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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-12
(45)【発行日】2023-01-20
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/136 20100101AFI20230113BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20230113BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230113BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20230113BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20230113BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230113BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230113BHJP
【FI】
H01M4/136
H01M4/134
H01M4/36 A
H01M4/38 Z
H01M4/36 E
H01M4/58
H01M4/62 Z
H01M4/36 B
H01M4/36 C
H01M10/052
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019557075
(86)(22)【出願日】2018-10-26
(86)【国際出願番号】 JP2018039809
(87)【国際公開番号】W WO2019107033
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2017229468
(32)【優先日】2017-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内山 洋平
(72)【発明者】
【氏名】山本 泰右
(72)【発明者】
【氏名】明楽 達哉
(72)【発明者】
【氏名】山本 格久
(72)【発明者】
【氏名】南 博之
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/049992(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/121325(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/198511(WO,A1)
【文献】特開2013-125648(JP,A)
【文献】特開2014-080319(JP,A)
【文献】特開2011-076793(JP,A)
【文献】特開2014-082219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極と電解質とを含む、リチウムイオン電池であって、
前記負極は、集電体と、前記集電体上に複合粒子と結着材とを含む負極活物質層と、を有し、
前記複合粒子は、リチウムシリケート相と、前記リチウムシリケート相内に分散しているシリコン粒子とを備え、前記複合粒子の内部に、炭素材料が存在しており、前記複合粒子の断面に占める前記炭素材料の面積割合は0.008~6%であり、かつ、クロスセクションポリッシャ(CP)を用いて前記負極活物質層の断面を形成して前記負極活物質層の断面を走査電子顕微鏡(SEM)撮像し、得られたSEM像から最大径が5μm以上の前記複合粒子の粒子断面を無作為に10個選び出し、前記10個の粒子断面についてそれぞれエネルギー分散型X線(EDX)分析を行って前記粒子断面に占める炭素材料の面積割合を求めて平均した値であり、
前記結着材は、少なくとも第1樹脂を含み、前記第1樹脂は、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩およびそれらの誘導体よりなる群から選択される少なくとも一種であり、
前記負極活物質層に含まれる前記第1樹脂の含有量が2質量%以下である、リチウムイオン電池。
【請求項2】
前記第1樹脂の前記含有量が、0.2質量%~2質量%である、請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項3】
前記ポリアクリル酸塩が、架橋型ポリアクリル酸リチウムである、請求項1または2記載のリチウムイオン電池。
【請求項4】
前記リチウムシリケート相の組成は、式:Li2xSiO(2+x)で表され、0<x<2を満たす、請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項5】
前記複合粒子の断面に占める前記炭素材料の面積割合は1~3%である、請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項6】
前記炭素材料は、炭素化合物および炭素質物よりなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項7】
前記複合粒子は、前記リチウムシリケート相と前記シリコン粒子とを含む複数の一次粒子が凝集した二次粒子を含み、
前記粒子断面において、前記炭素材料は、前記二次粒子の内部において、隣り合う前記一次粒子の界面の少なくとも一部に存在している、請求項1~6のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項8】
更に、前記二次粒子の表面の少なくとも一部を被覆する導電性材料を備え、
前記炭素材料は、隣り合う前記一次粒子の界面に沿って、前記二次粒子の内部から表面に向かって、前記断面において線状に延びるように存在しており、
