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特許7209270厚み計測方法及び厚み計測装置、並びに欠陥検出方法及び欠陥検出装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-12
(45)【発行日】2023-01-20
(54)【発明の名称】厚み計測方法及び厚み計測装置、並びに欠陥検出方法及び欠陥検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 21/08 20060101AFI20230113BHJP
   G01B 21/30 20060101ALI20230113BHJP
   G01J 5/48 20220101ALI20230113BHJP
   G01N 21/88 20060101ALN20230113BHJP
【FI】
G01B21/08
G01B21/30
G01J5/48 A
G01N21/88 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020571056
(86)(22)【出願日】2020-01-15
(86)【国際出願番号】 JP2020001048
(87)【国際公開番号】W WO2020162121
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2019019833
(32)【優先日】2019-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(74)【代理人】
【識別番号】100199314
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 寛
(72)【発明者】
【氏名】入江 庸介
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕嗣
(72)【発明者】
【氏名】坂本 耕太郎
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/130251(WO,A1)
【文献】K. BRUGGER,Exact Solutions for the Temperature Rise in a Laser-Heated Slab,Journal of Applied Physics,1972年,Vol.43, No.2,pp.577-583
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 21/00-21/32
G01J 5/48
G01N 21/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象物の厚みを計測する厚み計測方法であって、
加熱装置により前記計測対象物の表面を、点状に加熱するステップと、
撮影装置により所定時間間隔において、加熱された点状の加熱位置を含む前記計測対象物の表面を撮影して前記計測対象物の表面の温度に応じた熱画像を生成するステップと、
前記撮影装置により生成された熱画像に基づいて、前記計測対象物の表面上の複数の位置における温度の経時変化を示す温度データを取得するステップと、
前記計測対象物の厚みに関連したパラメータを含む、点熱源に応じた熱伝導方程式の解を示す解関数を前記温度データにフィッティングするステップと、
フィッティングされた解関数に含まれる前記パラメータの値に基づいて、前記計測対象物の厚みを算出するステップと、
を備え
前記温度データは、前記表面上において前記点状の加熱位置からの距離が互いに異なる複数の位置における各々の温度の経時変化を示す
厚み計測方法。
【請求項2】
前記解関数は、前記表面上で加熱された位置からの距離に対応する第1の引数と、加熱された時間に対応する第2の引数とを有し、
前記第1及び第2の引数にわたってフィッティングされた解関数に含まれるパラメータの値に基づいて、前記計測対象物の熱拡散率を算出するステップをさらに備える、
請求項1に記載の厚み計測方法。
【請求項3】
前記温度データは、前記表面上で加熱された位置からの距離が異なる複数の位置における温度の経時変化を含む、
請求項1又は2に記載の厚み計測方法。
【請求項4】
前記加熱装置による前記計測対象物の表面の加熱を、ステップ状に開始し、
前記計測対象物の加熱開始と同時に、前記撮影装置により、前記計測対象物の表面の撮影を開始して、前記熱画像の生成を開始する、
請求項1に記載の厚み計測方法。
【請求項5】
前記解関数は、少なくとも3つの独立したパラメータを含む、
請求項1に記載の厚み計測方法。
【請求項6】
前記解関数は下記(1)式で表され、
【数1】
T(r,t)は前記計測対象物の表面の温度[K]であり、rは前記表面上で加熱された位置からの距離[m]であり、Lは厚みの初期値[m]であり、Lは前記計測対象物の厚み[m]であり、tは時間[s]であり、Foはフーリエ数であり、A,B,Cはそれぞれ前記パラメータであり、
3つの前記パラメータA,B,Cはそれぞれ下記(2)式、(3)式及び(4)式で表され、
【数2】
qは単位時間当たりの熱量[W]であり、kは前記計測対象物の熱伝導率[W/(m・K)]であり、αは前記計測対象物の熱拡散率[m/s]であり、αは熱拡散率の初期値[m/s]である、
請求項5に記載の厚み計測方法。
【請求項7】
前記パラメータは、非線形最小二乗法を用いて残差が最小となるようにフィッティングを行うことにより求められる、
請求項1~5の何れか1項に記載の厚み計測方法。
【請求項8】
計測対象物の厚みを計測する厚み計測装置であって、
所定時間間隔において、加熱された点状の加熱位置を含む前記計測対象物の表面を撮影して生成された熱画像を入力する入力部と、
前記熱画像に基づいて、前記計測対象物の厚みを求める演算を行う演算部と、を備え、
前記演算部は、
前記熱画像に基づいて、前記計測対象物の表面上の複数の位置における温度の経時変化を示す温度データを取得し、
前記温度データが示す、前記表面上において前記点状の加熱位置からの距離が互いに異なる複数の位置における各々の温度の経時変化に応じて、前記計測対象物の厚みに関連したパラメータを含む、点熱源に応じた熱伝導方程式の解を示す解関数を前記温度データにフィッティングし、
