(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-12
(45)【発行日】2023-01-20
(54)【発明の名称】電気化学式水素ポンプ
(51)【国際特許分類】
C25B 13/08 20060101AFI20230113BHJP
C25B 1/02 20060101ALI20230113BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20230113BHJP
C25B 9/73 20210101ALI20230113BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20230113BHJP
【FI】
C25B13/08 305
C25B1/02
C25B9/23
C25B9/73
H01M8/04 N
(21)【出願番号】P 2019104124
(22)【出願日】2019-06-04
【審査請求日】2022-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2018137544
(32)【優先日】2018-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 邦弘
(72)【発明者】
【氏名】中植 貴之
(72)【発明者】
【氏名】脇田 英延
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-090899(JP,A)
【文献】特開2018-081812(JP,A)
【文献】特開2007-051369(JP,A)
【文献】特開平08-213027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/02,9/23,9/73,13/08
H01M 8/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、
前記電解質膜の一方の主面上に設けられたアノード触媒層と、
前記電解質膜の他方の主面上に設けられたカソード触媒層と、
前記アノード触媒層上に設けられたアノードガス拡散層と、
前記カソード触媒層上に設けられたカソードガス拡散層と、
前記アノードガス拡散層上に設けられたアノードセパレーターと、
前記カソードガス拡散層上に設けられたカソードセパレーターと、
前記電解質膜、前記アノード触媒層、前記カソード触媒層、前記アノードガス拡散層、前記カソードガス拡散層、前記アノードセパレーターおよび前記カソードセパレーターが積層された、少なくとも1つの水素ポンプユニットにおける、前記積層された方向の両端上に設けられた、第1端板および第2端板と、
前記少なくとも1つの水素ポンプユニットおよび前記第1端板および第2端板を前記積層された方向に締結する締結器と、
前記アノード触媒層と前記カソード触媒層との間に電圧を印加する電圧印加器とを備え、
前記電圧印加器が前記電圧を印加することで、前記アノード触媒層上に供給された水素含有ガス中の水素を、前記カソード触媒層上に移動させ、かつ昇圧する電気化学式水素ポンプであって、
前記カソードガス拡散層は、前記カソード触媒層側の主面に撥水性のカーボン繊維層を備え、前記締結器の締結により圧縮されている電気化学式水素ポンプ。
【請求項2】
前記締結器の締結による前記カソードガス拡散層の前記積層された方向の圧縮量は、前記電気化学式水素ポンプが上限値まで昇圧しているときの前記電解質膜、前記アノード触媒層および前記アノードガス拡散層のそれぞれの前記積層された方向のひずみ量の合算値以上である請求項1に記載の電気化学式水素ポンプ。
【請求項3】
前記締結器の締結による前記カソードガス拡散層の前記積層された方向の圧縮量は、前記締結器による締結前の前記カソードガス拡散層の厚みの20%から30%の大きさである請求項1または2に記載の電気化学式水素ポンプ。
【請求項4】
前記締結器の締結による前記カソードガス拡散層の前記積層された方向の圧縮量は、前記締結器による締結前の前記カソードガス拡散層の厚みの10%以上の大きさである請求項1または2に記載の電気化学式水素ポンプ。
【請求項5】
前記撥水性のカーボン繊維層の前記カソード触媒層側の主面上に、撥水性樹脂とカーボンブラックとを含む撥水層を備える請求項1-4のいずれか1項に記載の電気化学式水素ポンプ。
【請求項6】
前記撥水性のカーボン繊維層は、前記カソード触媒層側の主面側に、撥水性樹脂とカーボンブラックとを含む撥水層との混合層を備える請求項1-5のいずれか1項に記載の電気化学式水素ポンプ。
【請求項7】
前記アノードガス拡散層は、複数の通気孔を備える金属シートを含み、前記カーボン繊維層は含まない請求項1-6のいずれか1項に記載の電気化学式水素ポンプ。
【請求項8】
前記アノードガス拡散層は、前記アノード触媒層側の主面に撥水性の層を備える請求項7に記載の電気化学式水素ポンプ。
【請求項9】
前記少なくとも1つの水素ポンプユニットが、複数の前記水素ポンプユニットである請求項1-7のいずれか1項に記載の電気化学式水素ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は電気化学式水素ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球の温暖化などの環境問題、石油資源の枯渇などのエネルギー問題から、化石燃料に代わるクリーンな代替エネルギー源として、水素が注目されている。水素は燃焼しても基本的に水しか放出せず、地球温暖化の原因となる二酸化炭素が排出されずかつ窒素酸化物などもほとんど排出されないので、クリーンエネルギーとして期待されている。また、水素を燃料として高効率に利用する装置として、例えば、燃料電池があり、自動車用電源向け、家庭用自家発電向けに開発および普及が進んでいる。
【0003】
来るべき水素社会では、水素を製造することに加えて、水素を高密度で貯蔵し、小容量かつ低コストで輸送または利用することが可能な技術開発が求められている。特に、分散型のエネルギー源となる燃料電池の普及促進には、水素供給インフラを整備する必要がある。また、水素を安定的に供給するために、高純度の水素を製造、精製、高密度貯蔵する様々な検討が行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、水素の精製および圧縮を行うための装置として、固体高分子電解質膜、電極およびセパレータの積層体がエンドプレートで挟み込んで締結されたイオンポンプが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来例では、電気化学式水素ポンプの水素昇圧動作時の効率向上について十分検討されていない。
【0007】
本開示の一態様(aspect)は、このような事情に鑑みてなされたものであり、従来よりも水素昇圧動作時の効率を向上し得る電気化学式水素ポンプを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本開示の一態様の電気化学式水素ポンプは、電解質膜と、前記電解質膜の一方の主面上に設けられたアノード触媒層と、前記電解質膜の他方の主面上に設けられたカソード触媒層と、前記アノード触媒層上に設けられたアノードガス拡散層と、前記カソード触媒層上に設けられたカソードガス拡散層と、前記アノードガス拡散層上に設けられたアノードセパレーターと、前記カソードガス拡散層上に設けられたカソードセパレーターと、前記電解質膜、前記アノード触媒層、前記カソード触媒層、前記アノードガス拡散層、前記カソードガス拡散層、前記アノードセパレーターおよび前記カソードセパレーターが積層された、少なくとも1つの水素ポンプユニットにおける、前記積層された方向の両端上に設けられた、第1端板および第2端板と、前記少なくとも1つの水素ポンプユニットおよび前記第1端板および第2端板を前記積層された方向に締結する締結器と、前記アノード触媒層と前記カソード触媒層との間に電圧を印加する電圧印加器とを備え、前記電圧印加器が前記電圧を印加することで、前記アノード触媒層上に供給された水素含有ガス中の水素を、前記カソード触媒層上に移動させ、かつ昇圧する電気化学式水素ポンプであって、前記カソードガス拡散層は、前記カソード触媒層側の主面に撥水性のカーボン繊維層を備え、前記締結器の締結により圧縮されている。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様の電気化学式水素ポンプは、従来よりも水素昇圧動作時の効率を向上し得るという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】
図1Aは、実施形態の電気化学式水素ポンプの一例を示す図である。
【
