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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-11
(45)【発行日】2023-01-19
(54)【発明の名称】水素添加石油樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/04 20060101AFI20230112BHJP
   C08F 240/00 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
C08F8/04
C08F240/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020510984
(86)(22)【出願日】2019-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2019013077
(87)【国際公開番号】W WO2019189295
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2018061565
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000157603
【氏名又は名称】丸善石油化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川手 崇裕
(72)【発明者】
【氏名】飯島 義和
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-016946(JP,A)
【文献】特開2004-026969(JP,A)
【文献】国際公開第2015/147027(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/171025(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/04
C08F 240/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物との重合物を触媒存在下で水素添加する水素添加工程を含み、前記触媒が、パラジウム系触媒又はニッケル系触媒である、水素添加石油樹脂の製造方法であって、水素添加工程を以下の(A)~(C)の条件で行う、方法。
(A)前記触媒の使用量が、前記重合物中の樹脂100質量部に対して0.125~0.4質量部である
(B)反応圧力:4MPaG以下
(C)反応温度:240℃以上
【請求項2】
ジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物との重合物が、ジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物とを熱重合して得られたものである、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素添加石油樹脂の製造方法に関する。より詳細には、ジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物との重合物を水素添加する、ジシクロペンタジエン/ビニル芳香族化合物系水素添加石油樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホットメルト接着剤は、接着が速く、無溶剤かつ無害で、対候性、耐熱性、経済性に優れるため、製本、包装、製缶、縫製、衛生材料などの分野に広く用いられている。
一般に、ホットメルト接着剤の構成成分は、ベースポリマー、粘着付与樹脂、可塑剤、充填剤および酸化防止剤などに大別され、中でも、粘着付与樹脂は、ホットメルト接着剤の性能に大きく寄与することが知られている。
【0003】
粘着付与樹脂は、溶融塗布時にヌレやホットタックを付与させ、被着体表面に対する接着性を向上させる。また、ホットメルトにした際の溶融粘度を制御することで、作業性を向上させる、ホットメルト時の耐熱性を調整できるといった特徴を有するため、ホットメルト接着剤に多く配合される。
粘着付与樹脂として用いられる樹脂を大別すると、ロジン、ロジン誘導体、テルペン樹脂、石油樹脂に分類されるが、最近では、紙おむつなどの衛生材料用としての需要から、相溶性や耐熱性、安全性、コストなどに優れた石油樹脂が多く使われている。
石油樹脂としては、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、ジシクロペンタジエン系石油樹脂が良く用いられているが、未水添の樹脂は色相や耐熱性に劣るため、通常、これら石油樹脂を水素添加して用いることが多い。粘着付与樹脂に求められる性質には、粘度、接着性、相溶性、耐熱性、対候性、色相、軟化点、臭気などがあるが、中でも、衛生材料用のホットメルト接着剤として用いる場合には、ベースポリマーとの相溶性と色相が、特に重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3971468号公報