フィッティングされた解関数に含まれる前記パラメータの値に基づいて、前記計測対象物の厚みを算出する、
厚み計測装置。
【請求項9】
計測対象物の厚みを計測する厚み計測システムであって、
前記計測対象物の表面を、点状に加熱する加熱装置と、
加熱された前記計測対象物の表面を撮影して前記計測対象物の表面の温度に応じた熱画像を生成する撮影装置と、
前記熱画像に基づいて前記計測対象物の厚みを計測する請求項8に記載の厚み計測装置と、
を備える厚み計測システム。
【請求項10】
検査対象物の内部の欠陥の深さを計測する欠陥検出方法であって、
加熱装置により前記検査対象物の表面を、点状に加熱するステップと、
撮影装置により所定時間間隔において、加熱された点状の加熱位置を含む前記検査対象物の表面を撮影して前記検査対象物の表面の温度に応じた熱画像を生成するステップと、
前記熱画像に基づいて、前記検査対象物の表面上の複数の位置における温度の経時変化を示す温度データを取得するステップと、
前記検査対象物の欠陥の深さに関連したパラメータを含む、点熱源に応じた熱伝導方程式の解を示す解関数を前記温度データにフィッティングするステップと、
フィッティングされた解関数に含まれる前記パラメータの値に基づいて、前記検査対象物の欠陥の深さを算出するステップと、
を備え
前記温度データは、前記表面上において前記点状の加熱位置からの距離が互いに異なる複数の位置における各々の温度の経時変化を示す
欠陥検出方法。
【請求項11】
検査対象物の内部の欠陥の深さを計測する欠陥検出装置であって、
所定時間間隔において、加熱された点状の加熱位置を含む前記検査対象物の表面を撮影して生成された熱画像を入力する入力部と、
前記熱画像に基づいて、前記検査対象物の欠陥の深さを求める演算を行う演算部と、を備え、
前記演算部は、
前記熱画像に基づいて、前記検査対象物の表面上の複数の位置における温度の経時変化を示す温度データを取得し、
前記温度データが示す、前記表面上において前記点状の加熱位置からの距離が互いに異なる複数の位置における各々の温度の経時変化に応じて、前記検査対象物の欠陥の深さに関連したパラメータを含む、点熱源に応じた熱伝導方程式の解を示す解関数を前記温度データにフィッティングし、
フィッティングされた解関数に含まれる前記パラメータの値に基づいて、前記検査対象物の欠陥の深さを算出する、
欠陥検出装置。
【請求項12】
検査対象物の内部の欠陥の深さを計測する欠陥検出システムであって、
前記検査対象物の表面を、点状に加熱する加熱装置と、
加熱された前記検査対象物の表面を撮影して前記検査対象物の表面の温度に応じた熱画像を生成する撮影装置と、
前記熱画像に基づいて前記検査対象物の内部の欠陥の深さを計測する請求項11に記載の欠陥検出装置と、
を備える欠陥検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、計測対象物の厚みを計測する方法及び装置、並びに検査対象物の欠陥を検出する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、赤外線サーモグラフィ法を用いて、構造物(検査対象物)内部の剥離又は空洞等の欠陥の表面からの深さを計測することが可能な欠陥診断方法(欠陥検出方法)を開示する。赤外線サーモグラフィ法は、構造物内部の剥離や空洞などの欠陥の断熱性によって熱の移動が妨げられることで生じる表面温度の変化を赤外線カメラ(撮影装置)で捉えることにより、欠陥の深さを検知する方法である。赤外線サーモグラフィ法では、構造物内部に熱の移動を生じさせるために構造物に対する加熱又は冷却が必要である。加熱/冷却の方法としては、ヒーター又はランプ等の加熱装置を用いるアクティブ法と、日射や自然空冷を用いるパッシブ法とがある。
【0003】
なお、構造物(検査対象物)内部の欠陥深さを計測する上記欠陥診断方法(欠陥検出方法)は、計測対象物の厚みを計測する厚み計測方法に適用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-122859号公報
【文献】国際公開第2017/130251号
【非特許文献】
【0005】
【文献】K. Brugger, "Exact Solutions for the Temperature Rise in a Laser-Heated Slab", Journal of Applied Physics, vol.43, pp.573-583, 1972.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、計測対象物の厚みを精度良く計測できる厚み計測方法及び厚み計測装置を提供する。また、本開示は、検査対象物の欠陥深さを精度良く検出できる欠陥検出方法及び欠陥検出装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様における厚み計測方法は、計測対象物の厚みを計測する方法である。厚み計測方法は、加熱装置により計測対象物の表面を、点状に加熱するステップと、撮影装置により所定時間間隔において、加熱された計測対象物の表面を撮影して計測対象物の表面の温度に応じた熱画像を生成するステップと、撮影装置により生成された熱画像に基づいて、計測対象物の表面上の複数の位置における温度の経時変化を示す温度データを取得するステップと、計測対象物の厚みに関連したパラメータを含む、点熱源に応じた熱伝導方程式の解を示す解関数を温度データにフィッティングするステップと、フィッティングされた解関数に含まれるパラメータの値に基づいて、計測対象物の厚みを算出するステップと、を備える。
【0008】
本開示の一態様における厚み計測装置は、計測対象物の厚みを計測する装置である。厚み計測装置は、所定時間間隔において、加熱された計測対象物の表面を撮影して生成された熱画像を入力する入力部と、熱画像に基づいて、計測対象物の厚みを求める演算を行う演算部と、を備える。演算部は、熱画像に基づいて、計測対象物の表面上の複数の位置における温度の経時変化を示す温度データを取得し、計測対象物の厚みに関連したパラメータを含む、点熱源に応じた熱伝導方程式の解を示す解関数を温度データにフィッティングし、フィッティングされた解関数に含まれるパラメータの値に基づいて、計測対象物の厚みを算出する。