図2A】
図2Aは、実施形態の電気化学式水素ポンプの一例を示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態の電気化学式水素ポンプを備える水素供給システムの一例を示す図である。
【
図4】
図4は、実施形態の電気化学式水素ポンプのカソードガス拡散層の一例を示す図である。
【
図5A】
図5Aは、カソードガス拡散層が厚み方向に圧縮した場合におけるカソードガス拡散層の面圧(圧力)とひずみ量との間の関係の一例を示す図である。
【
図5B】
図5Bは、カソードガス拡散層が厚み方向に圧縮した場合におけるカソードガス拡散層の面圧(圧力)と抵抗との間の関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
固体高分子電解質膜(以下、電解質膜)による電気化学式水素ポンプでは、アノードの水素含有ガス中の水素(H2)をプロトン化してカソードに移動させ、プロトン(H+)をカソードで水素(H2)に戻すことで水素が高圧化される。このとき、電解質膜の高プロトン伝導度の確保には、電解質膜を所望の湿潤状態に維持することが必要である。つまり、電解質膜を湿潤状態は、電解質膜の電気抵抗と直結しており、電気化学式水素ポンプのセル抵抗を左右する重要な要因となる。そこで、電気化学式水素ポンプは、例えば、アノードに供給する水素含有ガスを加湿器により予め加湿する構成を取ることが多い。
【0012】
ところで、電気化学式水素ポンプのアノードとカソードとの間に電流が流れるとき、プロトンがアノードからカソードに水を同伴しながら電解質膜を移動する。このとき、アノードからカソードに移動した水は、電気化学式水素ポンプの動作温度が所定温度以上の場合、水蒸気として存在するが、カソードの水素ガス圧が高圧になる程、液体の水として存在する割合が増加する。そして、カソードに液体の水が存在する場合、かかる水の一部は、カソードおよびアノード間の差圧によってアノードに押し戻される。このとき、アノードに押し戻される水の量は、カソードの水素ガス圧が高圧になる程、増加する。すると、カソードの水素ガス圧が上昇するに連れて、アノードに押し戻された水によってアノードのフラディングが発生しやすくなる。このようなフラディングが発生することにより、アノードで水素含有ガスの拡散性が阻害される場合、電気化学式水素ポンプの拡散抵抗の増加が増加する可能性があるので、電気化学式水素ポンプの水素昇圧動作の効率が低下する恐れがある。
【0013】
また、カソードの水素ガス圧が高圧になる程、電解質膜、アノード触媒層およびアノードガス拡散層における水素ガス圧による圧縮量(ひずみ量)が大きくなる。すると、カソード触媒層とカソードガス拡散層との間で隙間が生じやすいので、両者間の接触抵抗が増加する可能性がある。そこで、出願人による先行特許の電気化学式水素ポンプにおいて、締結器による電気化学式水素ポンプの締結前には、カソードセパレーターの凹部に収納したカソードガス拡散層を凹部からその厚み方向に所定の大きさではみ出して配設する構成を提案した。つまり、締結器の締結によってカソードガス拡散層をその厚み方向に圧縮させ得るので、カソードの水素ガス圧が高圧になっても、カソードガス拡散層が、締結器による圧縮後の厚みから圧縮前の厚みに戻る方向に弾性変形することにより、カソード触媒層とカソードガス拡散層との間の接触を適切に維持することができる。
【0014】
ところが、締結器の締結によってカソードガス拡散層をその厚み方向に圧縮させる構成を取ると、アノードで上記のフラディングの発生を助長させる可能性がある。具体的には、以上の構成を取ることでカソードガス拡散層の空隙が少なくなるので、カソードガス拡散層内の水素の流れが妨げられる。すると、水素の流れとともにカソード外に排水される水の減少によって、カソードガス拡散層に一時的に滞留する水の量が増える。その結果、カソードおよびアノード間の差圧によってアノードに押し戻される水の量がさらに増加するので、アノードでフラディングの発生が助長される。
【0015】
そこで、発明者らは、鋭意検討を行った結果、カソードガス拡散層がカソード触媒層側の主面に撥水性のカーボン繊維層を備えることで、以上のアノードにおけるフラッディング発生を抑制し得ることを見出し、以下の本開示の一態様に想到した。
【0016】
すなわち、本開示の第1態様の電気化学式水素ポンプは、電気化学式水素ポンプは、電解質膜と、電解質膜の一方の主面上に設けられたアノード触媒層と、電解質膜の他方の主面上に設けられたカソード触媒層と、アノード触媒層上に設けられたアノードガス拡散層と、カソード触媒層上に設けられたカソードガス拡散層と、アノードガス拡散層上に設けられたアノードセパレーターと、カソードガス拡散層上に設けられたカソードセパレーターと、電解質膜、アノード触媒層、カソード触媒層、アノードガス拡散層、カソードガス拡散層、アノードセパレーターおよびカソードセパレーターが積層された、少なくとも1つの水素ポンプユニットにおける、上記積層された方向の両端上に設けられた、第1端板および第2端板と、少なくとも1つの水素ポンプユニットおよび第1端板および第2端板を上記積層された方向に締結する締結器と、アノード触媒層とカソード触媒層との間に電圧を印加する電圧印加器とを備え、電圧印加器が上記電圧を印加することで、アノード触媒層上に供給された水素含有ガス中の水素を、カソード触媒層上に移動させ、かつ昇圧する電気化学式水素ポンプであって、カソードガス拡散層は、カソード触媒層側の主面に撥水性のカーボン繊維層を備え、締結器の締結により圧縮されている。
【0017】
かかる構成によると、本態様の電気化学式水素ポンプは、従来よりも水素昇圧動作時の効率を向上し得る。
【0018】
具体的には、本態様の電気化学式水素ポンプは、カソードガス拡散層がカソード触媒層側のカソードガス拡散層の主面に撥水性のカーボン繊維層を備えることで、カーボン繊維層の外側に存在するカソードの水が、カーボン繊維層の撥水作用により、カソードおよびアノード間の差圧によってアノードに押し戻されることが抑制される。その結果、カーボン繊維層の外側に存在する水は、水素とともにカソードから外部に排出されやすくなる。なお、カーボン繊維層の外側とは、カーボン繊維層を基準にして、カソード触媒層側をカーボン繊維層の内側としたときの反対側に相当する。
【0019】
以上により、本態様の電気化学式水素ポンプは、カソードガス拡散層が撥水性のカーボン繊維層を備えない場合に比べて、アノードのフラディング発生が抑制され、アノードで水素含有ガスの拡散性が阻害される可能性を低減することができる。よって、本態様の電気化学式水素ポンプは、電気化学式水素ポンプの拡散抵抗の増加を軽減することで、水素昇圧動作時の効率に向上することができる。
【0020】
また、本態様の電気化学式水素ポンプでは、電気化学式水素ポンプの動作時にアノードおよびカソード間の差圧によって電解質膜、アノード触媒層およびアノードガス拡散層のそれぞれが圧縮変形しても、カソードガス拡散層が、締結器による圧縮後の厚みから圧縮前の元の厚みに戻る方向に弾性変形することにより、カソード触媒層とカソードガス拡散層との間の接触を適切に維持することができる。
【0021】
本開示の第2態様の電気化学式水素ポンプは、第1態様の電気化学式水素ポンプにおいて、締結器の締結によるカソードガス拡散層の上記積層された方向の圧縮量は、電気化学式水素ポンプが上限値まで昇圧しているときの電解質膜、アノード触媒層およびアノードガス拡散層のそれぞれの上記積層された方向のひずみ量の合算値以上であってもよい。
【0022】
かかる構成によると、本態様の電気化学式水素ポンプは、電気化学式水素ポンプが上限値まで昇圧しているときの電解質膜、アノード触媒層およびアノードガス拡散層のそれぞれの上記積層された方向のひずみ量の合算値を考慮して、締結器の締結によるカソードガス拡散層の上記積層された方向の圧縮量を適切に決定している。よって、本態様の電気化学式水素ポンプは、電気化学式水素ポンプが上限値まで昇圧している場合でも、カソード触媒層とカソードガス拡散層との間の接触を適切に維持することができる。
【0023】
本開示の第3態様の電気化学式水素ポンプは、第1態様または第2態様の電気化学式水素ポンプにおいて、締結器の締結によるカソードガス拡散層の上記積層された方向の圧縮量は、締結器による締結前のカソードガス拡散層の厚みの20%から30%の大きさであってもよい。
【0024】
締結器の締結によるカソードガス拡散層の上記積層された方向の圧縮量が締結器による締結前のカソードガス拡散層の厚みの20%から30%の大きさであることが、カソードガス拡散層の抵抗を安定的に低い値に保つ視点において望ましい。なお、このことは、カソードガス拡散層をその厚み方向に圧縮させる試験によって確認した。詳細は第2実施例で説明する。
【0025】
