(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-11
(45)【発行日】2023-01-19
(54)【発明の名称】防曇塗料組成物及び防曇塗膜ならびに防曇物品
(51)【国際特許分類】
C09D 1/00 20060101AFI20230112BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20230112BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20230112BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20230112BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
C09D1/00
C09D5/00 Z
C09D7/63
C09K3/18
B32B27/00 101
(21)【出願番号】P 2021525747
(86)(22)【出願日】2021-01-06
(86)【国際出願番号】 JP2021000200
(87)【国際公開番号】W WO2021141044
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2021-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2020003245
(32)【優先日】2020-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】竹井 工貴
(72)【発明者】
【氏名】重松 遥
(72)【発明者】
【氏名】西井 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】小野 真司
(72)【発明者】
【氏名】内貴 英人
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-019254(JP,A)
【文献】特開2005-126647(JP,A)
【文献】特開平11-010803(JP,A)
【文献】国際公開第2018/092544(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0045650(US,A1)
【文献】特開2019-019253(JP,A)
【文献】特開2000-336347(JP,A)
【文献】特開2003-253242(JP,A)
【文献】特開平07-327522(JP,A)
【文献】特開平01-141959(JP,A)
【文献】特開2000-290536(JP,A)
【文献】特開2012-233051(JP,A)
【文献】特開2012-007037(JP,A)
【文献】特開昭58-057471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
C09K 3/18
B32B 27/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性長尺状コロイダルシリカと塩基性長尺状コロイダルシリカとの混合物である長尺状コロイダルシリカと、
分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物と分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物とを少なくとも含むシラン誘導体化合物混合物と、
ジアセトンアルコールを含む有機溶剤と、
を含有する、防曇塗料組成物
であって、
該シラン誘導体化合物混合物が、該長尺状コロイダルシリカの固形分100重量部に対して、固形分で0.1重量部以上10.0重量部以下含まれ、
該ジアセトンアルコールは、防曇塗料組成物の重量を基準として1~7%含まれる、前記防曇塗料組成物。
【請求項2】
該分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物が、さらにアシル基またはウレタン基を分子内に有する、請求項1に記載の防曇塗料組成物。
【請求項3】
該
シラン誘導体化合物混合物が、
該
分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物として、下記一般式(1-2)および一般式(1-3)から選択される少なくとも1種のシラン誘導体化合物と、
該
分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物として、下記一般式(2)で表されるシラン誘導体化合物と、
の混合物である、請求項
1に記載の防曇塗料組成物
【化1】
(式中、R
11
、R
12
、R
13
およびR
14
は、互いに同一または異なって炭素数1~3のアルキル基であり、Aは、-O-、-NHCOO-、-OCO-、-COO-、-OCH
2
CH(OH)CH
2
O-、-OCH
2
CH
2
CH(OH)O-、-S-、-SCO-および-COS-からなる群より選択され、n
1
は、1~5の整数であり、m
1
は1~20の整数である。)
【化2】
式中、R
21
、R
22
およびR
23
は、互いに同一または異なって炭素数1~3のアルキル基であり、R
24
は水素原子または炭素数1~3のアルキル基であり、Bは、-NHCOO-、-OCO-、-COO-、-OCH
2
CH(OH)CH
2
O-、-OCH
2
CH
2
CH(OH)O-、-S-、-SCO-および-COS-からなる群より選択され、n
2
は、1~5の整数であり、m
2
は1~20の整数である。)
【化3】
(式中、R
5
、R
6
、およびR
7
は、互いに同一または異なって炭素数1~3のアルキル基であり、pは1~5の整数であり、Xは、エポキシ基またはグリシジル基である。)。
【請求項4】
さらに球状コロイダルシリカを含む、請求項1~3のいずれかに記載の防曇塗料組成物。
【請求項5】
該長尺状コロイダルシリカと、該球状コロイダルシリカとの固形分重量比が、12:10~35:10である、請求項4に記載の防曇塗料組成物。
【請求項6】
該シラン誘導体化合物混合物が、該長尺状コロイダルシリカと該球状コロイダルシリカの固形分合計量100重量部に対して、固形分で0.1重量部以上10.0重量部以下含まれていることを特徴とする、請求項4または5に記載の防曇塗料組成物。
【請求項7】
該球状コロイダルシリカが、塩基性球状コロイダルシリカである、請求項4~6のいずれかに記載の防曇塗料組成物。
【請求項8】
さらに界面活性剤を含む、請求項1~7のいずれかに記載の防曇塗料組成物。
【請求項9】
さらに有機溶剤を含む、請求項1~8のいずれかに記載の防曇塗料組成物。
【請求項10】
酸性長尺状シリカと塩基性長尺状シリカとの混合物である長尺状シリカと
、分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物と分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物とを少なくとも含むシラン誘導体化合物
混合物との反応物を含む、防曇塗膜であって、
該長尺状シリカと該シラン誘導体化合物とが結合し
、
該シラン誘導体化合物混合物が、該長尺状シリカの固形分100重量部に対して、固形分で0.1重量部以上10.0重量部以下含まれている、前記防曇塗膜。
【請求項11】
さらに球状シリカを含む、請求項10記載の防曇塗膜であって、
隣接した長尺状シリカの間にある空隙に、該球状シリカが埋設され、該長尺状シリカならびに該球状シリカと該シラン誘導体化合物とが結合している、前記防曇塗膜。
【請求項12】
該球状シリカが、塩基性球状シリカを含む、請求項11に記載の防曇塗膜。
【請求項13】
該分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物が、さらにアシル基またはウレタン基を分子内に有する、請求項10~12のいずれかに記載の防曇塗膜。
【請求項14】
基材と、請求項10~13のいずれかに記載の防曇塗膜とを含む、防曇物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇塗料組成物及びこれを用いて作製した防曇塗膜ならびに防曇物品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の前照灯などの照明装置は、光源と光源の前方に配置されたガラスやプラスチックなどで形成された透明部材とから主に構成されている。そして光源が発する光が透明部材を介して照明装置の外部および周辺部に照射される。このような照明装置では、透明部材の内側(光源側)に曇りが発生することがあり、照射光の強度が低下して安全性の問題を生じることがある。また曇りの生じた透明部材を介して照射された光は光量が少なく、美観の点でも問題となりうる。
