IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックIPマネジメント株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ジントル相熱電変換材料 図1
  • 特許-ジントル相熱電変換材料 図2A
  • 特許-ジントル相熱電変換材料 図2B
  • 特許-ジントル相熱電変換材料 図3A
  • 特許-ジントル相熱電変換材料 図3B
  • 特許-ジントル相熱電変換材料 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-12
(45)【発行日】2023-01-20
(54)【発明の名称】ジントル相熱電変換材料
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/852 20230101AFI20230113BHJP
   C04B 35/547 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
H01L35/16
C04B35/547
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2017219215
(22)【出願日】2017-11-14
(65)【公開番号】P2018190953
(43)【公開日】2018-11-29
【審査請求日】2020-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2017092581
(32)【優先日】2017-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】菅野 勉
(72)【発明者】
【氏名】玉置 洋正
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘樹
【審査官】田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/072982(WO,A1)
【文献】特開2004-143560(JP,A)
【文献】特開2003-069090(JP,A)
【文献】特開2005-159019(JP,A)
【文献】特開2005-302954(JP,A)
【文献】国際公開第2014/014126(WO,A1)
【文献】Hiromasa Tamaki,外2名,Isotropic Conduction Network and Defect Chemistry in Mg3+δSb2-Based Layered Zintl Compounds with High Thermoelectric Performance,Advanced Materials,ドイツ,Wiley-VCH Verlag GmbH & Co.,2016年,Vol. 28,p. 10182-10187
【文献】Jiawei Zhang,外5名,Discovery of high-performance low-cost n-type Mg3Sb2-based thermoelectric materials with multi-valley conduction bands,Nature Communications,英国,Springer Nature Limited,2017年01月06日,Vol. 8,p. 13901-1 - 13901-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/16
C04B 35/547
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式Mg3+m2-eTeにより表される熱電変換材料であって、
ここで、
元素Bは、SbおよびBiからなる群から選択される少なくとも1種を表し、
mの値は0以上0.1以下であり、
eの値は、0.005以上0.03以下であり、
前記熱電変換材料は、La型の結晶構造を有し、かつ
前記熱電変換材料の平均グレインサイズは3.3μm以上30.1μm以下であり、
200℃における前記熱電変換材料の熱電変換性能指数ZTは1.0以上1.2以下である、
熱電変換材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1は、化学式Mg3+δSb1.5Bi0.49Te0.01(δ = 0.1, 0.2, 0.3)により表される熱電変換材料およびその製造方法を開示している。
非特許文献2は、化学式Mg3Sb1.5-0.5χBi0.5-0.5χTeχ(χ = 0.04, 0.05, 0.08, 0.20)により表される熱電変換材料およびその製造方法を開示している。
非特許文献3は、化学式Mg3.2Sb1.5Bi0.5-χTeχ(χ = 0.002, 0.004, 0.006, 0.008, 0.010)およびMg3.2-χNbχSb1.5Bi0.49Te0.01(χ = 0, 0.01, 0.05, 0.1, 0.15)により表される熱電変換材料およびその製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】H. Tamaki et al., “Isotropic Conduction Network and Defect Chemistry in Mg3+δSb2-Based Layered Zintl Compounds with High Thermoelectric Performance”, Advanced Materials, Vol. 28, Issue 46, pp. 10182-10187 (2016) [DOI: 10.1002/adma.201603955].
【文献】J. Zhang et al., “Discovery of high-performance low-cost n-type Mg3Sb2-based thermoelectric materials with multi-valley conduction bands”, Nature Communications, Vol. 8, Article number 13901 (2017) [DOI:10.1038/ncomms13901].
【文献】S. Jing et al., “Tuning the carrier scattering mechanism to effectively improve the thermoelectric properties”, Energy and Environmental Science (2017) [DOI: 10.1039/C7EE00098G].