本開示の第4態様の電気化学式水素ポンプは、第1態様または第2態様の電気化学式水素ポンプにおいて、締結器の締結によるカソードガス拡散層の上記積層された方向の圧縮量は、締結器による締結前のカソードガス拡散層の厚みの10%以上の大きさであってもよい。
【0026】
締結器の締結によるカソードガス拡散層の上記積層された方向の圧縮量が締結器による締結前のカソードガス拡散層の厚みの10%以上の大きさであることが、カソードガス拡散層の抵抗の増加を適切に抑制する視点において望ましい。なお、このことは、カソードガス拡散層をその厚み方向に圧縮させる試験によって確認した。詳細は第2実施例で説明する。
【0027】
本開示の第5態様の電気化学式水素ポンプは、第1態様から第4態様のいずれか一つの電気化学式水素ポンプにおいて、撥水性のカーボン繊維層のカソード触媒層側の主面上に、撥水性樹脂とカーボンブラックとを含む撥水層を備えてもよい。
【0028】
かかる構成によると、本態様の電気化学式水素ポンプは、撥水性樹脂とカーボンブラックとを含む撥水層を備えることで、撥水性のカーボン繊維層とともに撥水層によってカソードガス拡散層の撥水性を効果的に発現させることができる。
【0029】
また、本態様の電気化学式水素ポンプは、カーボン繊維層とカソード触媒層との間に上記の撥水層を設けることで、かかる撥水層が、カソード触媒層および電解質膜にカーボン繊維が突き刺さることを適切に抑制可能な防護膜の機能を果たすこともできる。
【0030】
本開示の第6態様の電気化学式水素ポンプは、第1態様から第5態様のいずれか一つの電気化学式水素ポンプにおいて、撥水性のカーボン繊維層は、カソード触媒層側の主面側に、撥水性樹脂とカーボンブラックとを含む撥水層との混合層を備えてもよい。
【0031】
かかる構成によると、本態様の電気化学式水素ポンプは、混合層において、カーボン繊維に撥水性を持たせるだけでなく、カーボン繊維間の空隙に、撥水性樹脂およびカーボンブラックが入り込むことで、カソードガス拡散層の撥水性を効果的に発現させることができる。
【0032】
本開示の第7態様の電気化学式水素ポンプは、第1態様から第6態様のいずれか一つの電気化学式水素ポンプにおいて、アノードガス拡散層は、複数の通気孔を備える金属シートを含み、上記のカーボン繊維層は含まなくてもよい。
【0033】
金属シートは、一般的に、カーボン繊維層に比べて剛性が高い。そこで、本態様の電気化学式水素ポンプは、アノードガス拡散層がカーボン繊維層を含まないように構成することにより、アノードガス拡散層を、電気化学式水素ポンプの動作時にアノードおよびカソード間の差圧によって構成部材が変位、変形することを抑制可能な高剛性に構成することができる。
【0034】
本開示の第8態様の電気化学式水素ポンプは、第7態様の電気化学式水素ポンプにおいて、アノードガス拡散層は、アノード触媒層側の主面に撥水性の層を備えてもよい。
【0035】
かかる撥水性の層では、アノードに存在する水は、アノードの水素含有ガスの流れによって、水素含有ガスとともにアノード外に移動しやすい。このため、本態様の電気化学式水素ポンプは、アノードガス拡散層がアノード触媒層側の主面に撥水性の層を備えることで、アノードガス拡散層に過剰な水が滞留する状態を改善できるので、アノードのフラッディング発生を適切に抑制することができる。
【0036】
本開示の第9態様の電気化学式水素ポンプは、第1態様から第7態様のいずれか一つの電気化学式水素ポンプにおいて、少なくとも1つの水素ポンプユニットが、複数の水素ポンプユニットであってもよい。
【0037】
以下、添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について説明する。なお、以下で説明する実施形態は、いずれも上記の各態様の一例を示すものである。よって、以下で示される形状、材料、構成要素、および、構成要素の配置位置および接続形態などは、あくまで一例であり、請求項に記載されていない限り、上記の各態様を限定するものではない。また、以下の構成要素のうち、上記の各態様の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、図面において、同じ符号が付いたものは、説明を省略する場合がある。図面は理解しやすくするために、それぞれの構成要素を模式的に示したもので、形状および寸法比などについては正確な表示ではない場合がある。
【0038】
(実施形態)
[電気化学式水素ポンプの構成]
図1Aおよび
図2Aは、実施形態の電気化学式水素ポンプの一例を示す図である。
図1Bは、
図1Aの電気化学式水素ポンプのB部の拡大図である。
図2Bは、
図2Aの電気化学式水素ポンプのB部の拡大図である。
【0039】
なお、
図1Aには、平面視において電気化学式水素ポンプ100の中心と、カソードガス導出マニホールド50の中心と、を通過する直線を含む電気化学式水素ポンプ100の垂直断面が示されている。また、
図2Aには、平面視において電気化学式水素ポンプ100の中心と、アノードガス導入マニホールド27の中心と、アノードガス導出マニホールド30の中心と、を通過する直線を含む電気化学式水素ポンプ100の垂直断面が示されている。
【0040】
図1Aおよび
図2Aに示す例では、電気化学式水素ポンプ100は、少なくとも一つの水素ポンプユニット100Aを備える。
【0041】
なお、電気化学式水素ポンプ100には、複数の水素ポンプユニット100Aが積層されている。例えば、
図1Aおよび
図2Aでは、3段の水素ポンプユニット100Aが積層されているが、水素ポンプユニット100Aの個数はこれに限定されない。つまり、水素ポンプユニット100Aの個数は、電気化学式水素ポンプ100が昇圧する水素量などの運転条件をもとに適宜の数に設定することができる。
【0042】
水素ポンプユニット100Aは、電解質膜11と、アノードANと、カソードCAと、カソードセパレーター16と、アノードセパレーター17と、絶縁体21と、を備える。そして、水素ポンプユニット100Aにおいて、電解質膜11、アノード触媒層13、カソード触媒層12、アノードガス拡散層15、カソードガス拡散層14、アノードセパレーター17およびカソードセパレーター16が積層されている。
【0043】
アノードANは、電解質膜11の一方の主面に設けられている。アノードANは、アノード触媒層13と、アノードガス拡散層15とを含む電極である。なお、平面視において、アノード触媒層13の周囲を囲むように環状のシール部材43が設けられ、アノード触媒層13が、シール部材43で適切にシールされている。
【0044】
カソードCAは、電解質膜11の他方の主面に設けられている。カソードCAは、カソード触媒層12と、カソードガス拡散層14とを含む電極である。なお、平面視において、カソード触媒層12の周囲を囲むように環状のシール部材42が設けられ、カソード触媒層12が、シール部材42で適切にシールされている。
【0045】
以上により、電解質膜11は、アノード触媒層13およびカソード触媒層12のそれぞれと接触するようにして、アノードANとカソードCAとによって挟持されている。なお、カソードCA、電解質膜11およびアノードANの積層体を膜-電極接合体(以下、MEA:Membrane Electrode Assembly)という。
【0046】
電解質膜11は、プロトン伝導性を備える。電解質膜11は、プロトン伝導性を備えていれば、どのような構成であってもよい。例えば、電解質膜11として、フッ素系高分子電解質膜、炭化水素系高分子電解質膜を挙げることができるが、これらに限定されない。具体的には、例えば、電解質膜11として、Nafion(登録商標、デュポン社製)、Aciplex(登録商標、旭化成株式会社製)などを用いることができる。
【0047】
アノード触媒層13は、電解質膜11の一方の主面に設けられている。アノード触媒層13は、触媒金属として、例えば、白金を含むが、これに限定されない。
【0048】
カソード触媒層12は、電解質膜11の他方の主面に設けられている。カソード触媒層12は、触媒金属として、例えば、白金を含むが、これに限定されない。
【0049】
カソード触媒層12およびアノード触媒層13の触媒担体としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛などの炭素粉体、導電性の酸化物粉体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
なお、カソード触媒層12およびアノード触媒層13では、触媒金属の微粒子が、触媒担体に高分散に担持されている。また、これらのカソード触媒層12およびアノード触媒層13中には、電極反応場を大きくするために、水素イオン伝導性のイオノマー成分を加えることが一般的である。
【0051】
