IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エクソンモービル ケミカル パテンツ インコーポレイテッドの特許一覧

特許7209011タイヤトレッド性能改善のためのブチルゴム添加剤
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-11
(45)【発行日】2023-01-19
(54)【発明の名称】タイヤトレッド性能改善のためのブチルゴム添加剤
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20230112BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20230112BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20230112BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20230112BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230112BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
C08L9/00
C08L9/06
C08L7/00
C08K3/36
C08K3/04
B60C1/00 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020555335
(86)(22)【出願日】2019-04-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-12
(86)【国際出願番号】 US2019026597
(87)【国際公開番号】W WO2019199839
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2020-11-18
(31)【優先権主張番号】62/655,980
(32)【優先日】2018-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509004675
【氏名又は名称】エクソンモービル ケミカル パテンツ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】ブロック エドワード ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ディアス アントニー ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】グエン ポール ティー キュー
(72)【発明者】
【氏名】ワージンガー エリック イー
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-086827(JP,A)
【文献】特開昭55-060539(JP,A)
【文献】特表2015-500909(JP,A)
【文献】特開2009-214685(JP,A)
【文献】特開平02-209936(JP,A)
【文献】特表2015-502434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記:
ゴムであって(以下、「phr」は、前記ゴム100質量部当たりの量を意味する)、約30~約50phrの、少なくとも95%のcis-1,4結合含量を有するポリブタジエンと、約40~70phrのスチレン/ブタジエンコポリマーと、約0~約20phrの天然ゴム又はポリイソプレンとを含むゴム;
約0~約30phrの加工油;
約10~約30phrの炭化水素樹脂;
約50~約75phrのフィラー;
硬化剤;
酸化防止剤;及び
約5~約40phrの、約85~約99.5モル%のC4-C7イソオレフィン及び約0.5~約15モル%のC4-C14共役ジエンを含有するブチルコポリマーゴム
を含むエラストマー組成物。
【請求項2】
前記フィラーがシリカ系フィラーである、請求項1に記載のエラストマー組成物。
【請求項3】
前記フィラーがカーボンブラックフィラーである、請求項1に記載のエラストマー組成物。
【請求項4】
前記ブチルコポリマーゴムがイソブチン-イソプレンゴムである、請求項1~3のいずれか1項に記載のエラストマー組成物。
【請求項5】
前記ブチルコポリマーゴムが、さらにスチレン系モノマーを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のエラストマー組成物。
【請求項6】
前記スチレンがメチル-スチレンである、請求項5に記載のエラストマー組成物。
【請求項7】
前記ブチルコポリマーゴムが、約5phr~約25phrの量で存在する、請求項1~6のいずれか1項に記載のエラストマー組成物。
【請求項8】
前記ブチルコポリマーゴムのガラス転移温度(Tg)が約0℃~約-80℃である、請求項1~7のいずれか1項に記載のエラストマー組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のエラストマー組成物の製造方法であって、下記ステップ:
(a)約110℃~約200℃の範囲の温度で前記ポリブタジエン、前記スチレン/ブタジエンコポリマー、前記天然ゴム又はポリイソプレン、前記フィラー、前記加工油、及び前記ブチルコポリマーゴムをブレンドして第1の成分を形成すること;
(b)約110℃未満の範囲の温度で前記硬化剤を前記第1の成分とブレンドすること;及び
(c)前記エラストマー組成物を回収すること
を含む、前記方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載のエラストマー組成物を含むタイヤトレッドのウェットトラクション性能と転がり抵抗のバランスを取る方法であって、
前記タイヤトレッドを形成するために少なくとも前記フィラー、前記ポリブタジエン、前記スチレン/ブタジエンコポリマー、前記天然ゴム又はポリイソプレン、及び前記硬化剤を1種以上の前記ブチルコポリマーゴムと混ぜ合わせ;かつ
これらの成分の硬化を引き起こしてタイヤトレッドを形成し、
ここで、前記ブチルコポリマーゴムの他成分に対するレベル、及びそのコモノマー含量を変えて、タイヤトレッドのウェットトラクションと転がり抵抗のバランスを改善することができる、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明者:Edward J. Blok, Anthony J. Dias, Paul T. Q. Nguyen, Erick E. Wurzinger
関連出願の相互参照
本発明は、参照によってその内容全体をここに援用する2018年4月11日に提出されたUSSN 62/655,980に対する優先権及びその利益を主張する。
