(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-11
(45)【発行日】2023-01-19
(54)【発明の名称】α-1,3-グルカンの酵素的製造
(51)【国際特許分類】
C12P 19/18 20060101AFI20230112BHJP
C12N 9/10 20060101ALN20230112BHJP
C12N 15/54 20060101ALN20230112BHJP
【FI】
C12P19/18
C12N9/10 ZNA
C12N15/54
(21)【出願番号】P 2019564829
(86)(22)【出願日】2018-05-22
(86)【国際出願番号】 US2018033854
(87)【国際公開番号】W WO2018217722
(87)【国際公開日】2018-11-29
【審査請求日】2021-05-11
(32)【優先日】2017-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520346620
【氏名又は名称】ニュートリション・アンド・バイオサイエンシーズ・ユーエスエー・フォー,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ケヴィン・ディー・ナギー
(72)【発明者】
【氏名】スーザン・マリー・ヘネシー
(72)【発明者】
【氏名】エフィム・ブラン
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル・ライヒマン
【審査官】進士 千尋
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0244287(US,A1)
【文献】特表2015-529096(JP,A)
【文献】J General Microbiology, 1983, Vol.129, pp.751-754
【文献】Microbiology, 1995, Vol.141, pp.1451-1460
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 19/18
C12N 15/54
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)
少なくとも50%のα-1,3グリコシド結合及び少なくとも100の重量平均重合度(DPw)を有する不溶性α-1,3-グルカンを生成するグルコシルトランスフェラーゼ反応から生成されたオリゴ糖を提供する工程;
並びに
(b)少なくとも水、スクロース、前記オリゴ糖、及び
少なくとも50%のα-1,3グリコシド結合及び少なくとも100のDPwを有する不溶性α-1,3-グルカンを
生成するグルコシルトランスフェラーゼ酵素を接触させ
、それによって前記不溶性α-1,3-グルカンを生成する工
程、
を含む不溶性α-1,3-グルカンの製造方法
であって、
ここで、
工程(a)及び(b)は1回以上繰り返され、
繰り返される各工程(a)におけるオリゴ糖は、前の工程(b)から生じる生成物から提供されるオリゴ糖を含み、
前記オリゴ糖は、約60~99%のα-1,3グリコシド結合及び約1~40%のα-1,6グリコシド結合を集合的に含み、
工程(a)のグルコシルトランスフェラーゼ反応のグルコシルトランスフェラーゼは、配列番号2、4、6、7、8、又は9と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含み、
工程(b)のグルコシルトランスフェラーゼは、配列番号2、4、6、7、8、又は9と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、
前記不溶性α-1,3-グルカンの製造方法。
【請求項2】
前記オリゴ糖は、精製されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記オリゴ糖は、精製されていない、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記オリゴ糖は、約60~95%のα-1,3グリコシド結合及び約5~40%のα-1,6グリコシド結合を集合的に含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記オリゴ糖は、前記
工程(a
)のグルコシルトランスフェラーゼ反応の可溶性画分として提供され
る、請求項
1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記可溶性画分は、前記
工程(a
)のグルコシルトランスフェラーゼ反応の濾液の一部又は全部である、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記オリゴ糖は、工程(b)において、少なくとも約1g/Lの初期濃度で提供される、請求項
1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
生成される前記不溶性α-1,3-グルカンの収率は、工程(b)が前記オリゴ糖を欠いた場合に生成されるであろう不溶性α-1,3-グルカンの収率と比較して増大する、請求項
1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
生成される前記不溶性α-1,3-グルカンの粘度は、工程(b)が前記オリゴ糖を欠いた場合に生成されるであろう不溶性α-1,3-グルカンの粘度と比較して低下し、粘度は、液体中に混合又は溶解されたα-1,3-グルカンで測定される、請求項
1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程(a)のグルコシルトランスフェラーゼ反応により、少なくとも80%のα-1,3グリコシド結合を有する不溶性α-1,3-グルカンが生成され、工程(b)のグルコシルトランスフェラーゼにより、少なくとも80%のα-1,3グリコシド結合を有する不溶性α-1,3-グルカンが生成される、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
工程(a)のグルコシルトランスフェラーゼ反応により、少なくとも90%のα-1,3グリコシド結合を有する不溶性α-1,3-グルカンが生成され、工程(b)のグルコシルトランスフェラーゼにより、少なくとも90%のα-1,3グリコシド結合を有する不溶性α-1,3-グルカンが生成される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
工程(b)で生成された不溶性α-1,3-グルカンを単離する工程をさらに含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
繰り返される各工程(a)における前記オリゴ糖は、各直前の工程(b)から生じる生成物から提供される
オリゴ糖を含む、請求項
1~12のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、米国仮特許出願第62/509,915号(2017年5月23日出願)及び同第62/519,217号(2017年6月14日出願)の利益を主張するものであり、これらはいずれも参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、酵素プロセスの分野にある。例えば、本開示は、オリゴ糖の添加を含むグルコシルトランスフェラーゼ反応に関する。
【0003】
電子的に提出された配列表の参照
配列表の認証謄本が、2018年5月18日作成の20180522_CL6007WOPCT_SequenceListingというファイル名の、約157キロバイトのサイズを有するASCIIフォーマットの配列表としてEFS-Webを介して電子的に提出され、本明細書と同時に出願される。このASCIIフォーマット文献に含まれる配列表は、本明細書の一部であり、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
多糖類を様々な用途に使用することが望まれているため、研究者らは生分解性であり、再生可能に供給される原料から経済的に製造することができる多糖類を探求してきた。このような多糖類の1つが、α-1,3-グルカン、すなわち、α-1,3-グリコシド結合を有することを特徴とする不溶性グルカンポリマーである。このポリマーは、例えば、ストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)から単離されたグルコシルトランスフェラーゼ酵素を使用して調製されている(非特許文献1)。また、例えば、特許文献1は、酵素により製造されたポリα-1,3-グルカンから紡糸繊維を調製することを開示している。
【0005】
多糖類(例えば、デキストラン)又はオリゴ糖類(例えば、加水分解された多糖類から)がグルコシルトランスフェラーゼ機能に影響を及ぼすために添加された反応において、種々のグルカンポリマーの酵素合成が行われている(例えば、非特許文献2;非特許文献3;Simpson et al.;特許文献2)。これらの開示にもかかわらず、不溶性α-1,3-グルカン合成のためのグルコシルトランスフェラーゼ反応の調節に関しては殆ど理解されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第7000000号明細書
【文献】O’Brien et al.,米国特許第8642757号明細書
【非特許文献】
【0007】
【文献】Simpson et al.,Microbiology 141:1451-1460,1995
【文献】Koga et al.,1983,J.Gen.Microbiol. 129:751-754
【文献】Komatsu et al.,2011,FEBS J.278:531-540
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態では、本開示は、
(a)
(i)α-1,3及びα-1,6グリコシド結合を含む、且つ/又は
(ii)グルコシルトランスフェラーゼ反応から生成された
オリゴ糖を提供する工程;
(b)少なくとも水、スクロース、そのオリゴ糖、及び不溶性α-1,3-グルカンを合成するグルコシルトランスフェラーゼ酵素を接触させる工程であって、
不溶性α-1,3-グルカンが生成される工程;並びに
(c)任意選択で、工程(b)で生成された不溶性α-1,3-グルカンを単離する工程
を含む不溶性α-1,3-グルカンの製造方法に関する。
【0009】
別の実施形態では、不溶性α-1,3-グルカンを生成するための反応組成物に関し、この反応生成物は、少なくとも水、スクロース、不溶性α-1,3-グルカンを合成するグルコシルトランスフェラーゼ酵素、及びオリゴ糖を含み、オリゴ糖は反応組成物の調製中に添加され、(i)α-1,3及びα-1,6グリコシド結合を含み、且つ/又は(ii)グルコシルトランスフェラーゼ反応から生成され、不溶性α-1,3-グルカンが反応組成物において生成される。
【0010】
別の実施形態では、本開示は、不溶性α-1,3-グルカンを製造する本発明の任意の方法に従って製造される、不溶性α-1,3-グルカンを含む組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】濃縮オリゴ糖調製物の
1H-NMRスペクトル(実施例2を参照)
【
図2】グラフは3つの連続する反応で製造された各α-1,3-グルカン生成物の水性スラリー粘度を示し、ここで、第2及び第3の反応は、それぞれ第1及び第2の反応で得られた濾液が加えられている(実施例10を参照)。四角、丸及び菱形は、それぞれ、第1、第2及び第3の反応で生成されたα-1,3-グルカンの水性スラリーで得られた粘度測定値を示す。剪断速度の単位は、1/s(「s-1」として示す)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
【0013】
【0014】
引用する全ての特許文献及び非特許文献の開示は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0015】
別段の開示がなされていなければ、本明細書で使用される用語「1つの(a)」及び「1つの(an)」は、1つ以上(すなわち、少なくとも1つ)の参照されるものを包含するものとする。
【0016】
存在する場合、特に記載しない限り、全ての範囲は、包括的であり、結合可能である。例えば、「1~5」の範囲が記載されている場合、記載範囲は「1~4」、「1~3」、「1~2」、「1~2及び4~5」、「1~3及び5」などの範囲を含むと解釈される。
【0017】
本明細書で使用される、用語「糖」は、別段の記載がない限り、単糖及び/又は二糖/オリゴ糖を指す。本明細書において、「二糖」は、グリコシド結合によって連結されている2つの単糖を有する炭水化物を指す。本明細書において、「オリゴ糖」は、例えばグリコシド結合によって連結されている2~15個の単糖を有する炭水化物を指す。オリゴ糖は、「オリゴマー」と呼ばれる場合もある。二糖/オリゴ糖中に含まれる単糖(例えば、グルコース、フルクトース)は、「モノマー単位」、「単糖単位」、又は他の同様の用語で呼ばれる場合がある。
【0018】
用語「α-グルカン」、「α-グルカンポリマー」などは、本明細書においては互換的に使用される。α-グルカンは、α-グルコシド結合によって連結したグルコースモノマー単位を含むポリマーである。代表的な実施形態では、本発明におけるα-グルカンは、α-グリコシド結合を少なくとも約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%含む。ポリα-1,3-グルカンは、α-グルカンの1つの例である。
【0019】
用語「ポリα-1,3-グルカン」、「ポリα-1,3-グルカン」、「α-1,3-グルカンポリマー」などは、本明細書では互換的に使用される。α-1,3-グルカンは、グリコシド結合(すなわち、グルコシド結合)により連結しているグルコースモノマー単位を含むポリマーであり、通常、このグリコシド結合の少なくとも約50%は、α-1,3-グリコシド結合である。特定の実施形態では、α-1,3-グルカンは、少なくとも約90%又は95%のα-1,3グリコシド結合を含む。本発明のα-1,3-グルカンにおける他の結合の大部分又は全ては通常α-1,6であるが、いくつかの結合はα-1,2及び/又はα-1,4であってもよい。
【0020】
「グリコシド結合(glycosidic linkage)」、「結合(linkage)」、「グリコシド結合(glycosidic bond)」などの用語は、本明細書では、互換的に使用され、炭水化物(糖)分子を他の炭水化物分子に結合する共有結合の型を指す。本明細書に開示される全てのグルコシド結合は、特に記載しない限り、α-グルコシド結合である。「グルコシド結合」は、α-D-グルコースと別の炭水化物分子との間のグリコシド結合を指す。本明細書では、「アルファ-D-グルコース」もまた「グルコース」と呼ぶ。用語「α-1,3グルコシル-グルコース結合」、「α-1,3グルコース-グルコース結合」及び「グルコース-α-1,3-グルコース」は、本明細書では、α-1,3グリコシド結合を指す。用語「α-1,6グルコシル-グルコース結合」、「α-1,6グルコース-グルコース結合」及び「グルコース-α-1,6-グルコース」は、本明細書では、α-1,6グリコシド結合を指す。
【0021】
本発明の多糖(例えば、α-1,3-グルカン、オリゴ糖)のグリコシド結合プロファイルは、当該技術分野で知られている任意の方法を使用して決定され得る。例えば、結合プロファイルは、核磁気共鳴(NMR)分光法(例えば、13C NMR又は1H NMR)を使用する方法を用いて決定することができる。使用し得るこれらの方法及び他の方法は、例えば、Food Carbohydrates:Chemistry,Physical Properties,and Applications(S.W.Cui,Ed,Chapter 3,S.W.Cui,Structural Analysis of Polysaccharides,Taylor & Francis Group LLC,Boca Raton,FL,2005)に開示されており、これらは参照により本明細書に組み込まれる。
【0022】
本発明の大きなα-グルカンポリマーの「分子量」は、重量平均分子量(Mw)又は数平均分子量(Mn)として表すことができ、その単位はダルトン又はグラム/モルである。或いは、大きなα-グルカンポリマーの分子量は、DPw(重量平均重合度)又はDPn(数平均重合度)として表すことができる。オリゴ糖などのより小さいα-グルカンポリマーの分子量は、通常、α-グルカン内に含まれるグルコースの数を単に指す、「DP」(重合度)として提供することができる。高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、又はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるなどの、これらの分子量の測定値を算出するための様々な手法が当該技術分野で知られている。
【0023】
用語「グルコシルトランスフェラーゼ」、「グルコシルトランスフェラーゼ酵素」、「GTF」、「グルカンスクラーゼ」などは、本明細書では互換的に使用される。本明細書でのグルコシルトランスフェラーゼの活性は、生成物α-グルカン及びフルクトースを製造するための基質スクロースの反応を触媒する。グルコシルトランスフェラーゼ反応の他の生成物(副生物)には、グルコース、様々な可溶性グルコーオリゴ糖及びロイクロースが含まれ得る。グルコシルトランスフェラーゼ酵素の野生型形態は、一般に、(N末端からC末端の方向に)、シグナルペプチド(通常、切断プロセスにより除かれる)、可変ドメイン、触媒ドメイン、及びグルカン結合ドメインを含有する。本発明のグルコシルトランスフェラーゼは、CAZy(Carbohydrate-Active EnZymes)データベース(Cantarel et al.,Nucleic Acids Res.37:D233-238,2009)によると、グリコシドヒドロラーゼファミリー70(GH70)の下に分類される。
【0024】
本明細書中の用語「グルコシルトランスフェラーゼ触媒ドメイン」は、グルコシルトランスフェラーゼ酵素にα-グルカン合成活性を提供するグルコシルトランスフェラーゼ酵素のドメインを指す。グルコシルトランスフェラーゼ触媒ドメインは、好ましくは、この活性を有する任意の他のドメインの存在を必要としない。
【0025】