カソードガス拡散層14は、カソード触媒層12上に設けられている。また、カソードガス拡散層14は、多孔性材料で構成され、導電性およびガス拡散性を備える。さらに、カソードガス拡散層14は、電気化学式水素ポンプ100の動作時にカソードCAおよびアノードAN間の差圧で発生する構成部材の変位、変形に適切に追従するような弾性を備える方が望ましい。なお、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100では、カソードガス拡散層14として、カーボン繊維で構成した部材が用いられている。例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルトなどの多孔性のカーボン繊維シートでもよい。なお、カソードガス拡散層14の基材として、カーボン繊維シートを用いなくもよい。例えば、カソードガス拡散層14の基材として、チタン、チタン合金、ステンレススチールなどを素材とする金属繊維の焼結体、これらを素材とする金属粉体の焼結体などを用いてもよい。
【0052】
但し、カソードガス拡散層14の基材が、カーボン繊維シートでない場合、カソード触媒層12側の主面に撥水性のカーボン繊維層が設けられる。
【0053】
また、
図1Bおよび
図2Bに示すように、カソードガス拡散層14は、カソード触媒層12側の主面に撥水性のカーボン繊維層14Rを備える。例えば、カーボン繊維で構成されたカソードガス拡散層14にフッ素系樹脂などの撥水性樹脂を含む材料を塗布することで、カーボン繊維層14Rのカーボン繊維に撥水性を発現させてもよい。また、カーボン繊維で構成されたカソードガス拡散層14に、このような撥水性樹脂を含む材料を含浸させることで、カーボン繊維に撥水性を発現させてもよい。なお、撥水性樹脂を含む材料として、例えば、PTFEの微粉末を溶媒に分散させた溶液などを挙げることができる。また、かかる材料の塗布方法として、例えば、スプレー塗布法などを挙げることができる。但し、このような撥水性のカーボン繊維層14Rの形成方法および構成は例示であって、本例に限定されない。
【0054】
例えば、カソードガス拡散層14の全てが、撥水性のカーボン繊維層14Rであってもよい。このようなカソードガス拡散層14は、カソードガス拡散層14が、カーボン繊維層で構成され、このカーボン繊維層に撥水性樹脂を含む溶液を含浸させることで作製される。
【0055】
つまり、本開示では、カソードガス拡散層14は、少なくともカソード触媒層12側の主面が、撥水性のカーボン繊維層14Rであればよい。
【0056】
なお、水素ポンプユニット100AのカソードCAは、フッ素系樹脂などの撥水性樹脂とカーボンブラックとを含む撥水層を備えてもよいが、このような撥水層の具体例は第2実施例および第3実施例で説明する。
【0057】
アノードガス拡散層15は、アノード触媒層13上に設けられている。また、アノードガス拡散層15は、多孔性材料で構成され、導電性およびガス拡散性を備える。さらに、アノードガス拡散層15は、電気化学式水素ポンプ100の動作時にカソードCAおよびアノードAN間の差圧で発生する構成部材の変位、変形を抑制可能な高剛性であることが望ましい。
【0058】
なお、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100では、アノードガス拡散層15として、チタン粉体焼結体の薄板で構成した部材が用いられているが、これに限定されない。つまり、アノードガス拡散層15の基材として、上記の如く、例えば、チタン、チタン合金、ステンレススチールなどを素材とする金属繊維の焼結体、これらを素材とする金属粉体の焼結体を用いることができる。また、アノードガス拡散層15の基材として、例えば、エキスパンドメタル、金属メッシュ、パンチングメタルなどを用いることもできる。
【0059】
アノードセパレーター17は、アノードANのアノードガス拡散層15上に設けられた部材である。カソードセパレーター16は、カソードCAのカソードガス拡散層14上に設けられた部材である。
【0060】
そして、カソードセパレーター16およびアノードセパレーター17のそれぞれの中央部には、凹部が設けられている。これらの凹部のそれぞれに、カソードガス拡散層14およびアノードガス拡散層15がそれぞれ収容されている。
【0061】
このようにして、カソードセパレーター16およびアノードセパレーター17で上記のMEAを挟むことにより、水素ポンプユニット100Aが形成されている。
【0062】
カソードガス拡散層14と接触するカソードセパレーター16の主面には、平面視において、例えば、複数のU字状の折り返す部分と複数の直線部分とを含むサーペンタイン状のカソードガス流路32が設けられている。そして、カソードガス流路32の直線部分は、
図1Aの紙面に垂直な方向に延伸している。但し、このようなカソードガス流路32は、例示であって、本例に限定されない。例えば、カソードガス流路は、複数の直線状の流路により構成されていてもよい。
【0063】
アノードガス拡散層15と接触するアノードセパレーター17の主面には、平面視において、例えば、複数のU字状の折り返す部分と複数の直線部分とを含むサーペンタイン状のアノードガス流路33が設けられている。そして、アノードガス流路33の直線部分は、
図2Aの紙面に垂直な方向に延伸している。但し、このようなアノードガス流路33は、例示であって、本例に限定されない。例えば、アノードガス流路は、複数の直線状の流路により構成されていてもよい。
【0064】
また、導電性のカソードセパレーター16およびアノードセパレーター17の間には、MEAの周囲を囲むように設けられた環状かつ平板状の絶縁体21が挟み込まれている。これにより、カソードセパレーター16およびアノードセパレーター17の短絡が防止されている。
【0065】
ここで、電気化学式水素ポンプ100は、水素ポンプユニット100Aにおける、積層方向の両端上に設けられた第1端板および第2端板と、水素ポンプユニット100A、第1端板および第2端板を積層方向に締結する締結器25と、を備える。
【0066】
なお、
図1Aおよび
図2Aに示す例では、カソード端板24Cおよびアノード端板24Aがそれぞれ、上記の第1端板および第2端板のそれぞれに対応する。つまり、アノード端板24Aは、水素ポンプユニット100Aの各部材が積層された積層方向において、一方の端に位置するアノードセパレーター17上に設けられた端板である。また、カソード端板24Cは、水素ポンプユニット100Aの各部材が積層された積層方向において、他方の端に位置するカソードセパレーター16上に設けられた端板である。
【0067】
締結器25は、水素ポンプユニット100A、カソード端板24Cおよびアノード端板24Aを積層方向に締結することができれば、どのような構成であってもよい。
【0068】
例えば、締結器25として、ボルトおよび皿ばね付きナットなどを挙げることができる。
【0069】
このとき、締結器25のボルトは、アノード端板24Aおよびカソード端板24Cのみを貫通するように構成してもよいが、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100では、かかるボルトは、3段の水素ポンプユニット100Aの各部材、カソード給電板22C、カソード絶縁板23C、アノード給電板22A、アノード絶縁板23A、アノード端板24Aおよびカソード端板24Cを貫通している。そして、上記の積層方向において他方の端に位置するカソードセパレーター16の端面、および、上記の積層方向において一方の端に位置するアノードセパレーター17の端面をそれぞれ、カソード給電板22Cとカソード絶縁板23Cおよびアノード給電板22Aとアノード絶縁板23Aのそれぞれを介して、カソード端板24Cおよびアノード端板24Aのそれぞれで挟むようにして、締結器25により水素ポンプユニット100Aに所望の締結圧が付与されている。
【0070】
以上により、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100では、3段の水素ポンプユニット100Aが、上記の積層方向において、締結器25の締結圧により積層状態で適切に保持されるとともに、電気化学式水素ポンプ100の各部材を締結器25のボルトが貫通しているので、これらの各部材の面内方向における移動を適切に抑えることができる。
【0071】
ここで、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100では、水素ポンプユニット100Aのそれぞれのカソードガス拡散層14から流出するカソードガスが流れるカソードガス流路32が連通されている。以下、図面を参照しながら、カソードガス流路32のそれぞれが連通する構成について説明する。
【0072】
