(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-11
(45)【発行日】2023-01-19
(54)【発明の名称】ポリα-1,3-グルカン化合物
(51)【国際特許分類】
C08G 81/02 20060101AFI20230112BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20230112BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
C08G81/02
C08L1/02
C08L23/26
(21)【出願番号】P 2020514569
(86)(22)【出願日】2018-08-30
(86)【国際出願番号】 US2018048683
(87)【国際公開番号】W WO2019050750
(87)【国際公開日】2019-03-14
【審査請求日】2021-08-23
(32)【優先日】2017-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520346620
【氏名又は名称】ニュートリション・アンド・バイオサイエンシーズ・ユーエスエー・フォー,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】シィェン・ジィァン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンディヤ・ミシュラ
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-501396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 81/00-81/02
C08B 1/00-37/18
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ポリα-1,3-グルカン、及び
b)官能化ポリオレフィン、
を含むポリα-1,3-グルカン化合物であって、前記ポリα-1,3-グルカン化合物中のポリα-1,3-グルカ
ンと官能化ポリオレフィ
ンとの総重量を基準として0.5~70重量パーセントのポリα-1,3-グルカンを含み、前記官能化ポリオレフィンが前記ポリα-1,3-グルカン上にグラフトされてい
て、官能化ポリオレフィンが無水物でグラフトされたエチレン/α-オレフィンコポリマーである、ポリα-1,3-グルカン化合物。
【請求項2】
前記無水物でグラフトされたエチレン/α-オレフィンコポリマーが、無水マレイン酸でグラフトされたエチレン/α-オレフィンコポリマー
である、請求項1に記載のポリα-1,3-グルカン化合物。
【請求項3】
5~60重量パーセントのポリα-1,3-グルカンを含む、請求項1
又は2に記載のポリα-1,3-グルカン化合物。
【請求項4】
請求項1
~3のいずれか1項に記載のポリα-1,3-グルカン化合物
を含む、フィルム、ペレット、又はストランド。
【請求項5】
ポリα-1,3-グルカンのグルコシド結合の少なくとも50%がα-1,3-グルコシド結合である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリα-1,3-グルカン化合物。
【請求項6】
ポリアミド及び1~70重量パーセントの、請求項1に記載のポリα-1,3-グルカン化合物を含有す
る組成物
であって、ポリアミドがポリ(ヘキサメチレンヘキサンジアミド)、ポリ(ヘキサメチレンドデカンジアミド)、又はポリ(ヘキサメチレンデカンジアミド)である、組成物。
【請求項7】
5~60重量パーセント
のポリα-1,3-グルカン化合物を含有する請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前
記ポリアミド
がポリ(ヘキサメチレンドデカンジアミド)である、請求項
6に記載
の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、ポリα-1,3-グルカンと少なくとも1種の官能化ポリオレフィンとの反応により調製されるポリα-1,3-グルカン化合物が記述される。本明細書では、前記ポリα-1,3-グルカン化合物を含むポリマー組成物及びこれらのポリマー組成物から調製される物品も記述される。
【背景技術】
【0002】