【0009】
本開示の一態様における欠陥検出方法は、検査対象物の内部の欠陥の深さを計測する方法である。欠陥検出方法は、加熱装置により検査対象物の表面を、点状に加熱するステップと、撮影装置により所定時間間隔において、加熱された検査対象物の表面を撮影して検査対象物の表面の温度に応じた熱画像を生成するステップと、熱画像に基づいて、検査対象物上の複数の位置における表面の温度の経時変化を示す温度データを取得するステップと、検査対象物の欠陥の深さに関連したパラメータを含む、点熱源に応じた熱伝導方程式の解を示す解関数を温度データにフィッティングするステップと、フィッティングされた解関数に含まれるパラメータの値に基づいて、検査対象物の欠陥の深さを算出するステップと、を備える。
【0010】
本開示の一態様における欠陥検出装置は、検査対象物の内部の欠陥の深さを計測する装置である。欠陥検出装置は、所定時間間隔において、加熱された検査対象物の表面を撮影して生成された熱画像を入力する入力部と、熱画像に基づいて、検査対象物の欠陥の深さを求める演算を行う演算部と、を備える。演算部は、熱画像に基づいて、検査対象物の表面上の複数の位置における温度の経時変化を示す温度データを取得し、検査対象物の欠陥の深さに関連したパラメータを含む、点熱源に応じた熱伝導方程式の解を示す解関数を温度データにフィッティングし、フィッティングされた解関数に含まれるパラメータの値に基づいて、検査対象物の欠陥の深さを算出する。
【発明の効果】
【0011】
本開示における厚み計測方法及び装置は、計測対象物の厚みを精度良く計測することができる。また、本開示における欠陥検出方法及び装置は、検査対象物の内部の剥離又は空洞等の欠陥を計測するものであり、精度良く欠陥を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態1にかかる欠陥検出システム及び欠陥検出装置の構成を示す図
図2】欠陥検出システムの理論における検査対象物と点熱源を説明するための図
図3】欠陥検出システムによる加熱の状態を示すグラフ
図4図2の検査対象物における熱伝導の境界条件を説明するための図
図5】実施の形態1にかかる欠陥検出装置による欠陥検出動作を例示するフローチャート
図6】実施の形態1にかかる欠陥検出装置の制御部による欠陥深さの計測処理を例示するフローチャート
図7】欠陥検出システムにおける温度データを例示する図
図8】欠陥検出システムにおいて温度の抽出対象とする位置を説明した図
図9】欠陥検出システムによるフィッティングを説明した図
図10A】理想的な場合のシミュレーションによる熱拡散率の計算結果を示す図
図10B図10Aのシミュレーションによる厚みの計算結果を示す図
図11A】レーザ径の影響を考慮したシミュレーションによる熱拡散率の計算結果を示す図
図11B図11Aのシミュレーションによる厚みの計算結果を示す図
図12A】熱伝達の影響を考慮したシミュレーションによる熱拡散率の計算結果を示す図
図12B図12Aのシミュレーションによる厚みの計算結果を示す図
図13A】R/L=1/40及びBi=1/8の場合のシミュレーションによる熱拡散率の計算結果を示す図
図13B図13Aのシミュレーションによる厚みの計算結果を示す図
図14A】R/L=1/20及びBi=1/8の場合のシミュレーションによる熱拡散率の計算結果を示す図
図14B図14Aのシミュレーションによる厚みの計算結果を示す図
図15A】R/L=1/4及びBi=1/8の場合のシミュレーションによる熱拡散率の計算結果を示す図
図15B図15Aのシミュレーションによる厚みの計算結果を示す図
図16A】R/L=1/2及びBi=1/8の場合のシミュレーションによる熱拡散率の計算結果を示す図
図16B図16Aのシミュレーションによる厚みの計算結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者は、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0014】
(実施の形態1)
以下、実施の形態1の欠陥検出システムを、図面を用いて説明する。
【0015】
[1-1.構成]
[1-1-1.欠陥検出システム]
図1は、実施の形態1にかかる欠陥検出システム1の構成を示す図である。図1に示すように、欠陥検出システム1は、検査対象物の内部にある剥離又は空洞等の欠陥の深さを計測して、欠陥検出を行う。欠陥検出システム1は、レーザ装置10と、レーザ駆動部11と、赤外線カメラ20と、欠陥検出装置30とを備える。
【0016】
レーザ装置10は、レーザ光を照射して、検査対象物の表面を加熱する加熱装置の一例である。レーザ装置10は、加熱出力の開始及び停止を行うためのシャッタLD等のレーザ光源、及びレーザ光を所定のレーザ径にコリメート(又は集光)して出射する光学系等を備える。レーザ径は、レーザ光が照射された箇所が実用上、点状とみなすことができる程度の大きさに適宜、設定され、例えば数cm以下であってもよい。レーザ装置10は、例えばレーザポインタのような簡易な構成であってもよい。
【0017】
レーザ駆動部11は、レーザ装置10を駆動する装置である。レーザ駆動部11は、欠陥検出装置30の制御部35の制御にしたがい、レーザ装置10の加熱出力の開始及び停止を制御する。このため、レーザ駆動部11は、レーザ装置10のシャッタの開閉を制御する。なお、レーザ駆動部11は、レーザ装置10への電力供給の開始及び停止により、レーザ装置10の加熱出力の開始及び停止を制御してもよい。レーザ駆動部11は、レーザ装置10がレーザ光を照射する位置および向き等を調整するアクチュエータ等を含んでもよい。
【0018】
赤外線カメラ20は、検査対象物の表面を撮影する撮影装置である。赤外線カメラ20は、複数の画素を有し、所定のフレームレートで、検査対象物の表面の温度に応じた熱画像データを生成する。
【0019】
欠陥検出装置30は、レーザ駆動部11を制御することにより、レーザ装置10の加熱出力の開始及び停止を制御する。また、欠陥検出装置30は、赤外線カメラ20の撮影動作を制御する。また、欠陥検出装置30は、赤外線カメラ20からの熱画像データに基づいて、検査対象物の内部の欠陥の深さを計測して、欠陥検出を行う。以下、欠陥検出装置30の構成を説明する。
