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特許7208927皮膚における温度感受性を指標とした皮膚状態の決定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-11
(45)【発行日】2023-01-19
(54)【発明の名称】皮膚における温度感受性を指標とした皮膚状態の決定方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20230112BHJP
【FI】
A61B5/00 M ZDM
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019569102
(86)(22)【出願日】2019-01-28
(86)【国際出願番号】 JP2019002804
(87)【国際公開番号】W WO2019151197
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2018014007
(32)【優先日】2018-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】斉 覬
(72)【発明者】
【氏名】藤原 重良
(72)【発明者】
【氏名】青木 宏文
(72)【発明者】
【氏名】針谷 毅
【審査官】鷲崎 亮
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-514947(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0313314(US,A1)
【文献】特開2017-006554(JP,A)
【文献】特開2015-024065(JP,A)
【文献】特開2010-000138(JP,A)
【文献】特開2008-113876(JP,A)
【文献】特開平07-275210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/01
A61K 8/96
A61Q 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容上又は化粧上の皮膚状態決定するために、皮膚における温度感受性の指標を決定する方法。
【請求項2】
温度感受性が、温度変化を感知した時点における、皮膚温からの温度差により決定される、請求項1に記載の法。
【請求項3】
予め作成された温度差と、皮膚状態との関係に基づいて、皮膚状態が決定される、請求項2に記載の法。
【請求項4】
皮膚状態を、経皮水分蒸散量により表す、請求項1~3のいずれか一項に記載の法。
【請求項5】
皮膚状態が、皮膚バリア状態である、請求項1~4のいずれか一項に記載の法。
【請求項6】
温度感受性が、皮膚温より高い温度に対する感受性である、請求項1~5のいずれか一項に記載の法。
【請求項7】
前記皮膚が、顔面、腕、背中、及びお腹からなる群から選ばれる少なくとも1の箇所の皮膚である、請求項1~6のいずれか一項に記載の法。
【請求項8】
温度変化可能なプローブ、データ処理部、入力部、及び出力部を備える皮膚状態の決定システムであって、
前記プローブが、所定の温度から温度を変化させ、
入力部が、温度変化を感知した旨の信号を受け、
データ処理部が、当該信号の入力時点の前記プローブの温度に基づき、皮膚状態を決定し、
出力部が、美容上又は化粧上の皮膚状態を出力する、前記決定システム。
【請求項9】
前記所定の温度が、皮膚温である、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記皮膚状態の決定が、決定された温度と皮膚温との温度差に基づいて決定される、請求項8又は9に記載のシステム。
【請求項11】
データ処理部が、予め作成された温度差と皮膚状態との関係に基づいて、皮膚状態を決定する、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記皮膚状態を、経皮水分蒸散量により表す、請求項8~11のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項13】