「酵素反応」、「グルコシルトランスフェラーゼ反応」、「グルカン合成反応」、「反応組成物」などの用語は、本明細書では互換的に使用され、通常、水と、スクロースと、少なくとも1種の活性グルコシルトランスフェラーゼ酵素とを最初に含み、任意選択的に他の成分も最初に含む反応を指す。グルコシルトランスフェラーゼ反応が通常開始した後に、グルコシルトランスフェラーゼ反応にさらに存在し得る成分には、フルクトース、グルコース、ロイクロース、可溶性グルコオリゴ糖(例えば、DP2~DP7)(これらは、使用されるグルコシルトランスフェラーゼに応じて生成物又は副生物と考えられ得る)、及び/又はDP8以上(例えば、DP100以上)の不溶性α-グルカン生成物が挙げられる。少なくとも8又は9の重合度(DP)を有するα-1,3-グルカンなどの特定のグルカン生成物は水に不溶(「不溶性α-1,3-グルカン」)であり、したがって、グルカン合成反応では溶解されず、むしろ溶液外に(例えば、反応から沈殿したことによって)存在し得ると理解されよう。それは、水、スクロース、及びグルコシルトランスフェラーゼ酵素を接触させる工程が実施されるグルコシルトランスフェラーゼ反応中である。本明細書で使用される用語「好適な反応条件下」は、グルコシルトランスフェラーゼ酵素活性によってスクロースからα-グルカン生成物への変換を支援する反応条件を指す。
【0026】
本明細書で使用される「対照」反応は、α-1,3及びα-1,6グリコシド結合を含む(集合的に含む)オリゴ糖が反応に直接添加されていないグルコシルトランスフェラーゼ反応を指し得る。対照反応溶液の他の特徴(例えば、スクロース濃度、温度、pH、GTFの型)は全て、それが比較される反応と同一とすることができる。
【0027】
本明細書中の溶液(例えば、可溶性画分、水性組成物)の「パーセント乾燥固形分」(パーセントDS)は、溶液中に溶解している全ての物質(すなわち固体)のwt%を指す。例えば、10wt%のDSを含む100gの溶液は、10gの溶解している物質を含む。
【0028】
特定の実施形態におけるグルコシルトランスフェラーゼ反応によるα-1,3-グルカンの「収率」は、その反応において変換されるスクロース基質の重量のパーセンテージとして表されるα-1,3-グルカン生成物の重量を示す。例えば、反応溶液中の100gのスクロースが生成物に変換され、10gの生成物がポリα-1,3-グルカンである場合、α-1,3-グルカンの収率は10%となる。グルコシルトランスフェラーゼ反応によるα-1,3-グルカンの「収率」は、いくつかの態様では、変換されたスクロースに基づくモル収率を表す。α-グルカン生成物のモル収率は、変換されたスクロースのモルで除したα-グルカン生成物のモルに基づいて算出することができる。変換されたスクロースのモルは、以下のように算出することができる: (初期スクロースの質量-最終スクロースの質量)/スクロースの分子量[342g/mol]。これらの収率計算(重量又はモルに基づく収率)は、α-1,3-グルカンに対する反応の選択性の尺度と見なすことができる。いくつかの態様では、グルコシルトランスフェラーゼ反応におけるα-グルカン生成物の「収率」は、反応のグルコシル成分に基づくことができる。このような収率(グルコシルに基づく収率)は、次式を用いて測定することができる:
α-グルカン収率=((IS/2-(FS/2+LE/2+GL+SO))/(IS/2-FS/2))×100%。
グルコシルトランスフェラーゼ反応のフルクトースバランスを測定して、適用可能であれば、HPLCデータが範囲外でないことを確実にすることができる(90~110%が許容可能であると考えられる)。フルクトースバランスは、次式を用いて測定することができる:
フルクトースバランス=((180/342×(FS+LE)+FR)/(180/342×IS))×100%。
上記の2つの式において、ISは[初期スクロース]、FSは[最終スクロース]、LEは[ロイクロース]、GLは[グルコース]、SOは[可溶性オリゴマー](グルコオリゴ糖)、及びFRは[フルクトース]である(すべての濃度はグラム/Lの単位であり、例えば、HPLCによって測定される)。
【0029】
本明細書で使用される用語「相対反応速度」、別のグルカン合成反応と比較した特定のグルカン合成反応の速度を指す。例えば、反応Aがxの速度を有し、反応Bがyの速度を有する場合、反応Bの反応速度に対する反応Aの相対反応速度は、x/y(xをyで除す)として表すことができる。用語「反応速度(reaction rate)」及び「反応速度(rate of reaction)」は、本明細書中では互換的に使用され、酵素1単位の単位時間当たりの、反応物の濃度/量の変化、又は生成物の濃度/量の変化を指す。GTF酵素はミカエリス-メンテン動力学に従うことが知られているので、これらの速度は通常スクロースの量が酵素のKmを十分に上回る重合の開始時に測定される。この場合、速度は、通常、反応中のスクロースの量が少なくとも約50g/Lスクロースを超えているときに測定される。グルカン合成反応の好ましい反応物及び生成物は、それぞれ、スクロース及びα-1,3-グルカンである。
【0030】
本明細書中のグルコシルトランスフェラーゼ反応の「可溶性画分」又は「可溶性部分」は、グルコシルトランスフェラーゼ反応の溶液部分を指す。可溶性画分はグルコシルトランスフェラーゼ反応からの溶液の一部又は全部であり得、通常、反応において合成された不溶性グルカン生成物から分離されている。可溶性画分は、その代わりに「母液」と呼び得る。可溶性画分の例は、グルコシルトランスフェラーゼ反応の濾液である。可溶性画分はスクロース、フルクトース、グルコース、ロイクロース、可溶性グルコオリゴ糖などの溶解された糖を含有することができるので、画分はまた、グルコシルトランスフェラーゼ反応から得られる「混合糖溶液」とも呼ばれ得る。本発明の可溶性画分は、それを取得後、未処理のままとするか、又は、本明細書中に開示されるような1つ以上の処理工程に供することができる。
【0031】
用語「濾液」、「グルカン反応濾液」などは、本明細書では互換的に使用され、グルコシルトランスフェラーゼ反応において合成された不溶性グルカン生成物から濾過された可溶性画分を指す。
【0032】
「体積パーセント(percent by volume)」、「体積パーセント(volume percent)」、「vol%」、「v/v%」などの用語は、本明細書では互換的に使用される。溶液中の溶質の体積パーセントは、次式を用いて求めることができる: [(溶質の体積)/(溶液の体積)]×100%。
【0033】
「重量パーセント(percent by weight)」、「重量パーセンテージ(weight percentage)(wt%)」、「重量-重量パーセンテージ(weight-weight percentage)(%w/w)」などの用語は、本明細書では互換的に使用される。重量パーセントは、組成物、混合物、又は溶液中に含まれる質量を基準とした物質のパーセンテージを指す。
【0034】
本明細書中の用語「水性条件」及び同様の用語は、例えば、その中では溶媒の少なくとも約60wt%が水である溶液又は混合物を指す。本明細書のグルコシルトランスフェラーゼ反応は、通常、水性条件下で実施される。
【0035】
「不溶性(insoluble)」、「水不溶性(aqueous-insoluble)」、「水不溶性(water-insoluble)」(及び同様の用語)(例えば、不溶性α-1,3-グルカン)であるグルカンは、水又は他の水性条件に溶解しない(又は認め得るほどに溶解しない(ここで、水性条件は、任意選択で、4~9(例えば、6~8)のpH及び/又は約1~85℃(例えば、20~25℃)の温度を有することをさらに特徴とする)。対照的に、「可溶性(soluble)」、「水溶性(aqueous-soluble)」、「水溶性(water-soluble)」などである本発明の特定のオリゴ糖などのグルカンは、これらの条件下でかなり溶解する。
【0036】
本明細書中の「水性組成物」は、例えば、少なくとも約10wt%の水を含む液体成分を有する(例えば、液体成分は、少なくとも約70%、80%、90%、95%の水、又は100%の水であり得る)。水性組成物の例には、例えば、混合物、溶液、分散液(例えば、コロイド分散液)、懸濁液、及びエマルションが含まれる。特定の実施形態における水性組成物は、水性組成物中で(例えば、均質化によって)混合されるか、又は(例えば、少なくとも11.0[例えば、NaOH若しくはKOHなどのアルカリ性溶質を使用して提供される]のpHなどの苛性水性条件下での溶解によって)溶解される、本明細書で生成されるα-1,3-グルカンを含む。本明細書における「非水性組成物」は、「乾燥」し(例えば、2.0、1.5、1.0、0.5、0.25、0.10、0.05、若しくは0.01wt%以下の水を含む)、且つ/又は非水性液体成分(例えば、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)/0.5%~5%LiClなどのα-1,3-グルカンを溶解することができる有機液体)を含み得る。
【0037】
本明細書中の用語「精製された」は、25%(乾燥重量基準)以下の糖、及び/又はオリゴ糖の上記定義に包含されない他の非塩/非緩衝物質を含むオリゴ糖調製物を特徴付けることができる。定義が示すように、精製オリゴ糖調製物は、任意選択的に、塩及び/又は緩衝液を含むことができ、そのいずれのレベルもオリゴ糖純度を決定しない。本明細書中の用語「精製されていない」は、25%(乾燥重量基準)を超える糖、及び/又はオリゴ糖の上記定義に包含されない他の非塩/非緩衝物質を含むオリゴ糖調製物を特徴付けることができる。
【0038】
本明細書で使用される用語「粘度」は、流動を引き起こす傾向を示す力に(水性又は非水性の)流体が抵抗する程度の尺度を指す。本明細書において使用できる粘度の様々な単位には、例えば、センチポアズ(cP、cps)及びパスカル秒(Pa・s)が含まれる。1センチポアズは1/100ポアズであり;1ポアズは、0.100kg・m-1・s-1に等しい。粘度は、いくつかの態様では、「固有粘度」(IV、η、単位mL/g)として報告され得、この用語はグルカンポリマーを含む液体(例えば、溶液)の粘度に対するグルカンポリマーの寄与の尺度を指す。
【0039】
本明細書で使用される「増加した」という用語は、増加した量又は活性が比較される量又は活性より、少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、50%、100%又は200%多い量又は活性を指すことができる。本明細書では、「増加した」、「高められた」、「優れた」、「~より大きい」、「向上した」などの用語は互換的に使用される。これらの用語は、例えば、タンパク質をコードするポリヌクレオチドの「過剰発現」又は「アップレギュレーション」を特徴付けるために使用できる。
【0040】
ポリヌクレオチド又はポリペプチド配列に関して本明細書で使用する「配列同一性」、「同一性」などの用語は、特定の比較ウィンドウにわたって最大一致のためにアラインさせたとき同一である、2つの配列内の核酸残基又はアミノ酸残基に関する。したがって、「配列同一性のパーセンテージ」、「同一性パーセント」などは、比較ウィンドウにわたって2つの最適にアラインされた配列を比較することによって決定される数値を指すが、このとき比較ウィンドウ内のポリヌクレオチド又はポリペプチド配列の部分は、2つの配列の最適アラインメントのための参照配列(付加若しくは欠失を含まない)と比較して付加若しくは欠失(すなわち、ギャップ)を含む可能性がある。パーセンテージは、マッチ位置数を生じさせるために両方の配列内で同一の核酸塩基又はアミノ酸残基が発生する位置の数を決定し、マッチ位置数を比較窓内の位置の総数で割り、配列同一性のパーセンテージを得るためにその結果に100を掛けることによって算出される。DNA配列とRNA配列との間の配列同一性を算出するとき、DNA配列のT残基は、RNA配列のU残基と合致し、したがってRNA配列のU残基と「同一である」と見なし得ることは理解されよう。第1及び第2のポリヌクレオチドの「相補性パーセント」を決定する目的では、これは、(i)例えば、第1のポリヌクレオチドと第2のポリヌクレオチドの相補配列との間の同一性パーセント(逆も同じ)、並びに/又は(ii)標準的なワトソン・クリック塩基対を形成するであろう第1及び第2のポリヌクレオチド間の塩基のパーセンテージを決定することにより得ることができる。
【0041】
同一性パーセントは、任意の知られた方法、例えば、以下に記載の方法(これらに限定されない)によって容易に決定し得る: 1)Computational Molecular Biology(Lesk,A.M.,Ed.) Oxford University: NY(1988);2)Biocomputing: Informatics and Genome Projects(Smith,D.W.,Ed.) Academic: NY(1993);3)Computer Analysis of Sequence Data,Part I(Griffin,A.M.,and Griffin,H.G.,Eds.) Humana: NJ(1994);4)Sequence Analysis in Molecular Biology(von Heinje,G.,Ed.) Academic(1987);及び、5)Sequence Analysis Primer (Gribskov,M.and Devereux,J.,Eds.) Stockton: NY(1991)(これらは全て参照により本明細書に組み込まれる)。
【0042】
同一性パーセントを決定する好ましい方法は、試験する配列同士の最良の一致を付与するように設計される。同一性及び類似性を決定する方法は、例えば、一般に入手可能なコンピュータープログラムにコード化されている。配列アラインメント及び同一性パーセントの算出は、例えば、LASERGENEバイオインフォマティクス計算スイートのMEGALIGNプログラム(DNASTAR Inc.,Madison,WI)を用いて実施することができる。配列の多重アラインメントは、例えば、Clustal Vアラインメント法を含む、様々な種類のアルゴリズムを包含するClustalアラインメント法(Higgins and Sharp, 5:151-153(1989);Higgins,D.G.et al.,Comput. Appl. Biosci.,8:189-191(1992)により記載され、また、LASERGENEバイオインフォマティクス計算スイートのMEGALIGN v8.0 プログラム(DNASTAR Inc.)に見出される)を用いて行うことができる。多重アラインメントの場合、デフォルト値はGAP PENALTY=10及びGAP LENGTH PENALTY=10に対応し得る。Clustal法を使用したタンパク質配列のペアワイズアラインメント及び同一性パーセントの計算のためのデフォルトパラメーターは、KTUPLE=1、GAP PENALTY=3、WINDOW=5及びDIAGONALS SAVED=5であってよい。核酸の場合には、これらのパラメーターは、KTUPLE=2、GAP PENALTY=5、WINDOW=4及びDIAGONALS SAVED=4であってよい。さらに、Clustal Wアラインメント法を使用することができ(Higgins and Sharp,CABIOS. 5:151-153(1989);Higgins,D.G.et al.,Comput. Appl. Biosci. 8:189-191(1992);Thompson,J.D.et al,Nucleic Acids Research,22(22): 4673-4680,1994によって記載されている)、また、LASERGENEバイオインフォマティクス計算スイートのMEGALIGN v8.0 プログラム(DNASTAR Inc.)で見出すことができる。多重アラインメント(タンパク質/核酸)のデフォルトパラメーターは、以下の通りである: GAP PENALTY=10/15、GAP LENGTH PENALTY=0.2/6.66、Delay Divergen Seqs(%)=30/30、DNA Transition Weight=0.5、Protein Weight Matrix=Gonnet Series、DNA Weight Matrix=IUB。
【0043】
本明細書には、様々なポリペプチドアミノ酸配列及びポリヌクレオチド配列が特定の実施形態の特徴として開示されている。本明細書に開示した配列と少なくとも約70~85%、85~90%又は90%~95%同一であるこれらの配列の変異体を、使用又は参照することができる。或いは、変異アミノ酸配列又はポリヌクレオチド配列は、本明細書に開示した配列と少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有し得る。変異アミノ酸配列若しくはポリヌクレオチド配列は、開示した配列と同一の機能/活性、又は開示した配列の少なくとも約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の機能/活性を有する。メチオニンで始まらない、本明細書に開示した任意のポリペプチドアミノ酸配列は、通常、アミノ酸配列のN末端に少なくとも開始メチオニンをさらに含むことができる。対照的に、メチオニンで始まる本明細書に開示した任意のポリペプチドアミノ酸配列は、このようなメチオニン残基を任意選択的に欠失し得る。
【0044】
本明細書に開示した組成物(例えば、特定の実施形態では不溶性α-1,3-グルカン)及びグルコシルトランスフェラーゼ反応/方法は、合成であり、天然には存在しないと考えられる。したがって、本明細書におけるそのような態様は任意選択で、「単離された」ものとして特徴付けることができ、これは、例えば、それらが自然界では起こらない様式で実施することができることを意味する。さらに、前述の主題の特性/効果も、天然には存在しないと考えられる。
【0045】
ここで、不溶性α-1,3-グルカン生成のためにグルコシルトランスフェラーゼ反応に特定のオリゴ糖を適用した場合に、収率及び他の生成物の利点が実現され得ることを開示する。
【0046】
本開示の実施形態は、不溶性α-1,3-グルカンの製造方法に関する。この方法は、
(a)
(i)α-1,3グリコシド結合及びα-1,6グリコシド結合を含む、且つ/又は
(ii)グルコシルトランスフェラーゼ反応から生成された
オリゴ糖を提供する工程;及び
(b)少なくとも水、スクロース、グルコシルトランスフェラーゼ酵素、及び工程(a)で提供されたオリゴ糖を接触させる工程
を含む。この方法で、不溶性α-1,3-グルカンが製造される。特定の実施形態では、不溶性α-1,3-グルカン生成物の収率は、工程(b)が工程(a)で提供されるオリゴ糖なしで行われた場合に製造されたであろう不溶性α-1,3-グルカンの収率と比べて増加する。工程(b)で製造された不溶性α-1,3-グルカンを任意選択により単離することができる。