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、200℃付近で性能の高い熱電変換材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のジントル相熱電変換材料は、化学式Mg3+m-a2-c-eにより表される化学式により表される。
元素Aは、Ca、Sr、Ba、Nb、Zn、およびAlからなる群から選択される少なくとも1種を表し、
元素Bは、SbおよびBiからなる群から選択される少なくとも1種を表し、
元素Cは、Mn、SiおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種を表し、
元素Eは、SeおよびTeからなる群から選択される少なくとも1種を表し、
mの値は-0.1以上0.4以下であり、
aの値は0以上0.1以下であり、
cの値は0以上0.1以下であり、かつ
eの値は、0.001以上0.06以下である。
さらに、本発明のジントル相熱電変換材料は、La型の結晶構造を有し、かつその平均グレインサイズは3μm以上70μm以下である。
【発明の効果】
【0006】
本発明のジントル相熱電変換材料よれば、200℃付近において高い熱電変換性能を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、La型結晶構造の模式図を示す。
図2A図2Aは、実施例1によるジントル相熱電変換材料のX線回折分析の結果を示すグラフである。
図2B図2Bは、La型結晶構造のX線回折スペクトルのシミュレーション結果を示すグラフである。
図3A図3Aは、実施例1によるジントル相熱電変換材料のSEM像を示す。
図3B図3Bは、比較例1によるジントル相熱電変換材料のSEM像を示す。
図4図4は、実施例1および比較例1における温度および熱電変換性能指数ZTの間の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0009】
本発明によるジントル相熱電変換材料は、化学式Mg3+m-a2-c-eにより表される多結晶体で、元素Aは、Ca、Sr、Ba、Nb、Zn、およびAlからなる群から選択される少なくとも1種を表し、元素Bは、SbおよびBiからなる群から選択される少なくとも1種を表し、元素Cは、Mn、SiおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種を表し、元素Eは、SeおよびTeからなる群から選択される少なくとも1種を表し、mの値は-0.1以上0.4以下であり、aの値は0以上0.1以下であり、cの値は0以上0.1以下であり、eの値は、0.001以上0.06以下であり、La型の結晶構造を有し、かつ平均グレインサイズは3μm以上70μm以下である。より好ましくは、mの値は-0.05以上0.3以下であり、平均グレインサイズは3μm以上30μm以下であり、eの値は0.005以上0.03以下である。
【0010】
aの値は0であり得る。従って、本発明によるジントル相熱電変換材料は、元素Aを含むとは限らない。同様に、cの値は0であり得る。従って、本発明によるジントル相熱電変換材料は、元素Cを含むとは限らない。さらにaの値とcの値は同時に0であり得る。従って、本発明によるジントル相熱電変換材料は元素Aと元素Cをどちらも含まないこともあり得る。
【0011】
一方、本発明によるジントル相熱電変換材料は、元素Mg、元素B、および元素Eを含有しなければならない。
【0012】
さらに、本発明によるジントル相熱電変換材料は多結晶体であり、平均グレインサイズが3μm以上70μm以下である。
【0013】
熱電変換材料の技術分野においてよく知られているように、熱電変換材料の性能は、熱電変換性能指数ZTにより表される。熱電変換性能指数ZTはゼーベック係数S、電気抵抗率ρ、熱伝導率κ、および絶対温度Tを用いてZT=Sρ-1κ-1Tと表される。後述される実施例で実証されているように、平均グレインサイズが3μm以上70μm以下の場合に、200℃での熱電変換性能指数ZTが飛躍的に向上する。
【0014】
本発明のジントル相熱電変換材料は、La型結晶構造を有する。図1は、La型結晶構造の模式図を示す。
【0015】
(製造方法)
