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  • 特許-ブレージングシートの製造方法 図1
  • 特許-ブレージングシートの製造方法 図2
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  • 特許-ブレージングシートの製造方法 図4
  • 特許-ブレージングシートの製造方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-12
(45)【発行日】2023-01-20
(54)【発明の名称】ブレージングシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/26 20060101AFI20230113BHJP
   B23K 35/30 20060101ALI20230113BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20230113BHJP
   C25D 3/56 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
C25D5/26 E
B23K35/30 310D
C22C19/03 G
C25D3/56 101
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018183166
(22)【出願日】2018-09-28
(65)【公開番号】P2020050928
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(73)【特許権者】
【識別番号】502112854
【氏名又は名称】有限会社和氣製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荘司 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】飯岡 諒
(72)【発明者】
【氏名】和氣 庸人
(72)【発明者】
【氏名】広橋 順一郎
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-077856(JP,A)
【文献】特開2012-008065(JP,A)
【文献】特公昭49-041022(JP,B1)
【文献】特開平05-078882(JP,A)
【文献】特開2009-161801(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/26
C25D 3/12
C25D 3/56
B23K 35/30
C22C 19/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス薄板の表面にニッケル・リン化合物薄層を有するブレージングシートの製造方法であって、
硫酸ニッケルが6水和物として1.0mol/L、塩化ニッケルが6水和物として0.2mol/L、ホウ酸が0.5mol/L、リン酸が0.5mol/L~1.0mol/Lの範囲内として調製されためっき液にクエン酸ナトリウムの存在下で前記ステンレス薄板を浸漬し、電解めっき法により前記ステンレス薄板の表面にニッケル・リン化合物複合めっき層の薄層を前記ニッケル・リン化合物薄層として形成することにより前記ブレージングシートを製造する、
ことを特徴とするブレージングシートの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のブレージングシートの製造方法であって、
前記めっき液は、前記クエン酸ナトリウムが0.5mol/L存在している、
ブレージングシートの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載のブレージングシートの製造方法であって、
前記ニッケル・リン化合物薄層の厚さが30μm以下となるように電解めっき法におけるパラメータが調整されている、
ブレージングシートの製造方法。
【請求項4】
請求項1または2記載のブレージングシートの製造方法であって、
電流密度をI[A/dm2]、めっき時間をt[min]としたときにI・t≦240を満たすように電解めっき法により前記ニッケル・リン化合物薄層を形成する、
ブレージングシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレージングシートの製造方法に関し、詳しくは、ステンレス薄板の表面にニッケル・リン化合物薄層を有するブレージングシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のブレージングシートの製造方法としては、ニッケルめっき液にリン化合物粒子を添加したニッケル・リン複合めっき液にステンレス板を浸漬させて電解めっき法または無電解めっき法によりステンレス板の表面にニッケル・リン化合物層を形成することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、アルミニウム薄板の表面にアルミニウム合金のロウ材がコーティングされた板厚が0.2mm程度のアルミニウムのブレージングシートを用いて製造される熱交換器が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この熱交換器は、ブレージングシートに対して打ち抜き加工やプレス加工などを施すことにより熱交換用チューブ部材を形成し、この熱交換用チューブ部材を複数積層して積層体とし、これを炉に入れてロウ付けすることにより製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-77462号公報
