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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-12
(45)【発行日】2023-01-20
(54)【発明の名称】加速空洞
(51)【国際特許分類】
   H05H 7/18 20060101AFI20230113BHJP
   H05H 13/04 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
H05H7/18
H05H13/04 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019093924
(22)【出願日】2019-05-17
(65)【公開番号】P2020187986
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】309036221
【氏名又は名称】三菱重工機械システム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504151365
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 紳悟
(72)【発明者】
【氏名】吉田 光宏
(72)【発明者】
【氏名】重岡 伸之
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/110700(WO,A1)
【文献】特開平7-302699(JP,A)
【文献】実開昭48-96400(JP,U)
【文献】特開平11-135299(JP,A)
【文献】特開2014-096202(JP,A)
【文献】特開昭52-54900(JP,A)
【文献】特開平4-342998(JP,A)
【文献】特開平7-106808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 7/18
H05H 9/00
H05H 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する筒形状の筐体と、
誘電体で形成され、中心部に荷電粒子を通過可能な開口部を有し、前記筐体の中心軸の軸線方向に複数並んだ状態で当該筐体の内部に配置され、それぞれが前記筐体によって前記中心軸の軸線方向に挟持された複数のセルと
を備え、
前記筐体は、それぞれの前記セルを保持する部分に設けられ、前記セルを伝播する高周波の加速モードにおける波長の4分の1の深さの溝部を有する
加速空洞。
【請求項2】
前記筐体は、当該筐体を構成する複数の筐体部材が前記中心軸の軸線方向に接合されて形成され、隣り合う2つの前記筐体部材によって1つの前記セルが挟持される
請求項1に記載の加速空洞。
【請求項3】
複数の前記筐体部材は、電子ビーム溶接又は電鋳によって接合された状態である
請求項2に記載の加速空洞。
【請求項4】
前記複数のセルは、それぞれの前記セル同士が前記中心軸の軸線方向に間隔を空けて配置される
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の加速空洞。
【請求項5】
前記筐体は、内部と外部とを中心軸に直交する放射方向について連通する連通部を有する
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の加速空洞。
【請求項6】
前記連通部は、前記筐体の外周方向に沿ってスリット状に形成される
請求項5に記載の加速空洞。
【請求項7】
前記セルは、一部が前記連通部を介して前記筐体の外部に露出した状態で配置され、
前記セルのうち前記連通部に露出する部分の表面を覆うカバー部と、
前記カバー部に接触して配置され、内部に冷却媒体を流通させる流路部材と
を更に備える請求項5に記載の加速空洞。
【請求項8】
前記中心軸に直交する方向の内側に向けて前記セルに対して弾性力を付与する弾性変形部を更に備える
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の加速空洞。
【請求項9】
前記弾性変形部は、前記筐体の一部である
請求項8に記載の加速空洞。
【請求項10】
前記筐体の内部に設けられ、前記筐体の内部の異物を除去するゲッター材を更に備える