【文献】特許第2762209号公報
【文献】特開2004-359964号公報
【文献】特開2004-189764号公報
【文献】国際公開第2015/147027号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ベースポリマーとの相溶性を改善させようとすると、色相が悪くなる傾向があり、これらがともに良好な水素添加石油樹脂を製造することは難しかった。例えば、一般的な水素添加では、樹脂100質量部に対して触媒が少なくとも0.5質量部程度は使用されていたが(特許文献1~4)、このように多量の触媒を用いた場合には、製造コストが増大するのみならず、ベースポリマーとの相溶性が不良となる傾向がある。
また、水素圧力を大きくすると実装置化における装置コストが増大する原因となるため、低い水素圧力での水素添加の実現も求められている。4MPaG以下の低い水素圧力で水素添加石油樹脂を製造することもこれまでに行われていたが(特許文献5)、特許文献5に開示された低水素圧力・低温度の製法では、水素添加石油樹脂の色相に改善の余地があった。
本発明の課題は、ベースポリマーとの相溶性及び色相の良好な水素添加石油樹脂を、水素圧力4MPaG以下で製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、ジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物との重合物中の樹脂100質量部に対して触媒を0.125~0.4質量部使用して反応温度240℃以上で水素添加することによって、ベースポリマーとの相溶性及び色相の良好な水素添加石油樹脂を、水素圧力4MPaG以下で製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の<1>~<3>を提供するものである。
<1> ジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物との重合物を触媒存在下で水素添加する水素添加工程を含む、水素添加石油樹脂の製造方法であって、水素添加工程を以下の(A)~(C)の条件で行う、方法。
(A)前記触媒の使用量が、前記重合物中の樹脂100質量部に対して0.125~0.4質量部である
(B)反応圧力:4MPaG以下
(C)反応温度:240℃以上
<2> 前記触媒が、パラジウム系触媒又はニッケル系触媒である、<1>に記載の方法。
<3> ジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物との重合物が、ジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物とを熱重合して得られたものである、<1>又は<2>に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、ベースポリマーとの相溶性及び色相の良好な水素添加石油樹脂を、水素圧力4MPaG以下で製造できる。また、低水素圧なだけでなく触媒量も少量であるため、上記のような相溶性及び色相の良好な水素添加石油樹脂を低コストで製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の水素添加石油樹脂の製造方法は、ジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物との重合物を触媒存在下で水素添加する水素添加工程を含む、水素添加石油樹脂の製造方法であって、水素添加工程を以下の(A)~(C)の条件で行う、方法である。
(A)前記触媒の使用量が、前記重合物中の樹脂100質量部に対して0.125~0.4質量部である
(B)反応圧力:4MPaG以下
(C)反応温度:240℃以上
【0010】
ジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物との重合物としては、ジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物とを熱重合して得られたものが挙げられる。
本発明の水素添加石油樹脂の製造方法としては、ジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物とを熱重合する工程(熱重合工程)、次いで得られた重合物を触媒存在下、上記(A)~(C)の条件で水素添加する水素添加工程を含む方法が好ましい。必要に応じて、熱重合工程で得られた重合物から軽質分を除去し(軽質分除去工程)、溶媒を添加(溶媒添加工程)してから水素添加工程を行ってもよい。
以下、各工程について詳細に説明する。
【0011】
(a)熱重合工程
熱重合工程は、ジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物とを熱重合する工程である。ビニル芳香族化合物としては、下記式(1)で示されるビニル芳香族化合物が挙げられる。
本発明の水素添加石油樹脂の製造方法においては、熱重合に先立ち、予備反応を行ってもよい。