前記皮膚状態が、皮膚バリア状態である、請求項8~12のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項14】
温度感受性が、皮膚温より高い温度に対する感受性である、請求項8~13のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項15】
前記皮膚状態が、顔面、腕、背中、及びお腹からなる群から選ばれる少なくとも1の箇所の皮膚の状態である、請求項8~14のいずれか一項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚状態の決定の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、生体の最外層に存在することから、常に外界からの刺激にさらされている。外界からの刺激としては、創傷、紫外線や温度などの物理的な刺激の他、化学物質や抗原性物質による刺激も含まれる。このような刺激により、皮膚状態、特に皮膚バリア機能は大きく影響をうける。皮膚バリア機能は、経表皮水分蒸散量(TEWL)により主に測定することができ、TEWL値が高いほど、皮膚バリア機能が低下する。皮膚バリア機能には、ケラチノサイトの角化、細胞間脂質、及び天然保湿因子などが影響すると考えられている。正常な皮膚では、表皮の角質細胞が角化する過程で、フィラグリンとともにケラチン線維の凝集が生じ、またセラミド、コレステロール、脂肪酸といった細胞間脂質や天然保湿因子が細胞外に分泌される。角質細胞の角化の過程が、皮膚バリア機能に寄与すると考えられている。皮膚バリア機能は、掻傷、冷水や冷気への接触、及び乾燥などの物理的な刺激によって低下し、また化学物質や抗原性物質などへの暴露によっても低下する。例えば、花粉症を引き起こすスギ花粉は、表皮細胞に発現する膜タンパク質であるPAR2タンパク質の活性化を介して、セラミド、コレステロール、脂肪酸といった、細胞間脂質を含む層板顆粒(lamellar granule)を減少させ、それにより皮膚バリア機能の低下を招く(非特許文献1:Arch Dermatol Res 308:49-54, 2016)。
【0003】
TEWLの計測には、主に開放系と閉鎖系の測定方法がある。開放系では、皮膚表面の湿度を直接測るが、閉鎖系では皮膚表面に乾燥した空気や窒素ガスを還流させることで、水分量を測定する。したがって、発汗を起こす条件下では正確なTEWLの測定ができず、測定の際には、恒温、恒湿、無風条件での測定が推奨されている。また、皮膚機能以外の生理条件、例えば皮膚の水分量からの影響を受けやすいことから、正確な値を測定することが困難であった(非特許文献2:化粧品辞典、439頁;http://www.sccj-ifscc.com/terms/detail.php?id=35)。具体的に、皮膚バリア機能が同程度であったとしても、皮膚の水分量が低い際には、水分蒸散量が低く、皮膚バリア機能が高いと判定される一方で、皮膚の水分量が高い場合には、水分蒸散量が高くなり、皮膚バリア機能が低いと判定される傾向がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Arch Dermatol Res 308:49-54, 2016
【文献】化粧品辞典 (日本化粧品技術社会編)、439頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
皮膚バリア機能の測定に用いられているTEWL法とは異なる原理で、より簡便かつ正確に皮膚状態を測定する方法の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、皮膚状態を測定する方法について鋭意研究を行ったところ、皮膚における温度感受性を指標とすることで、皮膚状態、特に皮膚バリア機能を決定できることを見出し、本発明に至った。
【0007】
具体的に、本発明は以下の発明に関する:
[1] 皮膚における温度感受性を指標とした、皮膚状態の決定方法。
[2] 温度感受性が、温度変化を感知した時点における、皮膚温からの温度差により決定される、項目1に記載の皮膚状態の決定方法。
[3] 予め作成された温度差と皮膚状態との関係に基づいて、皮膚状態が決定される、項目2に記載の皮膚状態の決定方法。