発明の分野
本発明は、タイヤトレッドの改質剤として有用なブチルゴムに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
摩耗、トラクション、及び転がり抵抗を指定するタイヤではタイヤトレッド化合物は重要な化合物である。良好なトレッド摩耗を実現しながら優れたトラクション、低い転がり抵抗を与えることが技術的課題である。この課題は、ウェットトラクションと転がり抵抗/トレッド摩耗との間のトレードオフにある。化合物のガラス転移温度(Tg)を上昇させると、より良いウェットトラクションをもたらすことになるが、同時に、転がり抵抗及びトレッド摩耗を増大させる。転がり抵抗及びトレッド摩耗を増大させることなく良好なウェットトラクションを実現できるトレッド化合物添加剤を開発する必要がある。
官能化SBR(スチレンブタジエンゴム)は、フィラー分散を改善することによってこのトレードオフを改善する1つの方法である。架橋したブタジエンコアとアクリルシェルを有するArlanxeoからのサブミクロン乃至ミクロンサイズのゲル、NANOPRENE(商標)は、転がり抵抗に影響を与えずにウェットトラクションを高めるために用いられる別の添加剤である。しかしながら、Nanopreneは、ウェットトラクションの限られた改善を与えるにすぎない。
関連文献としては、米国特許第8,835,563号;第8,501,894号;第9,527,993号;及び第9,273,163号が挙げられる。
【発明の概要】
【0003】
発明の概要
本明細書では、ゴム100質量部当たり(phr)下記:約30~約50phrの、少なくとも95%のcis-1,4結合含量を有するポリブタジエン;約40~70phrのスチレン/ブタジエンコポリマー;約0~約20phrの天然ゴム又はポリイソプレン;約0~約30phrの加工油;約10~約30phrの炭化水素樹脂;約50~約75phrのフィラー;硬化剤;酸化防止剤;シランカップリング剤;及び約5~約30phrの、約85~約99.5モル%のC4-C7イソオレフィン及び約0.5~約15モル%のC4-C14共役ジエンを含有するブチルコポリマーゴムを含むエラストマー組成物について述べる。
タイヤトレッドのウェットトラクション性能と転がり抵抗のバランスを取る方法であって、タイヤトレッドを形成するために少なくともフィラー、ポリブタジエン、スチレン/ブタジエンコポリマー、天然ゴム又はポリイソプレン、及び硬化剤を1種以上のブチルコポリマーゴムと混ぜ合わせること(ここで、ブチルコポリマーゴムは、85~99.5モルパーセント(モル%)のC4-C7イソオレフィン及び0.5~15モル%のC4-C14共役ジエンを含有する);及びこれらの成分の硬化を引き起こしてタイヤトレッドを形成することを含み;ここで、ブチルコポリマーゴムの他成分に対するレベル、及びそのコモノマー含量を変えて、タイヤトレッドのウェットトラクションと転がり抵抗のバランスを改善することができる方法をも開示する。
【発明を実施するための形態】
【0004】
発明の詳細な説明
本発明は、タイヤトレッド組成物におけるブチルコポリマーゴムの使用に関する。ブチルコポリマーゴムは、(i)C4-C7イソオレフィンと、(ii)C4-C14共役ジエンを重合させることによって調製される。ブチルコポリマーゴムは、85~99.5モル%のC4-C7イソオレフィン及び0.5~15モル%のC4-C14共役ジエンを含有する。
タイヤトレッド組成物は、摩耗、トラクション、及び転がり抵抗を指定するタイヤにおいて重要な側面である。良好なトレッド摩耗を実現しながら優れたトラクション及び低い転がり抵抗を与えることが技術的課題である。この課題は、ウェットトラクションと転がり抵抗/トレッド摩耗との間のトレードオフにある。典型的に、組成物のTgを上昇させると、良いウェットトラクションをもたらすことになるが、同時に、転がり抵抗及びトレッド摩耗を増大させる。本明細書に記載の実施形態は、他方では、転がり抵抗及びトレッド摩耗を低下させることなく優れたウェットトラクションを与えることができるトレッド化合物添加剤を提供する。
【0005】
化合物全体のTgを変えずにウェットトラクション領域(0℃)内のヒステリシスを増大させ、転がり抵抗領域(60℃)内のヒステリシスを低減させる添加剤、ブチルコポリマーゴムを開発することによって課題に取り組んだ。
添加剤コンパウンディングステップは、ポリオレフィンドメイン内のカーボンブラック及び酸化防止剤を濃縮することによって、スチレン-ブタジエンゴム/ポリブタジエン/天然ゴム(SBR/PBD/NR)組成物とのポリオレフィンブレンドの既知の欠点に取り組んで、耐摩耗性、硬化状態及びUV安定性を改善できるようにする。これらの欠点としては、好ましくない溶解パラメーターの差異のため硬化剤及びフィラーがポリオレフィンから離れてしまうのでポリオレフィンドメインが十分に加硫されず、かつ十分に強化されないことが挙げられる。本明細書に記載の本実施形態は、これらの欠点の1つ以上を克服する。
【0006】
ブチルコポリマーゴム
本明細書及び特許請求の範囲で使用する用語「ブチルゴム」又は「ブチルゴムコポリマー」は、約0.5~約15モル%の共役ジエン及び約85~約99.5モル%のイソオレフィンを含む、C4-C7イソオレフィンとC4-C14共役ジエンのコポリマーを意味する。ブチルゴムの調製に使用し得るイソオレフィンの説明に役立つ例は、イソブチレン、2-メチル-1-プロペン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン及びβピネンである。ブチルゴムの調製に使用し得る共役ジエンの説明に役立つ例は、イソプレン、ブタジエン、2,3-ジメチルブタジエン、ピペリレン、2,5-ジメチルヘキサ-2,4-ジエン、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン及びメチルシクロペンタジエンである。ブチルゴムの調製は、米国特許第2,356,128号に記載され、さらにR. M. Thomasらによる論文、Ind. & Eng. Chem., vol. 32, pp. 1283 et seq., Oct., 1940に記載されている。ブチルゴムは、一般的に約100,000~約1,500,000、好ましくは約250,000~約800,000の粘度平均分子量及び約0.5~約50、好ましくは1~20のウィイスヨウ素価(Wijs Iodine No.)(INOPO)を有する(INOPO試験の説明のため、Industrial and Engineering Chemistry, Vol. 17, p. 367, 1945を参照されたい)。
【0007】
ブチルゴムは、ブチルゴムの質量に基づいて約85~約99.5モル%、又は約90~約99.5モル%又は約95~約99.5モル%のC4-C7イソオレフィン量を有し得る。