予備反応としては、例えば、ジシクロペンタジエンと下記式(1)で示されるビニル芳香族化合物とを反応させ、それらの反応生成物であり下記式(2)で示されるフェニルノルボルネン誘導体を含む反応液を得る反応が挙げられる。
【0012】
【化1】
【0013】
【化2】
【0014】
前記式(1)及び式(2)において、R1は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を示すが、好ましくは水素原子である。
1で示されるアルキル基としては、炭素数1~10のアルキル基が好ましく、炭素数1~7のアルキル基がより好ましい。また、アルキル基は直鎖状でも分岐状でもよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、n-ヘプチル基等が挙げられる。
また、シクロアルキル基としては、炭素数3~7のシクロアルキル基が好ましい。例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。
また、アリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等の炭素数6~12のアリール基が挙げられる。また、アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基等の炭素数7~20のアラルキル基が挙げられる。
【0015】
本発明で用いられるビニル芳香族化合物の具体的な例としては、スチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン等が挙げられ、好ましくはスチレンである。なお、ビニル芳香族化合物には重合禁止剤等の安定化剤が含まれていてもよい。
【0016】
本発明で用いられるジシクロペンタジエンは特に限定されず、例えば、30~100質量%のジシクロペンタジエンを含む高純度ジシクロペンタジエン又は未精製ジシクロペンタジエン留分をジシクロペンタジエン原料として用いることができる。また、ジシクロペンタジエンとシクロペンタジエンの混合物も使用することができる。
【0017】
このようなジシクロペンタジエン原料の中でも、熱重合により得られる樹脂の収量の点では、ジシクロペンタジエンやコダイマー等の反応性成分の濃度が高いものが好ましいが、C5、C6パラフィン等の非反応性成分を含む安価な未精製ジシクロペンタジエン留分も用いることもできる。
【0018】
また、予備反応は、反応溶媒を用いずに行うことも可能であるが、溶媒を添加して組成を調整してもよい。
【0019】
このような溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;シクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン(以下、DMCHと称す)、エチルシクロヘキサン等のナフテン系溶媒等が好適に使用できる。
【0020】
ビニル芳香族化合物とジシクロペンタジエンとの予備反応は、170℃以上で行うのが好ましい。反応温度を170℃以上とすることにより、ジシクロペンタジエンが十分に熱分解し、反応の進行が促進されるため、フェニルノルボルネン誘導体が効率的に生成する。
【0021】
また、反応系内のビニル芳香族化合物を低濃度とし、ビニル芳香族化合物のホモポリマーの生成を抑制する観点から、反応は、170℃以上に加熱したジシクロペンタジエンに、ビニル芳香族化合物を含む液体を滴下(分割添加又は連続添加)して行うことが好ましい。
具体的には、予め反応容器にジシクロペンタジエンを所定量仕込み、上記反応温度に加熱した後、当該温度を保持した状態で、ビニル芳香族化合物を含む液体を分割して或いは連続的に滴下して反応させることが好ましい。
【0022】
滴下する液体は、ビニル芳香族化合物のみを含むものであってもよいし、ビニル芳香族化合物とジシクロペンタジエンやその他溶媒を含んでいてもよい。このジシクロペンタジエンとしては、前記ジシクロペンタジエン原料を使用することができる。また、予め反応容器に仕込むジシクロペンタジエンと滴下液に用いるジシクロペンタジエンは、同じ組成のものであってもよいし、異なる組成のものであってもよい。
【0023】
予め反応容器に仕込むジシクロペンタジエンと滴下液との使用量の比率や、滴下液がジシクロペンタジエンを含む場合における滴下液中のジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物との使用量の比率は、得られる樹脂の芳香族含有量の目標値に応じて適宜設定されるが、反応容器への仕込み量100質量部に対し、滴下液20~150質量部の範囲であることが好ましい。滴下液の使用量を20質量部以上とすれば、得られた樹脂の芳香族含有量は十分量となる。また、滴下液の使用量を150質量部以下とした場合、滴下時のビニル芳香族化合物は低濃度となり、更には反応熱による局所的な温度上昇が抑えられるため、フェニルノルボルネン誘導体の選択性の低下を防ぐことができる。
【0024】
また、ビニル芳香族化合物と反応系に供給される全ジシクロペンタジエンの量は、得られる樹脂の芳香族含有量の目標値に応じて適宜選択可能であるが、ジシクロペンタジエン100質量部に対して、ビニル芳香族系化合物15~130質量部が好ましく、30~90質量部がより好ましい。