[4] 皮膚状態を、経皮水分蒸散量により表す、項目1~3のいずれか一項に記載の皮膚状態の決定方法。
[5] 皮膚状態が、皮膚バリア状態である、項目1~4のいずれか一項に記載の皮膚状態の決定方法。
[6] 温度感受性が、皮膚温より高い温度に対する感受性である、項目1~5のいずれか一項に記載の皮膚状態の決定方法。
[7] 温度変化可能なプローブ、データ処理部、入力部、及び出力部を備える皮膚状態の決定システムであって、
前記プローブが、所定の温度から温度を変化させ、
入力部が、温度変化を感知した旨の信号を受け、
データ処理部が、当該信号の入力時点の前記プローブの温度に基づき、皮膚状態を決定し、
出力部が、皮膚状態を出力する、前記決定システム。
[8] 前記所定の温度が、皮膚温である、項目7に記載のシステム。
[9] 前記皮膚状態の決定が、決定された温度と皮膚温との温度差に基づいて決定される、項目7又は8に記載のシステム。
[10] データ処理部が、予め作成された前記温度差と、皮膚状態との関係に基づいて、皮膚状態を決定する、項目9に記載のシステム。
[11] 前記皮膚状態を、経皮水分蒸散量により表す、項目7~10のいずれか一項に記載のシステム。
[12] 前記皮膚状態が、皮膚バリア状態である、項目7~11のいずれか一項に記載のシステム。
[13] 温度感受性が、皮膚温より高い温度に対する感受性である、項目7~12のいずれか一項に記載のシステム。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、皮膚状態の決定が可能となる。また、温度感受性を指標とすることで、従来のTEWL値を用いた場合に比較し、より皮膚状態の実態に則して分類することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、日本人の被験者に対し、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)の適用により微弱炎症を起こした部位と、無処置部位における、TEWL値(1)、変化感知温度差(2)、温度感知温度差(3)を示したグラフである。
図2図2は、秋田、北京、広州、バンコクの四都市における被験者に対し、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)の適用により微弱炎症を起こした部位と、無処置部位における、TEWL値(1)、変化感知温度差(2)、温度感知温度差(3)を示したグラフである。
図3図3は、スパースクラスタリングにより、温度感受性が高い群と、低い群とを分類したことを示し(1)、各群におけるTEWL値を比較したグラフである(2)。図3(3)は、各群について、温度感受性(変化感知温度差)とTEWL値とを散布図により示したグラフである。
図4図4は、温度感受性の高い群と、温度感受性の低い群とにおいて肌状態を比較した結果を示す。図4(1)は、温度感受性の高い群と、温度感受性の低い群において、自分の肌状態が乾燥肌と認知している対象の割合を示す(1)。図4(2)と(3)は、温度感受性の高い群と、温度感受性の低い群における皮膚満足度(%)(2)、および水分含有量(a.u.)(3)を示す。
図5図5は、温度感受性(変化感知温度差(℃))を指標に基づいて分類した場合における、TEWL値(1)と、乾燥肌についてのアンケート結果(2)とを示すグラフである。
図6図6は、TEWL値を指標に分類した場合における、乾燥肌についてのアンケート結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の1の態様は、皮膚における温度感受性を指標とした、皮膚状態の決定方法に関する。皮膚状態を調べる対象の皮膚において、皮膚状態が決定される。皮膚状態とは、健全の状態から荒れ、乾燥肌、炎症などの状態のことをいう。温度感受性を、経皮水分蒸散量と相関させることができる。皮膚状態の一例として皮膚バリア機能を決定することもできる。
【0011】
皮膚状態を決定する部位は、皮膚の任意の箇所であってよく、一例として、顔面、腕、背中、お腹の皮膚において、皮膚状態が決定されうる。本発明の皮膚状態の決定は、美容上又は化粧上での皮膚状態の決定にあたり、かかる方法は、美容室や、化粧品の販売店、エステサロンなどで行われてもよく、非診断的方法、又は診断補助方法ということもできる。
【0012】