【0003】
特開2016-169287号公報には、共重合体(A)と多官能性ブロックイソシアネート化合物(B)と界面活性剤(C)とからなる防曇剤組成物が開示されている。特開2016-169287号公報の防曇剤組成物は、従来からよく知られた防曇の仕組みを利用したものであり、防曇剤組成物を適用した防曇塗膜中に存在する界面活性剤(C)が、基材上の防曇塗膜に付着した水の表面張力を低下させ、瞬時に平滑な水膜を形成して、光の乱反射を防ぐことにより曇りを防止するというものである。一方特開2005-126647号公報には、水性媒体とネックレス状コロイダルシリカとシラン誘導体と界面活性剤とを含む防曇剤が開示されている。特開2005-126647号公報では、水性媒体中に分散させたときのpHが8~11(すなわちアルカリ性)のネックレス状コロイダルシリカを使用している。特開2005-126647号公報の防曇剤は、塗膜を形成した基材の表面をコロイダルシリカが被覆することで防曇効果を発揮するものである。特許第5804996号公報には、メタノール及び/又はエタノールと、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコールまたはグリコールエーテルと、オルガノシリカゾルと、テトラヒドロフランと、ホウ酸とを含有する有機基材用防曇防汚剤が開示されている。特開2019-19253号公報には、水垂れ跡などの外観変化を引き起こすことなく、プラスチック基材を含む多様な基材表面上に安定した防曇塗膜を形成し、かつ長期にわたり防曇効果を発揮する防曇塗料組成物を提供することができる、長尺状コロイダルシリカと、シラン誘導体とを含む防曇塗料組成物が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特開2016-169287号公報に開示されている界面活性剤を主成分として含む防曇剤組成物による防曇塗膜上に水膜が形成されると、その界面活性剤が水に溶け出して、局所的に界面活性剤と水とが一緒に流れてしまうことがあった。この様な箇所が乾燥すると、防曇物品上に水垂れ跡が残ることがあった。また、特開2005-126647号公報のようにプラスチック基材との密着性を重視してシラン誘導体を用いている防曇剤による塗膜は、シラン誘導体の影響により長期の防曇性が損なわれる場合があった。特許第5804996号公報に用いられているオルガノシリカゾルを含む防曇剤は、形成した塗膜の親水性が低く、防曇性が発現しにくい場合があった。特開2019-19253号公報の防曇塗料組成物による防曇塗膜は、水垂れ跡などの外観変化を起こしにくく、防曇効果も高いものであるが、プラスチック基材との密着性向上のために用いているシラン誘導体の影響により長期にわたる防曇効果の維持が難しいことがある。また特開2019-19253号公報の防曇塗膜は、高温にした際に基材との密着性が低下する場合があった。
本発明は、水垂れ跡などの外観変化を引き起こすことなく、プラスチック基材を含む多様な基材表面上に強固に密着し、かつ長期にわたり防曇効果を発揮する防曇塗膜を形成できる防曇塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態における防曇塗料組成物は、長尺状コロイダルシリカと、分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物と分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物とを少なくとも含むシラン誘導体化合物混合物と、を含有することを特徴とする。
本発明の他の実施形態は、長尺状シリカとシラン誘導体化合物との反応物を含む、防曇塗膜であって、長尺状シリカとシラン誘導体化合物とは結合していることを特徴とする、防曇塗膜である。
本発明のさらに他の実施形態は、基材と、防曇塗膜とを含む、防曇物品である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の防曇塗料組成物を用いて形成した防曇塗膜は、瞬時に平滑な水膜を形成して光の乱反射を防ぎ防曇性能に優れる。本発明の防曇塗膜は、乾燥後の水垂れ跡などの外観変化を生じにくい。本発明の防曇塗膜はプラスチックなどの基材に強固に接着し、密着性が高い。さらに本発明の防曇塗料組成物を利用した防曇物品(たとえば照明装置)は、外観変化を生じにくく、安定した光量を長期にわたり維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、基材の表面に長尺状シリカが並び、ここに分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物と、分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物が結合した防曇塗膜の様子を表した模式図である。
【
図2】
図2は、隣接した長尺状シリカの間にある空隙に球状シリカが埋設され、ここに分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物と、分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物が結合した、防曇塗膜の様子を表した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態を以下に説明する。本発明の一の実施形態は、長尺状コロイダルシリカと、分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物と、分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物とを少なくとも含むシラン誘導体化合物混合物と、を含有する防曇塗料組成物である。
【0009】
本実施形態において、防曇塗料組成物とは、ガラスやプラスチックなどの基材上に塗膜を形成して、水蒸気が原因の水滴による曇りを発生しにくくすることができる組成物のことである。基材で隔てられた両空間に温度差がある場合、高温側の湿気が基材表面上に結露して、水滴を形成する。この水滴が光の乱反射を起こして曇りが発生する。基材上における水滴の形成を防止する仕組みとして、基材表面に付着した水分を瞬時に水膜にするメカニズムと、基材表面に付着した水分を瞬時に吸収するメカニズムがあることが知られている。本実施形態の防曇塗料組成物は、基材表面に付着した水分を瞬時に水膜にして、水滴の形成を防止することにより基材の曇りを防ぐ防曇塗膜を形成する。
【0010】
本実施形態の防曇塗料組成物は、長尺状コロイダルシリカを含む。コロイダルシリカとは、二酸化ケイ素(シリカ、SiO2)またはその水和物のコロイド溶液である。シリカを分散させる分散媒の性質により水系のコロイダルシリカと、有機溶媒系のオルガノシリカゾルとがあるが、実施形態で特に好適に用いられるシリカはコロイダルシリカである。コロイダルシリカを形成する球状のシリカの一次粒子径は通常5~300nm程度であり、これが凝集等してさらに大きな二次粒子を形成している場合がある。本実施形態で好適に用いられるコロイダルシリカは、長尺状コロイダルシリカである。長尺状コロイダルシリカとは、シリカの一次粒子同士が共有結合して、長い紐状を形成した長尺状シリカを水に分散させた、長尺状シリカのコロイド溶液のことである。このような長尺状コロイダルシリカとして鎖状コロイダルシリカやパールネックレス状コロイダルシリカが知られている。長尺状コロイダルシリカは、基材の表面上に広がって吸着し、被膜を形成することができるため、防曇塗料組成物の成分として好ましく使用することができる。なお、水を分散媒としたコロイダルシリカには、酸性、中性およびアルカリ性のものが存在する。本実施形態で好適に用いられるコロイダルシリカとして、水に分散してpH1~3の強酸性を示す酸性長尺状コロイダルシリカ、pH4~9の弱酸性~中性~弱アルカリ性を示す中性長尺状コロイダルシリカ、pH10~14を示す塩基性長尺状コロイダルシリカが挙げられ、これらを単独で用いることもできるし混合して用いることもできる。なお、複数のコロイダルシリカを混合して用いる場合は、混合したコロイダルシリカのpHが中性~弱アルカリ性(pH7~10程度)となるように混合することが好ましい。実施形態に使用できる長尺状コロイダルシリカとして、ST-OUP、ST-UP、ST-PS-S、ST-PS-M、ST-PS-SO、ST-PS-MO(いずれも日産化学工業(株))等の市販品を挙げることができる。なお、実施形態の防曇塗料組成物のpHが、防曇塗料組成物を塗布する基材に影響を及ぼさない範囲(通常は弱酸性~弱アルカリ性の範囲)となるように、長尺状コロイダルシリカは、如何なる組み合わせで混合して用いてもよい。酸性長尺状コロイダルシリカと塩基性長尺状コロイダルシリカとの組み合わせ、塩基性長尺状コロイダルシリカと酸性長尺状コロイダルシリカとの組み合わせのほか、中性長尺状コロイダルシリカを単独で用いることもできる。