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の加速空洞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速空洞に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波加速空胴は、高周波が入力されることで内部に加速電界を発生させ、電子等の荷電粒子を加速させる。特許文献1では、加速エネルギーとなる高周波の大部分を高周波損失の小さい誘電体の中に保持することにより、導電損失を低減し、電力効率を高める加速空洞について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-117730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の加速空洞では、導電体からなる筐体の内部に誘電体のセルを積み上げることで配置する構成である。この構成では、セルの寸法誤差等により、高周波の共振周波数の調整が難しくなる可能性がある。そのため、導電損失を低減して電力効率を高めつつ、共振周波数の調整が容易な構成が求められる。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、導電損失を低減して電力効率を高めつつ、共振周波数の調整が容易な加速空洞を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る加速空洞は、導電性を有する筒形状の筐体と、誘電体で形成され、中心部に荷電粒子を通過可能な開口部を有し、前記筐体の中心軸の軸線方向に複数並んだ状態で当該筐体の内部に配置され、それぞれが前記筐体によって前記中心軸の軸線方向に挟持された状態で固定された複数のセルとを備え、前記筐体は、それぞれの前記セルを保持する部分に設けられ、前記セルを伝播する高周波の加速モードにおける波長の4分の1の深さの溝部を有する。
【0007】
したがって、複数のセルが筐体によって中心軸の軸線方向に挟持された状態で固定されるため、筐体内におけるセルの配置を最適な位置で安定させることができる。このため、共振周波数の調整を容易に行うことができる。また、筐体において、それぞれのセルを保持する部分には、セルを伝播する高周波の加速モードにおける波長の4分の1の深さの溝部が設けられるため、セルを伝播して外側に向かう加速モードの高周波は、溝部において反射された高周波との間で打ち消し合うことになる。つまり、溝部は、加速モードの周波数における高周波に対して短絡面として振る舞うことになる。この構成により、加速空洞において、高周波が筐体の外側に漏出することを抑制できる。よって、導電損失を低減して電力効率を高めつつ、共振周波数の調整が容易な加速空洞が得られる。
【0008】
また、前記筐体は、当該筐体を構成する複数の筐体部材が前記中心軸の軸線方向に接合されて形成され、隣り合う2つの前記筐体部材によって1つの前記セルが挟持されてもよい。
【0009】
したがって、筐体において中心軸の軸線方向にセルを容易かつ確実に固定することができる。
【0010】
また、複数の前記筐体部材は、電子ビーム溶接又は電鋳によって接合された状態であってもよい。
【0011】
したがって、少ない入熱量により、寸法変化を抑制しつつ、筐体部材同士を確実に接合することができる。また、筐体部材同士の接合が強固となるため、熱伝導が促進され、筐体の一部を冷却することで、全体の温度調整を行うことが可能となる。
【0012】
また、前記複数のセルは、それぞれの前記セル同士が前記中心軸の軸線方向に間隔を空けて配置されてもよい。
【0013】
したがって、筐体の内部においてセルの内外が連通された状態となる。したがって、セルの内部の排気を容易に行うことが可能となる。例えば、筐体内部のセルの円筒部分が多重構造となる場合において、筐体の内部でセルの内外が連通された状態とすることができるため、排気が容易となる。
【0014】
また、前記筐体は、内部と外部とを中心軸に直交する放射方向について連通する連通部を有してもよい。
【0015】
したがって、連通部を介して筐体の内部の排気を容易に行うことが可能となる。
【0016】
また、前記連通部は、前記筐体の外周方向に沿ってスリット状に形成されてもよい。
【0017】
したがって、筐体の外周方向に沿った範囲に亘って排気を行うことができる。
【0018】
また、前記セルは、一部が前記連通部を介して前記筐体の外部に露出した状態で配置され、前記セルのうち前記連通部に露出する部分の表面を覆うカバー部と、前記カバー部に接触して配置され、内部に冷却媒体を流通させる流路部材とを更に備えてもよい。
【0019】
したがって、セルを容易に冷却することができる。
