(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-12
(45)【発行日】2023-01-20
(54)【発明の名称】モーター制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 29/00 20160101AFI20230113BHJP
【FI】
H02P29/00
(21)【出願番号】P 2018172157
(22)【出願日】2018-09-14
【審査請求日】2021-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114971
【氏名又は名称】青木 修
(72)【発明者】
【氏名】山岸 友樹
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-070175(JP,A)
【文献】特開平09-320061(JP,A)
【文献】特開平01-136214(JP,A)
【文献】国際公開第2015/136696(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 4/00
H02P 25/08-25/098
H02P 29/00-31/00
G05D 3/00-3/20
B25J 1/00-21/02
G05B 19/00-19/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モーターの始動または停止のための速度入力信号を生成する入力信号生成部と、
フィードバック制御で前記モーターの実測速度を、前記速度入力信号により示される目標速度に近づけるように、前記実測速度と前記目標速度との差分に対応するフィードバック制御信号を生成するフィードバック制御部と、
前記モーターの始動または停止での前記目標速度の変化に対応する目標加速度に対応するフィードフォワード制御信号を生成するフィードフォワード制御部と、
前記フィードバック制御信号および前記フィードフォワード制御信号に基づいて前記モーターを駆動するモーター駆動回路と、
を備え
、
前記フィードフォワード制御部は、ローパスフィルターを備え、前記モーターの実測加速度と前記目標加速度との差分のうち、前記ローパスフィルターを通過した成分に対応する加速度補正信号で、前記目標加速度を補正し、補正後の前記目標加速度に対応する前記フィードフォワード制御信号を生成すること、
を特徴とするモーター制御装置。
【請求項2】
前記目標加速度に基づいて前記ローパスフィルターのゲイン特性を調整するフィルター設定部をさらに備えることを特徴とする請求項
1記載のモーター制御装置。
【請求項3】
前記フィルター設定部は、前記目標加速度が低いほど前記ローパスフィルターのカットオフ周波数を低くすることを特徴とする請求項
2記載のモーター制御装置。
【請求項4】
前記入力信号生成部は、複数の速度テーブルから1つの速度テーブルを選択し、選択した前記速度テーブルにより指定された速度パターンで速度入力信号を生成し、
前記フィルター設定部は、選択された前記速度テーブルに対応するゲイン特性を前記ローパスフィルターに設定すること、
を特徴とする請求項
2または請求項
3記載のモーター制御装置。
【請求項5】
前記目標加速度は、前記目標速度に基づいて計算され、
計算された前記目標加速度は、不揮発性記憶装置に記憶され、
前記モーターの次回運転時に、前記目標加速度を計算せずに、前記不揮発性記憶装置から、前記不揮発性記憶装置に記憶されている前記目標加速度を読み出して使用すること、
を特徴とする請求項1記載のモーター制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モーター制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
あるモーター制御装置は、フィードバック制御でモーターの速度を制御するとともに、フィードフォワード制御を行っており、目標指令とモーター速度との偏差絶対値の最大値を最小にするようにフィードフォワードゲインを調整している(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のモーター制御装置のように、目標指令とモーター速度との偏差絶対値の最大値を最小にするようにフィードフォワードゲインを調整しても、モーターの始動時や停止時はモーター速度を急激に変化させるため、制御に遅延が生じ、所望の速度パターンでモーターの始動や停止を行うことは困難である。
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、所望の速度パターンでモーターの始動や停止を行うモーター制御装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るモーター制御装置は、モーターの始動または停止のための速度入力信号を生成する入力信号生成部と、フィードバック制御で前記モーターの実測速度を、前記速度入力信号により示される目標速度に近づけるように、前記実測速度と前記目標速度との差分に対応するフィードバック制御信号を生成するフィードバック制御部と、前記モーターの始動または停止での前記目標速度の変化に対応する目標加速度に対応するフィードフォワード制御信号を生成するフィードフォワード制御部と、前記フィードバック制御信号および前記フィードフォワード制御信号に基づいて前記モーターを駆動するモーター駆動回路とを備える。そして、前記フィードフォワード制御部は、ローパスフィルターを備え、前記モーターの実測加速度と前記目標加速度との差分のうち、前記ローパスフィルターを通過した成分に対応する加速度補正信号で、前記目標加速度を補正し、補正後の前記目標加速度に対応する前記フィードフォワード制御信号を生成する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、所望の速度パターンでモーターの始動や停止を行うモーター制御装置が得られる。
【0008】
本発明の上記又は他の目的、特徴および優位性は、添付の図面とともに以下の詳細な説明から更に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態1に係るモーター制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、速度入力信号について説明する図である。
【
図3】
図3は、
図1におけるローパスフィルター26の一例を示す回路図である。
【
図4】
図4は、
図1におけるローパスフィルター26のゲイン特性について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
実施の形態1.