これらの新規なポリα-1,3-グルカン化合物は、包装用途向けのフィルム、及び自動車用途向けのエラストマーとして、などの多くの用途を有し得る。これらのポリα-1,3-グルカン化合物は、ポリα-1,3-グルカンが容易に相溶化しないポリマー組成物とのポリα-1,3-グルカンの間接的な相溶化も可能にし得る。
【0003】
ポリマー組成物において使用するために選択されるポリマーは、典型的には、ポリマー組成物から調製される物品の望まれる物理的特性に基づく。しかしながら、物品の性能を改善するために、ポリマー組成物の物理的特性を改善又は修正することが常に広く望まれている。
【0004】
現在、ポリマー組成物の1つ以上の物理的特性を改善するために、これらの新規なポリα-1,3-グルカン化合物をポリマー組成物において使用できることが発見されている。
【0005】
略語
特許請求の範囲及び本明細書の記述は、以下に示される略語及び定義を用いて解釈されるべきである。
「%」は、用語パーセントを意味する。
「wt%」は、重量パーセントを意味する。
「MPa」は、メガパスカルを意味する。
「KJ/m2」はキロジュール/平方メートルを意味する。
【0006】
定義
本明細書において使用される冠詞「1つの(a)」は、1つ及び2つ以上を意味し、その指示対象の名詞を単数の文法上のカテゴリーに必ずしも限定しない。
【0007】
本明細書で使用される用語「物品」は、その全体又は一部を更に処理することなしに特定の用途又は目的に適した形態、形状、構成にある品物、物、構造体、物体、要素、装置等を意味する。
【0008】
本明細書で使用される「官能化ポリオレフィン」という用語は、無水物基、酸基、カルボン酸の金属塩、エポキシ基、又はこれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの官能基を含むポリオレフィンを指す。官能基は、ポリマー骨格にグラフトされていても、ポリマー骨格中に存在していてもよい。
【0009】
本明細書で使用される「ポリマー樹脂」という用語は、ポリマー組成物において使用されるポリマーを指す。例えば、ポリアミド組成物では、ポリマー樹脂としてポリアミド66などのポリアミド樹脂が使用される。
【0010】
本明細書で使用される「ポリマー組成物」という用語は、ポリマー樹脂、並びに任意選択的な、紫外線安定剤、潤滑剤、及び充填剤などの組成物において使用される任意の追加の材料を指す。追加の材料がポリマー組成物中に存在しない場合、ポリマー組成物とポリマー樹脂は同一である。
【0011】
本出願に明記された様々な範囲での数値の使用は、特に明確に示さない限り、規定範囲内の最小値及び最大値が両方とも「約」という言葉によって先行されているかのように近似値として記述されている。このようにして、規定範囲の上下のわずかな変動を用いてこの範囲内の値と実質的に同じ結果を達成することができる。また、これらの範囲の開示は、最小値と最大値との間の各値及びあらゆる値を含む連続的な範囲として意図されている。
【0012】
用語「ポリα-1,3-グルカン」、「α-1,3-グルカンポリマー」及び「グルカンポリマー」は、本明細書では同じ意味で用いられる。
【0013】
範囲及び好ましい変形形態
本明細書に記載の任意の範囲は、特に明記されない限り、その端点を明確に包含する。範囲としての量、濃度、又は他の値若しくはパラメーターの記載は、このような範囲の上限及び下限の対が本明細書に明示的に開示されるか否かに関わらず、任意の可能な範囲の上限及び任意の可能な範囲の下限から形成される全ての可能な範囲を具体的に開示する。本明細書に記載の化合物、プロセス及び物品は、本明細書での範囲の定義で開示される具体的な値に限定されない。
【0014】
本明細書に記載のプロセス、化合物、及び物品の、材料、化学物質、方法、工程、値、及び/又は範囲等についての任意の変形形態の本明細書における開示は、好ましい又は好ましくないとして特定されているかどうかに関わらず、材料、方法、工程、値、範囲等の任意の可能な組み合わせを含むことが具体的に意図されている。請求項についての正確且つ十分な裏付けを与えることを目的として、任意の開示の組み合わせは、本明細書に記載のプロセス、化合物、及び物品の好ましい変形形態である。
【0015】