温度感受性は、温度変化可能なプローブを備える測定機器を用いることで、決定することができる。具体的には、皮膚表面温度に設定したプローブを被験者の皮膚に接触させ、温度を変化させ、被験者が温度変化を感知した温度から、温度感受性が決定することができる。皮膚表面温度は、通常であれば33℃を用いることができる。一方で、被験者の状態、周囲環境、及び部位において皮膚表面温度は変化しうることから、皮膚に接触されたプローブを皮膚温にあわせる前工程を含んでもよい。かかる前工程は、測定機器において皮膚温を測定してプローブの温度を合わせてもよいし、十分な馴化期間を置くことで、プローブの温度を皮膚温にあわせてもよい。
【0013】
皮膚温と、温度変化を感知した時点のプローブの温度との温度差を温度感受性の指標とすることができる。ヒトは、皮膚における温度変化を刺激として感知するが、その際、温度上昇/低下の感知は温度変化の感知よりも遅くなる。したがって、単に変化を感知した時点と、温度の上昇/低下を感知した時点は区別することができる。皮膚温と温度変化を感知した時点のプローブの温度との温度差を変化感知温度差とし、皮膚温と温度上昇/低下を感知した時点との温度差を温度感知温度差とし、変化感知温度差と温度感知温度差とを併せて感知温度差と定義する。感知温度差と皮膚状態との関係、好ましくは相関性に基づいて皮膚状態が決定される。皮膚の状態をより正確に決定する観点では、温度変化は、温度の上昇であることが好ましい。このような感知温度差と皮膚状態との関係については、予め皮膚の部位に応じて決定しておくことができる。一例として、様々な被験者群において、予め部位別にTEWL値と感知温度との散布図を作成しておき、近似曲線を得ておくことができるし、予め感知温度により皮膚状態を分類しておくことができる。一例として、所定の温度、例えば1℃、1.5℃、2℃、3℃、及び4℃毎に分類することができる。健常な皮膚を有する対象において、感知温度差は12℃程度であるため、分類する数(例えば6、5、4、3、及び2)に応じて、閾値を決定することができる。例えば、6つの群に分類する場合は、2℃毎に分類することができる。等間隔の温度差で分類してもよいし、異なる間隔で分類することもできる。
【0014】
TEWL値は、人種、年齢、性別、部位などによって変化するものであり、一概に特定の数値以下が健全な皮膚状態を指すということは難しい。日本人の健常者の頬では、通常約10g/(m2・h)であり、腹部、背部、大腿部、上腕部のTEWLは約5g/(m2・h)である。本発明では、非限定的に、皮膚の状態のうち、頬の健全の状態とは、通常TEWL値として10未満であることをいう。荒れの状態とは、頬においてTEWL値として12以上、好ましくは14以上、さらに好ましくは15以上であることをいう。
【0015】
温度変化可能なプローブは、温度センサー、ペルチェ素子を含んでもよく、さらに、熱量束センサーを含んでもよい。温度変化可能なプローブの皮膚との接触部位を、熱伝導性の高い金属板、例えば銅板を用いることができる。温度変化の早さは、任意に選択できる。一例として、0.1℃~10.0℃/秒を用いることができる。測定時間を短縮する観点から、0.3℃/秒以上が好ましく、さらに好ましくは0.5℃/秒以上である。温度変化の感知した時点からのずれを減らす観点から5.0℃/秒以下が好ましく、さらに好ましくは1.0℃/秒以下である。
【0016】
本発明の別の態様では、温度変化可能なプローブ、データ処理部、入力部、及び出力部を備える皮膚状態の決定システムにも関する。より具体的にかかる皮膚状態の決定システムは、下記の工程:
前記プローブが、所定の温度から温度を変化させ、
入力部が、温度変化を感知した旨の信号を受け、
処理部が、当該信号の入力時点の前記プローブの温度に基づき、皮膚状態を決定し、
出力部が、皮膚状態を出力する
を含む。プローブの初期温度は、被験者の皮膚温であることが好ましく、例えば33℃を用いることができる。プローブを対象の皮膚に接触させて、温度を皮膚温に馴化させる前工程をさらに含んでもよい。
【0017】