前記炭素材料における前記二次粒子の表面側の端部が、前記導電性材料に接している、請求項7に記載のリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、リチウムイオン電池の負極の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池は、高電圧かつ高エネルギー密度を有するため、小型民生用途、電力貯蔵装置および電気自動車の電源として期待されている。電池の高エネルギー密度化が求められる中、理論容量密度の高い負極活物質として、リチウムと合金化するケイ素(シリコン)を含む材料の利用が期待されている。
【0003】
しかし、ケイ素を含む材料は、不可逆容量が大きいため、初期の充放電効率(特に初回充電容量に対する初回放電容量の比)が低いという問題がある。そこで、不可逆容量に相当するリチウムを、予めケイ素を含む材料に導入する、様々な技術が提案されている。具体的には、リチウムシリケート相と、リチウムシリケート相内に分散しているシリコン粒子とを含む複合粒子を用いることが提案されている(特許文献1)。シリコン粒子が、充放電反応(可逆的なリチウムの吸蔵および放出)に寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-153520号公報
【発明の概要】
【0005】
しかし、充放電時において、リチウムの吸蔵および放出に伴うシリコン粒子の膨張および収縮の度合が大きい。このため、シリコン粒子の膨張および収縮に伴いシリコン粒子の周囲に存在するリチウムシリケート相に大きな応力が生じ、それにより複合粒子に亀裂や割れが生じる。これに伴い、複合粒子とその周辺の結着材との結合力が弱まり、特に割れた複合粒子は周囲の粒子との導電経路を失って孤立する。よって、充放電サイクル特性の低下を引き起こす。
【0006】
以上に鑑み、本発明の一側面は、正極と負極と電解質とを含むリチウムイオン電池であって、負極は、集電体と、集電体上にリチウムシリケート粒子と結着材とを含む負極活物質層と、を有し、リチウムシリケート粒子は、リチウムシリケート相と、リチウムシリケート相内に分散しているシリコン粒子と、を含む複合粒子を備え、複合粒子の内部に、炭素材料が存在しており、複合粒子の断面に占める炭素材料の面積割合は0.008~6%であり、結着材は、第1樹脂を含み、前記第1樹脂は、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩およびそれらの誘導体よりなる群から選択される少なくとも一種であり、負極活物質層に含まれる前記第1樹脂の含有量が2質量%以下である、リチウムイオン電池に関する。
【0007】
本発明によれば、優れた充放電サイクル特性を有するリチウムイオン電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る負極材料を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン電池の一部を切欠いた概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態に係るリチウムイオン電池は、正極と負極と電解質とを含み、負極の負極活物質層は、負極材料と結着材とを含んでいる。負極材料(以下、LSX粒子とも称する。)は、リチウムシリケート相と、リチウムシリケート相内に分散しているシリコン粒子とを含む複合粒子を備える。シリコン粒子は、ケイ素(Si)単体の粒子状の相を有する。複合粒子の内部に、炭素材料が存在しており、複合粒子の断面に占める炭素材料の面積割合は0.008~6%である。結着材は、少なくとも第1樹脂を含み、第1樹脂は、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩およびそれらの誘導体よりなる群から選択される少なくとも一種であり、第1樹脂の負極活物質層における含有量は2質量%以下である。
【0010】
複合粒子の内部に炭素材料が特定の割合で存在することで、充放電時のシリコン粒子の膨張収縮によりリチウムシリケート相に生じる応力が緩和される。また、負極活物質層が2質量%以下の第1樹脂を含むことによって、複合粒子とその周辺の結着材との結合力が高まり、膨張収縮による複合粒子の孤立を抑制することができる。これにより、充放電の繰り返しに伴う複合粒子の亀裂や割れの発生が十分に抑制され、その結果、充放電サイクル特性が向上する。
【0011】
炭素材料は、リチウムシリケート相内に存在していてもよく、リチウムシリケート相とシリコン粒子との間に存在していてもよい。炭素材料は、複合粒子の断面において、点状に分布していてもよく、線状に分布していてもよい。
【0012】
複合粒子の断面に占める炭素材料の面積割合が0.008~6%である場合、高容量および優れた充放電サイクル特性を有するリチウムイオン電池が得られる。複合粒子の断面に占める炭素材料の面積割合は0.008%未満である場合、複合粒子の亀裂や割れの発生の抑制が不十分となり、充放電サイクル特性が低下する。複合粒子の断面に占める炭素材料の面積割合は6%超である場合、充放電に寄与するシリコン粒子の存在割合が小さくなるため、電池容量が低下する。
【0013】
電池容量および充放電サイクル特性を更に高めるためには、複合粒子の断面に占める炭素材料の面積割合は、好ましくは0.5~6%であり、更に好ましくは1~3%である。
【0014】
複合粒子の断面に占める炭素材料の面積割合は、例えば、以下の手法により求められる。まず、電池を解体して、負極を取り出し、クロスセクションポリッシャ(CP)を用いて負極合剤層の断面を得る。走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて負極合剤層の断面を観察する。負極合剤層の断面画像から、粒子の最大径が5μm以上のLSX粒子を無作為に10個選び出して、それぞれについてエネルギー分散型X線(EDX)による炭素のマッピング分析を行う。得られた10個の測定値を平均して求める。
【0015】
