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特許7209267樹脂組成物、樹脂フィルム、樹脂付き金属箔、プリプレグ、金属張積層板及びプリント配線板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-12
(45)【発行日】2023-01-20
(54)【発明の名称】樹脂組成物、樹脂フィルム、樹脂付き金属箔、プリプレグ、金属張積層板及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20230113BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20230113BHJP
   C08K 3/20 20060101ALI20230113BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/26
C08K3/20
C08J5/24
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020516332
(86)(22)【出願日】2019-04-22
(86)【国際出願番号】 JP2019016958
(87)【国際公開番号】W WO2019208476
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2018087727
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山内 章裕
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】青木 幸一
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-016962(JP,A)
【文献】特開2015-199625(JP,A)
【文献】特開2015-207753(JP,A)
【文献】国際公開第2011/155482(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/016480(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
C08J 5/24
H01K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)樹脂と、(B)無機フィラーと、を含有する樹脂組成物であって、
前記(B)成分は、(b1)無水炭酸マグネシウム(b2)酸化アルミニウム、及び(b3)モリブデン化合物が担持された無機物を含み、
前記(b1)成分の含有量は、前記(b1)成分及び前記(b2)成分の合計100体積%に対して、35体積%以上65体積%以下の範囲内であり、
前記(b3)成分の含有量は、前記(b1)成分、前記(b2)成分及び前記(b3)成分の合計100体積%に対して、10体積%以下であり、
前記(B)成分の含有量は、前記樹脂組成物100体積%に対して、60体積%以上75体積%以下の範囲内である、
樹脂組成物。
【請求項2】
前記(b1)成分の平均粒子径は、前記(b2)成分の平均粒子径よりも大きい、
請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(b1)成分の平均粒子径は、8μm以上20μm以下の範囲内である、
請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記(b2)成分の平均粒子径は、1μm以下である、
請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記(b2)成分の形状は、丸みを帯びた形状である、
請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物又はその半硬化物を含むフィルムを備える、
樹脂フィルム。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物又はその半硬化物を含む樹脂層と、前記樹脂層に接着された金属箔と、を備える、
樹脂付き金属箔。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物又はその半硬化物を含む樹脂層と、前記樹脂層に埋設された基材と、を備える、
プリプレグ。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層と、前記絶縁層に接着された金属箔と、を備える、
金属張積層板。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層と、前記絶縁層に接着された導体層と、を備える、
プリント配線板。
【請求項11】
樹脂組成物又はその半硬化物を含む樹脂層と、前記樹脂層に埋設された基材と、を備え、
前記樹脂組成物は、(A)樹脂と、(B)無機フィラーと、を含有し、
前記(B)成分は、(b1)無水炭酸マグネシウム及び(b2)酸化アルミニウムを含み、
前記(b1)成分の含有量は、前記(b1)成分及び前記(b2)成分の合計100体積%に対して、35体積%以上65体積%以下の範囲内であり、
前記(B)成分の含有量は、前記樹脂組成物100体積%に対して、60体積%以上75体積%以下の範囲内である、
プリプレグ。
【請求項12】
前記(B)成分は、(b3)モリブデン化合物が担持された無機物を更に含む、
請求項11に記載のプリプレグ。
【請求項13】
前記(b3)成分の含有量は、前記(b1)成分、前記(b2)成分及び前記(b3)成分の合計100体積%に対して、10体積%以下である、
請求項12に記載のプリプレグ。
【請求項14】
前記(b1)成分の平均粒子径は、前記(b2)成分の平均粒子径よりも大きい、
請求項11~13のいずれか1項に記載のプリプレグ。
【請求項15】