本明細書において、式(I)の硬化剤などの、本明細書に記載の任意の化学種の化学名に関しての命名法上の誤り又は誤字が存在する場合には、化学構造が化学名に優先する。また、本明細書に記載の任意の化学種の化学構造中に誤りが存在する場合、当業者が意図されている記述を理解する化学種の化学構造が優先される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
概要
本明細書では、フィルムやエラストマーなどの物品を作製するために使用され得るポリα-1,3-グルカン化合物が開示される。本明細書に開示のポリα-1,3-グルカン化合物は、官能化ポリオレフィンがポリα-1,3-グルカン上にグラフトされる、官能化ポリオレフィンとポリα-1,3-グルカンとの反応により調製することができる。ポリα-1,3-グルカン化合物は、反応押出プロセスによって調製されることが好ましい。
【0017】
ポリα-1,3-グルカン化合物は、最終用途に応じて特定の物理的特性を変更するために、ポリマー組成物、特にポリアミド及びポリエステル組成物においても使用することができる。
【0018】
具体的には、
a)ポリα-1,3-グルカン、及び
b)官能化ポリオレフィン;
を含むポリα-1,3-グルカン化合物が本明細書において開示され、前記ポリα-1,3-グルカン化合物は、ポリα-1,3-グルカン化合物中のポリα-1,3-グルカン(a)と官能化ポリオレフィン(b)との総重量を基準として1~70重量パーセントの、ポリα-1,3-グルカン上にグラフトされた官能化ポリオレフィンを含む。
【0019】
本明細書では、ポリα-1,3-グルカン化合物を含むポリマー組成物及びポリα-1,3-グルカン化合物の調製方法も開示される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
ポリα-1,3-グルカン
ポリα-1,3-グルカンは、グリコシド結合により互いに結合しているグルコースモノマー単位を含むポリマーであり、この中のグリコシド結合の少なくとも約50%は、α-1,3-グリコシド結合である。ポリα-1,3-グルカンは多糖の1種である。ポリα-1,3-グルカンの1,3-結合は、以下:
【化1】
(式中、nは、少なくとも3の整数である)
の通りに示すことができる。
【0021】
本明細書に記載のポリα-1,3-グルカン化合物を調製するために使用されるポリα-1,3-グルカンは、約50~0.1ミクロン、好ましくは25~0.5ミクロン、より好ましくは10~0.5ミクロンの粒径を有する固体である。
【0022】
ポリα-1,3-グルカン化合物中に存在し得るポリα-1,3-グルカンの重量パーセントは、ポリα-1,3-グルカン化合物中のポリα-1,3-グルカンと官能化ポリオレフィンの総重量を基準として、約0.5~70重量パーセント、好ましくは5~60重量パーセント、より好ましくは約10~50重量パーセント、最も好ましくは約15~40重量パーセントの範囲であってもよい。
【0023】
官能化ポリオレフィン
本明細書に記載のポリα-1,3-グルカン化合物を調製するために使用される官能化ポリオレフィンは、無水物基、酸基、カルボン酸の金属塩、エポキシ基、又はこれらの組み合わせから選択される官能基を含む。
【0024】
官能化ポリオレフィンの例としては、官能基がポリマーに共重合されたエチレンコポリマー、例えば、エチレンと適切な官能基を含む(メタ)アクリレートモノマーとのコポリマーが挙げられる。本明細書では、用語(メタ)アクリレートは、アクリレート、メタクリレート、又は2つの混合物のいずれかであってもよい化合物を意味する。有用な(メタ)アクリレート官能性化合物には、(メタ)アクリル酸及びグリシジル(メタ)アクリレートが含まれる。エチレン及び官能化(メタ)アクリレートモノマーに加えて、酢酸ビニル、非官能化(メタ)アクリレートエステル、例えばエチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート及びシクロヘキシル(メタ)アクリレートなどの他のモノマーが、そのようなポリマーの中に共重合していてもよい。
【0025】