【0012】
図1は、本発明の実施の形態1に係るモーター制御装置の構成を示すブロック図である。
図1に示すモーター制御装置は、入力信号生成部1、記憶装置2、減算回路3、フィードバック制御部4、フィードフォワード制御部5、加算回路6、モーター駆動回路7、モーター8、および速度検出部9を備える。
【0013】
入力信号生成部1は、モーター8の始動または停止のための速度入力信号を生成する。記憶装置2は、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリーなどといった不揮発性の記憶装置であって、1または複数の速度テーブル2aを記憶している。速度テーブル2aは、モーター8の始動または停止のための、一連の時点での目標速度(つまり、速度パターン)を示すデータである。なお、速度テーブル2aは、ルックアップテーブルでもよい。この実施の形態では、入力信号生成部1は、この速度テーブル2aを参照して、モーター8の始動または停止における各時点での目標速度を特定する。
【0014】
図2は、速度入力信号について説明する図である。例えば、
図2に示すように、始動時、一定加速度で所定速度までモーター8を加速させ、停止時、一定加速度で速度ゼロまでモーター8を減速させるように、目標速度が設定される。そして、この実施の形態では、
図2に示すように、入力信号生成部1は、目標速度に対応する周波数(周期)を有する矩形波信号を速度入力信号として生成する。例えば
図2に示すように、時刻Tiでの目標速度Viに対応する周期Xiで速度入力信号が生成される。
【0015】
減算回路3は、速度検出信号と速度入力信号との差分(つまり、誤差)を示す速度誤差信号を生成しフィードバック制御部4に供給する。
【0016】
フィードバック制御部4は、フィードバック制御(例えばPID制御)でモーター8の実測速度を、速度入力信号により示される目標速度に近づけるように、その実測速度と目標速度との差分(つまり、速度検出信号と速度入力信号との誤差)に対応するフィードバック制御信号を生成する。
【0017】
フィードフォワード制御部5は、モーター8の始動または停止での目標速度の変化に対応する目標加速度に対応するフィードフォワード制御信号を生成する。
【0018】
図1に示すように、フィードフォワード制御部5は、目標加速度設定部21、係数回路22、加算回路23、実測加速度特定部24、減算回路25、ローパスフィルター26、および係数回路27を備える。
【0019】
目標加速度設定部21は、速度テーブル2aに対応する各時点の目標加速度を設定する。目標加速度設定部21は、速度入力信号の少なくとも2時点の目標速度に基づいて目標加速度を計算してもよいし、速度テーブル2aに対応して予め設定されている目標加速度を特定する。
【0020】
係数回路22は、目標加速度に対して所定の係数k1を乗じて、フィードフォワード制御信号を生成する。
【0021】
加算回路23は、フィードフォワード制御信号に加速度補正信号を加算してフィードフォワード制御信号を補正する。
【0022】
実測加速度特定部24は、モーター8の実際の加速度を特定する。例えば、実測加速度特定部24は、速度検出信号から各時点の速度の値を特定し、その速度の値から、速度の微分値である実測加速度を計算する。
【0023】
減算回路25は、各時点での目標加速度と実測加速度との差分(つまり、誤差)を演算し、その差分を示す加速度誤差信号をローパスフィルター26に出力する。
【0024】
ローパスフィルター26は、所定のカットオフ周波数fcのゲイン特性を有し、加速度誤差信号におけるカットオフ周波数fc以上の周波数成分を減衰させる。
【0025】
係数回路27は、ローパスフィルター26の出力信号に対して所定の係数k2を乗じて、加速度補正信号を生成する。
【0026】
図3は、
図1におけるローパスフィルター26の一例を示す回路図である。
図3に示すローパスフィルター26は、1次IIR(Infinite Impulse Response)フィルターであり、係数回路41、加算器42、遅延回路43、および係数回路44を備える。係数回路41は、係数(a-1)を乗ずる回路であり、係数回路44は、係数aを乗ずる回路である。例えば、定数aは、時定数をtとし、サンプリング時間をTとすると、a=t/(t+T)で導出される。
【0027】
図4は、
図1におけるローパスフィルター26のゲイン特性について説明する図である。例えば、
図4に示すように、始動時、定加速度で所定速度までモーター8を加速させ、停止時、定加速度で速度ゼロまでモーター8を減速させるように、目標速度が設定される。しかしながら、モーター8の慣性などに起因して、始動時や停止時にモーター8の実測速度にオーバーシュートやアンダーシュートが発生する。その際の目標速度と実測速度との誤差の周波数成分は、
図4に示すように、特定の周波数成分を有する。したがって、ローパスフィルター26は、目標速度と実測速度との誤差の周波数成分を減衰させるようなカットオフ周波数fcを有する。
【0028】
図1に戻り、加算回路6は、フィードバック制御信号にフィードフォワード制御信号を加算してモーター制御信号を生成し、モーター駆動回路7に供給する。