【0025】
滴下にかける時間は、1~4時間が好ましい。滴下時間を1時間以上とした場合、反応液系内のビニル芳香族化合物は低濃度となり、更には反応熱による急激な温度上昇が抑えられるため、フェニルノルボルネン誘導体の選択性の低下を防ぐことができる。これにより、その後の重合工程においてホモポリマーが生成しにくくなる。また、滴下時間を4時間以下とした場合、ジシクロペンタジエンの単独重合は進行しにくくなる。これにより、その後の重合工程において高分子量体が生成しにくくなる。
【0026】
また、滴下時は、反応容器内の温度が均一に保たれるよう、かつ、ビニル芳香族化合物の濃度が局所的に高くならないように、系内を撹拌しながら行うことが好ましい。
【0027】
熱重合としては、例えば、上記予備反応で得られたフェニルノルボルネン誘導体を含む反応液を240~300℃に加熱する熱重合が挙げられる。
240~300℃で熱重合させることにより、適切な重合速度で反応が進行しやすくなる。重合速度の観点から、より好ましくは250~280℃である。尚、重合時間は、好ましくは0.5~4時間、より好ましくは1~3時間である。
【0028】
熱重合は無溶媒で実施することができ、予備反応で使用した反応容器に反応液を保持したまま、重合温度まで加熱して行うことができる。また、予備反応で得られた反応液を別の重合容器に移送して熱重合を行ってもよい。
【0029】
熱重合工程(a)で熱重合反応物を得た後、水素添加工程に先立って、軽質分除去工程(b)及び/又は溶媒添加工程(c)を行うことが好ましい。
【0030】
(b)軽質分除去工程
軽質分除去工程は、熱重合工程で得られた重合物から軽質分を除去する工程である。この工程により、熱重合反応物から、未反応の軽質分やオリゴマーの他、重合溶媒(使用時のみ)が除去できる。
軽質分等を除去する方法は特に限定されないが、例えば、単蒸留、フラッシュ蒸留、薄膜蒸留、分子蒸留等が挙げられる。
軽質分等を除去した後の熱重合反応物の軟化点は、通常50~120℃、好ましくは60~100℃、より好ましくは70~90℃である。また分子量は、Z平均分子量(Mz)が通常1200~2600、好ましくは1400~2400、より好ましくは1600~2200である。
【0031】
(c)溶媒添加工程
溶媒添加工程は、軽質分等を除去した熱重合反応物を溶媒に溶かし、熱重合反応物と溶媒を含む水素添加原料を得る工程である。
【0032】
熱重合反応物を溶かす溶媒は、熱重合反応物を溶解し、水素添加工程で用いる触媒と反応せず、かつ水素添加処理後に樹脂との分離が容易なものが好ましい。具体的には、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、DMCHなどの脂環式炭化水素が挙げられる。
溶媒の使用量は、軽質分除去工程後の熱重合反応物100質量部に対して、0~900質量部が好ましく、30~800質量部がより好ましく、40~700質量部が特に好ましい。
【0033】
(d)水素添加工程
水素添加工程は、ジシクロペンタジエンとビニル芳香族化合物との重合物を触媒存在下、以下の(A)~(C)の条件で水素添加する工程である。重合物中の二重結合に水素が添加される。
(A)前記触媒の使用量が、前記重合物中の樹脂100質量部に対して0.125~0.4質量部である
(B)反応圧力:4MPaG以下
(C)反応温度:240℃以上
【0034】
上記のような条件(A)及び(C)で水素添加することによって、ベースポリマーとの相溶性及び色相の良好な水素添加石油樹脂を、水素圧力4MPaG以下で製造できる。
このような効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、条件(A)によって、芳香族含有率の過度な低下が抑えられてベースポリマーとの相溶性が良好となり、これに条件(C)を組み合わせることによって、水素圧力4MPaG以下でも色相が良好となるものと、本発明者らは推察する。
【0035】
水素添加工程の反応形式は回分式でも連続式でもよいが、好ましくは回分式である。すなわち、回分式反応装置や流通式連続反応装置等を使用できるが、回分式反応装置を用いるのが好ましい。
【0036】
(条件(A))
水素添加工程で用いる触媒の使用量は、重合物中の樹脂100質量部に対して0.125~0.4質量部である。
触媒使用量は、所望の効果を高める点から、好ましくは0.15~0.3質量部、より好ましくは0.15~0.25質量部、特に好ましくは0.15~0.2質量部である。
なお、触媒として担持触媒を用いた場合、この「触媒の使用量」は、担持された触媒と担体との合計使用量を意味する。
【0037】
水素添加工程に用いる触媒は、通常公知のもの、例えばニッケル、パラジウム、コバルト、白金、ロジウム系等の触媒が使用できる。この中でも、ニッケル系触媒、パラジウム系触媒が好ましい。ニッケル系触媒、パラジウム系触媒は、一般に工業的に入手可能なものでよく、また還元化状態であっても安定化状態であってもよい。
【0038】