【0020】
また、前記中心軸に直交する方向の内側に向けて前記セルに対して弾性力を付与する弾性変形部を更に備えてもよい。
【0021】
したがって、筐体とセルとの間に熱膨張率の差がある場合でも、熱変形による筐体とセルとの間の相対的な位置ずれを吸収することができる。
【0022】
また、前記弾性変形部は、前記筐体の一部であってもよい。
【0023】
したがって、別途弾性変形部材を用いることなく、熱変形による筐体とセルとの間の相対的な位置ずれを吸収することができる。
【0024】
また、前記筐体の内部に設けられ、前記筐体の内部の異物を除去するゲッター材を更に備えてもよい。
【0025】
したがって、筐体の内部の異物を容易に除去することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、導電損失を低減して電力効率を高めつつ、共振周波数の調整が容易な加速空洞を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、第1実施形態に係る加速空洞の一例を示す断面斜視図である。
図2図2は、本実施形態に係る加速空洞の一例を示す断面図である。
図3図3は、胴体部材の一例を示す斜視図である。
図4図4は、図3の胴体部材について中心軸AXを通る平面による断面構成の一例を示す図である。
図5図5は、第2実施形態に係る加速空洞の一例を示す断面図である。
図6図6は、第3実施形態に係る加速空洞の一例を示す断面図である。
図7図7は、本実施形態に係るスプリング部の一例を示す斜視図である。
図8図8は、第4実施形態に係る加速空洞の一例を示す断面図である。
図9図9は、第5実施形態に係る加速空洞の一例を示す断面図である。
図10図10は、第6実施形態に係る加速空洞の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る加速空洞の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0029】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る加速空洞100の一例を示す斜視断面図である。図1では、中心軸を通る平面で加速空洞100を切断した断面を示している。図1に示す加速空洞100は、高周波が入力されることで内部に加速電界を発生させ、線源BSから出射される電子等の荷電粒子Mを加速させる。加速空洞100及び線源BSを用いて、加速器ACが構成される。加速器ACは、例えば高エネルギー物理学実験や放射光施設などの学術分野、放射線治療又は検査などの医療分野、非破壊検査などの工業分野等の各種分野において用いられる。なお、以下の説明において、加速空洞100における方向のうち中心軸AXの軸線方向を説明する場合、線源BS側(荷電粒子Mが入射する側)を入射側と表記し、入射側の反対側(荷電粒子が出射する側)を出射側と表記する。
【0030】
加速空洞100は、筐体10と、複数のセル20とを備える。筐体10は、例えば無酸素銅などの純金属、ステンレスに銀メッキまたは銅メッキが施された材料等、導電性を有する材料を用いて円筒状に形成される。このように形成することにより、筐体10の表面は、導電性が確保される。
【0031】
筐体10は、中心軸AXの軸線方向に並ぶ複数の筐体部材(11、12、13)が接合された構成である。筐体部材は、線源BSからの荷電粒子Mが入射する入射側部材11と、荷電粒子Mが出射される出射側部材12と、入射側部材11と出射側部材12との間に配置される複数の胴体部材13とを有する。
【0032】
入射側部材11は、例えば円筒状であり、筐体10の中心軸AXの軸線方向のうち入射側(線源BS側)の端部に壁部11wが設けられる。入射側部材11は、壁部11wのうち筐体10の中心軸AXを含む部分に円形状の開口部11pを有する。開口部11pは、筐体10に入射される荷電粒子Mが通過する。入射側部材11は、内周面11a及び外周面11bを有する。内周面11aは、後述する出射側部材12の内周面12a及び胴体部材13の内周面13aと面一状態となるように形成される。また、外周面11bは、後述する出射側部材12の外周面12b及び胴体部材13の外周面13bと面一状態となるように形成される。なお、内周面11aと、出射側部材12の内周面12a及び胴体部材13の内周面13aとの間は、面一状態ではなくてもよい。また、外周面11bと、出射側部材12の外周面12b及び胴体部材13の外周面13bとの間は、面一状態ではなくてもよい。
【0033】