【0011】
実施形態の防曇塗料組成物は、さらにシラン誘導体化合物混合物を含む。シラン誘導体化合物混合物は、以下の一般式1-1:
【0012】
【0013】
(式中、R1、R2およびR3は、互いに同一または異なって炭素数1~3のアルキル基であり、R4は水素原子または炭素数1~3のアルキル基であり、nは1~5の整数であり、mは1~20、好ましくは4~20、さらに好ましくは4~15の整数である。)で表される、分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物と、以下の一般式2:
【0014】
【0015】
(式中、R5、R6、およびR7は、互いに同一または異なって炭素数1~3のアルキル基であり、pは1~5の整数であり、Xは、エポキシ基またはグリシジル基である。)で表される、分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物と、を少なくとも含む、シラン誘導体化合物の混合物であることが好ましい。
【0016】
分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物は、以下の一般式1-2:
【0017】
【0018】
(式中、R11、R12、R13およびR14は、互いに同一または異なって炭素数1~3のアルキル基であり、Aは、-O-、-NHCOO-、-OCO-、-COO-、-OCH2CH(OH)CH2O-、-OCH2CH2CH(OH)O-、-S-、-SCO-および-COS-からなる群より選択され、n1は、1~5の整数であり、m1は1~20、好ましくは4~20、さらに好ましくは4~15の整数である。)で表されるような、分子内にポリエチレングリコール鎖とアシル基とを有するシラン誘導体化合物であってもよい。一般式(1-2)で表されるシラン誘導体化合物のうち、式中Aの最も好ましい基は-O-である。
【0019】
分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物は、以下の一般式1-3:
【0020】
【0021】
(式中、R21、R22およびR23は、互いに同一または異なって炭素数1~3のアルキル基であり、R24は水素原子または炭素数1~3のアルキル基であり、Bは、-NHCOO-、-OCO-、-COO-、-OCH2CH(OH)CH2O-、-OCH2CH2CH(OH)O-、-S-、-SCO-および-COS-からなる群より選択され、n2は、1~5の整数であり、m2は1~20、好ましくは4~20、さらに好ましくは4~15の整数である。)で表されるシラン誘導体化合物であってもよい。一般式(1-3)で表されるシラン誘導体化合物のうち、式中Bの最も好ましい基は-NHCOO-(ウレタン基)である。
【0022】
式(1-1)で表されるシラン誘導体化合物は、長尺状シリカと反応することができるアルコキシ基(すなわち-OR1、-OR2および-OR3の基)と、水との親和性が高いポリエチレングリコール鎖を含む親水基(-OCH2CH2-)とを有している。実施形態において、式(1-1)で表されるシラン誘導体化合物が長尺状シリカと反応することができる置換基と親水基とを有していることで、当該シラン誘導体化合物が長尺状シリカに結合し、かつ防曇塗料組成物が形成する防曇塗膜に親水性を付与することが可能となる。実施形態に用いる式(1-1)で表されるシラン誘導体化合物として、メトキシPEG-10プロピルトリメトキシシラン、エトキシPEG-10プロピルトリメトキシシラン等のポリエチレングリコール変性アルコキシシランが挙げられる。分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物として、Dynasylan4148、Dynasylan4150(いずれもエボニックジャパン(株))、メトキシPEG-10プロピルトリメトキシシラン(PGシリーズ)(アヅマックス(株))等の市販品を用いることができる。またその他、2-[ヒドロキシ(ポリエチレンオキシ)エチル]トリメトキシシラン、2-[ヒドロキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリメトキシシラン、2-[ヒドロキシ(ポリエチレンオキシ)ブチル]トリメトキシシラン、2-[アルコキシ(ポリエチレンオキシ)エチル]トリメトキシシラン、2-[アルコキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリメトキシシラン、2-[アルコキシ(ポリエチレンオキシ)ブチル]トリメトキシシランなども用いることができる。
【0023】
式(1-2)で表されるシラン誘導体化合物は、長尺状シリカと反応することができるアルコキシ基(すなわち-OR11、-OR12および-OR13の基)と、水との親和性が高いポリエチレングリコール鎖を含む親水基(-OCH2CH2-)とを有している。実施形態において、式(1-2)で表されるシラン誘導体化合物が長尺状シリカと反応することができる置換基と親水基とを有していることで、当該シラン誘導体化合物が長尺状シリカに結合し、かつ防曇塗料組成物が形成する防曇塗膜に親水性を付与することが可能となる。実施形態に用いる式(1-2)で表されるシラン誘導体化合物として、2-[アセトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリエトキシシラン、2-[アセトキシ(ポリエチレンオキシ)エチル]トリメトキシシラン、2-[アセトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリメトキシシラン、2-[アセトキシ(ポリエチレンオキシ)ブチル]トリメトキシシランなどが挙げられる。分子内にポリエチレングリコール鎖とアシル基とを有するシラン誘導体化合物として、2-[アセトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリエトキシシラン(Gelest Inc.)等の市販品を用いることができる。
【0024】
式(1-3)で表されるシラン誘導体化合物は、長尺状シリカと反応することができるアルコキシ基(すなわち-OR21、-OR22および-OR23の基)と、水との親和性が高いポリエチレングリコール鎖を含む親水基(-OCH2CH2-)とを有している。実施形態において、式(1-3)で表されるシラン誘導体化合物が長尺状シリカと反応することができる置換基と親水基とを有していることで、当該シラン誘導体化合物が長尺状シリカに結合し、かつ防曇塗料組成物が形成する防曇塗膜に親水性を付与することが可能となる。実施形態に用いる式(1-3)で表されるシラン誘導体化合物として、2-ヒドロキシ(ポリエチレンオキシ)エチル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]カルバメート、2-ヒドロキシ(ポリエチレンオキシ)エチル[3-(トリエトキシシリル)プロピル]カルバメート、2-アルコキシ(ポリエチレンオキシ)エチル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]カルバメート、2-アルコキシ(ポリエチレンオキシ)エチル[3-(トリエトキシシリル)プロピル]カルバメート、2-アルコキシ(ポリエチレンオキシ)エチル[4-(トリメトキシシリル)ブタン酸]エステルなどが挙げられる。実施形態に用いる式(1-3)で表されるシラン誘導体化合物のうち、分子内にポリエチレングリコール鎖とウレタン基とを有するシラン誘導体化合物が最も好ましい。分子内にポリエチレングリコール鎖とウレタン基とを有するシラン誘導体化合物は、イソシアナトプロピルトリメトキシシランやイソシアナトプロピルトリエトキシシラン等の、イソシアナト基を有するアルコキシシラン化合物と、ポリエチレングリコールとを反応させて、合成することができる。なお、本明細書では、式(1-3)で表されるシラン誘導体化合物のうち、実施形態において特に好適に使用できる、分子内にポリエチレングリコール鎖とウレタン基とを有するシラン誘導体化合物を「ウレタンシラン」と呼ぶことがある。また、式(1-1)、式(1-2)、式(1-3)でそれぞれ表されるシラン誘導体化合物を、まとめて、「分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物」と呼ぶことがある。
