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特許7209314アンテナモジュールおよびそれを搭載した通信装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-12
(45)【発行日】2023-01-20
(54)【発明の名称】アンテナモジュールおよびそれを搭載した通信装置
(51)【国際特許分類】
   H01Q 13/08 20060101AFI20230113BHJP
   H01P 1/203 20060101ALI20230113BHJP
   H01P 1/205 20060101ALI20230113BHJP
   H01P 5/10 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
H01Q13/08
H01P1/203
H01P1/205 K
H01P5/10 C
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021555904
(86)(22)【出願日】2020-07-16
(86)【国際出願番号】 JP2020027594
(87)【国際公開番号】W WO2021095301
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2019205205
(32)【優先日】2019-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大平 昌敬
(72)【発明者】
【氏名】須藤 薫
(72)【発明者】
【氏名】田口 義規
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-057852(JP,A)
【文献】国際公開第2020/050341(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 13/08
H01P 1/203
H01P 1/205
H01P 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射素子と、
複数の共振器で構成されたフィルタ装置とを備え、
前記複数の共振器は、第1共振器と、最終段に配置された第2共振器とを含み、
前記第1共振器および前記第2共振器の各々は、前記放射素子と電気的に結合されており、
前記第1共振器と前記放射素子との間の結合度は、前記第2共振器と前記放射素子との間の結合度よりも弱い、アンテナモジュール。
【請求項2】
前記第2共振器は、前記放射素子とビアにより直接接続されている、請求項1に記載のアンテナモジュール。
【請求項3】
前記第1共振器は、前記放射素子とビアを介して非接触で電磁界結合している、請求項2に記載のアンテナモジュール。
【請求項4】
前記第1共振器は、前記放射素子と非接触で電磁界結合している、請求項1に記載のアンテナモジュール。
【請求項5】
前記第2共振器は、前記放射素子と非接触で電磁界結合している、請求項4に記載のアンテナモジュール。
【請求項6】
前記放射素子と前記フィルタ装置との間に、前記放射素子に対向して配置された接地電極をさらに備える、請求項1~5のいずれか1項に記載のアンテナモジュール。
【請求項7】
前記放射素子と前記フィルタ装置との間に、前記放射素子に対向して配置された接地電極をさらに備え、
前記放射素子と非接触で電磁界結合している共振器と前記放射素子との間の前記接地電極の部分にはスロットが形成されている、請求項4または5のいずれか1項に記載のアンテナモジュール。
【請求項8】
前記放射素子に対向して配置された接地電極をさらに備え、
前記フィルタ装置は、前記放射素子と前記接地電極との間に配置される、請求項1~5のいずれか1項に記載のアンテナモジュール。
【請求項9】
共振器間の結合、および、前記放射素子と共振器との間の結合は、磁界結合および電界結合のいずれかの種類の結合であり、
前記磁界結合の結合係数の符号を正とし、前記電界結合の結合係数の符号を負とした場合に、前記複数の共振器のすべてを経由して前記放射素子に至る経路における結合の結合係数の符号を乗算した符号は、前記第1共振器と前記放射素子との間の結合の結合係数の符号と異なる、請求項1~8のいずれか1項に記載のアンテナモジュール。
【請求項10】
放射素子と、
複数の共振器で構成されたフィルタ装置とを備え、
前記複数の共振器は、第1共振器と、最終段に配置された第2共振器とを含み、
前記第1共振器は、前記放射素子とビアを介して非接触で電磁界結合しており、
前記第2共振器は、前記放射素子とビアにより直接接続されている、アンテナモジュール。
【請求項11】
放射素子と、
複数の共振器で構成されたフィルタ装置と、
前記放射素子と前記フィルタ装置との間に、前記放射素子に対向して配置された接地電極とを備え、
前記複数の共振器は、第1共振器と、最終段に配置された第2共振器とを含み、