前記(b1)成分の平均粒子径は、8μm以上20μm以下の範囲内である、
請求項11~14のいずれか1項に記載のプリプレグ。
【請求項16】
前記(b2)成分の平均粒子径は、1μm以下である、
請求項11~15のいずれか1項に記載のプリプレグ。
【請求項17】
前記(b2)成分の形状は、丸みを帯びた形状である、
請求項11~16のいずれか1項に記載のプリプレグ。
【請求項18】
請求項11~17のいずれか1項に記載のプリプレグの前記樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層と、前記絶縁層に接着された金属箔と、を備える、
金属張積層板。
【請求項19】
請求項11~17のいずれか1項に記載のプリプレグの前記樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層と、前記絶縁層に接着された導体層と、を備える、
プリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に樹脂組成物、樹脂フィルム、樹脂付き金属箔、プリプレグ、金属張積層板及びプリント配線板に関し、より詳細には樹脂及び無機フィラーを含有する樹脂組成物、樹脂フィルム、樹脂付き金属箔、プリプレグ、金属張積層板及びプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、熱伝導性樹脂組成物を開示する。この熱伝導性樹脂組成物は、2種以上の無機フィラーを合計で60~95質量%含んでいる。また、第1の無機フィラーのモース硬度が4以上であり、かつ第2の無機フィラーのモース硬度が3以下である。さらに、第1の無機フィラーと第2の無機フィラーの割合が1:1~0.01である。
【0003】
特許文献1の熱伝導性樹脂組成物は、熱伝導性が向上しているが、熱伝導性以外の特性については、更なる改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-087250号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示の目的は、熱伝導性、ドリル加工性、耐熱性及び成形性を兼備する樹脂組成物、樹脂フィルム、樹脂付き金属箔、プリプレグ、金属張積層板及びプリント配線板を提供することにある。
【0006】
本開示の一態様に係る樹脂組成物は、(A)樹脂と、(B)無機フィラーと、を含有する。前記(B)成分は、(b1)無水炭酸マグネシウム及び(b2)酸化アルミニウムを含む。前記(b1)成分の含有量は、前記(b1)成分及び前記(b2)成分の合計100体積%に対して、35体積%以上65体積%以下の範囲内である。前記(B)成分の含有量は、前記樹脂組成物100体積%に対して、60体積%以上75体積%以下の範囲内である。
【0007】
本開示の一態様に係る樹脂フィルムは、前記樹脂組成物又はその半硬化物を含むフィルムを備える。
【0008】
本開示の一態様に係る樹脂付き金属箔は、前記樹脂組成物又はその半硬化物を含む樹脂層と、前記樹脂層に接着された金属箔と、を備える。
【0009】
本開示の一態様に係るプリプレグは、前記樹脂組成物又はその半硬化物を含む樹脂層と、前記樹脂層に埋設された基材と、を備える。
【0010】
本開示の一態様に係る金属張積層板は、前記樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層と、前記絶縁層に接着された金属箔と、を備える。
【0011】
本開示の一態様に係るプリント配線板は、前記樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層と、前記絶縁層に接着された導体層と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る樹脂フィルムの概略断面図である。
図2図2は、本開示の一実施形態に係る樹脂付き金属箔の概略断面図である。
図3図3は、本開示の一実施形態に係るプリプレグの概略断面図である。
図4図4は、本開示の一実施形態に係る金属張積層板の概略断面図である。
図5図5は、本開示の一実施形態に係るプリント配線板の概略断面図である。
図6図6Aは、ドリル加工前のドリルビットの先端の写真である。図6Bは、ドリル加工後のドリルビットの先端の写真(一例)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.概要
本実施形態に係る樹脂組成物は、(A)樹脂と、(B)無機フィラーと、を含有する。
【0014】
(B)成分は、(b1)無水炭酸マグネシウム及び(b2)酸化アルミニウムを含む。(b1)成分は、結晶水を持たないので耐熱性が高い。(b2)成分は、(b1)成分に比べて耐熱性が更に高い。そのため、(B)成分が(b1)成分及び(b2)成分を含むことで、樹脂組成物に耐熱性を付与することができる。
【0015】
(b1)成分の含有量は、(b1)成分及び(b2)成分の合計100体積%に対して、35体積%以上65体積%以下の範囲内である。(b1)成分は、(b2)成分に比べて軟らかい。(b2)成分は、(b1)成分に比べて球形に近い。そのため、(b1)成分の含有量を上記のように調整することで、樹脂組成物にドリル加工性及び成形性を付与することができる。
【0016】
(B)成分の含有量は、樹脂組成物100体積%に対して、60体積%以上75体積%以下の範囲内である。(B)成分は、(A)成分に比べて熱伝導性が高い。(A)成分は、(B)成分に比べて流動性が高い。そのため、(B)成分の含有量を上記のように調整することで、熱伝導性及び成形性を樹脂組成物に付与することができる。
【0017】
このように、本実施形態に係る樹脂組成物は、熱伝導性、ドリル加工性、耐熱性及び成形性を兼備する。
【0018】
2.詳細
2.1 樹脂組成物