ブチルゴムは、ブチルゴムの質量に基づいて約0.5~約15モル%、又は約0.5~約10モル%又は約0.5~約5モル%のC4-C14共役ジエン量を有し得る。
ブチルゴムの例は、BUTYL 365(ブチル、イソブチレン-イソプレンゴム、ExxonMobil Chemical Companyから入手可能)である。
発明組成物は、5phr~40phr、又は5phr~25phrの量でブチルゴムを含んでよい。
【0008】
エラストマー
発明タイヤトレッド組成物はエラストマーをも含む。一般的にエラストマーの範囲は、タイヤトレッド組成物の5~75質量%である。適切なエラストマーとしては、例えば、ジエンエラストマーがある。
「ジエンエラストマー」は、既知の方法で、少なくとも一部はジエンモノマー(共役・非共役にかかわらず、2つの炭素-炭素二重結合を有するモノマー)から生じるエラストマー(ホモポリマー又はコポリマー)を意味するものと理解される。
ジエンエラストマーは、50%超のモル含量の単位を有する共役ジエンモノマーに起因する「高度に不飽和」であり得る。
ある態様によれば、-75℃~-0℃のTgを有する各ジエンエラストマーは、スチレンブタジエンコポリマー、天然ポリイソプレン、95%超のcis-1,4結合含量を有する合成ポリイソプレン、スチレン/ブタジエン/イソプレンターポリマー及びこれらのエラストマーの混合物から成る群より選択され、-110℃~-75℃、好ましくは-100℃~-80℃のTgを有する各ジエンエラストマーは、90%超のcis-1,4結合含量を有するポリブタジエン及びブタジエン単位を50%以上の量で含むイソプレン/ブタジエンコポリマーから成る群より選択される。
【0009】
別の態様では、-75℃~-40℃のTgを有する各ジエンエラストマーは、天然ポリイソプレン及び95%超のcis-1,4結合含量を有する合成ポリイソプレンから成る群より選択され、-110℃~-75℃のTgを有する各ジエンエラストマーは、90%超、又は95%超のcis-1,4結合含量を有するポリブタジエンである。
ある態様では、組成物は、-75℃~-0℃のTgを有するジエンエラストマーと、-110℃~-75℃のTgを有するジエンエラストマー(複数可)のそれぞれとのブレンドを含む。
ある態様では、組成物は、90%超のcis-1,4結合含量を有するポリブタジエンの少なくとも1種と、天然又は合成ポリイソプレン(95%超のcis-1,4結合含量を有する)の少なくとも1種とのブレンドを含む。
別の態様では、組成物は、90%超のcis-1,4結合含量を有するポリブタジエンの少なくとも1種と、スチレン、イソプレン及びブタジエンのターポリマーの少なくとも1種とのブレンドを含む。
【0010】
これらのジエンエラストマーは、2つのカテゴリー:「本質的に不飽和」又は「本質的に飽和」に分類することができる。用語「本質的に不飽和」は、一般的に少なくとも一部は15%(モル%)より多いレベルのジエン起源単位(共役ジエン)を有する共役ジエンモノマーから生じるジエンエラストマーを意味するものと理解され;従ってブチルゴム又はジエンとEPDM型のα-オレフィンとのコポリマーのようなジエンエラストマーは前述の定義に入らず、特に「本質的に飽和した」ジエンエラストマー(低レベル又は超低レベルのジエン起源単位、常に15%未満)と記載することができる。「本質的に不飽和」のジエンエラストマーのカテゴリーでは、用語「高度に不飽和」のジエンエラストマーは、50%より多いレベルのジエン起源単位(共役ジエン)を有するジエンエラストマーを特に意味するものと理解される。
【0011】
これらの定義を考慮すると、本明細書で使用できるジエンエラストマーという用語は、特に(a)4~12個の炭素原子を有する共役ジエンモノマーの重合によって得られる任意のホモポリマー;(b)1種以上の共役ジエンと、1種の別の共役ジエン又は8~20個の炭素原子を有する1種以上のビニル芳香族化合物との共重合によって得られる任意のコポリマー;(c)エチレン及び3~6個の炭素原子を有するα-オレフィンと、6~12個の炭素原子を有する非共役ジエンモノマーとの共重合によって得られる三元コポリマー、例えば、エチレン及びプロピレンと、上記タイプの非共役ジエンモノマー、特に、1,4-ヘキサジエン、エチリデンノルボルネン又はジシクロペンタジエン等とから得られるエラストマー;並びに(d)イソブテンとイソプレンとのコポリマー(ブチルゴム)及びこのタイプのコポリマーのハロゲン化型、特に塩素化又は臭素化型を意味するものと理解される。
【0012】
下記は共役ジエンとして特に適している:1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジ(C1-C5アルキル)-1,3-ブタジエン、例えば、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジエチル-1,3-ブタジエン、2-メチル-3-エチル-1,3-ブタジエン又は2-メチル-3-イソプロピル-1,3-ブタジエン、アリール-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン又は2,4-ヘキサジエン等。例えば、下記はビニル芳香族化合物として適している:スチレン、オルト、メタ又はパラ-メチルスチレン、「ビニルトルエン」市販混合物、パラ-(tert-ブチル)スチレン、メトキシスチレン、クロロスチレン、ビニルメシチレン、ジビニルベンゼン又はビニルナフタレン。
【0013】
コポリマーは、99質量%~20質量%のジエン単位及び1質量%~80質量%のビニル芳香族単位を含むことができる。エラストマーは、使用する重合条件によって、特に改質剤及び/又はランダム化剤の存否によって並びに利用する改質剤及び/又はランダム化剤の量によって決まるいずれのミクロ構造をも有する可能性がある。エラストマーは、例えば、ブロック、ランダム、シーケンシャル又はミクロシーケンシャルエラストマーであってよく、分散系又は溶液中で調製可能であり;それらは、カップリング剤及び/又は星状分岐化剤でカップリング及び/又は星状分岐化されるか或いは官能化剤で官能化されることもある。例えば、カーボンブラックへのカップリングのため、C--Sn結合を含む官能基又はアミノ化官能基、例えばベンゾフェノンに言及することができ;シリカ等の強化性無機フィラーへのカップリングのため、例えば、シラノール末端、アルコキシシラン基、カルボキシル基、又はポリエーテル基を有するシラノール又はポリシロキサン官能基に言及することができる。
【0014】