【文献】特開号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
固体酸化物型燃料電池に用いられる熱交換器や排気ガスなどの排熱回収に用いられる熱交換器では、耐食性の観点からステンレスにより形成されるのが好ましい。一般的に、ステンレスに用いられるロウ材としてはニッケル合金ロウが用いられるが、ニッケル合金は高硬度低延性であり、数mmオーダーの棒材や数十μm~百μオーダーの粉末ペーストで供給されるため、これを用いてステンレス薄板の表面にニッケル合金ロウの薄膜をコーティングしてステンレスのブレージングシートを形成するのは困難となる。上述の特許文献1に記載されたニッケル・リン複合めっき液を用いてステンレス板の表面にニッケル・リン化合物層を形成してみたが、均一な製膜は難しく、ポーラス状の数十μmのニッケル・リン化合物層が形成される程度であった。熱交換器の効率を高くするためには、板厚が0.1mm~0.3mm程度のブレージングシートを用いて熱交換用チューブ部材を形成し、この熱交換用チューブ部材を複数積層して積層体とし、これを炉に入れてロウ付けするのが好ましいが、この場合、ロウ材による流路の閉塞などを考慮すると、ロウ材層としてのニッケル・リン化合物層の厚みは30μm以下(好ましくは20μm以下)とする必要がある。
【0006】
本発明のブレージングシートの製造方法は、ステンレス薄板の表面に厚みが30μm以下のニッケル・リン化合物層が形成されているブレージングシートの製造方法を提案することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のブレージングシートの製造方法は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0008】
本発明のブレージングシートの製造方法は、
ステンレス薄板の表面にニッケル・リン化合物薄層を有するブレージングシートの製造方法であって、
硫酸ニッケルと塩化ニッケルとホウ酸とリン酸とを含有するめっき液にクエン酸ナトリウムの存在下で前記ステンレス薄板を浸漬し、電解めっき法により前記ステンレス薄板の表面にニッケル・リン化合物複合めっき層の薄層を前記ニッケル・リン化合物薄層として形成することにより前記ブレージングシートを製造する、
ことを特徴とする。
【0009】
本発明のブレージングシートの製造方法では、硫酸ニッケル(NiSO4)と塩化ニッケル(NiCl2)とホウ酸(H3BO3)とリン酸(H3PO3)とを含有するめっき液にクエン酸ナトリウムの存在下でステンレス薄板を浸漬し、電解めっき法を用いてステンレス薄板の表面にニッケル・リン化合物複合めっき層の薄層をニッケル・リン化合物薄層として形成する。クエン酸ナトリウムの存在下で電解めっきすることによりニッケル・リン化合物複合めっき層を箔膜化することができる。このとき、電解めっき法におけるパラメータ、例えば、電流密度やめっき時間などを調整することにより、ニッケル・リン化合物薄層の厚さが30μm以下とすることができる。これにより、ステンレス薄板の表面に厚みが30μm以下のニッケル・リン化合物薄層が形成されたブレージングシートを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ニッケル-リン系二元系合金の状態図である。
図2】実験用めっき装置20の一例を示す構成図である。
図3】電流密度とめっき時間とニッケル・リン化合物薄層の厚みとの関係を示す実験データを示す説明図である。
図4図2の実験データをグラフとした説明図である。
図5】めっき液24のリン酸濃度を0.5mol/L、1.0mol/Lとしてめっきを施したときの実験データとロウ付けしたときの写真を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明を実施するための形態について説明する。実施形態のブレージングシートの製造方法では、硫酸ニッケルと塩化ニッケルとホウ酸とリン酸と含有するめっき液にクエン酸ナトリウムの存在下でステンレス薄板を浸漬し、電解めっき法を用いてステンレス薄板の表面にニッケル・リン化合物複合めっき層の薄層をニッケル・リン化合物薄層として形成する。めっき液としては、硫酸ニッケルが6水和物(NiSO4・6H2O)として1.0mol/L程度、塩化ニッケルが6水和物(NiCl2・6H2O)として0.2mol/L程度、ホウ酸(H3BO3)が0.5mol/L程度、リン酸(H3PO3)が0.5mol/L~1.0mol/Lの範囲内として調製する。リン酸を0.5mol/L~1.0mol/Lの範囲内とするのは、ブレージングシートのロウ付け温度が1000℃程度とすると、ニッケル-リン系二元系合金の状態から考えると、ニッケル・リン化合物薄層の成分としてNi-8~13P(重量%)が有効であるため、この範囲内とするためである。