なお、充放電の過程で、電解質の分解などにより、LSX粒子の表面に被膜が形成される。また、後述のように、LSX粒子が、更に、複合粒子の表面を被覆する導電層を備える場合がある。よって、EDXによるマッピング分析は、測定範囲に薄い被膜や導電層が含まれないように、LSX粒子の断面の周端縁から1μm内側の範囲に対して行われる。EDXによるマッピング分析により、複合粒子の内部における炭素材料の分布の状態も確認することができる。
【0016】
炭素材料は、炭素化合物および炭素質物よりなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。中でも、炭素質物がより好ましい。
【0017】
炭素化合物としては、例えば、炭素および水素を含む化合物や、炭素、水素、および酸素を含む化合物が挙げられる。
【0018】
炭素質物としては、カーボンブラック、石炭、コークス、木炭、および活性炭のような結晶性の低い無定形炭素や、結晶性の高い黒鉛などを用いることができる。中でも、硬度が低く、充放電で体積変化するシリコン粒子に対する緩衝作用が大きいことから、無定形炭素が好ましい。無定形炭素は、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)でもよく、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)でもよい。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラックが挙げられる。黒鉛とは、黒鉛型結晶構造を有する材料を意味し、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボン粒子が挙げられる。
【0019】
リチウムシリケート相は、リチウムと反応し得るサイトを多くは有さないため、充放電時に新たな不可逆反応を起こしにくい。よって、充放電の初期に、優れた充放電効率を示す。
【0020】
化学的安定性およびリチウムイオン伝導性の観点から、リチウムシリケート相の組成は、式:Li2xSiO(2+x)で表され、0<x<2を満たすことが好ましい。この場合、リチウムシリケート相の組成はLi4SiO4(x=2)を含まない。Li4SiO4は、化学的に不安定であり、水分と反応してアルカリ成分を溶出させやすく、負極の製造時に不具合を生じ、もしくは負極を劣化させることがある。
【0021】
リチウムシリケート相の化学的安定性の更なる向上の観点から、より好ましくはx≦1/2である。更に好ましくは1/4≦x≦1/2である。
【0022】
負極材料(LSX粒子)は、更に、複合粒子の表面の少なくとも一部を被覆する導電性材料を備えることが好ましい。リチウムシリケート相は、電子伝導性に乏しいため、複合粒子の導電性も低くなりがちである。一方、導電性材料で複合粒子の表面を被覆することで、導電性を飛躍的に高めることができる。
【0023】
導電性材料の被覆により複合粒子の表面に形成される導電層は、実質上、複合粒子の平均粒径に影響しない程度に薄いことが好ましい。導電層の厚さは、導電性の確保とリチウムイオンの拡散性を考慮すると、1~200nmが好ましく、5~100nmがより好ましい。導電層の厚さは、SEMまたはTEMを用いた粒子の断面観察により計測できる。
【0024】
次に、負極材料の製造方法について詳述する。
【0025】
工程(i)
リチウムシリケートの原料には、二酸化ケイ素とリチウム化合物の混合物を用いることができる。上記の混合物を焼成することにより、所定の組成比を有するリチウムシリケートが得られる。例えば、Si/Liの原子比が1となるように原料を仕込んだ場合、Li2Si25が得られる。
【0026】
リチウム化合物には、炭酸リチウム、酸化リチウム、水酸化リチウム、水素化リチウムなどを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
二酸化ケイ素とリチウム化合物の混合物は、空気中で、400℃~1200℃、好ましくは800℃~1100℃で加熱して、二酸化ケイ素とリチウム化合物とを反応させることが好ましい。
【0028】
工程(ii)
次に、リチウムシリケートに原料シリコンを配合して複合化が行われる。例えば、以下の工程(a)~(c)を経て、複合粒子が作製される。
【0029】
工程(a)
まず、原料シリコンの粉末とリチウムシリケートの粉末とを、例えば、20:80~95:5の質量比で混合する。原料シリコンには、平均粒径が数μm~数十μm程度のシリコンの粗粒子を用いればよい。
【0030】
工程(b)
次に、ボールミルのような粉砕装置を用いて、原料シリコンとリチウムシリケートの混合物を微粒子化しながら攪拌する。このとき、混合物に有機溶媒を添加して、湿式粉砕することが好ましい。所定量の有機溶媒を粉砕初期に一度に粉砕容器に投入してもよく、粉砕過程で所定量の有機溶媒を複数回に分けて間欠的に粉砕容器に投入してもよい。有機溶媒は、粉砕対象物の粉砕容器の内壁への付着を防ぐ役割と、複合粒子に内在させる炭素材料の原料としての役割とを兼ねる。
【0031】
有機溶媒としては、アルコール、エーテル、脂肪酸、アルカン、シクロアルカン、珪酸エステル、金属アルコキシドなどを用いることができる。アルコールとしては、第一級アルコール、第二級アルコール、第三級アルコールが挙げられる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、グリセリン、オクタノール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、リノリルアルコールが挙げられる。エーテルとしては、例えば、ジエチルエーテルが挙げられる。
【0032】
脂肪酸は、飽和脂肪酸でもよく、不飽和脂肪酸でもよい。脂肪酸としては、例えば、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン、イコサン酸が挙げられる。
【0033】