【0020】
[1-1-2.欠陥検出装置]
欠陥検出装置30は、例えばコンピュータで構成される。欠陥検出装置30は、図1に示すように、第1~第3の通信部31、32、33と、格納部34と、制御部35と、表示部36と、操作部37とを備える。
【0021】
第1~第3の通信部31、32、33はそれぞれ、例えば通信インタフェース(例えば、USB、HDMI(登録商標))で構成される。第1の通信部31は、赤外線カメラ20から、所定のフレームレートで撮影された熱画像データを順次に受信する入力部である。
【0022】
第2の通信部32は、レーザ装置10の加熱開始及び加熱停止等に関するランプ制御情報を制御部35から受信し、レーザ駆動部11に送信する。第3の通信部33は、赤外線カメラ20の撮影開始及び撮影終了等に関するカメラ制御情報を制御部35から受信し、赤外線カメラ20に送信する。
【0023】
格納部34は、記録媒体であり、例えばHDD、SSDで構成される。格納部34は、第1の通信部31で受信した熱画像データを順次格納する。また、格納部34は、後述する操作部37から入力される各種設定値であって、検査対象物の欠陥の深さを計測するために必要な各種設定値を格納する。また、格納部34は、制御部35のための各種プログラムを格納する。
【0024】
制御部35は、CPU、MPU等で構成され、格納部34に格納された各種プログラムを実行することにより、欠陥検出装置30の全体を制御する。制御部35は、レーザ駆動部11を制御することにより、レーザ装置10の加熱出力の開始及び停止を制御する。また、制御部35は、赤外線カメラ20の撮影開始及び撮影停止等の撮影動作を制御する。また、制御部35は、格納部34に格納された熱画像データに基づいて、検査対象物の欠陥の深さを求める演算を行う演算部として機能する。この機能の詳細については、後述する動作説明において説明する。
【0025】
表示部36は、例えばディスプレイで構成され、制御部35で求められた欠陥の深さを例えば色情報又は諧調情報として表示する。
【0026】
操作部37は、例えばキーボード又はタッチパネルで構成される。操作部37は、検査対象物の欠陥の深さを計測するために必要な各種設定値を設定する際にユーザにより操作される装置である。
【0027】
[1-2.動作]
以上のように構成された欠陥検出システム1及び欠陥検出装置30について、その動作を以下に説明する。
【0028】
[1-2-1.欠陥検出の概要]
【0029】
路面を構成するコンクリート等の検査対象物の表面を加熱すると、検査対象物の表面(高温側)から内部(低温側)に向けて熱伝導が生じる。その際、検査対象物の内部に剥離又は空洞等の欠陥があると、熱伝導が欠陥によって妨げられ、熱反射が生じる。これにより、欠陥が内部に存在する欠陥部の表面温度は、欠陥が内部に存在しない健全部の表面温度よりも高くなる。この表面の温度差を利用して欠陥検出を行う方法が知られている。
【0030】
例えば、検査対象物の表面をハロゲンランプ等で加熱しながら撮影し、加熱中の検査対象物に関する熱伝導方程式から得られる情報に基づき、検査対象物の欠陥部における欠陥深さを求める手法が考案されている(特許文献2参照)。同手法では、検査対象物の表面において温度の計測対象とする領域を含んだ広範囲を加熱することにより、検査対象物の深さ方向に対応する一次元の熱伝導の理論が適用されている。この場合、検査対象物の熱拡散率が既知であれば、一次元の熱伝導方程式の理論解等に既知の熱拡散率を用いて、欠陥深さ(或いは検査対象物の厚み)を求めることができる。
【0031】
しかしながら、例えばコンクリートの熱拡散率は、略1.0~2.0×10-6/sといった幅広い範囲内で値を取り、且つ水分の配合状況や骨材の偏りなどの種々の影響によって変動し得る。このため、欠陥検出の実施前には熱拡散率が判明していない場合が想定される。従来技術では、検査対象物の熱拡散率が未知の場合に、欠陥深さを精度良く測定することが困難であった。
【0032】
そこで、本開示では、検査対象物の熱拡散率と欠陥深さとが同時に求められる欠陥検出方法を提供する。本方法によると、検査対象物の熱拡散率が未知の場合であっても欠陥深さを測定でき、欠陥深さの検出精度を良くすることができる。
【0033】
本開示の欠陥検出方法は、欠陥検出システム1のレーザ装置10等の加熱装置で、検査対象物の表面を点状に加熱し、加熱中に検査対象物の表面温度を赤外線カメラ20等の撮影装置20で撮影して、検査対象物の表面温度に応じた熱画像を生成する。そして、本開示の欠陥検出方法は、この熱画像による温度データと、加熱による表面上の点熱源の周りに生じる二次元的な熱伝導の理論式(後述の式(1)~(4))とを用いて欠陥検出を行う。
【0034】
[1-2-2.欠陥検出の理論]
以下、本開示の欠陥検出方法および欠陥検出システム1で用いる、熱伝導方程式から得られる温度変化の理論式(即ち同方程式の理論解)について、図2図4を参照して説明する。
【0035】
図2は、本システム1の理論における検査対象物100と点熱源110とを説明するための図である。図2では、理論的に検査対象物100を、無限大の表面101及び裏面102を有する平板と想定している。また、本システム1による加熱に応じた点熱源110は、検査対象物100の表面101上に位置すると想定できる。このような理論的な想定は、実測時には適宜、許容誤差を持たせて適用可能である。
【0036】
以上のような検査対象物100において、欠陥深さに対応する厚みをLとする。例えば、点熱源110の位置を原点として、検査対象物100の表面101上の二次元の直交座標(x,y)、及び検査対象物100の厚み方向を示すz座標による三次元座標(x,y,z)が用いられる。二次元の直交座標(x,y)の代わりに、極座標(r,θ)を用いることもできる(但し、x=r×cosθ,y=r×sinθ)。三次元座標(x,y,z)において、非定常の熱伝導方程式は、次式(10)のように表される。
【0037】
【数1】