前記第1共振器および前記第2共振器の各々は、前記接地電極に形成されたスロットを介して前記放射素子と非接触で電磁界結合しており、
前記第1共振器に対するスロットのサイズは、前記第2共振器に対するスロットのサイズよりも小さい、アンテナモジュール。
【請求項12】
前記放射素子に高周波信号を供給するように構成された給電回路をさらに備える、請求項1~11のいずれか1項に記載のアンテナモジュール。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載のアンテナモジュールを搭載した通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アンテナモジュールおよびそれを搭載した通信装置に関し、より特定的には、フィルタを内蔵したアンテナモジュールを小型化するための構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2007-318271号公報(特許文献1)には、4つの共振素子により形成されたフィルタ回路が開示されている。特開2007-318271号公報(特許文献1)においては、フィルタ回路の2つの共振素子間に存在する未制御な飛び越し結合を制御するための結合素子を配置することによって、当該2つの共振素子間の結合量を低減し、フィルタ特性を改善する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-318271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、スマートフォンあるいは携帯電話などの無線通信装置のフロントエンド回路において、アンテナ装置とフィルタとが一体化された構成が提案されている。このような無線通信装置においては、依然として小型化の要求が高く、それに伴ってフロントエンド回路自体の小型化も必要とされている。
【0005】
一般的に、フィルタが内蔵されたアンテナ装置においては、放射素子の特性とフィルタの特性とが個別に調整される場合がある。しかしながら、個々の要素を個別に最適化した場合でも、それらを組み合わせたときに必ずしもアンテナ全体としての特性が所望の特性にならない可能性がある。
【0006】
本開示は、以上のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、フィルタ装置を内蔵したアンテナモジュールの小型化とアンテナ特性の向上を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のある局面に従うアンテナモジュールは、放射素子と、複数の共振器で構成されたフィルタ装置とを備える。複数の共振器は、第1共振器と、最終段に配置された第2共振器とを含む。第1共振器および第2共振器の各々は、放射素子と電気的に結合されている。第1共振器と放射素子との間の結合度は、第2共振器と放射素子との間の結合度よりも弱い。
【0008】
本開示の他の局面に従うアンテナモジュールは、放射素子と、複数の共振器で構成されたフィルタ装置とを備える。複数の共振器は、第1共振器と、最終段に配置された第2共振器とを含む。第1共振器は、放射素子とビアを介して非接触で電磁界結合している。第2共振器は、放射素子とビアにより直接接続されている。
【0009】
本開示のさらに他の局面に従うアンテナモジュールは、放射素子と、複数の共振器で構成されたフィルタ装置と、接地電極とを備える。接地電極は、放射素子とフィルタ装置との間に、放射素子に対向して配置される。複数の共振器は、第1共振器と、最終段に配置された第2共振器とを含む。第1共振器および第2共振器の各々は、接地電極に形成されたスロットを介して放射素子と非接触で電磁界結合している。第1共振器に対するスロットのサイズは、第2共振器に対するスロットのサイズよりも小さい。
【発明の効果】
【0010】
本開示のアンテナモジュールにおいては、複数の共振器で構成されたフィルタ装置において、放射素子に結合される最終段の共振器(第2共振器)に加えて、他の共振器(第1共振器)が第2共振器よりも弱い結合度で放射素子と結合した構成を有している。このような構成として、放射素子をフィルタ装置の共振器の一部として利用することによって、フィルタ装置の段数を低減することができる。これによって、アンテナモジュールの小型化とともにアンテナ特性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1に従うアンテナモジュールが適用される通信装置のブロック図である。
図2図1のアンテナモジュールの側面透視図である。
図3図1のアンテナモジュールの斜視図である。
図4】比較例のアンテナモジュールの構成を説明するための図である。
図5】比較例におけるアンテナ特性を説明するための図である。
図6】実施の形態1におけるアンテナ特性を説明するための図である。
図7】変形例のアンテナモジュールを説明するための図である。