下記は適している:ポリブタジエン、特に4%~80%の含量(モル%)の1,2-単位を有するもの又は80%超の含量(モル%)のcis-1,4-単位を有するもの、ポリイソプレン、ブタジエン/スチレンコポリマー、特に5質量%~60質量%、さらに特に20質量%~50質量%のスチレン含量、ブタジエン部分の4%~75%の含量(モル%)の1,2-結合及び10%~80%の含量(モル%)のtrans-1,4-結合を有するもの、ブタジエン/イソプレンコポリマー、特に5質量%~90質量%を有するもの、又はイソプレン/スチレンコポリマー、特に5質量%~50質量%のスチレン含量を有するもの。ブタジエン/スチレン/イソプレンコポリマーの場合、5質量%~50質量%、さらに特に10質量%~40質量%のスチレン含量、15質量%~60質量%、さらに特に20質量%~50質量%のイソプレン含量、5質量%~50質量%、さらに特に20質量%~40質量%のブタジエン含量、ブタジエン部分の4%~85%の含量(モル%)の1,2-単位、ブタジエン部分の6%~80%の含量(モル%)のtrans-1,4-単位、イソプレン部分の5%~70%の含量(モル%)の1,2-単位に加えて3,4-単位及びイソプレン部分の10%~50%の含量(モル%)のtrans-1,4-単位を有するもの、並びにさらに一般的に任意のブタジエン/スチレン/イソプレンコポリマー。
【0015】
ポリブタジエン(略して「BR」)、合成ポリイソプレン(IR)、天然ゴム(NR)、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマー及びこれらのエラストマーの混合物から成る高度に不飽和のジエンエラストマーの群より選択されるジエンエラストマー。該コポリマーは、さらに好ましくは、ブタジエン/スチレンコポリマー(SBR)、イソプレン/ブタジエンコポリマー(BIR)、イソプレン/スチレンコポリマー(SIR)及びイソプレン/ブタジエン/スチレンコポリマー(SBIR)から成る群より選択される。
特定の実施形態によれば、ジエンエラストマーは、主に(すなわち、50wt%超について)エマルション中で調製されるSBR(「ESBR」)又は溶液中で調製されるSBR(「SSBR」)、又はSBR/BR、SBR/NR(又はSBR/IR)、BR/NR(又はBR/IR)であるかにかかわらず、或いはSBR/BR/NR(又はSBR/BR/IR)ブレンド(混合物)であってもSBRである。SBR(ESBR又はSSBR)エラストマーの場合、特に例えば20質量%~35質量%の中程度スチレン含量、又は例えば35%~45%の高スチレン含量、ブタジエン部分の15%~70%の含量のビニル結合、15%~75%の含量(モル%)のtrans-1,4-結合を有するSBRを利用されたい。該SBRは、好ましくは90%(モル%)超のcis-1,4-結合を有するBRとの混合物として有利に使用することができる。
【0016】
用語「イソプレンエラストマー」は、既知の方法で、イソプレンホモポリマー又はコポリマー、言い換えれば、天然ゴム(NR)、合成ポリイソプレン(IR)、イソプレンの種々のコポリマー及びこれらのエラストマーの混合物から成る群より選択されるジエンエラストマーを意味するものと理解される。イソプレンコポリマーの中で、特にイソブテン/イソプレンコポリマー(ブチルゴムIM)、イソプレン/スチレンコポリマー(SIR)、イソプレン/ブタジエンコポリマー(BIR)又はイソプレン/ブタジエン/スチレンコポリマー(SBIR)に言及することになる。このイソプレンエラストマーは、好ましくは天然ゴム又は合成cis-1,4-ポリイソプレンであり;これらの合成ポリイソプレンの中で、90%超、さらに好ましくは98%超のレベル(モル%)のcis-1,4-結合を有するポリイソプレンを利用するのが好ましい。
【0017】
さらに別の態様によれば、ゴム組成物は、-70℃~0℃のTgを示す(1種以上の)「高Tg」ジエンエラストマーと、-110℃~-80℃、さらに好ましくは-100℃~-90℃のTgを示す(1種以上の)「低Tg」ジエンエラストマーとのブレンドを含む。高Tgエラストマーは、好ましくはS-SBRs、E-SBRs、天然ゴム、合成ポリイソプレン(好ましくは95%超のレベル(モル%)のcis-1,4-構造を示す)、BIRs、SIRs、SBIRs及びこれらのエラストマーの混合物から成る群より選択される。低Tgエラストマーは、好ましくは少なくとも70%に等しいレベル(モル%)に一致するブタジエン単位を含み;それは、好ましくは90%超のレベル(モル%)のcis-1,4-構造を示すポリブタジエン(BR)から成る。
【0018】
本発明の別の実施形態によれば、ゴム組成物は、例えば、40~70phr(全エラストマー百部当たりの質量部)の高Tgエラストマーを、30~50phrの低Tgエラストマーとのブレンドとして含み;別の例によれば、ゴム組成物は、100phr全体について、溶液中で調製される1種以上のSBRを含む。
本発明の別の実施形態によれば、本発明の組成物のジエンエラストマーは、90%超のレベル(モル%)のcis-1,4-構造を示すBR(低Tgエラストマーとして)と、1種以上のS-SBRs又はE-SBRs(高Tgエラストマーとして)とのブレンドを含む。
本明細書に記載の組成物は、単一のジエンエラストマー又は複数のジエンエラストマーの混合物を含むことができ、単一のジエンエラストマー又は複数のジエンエラストマーは、ジエンエラストマー以外のいずれのタイプの合成エラストマーとも、エラストマー以外のポリマー、例えば熱可塑性ポリマーとでさえも組み合わせて使用することができる。
【0019】
有用なタイヤトレッド組成物は、0~70wt%のスチレンコポリマー;0又は70wt%のポリブタジエンポリマー;0~70wt%の天然ゴム又は合成ポリイソプレン;15~70wt%の官能化スチレンコポリマー;0又は5wt%から60wt%までの官能化極性ポリブタジエンポリマー;0又は70wt%の天然ゴム又は官能化合成ポリイソプレン;0又は40wt%の加工油;20wt%~60wt%のフィラー、特に本明細書に記載のシリカ系フィラー;硬化剤;及び5wt%~20wt%の本明細書に記載のブチルゴム、及び0又は40wt%の炭化水素樹脂を含むこともでき、質量百分率は全組成物に基づいている。
【0020】
無機フィラー
本明細書で使用する用語「フィラー」は、物性を強化若しくは改変し、特定の加工特性を与え、又はエラストマー組成物のコストを削減するために使用されるいずれの材料をも指す。
好ましいフィラーの例としては、限定するものではないが、炭酸カルシウム、粘土、マイカ、シリカ、ケイ酸塩、タルク、二酸化チタン、アルミナ、酸化亜鉛、デンプン、木粉、カーボンブラック、又はその混合物が挙げられる。フィラーは、いずれのサイズ及び範囲であってもよく、例えばタイヤ業界では、0.0001μm~100μmである。
本明細書で使用する場合、用語「シリカ」は、溶解法、焼成法等の方法で加工されたいずれのタイプ若しくは粒径のシリカ又は別のケイ酸誘導体、又はケイ酸をも指すことを意味し、未処理の沈降シリカ、結晶性シリカ、コロイドシリカ、ケイ酸アルミニウム若しくはケイ酸カルシウム、ヒュームドシリカ等が挙げられる。沈降シリカは、通常のシリカ、半高分散性シリカ、又は高分散シリカであり得る。好ましいフィラーは、商品名ZEOSIL(商標)Z1165でRhodia Companyによって市販されている。