アルカンとしては、例えば、メタン、エタン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、イコサンが挙げられる。シクロアルカンとしては、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン、シクロウンデカン、シクロドデカン、シクロトリデカン、シクロテトラデカン、シクロペンタデカン、シクロヘキサデカン、シクロヘプタデカン、シクロオクタデカン、シクロノナデカン、シクロイコサンが挙げられる。珪酸エステルとしては、例えば、正珪酸エチル、正珪酸メチルが挙げられる。金属アルコキシドとしては、例えば、メチルトリメトキシシランが挙げられる。有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
有機溶媒を使用しない場合は、原料シリコンの粉末と、リチウムシリケートの粉末と、炭素材料の粉末との混合物を、粉砕容器に投入してもよい。
【0035】
なお、原料シリコンとリチウムシリケートとを、それぞれ別々に微粒子化してから混合してもよい。また、粉砕装置を使用せずに、シリコンナノ粒子、リチウムシリケートナノ粒子、およびカーボンナノ粒子を作製し、これらを混合してもよい。ナノ粒子の作製には、気相法(例えばプラズマ法)や液相法(例えば液相還元法)などの公知の手法を用いればよい。
【0036】
工程(c)
次に、微粒子化された混合物を、例えば不活性雰囲気(例えば、アルゴン、窒素などの雰囲気)中で、450℃~1000℃で加熱し、焼成する。このようにして、リチウムシリケート相とリチウムシリケート相内に分散しているシリコン粒子とを含む複合粒子を得てもよい。
【0037】
また、上記加熱時に、ホットプレスなどで混合物(一次粒子)に圧力を印加しながら(一次粒子を凝集させながら)焼成して、混合物の焼結体を作製してもよい。得られる焼結体は、リチウムシリケート相とリチウムシリケート相内に分散しているシリコン粒子とを含む複数の一次粒子の凝集体で構成される。
【0038】
リチウムシリケートは、450℃~1000℃では安定で、シリコンとほとんど反応しないため、容量低下は生じても軽微である。
【0039】
焼結体(一次粒子の凝集体)は、その後、粒状物になるまで粉砕して、複合粒子(二次粒子)とすればよい。このとき、粉砕条件を適宜選択することにより、所定の平均粒径の二次粒子を得ることができる。二次粒子の平均粒径は、例えば、1~20μmである。なお、二次粒子の平均粒径は、レーザー回折散乱法で測定される粒度分布において、体積積算値が50%となる粒径(体積平均粒径)を意味する。
【0040】
工程(b)で混合物に有機溶媒を添加して微粒子化する場合、上記微粒子化された混合物は有機溶媒を含む。粉砕過程で、有機溶媒は、粉砕に伴う微粒子の衝突エネルギーによる温度上昇で変化し、微粒子と化学結合し、当該微粒子の表面に局在化しやすい。よって、得られる二次粒子(焼結片)の内部において、有機溶媒由来の炭素材料(例えば、無定形炭素)が一次粒子(微粒子)の表面に沿って網目状に形成されやすい。有機溶媒の添加のタイミングなどにより一次粒子の内部にも有機溶媒由来の炭素材料は形成され得る。有機溶媒の添加量を変えることで、複合粒子に占める炭素材料の面積割合を制御することができる。
【0041】
工程(iii)
次に、複合粒子(二次粒子)の表面の少なくとも一部を、導電性材料で被覆して導電層を形成してもよい。導電性材料は、電気化学的に安定であることが好ましく、導電性炭素材料が好ましい。導電性炭素材料で複合粒子の表面を被覆する方法としては、アセチレン、メタンなどの炭化水素ガスを原料に用いるCVD法、石炭ピッチ、石油ピッチ、フェノール樹脂などを複合粒子と混合し、加熱して炭化させる方法などが例示できる。また、カーボンブラックを複合粒子の表面に付着させてもよい。
【0042】
工程(iv)
複合粒子(表面に導電層を有する場合を含む。)を酸で洗浄する工程を行ってもよい。例えば、酸性水溶液で複合粒子を洗浄することで、原料シリコンとリチウムシリケートとを複合化させる際に生じ得る、複合粒子の表面に存在する微量のアルカリ成分を溶解させ、除去することができる。酸性水溶液としては、塩酸、フッ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、炭酸などの無機酸の水溶液や、クエン酸、酢酸などの有機酸の水溶液を用いることができる。
【0043】
図1に、負極材料の一例としてLXS粒子20の断面を模式的に示す。
【0044】
LXS粒子20は、複数の一次粒子24が凝集した二次粒子で構成される母粒子23を備える。母粒子23(一次粒子24)は、リチウムシリケート相21と、リチウムシリケート相21内に分散しているシリコン粒子22とを備える。
【0045】
図1に示すように、炭素材料25は、母粒子23の内部において、隣り合う一次粒子24の界面の少なくとも一部に存在していることが好ましい。また、炭素材料(図示しない)は、一次粒子24の内部(例えば、リチウムシリケート相21の内部や、リチウムシリケート相21とシリコン粒子22との間)に存在してもよい。
【0046】
図1に示すように、LSX粒子20は、更に、母粒子23の表面の少なくとも一部を被覆する導電性材料(導電層26)を備えることが好ましい。この場合、図1に示すように、炭素材料25は、隣り合う一次粒子24の界面に沿って、母粒子23の内部から表面に向かって線状に延びるように存在しており、炭素材料25における母粒子23の表面側の端部が、導電性材料(導電層26)に接していることが好ましい。炭素材料25および導電性材料(導電層26)により、母粒子23の表面から内部にかけて、良好な導電ネットワークが形成され、電池容量および充放電サイクル特性を更に高めることができる。
【0047】
リチウムシリケート相21内には、シリコン粒子22が略均一に分散していることが好適である。母粒子23(一次粒子24)は、例えば、リチウムシリケート相21のマトリックス中に微細なシリコン粒子が分散した海島構造を有する。この場合、母粒子23(一次粒子24)の任意の断面において、シリコン粒子22(単体Si)が一部の領域に偏在することなく、略均一に点在している。
【0048】