図8】実施の形態2に従うアンテナモジュールの側面透視図である。
図9】実施の形態3に従う第1例のアンテナモジュールの側面透視図である。
図10】実施の形態3に従う第2例のアンテナモジュールの側面透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0013】
[実施の形態1]
(通信装置の基本構成)
図1は、本実施の形態1に係るアンテナモジュール100が適用される通信装置10のブロック図の一例である。通信装置10は、たとえば、携帯電話、スマートフォンあるいはタブレットなどの携帯端末や、通信機能を備えたパーソナルコンピュータなどである。本実施の形態に係るアンテナモジュール100に用いられる電波の周波数帯域の一例は、たとえば28GHz、39GHzおよび60GHzなどを中心周波数とするミリ波帯の電波であるが、上記以外の周波数帯域の電波についても適用可能である。なお、以下の例においては、28GHzを中心周波数とする帯域幅を通過帯域(27~29GHz)とする場合を例として説明する。
【0014】
図1を参照して、通信装置10は、アンテナモジュール100と、ベースバンド信号処理回路を構成するBBIC200とを備える。アンテナモジュール100は、給電回路の一例であるRFIC110と、アンテナ装置120と、フィルタ装置105とを備える。通信装置10は、BBIC200からアンテナモジュール100へ伝達された信号を、RFIC110にて高周波信号にアップコンバートし、フィルタ装置105を介してアンテナ装置120から放射する。また、通信装置10は、アンテナ装置120で受信した高周波信号をフィルタ装置105を介してRFIC110へ送信し、ダウンコンバートしてBBIC200にて信号を処理する。
【0015】
図1では、説明を容易にするために、アンテナ装置120を構成する複数の放射素子121(放射素子)のうち、4つの放射素子121に対応する構成のみが示されており、同様の構成を有する他の放射素子121に対応する構成については省略されている。なお、図1においては、アンテナ装置120が二次元のアレイ状に配置された複数の放射素子121で形成される例が示されているが、複数の放射素子121が一列に配置された一次元アレイであってもよい。本実施の形態1においては、放射素子121は、略正方形の平板形状を有するパッチアンテナである。
【0016】
RFIC110は、スイッチ111A~111D,113A~113D,117と、パワーアンプ112AT~112DTと、ローノイズアンプ112AR~112DRと、減衰器114A~114Dと、移相器115A~115Dと、信号合成/分波器116と、ミキサ118と、増幅回路119とを備える。
【0017】
高周波信号を送信する場合には、スイッチ111A~111D,113A~113Dがパワーアンプ112AT~112DT側へ切換えられるとともに、スイッチ117が増幅回路119の送信側アンプに接続される。高周波信号を受信する場合には、スイッチ111A~111D,113A~113Dがローノイズアンプ112AR~112DR側へ切換えられるとともに、スイッチ117が増幅回路119の受信側アンプに接続される。
【0018】
BBIC200から伝達された信号は、増幅回路119で増幅され、ミキサ118でアップコンバートされる。アップコンバートされた高周波信号である送信信号は、信号合成/分波器116で4分波され、4つの信号経路を通過して、それぞれ異なる放射素子121に給電される。このとき、各信号経路に配置された移相器115A~115Dの移相度が個別に調整されることにより、アンテナ装置120の指向性を調整することができる。
【0019】
各放射素子121で受信された高周波信号である受信信号は、それぞれ、異なる4つの信号経路を経由し、信号合成/分波器116で合波される。合波された受信信号は、ミキサ118でダウンコンバートされ、増幅回路119で増幅されてBBIC200へ伝達される。
【0020】
フィルタ装置105は、フィルタ105A~105Dを含む。フィルタ105A~105Dは、RFIC110におけるスイッチ111A~111Dにそれぞれ接続される。フィルタ105A~105Dは、特定の周波数帯域の信号を減衰させる機能を有する。フィルタ105A~105Dは、バンドパスフィルタ、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ、あるいは、これらの組み合わせであってもよい。RFIC110からの高周波信号は、フィルタ105A~105Dを通過して、対応する放射素子121に供給される。
【0021】
ミリ波帯の高周波信号の場合、伝送線路が長くなると、ノイズ成分が混入しやすくなる傾向にある。そのため、フィルタ装置105と放射素子121との距離をできるだけ短くすることが好ましい。すなわち、放射素子121から高周波信号を放射する直前にフィルタ装置105を通過させることによって、放射素子から不要波が放射されることを抑制することができる。また、放射素子121における受信直後にフィルタ装置105を通過させることによって、受信信号に含まれる不要波を除去することができる。