上式(10)において、Q(x,y,z,t)は、三次元座標(x,y,z)による特定の位置および時刻tにおいて、単位時間あたり且つ単位体積あたりに発熱する熱量[W/m]を示す。また、αは検査対象物100の熱拡散率[m/s]であり、α=k/ρcである。kは検査対象物100の熱伝導率[W/(m・K)]であり、ρは検査対象物100の密度[kg/m]であり、cは検査対象物100の比熱[J/(kg・K)]であり、ρcは検査対象物100の容積比熱[J/(m・K)]である。
【0038】
本システム1において、上式(10)のQ(x,y,z,t)は、点熱源110に対応する。図3は、本システム1による加熱の状態を示すグラフである。図3において、横軸は加熱時間[s]に対応する時刻tを示し、縦軸は表面101上で点熱源110の位置(z=0)近傍における単位時間あたりの熱量[W](=[J/s])を示す。本システム1では、図3に示すように、加熱開始の時刻t=0から一定の熱量q[W]を供給するステップ状の加熱を想定している。なお、点熱源110から離れたz≠0では、時刻tに依らずQ(x,y,z,t)=0である。また、加熱開始前は、z座標に依らずQ(x,y,z,t)=0である。
【0039】
図4は、図2の検査対象物100における熱伝導の境界条件を説明するための図である。検査対象物100中で熱反射を生じる境界条件には、検査対象物100の表面101と裏面102とをそれぞれ鏡面とする鏡像法が適用できる。この場合、表面101と裏面102とが厚みLの間隔において対向することから、図4に示すように、表面101上の点熱源110の鏡像120が、厚み方向(z方向)において周期2Lの間隔で無数に並ぶこととなる。
【0040】
例えば熱伝導方程式のグリーン関数に鏡像法を適用することにより、上記の境界条件を満たすように上式(10)の理論解となるT(x,y,z,t)を求めることができる(非特許文献1参照)。例えば理論解のT(x,y,z,t)が表面101上の場合、T(x,y,z=0,t)=T(r,t)として次式(11)のように表される。
【0041】
【数2】
上式(11)において、exp()は、指数関数であり、πは円周率である。Σは、整数nが負の無限大から正の無限大にわたる総和を取り、無限和を構成する。
【0042】
T(r,t)は、点熱源110に応じた熱伝導方程式(式(10))の解を示す解関数の一例であり、表面101上における点熱源110からの距離rにおいて、加熱開始を基準とする時刻tにおける(上昇分の)温度を表す。T(r,t)は、検査対象物100中の熱反射に応じて、上式(11)に示すように周期2Lの無限和を含んでいる。
【0043】
上式(11)のT(r,t)は、例えば初期値α,Lを用いたフーリエ数Fo(次式(12)参照)及び無次元距離r/Lにより、下式(1)のように無次元化することができる(以下、「r/L」を「r/L」と略記する場合がある)。
【0044】
【数3】
【0045】
【数4】
上式(1)において、左辺のT(r,t)の引数r,tは、それぞれ右辺における無次元の二変量r/L,Foに対応している。右辺には、式(2),(3),(4)に基づく3つのパラメータA,B,Cが含まれている。本実施の形態の欠陥検出システム1は、上式(1)~(4)を用いて、実測される温度データに対して、欠陥検出装置30において二変量で三変数のフィッティングを行う。
【0046】
[1-2-2.欠陥検出動作]
以下、本実施の形態1にかかる欠陥検出装置30の制御部35による欠陥検出動作について、図5のフローチャートを参照して説明する。
【0047】
図5に示すように、まず、制御部35は、最大加熱時間Tm、最大計測深さLm、計測領域W、及び各種初期値L,αを設定値として取得する(S10)。これらの設定値は、ユーザによって操作部37を用いて入力され、格納部34に予め格納されている。
【0048】
最大計測深さLmは、この欠陥検出において計測対象とする深さの最大値であり、どの深さまでの欠陥を検出したいかに応じて設定される。例えば、高速道路等の欠陥検出では、最表面の鉄骨が表面から50cmに存在するため、表面から約50cmの深さまでに剥離又は空洞等の欠陥が存在するか否かを検出することが求められている。このような場合には、最大計測深さLmは50cmに設定される。
【0049】
最大加熱時間Tmは、最大計測深さLmに関連して設定される。最大加熱時間Tmは、例えば、検査対象物の表面上で点状に加熱される加熱位置P0から最大距離rmだけ離れた位置において(図8参照)、最大計測深さLmにおける欠陥部の表面温度と健全部の表面温度との間に差が十分に表れるような加熱時間に設定される。
【0050】
計測領域Wは、赤外線カメラ20の撮影範囲において、計測を行う領域である(図8参照)。計測領域Wは、加熱位置P0から最大距離rmの範囲内に設定される。ステップS10において、制御部35は最大距離rm及び加熱位置P0を取得してもよい。
【0051】
また、初期値L,αは、L<Lm等の所定範囲において、例えばそれぞれ検査対象物の厚みL及び熱拡散率αとして想定される値の近傍に適宜、設定される。これにより、後述するフィッティングの収束精度を良くすることができる。
【0052】
次に、制御部35は、レーザ駆動部11を制御して、レーザ装置10のシャッタを開き、図3に示すように、供給される時間当たりの熱量qが一定となるように、検査対象物の表面における特定の加熱位置P0に対する点状の加熱すなわち点加熱をステップ状に開始する(S11)。すなわち、加熱入力がステップ入力となるように加熱を行う。また、制御部35は、検査対象物の加熱開始と同時に、赤外線カメラ20を制御し、検査対象物の表面の撮影を開始する(S11)。
【0053】
ここで、上式(1)のT(r,t)は、ステップ応答時の熱伝導方程式の理論解となる関数である。よって、この関数にフィッティングを行う温度データを実測するために、加熱をステップ状に開始する。本実施の形態では、制御部35は、予めレーザ装置10に電力を供給しておき、レーザ装置10のシャッタの開閉を制御することにより、検査対象物の表面の加熱をステップ状に開始する。
【0054】
次に、制御部35は、赤外線カメラ20から、検査対象物の表面温度に応じた熱画像を示す熱画像データを取得する(S12)。取得された熱画像データは格納部34に格納される。
【0055】