出射側部材12は、例えば円筒状であり、筐体10の中心軸AXの軸線方向のうち出射側の端部に壁部12wが設けられる。出射側部材12は、壁部12wのうち筐体10の中心軸AXを含む部分に円形状の開口部12pを有する。開口部12pは、筐体10から出射される荷電粒子Mが通過する。出射側部材12は、内周面12a及び外周面12bを有する。
【0034】
図3は、胴体部材13の一例を示す斜視図である。図4は、図3の胴体部材13について中心軸AXを通る平面による断面構成の一例を示す図である。図3及び図4に示すように、胴体部材13は、内周面13aと、外周面13bと、入射側端面13cと、出射側端面13dと、入射側突出部13eと、出射側突出部13fと、溝部13gと、凸部13hとを有する。
【0035】
内周面13a及び外周面13bは、例えば円筒面であり、中心軸が筐体10の中心軸AXと一致するように設けられる。入射側端面13cは、中心軸AXの軸線方向の入射側の端面である。出射側端面13dは、中心軸AXの軸線方向の出射側の端面である。入射側端面13c及び出射側端面13dは、例えば平面状である。
【0036】
入射側突出部13eは、入射側端面13cの外周部分に設けられる。入射側突出部13eは、周方向の一周に亘って形成される。入射側突出部13eは、入射側端面13cに対して段状に設けられ、内側面13jを形成する。出射側突出部13fは、出射側端面13dの外周部分に設けられる。出射側突出部13fは、周方向について、例えば所定のピッチで設けられる。このため、軸対称性を維持しつつ出射側突出部13fを配置可能となる。出射側突出部13fは、出射側端面13dに対して段状に設けられる。
【0037】
溝部13gは、出射側端面13dに円環状に設けられる。溝部13gは、出射側端面13dから入射側に向けて深さd(図2参照)となるように形成される。この深さdは、加速空洞100に入力される高周波の加速モードにおける波長の4分の1の深さとなるように設定される。したがって、筐体10の内部からセル20を伝播して外側に向かう加速モードの高周波は、溝部13gにおいて反射され、位相が波長の2分の1だけずれた状態となる。このため、セル20を伝播して外側に向かう加速モードの高周波は、溝部13gにおいて反射された高周波との間で打ち消し合うことになる。つまり、溝部13gは、加速モードの周波数における高周波に対して短絡面として振る舞うことになる。この構成により、加速空洞100において、高周波が筐体10の外側に漏出することを抑制できる。なお、溝部13gは、入射側端面13cに設けられてもよい。また、溝部13gを入射側端面13cに設けるか、出射側端面13dに設けるかについては、胴体部材13毎に個別に設定することができる。
【0038】
凸部13hは、出射側端面13dの内周部分に設けられる。凸部13hは、周方向について、所定のピッチで設けられる。例えば、中心軸AXを中心とした回転方向について、出射側突出部13fの位相と対応する位相の範囲に凸部13hを設けることができる。このため、軸対称性を維持しつつ凸部13hを配置可能となる。
【0039】
胴体部材13同士が接合される場合、出射側突出部13fは、入射側突出部13eと接触した状態となる。この状態において、隣り合う胴体部材13の入射側端面13c、入射側突出部13e、出射側端面13d及び出射側突出部13fで囲まれた部分には、後述するセル20の円環部23を収容するための空間が形成される。また、出射側端面13dの外周部分のうち周方向について出射側突出部13fの間の部分には、スリット部13sが形成される。スリット部13sは、外周面13bの周方向に沿って形成される。また、凸部13hは、入射側端面13cとの間に間隔を空けて対向する。凸部13hと入射側端面13cとの間には、後述するセル20の円環部23が挟持される。周方向について凸部13h同士の間の部分には、凹部13iが形成される。凹部13iは、上記したスリット部13sと連通される。したがって、凹部13i及びスリット部13sにより、胴体部材13の内周側と外周側とが連通される。凹部13i及びスリット部13sは、胴体部材13の内部と外部とを中心軸AXに直交する放射方向について連通する連通部を構成する。
【0040】
なお、入射側部材11における出射側端部の構成は、胴体部材13の出射側端部の構成と同様である。つまり、入射側部材11は、出射側端部において、出射側端面11dと、出射側突出部11fと、溝部11gと、凸部11hとを有する。また、出射側部材12における入射側端部の構成は、胴体部材13の入射側端部の構成と同様である。つまり、出射側部材12は、入射側端部において、入射側端面12cと、入射側突出部12eとを有する。入射側部材11における出射側の構成及び出射側部材12における入射側の構成については、上記胴体部材13の説明が援用可能である。