【0022】
なお、図1においては、フィルタ装置105とアンテナ装置120が個別に記されているが、本開示においては、後述するように、フィルタ装置105はアンテナ装置120の内部に形成される。
【0023】
RFIC110は、例えば、上記回路構成を含む1チップの集積回路部品として形成される。あるいは、RFIC110における各放射素子121に対応する機器(スイッチ、パワーアンプ、ローノイズアンプ、減衰器、移相器)については、対応する放射素子121毎に1チップの集積回路部品として形成されてもよい。
【0024】
(アンテナモジュールの構成)
次に、図2および図3を用いて、本実施の形態1におけるアンテナモジュール100の構成の詳細を説明する。図2はアンテナモジュール100の側面透視図であり、図3はアンテナモジュールの斜視図である。なお、図3においては、説明を容易にするために、誘電体基板130およびRFIC110が省略されている。
【0025】
図2および図3においては、アンテナモジュール100が、1つの放射素子121を有する場合を例として説明するが、図1で説明したように、アンテナモジュール100は複数の放射素子が一次元配列あるいは二次元配列されたアレイアンテナであってもよい。
【0026】
アンテナモジュール100は、放射素子121およびRFIC110に加えて、誘電体基板130と、給電配線140~142と、フィルタ装置105と、接地電極GNDとを含む。なお、以降の説明において、誘電体基板130の法線方向(電波の放射方向)をZ軸方向とし、Z軸方向に垂直な面をX軸およびY軸で規定する。また、各図におけるZ軸の正方向を上方側、負方向を下方側と称する場合がある。
【0027】
誘電体基板130は、たとえば、低温同時焼成セラミックス(LTCC:Low Temperature Co-fired Ceramics)多層基板、エポキシまたはポリイミドなどの樹脂から構成される樹脂層を複数積層して形成された多層樹脂基板、より低い誘電率を有する液晶ポリマー(Liquid Crystal Polymer:LCP)から構成される樹脂層を複数積層して形成された多層樹脂基板、フッ素系樹脂から構成される樹脂層を複数積層して形成された多層樹脂基板、あるいは、LTCC以外のセラミックス多層基板である。なお、誘電体基板130は必ずしも多層構造でなくてもよく、単層の基板であってもよい。
【0028】
誘電体基板130は略矩形状を有しており、その上面131(Z軸の正方向の面)あるいは内部の層に放射素子121が配置されている。誘電体基板130において放射素子121よりも下面132(Z軸の負方向の面)側の層に、放射素子121に対向して、平板形状の接地電極GNDが配置される。誘電体基板130の下面132には、はんだバンプ160を介してRFIC110が実装されている。なお、RFIC110は、はんだ接続に代えて、多極コネクタを用いて誘電体基板130に接続されてもよい。
【0029】
RFIC110は、給電配線140によりフィルタ装置105に接続されている。フィルタ装置105は、いわゆる共振線路型フィルタであり、3つの線路状の共振器1051,1052,1053を含んで構成される。共振器1051,1052,1053の各々は、図3に示されるように略C字形状の平板電極で形成されている。RFIC110から放射素子121に供給される高周波信号の波長をλとすると、共振器1051,1052,1053の各々はλ/2の電気長を有しており、互いに電磁界結合するように配置されている。
【0030】
共振器1051,1052,1053は、たとえば図3に示されるように、誘電体基板130の同じ層において離間して配置されている。より具体的には、共振器1051および共振器1053は、C字形状の凹部が対向するように配置されている。そして、共振器1051および共振器1053の端部(第1端部)に対向するように、共振器1052が配置されている。なお、互いに電磁界結合ができれば、各共振器は必ずしも同じ層に配置されていなくてもよい。たとえば、図2に示されるように、共振器1052が共振器1051および共振器1053とは異なる層に配置されるような構成であってもよい。
【0031】
共振器1051において、共振器1052と対向する第1端部と反対の第2端部には、給電配線140が接続されている。給電配線140は、RFIC110から接地電極GNDを貫通して、共振器1051に接続されている。また、共振器1053において、共振器1052と対向する第1端部と反対の第2端部には、ビアで形成された給電配線141が接続されている。給電配線141は、放射素子121の給電点SP1に接続されている。
【0032】