本発明によるジントル相熱電変換材料の製造方法は、例えば以下の通りである。まず、アンチモン-ビスマス合金が、摂氏1000度~摂氏1500度の温度でアンチモンおよびビスマスをアーク溶解法により溶解させることにより得られる。次に、アンチモン-ビスマス合金、マグネシウム粉末、およびテルル粉末がるつぼに投入される。るつぼが電気炉内で摂氏800度~摂氏1500度の温度に加熱され、塊状のMgSbBiTe前駆体合金が得られる。
【0016】
加熱の際は原料の酸化を防ぐためにアルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
【0017】
るつぼでの加熱時に元素がるつぼから蒸発などにより飛び出すことがある。従って、得られたMgSbBiTe前駆体合金のモル比は、出発物質のモル比に一致しないことは十分あり得る。MgSbBiTe前駆体合金は、粉砕した後、スパークプラズマ焼結に供され、MgSbBiTeの結晶を得る。このようにして、MgSbBiTeの結晶から形成されるジントル相熱電変換材料が得られる。
【0018】
さらに含有元素として他の元素、すなわちCa、Sr、Ba、Nb、Zn、Yb、Al、Cr、Seが追加された場合も同様の方法で本発明のジントル相熱電変換材料を製造することができる。また、前記アーク溶解は省略することもできる。この場合、るつぼに入った原料のMg、Sb、Bi、Teが不活性ガス雰囲気の電気炉中で摂氏800度~摂氏1500度の温度で加熱されることによりMgSbBiTe前駆体合金が製造される。
【0019】
前記電気炉は抵抗加熱によるものの他に、赤外ランプによる加熱、高周波による誘導加熱などを用いることができる。ランプや誘導加熱を用いる際にはるつぼの材質は例えばカーボンやSiCのように赤外線や高周波を吸収し効率良く熱に変換できる性質を持つことが好ましい。ただし、原料自体も赤外線や高周波をある程度吸収するので必ずしもるつぼの材質は限定されない。アルミナなど比較的安価な材質のるつぼを使用することができる。
【0020】
前駆体合金は、不活性ガス雰囲気中のボールミルによって作製することもできる。この場合、前駆体合金の作製と粉砕を一度に行うことができる。
【0021】
前駆体合金粉末を焼結することにより本発明のジントル相熱電変換材料は製造される。焼結の手段としてはスパークプラズマ焼結法、ホットプレス法など一般的な方法を用いることができる。
【0022】
本発明のジントル相熱電変換材料の平均グレインサイズの制御は幾つかの方法で行うことができる。例えば、焼結温度を上げたり、保持時間を伸ばしたりするとグレイン成長が促され平均グレインサイズを増大させることができる。また、焼結に供する粉末をふるいがけなどにより分級すれば、所望の平均グレインサイズのジントル相熱電変換材料を製造することが可能である。
【0023】
(実施例)
以下の実施例に言及しながら、本発明をより詳細に説明する。
(実施例1、2A、2B、3A、および3B、ならびに比較例1、2A、および2B)
(実施例1)
(製造方法)
本実施例では化学式Mg3.2Sb1.5Bi0.49Te0.01により表され、かつLa結晶構造を有するジントル相熱電変換材料が以下のように製造された。
【0024】
まず、マグネシウム粉末(2.00g)、アンチモン粉末(4.67g)、ビスマス粉末(2.63g)、テルル粉末(0.033g)を出発物質としてアルゴン雰囲気のグローブボックス中で秤量した。次に秤量した粉末をステンレス製のボールミル容器(内容積80mL)にステンレスボール(φ10mm、30個)とともに投入し、グローブボックス中で封入した。
【0025】
次に、上記粉末及びステンレスボールを含有するボールミル容器をグローブボックスから取り出し、フリッチュ製遊星ボールミル装置(Pulverisette6)に設置した後400rpmで合計4時間粉砕処理を行った。
【0026】
その後グローブボックス中でボールミル容器を開け、中の粉末を取り出し、内径φ10mmのカーボン製のダイ(焼結型)への充填を行った。ダイに充填した粉末の量は約2gとした。
【0027】