次に、制御部35は、加熱開始からの加熱時間tが最大加熱時間Tmを超えたか否かの判断を行い(S13)、加熱時間tが最大加熱時間Tmを超えるまで、熱画像データの取得(S12)を継続する。ステップS12,S13の処理は、例えば熱画像のフレーム間隔など所定の時間間隔において繰り返される。
【0056】
一方、ステップS13において、加熱時間tが最大加熱時間Tmを超えた場合には、制御部35は、赤外線カメラ20を制御して、検査対象物の表面の撮影を終了する(S14)。また、制御部35は、レーザ駆動部11を制御して、レーザ装置10のシャッタを閉じ、検査対象物の表面の加熱を終了する(S14)。これにより、格納部34には、最大加熱時間Tmの間に取得した熱画像データが蓄積される。
【0057】
次に、制御部35は、欠陥深さの計測処理を行う(S15)。この処理については後述する。
【0058】
そして、制御部35は、欠陥深さの計測結果を表示部36に表示させ(S16)、欠陥検出動作を終了する。制御部35は、例えば検査対象物の表面を示す画像上に、欠陥深さLの情報を色情報として表示してもよいし、階調情報として表示してもよい。
【0059】
以下、図5における欠陥深さの計測処理について、図6図9を参照して説明する。
【0060】
まず、制御部35は、最大加熱時間Tmの間に蓄積された熱画像データに基づいて、検査対象物の表面上の複数の位置における温度の経時変化を示す温度データD1を取得する処理を行う(S21~S24)。図7は、本システム1における温度データD1を例示する図である。温度データD1は、例えば図7に示すように、加熱時間tに対応するフーリエ数Foと、無次元距離r/Lと、(上昇分の)温度T[K]とを関連付けたデータ点D10を複数、含む。
【0061】
例えば、制御部35は、最大加熱時間Tm内で特定の時刻tを設定し(S21)、特定の時刻tに対応するフレームの熱画像において、計測領域Wの範囲内の複数の位置における温度をそれぞれ抽出する(S22)。温度の抽出対象とする位置を図8に例示する。
【0062】
図8では、熱画像Imにおける二つの位置P1,P2が、温度の抽出対象である例を示している。各々の位置P1,P2は、計測領域Wの範囲内にあり、点熱源が位置する加熱位置P0からそれぞれ距離r1,r2を有する。二つの位置P1,P2の内の一方の位置P1の距離r1と、他方の位置P2の距離r2とは、互いに異なる。抽出対象とする複数の位置P1~P2は、特に二つに限定されず、計測領域W内で、全ての画素に設定されてもよいし、所定間隔をあけて設定されてもよい。
【0063】
ステップS22において、制御部35は、1つの位置の温度を抽出する際に、複数の画素の温度の平均値などを演算してもよい。また、赤外線カメラ20の温度ドリフト等を回避する観点から、制御部35は、熱画像Imにおいて抽出対象の位置の画素の温度から、背景と考えられる位置の画素の温度を差し引いて、抽出結果の温度を算出してもよい。
【0064】
次に、制御部35は、設定した時刻tの分の温度データとして、例えば同時刻tに対応するフーリエ数1/Foと、各々の位置P1~P2に対応する無次元距離r/Lと、位置毎の抽出結果の温度とを関連付けて、例えば格納部34に記録する(S23)。
【0065】
例えば、制御部35は、最大加熱時間Tmの分の温度データD1が得られるまで(S24)、所定の時間間隔(「Δt」とする)毎の時刻tにおいてステップS21以降の処理を繰り返す(S24でNO)。時間間隔Δtは、例えば熱画像Imのフレーム間隔又はその複数倍である。温度データD1における時間間隔Δtは一定でなくてもよく、例えば加熱開始の近傍では比較的、短くて加熱終了に向かうほど長く設定されてもよい。
【0066】
温度データD1が得られると(S24でYES)、制御部35は、得られた温度データD1に対して、上述した式(1)の関数T(r,t)の二変量フィッティングを実行する(S25)。図9に、本システム1のフィッティングによるT(r,t)を例示する。このとき、制御部35は、上式(1)におけるパラメータA,B,C(式(2)~式(4))を変化させ、非線形最小二乗法を用いて残差が最小となるようにフィッティングを行う。ステップS25のフィッティングにより、各パラメータA,B,Cの値が算出される。
【0067】
次に、制御部35は、例えばフィッティング結果のパラメータCの値に基づいて、式(4)から熱拡散率αを算出する(S26)。また、制御部35は、例えばフィッティング結果のパラメータBの値に基づいて、式(3)から欠陥深さLを算出する(S27)。
【0068】
制御部35は、欠陥深さLを求めると(S27)、図5のステップS15の処理を終了し、ステップS16に進む。
【0069】
以上の欠陥深さの計測処理(図6)によると、式(1)のT(r,t)の二変量フィッティングにより(S24)、取得された温度データD1から、検査対象物の熱拡散率α及び欠陥深さ(或いは厚み)Lの双方を求めることができる(S25,S26)。なお、ステップS26,S27の処理の順番は特に限定されず、同時に実行されてもよい。また、ステップS26は適宜、省略されてもよい。
【0070】
以上のステップS21~S24では、最大加熱時間Tm分の温度データD1を取得する例を説明した。ステップS21~S24は、これに限らず、最大加熱時間Tmよりも短い所定期間T1分の温度データD1を取得してもよい。この場合も、加熱開始の時刻t=0に対する所定期間T1の範囲を考慮した上で、ステップS25と同様の二変量フィッティングを行うことができる。
【0071】
また、以上の欠陥検出動作(図5)の説明では、レーザ装置10によって検査対象物の表面上で一つの加熱位置P0を点加熱する際に、1つの計測領域Wにおいて欠陥深さLを測定する例を説明したが、本システム1の欠陥検出動作はこれに限定されない。例えば、本システム1の欠陥検出装置30は、一つの加熱位置P0に対して複数の計測領域Wにおける欠陥深さLを測定してもよい。
【0072】
また、本システム1は、検査対象物の表面上で複数の位置を加熱位置として点加熱し、それぞれの加熱位置に対して欠陥深さLを測定してもよい。例えば、欠陥検出装置30の制御部35は、図5のフローチャートを所定の時間間隔で繰り返すことにより、複数の加熱位置を走査するように欠陥深さLを測定してもよい。また、例えば複数のレーザ装置10を用いて、複数の加熱位置の点加熱が同時に行われてもよい。例えば複数の加熱位置の間の距離間隔を、最大距離rmよりも大きくすることにより、別々の点熱源の影響を抑制して、欠陥深さLを測定可能である。