RFIC110から給電配線140によって共振器1051に供給された高周波信号は、共振器1051、共振器1052、共振器1053および給電配線141を経由して、放射素子121の給電点SP1に供給される。上述のように、共振器1051,1052,1053は、互いに同じ電気長を有しており、同じ共振周波数で振動する。そのため、高周波信号が共振器1051、共振器1052および共振器1053を通過することによって、所望の周波数帯域の信号を放射素子121に供給することができる。
【0033】
給電点SP1は、放射素子121において、放射素子121の中心からX軸の正方向にオフセットした位置に配置されている。したがって、給電点SP1に高周波信号が供給されることによって放射素子121からはX軸方向を偏波方向とする電波が放射される。
【0034】
共振器1051の第2端部には、ビアで形成された給電配線142の端部に形成された電極170が対向している。給電配線142は放射素子121の給電点SP2に接続されている。すなわち、共振器1051は、共振器1052および共振器1053を経由して放射素子121に結合する経路(主経路)とは異なり、放射素子121に直接結合する、いわゆる「飛び越し結合」により放射素子121と結合している。「飛び越し結合」とは、隣接しない共振器間の結合である。
【0035】
共振器1051と放射素子121との間の「飛び越し結合」においては、共振器1051の第2端部と電極170とが電磁界結合している。そのため、当該飛び越し結合は、共振器1053と放射素子121との間のビアによる直接接続に比べると、放射素子121との間の電気的な結合度が弱くなる。
【0036】
なお、実施の形態1のアンテナモジュール100においては、共振器1051と給電配線142とが非接触で電磁界結合し、放射素子121と給電配線142とが給電点SP2で直接接続しているが、これとは逆に、共振器1051と給電配線142とが直接接続され、放射素子121と給電配線142との間が非接触で電磁界結合される構成であってもよい。あるいは、放射素子121と給電配線142との間、および、共振器1051と給電配線142との間が、ともに給電配線142を介して非接触で電磁界結合される構成であってもよい。
【0037】
また、放射素子121と給電配線142との間、および、共振器1051と給電配線142との間が直接接続される構成の場合であっても、給電点SP2の配置によっては、共振器1051と放射素子121との間の結合度を、共振器1053と放射素子121との間の結合度よりも弱くすることができる。図2および図3のように、給電点SP1を、放射素子121の中心と給電点SP1とを結ぶ直線上において、給電点SP2よりも放射素子121の周縁部に近い位置に配置した場合には、共振器1051と放射素子121との電気的な結合度は、共振器1053と放射素子121との電気的な結合度よりも弱くなる。この理由は、放射素子121の周縁部よりも中心部に近い方が、放射素子121から生じる電界および放射素子121上の流れる電流が小さくなるためである。
【0038】
フィルタ装置105は、3つの共振器1051~1053を有する3段式の共振線路型フィルタであるが、放射素子121を上述のように「飛び越し結合」を用いて最終段以外の共振器と放射素子121とを接続することにより、放射素子121を4段目の共振器として利用することができる。すなわち、フィルタ装置105の3つの共振器1051~1053および放射素子121によって、4段式の共振線路型フィルタとして機能する。
【0039】
共振線路型フィルタは、一般的に、共振器の段数を多くすると、減衰極を増加させることができるので、通過帯域の端部における減衰の急峻度を大きくすることができる。しかしながら、共振器の段数が多くなると、高周波信号が通過する経路が長くなるため、かえって損失が大きくなってしまう。
【0040】
実施の形態1のアンテナモジュール100においては、上述のように、放射素子121をフィルタの共振器として利用することができるため、3段の共振器を有するフィルタを用いて、4段の共振器を有するフィルタと実質的に同等の減衰特性を実現することが可能となる。さらに、共振器の段数を少なくできるため、高周波信号が通過する際の損失を低減することができる。
【0041】
なお、実施の形態1において、共振器1051は本開示における「第1共振器」に対応し、共振器1053は本開示における「第2共振器」に対応する。
【0042】
(アンテナ特性の比較)
次に、実施の形態1のアンテナモジュール100のアンテナ特性と、4段式の共振線路型フィルタと放射素子とを組み合わせた比較例のアンテナ特性との比較について説明する。
【0043】
図4は比較例のアンテナモジュール100#の構成を説明するための図である。アンテナモジュール100#は、上述のように、4つの共振器1061~1064を含む4段式の共振線路型のフィルタ装置106に放射素子121が接続された構成を有している。共振器1061~1064の各々は、λ/2の電気長を有する略矩形状の電極として形成されている。
【0044】