本実施形態に係る樹脂組成物は、(A)樹脂と、(B)無機フィラーと、を含有する。本実施形態の効果を損なわない範囲で、樹脂組成物は、硬化剤、触媒、難燃剤、カップリング剤及び分散剤のうちの少なくともいずれかを更に含有してもよい。樹脂組成物は、常温で液状でも固形でもよい。ただし、いずれの場合であっても、加熱すると、最終的には硬化物となる。硬化物は、不溶不融の物質である。熱又は光により、樹脂組成物は、A-ステージからB-ステージを経てC-ステージに至って硬化物となる場合もあれば、B-ステージを経ないで、A-ステージから直ちにC-ステージに至って硬化物となる場合もある。なお、A-ステージ、B-ステージ及びC-ステージの定義は、JIS K6900-1944に基づく。本明細書では、B-ステージの物質を半硬化物といい、C-ステージの物質を硬化物という。
【0019】
2.1.1 (A)樹脂
(A)成分である樹脂は、モノマー及びプレポリマーのうちの少なくともいずれかを含む。プレポリマーにはオリゴマーが含まれる。(A)成分は、熱硬化性樹脂でも光硬化性樹脂でもよい。(A)成分の重合反応は特に限定されない。重合反応の具体例として、連鎖重合及び逐次重合が挙げられる。連鎖重合の代表例として、ラジカル重合が挙げられる。逐次重合の代表例として、重付加が挙げられる。
【0020】
(A)成分の具体例として、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、トリアジン樹脂、マレイミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、及び、1分子中にC-C不飽和結合を含む官能基を有するポリフェニレンエーテル樹脂が挙げられる。これらの樹脂には誘導体も含まれる。
【0021】
好ましくは、(A)成分である樹脂は、エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂のうちの少なくともいずれかを含む。エポキシ樹脂は、1分子中に2個以上のエポキシ環(オキシラン環)を含有する樹脂を含むことが好ましい。エポキシ樹脂は、液状でも固形でもよい。
【0022】
エポキシ樹脂の具体例として、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、アリールアルキレン型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格変性エポキシ樹脂、3官能エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ノルボルネン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、上記いずれかのエポキシ樹脂をハロゲン化した難燃化エポキシ樹脂、リン化合物で変性したエポキシ樹脂、エポキシ樹脂とポリフェニレンエーテル樹脂との予備反応生成物、及び、エポキシ樹脂と酸無水物との予備反応生成物が挙げられる。これらの樹脂の誘導体も含まれる。
【0023】
ビスフェノール型エポキシ樹脂には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びビスフェノールS型エポキシ樹脂が含まれる。これらの樹脂の誘導体も含まれる。
【0024】
ノボラック型エポキシ樹脂には、フェノールノボラック型エポキシ樹脂及びクレゾールノボラック型エポキシ樹脂が含まれる。これらの樹脂の誘導体も含まれる。
【0025】
アリールアルキレン型エポキシ樹脂には、ビフェニル型エポキシ樹脂、キシリレン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルジメチレン型エポキシ樹脂、トリスフェノールメタンノボラック型エポキシ樹脂及びテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂が挙げられる。これらの樹脂の誘導体も含まれる。
【0026】
ナフタレン骨格変性エポキシ樹脂には、ナフタレン型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格変性クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレンジオールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、メトキシナフタレン変性クレゾールノボラック型エポキシ樹脂及びメトキシナフタレンジメチレン型エポキシ樹脂が含まれる。これらの樹脂の誘導体も含まれる。
【0027】
フェノキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を直鎖状に高分子化した樹脂である。(A)成分がフェノキシ樹脂を含むと、樹脂フィルム1の屈曲性を向上させることができる。
【0028】
(A)成分は、液状樹脂(例えば液状のエポキシ樹脂)を含むことが好ましい。この場合、液状樹脂の含有量は、全有機成分100質量部に対して、好ましくは4質量部以上、より好ましくは10質量部以上である。液状樹脂の含有量が4質量部以上であることで、樹脂フィルム1の屈曲性を向上させることができる。なお、全有機成分とは、樹脂組成物から(B)成分である無機フィラーを除いた残りの成分を意味する。液状樹脂の含有量の上限値は特に限定されないが、全有機成分100質量部に対して、好ましくは90質量部以下であり、より好ましくは80質量部以下である。
【0029】
2.1.2 (B)無機フィラー
(B)成分である無機フィラーは、(b1)無水炭酸マグネシウム及び(b2)酸化アルミニウムを含む。好ましくは、(B)成分は、(b3)モリブデン化合物が担持された無機物を更に含む。
【0030】
(b1)成分である無水炭酸マグネシウムは、結晶水を持たない炭酸マグネシウム(無水物)である。(b1)成分は、無水炭酸マグネシウムの粒子の集合体である。無水炭酸マグネシウムの粒子の形状は、例えば、多面体状であるが、好ましくは丸みを帯びた形状である。一般に炭酸マグネシウムは、無水和物、二水和物、三水和物又は五水和物をとるが、無水物である無水炭酸マグネシウムは、結晶水を持たないため、熱安定性に優れている。そのため、(B)成分が(b1)成分を含むことで、樹脂組成物の耐熱性を向上させることができる。