【0021】
ゴム組成物を強化する能力で知られ、タイヤの製造に使用できるいずれのタイプの強化性フィラーをも利用してよく、例えばカーボンブラック等の有機フィラー、シリカ等の強化性無機フィラー、又はこれら2タイプのフィラーのブレンド、特にカーボンブラックとシリカのブレンドを利用し得る。
全てのカーボンブラック、特に従来タイヤに使用されているHAF、ISAF又はSAF型のブラック(「タイヤグレード」ブラック)がカーボンブラックとして適している。後者の中で、さらに特に例えば、N115、N134、N234、N326、N330、N339、N347又はN375ブラック等の100、200又は300シリーズ(ASTMグレード)の強化性カーボンブラック、又はターゲットとする用途によっては、より高品質シリーズのブラック(例えば、N660、N683又はN772)にも言及することになる。カーボンブラックは、例えば、マスターバッチの形態のイソプレンエラストマー中に既に組み込まれている可能性もある(例えば、国際出願WO 97/36724又はWO 99/16600参照)。
【0022】
用語「強化性無機フィラー」は、本特許出願においては、定義によって、その色及びその起源(天然又は合成)が何であれ、「ホワイトフィラー」、「クリアフィラー」又はカーボンブラックとは対照的に「非ブラックフィラー」としてさえも知られ、それ自体だけで、タイヤの製造を意図したゴム組成物を中間カップリング剤以外の手段なしで強化できる、言い換えれば、その強化役割において、通常のタイヤグレードのカーボンブラックに取って代わることができるいずれの無機又は鉱物フィラーをも意味するものと理解すべきであり;該フィラーは、一般的に、既知の様式で、その表面にヒドロキシル(--OH)基が存在することを特徴とする。
強化性無機フィラーが提供される物理的状態は、粉末、ミクロビーズ、顆粒、ビーズの形態又はいずれの他の適切な圧縮形態であれ、重要でない。当然に、強化性無機フィラーという用語は、異なる強化性無機フィラー、特に下記高分散性シリカ質及び/又はアルミナ質フィラーの混合物をも意味するものと理解される。
【0023】
シリカ質タイプの鉱物フィラー、特にシリカ(SiO2)、又はアルミナ質タイプの鉱物フィラー、特にアルミナ(Al2O3)が強化性無機フィラーとして特に適している。使用するシリカは、当業者に既知のいずれの強化性シリカであってもよく、特にBET表面積とCTAB比表面積が両方とも450m2/g未満、好ましくは30~400m2/gを呈するいずれの沈降シリカ又は焼成シリカであってもよい。高分散性(「HDS」)沈降シリカ、例えば、DegussaからのULTRASIL(商標)7000及びULTRASIL(商標)7005シリカ、RhodiaからのZEOSIL(商標)1165 MP、C5 MP及び1115 MPシリカ、PPGからのHI-SIL(商標)EZ150Gシリカ、HuberからのZeopol 8715、8745及び8755シリカ又は高比表面積を有するシリカに言及することになる。
使用可能な無機フィラーの他の例として、強化性アルミニウム(酸化物)、水酸化物、酸化チタン又は炭化ケイ素にも言及し得る(例えば、国際出願WO 02/053634及びUS 2004/0030017参照)。
【0024】
本発明の組成物が低い転がり抵抗を有するタイヤトレッドを対象とするとき、使用する強化性無機フィラーは、特にそれがシリカである場合、好ましくは45~400m2/g、さらに好ましくは60~300m2/gのBET表面積を有する。
好ましくは、全強化性フィラー(カーボンブラック及び/又は強化性無機フィラー)のレベルは、20~200phr、さらに好ましくは30~150phrであり、最適レベルは、既知の様式でターゲットとする特定用途に応じて異なり;例えば、自転車タイヤに関して期待される強化レベルは、当然に、持続様式で高速にて走行できるタイヤ、例えば、モーターサイクルタイヤ、乗用車用タイヤ又はヘビーデューティービークル等の商用車用タイヤに関して要求されるレベルより低い。
【0025】
カップリング剤
本明細書で使用する場合、用語「カップリング剤」は、さもなければ相互作用しない2つの種間、例えばフィラーとジエンエラストマーとの間の安定した化学的及び/又は物理的相互作用を促進できるいずれの薬剤をも指す意図である。カップリング剤によってシリカがゴムに強化作用を及ぼす。該カップリング剤は、シリカ粒子と予混合するか、又はプレ反応させてよく、或いはゴム/シリカ加工、又は混合段階中にゴム混合物に添加してもよい。ゴム/シリカ混合、又は加工段階中にカップリング剤及びシリカを別々にゴム混合物に添加する場合、その後カップリング剤がその場でシリカと結合すると考えられる。
カップリング剤は、硫黄系カップリング剤、有機過酸化物系カップリング剤、無機カップリング剤、ポリアミンカップリング剤、樹脂カップリング剤、硫黄化合物系カップリング剤、オキシム-ニトロソアミン系カップリング剤、及び硫黄であってよい。これらの中で、タイヤ用ゴム組成物には硫黄系カップリング剤が好ましい。
【0026】
ある実施形態では、カップリング剤は少なくとも二官能性である。二官能性カップリング剤の非限定例としては、オルガノシラン又はポリオルガノシロキサンが挙げられる。適切なカップリング剤の他の例としてはシランポリスルフィドがあり、それらの特有の構造に応じて「対称性」又は「非対称性」と呼ばれる。シランポリスルフィドは下記式(V): Z-A-Sx-A-Z (V),
によって表すことができ、式中、xは、2~8(好ましくは2~5)の整数であり;記号Aは、同一であるか又は異なり、二価炭化水素基(好ましくはC1-C18アルキレン基又はC6-C12アリーレン基、さらに特にC1-C10、特にC1-C4アルキレン、特にプロピレン)を表し;記号Zは、同一であるか又は異なり、下記3つの式(VI):
【0027】
【化1】
(VI),
【0028】
(式中、置換され又は置換されず、かつ同一であるか又は互いに異なるR1基は、C1-C18アルキル、C5-C18シクロアルキル又はC6-C18アリール基(好ましくはC1-C6アルキル、シクロヘキシル又はフェニル基、特にC1-C4アルキル基、さらに特にメチル及び/又はエチル)を表し;置換され又は置換されず、かつ同一であるか又は互いに異なるR2基はC1-C18アルコキシル又はC5-C18シクロアルコキシル基(好ましくはC1-C8アルコキシル及びC5-C8シクロアルコキシルから選択される基、さらに好ましくはC1-C4アルコキシル、特にメトキシル及びエトキシルから選択される基)を表す)の1つに相当する。