【0073】
[1-2-3.数値シミュレーションについて]
以上の欠陥検出方法は、検査対象物における熱伝達の影響およびレーザ径の大きさの影響が或る程度あったとしても適用可能である。上記のような影響があったとしても、式(1)によるT(r,t)のフィッティングにより精度良く欠陥深さLを測定可能な効果について、本願発明者は数値シミュレーションにより確認した。以下、本願発明者が行った数値シミュレーションについて、図10A図16Bを用いて説明する。
【0074】
図10Aは、理想的な場合のシミュレーションによる熱拡散率αの計算結果を示す。図10Bは、図10Aと同じシミュレーションによる厚みLの計算結果を示す。
【0075】
図10A,10Bでは、検査対象物100(図2)が断熱的で且つ点熱源110が(メッシュの誤差範囲内で)厳密に点である場合をシミュレーションした。この際、k=1.6W/mK、q=1W、L=20mm、α=1×10-6/sに設定した。シミュレーション結果の温度データに関して、図10A,10Bに示す矩形領域のデータ区間毎に、図6のS25と同様の二変量フィッティングを行って、熱拡散α及び厚みLを算出した(S26,S27)。図10A,10Bでは、データ区間毎に、算出した熱拡散α及び厚みLの誤差を示している(図11A図16Bも同様)。
【0076】
図10A,10Bによると、点加熱に応じたT(r,t)の二変量フィッティングにより、殆どのデータ区間において熱拡散α及び厚みLが精度良く算出できている。なお、r/L=0~0.1のデータ区間については、数値シミュレーションにおけるメッシュサイズに起因する誤差と考えられる。
【0077】
図11A,11Bは、上述した理想的な場合に対して、レーザ径の影響を考慮した場合のシミュレーションによる熱拡散率α及び厚みLの計算結果をそれぞれ示す。図11A,11Bでは、レーザ径の大きさに対応させて、点熱源110の直径Rが2mmである場合をシミュレーションし、シミュレーション結果にT(r,t)(式(1))の二変量フィッティングを行った。
【0078】
図11A,11Bによると、r/L=0.1~0.2でのみ誤差が図10A,10Bの場合よりも大きくなっているものの、充分に良い精度で熱拡散率α及び厚みLが計算できている。よって、この場合、理論的には点加熱に応じた理論解T(r,t)は、実測上、点熱源110が有限の大きさを有していても、適用可能であることが確認できた。
【0079】
図12A,12Bは、上述した理想的な場合に対して、熱伝達の影響を考慮した場合のシミュレーションによる熱拡散率α及び厚みLの計算結果をそれぞれ示す。図12A,12Bでは、検査対象物100の表面101と外気との間の熱伝達について、熱伝達率=5W/(m・K)を設定して、上記と同様のシミュレーション等を行った。
【0080】
図12A,12Bによると、加熱時間が長くなると熱伝達の影響により、熱拡散率α及び厚みLの誤差が大きくなることが分かる。一方、Fo=0.5近傍のデータ区間では充分な精度が確保されている。よって、この場合、上記のようなデータ区間を含めてフィッティングを行うことにより、精度良く熱拡散率α及び厚みLを算出可能であることが確認できた。
【0081】
以上のようなレーザ径及び熱伝達の影響は、無次元化した直径R/L及びビオ数Bi=hL/kを用いて整理することができる。例えば、図11A及び11Bの場合はR/L=1/10及びBi=0であり、図12A及び12Bの場合はR/L=0及びBi=1/16である。
【0082】
図13A,13Bは、R/L=1/40及びBi=1/8の場合のシミュレーションによる熱拡散率α及び厚みLの計算結果をそれぞれ示す。同様に、図14A~16Bは、それぞれR/L=1/20及びBi=1/8の場合と、R/L=1/4及びBi=1/8の場合と、R/L=1/2及びBi=1/8の場合とにおける熱拡散率α及び厚みLの計算結果をそれぞれ示す。
【0083】
図13A図16Bによると、例えばR/L=1/2であったとしても、フィッティングのデータ区間を適切に設定することにより、熱拡散率α及び厚みLを精度良く算出可能であることが確認された。
【0084】
[1-3.効果等]
以上のように、本実施の形態において、欠陥検出方法は、検査対象物の内部の欠陥の深さLを計測する方法である。本方法は、レーザ装置(加熱装置)10により検査対象物の表面を、点状に加熱するステップS11と、赤外線カメラ(撮影装置)20により所定時間間隔において、加熱された検査対象物の表面を撮影して検査対象物の表面の温度に応じた熱画像Imを生成するステップS12と、熱画像Imに基づいて、検査対象物上の複数の位置P1~P2における表面の温度の経時変化を示す温度データD1を取得するステップS21~S24と、検査対象物の欠陥の深さに関連したパラメータA,B,Cを含む、点熱源に応じた熱伝導方程式の解を示す関数であるT(r,t)を温度データD1にフィッティングするステップS25と、フィッティングされたT(r,t)に含まれるパラメータの値に基づいて、検査対象物の欠陥の深さLを算出するステップS26と、を備える。
【0085】
また、本実施の形態において、欠陥検出装置30は、検査対象物の内部の欠陥の深さを計測する。欠陥検出装置30は、第1の通信部(入力部)31と、制御部(演算部)35とを備える。第1の通信部31は、最大加熱時間間隔(所定時間間隔)Tmにおいて、加熱された検査対象物の表面を撮影して生成された熱画像データを入力する。制御部35は、熱画像データに基づいて、検査対象物の欠陥の深さを求める演算を行う。制御部35は、検査対象物の表面上の複数の位置における温度の経時変化を示す温度データを取得し、検査対象物の欠陥の深さに関連したパラメータを含む、点熱源に応じた熱伝導方程式の解を示す解関数を温度データにフィッティングし、フィッティングされた解関数に含まれるパラメータの値に基づいて、検査対象物の欠陥の深さを算出する。
【0086】