次に、スパークプラズマ焼結法(以下、「SPS法」という)により、粉末が焼結された。SPS焼結装置のチャンバー内をアルゴンガスで満たし、円筒形のダイに充填された粉末に50MPaの圧力を印加しながら電流を流すことによって加熱を行った。このようにして、およそ50℃/分の速度で、円筒形のダイに充填された材料(すなわち、粉末)の温度が上昇された。材料の温度は、900℃で5分、その後600℃で30分間維持された。次いで、材料の温度を室温まで低下させて、緻密な焼結体が得られた。このようにして、実施例1のジントル相熱電変換材料が得られた。
【0028】
(比較例1)
次に、焼結温度以外は実施例1と同様に作成した粉末を用い、SPS法による焼結工程において、室温から600℃まで50℃/分の速度で昇温し、その後600℃で30分間維持した後に材料の温度を室温まで低下させることによって、比較例1の緻密な焼結体を得た。
【0029】
(実施例2A、2B、3A、および3B、ならびに比較例2Aおよび2B)
異なる方法として、高周波溶解およびSPS法を用いて化学式Mg3.2Sb1.5Bi0.49Te0.01の焼結体を以下のような手順で作製した。
【0030】
まず、粉末状のマグネシウム粉末(4.00g)、粒状のアンチモン(9.67g)、粒状のビスマス(5.26g)、テルル粉末(0.066g)をカーボンるつぼに投入し、アルゴン雰囲気中で高周波加熱(800℃~1000℃)によって溶解した。溶解した試料は室温まで冷やされ、塊状のインゴットとなった。
【0031】
インゴットは、アルゴンで満たされたグローブボックス中で乳鉢により粉砕された。粉砕された粉末は、目開き100μmのふるいおよび目開き50μmのふるいを用いて、ふるいにかけられた。この結果、目開き50μmのふるいを通過した粉末、目開き100μmのふるいを通過しながら目開き50μmのふるいを通過しなかった粉末、そして目開き100μmのふるいを通過しなかった粉末、の3種類の粉末が得られた。
【0032】
3種類の粉末は内径φ10mmのカーボン製のダイ(焼結型)へそれぞれ充填された。充填された粉末の量はおよそ1gから1.5gであった。
【0033】
3種類の粉末の半量について、それぞれ実施例1と同じ条件でSPS法によりアルゴン雰囲気中で焼結した。その結果、目開き50μmのふるいを通過した粉末からは実施例2A、目開き100μmのふるいを通過しながら目開き50μmのふるいを通過しなかった粉末からは実施例3A、そして目開き100μmのふるいを通過しなかった粉末からは比較例2Aのジントル相熱電変換材料が得られた。
【0034】
次に3種類の粉末の残り半量について、それぞれ比較例1と同じ条件でSPS法によりアルゴン雰囲気中で焼結した。その結果、目開き50μmのふるいを通過した粉末からは実施例2B、目開き100μmのふるいを通過しながら目開き50μmのふるいを通過しなかった粉末からは実施例3B、そして目開き100μmのふるいを通過しなかった粉末からは比較例2Bのジントル相熱電変換材料が得られた。
【0035】
(組成比の特定)
作製したジントル相熱電変換材料の化学組成をInductively Coupled Plasma(ICP)発光分光分析法によって測定した。その結果、表1に示す通りほぼ仕込み組成と同様であった。
【0036】
【表1】
【0037】
(結晶構造の分析)
実施例1によるジントル相熱電変換材料は、X線回折分析に供された。図2Aは、その分析結果を示すグラフである。図2Bは、0.458ナノメートルのa軸方向格子定数、0.458ナノメートルのb軸方向格子定数、および0.727ナノメートルのc軸方向格子定数を有するLa型結晶構造(またはCaAlSi型結晶構造)のX線回折スペクトルのシミュレーション結果を示すグラフである。実施例1における回折スペクトルに含まれるピーク位置は、図2Bにおける回折ピークと一致する。従って、図2Aより、実施例1によるジントル相熱電変換材料は、La型結晶構造を有していることが明らかとなった。その他の実施例および比較例の試料を同様にX線回折分析したところ、同様のX線回折スペクトル結果が得られ、全ての試料がLa型結晶構造を有していることが明らかとなった。
【0038】
(平均グレインサイズの測定)
実施例1によるジントル相熱電変換材料は、二次電子顕微鏡(Secondary Electron Microscope、以下「SEM」という)での分析に供された。SEMでの分析の前に、実施例1のジントル相熱電変換材料は研磨紙およびアルゴンビームによって研磨された。図3AはSEMによる観察像を示している。粒界によって隔てられたグレインが明瞭に観察された。同様に、比較例1のSEMによる観察像を図3Bに示している。