まず、
図1Aに示すように、カソードガス導出マニホールド50は、3段の水素ポンプユニット100Aの各部材およびカソード端板24Cに設けられた貫通孔、および、アノード端板24Aに設けられた非貫通孔の連なりによって構成されている。また、カソード端板24Cには、カソードガス導出経路26が設けられている。カソードガス導出経路26は、カソードCAから排出される水素(H
2)が流通する配管で構成されていてもよい。そして、カソードガス導出経路26は、上記のカソードガス導出マニホールド50と連通している。
【0073】
さらに、カソードガス導出マニホールド50は、水素ポンプユニット100Aのそれぞれのカソードガス流路32の一方の端部と、カソードガス通過経路34のそれぞれを介して連通している。これにより、水素ポンプユニット100Aのそれぞれのカソードガス流路32およびカソードガス通過経路34を通過した水素が、カソードガス導出マニホールド50で合流される。そして、合流された水素がカソードガス導出経路26に導かれる。
【0074】
このようにして、水素ポンプユニット100Aのそれぞれのカソードガス流路32は、水素ポンプユニット100Aのそれぞれのカソードガス通過経路34およびカソードガス導出マニホールド50を介して連通している。
【0075】
カソードセパレーター16およびアノードセパレーター17の間、カソードセパレーター16およびカソード給電板22Cの間、アノードセパレーター17およびアノード給電板22Aの間には、平面視において、カソードガス導出マニホールド50を囲むように、Oリングなどの環状のシール部材40が設けられ、カソードガス導出マニホールド50が、このシール部材40で適切にシールされている。
【0076】
図2Aに示す如く、アノード端板24Aには、アノードガス導入経路29が設けられている。アノードガス導入経路29は、アノードANに供給される水素含有ガスが流通する配管で構成されていてもよい。そして、アノードガス導入経路29は、筒状のアノードガス導入マニホールド27に連通している。なお、アノードガス導入マニホールド27は、3段の水素ポンプユニット100Aの各部材およびアノード端板24Aに設けられた貫通孔の連なりによって構成されている。
【0077】
また、アノードガス導入マニホールド27は、水素ポンプユニット100Aのそれぞれのアノードガス流路33の一方の端部と、第1アノードガス通過経路35のそれぞれを介して連通している。これにより、アノードガス導入経路29からアノードガス導入マニホールド27に供給された水素含有ガスは、水素ポンプユニット100Aのそれぞれの第1アノードガス通過経路35を通じて、水素ポンプユニット100Aのそれぞれに分配される。そして、分配された水素含有ガスがアノードガス流路33を通過する間に、アノードガス拡散層15からアノード触媒層13に水素含有ガスが供給される。
【0078】
また、
図2Aに示す如く、アノード端板24Aには、アノードガス導出経路31が設けられている。アノードガス導出経路31は、アノードANから排出される水素含有ガスが流通する配管で構成されていてもよい。そして、アノードガス導出経路31は、筒状のアノードガス導出マニホールド30に連通している。なお、アノードガス導出マニホールド30は、3段の水素ポンプユニット100Aの各部材およびアノード端板24Aに設けられた貫通孔の連なりによって構成されている。
【0079】
また、アノードガス導出マニホールド30が、水素ポンプユニット100Aのそれぞれのアノードガス流路33の他方の端部と、第2アノードガス通過経路36のそれぞれを介して連通している。これにより、水素ポンプユニット100Aのそれぞれのアノードガス流路33を通過した水素含有ガスが、第2アノードガス通過経路36のそれぞれを通じてアノードガス導出マニホールド30に供給され、ここで合流される。そして、合流された水素含有ガスが、アノードガス導出経路31に導かれる。
【0080】
カソードセパレーター16およびアノードセパレーター17の間、カソードセパレーター16およびカソード給電板22Cの間、アノードセパレーター17およびアノード給電板22Aの間には、平面視において、アノードガス導入マニホールド27およびアノードガス導出マニホールド30を囲むようにOリングなどの環状のシール部材40が設けられ、アノードガス導入マニホールド27およびアノードガス導出マニホールド30が、シール部材40で適切にシールされている。
【0081】
図1Aおよび
図2Aに示すように、電気化学式水素ポンプ100は、電圧印加器102を備える。
【0082】
電圧印加器102は、アノード触媒層13とカソード触媒層12との間に電圧を印加する装置である。これにより、電気化学式水素ポンプ100は、電圧印加器102がこの電圧を印加することで、アノード触媒層13上に供給された水素含有ガス中の水素を、カソード触媒層12上に移動させ、かつ昇圧する。
【0083】
具体的には、電圧印加器102の高電位が、アノード触媒層13に印加され、電圧印加器102の低電位が、カソード触媒層12に印加されている。電圧印加器102は、アノード触媒層13およびカソード触媒層12間に電圧を印加できれば、どのような構成であってもよい。例えば、電圧印加器102は、アノード触媒層13およびカソード触媒層12間に印加する電圧を調整する装置であってもよい。このとき、電圧印加器102は、バッテリ、太陽電池、燃料電池などの直流電源と接続されているときは、DC/DCコンバータを備え、商用電源などの交流電源と接続されているときは、AC/DCコンバータを備える。
【0084】
また、電圧印加器102は、例えば、水素ポンプユニット100Aに供給する電力が所定の設定値となるように、アノード触媒層13およびカソード触媒層12間に印加される電圧、アノード触媒層13およびカソード触媒層12間に流れる電流が調整される電力型電源であってもよい。
【0085】
なお、
図1Aおよび
図2Aに示す例では、電圧印加器102の低電位側の端子が、カソード給電板22Cに接続され、電圧印加器102の高電位側の端子が、アノード給電板22Aに接続されている。カソード給電板22Cは、上記の積層方向において他方の端に位置するカソードセパレーター16と電気的に接触しており、アノード給電板22Aは、上記の積層方向において一方の端に位置するアノードセパレーター17と電気的に接触している。
【0086】
[水素供給システムの構成]
図3は、実施形態の電気化学式水素ポンプを備える水素供給システムの一例を示す図である。
【0087】
図3に示すように、本実施形態の水素供給システム200には、アノードガス導出経路31を通じてアノードANから排出される高加湿状態の水素含有ガスと、アノードガス導入経路29を通じて外部の水素供給源から供給される低加湿状態の水素含有ガスとが混合された混合ガスの露点を調整する露点調整器115が設けられている。つまり、水素供給システム200では、露点調整器115により露点調整が行われた混合ガスが、アノードガス導入経路29を通じて電気化学式水素ポンプ100のアノードANに供給される構成が取られている。なお、このとき、外部の水素供給源の水素含有ガスは、例えば、図示しない水電解装置で生成されてもよい。
【0088】
以上により、本実施形態の水素供給システム200は、電気化学式水素ポンプ100の水素昇圧動作を従来よりも高効率に維持することができる。具体的には、仮に、上記の混合ガスの加湿量が不十分な場合、電解質膜11のプロトン伝導性が低下する可能性があるが、本実施形態の水素供給システム200では、かかる混合ガスの露点を適切に調整できるので、このような可能性を低減することができる。また、仮に、上記の混合ガスの加湿量が過剰な場合、混合ガス中の水蒸気が凝縮することで、凝縮水により電気化学式水素ポンプ100のアノードANでフラディングが発生する可能性があるが、本実施形態の水素供給システム200では、かかる混合ガスの露点を適切に調整できるので、このような可能性を低減することができる。
【0089】
露点調整器115は、混合ガスの露点を調整することができれば、どのような構成であってもよいが、露点調整器115は、例えば、バブラー式の装置を備えていてもよい。かかるバブラー式の装置は、例えば、温水を貯えるバブリングタンク、温水の加熱器、温水温度の検知器などで構成される場合がある。この場合、バブリングタンク内の温水の温度を調整することにより、混合ガスの加湿量を制御することができる。つまり、温水を潜らせた後の混合ガスの露点は、温水の温度とほぼ等しくなる。よって、露点調整器115は、温水を潜らせる前の混合ガスの湿潤状態に対応して、混合ガスを加湿することも除湿することもできるので、混合ガスを加湿する加湿器としても混合ガスを除湿する除湿器としても機能することができる。
【0090】