1段目の共振器1061の一方端には、給電配線140が接続されており、当該給電配線140を通してRFIC110からの高周波信号が供給される。共振器1061の他方端は、4段目(最終段)の共振器1064の一方端と対向している。共振器1061と共振器1064とは、延在方向が同じとなるように配置されている。共振器1064の他方端は、給電配線143を介して放射素子121に接続されている。
【0045】
2段目の共振器1062の一方端は、共振器1061の他方端側の側面に対向するように配置されている。また、3段目の共振器1063は、共振器1064の一方端側の側面に対向するように配置されている。共振器1062および共振器1063は、共振器1061および共振器1064の延在方向とは直交する方向に延在しており、かつ、側面が互いに対向するように配置されている。
【0046】
共振器1061~1064をこのように配置することによって、共振器1061、共振器1062、共振器1063および共振器1064の順に経由する経路の結合に加えて、共振器1061と共振器1064との間の飛び越し結合が生じる。これによって、フィルタ装置106は、4段式の共振線路型フィルタとして機能する。
【0047】
アンテナモジュール100#のように、フィルタ装置106とアンテナである放射素子121とを単に組み合わせる構成においては、一般的には、フィルタ装置106およびアンテナは個々の特性が最適になるように設計される。この場合、フィルタ装置106とアンテナとを組み合わせた場合には、必ずしもアンテナモジュール全体として最適になるとは限らない。
【0048】
図5は、比較例のアンテナモジュール100#のアンテナ特性を説明するための図である。図5の上段には、フィルタ単体の構成、アンテナ単体の構成、およびフィルタとアンテナとを組み合わせた構成が模式的に示されている。また、図5の下段には、各構成における特性(反射損失,挿入損失,ゲイン)のシミュレーション結果が示されている。
【0049】
なお、図5の上段の構成において、各共振器1061~1064および放射素子121は、番号が付されたノードとして記載されている。具体的には、共振器1061~1064がそれぞれ「ノード1」~「ノード4」に対応し、放射素子121が「ノード5」に対応する。また、放射素子121についての出力(OUT)は自由空間に対応する。
【0050】
図5の下段において、フィルタ装置106の特性のグラフにおける実線LN10は反射損失を示しており、破線LN11は挿入損失を示している。アンテナ(放射素子121)およびアンテナモジュール全体の特性のグラフにおいては、実線LN20,LN30が反射損失を示しており、破線LN21,LN31がアンテナゲインを示している。
【0051】
フィルタ装置106の特性のグラフにおいては、対象の通過帯域(27~29GHz)における反射損失は設計仕様の20dBよりも小さくなっており(実線LN10)、当該通過帯域での挿入損失はほぼ0dBとなっている(破線LN11)。すなわち、フィルタ装置106としては、対象の通過帯域において最適設計されている。また、放射素子121については、中心周波数の28GHzにおいて反射損失が最小となり(実線LN20)、かつアンテナゲインが最大となる(破線LN21)ように調整されている。
【0052】
しかしながら、このように調整されたフィルタ装置106と放射素子121とを組み合わせた場合には、対象の通過帯域においてアンテナゲインは最大になっているものの(破線LN31)、反射損失については20dBよりも大きくなっている。
【0053】
実施の形態1の場合、図6に示されるように、比較例における共振器1064(ノード4)の部分が放射素子121に対応する。実施の形態1のアンテナモジュール100においては、放射素子121を含めた構成でフィルタとして機能させるため、結果として、設計の際にフィルタおよびアンテナの双方を考慮して特性の調整を行なうことになる。
【0054】
図6の下段に示されるように、実施の形態1のアンテナモジュール100では、対象の通過帯域において、図5の比較例の場合と同程度のアンテナゲインを実現しつつ、さらに反射損失を20dBより小さくなっていることがわかる。なお、通過帯域の端部における減衰の急峻性についても、比較例の場合と同程度の急峻性を実現できている。
【0055】
このように、放射素子をフィルタの共振器として機能させて、フィルタとアンテナの双方を考慮して一体的に特性を調整することによって、より少ない段数の共振器を有するフィルタであっても、減衰極の追加により減衰の急峻性を高めることができる。さらに、全体の共振器の数が減少することによって、アンテナモジュールの全体のサイズを小型化するとともに、共振器の通過に伴う損失を低減させることができる。
【0056】
なお、上記の例においては、3段式の共振線路型フィルタと放射素子とを組み合わせて、4段式のフィルタとして機能させる構成の例について説明したが、共振線路型フィルタの段数については4段以上であってもよい。すなわち、n段式(nは3以上の整数)の共振線路型フィルタと放射素子とを組み合わせて(n+1)段式のフィルタとして機能させることによって、(n+1)段式のフィルタを用いる場合に比べて小型化および低損失化を図りながら、(n+1)段式のフィルタと同等の減衰特性を実現することが可能となる。