リチウムシリケート相21およびシリコン粒子22は、いずれも微細粒子の集合により構成されることが好適である。リチウムシリケート相21は、シリコン粒子22よりも更に微細な粒子から構成されることが好ましい。この場合、負極材料LSX20のX線回折(XRD)パターンでは、単体Siの(111)面に帰属される回折ピーク強度は、リチウムシリケートの(111)面に帰属される回折ピーク強度よりも大きくなる。
【0049】
母粒子23は、リチウムシリケート相21、シリコン粒子22、および炭素材料以外に、他の成分を含んでもよい。例えば、リチウムシリケート相21は、リチウムシリケートの他に、結晶性または非晶質のSiO2を少量含んでもよい。Si-NMRにより測定される母粒子23中に占めるSiO2含有量は、例えば30質量%以下が好ましく、7質量%未満がより好ましい。
【0050】
Si-NMRにより測定される母粒子23に占めるシリコン粒子22(単体Si)の含有量は、高容量化およびサイクル特性の向上の観点から、20質量%~95質量%が好ましく、35質量%~75質量%がより好ましい。これにより、高い充放電容量を確保できるとともに、リチウムイオンの拡散が良好になり、優れた負荷特性を得やすくなる。また、リチウムシリケート相で覆われずに露出して電解質と接触するシリコン粒子の表面が減少するため、サイクル特性の低下が抑制される。
【0051】
化学的安定性、作製容易性、およびリチウムイオン伝導性の観点から、リチウムシリケート相21は、Li2Si25(x=1/2)およびLi2SiO3(x=1)の少なくとも一方を主成分とすることが好ましく、Li2Si25を主成分とすることがより好ましい。リチウムシリケート相21は、上記主成分の他に、例えばLi2Si37、Li2Si49、Li2Si511、Li2Si613、Li2Si715、Li2Si817、Li2Si919、Li2Si1021などの相を少量含んでもよい。
【0052】
Si-NMRにより測定される、リチウムシリケート相21に占める上記主成分の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上がより好ましい。この場合、リチウムシリケート相からのアルカリ成分の溶出が抑制され、アルカリ成分による負極の劣化等の不具合の発生が抑制される。以下に、望ましいSi-NMRの測定条件を示す。
【0053】
<Si-NMR測定条件>
測定装置:バリアン社製、固体核磁気共鳴スペクトル測定装置(INOVA‐400)
プローブ:Varian 7mm CPMAS-2
MAS:4.2kHz
MAS速度:4kHz
パルス:DD(45°パルス+シグナル取込時間1Hデカップル)
繰り返し時間:1200sec
観測幅:100kHz
観測中心:-100ppm付近
シグナル取込時間:0.05sec
積算回数:560
試料量:207.6mg
一次粒子24の平均粒径は、0.2~10μmが好ましく、2~8μmがより好ましい。これにより、充放電に伴う負極材料の体積変化による応力を更に緩和しやすく、良好なサイクル特性を得やすくなる。また、複合粒子の表面積が適度になるため、電解質との副反応による容量低下も抑制される。
【0054】
なお、一次粒子24の平均粒径は、負極材料の断面をSEMを用いて観察することにより測定される。具体的には、任意の100個の一次粒子24の断面積の相当円(一次粒子の断面積と同じ面積を有する円)の直径を平均して求められる。
【0055】
シリコン粒子22の平均粒径は、初回充電前において、500nm以下であり、200nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましい。シリコン粒子22を、このように適度に微細化することにより、充放電時の体積変化が小さくなり、構造安定性が向上する。シリコン粒子22の平均粒径は、負極材料の断面をSEMまたはTEMを用いて観察することにより測定される。具体的には、任意の100個のシリコン粒子22の最大径を平均して求められる。
【0056】
本発明の実施形態に係るリチウムイオン電池は、上記の負極材料を含む負極と、正極と、電解質とを備える。以下、負極、正極、および電解質について説明する。
【0057】
[負極]
負極は、例えば、負極集電体と、負極集電体の表面に形成され、かつ負極活物質を含む負極合剤層とを具備する。負極合剤層は、負極合剤を分散媒に分散させた負極スラリーを、負極集電体の表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。乾燥後の塗膜を、必要により圧延してもよい。負極合剤層は、負極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。
【0058】
負極合剤は、負極活物質として、上記の負極材料を必須成分として含み、任意成分として、結着剤、導電剤、増粘剤などを含むことができる。負極材料中のシリコン粒子は、多くのリチウムイオンを吸蔵できることから、負極の高容量化に寄与する。
【0059】
負極活物質は、更に、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出する炭素系活物質を含むことが好ましい。負極材料は、充放電に伴って体積が膨張収縮するため、負極活物質に占めるその比率が大きくなると、充放電に伴って負極活物質と負極集電体との接触不良が生じやすい。一方、負極材料と炭素系活物質とを併用することで、シリコン粒子の高容量を負極に付与しながらも、優れたサイクル特性を達成することが可能になる。負極材料と炭素系活物質との合計に占める負極材料の割合は、例えば3~30質量%が好ましい。これにより、高容量化とサイクル特性の向上を両立し易くなる。
【0060】
炭素系活物質としては、例えば、黒鉛、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)などが例示できる。中でも、充放電の安定性に優れ、不可逆容量も少ない黒鉛が好ましい。黒鉛とは、黒鉛型結晶構造を有する材料を意味し、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボン粒子などが含まれる。炭素系活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