ところで、電気化学式水素ポンプ100のアノードANから排出される水素含有ガスの露点が高い場合、水素含有ガス中の水蒸気が、水素含有ガスの温度低下によりアノードガス導出経路31で凝縮する可能性がある。すると、アノードガス導出経路31における水素含有ガスの流通が不安定になる可能性がある。また、アノードガス導出経路31を通じて水素含有ガス中の水が露点調整器115に流入すると、露点調整器115による混合ガスの露点調整が不安定になる可能性がある。
【0091】
そこで、本実施形態の水素供給システム200には、外部の水素供給源から供給される水素含有ガスと混合される前のアノードANから排出される水素含有ガスに含まれる水分を凝縮する凝縮器113が設けられている。つまり、凝縮器113は、アノードANの水素ガス排出口と露点調整器115との間のアノードガス導出経路31に設けられている。なお、凝縮器113で水素含有ガスから凝縮した凝縮水を排出するための水排出経路(図示せず)は、凝縮器113と一体に設けてもよいし、凝縮器113とは別個にアノードガス導出経路31に設けてもよい。
【0092】
また、上記の機器以外に、電気化学式水素ポンプ100の水素昇圧動作、水素供給システム200の水素供給動作において必要となる機器は適宜、設けられる。
【0093】
例えば、水素供給システム200には、電気化学式水素ポンプ100の温度を検知する温度検知器、電気化学式水素ポンプ100のカソードCAから排出された水素を一時的に貯蔵する水素貯蔵器、水素貯蔵器内の水素ガス圧を検知する圧力検知器、アノードガス導出経路31を適時に開閉できる電磁弁、電気化学式水素ポンプ100と水素貯蔵器の間の水素が流れる経路を適時に開閉できる電磁弁などが設けられていてもよい。
【0094】
また、水素供給システム200には、例えば、水素供給システム200の動作を制御する制御器が設けられていてもよい。かかる制御器は、例えば、演算回路(図示せず)と、制御プログラムを記憶する記憶回路(図示せず)と、を備える。演算回路として、例えば、MPU、CPUなどを挙げることができる。記憶回路として、例えば、メモリなどを挙げることができる。制御器は、集中制御を行う単独の制御器で構成されていてもよいし、互いに協働して分散制御を行う複数の制御器で構成されていてもよい。
【0095】
また、水素供給システム200には、例えば、タッチパネル式の表示器が設けられていてもよい。これにより、水素供給システム200の動作状態の表示、作業者による水素供給システム200への制御指令の入力などを行うことができる。
【0096】
なお、以上の電気化学式水素ポンプ100の構成、および、水素供給システム200の構成は例示であって、本例に限定されない。
【0097】
例えば、アノードガス導出マニホールド30およびアノードガス導出経路31を設けずに、アノードガス導入マニホールド27を通じてアノードANに供給する水素含有ガスを全てカソードCAで昇圧するデッドエンド構造が採用されてもよい。
【0098】
また、例えば、アノードガス流路33には、上記のとおり、水素含有ガスが流れ、カソードガス流路32には、上記のとおり、水素(H2)が流れるが、これらのガス中の水素濃度は、100%でなくてもよい。所望濃度の水素が含まれる水素含有ガスが流れればよい。
【0099】
[動作]
以下、電気化学式水素ポンプ100の水素昇圧動作の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0100】
以下の動作は、例えば、図示しない制御器の演算回路が、制御器の記憶回路から制御プログラムを読み出すことにより行われてもよい。ただし、以下の動作を制御器で行うことは、必ずしも必須ではない。操作者が、その一部の動作を行ってもよい。
【0101】
まず、電気化学式水素ポンプ100のアノードANに低圧の水素含有ガスが供給されるとともに、電圧印加器102の電圧が電気化学式水素ポンプ100に給電される。
【0102】
すると、アノードANのアノード触媒層13において、酸化反応で水素含有ガス中の水素分子が水素イオン(プロトン)と電子とに分離する(式(1))。プロトンは電解質膜11内を伝導してカソード触媒層12に移動する。電子は電圧印加器102を通じてカソード触媒層12に移動する。
【0103】
そして、カソード触媒層12において、還元反応で水素分子が再び生成される(式(2))。なお、プロトンが電解質膜11中を伝導する際に、所定水量の水が、電気浸透水としてアノードANからカソードCAにプロトンと同伴して移動することが知られている。
【0104】
このとき、図示しない流量調整器を用いて、水素導出経路の圧損を増加させることにより、カソードCAで生成された水素(H
2)を昇圧することができる。なお、水素導出経路として、例えば、
図1Aおよび
図3のカソードガス導出経路26を挙げることができる。
また、流量調整器として、例えば、水素導出経路に設けられた背圧弁、調整弁などを挙げることができる。
【0105】
アノード:H2(低圧)→2H++2e- ・・・(1)
カソード:2H++2e-→H2(高圧) ・・・(2)
このようにして、電気化学式水素ポンプ100では、電圧印加器102で電圧を印加することで、アノードANに供給される水素含有ガス中の水素がカソードCAにおいて昇圧される。これにより、電気化学式水素ポンプ100の水素昇圧動作が行われ、カソードCAで昇圧された水素は、例えば、図示しない水素貯蔵器に一時的に貯蔵される。また、水素貯蔵器で貯蔵された水素は、適時に、水素需要体に供給される。なお、水素需要体として、例えば、水素を用いて発電する燃料電池などを挙げることができる。
【0106】
本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、カソードガス拡散層14がカソード触媒層12側のカソードガス拡散層14の主面に撥水性のカーボン繊維層14Rを備えることで、従来よりも水素昇圧動作時の効率を向上し得る。以下、理由を詳細に説明する。
【0107】
電気化学式水素ポンプ100のアノードANとカソードCAとの間に電流が流れるとき、プロトンがアノードANからカソードCAに水を同伴しながら電解質膜11を移動する。このとき、アノードANからカソードCAに移動した水は、電気化学式水素ポンプ100の動作温度が所定温度以上の場合、水蒸気として存在するが、カソードCAの水素ガス圧が高圧になる程、液体の水として存在する割合が増加する。そして、カソードCAに液体の水が存在する場合、かかる水の一部は、カソードCAおよびアノードAN間の差圧によってアノードANに押し戻される。このとき、アノードANに押し戻される水の量は、カソードCAの水素ガス圧が高圧になる程、増加する。すると、カソードCAの水素ガス圧が上昇するに連れて、アノードANに押し戻された水によってアノードANのフラディングが発生しやすくなる。このようなフラディングが発生することにより、アノードANで水素含有ガスの拡散性が阻害される場合、電気化学式水素ポンプ100の拡散抵抗の増加が増加する可能性があるので、電気化学式水素ポンプ100の水素昇圧動作の効率が低下する恐れがある。
【0108】
ここで、電気化学式水素ポンプ100の水素昇圧動作では、カソードCAの水素ガス圧が高圧になることで、電解質膜11、アノード触媒層13およびアノードガス拡散層15が押圧される。すると、この押圧によって、電解質膜11、アノード触媒層13およびアノードガス拡散層15はそれぞれ圧縮される。よって、カソードCAの水素ガス圧が高圧になる程、電解質膜11、アノード触媒層13およびアノードガス拡散層15における水素ガス圧による圧縮量(ひずみ量)が大きくなる。このとき、仮に、カソード触媒層12とカソードガス拡散層14との間の密着性が低いと、両者間で隙間が生じやすい。そして、カソード触媒層12とカソードガス拡散層14との間で隙間が生じる場合、両者間の接触抵抗が増加する。すると、電圧印加器102で印加する電圧が増加することにより、電気化学式水素ポンプ100の水素昇圧動作の効率を低下させる恐れがある。
【0109】
そこで、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100では、締結器25による水素ポンプユニット100Aの締結前には、カソードセパレーター16の凹部に収納したカソードガス拡散層14を凹部からその厚み方向に所定の大きさではみ出して配設している。
【0110】
具体的には、
図4に示すように、カソードガス拡散層14は、締結器25による水素ポンプユニット100Aの締結前は、カソードセパレーター16の凹部からその厚み方向に、所望のはみ出し量E分、はみ出すように構成されている。また、カソードガス拡散層14は、水素ポンプユニット100Aの締結の際には、締結器25の締結力によって、水素ポンプユニット100Aの各部材が積層された積層方向に、上記のはみ出し量E分だけ圧縮される。つまり、締結器25の締結によってカソードガス拡散層14をその厚み方向に圧縮させ得るので、カソードCAの水素ガス圧が高圧になっても、カソードガス拡散層14が、締結器25による圧縮後の厚み(T-E)から圧縮前の厚みTに戻る方向に弾性変形することにより、カソード触媒層12とカソードガス拡散層14との間の接触を適切に維持することができる。