好適な官能化ポリオレフィンとしては、アイオノマーも挙げることができる。アイオノマーとは、亜鉛、マグネシウム、及びマンガンなどの金属カチオンで中和されているか又は部分中和されているカルボキシル基含有ポリマーを意味する。アイオノマーの例は、米国特許第3,264,272号明細書及び同第4,187,358号明細書に記載されており、これらは共に参照により本明細書に組み込まれる。好適なカルボキシル基含有ポリマーの例としては、エチレン/アクリル酸コポリマー及びエチレン/メタクリル酸コポリマーが挙げられるが、それらに限定されない。カルボキシル基含有ポリマーはまた、ブチルアクリレートなどの、しかしこれに限定されない、1種若しくは複数種の追加のモノマーから誘導されてもよい。アイオノマーは、E.I.du Pont de Nemours and Co.,Wilmington,DEからSurlyn(登録商標)商標として商業的に入手可能である。
【0026】
官能化ポリオレフィンは、好ましくは、エチレン/α-オレフィンコポリマーをベースとしてもよい。1,4-ヘキサジエン又はジシクロペンタジエンなどのジエンモノマーが、エチレン-プロピレン-ジエン(EPDM)ポリマーなどのコポリマーの製造に任意選択的に使用されてもよい。カルボキシル部分は、不飽和カルボキシル含有モノマーと共重合させることによってポリオレフィンの製造中に導入されてもよい。好ましい官能化ポリオレフィンは、0.3~5重量%の無水マレイン酸でグラフトされたエチレン/α-オレフィンコポリマーである。α-オレフィンは好ましくは、ブタン、ヘキサン、及びオクタンから選択される。官能基を含むコポリマーのブレンドもまた官能化ポリオレフィンとして使用されてもよい。無水マレイン酸でグラフトされているエチレン/α-オレフィンコポリマーの例としては、Dow Chemical,Midland Michigan製のPARALOIDTM銘柄でのそれらの市販のコポリマーが挙げられる。
【0027】
本明細書では、用語エチレンコポリマーには、エチレンターポリマー及びエチレンマルチポリマー、すなわち、3種より多い異なる繰り返し単位を有するポリマーが含まれる。本明細書に記載の官能化ポリオレフィンとして有用なエチレンコポリマーとしては、式E/X/Yのエチレンコポリマーからなる群から選択されるものを挙げることができ、式中、
Eは、エチレンから形成されるラジカルであり;
Xは、
CH2=C(R1)-C(O)-OR2
(式中、R1は、H、CH3又はC2H5であり、R2は、1~8個の炭素原子を有するアルキル基である);酢酸ビニル;及びそれらの混合物から形成されるラジカルからなる群から選択され;ここでXは、E/X/Yコポリマーの0~50重量%を占め;
Yは、一酸化炭素、二酸化硫黄、アクリロニトリル、無水マレイン酸、マレイン酸ジエステル、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、イタコン酸、フマル酸、フマル酸モノエステル並びに前記先行酸のカリウム、ナトリウム及び亜鉛塩、グリシジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート及びグリシジルビニルエーテルからなる群から選択されるモノマーから形成される1種若しくは複数種のラジカルであり;ここで、Yは、E/X/Yコポリマーの0.5~35重量%、好ましくはE/X/Yコポリマーの0.5~20重量パーセントであり、Eは、残り重量パーセントであり、好ましくはE/X/Yコポリマーの40~90重量パーセントを占める。
【0028】
官能化ポリオレフィンは、官能基を含有する最低限約0.5重量パーセント、より好ましくは1.0重量パーセント、最も好ましくは約2重量パーセントの繰り返し単位及び/又はグラフト化分子、並びに官能基を含有する最大約15重量パーセント、より好ましくは約13重量パーセント、最も好ましくは約10重量パーセントのモノマーを含有することが好ましい。任意の好ましい最小量が、好ましい範囲を形成するために任意の好ましい最大量と組み合わせられてもよいことが理解されるべきである。官能化ポリオレフィン中に存在する2種以上の官能化モノマー、及び/又は2種以上の官能化ポリオレフィンが存在していてもよい。
【0029】
本明細書に記載のポリα-1,3-グルカン化合物中に存在する官能化ポリオレフィンの濃度は、ポリα-1,3-グルカン化合物の調製に使用される官能化ポリオレフィンとポリα-1,3-グルカンの総重量パーセントを基準として、約99.5~30重量パーセント、好ましくは95~40重量パーセント、より好ましくは約90~50重量パーセント、最も好ましくは85~60重量パーセントの範囲であってもよい。ポリα-1,3-グルカン化合物中の官能化ポリオレフィンの濃度は、官能化ポリオレフィン内の官能基の濃度又は最終用途に基づいて望まれる物理的特性に基づいて様々であってもよい。
【0030】