このシステムは、プローブを対象の皮膚に接触させて作動させる。対象は、プローブの温度変化を感知した際に、入力部から信号を入力する。対象は、温度変化を感知した際に加えて又は代えて、温度上昇/低下を感知した際にも入力部から信号を入力することができる。処理部が、入力部からの信号の入力時点のプローブの温度を決定し、決定された温度に基づき、皮膚状態を決定する。処理部は、所定の温度と、温度変化感知温度との感知温度差を算出し、予め決定された感知温度差と皮膚状態との関係に基づいて、皮膚状態を決定することができる。感知温度差と皮膚状態との関係として、一例としてTEWL値と感知温度との散布図における近似曲線が用いられてもよいし、予め作成された感知温度による皮膚状態の分類を用いてもよい。
【0018】
本発明のシステムは、温度変化可能なプローブ、入力部、出力部としてディスプレイ、処理部としてコンピュータとを備えた、一体型のデバイスとしてもよいし、コンピュータを独立して構成することもできる。かかるコンピュータは、皮膚状態の決定のための情報処理を行うことができる。本発明のコンピュータは、記憶部及び処理部を含む。本発明のさらなる態様では、皮膚状態の決定のためのシステムを制御する方法又は制御するプログラム、並びに当該プログラムを格納する記憶媒体にも関する。
【0019】
処理部は、入力部から入力された信号の時点の温度のデータと、記憶部に記憶された温度と皮膚状態との関係に基づいて、皮膚状態を決定することができる。具体的には、信号入力時の温度を記録し、所定の温度からの感知温度差を決定し、記憶部に記憶された感知温度差と、皮膚状態との関係のデータベースから、皮膚状態を決定することができる。処理部は、記憶部に記憶しているプログラムに従って各種の演算処理を実行する。演算処理は処理部に含まれるプロセッサ(例えば、CPU)によりおこなわれる。処理部は、前述の演算処理を行う他に、入力部、記憶部、温度変化可能なプローブ、及び出力部をそれぞれ制御する機能モジュールを含み、各種の制御を行うことができる。これらの各部は、それぞれ独立した集積回路、マイクロプロセッサ、ファームウェアなどで構成されてもよい。データ処理部により決定された皮膚状態についての情報は、一旦、記憶部に記憶されてもよいし、そのままデータ処理部から出力部に表示させることもできる。
【0020】
記憶部は、RAM、ROM、フラッシュメモリ等のメモリ装置、ハードディスクドライブ等の固定ディスク装置、又はフレキシブルディスク、光ディスク等の可搬用の記憶装置などを有する。記憶部は、入力部から入力されたデータ及び指示、処理部で行った演算処理結果等の他、コンピュータの各種処理に用いられるプログラム、データベースなどを記憶する。コンピュータプログラムは、例えばCD-ROM、DVD-ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体や、インターネットを介してインストールされてもよい。
【0021】
出力部は、データ処理部で演算処理を行って得られた皮膚状態を出力するように構成さる。出力部は、演算処理の結果を直接表示する液晶ディスプレイ、モニター等の表示装置、プリンタ等の出力手段であってもよいし、外部記憶装置への出力又はネットワークを介して出力するためのインターフェース部であってもよい。
【0022】
入力部は、対象が温度変化を感知した際に押すボタンなどであってもよいし、それとは別にキーボード、マウス等の操作部であってもよい。入力部として、別途インターフェース部を含んでもよい。
【0023】
温度センサー、ペルチェ素子、熱量束センサーなどから構成される温度変化可能なプローブは、処理部により制御されており、所定の温度から、規定の温度変化率に基づいて温度を変化させることができるし、温度センサーにより皮膚温の測定もできる。
【0024】
本発明のシステムは、インターフェース部を介してネットワーク上のデータ処理部により、データ処理が行われてもよい。この場合、入力部から入力された信号入力時点の温度に関するデータが、インターフェース部を介して、データ処理部に送られて、データ処理部で皮膚状態を決定し、インターフェース部を介して、皮膚状態に関するデータが送られて、出力部により出力される。
【実施例
【0025】
実施例1:被験者における肌荒れ処置
計測前日に、0.1~4.0%のラウリル硫酸ナトリウム(SLS)を前腕の皮膚に適用し、24時間のパッチテストを行った。この処置により、皮膚に微弱炎症を惹起することができる。24時間経過後、パッチを取り除き、21℃±2℃、湿度46±5%で1時間馴化させた。パッチ適用部を、ICDRG基準により分類した。ICDRG基準において+と判定された箇所を微弱炎症部とした。