【0029】
モーター駆動回路7は、フィードバック制御信号およびフィードフォワード制御信号に基づいてモーター8を駆動する。ここでは、モーター駆動回路7は、フィードバック制御信号およびフィードフォワード制御信号から生成されたモーター制御信号に基づいてモーター8を駆動する。モーター8は、例えば、DCモーターである。
【0030】
例えば、モーター駆動回路7は、モーター制御信号に基づいてPWM(Pulse Width Modulation)制御でモーター8を駆動する。
【0031】
速度検出部9は、例えばロータリーエンコーダーなどで、モーター8の速度を検出し、速度検出信号を出力する。
【0032】
さらに、
図1に示すモーター制御装置は、フィルター設定部31を備える。フィルター設定部31は、上述の目標加速度に基づいてローパスフィルター26のゲイン特性を調整する。具体的には、フィルター設定部31は、目標加速度が低いほどローパスフィルター26のカットオフ周波数fcを低くする。
【0033】
ここで、目標加速度は、例えば、2時点での速度入力信号の周期Xn-1,Xnに基づいて、次式に従って計算される。
【0034】
(目標加速度)={(1/Xn)-(1/Xn-1)}/T
【0035】
ここで、Tは、2時点間の時間である。
【0036】
次に、実施の形態1に係るモーター制御装置の動作について説明する。
【0037】
入力信号生成部1は、速度テーブル2aに従って速度入力信号を生成する。
【0038】
フィードバック制御部4は、速度入力信号と速度検出信号との間の速度誤差信号に対して例えばPID値をフィードバック制御信号として演算する。
【0039】
他方、フィードフォワード制御部5は、目標加速度に対応するフィードフォワード制御信号を生成し、目標加速度と実測加速度との誤差(差分)のうち、ローパスフィルター26を通過した周波数成分に対応する加速度補正信号でフィードフォワード制御信号を補正し、補正後のフィードフォワード制御信号を出力する。
【0040】
そして、加算回路6は、フィードバック制御信号に補正後のフィードフォワード制御信号を加算してモーター制御信号を生成し、モーター駆動回路7に出力する。
【0041】
モーター駆動回路7は、そのモーター制御信号に従ってモーター8を駆動する。これにより、モーター8が回転する。速度検出部9は、モーター8の回転速度を検出し、速度検出信号を減算回路3へ出力する。
【0042】
以上のように、上記実施の形態1によれば、入力信号生成部1は、モーターの始動または停止のための速度入力信号を生成する。フィードバック制御部4は、フィードバック制御でモーター8の実測速度を、速度入力信号により示される目標速度に近づけるように、実測速度と目標速度との差分に対応するフィードバック制御信号を生成するフィードフォワード制御部5は、モーター8の始動または停止での目標速度の変化に対応する目標加速度に対応するフィードフォワード制御信号を生成する。モーター駆動回路7は、フィードバック制御信号およびフィードフォワード制御信号に基づいてモーター8を駆動する。
【0043】
これにより、実測加速度に応じて適切にフィードフォワード制御信号が補正されるため、所望の速度パターンでモーター8の始動や停止が正確に行われる。
【0044】
実施の形態2.
【0045】
実施の形態2に係るモーター制御装置では、記憶装置2に、互いに異なる複数の速度テーブル2aが予め記憶され、入力信号生成部1は、図示せぬコントローラーなどからの指令に従って、その複数の速度テーブル2aから1つの速度テーブル2aを選択し、選択した速度テーブル2aにより指定された速度パターンで速度入力信号を生成する。その際、フィルター設定部31は、選択された速度テーブル2aに対応するゲイン特性をローパスフィルター31に設定する。
【0046】
なお、実施の形態2に係るモーター制御装置のその他の構成および動作については実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
【0047】
なお、上述の実施の形態に対する様々な変更および修正については、当業者には明らかである。そのような変更および修正は、その主題の趣旨および範囲から離れることなく、かつ、意図された利点を弱めることなく行われてもよい。つまり、そのような変更および修正が請求の範囲に含まれることを意図している。
【0048】
例えば、上記実施の形態1,2において、上述のように、目標加速度が目標速度に基づいて計算される場合、計算された目標加速度が記憶装置2に記憶され、次回のモーター8の運転時に、目標加速度を計算せずに、記憶装置2から、記憶装置2に記憶されている目標加速度を読み出して使用するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、例えば、モータードライバーに適用可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 入力信号生成部
4 フィードバック制御部
5 フィードフォワード制御部
7 モーター駆動回路
8 モーター
26 ローパスフィルター
31 フィルター設定部