ポリα-1,3-グルカン化合物
本明細書に開示のポリα-1,3-グルカン化合物は、官能化ポリオレフィンをポリα-1,3-グルカン分子と反応又はこれにグラフトさせることにより調製される。官能化ポリオレフィンは、無水物基、酸基、カルボン酸基の金属塩、及びエポキシ基などの少なくとも1種の官能基を含む。この反応により、官能化ポリオレフィンの官能基とポリα-1,3-グルカンのヒドロキシル基との間に共有結合が形成される。
【0031】
ポリα-1,3-グルカン化合物は、無希釈のポリα-1,3-グルカンが相溶性でない場合があるポリマーの中に、ポリα-1,3-グルカンをより効果的に相溶化させるために使用することができ、その結果、ポリマーの物理的特性を改善又は変更することができる。更に、ポリα-1,3-グルカン化合物は、包装(フィルム)などの用途において、及び自動車用途のエラストマーとして、使用することができる。
【0032】
ポリマー組成物
本明細書に開示のポリα-1,3-グルカン化合物は、ポリマー組成物の物理的特性を改善するために様々なポリマー組成物と混合することができる。
【0033】
ポリα-1,3-グルカン化合物と配合又は混合され得るポリマー組成物の例としては、ポリアミド組成物、ポリエステル組成物、及びポリオレフィン組成物が挙げられる。
【0034】
ポリマー組成物は、ポリマー樹脂と、任意選択的に存在していてもよい任意の追加の材料とから調製される。本明細書に記載のポリマー組成物中のポリα-1,3-グルカン化合物の濃度は、ポリマー樹脂とポリα-1,3-グルカン化合物の合計重量を基準として、0.1~60重量パーセント、好ましくは1~50重量パーセント、より好ましくは5~40重量パーセント、最も好ましくは5~35重量パーセントの範囲であってもよい。
【0035】
ポリマー組成物中のポリα-1,3-グルカン化合物の濃度は、ポリα-1,3-グルカンにグラフトされた官能化ポリオレフィンの重量パーセントに基づいて様々であってもよい。例えば、ポリα-1,3-グルカン化合物中のポリα-1,3-グルカンの濃度の増加に伴い、ポリマー組成物中のポリα-1,3-グルカン化合物の濃度は、ポリα-1,3-グルカン化合物中に低濃度のポリα-1,3-グルカンを含むポリα-1,3-グルカン化合物と比較して減少し得る。
【0036】
添加剤
本明細書に開示のポリマー組成物は、1種以上の添加剤を更に含むことができ、ここで、添加剤は、顔料、界面活性剤、充填剤、安定剤、紫外線吸収剤、分散剤、難燃剤、抗菌剤、可塑剤、又はそれらの組み合わせである。
【0037】
ポリアミド組成物
本明細書に開示のポリアミド組成物は、少なくとも1種のポリアミド樹脂と少なくとも1種のポリα-1,3-グルカン化合物とを含有する。本明細書に記載のポリアミド組成物中のポリα-1,3-グルカン化合物の濃度は、ポリアミド組成物中のポリアミド樹脂とポリα-1,3-グルカン化合物の総重量を基準として、0.1~60重量パーセント、好ましくは1~50重量パーセント、より好ましくは5~40重量パーセント、最も好ましくは5~35重量パーセントの範囲であってもよい。
【0038】
本明細書に記載のポリアミド組成物を調製するために使用され得るポリアミド樹脂は、限定されず、約300℃未満及び約130℃超の融点を有する任意のポリアミド樹脂であってもよい。ポリアミド樹脂は、1種以上のジカルボン酸と1種以上のジアミンとの縮合生成物、及び/又は1種以上のアミノカルボン酸の縮合生成物、及び/又は1種以上の環式ラクタムの開環重合生成物である。好適な環式ラクタムは、カプロラクタム及びラウロラクタムである。ポリアミド樹脂は、全脂肪族であっても半芳香族であってもよい。
【0039】
全脂肪族ポリアミド樹脂は、ジアミン、ジカルボン酸、ラクタム、アミノカルボン酸、及びそれらの反応等価体等の脂肪族モノマー及び脂環式モノマーから形成される。好適なアミノカルボン酸は、11-アミノドデカン酸である。好適なラクタムは、カプロラクタム及びラウロラクタムである。本発明との関連で、用語「全脂肪族ポリアミド」はまた、2種若しくはそれ以上のそのようなモノマーから誘導されるコポリマー及び2種若しくはそれ以上の全脂肪族ポリアミドのブレンドを意味する。直鎖、分岐、及び環式モノマーが使用されてもよい。
【0040】