負極集電体としては、無孔の導電性基板(金属箔など)、多孔性の導電性基板(メッシュ体、ネット体、パンチングシートなど)が使用される。負極集電体の材質としては、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金などが例示できる。負極集電体の厚さは、特に限定されないが、負極の強度と軽量化とのバランスの観点から、1~50μmが好ましく、5~20μmがより望ましい。
【0062】
結着剤は、少なくとも第1樹脂を含む。ここで、第1樹脂とは、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩およびそれらの誘導体よりなる群から選択される少なくとも1種である。ポリアクリル酸塩としては、Li塩若しくはNa塩が好ましく用いられる。中でも架橋型ポリアクリル酸リチウムを用いることが好ましい。誘導体としては、例えば、ポリアクリル酸メチルなどのポリアクリル酸エステルが挙げられる。
【0063】
負極活物質層における第1樹脂の含有量は、2質量%以下であり、好ましくは0.2質量%以上、2質量%以下である。
【0064】
なお、第1樹脂に、その他の第2樹脂を組み合わせてもよい。第2樹脂、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;アラミド樹脂などのポリアミド樹脂;ポリイミド、ポリアミドイミドなどのポリイミド樹脂;ポリ酢酸ビニルなどのビニル樹脂;ポリビニルピロリドン;ポリエーテルサルフォン;スチレン-ブタジエン共重合ゴム(SBR)などのゴム状材料などが例示できる。これらは、1種若しくは2種以上を組み合わせて用いてもよい。第2樹脂は、第1樹脂以外のアクリル樹脂であってもよい。第1樹脂以外のアクリル樹脂としては、例えばエチレン-アクリル酸共重合体、ポリアクリルニトリル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸塩およびそれらの誘導体が挙げられる。
【0065】
導電剤としては、例えば、アセチレンブラックなどのカーボンブラック類;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維類;フッ化カーボン;アルミニウムなどの金属粉末類;酸化亜鉛やチタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;フェニレン誘導体などの有機導電性材料などが例示できる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびその変性体(Na塩などの塩も含む)、メチルセルロースなどのセルロース誘導体(セルロースエーテルなど);ポリビニルアルコールなどの酢酸ビニルユニットを有するポリマーのケン化物;ポリエーテル(ポリエチレンオキシドなどのポリアルキレンオキサイドなど)などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
分散媒としては、特に制限されないが、例えば、水、エタノールなどのアルコール、テトラヒドロフランなどのエーテル、ジメチルホルムアミドなどのアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、またはこれらの混合溶媒などが例示できる。
【0068】
[正極]
正極は、例えば、正極集電体と、正極集電体の表面に形成された正極合剤層とを具備する。正極合剤層は、正極合剤を分散媒に分散させた正極スラリーを、正極集電体の表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。乾燥後の塗膜を、必要により圧延してもよい。正極合剤層は、正極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。
【0069】
正極合剤は、必須成分として正極活物質を含み、任意成分として、結着剤、導電剤などを含むことができる。
【0070】
正極活物質としては、リチウム複合金属酸化物を用いることができる。リチウム複合金属酸化物としては、例えば、LiaCoO2、LiaNiO2、LiaMnO2、LiaCobNi1-b2、LiaCob1-bc、LiaNi1-bbc、LiaMn24、LiaMn2-bb4、LiMePO4、Li2MePO4Fが挙げられる。ここで、Mは、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、およびBよりなる群から選択される少なくとも1種である。Meは、少なくとも遷移元素を含む(例えば、Mn、Fe、Co、Niよりなる群から選択される少なくとも1種を含む)。a=0~1.2、b=0~0.9、c=2.0~2.3である。なお、リチウムのモル比を示すa値は、活物質作製直後の値であり、充放電により増減する。
【0071】
結着剤および導電剤としては、負極について例示したものと同様のものが使用できる。導電剤としては、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛を用いてもよい。
【0072】
正極集電体の形状および厚みは、負極集電体に準じた形状および範囲からそれぞれ選択できる。正極集電体の材質としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタンなどが例示できる。
【0073】
[電解質]
電解質は、溶媒と、溶媒に溶解したリチウム塩を含む。電解質におけるリチウム塩の濃度は、例えば、0.5~2mol/Lである。電解質は、公知の添加剤を含有してもよい。
【0074】
溶媒は、水系溶媒若しくは非水溶媒を用いる。非水溶媒としては、例えば、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステルなどが用いられる。環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)などが挙げられる。鎖状炭酸エステルとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)などが挙げられる。環状カルボン酸エステルとしては、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)などが挙げられる。非水溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