シランポリスルフィドの非限定例としては、ビス((C1-C4)アルコキシ(C1-C4)アルキルシリル(C1-C4)アルキル)ポリスルフィド(特にジスルフィド、トリスルフィド又はテトラスルフィド)、例えば、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)又はビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィドが挙げられる。さらなる例としては、式[(C2H5O)3Si(CH2)3S2]2のTESPTと略されるビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、又は式[(C2H5O)3Si(CH2)3S]2のTESPDと略されるビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドが挙げられる。他のとしては、ビス(モノ(C1-C4)アルコキシルジ(C1-C4)アルキルシリルプロピル)ポリスルフィド(特にジスルフィド、トリスルフィド又はテトラスルフィド)、さらに特にビス(モノエトキシジメチルシリルプロピル)テトラスルフィドが挙げられる。
【0029】
カップリング剤は、二官能性POS(ポリオルガノシロキサン)、又はヒドロキシシランポリスルフィド、又はアゾジカルボニル官能基を有するシラン若しくはPOSであってもよい。カップリング剤として、他のシランスルフィド、例えば、少なくとも1つのチオール(-SH)官能基及び/又は少なくとも1つのマスクされたチオール官能基を有するシラン(メルカプトシランと呼ばれる)が含まれることもある。
カップリング剤として、本明細書に記載されるか、又はそうでなければ技術上周知のもののような1種以上のカップリング剤の組み合わせが含まれることもある。好ましいカップリング剤は、アルコキシシラン又はポリ硫化アルコキシシランを含む。特に好ましいポリ硫化アルコキシシランは、Degussaにより商品名X50S(商標)で市販されているビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドである。
【0030】
可塑剤
本明細書で使用する場合、用語「可塑剤」(加工油とも呼ばれる)は、石油由来加工油及び合成可塑剤を指す。該油は、主に組成物の加工性を改善するために使用される。適切な可塑剤としては、限定するものではないが、脂肪酸エステル又は炭化水素可塑剤油、例えばパラフィン油、芳香族油、ナフテン系石油、及びポリブテン油が挙げられる。特に好ましい可塑剤は、Nynasにより商品名NYTEX(商標)4700で市販されているナフテン油である。
MES及びTDAE油は当業者に周知であり;例えば、公表文献KGK (Kautschuk Gummi Kunstoffe), 52nd year, No. 12/99, pp. 799-805、表題「Safe Process Oils for Tires with Low Environmental Impact」を参照されたい。
MES油(「抽出」又は「水素化」型かにかかわらず)又はTDAE油の例として、例えば、ExxonMobilにより商品名FLEXON(商標)683で、H&R Europeanにより商品名VIVATEC(商標)200若しくはVIVATEC(商標)500で、Totalにより商品名PLAXOLENE(商標)MSで、又はShellにより商品名CATENEX(商標)SNRで販売されている製品に言及し得る。
【0031】
本発明での使用に適した他の可塑剤としては、「トリエステル」又は「脂肪酸」が挙げられる。トリエステル及び脂肪酸は、一般的にそれぞれトリエステルの混合物又は脂肪酸の混合物を指す。
好ましいグリセロールトリオレアートの中で、天然化合物の例として、特に、高含量(50質量%超、さらに好ましくは80質量%超)のオレイン酸を有する植物油であるヒマワリ油又はナタネ油に言及することになる。
C5留分/ビニル芳香族コポリマー、特にC5留分/スチレン又はC5留分/C9留分コポリマーから形成された樹脂(用語「樹脂」は固体化合物に対する定義をあてられることを覚えておくべきである)は周知であり;それらは今日まで基本的に接着剤及び塗料用の粘着付与剤としての用途に使用されているが、タイヤゴム組成物の加工助剤としても使用されている。
C5留分/ビニル芳香族コポリマーは、定義により、かつ既知の様式で、ビニル芳香族モノマーとC5留分とのコポリマーである。
例えば、スチレン、α-メチルスチレン、オルト、メタ又はパラ-メチルスチレン、ビニルトルエン、パラ-(tert-ブチル)スチレン、メトキシスチレン、クロロスチレン、ビニルメシチレン、ジビニルベンゼン、ビニルナフタレン及びC9留分(より一般的にはC8~C10留分)から生じるいずれものビニル芳香族モノマーは、ビニル芳香族モノマーとして適している。好ましくは、ビニル芳香族化合物はスチレン、又はC9留分(より一般的にはC8~C10留分)から生じるビニル芳香族モノマーである。
【0032】
既知の様式で、C5留分(又は、例えば、それぞれC9留分)という用語は、石油化学又は石油の精製に起因するプロセスの結果として生じるいずれもの留分、5(又はC9留分の場合、それぞれ9)個の炭素原子を有する化合物を主に含むいずれもの蒸留留分を意味するものと理解され;C5留分は、例えば、例示として、かつ限定ではなく、下記化合物を含むことがあり、その相対的比率は、それらが得られるプロセスに応じて、例えばナフサの起源及び蒸気分解プロセスに応じて異なり得る:1,3-ブタジエン、1-ブテン、2-ブテン、1,2-ブタジエン、3-メチル-1-ブテン、1,4-ペンタジエン、1-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、2-ペンテン、イソプレン、シクロペンタジエン(そのジシクロペンタジエンダイマーの形態で存在することがある)、ピペリレン、シクロペンテン、1-メチルシクロペンテン、1-ヘキセン、メチルシクロペンタジエン又はシクロヘキセン。これらの留分は、石油産業及び石油化学で既知のいずれの化学プロセスによっても得ることができる。非限定例として、ナフサの蒸気分解プロセス又はガソリンの流動接触分解プロセスに言及することができ、これらのプロセスは、当業者に既知のこれらの留分の変換のために可能ないずれの化学的処理、例えば水素化及び脱水素化とも組み合わせることができる。
【0033】
本発明の実施形態で有用な可塑化炭化水素樹脂としては、シクロペンタジエン(CPD)又はジシクロペンタジエン(DCPD)のホモポリマー又はコポリマー、テルペンのホモポリマー又はコポリマー、C5カット(cut)のホモポリマー又はコポリマー及びその混合物であるものが挙げられる。
一般的に上述した該コポリマー可塑化炭化水素樹脂としては、例えば、(D)CPD/ビニル芳香族、(D)CPD/テルペン、(D)CPD/C5カット、テルペン/ビニル芳香族、C5カット/ビニル芳香族及びその組み合わせのコポリマーで構成される樹脂が挙げられる。
テルペンのホモポリマー樹脂及びコポリマー樹脂に有用なテルペンモノマーとしては、α-ピネン、β-ピネン及びリモネンが挙げられる。特定実施形態は、下記3つの異性体:L-リモネン(左旋性エナンチオマー)、D-リモネン(右旋性エナンチオマー)、又は右旋性エナンチオマーと左旋性エナンチオマーのラセミ混合物であるジペンテンでさえも含めたリモネンモノマーのポリマーを含む。