【0057】
また、上記の例においては、1段目の共振器と放射素子とが飛び越し結合する構成であったが、1段目以外の他の共振器(3段式のフィルタの場合には2段目の共振器)と放射素子とが飛び越し結合する構成であってもよい。
【0058】
(変形例)
共振器間の結合および共振器と放射素子間の結合には、「磁界結合」の場合と「電界結合」の場合とがある。そのため、外形的に同じ構成であっても、結合が磁界結合であるか電界結合であるか、すなわち結合トポロジの違いによってフィルタの特性は異なり得る。
【0059】
逆に、結合トポロジが異なっていても、同様の周波数特性が実現できる場合がある。以下においては、図7を用いて、実施の形態1のアンテナモジュール100と同じ周波数特性を実現することができる結合トポロジの変形例について説明する。図7においては、実施の形態1のアンテナモジュール100の構成に加えて、アンテナモジュール100A(変形例1)、アンテナモジュール100B変形例2)、およびアンテナモジュール100C(変形例3)の構成が示されている。図7においては、各ノード間の結合が実線矢印と破線矢印で表わされており、実線矢印は「磁界結合」を示しており、破線矢印は「電界結合」を示している。電界結合の結合係数の符号は磁界結合の結合係数の符号と逆であるため、本開示においては、磁界結合の結合係数の符号を正(+)として「正結合」とも称し、電界結合の結合係数の符号を負(-)として「負結合」とも称する。
【0060】
実施の形態1のアンテナモジュール100においては、飛び越し結合の部分、すなわち共振器1051と放射素子121との間が負結合とされており、主経路に沿った結合が正結合となっている。
【0061】
変形例1のアンテナモジュール100Aにおいては、共振器1052と共振器1053との間の結合が負結合となっており、その他の結合は正結合となっている。変形例2のアンテナモジュール100Bにおいては、共振器1052と共振器1053との間の結合が正結合となっており、その他の結合は負結合となっている。変形例3のアンテナモジュール100Cにおいては、飛び越し結合の部分が正結合となっており、その他の結合が負結合となっている。
【0062】
すなわち、実施の形態1および変形例1~3のいずれの構成においても、共振器1051~共振器1053を経由して放射素子121に至る主経路における結合の結合係数の符号を乗算した符号は、飛び越し結合の部分における結合の結合係数の符号と異なっている。各ノード間の結合がこのようになるように設計することによって、図6で示したような特性を実現することができる。
【0063】
[実施の形態2]
実施の形態1においては、フィルタが放射素子と接地電極との間に配置される構成について説明した。しかしながら、この場合、ビアで形成された給電配線141,142だけでなく、各共振器を形成する電極自体も放射素子と結合し得る。そうすると、指向性あるいはアンテナゲイン等のアンテナ特性に影響がおよぼされる可能性がある。
【0064】
実施の形態2においては、放射素子とフィルタとの間に接地電極を配置することによって、各共振器と放射素子との不要な結合を抑制する構成について説明する。
【0065】
図8は、実施の形態2に従うアンテナモジュール100Dの側面透視図である。アンテナモジュール100Dにおいては、誘電体基板130の下面132側に配置された接地電極GND1に加えて、放射素子121とフィルタ装置105との間の層に接地電極GND2が配置されている。そして、給電配線141,142は、接地電極GND2を貫通して、放射素子121の給電点SP1,SP2にそれぞれ接続されている。それ以外の構成については、実施の形態1のアンテナモジュール100と同様であり、重複する要素の説明は繰り返さない。
【0066】
このように、放射素子121とフィルタ装置105との間の層に接地電極GND2を配置することによって、接地電極GND2がシールドとして機能するため、フィルタ装置105を構成する各共振器と放射素子121との不要な結合を抑制することができる。
【0067】
一般的に、放射素子と接地電極との間の間隔は、放射素子から放射される電波の周波数帯域幅に影響することが知られている。具体的には、放射素子と接地電極との間の間隔が大きいほど周波数帯域幅は広くなる。そのため、アンテナモジュール100Dのように、フィルタ装置105と放射素子121との間の層に接地電極GND2を配置すると、アンテナモジュール100に比べて周波数帯域幅が狭くなるおそれがある。また、放射素子121と接地電極GND2との間の間隔を、アンテナモジュール100における放射素子121と接地電極GNDとの間の間隔と同等にした場合、誘電体基板130全体の厚みが厚くなるので、かえって小型化の妨げになるおそれがある。したがって、実施の形態1の構成を採用するか、実施の形態2の構成を採用するかについては、アンテナゲイン,損失,帯域幅などのアンテナ特性と、許容されるアンテナモジュールのサイズとを考慮して適宜決定される。