【0047】
意義深いことに、不溶性α-1,3-グルカンを生成するグルコシルトランスフェラーゼ酵素の活性を調節する、α-1,3及びα-1,6グリコシド結合を含むオリゴ糖が、本明細書において開示される。このようなオリゴ糖は、任意選択により、本明細書中に開示されるようなグルコシルトランスフェラーゼ反応の副生物として得ることができる。したがって、特定の実施形態において開示される方法は、グルコシルトランスフェラーゼ反応のオリゴ糖副生物を再利用する有利な方法である。また、オリゴ糖副生物が、グルコシルトランスフェラーゼ反応から得られる濾液などの未精製状態で提供される場合であっても、グルコシルトランスフェラーゼ活性を調節するのに有用であることも、ここでは重要である。
【0048】
本開示の特定の実施形態におけるオリゴ糖は、α-1,3グリコシド結合及びα-1,6グリコシド結合を含む。例えば、本発明のオリゴ糖は、約60~99%、60~95%、70~90%、又は80~90%のα-1,3グリコシド結合、及び約1~40%、5~40%、10~30%、又は1~10%のα-1,6グリコシド結合を含み得る。さらに、いくつかの態様では、オリゴ糖は、約60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%(又は、これらの任意の2つの値の範囲)のα-1,3グルコシド結合と、約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、若しくは40%(又は、これらの任意の2つの値の範囲)のα-1,6グルコシド結合とを含み得る。このような結合プロファイルは、本発明の任意の分子量(例えば、DP2~7、DP2~8、DP2~9、又はDP2~10)のオリゴ糖を特徴付けることができる。前述の結合プロファイルは、任意選択により、グルコオリゴ糖を特徴付けることができる。
【0049】
本発明のオリゴ糖は、例えば、前述の連結プロファイルのいずれかを「集合的に含む」ことができる。「集合的に含む」とは、種々のオリゴ糖の混合物の結合プロファイルが混合物中に存在する全ての結合の組み合わせに基づくことを意味する。したがって、本明細書で有用なオリゴ糖は、α-1,3グリコシド結合のみ、α-1,6グリコシド結合のみ、並びに/又はα-1,3及びα-1,6グリコシド結合の両方を含有する(存在する全てのオリゴ糖種の全結合プロファイルが前述の結合プロファイル(例えば、約78%のα-1,3結合及び約22%のα-1,6結合、又は約87~88%のα-1,3結合及び約7%のα-1,6結合)のいずれかに該当する限り)特定のオリゴ糖種を含むことができる。オリゴ糖は、特定の態様では、100%のα-1,3グリコシド結合又は100%のα-1,6グリコシド結合を含まない/集合的に含まない。
【0050】
本発明のグルコオリゴ糖は、α-1,3及びα-1,6グリコシド結合を大部分含むことが好ましい。例えば、オリゴ糖の全結合の少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、又は100%がα-1,3及びα-1,6グルコシド結合である。他の結合がオリゴ糖中に存在する場合、例えば、α-1,4(例えば、≦1.5%若しくは1%)又はα-1,2(例えば、≦1%若しくは0.7%)グリコシド結合であり得る。
【0051】
本発明のオリゴ糖は、いくつかの態様では、2~15の重合度(DP)を有し得る。例として、オリゴ糖は、2~6、2~7、2~8、2~9、2~10、2~11、2~12、2~13、2~14、又は2~15のDPを有し得る。当該技術分野で理解されるように、本発明のオリゴ糖の群は、DPの数又は範囲に関して言及され得、これは群中の個々のオリゴ糖種におけるモノマー単位の数又は範囲を特定する。例えば、DP2~7オリゴ糖は、通常、DP2、DP3、DP4、DP5、DP6及びDP7オリゴ糖の混合物を含む。前述のオリゴ糖は、任意選択により、グルコオリゴ糖と呼ぶことができる。
【0052】
本発明のオリゴ糖を提供するために使用される組成物中のオリゴ糖の分布は変化し得る。例えば、DP2~7のオリゴ糖を含む組成物は、以下の表5に開示されるものと同じ又は類似の分布プロファイルを有するオリゴ糖を含むことができる。したがって、DP2~7オリゴ糖を含む組成物は、組成物中の糖成分に基づいて、又は乾燥重量基準で、例えば、約5~15wt%(例えば、約9~11wt%)のDP2オリゴ糖、約19~29wt%(例えば、約23~25wt%)のDP3オリゴ糖、約27~37wt%(例えば、約31~33wt%)のDP4オリゴ糖、約15~25wt%(例えば、約19~21wt%)のDP5オリゴ糖、約3~13wt%(例えば、約7~9wt%)DP6オリゴ糖、及び約1~10wt%(例えば、約4~6wt%)のDP7オリゴ糖を含み得る。いくつかの態様では、DP2~7のオリゴ糖を含む組成物は、以下の表16に開示されるものと同じ又は類似の分布プロファイルを有するオリゴ糖を含むことができる。したがって、DP2~7オリゴ糖を含む組成物は、組成物中の糖成分に基づいて、又は乾燥重量基準で、例えば、約6~16wt%(例えば、約10~12wt%)のDP2オリゴ糖、約18~28wt%(例えば、約22~24wt%)のDP3オリゴ糖、約23~33wt%(例えば、約27~29wt%)のDP4オリゴ糖、約16~26wt%(例えば、約20~22wt%)のDP5オリゴ糖、約7~17wt%(例えば、約11~13wt%)DP6オリゴ糖、及び約1~10wt%(例えば、約4~6wt%)のDP7オリゴ糖を含み得る。正確なDP分布は本開示にとって重要ではないと考えられ、他の分布も本明細書に記載されるものと同じ挙動を提供するであろう。
【0053】
本開示の特定の実施形態では、オリゴ糖は精製されていても精製されていなくてもよい。精製オリゴ糖は、以下の実施例で開示するようなクロマトグラフィーによるなど、当該技術分野で知られている任意の好適な手段を使用して、又は欧州特許 第2292803B1号明細書(参照により本明細書に組み込まれる)の開示に従うことによって提供することができる。精製オリゴ糖は、例えば、乾燥形態又は水性形態(水溶液)で提供することができ、これらのいずれかはまた、任意選択により、1種以上の塩(例えば、NaCl)及び/又は緩衝液を含有し得る。特定の実施形態における精製オリゴ糖調製物は、約25、20、15、10、5、2.5、2、1.5、1.0、0.5、又は0.1wt%未満の(i)本明細書中に開示するようなオリゴ糖の定義によって包含されない糖(例えば、本発明のオリゴ糖は、単糖でもDP11+糖でもない)及び/又は(ii)他の非塩/非緩衝物質を含み得る。
【0054】
本開示の特定の実施形態では、精製されていないオリゴ糖を使用することができる。未精製のオリゴ糖調製物は、本明細書中に開示されるようなオリゴ糖の定義によって包含されない糖、及び/又は他の非塩/非緩衝物質を、例えば、約2、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、又は95wt%を超、含み得る。本発明の未精製オリゴ糖調製物の例は、グルコシルトランスフェラーゼ反応からの可溶性画分(例えば、濾液)である。本発明の可溶性画分中に存在し得る他の「非塩/非緩衝物質」には、例えば、スクロース、フルクトース、グルコース、ロイクロース、及びグルコシルトランスフェラーゼタンパク質が含まれる。
【0055】
本開示方法の工程(a)において提供されるオリゴ糖は、グルコシルトランスフェラーゼ反応から生成し得る(「から誘導し得る」、から誘導可能又は入手可能である)。オリゴ糖は、例えば、グルコシルトランスフェラーゼ反応の副生物であり得る。このような副生物は、特定の実施形態において、不溶性α-1,3-グルカンを合成するグルコシルトランスフェラーゼ反応からのものであり得る。
【0056】
本発明のオリゴ糖を製造することができるグルコシルトランスフェラーゼ反応は一般に、少なくともスクロース、水、及び1種の活性グルコシルトランスフェラーゼ酵素、並びに任意選択の他の成分を含む水性組成物を指す。グルコシルトランスフェラーゼ反応にあり得る他の成分には、少なくともフルクトース、グルコース、ロイクロース、及びグルコオリゴ糖が含まれる。例えば、少なくとも8若しくは9のDPを有するα-1,3-グルカンなどの特定のグルカン生成物は水不溶性である可能性があり、したがってグルコシルトランスフェラーゼ反応においては溶解されず、むしろ溶液外に存在する可能性があることは理解されるであろう。したがって、本発明のオリゴ糖は不溶性グルカン生成物(例えば、α-1,3-グルカン)を生成するグルコシルトランスフェラーゼ反応から誘導し得る。
【0057】
オリゴ糖を誘導することができるグルコシルトランスフェラーゼ反応は、以下のタイプのグルコシルトランスフェラーゼ酵素の1種以上を含み得る: 少なくとも50%のα-1,3-グリコシド結合を有するα-1,3-グルカンを生成するGTF(例えば、本開示の方法それ自体にGTFとしても使用し得る、本明細書中に開示されるGTF)、ムタンスクラーゼ、デキストランスクラーゼ、ロイテランスクラーゼ、アルテルナンスクラーゼ。特定の実施形態では、オリゴ糖は、不溶性α-1,3-グルカンを生成する1種又は2種のグルコシルトランスフェラーゼのみを含む反応からのものである。
【0058】
本発明のオリゴ糖は、通常、副生物オリゴ糖が反応において形成された段階でのグルコシルトランスフェラーゼ反応から誘導される。オリゴ糖は、重合反応を通して形成される。例えば、オリゴ糖は、一部のみ完了している、ほぼ完了している(例えば、80~90%完了している)、又は完了時(例えば、>95%完了している)グルコシルトランスフェラーゼ反応からのものであり得る(ここで、完了は、消費されたスクロースの量を、重合に供給されたスクロースの総量で割ったものと定義される)。
【0059】
本開示の特定の実施形態におけるオリゴ糖は、グルコシルトランスフェラーゼ反応の可溶性画分として提供することができる。本明細書における可溶性画分は、処理されていても処理されていなくてもよい。可溶性画分は、グルコシルトランスフェラーゼ反応からの溶液の一部又は全部であり得る。通常、可溶性画分は反応で合成された固体グルカン生成物(これは、水に不溶のグルカン生成物、例えば、それらの合成の間に溶液から沈澱するα-1,3-グルカンに適用される)から分離されている。本開示の特定の実施形態における可溶性画分は、α-1,3-グルカンを生成するグルコシルトランスフェラーゼ反応からのものである。しかし、可溶性画分は、任意選択により、不溶性グルカン生成物(例えば、デキストラン)を生成しないグルコシルトランスフェラーゼ反応からのものであってもよい。
【0060】
特定の実施形態において回収される可溶性画分の体積(任意選択により、可溶性画分を処理する前の、以下を参照)は、それが得られるグルコシルトランスフェラーゼ反応の体積の少なくとも約5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、又は90%であり得る。通常、不溶性グルカン(例えば、α-1,3-グルカン)を生成するグルコシルトランスフェラーゼ反応においては、可溶性画分は反応の溶液成分の一部(全てではない)である。可溶性画分は、反応において副生物オリゴ糖が形成された、グルコシルトランスフェラーゼ反応の段階で得ることができる。例えば、可溶性画分は、一部のみ完了している、ほぼ完了している(例えば、80~90%完了している)、又は完了時(例えば、>95%完了している)グルコシルトランスフェラーゼ反応からのものであり得る。
【0061】
特定の実施形態におけるグルコシルトランスフェラーゼ反応の可溶性画分の例には、濾液及び上清が含まれる。したがって、本発明の可溶性画分は、漏斗、フィルター(例えば、回転真空ドラムフィルター、クロスフローフィルター、スクリーンフィルター、ベルトフィルター、スクリュープレス、又は膜の圧搾機能あり若しくはなしのフィルタープレスなどの表面フィルター;或いはサンドフィルターなどのデプスフィルター)、遠心分離、及び/又は固体から一部又は全ての液体を除去できる当該技術分野で知られている任意の他の方法若しくは装置を使用して、グルコシルトランスフェラーゼ反応から得る(分離する)ことができる。濾過は、例えば、重力、真空、又は加圧濾過によるものであってよい。濾過により全て又はほとんどの不溶性グルカンの全て又は大部分が除去されることが好ましく、液体から固体を除去するのに十分な平均孔径(例えば、約10~50ミクロン)を有する任意のフィルター材料(例えば、布、金属スクリーン、又は濾紙)を使用することができる。可溶性画分は、通常、グルコシルトランスフェラーゼ反応の特定の副生物などの、その溶解成分の全て又は大部分を保持する。本発明の濾液又は上清は、特定の実施形態における不溶性α-1,3-グルカンを合成するグルコシルトランスフェラーゼ反応からのものであり得る。
【0062】
本発明の可溶性画分は、処理されていても処理されていなくてもよい。本発明における処理の例には、希釈、濃縮、加水分解処理、pHの変更、塩の変更、及び/又は緩衝液の変更が含まれる。処理にはまた、可溶性画分が得られるグルコシルトランスフェラーゼ反応において使用されるグルコシルトランスフェラーゼ酵素を不活性化(例えば、熱不活性化)が含まれ得る。可溶性画分の濃縮は、溶液の濃縮に好適な当該技術分野で知られた任意の方法又は装置を使用して行うことができる。例えば、可溶性画分はロータリーエバポレーター(例えば、約40~50℃の温度)などによる蒸発によって濃縮することができる。蒸発装置の他の好適な種類には、強制循環式エバポレーター又は薄膜流下式エバポレーターが含まれる。本発明の可溶性画分は、元の可溶性画分体積の、例えば、約75%、80%、85%、90%、又は95%未満の体積まで濃縮することができる。濃縮された可溶性画分(例えば、濃縮された濾液)は、任意選択により、シロップと呼び得る。
【0063】
本発明の可溶性画分は、任意選択により、加水分解処理により処理してもよい。加水分解処理は、例えば、可溶性画分を1種以上の加水分解酵素で処理する酵素処理であり得る。加水分解酵素は、例えば、グルコシルトランスフェラーゼ反応の1種以上の副生物(例えば、ロイクロース)を加水分解する酵素であり得る。本発明において有用な加水分解酵素の例には、トランスグルコシダーゼ(EC 2.4.1.24)(「EC」は酵素番号を指す)及びグルコアミラーゼ(EC 3.2.1.3)などのα-グルコシダーゼが含まれる。グルコシルトランスフェラーゼ反応の可溶性画分をこれらの酵素のいずれかで処理する方法は、米国特許出願 公開第2015/0240278号明細書及び同第2015/0240279号明細書に開示されており、これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる。
【0064】
本発明の可溶性画分は、所望するなら、処理されていなくてもよい。未処理の可溶性画分は、画分(又は画分の一部)がグルコシルトランスフェラーゼ反応から単離され、可溶性画分を単離した後、いかなる種類の変更/処理もせずに本開示の方法で使用される。未処理の可溶性画分の例には、ニート濾液及びニート上清が含まれる。
【0065】
本開示の特定の好ましい実施形態における可溶性画分は、α-1,3-グルカンを生成するグルコシルトランスフェラーゼ反応からのものであり、そのような可溶性画分は、任意選択により、濾液である。本発明におけるα-1,3-グルカン合成反応の可溶性画分は、少なくとも水、フルクトース、及び1種以上の型の糖(ロイクロース及び/又はDP2~DP7などのグルコオリゴ糖)を含む。このようなタイプの可溶性画分に存在し得る他の成分には、例えば、スクロース(すなわち、グルコシルトランスフェラーゼ反応において消費されなかった残留スクロース)、1種以上のグルコシルトランスフェラーゼ酵素、グルコース、緩衝液、塩、FermaSure(登録商標)、ホウ酸塩、水酸化ナトリウム、塩酸、細胞溶解物成分、タンパク質及び/又は核酸が含まれる。本発明におけるα-1,3-グルカン合成反応の可溶性画分の成分には、最小限、例えば、水、フルクトース、及び1種以上の型の糖(ロイクロース及び/又はDP2~DP7などのグルコオリゴ糖)を含む。
【0066】
グルコシルトランスフェラーゼ反応の可溶性画分中の糖及び他の物質の正確な組成が、本発明の方法におけるオリゴ糖の供給源としての使用に重要であると考えられないことは理解されよう。初期の反応溶液の総重量で糖の初期の質量を割ることによって算出できる、糖の水に対する比率(すなわち、乾燥固形分のwt%)を、水を蒸発させる(好ましくは真空下50℃未満の温度で)か、又は水を添加することによって、グルコシルトランスフェラーゼ反応の可溶性画分中の糖の相対分布に大きな影響を与えずに調節することができることもまた理解されよう。グルコシルトランスフェラーゼ酵素の活性範囲より下にpHを下げることにより、又はグルコシルトランスフェラーゼ酵素を熱失活させることにより、完全な(グルカンへの)変換が得られる前にグルコシルトランスフェラーゼ反応を停止させることにより、可溶性画分中のスクロースの割合を増加させることもできる。
【0067】
本発明の方法の工程(b)は、グルコシルトランスフェラーゼ反応を具体化する。オリゴ糖を提供する工程(a)は、工程(b)の前に行われる。したがって、工程(a)のオリゴ糖は、工程(b)の間のそれらの可能なインサイチュー合成によって提供されない。換言すれば、副生物としてオリゴ糖が生成されるグルコシルトランスフェラーゼ反応を単独で実施することそれ自体は工程(a)及び(b)の実施を構成せず、工程(a)を実施するためにはオリゴ糖を工程(b)のグルコシルトランスフェラーゼ反応に物理的に(手動及び/又は機械的に)添加しなければならない。とは言え、工程(b)によって具体化されるグルコシルトランスフェラーゼ反応によって生成されるオリゴ糖をその反応から(上記のように、精製し又は精製せず、処理し又は処理せず、例えば、濾液として)取り除き、工程(a)のオリゴ糖として提供することができる。このような実施形態では、工程(a)及び(b)を、工程(a)の各繰り返しにおけるオリゴ糖がその直後に行われる各工程(b)から得られた生成物から提供されるように、1回以上繰り返すことができる。工程(a)及び(b)は、例えば、1回、2回、3回、4回、5回、6回、又はそれ以上繰り返すことができる。この繰り返しのために、これらの実施形態による方法は、任意選択で、連続反応プロセス及び/又はオリゴ糖リサイクルプロセスと呼ぶことができる。上記の観点から、本発明のいくつかの方法における工程(a)(ii)のグルコシルトランスフェラーゼ反応が、工程(b)の具体化されたグルコシルトランスフェラーゼ反応であり得ることは明らかである。