全脂肪族ポリアミドに含まれるカルボン酸モノマーには、例えばアジピン酸(C6)、ピメリン酸(C7)、スベリン酸(C8),アゼライン酸(C9)、デカン二酸(C10)、ドデカン二酸(C12)、トリデカン二酸(C13)、テトラデカン二酸(C14)、ペンタデカン二酸(C15)、ヘキサデカン二酸(C16)及びオクタデカン二酸(C18)などの、脂肪族カルボン酸が含まれるが、それらに限定されない。ジアミンは、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、2-エチルテトラメチレンジアミン、2-メチルオクタメチレンジアミン;トリメチルヘキサメチレンジアミン、メタ-キシリレンジアミン、及び/又はそれらの混合物を含むが、それらに限定されない、4個若しくはそれ以上の炭素原子を有するジアミンの中から選ぶことができる。
【0041】
半芳香族ポリアミド樹脂は、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマーであってもよく、これは芳香族基を含有するモノマーから形成され得る。1種若しくは複数種の芳香族カルボン酸は、テレフタル酸、又はテレフタル酸と、イソフタル酸、フタル酸、2-メチルテレフタル酸及びナフタル酸などの1種若しくは複数種の他のカルボン酸との混合物であってもよい。加えて、1種若しくは複数種の芳香族カルボン酸は、上に開示されたような、1種若しくは複数種の脂肪族ジカルボン酸と混合されてもよい。或いは、メタ-キシリレンジアミン(MXD)などの芳香族ジアミンは、その例がMXD6、MXDとアジピン酸とを含むホモポリマーである半芳香族ポリアミドを提供するために使用することができる。
【0042】
本明細書に開示の好ましいポリアミド樹脂には、ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド/2-メチルペンタメチレンテレフタルアミド)(PA6T/DT);ポリ(ヘキサメチレンヘキサンジアミド)(PA66);ポリ(ヘキサメチレンドデカンジアミド)(PA612);ポリ(ヘキサメチレンデカンジアミド)(PA610);ポリ(ε-カプロラクタム)(PA6);及びこれらのブレンドが含まれる。
【0043】
本明細書に記載のポリα-1,3-グルカン化合物の最終用途に応じて、当業者は、ポリα-1,3-グルカン化合物を含む物品の破断点伸びや弾性率などの望まれる物理的特性を得るために必要とされるポリα-1,3-グルカン組成物中のポリα-1,3-グルカンの濃度を容易に選択することができる。
【0044】
ポリエステル組成物
本明細書に開示のポリエステル組成物は、少なくとも1種のポリエステル樹脂と少なくとも1種のポリα-1,3-グルカン化合物とを含有する。本明細書に記載のポリエステル組成物中のポリα-1,3-グルカン化合物の濃度は、ポリオレフィン組成物中のポリエステル樹脂とポリα-1,3-グルカン化合物の総重量を基準として、0.1~60重量パーセント、好ましくは1~50重量パーセント、より好ましくは5~40重量パーセント、最も好ましくは5~35重量パーセントの範囲であってもよい。
【0045】
本明細書での使用に適したポリエステル樹脂は、熱可塑性ポリエステルホモポリマー及びコポリマーを含み得る。熱可塑性ポリエステルは、典型的には1種以上のジカルボン酸とジオールとから誘導される。
【0046】
好適な熱可塑性ポリエステル樹脂としては、限定するものではないが、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ(トリメチレンテレフタレート)(PTT)、ポリ(1,4-ブチレンテレフタレート)(PBT)、ポリ(エチレン2,6-ナフトエート)(PEN)、ポリ(1,4-シクロヘキシルジメチレンテレフタレート)(PCT)、並びにこれらのコポリマー及びブレンドが挙げられる。これらのうち、好ましい熱可塑性ポリエステル樹脂は、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ(トリメチレンテレフタレート)(PTT)、及びポリ(1,4-ブチレンテレフタレート)(PBT)から選択される。本発明で使用するための市販のポリエステル樹脂の例としては、Crastin(登録商標)PBTポリエステル樹脂、Rynite(登録商標)ポリ(エチレンテレフタレート)ポリエステル樹脂、及びSorona(登録商標)ポリエステル樹脂が挙げられ、これらは全てE.I.du Pont de Nemours and Co.,Wilmington,DEから入手可能である。
【0047】
ポリオレフィン組成物
