(Developmental Studies Hybridoma Bank(DSHB))、ニワトリ抗GFP(cat.no.ab13970,Abcam)。
【0073】
チャネル3(DAPI)染色に基づいて、サテライト細胞をフォーカスする。85.3μmの拡大被写界深度に対して13μm間隔で撮影した7つのzスタックをサンプリングすることにより、オートフォーカスを実施する。
【0074】
Zスタック画像を統合して、フォーカスしたすべてのサテライト細胞の投影画像を作成した。200(対物20倍)倍率で45.5μmの拡大被写界深度に対して6.5μm間隔で撮影した7つのZスタック画像から、分析のための投影画像の画像収集を行った。投影方向は中心に置かれ、中央のスタックは各筋線維の中心内にある。隣接するソース間のピクセル輝度の差を使用する最大最小差投影法(maximum-minimum difference projection method)を使用して、バックグラウンドを減少させた。さらなるバックグラウンド減算を各チャネルに適用した:ローパスフィルタをチャネル1(Pax7)およびチャネル3(DAPI)に適用し、3D表面フィッティングをチャネル2(YFP)に適用した。
【0075】
最初に、チャネル1(Pax7)シグナルに基づいて潜在的なサテライト細胞を同定し、細胞間の蛍光強度に基づいて他のサテライト細胞から分離した。過度に暗いためにサテライト細胞とみなされない細胞について、残屑の偽陽性選択を防止するために、閾値を適用した。次いで、面積、形状、総強度、平均強度および強度の変動に基づいて、サテライト細胞を検証した。最後に、チャネル3(DAPI)によりサテライト細胞を検証し、シグナルの総強度および平均強度に基づいて真の核を同定した。
【0076】
ウェル番号、フィールド番号、セル番号、セル座標(ピクセル数およびX、Y座標)、平均チャネル1強度(Pax7)、平均チャネル2強度(YFP)および平均チャネル3強度(DAPI)に関するデータを取得し、サテライト細胞対および各サテライト細胞のコミットメント状態を同定するために使用した。
【0077】
非対称サテライト細胞分裂の公知のアクチベーターとしてEGFリガンドを使用し、非対称サテライト細胞分裂の公知のアクチベーターとしてPTP1bインヒビターを使用し、対称サテライト細胞分裂の公知のアクチベーターとしてWnt7aリガンドを使用して、この方法を検証した。非対称分裂であったYFP(-)分裂のパーセンテージは、EGFリガンド処置細胞では71%であり、PTP1b処置細胞では67%であったのと対比して、対照処置細胞では55%であった。対称分裂であったYFP(-)分裂のパーセンテージは、Wnt7aリガンド処置細胞では78%であったのと対比して、対照処置細胞では62%であった。対称分裂であったYFP(-)分裂のパーセンテージは、EGFリガンド処置細胞では29%であり、PTP1b処置細胞では33%であったのと対比して、対照処置細胞では45%であった。
【0078】
前述の説明では、Uniprotエントリー番号を使用して、一般的に使用されている名称により特定されるタンパク質をさらに定義した。特定Uniprotエントリーに列挙されているアミノ酸配列および天然変異体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0079】
前述の説明では、説明目的で、多数の詳細が、実施例の完全な理解を提供するために記載されている。しかしながら、これらの具体的な詳細が必要とされないことは当業者には明らかであろう。したがって、記載されているものは、記載されている実施例の適用を単に示すものであり、上記教示を考慮して多数の改変および変形が可能である。
【0080】
上記説明は実施例を提供するので、当業者は、特定の例に対して改変および変更を行い得ると認識されよう。したがって、特許請求の範囲は、本明細書に記載される特定の実施例により限定されるべきではなく、全体として本明細書に沿った方法で解釈されるべきである。
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