触媒は任意の担体に担持して使用できる。担体としては、アルミナ、シリカ、シリカ-アルミナ、ゼオライト、珪藻土、粘土鉱物(モンモリロナイト等)、炭化ケイ素等が挙げられる。担体としては、多孔質担体が好ましい。
ニッケルや酸化ニッケルを担体に担持する場合、担持量は、好ましくは10~70質量%、より好ましくは40~60質量%である。
パラジウムを担体に担持する場合、担持量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.05~20質量%、さらに好ましくは0.1~10質量%である。
【0039】
(条件(B))
水素添加工程の水素圧は、4MPaG以下である。4MPaG超の場合、実装置化における装置コストが増大し、しかも軟化点が適切な範囲になりにくい。
水素圧は、所望の効果を高める点から、好ましくは常圧~4MPaG、より好ましくは1~4MPaG、特に好ましくは1~2MPaGである。
【0040】
(条件(C))
水素添加工程の反応温度は、240℃以上である。反応温度は、所望の効果を高める点から、好ましくは240~300℃、より好ましくは245~275℃、特に好ましくは245~260℃である。
【0041】
水素添加工程の反応時間は、好ましくは0.5~10時間、より好ましくは2~6時間である。水素添加は撹拌しながら行ってもよい。撹拌する場合、50~5000rpmで撹拌するのが好ましい。
【0042】
そして、上記の水素添加工程(d)で得られた水素添加石油樹脂から、必要に応じて、未反応のモノマー成分、低分子量重合物、溶媒等の揮発分を除去することにより((e)樹脂乾燥工程)、目的とする水素添加石油樹脂を得ることができる。
樹脂乾燥工程の手法に特に制限はなく、例えばフラッシュ蒸留装置や薄膜蒸発器等が好適に使用できる。乾燥条件を変更することで、軟化点の範囲を調整することができる。
【0043】
上記のようにして得られる水素添加石油樹脂は、ベースポリマーとの相溶性及び色相が良好であり、粘着付与樹脂として高い性能をもつ。
また、水素添加石油樹脂の軟化点は、通常70~150℃、好ましくは80~140℃、より好ましくは80~130℃、特に好ましくは90~105℃である。また分子量は、Z平均分子量(Mz)が通常1200~2600、好ましくは1400~2400、より好ましくは1600~2200である。
また、水素添加石油樹脂の芳香族含有率は、好ましくは2.5~12.5%であり、より好ましくは5~10%である。
また、トルエンと50/50(質量比)で混合溶解したときの水素添加石油樹脂のハーゼン色数は、好ましくは30以下である。
また、エチレン酢酸ビニル共重合体と50/50(質量比)で混合溶解したときの水素添加石油樹脂の曇点は、好ましくは37.5℃以下であり、より好ましくは35℃以下である。
これら軟化点、Z平均分子量(Mz)、芳香族含有率、ハーゼン色数、曇点は実施例と同様にして測定すればよい。
【実施例
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、原料樹脂および水素添加石油樹脂の性状、評価に関わる測定法は、以下の方法に準拠して実施した。
【0045】
(1)分子量測定
Z平均分子量Mzは、高速GPC装置(東ソー株式会社製、HLC-8320GPC)を用い、ポリスチレン換算値として求めた〔溶離液:テトラヒドロフラン、カラム:東ソー株式会社製G4000HXL、G3000HXL、G2000HXL(2本)を直列に連結して使用、検出器:RI、標準試料:ポリスチレン〕。
【0046】
(2)軟化点測定
JIS K-2207(1991)に従って、環球法で測定した。
【0047】
(3)曇点測定
水素添加石油樹脂とエチレン酢酸ビニル共重合体(三井デュポン社製、商品名「エバフレックスEVA-210」)とを、50/50(質量比)で混合溶解させ、JIS K-2269「石油製品曇り点試験方法」に準拠して曇点を測定した。曇点が低いほど、水素添加石油樹脂とエチレン酢酸ビニル共重合体(ベースポリマー)の相溶性が高いことを示す。
【0048】
(4)芳香族含有率
重溶媒に重クロロホルムを使用し、核磁気共鳴装置(JEOL社製 FT NMR System AL400)を用いた1H-NMRスペクトルの測定結果から算出した。
【0049】
(5)色相(ハーゼン色数)
水素添加石油樹脂を50質量%トルエン溶液とし、比色計(ティントメーター社製、ロビボンド・PFX195)を用いて測定した。測定値が30以下の場合に、色相(ハーゼン色数)は良好であると判断した。
【0050】
〔実施例1〕
(1)シクロペンタジエン系化合物とビニル芳香族系化合物の熱重合による水素添加原料の製造
内容積5Lの攪拌機付きオートクレーブに、表1で示される組成のジシクロペンタジエン留分X1(ジシクロペンタジエン濃度:74質量%)1800gを仕込み、系内を窒素で置換した。その後500rpmで撹拌しながら、4℃/分の速度で180℃まで昇温した。180℃に保持した状態で、スチレン530.9gと上記と同じ組成のジシクロペンタジエン留分X1 469.1gとの混合液を120分間かけて滴下した。滴下終了後の反応液を1.8℃/分の速度で260℃まで昇温した。その後、260℃で92分間加熱し、重合反応を行った。これにより、重合反応物1を得た。