【0068】
或いは、本発明の方法における工程(a)(ii)のグルコシルトランスフェラーゼ反応は、工程(b)で具体化されるグルコシルトランスフェラーゼ反応とは異なる(区別できる)ものであり得る。例えば、オリゴ糖は第1のα-1,3-グルカン合成反応(例えば、回収された濾液)から得ることができ、その後、そのオリゴ糖は、第1の反応とは異なる第2のα-1,3-グルカン合成反応に添加される。
【0069】
グルコシルトランスフェラーゼ酵素は、本発明の方法の工程(b)において、少なくとも水、スクロース及び添加されたオリゴ糖と接触される。好適なグルコシルトランスフェラーゼ酵素の例は、以下の実施例で示され、且つ/又は米国特許 第7000000号明細書、並びに米国特許出願公開 第2013/0244288号明細書、同第2013/0244287号明細書、同第2014/0087431号明細書、同第2017/0002335号明細書、及び同第2018/0072998号明細書(これらの文献は全て、参照により本明細書に組み込まれる)に開示されている。
【0070】
本開示の特定の実施形態におけるグルコシルトランスフェラーゼ酵素は、例えば、配列番号2、4、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、若しくは16(又は、任意選択で開始メチオニンを含まないこれらの配列のいずれか)と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは99.5%同一であるか、又は100%同一であるアミノ酸を含むか、又はそれからなり、このグルコシルトランスフェラーゼ酵素は活性を有する。これらのグルコシルトランスフェラーゼは全て、α-1,3グリコシド結合を高い割合(≧95%)で有するα-1,3-グルカンを生成する(例えば、米国特許出願公開第2014/0087431号明細書を参照。この文献は参照により本明細書に組み込まれる)。
【0071】
配列番号16(GTF7527-ショート)、14(GTF2678)、9(GTF6855)、13(GTF2919)及び11(GTF2765)は、それぞれの野生型対応物と比較して、シグナルペプチドドメイン及び可変ドメインの全部分又は実質的部分が欠損するグルコシルトランスフェラーゼを表す。したがって、これらのグルコシルトランスフェラーゼ酵素のそれぞれは、後にグルカン結合ドメインが続く触媒ドメインを有する。これらの酵素中の触媒ドメイン配列のおよその位置は次の通りである: 7527-ショート(配列番号16の残基54~957)、2678(配列番号14の残基55~960)、6855(配列番号9の残基55~960)、2919(配列番号13の残基55~960)、2765(配列番号11の残基55~960)。GTF2678、6855、2919及び2765の触媒ドメインのアミノ酸配列は、GTF7527-ショートのおおよその触媒ドメイン配列(すなわち、配列番号16のアミノ酸54~957)とそれぞれ約94.9%、99.0%、95.5%及び96.4%の同一性を有する。これらの5種類のグルコシルトランスフェラーゼ酵素は全て、約100%のα-1,3結合及び少なくとも400のDPwを有するポリα-1,3-グルカンを生成できる(データは示さず、米国特許出願公開第2017/0002335号明細書の表4を参照。この文献は参照により本明細書に組み込まれる)。したがって、特定の実施形態におけるグルコシルトランスフェラーゼ酵素は、GTF7527-ショート、2678、6855、2919又は2765の触媒ドメインのアミノ酸配列(例えば、上に列挙されているような)と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、98.5%、99%若しくは99.5%同一である、又は100%同一であるグルコシルトランスフェラーゼ触媒ドメインを含む、又はそれから構成され得る。
【0072】
本発明のグルコシルトランスフェラーゼ酵素は上記のような触媒ドメイン配列を有することのみを必要とすると考えられるが、グルコシルトランスフェラーゼ酵素はより大きなアミノ酸配列内に含まれ得る。例えば、触媒ドメインはそのC末端でグルカン結合ドメインに連結していてもよく、且つ/又はそのN末端で可変ドメイン及び/若しくはシグナルペプチドに連結していてもよい。
【0073】
グルコシルトランスフェラーゼ酵素のさらにまた別の例は、本明細書に開示され、且つN末端及び/又はC末端上の1~300(又はその間の任意の整数[例えば、10、15、20、25、30、35、40、45若しくは50])個の残基を含むもののいずれかであってよい。そのような追加の残基は、そのグルコシルトランスフェラーゼ酵素が由来する対応する野生型配列からのであっても、例えば、(N末端若しくはC末端での)エピトープタグ、又は(N末端での)異種シグナルペプチドなどの異種配列であってもよい。本明細書のグルコシルトランスフェラーゼ酵素は、通常、N末端のシグナルペプチドが欠損している。
【0074】
特定の実施形態におけるグルコシルトランスフェラーゼ酵素は、天然には存在しない(すなわち、非天然である)。例えば、本発明の酵素は、微生物(本発明のグルコシルトランスフェラーゼ酵素が由来する可能性があるもの)から天然に分泌されるもの(すなわち、成熟型)とは考えられていない。特定の態様における非天然酵素は、その天然の対応物と比較して、改変/置換された少なくとも1つ、2つ、又は3つのアミノ酸を含む。特定の態様におけるグルコシルトランスフェラーゼ酵素のアミノ酸配列は、その酵素が所定量のスクロース基質からより多くの生成物(α-1,3グルカン及びフルクトース)とより少ない副生物(例えば、グルコース、オリゴ糖(ロイクロースなど))とを生成するように改変されている。例えば、本発明のグルコシルトランスフェラーゼの触媒ドメインの1、2、3個又はそれ以上のアミノ酸残基を改変/置換して、より多くの生成物(α-1,3-グルカン及びフルクトース)を生成する酵素を得ることができる。このような改変グルコシルトランスフェラーゼ酵素の好適な例は、米国特許出願公開 第2018/0072998号明細書(参照により本明細書に組み込まれる)に開示されている。
【0075】
本発明のグルコシルトランスフェラーゼ酵素は、細菌などの任意の微生物源から得ることができる。細菌グルコシルトランスフェラーゼ酵素の例は、ストレプトコッカス(Streptococcus)種、ロイコノストック(Leuconostoc)種又はラクトバチルス(Lactobacillus)種から得られるもの酵素である。ストレプトコッカス(Streptococcus)種の例には、S.サリバリウス(S.salivarius)、S.ソブリナス(S.sobrinus)、S.デンチロウセッティ(S.dentirousetti)、S.ダウネイ(S.downei)、S.ミュータンス(S.mutans)、S.オラリス(S.oralis)、S.ガロリティクス(S.gallolyticus)及びS.サングイニス(S.sanguinis)が含まれる。ロイコノストック(Leuconostoc)種の例には、L.メセンテロイデス(L.mesenteroides)、L.アメリビオスム(L.amelibiosum)、L.アルゲンチナム(argentinum)、L.カルノスム(L.carnosum)、L.シトレウム(L.citreum)、L.クレモリス(L.cremoris)、L.デキストラニカム(L.dextranicum)及びL.フルクトサム(L.fructosum)が含まれる。ラクトバチルス(Lactobacillus)種の例には、L.アシドフィルス(L.acidophilus)、L.デルブリュキイ(L.delbrueckii)、L.ヘルベチクス(L.helveticus)、L.サリバリウス(L.salivarius)、L.カゼイ(L.casei)、L.クルバツス(L.curvatus)、L.プランタルム(plantarum)、L.サケイ(sakei)、L.ブレビス(L.brevis)、L.ブフネリ(L.buchneri)、L.フェルメンタム(L.fermentum)及びL.ロイテリ(L.reuteri)が含まれる。
【0076】
グルコシルトランスフェラーゼ酵素は、本明細書中に開示されるように、α-1,3-グルカンを生成し得る。例えば、グルコシルトランスフェラーゼ酵素は、少なくとも50%のα-1,3グリコシド結合及び少なくとも100のDPwを有するα-1,3-グルカンを生成することができる。特定の実施形態におけるグルコシルトランスフェラーゼ酵素は、デキストランスクラーゼ、ロイテランスクラーゼ又はオルタナンスクラーゼ活性を有していないか、又はほとんどしか有していない(例えば、1%未満)。
【0077】
本発明のグルコシルトランスフェラーゼ酵素は、例えば適切に遺伝子操作された微生物株の発酵によって製造することができる。E.コリ(E.coli)、バチルス属(Bacillus)株(例えば、B.サブティリス(B.subtilis))、ラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、並びにアスペルギルス属(Aspergillus)種(例えば、A.アワモリ(A.awamori))及びトリコデルマ属(Trichoderma)種(例えば、T.リーセイ(T.reesei))などの微生物株を用いる発酵による組換え酵素の製造は、当該技術分野ではよく知られている(例えば、Adrio and Demain,Biomolecules 4:117-139を参照(この文献は参照により本明細書に組み込まれる))。グルコシルトランスフェラーゼ酵素のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、通常、酵素のための発現カセットを形成するために異種プロモーター配列と連結される。そのような発現カセットは、当該技術分野でよく知られた方法を使用して、好適なプラスミドに組み込まれるか、又は微生物宿主染色体中に組み込まれ得る。発現カセットは、アミノ酸をコードする配列に続いて転写ターミネーターヌクレオチド配列を含み得る。発現カセットはまた、プロモーター配列とアミノ酸コード配列との間に、グルコシルトランスフェラーゼ酵素を直接分泌するように設計されたシグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み得る。発酵の終わりに、細胞を適切に破壊し、析出、濾過、及び/又は濃縮などの方法を使用して、グルコシルトランスフェラーゼ酵素を単離することができる。或いは、グルコシルトランスフェラーゼを含む溶解物をさらに単離せずに使用することができる。グルコシルトランスフェラーゼ酵素の活性は、スクロースのグルカンポリマーへのその変換を測定するなどの生化学的アッセイによって確認することができる。
【0078】
本発明のグルコシルトランスフェラーゼ酵素は、プライマー非依存性又はプライマー依存性であり得る。プライマー非依存性グルコシルトランスフェラーゼ酵素は、グルカン合成を行うためにプライマーの存在を必要としない。プライマー依存性グルコシルトランスフェラーゼ酵素は、グルカンポリマー合成中に酵素のプライマーとして作用する開始分子が反応溶液中に存在することを必要とする。本明細書で使用される「プライマー」という用語は、グルコシルトランスフェラーゼ酵素の開始剤として作用することができる任意の分子を指す。特定の実施形態において使用され得るプライマーは(プライマーとして働くと考えられる、本明細書に記載されるような添加オリゴ糖に加えて)、デキストランを含む。プライマーとして使用するデキストランは、例えば、デキストランT10(すなわち、10kDの分子量を有するデキストラン)であり得る。
【0079】
本発明のグルコシルトランスフェラーゼ酵素の活性は、当該技術分野で知られた任意の方法で求めることができる。例えば、グルコシルトランスフェラーゼ酵素活性は、スクロース(約50g/L)、デキストランT10(約1mg/mL)及びリン酸カリウム緩衝液(pH6.5、50mM)を含有する反応溶液中で、還元糖(フルクトース及びグルコース)の生成を測定することによって求めることができるが、このとき溶液を22~25℃で24~30時間保持する。還元糖は、1NのNaOH、及び0.1%の塩化トリフェニルテトラゾリウムを含有する混合物に0.01mLの反応溶液を加え、次いで、約5分間にわたってOD480nmの吸光度の増加を監視することによって測定できる。
【0080】
不溶性α-1,3-グルカンは、本開示の方法/反応において製造される。特定の態様におけるα-1,3グリカンは、少なくとも50%のα-1,3グリコシド結合及び少なくとも100のDPwを有する。
【0081】
本発明のα-1,3-グルカンは、通常、少なくとも50%のα-1,3-グリコシド結合を含む。特定の実施形態では、α-1,3-グルカンを構成するグリコシド結合の少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、若しくは100%(又は、50%~100%の間の任意の整数)は、α-1,3結合である。したがって、いくつかの実施形態では、α-1,3-グルカンは、約50%、40%、30%、20%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%若しくは0%未満(又は、0%~50%の間の任意の整数値)のα-1,3ではないグリコシド結合を有する。通常、α-1,3でない結合は、ほとんど又は全部がα-1,6である。α-1,3-グルカン内に存在するα-1,3-グリコシド結合の割合が高くなるほど、ポリマー内で分岐点を形成する特定のグリコシド結合の発生率は低くなるため、α-1,3-グルカンが直鎖状である確率が高くなることは理解されよう。したがって、100%のα-1,3-グリコシド結合を有するポリα-1,3-グルカンは、完全に直鎖状であると考えられる。特定の実施形態では、α-1,3-グルカンは、分岐点を有していないか、ポリマー内のグリコシド結合のパーセントとして約5%、4%、3%、2%、又は1%未満の分岐点を有する。分岐点の例には、α-1,6、α-1,2及びα-1,4分岐点が含まれる。
【0082】
本発明のα-1,3-グルカンは、いくつかの態様では、少なくとも約100のDPw又はDPnの分子量を有し得る。いくつかの実施形態におけるDPw又はDPnは、少なくとも約100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1100若しくは1200(又は、100~1200の任意の整数)であり得る。
【0083】
本発明のα-1,3-グルカンは、本発明のグルコシルトランスフェラーゼ反応の条件(例えば、pH4~8、下記を参照)などの非苛性水性系で不溶性である。一般に、水系中のグルカンポリマーの溶解度は、その結合プロファイル、分子量、及び/又は分岐度に関連する。例えば、≧95%の1,3結合を有するα-1,3-グルカンは、一般に、8以上のDPwで、20℃の水性条件において不溶性である。一般に、分子量が増大するにつれて、α-1,3-グルカンの不溶性に必要なα-1,3結合の割合は減少する。
【0084】
いくつかの実施形態では、不溶性のα-1,3-グルカンは、少なくとも約30%のα-1,3結合、並びにα-1,3-グルカン中のα-1,3及びα-1,6結合の両方の合計を100%にするパーセンテージのα-1,6結合を含む。例えば、α-1,3及びα-1,6結合のパーセンテージは、それぞれ、約30~40%及び60~70%であり得る。このようなα-1,3-グルカンを製造するためのグルコシルトランスフェラーゼは、米国特許出願公開第2015/0232819号明細書(参照により本明細書に組み込まれる)に開示されている。これらの実施形態におけるポリα-1,3-グルカンには、アルテルナン(1,3及び1,6の交互の結合)は含まれない。
【0085】
本開示の方法は、工程(b)において、少なくとも水、スクロース、グルコシルトランスフェラーゼ酵素、及び(工程[a]で提供される)オリゴ糖を接触させることを含む。この接触工程は、任意選択により、水、スクロース、グルコシルトランスフェラーゼ酵素、及びオリゴ糖を含むグルコシルトランスフェラーゼ反応組成物を提供する工程と特徴付けることができる。本開示の方法の接触工程は、任意の数の方法で実施できる。例えば、所望の量のスクロースを最初に水に溶解又は混合し、オリゴ糖を添加(任意選択により、緩衝液成分などの他の成分を調製のこの段階で加えることもできる)した後、グルコシルトランスフェラーゼ酵素を加えることができる。溶液は、静止させたままであっても、例えば、撹拌又はオービタルシェイカーによる振盪によってかき混ぜてもよい。
【0086】
本発明の反応組成物の温度は必要に応じて制御することができ、例えば、約5~50℃、20~40℃、20~30℃、20~25℃とすることができる。いくつかの態様では、温度は約5~15℃(例えば、約8~12℃、約9~11℃、約10℃)、15~25℃(例えば、約20℃)、又は25~35℃(例えば、約30℃)とし得る。
【0087】
本発明のオリゴ糖は、工程(b)において設定されるグルコシルトランスフェラーゼ反応におけるそれらの初期濃度が、例えば、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、5~10、又は5~15g/Lとなるように提供し得る。前述の濃度は精製された又は精製されていない(例えば、濾液)オリゴ糖組成物を使用して提供し得る。本発明のオリゴ糖の「初期濃度」は、例えば、最小セットの反応成分(少なくとも水、スクロース、グルコシルトランスフェラーゼ酵素、任意選択のオリゴ糖)を添加/混合した直後のグルコシルトランスフェラーゼ反応におけるオリゴ糖濃度を指し得る。オリゴ糖は、バッチ式又はフェドバッチ式でグルコシルトランスフェラーゼ反応に添加することができる。バッチ式では、オリゴ糖は、反応の開始時に、又は反応の開始から約10~15分以内に全て添加され(全て存在する)、一方、フェドバッチ式では、オリゴ糖は反応全体を通して添加される。例えば、フェドバッチは、オリゴ糖を連続的に又は漸増的に(例えば、30分又は60分毎に与える)、反応全体を通して、及び/又は反応の期間中(例えば、最初の6時間)に添加することを含み得る。フェドバッチ式反応で提供されるオリゴ糖の総量は、上に挙げた初期濃度のいずれかで提供される量と同じであり得る。いくつかの実施形態では、オリゴ糖はグルコシルトランスフェラーゼ反応に、その開始時又はその開始から1~2時間以内に添加される。
【0088】