リチウム塩としては、例えば、塩素含有酸のリチウム塩(LiClO4、LiAlCl4、LiB10Cl10など)、フッ素含有酸のリチウム塩(LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2など)、フッ素含有酸イミドのリチウム塩(LiN(CF3SO22、LiN(CF3SO2)(C49SO2)、LiN(C25SO22など)、リチウムハライド(LiCl、LiBr、LiIなど)などが使用できる。リチウム塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
[セパレータ]
通常、正極と負極との間には、セパレータを介在させることが望ましい。セパレータは、イオン透過度が高く、適度な機械的強度および絶縁性を備えている。セパレータとしては、微多孔薄膜、織布、不織布などを用いることができる。セパレータの材質としては、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィンが好ましい。
【0077】
リチウムイオン電池の構造の一例としては、正極および負極がセパレータを介して巻回されてなる電極群と、電解質とが外装体に収容された構造が挙げられる。或いは、巻回型の電極群の代わりに、正極および負極がセパレータを介して積層されてなる積層型の電極群など、他の形態の電極群が適用されてもよい。リチウムイオン電池は、例えば円筒型、角型、コイン型、ボタン型、ラミネート型など、いずれの形態であってもよい。
【0078】
図2は、本発明の一実施形態に係る角形のリチウムイオン電池の一部を切欠いた概略斜視図である。
【0079】
電池は、有底角形の電池ケース6と、電池ケース6内に収容された電極群9および電解質(図示せず)とを備えている。電極群9は、長尺帯状の負極と、長尺帯状の正極と、これらの間に介在し、かつ直接接触を防ぐセパレータとを有する。電極群9は、負極、正極、およびセパレータは、平板状の巻芯を中心にして捲回され、巻芯を抜き取ることにより形成される。
【0080】
負極の負極集電体には、負極リード14の一端が溶接などにより取り付けられている。正極の正極集電体には、正極リード11の一端が溶接などにより取り付けられている。負極リード14の他端は、封口板5に設けられた負極端子13に電気的に接続される。正極リード11の他端は、正極端子を兼ねる電池ケース6に電気的に接続される。電極群9の上部には、電極群9と封口板5とを隔離するとともに負極リード14と電池ケース6とを隔離する樹脂製の枠体4が配置されている。そして、電池ケース6の開口部は、封口板5で封口される。
【実施例
【0081】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0082】
<実施例1>
[LSX粒子の調製]
工程(i)
二酸化ケイ素と炭酸リチウムとを原子比:Si/Li=1となるように混合し、混合物を950℃空気中で10時間焼成することにより、Li2Si25で表わされるリチウムシリケートを得た。得られたリチウムシリケートは平均粒径10μmになるように粉砕した。
【0083】
工程(ii)
平均粒径10μmのリチウムシリケート(Li2Si25)と原料シリコン(3N、平均粒径10μm)とを、50:50の質量比で混合した。混合物を遊星ボールミル(フリッチュ社製、P-5)のポット(SUS製、容積:500mL)に充填し、SUS製ボール(直径20mm)を24個入れて蓋を閉め、不活性雰囲気中で、200rpmで混合物を50時間粉砕処理した。上記において、ポットに充填した上記混合物に、有機溶媒としてエタノールを添加した。エタノールの添加量は、リチウムシリケートおよび原料シリコンの混合物100質量部あたり0.016質量部とした。
【0084】
次に、不活性雰囲気中で粉末状の混合物を取り出し、不活性雰囲気中で、ホットプレスで混合物に圧力を印加しながら600℃で4時間焼成して、混合物の焼結体を得た。
【0085】
工程(iii)
その後、焼結体を粉砕し、40μmのメッシュに通した後、石炭ピッチ(JFEケミカル株式会社製、MCP250)と混合し、混合物を不活性雰囲気中で、800℃で5時間焼成し、複合粒子の表面を導電性炭素で被覆して導電層を形成した。導電層の被覆量は、複合粒子と導電層との総質量に対して5質量%とした。その後、篩を用いて、複合粒子と、複合粒子の表面に形成された導電層とを備える、平均粒径10μmのLSX粒子(二次粒子)を得た。
【0086】
[複合粒子の分析]
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてLSX粒子の断面を観察したところ、複合粒子は、一次粒子(平均粒径3μm)が凝集した二次粒子で構成されることが確認された。また、複合粒子においては、Li2Si25からなるマトリックス中に平均粒径50nmのシリコン粒子が略均一に分散していることが確認された。複合粒子のXRDパターンには、主に単体SiとLi2Si25に由来する回折ピークが確認され、ピーク強度は、Li2Si25<Siであった。一方、2θ=25°にSiO2のピークは観察されなかった。複合粒子をSi-NMRで測定した結果、SiO2の含有量は7質量%未満(検出下限値未満)、複合粒子断面に占める炭素材料の面積割合は0.01%であった。
【0087】
SEMによるLSX粒子の断面画像を用いて、エネルギー分散型X線(EDX)による元素分析を行った。EDXによる元素マッピングの結果、複合粒子の内部において、炭素材料の大部分は、隣り合う一次粒子の界面に存在しており、一次粒子の内部にも炭素材料が存在することが確認された。
【0088】
[負極の作製]