【0111】
ところが、締結器25の締結によってカソードガス拡散層14をその厚み方向に圧縮させる構成を取ると、アノードANで上記のフラディングの発生を助長させる可能性がある。具体的には、以上の構成を取ることでカソードガス拡散層14の空隙が少なくなるので、カソードガス拡散層14内の水素の流れが妨げられる。すると、水素の流れとともにカソードCA外に排水される水の減少によって、カソードガス拡散層14に一時的に滞留する水の量が増える。その結果、カソードCAおよびアノードAN間の差圧によってアノードANに押し戻される水の量がさらに増加するので、アノードANでフラディングの発生が助長される。
【0112】
しかし、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、上記のとおり、カソードガス拡散層14がカソード触媒層12側のカソードガス拡散層14の主面に撥水性のカーボン繊維層14Rを備えることで、カーボン繊維層14Rの外側に存在するカソードCAの水が、カーボン繊維層14Rの撥水作用により、カソードCAおよびアノードAN間の差圧によってアノードANに押し戻されることが抑制される。その結果、カーボン繊維層14Rの外側に存在する水は、水素とともにカソードCAから外部に排出されやすくなる。なお、カーボン繊維層14Rの外側とは、カーボン繊維層14Rを基準にして、カソード触媒層12側をカーボン繊維層14Rの内側としたときの反対側に相当する。換言すれば、カーボン繊維層14Rを基準にして、カソードセパレーター16側に相当する。
【0113】
以上により、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、カソードガス拡散層14が撥水性のカーボン繊維層14Rを備えない場合に比べて、アノードANのフラディング発生が抑制され、アノードANで水素含有ガスの拡散性が阻害される可能性を低減することができる。よって、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、電気化学式水素ポンプ100の拡散抵抗の増加を軽減することで、水素昇圧動作時の効率に向上することができる。
【0114】
(第1実施例)
本実施例の電気化学式水素ポンプ100は、締結器25の締結によるカソードガス拡散層14の上記の積層方向の圧縮量が、電気化学式水素ポンプ100が上限値まで昇圧しているときの電解質膜11、アノード触媒層13およびアノードガス拡散層15のそれぞれの上記の積層方向のひずみ量の合算値以上であること以外、実施形態の電気化学式水素ポンプ100と同様である。よって、両者に共通する構成の説明は省略する。
【0115】
ここで、電気化学式水素ポンプ100の上限値は、水素供給システム200の構成および運転条件などをもとに適宜の数に設定することができる。電気化学式水素ポンプ100の上限値は、例えば、約20MPaであってもよいし、約40MPaであってもよいし、約80MPaであってもよい。
【0116】
このようにして、本実施例の電気化学式水素ポンプ100は、電気化学式水素ポンプ100が上限値まで昇圧しているときの電解質膜11、アノード触媒層13およびアノードガス拡散層15のそれぞれの上記の積層方向のひずみ量の合算値を考慮して、締結器25の締結によるカソードガス拡散層14の上記の積層方向の圧縮量を適切に決定している。よって、本実施例の電気化学式水素ポンプ100は、電気化学式水素ポンプ100が上限値まで昇圧している場合でも、カソードガス拡散層14が、締結器25による圧縮後の厚み(T-E)から圧縮前の元の厚みTに戻る方向に弾性変形することにより、カソード触媒層12とカソードガス拡散層14との間の接触を適切に維持することができる。
【0117】
本実施例の電気化学式水素ポンプ100は、上記の特徴以外は、実施形態の電気化学式水素ポンプ100と同様であってもよい。
【0118】
(第2実施例)
本実施例の電気化学式水素ポンプ100は、水素ポンプユニット100Aの各部材が積層された積層方向における締結器25の締結によるカソードガス拡散層14の圧縮量を、以下に説明する範囲に設定すること以外、実施形態の電気化学式水素ポンプ100と同様である。よって、両者に共通する構成の説明は省略する。
【0119】
締結器25の締結によるカソードガス拡散層14の積層方向(厚み方向)の圧縮量が、所定の適量よりも小さい場合、カソードCAの水素ガス圧が高圧になると、電解質膜11、アノード触媒層13およびアノードガス拡散層15の積層方向のひずみに対して適切に追従しにくくなる可能性がある。この場合、カソード触媒層12とカソードガス拡散層14との間の接触を適切に維持することが困難になり、その結果、カソード触媒層12とカソードガス拡散層14との間の接触抵抗が増加する。
【0120】
逆に、締結器25の締結によるカソードガス拡散層14の積層方向(厚み方向)の圧縮量が、所定の適量よりも大きい場合、カソードガス拡散層14の積層方向(厚み方向)への圧縮力が高くなる。そして、このとき、かかる圧縮力は、電解質膜11、アノード触媒層13およびアノードガス拡散層15を押しつぶす方向に作用する。すると、例えば、水が通過するパスが減少したアノード触媒層13上に水が滞留することで、アノードANでフラディングが発生しやすくなる。
【0121】
そこで、締結器25の締結によるカソードガス拡散層14の積層方向(厚み方向)の圧縮量の適量範囲を、以下のカソードガス拡散層をその厚み方向に圧縮させる試験によって確認した。
【0122】
図5Aは、カソードガス拡散層が厚み方向に圧縮した場合におけるカソードガス拡散層の面圧(圧力)とひずみ量との間の関係の一例を示す図である。なお、
図5Aの縦軸のひずみ量(%)は、カソードガス拡散層の厚み方向におけるカソードガス拡散層の圧縮量を、カソードガス拡散層が厚み方向に圧縮する前のカソードガス拡散層の厚みで割った値である。
【0123】
図5Bは、カソードガス拡散層が厚み方向に圧縮した場合におけるカソードガス拡散層の面圧(圧力)と抵抗との間の関係の一例を示す図である。
【0124】
図5Aおよび
図5Bで示されたデータは、適宜の圧縮試験機(図示せず)の載台に、カソードガス拡散層を載せ、カソードガス拡散層に対して圧縮力の付与および圧縮力の解放を繰り返すことで得られた実測値を模式的に表したものである。なお、
図5Bで示されたデータは、カソードガス拡散層の抵抗を実測するための電極をカソードガス拡散層に接するように配置することで得られた。
【0125】
カソードガス拡散層のひずみ量が10%に対応するカソードガス拡散層の面圧P1(
図5A参照)よりも低い圧力範囲において、
図5Bに示すように、カソードガス拡散層の抵抗が急増することが分かった。よって、締結器25の締結によるカソードガス拡散層14の上記の積層方向の圧縮量は、締結器25による締結前のカソードガス拡散層14の厚みの10%以上の大きさであることが望ましい。これにより、カソードガス拡散層14とカソード触媒層12との間で抵抗の増加を適切に抑制することができる。
【0126】
また、カソードガス拡散層のひずみ量が20%に対応するカソードガス拡散層の面圧P2(
図5A参照)以上の圧力範囲において、
図5Bに示すように、カソードガス拡散層の抵抗が低い値になることが分かった。よって、締結器25の締結によるカソードガス拡散層14の上記の積層方向の圧縮量は、締結器25による締結前のカソードガス拡散層14の厚みの20%以上の大きさであることが望ましい。これにより、カソードガス拡散層14とカソード触媒層12との間で抵抗を安定的に低い値に保つことができる。
【0127】
なお、
図5Aに示すように、カソードガス拡散層14の変形における限界を考慮して、締結器25の締結によるカソードガス拡散層14の上記の積層方向の圧縮量は、締結器25による締結前のカソードガス拡散層14の厚みの30%以下の大きさであることが望ましい。
【0128】
本実施例の電気化学式水素ポンプ100は、上記の特徴以外は、実施形態または第1実施例の電気化学式水素ポンプ100と同様であってもよい。
【0129】
(第3実施例)
本実施例の電気化学式水素ポンプ100は、撥水性のカーボン繊維層14Rのカソード触媒層12側の主面上に、撥水性樹脂とカーボンブラックとを含む撥水層を備えること以外は、実施形態の電気化学式水素ポンプ100と同様である。よって、両者に共通する構成の説明は省略する。
【0130】