【0041】
したがって、溝部11gは、出射側端面11dから入射側に向けて深さd(図2参照)となるように形成される。溝部11gの深さdは、溝部13gの深さdと同一の値とすることができる。
【0042】
入射側部材11と胴体部材13とが接合される場合、入射側部材11の出射側突出部11fは、入射側突出部13eと接触した状態となる。この状態において、出射側端面11d、出射側突出部11fと、入射側端面13c、入射側突出部13eとで囲まれた部分には、後述するセル20の円環部23を収容するための空間が形成される。また、出射側端面11dの外周部分のうち周方向について出射側突出部(不図示)の間の部分には、スリット部(不図示)が形成される。スリット部13sは、外周面13bの周方向に沿って形成される。また、凸部11hは、入射側端面13cとの間に間隔を空けて対向する。凸部11hと入射側端面13cとの間には、後述するセル20の円環部23が挟持される。周方向について凸部11h同士の間の部分には、凹部(不図示)が形成される。凹部(不図示)は、上記したスリット部と連通される。したがって、凹部11i及びスリット部13sにより、入射側部材11及び胴体部材13の内周側と外周側とが連通される。
【0043】
同様に、胴体部材13と出射側部材12とが接合される場合、胴体部材13の出射側突出部13fは、出射側部材12の入射側突出部12eと接触した状態となる。この状態において、胴体部材13の出射側端面13d、出射側突出部13fと、出射側部材12の入射側端面12c、入射側突出部12eとで囲まれた部分には、後述するセル20の円環部23を収容するための空間が形成される。また、出射側端面13dの外周部分のうち周方向について出射側突出部13fの間の部分には、スリット部13sが形成される。スリット部13sは、外周面13bの周方向に沿って形成される。また、凸部13hは、入射側端面12cとの間に間隔を空けて対向する。凸部13hと入射側端面12cとの間には、後述するセル20の円環部23が挟持される。周方向について凸部13h同士の間の部分には、凹部13iが形成される。凹部13iは、上記したスリット部13sと連通される。したがって、凹部13i及びスリット部13sにより、胴体部材13及び出射側部材12の内周側と外周側とが連通される。なお、凸部13hは、円環部23との間に間隔をあけた状態となるように設けられてもよい。この場合、円環部23は、入射側端面12cに接合される。
【0044】
複数のセル20は、中心軸AXの軸線方向に並んでいる。それぞれのセル20は、円筒部21と、円板部22と、円環部23とを有する。セル20は、誘電体で形成され、表面には金属コーティングなどを施さずに用いられる。なお、セル20は、表面において局所的な金属コーティング又は誘電体コーティングが施されてもよい。セル20に用いられる誘電体は、誘電損失が低い誘電体であり、例えばアルミナやサファイアなどのセラミックスである。
【0045】
円筒部21は、中心軸が筐体10の中心軸AXと同軸上となるように配置される。円筒部21は、胴体部材13の内周面13aよりも径が小さい。このため、円筒部21は、胴体部材13の内側に収容される。円筒部21の径は、全てのセル20において同一であってもよいし、中心軸AXの軸線方向の端部側のセル20における円筒部21の径が、中央側の円筒部21の径よりも大きく設定されるなど、セル20毎に異なってもよい。中心軸AXの軸線方向に隣り合うセル20の円筒部21同士の間には、間隔Gが設けられる。つまり、複数のセル20は、それぞれのセル20が中心軸AXの軸線方向に間隔Gを空けて配置される。また、中心軸AXの軸線方向の両端に配置されるセル20は、それぞれ入射側部材11及び出射側部材12との間に間隔Gを空けて配置される。このため、筐体10の内部において、円筒部21の内側と外側とが連通された状態となっている。
【0046】
円板部22は、円筒部21の内側に配置される。円板部22は、中心軸AXの軸線方向について円筒部21の中央部に配置される。円板部22は、中心軸AXを含む部分に円形状の開口部22aを有する。開口部22aは、荷電粒子Mが通過する。開口部22aの直径は、円筒部21の直径よりも小さい。円板部22の面上に対して垂直方向に円筒部21が設置される。
【0047】
円環部23は、円筒部21の外側に配置される。円環部23は、中心軸AXの軸線方向について円筒部21の中央部に配置される。円環部23は、中心軸AXの軸線方向の厚さが円板部22と同様である。したがって、円板部22及び円環部23は、円筒部21を介して平板状に形成された構成である。