ビニル芳香族モノマーの例としては、スチレン、α-メチルスチレン、オルト、メタ、又はパラ-メチルスチレン、ビニルトルエン、パラ-ターチオブチルスチレン(para-tertiobutylstyrene)、メトキシスチレン、クロロスチレン、ビニルメシチレン、ジビニルベンゼン、ビニルナフタレン、C9カット(又は、さらに一般的に、C8-C10カット)に由来するいずれの芳香族モノマーも挙げられる。ビニル芳香族コポリマーを含む特定の実施形態は、コポリマー中に、モル分率で表される少量モノマーのビニル芳香族を含む。
本発明の特定実施形態は、可塑化炭化水素樹脂として(D)CPDホモポリマー樹脂、(D)CPD/スチレンコポリマー樹脂、ポリリモネン樹脂、リモネン/スチレンコポリマー樹脂、リモネン/D(CPD)コポリマー樹脂、C5カット/スチレンコポリマー樹脂、C5カット/C9カットコポリマー樹脂、及びその混合物を含む。
【0034】
酸化防止剤
本明細書で使用する場合、用語「酸化防止剤」は、酸化的分解に対抗する化学薬品を指す。適切な酸化防止剤としてはジフェニル-p-フェニレンジアミン及びThe Vanderbilt Rubber Handbook (1978)、344~346ページに開示されているものが挙げられる。特に好ましい酸化防止剤は、Eastmanにより商品名SANTOFLEX(商標)6PPDで市販されているパラ-フェニレンジアミン(N-(1,3-ジメチルブチル)-N´-フェニル-1,4-フェニレンジアミン)である。
【0035】
架橋剤、硬化剤、硬化パッケージ、及び硬化プロセス
本エラストマー組成物及び当該組成物から作られる物品は、一般的に少なくとも1種の硬化パッケージ、少なくとも1種の硬化剤、少なくとも1種の架橋剤の助けを借りて製造され、及び/又はエラストマー組成物を硬化するためのプロセスを受ける。本明細書で使用する場合、少なくとも1種の硬化パッケージは、当業界で普通に理解されるように、ゴムに硬化特性を与えることができるいずれの材料又は方法をも指す。好ましい硬化剤は硫黄である。
【0036】
加工
これらの化合物を適切なミキサーで当業者に周知の少なくとも2つの連続パスを用いて混合した。非生産的パス(架橋系なしで混合)は、110℃~190℃の高温で混合する。非生産的パスの後に、架橋系が添加される生産的パスが続く。この混合の温度は、典型的に110℃未満である。
本タイヤトレッド組成物は、組成物中にブチルゴムが存在すると多くの望ましい特性を有する。
ブチルゴムを作るために用いる反応物質、及びタイヤトレッド組成物におけるそれらの使用について本明細書で開示する種々の記述要素及び数値範囲を他の記述要素及び数値範囲と組み合わせて本発明を記載することができ;さらに、所与の要素について、本明細書に記載のいずれの上限数値をいずれの下限数値と組み合わせてもよい。下記非限定例で本発明の特徴を説明する。
【実施例
【0037】
化合物のサンプル調製
BUTYL 365を他の成分とコンプパウンドして表1に示すブチル化合物を生成した。全ての成分はphr、すなわちポリマー単位百部当たりの部で示してある。これらの化合物を適切なミキサーで当業者に周知の少なくとも2つの連続パスを用いて混合した。混合温度は110℃~210℃の範囲である。個々の各混合ステップの混合持続時間は、所望特性に応じて1~30分である。
【0038】
表2:ブチル化合物処方

* CHIMASSORB(登録商標)2020(高分子量、ヒンダードアミン光安定剤、BASFから入手可能);AKRO-ZINC(登録商標)BAR 25(ナフテン油中Frenchプロセス酸化亜鉛、Akrochem Corporationから入手可能);Cabotから入手可能なPre 3カーボンブラック
【0039】
シリカトレッドのコンパウンディング
コントロール及び実施例のトレッド化合物処方を表3に示す。全ての成分はphr、すなわちポリマー単位百部当たりの部で示してある。これらの化合物を適切なミキサーで当業者に周知の少なくとも2つの連続パスを用いて混合した。非生産的パス(架橋系のない混合)は、110℃~190℃の高温で混合する。非生産的パスの後に、架橋系が添加される生産的パスが続く。この混合の温度は、典型的に110℃未満である。
【0040】
表3:ブチル化合物を用いたタイヤトレッド処方及び対応コントロール
【0041】
* NIPOL(登録商標)NS 116R(21%の結合スチレンを有するスチレンブタジエンゴム、Zeon Corporationから入手可能);ZEOSIL(登録商標)1165MP(非晶質沈降シリカ、Rhodiaから入手可能);BUDENE(登録商標)1208(1,3-ブタジエン、ホモポリマー、Goodyear Chemicalから入手可能);SMR(商標)20(cis-ポリイソプレンの天然ポリマー、Herman Webber & Co.から入手可能);SANTOFLEX(商標)6PPD(N-(1,3-ジメチルブチル)-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン、Eastman Chemicalから入手可能);X 50S(登録商標)(カーボンブラックを含むビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、Evonik Industriesから入手可能);AKRO-ZINC(登録商標)BAR 25(ナフテン油中Frenchプロセス酸化亜鉛、Akrochem Corporationから入手可能);N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS);ジフェニルグアニジン(DPG)
** 全ゴム(NIPOL(登録商標)NS 116R+BUDENE(登録商標)1208+SMR(商標)20)百部当たり
*** 樹脂1~8は、ExxonMobil Chemical Co.から商業的に入手可能。樹脂1はPR 373、C5/C9樹脂である。樹脂2はEscorez(商標)1102、C5樹脂である。樹脂3はPR 395、DCPD/C9樹脂である。樹脂4はEscorez(商標)5300、DCPD樹脂である。樹脂5はEscorez(商標)5340、DCPD樹脂である。樹脂6はPR 100、DCPD樹脂である。樹脂7はPR 383、DCPD/C9樹脂である。樹脂8はPR 373、C5/C9樹脂である。
【0042】
損失正接の測定