【0031】
逆に言えば、炭酸マグネシウムの水和物は、耐熱性低下の原因となり得るので、好ましくは(B)成分は、炭酸マグネシウムの水和物を実質的に含まない。実質的に含まないとは、意図的に水和物を含ませないことを意味する。不可避的であれば微量の水和物が不純物として(B)成分に含まれていてもよい。
【0032】
(b1)成分である無水炭酸マグネシウムは、無機物としては比較的高い熱伝導率を有する。したがって、(B)成分が(b1)成分を含むことで、樹脂組成物の熱伝導性を向上させることができる。
【0033】
(b1)成分である無水炭酸マグネシウムは、軟らかい結晶であるため、ドリル加工に伴うドリルの摩耗を抑制することができる。つまり、(B)成分が(b1)成分を含むことで、樹脂組成物のドリル加工性を向上させることができる。なお、(B)成分の硬度の指標としてモース硬度を用いることができる。
【0034】
好ましくは、(b1)成分である無水炭酸マグネシウムは、カップリング剤で表面処理されている。このように(b1)成分がカップリング剤で表面処理されていると、有機材料である(A)成分と、無機材料である(B)成分(この場合は特に(b1)成分)との密着性を向上させることができる。カップリング剤の具体例については後述する。
【0035】
好ましくは、(b1)成分である無水炭酸マグネシウムの平均粒子径は、8μm以上20μm以下の範囲内である。平均粒子径とは、累積分布50体積%のときの粒径、つまりメジアン径(D50)を意味する。平均粒子径は、レーザー回折・散乱法に基づいて測定可能である。(b1)成分の平均粒子径が8μm以上であることで、(A)成分である樹脂との接触面積が減少し、熱伝導性の低下を抑制することができる。(b1)成分の平均粒子径が20μm以下であることで、樹脂組成物の硬化物の絶縁性の低下を抑制することができる。
【0036】
(b2)成分である酸化アルミニウムは、工業的にはアルミナともいう。(b2)成分は、酸化アルミニウムの粒子の集合体である。(b2)成分は、(b1)成分に比べて高い熱伝導率及び耐熱性を有するので、樹脂組成物の熱伝導性及び耐熱性を向上させることができる。
【0037】
好ましくは、(b2)成分である酸化アルミニウムの形状、すなわち(b2)成分を構成する粒子の形状は、丸みを帯びた形状である。丸みを帯びた形状とは、とがって突出した部分を有しない形状を意味する。例えば、丸みを帯びた形状には、球状及び回転楕円体状が含まれるが、板状、多面体状、直方体状、棒状、針状及び鱗片状は含まれない。(b2)成分を構成する粒子が丸みを帯びていると、常温で液状の樹脂組成物、又は、加熱して液状となる樹脂組成物の流動性が向上するので、成形性(特に回路充填性)を向上させることができる。ここで、回路充填性とは、隣り合う導体配線間の隙間を樹脂組成物で充填する場合の、樹脂組成物の充填しやすさを意味する。
【0038】
(b2)成分である酸化アルミニウムは硬度が大きいので、平均粒子径は小さいほど好ましい。具体的には、(b2)成分の平均粒子径は、1μm以下であることが好ましい。このように(b2)成分の平均粒子径が1μm以下であることで、樹脂組成物のドリル加工性の低下を抑制することができる。なお、(b2)成分の平均粒子径の下限値は0.1μmである。
【0039】
好ましくは、(b2)成分である酸化アルミニウムは、カップリング剤で表面処理されている。このように(b2)成分がカップリング剤で表面処理されていると、有機材料である(A)成分と、無機材料である(B)成分(この場合は特に(b2)成分)との密着性を向上させることができる。カップリング剤の具体例については後述する。
【0040】
(b1)成分である無水炭酸マグネシウムの含有量は、(b1)成分及び(b2)成分の合計100体積%に対して、35体積%以上65体積%以下の範囲内である。なお、(b1)成分の体積は、(b1)成分を構成する各粒子自身の体積の合計体積である。同様に(b2)成分の体積は、(b2)成分を構成する各粒子自身の体積の合計体積である。
【0041】
(b1)成分である無水炭酸マグネシウムの含有量が35体積%未満であると、相対的に(b2)成分である酸化アルミニウムの含有量が多くなる。(b2)成分は硬度が大きいので、(b2)成分の含有量が多くなると、樹脂組成物のドリル加工性が低下しやすくなる。
【0042】
(b1)成分である無水炭酸マグネシウムの含有量が65体積%を超えると、相対的に(b2)成分である酸化アルミニウムの含有量が少なくなる。(b1)成分の形状(粒子の形状)が丸みを帯びていない形状(例えば多面体状)であれば、(b1)成分の含有量が多くなると、たとえ(b2)成分の形状(粒子の形状)が丸みを帯びた形状であったとしても、樹脂組成物の成形性が低下しやすくなる。
【0043】
(B)成分である無機フィラーの含有量は、樹脂組成物(溶剤を除く)100体積%に対して、60体積%以上75体積%以下の範囲内である。なお、(B)成分の体積は、(B)成分を構成する各粒子自身の体積の合計体積を意味する。
【0044】
(B)成分である無機フィラーは、(A)成分である樹脂に比べて高い熱伝導性及び耐熱性を有するが、(B)成分の含有量が60体積%未満であると、熱伝導性及び耐熱性の低い(A)成分の含有量が相対的に多くなる。したがって、樹脂組成物の熱伝導性及び耐熱性が低下するおそれがある。
【0045】
常温又は加熱時において(A)成分である樹脂は、(B)成分である無機フィラーに比べて高い流動性を有するが、(B)成分の含有量が75体積%を超えると、流動性の高い(A)成分の含有量が相対的に少なくなる。したがって、樹脂組成物の成形性が低下するおそれがある。
【0046】