ニッケル-リン系二元系合金状態図を図1に示す。図中、1000℃を示す一点鎖線およびこの一点鎖線と状態曲線との交点から下方に伸びる二点鎖線により、Ni-8~13P(重量%)が有効であることが解る。また、クエン酸ナトリウム(C65Na37)は0.5mol/L程度存在するようにする。こうしたクエン酸ナトリウムの存在下で電解めっきすることによりニッケル・リン化合物複合めっき層を箔膜化することができる。このとき、電解めっき法におけるパラメータ、例えば、電流密度やめっき時間などを調整することにより、ニッケル・リン化合物薄層の厚さが30μm以下、好ましくは20μm以下にすることができる。例えば、パラメータとしての電流密度をI[A/dm2]、めっき時間をt[min]としたときにI・t≦240を満たすようにすればよい。これにより、ステンレス薄板の表面に厚みが30μm以下のニッケル・リン化合物薄層が形成されたブレージングシートを製造することができる。
【0012】
次に、電流密度をI[A/dm2]とし、めっき時間をt[min]としたときにI・t≦240を満たすのが好ましい理由については、実験により確認した。実験には、図2に示す実験用めっき装置20を用いた。実験用めっき装置20は、5Lのめっき液24を貯留するめっき槽22と、陽極としてのニッケル電極26と、陰極としてのステンレス電極28と、ニッケル電極26およびステンレス電極28に電流(電圧)を印加する電源装置30と、めっき液24の温度を検出する温度センサ32と、めっき液24を加温するヒータ34と、温度センサ32からの温度に基づいてヒータ34をオンオフする温度制御装置36と、エアポンプ40と、エアポンプ40から供給される空気によりめっき液24をエアレーションするエアレーションパイプ38と、を備える。ステンレス電極28は、SUS304鋼の板材を用いてL字型として形成し、図中、垂直部分にめっきを施すものとした。実験では、めっき液24としては、硫酸ニッケル・6水和物が1.0mol/L、塩化ニッケル・6水和物が0.2mol/L、ホウ酸が0.5mol/L、リン酸が0.5mol/L、クエン酸ナトリウムが0.5mol/Lとなるように調製した。実験は、めっき液24が50℃で十分にエアレーションされている状態で、ステンレス電極28の水平部分に流れる電流密度が1[A/dm2]、2[A/dm2]、4[A/dm2]のときにめっき時間として40分、60分、90分、120分としたときのニッケル・リン化合物薄層の厚み[μm]を計測するものとした。実験データを図3および図4に示す。図3は、実験データの一覧表であり、図4は、実験データをグラフとしたものである。
【0013】
図4に示すように、ニッケル・リン化合物薄層の厚みを30μm以下とするためには、電流密度を4[A/dm2]としたときには80分以内とすればよく、この場合、I・t≦320となる。また、ニッケル・リン化合物薄層の厚みを20μm以下とするためには、電流密度を4[A/dm2]としたときには50分以内とすればよく、この場合、I・t≦200となる。電流密度を2[A/dm2]としたときには120分以内とすればよく、この場合、I・t≦240となる。したがって、ニッケル・リン化合物薄層の厚みを30μm以下とするためにはI・t≦240とすれば十分であることが解る。
【0014】
また、実験では、めっき液24のリン酸濃度を0.5mol/L、1.0mol/Lとしてめっきを施したときのニッケル・リン化合物薄層の成分と、これを1020℃でロウ付けしたときの状態を調べた。このときの条件としては、めっき液24が50℃で十分にエアレーションされている状態で、ステンレス電極28の垂直部分に流れる電流密度を5[A/dm2]として50分のめっき時間とした。実験結果を図5に示す。図示するように、リン酸濃度を0.5mol/LとしたときにはNi-9P(重量%)程度のニッケル・リン化合物薄層が形成され、リン酸濃度を1.0mol/LとしたときにはNi-13P(重量%)程度のニッケル・リン化合物薄層が形成された。いずれの場合も、ロウ付けは良好であった。
【0015】
以上説明した実施形態のブレージングシートの製造方法では、硫酸ニッケルと塩化ニッケルとホウ酸とリン酸と含有するめっき液にクエン酸ナトリウムの存在下でステンレス薄板を浸漬し、電解めっき法を用いてステンレス薄板の表面にニッケル・リン化合物複合めっき層の薄層をニッケル・リン化合物薄層として形成することにより、ステンレス薄板の表面に厚みが30μm以下のニッケル・リン化合物薄層が形成されたブレージングシートを製造することができる。
【0016】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は、ブレージングシートの製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0018】
20 実験用めっき装置、22 めっき槽、24 めっき液、26 ニッケル電極、28 ステンレス電極、30 電源装置、32 温度センサ、34 ヒータ、36 温度制御装置、38 エアレーションパイプ、40 エアポンプ。
図1
図2
図3
図4
図5