【0048】
円環部23は、筐体10のうち中心軸AXの軸線方向に隣り合う2つの筐体部材同士の間に挟持される。中心軸AXの軸線方向の両端に配置されるセル20の円環部23は、入射側部材11の凸部11hと胴体部材13の入射側端面13dとの間、又は胴体部材13の凸部13hと出射側部材12の入射側端面21dとの間に挟持される。また、中心軸AXの軸線方向の中央側に配置されるセル20の円環部23は、胴体部材13同士の間、つまり胴体部材13の凸部13hと胴体部材13の入射側突出部13eとの間に挟持される。この構成により、筐体10のうち隣り合う筐体部材によって1つのセル20が挟持される。また、本実施形態において、円環部23の外周面23aは、入射側突出部13eの内側面13jに支持されている。
【0049】
上記した加速空洞100は、通過する荷電粒子Mのビーム軸の近傍に加速方向の電場が形成される。セル20の円板部22の板面がビーム軸に対して垂直方向になるように、当該円板部22が円筒部21の内側に設置される。これにより、円板部22の開口部22aの内側で、ビーム軸の延在方向に加速電場を集中させることが可能であるため、シャントインピーダンスを上げることができる。
【0050】
上記のように構成される加速空洞100は、例えばチャンバCB内に収容され、ポンプPによって減圧可能となっている。ポンプPによりチャンバCB内を減圧することにより、加速空洞100の内部が減圧される。本実施形態の加速空洞100では、例えばセル20の円筒部21の内部については、筐体10の開口部11p及び開口部12pを介して排気される。また、例えばセル20の円筒部21の外部については、筐体10の凹部13i及びスリット部13sを介して排気される。なお、本実施形態では、隣り合うセル20の円筒部21同士が間隔Gを空けて配置されるため、セル20の円筒部21の内部については、当該間隔Gから凹部13i及びスリット部13sを介して排気することができる。このため、軸対称性を維持しつつ、排気を行うことができる。
【0051】
以上のように、本実施形態に係る加速空洞100は、導電性を有する筒形状の筐体10と、誘電体で形成され、中心部に荷電粒子Mを通過可能な開口部22aを有し、筐体10の中心軸AXの軸線方向に複数並んだ状態で当該筐体10の内部に配置され、それぞれが筐体10によって中心軸AXの軸線方向に挟持された状態で固定された複数のセル20とを備え、筐体10は、それぞれのセル20を保持する部分に設けられ、セル20を伝播する高周波の加速モードにおける波長の4分の1の深さの溝部13gを有する。
【0052】
したがって、複数のセル20が筐体10によって中心軸AXの軸線方向に挟持された状態で固定されるため、筐体10内におけるセル20の配置を最適な位置で安定させることができる。このため、共振周波数の調整を容易に行うことができる。また、筐体10において、それぞれのセル20を保持する部分には、セル20を伝播する高周波の加速モードにおける波長の4分の1の深さの溝部13gが設けられるため、セル20を伝播して外側に向かう加速モードの高周波は、溝部13gにおいて反射された高周波との間で打ち消し合うことになる。つまり、溝部13gは、加速モードの周波数における高周波に対して短絡面として振る舞うことになる。この構成により、加速空洞100において、高周波が筐体10の外側に漏出することを抑制できる。よって、導電損失を低減して電力効率を高めつつ、共振周波数の調整が容易な加速空洞100が得られる。
【0053】
また、筐体10は、当該筐体10を構成する複数の筐体部材(11、12、13)が中心軸AXの軸線方向に接合されて形成され、隣り合う2つの筐体部材(11、12、13)によって1つのセル20が挟持されてもよい。したがって、筐体10において中心軸AXの軸線方向にセル20を容易かつ確実に固定することができる。
【0054】
また、複数のセル20は、それぞれのセル20同士が中心軸AXの軸線方向に間隔Gを空けて配置されてもよい。したがって、筐体10の内部においてセル20の内外が連通された状態となる。したがって、セル20の内部の排気を容易に行うことが可能となる。例えば、筐体10の内部が多重構造となる場合において、筐体10の内部でセル20の内外が連通された状態とすることができるため、排気が容易となる。
【0055】
また、筐体10は、内部と外部とを中心軸AXに直交する放射方向について連通する連通部を有してもよい。したがって、連通部を介して筐体10の内部の排気を容易に行うことが可能となる。