表3に記載の化合物を圧縮成形し、硬化させてパッドにした。その後、硬化パッドから矩形試験片(幅12mm&長さ30mm)を打ち抜いて、ねじれ矩形形状における動的機械試験のためにARES G2(Advanced Rheometric Expansion System, TA instruments)に取り付けた。試験片の厚さはおよそ1.8mmであったが、試験片の厚さは各試験について異なったので手作業で測定した。最初に5.5%の歪みまで室温(約23℃)及び10Hzで歪み掃引を行なった後、4%の歪み及び10Hzで-38℃から100℃まで2℃/分の傾斜率で温度掃引を行なった。貯蔵モジュラス及び損失モジュラスを損失正接値と共に測定した。より良好なウェットトラクションのためには、0℃未満の温度でより高い損失正接を有するのが好ましいのに対して、より良好な転がり抵抗のためには60℃で損失正接がより低いことが好ましい。
表4は、ブチル化合物を用いたタイヤトレッド処方(表3)についての損失正接測定値を提供し、表5は、同測定値であるが、コントロールタイヤトレッド処方TT-1の百分率として提供する。
【0043】
表4:ブチル化合物を用いたタイヤトレッド処方の損失正接
【0044】
表5:ブチル化合物を用いたタイヤトレッド処方の損失正接(TT-1のパーセント)
【0045】
トレッド化合物へのBUTYL 365の添加は、ウェットトラクションを改善し(0℃で増大した損失正接)、かつ転がり抵抗を改善する(60℃で低減した損失正接)。樹脂とブチル添加剤の組み合わせは、広い温度/振動数範囲に渡ってウェットブレーキングを微調整できるようにする。
【0046】
応力/歪み測定
ASTM D4482ダイで5つの試験片を打ち抜き、試験前の16時間実験室で適当な状態にした。
Instron 5565で長動程機械式伸縮計(long travel mechanical extensometer)を用いて試験片を調べた。
各試験日前にロードセル及び伸縮計を較正する。ゲージ長として20mmで伸縮計を較正する。
サンプル情報、オペレーター名、日付、実験室温度、及び湿度を全て記録する。
試験片の厚さを試験エリア内の3つの場所で測定した。要求されたときに平均値を入力した。実験室温度及び湿度を測定する。
グリップに試験片を慎重にロードして、グリップを試験片上に対称に確実にクランプした。次に伸縮計グリップを試験エリア内でサンプルに取り付けた。
試験を開始するように促した。0.1Nの予荷重を加えた。20インチ(50.8cm)/分でクロスヘッドを動かして試験を開始し、破断が検出されるまで行なった。
各サンプルから得た5つの試験片を調べ、報告のために中央値を用いた。
表6は、ブチル化合物を用いたタイヤトレッド処方(表3)についての応力/歪み測定値を提供し、表7は、同測定値であるが、コントロールタイヤトレッド処方TT-1の百分率として提供する。
【0047】
表6:ブチル化合物を用いたタイヤトレッド処方についての応力/歪み測定値
【0048】
表7:ブチル化合物を用いたタイヤトレッド処方についての
応力/歪み測定値(TT-1のパーセント)
【0049】
トレッドへのBUTYL 365の添加は、耐久性及び取扱いの向上を意味するモジュラスを改善した。
【0050】
本明細書及び特許請求の範囲において、用語「含む(including)」及び「含む(comprising)」は非限定用語であり、「含むが、これに限定されないこと」を意味するものと解釈すべきである。これらの用語は、より限定的用語「本質的に~から成る」及び「~から成る」を包含する。
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用する場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈上明白に他の意味に解すべき場合を除き、複数形を含むことに留意しなければならない。同様に、用語「a」(又は「an」)、「1つ以上」及び「少なくとも1つ」は、本明細書では互換的に使用可能である。用語「含む(comprising)」、「含む(including)」、「特徴とする(characterized by)」及び「有する(having)」は、互換的に使用可能であることにも留意すべきである。
次に、本発明の好ましい態様を示す。
1. ゴム100質量部当たり(phr)下記:
約30~約50phrの、少なくとも95%のcis-1,4結合含量を有するポリブタジエン;
約40~70phrのスチレン/ブタジエンコポリマー;
約0~約20phrの天然ゴム又はポリイソプレン;
約0~約30phrの加工油;
約10~約30phrの炭化水素樹脂;
約50~約75phrのフィラー;
硬化剤;
酸化防止剤;及び
約5~約40phrの、約85~約99.5モル%のC 4 -C 7 イソオレフィン及び約0.5~約15モル%のC 4 -C 14 共役ジエンを含有するブチルコポリマーゴム
を含むエラストマー組成物。
2. 前記フィラーがシリカ系フィラーである、上記1に記載のエラストマー組成物。
3. 前記フィラーがカーボンブラックフィラーである、上記1に記載のエラストマー組成物。
4. 前記フィラーが、シリカ系フィラーとカーボンブラックフィラーとのブレンドである、上記1に記載のエラストマー組成物。
5. 前記ブチルゴムがイソブチルレン-イソプレンゴムである、上記1~4のいずれか1項に記載のエラストマー組成物。
6. 前記ブチルコポリマーゴムが、さらにスチレン系モノマーを含む、上記1~4のいずれか1項に記載のエラストマー組成物。
7. 前記スチレンがメチル-スチレンである、上記6に記載のエラストマー組成物。
8. 前記ブチルコポリマーゴムが、約5phr~約25phrの量で存在する、上記1~7のいずれか1項に記載のエラストマー組成物。
9. 前記ブチルコポリマーゴムのガラス転移温度(Tg)が約0℃~約-80℃である、上記1~8のいずれか1項に記載のエラストマー組成物。
10. 上記1~9のいずれか1項に記載のエラストマー組成物を含むタイヤトレッド組成物。
11. 上記10に記載のタイヤトレッド組成物を含む物品。
12. 上記1~9のいずれか1項に記載のエラストマー組成物の製造方法であって、下記ステップ:
(a)約110℃~約200℃の範囲の温度で前記ポリブタジエン、前記スチレン/ブタジエンコポリマー、前記天然ゴム又はポリイソプレン、前記フィラー、前記加工油、及び前記ブチルコポリマーゴムをブレンドして第1の成分を形成すること;
(b)約110℃未満の範囲の温度で前記硬化剤を前記第1の成分とブレンドすること;及び
(c)前記エラストマー組成物を回収すること
を含む、前記方法。
13. 上記1~12のいずれか1項に記載のエラストマー組成物を含むタイヤトレッドのウェットトラクション性能と転がり抵抗のバランスを取る方法であって、
前記タイヤトレッドを形成するために少なくとも前記フィラー、前記ポリブタジエン、前記スチレン/ブタジエンコポリマー、前記天然ゴム又はポリイソプレン、及び前記硬化剤を1種以上の前記ブチルコポリマーゴムと混ぜ合わせ;かつ
これらの成分の硬化を引き起こしてタイヤトレッドを形成し、
ここで、前記ブチルコポリマーゴムの他成分に対するレベル、及びそのコモノマー含量を変えて、タイヤトレッドのウェットトラクションと転がり抵抗のバランスを改善することができる、前記方法。