重合反応物1の一部を分取し、ロータリーエバポレーターを用いて、温度230℃、窒素気流下で10分間処理し、未反応モノマーを除去した。次いで温度230℃、圧力6.7kPaA(Aは絶対圧力であることを示す。以下同様である。)で15分間処理し、低分子量体を一部除去して樹脂P1を得た。樹脂P1の性状を表2に示す。樹脂P1をエチルシクロヘキサンに溶解して樹脂濃度47.2質量%の樹脂溶液を調製した。この溶液を、水素添加原料1と称する。
【0051】
【表1】
【0052】
(2)水素添加石油樹脂の製造
内容積1Lの攪拌機付きオートクレーブに、上記(1)で得られた水素添加原料1を500g、パラジウム担持アルミナ触媒を0.47g仕込み、系内を水素で置換し温度250℃、水素圧力2.0MPaG(Gはゲージ圧力であることを示す。以下同様である。)、500rpmで撹拌しながら3時間水素添加反応を行った。
水素添加反応後、ロータリーエバポレーターを用いて、温度210℃、窒素気流下で20分間処理し、未反応モノマーを除去した。次いで温度210℃、圧力0kPaAで20分間処理し、低分子量体を一部除去して水素添加石油樹脂を得た。得られた樹脂の性状を表3に示す。
【0053】
〔実施例2〕
実施例1において、水素添加石油樹脂の製造(2)の水素圧力を1.5MPaGに変更した以外は、実施例1と同様の操作で水素添加石油樹脂を得た。樹脂の性状を表3に示す。
【0054】
〔実施例3〕
実施例1において、水素添加石油樹脂の製造(2)の水素圧力を3.0MPaGに変更した以外は、実施例1と同様の操作で水素添加石油樹脂を得た。樹脂の性状を表3に示す。
【0055】
〔実施例4〕
実施例1において、水素添加石油樹脂の製造(2)の水素圧力を4.0MPaGに変更した以外は、実施例1と同様の操作で水素添加石油樹脂を得た。樹脂の性状を表3に示す。
【0056】
〔実施例5〕
(1)シクロペンタジエン系化合物とビニル芳香族系化合物の熱重合による水素添加原料の製造
内容積5Lの攪拌機付きオートクレーブに、表1で示される組成のジシクロペンタジエン留分X1(ジシクロペンタジエン濃度:74質量%)を864.9g、キシレンを935.1g仕込み、系内を窒素で置換した。その後500rpmで撹拌しながら、4℃/分の速度で260℃まで昇温した。260℃に保持した状態で、スチレン454.9gとキシレン545.1gとの混合液を120分間かけて滴下した。その後、引き続き260℃で180分間加熱し、重合反応を行った。これにより、重合反応物2を得た。
重合反応物2の一部を分取し、ロータリーエバポレーターを用いて、温度230℃、窒素気流下で15分間処理し、未反応モノマーを除去した。次いで温度230℃、圧力6.7kPaAで10分間処理し、低分子量体を一部除去して樹脂P2を得た。樹脂P2の性状を表2に示す。樹脂P2をエチルシクロヘキサンに溶解して樹脂濃度47.2質量%の樹脂溶液を調製した。この溶液を、水素添加原料2と称する。
【0057】
(2)水素添加石油樹脂の製造
内容積1Lの攪拌機付きオートクレーブに上記(1)で得られた水素添加原料2を500g、ニッケル担持シリカアルミナ触媒を0.35g仕込み、系内を水素で置換し、温度250℃、水素圧力2.0MPaG、500rpmで撹拌しながら5時間水素添加反応を行った。
水素添加反応後、ロータリーエバポレーターを用いて、温度210℃、窒素気流下で20分間処理し、未反応モノマーを除去した。次いで温度210℃、圧力0kPaAで20分間処理し、低分子量体を一部除去して水素添加石油樹脂を得た。得られた樹脂の性状を表3に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
〔実施例6〕
実施例5において、ニッケル担持シリカアルミナ触媒の量を0.47gに変更した以外は、実施例5と同様の操作で水素添加石油樹脂を得た。樹脂の性状を表3に示す。
【0060】
〔実施例7〕
実施例5において、ニッケル担持シリカアルミナ触媒の量を0.59gに変更した以外は、実施例5と同様の操作で水素添加石油樹脂を得た。樹脂の性状を表3に示す。
【0061】
〔比較例1〕
実施例5において、ニッケル担持シリカアルミナ触媒の量を1.18gに変更した以外は、実施例5と同様の操作で水素添加石油樹脂を得た。樹脂の性状を表3に示す。
【0062】
〔比較例2〕
実施例5において、水素添加石油樹脂の製造(2)の反応温度を230℃に変更した以外は、実施例5と同様の操作で水素添加石油樹脂を得た。樹脂の性状を表3に示す。
【0063】
〔比較例3〕
実施例5において、ニッケル担持シリカアルミナ触媒の量を0.24gに変更した以外は、実施例5と同様の操作で水素添加石油樹脂を得た。樹脂の性状を表3に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
表3に示すように、重合物中の樹脂100質量部に対して触媒を0.125~0.4質量部使用して反応温度240℃以上で水素添加することによって、ベースポリマーとの相溶性及び色相の良好な水素添加石油樹脂を、水素圧力4MPaG以下で製造できることがわかった。