【0039】
本明細書における平均グレインサイズを以下のように定義する。まず図3Aまたは図3BのようなSEM像からグレイン数Nを数える。この際、SEM像の端部において部分的に観察されるグレインは便宜的に0.5個としてカウントする。平均グレインサイズ(以下、「AGS」と呼ばれ得る)はグレイン数NとSEM像の視野の面積A、円周率πを用いて式(I)により定義する。
AGS={4A/(πN)}1/2 (I)
【0040】
式(I)はグレインが真球の形状をしており、かつSEM像ではグレインの中心を通る断面が観察されているとの仮定の下でのグレインの直径を表す近似的な式である。実際には、例えば図3Aおよび図3Bを見れば分かる通り、グレインは不定形をしており真球ではないので、式(I)から導出される平均グレインサイズは必ずしもグレインの直径に等しい値ではない。本明細書では式(I)によって表される量を便宜的に平均グレインサイズと呼び、これを用いて実施例の説明および請求の範囲を規定する。
【0041】
平均グレインサイズを導出する際には、視野の中に20個以上のグレインを含むようなSEM像を用いることが統計誤差を抑制する上で好ましい。平均グレインサイズは、1つのSEM像に含まれる複数の部分を用いて計算することがより好ましい。
【0042】
実施例1の平均グレインサイズは、図3Aおよび異なる視野のSEM像を複数用いて算出したところ6.2μmであった。比較例1の平均グレインサイズは、図3Bおよび異なる視野のSEM像を複数用いて算出したところ0.95μmであった。
【0043】
(熱電変換性能)
図4は、実施例1および比較例1における温度および熱電変換性能指数ZTの間の関係を示すグラフである。
【0044】
実施例1は室温から約300℃の温度範囲内において比較例より有意に高いZTを示している。代表的な性能値として約200℃でのZTを比較すると、比較例1の0.7に対して実施例1が1.1と、約1.6倍も優れている。熱電変換材料を用いて発電を行う際は、動作温度域、すなわち低温部の温度から高温部の温度にわたる温度域において平均してZTが高いほど発電効率が高くなる。従って本発明のジントル相熱電変換材料によれば、従来に比べて300℃以下での発電性能が向上する。
【0045】
表2に本実施例および比較例の平均グレインサイズとSPSでの焼結温度、200℃での熱電変換性能指数ZTを示す。平均グレインサイズが6.2μmから72.1μmの範囲で、200℃における熱電変換性能指数ZTが1.0以上の高い値を示し、それより小さい、または大きな平均グレインサイズの時のZTは低かった。一方、SPS焼結の温度がより高い時に平均グレインサイズが大きくなる傾向が見られたが、SPS焼結温度と200℃における熱電変換性能指数ZTとの直接の相関は見られなかった。
【0046】
【表2】
【0047】
(実施例4A~7Cならびに比較例3A~7B、7C、および7D)
本実施例では実施例1~3と同様の方法で化学式Mg3.0Sb1.7Bi0.3-eで表されるジントル相熱電変換材料が製造された。ここでEはTeである。焼結体のEの組成eを測定したところ、仕込み組成と比較して10%以内の範囲内にあった。
【0048】
表3にEがTeのときの焼結体中のEの組成e、平均グレインサイズ、200℃における熱電変換性能指数ZTを示す。Eの組成eが0.001以上0.06以下の場合、かつ平均グレインサイズが概ね3μm以上70μm以下のときに200℃における熱電変換性能指数ZTが大きく向上する結果となった。また、Eの組成eが0.001未満または0.06を越える場合は平均グレインサイズの大きさに関係なく200℃における熱電変換ZTは低かった。
【0049】
【表3】
【0050】
(実施例8A~実施例11Cおよび比較例8A~比較例13B)
本実施例では実施例1~3と同様の方法で化学式Mg3.1Sb1.3Bi0.7-eで表されるジントル相熱電変換材料が製造された。ここでEはSeである。焼結体のEの組成eを測定したところ、仕込み組成と比較して10%以内の範囲内にあった。
【0051】