本明細書に開示のポリオレフィン組成物は、少なくとも1種のポリオレフィン樹脂と少なくとも1種のポリα-1,3-グルカン化合物とを含有する。本明細書に記載のポリオレフィン組成物中のポリα-1,3-グルカン化合物の濃度は、ポリオレフィン組成物中のポリオレフィン樹脂とポリα-1,3-グルカン化合物の総重量を基準として、0.1~60重量パーセント、好ましくは1~50重量パーセント、より好ましくは5~40重量パーセント、最も好ましくは5~35重量パーセントの範囲であってもよい。
【0048】
本明細書に開示のポリオレフィン組成物は、少なくとも1種のポリオレフィンと少なくとも1種のポリα-1,3-グルカン化合物とを含有する。ポリオレフィンの非限定的な例としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、及びエチレン/α-オレフィンコポリマー(エチレン/1-オクテンコポリマー等)、エチレン/プロピレンコポリマー、エチレン/ブテンコポリマー(Dow Chemical,Midland MichiganのENGAGE(登録商標)ポリオレフィンエラストマー等)が挙げられる。
【0049】
他のポリオレフィンとしては、アクリロニトリル-スチレンコポリマー、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンコポリマー、スチレン-イソプレン-スチレンコポリマー、スチレン-水素化イソプレン-スチレンコポリマー、スチレン-ブタジエン-スチレンコポリマー、及びスチレン-水素化ブタジエン-スチレンコポリマーが挙げられる。
【0050】
ポリα-1,3-グルカン化合物の調製
本明細書に記載のポリα-1,3-グルカン化合物は、適切な溶媒中でポリα-1,3-グルカンと官能化ポリオレフィンとの反応により、又は反応押出により調製することができる。反応押出技術は溶媒の使用を必要としないため、そのようなプロセスを使用してポリα-1,3-グルカン化合物を調製することが好ましい。
【0051】
反応押出を使用する場合、全ての成分が単軸押出機又は二軸押出機に供給されてもよい。使用する官能化ポリオレフィンに応じて、押出機の温度は約100℃~約250℃の範囲であってもよい。全ての成分は、一度に添加されても、バッチ式で徐々に添加されてもよい。成分がバッチ式で徐々に添加される場合、成分の一部が最初に添加され、その後、十分に混合された組成物が得られるまで、その後に添加される残りの成分と溶融混合される。添加剤は、押出機の任意の地点で添加されてもよい。使用する添加剤次第では、他の成分の溶融混合中に添加剤が溶融状態である必要はない場合がある。添加剤がポリα-1,3-グルカン化合物内に十分に又は均一に混合される限り、添加剤は固体のままであってもよい。
【実施例】
【0052】
以下の実施例で本開示を更に定義する。これらの実施例は、本開示の特定の好ましい態様を示しているが、例示のためにのみ示されていることが理解されるべきである。上記の考察及びこれらの実施例から、当業者は、本開示の本質的な特徴を確認することができ、それの趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な変更及び修正を行ってそれを様々な使用及び条件に適応させることができる。
【0053】
例示的な物品は、下表で「E」で識別され、本明細書に記載の及び列挙される化合物、プロセス、及び物品の範囲を更に例証することのみを意図し、限定することを意図するものではない。比較例は、下表で「C」で識別される。
【0054】
原材料
下の表で例示される化合物、プロセス、及び物品において、次の原材料を使用した。全てのパーセント値は、特に明記しない限り重量による。
ポリα-1,3-グルカンは、gtfJ酵素を使用する米国特許第9,080,195号明細書の実施例6の手順に従って、1種以上のグルコシルトランスフェラーゼ(gtf)酵素を使用してスクロースから酵素により製造した。
官能化ポリオレフィン:E.I.DuPont de Nemours and Company,Wilmington,DE,USAからTRX301Eとして入手可能な1.8重量%の無水マレイン酸でグラフトされたエチレンα-オレフィンコポリマー。
ポリアミド:E.I.DuPont de Nemours and Company,Wilmington,DEからZytel(登録商標)151として入手可能なポリアミド612。