本発明の反応組成物中のスクロースの初期濃度は、例えば、約20~400g/L、75~175g/L、又は50~150g/Lであり得る。いくつかの態様では、初期スクロース濃度は、少なくとも約50、75、100、150若しくは200g/Lであり、又は約50~600g/L、100~500g/L、50~100g/L、100~200g/L、150~450g/L、200~450g/L、若しくは250~600g/Lである。「スクロースの初期濃度」は、反応溶液成分(少なくとも水、スクロース、グルコシルトランスフェラーゼ酵素、任意選択により添加されるオリゴ糖)を添加/混合した直後のグルコシルトランスフェラーゼ反応におけるスクロース濃度を指す。
【0089】
グルコシルトランスフェラーゼ反応溶液に使用されるスクロースは、高い純度(≧99.5%)のものであっても、任意の他の純度若しくはグレードのものであってもよい。例えば、スクロースは、少なくとも99.0%の純度を有しても、試薬グレードのスクロースであってもよい。別の例として、精製が不完全なスクロースを使用することができる。本発明の精製が不完全なスクロースは、精白糖にまで処理されていないスクロースを意味する。したがって、精製が不完全なスクロースは、完全には精製されていないか、又は部分的に精製されているものであり得る。未精製スクロースの例は、「粗スクロース」(「粗糖」)及びそれらの溶液である。部分的精製スクロースの例は、1回、2回、3回又はそれ以上の結晶化工程を経ていない。本発明のスクロースは、サトウキビ、テンサイ、カッサバ澱粉、サトウモロコシ、又はトウモロコシなどの任意の再生可能な糖源から得られ得る。本発明において有用なスクロースの好適な形態は、例えば、結晶形態又は非結晶形態(例えば、シロップ、サトウキビの搾汁、ビートの搾汁)である。精製が不完全なスクロースのさらなる好適な形態は、米国特許出願公開 第2015/0275256号明細書(参照により本明細書に組み込まれる)に開示されている。本発明の精製が不完全なスクロースのICUMSA(国際砂糖分析統一委員会(International Commission for Uniform Methods of Sugar Analysis))値は、例えば、150より大きい可能性がある。スクロースのICUMSA値を決定する方法は、例えば、国際砂糖分析統一委員会(International Commission for Uniform Methods of Sugar Analysis)により、ICUMSA Methods of Sugar Analysis: Official and Tentative Methods Recommended by the International Commission for Uniform Methods of Sugar Analysis (ICUMSA)(Ed.H.C.S. de Whalley,Elsevier Pub.Co.,1964)(参照により本明細書に組み込まれる)に開示されている。いくつかの態様では、ICUMSAは、R.J.McCowage,R.M.Urquhart and M.L.Burge(Determination of the Solution Colour of Raw Sugars,Brown Sugars and Coloured Syrups at pH 7.0-Official,Verlag Dr Albert Bartens,2011 revision)(参照により本明細書に組み込まれる)により記載されているような、ICUMSA法GS1/3-7によって測定することができる。
【0090】
特定の実施形態における反応組成物のpHは、約4.0~9.0、4.0~8.5、4.0~8.0、5.0~8.0、5.5~7.5、又は5.5~6.5であり得る。いくつかの態様では、pHは、約4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5又は8.0であり得る。pHは、好適な緩衝液、例えば、リン酸塩、トリス、酢酸塩、クエン酸塩、又はそれらの任意の組み合わせ(これらに限定されない)を添加又は混入することによって調整又は制御することができる。本発明の反応組成物中の緩衝液濃度は、例えば、約0.1~300mM、0.1~100mM、10~100mM、10mM、20mM、又は50mMであり得る。任意選択により、好適な量のDTT(ジチオトレイトール、例えば、約1.0mM)を反応溶液に添加することができる。
【0091】
グルコシルトランスフェラーゼ反応物は、本明細書に開示の1つ以上の反応条件を適用するのに好適な任意の容器(例えば、不活性容器/コンテナ)に含有させることができる。いくつかの態様における不活性容器は、ステンレス鋼製、プラスチック製、若しくはガラス製であり得(又は、これらの構成要素の2つ以上を含み得)、また、特定の反応物を含有するのに好適なサイズであり得る。例えば、不活性容器の体積/容量(及び/又は本発明の反応組成物の体積)は、約、又は少なくとも約、1、10、50、100、500、1000、2500、5000、10000、12500、15000、又は20000リットルであり得る。不活性容器は、任意選択により、撹拌装置を備えることができる。
【0092】
本発明の反応溶液は、例えば、1種、2種又はそれ以上のグルコシルトランスフェラーゼ酵素を含有することができる。いくつかの実施形態では、反応組成物中にグルコシルトランスフェラーゼ酵素が1種又は2種のみ含まれる。本発明のグルコシルトランスフェラーゼ反応物は、細胞を含まない(例えば、全細胞が存在しない)ものとすることができ、典型的には、含まない。
【0093】
特定の実施形態における反応の完了は、視覚的に(例えば、不溶性グルカンがもはや蓄積しない)、且つ/又は溶液中に残ったスクロース(残留スクロース)の量を測定することによって決定でき、この場合、少なくとも約90%、95%又は99%のスクロース消費率が反応完了を指示し得る。いくつかの態様では、反応は、そのスクロース含量が約5g/L以下になった場合に完了したと見なし得る。開示したプロセスの反応は、例えば、約1時間~約2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、36、48、60、72、96、120、144又は168時間行われ得る。反応は、任意選択により、少なくとも約65℃で少なくとも約30~60分間加熱することによって、終了させ、且つ/又はグルコシルトランスフェラーゼ活性を停止させるために処理することができる。
【0094】
本発明のグルコシルトランスフェラーゼ反応において生成されるα-1,3-グルカンの収率は、反応において変換されるスクロースの重量若しくはモルに基づいて、又は反応のグルコシル成分に基づいて、例えば、約、少なくとも約、又は最大で約、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%47%、48%、49%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、又は85%であり得る。いくつかの態様では、このような収率は、約16~24時間(例えば、約20時間)行われる反応で達成され、且つ/又はHPLC若しくはNIR分光法を使用して測定される。
【0095】
特定の実施形態における方法で生成されるα-1,3-グルカンは、任意選択により、単離されてもよい。特定の実施形態では、不溶性α-1,3-グルカンを単離する工程は、少なくとも遠心分離及び/又は濾過の工程を行うことを含むことができる。単離は、任意選択によりさらに、α-1,3-グルカンを水又は他の水性液体で1回、2回若しくはそれ以上洗浄する工程、及び/又はポリα-グルカン生成物を乾燥させる工程を含むことができる。
【0096】
乾燥形態で提供される、本発明の単離されたα-1,3-グルカン生成物は、例えば、2.0、1.5、1.0、0.5、0.25、0.10、0.05、又は0.01wt%以下の水を含み得る。いくつかの態様では、α-1,3-グルカン生成物は、少なくとも1グラム(例えば、少なくとも約2.5、5、10、25、50、100、250、500、750、1000、2500、5000、7500、10000、25000、50000、又は100000g)の量で提供され、このような量は、例えば、乾燥量であり得る。
【0097】
本発明の不溶性α-1,3-グルカンを合成するのに好適な条件及び/又は成分の例は、米国特許第7000000号明細書、並びに米国特許出願公開 第2013/0244288号明細書、同第2013/0244287号明細書、同第2013/0196384号明細書、同第2013/0157316号明細書、同第2015/0275256号明細書、同第2015/0240278号明細書、同第2015/0240279号明細書、同第2014/0087431号明細書、同第2017/0002335号明細書、及び同第2018/0072998号明細書(これらの文献は全て、参照により本明細書に組み込まれる)に開示されている。
【0098】
上記のような不溶性α-1,3-グルカンを合成するための開示された条件、又は以下の実施例に記載された条件のいずれも、現在開示されているような反応組成物を実施するために適用することができる(及びその逆も同様である)。
【0099】
本開示はまた、不溶性α-1,3-グルカンを製造するための反応組成物に関する。この反応組成物は、少なくとも水、スクロース、不溶性α-1,3-グルカンを合成するグルコシルトランスフェラーゼ酵素、及びオリゴ糖を含む。オリゴ糖は、反応組成物の調製中に添加され、そして
(i)α-1,3及びα-1,6グリコシド結合を含む、且つ/又は
(ii)グルコシルトランスフェラーゼ反応から生成される。
不溶性α-1,3-グルカンは、反応組成物中で生成される。
【0100】
本発明の反応組成物は、例えば、不溶性α-1,3-グルカンを製造する方法に関する、現在開示している実施形態又は以下の実施例の中のいずれかに従って実施することができる。したがって、そのような実施形態の特徴のいずれかが、本発明の反応組成物の実施形態を特徴付け得る。
【0101】
特定の実施形態では、グルコシルトランスフェラーゼ反応によって生成されるα-1,3-グルカンの収率は、工程(b)がオリゴ糖の添加なしで(すなわち、工程[a]のオリゴ糖なしで)実施された場合に生成されるであろうα-1,3-グルカンの収率と比べて高くなり得る。例えば、生成されるα-1,3-グルカンの収率は、工程(b)でオリゴ糖を添加しない場合に生成されるであろうα-1,3-グルカンの収率と比較して、少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、110%、又は120%高くなり得る。本発明の方法におけるα-1,3-グルカン生成物の収率の増加率は、所望するなら、好適な対照グルコシルトランスフェラーゼ反応(例えば、オリゴ糖の添加を除いて、工程[b]と同じパラメーターを有する反応)に対して測定することができることは理解されるであろう。いくつかの態様では、収率の増加は、その対応する天然アミノ酸配列と比較して、触媒ドメインのいかなるアミノ酸置換も有さないグルコシルトランスフェラーゼを含む反応を特徴付ける。
【0102】
特定の実施形態における工程(b)のグルコシルトランスフェラーゼ反応の相対反応速度は、工程(a)で提供されるオリゴ糖を用いずに工程(b)を実施した場合に観察されるであろう反応速度と比較して増大し得る。例えば、工程(b)のグルコシルトランスフェラーゼ反応の、好適な対照グルコシルトランスフェラーゼ反応の反応速度に対する相対反応速度は、少なくとも約1.025、1.05、1.075、1.10、1.15、1.20、1.25、1.30、1.40、1.50、1.60、1.70、1.80、1.90、2.00、又は2.10であり得る。例示すると、本発明の反応の相対反応速度が対照反応に対して少なくとも約1.25である場合、この反応の反応速度は対照反応の反応速度より少なくとも約25%大きい。反応の反応速度は、活性グルコシルトランスフェラーゼ酵素の単位濃度、単位時間当たりの、反応物(例えば、スクロース)の濃度/量の変化、及び/又は生成物(例えば、α-1,3-グルカン)の濃度/量の変化で表すことができる。反応速度は、例えば、1リットルで1時間当たりに生成されるα-1,3-グルカンのグラム数(gL-1h-1)で測定することができる。
【0103】
任意選択により、不溶性α-1,3-グルカンを生成する本明細書の方法の工程(b)のグルコシルトランスフェラーゼ反応における副生物の形成を、工程(b)が工程(a)で提供されるオリゴ糖なしで行われた場合に観察されるであろう副生物の形成と比較して、減少させることができる。例えば、工程(b)で形成されるグルコース、ロイクロース、及び/又はグルコオリゴ糖副生物の量を、好適な対照グルコシルトランスフェラーゼ反応と比較して減少させることができる。このような減少は、例えば、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、又は60%であり得る。
【0104】
特定の実施形態では、グルコシルトランスフェラーゼ反応によって生成されるα-1,3-グルカンの粘度を、工程(b)がオリゴ糖の添加なしで(すなわち、工程[a]のオリゴ糖なしで)実施された場合に生成されるであろうα-1,3-グルカンの粘度と比べて低下させることができる。この粘度は、液体中に混合又は溶解したα-1,3-グルカンについて測定することができる。本発明のα-1,3-グルカン生成物の粘度は、工程(b)でオリゴ糖を添加しない場合に生成されるであろうα-1,3-グルカンの粘度より、例えば、少なくとも約5%、10%、15%、20%、又は25%低くすることができる。本発明の方法におけるα-1,3-グルカン生成物の粘度の低下率は、所望するなら、好適な対照グルコシルトランスフェラーゼ反応(例えば、オリゴ糖の添加を除いて、工程[b]と同じパラメーターを有する反応)に対して測定することができることは理解されるであろう。
【0105】
本発明のα-1,3-グルカンに粘度は、液体中に混合又は溶解して測定することができる。特定の態様では、このような測定は、水又は苛性でない水溶液(例えば、非苛性水性液体は約4~10、5~9、6~8、又は7のpHを有し得る)などの水性液体中に混合されたα-1,3-グルカンを用いて行うことができ、本発明のα-1,3-グルカンは一般にそのような水性条件で不溶性であるため、混合が推奨される。この混合は、α-1,3-グルカンを非苛性水性液体中で効果的に混合するのに好適な任意の手段、例えば、均質化又は顕微溶液化(例えば、国際公開第 2016/126685号パンフレット又は米国特許出願公開 第2015/0167243号明細書、同第2005/0249853号明細書、同第2003/0153746号明細書及び同第2018/0021238号明細書に開示されているような(これらの文献は全て参照により本明細書に組み込まれる))を用いて行うことができる。α-1,3-グルカンの非苛性水性液体中での混合は、通常、グルカンの水性スラリー及び/又は分散液(コロイド分散液)を調製するために行われ得る。このような水性組成物の粘度は、任意選択により、約5~250s-1(例えば、7~200s-1)の剪断速度、約15~25℃(例えば、約20℃)の温度、及び/又は2~10wt%(例えば、約4~5wt%)のα-1,3-グルカン水性混合物を用いて、cPの単位でスラリー粘度として測定することができる。
【0106】
特定の態様では、粘度の測定は、液体に溶解したα-1,3-グルカンを用いて行うことができる。このような液体は、例えば、少なくとも約11のpHを有する苛性水溶液であり得る。苛性水溶液は、少なくとも水酸化物(例えば、NaOH、KOH、水酸化テトラエチルアンモニウム)を含むことができ、且つ/或いは、例えば、国際公開第2015/200612号パンフレット若しくは同第2015/200590号パンフレット、又は米国特許出願公開第2017/0208823号明細書若しくは同第2017/0204203号明細書(これらの文献は全て参照により本明細書に組み込まれる)に開示されているようなものである。いくつかの態様では、粘度を測定するために本発明のα-1,3-グルカンを溶解する液体は、有機溶媒を含む液体(例えば、有機イオン液体)などの非水性であり得る。本発明に好適な有機溶媒の例には、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)(任意選択により、約0.5%~5%のLiClを含む)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ピリジン、SO2/ジエチルアミン(DEA)/DMSO、LiCl/1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、DMSO/フッ化テトラブチルアンモニウム三水和物(TBAF)、N-メチルピロリドン、及び/又はN-メチルモルホリン-N-オキシド(NMMO)が含まれ得る。いくつかの態様では、α-1,3-グルカンは、粘度を測定するために、DMAc/0.5%LiClなどの好適な有機溶媒中に約5~15mg/mL(例えば、10mg/mL)の濃度に溶解され得る。いくつかの実施形態では、本発明の溶解したα-1,3-グルカンの粘度は、固有粘度(IV、「η」の記号で表され、mL/gの単位で提供される)として測定され得る。本発明において、IV測定値は、例えば、米国特許 出願公開 第2017/0002335号明細書及び同第2017/0002336号明細書、Weaver et al. (J.Appl. Polym.Sci.35:1631-1637)、又はChun and Park(Macromol. Chem.Phys.195:701-711)(これらは全て参照により本明細書に組み込まれる)に開示されているような任意の好適な方法を使用して得ることができる。
【0107】
本開示はまた、不溶性α-1,3-グルカンを製造する本発明の任意の方法に従って製造される、不溶性α-1,3-グルカンを含む組成物に関する。特定の実施形態では、このような組成物は、水性組成物又は非水性組成物であり得る。いくつかの態様では、本発明の不溶性α-1,3-グルカン生成物の粘度は、この方法/反応においてオリゴ糖が提供されなかった場合に生成されたであろう不溶性α-1,3-グルカン(対照グルカン)の粘度未満である。粘度は、液体中に混合又は溶解したα-1,3-グルカンに関して上述した任意の方法で測定することができる。本発明のα-1,3-グルカン生成物の粘度は、例えば、対照グルカンの粘度より、少なくとも約5%、10%、15%、20%、又は25%低い粘度であり得る。本発明のα-1,3-グルカン生成物の粘度/DPw関係は、例えば、グルコオリゴ糖をグルコシルトランスフェラーゼ反応に添加すると粘度が低下することを示す下記の実施例に開示されるようなものであり得る。
【0108】
本明細書に開示する組成物及び方法の非限定的な例には、下記が含まれる:
1.