好ましくは、(b1)成分である無水炭酸マグネシウムの平均粒子径は、(b2)成分である酸化アルミニウムの平均粒子径よりも大きい。このように、(b1)成分及び(b2)成分の平均粒子径が異なっていることで、同じ場合に比べて、(b1)成分及び(b2)成分を密に充填することができる。そうすると、(b1)成分及び(b2)成分を構成する粒子同士が近接して熱伝導パスが形成されやすくなるので、樹脂組成物の熱伝導性を向上させることができる。特に好ましくは、(b1)成分の平均粒子径が8μm以上20μm以下の範囲内であり、かつ、(b2)成分の平均粒子径が1μm以下である。この場合、樹脂組成物の熱伝導性を更に向上させることができる。
【0047】
好ましくは、(B)成分である無機フィラーは、(b3)モリブデン化合物が担持された無機物を更に含む。担体である無機物は、無機物粒子の集合体である。各無機物粒子の表面にモリブデン化合物が担持されている。言い換えると、各無機物粒子の表面の全部又は一部にモリブデン化合物が付着している。より詳しくは、各無機物粒子の表面の全部にモリブデン化合物が付着している一例として、各無機物粒子の表面全体がモリブデン化合物の層で被覆されていることが挙げられる。また、各無機物粒子の表面の一部にモリブデン化合物が付着している一例として、各無機物粒子の表面にモリブデン化合物が点在していることが挙げられる。
【0048】
担体である無機物は、特に限定されない。無機物には、炭酸塩、金属酸化物、ケイ酸塩及び金属水酸化物が含まれる。炭酸塩の具体例として、炭酸カルシウムが挙げられる。金属酸化物の具体例として、酸化亜鉛が挙げられる。ケイ酸塩の具体例として、タルクが挙げられる。金属水酸化物の具体例として、水酸化マグネシウムが挙げられる。
【0049】
モリブデン化合物は、特に限定されない。モリブデン化合物の具体例として、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸マグネシウム、三酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸バリウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、リンモリブデン酸、リンモリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸ナトリウム、ケイモリブデン酸、ホウ化モリブデン、ニケイ化モリブデン、窒化モリブデン及び炭化モリブデンが挙げられる。これらの中では、化学的安定性、耐湿性及び絶縁性の観点から、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カルシウム及びモリブデン酸マグネシウムが好ましい。
【0050】
(B)成分である無機フィラーが(b3)成分を更に含む場合、無機物にモリブデン化合物が担持されているので、樹脂組成物のドリル加工性を更に向上させることができる。特に、担体である無機物の中ではタルクが最も軟らかいので、(b3)成分が、モリブデン化合物が担持されたタルクであれば、樹脂組成物のドリル加工性を更に向上させることができる。
【0051】
(B)成分である無機フィラーが(b3)成分を更に含む場合、好ましくは(b3)成分の含有量は、(b1)成分、(b2)成分及び(b3)成分の合計100体積%に対して、10体積%以下である。(b1)成分及び(b2)成分に比べて(b3)成分の耐熱性が低い場合があり得る。そのため、(b3)成分の含有量が10体積%以下であることで、樹脂組成物の耐熱性の低下を抑制することができる。なお、(b3)成分の体積は、(b3)成分を構成する各粒子自身の体積の合計体積である。
【0052】
2.1.3 硬化剤
(A)成分である樹脂がエポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂のうちの少なくともいずれかを含む場合、樹脂組成物は硬化剤を更に含有することが好ましい。硬化剤は、特に限定されないが、例えば、ジシアンジアミド、フェノール樹脂、リン含有フェノール樹脂、酸無水物及びシアン酸エステルが挙げられる。これらの中では、樹脂フィルム1の屈曲性の観点から、ジシアンジアミドが好ましい。
【0053】
フェノール樹脂は、1分子中に2個以上のヒドロキシ基を含有する樹脂であれば、特に限定されない。
【0054】
リン含有フェノール樹脂は、1分子中に2個以上のヒドロキシ基及び1個以上のリン原子を含有する樹脂であれば、特に限定されない。樹脂組成物が硬化剤としてリン含有フェノール樹脂を更に含有することで、樹脂組成物の難燃性を向上させることができる。
【0055】
フェノール樹脂及びリン含有フェノール樹脂の合計含有量は、屈曲性の観点から、全有機成分100質量部に対して、好ましくは40質量部以下であり、より好ましくは30質量部以下である。
【0056】
2.1.4 触媒
樹脂組成物が硬化剤を含有する場合、触媒を更に含有することが好ましい。触媒は、(A)成分と硬化剤との反応を促進し得る。触媒は、特に限定されないが、例えば、有機酸の金属塩(金属石鹸など)、第三級アミン及びイミダゾール類が挙げられる。
【0057】
有機酸の金属塩には、オクタン酸、ステアリン酸、アセチルアセトネート、ナフテン酸、サリチル酸及びオクチル酸等の有機酸の、Zn,Cu,Fe等の金属塩が含まれる。有機酸の金属塩の一例として、オクチル酸亜鉛(ビス(2-エチルヘキサン酸)亜鉛)が挙げられる。
【0058】
第三級アミンには、トリエチルアミン及びトリエタノールアミンが含まれる。
【0059】
イミダゾール類には、2-エチル-4-メチルイミダゾール及び4-メチルイミダゾールが含まれる。
【0060】
上記の中では、より高い耐熱性を樹脂組成物に付与し得るとの観点から、有機酸の金属塩(特にオクチル酸亜鉛)が好ましい。
【0061】
2.1.5 難燃剤
難燃剤は、特に限定されない。有機系難燃剤でも無機系難燃剤でもよい。
【0062】