【0055】
ポリα-1,3-グルカン化合物の製造方法
以下の実施例で使用されるポリα-1,3-グルカン化合物は、二軸押出機を使用した反応押出により調製した。押出機の温度は、各加熱ゾーンで190℃に設定し、ポリα-1,3-グルカンと官能化ポリオレフィンは、押出機内に約1~2分の滞留時間で望みの重量比で押出機に供給し、全ての発生したガスは真空ポートから排出した。得られたポリα-1,3-グルカン化合物を出口ダイから押し出し、水浴で冷却し、ペレット化することで、望みのポリα-1,3-グルカン化合物を得た。
【0056】
ポリアミド組成物の製造プロセス
実施例では、ポリアミド樹脂とポリα-1,3-グルカン化合物を、二軸押出機を使用して一緒に混錬する。次いで、混合物をASTM D638 Type I引張試験片へと射出成形する。成形した引張試験片を機械的特性について試験した。結果を表1及び2に示す。
【0057】
比較例では、ポリアミド樹脂、並びに存在する場合はポリα-1,3-グルカン及び官能化ポリオレフィンを、二軸押出機を使用して一緒に混錬した。次いで、混合物をASTM D638 Type I引張試験片へと射出成形する。成形した引張試験片を機械的特性について試験した。結果を表1及び3に示す。
【0058】
試験方法
熱可塑性ポリマー組成物の引張強さ(TS)、破断点伸び(EB)、及び引張弾性率(TM)を含む引張特性を、ASTM法に従って測定した。表1のC1及びE1~E4を、ASTM D1708(Micro Tensile)に従って試験し、Instron万能試験機モデル4202を使用してクロスヘッド速度50.8mm/分(2インチ/分)で23℃で試験した。
【0059】
表2~4の実施例及び比較例は、Instron万能試験機モデル4202を使用して、50.8mm/分(2インチ/分)のクロスヘッド速度で、タイプI試験片を用いて23℃でASTM D638に従って測定した。表に列挙されている数値は5つの試験サンプルの平均である。
【0060】
表1は、官能化ポリオレフィンと反応するポリα-1,3-グルカンの量が、ポリα-1,3-グルカン化合物中のポリα-1,3-グルカンと官能化ポリオレフィンの総量の合計に基づいて20~65重量パーセントの範囲である、本明細書に開示のポリα-1,3-グルカン化合物の様々な物理的特性を示している。
【0061】
【0062】
表1は、官能化ポリオレフィンをポリα-1,3-グルカン上に共有結合グラフトすることにより、ポリα-1,3-グルカンにグラフトされていない官能化ポリオレフィンと比較して、所定の歪みでの応力、貯蔵弾性率、及び引張弾性率が全て増加することを示している。
【0063】
表2は、ポリアミド樹脂の個々の成分としてポリα-1,3-グルカンを使用することの効果を示している。表3は、ポリアミド樹脂の個々の成分としてポリα-1,3-グルカンと官能化ポリオレフィンを使用することの効果を示している。
【0064】
表4では、表中の全ての実施例で、ポリα-1,3-グルカン化合物E4をポリアミド樹脂とブレンドした。
【0065】
【0066】
表2の結果は、ポリα-1,3-グルカンを含むポリアミドの破断点歪みとIzod衝撃強さを示している。表2は、ポリアミド中のポリα-1,3-グルカンの存在(C3~C6)が、ポリアミド樹脂単独(C2)と比較して、破断点歪みとIzod衝撃強さの両方の値を低下させることを明確に示している。
【0067】
【0068】
表3の結果は、表3の組成物の中に別々且つ個々の成分として添加されたポリα-1,3-グルカンと官能化ポリオレフィンの両方をそれぞれ2:1の重量比で含むポリアミドの破断点歪みとIzod衝撃強さを示している。表3は、ポリアミド中のポリα-1,3-グルカンと官能化ポリオレフィンの存在(C7~C10)が、ポリα-1,3-グルカンと官能化ポリオレフィンの両方が非常に高レベルであるもの(C10)を除いては、ポリアミド樹脂単独(C2)と比較して破断点歪みとIzod衝撃強さの両方の値を低下させることを示している。
【0069】
【0070】
表4は、本明細書に開示のポリα-1,3-グルカン化合物を含むポリアミド組成物の破断点歪み及びIzod衝撃強さを示している。表4は、ポリアミド組成物中にポリα-1,3-グルカン化合物が存在すると(E5~E8)、ポリアミド樹脂のみを含むポリアミド組成物(C2)と比較して、破断点歪みの大幅な低下なしにIzod衝撃強さが改善することを示している。