【0026】
実施例2:温度感受性の測定
4つの都市(秋田14人、北京12人、広州13人、バンコク22人)の被験者の皮膚の、パッチ適用により微弱炎症部位と、対照部位において、Thermoception Analyzer Intercross-210(インタークロス社)のプローブを接触させて、皮膚温を測定した。プローブ側のセンサーで温度を測定するとともに、温度制御系を用いて熱流束が0となるように調整した。この際の温度を皮膚温とした。プローブの温度を0.3℃/秒の温度変化率で変化させた。その過程で被験者は温度変化を感知した時点及び温度上昇/低下を感知した時点におけるプローブの温度をそれぞれ記録した。記録した温度と、皮膚温との温度差を算出することで、変化感知温度差及び温度感知温度差を決定した。秋田の被験者における結果、並びに4つの都市の被験者における結果を、それぞれ図1及び2に示す。
【0027】
実施例3:TEWL値と温度感受性との関係決定
6か国7都市(秋田:44名、北京:43名、広州:43名、バンコク:47名、サンフランシスコ:42名、リヨン:43名、サンパウロ:49名)の被験者において、TEWL値と温度感受性との関係を調べた。具体的に、洗顔後の被験者の頬において、VapoMeter(Delfin社)を用いてTEWL値を測定した。次いで、同じ箇所において、Thermoception Analyzer Intercross-210(インタークロス社)のプローブを接触させて、上述と同様にして、高温側と低温側の両方において、変化感知温度差及び温度感知温度差を決定した。
【0028】
温度感受性の測定データを解析ソフトRのパッケージ「sparcl」で解析した。KMeansSparseCluster.permute関数を用いてハイパーパラメータを決定し、KMeansSparseCluster関数で該当ハイパーパラメータを用いて温度感受性の高い群と低い群に分類した。なお、ハイパーパラメータの決定方法はグリッドサーチ法を用いてGap統計量が最小となる候補値を選定した。被験者を、温度感受性の高い群と、低い群とに分類した(図3(1))。各群において、TEWLを比較したところ、温度感受性が高い群ではTEWLが有意に高いことが示された(図3(2))。また、各群において、温度感受性(変化感知温度差)とTEWL値との散布図を作成した(図3(3))。
【0029】
実施例4:温度感受性の高い群と、低い群との比較
実施例3で決定した変化感知温度差及び温度感知温度差に基づき、温度感受性の高い群と温度感受性の低い群とに分け、各群における乾燥肌及び皮膚状態満足度に対するアンケート結果を示した(図4(1)、(2))。また、皮膚における水分含有量を測定した結果を比較した(図4(3))。
【0030】
温度感受性の低い群に比較して、温度感受性の高い群において、乾燥肌を実感する割合が多く、また肌への満足度も低いことが示された。
【0031】
実施例5:温度感受性(変化感知温度差)による分類と、皮膚状態との関係
実施例3の実験結果に基づいて、変化感知温度差を指標に被験者群を分類した。具体的に、変化感知温度差が、0~2℃の第1群、2~4℃の第2群、4~6℃の第3群と、2℃刻みで第6群(10~12℃)まで分類した。各群におけるTEWL値の平均を求めグラフに示した(図5(1))。また、各群における乾燥肌についてのアンケート結果を示した(図5(2))。
【0032】
比較例:TEWLによる分類と、皮膚状態との関係
比較例として、実施例3の実験結果に基づいて、TEWLを指標に被験者群を分類した。具体的に、20超の第1群、15~20の第2群、12~15の第3群、10~12の第4群、0~10の第5群に分類した。各群における乾燥肌についてのアンケート結果を示した(図6)。
【0033】
実施例5における温度感受性による分類は、温度感受性が低くなるほど、乾燥肌と自覚する人の割合が減っており、温度感受性と乾燥肌との関連が示された一方で、TEWLによる分類では、乾燥肌との関連を見出せなかった。したがって、皮膚状態の決定方法として、温度感受性を用いた場合、TEWL値を用いた場合よりもより、実際の皮膚状態に即した状態決定が可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6