有機系難燃剤の具体例として、ハロゲン化合物及びリン化合物が挙げられる。リン化合物には、リン酸エステル系難燃剤、ホスファゼン系難燃剤、ビスジフェニルホスフィンオキサイド系難燃剤及びホスフィン酸塩系難燃剤が含まれる。リン酸エステル系難燃剤には、ジキシレニルホスフェートの縮合リン酸エステルが含まれる。ホスファゼン系難燃剤には、フェノキシホスファゼンが含まれる。ビスジフェニルホスフィンオキサイド系難燃剤には、キシリレンビスジフェニルホスフィンオキサイドが含まれる。ホスフィン酸塩系難燃剤には、ジアルキルホスフィン酸アルミニウム塩のホスフィン酸金属塩が含まれる。
【0063】
無機系難燃剤の具体例として、金属水酸化物が挙げられる。
【0064】
樹脂組成物が難燃剤を更に含有することで、樹脂組成物の難燃性を向上させることができる。
【0065】
2.1.6 カップリング剤
カップリング剤は、1分子内に、無機材料と化学結合する反応基と、有機材料と化学結合する反応基と、を有するものであれば、特に限定されない。無機材料と化学結合する反応基の具体例として、エトキシ基及びメトキシ基が挙げられる。有機材料と化学結合する反応基の具体例として、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、ヒドロキシ基、フェノール性ヒドロキシ基及び酸無水物基が挙げられる。
【0066】
カップリング剤には、シランカップリング剤が含まれる。シランカップリング剤は、例えば、エポキシシラン、アミノシラン、イソシアネートシラン及び酸無水物シランを含む。エポキシシランの具体例として、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及び3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランが挙げられる。アミノシランの具体例として、3-アミノプロピルトリエトキシシランが挙げられる。イソシアネートシランの具体例として、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
【0067】
樹脂組成物がカップリング剤を更に含有することで、有機材料と無機材料との密着性を向上させることができる。
【0068】
2.1.7 分散剤
分散剤は、界面活性剤の一種であり、特に限定されない。樹脂組成物が分散剤を更に含有することで、(B)成分を均一な分散状態にすることができる。
【0069】
2.1.8 樹脂組成物の調製方法
本実施形態に係る樹脂組成物は、(A)樹脂及び(B)無機フィラーを配合し、必要に応じて硬化剤、難燃剤、触媒、カップリング剤及び分散剤のうちの少なくともいずれかを更に配合することによって調製することができる。(A)成分が常温で固形である場合には溶媒を更に配合することが好ましい。溶媒は、少なくとも(A)成分を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、メチルエチルケトンが挙げられる。(A)成分が常温で液状である場合には溶媒を更に配合しなくてもよい。
【0070】
(A)成分である樹脂と(B)成分である無機フィラーとを配合する前に、カップリング剤で(B)成分を表面処理してもよい。表面処理は、湿式処理法でも乾式処理法でもよい。
【0071】
(A)成分と(B)成分とを配合する際に、カップリング剤を配合してもよい。これはインテグラルブレンド法と呼ばれている。インテグラルブレンド法を使用して樹脂組成物を調製し、この樹脂組成物を用いて樹脂付き金属箔2、金属張積層板4及びプリント配線板5を製造すると、次のような利点もある。すなわち、樹脂付き金属箔2における樹脂層20と金属箔21との密着性、金属張積層板4における絶縁層40と金属箔41との密着性、及び、プリント配線板5における絶縁層50と導体層51との密着性も向上させることができる。
【0072】
上記のように調製して得られた樹脂組成物は、熱伝導性、ドリル加工性、耐熱性及び成形性を兼備する。
【0073】
2.2 樹脂フィルム
本実施形態に係る樹脂フィルム1は、図1に示すように、樹脂組成物又はその半硬化物を含むフィルム10を備える。
【0074】
ここで、樹脂組成物を含むフィルム10とは、樹脂組成物に含有されている(A)成分が連鎖重合(例えばラジカル重合)するようなフィルムを意味する。すなわち、この場合の樹脂フィルム1は、もともとB-ステージの状態にはなく、熱又は光により、C-ステージに至って硬化物となる。
【0075】
一方、樹脂組成物の半硬化物を含むフィルム10とは、樹脂組成物に含有されている(A)成分が逐次重合(例えば重付加)するようなフィルムを意味する。すなわち、この場合の樹脂フィルム1は、もともとB-ステージの状態にあり、熱により、C-ステージに至って硬化物となる。
【0076】
樹脂フィルム1は、例えば、支持フィルム(不図示)に液状の樹脂組成物を塗布した後、乾燥させて樹脂組成物中の溶媒を除去したり、又は、加熱して樹脂組成物を半硬化物にしたりすることによって製造することができる。樹脂フィルム1は、支持フィルムから剥離して使用される。支持フィルムの具体例として、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが挙げられる。
【0077】
樹脂フィルム1の硬化物は、例えば、金属張積層板4の絶縁層40、及び、プリント配線板5の絶縁層50を形成し得る。
【0078】
樹脂フィルム1の厚さは特に限定されないが、例えば50μm以上200μm以下の範囲内である。
【0079】
樹脂フィルム1は、本実施形態に係る樹脂組成物を含んでいるので、熱伝導性、ドリル加工性、耐熱性及び成形性を兼備する。
【0080】
2.3 樹脂付き金属箔
本実施形態に係る樹脂付き金属箔2は、図2に示すように、樹脂層20と、金属箔21と、を備える。樹脂層20は、樹脂組成物又はその半硬化物を含む。金属箔21は、樹脂層20に接着されている。
【0081】
ここで、樹脂層20が樹脂組成物を含む場合とは、(A)成分が連鎖重合(例えばラジカル重合)する場合を意味する。すなわち、この場合の樹脂層20は、もともとB-ステージの状態にはなく、熱又は光により、C-ステージに至って硬化物となる。
【0082】