例えば、カーボン繊維で構成されたカソードガス拡散層14に、フッ素系樹脂などの撥水性樹脂およびカーボンブラックを含む材料を塗布することで、撥水性のカーボン繊維層14Rのカソード触媒層12側の主面上に、撥水層が形成される。つまり、この場合、カソードガス拡散層14の撥水性のカーボン繊維層14Rに、上記の撥水層が積層されている。なお、撥水性樹脂およびカーボンブラックを含む材料として、例えば、PTFEの微粉末およびカーボンブラックを溶媒に分散させた溶液などを挙げることができる。また、かかる材料の塗布方法として、例えば、スプレー塗布法などを挙げることができる。
なお、上記塗布時間を長くすることで、上記溶液の一部を撥水性のカーボン繊維層14R内に含浸させ、撥水性のカーボン繊維層14Rと撥水層との混合層を、上記積層された撥水層と併せて設けてもよい。但し、このような撥水層の形成方法および構成は例示であって、本例に限定されない。
【0131】
以上により、本実施例の電気化学式水素ポンプ100は、撥水性樹脂とカーボンブラックとを含む撥水層を備えることで、撥水性のカーボン繊維層14Rとともに撥水層によってカソードガス拡散層14の撥水性を効果的に発現させることができる。
【0132】
また、本実施例の電気化学式水素ポンプ100は、カーボン繊維層14Rとカソード触媒層12との間に上記の撥水層を設けることで、かかる撥水層は、カソード触媒層12および電解質膜11にカーボン繊維が突き刺さることを適切に抑制可能な防護膜の機能を果たすこともできる。
【0133】
本実施例の電気化学式水素ポンプ100は、上記の特徴以外は、実施形態および実施形態の第1実施例-第2実施例のいずれかの電気化学式水素ポンプ100と同様であってもよい。
【0134】
(第4実施例)
本実施例の電気化学式水素ポンプ100は、撥水性のカーボン繊維層14Rが、カソード触媒層12側の主面側に、撥水性樹脂とカーボンブラックとを含む撥水層との混合層を備える以外は、実施形態の電気化学式水素ポンプ100と同様である。よって、両者に共通する構成の説明は省略する。
【0135】
例えば、カーボン繊維で構成されたカソードガス拡散層14に、フッ素系樹脂などの撥水性樹脂およびカーボンブラックを含む材料を含浸させることで、撥水性のカーボン繊維層14Rと、撥水性樹脂とカーボンブラックとを含む撥水層との混合層が形成される。つまり、この場合、撥水性のカーボン繊維層14Rの主面上に撥水層は積層されず、撥水性の混合層のみが設けられている。なお、撥水性樹脂およびカーボンブラックを含む材料として、例えば、PTFEの微粉末およびカーボンブラックを溶媒に分散させた溶液などを挙げることができる。但し、このような撥水性の混合層の形成方法および構成は例示であって、本例に限定されない。
【0136】
以上により、本実施例の電気化学式水素ポンプ100は、混合層において、カーボン繊維に撥水性を持たせるだけでなく、カーボン繊維間の空隙に、撥水性樹脂およびカーボンブラックが入り込むことで、カソードガス拡散層14の撥水性を効果的に発現させることができる。
【0137】
本実施例の電気化学式水素ポンプ100は、上記の特徴以外は、実施形態および実施形態の第1実施例-第3実施例のいずれかの電気化学式水素ポンプ100と同様であってもよい。
【0138】
(第1変形例)
本変形例の電気化学式水素ポンプ100は、アノードガス拡散層15は、複数の通気孔を備える金属シートを含み、カーボン繊維層は含まないこと以外は、実施形態の電気化学式水素ポンプ100と同様である。よって、両者に共通する構成の説明は省略する。
【0139】
複数の通気孔を備える金属シートとして、例えば、金属繊維焼結体または金属粉体焼結体をシート状にした金属部材などを挙げることができる。このような金属シートは、一般的に、カーボン繊維層に比べて剛性が高い。そこで、本変形例の電気化学式水素ポンプ100は、アノードガス拡散層15が、カーボン繊維層を含まないように構成することにより、アノードガス拡散層15を、電気化学式水素ポンプ100の動作時にアノードANおよびカソードCA間の差圧によって構成部材が変位、変形することを抑制可能な高剛性に構成することができる。つまり、かかる構成により、アノードガス拡散層15の弾性率は、カソードガス拡散層14の弾性率よりも高い。
【0140】
本変形例の電気化学式水素ポンプ100は、上記の特徴以外は、実施形態および実施形態の第1実施例-第4実施例のいずれかの電気化学式水素ポンプ100と同様であってもよい。
【0141】
(第2変形例)
本変形例の電気化学式水素ポンプ100は、アノードガス拡散層15が、アノード触媒層13側の主面に撥水性の層を備えること以外は、実施形態の電気化学式水素ポンプ100と同様である。よって、両者に共通する構成の説明は省略する。
【0142】
例えば、アノードガス拡散層15が、金属繊維焼結体または金属粉体焼結体で構成されている場合、フッ素系樹脂などの撥水性樹脂を含む材料を、上記の金属繊維焼結体または金属粉体焼結体に含浸させることで、金属繊維または金属粉体に撥水性を発現させもよい。なお、撥水性樹脂を含む材料として、例えば、PTFEの微粉末を溶媒に分散させた溶液などを挙げることができる。但し、このような撥水性の層の形成方法および構成は例示であって、本例に限定されない。
【0143】
かかる撥水性の層では、アノードANに存在する水は、アノードANの水素含有ガスの流れによって、水素含有ガスとともにアノードAN外のアノードガス導出マニホールド30に移動しやすい。このため、本変形例の電気化学式水素ポンプ100は、アノードガス拡散層15がアノード触媒層13側の主面に撥水性の層を備えることで、アノードガス拡散層15に過剰な水が滞留する状態を改善できるので、アノードANのフラッディング発生を適切に抑制することができる。
【0144】
本変形例の電気化学式水素ポンプ100は、上記の特徴以外は、実施形態、実施形態の第1実施例-第4実施例および実施形態の第1変形例のいずれかの電気化学式水素ポンプ100と同様であってもよい。
【0145】
(第3変形例)
第3実施例および第4実施例の電気化学式水素ポンプ100では、撥水性樹脂とカーボンブラックとを含む撥水層を、撥水性樹脂およびカーボンブラックを含む材料を塗布または含浸させて、作製しているが、これに限定されない。
【0146】
本変形例では、撥水性樹脂とカーボンブラックとを含む撥水層のシートを作製し、このシートがカーボン繊維層上に設けられる。本シートは、例えば、カーボンブラックとPTFEなどのエラストマーを混錬、圧延した多孔性のシート材料などを用いられる。
【0147】
本変形例の電気化学式水素ポンプ100は、上記の特徴以外は、実施形態、実施形態の第1実施例-第4実施例および実施形態の第1変形例-第2変形例のいずれかの電気化学式水素ポンプ100と同様であってもよい。
【0148】
なお、実施形態、実施形態の第1実施例-第4実施例および実施形態の第1変形例-第3変形例は、互いに相手を排除しない限り、互いに組み合わせても構わない。
【0149】
上記説明から、当業者にとっては、本開示の多くの改良および他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本開示を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本開示の精神を逸脱することなく、その構造および/または機能の詳細を実質的に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本開示の一態様は、従来よりも水素昇圧動作時の効率を向上し得る電気化学式水素ポンプに利用することができる。
【符号の説明】
【0151】
11 :電解質膜
12 :カソード触媒層
13 :アノード触媒層
14 :カソードガス拡散層
14R :カーボン繊維層
15 :アノードガス拡散層
16 :カソードセパレーター
17 :アノードセパレーター
21 :絶縁体
22A :アノード給電板
22C :カソード給電板
23A :アノード絶縁板
23C :カソード絶縁板
24A :アノード端板
24C :カソード端板
25 :締結器
26 :カソードガス導出経路
27 :アノードガス導入マニホールド
29 :アノードガス導入経路
30 :アノードガス導出マニホールド
31 :アノードガス導出経路
32 :カソードガス流路
33 :アノードガス流路
34 :カソードガス通過経路
35 :第1アノードガス通過経路
36 :第2アノードガス通過経路
40 :シール部材
42 :シール部材
43 :シール部材
50 :カソードガス導出マニホールド
100 :電気化学式水素ポンプ
100A :水素ポンプユニット
102 :電圧印加器
113 :凝縮器
115 :露点調整器
200 :水素供給システム
AN :アノード
CA :カソード