(a)
(i)α-1,3及びα-1,6グリコシド結合を含む、且つ/又は
(ii)グルコシルトランスフェラーゼ反応から生成された
オリゴ糖を提供する工程;
(b)少なくとも水、スクロース、そのオリゴ糖、及び不溶性α-1,3-グルカンを合成するグルコシルトランスフェラーゼ酵素を接触させる工程であって、不溶性α-1,3-グルカンが生成される工程;並びに
(c)任意選択で、工程(b)で生成された不溶性α-1,3-グルカンを単離する工程
を含む不溶性α-1,3-グルカンの製造方法。
2.オリゴ糖は、約60~99%のα-1,3グリコシド結合及び約1~40%のα-1,6グリコシド結合を含む、実施形態1の方法。
3.オリゴ糖は、2~10の重合度を有する、実施形態1又は2の方法。
4.オリゴ糖は、精製されているか又は精製されていない、実施形態1、2又は3の方法。
5.オリゴ糖は、(a)(ii)のグルコシルトランスフェラーゼ反応から生成される、実施形態4の方法。
6.(a)(ii)のグルコシルトランスフェラーゼ反応は不溶性α-1,3-グルカンを合成する、実施形態5の方法。
7.オリゴ糖は、(a)(ii)のグルコシルトランスフェラーゼ反応の可溶性画分として提供され、且つ、その可溶性画分は、処理されているか又は処理されていない、実施形態5又は6の方法。
8.可溶性画分は、(a)(ii)のグルコシルトランスフェラーゼ反応の濾液の一部又は全部である、実施形態7の方法。
9.オリゴ糖は、工程(b)において、少なくとも約1g/Lの初期濃度で提供される、実施形態1、2、3、4、5、6、7又は8の方法。
10.生成される不溶性α-1,3-グルカンの収率は、工程(b)がオリゴ糖を欠いた場合に生成されるであろう不溶性α-1,3-グルカンの収率と比較して増大する、実施形態1、2、3、4、5、6、7、8又は9の方法。
11.生成される不溶性α-1,3-グルカンの粘度は、工程(b)がオリゴ糖を欠いた場合に生成されるであろう不溶性α-1,3-グルカンの粘度と比較して低下する(ここで、粘度は、液体中に混合又は溶解されたα-1,3-グルカンで測定される)、実施形態1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10の方法。
12.生成される不溶性α-1,3-グルカンは、少なくとも50%のα-1,3グリコシド結合、及び少なくとも100の重量平均重合度(DPw)を有する、実施形態1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11の方法。
13.工程(a)及び(b)は1回以上繰り返され、且つ、繰り返される各工程(a)におけるオリゴ糖は、各直前の工程(b)から生じる生成物(副生物)から提供される、実施形態1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は13の方法。
14.不溶性α-1,3-グルカンを製造するための反応組成物であって、少なくとも水、スクロース、不溶性α-1,3-グルカンを合成するグルコシルトランスフェラーゼ酵素、及びオリゴ糖を含み、そのオリゴ糖はこの反応組成物の調製中に添加され、
(i)α-1,3及びα-1,6グリコシド結合を含む、且つ/又は
(ii)グルコシルトランスフェラーゼ反応から生成され、
不溶性α-1,3-グルカンはこの反応組成物中で生成され、任意選択で、この反応組成物は実施形態2~13のいずれか1つの任意の特徴によって特徴付けられる反応組成物。
15.実施形態1~13のいずれか1つの方法に従って製造されるか、又は実施形態14の反応組成物において製造される不溶性α-1,3-グルカンを含む組成物。
16.不溶性α-1,3-グルカンの粘度は、その方法又は反応組成物でオリゴ糖を提供されなかった場合に生成されたであろう不溶性α-1,3-グルカンの粘度より低い(ここで、粘度は、液体中に混合又は溶解されたα-1,3-グルカンで測定される)、実施形態15の組成物。
【実施例】
【0109】
以下の実施例において、本開示の実例をさらに示す。これらの実施例は、本発明の特定の好ましい態様を示しているが、単に説明の目的でのみ示されていると理解されるべきである。上記の考察及びこれらの実施例から、当業者は、開示された実施形態の本質的な特徴を確認することができ、それらの精神及び範囲を逸脱することなく、開示された実施形態を様々な使用及び条件に適合させるために様々な変更及び修正を行うことができる。
【0110】
一般的方法
全ての試薬は特に明記しない限り、Sigma-Aldrich(St.Louis、MO)から入手した。ショ糖はVWR(Radnor、PA)から入手した。
【0111】
グルコシルトランスフェラーゼ(GTF)酵素の粗抽出物の調製
以下の実施例のいくつかにおいて使用するストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)GTFJ酵素(配列番号2)は、イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)誘導発現系を使用して、E.コリ(E.coli)株DH10Bにおいて発現させた。配列番号2は、GENBANK番号47527のS.サリバリウス(S.salivarius)GTFJアミノ酸配列と比較して、N末端の42残基が欠失している。簡潔に記すと、E.コリ(E.coli)発現のためにコドン最適化したDNA配列(配列番号1)から配列番号2を発現するように、E.コリ(E.coli)DH10B細胞を形質転換した。このDNA配列は、発現ベクターのpJexpress404(登録商標)(DNA 2.0、Menlo Park CA)に含まれた。形質転換した細胞を、LB培地(10g/L トリプトン;5g/L 酵母抽出物、10g/L NaCl)に、0.025の初期光学密度(600nmでのOD)まで接種し、250rpmで振盪しながら、インキュベーター中、37℃で増殖させた。培養物のOD600が0.8~1.0に達したとき、1mMのIPTGを添加して培養物を誘導した。誘導培養物を振盪機上に放置し、誘導3時間後に回収した。
【0112】
培養細胞をEppendorf(登録商標)遠心分離機で遠心分離し(25℃、16,000rpm)、細胞を5.0mMリン酸緩衝液(pH7.0)に再懸濁し、氷上で4℃に冷却することによって、GTFJ酵素(配列番号2)を回収した。細胞を、0.1mmシリカビーズを有するビーズビーターを使用して破壊し、次いで、4℃、16,000rpmで遠心分離して、破壊されていない細胞及び細胞残屑をペレット化した。粗抽出物(可溶性GTFJ酵素、配列番号2、を含む)をペレットから分離し、ブラッドフォードタンパク質アッセイによって分析して、タンパク質濃度(mg/mL)を決定した。
【0113】
実施例5で使用したGTF酵素は、以下のように調製した。E.コリ(E.coli)TOP10(登録商標)細胞(Invitrogen、Carlsbad California)を、特定のGTFコーディングDNA配列を含有するpJexpress404(登録商標)をベースとするコンストラクトにより形質転換させた。各配列は、E.コリ(E.coli)でGTF酵素を発現させるためにコドン最適化された。特定のGTF酵素を発現する個々のE.コリ(E.coli)株を、アンピシリン(100mg/mL)を含むLB培地で、OD600=0.4~0.5まで振盪しながら37℃で増殖させ、この時点でIPTGを0.5mMの最終濃度まで添加した。この培養物をIPTG誘導後に37℃で2~4時間にわたりインキュベートした。細胞を15分間にわたる5,000×gでの遠心分離によって採取し、DTT(1.0mM)が補給された50mMのリン酸緩衝液(pH7.0)に再懸濁した(20w/v%)。>95%の細胞溶解を保証するために、再懸濁細胞をFrenchプレッシャーセル(SLM Instruments、Rochester、NY)に2回通過させた。溶解した細胞を12,000×g、4℃で30分間遠心分離した。得られた上清をBCAタンパク質アッセイ及びSDS-PAGEにより分析して、GTF酵素の発現を確認し、上清を-20℃で保存した。
【0114】
反応プロファイルの分析
反応物から定期的に試料を採取し、屈折率検出器を備えたAgilent(登録商標)1260 HPLCを用いて分析した。反応混合物中のスクロース、グルコース、ロイクロース、及びフルクトースの量を定量するために、脱イオン水を有するAminex(登録商標)HPX-87Cカラム(BioRad、Hercules、CA)を0.6mL/分の流量及び85℃で使用した。可溶性オリゴ糖副生物を定量するために、脱イオン水を有するAminex(登録商標)HPX-42Aカラム(BioRad)を0.6mL/分の流量及び85℃の温度で使用した。
【0115】
グルカン分子量の分析
グルコシルトランスフェラーゼ反応物から単離した不溶性グルカンポリマーを、100℃で16時間、5%塩化リチウム(LiCl)を含むN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)で処理して、グルカンポリマー溶液を形成した。次いで、この溶液(100μL)を、50℃で操作する示差屈折率検出器を備えたAllianceTM2695 HPLC(Waters Corporation、Milford、MA)に注入した。移動相(0.11wt%のLiClを含有するDMAc)を、0.5mL/分の流量で、直列に連結した4つのスチレン-ジビニルベンゼンカラム、具体的には、1つのKD-802、1つのKD-801、及び2つのリニアKD-806Mカラム(Shodex、Japan)に通した。グルカンポリマー試料の分子量分布を、広範なグルカン標準に対する保持時間の比較によって決定した。
【0116】
実施例1
GTFJ酵素(配列番号2)を用いたグルカン重合反応
この実施例は、スクロースの不溶性α-1,3-グルカンポリマー及び可溶性糖への変換に関する情報、並びに実施例2で利用した原料の生成方法の詳細を開示する。
【0117】
スクロース(3000g)を清浄な5ガロンのポリエチレンバケツに入れた。水(18.1L)及びFermasureTM(10mL)をバケツに加え、5vol%のNaOH及び5vol%のH2SO4を添加することによりpHを7.0に調節した。最終的な体積は約20Lであり、HPLCにより測定したスクロースの初期濃度は152.5g/Lであった。一般的方法の項に記載のように調製した粗GTFJ酵素(配列番号2)抽出物を0.3vol%添加することによってグルカン重合反応を開始させた。この抽出物は、約2.9mg/mLのタンパク質を含有した。反応溶液の撹拌を、ガラスシャフト及びPTFEブレードを備えたオーバーヘッド機械式モーターを使用して行った。
【0118】
48時間後、HPLC分析により、スクロースの96%が消費され、反応が完了したと見なされることが明らかになった。不溶性α-1,3-グルカンを濾過により除去し、次いで母液(濾液)をロータリーエバポレーター(浴温40~50℃)を用いて320g/L糖の総糖濃度まで濃縮した。濃縮糖溶液の組成を表2に示す。
【0119】
【0120】
表2は、上記グルカン合成反応完了時に得られた濃縮濾液が、約14~15wt%がオリゴ糖(DP2~DP7)副生物である糖類を含有していたことを示している。この濃縮濾液を、実施例2で、オリゴ糖のクロマトグラフィー単離のために使用した。
【0121】
実施例2
イオン交換樹脂を用いたオリゴ糖の単離及び分析
この実施例は、クロマトグラフ分離によりオリゴ糖がどのようにグルカン合成反応の濃縮濾液から単離され、また、グリコシド結合プロファイルについて分析されたかを開示する。これらの単離されたオリゴ糖を実施例3、5及び7で使用した。
【0122】
強酸カチオン交換樹脂を用いるクロマトグラフ分離を使用して、実施例1で調製した濃縮濾液のオリゴ糖画分を単離した。この分離のために使用したカラムの物理的なパラメーターを表3に示す。
【0123】
【0124】
実施例1で調製した濃縮糖溶液(すなわち、濃縮濾液)を濾過し、水道水を用いて25g乾燥固体/100g溶液に希釈した。カラム樹脂に糖溶液を入れる前に、樹脂をナトリウム形態へ変換するために、樹脂を6ベッド体積(BV)の塩化ナトリウム溶液(10wt%の塩化ナトリウムで3BV、その後に5wt%の塩化ナトリウムで3BV)で洗浄した。次いで、糖溶液(0.6L)をカラムに供給し、その後、50mL/分の流量で水を使用してカラムから溶出させた。クロマトグラフ分離の実施条件を表4にまとめる。
【0125】
【0126】
オリゴ糖溶液は11~21分の間に溶出した。少量の塩(導電率の増加によって示される)が同時に溶出された。このように調製したオリゴ糖画分をHPLCにより分析してその生成物分布を決定した。合計で、画分は、3以上のヘキソース単位を含有するオリゴ糖を>89%、同定可能な単糖及び二糖を1.5%未満含有した。この画分を、薄膜エバポレーター(LCI Corporation、Charlotte、NC)を使用し、続いてROTAVAPOR(R-151;Buchi、New Castle、DE)を用いて回転蒸発により、全乾燥重量317g/Lに濃縮した。HPLCで測定した濃縮画分の生成物分布を表5に示す。
【0127】
【0128】
表5の濃縮オリゴ糖溶液を
1H NMRを用いて分析した。NMRデータは、5mmの極低温三重共鳴パルス磁場勾配(PFG)プローブを使用して、
1Hについて500MHzで動作するAgilent(登録商標)DD2分光計で取得した。「presat」実験における残留水シグナルの共鳴に観測送信機周波数を注意深く合わせた後、フルフェーズ(full phase)サイクル(32の倍数)及びミックス時間10msのNOESY実験の第1の部分を用いて、水抑制を達成した。一次元
1Hスペクトルは、スペクトル幅6410Hz、取得時間5.1s、65536データポイント、4sプレサチュレーション及び90度パルス5.85μsで取得した。試料温度は25℃に維持した。異なるアノマー結合についての化学シフトの帰属は、Goffin et al. (2009、Bull Korean Chem. Soc.30:2535-2541から得た。この試料のスペクトルの分析(
図1に示す)から、オリゴ糖が約78%のα-1,3グリコシド結合及び約22%のα-1,6グリコシド結合を含んでいたことがわかる。
【0129】
このようにして、グルカン合成反応の濃縮濾液からオリゴ糖を単離し、分析した。上記濃縮オリゴ糖溶液を実施例3、5及び7で使用した。
【0130】
実施例3
添加オリゴ糖を欠く又は含有するグルコシルトランスフェラーゼ反応の比較
この実施例は、有意な画分のDP2+物質を含有する精製オリゴ糖(実施例2)をα-1,3-グルカン合成反応に添加すると、そのような添加オリゴ糖を欠く反応と比較して、不溶性α-1,3-グルカン生成物の収率が高くなることを開示している。この実施例はまた、この利益(グルカン生成物の収率の増大)が、広範な種々の反応条件及びオリゴ糖付加にわたって付与されることを示す。
【0131】
グルカン合成反応物は以下のように調製した。スクロース(10g)、0.27gのリン酸二水素カリウム(KH2PO4)、94mLの水、及び50マイクロLのFermasureTMを、ポリプロピレンキャップを備えた125mLの清浄なガラス瓶に入れた。比較例3Aの調製物にはオリゴ糖を添加しなかった(表6)。実施例3.1及び3.2(表6)では、実施例2で調製したオリゴ糖溶液(表5)を特定量、それぞれの調製物に添加し、それぞれの調製物に添加した水の量を等量だけ減少させた。各調製物は主にスクロース成分に由来する微量のグルコースを含有し、追加のグルコースは、いずれの調製物にも添加しなかった。各調製物を、溶液が形成されるまでインキュベーターシェーカー(温度を25℃に制御)中で撹拌し、その時点で、各調製物のpHを、5wt%水酸化ナトリウム水溶液又は5wt%硫酸水溶液を使用して5.5に調節した。各調製物の試料を、HPLCによる分析のために採取し、その後、一般的方法の項に記載したように調製した粗GTFJ酵素(配列番号2)抽出物を0.3vol%、各調製物に添加して、重合反応を開始させた。各反応の試料を定期的に採取し、反応が進行するにつれてHPLCにより分析した。反応の初期速度を、重合の最初の2時間に消費されたスクロースの量により算出した。各反応が完了したと見なされた時点で、不溶性ポリマー生成物を濾過により反応物から単離し、200mLの水で洗浄し、100mLのアセトンで洗浄し、次いで、乾燥した。
【0132】
各反応の結果を表6に示すが、これらの結果は、オリゴ糖を反応に添加すると、不溶性α-1,3-グルカンポリマー生成物の収率が高くなることを示している(実施例3.1及び3.2を実施例3Aと比較されたい)。結果はまた、得られた不溶性α-1,3-グルカンの収率が、さらなる量のオリゴ糖を添加するとさらに改善されたことを示している(実施例3.2を3.1と比較されたい)。
【0133】
【0134】
アルファ-1,3-グルカン合成反応にオリゴ糖を添加することにより付与される利益は、広範な温度及びスクロース添加量にわたって得られた。実施例3.3~3.5の反応を調製し、初期スクロース濃度又は温度を変更したことを除いて、上記と同様に実施した。これらの反応の結果、並びにオリゴ糖を添加しなかった比較例3B、3C及び3Dの反応の結果(それぞれ、実施例3.3、3.4及び3.5の対照)を表7にまとめる。