【0025】
式(2)で表されるシラン誘導体化合物は、長尺状シリカと反応することができるアルコキシ基(すなわち-OR5、-OR6および-OR7の基)と、X(すなわちエポキシ基またはグリシジル基)とを有している。実施形態において、式(2)で表されるシラン誘導体化合物が長尺状シリカと反応することができる置換基を有していることで、当該シラン誘導体化合物が、長尺状シリカの間を架橋することが可能となる。実施形態に用いる式(2)で表されるシラン誘導体化合物として、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシ基含有シラン誘導体化合物が挙げられる。分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物として、DynasylanGLYEO(エボニックジャパン(株))、KBM402、KBM403、KBE402、KBE403(いずれも信越化学工業(株))等の市販品を用いることができる。このようにシラン誘導体化合物は、長尺状シリカと反応して結合し、長尺状シリカの間を架橋し、防曇塗膜の強度を高め、かつ防曇塗膜に親水性を付与することができる。
【0026】
シラン誘導体化合物混合物は、長尺状コロイダルシリカの固形分100重量部に対して、固形分で0.1重量部以上10.0重量部以下含まれていることが好ましい。長尺状コロイダルシリカは、先に説明したとおり水を分散媒としているため、水に分散している実質的な固形分の重量に対してシラン誘導体化合物の配合量を決定する。シラン誘導体化合物の配合量が長尺状コロイダルシリカの固形分100重量部に対して、固形分で0.1重量部未満であると、防曇塗料組成物を基材に塗布したときの濡れ性が悪くなる場合があり、さらに形成した塗膜の強度が低下して塗膜の耐久性が劣ることがある。一方、シラン誘導体化合物の配合量が長尺状コロイダルシリカの固形分100重量部に対して、固形分で10.0重量部を超えると、防曇塗料組成物から形成した防曇塗膜の防曇性が低くなるおそれがある。上記の通り、シラン誘導体化合物は、防曇塗料組成物の構成成分であるコロイダルシリカ中に含まれているシリカと反応して、良好なシリカの被膜を形成するために用いられるため、シリカの一部と反応するだけのシラン誘導体化合物を配合すればよい。
【0027】
実施形態の防曇塗料組成物は、さらに球状コロイダルシリカを含んでいてよい。球状コロイダルシリカも、上記の長尺状コロイダルシリカと同様、二酸化ケイ素(シリカ、SiO2)またはその水和物のコロイド溶液である。球状コロイダルシリカは、水中で概ね球形の粒子形状を有している。なお、上記の通り、水を分散媒としたコロイダルシリカには、酸性、中性、塩基性のものが存在する。本実施形態で好適に用いられる球状コロイダルシリカとして、水に分散してpH1~3の強酸性を示す酸性球状コロイダルシリカ、pH4~9の弱酸性~中性~弱アルカリ性を示す中性球状コロイダルシリカ、pH10~14を示す塩基性球状コロイダルシリカが挙げられ、これらを単独で用いることもできるし混合して用いることもできる。実施形態では、球状コロイダルシリカとして、塩基性球状コロイダルシリカを用い、上記の長尺状コロイダルシリカ混合物のpHを弱酸性~弱アルカリ性に調整することが好ましい。長尺状コロイダルシリカと球状コロイダルシリカとの固形分重量比が、12:10~35:10、好ましくは15:10~30:10となるように混合することが好ましい。実施形態に使用できる球状コロイダルシリカとして、ST-N、ST-NXS、ST-S、ST-XS、ST-O、ST-OXS(いずれも日産化学工業(株))等の市販品を挙げることができる。なお、実施形態の防曇塗料組成物のpHが、防曇塗料組成物を塗布する基材に影響を及ぼさない範囲(通常は弱酸性~弱アルカリ性の範囲)となるように、上記の長尺状コロイダルシリカと球状コロイダルシリカは、如何なる組み合わせで混合してもよい。たとえば、酸性長尺状コロイダルシリカと塩基性長尺状コロイダルシリカと塩基性球状コロイダルシリカとを混合して用いるほか、塩基性長尺状コロイダルシリカと酸性球状コロイダルシリカとの組み合わせ、酸性長尺状コロイダルシリカと塩基性球状コロイダルシリカとの組み合わせ、中性長尺状コロイダルシリカと酸性球状コロイダルシリカの組み合わせ、塩基性長尺状コロイダルシリカと中性球状コロイダルシリカの組み合わせ、あるいは塩基性長尺状コロイダルシリカと酸性球状コロイダルシリカと塩基性球状コロイダルシリカとの組み合わせ等、あらゆる組み合わせで混合することができる。
【0028】
実施形態において、長尺状コロイダルシリカと球状コロイダルシリカとを併用する場合には、長尺状コロイダルシリカが、酸性長尺状コロイダルシリカと塩基性長尺状コロイダルシリカとの混合物であり、球状コロイダルシリカが、塩基性球状コロイダルシリカであることが非常に好ましい。これらのコロイダルシリカを適切に配合して、コロイダルシリカ混合物のpHを弱酸性~弱アルカリ性に調整することができる。長尺状コロイダルシリカと球状コロイダルシリカとを併用する場合、シラン誘導体化合物混合物は、長尺状コロイダルシリカと球状コロイダルシリカの固形分合計量100重量部に対して、固形分で0.1重量部以上10.0重量部以下含まれていることが好ましい。長尺状コロイダルシリカと球状コロイダルシリカは、先に説明したとおり水を分散媒としているため、水に分散している実質的な固形分の重量に対してシラン誘導体化合物の配合量を決定する。シラン誘導体化合物の配合量が長尺状コロイダルシリカと球状コロイダルシリカの固形分合計量100重量部に対して、固形分で0.1重量部未満であると、防曇塗料組成物を基材に塗布したときの濡れ性が悪くなる場合があり、さらに形成した塗膜の強度が低下して塗膜の耐久性が劣ることがある。一方、シラン誘導体化合物の配合量が長尺状コロイダルシリカと球状コロイダルシリカの固形分合計量100重量部に対して、固形分で10.0重量部を超えると、防曇塗料組成物から形成した防曇塗膜の防曇性が低くなるおそれがある。上記の通り、シラン誘導体化合物は、防曇塗料組成物の構成成分であるコロイダルシリカ中に含まれているシリカと反応して、良好なシリカの被膜を形成するために用いられるため、シリカの一部と反応するだけのシラン誘導体化合物を配合すればよい。
【0029】
実施形態の防曇塗料組成物はさらに界面活性剤を含んでいてよい。実施形態の防曇塗料組成物において、界面活性剤は基材表面上への各コロイダルシリカの広がりを補助し、塗工作業を容易にするために用いられる。界面活性剤として、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれも使用することができ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。アニオン性界面活性剤として、たとえば、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム等の脂肪酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等の高級アルコール硫酸エステル類、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩およびアルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸塩、ジアルキルホスフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンサルフェート塩、パーフルオロアルキル基を含有するスルホン酸塩型、パーフルオロアルキル基を含有するカルボン酸塩型、パーフルオロアルケニル基を含有するスルホン酸塩型、パーフルオロアルケニル基を含有するカルボン酸塩型等のアニオン性フッ素系界面活性剤類が挙げられる。カチオン性界面活性剤として、たとえば、エタノールアミン類のアミン塩、ラウリルアミンアセテート、トリエタノールアミンモノ蟻酸塩、ステアラミドエチルジエチルアミン酢酸塩等のアミン塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ステアリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩、パーフルオロアルキル基またはパーフルオロアルケニル基を含有する4級アンモニウム塩型等のカチオン性フッ素系界面活性剤類が挙げられる。