一方、樹脂層20が樹脂組成物の半硬化物を含む場合とは、(A)成分が逐次重合(例えば重付加)する場合を意味する。すなわち、この場合の樹脂層20は、もともとB-ステージの状態にあり、熱により、C-ステージに至って硬化物となる。
【0083】
樹脂付き金属箔2は、例えば、金属箔21に液状の樹脂組成物を塗布した後、乾燥させて樹脂組成物中の溶媒を除去したり、又は、加熱して樹脂組成物を半硬化物にしたりすることによって製造することができる。
【0084】
樹脂付き金属箔2の樹脂層20の硬化物は、例えば、金属張積層板4の絶縁層40、及び、プリント配線板5の絶縁層50を形成し得る。
【0085】
樹脂付き金属箔2は、本実施形態に係る樹脂組成物を含んでいるので、熱伝導性、ドリル加工性、耐熱性及び成形性を兼備する。
【0086】
2.4 プリプレグ
本実施形態に係るプリプレグ3は、図3に示すように、樹脂層30と、基材31と、を備える。樹脂層30は、樹脂組成物又はその半硬化物を含む。基材31は、樹脂層30に埋設されている。基材31の少なくとも一部が樹脂層30から露出していてもよい。
【0087】
ここで、樹脂層30が樹脂組成物を含む場合とは、(A)成分が連鎖重合(例えばラジカル重合)する場合を意味する。すなわち、この場合のプリプレグ3は、もともとB-ステージの状態にはなく、熱又は光により、C-ステージに至って硬化物となる。
【0088】
一方、樹脂層30が樹脂組成物の半硬化物を含む場合とは、(A)成分が逐次重合(例えば重付加)する場合を意味する。すなわち、この場合のプリプレグ3は、もともとB-ステージの状態にあり、熱により、C-ステージに至って硬化物となる。
【0089】
プリプレグ3は、例えば、基材31に液状の樹脂組成物を含浸させた後、乾燥させて樹脂組成物中の溶媒を除去したり、又は、加熱して樹脂組成物を半硬化物にしたりすることによって製造することができる。基材31の具体例として、ガラスクロスが挙げられる。
【0090】
プリプレグ3の硬化物は、例えば、金属張積層板4の絶縁層40、及び、プリント配線板5の絶縁層50を形成し得る。
【0091】
プリプレグ3は、本実施形態に係る樹脂組成物を含んでいるので、熱伝導性、ドリル加工性、耐熱性及び成形性を兼備する。
【0092】
2.5 金属張積層板
本実施形態に係る金属張積層板4は、図4に示すように、絶縁層40と、金属箔41と、を備える。絶縁層40は、樹脂組成物の硬化物を含む。金属箔41は、絶縁層40に接着されている。
【0093】
金属箔41の具体例として銅箔が挙げられる。金属箔41の厚さは特に限定されないが、好ましくは12μm以上420μm以下の範囲内であり、より好ましくは18μm以上210μm以下の範囲内である。金属箔41の十点平均粗さRzjisも特に限定されないが、好ましくは3μm以上であり、より好ましくは5μm以上である。金属箔41の十点平均粗さRzjisが3μm以上であれば、絶縁層40と金属箔41との密着性を更に向上させることができる。
【0094】
金属張積層板4は、例えば、1枚のプリプレグ3又は2枚以上のプリプレグ3からなる積層体の片面又は両面に金属箔41を重ねて加熱加圧することによって製造することができる。好ましくは、積層体に金属箔41を重ねる前に、金属箔41の表面(少なくともプリプレグ3に重なる面)をカップリング剤で処理する。このように金属箔41がカップリング剤で表面処理されていると、カップリング剤が、プリプレグ3中の有機材料と金属箔41とを結合することで、絶縁層40と金属箔41との密着性を更に向上させることができる。カップリング剤は、上述のものが使用可能である。加熱加圧の条件は特に限定されない。図4は、絶縁層40中に2枚の基材31を有する金属張積層板4を示している。
【0095】
金属張積層板4は、本実施形態に係る樹脂組成物を含んでいるので、熱伝導性、ドリル加工性及び耐熱性を兼備する。
【0096】
2.6 プリント配線板
本実施形態に係るプリント配線板5は、図5に示すように、絶縁層50と、導体層51と、を備える。絶縁層50は、樹脂組成物の硬化物を含む。導体層51は、絶縁層50に接着されている。導体層51とは、信号層、電源層及びグラウンド層などの導電性がある層をいう。なお、プリント配線板5は、3層以上の導体層51を備える多層プリント配線板を含む概念である。特に図5は、4層の導体層51を備える多層プリント配線板を示している。
【0097】
プリント配線板5は、例えば、上述の金属張積層板4を材料としてサブトラクティブ法を使用することにより製造することができる。ビルドアップ法を使用してプリント配線板5を多層化してもよい。
【0098】
プリント配線板5は、本実施形態に係る樹脂組成物を含んでいるので、熱伝導性、ドリル加工性及び耐熱性を兼備する。
【実施例
【0099】
以下、本開示を実施例によって具体的に説明するが、本開示は実施例に限定されない。
【0100】
[原材料]
各実施例及び比較例の樹脂組成物の原材料として以下のものを用いた。
【0101】
(A)樹脂
・DIC株式会社製、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂、品名「850-S」
・DIC株式会社製、ナフタレン型エポキシ樹脂、品名「HP-4710」
・DIC株式会社製、ナフタレン型液状エポキシ樹脂、品名「HP-4032D」
・株式会社プリンテック製、3官能エポキシ樹脂、品名「VG3101L」
・新日鉄住金化学株式会社製、フェノキシ樹脂、品名「YP-50」
(B)無機フィラー
(b1)無水炭酸マグネシウム
・神島化学工業株式会社製、合成マグネサイト、品名「MSL」、平均粒子径8μm、多面体状
(b2)酸化アルミニウム
・株式会社アドマテックス製、高純度合成球状「アルミナ」、品名「AO-502」、平均粒子径0.7μm、球状
・住友化学株式会社製、アルミナ、品名「AES-11C」、平均粒子径0.39μm、丸みを帯びた形状
・Huber社製、モリブデン酸カルシウム亜鉛化合物、品名「Kemgard 911A」、平均粒子径2.7μm