また、本実施の形態において、欠陥検出システム1は、検査対象物の内部の欠陥の深さを計測するシステムである。欠陥検出システム1は、レーザ装置(加熱装置)10と、赤外線カメラ(撮影装置)20と、上記の欠陥検出装置30とを備える。レーザ装置10は、検査対象物の表面を、点状に加熱する。赤外線カメラ20は、加熱された検査対象物の表面を撮影して検査対象物の表面の温度に応じた熱画像を生成する。上記の欠陥検出装置30は、熱画像に基づいて検査対象物の内部の欠陥の深さを計測する。
【0087】
これにより、熱伝導方程式から得られる上式(1)のステップ応答時の理論式に対応して、加熱中の熱画像データを用いて欠陥深さを求めることができる。この際、点加熱に応じて距離rが異なる複数の位置の温度データD1を用いたT(r,t)のフィッティングにより、検査対象物の熱拡散率αが未知の場合であっても、欠陥深さLを算出することができる。よって、検査対象物の欠陥深さLを精度良く計測することができる。
【0088】
本実施の形態において、解関数であるT(r,t)は、検査対象物の表面上で加熱された位置P0からの距離rに対応する第1の引数r(或いはr/L)と、加熱された時間tに対応する第2の引数t(或いはFo)とを有する。欠陥検出方法は、第1及び第2の引数r,tにわたってフィッティングされたT(r,t)に含まれるパラメータの値に基づいて、検査対象物の熱拡散率αを算出するステップS27をさらに備える。これにより、検査対象物の欠陥深さLと同時に熱拡散率αを求められる。
請求項1に記載の厚み計測方法。
【0089】
本実施の形態において、温度データD1は、表面上で加熱された位置P0からの距離rが異なる複数の位置P1,P2における温度の経時変化を含む。異なる距離r1,r2において温度変化を示す温度データD1を用いて、T(r,t)のフィッティングを精度良く行える。
【0090】
本実施の形態において、欠陥検出方法は、レーザ装置10による検査対象物の表面の加熱を、ステップ状に開始し、検査対象物の加熱開始と同時に、赤外線カメラ20により、検査対象物の表面の撮影を開始して、熱画像の生成を開始する(S11)。T(r,t)は、ステップ応答に基づいている。ステップ状の加熱開始に同期した熱画像を得ることにより、ステップ応答に基づくT(r,t)のフィッティングを精度良く行える。
【0091】
本実施の形態において、T(r,t)は、少なくとも3つの独立したパラメータA,B,Cを含む。T(r,t)は、上述の式(1)で表される。式(1)において、T(r,t)は検査対象物の表面の温度[K]であり、rは表面上で加熱された位置からの距離[m]であり、Lは厚みの初期値[m]であり、Lは検査対象物の厚み[m]であり、tは時間[s]であり、Foはフーリエ数であり、A,B,Cはそれぞれパラメータである。3つのパラメータA,B,Cはそれぞれ式(2),(3),(4)で表される。式(2)~(4)において、qは単位時間当たりの熱量[W]であり、kは検査対象物の熱伝導率[W/(m・K)]であり、αは検査対象物の熱拡散率[m/s]であり、αは熱拡散率の初期値[m/s]である。パラメータA,B,Cは、非線形最小二乗法を用いて残差が最小となるようにフィッティングを行うことにより求められる。
【0092】
(他の実施の形態)
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施の形態1を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、上記実施の形態1で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。そこで、以下、他の実施の形態を例示する。
【0093】
上記の実施の形態1では、検査対象物の内部の欠陥の深さを計測する方法及び装置を説明した。本開示の思想は、検査対象物の内部の欠陥の深さの計測のみならず、計測対象物の厚みを計測する方法及び装置にも適用できる。実施の形態1~6では、検査対象物表面から内部の欠陥(空洞、剥離)までの距離を、欠陥の深さとして求めていた。ここで、検査対象物表面から内部の空洞や剥離までの距離を計測することは、計測対象物の厚みを計測することと同じである。よって、実施の形態1で示した検査対象物の欠陥深さの計測方法を、計測対象物の厚みの計測方法にも適用できることは明らかである。
【0094】
つまり、計測対象物の表面をレーザ装置10等の加熱装置で加熱すると、計測対象物の裏面で熱反射が生じるので、計測対象物の表面の温度の経時変化は、計測対象物の厚みによって異なる。これより、厚み計測においても、検査対象物の表面を加熱装置で加熱している間に、計測対象物の表面を赤外線カメラ等の撮影装置で撮影すれば、実施の形態1の欠陥検出方法と同様の考え方で厚みをすることができる。この場合、上述した実施の形態1の説明において、「欠陥検出装置」、「欠陥検出システム」、「検査対象物」、「欠陥の深さ」、「欠陥検出動作、欠陥深さの計測処理」、「最大計測深さ」をそれぞれ、「厚み計測装置」、「厚み計測システム」、「計測対象物」、「厚み」、「厚み計測動作、厚みの計測処理」、「最大計測厚み」と読み替えればよい。
【0095】
上記の各実施の形態では、加熱装置の一例としてレーザ装置10を説明したが、加熱装置はレーザ装置10に限らない。本実施の形態における加熱装置は、例えば光を集光する光学系を備え、集光した光の照射によって点状の加熱を実現する各種の光源装置であってもよい。また、本実施の形態における加熱装置は、光源装置に限らず、各種の方法によって対象物の表面を点状に加熱する種々の装置であってもよい。
【0096】
以上のように、本開示における技術の例示として、実施の形態を説明した。そのために、添付図面および詳細な説明を提供した。したがって、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。また、上述の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本開示は、計測対象物の厚みを計測する厚み計測方法、厚み計測装置、及び、厚み計測システムに適用可能である。また、本開示は、検査対象物の内部の剥離又は空洞等の欠陥の深さを計測する欠陥検出方法、欠陥検出装置、及び、欠陥検出システムに適用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
図14A
図14B
図15A
図15B
図16A
図16B