【0030】
ノニオン性界面活性剤として、たとえば、ポリオキシエチレンラウリルアルコール、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレン高級アルコールエーテル類、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル類、ポリオキシエチレングリコールモノステアレート等のポリオキシエチレンアシルエステル類、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、アルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル等のリン酸エステル類、シュガーエステル類、セルロースエーテル、ポリエーテル変性シリコーンオイル等のシリコーン類、パーフルオロアルキル基を含有するエチレンオキシド付加物型、パーフルオロアルキル基を含有するアミンオキサイド型、パーフルオロアルキル基を含有するオリゴマー型、パーフルオロアルケニル基を含有するエチレンオキシド付加物型、パーフルオロアルケニル基を含有するアミンオキサイド型、パーフルオロアルケニル基を含有するオリゴマー型等のノニオン性フッ素系界面活性剤類が挙げられる。両性界面活性剤として、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライドなどの第4級アンモニウム塩、ジメチルアルキルラウリルベタイン、ジメチルアルキルステアリルベタイン等の脂肪酸型両性界面活性剤、ジメチルアルキルスルホベタインのようなスルホン酸型両性界面活性剤、アルキルグリシン、パーフルオロアルキル基またはパーフルオロアルケニル基を含有するベタイン型の両性フッ素系界面活性剤類等を挙げることができる。本実施形態の界面活性剤として、上記のいずれの界面活性剤も好ましく用いることができる。界面活性剤は、防曇塗料組成物100重量部に対して0.01~1重量部程度含まれていることが好ましい。
【0031】
さらに実施形態の防曇塗料組成物は、有機溶剤を含有していてよい。実施形態の防曇塗料組成物の主成分である水を分散媒としたコロイダルシリカとシラン誘導体化合物の混合物のみでも基材表面上に塗布して防曇塗膜を形成することはできるが、さらに有機溶剤を含有していれば、水の乾燥が促進されるため、より早く防曇塗膜を形成することが可能となる。実施形態で用いることができる有機溶剤は、水と相溶性を有するか、水とある範囲で混和する有機溶剤である。このような有機溶剤としてたとえば、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジアセトンアルコール等)、エーテル類(ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールターシャリーブチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等)、ケトン類(アセトン、エチルメチルケトン等)、アミド類(ジメチルホルムアミド等)や、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル、ニトロメタン、トリエチルアミンを挙げることができ、これらを混合して用いることができる。有機溶剤は、防曇塗料組成物100重量部に対して1~80重量部程度含まれていることが好ましい。特に、プラスチック基材の表面をわずかに溶解することができる溶剤(ジアセトンアルコール等)を有機溶剤に少量混合することが好ましい。ジアセトンアルコールは、プラスチック基材の表面をわずかに溶解し、プラスチック基材の表面積を大きくするため、防曇塗料組成物がプラスチック基材の内部に入り込むことができる。これにより、防曇塗料組成物から形成される防曇塗膜がプラスチック基材の表面に強固に密着する。このような目的でジアセトンアルコールを有機溶剤中に混合する場合には、防曇塗料組成物100重量部に対してジアセトンアルコールを1~7%、好ましくは1~5%混合することが望ましい。ジアセトンアルコールを多く混合しすぎると、プラスチック基材に対する濡れ性が低下してしまい、適切な防曇塗膜を形成することができない。したがって、防曇塗料組成物がプラスチック基材の表面近辺にわずかに入り込む程度に、わずかな量のジアセトンアルコールを使用することが好ましい。
【0032】
本実施形態の好適な防曇塗料組成物は、まず長尺状コロイダルシリカと、シラン誘導体化合物混合物を用意し、次いで必要に応じて球状コロイダルシリカ、界面活性剤および有機溶剤と混合して製造することができる。長尺状コロイダルシリカは、分散媒である水に特定の固形分割合で分散しているため、この固形分100重量部に対してシラン誘導体の重量が0.1重量部以上10重量部以下となるように計算して混合することができる。実施形態の防曇塗料組成物は、これらの成分のほか、塗料組成物に通常含まれている添加剤(たとえば染料、顔料、可塑剤、分散剤、防腐剤、つや消し剤、帯電防止剤、難燃剤)を適宜配合することができる。
【0033】
長尺状コロイダルシリカ、シラン誘導体化合物混合物、および場合により球状コロイダルシリカ、界面活性剤および有機溶剤を適切に配合した実施形態の防曇塗料組成物は、基材表面に塗布することができる。基材として、ガラス、プラスチック、金属などを挙げることができるが、実施形態の防曇塗料組成物は、特に透明プラスチック上に好適に塗布することができる。防曇塗料組成物の基材表面への塗布は、ドクターブレード法、バーコート法、ディッピング法、エアスプレー法、ローラーブラシ法、ローラーコーター法等の従来のコーティング方法により適宜行うことができる。塗布した防曇塗料組成物を加熱して、防曇塗膜を形成することができる。防曇塗料組成物の加熱は、シリカとシラン誘導体が反応し、かつ、水(および含まれている場合は有機溶剤)が蒸発するのに充分な温度まで加熱すればよい。使用する有機溶剤の種類にもよるが、通常は80~150℃、好ましくは100~150℃程度に加熱することで、反応をスムーズに進行させ、かつ、水および有機溶剤を蒸発させることができる。防曇塗料組成物塗布物の加熱は、バーナーやオーブンなどの加熱装置による加熱のほか、ドライヤーなどの温風による加熱方法により行うことができる。このようにして、実施形態の防曇塗料組成物を基材に塗布し、加熱することにより水や有機溶剤が乾燥すると、基材表面上に広がった長尺状コロイダルシリカ(および場合により球状コロイダルシリカ)は長尺状シリカ(場合により球状シリカ)となって、被膜を形成する。一方シラン誘導体化合物はこれらのシリカと結合し、シリカの間を架橋して、強固な高次構造を形成する。こうして、実施形態の防曇塗料組成物を物品に適用することにより防曇塗膜を形成して、防曇物品を得ることができる。
【0034】
本発明の他の実施形態は、長尺状シリカと、シラン誘導体化合物との反応物を含む、防曇塗膜である。実施形態の防曇塗膜において、長尺状シリカとシラン誘導体化合物とが結合していることを特徴とする。実施形態の防曇塗膜において、シラン誘導体化合物が、分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物と分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物とを少なくとも含むシラン誘導体化合物混合物であることが好ましい。実施形態の防曇塗料組成物が、長尺状コロイダルシリカとシラン誘導体化合物混合物とを含有することの技術的に有意な点は、図面を用いて以下に説明する。なお防曇塗膜の構造や、密着性発現のメカニズムの理論は、必ずしも以下のものに拘泥するわけではない。
【0035】
図1は、実施形態の長尺状コロイダルシリカとシラン誘導体化合物混合物とを含有する防曇塗料組成物(本発明の一の実施形態)で形成した防曇塗膜の様子を表す図面である。
図1中、1は基材;2は長尺状シリカ;3は分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物由来の基;4は分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物由来の基;6は防曇塗膜を表す。
図1の防曇塗膜6において、長い形状(たとえば筒状、棒状、紐状)の長尺状シリカ2が概ねその長さ方向が揃った状態で配置されているように描かれているが、実際の防曇塗膜6中では、長尺状シリカ2は必ずしも規則的に配置されているわけではない。