【0056】
また、連通部は、筐体10の外周方向に沿ってスリット状に形成されてもよい。したがって、筐体10の外周方向に沿った範囲に亘って排気を行うことができる。
【0057】
[第2実施形態]
図5は、第2実施形態に係る加速空洞200の一例を示す断面図である。図5は、加速空洞200の断面の一部を示している。図5に示すように、加速空洞200は、筐体110及び複数のセル20を有する。筐体110は、胴体部材13において、内周側から外周側を連通する連通部13tを有する。連通部13tは、胴体部材13の内周面と外周面との間を貫通して設けられる。
【0058】
複数のセル20においては、円環部23が連通部13t内に配置される。円環部23の外周面23aは、連通部13tを介して筐体10の外部に露出した状態で配置される。外周面23a上は、カバー部30が配置される。カバー部30は、セル20のうち連通部13tを介して外部に露出する部分の表面である外周面23aを覆う位置に配置される。したがって、外周面23aは、連通部13tを介して筐体10の外部に露出されるが、カバー部30で覆われた状態となっている。カバー部30は、例えば金属材料等、熱伝導率が高い材料を用いて形成される。カバー部30上には、流路部材40が配置される。流路部材40は、内部に水等の冷却媒体41を流通させる。他の構成については、第1実施形態の加速空洞100と同様である。
【0059】
このように、第2実施形態に係る加速空洞200は、セル20の一部を筐体10の外部に露出させる位置に配置され、セル20のうち連通部に露出する部分の表面を覆うカバー部30と、カバー部30に接触して配置され、内部に冷却媒体41を流通させる流路部材40とを更に備える。流路部材40内を流通する冷却媒体41により、カバー部30を介して円環部23が冷却される。したがって、セル20を容易に冷却することができる。
【0060】
[第3実施形態]
図6は、第3実施形態に係る加速空洞300の一例を示す断面図である。図6に示すように、加速空洞300は、筐体210及び複数のセル20を有する。筐体210は、出射側部材12における入射側突出部12eの内側面12jとセル20における円環部23の外周面23aとの間に空間12kが設けられる。また、筐体210は、胴体部材13における入射側突出部13eの内側面13jとセル20における円環部23の外周面23aとの間に、空間13kが設けられる。空間12k及び空間13kには、スプリング部(弾性変形部)50が配置される。
【0061】
図7に示すように、スプリング部50は、円環状に形成され、基部51と、内周部52と、外周部53とを有する。スプリング部50は、基部51が出射側部材12の入射側端面12c、又は胴体部材13の入射側端面13cに接触し、内周部52がセル20の円環部23の外周面23aに接触し、外周部53が入射側突出部13eの内側面13jに接触した状態で配置される。他の構成については、第1実施形態の加速空洞100と同様である。
【0062】
このように、第3実施形態に係る加速空洞300は、中心軸AXに直交する方向の内側に向けてセル20に対して弾性力を付与する弾性変形部としてスプリング部50を更に備える。したがって、筐体10とセル20との間に熱膨張率の差がある場合でも、熱変形による筐体10とセル20との間の相対的な位置ずれを吸収することができる。なお、弾性変形部としては、スプリング部50に代えて、他の弾性部材が用いられてもよい。
【0063】
[第4実施形態]
図8は、第4実施形態に係る加速空洞400の一例を示す断面図である。図8に示すように、加速空洞400は、筐体100及び複数のセル20を有する。筐体100は、第3実施形態において空間12k、13kに配置されるスプリング部50に代えて、空間12m、13mに配置される円筒状片部12n、13nを弾性変形部として有する構成である。つまり、弾性変形部は筐体10の一部となっている。他の構成については、第3実施形態の加速空洞300と同様である。
【0064】
このように、第4実施形態に係る加速空洞300において、筐体10の一部である円筒状片部12n、13nが弾性変形部であってもよい。したがって、別途弾性変形部材を用いることなく、熱変形による筐体10とセル20との間の相対的な位置ずれを吸収することができる。
【0065】
[第5実施形態]