【0135】
【0136】
したがって、α-1,3-グルカン合成反応のオリゴ糖副生物を新しいα-1,3-グルカン合成反応に添加すると、新しい反応によって生成されるα-1,3-グルカンの収率を高め、重合速度を増大させることができると同時に、望ましくないオリゴマー及びグルコースの収率を低下させることができる。この反応の調節は、様々な条件で起こる。
【0137】
実施例4
オリゴ糖の代わりにグルコースを添加したグルコシルトランスフェラーゼ反応では、不溶性α-1,3-グルカンの収率が低下する
この実施例は、実施例3で使用したオリゴ糖の量に等しい量によるグルコシルトランスフェラーゼ反応へのグルコースの添加が、グルコシルトランスフェラーゼ反応によって生成される不溶性α-1,3-グルカンの収率に有害であることを開示する。
【0138】
グルカン合成反応物は以下のように調製した。スクロース(75g)を秤量し、LAUDA RK20再循環冷却器に接続した1Lのバッフルなしジャケット付きフラスコ中で脱イオン水で0.75Lに希釈した。次いで、FermasureTMを添加し(0.5mL/L反応物)、5wt%水酸化ナトリウム水溶液又は5wt%硫酸水溶液を用いてpHを5.5に調節した。比較例4A(表8)では、微量のグルコースは主にスクロース成分に由来し、追加のグルコースは調製物に添加しなかった。比較例4.1(表8)では、スクロース成分に由来して存在する微量のグルコースに加えて、グルコース(18.8g)を調製物に添加した。粗GTFJ酵素(配列番号2)抽出物を0.3vol%添加することによって、各調製物において、重合反応を開始させた。4枚のPTFEブレードに取り付けたオーバーヘッドメカニカルモーターを用いて各反応物を撹拌し、温度を25℃に制御した。反応が完了したことをHPLCによって決定した後、各反応の不溶性ポリマー生成物を濾過によって単離した。次いで、ポリマー生成物を水(1.5L)で洗浄し、次いで、アセトン(0.5L)で洗浄し、次いで、真空オーブンで乾燥させた。乾燥α-1,3-グルカン生成物の質量を記録した。
【0139】
各反応の結果を表8に示すが、これらの結果は、グルコシルトランスフェラーゼ反応で得られる不溶性α-1,3-グルカンポリマーの収率が、グルコースを反応に添加した場合に低下することを示している。
【0140】
【0141】
したがって、グルコシルトランスフェラーゼ反応へのグルコースの添加は、グルコシルトランスフェラーゼ反応によって生成される不溶性α-1,3-グルカンの収率に有害である。実施例4.1の反応におけるグルコースの量が、実施例3の特定の反応に添加されたオリゴ糖の量と同等であったことは注目すべきことである。したがって、実施例4.1における負の結果は、観察されたグルカンポリマーの収率向上効果に必要であるのは、実施例3で使用したオリゴ糖のオリゴマーの性質であることを示している(すなわち、オリゴ糖のモノマー成分であるグルコースは、反応におけるグルカン生成物の収率を向上させるためにオリゴマー化する必要が最もありそうである)。
【0142】
実施例5
オリゴ糖の添加と異なるGTF酵素を含む反応における不溶性α-1,3-グルカンの収率
この実施例は、グルコシルトランスフェラーゼ反応に精製オリゴ糖(実施例2から)を添加することによるグルカンポリマーの収率向上効果が、不溶性α-1,3-グルカンを生成するGTFJ以外の酵素を含有する反応に一般に適用されることを開示する。
【0143】
この実施例で使用した異なるタイプのGTF酵素は、GTF 0874(配列番号4)、GTF 1724-T1(配列番号7)及びGTFJ-T1(配列番号8)であった。これらの各グルコシルトランスフェラーゼは、約100%のα-1,3グリコシド結合を有する不溶性α-1,3-グルカンポリマーを合成することができる、又は合成することができると予想される(例えば、米国特許出願公開第2014/0087431号明細書及び同第2016/0002693号明細書(これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる)を参照)。
【0144】
グルカン合成反応物は以下のように調製した。スクロース(10g)、0.27gのリン酸二水素カリウム(KH2PO4)、及び94mLの水を、ポリプロピレンキャップを備えた125mLの清浄なガラス瓶に入れた。比較例5A、5B及び5Cの調製物にはオリゴ糖を添加しなかった(表9)。実施例5.1、5.2及び5.3では、実施例2で調製したオリゴ糖溶液(表5)を特定量、それぞれの調製物に添加し、それぞれの調製物に添加した水の量を等量だけ減少させた。各調製物は主にスクロース成分に由来する微量のグルコースを含有し、追加のグルコースは、いずれの調製物にも添加しなかった。各調製物を、溶液が形成されるまでインキュベーターシェーカー(温度を℃に制御)中で撹拌し、その時点で、各調製物のpHを、5wt%水酸化ナトリウム水溶液又は5wt%硫酸水溶液を使用して5.5に調節した。各調製物の試料を、HPLCによる分析のために採取し、その後、一般的方法の項に記載したように調製した粗GTFJ酵素抽出物を0.3vol%、各調製物に添加して、重合反応を開始させた。各反応の試料を定期的に採取し、反応が進行するにつれてHPLCにより分析した。各反応が完了したと見なされた時点で、不溶性ポリマー生成物を濾過により反応物から単離し、200mLの水で洗浄し、100mLのアセトンで洗浄し、次いで、乾燥した。
【0145】
各反応の結果を表9に示すが、これらの結果は、オリゴ糖を反応に添加すると、不溶性α-1,3-グルカンポリマー生成物の収率が高くなることを示している。この収率の向上は、異なるタイプのグルコシルトランスフェラーゼ酵素を使用する反応で起こった。GTF 1724-T1及びGTF 0874それぞれのおおよそのそれぞれの触媒ドメインは、GTFJのおおよその触媒ドメインと、おおよそ50%のアミノ酸配列同一性を共有しているに過ぎない(米国特許出願公開 第2017/0002335号明細書(この文献は参照により本明細書に組み込まれる)を参照)。配列同一性におけるこの大きな相異にもかかわらず、各酵素は、不溶性α-1,3-グルカン生成物の収率の増加を示した。
【0146】
【0147】
したがって、α-1,3-グルカン合成反応のオリゴ糖副生物を新しいα-1,3-グルカン合成反応に添加すると、新しい反応によって生成されるα-1,3-グルカンの収率を高めることができる。この収率の向上は、様々なタイプのグルコシルトランスフェラーゼ酵素を使用する反応で起こる。
【0148】
実施例6
他のタイプのオリゴ糖の添加を含む反応における不溶性α-1,3-グルカンの収率
この実施例は、不溶性α-1,3-グルカンポリマーに対するグルコシルトランスフェラーゼ反応の選択性のシフトを可能にするために、オリゴ糖がα-1,3グルコシド結合を含有しなければならない可能性が高いことを開示する。実施例2(表5)で製造したものとは異なるオリゴ糖をグルコシルトランスフェラーゼ反応に添加して、それらがα-1,3-グルカンの収率に影響を及ぼし得るか否かを決定した。
【0149】
100%のα-1,4結合を有し、典型的には主としてオリゴ糖(約DP2~DP20)を含有するマルトデキストリン(5.5、15、又は18デキストロース当量;Sigma-Aldrich)を、さらに精製することなく、α-1,3-グルカン重合反応に使用した。α-1,6結合を>95%含有する多糖類であるデキストラン(デキストランT-10、平均分子量10000ダルトン、Sigma Aldrich)及び加水分解デキストランもまた重合反応に使用した。加水分解デキストランは、141mLの水に15gのデキストランT-10を含有する溶液をpH1.0で90℃に加熱することによって調製した。加水分解デキストラン調製物中のオリゴ糖の分布を表10に示す。
【0150】
【0151】
実施例2で生成されたオリゴ糖(表5)に代えてマルトデキストリン、デキストラン、又は加水分解デキストランを使用した以外は、実施例3に記載のプロトコールに従って、GTFJ反応を行った。表11は、これらの反応の結果を示す。加水分解デキストラン(実施例6.1及び6.2)及び様々なデキストロース当量のマルトデキストリン(実施例6.3~6.5)を使用する反応における不溶性α-1,3-グルカンポリマーの収率は、これらの異なるタイプのオリゴ糖の添加による影響がなかったか、又はわずかにあっただけである(表11、実施例6.1~6.5を実施例6Aと比較されたい)。
【0152】
【0153】
表11の結果は、主にα-1,6結合(加水分解デキストラン、実施例6.1及び6.2)又はα-1,4結合(マルトデキストリン、実施例6.3~6.5)を含有するオリゴ糖がグルコシルトランスフェラーゼ反応に添加された場合、不溶性α-1,3-グルカンポリマーの収率を有意には向上させることがないことを示している。また、デキストランT-10(実施例6.6~6.7)は不溶性α-1,3-グルカン生成物の収率を高めたが、そのオリゴ糖同等物(実施例6.1~6.2)は収率を高めることはなかったので、α-1,6-結合糖分子がグルカン生成物の収率を高めるためには、そのような糖分子は、より大きな多糖(約10000ダルトン)の形態でなければならないと思われる。
【0154】
一方、表6、7(実施例3)及び9(実施例5)は、α-1,3及びα-1,6結合を含むオリゴ糖がグルコシルトランスフェラーゼ反応において不溶性α-1,3-グルカンの収率を有意に増加させることができることを示している。これらのデータ、そしてα-1,6結合のみを有するオリゴ糖がα-1,3-グルカン生成物の収率に有意に影響しなかったこと(表11)に基づくと、表5のオリゴ糖のα-1,3結合成分が不溶性α-1,3-グルカン生成物の収率を向上させるために必要であると思われる。
【0155】
したがって、オリゴ糖はグルコシルトランスフェラーゼ反応における不溶性α-1,3-グルカンの収率を向上させるために、少なくともいくらかのα-1,3グリコシド結合の画分を含有しなければならない可能性が高い。
【0156】
実施例7
Α-1,3-グルカン合成反応におけるオリゴ糖の単離と再利用
この実施例は、グルカン重合反応から生成されたオリゴ糖を使用して、重合反応の実施を複数回繰り返す間、一貫してグルカン生成物の収率を高めることができることを開示する。
【0157】
第1のグルカン合成反応物は以下のように調製した。スクロース(75g)を秤量し、LAUDA RK20再循環冷却器に接続した1Lのバッフルなしジャケット付きフラスコ中で脱イオン水で0.75Lに希釈した。次いで、FermasureTMを添加し(0.5mL/L反応物)、5wt%水酸化ナトリウム水溶液又は5wt%硫酸水溶液を用いてpHを5.5に調節した。グルカン重合反応(表5、実施例2)から得られた精製オリゴ糖を、DP2+の全濃度が約5g/Lになるまで調製物に添加した。4枚のPTFEブレードに取り付けたオーバーヘッドメカニカルモーターを用いて調製物を撹拌し、温度を25℃に制御した。粗GTFJ酵素(配列番号2)抽出物を0.3vol%の添加することによって、重合反応を開始させた。反応が完了したことをHPLCによって決定した後、不溶性ポリマー生成物を濾過によって単離した。次いで、ポリマー生成物を水(1.5L)で洗浄し、次いで、アセトン(0.5L)で洗浄し、次いで、真空オーブンで乾燥させた。乾燥α-1,3-グルカン生成物の質量を記録した。
【0158】
反応物からの濾液を、ロータリーエバポレーターを用いて約30wt%の乾燥固体に濃縮した。この濾液の25mL画分を、AEKTA EXPLORERシステム(General Electric、Fairfield、CT)を用いたカラムクロマトグラフィーにより精製した。クロマトグラフ分離の実施条件を表12にまとめる。
【0159】
【0160】
クロマトグラフィーから単離した画分を10mLずつ回収し、HPLCで分析した。オリゴ糖を含有する画分を合わせ、40℃で回転蒸発によって濃縮した。
【0161】
次いで、これらの精製されたオリゴ糖を、第1の反応(上記)のプロトコールに従って、新たなグルカン合成反応(実施例7.1、表13)のオリゴ糖源として使用した。約5g/Lのオリゴ糖を反応に提供した。この反応が完了した後、オリゴ糖(DP2+)を上記のプロトコールによりその反応から精製し、次の反応に使用した。直前の反応から精製されたオリゴ糖(DP2+)を含むグルカン重合反応を実行するこのサイクルをさらに4回繰り返した。すなわち、実施例7.1の反応からのオリゴ糖を実施例7.2の反応に添加し、実施例7.2の反応からのオリゴ糖を実施例7.3の反応に添加し、実施例7.3の反応からのオリゴ糖を実施例7.4の反応に添加し、実施例7.4の反応からのオリゴ糖を実施例7.5の反応に添加した。これらの実験からのデータを表13にまとめたが、これは、反応にオリゴ糖を添加しなかった比較例7Aよりα-1,3-グルカンの収率が向上したことを示した。
【0162】
【0163】
したがって、表13に示した結果に基づけば、グルカン重合反応から生成されたオリゴ糖(DP2+)を使用して、重合反応の実施を複数回繰り返す間、一貫してグルカン生成物の収率を大きく高めることができる。
【0164】
実施例8
改良GTF酵素を用いたグルカン重合反応
この実施例は、改良グルコシルトランスフェラーゼによって触媒されるα-1,3-グルカン合成反応において生成される濾液のオリゴ糖組成物を開示する。
【0165】
約100%のα-1,3結合を有するα-1,3-グルカンを生成するS.サリバリウス(S.salivarius)グルコシルトランスフェラーゼ酵素のアミノ酸配列を、この酵素が、酵素の未改変の対応するものと比較してスクロース基質からより多くの生成物(α-1,3-グルカン及びフルクトース)とより少ない副生物(例えば、グルコース、オリゴ糖(ロイクロース、DP2~7グルコオリゴ糖など))とを製造できるように、その触媒ドメインを改変した(米国特許出願公開第2018/0072998号明細書(参照により本明細書に組み込まれる)を参照)。
【0166】
改良グルコシルトランスフェラーゼを使用するα-1,3-グルカン合成反応を、水に溶解したスクロースの白い結晶を94g/L含む5000ガロンのステンレス鋼容器中で行った。反応のpHは、緩衝液として10mMのリン酸カリウムを使用して維持し、2NのH2SO4を使用して5.5に調節した。反応中の汚染を防止するために、抗菌剤のFermaSure(登録商標)XLを100ppmvで添加した。反応器は、33rpmに設定された3枚の傾斜ブレードインペラーを備えており、そして反応器のジャケットに流すことによって23℃に制御した。反応は、30ポンドの改良グルコシルトランスフェラーゼ酵素を添加することにより反応を開始させ、スクロース濃度が2g/L未満に到達した14時間後に完了したと見なした。反応の終了時、外部の熱交換器を使用して、30分間にわたり65℃まで反応の内容物を加熱することにより、グルコシルトランスフェラーゼ酵素を失活させた。
【0167】
反応で生成した不溶性のポリα-1,3-グルカンポリマー(すなわち、不溶性画分)を、フィルタープレスを使用して可溶性画分から分離し、それにより濾液を得た。表14に濾液の炭水化物含量(dwb)を示す。
【0168】
【0169】
強酸カチオン交換樹脂を用いるクロマトグラフ分離を使用して、濾液のオリゴ糖画分を単離した。この分離のために使用したカラムの物理的なパラメーターは表15に記載されている。
【0170】
【0171】
それに応じて、イオン交換水道水を用いて、濾液を乾燥固体30g/溶液100gに改質した。カラム樹脂にこの改質した濾液を入れる前に、樹脂をナトリウム形態へ変換するために、樹脂を6ベッド体積(BV)の塩化ナトリウム溶液(10wt%の塩化ナトリウムで3BV、その後に5wt%の塩化ナトリウムで3BV)で洗浄した。次いで、この改質濾液(15L)をカラムに供給し、その後、カラムを、イオン交換水を使用し、30L/hの流量及び70℃のカラム温度で溶出した。
【0172】
オリゴ糖溶液は140~185分にわたって溶出させ、回収した。このように調製したオリゴ糖画分をHPLCにより分析してその生成物分布を決定した。簡潔に記すと、屈折率検出計を備えたAgilent 1260 HPLCを使用してオリゴ糖画分の組成を測定した。オリゴ糖の分離は、溶離液として水を用いるBioRad AMINEX HPX-42Aカラムを使用して、85℃及び0.6mL/分の流量で行った。オリゴ糖のプロファイルを表16に示す。
【0173】
【0174】
表16に記載のオリゴ糖画分に対して、部分メチル化アルジトールアセテート(PMAA)分析(Pettolino et al.,Nature Protocols 7:1590-1607中の方法に従う)及びGC-MSによる分析を行った。簡潔に記すと、ヒドロキシル基をメチル化するために試料をDMSOアニオン及びヨードメタンで処理し、次いでトリフルオロ酢酸で加水分解した。その後、切断されたグリコシド結合から生じるヒドロキシル基を無水酢酸でアセチル化し、得られたグルシトールをGC/MSにより分析した。オリゴ糖は、表17に記載されている分布を有することが分かった(この中の全ての結合はαであると考えられる)。主要な結合はα-1,3であった。このオリゴ糖画分中に末端フルクトースは検出されなかった。