図1において、比較的剛直な長い構造を有している長尺状シリカ2が、基材1上に配置されており、そこに分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物が結合している。一方、長尺状シリカ2には分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物が結合し、長尺状シリカ2の間を架橋している。分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物は、場合によっては基材1と長尺状シリカ2との間を架橋している。
図1に表される防曇塗膜6に水蒸気が接触すると、防曇塗膜6には分子内に親水基であるポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物由来の基3が存在するため、直ちに防曇塗膜6の上に水膜が形成される。一方、分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物由来の基4が、長尺状シリカ2の間や、基材1と長尺状シリカ2との間を架橋しているため、高次構造を形成した防曇塗膜6は強固に基材1に密着している。
【0036】
一方、
図2は、長尺状コロイダルシリカと、シラン誘導体化合物混合物と、球状コロイダルシリカとを含有する防曇塗料組成物(本発明の他の実施形態)で形成した防曇塗膜の様子を表す図面である。
図2中、1は基材;2は長尺状シリカ;3は分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物由来の基;4は分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物由来の基;5は球状シリカ;6は防曇塗膜である。
図2の防曇塗膜6において、長い形状(たとえば筒状、棒状、紐状)の長尺状シリカ2が、概ねその長さ方向が揃った状態で配置されているように描かれているが、実際の防曇塗膜6中では、長尺状シリカ2は必ずしも規則的に配置されているわけではない。
図2において、比較的剛直な長い構造を有している長尺状シリカ2が、基材1上に配置されており、隣接した長尺状シリカ2の間に所々存在しうる空隙(通常、数百ナノメートル~数マイクロメートル程度の大きさを有している。)に、空隙の大きさより小さい(数ナノメートル~数十ナノメートルの)球状シリカ5が埋設されている。球状シリカ5は、空隙を完全に埋めるように配置されているわけではないが、
図2に示すように、空隙を概ねなくすように配置されていると考えられる。長尺状シリカ2および球状シリカ5に、分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物が結合している。一方、長尺状シリカ2および球状シリカ5には、分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物が結合し、長尺状シリカ2の間、長尺状シリカ2と球状シリカ5の間、球状シリカ5の間との間をそれぞれ架橋している。分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物は、場合によっては基材1と長尺状シリカ2との間、あるいは基材1と球状シリカ5との間をそれぞれ架橋している。
図2に表される防曇塗膜6に水蒸気が接触すると、防曇塗膜6には分子内に親水基であるポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物由来の基3が存在するため、直ちに防曇塗膜6の上に水膜が形成される。一方、分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物由来の基4が、長尺状シリカ2の間、長尺状シリカ2と球状シリカ5との間、球状シリカ5の間、基材1と長尺状シリカ2との間、あるいは基材1と球状シリカ5との間をそれぞれ架橋しているため、高次構造を形成した防曇塗膜6は強固に基材1に密着している。なお、実施形態の防曇塗膜において、長尺状シリカが、酸性長尺状シリカと塩基性長尺状シリカとを含み、球状シリカが、塩基性球状シリカであってよい。この実施形態において、酸性長尺状シリカとは、水に分散させると酸性を示す長尺状シリカのことである。また、塩基性長尺状シリカとは、水に分散させると塩基性を示す長尺状シリカのことである。さらに塩基性球状シリカとは、水に分散させると塩基性を示す球状シリカのことである。
【0037】
実施形態の防曇塗料組成物を基材に適用して防曇塗膜を形成することができる。そして実施形態の防曇塗膜を基材に有する防曇物品を得ることができる。実施形態の防曇物品として、たとえば、照明装置、前照灯、窓、レンズ、レンズカバー、モニター、モニターカバー等が挙げられる。実施形態の防曇物品は、優れた防曇性能を有し、かつ防曇物品が予想外の高温条件下に曝された場合であっても、水垂れ跡の形成などの外観変化を引き起こさない。実施形態の防曇塗膜はプラスチックなどの基材に強固に接着し、密着性が高いので、高温下での耐久性が高く、長期にわたり防曇効果を発揮する防曇物品を提供することができる。
【実施例】
【0038】
(1)防曇塗料組成物の作製(長尺状コロイダルシリカとシラン誘導体化合物混合物)
酸性長尺状コロイダルシリカ(ST-OUP[固形分15%、水分散液]、日産化学工業(株))、塩基性長尺状コロイダルシリカ(ST-UP[固形分20%、水分散液]、日産化学工業(株))、分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物(ダイナシラン4148[固形分100%]、エボニックジャパン(株))、分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物(KBM403[固形分100%]、信越化学工業(株))、界面活性剤(ネオコール-YSK[固形分70%、プロピレングリコール-水混合分散液]、第一工業製薬(株))、界面活性剤(KF640、信越化学工業(株))、および有機溶剤(プロピレングリコールモノメチルエーテル(日本乳化剤(株))、ジアセトンアルコール(東京化成工業(株))を混合して、防曇塗料組成物を作製した。各防曇塗料組成物の成分構成は、表1および表2に示した。また、分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物、分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物のいずれにも該当しないシラン誘導体化合物であるX-12-1098([固形分30%、水分散液]、信越化学工業(株))をシラン誘導体化合物の一種として用意し、比較例の防曇塗料組成物として用いた。
【0039】
【0040】
【0041】
なお、表1および表2中の略号の意味は、以下の通り:
ST-OUP:日産化学工業(株)商品名、酸性長尺状コロイダルシリカ
ST-UP:日産化学工業(株)商品名、塩基性長尺状コロイダルシリカ
NC-YSK:ネオコール-YSK、第一工業製薬(株)商品名、アニオン系界面活性剤
KF640:信越化学工業(株)商品名、ノニオン系界面活性剤
PGM:プロピレングリコールモノメチルエーテル
DAA:ジアセトンアルコール
ダイナシラン4148:エボニックジャパン(株)商品名、分子内にポリエチレングリコール鎖を有する、以下の式:
【0042】
【化5】
(式中、qは、上記式1-1のnに相当する数であり、rは、上記式1-1のmに相当する数である。)で表されるシラン誘導体化合物
【0043】
KBM403:信越化学工業(株)商品名、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、分子内にエポキシ基を有する、以下の式:
【0044】
【0045】
X-12-1098:信越化学工業(株)商品名、分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物、分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物のいずれにも該当しない、以下の式:
【0046】
【0047】
(2)防曇塗料組成物の作製(長尺状コロイダルシリカ、球状コロイダルシリカ、およびシラン誘導体化合物混合物)