導電層を有する複合粒子と黒鉛とを5:95の質量比で混合し、負極活物質として用いた。負極活物質と、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)と、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸リチウム塩とを、96.5:1:1.5:1の質量比で混合し、水を添加した後、混合機(プライミクス社製、T.K.ハイビスミックス)を用いて攪拌し、負極スラリーを調製した。次に、銅箔の表面に1m2当りの負極合剤の質量が190gとなるように負極スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して、銅箔の両面に、密度1.5g/cm3の負極合剤層が形成された負極を作製した。
【0089】
[正極の作製]
コバルト酸リチウムと、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデンとを、95:2.5:2.5の質量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を添加した後、混合機(プライミクス社製、T.K.ハイビスミックス)を用いて攪拌し、正極スラリーを調製した。次に、アルミニウム箔の表面に正極スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して、アルミニウム箔の両面に、密度3.6g/cm3の正極合剤層が形成された正極を作製した。
【0090】
[電解液の調製]
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを3:7の体積比で含む混合溶媒にLiPF6を1.0mol/L濃度で溶解して非水電解液を調製した。
【0091】
[リチウムイオン電池の作製]
各電極にタブをそれぞれ取り付け、タブが最外周部に位置するように、セパレータを介して正極および負極を渦巻き状に巻回することにより電極群を作製した。電極群をアルミニウムラミネートフィルム製の外装体内に挿入し、105℃で2時間真空乾燥した後、非水電解液を注入し、外装体の開口部を封止して、リチウムイオン電池を得た。
【0092】
<比較例1>
工程(ii)において、粉砕工程においてエタノールを添加せず、ポリアクリル酸リチウム塩を添加しなかった以外は、実施例1と同様の方法によりリチウムイオン電池を作製した。
【0093】
<実施例2~9および比較例2~10>
工程(ii)において、エタノールの添加量を表1に示す値に変え、負極の作製においてポリアクリル酸リチウム塩を表1に示す値に変えた以外は、実施例1と同様の方法によりリチウムイオン電池を作製した。
【0094】
実施例および比較例の各電池について、以下の評価を行った。
【0095】
[複合粒子の断面に占める炭素材料の面積割合]
後述する充放電サイクル試験後の電池を解体して、負極を取り出し、クロスセクションポリッシャ(CP)を用いて負極合剤層の断面を得た。SEMによる負極合剤層の断面画像から、粒子の最大径が5μm以上のLSX粒子を無作為に10個選び出して、それぞれについてEDX分析を行い、複合粒子の断面に占める炭素材料の面積割合を求めた。得られた10個の測定値を平均した。なお、EDX分析は、測定範囲に、複合粒子の表面を覆う導電層と、充放電により導電層の表面に形成された被膜とが含まれないようにするために、LSX粒子の断面の周端縁から1μm内側の範囲に対して行った。
【0096】
[初回充電容量]
1It(800mA)の電流で電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行い、その後、4.2Vの電圧で電流が1/20It(40mA)になるまで定電圧充電した。
【0097】
充電容量を、比較例1の充電容量を100とした指数として表した。充電容量が95以上であれば初期容量は良好であると判断した。
【0098】
[充放電サイクル試験]
下記条件で充放電を繰り返し行った。
【0099】
<充電>
1It(800mA)の電流で電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行い、その後、4.2Vの電圧で電流が1/20It(40mA)になるまで定電圧充電した。
【0100】
<放電>
1It(800mA)の電流で電圧が2.75Vになるまで定電流放電を行った。
【0101】
充電と放電との間の休止期間は10分とした。1サイクル目の放電容量に対する100サイクル目の放電容量の割合を、サイクル維持率とし、実施例5のサイクル維持率を100として他を規格化した。
【0102】
評価結果を表1に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
複合粒子の内部に炭素材料が存在し、複合粒子の断面に占める炭素材料の面積割合が0.008~6%であり、ポリアクリル酸リチウム塩が2質量%以下である実施例1~7の電池では、初回充電容量(初期容量)が高く、優れた充放電サイクル特性が得られた。
【0105】
複合粒子の内部に炭素材料が存在しない比較例1の電池、および複合粒子の断面に占める炭素材料の面積割合が0.008%未満である比較例2および3の電池、ポリアクリル酸リチウム塩が2質量%以下でない比較例4~7の電池では、充放電の繰り返しに伴い粒子割れが生じたため、充放電サイクル特性が低下した。
【0106】
複合粒子の断面に占める炭素材料の面積割合が6%超である比較例8~10の電池では、複合粒子の内部に存在するシリコン粒子の量が減少したため、初期容量が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は、高容量かつ良好な充放電サイクル特性を有するリチウムイオン電池を提供することができる。本発明のリチウムイオン電池は、移動体通信機器、携帯電子機器などの主電源に有用である。
【符号の説明】
【0108】
4 枠体
5 封口板
6 電池ケース
9 電極群
11 負極リード
13 負極端子
14 正極リード
20 LSX粒子
21 リチウムシリケート相
22 シリコン粒子
23 母粒子
24 一次粒子
25 炭素材料
26 導電層
図1
図2