図9は、第5実施形態に係る加速空洞500の一例を示す断面図である。図9に示すように、加速空洞500は、筐体410及び複数のセル20を有する。筐体410の内部にゲッター材60が配置される。ゲッター材60は、例えば筐体410の内部の異物を吸着して除去する。ゲッター材60としては、例えば加速空洞500内を排気する場合に残存する水素成分及び酸素成分(水成分)を吸着して除去可能な材料等が用いられる。なお、ゲッター材60は、例えばチタン等の金属を含んでもよい。ゲッター材60は、溝部13gよりも外側の部分に配置されてもよい。
【0066】
このように、第5実施形態に係る加速空洞500において、筐体410の内部にゲッター材60を配置することにより、ゲッター材60によって筐体の内部の異物を容易に除去することができる。
【0067】
[第6実施形態]
図10は、第6実施形態に係る加速空洞600の一例を示す断面図である。図10に示すように、加速空洞600は、筐体510及び複数のセル20を有する。筐体510は、筐体部材同士の接合部分14が、電子ビーム溶接又は電鋳によって接合された状態である。
【0068】
このように、第6実施形態に係る加速空洞600において、複数の筐体部材(11、12、13)が溶接又は電鋳によって接合された状態である。したがって、少ない入熱量により、寸法変化を抑制しつつ、筐体部材(11、12、13)同士を確実に接合することができる。また、筐体部材(11、12、13)同士の接合が強固となるため、熱伝導が促進され、筐体10の一部を冷却することで、全体の温度調整を行うことが可能となる。
【0069】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。例えば、上記実施形態では、筐体10において凸部11h、13hと入射側端面13c、12cとの両方が円環部23に接触した状態で円環部23を挟持する構成を例に挙げて説明したが、これに限定されない。例えば、円環部23を入射側端面13c、12cに接合させることにより、円環部23と凸部11h、13hとの間が離れた状態とすることができる。この場合、凸部11h、13hが設けられない構成であってもよい。
【0070】
また、例えば上記実施形態では、筐体10の胴体部材13において、凹部13i及びスリット部13sによる連通部が設けられた構成を例に挙げて説明したが、これに限定されない。凹部13i及びスリット部13sは、例えば設けられなくてもよい。この場合、開口部11p及び開口部12pを介して筐体10の内部を排気することができる。なお、凹部13i、スリット部13sを設ける構成とするか、設けない構成とするかについては、胴体部材13毎に個別に設定することができる。
【0071】
また、上記の加速空洞の一部を冷却する際、流路部材30等の外部の設備等を用いる場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。例えば、筐体10、110、210、310、410、510の内部に流路を形成し、当該筐体内部の流路に冷媒を流通させる構成であってもよい。
【0072】
また、上記各実施形態の構成に対して、例えば胴体部材13のうち溝部13gよりも外側の部分に、フェライト又はSiC等の電磁波吸収体を設けてもよい。この構成により、荷電粒子Mが加速空洞内を通過する際に励起される電磁波(航跡場)のうち、加速モードの周波数とは異なる周波数を持つ成分が溝部13gよりも外側に漏れ出し、電磁場吸収体に吸収されて減衰するため、荷電粒子Mを加速する加速電場への影響が抑制される。したがって、航跡場の影響による荷電粒子Mの広がりや軌道変化などを低減し、荷電粒子Mのビームの品質を高く保つことができる。
【符号の説明】
【0073】
AC 加速器
AX 中心軸
BS 線源
CB チャンバ
G 間隔
M 荷電粒子
P ポンプ
10,110,210,310,410,510 筐体
11 入射側部材
11a,12a,13a 内周面
11b,12b,13b,23a 外周面
11d,13d 出射側端面
11f,13f 出射側突出部
11g,13g 溝部
11h,13h 凸部
11i,13i 凹部
11p,12p,22a 開口部
11w,12w 壁部
12 出射側部材
12c,13c,13d,21d 入射側端面
12e,13e 入射側突出部
12j,13j 内側面
12k,12m,13k,13m 空間
12n,13n 円筒状片部
13 胴体部材
13s スリット部
13t 連通部
14 接合部分
20 セル
21 円筒部
22 円板部
23 円環部
30 カバー部
40 流路部材
41 冷却媒体
50 スプリング部
51 基部
52 内周部
53 外周部
60 ゲッター材
100,200,300,400,500,600 加速空洞
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10