酸性長尺状コロイダルシリカ(ST-OUP[固形分15%、水分散液]、日産化学工業(株))、塩基性長尺状コロイダルシリカ(ST-UP[固形分20%、水分散液]、日産化学工業(株))、塩基性球状コロイダルシリカ(ST-N[固形分20%、水分散液]、日産化学工業(株))、塩基性球状コロイダルシリカ(ST-NXS[固形分15%、水分散液]、日産化学工業(株))、分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物(ダイナシラン4148[固形分100%]、エボニックジャパン(株))、分子内にポリエチレングリコール鎖とアシル基とを有するシラン誘導体化合物(2-[アセトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリエトキシシラン、[固形分100%]、Gelest Inc.)、分子内にポリエチレングリコール鎖とウレタン基とを有するシラン誘導体化合物(以下に説明する方法により合成した、ウレタンシランA、ウレタンシランBおよびウレタンシランC、ウレタンシランD)、分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物(KBM403[固形分100%]、信越化学工業(株))、界面活性剤(ネオコール-YSK、[固形分70%、プロピレングリコール-水混合分散液]、第一工業製薬(株))、界面活性剤(KF640、信越化学工業(株))、および有機溶剤であるイソプロパノール(関東化学(株))、プロピレングリコールモノメチルエーテル(日本乳化剤(株))およびジアセトンアルコール(東京化成工業(株))を混合して、防曇塗料組成物を作製した。各防曇塗料組成物の成分構成は、表3に示した。また、分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物、分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物のいずれにも該当しないシラン誘導体化合物であるX-12-1098([固形分30%、水分散液]、信越化学工業(株))をシラン誘導体化合物の一種として用意し、比較例の防曇塗料組成物として用いた(表4)。
【0048】
なお、実施例に用いた、分子内にポリエチレングリコール鎖とウレタン基とを有するシラン誘導体化合物(ウレタンシランA、ウレタンシランB、ウレタンシランCおよびウレタンシランD)は、以下のように合成した:
【0049】
(2-1)ウレタンシランAの合成
50mLのナス型フラスコに3-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン(東京化成工業(株)[固形分100%])6.6重量部と、ユニオックスM-400(メチル基封鎖タイプポリエチレングリコール、日油(株)[固形分100%])16.3重量部とを入れ、75℃で10時間撹拌した。1H-NMRによりイソシアネート基由来のピークが消失したことを確認し、以下の式で表されるウレタンシランAを得た:
【0050】
【0051】
(2-2)ウレタンシランBの合成
50mLのナス型フラスコにKBE-9007N(3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、信越化学工業(株)[固形分100%])10.0重量部と、ポリエチレングリコール400(富士フィルム和光純薬(株)[固形分100%])16.2重量部とを入れ、75℃で10時間撹拌した。1H-NMRによりイソシアネート基由来のピークが消失したことを確認し、以下の式で表されるウレタンシランBを得た:
【0052】
【0053】
(2-3)ウレタンシランCの合成
50mLのナス型フラスコにKBE-9007N(3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、信越化学工業(株)[固形分100%])10.0重量部と、ポリエチレングリコール200(富士フィルム和光純薬(株)、[固形分100%])8.1重量部とを入れ、75℃で10時間撹拌した。1H-NMRによりイソシアネート基由来のピークが消失したことを確認し、以下の式で表されるウレタンシランCを得た:
【0054】
【0055】
(2-4)ウレタンシランDの合成
50mLのナス型フラスコにKBE-9007N(3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、信越化学工業(株)[固形分100%])10.0重量部と、ポリエチレングリコール600(富士フィルム和光純薬(株)[固形分100%])24.3重量部とを入れ、75℃で10時間撹拌した。1H-NMRによりイソシアネート基由来のピークが消失したことを確認し、以下の式で表されるウレタンシランDを得た:
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
なお、表3、表4中の略号の意味は、以下の通り:
ST-OUP:日産化学工業(株)商品名、酸性長尺状コロイダルシリカ
ST-UP:日産化学工業(株)商品名、塩基性長尺状コロイダルシリカ
ST-N:日産化学工業(株)商品名、粒径12nmの塩基性球状コロイダルシリカ
ST-NXS:日産化学工業(株)商品名、粒径5nmの塩基性球状コロイダルシリカ
NC-YSK:ネオコール-YSK、第一工業製薬(株)商品名、アニオン系界面活性剤
KF640:信越化学工業(株)商品名、ノニオン系界面活性剤
IPA:イソプロパノール
PGM:プロピレングリコールモノメチルエーテル
DAA:ジアセトンアルコール
ダイナシラン4148:エボニックジャパン(株)商品名、分子内にポリエチレングリコール鎖を有する、以下の式:
【0060】
【化12】
(式中、qは、上記式1-1のnに相当する数であり、rは、上記式1-1のmに相当する数である。)で表されるシラン誘導体化合物
【0061】
KBM403:信越化学工業(株)商品名、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、分子内にエポキシ基を有する、以下の式:
【0062】
【0063】
アセチルシラン:Gelest Inc.、2-[アセトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリエトキシシラン、分子内にポリエチレングリコール鎖とアシル基とを有する、以下の式:
【0064】
【0065】
ウレタンシランA、ウレタンシランB、ウレタンシランC、ウレタンシランD:上に説明したとおりの合成品
【0066】
X-12-1098:信越化学工業(株)商品名、分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物、分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物のいずれにも該当しない、以下の式:
【0067】
【化15】
で表されるシラン誘導体化合物
である。
【0068】
(3)防曇塗膜の作製
ポリカーボネート樹脂板基材上に、各防曇塗料組成物を塗布した。塗布は、エアスプレー法で行い、防曇塗料組成物が形成した後の防曇塗膜の厚さが1μmとなるように調整した。防曇塗料組成物が塗布された基材を110℃のオーブンに入れ15分間加熱して水と有機溶剤とを蒸発させ、防曇塗膜を形成した。こうして各防曇塗膜試験片を得た。
【0069】
(4)防曇塗膜の塗工性評価
防曇塗膜試験片の表面を目視で観察した。均質な防曇塗膜が得られものについて「良好」、防曇塗膜の表面に割れやハジキ等が見られるものについて「不良」と記載した。
【0070】
(5)防曇塗膜の防曇性評価
60℃の温水浴の水面から高さ1cmの位置に防曇塗膜試験片を塗膜が下向きになるように配置して、塗膜に温水浴からの蒸気をあてた。1分間経過後に塗膜上に曇りが形成されているかを目視により観察した。塗膜の表面に曇りが生じていないものについて「曇りなし」、塗膜の表面に曇りが生じているものについて「曇りあり」と記載した。
【0071】
(6)防曇塗膜の密着性評価
JIS K 5600-5-6(塗料一般試験方法、塗膜の機械的性質に関する試験法、付着性[クロスカット法])に準拠した方法により、各防曇塗膜試験片の防曇塗膜の剥離の有無を目視により観察した。塗膜の剥離が認められなかったものについて「良好」、塗膜の剥離が認められたものについて「不良」と記載した。
【0072】
(7)防曇塗膜の耐湿熱性試験
各防曇塗膜試験片を、温度50℃、湿度95%の環境下に置き、24時間放静置した。防曇塗膜試験片を当該環境から取り出し、室温で12時間静置した。
【0073】
(8)耐湿熱性試験後の防曇塗膜の防曇性評価
上記の耐湿熱性試験の後に、40℃の温水浴の水面から高さ1cmの位置に防曇塗膜試験片を塗膜が下向きになるように配置して、塗膜に温水浴からの蒸気をあてた。10秒間経過後に塗膜上に曇りが形成されているかを目視により観察した。塗膜の表面に曇りが生じていないものについて「曇りなし」、塗膜の表面に曇りが生じているものについて「曇りあり」と記載した。