【0175】
【0176】
したがって、改良グルコシルトランスフェラーゼを使用するグルカン合成反応からの濾液中に存在するDP2+オリゴ糖を特徴付けられた。このようなオリゴ糖又はそれらを含む濾液は、現在開示されているように、グルコシルトランスフェラーゼ反応を行うための添加オリゴ糖の供給源として使用することができる。
【0177】
実施例9
α-1,3-グルカン合成反応に及ぼすグルコース、ロイクロース、フルクトース又はグルコオリゴ糖添加物の効果
この実施例は、α-1,3-グルカンを合成するための酵素反応に対する種々の糖又はオリゴ糖の個々の効果の比較を開示する。上記のデータ(例えば、実施例3、5、7)と一致して、この実施例は、α-1,3-グルカン合成反応へ特定のオリゴ糖を添加することにより、生成物の収率を高めることができることを示す。さらに、この高収率の反応のα-1,3-グルカン生成物は、固有粘度を有意に低下させた。
【0178】
100g/Lのスクロース/10mMのKH2PO4溶液(500mL、水酸化ナトリウム又は硫酸でpHを5.5に調節)を、オーバーヘッド撹拌しながら使用される個々の500mLレジンケトルに添加した。次いで、以下の物質を添加した: グルコース10g/Lまで、ロイクロース10g/Lまで、精製グルコオリゴ糖10g/Lまで(実施例8と同様に製造)、フルクトース5g/Lまで、フルクトース10g/Lまで、フルクトース15g/Lまで、又はフルクトース30g/Lまで。1つのケトルには、いかなる追加の材料も入れず、対照として設定した。各ケトルの温度を25℃に調節した。次いで、実施例8で使用したグルコシルトランスフェラーゼ酵素のアリコート(610μL)を添加することによって各反応を開始させ、適度に撹拌しながら25℃で約16時間反応させた。次いで、各反応から試料を採取し、遠心分離し、HPLCにより糖含量を液体分析した。次いで、各反応で生成した不溶性α-1,3-グルカンを濾過し、約1Lの水で洗浄し、45℃の真空オーブン中で数日間乾燥させた。反応濾液を廃棄した。
【0179】
各反応において99%を超えるスクロースが変換された。表18は、各反応のα-1,3-グルカン収率をHPLC基準(グルコシル消費量の差)及び乾燥固体重量基準で示す。これらの収率測定値は両方とも、互いにかなり一致していた。
【0180】
【0181】
表18は、α-1,3-グルカンの収率がグルコースの添加によって減少し(実施例4と一致)、又はフルクトースの量の増加と共に減少したことを示し、後者はロイクロース副生物の収率を高める働きがあった(データは示さず)。ロイクロースの添加は効果を有さなかったが、別個のグルコシルトランスフェラーゼ反応から精製されたグルコオリゴ糖の添加はα-1,3-グルカンの収率を高めた。
【0182】
上記反応のいくつかで生成したα-1,3-グルカンの分子量(DPw)及び固有粘度(η、mL/gで示す)(「IV」と略す)を測定し、表19に示す。本実施例におけるIVの測定は、米国特許出願公開 第2017/0002335号明細書(参照により本明細書に組み込まれる)にしたがって行われた。
【0183】
【0184】
表19は、α-1,3-グルカンのIVが、別個のグルコシルトランスフェラーゼ反応から精製されたグルコオリゴ糖を添加することにより有意に低下することを示している。このα-1,3-グルカンのDPwも減少したが、他の添加物もDPwを減少させ、しかしIVは有意に低下させなかったので、この変化がIV低下の原因であるとは考えられない。これは、例えば、フルクトースの添加(30g/L)で全く明らかであり、それはα-1,3-グルカンのDPwは実質的に同様に減少させたが、IVに対しては顕著な影響はなかった。
【0185】
したがって、α-1,3-グルカン合成反応のグルコオリゴ糖副生物を新しいα-1,3-グルカン合成反応に添加することにより、新しい反応によって生成されるα-1,3-グルカンの(i)収率を高め、且つ(ii)IVを低下させることができる。
【0186】
実施例10
グルコオリゴ糖の添加を欠く又は含むグルコシルトランスフェラーゼ反応で生成されるα-1,3-グルカンの比較
この実施例は、α-1,3-グルカン重合反応から生成したグルコオリゴ糖の添加を使用して、そうでなければ添加されたグルコオリゴ糖を有さない反応で生成されたα-1,3-グルカンよりも低い水性スラリー粘度及び低い溶解ポリマー溶液粘度を有するα-1,3-グルカン生成物を得ることができることを開示する。
【0187】
本実施例で調製した各反応では、実施例8で使用したグルコシルトランスフェラーゼを使用した。
【0188】
グルコオリゴ糖を添加しない第1のα-1,3-グルカン反応を、オーバーヘッド撹拌及び一定温度を維持するための外部冷却器/加熱器を有する4Lジャケット付きガラス反応器中で調製した。2412gの水に299gのスクロースを添加することによって反応媒体を調製し、その後、3.54gのリン酸カリウム及び130μLのFermasure(登録商標)を添加し、次いで、水酸化ナトリウム又は硫酸を使用して溶液のpHを5.5に調節した。3枚の45°の傾斜ブレードのインペラーを用いて250rpmで連続して撹拌しながら、反応器を20℃の一定温度に維持した。撹拌溶液に0.1vol%のグルコシルトランスフェラーゼ酵素溶液を添加することによって反応を開始させた。スクロースが5g/L未満になった時点で反応を完了させ、その後、反応器全体を65℃超で少なくとも1時間加熱し、続いて室温まで冷却した。
【0189】
第1の反応で生成したα-1,3-グルカンを、濾紙を備えた真空ブフナー漏斗で濾過し、濾液(グルコオリゴ糖を含有する)を回収して、次の反応に使用した。次いで、α-1,3-グルカンケーキを8Lを超える水で洗浄し、濾過して、α-1,3-グルカンから糖を分離して、10wt%を超える固形分を有するケーキを得た(それに応じて固形分パーセントを測定した)。
【0190】
第1の反応からの780gの濾液及び1632gの水に299gのスクロースを添加することによって、同じ反応容器中で第2の反応を調製した。濾液は1.03gのリン酸カリウムを含んでいたので、第2の反応には2.51gのリン酸カリウムを添加した。溶液を混合し、温度を20℃に制御し、続いて130μLのFermasure(登録商標)及び0.1vol%のグルコシルトランスフェラーゼ酵素溶液を添加した。第1の反応の加熱及び濾過工程を、第2の反応で繰り返した。
【0191】
第2の反応から回収した濾液を使用する以外は第2の反応の繰り返しである第3の反応を設定した。表20に、第1~第3の反応(それぞれ、反応1~3)のそれぞれの成分をまとめる。
【0192】
【0193】
第1、第2及び第3の反応のそれぞれのα-1,3-グルカン生成物の水性スラリー粘度を、最初にグルカンケーキに十分な水を加えて4wt%の水性混合物を作製し、次いで混合物を均質化することによって測定した。次いで、各混合物の粘度をレオメーターを用いて20℃で測定し、剪断速度を7s
-1から200s
-1に上昇させ、センチポアズ(cP)で粘度を測定した。測定結果を
図2に示すが、図は、第1~第3の反応で連続的に製造されたα-1,3-グルカン生成物の水性スラリー粘度の減少を示している。
【0194】
DMAc/0.5%LiCl中に10mg/mLの濃度まで溶解した後、第1~第3の反応のα-1,3-グルカン生成物のそれぞれの分子量(DPw)及び固有粘度(IV)を測定した(表21、それぞれ、反応1~3)。
【0195】
【0196】
したがって、上記の実施例9の結果と一致し、α-1,3-グルカン合成反応のグルコオリゴ糖副生物を新しいα-1,3-グルカン合成反応に添加することにより、新しい反応によって生成されるα-1,3-グルカンの粘度(水性スラリー及び溶解ポリマーの両形態で測定される)を低下させることができる。
【0197】
実施例11
グルコオリゴ糖をバッチ法又はフェドバッチ法で添加するグルコシルトランスフェラーゼ反応で生成されるα-1,3-グルカンポリマーの比較
この実施例は、α-1,3-グルカン重合反応から生成されたグルコオリゴ糖の添加がバッチ又はフェドバッチ式のさらなる反応に使用し得ることを開示する。特に、この実施例は、α-1,3-グルカン重合反応(フェドバッチ添加)の過程でグルコオリゴ糖を添加すると、反応時間に生成されるグルカンポリマーの粘度が低下することを開示している。しかし、反応の終わりに生成される最終α-1,3-グルカンポリマーは、添加するグルコオリゴ糖の全てが反応の開始時にバッチに提供される反応(バッチ添加)で生成されるα-1,3-グルカンポリマーよりも高い粘度を有する。フェドバッチ式反応のポリマー生成物の最終固有粘度(IV)がより高いのは、バッチ反応のそれと比較して反応初期のグルコオリゴ糖濃度がより低いことによるものと思われる。
【0198】
本実施例で調製した各反応では、実施例8で使用したグルコシルトランスフェラーゼを使用した。これらの反応に使用したグルコオリゴ糖は、例えば、実施例10で調製したようなグルコシルトランスフェラーゼ反応濾液の形態で提供した。
【0199】
フェドバッチ反応は、オーバーヘッド撹拌及び一定温度を維持するための外部冷却器/加熱器を有する4Lジャケット付きガラス反応器中で調製した。1656gの水に260gのスクロースを添加することによって反応媒体を調製し、その後、2.51gのリン酸カリウム及び130μLのFermasure(登録商標)を添加し、次いで、水酸化ナトリウム又は硫酸を使用して溶液のpHを5.5に調節した。3枚の45°の傾斜ブレードのインペラーを用いて200rpmで連続して撹拌しながら、反応器を23℃の一定温度に維持した。撹拌溶液に0.1vol%のグルコシルトランスフェラーゼ酵素溶液を添加することによって反応を開始させた。反応開始後、78mL/hrの速度でグルコオリゴ糖を添加した。最初の6時間は毎時間反応器から試料を取り出し、各試料中のα-1,3-グルカン生成物を濾過によって液体から分離し、次いで、水で3回洗浄した。スクロースが5g/L未満になった時点で反応を完了させ(約22時間)、その後、反応器全体を65℃超で少なくとも1時間加熱し、続いて室温まで冷却した。
【0200】
1656gの水及び780gのグルコオリゴ糖を含有する液体と混合した260gのスクロースを用いて、同じ反応容器中でバッチ反応を調製した。溶液を混合し、温度を20℃に制御し、続いて、130μLのFermasure(登録商標)及び0.1vol%のグルコシルトランスフェラーゼ酵素溶液を添加した。試料を入手し、処理し、フェドバッチ反応で行ったのと同じ方法で反応を停止させた。
【0201】
表22は、フェドバッチ反応及びバッチ反応中のグルコオリゴ糖濃度の変化を示し、初期グルコオリゴ糖濃度がフェドバッチ反応と比較してバッチ反応において初期には高かったことが確認される。
【0202】
【0203】
DMAc/0.5%LiCl中に10mg/mLの濃度まで溶解した後、フェドバッチ反応及びバッチ反応のそれぞれのα-1,3-グルカン生成物の分子量(MW)及び固有粘度(IV)を測定した(表23及び24)。
【0204】
【0205】
表23は、フェドバッチ反応の時間の関数としてα-1,3-グルカンポリマー粘度の減少があったことを示している。しかしながら、フェドバッチ最終α-1,3-グルカン粘度は、バッチ最終α-1,3-グルカン粘度よりも高かった(両方とも22時間の時点で測定、表23)。
【0206】
【0207】
したがって、上記の実施例9~10の結果と一致し、バッチ式又はフェドバッチ式のα-1,3-グルカン合成反応のグルコオリゴ糖副生物を新しいα-1,3-グルカン合成反応に添加することにより、新しい反応によって生成されるα-1,3-グルカンの粘度を低下させることができる。しかしながら、このようなバッチ式の添加がポリマー粘度の低下に対してより大きな効果を有することは注目すべきことである。
【0208】
実施例12
様々な温度でグルコオリゴ糖を添加したグルコシルトランスフェラーゼ反応で生成されたα-1,3-グルカンポリマーの比較
この実施例は、α-1,3-グルカン重合反応から生成したグルコオリゴ糖を、様々な温度で他のα-1,3-グルカン重合反応に添加すると、後者の反応のグルカンポリマー生成物の粘度が低下することを開示している。この粘度の変化は、反応温度が低いほど有意に高かった。
【0209】
本実施例で調製した各反応では、実施例8で使用したグルコシルトランスフェラーゼを使用した。これらの反応に使用したグルコオリゴ糖は、例えば、実施例10で調製したようなグルコシルトランスフェラーゼ反応濾液の形態で提供した。
【0210】
反応は、オーバーヘッド撹拌及び一定温度を維持するための外部冷却器/加熱器を有する500mLジャケット付きガラス反応器中で行った。469gの水に50gのスクロースを添加することによって反応媒体を調製し、その後、0.68gのリン酸カリウム及び25μLのFermasure(登録商標)を添加し、次いで、水酸化ナトリウム又は硫酸を使用して溶液のpHを5.5に調節した。3枚の45°の傾斜ブレードのインペラーを用いて200rpmで連続して撹拌しながら、反応器を一定温度に維持した。撹拌溶液に0.1vol%のグルコシルトランスフェラーゼ酵素溶液を添加することによって各反応を開始させた。スクロースが5g/L未満になった時点で各反応を完了させ、その後、反応器全体を65℃超で少なくとも1時間加熱し、続いて室温まで冷却した。
【0211】
反応(1~9)は、3種類の温度及び3種類の濃度のグルコオリゴ糖を用いて行った。グルコオリゴ糖濃度は、前のα-1,3-グルカン重合からの適切な量の濾液を添加することによって変化させた。各反応に加えた液体は、水と濾液の適切な混合物であった。表25は、反応1~9の反応温度及び初期グルコオリゴ糖濃度を示す。全ての反応が完了した後、α-1,3-グルカン生成物を濾過し、1Lを超える水で洗浄して、10wt%を超える固形分を有するグルカン湿潤ケーキを調製した。各ケーキをDMAc/0.5%LiCl中に10mg/mLの濃度に溶解し、その後、グルカンポリマー生成物の分子量及び固有粘度を測定した(表25)。
【0212】
【0213】
表25は、α-1,3-グルカン生成物粘度は、初期グルコ-オリゴ糖濃度がより高い反応(同じ温度で保持)においてより低く、上記の結果と一致することを示している。この粘度変化は、明らかに、より低い温度に保持された反応においてより顕著であった(百分率で)。
【0214】
実施例13
グルコオリゴ糖を遅延添加するグルコシルトランスフェラーゼ反応において生成されるα-1,3-グルカンポリマー
この実施例は、α-1,3-グルカン重合反応から生成されたグルコ-オリゴ糖を、別のα-1,3-グルカン重合反応に、その後者の反応が開始した(グルコシルトランスフェラーゼ酵素の添加によって開始した)4時間後に添加すると、グルコ-オリゴ糖を添加しないα-1,3-グルカン重合反応と同様の粘度を有するグルカンポリマーを生成することを開示する。
【0215】
本実施例で調製した反応では、実施例8で使用したグルコシルトランスフェラーゼを使用した。この反応に使用したグルコオリゴ糖は、例えば、実施例10で調製したようなグルコシルトランスフェラーゼ反応濾液の形態で提供した。
【0216】
反応は、オーバーヘッド撹拌及び一定温度を維持するための外部冷却器/加熱器を有する500mLジャケット付きガラス反応器中で調製した。364gの水に46gのスクロースを添加することによって反応媒体を調製し、その後、0.44gのリン酸カリウム及び20μLのFermasure(登録商標)を添加し、次いで、水酸化ナトリウム又は硫酸を使用して溶液のpHを5.5に調節した。3枚の45°の傾斜ブレードのインペラーを用いて150rpmで連続して撹拌しながら、反応器を19℃の一定温度に維持した。撹拌溶液に0.1vol%のグルコシルトランスフェラーゼ酵素溶液を添加することによって反応を開始させた。反応開始の4時間後、11.5gのスクロース、0.11gのリン酸カリウム、及び100gのグルコオリゴ糖を含む液体を反応に添加した。スクロースが5g/L未満になった時点で反応を完了させ、その後、反応器全体を65℃超で少なくとも1時間加熱し、続いて室温まで冷却した。
【0217】
反応が完了した後、α-1,3-グルカン生成物を濾過し、1Lを超える水で洗浄して、10wt%を超える固形分を有するグルカン湿潤ケーキを調製した。ケーキをDMAc/0.5%LiCl中に10mg/mLの濃度に溶解し、その後、グルカンポリマー生成物の分子量及び固有粘度を測定した(表26)。
【0218】
【0219】
α-1,3-グルカン重合反応から生成されたグルコ-オリゴ糖を、別のα-1,3-グルカン重合反応に、その後者の反応が開始したいくらか後に添加すると、グルコ-オリゴ糖を少量添加しただけのα-1,3-グルカン重合反応と同様の粘度を有するグルカンポリマーを生成することが、表26から明らかである。
【配列表】