表4にEがSeのときの焼結体中のEの組成e、平均グレインサイズ、200℃における熱電変換性能指数ZTを示す。Eの組成eが0.001以上0.06以下の場合、かつ平均グレインサイズが概ね3μm以上70μm以下のときに200℃における熱電変換性能指数ZTが大きく向上する結果となった。また、Eの組成eが0.001未満または0.06を越える場合は平均グレインサイズの大きさに関係なく200℃における熱電変換ZTは低かった。
【0052】
【表4】
【0053】
(実施例12A~実施例14Cおよび比較例14A~比較例17B)
本実施例では実施例1~3と同様の方法で化学式Mg3.4-aSb1.0Bi0.98Te0.02で表されるジントル相熱電変換材料が製造された。ここでAはCaである。焼結体のAの組成aを測定したところ、仕込み組成と比較して10%以内の範囲内にあった。
【0054】
表5にAがCaのときの焼結体中のAの組成a、平均グレインサイズ、200℃における熱電変換性能指数ZTを示す。Aの組成aが0以上0.1以下の場合、かつ平均グレインサイズが概ね3μm以上70μm以下のときに200℃における熱電変換性能指数ZTが大きく向上する結果となった。また、Aの組成aが0.1を越える場合は平均グレインサイズの大きさに関係なく200℃における熱電変換ZTは低かった。
【0055】
【表5】
【0056】
(実施例15A~実施例17Cおよび比較例18A~比較例21B)
本実施例では実施例1~3と同様の方法で化学式Mg3.1-aSb1.9Bi0.08Se0.02で表されるジントル相熱電変換材料が製造された。ここでAはSrである。焼結体のAの組成aを測定したところ、仕込み組成と比較して10%以内の範囲内にあった。
【0057】
表6にAがSrのときの焼結体中のAの組成a、平均グレインサイズ、200℃における熱電変換性能指数ZTを示す。Aの組成aが0以上0.1以下の場合、かつ平均グレインサイズが概ね3μm以上70μm以下のときに200℃における熱電変換性能指数ZTが大きく向上する結果となった。また、Aの組成aが0.1を越える場合は平均グレインサイズの大きさに関係なく200℃における熱電変換ZTは低かった。
【0058】
【表6】
【0059】
(実施例18A~実施例20Cおよび比較例22A~比較例25B)
本実施例では実施例1~3と同様の方法で化学式Mg3.3-aSb0.5Bi1.49Te0.01で表されるジントル相熱電変換材料が製造された。ここでAはBaである。焼結体のAの組成aを測定したところ、仕込み組成と比較して10%以内の範囲内にあった。
【0060】
表7にAがBaのときの焼結体中のAの組成a、平均グレインサイズ、200℃における熱電変換性能指数ZTを示す。Aの組成aが0以上0.1以下の場合、かつ平均グレインサイズが概ね3μm以上70μm以下のときに200℃における熱電変換性能指数ZTが大きく向上する結果となった。また、Aの組成aが0.1を越える場合は平均グレインサイズの大きさに関係なく200℃における熱電変換ZTは低かった。
【0061】
【表7】
【0062】
(実施例21A~実施例23Cおよび比較例26A~比較例29B)
本実施例では実施例1~3と同様の方法で化学式Mg3.1-aSb1.4Bi0.58Te0.02で表されるジントル相熱電変換材料が製造された。ここでAはNbである。焼結体のAの組成aを測定したところ、仕込み組成と比較して10%以内の範囲内にあった。
【0063】
表8にAがNbのときの焼結体中のAの組成a、平均グレインサイズ、200℃における熱電変換性能指数ZTを示す。Aの組成aが0以上0.1以下の場合、かつ平均グレインサイズが概ね3μm以上70μm以下のときに200℃における熱電変換性能指数ZTが大きく向上する結果となった。また、Aの組成aが0.1を越える場合は平均グレインサイズの大きさに関係なく200℃における熱電変換ZTは低かった。
【0064】
【表8】
【0065】
(実施例24A~実施例26Cおよび比較例30A~比較例33B)
本実施例では実施例1~3と同様の方法で化学式Mg2.9-aSb1.97Se0.03で表されるジントル相熱電変換材料が製造された。ここでAはAlである。焼結体のAの組成aを測定したところ、仕込み組成と比較して10%以内の範囲内にあった。
【0066】