【0074】
(9)耐湿熱性試験後の防曇塗膜の密着性評価
上記の耐湿熱性試験の後に、JIS K 5600-5-6(塗料一般試験方法、塗膜の機械的性質に関する試験法、付着性[クロスカット法])に準拠した方法により、各防曇塗膜試験片の防曇塗膜の剥離の有無を目視により観察した。塗膜の剥離が認められなかったもの(試験に使用した透明感圧付着テープの粘着成分が防曇塗膜試験片に残っているものも含む。)について「良好」、塗膜の剥離が認められたものについて「不良」と記載した。
【0075】
(10)防曇塗膜の耐熱性試験
各防曇塗膜試験片を乾燥した130℃のオーブンに入れて72時間静置し、その後さらに室温で12時間静置した。
【0076】
(11)耐熱性試験後の防曇塗膜の防曇性評価
上記の耐熱性試験の後に、40℃の温水浴の水面から高さ1cmの位置に防曇塗膜試験片を塗膜が下向きになるように配置して、塗膜に温水浴からの蒸気をあてた。10秒間経過後に塗膜上に曇りが形成されているかを目視により観察した。塗膜の表面に曇りが生じていないものについて「曇りなし」、塗膜の表面に曇りが生じているものについて「曇りあり」と記載した。
【0077】
(12)耐熱性試験後の防曇塗膜の密着性評価
上記の耐熱性試験の後に、JIS K 5600-5-6(塗料一般試験方法、塗膜の機械的性質に関する試験法、付着性[クロスカット法])に準拠した方法により、各防曇塗膜試験片の防曇塗膜の剥離の有無を目視により観察した。塗膜の剥離が認められなかったもの(試験に使用した透明感圧付着テープの粘着成分が防曇塗膜試験片に残っているものも含む。)について「良好」、塗膜の剥離が認められたものについて「不良」と記載した。
【0078】
(13)防曇塗膜の耐水性試験
各防曇塗膜試験片を60℃の水に浸漬させ、240時間放置した。防曇塗膜試験片を水から取り出し、室温で12時間静置した。
【0079】
(14)耐水性試験後の防曇塗膜の防曇性評価
上記の耐水性試験の後に、40℃の温水浴の水面から高さ1cmの位置に防曇塗膜試験片を塗膜が下向きになるように配置して、塗膜に温水浴からの蒸気をあてた。10秒間経過後に塗膜上に曇りが形成されているかを目視により観察した。塗膜の表面に曇りが生じていないものについて「曇りなし」、塗膜の表面に曇りが生じているものについて「曇りあり」と記載した。
【0080】
(15)耐水性試験後の防曇塗膜の密着性評価
上記の耐水性試験の後に、JIS K 5600-5-6(塗料一般試験方法、塗膜の機械的性質に関する試験法、付着性[クロスカット法])に準拠した方法により、各防曇塗膜試験片の防曇塗膜の剥離の有無を目視により観察した。塗膜の剥離が認められなかったもの(試験に使用した透明感圧付着テープの粘着成分が防曇塗膜試験片に残っているものも含む。)について「良好」、塗膜の剥離が認められたものについて「不良」と記載した。
【0081】
[実施例1~2と比較例1~2]
実施例1~2と、比較例1~2は、シラン誘導体化合物の種類と配合量を変えた実験例である。分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物と、分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物とを併用した実施例1~2の防曇塗膜は、塗工性、防曇性、密着性の全てにおいて良好な結果を示し、耐湿熱性試験ならびに耐熱性試験後にも、防曇性、密着性において良好な結果を示した。比較例1は、分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物を配合していない。比較例1の防曇塗膜は、耐湿熱性試験後に密着性の低下を示した。比較例2は、分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物、分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物のいずれにも該当しないシラン誘導体化合物を配合した。比較例2の防曇塗膜は、耐湿熱性試験後に密着性と防曇性の低下が見られ、耐熱性試験後に防曇性の低下が見られた。
【0082】
[実施例1~2と比較例3~5]
実施例1~2と、比較例3~5は、有機溶剤であるジアセトンアルコールの量を変えた実験例である。ジアセトンアルコールを配合していない比較例3の防曇塗料組成物による防曇塗膜は、耐湿熱性試験後の密着性に低下が見られた。ジアセトンアルコールを防曇塗料組成物中に0.86重量%配合した比較例4の防曇塗膜は、耐湿熱性試験後の密着性に低下が見られ、ジアセトンアルコールを防曇塗料組成物中に8.75重量%配合した比較例5の防曇塗膜は、塗工性に難があった。
【0083】
[実施例3~8]
実施例3~8は、シラン誘導体化合物の種類と配合量を変えた実験例である。実施例3~8は、すべて、分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物と、分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物とを併用した。実施例3~8の防曇塗膜は、塗工性、防曇性、密着性の全てにおいて良好な結果を示し、耐水性試験後の防曇性、密着性も良好な結果を示し、かつ耐熱性試験後の防曇性、密着性も良好な結果を示した。分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物として、分子内にポリエチレングリコール鎖とアシル基とを有するシラン誘導体化合物(アセチルシラン)を用いても(実施例4)、分子内にポリエチレングリコール鎖とウレタン基とを有するシラン誘導体化合物(ウレタンシランA~D)を用いても(実施例5~8)、防曇塗膜の塗工性、防曇性、密着性は良好であり、耐水性試験後の防曇性、密着性も低下することがなかった。実施例4および6の結果より、分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物の末端は、エステル結合(実施例4)でも、ヒドロキシ基(実施例6)であっても、防曇塗膜の性能に大きな影響はないことがわかる。また実施例6~8の結果より、分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物に存在するポリエチレングリコール鎖の繰り返し単位の長さ(m、m1、m2の数)は、少なくとも4~15の範囲では、防曇塗膜の性能に悪影響を及ぼさないことがわかる。
【0084】
[実施例3と比較例6~8]
実施例3と、比較例6~8は、シラン誘導体化合物の種類と配合量を変えた実験例である。分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物と、分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物とを併用した実施例3の防曇塗膜は、塗工性、防曇性、密着性の全てにおいて良好な結果を示し、耐水性試験後の防曇性、密着性も良好な結果を示し、かつ耐熱性試験後の防曇性、密着性も良好な結果を示した。比較例6は、分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物のみを配合した。比較例6の防曇塗膜は、耐水性試験後に密着性の低下が見られた。比較例7は、分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物のみを配合した。比較例7の防曇塗膜は、耐水性試験、耐熱性試験後に防曇性の低下が見られた。比較例8は、分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物、分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物のいずれにも該当しないシラン誘導体化合物を配合した。比較例8の防曇塗膜は、耐水性試験後の防曇性ならびに密着性、および耐熱性試験後の防曇性に低下が見られた。
【0085】
[実施例3と比較例9~10]
比較例9は、実施例3と同じ成分を配合したが、シラン誘導体化合物の配合量を多くした実験例である。比較例9の防曇塗膜は、耐水性試験および耐熱性試験後の防曇性に低下が見られた。比較例10は、ジアセトンアルコールを配合しないこと以外は実施例3と同じにした実験例である。比較例10の防曇塗膜は、耐水性試験後の密着性に低下が見られた。
【符号の説明】
【0086】
1:基材
2:長尺状シリカ
3:分子内にポリエチレングリコール鎖を有するシラン誘導体化合物由来の基
4:分子内にエポキシ基を有するシラン誘導体化合物由来の基
5:球状シリカ
6:防曇塗膜