【0068】
なお、実施の形態2のアンテナモジュール100Dの構成を採用する場合に、誘電体基板130に誘電率の低い誘電体を用いることによって、放射素子と接地電極との間の間隔が狭くなることに伴う周波数帯域幅の低下を抑制するようにしてもよい。
【0069】
[実施の形態3]
実施の形態3においては、フィルタと放射素子との電気的な結合を、実施の形態1および実施の形態2のようにフィルタと放射素子とを給電配線(ビア)を用いた直接接続ではなく、非接触による電磁界結合を用いて実現する場合について説明する。
【0070】
(第1例)
図9は、実施の形態3に従う第1例のアンテナモジュール100Eの側面透視図である。アンテナモジュール100Eにおいては、実施の形態1のアンテナモジュール100における、給電配線141,142が取り除かれた構成となっている。アンテナモジュール100Eでは、放射素子121とフィルタ装置105の共振器との結合は、非接触の電磁界結合によって行なわれる。
【0071】
なお、アンテナモジュール100Eの構成の場合、非接触による結合のため、誘電体基板130を平面視した場合に、結合対象の共振器の重心位置が給電点に重なるように配置することによって、所望の給電点に高周波信号を供給することができる。また、フィルタと放射素子との結合度については、給電点の位置、あるいは、放射素子121と共振器との間の距離により調整することができる。
【0072】
(第2例)
また、図10は、実施の形態3に従う第2例のアンテナモジュール100Fの側面透視図である。アンテナモジュール100Fにおいては、実施の形態2のアンテナモジュール100Eにおける、給電配線141,142が取り除かれた構成となっており、放射素子121とフィルタ装置105の共振器との間の結合は、非接触の電磁界結合によって行なわれる。
【0073】
アンテナモジュール100Fでは、フィルタ装置105と放射素子121との間に接地電極GND2が配置されているため、接地電極GND2によって放射素子121とフィルタ装置105の共振器との結合が妨げられる。そのため、接地電極GND2において、放射素子121の給電点SP1,SP2に対応する位置に、開口部(スロット)151,152がそれぞれ形成される。このスロット151,152によって、放射素子121の所望の位置において放射素子121と共振器とを結合させることができる。また、スロット151,152の開口サイズを調整することによって、放射素子121と共振器との間の結合度を調整することができる。
【0074】
以上のように、放射素子と共振器との間の結合が非接触の電磁界結合で行なわれる場合においても、放射素子とフィルタの共振器との間に飛び越し結合を用いて、放射素子をフィルタの共振器として利用することによって、少ない段数のフィルタを用いて、より共振器の数が多いフィルタと同等の減衰特性を実現するとともに、損失を低減することが可能となる。
【0075】
なお、図9および図10のアンテナモジュールにおいては、共振器1051と放射素子121との間の結合(飛び越し結合)、および、共振器1053と放射素子121との間の結合の双方が非接触の電磁界結合である場合について説明したが、いずれか一方が給電配線(ビア)による直接接続により結合され、他方が非接触の電磁界結合により結合される構成であってもよい。
【0076】
上述の実施の形態においては、放射素子として平面形状のパッチアンテナを使用する構成について説明したが、放射素子として線状アンテナあるいはスロットアンテナにも適用することも可能である。また、パッチアンテナは、略正方形の形状に限らず、多角形、円形、楕円形、あるいは一部に切り欠きが形成された形状であってもよい。
【0077】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0078】
10 通信装置、100,100A~100F アンテナモジュール、105,106 フィルタ装置、105A~105D フィルタ、110 RFIC、111A~111D,113A~113D,117 スイッチ、112AR~112DR ローノイズアンプ、112AT~112DT パワーアンプ、114A~114D 減衰器、115A~115D 移相器、116 信号合成/分波器、118 ミキサ、119 増幅回路、120 アンテナ装置、121 放射素子、130 誘電体基板、131 上面、132 下面、140~143 給電配線、151,152 スロット、160 はんだバンプ、170 電極、1051~1053,1061~1064 共振器、200 BBIC、GND,GND1,GND2 接地電極、SP1,SP2 給電点。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10