表9にAがAlのときの焼結体中のAの組成a、平均グレインサイズ、200℃における熱電変換性能指数ZTを示す。Aの組成aが0以上0.1以下の場合、かつ平均グレインサイズが概ね3μm以上70μm以下のときに200℃における熱電変換性能指数ZTが大きく向上する結果となった。また、Aの組成aが0.1を越える場合は平均グレインサイズの大きさに関係なく200℃における熱電変換ZTは低かった。
【0067】
【表9】
【0068】
(実施例27A~実施例29Cおよび比較例34A~比較例37B)
本実施例では実施例1~3と同様の方法で化学式Mg3.1Sb0.3Bi1.68-cTe0.02で表されるジントル相熱電変換材料が製造された。ここでCはMnである。焼結体のCの組成cを測定したところ、仕込み組成と比較して10%以内の範囲内にあった。
【0069】
表10にCがMnのときの焼結体中のCの組成c、平均グレインサイズ、200℃における熱電変換性能指数ZTを示す。Cの組成cが0以上0.1以下の場合、かつ平均グレインサイズが概ね3μm以上70μm以下のときに200℃における熱電変換性能指数ZTが大きく向上する結果となった。また、Cの組成cが0.1を越える場合は平均グレインサイズの大きさに関係なく200℃における熱電変換ZTは低かった。
【0070】
【表10】
【0071】
(実施例30A~実施例32Cおよび比較例38A~比較例41B)
本実施例では実施例1~3と同様の方法で化学式Mg3.3-aSb0.5Bi1.5Se0.03で表されるジントル相熱電変換材料が製造された。ここでAはZnである。焼結体のAの組成aを測定したところ、仕込み組成と比較して10%以内の範囲内にあった。
【0072】
表11にAがZnのときの焼結体中Aの組成a、平均グレインサイズ、200℃における熱電変換性能指数ZTを示す。Aの組成aが0以上0.1以下の場合、かつ平均グレインサイズが概ね3μm以上70μm以下のときに200℃における熱電変換性能指数ZTが大きく向上する結果となった。また、Aの組成aが0.1を越える場合は平均グレインサイズの大きさに関係なく200℃における熱電変換ZTは低かった。
【0073】
【表11】
【0074】
(実施例33A~実施例35Cおよび比較例42A~比較例45B)
本実施例では実施例1~3と同様の方法で化学式Mg3.0Sb1.4Bi0.58-cSe0.02で表されるジントル相熱電変換材料が製造された。ここでCはSiである。焼結体のCの組成cを測定したところ、仕込み組成と比較して10%以内の範囲内にあった。
【0075】
表12にCがSiのときの焼結体中のCの組成c、平均グレインサイズ、200℃における熱電変換性能指数ZTを示す。Cの組成cが0以上0.1以下の場合、かつ平均グレインサイズが概ね3μm以上70μm以下のときに200℃における熱電変換性能指数ZTが大きく向上する結果となった。また、Cの組成cが0.1を越える場合は平均グレインサイズの大きさに関係なく200℃における熱電変換ZTは低かった。
【0076】
【表12】
【0077】
(実施例36A~実施例38Cおよび比較例46A~比較例49B)
本実施例では実施例1~3と同様の方法で化学式Mg3.2Sb1.6Bi0.38-cTe0.01で表されるジントル相熱電変換材料が製造された。ここでCはCrである。焼結体のCの組成cを測定したところ、仕込み組成と比較して10%以内の範囲内にあった。
【0078】
表13にCがCrのときの焼結体中のCの組成c、平均グレインサイズ、200℃における熱電変換性能指数ZTを示す。Cの組成cが0以上0.1以下の場合、かつ平均グレインサイズが概ね3μm以上70μm以下のときに200℃における熱電変換性能指数ZTが大きく向上する結果となった。また、Cの組成cが0.1を越える場合は平均グレインサイズの大きさに関係なく200℃における熱電変換ZTは低かった。
【0079】
【表13】
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明にかかるジントル相熱電変換材料は、200℃付近で高い熱電変換性能指数を有し、200℃~300℃以下の低温の排熱から発電を行う熱電発電モジュールの構成部材として有用である。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4