(その他の無機フィラー)
・神島化学工業株式会社製、炭酸マグネシウム(水和物)、品名「GP-30」、平均粒子径6μm
(硬化剤)
・ジシアンジアミド、別名「DICY」
・ダウケミカルカンパニー製、リン含有フェノール樹脂、品名「XZ-92741」
・明和化成株式会社製、フェノール樹脂、品名「MEH-7600-4H」
(難燃剤)
・大八化学工業株式会社製、リン酸エステル、品名「PX-200」
(触媒)
・DIC株式会社製、オクチル酸亜鉛(ビス(2-エチルヘキサン酸)亜鉛)、品名「Zn-OCTOATE 20%T」
(カップリング剤)
・モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、品名「A-187」
・モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、品名「A-1871」
(分散剤)
・ビックケミー・ジャパン株式会社製、湿潤分散剤、品名「BYK-W903」
[樹脂組成物]
上記の原材料を表1及び表2に示す組成で配合し、この配合物を、固形分が80~95質量%となるように、溶媒であるメチルエチルケトン及びジメチルホルムアミドに溶解又は分散させ、プラネタリーミキサーで攪拌することによって、各実施例及び比較例の樹脂組成物を含むワニスを調製した。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
[樹脂フィルム]
支持フィルムであるPETフィルムに上記のワニスを塗布した後、約150℃で4~5分加熱して樹脂組成物を半硬化物にすることによって樹脂フィルムを製造した。
【0105】
[プリプレグ]
基材として、ガラスクロス(南亜製「#7628」)を用い、このガラスクロスに上記のワニスを室温で含浸させ、その後、非接触タイプの加熱ユニットにより、約150℃で4~5分加熱することにより、ワニス中の溶媒を乾燥除去し、樹脂組成物を半硬物にすることによってプリプレグを製造した。プリプレグの樹脂含有量は、50質量%となるように調整した。
【0106】
[銅張積層板]
4枚の上記のプリプレグを2枚の銅箔(厚さ35μm)の粗化面の間に挟んで195℃、2.94MPa(30kgf/cm)で90分間加熱加圧成形することで、絶縁層全体の厚さが800μmの銅張積層板(CCL)を製造した。
【0107】
[評価試験]
(屈曲性)
上記の樹脂フィルムを直径10mm及び直径100mmのSUS棒にそれぞれ巻き付けたときのクラックの発生状況を目視により確認した。樹脂フィルムを巻き付けるときの屈曲角度は180°とした。以下の基準で評価した。
【0108】
A:直径10mm及び直径100mm共にクラックなし
B:直径10mmではクラックあり、直径100mmではクラックなし
C:直径10mm及び直径100mm共にクラックあり
(成形性)
銅張積層板(パナソニック株式会社製、品番「R-1566」)の両面の銅箔に対して、それぞれ残銅率が20%、50%、80%となるように格子状パターンの導体配線を形成することによって、プリント配線板を得た。このプリント配線板の両面の導体配線上の各々に、上記の樹脂フィルムを1枚積層し、200℃、2.94MPa(30kgf/cm)の圧力下で60分間加熱加圧することによって、積層体を得た。この積層体中のボイドの有無を目視により確認した。各残銅率について、以下の基準で評価した。
【0109】
A:ボイドなし
B:ボイドあり
(熱伝導性)
上記の銅箔張積層板の熱拡散率(α)をレーザーフラッシュ法によりを測定した。また銅箔張積層板の比熱(Cp)をDSC(示差走査熱量測定)法により測定した。さらに銅箔張積層板の密度(ρ)を水中置換法により測定した。これらの測定値を用いて下記式により熱伝導率(λ)を算出した。
【0110】
λ(W/m・K)=α(m/s)×Cp(J/kg・K)×ρ(kg/m
(ドリル加工性)
上記の銅張積層板を2枚重ね、これをエントリーボードとバックアップボードとの間に挟んだ後、ドリル加工機に取り付けられたドリルビットによって穴あけを行った。ドリル加工の条件は、以下のとおりである。
【0111】
エントリーボード:アルミニウム板(厚さ0.15mm)
バックアップボード:ベークライト板(厚さ1.6mm)
ドリルビット:ユニオンツール株式会社製「NHU-L020」(刃径0.3mm、刃長5.5mm)
回転数:160000rpm
送り速度:3.2m/min
チップロード:20μm/rev
ヒット数:3000
そして、以下の式により、ドリル摩耗率(W)を算出した。
【0112】
W=(S1-S2)×100/S1
S1:ドリル加工前の刃部の面積
S2:ドリル加工後の刃部の面積
なお、刃部は、切削に直接あずかる部分である。刃部の面積は、ドリルビットを先端から撮影して得られた画像における刃部の面積である。図6Aは、ドリル加工前のドリルビットの先端の写真である。S1は、図6A中、実線で囲まれた部分の面積である。図6Bは、ドリル加工後のドリルビットの先端の写真である。S2は、図6B中、実線で囲まれた部分の面積である。
【0113】
(耐熱性)
上記の銅張積層板を5cm角の大きさに切り出して試料とした。この試料を250℃及び270℃のオーブンにそれぞれ1時間ずつ入れて、膨れの有無を目視により確認した。膨れとは、試料における絶縁層同士の間又は絶縁層と銅箔との間に生じる部分的に隆起した剥がれを意味し、層間剥離の一形態である。以下の基準で評価した。
【0114】
A:250℃及び270℃で膨れなし
B:250℃で膨れなし、かつ、270℃で膨れあり
C:250℃及び270℃で膨れあり
以上の試験結果を表3及び表4に示す。
【0115】
【表3】
【0116】
【表4】
【符号の説明】
【0117】
1 樹脂フィルム
10 フィルム
2 樹脂付き金属箔
20 樹脂層
21 金属箔
3 プリプレグ
30 樹脂層
31 基材
4 金属張積層板
40 絶縁層
41 金属箔
5 プリント配線板
50 絶縁層
51 導体層
図1
図2
図3
図4
図5
図6